(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】開口部を有する建築物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/20 20060101AFI20230622BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
E04B1/20 A
E04B1/20 F
E04H9/02 301
(21)【出願番号】P 2019170363
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 貴博
(72)【発明者】
【氏名】森 武史
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155137(JP,A)
【文献】特開2015-145580(JP,A)
【文献】特開平04-038341(JP,A)
【文献】特開平05-018003(JP,A)
【文献】特開2019-065636(JP,A)
【文献】特開2015-040381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E04B 1/58
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の一の外壁面に沿って隣り合うように直線状に配置された複数の開口部と、隣り合う前記開口部の間に配置される複数の第1柱と、前記開口部が配置された階と同一階における他の外壁面に沿って配置される複数の第2柱と、前記第2柱間に配置されるブレースと、
前記第1柱の上端と接合した第3柱と、を含み、
前記第1柱は、横断面が矩形状で前記開口部が並ぶ方向に長辺を有する扁平の鉄筋コンクリート柱であ
り、
前記第3柱は、横断面が略正方形であり、
前記第1柱は、横断面の四隅に配置された第1主筋と、前記第1主筋よりも内側に配置された第2主筋とを有し、
前記第2主筋は、前記第3柱の内部まで延びて前記第3柱の横断面の四隅に配置されることを特徴とする、開口部を有する建築物。
【請求項2】
請求項1において、
前記開口部が設けられた前記一の外壁面に隣接してトラックバースが設けられることを特徴とする、開口部を有する建築物。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1柱は、前記建築物の1階から2階へ延在することを特徴とする、開口部を有する建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部を有する建築物に関するものであって、特に、複数の開口部が一の外壁面に沿って隣り合うように直線状に配置された建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨のブレースを併用したラーメン構造として、ブレースの中心軸が柱・梁の接合中心部を通るように設定されたブレース用ガセットプレートを設ける接合構造が提案されている(特許文献1)。
【0003】
この接合構造は、低コストでありながら高い耐震性能を確保する「戸田式RCS工法(TO-RCS工法)」として多数の建築物に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る発明では建築物全体に偏心率を考慮してブレースをバランスよく配置する必要があるため、ブレースが設けられたスパンには開口部を設けることができない。
【0006】
そこで、本発明は、低コストでありながら高い耐震性能を確保しつつ、開口部の配置の自由度を向上することができる建築物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[1]本発明に係る開口部を有する建築物の一態様は、
建築物の一の外壁面に沿って隣り合うように直線状に配置された複数の開口部と、隣り合う前記開口部の間に配置される複数の第1柱と、前記開口部が配置された階と同一階に
おける他の外壁面に沿って配置される複数の第2柱と、前記第2柱間に配置されるブレースと、前記第1柱の上端と接合した第3柱と、を含み、
前記第1柱は、横断面が矩形状で前記開口部が並ぶ方向に長辺を有する扁平の鉄筋コンクリート柱であり、
前記第3柱は、横断面が略正方形であり、
前記第1柱は、横断面の四隅に配置された第1主筋と、前記第1主筋よりも内側に配置された第2主筋とを有し、
前記第2主筋は、前記第3柱の内部まで延びて前記第3柱の横断面の四隅に配置されることを特徴とする。
【0009】
前記建築物の一態様によれば、複数の開口部が配置された一の外壁面に扁平の第1柱を配置して耐震性能を確保しながら、当該外壁面における開口部の配置の自由度を向上することができる。また、前記建築物の一態様によれば、他の外壁面は、第2柱とブレースとの組み合わせにより、低コストでありながら高い耐震性能を確保することができる。前記建築物の一態様によれば、扁平の第1柱と略正方形の第3柱とが共通の主筋を備えることにより、第1柱と第3柱との接合部分における応力伝達を明解にすることができ、耐力を確保することができる。
【0010】
