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特許7300389リチウムバッテリーカソード及び製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】リチウムバッテリーカソード及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230622BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230622BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230622BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230622BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230622BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230622BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230622BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20230622BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230622BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230622BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/485
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/60
H01M4/36 C
H01M4/139
【請求項の数】 49
(21)【出願番号】P 2019546123
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 US2018016426
(87)【国際公開番号】W WO2018156330
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】15/442,803
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】パン,バオフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホー,フイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-517519(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0336620(US,A1)
【文献】国際公開第2016/182884(WO,A1)
【文献】特表2019-510353(JP,A)
【文献】特表2019-530128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/485
H01M 4/58
H01M 4/48
H01M 4/60
H01M 4/36
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムバッテリーのためのカソード活物質層であって、前記カソード活物質層は、ポリマーを含む結合剤によって一緒に結合される複数のカソード活物質粒子及び任意選択的な導電性添加剤を含み、前記ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤又はカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン若しくはそれらの組合せから選択される強化材ナノフィラメントの不在下で測定される場合において5%~700%の回復可能な引張歪み及び室温において10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率を有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項2】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークであって、前記ポリマー鎖の架橋ネットワーク中において、エーテル結合、ニトリル誘導結合、ベンゾペルオキシド誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合又はそれらの組合せを有するポリマー鎖の架橋ネットワークを含有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項3】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリトリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリトリトールトリアクリレート鎖、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖又はそれらの組合せから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項4】
請求項1に記載のカソード活物質層において、カソード活物質は、無機材料、有機材料、ポリマー材料又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項5】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記無機材料は、金属酸化物、金属リン酸塩、金属ケイ化物、金属セレン化物、遷移金属硫化物又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項6】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記無機材料は、酸化リチウムコバルト、酸化リチウムニッケル、酸化リチウムマンガン、酸化リチウムバナジウム、リチウム-混合金属酸化物、リン酸リチウム鉄、リン酸リチウムマンガン、リン酸リチウムバナジウム、リチウム混合金属リン酸塩、リチウム金属ケイ化物又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項7】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記無機材料は、CoF、MnF、FeF、VF、VOF、TiF、BiF、NiF、FeF、CuF、CuF、SnF、AgF、CuCl、FeCl、MnCl及びそれらの組合せからなる群を含む金属フッ化物又は金属塩化物から選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項8】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記無機材料は、LiMSiO又はLiMaMbSiOとして示されるリチウム遷移金属ケイ酸塩から選択され、式中、M及びMaは、Fe、Mn、Co、Ni、V又はVOから選択され、Mbは、Fe、Mn、Co、Ni、V、Ti、Al、B、Sn又はBiから選択され、及びx+y≦1であることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項9】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記無機材料は、遷移金属ジカルコゲン化物、遷移金属トリカルコゲン化物又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項10】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記無機材料は、TiS、TaS、MoS、NbSe、MnO、CoO、酸化鉄、酸化バナジウム又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項11】
請求項5に記載のカソード活物質層において、前記金属酸化物は、VO、LiVO、V、Li、V、Li、Li、V、Li、V13、Li13、これらの化合物のリチウムイオンでドープされた変種、これらの化合物の誘導体及びそれらの組合せ(式中、0.1<x<5である)からなる群から選択される酸化バナジウムを含有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項12】
請求項5に記載のカソード活物質層において、前記金属酸化物又は金属リン酸塩は、層状化合物LiMO、スピネル化合物LiM、カンラン石化合物LiMPO、ケイ酸塩化合物LiMSiO、タボライト化合物LiMPOF、ホウ酸塩化合物LiMBO又はそれらの組合せ(式中、Mは、遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である)から選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項13】
請求項5に記載のカソード活物質層において、前記無機材料は、(a)セレン化ビスマス若しくはテルル化ビスマス、(b)遷移金属ジカルコゲン化物若しくはトリカルコゲン化物、(c)ニオブ、ジルコニウム、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、チタン、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル若しくは遷移金属の硫化物、セレン化物若しくはテルル化物、(d)窒化ホウ素、又は(e)それらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項14】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記有機材料又はポリマー材料は、ポリ(硫化アントラキノニル)(PAQS)、リチウムオキソ炭素、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ポリ(硫化アントラキノニル)、ピレン-4,5,9,10-テトラオン(PYT)、ポリマー結合PYT、キノ(トリアゼン)、酸化還元活性有機材料、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、2,3,6,7,10,11-ヘキサメトキシトリフェニレン(HMTP)、ポリ(5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン)(PADAQ)、二硫化ホスファゼンポリマー([(NPS]n)、リチウム化1,4,5,8-ナフタレンテトラオールホルムアルデヒドポリマー、ヘキサアザトリナフチレン(HATN)、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT(CN))、5-ベンジリデンヒダントイン、イサチンリチウム塩、ピロメリット酸ジイミドリチウム塩、テトラヒドロキシ-p-ベンゾキノン誘導体(THQLi)、N,N’-ジフェニル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PHP)、N,N’-ジアリル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(AP)、N,N’-ジプロピル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PRP)、チオエーテルポリマー、キノン化合物、1,4-ベンゾキノン、5,7,12,14-ペンタセンテトロン(PT)、5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADDAQ)、5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADAQ)、カリックスキノン、Li、Li、Li又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項15】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記チオエーテルポリマーは、ポリ[メタンテトリル-テトラ(チオメチレン)](PMTTM)、ポリ(2,4-ジチオペンタニレン)(PDTP)、主鎖チオエーテルポリマーとしてポリ(エテン-1,1,2,2-テトラチオール)(PETT)を含有するポリマー、共役芳香族部分からなる主鎖を有し、且つペンダントとしてチオエーテル側鎖を有する側鎖チオエーテルポリマー、ポリ(2-フェニル-1,3-ジチオラン)(PPDT)、ポリ(1,4-ジ(1,3-ジチオラン-2-イル)ベンゼン)(PDDTB)、ポリ(テトラヒドロベンゾジチオフェン)(PTHBDT)、ポリ[1,2,4,5-テトラキス(プロピルチオ)ベンゼン](PTKPTB又はポリ[3,4(エチレンジチオ)チオフェン](PEDTT)から選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項16】
