(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ボールジョイントのボールシート固定方法及びボールシート固定構造
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20230622BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
F16C11/06 A
F16C11/06 C
F16J15/52 B
(21)【出願番号】P 2019132959
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 茂
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕也
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04559692(US,A)
【文献】特開2010-156466(JP,A)
【文献】特表2009-523986(JP,A)
【文献】特開平04-290607(JP,A)
【文献】特開2013-167314(JP,A)
【文献】特開2000-110827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定方法であって、
前記ハウジングの胴部の外周に、周回状に形成された溝を備え、
前記ハウジングの開口端部の内側に配置され、且つ前記ボールシートの上にセットされたリングを備え、
前記ハウジングの溝にローラを挿入し、この挿入されたローラで、当該溝が形成された部位の溝形成胴部を挿入方向に押圧しながら当該溝形成胴部をハウジング内に周回状に突出させ、この突出により前記リングをカシメる凸部を形成する
ことを特徴とするボールジョイントのボールシート固定方法。
【請求項2】
構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定構造であって、
前記ハウジングの開口端部の内側に配置され、且つ前記ボールシートの上にセットされるリングと、
前記ハウジングの胴部の外周に周回状に形成された溝と、
前記溝が形成された部位の溝形成胴部が前記ハウジング内に周回状に突出されて形成され、前記リングをカシメる凸部と
を備え、
前記ボールスタッドと前記ハウジングとに跨って配設されるダストカバーを備え、
前記ハウジングの外周側に前記ダストカバーを取り付ける取付溝を備え、
前記取付溝は、前記溝の溝幅よりも広く、当該取付溝の底壁に前記溝が形成されている
ことを特徴とするボールシート固定構造。
【請求項3】
前記ハウジング内に突き出る凸部の下端側がテーパ面となっており、
前記リングは、当該リングの外周端の上端側が、前記凸部のテーパ面と面同士で当接するテーパ面となっている
ことを特徴とする請求項2に記載のボールシート固定構造。
【請求項4】
構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定構造であって、
前記ハウジングは、当該ハウジング開口端部がハウジング胴部よりも薄く成形され、前記ボールシートの上にセットされたリングをカシメる状態に傾斜状に傾倒された先端薄肉部を備え、
前記リングは、平面形状がC型を成すCリングであり、当該Cリングの内径が前記球体部の径よりも小さくなっており、
前記ボールシートは、前記Cリングの隙間に嵌合され、当該Cリングの上方側の面と面一となる形状の突起部を備える
ことを特徴とするボールシート固定構造。
【請求項5】
前記ハウジングの胴部と前記先端薄肉部とのハウジング内径側の接続部分に形成された接続テーパ面を備え、
前記リングは、前記傾斜状に傾倒された先端薄肉部の側面に、面同士が当接する第1のテーパ面と、前記接続テーパ面に面同士が当接する第2のテーパ面とを備える
ことを特徴とする請求項4に記載のボールシート固定構造。
【請求項6】
前記リングは、金属材料又は樹脂材料により形成されている
ことを特徴とする請求項2-5の何れか1項に記載のボールシート固定構造。
【請求項7】
構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定構造であって、
前記ハウジングの開口端部の内側に配置され、且つ前記ボールシートの上にセットされるリングと、
前記ハウジングの胴部の外周に周回状に形成された溝と、
前記溝が形成された部位の溝形成胴部が前記ハウジング内に周回状に突出されて形成され、前記リングをカシメる凸部と
を備え、
前記リングは、平面形状がC型を成すCリングであり、当該Cリングの内径が前記球体部の径よりも小さくなっており、
前記ボールシートは、前記Cリングの隙間に嵌合され、当該Cリングの上方側の面と面一となる形状の突起部を備える
ことを特徴とするボールシート固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の路面からの衝撃軽減等の役割を果たすサスペンションにおけるボールジョイントのボールシート固定方法及びボールシート固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンションは、路面から車体に伝わる衝撃を軽減し、スタビライザは、車体のロール剛性(捩れに対する剛性)を高める。このサスペンションとスタビライザは、スタビリンクを介して連結されている。スタビリンクは、棒状のサポートバーの両端にボールジョイントを備えて構成されている。
【0003】
このボールジョイントとして、例えば特許文献1に記載の
図20において縦断面で示すボールジョイントJがある。このボールジョイントJは、金属製のカップ状のハウジング11内に、樹脂製のボールシート12を介して金属製のボールスタッド10のボール部10bを回転自在に収容(包含)した構成となっている。
【0004】
ボールスタッド10は、棒状のスタッド部10sの一端に球状のボール部10bが一体に連結された構造となっている。スタッド部10sには、雄ねじ10nが螺刻されており、この雄ねじ10nよりも先端側(ボール部10b側)に、周回状に拡がる鍔部10a1と小鍔部10a2とが離間して形成されている。鍔部10a1とハウジング11の上端側との間には、ダストカバー13が配設されている。ダストカバー13におけるハウジング11の上端側への接続部分には、鉄リンク13aが圧入固定されている。
【0005】
ハウジング11の外周面には、金属製のサポートバー1aが固定されている。サポートバー1aを水平線Hに沿って水平とした際に、ボールスタッド10の軸芯が水平線Hに対して垂直線Vで示す垂直となるように構成されている。
