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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】焦電型赤外線検出器及び集積回路
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20230622BHJP
   G01J 1/44 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
G01J1/02 Y
G01J1/02 W
G01J1/44 A
G01J1/44 F
G01J1/44 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019213010
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021085699
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000229081
【氏名又は名称】日本セラミック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】藤原 英機
(72)【発明者】
【氏名】榎木 邦泰
(72)【発明者】
【氏名】村田 洋一
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-104827(JP,A)
【文献】特開平10-320684(JP,A)
【文献】特開平10-318834(JP,A)
【文献】特開2012-225763(JP,A)
【文献】特開2017-58331(JP,A)
【文献】特開2011-208480(JP,A)
【文献】特開2005-308617(JP,A)
【文献】特開2010-169548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 5/00 - G01J 5/90
G01J 11/00
G01V 1/00 - G01V 99/00
G08B 13/00 - G08B 17/00
H04N 5/30 - H04N 5/33
H04N 23/11
H04N 23/20 - H04N 23/30
H04N 25/00
H04N 25/20 - H04N 25/61
H04N 25/615 - H04N 25/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージと、前記パッケージに収容された1または複数の焦電型光電変換素子と、前記パッケージに収容されて前記焦電型光電変換素子の出力に基づく検出信号の処理を行う集積回路とを備える焦電型赤外線検出器において、
前記集積回路は、
前記検出信号のアナログデジタル変換を行う変換部と、
デジタル信号に変換された前記検出信号に対してデジタルフィルタによる信号処理を行う信号処理部と、
前記信号処理部からの出力データを外部装置に向けてシリアルデータ通信で出力する入出力制御部と、
を備え、
前記集積回路に対する電圧印加によって、または、前記シリアルデータ通信により前記外部装置から入力するコマンドによって、前記デジタルフィルタにおけるカットオフ周波数の設定及び変更が可能であることを特徴とする、焦電型赤外線検出器。
【請求項2】
前記デジタルフィルタにおける高域側の前記カットオフ周波数と低域側の前記カットオフ周波数とを個別に設定可能である、請求項1に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項3】
前記集積回路に対する電圧印加によって、または、前記シリアルデータ通信により前記外部装置から入力するコマンドによって、前記変換部における前記アナログデジタル変換のダイナミックレンジが変更可能である、請求項1または2に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項4】
前記集積回路は、前記変換部の前段に前記検出信号の増幅を行う増幅部を有し、
前記集積回路に対する電圧印加によって、または、前記シリアルデータ通信により前記外部装置から入力するコマンドによって、前記増幅部の増幅利得が変更可能である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項5】
前記集積回路は、前記信号処理部で処理された前記検出信号の最大振れ幅の絶対値と前記絶対値に対応する前記検出信号が振れた方向とを保持する最大値保持部を備え、
前記外部装置からのデータ要求に応じて、前記検出信号の現在値と前記最大値保持部に保持された前記最大値とを前記外部装置に送信する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項6】
