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7300327ジフルオロリン酸リチウム粉末及びその製造方法
<図1>
  • -ジフルオロリン酸リチウム粉末及びその製造方法 図1
  • -ジフルオロリン酸リチウム粉末及びその製造方法 図2
  • -ジフルオロリン酸リチウム粉末及びその製造方法 図3
  • -ジフルオロリン酸リチウム粉末及びその製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ジフルオロリン酸リチウム粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/455 20060101AFI20230622BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230622BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230622BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20230622BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20230622BHJP
   H01G 11/20 20130101ALI20230622BHJP
【FI】
C01B25/455
H01M10/0567
H01G11/06
H01G11/62
H01G11/84
H01G11/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019117800
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004145
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小日向 竜介
(72)【発明者】
【氏名】奥山 洋平
(72)【発明者】
【氏名】木村 宣久
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/135628(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/175186(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143057(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/136533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/455
H01M 10/0567
H01G 11/06
H01G 11/62
H01G 11/84
H01G 11/20
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状粒子の集合体からなるジフルオロリン酸リチウム粉末であって、
前記粒子の板面を横断する最も長い線分の長さDに対する、該粒子の板面に対し垂直な方向の長さdの比率d/Dが0.3以下であり、
前記粒子の板面を横断する最も長い線分の長さDに対する、該板面を横断し且つ該線分と直交する最も長い線分の長さCとの比率C/Dが0.1以上であり、
前記粒子の長さDの平均値が150μm以上2000μm以下であり、
下記式で示される圧縮度が30%以下であり、
圧縮度=(タップ密度-嵩密度)/タップ密度×100(%)
安息角が50°以下である、ジフルオロリン酸リチウム粉末。
【請求項2】
前記粒子の板面を横断する最も長い線分の長さDに対する、該粒子の板面に対し垂直な方向の長さdの比率d/Dが0.005以上である、請求項に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末。
【請求項3】
前記粒子の板面を横断する最も長い線分の長さDに対する、該板面を横断し且つ該線分と直交する最も長い線分の長さCとの比率C/Dが0.4以下である、請求項1又は2に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末。
【請求項4】
上記式で示される圧縮度が10%以上である、請求項1~の何れか1項に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末。
【請求項5】
安息角が25°以上45°以下である、請求項1~の何れか1項に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末。
【請求項6】
固体のジフルオロリン酸リチウムを溶媒に溶解させて溶液とする第1工程、
得られた溶液における溶媒の一部を留去して、溶液中にジフルオロリン酸リチウムを晶析させる第2工程、及び