【0006】
ボール部10bを包含するボールシート12は、ハウジング11の直立した胴部11bに対して90°折り曲げられた上端部11aで、C型ストッパリング14(リング14ともいう)を介してカシメられている(固定されている)。ボールシート12の上端部は、平坦面から内周側に傾斜するテーパ面を有する形状となっている。リング14は、ボールシート12の上端部を被覆する平坦面とテーパ面14aを有する形状となっている。テーパ面14aの傾斜角は、ボールスタッド10が揺動(矢印α1)した際に、ボールスタッド10の予め定められた揺動角を満たす角度となっている。
【0007】
ハウジング11の内面は、断面形状の縦壁がストレート形状となっており、この内面にボールシート12が収容されている。ボールシート12の内面は、ボール部10bの球状に沿った球形湾曲面12aの形状となっている。この球形湾曲面12aをボールシート内球面12a又は内球面12aともいう。この種のボールジョイントとして、例えば特許文献1に記載のものがある。
【0008】
このようなボールジョイントJでは、車両のサスペンションがストロークするに伴い、ボール部10bとボールシート内球面12aとが揺摺動するが、この揺摺動する際の特性が、揺動トルク及び回転トルク(各トルクともいう)と定義づけられる。ボール部10bの回転時の内球面12aへの摩擦力が増加して各トルクが高まると、乗り心地が悪化する。
【0009】
ハウジング11内のボール部10bに対するボールシート12の締め代を減少させると、各トルクを下げることができるが、同時に弾性リフト量が上がる。弾性リフト量とは、ハウジング11内のボールシート12を介したボール部10bの移動量である。弾性リフト量が大きくなると、ボール部10bがハウジング11内でボールシート12を介して大きく移動し、ボールジョイントJにガタが発生し、車両走行中の異音の発生に繋がる。つまり、各トルクと弾性リフト量との間には、各トルクが低下すると、弾性リフト量が増大するといった相反関係がある。
【0010】
また、特許文献1には、上記のボールジョイントJにおけるボールシート12の固定方法についても次の内容が記載されている。最初に、
図21に示すように、ハウジング11にボールシート12を介してボール部10bを挿入する。ハウジング11は、上端部11aの断面幅が胴部11bよりも狭く、上端部11aが胴部11bと同様に直立している。このハウジング11内に、ボールシート12を介してボール部10bを挿入し、ボールシート12の周回する上端面にリング14を配置する。
【0011】
次に、
図22~
図24に示すように、ハウジング11を固定する下型81及び、ハウジング11の上端部11aを押圧する上型82,83,84を有するダイセットを用いる。ダイセットは、上型82,83,84を図示せぬプレス機で正確に上下運動させて、ハウジング11の上端部11aを次のようにカシメる。
【0012】
但し、
図22に示すように、下型81は、ハウジング11の下半分を嵌合固定する凹部81aを有する。上型82は、ハウジング11の上半分を摺動可能に包み込んで支持する支持部82aと、上端部11aを水平線Hに対して斜め45°に曲げるための傾斜角度に形成された押圧部82bとを備える。
【0013】
図23に示すように、上型83は、支持部83aと、上端部11aを水平線Hに対して斜め20°に曲げるための傾斜角度に形成された押圧部83bとを備える。
図24に示すように、上型84は、支持部84aと、上端部11aを水平状態に曲げるための形状に形成された押圧部84bを備える。
【0014】
まず、
図22に示す第1工程において、ハウジング11の下半分を下型81の凹部81aに嵌合固定する。次に、上型82の支持部82aを矢印Y1で示す下方側へ移動させて、ハウジング11の上端部11aに挿通し、上端部11aを押圧部82bで押圧する。この押圧を、上端部11aが上記45°に曲がるまで行う。上端部11aが45°に曲がった後は、上型82を上昇させてハウジング11から抜き取る。
【0015】
次に、
図23に示す第2工程において、上型83の支持部83aを矢印Y1で示す下方側へ移動させて、ハウジング11の上端部11aに挿通し、上端部11aを押圧部83bで押圧する。この押圧を、上端部11aが上記20°に曲がるまで行う。上端部11aが20°に曲がった後は、上型83を上昇させてハウジング11から抜き取る。
【0016】
次に、
図24に示す第3工程において、上型84の支持部84aを矢印Y1で示す下方側へ移動させて、ハウジング11の上端部11aに挿通し、上端部11aを押圧部84bで押圧する。この押圧を、上端部11aが上記水平状態に曲がるまで行う。言い換えればハウジング11の直立する胴部11bに対して上端部11aが直角に曲がり、リング14を介してボールシート12をカシメる(固定する)まで行う。上端部11aがリング14をカシメた後は、上型84を上昇させてハウジング11から抜き取り、更に、ハウジング11を下型81から抜き取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したボールジョイントJにおけるボールシート12の固定方法においては、ハウジング11の上端部11aでリング14をカシメることにょりボールシート12を固定する加工処理を、3工程に分け、各工程において上型82~84を順次交換しながらリング14を徐々に折り曲げて行う。このため、カシメに長時間を要するので、リング14をカシメてボールシート12を固定する際のタクトタイムが長くなる。この結果、ボールジョイントJの製造コストが高くなるという問題があった。
【0019】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、ハウジング内のリングをカシメてボールシートを固定する加工を短いタクトタイムで可能とし、製造コストを下げることができるボールジョイントのボールシート固定方法及びボールシート固定構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記した課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定方法であって、前記ハウジングの胴部の外周に、周回状に形成された溝を備え、前記ハウジングの開口端部の内側に配置され、且つ前記ボールシートの上にセットされたリングを備え、前記ハウジングの溝にローラを挿入し、この挿入されたローラで、当該溝が形成された部位の溝形成胴部を挿入方向に押圧しながら当該溝形成胴部をハウジング内に周回状に突出させ、この突出により前記リングをカシメる凸部を形成することを特徴とするボールジョイントのボールシート固定方法である。