請求項4に記載のカソード活物質層において、前記有機材料は、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、スズフタロシアニン、鉄フタロシアニン、鉛フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、フルオロクロムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニン、マンガンフタロシアニン、ジリチウムフタロシアニン、アルミニウムフタロシアニンクロリド、カドミウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銀フタロシアニン、無金属フタロシアニン、これらの化合物の化学誘導体又はそれらの組合せから選択されるフタロシアニン化合物を含有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項17】
請求項1に記載のカソード活物質層において、カソード活物質は、0.5nm~100nmの厚さ又は直径を有するナノ粒子、ナノワイヤー、ナノ繊維、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、ナノディスク、ナノプレートレット又はナノホーンの形態であることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項18】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記カソード活物質粒子の1つ又は複数は、炭素又はグラフェンの層でコーティングされることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項19】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記導電性添加剤は、黒鉛、グラフェン若しくは炭素又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項20】
請求項19に記載のカソード活物質層において、前記黒鉛又は炭素材料は、ポリマー炭素、非晶質炭素、化学蒸着炭素、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、カーボンブラック、コークス、アセチレンブラック、活性炭、100nmより小さい寸法を有する微細膨張黒鉛粒子、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項21】
請求項17に記載のカソード活物質層において、前記ナノ粒子、ナノワイヤー、ナノ繊維、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、ナノディスク、ナノプレートレット又はナノホーンは、炭素材料、グラフェン、電子導電性ポリマー、導電性金属酸化物又は導電性金属コーティングから選択される導電性保護コーティングでコーティングされるか又はそれによって包含されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項22】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、10-4S/cm以上のリチウムイオン導電率を有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項23】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、10-3S/cm以上のリチウムイオン導電率を有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項24】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、添加剤又は充填剤がその中に分散されていないニートポリマーであることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項25】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、0.1重量%~50重量%の、前記ポリマー中に分散されたリチウムイオン伝導性添加剤を含有するか、又は0.1重量%~10重量%の、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン若しくはそれらの組合せから選択される強化材ナノフィラメントを含有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項26】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、天然ポリイソプレン、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ポリクロロプレン、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリアクリルゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、ペルフルオロエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性エラストマー、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-尿素コポリマー又はそれらの組合せから選択されるエラストマーとの混合物又は半相互貫入ネットワークを形成することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項27】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、リチウムイオン導電性添加剤と混合されて複合物を形成し、前記リチウムイオン導電性添加剤は、前記ポリマー中に分散され、且つLiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO又はそれらの組合せから選択され、式中、X=F、Cl、I又はBr、R=炭化水素基、0<x<1、1<y<4であることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項28】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、リチウムイオン導電性添加剤と混合されて複合物を形成し、前記リチウムイオン導電性添加剤は、前記ポリマー中に分散され、且つ過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸塩(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン性液体ベースのリチウム塩又はそれらの組合せから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項29】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらの化合物のスルホン化誘導体又はそれらの組合せから選択される電子導電性ポリマーと混合されて、ブレンド、コポリマー又は半相互貫入ネットワークを形成することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項30】
請求項1に記載のカソード活物質層において、前記ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)、それらのスルホン化誘導体又はそれらの組合せから選択されるリチウムイオン導電性ポリマーとの混合物又はブレンドを形成することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項31】
リチウムバッテリーのためのカソード活物質層であって、前記カソード活物質層は、ポリマーの薄層によって被覆及び保護される集積カソード層を形成するために結合剤によって一緒に結合される複数のカソード活物質粒子及び任意選択的な導電性添加剤を含み、前記ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤又はカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン若しくはそれらの組合せから選択される強化材ナノフィラメントの不在下で測定される場合において5%以上の回復可能な引張歪み及び室温において10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率を有し、前記薄層は、1nm~10μmの厚さを有することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項32】
リチウムバッテリーにおいて、任意選択的なアノード集電体と、アノード活物質層と、請求項1に記載のカソード活物質層と、任意選択的なカソード集電体と、前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層とイオン接触する電解質と、任意選択的な多孔性セパレーターとを含有することを特徴とするリチウムバッテリー。
【請求項33】
請求項32に記載のリチウムバッテリーにおいて、リチウムイオンバッテリー、リチウム金属バッテリー、リチウム-硫黄バッテリー、リチウム-セレンバッテリー又はリチウム空気バッテリーであることを特徴とするリチウムバッテリー。
【請求項34】
リチウムバッテリーにおいて、任意選択的なアノード集電体と、アノード活物質層と、請求項31に記載のカソード活物質層と、任意選択的なカソード集電体と、前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層とイオン接触する電解質と、任意選択的な多孔性セパレーターとを含有することを特徴とするリチウムバッテリー。
【請求項35】
請求項34に記載のリチウムバッテリーにおいて、リチウムイオンバッテリー、リチウム金属バッテリー、リチウム-硫黄バッテリー、リチウム-セレンバッテリー又はリチウム空気バッテリーであることを特徴とするリチウムバッテリー。
【請求項36】
リチウムバッテリーを製造する方法において、
(a)カソード活物質層及び前記カソード活物質層を支持するための任意選択的なカソード集電体を提供することと、
(b)アノード活物質層及び前記アノード活物質層を支持するための任意選択的なアノード集電体を提供することと、
(c)前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層と接触する電解質並びにアノード及びカソードを電気的に分離する任意選択的な多孔性セパレーターを提供することと
を含み、
前記カソード活物質層を提供する作業は、リチウムイオン伝導性添加剤又はカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン若しくはそれらの組合せから選択される強化材ナノフィラメントの不在下で測定される場合において5%~700%の回復可能な引張歪み及び室温において10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率を有するポリマーを含有する結合剤樹脂により、カソード活物質の複数の粒子及び任意選択的な導電性添加剤を一緒に結合して前記カソード活物質層を形成することを含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
リチウムイオンバッテリー、リチウム金属バッテリー、リチウム-セレンバッテリー又はリチウム-空気バッテリーから選択されるリチウムバッテリーを製造する方法において、
(a)カソード活物質層及び前記カソード活物質層を支持するための任意選択的なカソード集電体を提供することと、
(b)アノード活物質層及び前記アノード活物質層を支持するための任意選択的なアノード集電体を提供することと、
(c)前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層と接触する電解質並びにアノード及びカソードを電気的に分離する任意選択的な多孔性セパレーターを提供することと
を含み、