ジフルオロリン酸リチウムが晶析した溶液を固液分離する第3工程を有し、
前記溶媒が、トルエン、キシレン、ヘキサン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる一種又は二種以上の量が4質量%以下であるエーテル系溶媒である、ジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法であって、
第2工程において、溶液を減圧雰囲気下に置くことにより、溶媒の一部を留去し、
第2工程において、溶液の温度を20℃以上60℃以下とし、且つ、絶対圧が0.01kPa以上40kPa以下の減圧下に溶媒の一部を留去し、
前記溶媒は沸点が60℃以上90℃以下であり、ジフルオロリン酸リチウムの溶解度が、25℃において10g/100g以上である、ジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法
【請求項7】
第3工程で得られたジフルオロリン酸リチウムを乾燥する第4工程を有する、請求項に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法。
【請求項8】
記エーテル系溶媒が1,2-ジメトキシエタンである、請求項に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法。
【請求項9】
第4工程において、加熱温度が80℃以上200℃以下である、請求項の何れか1項に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項1~の何れか1項に記載のジフルオロリン酸リチウム粉末を用いた電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフルオロリン酸リチウム粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報関連機器、通信機器、即ちパソコン、ビデオカメラ、デジタルスチールカメラ、携帯電話などの小型、高エネルギー密度用途向けの蓄電システムや電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車補助電源、電力貯蔵などの大型、パワー用途向けの蓄電システムが注目を集めている。そのひとつの候補としてリチウムイオン電池、リチウム電池、リチウムイオンキャパシタなどの非水電解液電池が盛んに開発されている。これらの非水電解液電池では非水電解液もしくはゲル化剤により擬固体化された非水電解液がイオン伝導体として用いられている。その構成としては、溶媒として、非プロトン性のエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等から選ばれる1種又は2種以上の混合溶媒が使用され、溶質としてリチウム塩、例えばLiPF、LiBF、(CFSONLi、(CSONLi、LiPO等が使用されている。
【0003】
中でも、LiPO(ジフルオロリン酸リチウム)を非水電解液に添加すると、電極として用いられているリチウムと反応し、良質な被膜が正極及び負極界面に形成されること、及び、この被膜が、充電状態の活物質と有機溶媒との接触を抑制して、活物質と電解液との接触を原因とする非水系電解液の分解を抑制し、電池の保存特性を向上させることが知られている(特許文献1)。
【0004】
添加剤として使用されるジフルオロリン酸リチウムの製造方法としては、フッ化物以外のハロゲン化物と、LiPFと水とを非水溶媒中で反応させる方法、五酸化二リンと六フッ化リン酸リチウムとフッ化水素を反応させた後、溶液を濃縮した後に冷却する方法、ジフルオロリン酸と塩化リチウムを反応させた後、溶液を冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を析出する方法等が知られている。
【0005】
しかしながら、いずれの方法においても不純物が混在してしまう。このため、溶液から結晶を析出させて粉体を得ることでジフルオロリン酸リチウムを精製することが考えられている。
【0006】
ジフルオロリン酸リチウムの精製方法としては、例えば、ジフルオロリン酸リチウムを溶媒に溶解させた後に不純物をろ過により除去し、ろ液に含有する溶媒を全て留去させる濃縮乾固法が挙げられる。
また、特許文献2には、主溶媒にジフルオロリン酸リチウムが溶解した溶液に、貧溶媒を添加して、固体状のジフルオロリン酸リチウムを析出させる工程と、前記固体状のジフルオロリン酸リチウムを、前記主溶媒及び前記貧溶媒を含む液体から固液分離して、ジフルオロリン酸リチウム粉体を得る工程と、を含み、前記主溶媒のオクタノール/水分配係数PPと、前記貧溶媒のオクタノール/水分配係数PAとが特定の関係を有するジフルオロリン酸リチウムの精製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-67270号公報