【0021】
この方法によれば、ハウジングの溝にローラを挿入して溝形成胴部を押圧する1工程の作業だけで、ハウジング内にボールシート上のリングをカシメる(固定する)凸部を形成できる。従って、1工程の製造作業で、リングをカシメてボールシートを固定できるので、ボールシートを固定する際のタクトタイムを短くできる。また、工程自体のタクトタイムも短くなる。これらの結果、ボールジョイントの製造コストを下げることができる。
【0022】
請求項2に係る発明は、構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定方法であって、前記ハウジングの開口端部がハウジング胴部よりも薄く成形された先端薄肉部を有するハウジングを用いると共に、当該ハウジングの開口端部の内側に配置され、且つ前記ボールシートの上にセットされたリングを備え、前記ハウジングの先端薄肉部を、ローラでハウジングの内周側へ押圧しながら当該先端薄肉部を傾斜状に倒し、この倒れた先端薄肉部で前記リングをカシメることを特徴とするボールジョイントのボールシート固定方法である。
【0023】
この方法によれば、ハウジングの先端薄肉部を押圧して傾斜状に倒す1工程の作業だけで、ハウジング内にボールシート上のリングをカシメることができる。従って、ボールシートを固定する際のタクトタイムを短くできる。この結果、ボールジョイントの製造コストを下げることができる。また、工程自体のタクトタイムも短くなる。これらの結果、ボールジョイントの製造コストを下げることができる。
【0024】
請求項3に係る発明は、構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定構造であって、前記ハウジングの開口端部の内側に配置され、且つ前記ボールシートの上にセットされるリングと、前記ハウジングの胴部の外周に周回状に形成された溝と、前記溝が形成された部位の溝形成胴部が前記ハウジング内に周回状に突出されて形成され、前記リングをカシメる凸部とを備えることを特徴とするボールシート固定構造である。
【0025】
この構成によれば、ハウジングの溝形成胴部がハウジング内に周回状に突出された凸部のみの簡単な構造で、リングをカシメてボールシートを固定できる。
【0026】
請求項4に係る発明は、前記ハウジング内に突き出る凸部の下端側がテーパ面となっており、前記リングは、当該リングの外周端の上端側が、前記凸部のテーパ面と面同士で当接するテーパ面となっていることを特徴とする請求項3に記載のボールシート固定構造である。
【0027】
この構成によれば、ハウジング内に突き出た凸部のテーパ面と、リングの外周端の上端側のテーパ面との双方が、面同士で当接するので、双方が密着し、この密着によりリングが安定的にカシメられる。従って、その安定的にカシメられるリングでボールシートが安定的に固定される。
【0028】
請求項5に係る発明は、前記ボールスタッドと前記ハウジングとに跨って配設されるダストカバーを備え、前記ハウジングの外周側に前記ダストカバーを取り付ける取付溝を備え、前記取付溝は、前記溝の溝幅よりも広く、当該取付溝の底壁に前記溝が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のボールシート固定構造である。
【0029】
この構成によれば、ハウジングの取付溝にダストカバーの接続部分を嵌合すれば、ダストカバーの抜け力を向上できる。
【0030】
請求項6に係る発明は、構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジングと、当該ハウジングと前記球体部との間に介在されるボールシートとを有し、当該ボールシートに覆われた前記球体部が前記ハウジングで包含されるボールジョイントのボールシート固定構造であって、前記ハウジングは、当該ハウジング開口端部がハウジング胴部よりも薄く成形され、前記ボールシートの上にセットされたリングをカシメる状態に傾斜状に傾倒された先端薄肉部を備えることを特徴とするボールシート固定構造である。
【0031】
この構成によれば、ハウジングの傾斜状に傾倒された先端薄肉部のみの簡単な構造で、リングをカシメてボールシートを固定できる。
【0032】
請求項7に係る発明は、前記ハウジングの胴部と前記先端薄肉部とのハウジング内径側の接続部分に形成された接続テーパ面を備え、前記リングは、前記傾斜状に傾倒された先端薄肉部の側面に、面同士が当接する第1のテーパ面と、前記接続テーパ面に面同士が当接する第2のテーパ面とを備えることを特徴とする請求項6に記載のボールシート固定構造である。
【0033】
この構成によれば、リングのハウジングへの当接側に、第1のテーパ面及び第2のテーパ面の2つの離間したテーパ面を設けたので、離間した面支持によって、ハウジングへのリングの支持が安定する。
【0034】
請求項8に係る発明は、前記リングが、金属材料又は樹脂材料により形成されていることを特徴とする請求項3,4,6,7の何れか1項に記載のボールシート固定構造である。
【0035】
請求項9に係る発明は、前記リングが、平面形状がC型を成すCリングであり、当該Cリングの内径が前記球体部の径よりも小さくなっていることを特徴とする請求項3,4,6,7,8の何れか1項に記載のボールシート固定構造である。
【0036】
この構成によれば、Cリングの隙間にボールスタッドのシャフト部を挿通して装着可能となる。この装着状態において、球体部の径がCリングの内径よりも大きいので、所定のスタッド抜け荷重を確保できる。
【0037】
請求項10に係る発明は、前記ボールシートが、前記Cリングの隙間に嵌合され、当該Cリングの上方側の面と面一となる形状の突起部を備えることを特徴とする請求項9に記載のボールシート固定構造である。
【0038】
この構成によれば、ボールシートの突起部にCリングの隙間を嵌合して、ボールシートにCリングを載置した際に、突起部とCリングとの上方側の面が面一となる。この面一構造によって、Cリングの開口側でのボールスタッドの揺動角を適正に規制し、また、Cリングに隙間がある場合において、ボールスタッドが本来の揺動角を超えて揺動するオーバーアングルを防止できる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、ハウジング内のリングをカシメてボールシートを固定する加工を短いタクトタイムで可能とし、製造コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明に係る第1実施形態のボールジョイントの構成を示す斜視図である。