前記集積回路は、前記信号処理部で処理された前記検出信号と閾値とを比較して検出対象物の検出判定を行い、前記検出判定の結果に応じて前記外部装置に対してトリガ信号または割り込み信号を出力する検出判定部を備え、
前記集積回路に対する電圧印加によって、または、前記シリアルデータ通信により前記外部装置から入力するコマンドによって、前記閾値が変更可能である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項7】
前記シリアルデータ通信において前記焦電型赤外線検出器を特定するためのアクセス用アドレスが設定され、前記アクセス用アドレスは視認可能であるように前記焦電型赤外線検出器に印字または刻印されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項8】
前記シリアルデータ通信はI2C方式のシリアルデータ通信であり、1つのI2Cバスラインに複数の前記焦電型赤外線検出器が接続されたときに前記アクセス用アドレスによって前記焦電型赤外線検出器の個体識別が可能である、請求項7に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項9】
前記シリアルデータ通信はI2C方式のシリアルデータ通信であり、前記検出判定部により出力される前記トリガ信号または割り込み信号は、1つのI2Cバスラインを使用して前記外部装置へ出力される、請求項6に記載の焦電型赤外線検出器。
【請求項10】
焦電型赤外線検出器の出力に基づく検出信号の入力及び信号処理を行う集積回路において、
前記検出信号のアナログデジタル変換を行う変換部と、
デジタル信号に変換された前記検出信号に対してデジタルフィルタによる信号処理を行う信号処理部と、
前記信号処理部からの出力データを外部装置に向けてシリアルデータ通信で出力する入出力制御部と、
を備え、
前記集積回路に対する電圧印加によって、または、前記シリアルデータ通信により前記外部装置から入力するコマンドによって、前記デジタルフィルタにおけるカットオフ周波数の設定及び変更が可能であることを特徴とする、集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路(IC)を内蔵する焦電型赤外線検出器と集積回路とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信技術の発達により様々な電子機器に無線通信機能が搭載されてきており、さらには、無線通信機能を備えた機器であって小型化及び電池駆動を可能としたものの普及も著しい。このような電子機器では、省電力化を目的としてその電子機器による検出対象となる人間あるいは動物などが存在する時間にのみその電子機器が駆動されるように、焦電型赤外線検出器を搭載することが多い。焦電型赤外線検出器は、赤外線を透過する窓を備えるパッケージの内部に焦電型光電変換素子を配置したものであり、このような電子機器に搭載される焦電型赤外線検出器は、特許文献1~4に開示されるように、集積回路を内蔵していることが多い。集積回路を内蔵することにより、焦電型赤外線検出器を搭載した電子機器の小型化を達成できるとともに、金属パッケージで構成されている焦電型赤外線検出器の内部に信号処理回路が配置されることになって外来電磁ノイズの影響を軽減することができる。集積回路を内蔵した焦電型赤外線検出器は、無線通信機能を備える機器以外にも多様な機器やシステムにおいて使用されている。
【0003】
焦電型赤外線検出器に内蔵される集積回路には、例えば、焦電型光電変換素子から得られる検出信号をアナログデジタル変換する変換部と、デジタル信号に変換された検出信号に対してノイズ除去と信号処理とを行う信号処理部とを備えるタイプのものがある。ノイズ除去は、例えば、一定のカットオフ周波数を用いたデジタルフィルタ処理によって行われる。別のタイプの集積回路は、焦電型光電変換素子から得られる検出信号を一定の増幅利得で増幅する増幅部と、増幅後の検出信号をアナログデジタル変換する変換部とを有し、デジタル信号に変換された検出信号に対して一定の規則に従ってノイズ除去処理と演算とを実施してその結果を外部に出力する。
【0004】
集積回路の出力形態としては、焦電型赤外線検出器の内部でデジタル信号に変換されさらに信号処理された検出信号に対して一定の検出判定用閾値を適用して人体や動物などの検出対象物を検出したか否かの判断を行い、検出あるいは非検出の情報のみを二値信号として出力するものがある。あるいは、デジタル信号に変換されさらに信号処理された検出信号を焦電型赤外線検出器のメーカ独自のインタフェース規格に従って出力するものがある。これらの出力形態を採用することにより、焦電型赤外線検出器が接続される外部装置は、検出信号を処理するためのアナログ回路を設けることなく、デジタル形態の検出信号を受信して利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-225763号公報