【文献】特開2016-108197号公報
【0008】
しかし、濃縮乾固法及び特許文献2に記載の精製方法で得られるジフルオロリン酸リチウム粉末は、いずれも流動性が不十分で、取扱い性において改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記の問題点を解決し、従来に比して流動性が高く、取扱い易いジフルオロリン酸リチウム粉末、及び当該ジフルオロリン酸リチウム粉末を効率よく高い収率にて製造できるジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、特定の形状を有するジフルオロリン酸リチウム粉末は流動性が高いこと、溶液中の溶媒の一部を留去する特定の晶析する工程により、特定の形状及び粒径を有し、流動性の高いジフルオロリン酸リチウム粉末が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、板状粒子の集合体からなる、ジフルオロリン酸リチウム粉末を提供するものである。
【0012】
本発明は、固体のジフルオロリン酸リチウムを溶媒に溶解させて溶液とする第1工程、
得られた溶液における溶媒の一部を留去して、溶液中にジフルオロリン酸リチウムを晶析させる第2工程、ジフルオロリン酸リチウムが晶析した溶液を固液分離する第3工程及び好ましくはジフルオロリン酸リチウムを乾燥する第4工程を有し、前記溶媒が、トルエン、キシレン、ヘキサン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる一種又は二種以上を実質的に含まない、ジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は流動性が高く取扱い性に優れている。また本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法は、流動性が高く取扱い性に優れたジフルオロリン酸リチウム粉末を、効率よく高い収率にて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は実施例1で得られたジフルオロリン酸リチウム粉末の光学顕微鏡像である。
図2図2は比較例1で得られたジフルオロリン酸リチウム粉末の光学顕微鏡像である。
図3図3は比較例2で得られたジフルオロリン酸リチウム粉末の光学顕微鏡像である。
図4図4は安息角の測定に用いた漏斗の寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態に基づき本発明を説明する。
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は、板状粒子の集合体からなる。この構成により、本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は流動性が高いものとなる。
【0016】
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末が板状粒子の集合体からなることは、ジフルオロリン酸リチウム粉末を光学顕微鏡像で観察することで確認できる。光学顕微鏡の観察倍率は、例えば5倍~50倍とすることが好ましく、5倍~10倍とすることがより好ましい。板状粒子における板面形状は、多角形、円形、楕円形等が挙げられる。多角形としては、菱型、長方形、正方形、五角形、六角形が挙げられる。流動性の点から、板状粒子における板面形状は多角形状が好ましく、特に菱型、長方形が好ましい。これに対し後述する比較例1及び2に示すとおり、従来のジフルオロリン酸リチウム粉末は、十分に結晶成長していないか、或いは成長しても粒子が粉砕されたものであり、板状の形状の粒子の集合体からなるものではなかった。例えば比較例1のとおり、濃縮乾固法によるジフルオロリン酸リチウム粉末の粒子形状は球状であり、比較例2の貧溶媒を用いる製法で得られるジフルオロリン酸リチウム粉末の粒子形状は針状であり、いずれも流動性の高いものではなかった。
【0017】
本発明において、板状とは、扁平な形状を有することをさす。具体的には板状粒子は、その板面を横断する最も長い線分の長さDに対する、該粒子の板面に対し垂直な方向の長さdの比率d/Dが0.3以下であり、且つ、その板面を横断する最も長い線分の長さDに対する、該板面を横断し且つ該線分と直交する線分のうち最大の線分の長さCとの比率C/Dが0.1以上であることが、流動性や大気中での安定性の点で好ましい。ここでいう板面とは、光学顕微鏡で観察した粒子の像において最も面積の大きな面を指す。上記の比率d/Dは0.005以上であることがジフルオロリン酸リチウム粉末の流動性やハンドリングの点から好ましい。これらの観点から上記の比率d/Dは、0.005以上0.3以下であることが更に好ましく、0.01以上0.2以下であることが特に好ましい。また、上記の比率C/Dが0.4以下であることが、流動性やハンドリングの点から好ましい。この観点から比率C/Dは、0.1以上0.4以下であることがより好ましく、0.15以上0.35以下であることが更に好ましい。板状粒子において、d≦Cであることが好ましく、d<Cであることが更に好ましい。板状粒子において、板面を横断する最も長い線分の長さDを以下、粒子径Dともいう。