前記カソード活物質層を提供する作業は、結合剤樹脂により、カソード活物質の複数の粒子及び任意選択的な導電性添加剤を一緒に結合して前記カソード活物質層を形成することと、前記カソード活物質層を被覆及び保護するためにポリマーの薄膜を適用することとを含み、前記ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤又はカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン若しくはそれらの組合せから選択される強化材ナノフィラメントの不在下で測定される場合において5%~700%の回復可能な又は弾性引張歪み及び室温において10-5S/cm以上のリチウムイオン伝導率を有し、及び前記薄膜は、1nm~10μmの厚さを有することを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法において、前記ポリマーの薄膜は、前記カソード活物質層と前記多孔性セパレーターとの間で実施されることを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項36に記載の方法において、前記ポリマーは、1×10-5S/cm~2×10-2S/cmのリチウムイオン導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項40】
請求項36に記載の方法において、前記ポリマーは、30%~300%の回復可能な引張歪みを有することを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項37に記載の方法において、前記ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークであって、前記ポリマー鎖の架橋ネットワーク中において、エーテル結合、ニトリル誘導結合、ベンゾペルオキシド誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合又はそれらの組合せを有するポリマー鎖の架橋ネットワークを含有することを特徴とする方法。
【請求項42】
請求項37に記載の方法において、前記ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリトリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリトリトールトリアクリレート鎖、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖又はそれらの組合せから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含有することを特徴とする方法。
【請求項43】
請求項37に記載の方法において、前記ポリマーは、エラストマー、電子導電性ポリマー、リチウムイオン導電性材料、強化材料又はそれらの組合せとの混合物を形成することを特徴とする方法。
【請求項44】
請求項43に記載の方法において、前記リチウムイオン導電性材料は、前記ポリマー中に分散され、且つLiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO又はそれらの組合せから選択され、式中、X=F、Cl、I又はBr、R=炭化水素基、0<x<1、1<y<4であることを特徴とする方法。
【請求項45】
請求項43に記載の方法において、前記リチウムイオン導電性材料は、前記ポリマー中に分散され、且つ過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸塩(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン性液体ベースのリチウム塩又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項46】
請求項36に記載の方法において、前記カソード活物質は、無機材料、有機材料、ポリマー材料又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項47】
請求項36に記載の方法において、前記カソード活物質粒子の1つ又は複数は、炭素又はグラフェンの層でコーティングされることを特徴とする方法。
【請求項48】
請求項36に記載の方法において、前記カソード活物質粒子の1つ又は複数は、炭素、グラフェン又は黒鉛材料と混合されて混合物を形成し、及び前記混合物は、前記ポリマー結合剤によって結合されることを特徴とする方法。
【請求項49】
請求項36に記載の方法において、前記カソード活物質粒子の1つ又は複数は、炭素材料、黒鉛材料及び/又はグラフェンシートと混合されて、外部グラフェンシートによって包含される混合物を形成してグラフェン包含カソード活物質粒子を形成し、前記グラフェン包含カソード活物質粒子は、次いで、前記結合剤樹脂によって結合されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月27日に出願された米国特許出願公開第15/442,803号明細書(その内容を参照によって本明細書に組み入れる)に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、概して、再充電可能なリチウムバッテリー、より特にリチウムバッテリーカソード及びセル並びにそれを製造する方法の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオンバッテリーの単位セル又は構成ブロックは典型的に、アノード集電体、アノード又は陰極層(リチウムをその中に貯蔵するのに関与するアノード活物質、導電性添加剤及び樹脂結合剤を含有する)、電解質及び多孔性セパレーター、カソード又は陽極層(リチウムをその中に貯蔵するのに関与するカソード活物質、導電性添加剤及び樹脂結合剤を含有する)並びに別個のカソード集電体から構成される。電解質は、アノード活物質及びカソード活物質の両方とイオン接触している。電解質がソリッドステート電解質である場合、多孔性セパレーターは必要とされない。
【0004】
アノード層中の結合剤を使用して、アノード活物質(例えば、黒鉛又はSi粒子)と導電性充填剤(例えば、カーボンブラック粒子又はカーボンナノチューブ)とを一緒に結合して構造統合性のアノード層を形成すると共にアノード層を別個のアノード集電体に結合し、それは、バッテリーが放電されるときにアノード活物質から電子を集めるように作用する。換言すれば、バッテリーの陰極(アノード)側において、典型的に4つの異なった材料:アノード活物質、導電性添加剤、樹脂結合剤(例えば、ポリフッ化ビニリデン、PVDF又はブタジエンスチレンゴム、SBR)及びアノード集電体(典型的にCu箔のシート)が必要とされる。典型的に前者の3つの材料は、別個の、離散アノード活物質層(又は単にアノード層)を形成し、後者の1つの材料は別の離散層(集電体層)を形成する。
【0005】
カソード活物質及び導電性添加剤粒子を一緒に結合させて構造完全性のカソード活性層を形成するために、カソード中に結合剤樹脂(例えば、PVDF又はPTFE)も使用される。同樹脂結合剤は、このカソード活性層をカソード集電体(例えば、Al箔)に結合させるためにも作用する。
【0006】
歴史的に、リチウムイオンバッテリーは、アノードとしてリチウム(Li)金属及びカソードとしてLi層間化合物(例えば、MoS)を使用する再充電可能な「リチウム金属バッテリー」から実際に発展した。Li金属は、その軽量(最軽量金属)、高い電気陰性度(-3.04V対標準水素電極)及び高い理論的容量(3,860mAh/g)のため、理想的なアノード材料である。これらの秀逸な特性に基づき、リチウム金属バッテリーは、高エネルギー密度応用のための理想的なシステムとして40年前に提案された。
【0007】
純粋なリチウム金属のいくつかの安全性での問題点(例えば、リチウム樹枝状結晶形成及び内部ショート)のため、現在、リチウムイオンバッテリーを製造するためにリチウム金属の代わりにアノード活物質として黒鉛が導入されている。これまでの20年間、エネルギー密度、レート能力及び安全性に関してLiイオンバッテリーにおいて絶え間ない改良が見られている。しかしながら、Liイオンバッテリーでの黒鉛ベースのアノードの使用には、いくつかの重要な欠点がある:低い比容量(Li金属に関する3,860mAh/gと対照的な372mAh/gの理論的容量)、長い再充電時間(例えば、電気自動車バッテリーに関して7時間)を必要とする長いLiインターカレーション時間(例えば、黒鉛及び無機酸化物粒子内及び外のLiの低いソリッドステート拡散係数)、高いパルス電力(電力密度<<1kW/kg)をもたらすことが不可能であること、並びにプレリチウム化カソード(例えば、酸化コバルトに対してリチウム酸化コバルト)を使用することが必要であること。それにより、利用可能なカソード材料の選択が制限される。
【0008】
さらに、これらの一般に使用されるカソード活物質は、比較的低い比容量を有する(典型的に<220mAh/g)。これらの要因は、現在のLiイオンバッテリーの2つの主要な欠点、低エネルギー密度(典型的に150~220Wh/kgセル)及び低い電力密度(典型的に<0.5kW/kg)の要因になっている。加えて、リチウム金属アノードが層間化合物(例えば、黒鉛)によって置き換えられ、したがってリチウムイオンバッテリーにおけるリチウム樹枝状結晶問題がわずかであるか又はないとしても、バッテリーの安全性の問題は消失しない。リチウムイオンバッテリーの発火又は爆発を伴う事象が生じないわけではない。
【0009】
要約すると、バッテリー分野の科学者は、30年間以上、リチウムイオンセルの低エネルギー密度及び燃焼性に失望している。Liイオンバッテリーにおいて一般に使用される現在のカソード活物質には、次の重大な欠点がある:
(1)これらの一般に使用されるカソード内及び外のリチウムの挿入及び抜き取りは、非常に低い拡散係数(典型的に10-14~10-8cm/秒)を有する固体粒子中のLiの極めて遅いソリッドステート拡散に依存し、非常に低い電力密度(現在のリチウムイオンバッテリーの別の長く存続する問題)を導く。
(2)現在のカソード活物質は、電気的及び熱的に絶縁性であり、効果的且つ効率的に電子及び熱を輸送することが不可能である。低い電気伝導率は、高い内部抵抗及び大量の導電性添加剤を添加する必要性を意味し、それにより、すでに低い容量を有するカソードにおける電気化学的に活性な材料の割合が効果的に減少する。低い熱伝導性は、リチウムバッテリー産業における主要な安全性の問題である熱暴走を経験する傾向がより高いことを暗示する。
(3)リチウム遷移金属酸化物を含む最も一般に使用されるカソード活物質は、バッテリー内部での望ましくない化学反応(例えば、電解質の分解)を促進する可能性のある強力な触媒である遷移金属(例えば、Fe、Mn、Co、Niなど)を含有する。これらのカソード活物質は、熱暴走の進行を補助し、爆発の危険又は火炎危険を増加させる電解質酸化のための酸素を供給する可能性のある高い酸素含有量も有する。これは、電気自動車の広範囲にわたる実行を妨げる重大な問題である。
(4)現在のカソード材料(例えば、リン酸リチウム鉄及びリチウム遷移金属酸化物)によって達成可能な実際的な容量は、150~250mAh/gの範囲に制限され、多くの場合、200mAh/g未満である。加えて、新出現の高容量カソード活物質(例えば、FeF)は、依然として長いバッテリーサイクル寿命をもたらすことができない。
【0010】
金属フッ化物又は金属塩化物などの高容量カソード活物質は、リチウムバッテリーの放電及び充電中に大きい体積膨張及び収縮を受ける。これらには、CoF、MnF、FeF、VF、VOF、TiF、BiF、NiF、FeF、CuF、CuF、SnF、AgF、CuCl、FeCl、MnClなどが含まれる。高容量カソード活物質には、M及びMaがFe、Mn、Co、Ni、V又はVOから選択され、MbがFe、Mn、Co、Ni、V、Ti、Al、B、Sn又はBiから選択され、及びx+y≦1であるリチウム遷移金属ケイ酸塩、LiMSiO又はLiMaMbSiOも含まれる。残念ながら、リチウムバッテリーの最新技術結合剤樹脂は、粒子から剥離又は脱湿潤することなく、活物質粒子と合同的に変形することが不可能である。おそらく、エラストマーとしてのSBR(スチレン-ブタジエンゴム)は、大きい弾性変形を受け得るが、それらが膨張及び収縮するとき、SBRは、活物質粒子を保持することが可能であることは知られていない。これは、活物質粒子に適切に結合することが不可能であることによる可能性が高い。活物質層の作成前に何れかの重合又は架橋反応がすでに完了しており、活物質粒子と化学的に結合したままの化学的に活性な官能基又は鎖は、もはや存在しなかった。
【発明の概要】
【0011】
リチウム二次バッテリーが長いサイクル寿命を示すことができるようにする新規の保護又は結合剤材料の緊急且つ継続的な必要性が存在する。また、このような材料を大量に直ちに且つ容易に製造する方法も必要とされている。このように、これらの必要を満たして、リチウムバッテリーの急速な容量減衰に伴う問題に対処することが本発明の主な目的である。