【
図3】絞り加工前のハウジングの溝及び溝形成胴部を示す縦断面図である。
【
図4】ハウジングの溝にローラを挿入した状態を示す縦断面図である。
【
図5】ハウジングの溝に挿入したローラで溝形成胴部を押圧してハウジング内に突き出る凸部を示す縦断面図である。
【
図6】絞り加工前のハウジングにおける底がR形状の溝を示す縦断面図である。
【
図7】絞り加工前のハウジングにおける底が円弧形状の溝を示す縦断面図である。
【
図8】絞り加工前のハウジングにおける開口幅が底幅よりも広い溝を示す縦断面図である。
【
図11】ボールシートの突起部がCリングの隙間に嵌合された状態を示す斜視図である。
【
図12】ハウジングの胴部に両側階段状に形成された2つの溝を示す縦断面図である。
【
図13】ハウジングの胴部に両側階段状に形成された2つの溝の1つにダストカバーの接続部分を嵌合した状態を示す縦断面図である。
【
図14】ハウジング内の凸部でカシメられる他のリングを示す縦断面図である。
【
図15】本発明に係る第2実施形態のボールジョイントの構成を示す斜視図である。
【
図16】
図15の倒れカシメ構造の特徴部分を拡大して示す縦断面図である。
【
図17】倒れ加工前のハウジングの先端薄肉部を示す縦断面図である。
【
図18】ハウジングの先端薄肉部をローラで押圧する様態を示す縦断面図である。
【
図19】ハウジングの傾斜状に倒れた先端薄肉部でカシメられる他のリングを示す縦断面図である。
【
図20】従来のボールジョイントの縦断面図である。
【
図21】従来のボールジョイントにおけるボールシートをカシメ固定する際の準備状態を示す縦断面図である。
【
図22】従来のボールジョイントにおけるボールシートをカシメ固定する際の第1工程の状態を示す縦断面図である。
【
図23】従来のボールジョイントにおけるボールシートをカシメ固定する際の第2工程の状態を示す縦断面図である。
【
図24】従来のボールジョイントにおけるボールシートをカシメ固定する際の第3工程の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本明細書の全図において互いに対応する構成部分には同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る第1実施形態のボールジョイントの構成を示す斜視図である。
図2は
図1に示すII-II断面図であり、サポートバー1aを追加して表わしている。
【0042】
但し、ボールジョイントJ1のスタッド部10sは、前述したサスペンション又はスタビライザに固定されている。サスペンション又はスタビライザは、請求項記載の構造体を構成する。
図1及び
図2に示すボールジョイントJ1において、スタッド部10sの先端側が「上」、ハウジング21の底部側が「下」であるとする。
【0043】
図2に示す第1実施形態のボールジョイントJ1が、従来のボールジョイントJ(
図20)と異なる点は、カップ状のハウジング21の胴部21bにおける上端部21aの外周側に、周回状(
図1参照)に溝21cを形成し、溝21cが形成された部位の溝形成胴部21d(
図3)を、ハウジング21内に周回状に突出させた凸部21eを形成している。そして、凸部21eの下側でリング24をカシメてボールシート12を固定する構造とした。
【0044】
この構造では、ハウジング21の周回する溝形成胴部21dを、ハウジング21の外周側から内周側に突出させて内径側に絞る加工(絞り加工)により形成される凸部21eで、リング24をカシメている。このカシメを、絞りカシメという。
【0045】
ハウジング21は、鉄板等の金属板がプレス成形又は冷鍛によって、
図2の断面図に示すようにカップ形状に成形されている。ここで、ハウジング21の材質を、炭素量を0.04~0.23wt%に規制することにより冷鍛加工と溶接が容易に可能となる。
【0046】
このハウジング21の胴部21bの溝21cは、溝21cと反対側の凸部21eを形成する前は、
図3に示す溝21c1のように断面形状が矩形の凹状(矩形凹状という)となっている。矩形凹状の溝21c1の反対側は滑らかな内周側面21fとなっている。
【0047】
溝21c1は、ハウジング21の胴部21bの外周面から水平線H(
図2参照)の方向に1mm以上切削した深さdまで形成される。この溝21c1の形成された胴部21bに残った幅がt以上となるように、溝21c1が形成される。その幅t(板厚tともいう)の部分を溝形成胴部21dと称す。溝21c1の深さdは1mm以上とするのが好ましい。
【0048】
溝21c1の底の角部は、R=0.1以上のR形状となっている。
図3の例ではR=0.2としてある。
【0049】
溝21c1の底は、
図3に示すフラット形状の他に、
図6に示すR形状(例えばR=溝幅/2)又は、
図7に示す円弧形状としてもよい。
図7に示す一例の溝21c1の底は、溝形成胴部21dの板厚tから最小幅が1mmとなる円弧形状としてある。
【0050】
図8に示すように、溝21c1の開口の幅(ハウジング高さ方向)h1は、底の幅h2よりも、広くなっている。この底から開口に向かって上下両側で傾斜状に拡がる片側の開口角度θ1は、底の角から水平に延ばした水平線(
図2の水平線Hを参照)に対して15°以内とするのが好ましい。このように、溝21c1の片側の開口角度θ1を15°以内とすることで、後述の絞り加工時に溝形成胴部21dの目的箇所以外の変形を抑制でき、適切な絞りカシメを達成できる。
【0051】
溝21c1の開口は、ハウジング21の胴部21bの加工性及び、絞りカシメによる押え効果を考慮し、胴部21bの上端から1mm以上の位置に設けるのが好ましい。
【0052】
溝形成胴部21dの板厚tは、胴部21bの板厚Tに対して、t/T≦0.6の寸法とするのが好ましい。この寸法とすることで、ローラ31(
図4)での押圧時に溝形成胴部21dが優先的に突出して変形し、絞りカシメが達成されるようになっている。
【0053】
溝形成胴部21dの高さ(長さ)L1は、溝形成胴部21dの板厚t+0.5の寸法とする。
【0054】
但し、溝形成胴部21dの高さL1は、溝21c1の垂直線V(
図2参照)方向の溝幅L1と同じ寸法である。ハウジング21における溝21c1の上端部21iの高さhは「1」が好ましい。
【0055】
溝形成胴部21d1の板厚t及び高さ(又は長さ)L1は、