【文献】特表2013-524178号公報
【文献】特開2016-70694号公報
【文献】特開2016-186478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
焦電型赤外線検出器では、焦電型光電変換素子の出力に基づく検出信号に対してフィルタ処理を行い、検出対象物による信号成分のみを取り出す必要がある。焦電型赤外線検出器は、移動速度及び放射する赤外線波長が異なる人体、動物、機械あるいは炎など様々な物体を検出対象としているので、検出対象物による信号成分のみを取り出すためには、検出対象物や用途に応じてフィルタ処理における適切なカットオフ周波数の設定が必要である。しかしながら従来のデジタル出力型の焦電型赤外線検出器は、カットオフ周波数が固定されており、このため用途によっては使用できないことがある。また、従来のデジタル出力型の焦電型赤外線検出器は、外部集積回路を含めた外部装置に対し複数の焦電型赤外線検出器が接続された場合、1つの焦電型赤外線検出器に対しそれぞれ対応した入出力ポートを個別に設ける必要がある。
【0007】
本発明の目的は、様々な検出対象物や用途に対応することができ、かつ、複数個使用した場合においても接続先となる外部装置における入出力端子の数の増大を防ぐことができる焦電型赤外線検出器と、そのような焦電型赤外線検出器で用いることが可能な集積回路とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の焦電型赤外線検出器は、パッケージと、パッケージに収容された1または複数の焦電型光電変換素子と、パッケージに収容されて焦電型光電変換素子の出力に基づく検出信号の処理を行う集積回路とを備える焦電型赤外線検出器において、集積回路は、検出信号のアナログデジタル変換を行う変換部と、デジタル信号に変換された検出信号に対してデジタルフィルタによる信号処理を行う信号処理部と、信号処理部からの出力データを外部装置に向けてシリアルデータ通信で出力する入出力制御部と、を備え、集積回路に対する電圧印加によって、または、シリアルデータ通信により外部装置から入力するコマンドによって、デジタルフィルタにおけるカットオフ周波数の設定及び変更が可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明の集積回路は、焦電型赤外線検出器の出力に基づく検出信号の入力及び信号処理を行う集積回路において、検出信号のアナログデジタル変換を行う変換部と、デジタル信号に変換された検出信号に対してデジタルフィルタによる信号処理を行う信号処理部と、信号処理部からの出力データを外部装置に向けてシリアルデータ通信で出力する入出力制御部と、を備え、集積回路に対する電圧印加によって、または、シリアルデータ通信により外部装置から入力するコマンドによって、デジタルフィルタにおけるカットオフ周波数の設定及び変更が可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、集積回路に対する電圧印加によって、あるいはシリアルデータ通信により外部装置から入力するコマンドによって、デジタルフィルタにおけるカットオフ周波数の設定及び変更が可能であるので、1つの焦電型赤外線検出器を様々な検出対象物や用途に適合させることが可能になる。また、焦電型赤外線検出器がシリアルデータ通信により外部装置と通信できるので、シリアルデータ通信において一般的に用いられている単一バスラインに複数のデバイスを接続できる技術を用いることにより、複数個の焦電型赤外線検出器を使用した場合においても接続先となる外部装置における入出力端子の数が増大することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態の焦電型赤外線検出器の構成を示す図である。
図2】デジタルフィルタ処理における周波数特性の例を示すグラフである。
図3】最大値保持部の動作を説明するタイミング図である。
図4】検出判定部の動作を説明するタイミング図である。
図5】第2の実施形態における複数の焦電型赤外線検出器の接続を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施形態の焦電型赤外線検出器の内部構成を示している。この焦電型赤外線検出器10は、検出対象物を検出し、その検出結果を外部装置15に出力するために用いられる。外部装置15は、焦電型赤外線検出器10の外部に設けられるものであって、例えば集積回路や各種の機器である。
【0013】