【0018】
板状粒子の粒子径Dはその平均値が、1μm以上2000μm以下であることが好ましい。この粒子径Dはジフルオロリン酸リチウム粉末を光学顕微鏡で観察して測定するものであり、一次粒子径である。一次粒子とは、光学顕微鏡にて上記の観察倍率で観察したときに、外形上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体のことをいう。このように大きな一次粒子径を有することで、本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は特に流動性が高いものとなる。ジフルオロリン酸リチウム粉末の流動性を一層高める点から、板状粒子の粒子径Dはその平均値が、50μm以上1000μm以下であることがより好ましく、150μm以上600μm以下であることが特に好ましい。
【0019】
上記の板状粒子の比率d/D及びC/Dは、ジフルオロリン酸リチウム粉末を上記の観察倍率により光学顕微鏡で観察した場合に、5個以上、好ましくは30個以上の板状粒子について測定した平均値とする。また粒子径Dの平均値も同様に、上記の観察倍率により光学顕微鏡で観察した場合に、5個以上、好ましくは30個以上の板状粒子について測定した平均値とする。上記の比率d/D及びC/D並びに粒子径Dの測定には、解析ソフトウェアを用いてもよく、用いなくてもよい。
【0020】
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は、板状粒子が占める割合として、下記の方法で測定される個数割合が20%以上であることが好ましく、50%以上であることが流動性の点で好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。ジフルオロリン酸リチウム粉末において下記の方法で測定される個数割合は100%であってもよいが、製造上や取扱上の制限を減らして製造コストを低減する点からその上限が70%以下程度であってもよい。上記の方法とは上記の観察倍率による光学顕微鏡観察において異なる5個以上、好ましくは10個以上、より好ましくは20個以上、特に好ましくは30個以上の粒子のd/D及びC/Dをランダムに測定し、d/Dが0.3以下であり且つC/Dが0.1以上であったものの割合を求める、というものである。
【0021】
板状粒子の集合体からなり上記の個数割合について上記の好ましい下限を満たし、粒子径Dの平均値について上記の好ましい範囲を満たし、d/D及びC/Dについて上記の好ましい範囲を満たすジフルオロリン酸リチウム粉末は、後述する好ましいジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法において第1工程の溶媒種類や第2工程の減圧条件や加温条件、第4工程の乾燥条件などを調整することにより得ることができる。
【0022】
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末の流動性は一般的な流動性の指標によって評価できる。例えばジフルオロリン酸リチウム粉末は、「(タップ密度-嵩密度)/タップ密度×100(%)」で定義される圧縮度が小さいものである。圧縮度はその値が小さいほど流動性が良いことを意味する。例えばジフルオロリン酸リチウム粉末の圧縮度は30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることが特に好ましい。ジフルオロリン酸リチウム粉末の圧縮度は例えば10%以上であると、ジフルオロリン酸リチウム粉末の製造容易性の点や電解液調製容易性の点で好ましい。
【0023】
圧縮度の定義に用いられる「嵩密度」とは、自然落下によって粉末を一定容器に充填したときの単位体積当たりの質量である。「タップ密度」とは、自然落下させた粉末を一定容器に充填した後、容器にタップによる衝撃を加え、試料の体積変化がなくなったときの単位体積当たりの質量である。
【0024】
圧縮度の具体的な測定方法は、以下のとおりである。メスシリンダー(容量25mL)に試料を、ふるい(目開き1mm)を通してメスシリンダーから溢れるまで受ける。過剰分をへらですり切り、メスシリンダーに溜まった試料の重量を測定して嵩密度(g/mL)を算出する。次いで、タップ密度測定装置を用い、試料の入ったメスシリンダーに対してタッピングを行う。測定は、ASTMに準拠し、タッピング回数は300回×15ステップ、タッピング高さは14mm、タッピングペースは50回/分に調整する。タッピング後の試料面の目盛りを読み取り、メスシリンダーの質量を測定してタップ密度(g/mL)を算出する。このようにして求められた嵩密度及びタップ密度から圧縮度を算出する。