図4に示す円盤状のローラ31を溝21c1に挿入して溝形成胴部21dを押圧することにより、
図5に示すように、溝形成胴部21dをハウジング21の内周側に突出できる寸法が必要である。言い換えれば、溝形成胴部21d1の板厚t及び長さL1は、ハウジング21の内周側に突き出た凸部21eを形成可能な寸法となっている。
【0056】
リング24は、
図9に示すように平面形状がC型を成すC型ストッパリング(Cリングともいう)である。このリング24は、ハウジング21の開口端部の内側で且つボールシート12の上にセットされる。
【0057】
Cリング24の材質は、所定のスタッド部10sの引き抜き荷重(スタッド引抜荷重)が得られるような形状であれば、樹脂又は鉄鋼材料の何れでも良い。
なお、Cリング24に、SPCC(Steel Plate Cold Commercial:冷間圧延鋼板)やSPHC(Steel Plate Hot Commercial:熱間圧延軟鋼板)等の金属材料を用いてもよい。
【0058】
Cリング24の内径は、ボール部(球体部)10bの球径より小さくする。例えば、ボール部10bの球径φが16.0mmの場合、Cリング24の内径をφ15.1mmとする。このように、ボール部10bの径より、内径が小さいリング24は、隙間24iを有するCリング24とすることで、
図2に示すシャフト部10iを隙間24iに通して、ボールスタッド10にCリング24を装着できる。
【0059】
Cリング24は、
図10に示すように、断面形状が概略への字形状を成す。このへの字断面形状のリング24は、上下に平行な上平坦面24a及び下平坦面24bと、上平坦面24aと下平坦面24bとの間に下平坦面24bに対して垂直に延びる側端面24cと、側端面24cと上平坦面24aとの間に、水平線H(
図2)に対してθ2で傾斜する第1テーパ面24dとを備える。更に、リング24は、上平坦面24aを挟んで第1テーパ面24dと反対側に傾斜する第2テーパ面24eと、第2テーパ面24eの下側に平行に傾斜する第3テーパ面24fと、第2テーパ面24eと第3テーパ面24fとの間の先端側に2面が付き合わさった先端面24gとを備える。
【0060】
更に、Cリング24は、
図5に示すように、ハウジング21内の凸部21eの下側テーパ面21e1に、第1テーパ面24dが面同士で当接(面当接という)されると共に、ハウジング21の内周側面21fに側端面24cが面当接されることにより、ハウジング21で支持される(カシメられる)。この支持されたリング24は、下平坦面24b及び第3テーパ面24fでボールシート12を押圧して固定している。
【0061】
上記のように、ハウジング21内の凸部21eの下側テーパ面21e1と、リング24の第1テーパ面24dとの双方が面当接しているので、双方が密着し、この密着によりリング24が安定的に固定される(カシメられる)。
【0062】
Cリング24は、凸部21eで支持される第1テーパ面24dのテーパ角度及び面積を、所定寸法に規制することにより、リング24を介したボールシート12の適正な押え効果が得られる。
【0063】
Cリング24の凸部21eで決まるCリング24のセット高さを、溝幅L1の中心高さに合わせることで、適正な絞りカシメを達成できる。
【0064】
Cリング24の肉厚は、後述の揺動角が許す限り等厚とする。しかし、揺動角を満足しない場合、
図10に示すCリング24のハウジング21側への当接部分の板厚T1を厚くし、スタッド部10sを受けるスタッド受側の第2テーパ面24eの板厚T2を、板厚T1よりも薄くする。このCリング24の2段階の板厚T1,T2によって、揺動角を確保可能となる。又は、第2テーパ面24eの板厚T2を、最小板厚T2min(=0.5T1)としたテーパ状に減少する形状としてもよい。
【0065】
Cリング24の凸部21eと当接する第1テーパ面24dは、水平線H(
図2)に対して角度θ2=45±15°の面取りとする。この面取り範囲は、0.1T1≦面取り≦0.6T1とする。
【0066】
Cリング24のボールシート12へのセット状態を
図11に示す。
図11に示すボールシート12の上端面には、突起部12aが設けられている。この突起部12aは、Cリング24の所定開口角の隙間24i(
図9)に嵌るサイズとなっている。但し、リング24の開口角は、
図9に示すように、リング24の隙間24iの両端と、リング24の中心とを結んで成す角であり、120°以内が好ましい。120°以内とすることで、所定のスタッド抜け荷重を確保できる。
【0067】
リング24の隙間24iへの突起部12aの嵌合は、Cリング24の上平坦面24a、第1テーパ面24d及び第2テーパ面24eと、突起部12aの面とが面一となるように行われる。
【0068】
この面一構造によって、Cリング24の第2テーパ面24eで規制されるスタッド部10sの揺動角を適正に規制できる。更に、Cリング24に隙間24iがそのままの状態で存在する場合に、スタッド部10sが本来の揺動角を超えて揺動するオーバーアングルを防止できる。また、突起部12aの面が、Cリング24の第1テーパ面24dと面一なので、ハウジング21内に凸部21eを形成して行う絞りカシメの阻害要因とならない。
【0069】
突起部12aの面を、Cリング24の第2テーパ面24eと面一とすることにより、その傾斜角による規制範囲で、
図2に示すボール部10bとボールシート内球面12aとが揺摺動し、この揺摺動時の特性である揺動トルク及び回転トルクが適正に定まるようになっている。
【0070】
この他、
図12に示すように、ハウジング21の胴部21bに形成された溝21c1の上部分(ハウジング21の外周側部分)に、その溝幅L1よりも広い溝幅L2の溝21c2(取付溝)を形成する。更に説明すると、その溝21c2を溝21c1と併せて、溝両側(上下側)が階段状(両側階段状)となるように形成する。溝21c2の溝幅L2は、
図13に示すダストカバー23のハウジング21への接続部分23aの長さ23Lに対応している。但し、ダストカバー23は、接続部分23a以外の形状は、
図20に示したダストカバー13に対応している。
【0071】
このようにハウジング21の胴部21bに、溝21c1及び溝21c2を両側階段状に構成した後に、ローラ31(
図5参照)を溝21c1に挿入して絞り加工を行い、ハウジング21の内周側面21fに凸部21eを形成する。この後、
図13に示すように、ハウジング21の溝21c2にダストカバー23の接続部分23aを嵌合して、外周側から1巻き以上、2巻き以下のサークリップ25で固定する。この固定によって、ダストカバー23の固定力が向上する。
【0072】