焦電型赤外線検出器10は、例えば金属製であるパッケージ11の内部に、1または複数の焦電型光電変換素子21と、焦電型光電変換素子21から得られる検出信号の処理を行う集積回路25とを気密に収容したものである。パッケージ11には、パッケージ11の内部に赤外線を透過させる窓12が形成されており、焦電型光電変換素子21は、窓12を透過した赤外線を受光するように配置されている。図示した例では、1個の焦電型光電変換素子21が設けられている。高い抵抗値を有する抵抗22が焦電型光電変換素子21に対して並列に接続している。さらに焦電型光電変換素子21の一端には、インピーダンス変換素子23が接続し、インピーダンス変換素子23と集積回路25との間には、高周波ノイズを低減するためにアナログローパスフィルタであるフィルタ回路24が設けられている。図示した例では、インピーダンス変換素子として電界効果トランジスタによるソースフォロワ回路が用いられている。
【0014】
集積回路25は、焦電型光電変換素子21からインピーダンス変換素子23とフィルタ回路24を介して入力する検出信号を増幅する増幅部26と、増幅後の検出信号に対してアナログデジタル変換を行う変換部27と、デジタル信号に変換された検出信号に対してデジタルフィルタ処理を行う信号処理部29と、信号処理部29からの出力データを外部装置15に向けてシリアルデータ通信で出力する入出力制御部32と、を備えている。図示した例では、焦電型赤外線検出器10にはシリアルデータ通信のためにPin A及びPin Bと称する2つの入出力端子33,34が設けられており、入出力端子33,34は、いずれも入出力制御部32に接続している。焦電型光電変換素子21から出力される検出信号が十分に大きい場合や、アナログデジタル変換にΔΣ型変換器を用いる場合には、増幅部26は必ずしも設ける必要はない。さらに焦電型赤外線検出器10には、集積回路25に電源電圧VDDを供給する電源端子35と、集積回路25を接地電位GNDに接続するとともにパッケージ11にも電気的に接続した接地端子36が設けられている。
【0015】
ここで外部装置15への接続に用いられるシリアルデータ通信について説明する。本発明においてシリアルデータ通信の通信方式としては、同期式シリアルデータ通信、非同期式シリアルデータ通信など各種のものが使用可能であるが、シリアルデータ通信に用いるバスラインに対して複数のスレーブデバイスを接続できるような通信方式を用いることが好ましい。そのような方式の一例としてI2C(Inter-Integrated circuit;I2Cとも記載される)方式がある。I2C方式を用いる場合には、外部装置15をマスタデバイス、焦電型赤外線検出器10をスレーブデバイスとして用い、入出力端子33,34の一方が双方向でデータをシリアル転送するための端子として用いられ、他方がマスタデバイスからのシリアルクロック(SCL)を受信するための端子として用いられる。I2C方式以外のものとして、入出力端子33,34の一方をシリアルデータ通信に用い、他方を焦電型赤外線検出器10から外部装置15へのトリガ信号あるいは割り込み信号の伝送に用いるものがある。
【0016】
信号処理部29でのデジタルフィルタ処理は、焦電型光電変換素子21の検出信号から検出対象物による成分のみを抽出することを目的とするものである。外来電磁ノイズあるいは急激な環境温度変化による突発性ノイズも、このデジタルフィルタ処理によって除去される。焦電型赤外線検出器10の検出対象としては、人体、動物、機械あるいは炎など様々な物体が考えられ、これらは移動速度や放射する赤外線の波長が異なるので、焦電型赤外線検出器10の用途に合わせてデジタルフィルタ処理におけるカットオフ周波数を設定しあるいは変更しないと、検出対象物を適切に検出できないことがある。そこで本実施形態の焦電型赤外線検出器10は、集積回路25に設けられた調整入力ピン(不図示)に対する電圧印加によって、あるいは、外部装置15からのシリアルデータ通信により入出力制御部15に入力するコマンドによって、デジタルフィルタ処理におけるカットオフ周波数の設定及び変更が行えるように構成されている。集積回路25に対する電圧印加によってカットオフ周波数の設定及び変更を行う場合には、印加電圧に応じて何段階かでカットオフ周波数の設定及び変更を行えるように構成することができる。シリアルデータ通信がI2C方式のものであるときは、カットオフ周波数の設定及び変更のためのコマンドの送受信は容易であり、かつコマンドに基づいて任意のカットオフ周波数特性を設定することが可能である。図1に示した例では、I2C方式のシリアルデータ通信により送られてきたコマンドは、入出力制御部32において設定値に変換されて信号処理部29に供給されている。
【0017】