【0025】
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は、その流動性や製造容易性等の点から、嵩密度が0.5g/mL以上0.9g/mL以下であることが好ましく、0.6g/mL以上0.8g/mL以下であることがより好ましい。また、同様の観点から本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末のタップ密度は0.7g/mL以上1.2g/mL以下であることが好ましく、0.8g/mL以上1.0g/mL以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末はその流動性が高いので、小さな安息角を示す。安息角とは、ジフルオロリン酸リチウム粉末を静かに平面状に落下させて円錐状に堆積させ、この円錐の母線と水平面とのなす角の角度である。当該角度の値が小さいほど粉体の流動性が高いことを意味する。本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末の安息角は50°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましく、42°以下であることが更に好ましい。安息角の下限としては、例えば25°が挙げられる。
【0027】
圧縮度、タップ密度、嵩密度及び安息角について上記の好ましい範囲を満たすジフルオロリン酸リチウム粉末は、後述する好ましいジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法において第1工程の溶媒種類や第2工程の減圧条件や加温条件、第4工程の乾燥条件などを調整することにより得ることができる。
【0028】
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は不純物が少ないものである。ジフルオロリン酸リチウム粉末の純度は、例えばイオンクロマトグラフィーによりアニオン分析を行うことにより得られるジフルオロリン酸イオンの相対面積比により定量できる。本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末の純度は前記の相対面積比で好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、更に好ましくは98%以上である。また本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は、後述する方法で測定する遊離酸分(酸性不純物)が好ましくは質量基準で500ppm以下であり、より好ましくは200ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下であり、最も好ましくは60ppm以下である。更に本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は後述する方法で測定する不溶解残分は好ましくは質量基準で10000ppm以下であり、より好ましくは5000ppm以下であり、特に好ましくは2000ppm以下であり、最も好ましくは500ppm以下である。
【0029】
前記のイオンクロマトグラフィーによる相対面積比の測定は、以下の条件で行うことができる。
カラムにメトローム社製のMetrosep A Supp 5 150/4.0(直径150×4.0mm)を用い、溶離液に20mM NaHCO/10質量%アセトン水溶液を用い、流量を0.8mL/minに設定し、サンプル溶液は濃度を0.1質量%、溶媒は超純水に設定する。検出器としては、メトローム社製の電気伝導度検出器を使用する。
【0030】
前記の遊離酸分(酸性不純物)の量の測定は、NaOH0.1mol/L濃度の水溶液を用いた中和滴定によりHF換算で定量することで行うことができる。滴定対象のサンプルは、ジフルオロリン酸リチウム粉末2.0gを50mLの氷水に溶解して調製する。
【0031】
不溶解残分は、10gのジフルオロリン酸リチウム粉末を1,2-ジメトキシエタン300gに溶解させ、30℃で30分500rpmの速度で撹拌した後、ポリテトラフルオロエチレンメンブレンフィルター(目開き0.1μm)で濾過した固形分を80℃で30分以上乾燥させてフィルター上に残存した不溶解残分量を測定する。
【0032】
上記の純度を満たすジフルオロリン酸リチウム粉末は、後述する好ましいジフルオロリン酸リチウム粉末の製造方法において温度条件などを調整することにより得ることができる。
【0033】