【0012】
本明細書では、結合剤樹脂の非常にユニークな分類を含有するリチウムバッテリーのためのカソード活物質層が報告される。この結合剤樹脂は、再充電可能リチウムバッテリーに一般的に伴う急速な容量減衰問題を克服することができる高弾性ポリマーを含有する。
【0013】
特に、本発明は、リチウムバッテリーのためのカソード活物質層を提供する。この層は、構造完全性のカソード活性層を形成するように結合剤樹脂によって一緒に結合される複数のカソード活物質粒子及び任意選択的な導電性添加剤(例えば、カーボンブラック、アセチレンブラックの粒子、膨張黒鉛フレーク、カーボンナノチューブ、グラフェンシート、カーボンナノ繊維など)を含む。この結合剤樹脂は、高弾性ポリマーであって、ポリマー中に添加剤又は強化材の不在下で測定される場合、5%以上(典型的には5%~700%)の回復可能な引張歪み(弾性歪み)及び室温において10-5S/cm以上のリチウムイオン導電率を有する高弾性ポリマーを含む。ポリマー中に添加剤又は強化材の存在下で測定される場合、結果として生じる複合物の引張弾性変形は、2%より高いままでなければならない。
【0014】
高弾性ポリマーは、一方向引張下でポリマー中に添加剤又は強化材の不在下で測定される場合、5%以上(典型的に5~700%、より典型的に10~500%、さらにより典型的且つ望ましくは>30%、最も望ましくは>100%)の回復可能な引張歪みを有する。このポリマーは、室温において10-5S/cm以上(好ましくは且つより典型的に10-4S/cm以上、より好ましくは且つ典型的に10-3S/cm以上)のリチウムイオン導電率も有する。
【0015】
高弾性ポリマーは、一方向引張下で測定される場合、少なくとも2%(好ましくは少なくとも5%)である弾性変形を示すポリマーであって、典型的に軽度に架橋したポリマーを意味する。材料科学及び工学の分野において、「弾性変形」とは、負荷の解放時に本質的に完全に回復可能であり、且つ回復プロセスが本質的に瞬間的である(機械的に応力を受けた場合の)材料の変形として定義される。弾性変形は、より好ましくは、10%より高く、さらにより好ましくは30%より高く、さらにより好ましくは50%より高く、なおより好ましくは100%より高く、最も好ましくは200%より高い。
【0016】
いくつかの好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークであって、ポリマー鎖の架橋ネットワーク中において、エーテル結合、ニトリル誘導結合、ベンゾペルオキシド誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合又はそれらの組合せを有するポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークを含有する。これらのネットワーク又は架橋ポリマーは、高弾性(高い弾性変形歪み)及び高いリチウムイオン導電率のユニークな組合せを示す。
【0017】
特定の好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリトリトールテトラアクリレート(PETEA)鎖、ペンタエリトリトールトリアクリレート鎖、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖又はそれらの組合せから選択されるポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークを含有する。
【0018】
カソード活物質層は、無機材料、有機材料、ポリマー材料又はそれらの組合せから選択されるカソード活物質を含有する。無機材料は、金属酸化物、金属リン酸塩、金属ケイ化物、金属セレン化物、遷移金属硫化物又はそれらの組合せから選択され得る。
【0019】
無機材料は、酸化リチウムコバルト、酸化リチウムニッケル、酸化リチウムマンガン、酸化リチウムバナジウム、リチウム-混合金属酸化物、リン酸リチウム鉄、リン酸リチウムマンガン、リン酸リチウムバナジウム、リチウム混合金属リン酸塩、リチウム金属ケイ化物又はそれらの組合せから選択され得る。
【0020】
特定の好ましい実施形態において、無機材料は、CoF、MnF、FeF、VF、VOF、TiF、BiF、NiF、FeF、CuF、CuF、SnF、AgF、CuCl、FeCl、MnCl及びそれらの組合せからなる群を含む金属フッ化物又は金属塩化物から選択される。特定の好ましい実施形態において、無機材料は、LiMSiO又はLiMaMbSiOとして示されるリチウム遷移金属ケイ酸塩から選択され、式中、M及びMaは、Fe、Mn、Co、Ni、V又はVOから選択され、Mbは、Fe、Mn、Co、Ni、V、Ti、Al、B、Sn又はBiから選択され、及びx+y≦1である。
【0021】
特定の好ましい実施形態において、無機材料は、遷移金属ジカルコゲン化物、遷移金属トリカルコゲン化物又はそれらの組合せから選択される。無機材料は、TiS、TaS、MoS、NbSe、MnO、CoO、酸化鉄、酸化バナジウム又はそれらの組合せから選択される。
【0022】
カソード活物質層は、VO、LiVO、V、Li、V、Li、Li、V、Li、V13、Li13、そのドープされた変種、その誘導体及びそれらの組合せ(式中、0.1<x<5である)からなる群から選択される酸化バナジウムを含有する金属酸化物を含有し得る。
【0023】
カソード活物質層は、層状化合物LiMO、スピネル化合物LiM、カンラン石(olivine)化合物LiMPO、ケイ酸塩化合物LiMSiO、タボライト(Tavorite)化合物LiMPOF、ホウ酸塩化合物LiMBO又はそれらの組合せ(式中、Mは、遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である)から選択される金属酸化物又は金属リン酸塩を含有し得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、無機材料は、(a)セレン化ビスマス若しくはテルル化ビスマス、(b)遷移金属ジカルコゲン化物若しくはトリカルコゲン化物、(c)ニオブ、ジルコニウム、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、チタン、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル若しくは遷移金属の硫化物、セレン化物若しくはテルル化物、(d)窒化ホウ素、又は(e)それらの組合せから選択される。
【0025】
カソード活物質層は、ポリ(硫化アントラキノニル)(PAQS)、リチウムオキソ炭素、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ポリ(硫化アントラキノニル)、ピレン-4,5,9,10-テトラオン(PYT)、ポリマー結合PYT、キノ(トリアゼン)、酸化還元活性有機材料、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、2,3,6,7,10,11-ヘキサメトキシトリフェニレン(HMTP)、ポリ(5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン)(PADAQ)、二硫化ホスファゼンポリマー([(NPS]n)、リチウム化1,4,5,8-ナフタレンテトラオールホルムアルデヒドポリマー、ヘキサアザトリナフチレン(HATN)、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT(CN))、5-ベンジリデンヒダントイン、イサチンリチウム塩、ピロメリット酸ジイミドリチウム塩、テトラヒドロキシ-p-ベンゾキノン誘導体(THQLi)、N,N’-ジフェニル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PHP)、N,N’-ジアリル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(AP)、N,N’-ジプロピル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PRP)、チオエーテルポリマー、キノン化合物、1,4-ベンゾキノン、5,7,12,14-ペンタセンテトロン(PT)、5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADDAQ)、5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADAQ)、カリックスキノン、Li、LiC6O、Li又はそれらの組合せから選択される有機材料又はポリマー材料を含有し得る。
【0026】
チオエーテルポリマーは、ポリ[メタンテトリル-テトラ(チオメチレン)](PMTTM)、ポリ(2,4-ジチオペンタニレン)(PDTP)、主鎖チオエーテルポリマーとしてポリ(エテン-1,1,2,2-テトラチオール)(PETT)を含有するポリマー、共役芳香族部分からなる主鎖を有し、且つペンダントとしてチオエーテル側鎖を有する側鎖チオエーテルポリマー、ポリ(2-フェニル-1,3-ジチオラン)(PPDT)、ポリ(1,4-ジ(1,3-ジチオラン-2-イル)ベンゼン)(PDDTB)、ポリ(テトラヒドロベンゾジチオフェン)(PTHBDT)、ポリ[1,2,4,5-テトラキス(プロピルチオ)ベンゼン](PTKPTB又はポリ[3,4(エチレンジチオ)チオフェン](PEDTT)から選択される。
【0027】
他の実施形態において、カソード活物質層は、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、スズフタロシアニン、鉄フタロシアニン、鉛フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、フルオロクロムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニン、マンガンフタロシアニン、ジリチウムフタロシアニン、アルミニウムフタロシアニンクロリド、カドミウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銀フタロシアニン、無金属フタロシアニン、その化学誘導体又はそれらの組合せなどのフタロシアニン化合物から選択される有機材料を含有する。
【0028】
カソード活物質は、好ましくは、100nmより小さい厚さ又は直径を有するナノ粒子(球形、楕円及び不規則な形状)、ナノワイヤー、ナノ繊維、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、ナノディスク、ナノプレートレット又はナノホーンの形態である。これらの形状は、特に断りがない限り又は上記の種の特定のタイプが望ましいのでなければ一括して「粒子」と称することができる。さらに好ましくは、カソード活物質は、50nmより小さい、さらにより好ましくは20nmより小さい、最も好ましくは10nmより小さい寸法を有する。
【0029】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーベースの結合剤樹脂によって複数の粒子を結合させる。樹脂結合剤によって結合させる前にカソード活物質粒子を包含するために炭素層を堆積させ得る。
【0030】
カソード活物質層は、アノード活物質層内で活物質粒子と混合された黒鉛又は炭素材料をさらに含有し得る。炭素、グラフェン又は黒鉛材料は、ポリマー炭素、非晶質炭素、化学蒸着炭素、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、カーボンブラック、コークス、アセチレンブラック、活性炭、100nmより小さい寸法を有する微細膨張黒鉛粒子、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子又はそれらの組合せから選択され得る。グラフェンは、純粋(pristine)グラフェン、グラフェンオキシド、還元グラフェンオキシド、グラフェンフルオリド、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、官能化グラフェンなどから選択され得る。
【0031】
カソード活物質粒子は、炭素材料、グラフェン、電子導電性ポリマー、導電性金属酸化物又は導電性金属コーティングから選択される導電性保護コーティングでコーティングされるか又は囲まれ得る。好ましくは、ナノ粒子、ナノワイヤー、ナノ繊維、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、ナノディスク、ナノプレートレット又はナノホーンの形態のカソード活物質がリチウムイオンでプレインターカレートされるか又はプレドープされて、前記プレリチウム化アノード活物質の0.1重量%~54.7重量%のリチウムの量を有するプレリチウム化アノード活物質を形成する。
【0032】