図2は、信号処理部29により実現されるデジタルフィルタの周波数特性の例を示している。図示されるように、低域側の遮断特性41と高域側の遮断特性42とを独立して設定でき変更できることが好ましい。焦電型赤外線検出器10の用途に合わせて低域側の遮断特性41と高域側の遮断特性42とを個別に設定することで、検出対象物を検出する性能が向上するとともに、検出対象物ではない物体を検出することによる誤発報を抑制することができる。
【0018】
焦電型赤外線検出器10では、焦電型光電変換素子21に設けられる受光電極の形状や受光する赤外線のエネルギー量により、焦電型光電変換素子21が赤外線受光したときに発生する検出信号のレベルは大きく異なる。そのため、検出信号のレベルに比べて変換部27におけるアナログデジタル変換のダイナミックレンジが広すぎる場合には、アナログデジタル変換での分解能が実効的に低下する。これは、赤外線エネルギー量の変化が少ない微小動作を検出しようとする場合や検出対象物の表面温度と同等の環境温度で検出対象物を検出しようとする場合に、検出性能の低下をもたらす。検出性能の向上のためには、アナログデジタル変換でのダイナミックレンジが、検出信号のレベルとその変化量とに適合していることが必要である。そこで本実施形態の焦電型赤外線検出器10では、集積回路25に設けられた調整入力ピン(不図示)に対する電圧印加によって、あるいは、外部装置15からのシリアルデータ通信により入出力制御部32に入力するコマンドによって、増幅部26での検出信号の増幅利得と変換部27でのアナログデジタル変換のダイナミックレンジとの少なくとも一方を変更できることが好ましい。図1に示したものでは、I2C方式のシリアルデータ通信により送られてきたコマンドは入出力制御部32において設定値に変換される。集積回路25には、この設定値に基づいて実際に増幅部26の増幅利得と変換部27のダイナミックレンジの設定及び変更を行う設定部28が設けられている。
【0019】
増幅部26の増幅利得及び変換部27のダイナミックレンジの少なくとも一方を可変にして調整可能とすることにより、焦電型光電変換素子21に入射する赤外線エネルギーが小さい場合や検出対象物の動作が微小な場合における検出信号に対してもアナログデジタル変換での分解能が不足することがなくなり、検出信号の大小に関わらず検出分解能を損なうことなく検出信号をデジタル信号に変換することが可能になる。これにより、検出性能の維持あるいは向上を実現でき、検出対象物に対する高い微動検出性能を得ることができる。
【0020】
シリアルデータ通信の通信方式としてI2C方式を利用する場合、外部装置15がマスタデバイスとなり焦電型赤外線検出器10がスレーブデバイスとなって、外部装置15が焦電型赤外線検出器10に対してデータ要求を行い、データ要求に対して焦電型赤外線検出器10の集積回路25が検出データを外部装置15に送信する。外部装置15で実行されるソフトウェアなどによってデータ要求間隔が決まるため、データ要求間隔が長い場合には検出対象物による検出信号を外部装置15側に送信し損ねることがある。電池駆動の機器に対して焦電型赤外線検出器10を搭載する場合、その機器の省電力化のためには外部装置15である外部集積回路から焦電型赤外線検出器10へのデータ要求の頻度を減らすことが有効であるが、データ要求頻度を低下させたことによって、本来必要とするべき検出信号を見逃す、すなわち失報が起こる恐れがある。省電力化と失報とはトレードオフの関係にある。そこで集積回路25に、データ要求がない期間内において信号処理部29で処理された検出信号の最大振れ幅とそのときに検出信号が振れた方向とを保持する最大値保持部30を設けることが好ましい。
【0021】
図3は最大値保持部30の動作を説明している。ここでは信号処理部で処理された検出信号43の時間変化がグラフで示されているが、実際には検出信号43は、時間変化するデジタルデータの形態である。検出信号43における最大値44が最大値保持部30に保持されており、外部装置15からのデータ要求45が入力すると、そのデータ要求45のタイミングで、外部装置15に対して最大値データ46の送信が行われる。このように検出信号の最大値を保持する最大値保持部30を設けることにより、外部装置15からのデータ要求の間隔が長い場合であっても検出対象物を検出したことによる検出信号の最大値を確認することができ、外部装置15の省電力化とともに失報の防止が可能になる。ここでは正方向に検出信号43が変化したときすなわち振れたときの最大値44を最大値保持部30に保持しているが、検出対象物を検出するときに負方向に検出信号43が変化する場合もあるので、検出信号の正方向の最大振れ幅あるいは負方向の最大振れ幅を絶対値にして、その絶対値とそのとき検出信号が振れた方向とを最大値保持部30に保持する。
【0022】