次いで、本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末の好適な製造方法について説明する。
本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末の好適な製造方法は、固体のジフルオロリン酸リチウムを溶媒に溶解させて溶液とする第1工程、
得られた溶液における溶媒の一部を留去して、溶液中にジフルオロリン酸リチウムを晶析させる第2工程、
ジフルオロリン酸リチウムが晶析した溶液を固液分離する第3工程、及び好ましくは得られたジフルオロリン酸リチウムを乾燥する第4工程を有する。
【0034】
第1工程において、固体のジフルオロリン酸リチウムとしては、どのような製法で得られたものも用いることができる。例えば、フッ化物以外のハロゲン化物と、LiPFと水とを非水溶媒中で反応させる方法、五酸化二リンと六フッ化リン酸リチウムとフッ化水素を反応させた後、溶液を濃縮した後に冷却する方法、ジフルオロリン酸と塩化リチウムを反応させた後、溶液を冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を析出する方法等が挙げられる。また、これらのジフルオロリン酸リチウムを精製して使用してもよい。例えば、不純物を含むジフルオロリン酸塩と、炭酸リチウムを混合し、該不純物を分離する方法が挙げられる。
【0035】
第1工程で用いる溶媒としては、ジフルオロリン酸リチウムの溶解度が高いものが好ましく挙げられ、例えば、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒及びエーテル系溶媒が挙げられる。エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル及び酢酸プロピルが好ましく挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンが好ましく挙げられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メタノール及びイソブタノールが好ましく挙げられる。エーテル系溶媒としては、1,2-ジメトキシエタン及び1,2-ジエトキシエタンが好ましく挙げられる。中でも留去にかけるエネルギーコストを低減する点から、沸点が100℃未満のものが好ましく挙げられ、特に沸点が60℃以上90℃以下のものが特に好ましい。またエーテル系溶媒を用いることが、非水電解液電池での充放電に対する安定性の点で好ましく、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンから選ばれる少なくとも一種を用いることが特に好ましく、1,2-ジメトキシエタンを用いることが最も好ましい。溶媒は、上記で挙げたものの1種のみ又は2種以上を混合して用いることができる。第1工程で用いる溶媒は、良溶媒であること、具体的にはジフルオロリン酸リチウムの溶解度が、25℃において10g/100g以上であることが好ましい。
【0036】
第1工程で用いる溶媒は、ジフルオロリン酸リチウムに対する貧溶媒を実質的に含有しないことが好ましい。貧溶媒を実質的に含有しない場合、板状粒子からなる集合体が得やすい。また貧溶媒の量が多いと、後述する第3工程の固液分離により得られた溶液を再利用する際に溶媒の分離操作が必要となり生産性が低下するほか、再利用しない場合には歩留りが低下する。貧溶媒としては25℃におけるジフルオロリン酸リチウムの溶解度が5g/100g未満のものが挙げられ、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートが挙げられる。溶媒がジフルオロリン酸リチウム粉末に対する貧溶媒を実質的に含有しないとは、例えば、溶媒中の貧溶媒の量が4質量%以下であることを意味することが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。第1工程で用いる溶媒は、良溶媒が占める割合が100質量%であることが最も好ましい。
【0037】
第1工程において、溶媒に溶解させるジフルオロリン酸リチウムの量としては、第2工程において設定する温度において飽和となる量に対して例えば25質量%以上の量とすることが、作業効率を高める点で好ましく、30質量%以上とすることがより好ましい。
【0038】
次いで、第2工程において、第1工程で得られた溶液を減圧雰囲気下に置くことにより、又は/且つ、溶液を加熱することにより、溶媒の一部を留去する。
第2工程において、溶液の温度を20℃以上とすることが溶媒の留去の効率の点で好ましく、60℃以下とすることが、ジフルオロリン酸リチウムの分解による不純物の生成を抑制する点で好ましい。これらの点から、第2工程において、溶液の温度は20℃以上50℃以下であることが好ましく、20℃以上40℃以下であることがより好ましい。
【0039】