[2]前記建築物の一態様において、
前記開口部が設けられた前記一の外壁面に隣接してトラックバースが設けられることができる。
【0011】
通常、トラックバースは一の外壁面に沿って並んで複数配置されることが多い。一方で
、ブレースを一の外壁面に採用すると、開口部を設けることができないスパンができてしまうため、トラックバースとして利用できないスパンができてしまうことになる。これに対し、前記建築物の一態様によれば、扁平の第1柱を採用し、ブレース構面をなくすことで、開口部及びトラックバースが設けられないスパンを低減できる。
【0012】
[3]前記建築物の一態様において、
前記第1柱は、前記建築物の1階から2階へ延在することができる。
【0013】
前記建築物の一態様によれば、複数階の建築物であっても1階から2階へ第1柱が延在することで、建築物の剛性バランスを調整することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る建築物によれば、低コストでありながら高い耐震性能を確保しつつ、外壁面における開口部の配置の自由度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る建築物を模式的に示す1階床梁伏図である。
【
図2】一実施形態に係る建築物を正面からみた軸組図である。
【
図3】第1柱と第3柱との接合構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0019】
本発明の一実施形態に係る建築物の一態様は、建築物の一の外壁面に沿って隣り合うように直線状に配置された複数の開口部と、隣り合う前記開口部の間に配置される複数の第1柱と、前記開口部が配置された階と同一階における他の外壁面に沿って配置される複数の第2柱と、前記第2柱間に配置されるブレースと、を含み、前記第1柱は、横断面が矩形状で前記開口部が並ぶ方向に長辺を有する扁平の鉄筋コンクリート柱であることを特徴とする。
【0020】
1.建築物
図1及び
図2を用いて一実施形態に係る建築物1について詳細に説明する。
図1は一実施形態に係る建築物1を模式的に示す1階床梁伏図であり、
図2は一実施形態に係る建築物1を正面からみた軸組図である。
図1及び
図2では、建築物1の正面から見た左側の一
部が省略して示されている。
図1の開口部3a~3dは、斜線で示した範囲である。
【0021】
図1に示すように、建築物1は、平面視で略矩形状の外形を有し、図示した直線状の3つの外壁面2a~2c及び図示を省略した1つの外壁面を有する。建築物1の外形は矩形状に限らず、土地の形状や建築物1の用途等に応じて設計することができる。
【0022】
建築物1は、複数の開口部3a~3dと、複数の第1柱10と、複数の第2柱20と、ブレース50と、を含む。
【0023】
複数の開口部3a~3dは、建築物1の一の外壁面2aに沿って隣り合うように直線状に配置される。外壁面2aは、例えば建築物1の正面側の外壁面である。開口部3a~3dは、図示しない開閉可能なシャッターを備えてもよい。シャッターを開くことにより、開口部3a~3dを介して建築物1の内部と外部とが連通する。
【0024】
建築物1は、例えば物流センターであり、正面側の外壁面2aに隣接してトラックバース5が設けられる。トラックバース5は、トラックと物流センターとの間で荷物の積卸しをするために、施設内でトラックを接車するスペースである。建築物1は、物流センターに限らず、連続する開口部3a~3dが要求されるような例えば倉庫や工場等であってもよい。
【0025】
トラックバース5に入ったトラックは、外壁面2aの開口部3a~3dのいずれか一つに接車して、荷物を積卸しすることができる。建築物1は、第1柱10を挟んで連続する開口部3a~3dを有することで、外壁面2aの前の敷地をトラックバースト5として効率よく利用することができる。
【0026】
複数の第1柱10は、隣り合う開口部3a~3dの間に配置される。第1柱10は、横断面が矩形状で開口部3a~3dが並ぶ方向に長辺11を有する扁平の鉄筋コンクリート柱である。開口部3a~3dが並ぶ方向は、外壁面2aに沿った方向である。したがって、第1柱10は、横断面が厚さ寸法より幅寸法が大きい。第1柱10の厚さ寸法を1とすると、幅寸法は1.6~2.0が好ましい。
【0027】
外壁面2aに沿って隣り合う開口部3a~3dの間には、ブレースが配置されない。外壁面2aに単にブレースを設けずに複数の開口部3a~3dを設けると外壁面2aの剛性が低下するが、扁平の第1柱10を挟んで開口部3a~3dを設けることにより、外壁面2aの剛性が向上し、外壁面2aに沿った水平方向の地震の揺れ(建築物1の平面的なねじれ)に耐えることができる。また、開口部3a~3dの間にはブレースがないので、外壁面2aにおける開口部3a~3d及びトラックバース5が設けられないスパンを低減できる。このように、ブレースを用いずに扁平の第1柱10を配置することで、外壁面2aにおける耐震性能を確保しながら開口部3a~3dの配置の自由度を向上できる。
【0028】