<第1実施形態のボールシート固定方法>
次に、上述したボールジョイントJ1のボールシート固定方法について説明する。
図4に示すように、ハウジング21内の凸部21eでリング24をカシメて、ボールシート12を固定するに当たっては、円盤状のローラ31を用いる。ローラ31は、金属等の強固な材料で形成されており、図示せぬモータの回転軸31aを中心に回転する。但し、モータは、ローラ31を矢印Y2方向又はこの逆方向に移動可能なアクチュエータ(図示せず)に組み込まれている。
【0073】
ローラ31の厚みをT0とした場合、T0≦溝幅L1-0.5(
図3参照)とするのが好ましい。
【0074】
ローラ31の周回端は、断面形状がR形状又は楕円形状になっている。ローラ31の周回端は、R形状の場合、R=T0/2とするのが好ましい。
【0075】
この他、ローラ31の周回端は、溝幅L1(
図3)に合わせて適宜選択することで、所定の絞りカシメを達成可能な凸部21e(
図5)を形成できる。
【0076】
事前準備として、
図4に示すように、ボールシート12の上にリング24をセットしておく。この際、リング24の下平坦面24b及び第3テーパ面24fがボールシート12の上端面にセットされ、更に、リング24の側端面24cがハウジング21の内周側面21fに当接した状態となる。
【0077】
次に、絞り加工を行う場合、
図4の矢印Y2で示す方向に、ローラ31を移動してハウジング21の溝21c1に挿入し、この挿入方向に、溝形成胴部21dを押圧する。この押圧時に、ハウジング21が、図示せぬアクチュエータで回転される。ローラ31の押圧力は、荷重計測器(図示せず)で計測されながら徐々に強くされ、所定の押圧力(所定の値)となった際にローラ31が停止される。この停止時に、所定の凸部21eが形成される。
【0078】
その所定の値となった際にローラ31を停止する荷重制御の他に、ストローク制御がある。ストローク制御は、矢印Y2で示す方向にローラ31を移動するストローク長を制御するものであり、所定の凸部21eが形成されるストローク長となった際に、ローラ31の移動を停止する。
【0079】
このような絞り加工は、溝形成胴部21dが突出し、この突出により形成される凸部21eの下側テーパ面21e1(
図5)が、リング24の第1テーパ面24d(
図10)に所定の押圧力で当接するまで実施する。この実施により、リング24を適正な力で下方に押圧できるので、ボールシート12の適正な固定が保証される。
【0080】
上述したように、凸部21eの下側テーパ面21e1とリング24の第1テーパ面24dとが斜めに当接しているので、下側テーパ面21e1で第1テーパ面24dが上から下に向かって効率よく押圧できる。このため、凸部21eの押圧力をリング24に効率良く伝達でき、これによって、凸部21eは、リング24を介してボールシート12を所定の力で押圧して固定できる。
【0081】
つまり、リング24を所定の力でカシメてボールシート12を固定することにより、揺動トルク及び回転トルクを適正に調整できる。この際、ボールシート12も所定の力で押圧固定されるので、
図2に示すハウジング21のボールシート12内でボール部10bが移動する際の弾性リフト量を適正に調整できる。
【0082】
<第1実施形態の効果>
このような本実施形態のボールジョイントJ1のボールシート固定方法及びボールシート固定構造の効果について説明する。
【0083】
ボールジョイントJ1は、サスペンション又はスタビライザによる構造体に一端部が連結されるスタッド部10sの他端部に、ボール部10bが一体に接合されて成るボールスタッド10を備える。また、ボールスタッド10のボール部10bを揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジング21と、当該ハウジング21とボール部10bとの間に介在されるボールシート12とを備える。そして、ボールシート12に覆われたボール部10bがハウジング21で包含される構造となっている。
【0084】
(1)ボールシート固定方法について説明する。まず、上記ボールジョイントJ1において、ハウジング21の胴部21bの外周に、周回状に形成された溝21c1を備え、更に、ハウジング21の開口端部の内側に配置され、且つボールシート12の上にセットされたリング24を備える。
【0085】
そして、ハウジング21の溝21c1にローラ31を挿入し、この挿入されたローラ31で、溝21c1が形成された部位の溝形成胴部21dを挿入方向に押圧しながら溝形成胴部21dをハウジング21内に周回状に突出させ、この突出によりリング24をカシメる凸部21eを形成する。
【0086】
この方法によれば、ハウジング21の溝21c1にローラ31を挿入して溝形成胴部21dを押圧する1工程の作業だけで、ハウジング21内のボールシート12上のリング24をカシメる(固定する)凸部21eを形成できる。従って、1工程の製造作業で、リング24をカシメてボールシート12を固定できるので、ボールシート12を固定する際のタクトタイムを短くできる。また、工程自体のタクトタイムも短くなる。これらの結果、ボールジョイントの製造コストを下げることができる。
【0087】
また、ローラ31によるローラカシメなので、容易にカシメることができ、カシメ時間も短縮できる。更に、ローラカシメによれば、加工を容易に行うことができ、加工時間を短縮できる。
【0088】
(2)ボールジョイントJ1のボールシート固定構造について説明する。ハウジング21の開口端部の内側に配置され、且つボールシート12の上にセットされるリング24と、ハウジング21の胴部21bの外周に周回状に形成された溝21c1と、溝21c1が形成された部位の溝形成胴部21dがハウジング21内に周回状に突出されて形成され、リング24をカシメる凸部21eとを備える構成とした。
【0089】
この構成によれば、ハウジング21の溝形成胴部21dがハウジング21内に周回状に突出された凸部21eのみの簡単な構造で、リング24をカシメてボールシート12を固定できる。
【0090】
(3)ハウジング21内に突き出る凸部21eの下端側がテーパ面(第1テーパ面24d)となっており、リング24は、リング24の外周端の上端側が、凸部21eのテーパ面と面同士で当接するテーパ面(下側テーパ面21e1)となっている構成とした。
【0091】
この構成によれば、ハウジング21内に突き出た凸部21eのテーパ面と、リング24の外周端の上端側のテーパ面との双方が、面同士で当接するので、双方が密着し、この密着によりリング24が安定的にカシメられる。従って、その安定的にカシメられるリング24でボールシート12が安定的に固定される。