第2工程において、溶液は加熱する代わりに、又は加熱することに加えて、溶液を減圧雰囲気下に置くことにより、溶媒の留去を促進することが好ましい。減圧条件としては、絶対圧が0.01kPa以上40kPa以下であることが、溶媒の留去速度を適度なものとして、ジフルオロリン酸リチウムの結晶成長を適度なものとし、上述した粒径及び粒子形状のジフルオロリン酸リチウム粉末が得やすい点で好ましく、1kPa以上20kPa以下であることがより好ましい。
【0040】
第2工程において、溶液を撹拌しながら溶媒を留去してもよく、撹拌せずに溶媒を留去してもよいが、撹拌しながら溶媒を留去することが、上述した粒径及び粒子形状のジフルオロリン酸リチウム粉末が得やすい点で好ましい。
【0041】
第2工程において、溶媒の留去は、溶媒を一部留去した後の溶液の重量に対するジフルオロリン酸リチウムの析出量が0.09g/g以上0.37g/g以下とするまで行うことが、撹拌時において結晶の粉砕を避ける点及び作業効率や収率の点で好ましく、0.15g/g以上0.23g/g以下とすることが一層好ましい。
【0042】
次いで、第3工程において、ジフルオロリン酸リチウムが晶析した溶液を固液分離する。固液分離の方法としては、濾過、遠心分離及び沈降分離等が挙げられ、産業利用性の点から遠心分離が好ましい。
【0043】
第4工程では、上記で得られたジフルオロリン酸リチウム固形分を乾燥させて粉末とする。乾燥における圧力条件は減圧条件とすることで乾燥時間が短縮でき好ましい。また、80℃以上200℃以下の温度条件下で行うことが好ましい。80℃以上とすることで、粉末内部の溶媒が除去されやすい。200℃以下とすることでジフルオロリン酸リチウムの分解による不純物の生成を抑制する。これらの点から、乾燥工程の温度は80℃以上200℃以下とすることがより好ましく、100℃以上150℃以下とすることが特に好ましい。第4工程で減圧を行う場合、減圧条件としては、絶対圧が0.01kPa以上70kPa以下であることが、乾燥時間短縮の点で好ましく、0.1kPa以上5kPa以下であることがより好ましい。乾燥は、撹拌、振動等のせん断力を有する乾燥機よりも、棚型、コニカルドライヤー、流動層乾燥機のような比較的せん断力の低い装置で行う方が、粒子間あるいは装置表面との摩擦による粉砕を生じさせず、結晶形状を維持しやすいため好ましい。
【0044】
以上の工程で得られたジフルオロリン酸リチウム粉末は、その流動性を生かして、リチウムイオン電池、リチウム電池、リチウムイオンキャパシタなどの非水電解液電池における非水電解液の添加剤、機能性材料中間体及び医薬品用中間体等として有効に用いることができる。以下、本発明の精製方法により得られるジフルオロリン酸塩の実施形態の一つである電解液について説明する。
【0045】
本発明の電解液は、溶媒中にジフルオロリン酸塩を含むものにおいて、当該ジフルオロリン酸塩の少なくとも一部が、本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末であることが好ましい。
【0046】
本発明の電解液で用いられるジフルオロリン酸塩において、本発明のジフルオロリン酸リチウムの割合は、好ましくは5~100質量%、より好ましくは50~100質量%である。
【0047】
本発明の電解液において、ジフルオロリン酸塩の含有量は、電解液中、0.01~20.0質量%が好ましく、0.05~15.0質量%がより好ましく、0.10~10.0質量%が最も好ましい。
【0048】
本発明の電解液で用いられる溶媒としては、ジフルオロリン酸塩を溶解できる溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類、スルホン類等の非水系溶媒が使用でき、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが好ましい。また、単一ではなく、二種類以上の混合溶媒でもよい。
【0049】
また、本発明の電解液には前記溶媒に溶解する電解質塩として、ヘキサフルオロリン酸塩、リチウムイオン二次電池の場合は、LiPF6を含んでいることが好ましい。その他、前記の電解質塩としては、リチウム塩として、LiBF4、LiClO4、LiN(CF3SO22、LiN(FSO22、LiCF3SO3、LiC(CF3SO23、LiC(FSO23、LiCF3CO2、LiB(CF3SO34、LiB(FSO34、LiB(C242、LiBF2(C24)等を用いることができる。
【0050】
前記溶媒中における前記電解質塩の含有量は、好ましくは5.0~50質量%の範囲、更に好ましくは10.0~30.0質量%の範囲にすることが好ましい。
【0051】
本発明の電解液は、一次電池又は二次電池のどちらの電池の非水電解液としても使用できる、リチウムイオン二次電池を構成する非水電解液として用いることが好ましい。
【実施例