好ましくは且つ典型的に、高弾性ポリマーは、10-5S/cm以上、より好ましくは10-4S/cm以上、最も好ましくは10-3S/cm以上のリチウムイオン導電率を有する。選択されたポリマーのいくつかは、10-2S/cmより高い(5×10-2S/cmまでの)リチウムイオン導電率を示す。いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、その中に分散された添加剤又は充填剤を含有しないニートポリマーである。他において、高弾性ポリマーは、0.1重量%~50重量%(好ましくは1重量%~35重量%)の、高弾性ポリマー母材材料中に分散されたリチウムイオン導電性添加剤を含有するポリマー母材複合物である。いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、0.1重量%~10重量%の、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン又はそれらの組合せから選択される強化材ナノフィラメントを含有する。
【0033】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、(ブレンド、コポリマー又は半相互貫入ネットワークを形成するために)天然ポリイソプレン(例えば、シス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴムのためのIR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴムのためのBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えば、ネオプレン、Baypren等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)など、ブチルゴム(イソブチレンとイソプレンとのコポリマー、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレンとブタジエンとのコポリマー、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエンとアクリロニトリルとのコポリマー、NBR)、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレンとプロピレンとのコポリマー)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン、プロピレン及びジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、フルオロエラストマー(FKM及びFEPM;例えばViton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas及びDai-El)、ペルフルオロエラストマー(FFKM:Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlast)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM;例えばハイパロン)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-尿素コポリマー及びそれらの組合せから選択されるエラストマーと混合される。
【0034】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、高弾性ポリマー母材材料中に分散されたリチウムイオン導電性添加剤を含有する複合物であり、リチウムイオン導電性添加剤は、LiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO又はそれらの組合せから選択され、式中、X=F、Cl、I又はBr、R=炭化水素基、0<x<1、1<y<4である。
【0035】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、高弾性ポリマー母材材料中に分散されたリチウムイオン導電性添加剤を含有する複合物であり、リチウムイオン導電性添加剤は、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸塩(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン性液体ベースのリチウム塩又はそれらの組合せから選択されるリチウム塩を含有する。
【0036】
高弾性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、それらの誘導体(例えば、スルホン化変種)又はそれらの組合せから選択される電子導電性ポリマーとの混合物、ブレンド、コポリマー又は半相互貫入ネットワークを形成し得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス(phosphazenex)、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)、それらのスルホン化誘導体又はそれらの組合せから選択されるリチウムイオン導電性ポリマーとの混合物、ブレンド又は半IPNを形成し得る。スルホン化は、ここで、改良されたリチウムイオン導電率をポリマーに与えることが見出されている。
【0038】
また、本発明は、任意選択のアノード集電体と、アノード活物質層と、上に記載されたような本発明のカソード活物質層と、任意選択のカソード集電体と、アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する電解質と、任意選択の多孔性セパレーターとを含有するリチウムバッテリーを提供する。リチウムバッテリーは、リチウムイオンバッテリー、リチウム金属バッテリー(主なアノード活物質としてリチウム金属又はリチウム合金を含有し、インターカレーションをベースとするアノード活物質を含有しない)、リチウム-硫黄バッテリー、リチウム-セレンバッテリー又はリチウム空気バッテリーであり得る。
【0039】
本発明は、リチウムバッテリーを製造する方法も提供する。本方法は、(a)カソード活物質層及びカソード活物質層を支持するための任意選択的なカソード集電体を提供することと、(b)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持するための任意選択的なアノード集電体を提供することと、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層と接触する電解質並びにアノード及びカソードを電気的に分離する任意選択的なセパレーターを提供することとを含み、カソード活物質層を提供する作業は、2%~700%(好ましくは添加剤又は強化材の不在下で測定される場合に>5%)の回復可能な引張歪み及び室温において10-5S/cm以上のリチウムイオン導電率を有する高弾性ポリマーを含有する結合剤樹脂により、カソード活物質の複数の粒子及び任意選択的な導電性添加剤を一緒に結合して層を形成することを含む。
【0040】
好ましくは、高弾性ポリマーは、1×10-5S/cm~2×10-2S/cmのリチウムイオン導電率を有する。いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、10%~300%(より好ましくは>30%、さらにより好ましくは>50%)の回復可能な引張歪みを有する。
【0041】
特定の好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワークであって、ポリマー鎖の架橋ネットワーク中において、エーテル結合、ニトリル誘導結合、ベンゾペルオキシド誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合又はそれらの組合せを有するポリマー鎖の架橋ネットワークを含有する。好ましくは、本方法において、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリトリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリトリトールトリアクリレート鎖、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖又はそれらの組合せから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含有する。
【0042】
特定の実施形態において、結合剤樹脂は、エラストマー、電子導電性ポリマー(例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、そのスルホン化誘導体又はそれらの組合せ)、リチウムイオン導電性材料、強化材(例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維及び/若しくはグラフェン)又はそれらの組合せとの高弾性ポリマーの混合物/ブレンド/複合物を含有する。
【0043】
この混合物/ブレンド/複合物において、リチウムイオン導電性材料は、高弾性ポリマー中に分散され、且つ好ましくはLiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO又はそれらの組合せから選択され、式中、X=F、Cl、I又はBr、R=炭化水素基、0<x<1、1<y<4である。
【0044】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン導電性材料は、高弾性ポリマー中に分散され、且つ過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸塩(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン性液体ベースのリチウム塩又はそれらの組合せから選択される。
【0045】
好ましくは、カソード活物質粒子は、高弾性ポリマーによって結合される前に炭素又はグラフェンの層でコーティングされる。好ましくは、カソード活物質粒子及び炭素又は黒鉛材料の粒子は、高弾性ポリマーによって一緒に結合される。好ましくは、カソード活物質粒子は、可能な場合、炭素又は黒鉛材料と、且つ/又はいくつかの内部グラフェンシートと一緒にグラフェンシートによって包含されてカソード活物質粒状物を形成し、次いで高弾性ポリマーによって結合される。グラフェンシートは、清純グラフェン(例えば、CVD又は直接超音波を使用する液相剥離によって調製される)、グラフェンオキシド、還元グラフェンオキシド(RGO)、グラフェンフルオリド、ドープドグラフェン、官能化グラフェンなどから選択され得る。
【0046】
本発明は、(リチウムイオンバッテリー、リチウム金属バッテリー、リチウム-セレンバッテリー又はリチウム-空気バッテリーから選択されるが、リチウム-硫黄バッテリーを含まない)リチウムバッテリーを製造する別の方法も提供する。本方法は、(a)カソード活物質層及びカソード活物質層を支持するための任意選択的なカソード集電体を提供することと、(b)アノード活物質層及びアノード活物質層を支持するための任意選択的なアノード集電体を提供することと、(c)アノード活物質層及びカソード活物質層と接触する電解質並びにアノード及びカソードを電気的に分離する多孔性セパレーターを提供することとを含み、カソード活物質層を提供する作業は、結合剤樹脂により、カソード活物質の複数の粒子及び任意選択的な導電性添加剤を一緒に結合してカソード活物質層を形成することと、カソード活物質層を被覆及び保護するために高弾性ポリマーの薄膜を適用することとを含み、高弾性ポリマーは、添加剤又は強化材の不在下で測定される場合、5%~700%の回復可能な又は弾性引張歪み及び室温において10-5S/cm以上のリチウムイオン導電率を有し、及び薄膜は、1nm~10μmの厚さを有する。
【0047】
この高弾性ポリマーの薄膜は、カソード活物質層及び多孔性セパレーター間に導入される。この層は、カソード活物質との直接接触から液体電解質を分離することが可能であり、したがってカソード活物質中の触媒元素(例えば、Fe、Mn、Ni、Coなど)が電解質の分解を促進することを防ぐことが可能であると思われる。これは、さもなければ急速な容量減衰並びに火災及び爆発の危険を引き起こす可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A図1(A)は、アノード層がアノード活物質(Li又はリチウム化Si)の薄いコーティングであり、且つカソードがカソード活物質の粒子、導電性添加剤(図示されず)及び樹脂結合剤(図示されず)から構成される、従来技術のリチウムイオンバッテリーセルの概略図である。
図1B図1(B)は、別の先行技術のリチウムイオンバッテリーの概略図である。アノード層は、アノード活物質の粒子、導電性添加剤(図示せず)及び樹脂結合剤(図示せず)から構成される。