【0092】
(4)リング24は、金属材料又は樹脂材料により形成されている。
【0093】
この構成によれば、リング24を強固な樹脂材料で形成すれば、ボールジョイントJ1の軽量化を図ることができる。
【0094】
(5)リング24は、平面形状がC型を成すCリング24であり、Cリング24の内径がボール部10bの径よりも小さくなっている構成とした。
【0095】
この構成によれば、Cリング24の隙間24iにボールスタッド10のシャフト部10iを挿通して装着可能となる。この装着状態において、ボール部10bの径がCリング24の内径よりも大きいので、所定のスタッド抜け荷重を確保できる。
【0096】
(6)ボールスタッド10とハウジング21とに跨って配設されるダストカバー23を備え、ハウジング21の溝21c1が形成された胴部における溝21c1よりもハウジング21外周側に、ダストカバー23のハウジング21への接続部分23aの長さと同寸法で、且つ溝21c1の溝21c1幅よりも広い溝21c1幅の取付溝21c2を、溝21c1と併せて両側階段状に形成する構成とした。
【0097】
この構成によれば、ハウジング21の取付溝21c2にダストカバー23の接続部分23aを嵌合できるので、ダストカバー23の抜け力を向上できる。
【0098】
(7)ボールシート12は、ボールシート12のCリング24が載置される上端面に、Cリング24の隙間24iに嵌合され、この嵌合時に、Cリング24の上方側の面と面一となる形状の突起部12aを備える構成とした。
【0099】
この構成によれば、突起部12aにCリング24の隙間24iを嵌合してボールシート12にCリング24を載置した際に、突起部12aとCリング24との上方側の面が面一となる。この面一構造によって、Cリング24の開口側でのボールスタッド10の揺動角を適正に規制し、また、Cリング24に隙間24iがある場合において、ボールスタッド10が本来の揺動角を超えて揺動するオーバーアングルを防止できる。
【0100】
この他、上述したリング24(
図5参照)は、
図14に示す構成のリング24Aであってもよい。このリング24Aが、リング24と異なる点は、リング24の側端面24cに対応する側端面24cAが、テーパ面24cの無いフラットな面となっており、リング24の上平坦面24aに対応する上平坦面24aAが、第2テーパ面24eと側端面24cAとの間に延びるフラット面となっていることにある。
【0101】
このリング24Aをボールシート12上にセットしても、ハウジング21の凸部21eの下側テーパ面21e1の下端で、リング24Aの上平坦面24aAの角が支持されてカシメられる。このため、リング24Aを介してボールシート12を固定できる。但し、
図5に示したように、下側テーパ面21e1とCリング24のテーパ面24dとが面同士で当接する方が固定力が高い。
【0102】
<第2実施形態の構成>
図15は、本発明に係る第2実施形態のボールジョイントの構成を示す断面図である。
【0103】
図15に示す第2実施形態のボールジョイントJ2が、第1実施形態のボールジョイントJ1(
図2)と異なる点は、絞りカシメ構造を、次の倒れカシメ構造としたことにある。倒れカシメ構造は、カップ状のハウジング21Bの胴部21bよりも薄肉となった先端薄肉部21jをハウジング21の内側へ斜めに倒し、この倒れた先端薄肉部21jでリング24Bをカシメる。このカシメにより、リング24Bでボールシート12を押えて固定する構造である。
【0104】
図15の倒れカシメ構造の特徴部分を、
図16に拡大して示す。ハウジング21Bの倒れた先端薄肉部21jは、倒れる前は、
図17に示すように、板厚Tの胴部21bと共に垂直線V(
図15)に沿って立設している。
【0105】
ここで、先端薄肉部21jの板厚t2は、t2≦0.6Tが好ましい。
【0106】
また、先端薄肉部21jの高さ(長さ)h3は、t2≦h3≦2×t2が好ましい。
【0107】
先端薄肉部21jと胴部21bとのハウジング内径側の繋ぎ部分(接続部分)は、水平線H(
図15)に対して30°~60°のテーパ面(接続テーパ面)21mとする。この構造によって、先端薄肉部21jの倒れ加工時に、先端薄肉部21jの根本が優先的に変形し、リング24Bを適正にカシメることが可能となる。
【0108】
その倒れ加工は、
図16に示すように、先端薄肉部21jの内径側の内測面21kが、リング24Bの第1テーパ面24dに面当接するまで行うことで、リング24Bを適正に下方側に押圧できるので、ボールシート12を適正に固定できる。
【0109】
リング24Bが、前述したリング24(
図10参照)と異なる点は、ハウジング21Bに当接する側端面24cBの下側に、第4テーパ面24hを形成したことにある。第4テーパ面24hは、リング24Bをボールシート12上にセットした際に、ハウジング21Bのテーパ面21mに面当接するようになっている。
【0110】
このようにリング24Bのハウジング21Bへの当接側に、第1テーパ面(第1のテーパ面)24d及び第4テーパ面(第2のテーパ面)24hの2つの離間したテーパ面を設けることで、離間した面支持によって、ハウジング21Bへのリング24Bの支持を安定できる。
【0111】
<第2実施形態のボールシート固定方法>
次に、上述したボールジョイントJ2のボールシート固定方法について説明する。
図18に示すように、リング24Bをカシメてボールシート12を固定する当たっては、円盤状のローラ31Bを用いる。ローラ31Bは、金属等の強固な材料で形成されており、図示せぬモータの回転軸に固定された回転軸31aを中心に回転する。但し、モータは、ローラ31Bを矢印Y3方向又はこの逆方向に移動可能なアクチュエータ(図示せず)に組み込まれている。
【0112】
事前準備として、ボールシート12の上にリング24Bをセットしておく。この際、リング24Bの下平坦面24bB及び第3テーパ面24fがボールシート12の上端面にセットされ、リング24Bの第4テーパ面24hがハウジング21Bのテーパ面21mに当接した状態となる。
【0113】
倒れ加工を行う場合、矢印Y3で示す方向に、ローラ31Bを移動してハウジング21Bの先端薄肉部21jを、その移動方向に押圧する。この押圧時に、ハウジング21Bを、図示せぬアクチュエータで回転させる。ローラ31Bの押圧力は、荷重計測器(図示せず)で計測されながら徐々に強くなり、所定の押圧力(所定の値)となった際にローラ31Bが停止する。この停止時に、
図19に示すように、先端薄肉部21jの内側面21kがリング24Bを適正にカシメる状態に斜めに傾倒する。