【0052】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、かかる実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
溶媒として1,2-ジトキシタン(20℃でのジフルオロリン酸リチウムの溶解度が35g/100g)425gに原料ジフルオロリン酸リチウム粉末(粒子形状:凝集体の粒状、圧縮度:32%、安息角:50°、純度は相対面積比で99.6%、遊離酸分:質量基準で66ppm、不溶解残分:質量基準で505ppm)173gを加えて溶解した。得られた溶液を窒素雰囲気下の1L三つ口フラスコに入れ撹拌しながら、絶対圧310hPaの減圧下、60℃に加熱して、溶媒226gを留去しながらジフルオロリン酸リチウム結晶を晶析させた。晶析後の溶液は30℃まで冷却し吸引濾過により固液分離した。300mLのナスフラスコに固液分離した固体を入れ、絶対圧15hPaに減圧した後オイルバスにてフラスコ内を120℃まで加熱して18時間乾燥させ、ジフルオロリン酸リチウム粉末75gを得た。
得られたジフルオロリン酸リチウム粉末の光学顕微鏡写真を図1に示す。図1に示すように、得られたジフルオロリン酸リチウム粉末の一次粒子は板状粒子であった。ジフルオロリン酸リチウム粉末の光学顕微鏡像に基づいて上記の方法で測定した板状粒子の個数割合は100%であった。また板状粒子の平均粒子径Dを上記の方法で測定したところ439μmであった。また板状粒子のd/Dは0.057であり、C/Dは0.289であった。d/D、C/D及び板状粒子の個数割合の測定において、光学顕微鏡としてはオリンパス社製BX51を用い、観察倍率は10倍とした。板状粒子の個数割合の測定は32個の粒子から求めた。その中でd/Dが0.3以下、C/Dが0.1以上であった板状粒子32個について、平均粒子径D、C/D、d/Dの平均値を求めた。また得られたジフルオロリン酸リチウム粉末について、上記の方法で測定した純度は相対面積比で99.8%であり、遊離酸分は質量基準で26ppmであり、溶解残分は質量基準で183ppmであった。
【0054】
〔比較例1〕
溶媒として1,2-ジメトキシエタン90gに実施例1で用いたものと同様の原料ジフルオロリン酸リチウム31.6gを加えて溶解した。得られた溶液を撹拌しながら、絶対圧40hPaの減圧下、40℃に加熱して、溶媒をすべて除去して乾固させた。乾固後、120℃、10hPaにて24時間減圧乾燥した。得られたジフルオロリン酸リチウム粉末の光学顕微鏡写真(倍率10倍)を図2に示す。ジフルオロリン酸リチウム粉末の粒子形状は、球状結晶であった。その粒子径Dの平均値を実施例1と同様の方法で測定したところ140μmであった。
【0055】
〔比較例2〕
本比較例は、特許文献2に記載の方法でジフルオロリン酸リチウムを精製した例である。
主溶媒(1,2-ジメトキシエタン)36.5gに実施例1で用いたものと同様の原料ジフルオロリン酸リチウムを常温(25℃)で飽和するまで加えた。この溶液に104.7gの貧溶媒(ジメチルカーボネート)を添加した。一晩経過後、混合液を常圧ろ過により固液分離した。得られたろ物を120℃で絶対圧5hPaで20時間乾燥させ、ジフルオロリン酸リチウム粉末を得た。得られたジフルオロリン酸リチウム粉末の光学顕微鏡写真(倍率10倍)を図3に示す。ジフルオロリン酸リチウム粉末の粒子形状は、針状結晶であった。その粒子径Dの平均値を実施例1と同様の方法で測定したところ30μmであった。
【0056】
各実施例及び比較例で得られたジフルオロリン酸リチウム粉末について以下の安息角の評価に供するとともに上述した方法による圧縮度の評価に供した。結果を表1に示す。
(安息角)
上記の方法にて、具体的には測定サンプル10gを目開き1000μmのフルイに通過させ、PP製のロートを介して、安息角測定用テーブル上に落下させ、できた山の安息角を測定した。ロートの寸法としては添付の図4のものとした。ロート下端から安息角測定用テーブルまでの距離は5cmとした。安息角の測定はカメラによる像取得によって行った。カメラの配置は山とレンズとの距離を300mm、レンズの高さを安息角測定用テーブルと同じ高さとし、山の側面像を撮影した。この山の底面と斜面から構成される角度が安息角であり、得られた像から三角法を用いてその角度を算出した。計測は各3回行い、平均値を安息角とした。
【0057】
【表1】
【0058】
上記表1に示すとおり、板状で特定の粒径を有する本発明のジフルオロリン酸リチウム粉末は、安息角及び圧縮度がいずれも小さく、流動性が高いことが判る。これに対し、濃縮乾固法による比較例1のジフルオロリン酸リチウム粉末は安息角及び圧縮度が実施例1よりも大きく、流動性に劣ることが判る。また比較例2のジフルオロリン酸リチウム粉末も圧縮度が実施例1よりも大きく、やはり実施例1のジフルオロリン酸リチウム粉末に比して流動性に劣ることが判る。

図1
図2
図3
図4