焦電型赤外線検出器10が搭載される機器の省電力化に関しては、通常時にはその機器を休止状態としておき、検出対象物を検出したと焦電型赤外線検出器10が判断したときのみにその機器を動作させることが有効である。そのような動作を実現するために、集積回路25に、信号処理部29で処理された検出信号と閾値とを比較して検出対象物の検出判定を行う検出判定部31を備え、検出対象物を検出したと検出判定部31が判定したときに入出力制御部32を介して外部装置15に対してトリガ信号または割り込み信号を出力するようにすることが好ましい。
【0023】
図4は、検出判定部31の動作を説明する図である。焦電型光電変換素子21からの検出信号は、検出対象物の動きの方向によって正方向だけでなく負方向に変化することもある。そこで検出判定部31では、信号処理部29で処理された検出信号43に対して上限側の閾値51と下限側の閾値52とが設定されており、検出判定部31は、検出信号43と閾値51,52とを比較して、検出信号43が上限側の閾値51を上回ったとき、あるいは下限側の閾値52を下回ったときに、トリガ信号53あるいは割り込み信号を出力する。閾値51,52は、集積回路25に設けられた調整入力ピン(不図示)に対する電圧印加によって、あるいは、外部装置15からのシリアルデータ通信により入出力制御部32に入力するコマンドによって、変更できることが好ましい。焦電型赤外線検出器10が接続される外部装置15が、焦電型赤外線検出器10を搭載した機器において焦電型赤外線検出器10との接続インタフェースとなる集積回路などであるとすれば、検出判定部31からのトリガ信号または割り込み信号があったときにのみその機器を休止状態から復帰させて動作させることが可能になり、焦電型赤外線検出器10を搭載した機器の省電力化を達成することができる。集積回路25に最大値保持部30が設けられている場合には、トリガ信号あるいは割り込み信号により休止状態から復帰した外部装置15は、焦電型赤外線検出器10に対してデータ要求を送信して最大値保持部30に格納されている最大振れ幅の絶対値と検出信号が振れた方向とを取得できる。
【0024】
[第2の実施形態]
第1の実施形態の焦電型赤外線検出器10は、シリアルデータ通信のバスラインにより外部装置15に接続することができるので、1つの外部装置15に対して複数の焦電型赤外線検出器10を接続することができる。図5は、複数の第1の実施形態に基づく焦電型赤外線検出器10を1つの外部装置15に接続した例を示している。ここではシリアルデータ通信の通信方式としてI2C方式が使用されるものとする。図示した例では、I2C方式によるバスライン54に対し、マスタデバイスである外部装置15が1つ接続するとともに、スレーブデバイスである焦電型赤外線検出器10が3個接続されている。バスライン54は、シリアルデータ(SDA)の信号線とシリアルクロック(SCL)の信号線によって構成されている。I2C規格に基づき、個々の焦電型赤外線検出器10に対して固有のアクセス用アドレスが設定される。焦電型赤外線検出器10を設置するときの個体識別を容易にするために、焦電型赤外線検出器10のパッケージ11には、その焦電型赤外線検出器10のアクセス用アドレスが視認可能に印字または刻印される。バスライン54に同時に接続できる焦電型赤外線検出器10の数は3に限られるものではなく、さらに多くの焦電型赤外線検出器10をバスライン54に接続することができる。外部装置15は、予め記憶している焦電型赤外線検出器10のアクセス用アドレスを用いることにより、バスライン54に接続されている焦電型赤外線検出器10の個体識別を行って、所望の焦電型赤外線検出器10にアクセスすることができる。
【0025】
シリアルデータ通信の通信方式としてI2C方式を用いる場合であってもバスライン54に接続するいずれかの焦電型赤外線検出器10において検出対象物を検出したときに、外部装置10は、トリガ信号あるいは割り込み信号をバスライン54を介して受信することが可能であり、アクセス用アドレスをスキャンするようにして個々の焦電型赤外線検出器10に対してデータ要求20を行い、各焦電型赤外線検出器10の最大値保持部30に保持されたデータを取得することができる。
【0026】
第2の実施形態によれば、個々の焦電型赤外線検出器10において、焦電型光電変換素子21からの検出信号の品質を損なうことなく外来電磁ノイズなどの除去を行い、用途に応じた検出信号の処理を行うことができる。そして、複数個のこのような焦電型赤外線検出器10を同一のバスライン54に接続することができる。そのため、外部装置15として、焦電型赤外線検出器10との接続のための入出力端子の数すなわちピン数が少ない安価な部品を使用することが可能になる。
【符号の説明】
【0027】
10 焦電型赤外線検出器
11 パッケージ
12 窓
15 外部装置
21 焦電型光電変換素子
23 インピーダンス変換素子
25 集積回路
26 増幅器
27 変換部
28 設定部
29 信号処理部
30 最大値保持部
31 検出判定部
32 入出力制御部
図1
図2
図3
図4
図5