図2図2は、従来技術のリチウムイオンバッテリーの放電/充電中のリチウムの挿入及び脱挿入時、電極活物質粒子の膨張/収縮が、粒子からの樹脂結合剤の剥離、導電性添加剤によって形成される導電路の遮断及び集電体との接触の低下をもたらし得るという考えを概略的に説明する。
図3A図3(A)は、4つのBPO開始架橋ETPTAポリマーの代表的な引張応力-歪み曲線である。
図3B図3(B)は、PVDF結合V粒子を含有するカソード、PVDF結合グラフェン包含V粒子を含有するカソード、ETPTAポリマー結合V粒子を含有するカソード及びETPTAポリマー結合グラフェン包含V粒子を含有するカソードの4つのリチウムセルの比インターカレーション容量曲線である。
図4A図4(A)は、4つのPF5開始架橋PVA-CNポリマーの代表的な引張応力-歪み曲線である。
図4B図4(B)は、それぞれ(1)高弾性PVA-CNポリマー結合剤結合LiFePO粒子、及び(2)PVDF結合LiFePO粒子を特徴とするカソード活物質を有する2つのリチウムバッテリーセルの比容量値である。
図5A図5(A)は、3つの架橋PETEAポリマーの代表的な引張応力-歪み曲線である。
図5B図5(B)は、3つの異なるタイプのカソード活性層:(1)高弾性PETEAポリマー結合剤結合フッ化物粒子;(2)PVDF結合剤結合フッ化物粒子;及び(3)SBRゴム結合炭素フッ化物粒子を有する3つのコインセルの放電容量曲線である。
図6図6は、それぞれアノード活物質としてLi及びカソード活物質としてFePc/RGOを有する2つのリチウム-FePc(有機)セルの比容量である。セルの1つは、架橋ETPTA/EGMEAポリマーの薄膜によって保護されたカソード活性層を有する。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、非水電解質、ポリマーゲル電解質、イオン性液体電解質、疑似固体電解質又はソリッドステート電解質に基づいた二次バッテリーであるのが好ましい、リチウム二次バッテリーのための高容量アノード材料を含有するアノード活物質層(アノード集電体を含めない、陰極層)を目的としている。リチウム二次バッテリーの形状は、円筒形、四角形、ボタン状等々であり得る。本発明は、任意のバッテリー形状又は形態また任意のタイプの電解質に限定されない。便宜上、本発明者らは、第一に、高容量アノード活物質の例示的な実施例としてSi、Sn及びSnOを使用する。これは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【0050】
図1(B)において説明されるように、リチウムイオンバッテリーセルは典型的に、アノード集電体(例えば、Cu箔)、アノード又は陰極活物質層(すなわち典型的にアノード活物質の粒子と、導電性添加剤と、結合剤とを含有するアノード層)、多孔性セパレーター及び/又は電解質成分、カソード又は陽極活物質層(カソード活物質と、導電性添加剤と、樹脂結合剤とを含有する)及びカソード集電体(例えば、Al箔)から構成される。より具体的には、アノード層は、アノード活物質(例えば、黒鉛、Sn、SnO又はSi)の粒子、導電性添加剤(例えば、カーボンブラック粒子)及び樹脂結合剤(例えば、SBR又はPVDF)から構成される。このアノード層は、単位電極面積当たり十分な量の電流を生じるために典型的に厚さ50~300μm(より典型的に100~200μm)である。同様に、カソード層は、カソード活物質(例えば、LiCoO、LiMnO、LiFePOなど)の粒子、導電性添加剤(例えば、カーボンブラック粒子)及び樹脂結合剤(例えば、PVDF又はPTFE)から構成されている。このカソード層は、典型的に、厚さ100~300μmである。
【0051】
図1(A)において説明されるように、それほど一般的に使用されないセル形態において、アノード活物質は、銅箔のシート上に堆積されたSiコーティングの層など、薄膜の形態でアノード集電体上に直接に堆積される。Liコーティングの層又はLi箔がアノード活物質として使用される場合、バッテリーは、リチウム金属バッテリー、リチウム硫黄バッテリー、リチウム-空気バッテリー、リチウム-セレンバッテリーなどである。
【0052】
より高いエネルギー密度のセルを得るために、図1(B)のアノードは、LiA(Aは、Al及びSiなどの金属又は半導体元素であり、「a」は0<a≦5を満たす)の組成式を有するより高容量のアノード活物質を含有するように設計され得る。これらの材料、例えばLiSi(3,829mAh/g)、Li4.4Si(4,200mAh/g)、Li4.4Ge(1,623mAh/g)、Li4.4Sn(993mAh/g)、LiCd(715mAh/g)、LiSb(660mAh/g)、Li4.4Pb(569mAh/g)、LiZn(410mAh/g)及びLiBi(385mAh/g)は、それらの高い理論容量のために非常に重要である。
【0053】
図2に概略的に説明されるように、現在のリチウムバッテリーの1つの重大な問題は、リチウムイオンが活物質粒子中に挿入されるか又は抜き取られるときの充電及び放電サイクル中の活物質粒子の体積膨張/収縮のため、結合剤樹脂が活物質粒子及び導電性添加剤粒子から容易に分離する可能性があるという考えである。活物質粒子の膨張及び収縮は、活物質粒子の微粉砕を導く可能性もある。これらの結合剤剥離及び粒子断片形成現象は、活物質粒子と導電性添加剤との間の接触の低下及びアノード活物質とその集電体との間の接触の低下を導く。これらの悪影響は、著しく短縮された充電-放電サイクル寿命をもたらす。
【0054】
30年超にわたってバッテリーの設計者及び電気化学者を等しく煩わせてきたこれらの厄介な問題は、活物質及び導電性添加剤の粒子を一緒に保持するための新規分類の結合剤樹脂を開発することによって解決された。
【0055】
カソード活物質層は、一方向引張下でポリマー中に添加剤又は強化材の不在下で測定される場合、5%以上の回復可能な引張歪み及び室温において10-5S/cm以上(好ましくは且つ典型的に10-4S/cm以上、より好ましくは且つ典型的に10-3S/cm以上)のリチウムイオン導電率を有する高弾性ポリマーの薄層によって一緒に結合される複数のカソード活物質粒子及び導電性添加剤粒子を含む。
【0056】
高弾性ポリマーは、一方向引張下で(ポリマー中に添加剤又は強化材の不在下で)測定される場合、少なくとも5%である弾性変形を示すポリマーであって、典型的に軽度に架橋したポリマーを意味する。材料科学及び工学の分野において、「弾性変形」とは、負荷の解放時に本質的に完全に回復可能であり、且つ回復が本質的に瞬間的である(機械的に応力を受けた場合の)材料の変形として定義される。弾性変形は、好ましくは、10%より高く、より好ましくは30%より高く、さらにより好ましくは50%より高く、なおより好ましくは100%より高く、最も好ましくは200%より高い。高容量ポリマーの好ましいタイプは、後述される。
【0057】
本発明の高弾性ポリマー結合剤の方法の適用は、カソード活物質の何れかの特定の分類に限定されない。カソード活物質層は、無機材料、有機材料、ポリマー材料又はそれらの組合せから選択されるカソード活物質を含有し得る。無機材料は、金属酸化物、金属リン酸塩、金属ケイ化物、金属セレン化物、遷移金属硫化物又はそれらの組合せから選択され得る。
【0058】
無機材料は、酸化リチウムコバルト、酸化リチウムニッケル、酸化リチウムマンガン、酸化リチウムバナジウム、リチウム-混合金属酸化物、リン酸リチウム鉄、リン酸リチウムマンガン、リン酸リチウムバナジウム、リチウム混合金属リン酸塩、リチウム金属ケイ化物又はそれらの組合せから選択され得る。
【0059】
特定の好ましい実施形態において、無機材料は、CoF、MnF、FeF、VF、VOF、TiF、BiF、NiF、FeF、CuF、CuF、SnF、AgF、CuCl、FeCl、MnCl及びそれらの組合せからなる群を含む金属フッ化物又は金属塩化物から選択される。特定の好ましい実施形態において、無機材料は、LiMSiO又はLiMaMbSiOとして示されるリチウム遷移金属ケイ酸塩から選択され、式中、M及びMaは、Fe、Mn、Co、Ni、V又はVOから選択され、Mbは、Fe、Mn、Co、Ni、V、Ti、Al、B、Sn又はBiから選択され、及びx+y≦1である。
【0060】
特定の好ましい実施形態において、無機材料は、遷移金属ジカルコゲン化物、遷移金属トリカルコゲン化物又はそれらの組合せから選択される。無機材料は、TiS、TaS、MoS、NbSe、MnO、CoO、酸化鉄、酸化バナジウム又はそれらの組合せから選択される。
【0061】
カソード活物質層は、VO、LiVO、V、Li、V、Li、Li、V、Li、V13、Li13、そのドープされた変種、その誘導体及びそれらの組合せ(式中、0.1<x<5である)からなる群から選択される酸化バナジウムを含有する金属酸化物を含有し得る。
【0062】
カソード活物質層は、層状化合物LiMO、スピネル化合物LiM、カンラン石化合物LiMPO、ケイ酸塩化合物LiMSiO、タボライト化合物LiMPOF、ホウ酸塩化合物LiMBO又はそれらの組合せ(式中、Mは、遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である)から選択される金属酸化物又は金属リン酸塩を含有し得る。
【0063】
いくつかの実施形態において、無機材料は、(a)セレン化ビスマス若しくはテルル化ビスマス、(b)遷移金属ジカルコゲン化物若しくはトリカルコゲン化物、(c)ニオブ、ジルコニウム、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、チタン、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル若しくは遷移金属の硫化物、セレン化物若しくはテルル化物、(d)窒化ホウ素、又は(e)それらの組合せから選択される。
【0064】
カソード活物質層は、ポリ(硫化アントラキノニル)(PAQS)、リチウムオキソ炭素、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ポリ(硫化アントラキノニル)、ピレン-4,5,9,10-テトラオン(PYT)、ポリマー結合PYT、キノ(トリアゼン)、酸化還元活性有機材料、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、2,3,6,7,10,11-ヘキサメトキシトリフェニレン(HMTP)、ポリ(5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン)(PADAQ)、二硫化ホスファゼンポリマー([(NPS]n)、リチウム化1,4,5,8-ナフタレンテトラオールホルムアルデヒドポリマー、ヘキサアザトリナフチレン(HATN)、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT(CN))、5-ベンジリデンヒダントイン、イサチンリチウム塩、ピロメリット酸ジイミドリチウム塩、テトラヒドロキシ-p-ベンゾキノン誘導体(THQLi)、N,N’-ジフェニル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PHP)、N,N’-ジアリル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(AP)、N,N’-ジプロピル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PRP)、チオエーテルポリマー、キノン化合物、1,4-ベンゾキノン、5,7,12,14-ペンタセンテトロン(PT)、5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADDAQ)、5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADAQ)、カリックスキノン、Li、Li、Li又はそれらの組合せから選択される有機材料又はポリマー材料を含有し得る。
【0065】
チオエーテルポリマーは、ポリ[メタンテトリル-テトラ(チオメチレン)](PMTTM)、ポリ(2,4-ジチオペンタニレン)(PDTP)、主鎖チオエーテルポリマーとしてポリ(エテン-1,1,2,2-テトラチオール)(PETT)を含有するポリマー、共役芳香族部分からなる主鎖を有し、且つペンダントとしてチオエーテル側鎖を有する側鎖チオエーテルポリマー、ポリ(2-フェニル-1,3-ジチオラン)(PPDT)、ポリ(1,4-ジ(1,3-ジチオラン-2-イル)ベンゼン)(PDDTB)、ポリ(テトラヒドロベンゾジチオフェン)(PTHBDT)、ポリ[1,2,4,5-テトラキス(プロピルチオ)ベンゼン](PTKPTB又はポリ[3,4(エチレンジチオ)チオフェン](PEDTT)から選択される。
【0066】