複数の第2柱20は、開口部3a~3dが配置された階(本実施形態では1階)と同一階における他の外壁面2b,2cに沿って配置される。第2柱20は、横断面が略正方形の鉄筋コンクリート造である。第2柱20は、横断面の厚さ寸法が第1柱10の厚さ寸法と同じであってもよく、幅寸法が第1柱10の幅寸法より小さい。
【0029】
1階において、ブレース50は、第2柱20間に配置される。ブレース50は、隣り合う第2柱20と第2柱20との間に斜めに取り付けられて耐震性能を向上させる。ブレース50の材質としては、例えば鉄骨や円形鋼管等の公知のブレース材を採用できる。建築物1は、1階の外壁面2bに4本のブレース50が取り付けられ、1階の外壁面2cの一部に3本のブレース50が取り付けられる。建築物1の外壁面2b,2cは、第2柱20
とブレース50との組み合わせにより、特許文献1に開示されたように、低コストでありながら高い耐震性能を確保することができる。また、建築物1は、外壁面以外の内壁に複数のブレース50をさらに配置してもよい。
【0030】
外壁面2aに沿った方向における第1柱10と隣接する第1柱10の間には鉄骨梁61が架設され、外壁面2bに沿った方向における第1柱10と隣接する第2柱20の間には鉄骨梁62が架設される。鉄骨梁61は、外壁面2bに沿った方向における第2柱20と隣接する第2柱20との間にも架設される。また、鉄骨梁62は、外壁面2cに沿った方向における第2柱20と隣接する第2柱20との間にも架設される。
【0031】
図2に示すように、建築物1は、複数の基礎6の上に、第1柱10及び第2柱20がそれぞれ立設される。建築物1は、複数階、例えば1階から4階までの4階建てであり、第1柱10は、建築物1の1階から2階へ延在することができる。複数階の建築物1であっても、1階から2階へ第1柱10が延在することで、建築物1の剛性バランスを調整することができる。
【0032】
建築物1は、3階に第1柱10の上端と接合した第3柱30を複数備えることができる。第3柱30は、横断面が略正方形である。第3柱30の開口部3a~3dが並ぶ方向における幅寸法は、第1柱10の幅寸法よりも小さい。また、第3柱30の厚さ寸法は、第1柱10の厚さ寸法と同じであってもよい。
【0033】
建築物1は、2階にある第1柱10間にブレース50と、3階にある第3柱30間にブレース50と、をさらに備える。2階と3階にブレース50を備えることで、外壁面2aにおける2階と3階の耐震性能を合わせることができる。
【0034】
建築物1は、4階に第3柱30の上端と接合して上方へ延在する第4柱40を複数備えることができる。第4柱40は、鉄骨例えばH型鋼であってもよい。
【0035】
2.接合部
図3及び
図4を用いて、第1柱10と第2柱20との接合部31の構造について説明する。
図3は、第1柱10と第3柱30との接合構造を示す正面図であり、
図4は、
図3におけるA-A断面図である。
図3において、3階床スラブ及び第3柱30の外形は、一点鎖線で示す。
図4において、第3柱30の外形は、一点鎖線で示す。
【0036】
図3及び
図4に示すように、接合部31は、第1柱10と第2柱20とが接合する部分であり、第1柱10と鉄骨梁61,62とが接合する部分である。
【0037】
第1柱10は、鉄筋コンクリート造であり、横断面の四隅に配置された複数本の第1主筋13と、第1主筋13よりも内側に配置された複数本の第2主筋33とを有する。第1主筋13及び第2主筋33は、第1柱10に沿って鉛直方向に延びるように配置される。第1柱10は、第1主筋13及び第2主筋33の周りに複数の帯筋14を備える。
【0038】
第2主筋33は、第1柱10の上端から第3柱30の内部まで延びて第3柱30の横断面の四隅に配置される。
【0039】
建築物1は、扁平の第1柱10と略正方形の第3柱30とが共通の第2主筋33を備えることにより、第1柱10と第3柱30との接合部31における応力伝達を明解にすることができ、耐力を確保することができる。
【0040】
鉄骨梁61は、第1柱10の上端付近で鉄骨梁62と接合し、交差する。鉄骨梁61,
62は、公知の梁用鋼材を用いることができ、例えばH型鋼である。鉄骨梁61,62の周囲は塞ぎ板63で囲まれ、鉄骨梁61,62の下面にはバンドプレート64が巻き回される。なお、バンドプレート64は、必ずしも設けなくてもよい。
【0041】
第1主筋13は、鉄骨梁61,62を超えて上方へ延び、鉄骨梁61,62の上に配置される中心に開口を有する口型プレート65に上端がナットで固定される。第2主筋33は、口型プレート65を貫通する。
【0042】
接合部31は、図示しない第1柱10及び第3柱30用の型枠と、図示しない3階床スラブ用の型枠と、塞ぎ板63及びバンドプレート64と、の内部にコンクリートが打設されることで、第1柱10、第3柱30及び鉄骨梁61,62とが一体に施工される。
【0043】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0044】
1…建築物、2a~2c…外壁面、3a~3d…開口部、5…トラックバース、6…基礎、10…第1柱、11…長辺、12…短辺、13…第1主筋、14…帯筋、20…第2柱、30…第3柱、31…接合部、33…第2主筋、40…第4柱、50…ブレース、61,62…鉄骨梁、63…塞ぎ板、64…バンドプレート、65…口型プレート