【0114】
この所定の値となった際に停止する荷重制御の他に、ストローク制御がある。ストローク制御は、
図18に矢印Y3で示す方向にローラ31Bを移動するストローク長を制御するものであり、先端薄肉部21jが適正に傾倒するストローク長となった際に、ローラ31Bの移動を停止する。
【0115】
このような倒れ加工は、先端薄肉部21jがリング24Bを適正にカシメる状態に傾倒するまで実施する。この実施により、リング24Bを適正な力で下方に押圧できるので、ボールシート12の適正な固定が保証される。
【0116】
上述したように、傾倒した先端薄肉部21jの内側面21kとリング24Bの第1テーパ面24dとが斜めに当接しているので、内側面21kで第1テーパ面24dが上から下に向かって効率よく押圧できる。このため、傾倒した先端薄肉部21jの押圧力をリング24Bに効率良く伝達でき、これによって、傾倒した先端薄肉部21jは、リング24Bを介してボールシート12を所定の力で押圧して固定できる。
【0117】
つまり、リング24Bを所定の力でカシメてボールシート12を固定することにより、揺動トルク及び回転トルクを適正に調整できる。この際、ボールシート12も所定の力で押圧固定されるので、
図15に示すハウジング21Bのボールシート12内でボール部10bが移動する際の弾性リフト量を適正に調整できる。
【0118】
この他、ローラ31Bは、先端薄肉部21jの上から押圧するようにしてもよい。また、ローラ31Bに代え、先端薄肉部21jを横方向又は縦方向から押圧治具(図示せず)で押圧してもよい。この押圧治具又はローラ31Bで請求項記載の押圧治具を構成する。
【0119】
<第2実施形態の効果>
このような本実施形態のボールジョイントJ1のボールシート固定方法及びボールシート固定構造の効果について説明する。
【0120】
ボールジョイントJ1は、サスペンション又はスタビライザによる構造体に一端部が連結されるスタッド部10sの他端部に、ボール部10bが一体に接合されて成るボールスタッド10を備える。また、ボールスタッド10のボール部10bを揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有するハウジング21Bと、当該ハウジング21Bとボール部10bとの間に介在されるボールシート12とを備える。そして、ボールシート12に覆われたボール部10bがハウジング21Bで包含される構造となっている。
【0121】
(1)ボールシート固定方法について説明する。まず、ボールジョイントJ2において、ハウジング21Bの開口端部が胴部21bよりも薄く成形された先端薄肉部21jを有するハウジング21Bを用いると共に、ハウジング21Bの開口端部の内側に配置され、且つボールシート12の上にセットされたリング24Bを備える。
【0122】
そして、ハウジング21Bの先端薄肉部21jを、押圧治具でハウジング21Bの内周側へ押圧しながら先端薄肉部21jを傾斜状に倒し、この倒れた先端薄肉部21jでリング24Bをカシメるようにした。
【0123】
この方法によれば、ハウジング21Bの先端薄肉部21jを押圧治具で押圧して傾斜状に倒す1工程の作業だけで、ハウジング21B内にボールシート12上のリング24Bをカシメることができる。従って、ボールシート12を固定する際のタクトタイムを短くできる。この結果、ボールジョイントJ2の製造コストを下げることができる。
【0124】
(2)ボールジョイントJ2のボールシート固定構造において、ハウジング21Bは、ハウジング21Bの開口端部が胴部21bよりも薄く成形され、ボールシート12の上にセットされたリング24Bをカシメる状態に傾斜状に傾倒された先端薄肉部21jを備える構成とした。
【0125】
この構成によれば、ハウジング21Bの傾斜状に傾倒された先端薄肉部21jのみの簡単な構造で、リング24Bをカシメてボールシート12を固定できる。
【0126】
(3)ハウジング21Bの胴部と先端薄肉部21jとのハウジング内径側の接続部分に形成された接続テーパ面21mを備える。リング24Bは、傾斜状に傾倒された先端薄肉部21jの側面に、面同士が当接する第1のテーパ面24dと、接続テーパ面21mに面同士が当接する第2のテーパ面24hとを備える構成とした。
【0127】
この構成によれば、リング24Bにおけるハウジング21Bへの当接側に、第1のテーパ面24d及び第2のテーパ面24hの2つの離間したテーパ面を設けたので、離間した面支持によって、ハウジング21Bへのリング24Bの支持が安定する。
【0128】
この他、上述したリング24B(
図16参照)は、
図19に示す構成のリング24Cであってもよい。このリング24Cが、リング24Bと異なる点は、リング24Cの側端面24cBに対応する側端面24cCが、第4テーパ面24hの無い、側端面24cBよりも幅広のフラットな面となっている。また、リング24Cの下平坦面24bCが、リング24Bの下平坦面24bBよりも幅広のフラットな面となっている。
【0129】
このリング24Cをボールシート12上にセットし、先端薄肉部21jを傾倒してリング24Cをカシメた場合、リング24Cの側端面24cCと下平坦面24bCとの角が、ハウジング21Bのテーパ面21mで支持される。更に、ハウジング21Bの内側面21kでリング24Cの第1テーパ面24dが面で押圧されて、リング24Cがカシメられる。このため、リング24Cを介してボールシート12を固定できる。
【0130】
その他、具体的な構成について、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
本発明のボールシート固定構造のボールジョイントJ1,J2は、産業用ロボットや人型ロボット等のロボットアームの関節部分や、ショベルカーやクレーン車等のアームが関節部分で回転する装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0131】
10 ボールスタッド
10b ボール部
10s スタッド部
12 ボールシート
12a 突起部
21,21B ハウジング
21b 胴部
21c,21c1,21c2 溝
21d 溝形成胴部
21e 凸部
21f 内周側面
21j 先端薄肉部
21k 内側面
21m テーパ面
23 ダストカバー
24,24A,24B,24C リング
24a 上平坦面
24b 下平坦面
24c 側端面
24d 第1テーパ面
24e 第2テーパ面
24f 第3テーパ面
24h 第4テーパ面
31,31B ローラ
31a 回転軸
J1,J2 ボールジョイント