他の実施形態において、カソード活物質層は、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、スズフタロシアニン、鉄フタロシアニン、鉛フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、フルオロクロムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニン、マンガンフタロシアニン、ジリチウムフタロシアニン、アルミニウムフタロシアニンクロリド、カドミウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銀フタロシアニン、無金属フタロシアニン、その化学誘導体又はそれらの組合せなどのフタロシアニン化合物から選択される有機材料を含有する。
【0067】
アノード活物質の粒子は、ナノ粒子、ナノワイヤー、ナノ繊維、ナノチューブ、ナノシート、ナノプレートレット、ナノディスク、ナノベルト、ナノリボン又はナノホーンの形態であり得る。それらは、(アノード活物質層中に混入されるとき)リチウム化されないか又は所望の程度に(特定の元素又は化合物について可能な最大容量までプレリチウム化され得る。
【0068】
好ましくは及び典型的に、高弾性ポリマーは、10-5S/cm以上、より好ましくは10-4S/cm以上、さらに好ましくは10-3S/cm以上、最も好ましくは10-2S/cm以上のリチウムイオン導電率を有する。いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、添加剤又は充填剤がその中に分散されていないニートポリマーである。他の例では、高弾性ポリマーは、高弾性ポリマー母材材料中に分散されたリチウムイオン導電性添加剤0.1重量%~50重量%(好ましくは1重量%~35重量%)を含有するポリマー母材複合物である。高弾性ポリマーは、高弾性(弾性変形歪み値>10%)を有さなければならない。弾性変形は、完全に回復可能である変形であり、回復プロセスは、本質的に瞬間的である(著しい時間遅れはない)。高弾性ポリマーは、10%から1,000%まで(その元の長さの10倍)、より典型的に10%~800%、さらにより典型的に50%~500%、最も典型的に及び望ましくは70%~300%の弾性変形を示すことができる。金属は典型的に高い延性を有するが(すなわち破断せずにかなりの程度伸長され得る)、変形の大部分は塑性変形であり(回復可能でない)且つごく少量の弾性変形である(典型的に<1%及びより典型的に<0.2%)ことを指摘し得る。
【0069】
いくつかの好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークであって、ポリマー鎖の架橋ネットワーク中において、エーテル結合、ニトリル誘導結合、ベンゾペルオキシド誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ-樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合又はそれらの組合せを有するポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークを含有する。これらのネットワーク又は架橋ポリマーは、高弾性(高い弾性変形歪み)及び高いリチウムイオン導電率のユニークな組合せを示す。
【0070】
特定の好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリトリトールテトラアクリレート(PETEA)鎖、ペンタエリトリトールトリアクリレート鎖、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖又はそれらの組合せから選択されるポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークを含有する。
【0071】
典型的に、高弾性ポリマーは、元来、硬化して高弾性である架橋ポリマーを形成することが可能なモノマー又はオリゴマー状態にある。硬化前、これらのポリマー又はオリゴマーは、有機溶媒に可溶性でありポリマー溶液を形成する。カソード活物質(例えば、リチウム金属酸化物、リチウム金属フッ化物など)の粒子をこのポリマー溶液中に分散して、懸濁液(分散体又はスラリーを形成することができる。次いで、この懸濁液を集電体表面上にコーティングすることができる(例えば、次いで溶媒除去処理を受けるCu箔。ポリマー(又はモノマー若しくはオリゴマー)は、粒子間の接触点付近でこれらの活物質粒子の表面上で堆積するように沈殿する。溶液中のポリマー前駆体(モノマー又はオリゴマー)の濃度は、ポリマーが活物質粒子の50%未満のみを被覆する範囲で制御され得る。換言すれば、ポリマーは、粒子を一緒に結合するが、粒子を封入しない結合剤樹脂である。
【0072】
例えば、エトキシル化トリメチロプロパントリアクリレートモノマー(ETPTA、Mw=428、化学式は、下記に示される)は、開始剤と一緒に炭酸エチレン(EC)又は炭酸ジエチル(DEC)などの有機溶媒中に溶解され得る。次いで、カソード活物質粒子をETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液中に分散させてスラリーを形成することが可能であり、これをAl箔上に噴霧コーティングして、ETPTAモノマー/開始剤によって部分的にコーティングされた活性粒子を含有するカソード層を形成することができる。次いで、この層を熱硬化して、カソード活物質粒子及び導電性添加剤粒子が高弾性ポリマー結合剤によって一緒に結合された構造完全性のカソード活性層を得る。このモノマーの重合及び架橋反応は、開始剤モノマーの熱分解によってベンゾイルペルオキシド(BPO)又はAIBNから誘導されるラジカル開始剤によって開始されることができる。ETPTAモノマーは、次の化学式を有する。
【0073】
別の例として、封入のための高弾性ポリマーは、スクシノニトリル(SN)中でのシアノエチルポリビニルアルコール(PVA-CN、式2)のカチオン重合及び架橋に基づき得る。
【0074】
この手順は、混合物溶液を形成するために、PVA-CNをスクシノニトリル(NCCHCHCN)中に溶解することによって開始され得る。続いて、混合物溶液中に開始剤を添加する。例えば、重量比(20:1~2:1の好ましい範囲から選択される)においてLiPFをPVA-CN/SN混合物溶液中に添加して、前駆体溶液を形成することができる。次いで、選択されたカソード活物質の粒子を混合物溶液中に導入し、スラリーを形成する。次いで、スラリーをカソード集電体上にコーティングして、反応塊、PVA-CN/LiPFが粒子間の間質空間に存在するカソード層を形成し得る。次いで、カソード層を温度(例えば、75~100℃)において2~8時間加熱して、高弾性ポリマー結合活物質粒子及び導電性添加剤粒子を含有する構造完全性のカソード層を得る。このプロセス中、PVA-CN上のシアノ基のカチオン性重合及び架橋は、そのような高温でのLiPFの熱分解から誘導されるPFによって開始され得る。
【0075】
ネットワークポリマー又は架橋ポリマーが、高弾性変形を付与するために比較的低い架橋度又は低い架橋密度を有することが不可欠である。
【0076】
ポリマー鎖の架橋ネットワークの架橋密度は、架橋中の分子量(Mc)の逆と定義され得る。架橋密度は、式Mc=ρRT/Ge(式中、Geは、動的機械分析において温度スイープによって決定される平衡弾性率であり、ρは、物理的密度であり、Rは、J/モル*Kの普通気体定数であり、及びTは、Kの絶対温度である)によって決定することができる。Ge及びρが実験的に決定されると、Mc及び架橋密度を算出することができる。
【0077】
Mcの大きさは、架橋鎖又は連鎖結合中の特徴的な反復単位の分子量でMc値を割って、2つの架橋点間の反復単位の数である数Ncを得ることによって標準化され得る。弾性変形歪みがMc及びNcと非常に関連することが見出された。架橋ポリマーの弾性は、架橋間の多数の反復単位(大きいNc)から誘導される。反復単位は、ポリマーが応力を受けない場合、より緩い立体配座(例えば、ランダムコイル)を想定することができる。しかしながら、ポリマーが機械的に応力を受ける場合、連結鎖は、ほどけるか又は伸張して、大きい変形をもたらす。架橋点間の長鎖連結(より大きいNc)により、より大きい弾性変形が可能となる。負荷の解放時、連結鎖は、より緩いか又はコイル状態に戻る。ポリマーの機械的負荷時、架橋は、塑性変形(回復不可能)を形成する連鎖のすべり(slippage)を防ぐ。
【0078】
好ましくは、高弾性ポリマーにおけるNc値は、5より高く、より好ましくは10より高く、さらにより好ましくは100より高く、なおより好ましくは200より高い。これらのNc値は、異なる官能性を有する異なる架橋剤を使用することにより、及び異なる期間、異なる温度で進行するように重合及び架橋反応を設計することにより、異なる弾性変形値を達成するために容易に制御され、且つ変更可能である。
【0079】
代わりに、架橋度を決定するために、ムーニー-リブリン(Mooney-Rilvin)法を使用し得る。膨潤実験によって架橋を測定することもできる。膨潤実験では、架橋した試料を特定の温度で相当する線形ポリマーに対して良好な溶媒中に配置し、質量の変化又は体積の変化が測定される。架橋度が高いほど、少ない膨潤が達成可能である。膨潤度、フローリー相互作用パラメーター(Flory Interaction Parameter)(試料との溶媒相互作用と関連する、フローリー・ハギンズ(Flory Huggins)方程式)及び溶媒の密度に基づき、フローリーのネットワーク説(Flory’s Network Theory)に従って理論的な架橋度を計算することができる。フローリー-レーナー方程式(Flory-Rehner Equation)は、架橋の決定において有用となることが可能である。
【0080】
高弾性ポリマーは、2つの架橋鎖が互いに巻き付く同時相互貫入ネットワーク(SIN)ポリマー又は架橋ポリマー及び線形ポリマーを含有する半相互貫入ネットワークポリマー(半IPN)を含有し得る。半IPNの例は、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)及びエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)オリゴマーから構成されるUV硬化可能/重合可能三価/一価アクリレート混合物である。三価ビニル基を有するETPTAは、架橋鎖のネットワークを形成することが可能な光(UV)架橋性モノマーである。一価ビニル基を有するEGMEAもUV重合可能であり、オリゴマーエチレンオキシド単位の存在のため、高い可撓性を有する線形ポリマーが誘導される。ETPTAの架橋度が中程度であるか又は低い場合、結果として生じるETPTA/EGMEA半IPNポリマーは、良好な機械的可撓性又は弾性及び適切な機械的強度をもたらす。このポリマーのリチウムイオン導電率は、10-4~5×10-3S/cmの範囲である。
【0081】
上記高弾性ポリマーは、カソード活物質粒子に化学的に結合するために単独で使用され得る。代わりに、高弾性ポリマーは、広範囲の一連のエラストマー、導電性ポリマー、リチウムイオン導電性材料及び/又は強化材(例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維又はグラフェンシート)と混合することができる。
【0082】
カソード活物質粒子を一緒に結合するブレンド、コポリマー又は半相互貫入ネットワークを形成するために、広範囲にわたる一連のエラストマーを高弾性ポリマーと混合させることができる。エラストマー材料は、天然ポリイソプレン(例えば、シス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴムのためのIR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴムのためのBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えば、ネオプレン、Baypren等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)など、ブチルゴム(イソブチレンとイソプレンとのコポリマー、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレンとブタジエンとのコポリマー、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエンとアクリロニトリルとのコポリマー、NBR)、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレンとプロピレンとのコポリマー)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン、プロピレン及びジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、フルオロエラストマー(FKM及びFEPM;例えばViton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas及びDai-El)、ペルフルオロエラストマー(FFKM:Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlast)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM;例えばハイパロン)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-尿素コポリマー及びそれらの組合せから選択され得る。
【0083】
ウレタン-尿素コポリマーフィルムは、通常、2つのタイプのドメイン、軟質ドメイン及び硬質ドメインからなる。ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)単位からなる絡み合い直鎖主鎖は、軟質ドメインを構成するが、反復メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)及びエチレンジアミン(EDA)単位は、硬質ドメインを構成する。リチウムイオン導電性添加剤を軟質ドメイン又は他のより非晶質の領域に混入することができる。
【0084】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、高弾性ポリマー母材材料中に分散されたリチウムイオン導電性添加剤を含有するポリマー母材複合物を形成することができ、リチウムイオン導電性添加剤は、LiCO、LiO、Li、LiOH、LiX、ROCOLi、HCOLi、ROLi、(ROCOLi)、(CHOCOLi)、LiS、LiSO又はそれらの組合せから選択され、式中、X=F、Cl、I又はBr、R=炭化水素基、0<x<1、1<y<4である。
【0085】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーを、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸塩(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン性液体ベースのリチウム塩又はそれらの組合せから選択されるリチウム塩を含有するリチウムイオン導電性添加剤と混合することができる。
【0086】
高弾性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、それらの誘導体(例えば、スルホン化変種)又はそれらの組合せから選択される電子導電性ポリマーとの混合物又はブレンドを形成し得る。
【0087】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)、それらの誘導体(例えば、スルホン化変種)又はそれらの組合せから選択されるリチウムイオン導電性ポリマーとの混合物、コポリマー半相互貫入ネットワークポリマーを形成し得る。
【0088】
高弾性ポリマーと混合され得る不飽和ゴムには、天然ポリイソプレン(例えば、シス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴムのためのIR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴムのためのBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えば、ネオプレン、Baypren等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)など、ブチルゴム(イソブチレンとイソプレンとのコポリマー、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレンとブタジエンとのコポリマー、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエンとアクリロニトリルとのコポリマー、NBR)が含まれる。
【0089】
いくつかのエラストマーは、硫黄加硫によって硬化させることができない飽和ゴムである。それらは、例えば、他の直鎖を一緒に保持するコポリマードメインを有することによって異なった手段によってゴム又はエラストマー材料に製造される。これらのエラストマーの各々を使用して、いくつかの手段の1つによってカソード活物質の粒子を結合することができる:例えば、噴霧コーティング、希釈溶液混合(有機溶媒を使用して又は使用せずに、カソード活物質粒子を未硬化ポリマー、モノマー又はオリゴマー中に溶解する)、その後に乾燥及び硬化。
【0090】
このカテゴリーの飽和ゴム及び関連エラストマーには、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレンとプロピレンとのコポリマー)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン、プロピレン及びジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、フルオロエラストマー(FKM及びFEPM;例えばViton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas及びDai-El)、ペルフルオロエラストマー(FFKM:Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlast)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM;例えばハイパロン)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン及びタンパク質エラスチンが含まれる。ポリウレタン及びそのコポリマー(例えば、尿素-ウレタンコポリマー)は、アノード活物質粒子を封入するための特に有用なエラストマーシェル材料である。
【0091】
結合剤配合物は、典型的に、高弾性ポリマー又はその前駆体(モノマー又はオリゴマー)が溶媒中に不溶性であることを必要とする。幸いにも、本明細書で使用される全ての高弾性ポリマー又はそれらの前駆体は、いくつかの一般的な溶媒中に可溶性である。未硬化ポリマー又はその前駆体は、一般的な有機溶媒中に容易に溶解可能であり、溶液を形成する。次いで、この溶液を使用して、以下で議論される結合剤適用法のいくつかにより、固体粒子を結合することができる。活物質粒子との接触時、次いで前駆体を重合及び架橋させる。高弾性ポリマーは、電極作成のための活物質粒子との接触前に最初に未硬化又は未重合状態であるため、化学的活性基又は鎖は、(ファンデルワールス力以外の又はそれに加えて)活物質粒子との種々の強い化学結合を形成することができる。対照的に、全ての従来技術の樹脂結合剤は、活物質粒子との接触前にすでに重合しているか又は硬化されており、したがって弱いファンデルワールス力のみが従来の結合剤樹脂及び活物質粒子間に形成する。
【0092】
第1の方法は、ポリマー前駆体溶液中にカソード活物質粒子を分散させ、集電体(例えば、Al箔)の表面上に次いでコーティングされるスラリーを形成することを含む。コーティングされるスラリーの液状媒体は、ポリマー前駆体(モノマー又はオリゴマー)でそれぞれ部分的にコーティングされた活物質粒子及び導電性添加剤粒子を含有する乾燥させた層を形成するために次いで除去される。この手順は、本質的に、リチウムイオンバッテリーにおいて現在一般に使用されるスラリーコーティングプロセスと同一又は非常に類似である。したがって、製造装置又は設備を変更する必要がない。結合剤樹脂を硬化させ、固体粒子を一緒に化学的に結合させる重合及び架橋反応を開始するために、この乾燥させた層を熱及び/又はUV光に暴露する。好ましくは、ポリマーの量は、結合剤樹脂が活物質粒子の外部表面の50%未満(好ましくは<20%)のみを被覆するような様式で選択される。
【0093】
ポリマー前駆体と固体活物質粒子との間の所望の量の接触が達成されるまで前駆体溶液がゆっくりと適用される間に活物質粒子をパン又は同様のデバイス内で混転することを必要とする、変更されたパンコーティングプロセスを使用し得る。溶液中のモノマー/オリゴマーの濃度は、活性粒子の結合を補助するために存在する十分な量のポリマーを保証するが、活物質粒子の外部表面全体を被覆しないように選択される。好ましくは、活物質粒子の外部表面全体の大部分は、ポリマーによって被覆されない。
【0094】
固体基材によって支持された活物質粒子の表面に結合剤樹脂を適用するために溶液噴霧も使用され得る。ポリマー前駆体溶液は、活物質及び導電性添加剤の粒子と一緒に集電体の表面上に噴霧コーティングされ得る。液体溶媒の除去時、乾燥部分は、熱的又はUV誘導重合及び架橋を受ける。
【実施例
【0095】
実施例1:高弾性ポリマー結合V粒子を含有するカソード活物質層
カソード活物質層は、それぞれV粒子及びグラフェン包含V粒子から調製した。V粒子は、商業的に入手可能であった。グラフェン包含V粒子は、社内で調製した。典型的な実験において、LiCl水溶液中でのVの混合によって五酸化バナジウムゲルが得られた。LiCl溶液による相互作用によって得られたLi-交換ゲル(Li:Vモル比は、1:1に保持された)をGO懸濁液と混合し、次いでTeflonラインステンレス鋼35mlオートクレーブ中に配置し、密封し、12時間にわたって180℃まで加熱した。そのような水熱処理後、緑色の固体を回収し、これを徹底的に洗浄し、2分間超音波処理し、70℃で12時間乾燥後、別の水中0.1%GOと混合し、超音波処理してナノベルトサイズまで分解し、次いで200℃において噴霧乾燥させ、グラフェン包含V複合物粒状物を得た。
【0096】
次いで、V粒子及びグラフェン包含V粒子の選択された量を、それぞれ次の手順に従ってETPTAベースの高弾性ポリマー結合剤を使用してカソード活物質層にした。エトキシル化トリメチロプロパントリアクリレートモノマー(ETPTA、Mw=428、Sigma-Aldrich)を、3/97(w/w)のETPTA/溶媒の重量ベース組成比で炭酸エチレン(EC)/炭酸ジエチル(DEC)の溶媒混合物中に溶解した。その後、アノード粒子との混合後に熱架橋反応を可能にするラジカル開始剤としてベンゾイルペルオキシド(BPO、ETPTA含有量に対して1.0重量%)を添加した。次いで、カソード活物質粒子及び(導電性添加剤として)いくつかのCNTをETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液中に分散してスラリーを形成し、これをCu箔表面上に噴霧コーティングし、ETPTAモノマー/開始剤、CNT及びカソード粒子の混合物の層を形成した。次いで、この層を60℃で30分間熱硬化し、高弾性ポリマーベース結合樹脂によって一緒に結合されるV粒子又はグラフェン包含V粒子及びCNTから構成されるカソード活物質層を得た。
【0097】
個々の基準でいくらかの量のETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液をガラス表面上にキャストして湿潤膜を形成し、これを熱的に乾燥させ、次いで60℃で30分間硬化し、架橋ポリマーの膜を形成した。この実験において、BPO/ETPTA重量比は、いくつかの異なるポリマー膜で架橋度を変更させるために0.1%~4%で様々であった。硬化ポリマー試料のいくつかに動的機械試験を行い、架橋度を特徴づけるための手段として、2つの架橋点間の数平均分子量及び相当する反復単位数(Nc)の決定のための平衡動的弾性率Geを得た。
【0098】
いくつかの引張試験試験片をそれぞれの架橋膜から切り取り、万能試験機で試験した。4つのBPO開始架橋ETPTAポリマーの代表的な引張応力-歪み曲線を図3(A)に示す。これは、この一連のネットワークポリマーが約230%~700%の弾性変形を有することを示す。上記は、何れの添加剤も含まないニートのポリマーに関する。30重量%までのリチウム塩の添加により、この弾性は、典型的に、10%から100%の可逆性引張歪みまで減少する。
【0099】
電気化学試験のために、従来の結合剤樹脂を使用する比較のための電極も調製した。作業電極は、85重量%のV又は88%のグラフェン包含V粒子)、5~8重量%のCNT及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解された7重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)結合剤を混合して全固形分3重量%のスラリーを形成することによって作製された。スラリーをAl箔上にコーティングした後、電極を2時間にわたって真空中で120℃において乾燥させて、加圧前に溶媒を除去した。次いで、電極をディスク(φ=12mm)に切断し、真空中で24時間にわたって100℃で乾燥させた。
【0100】
対向/参照電極としてリチウム金属、セパレーターとしてCelgard2400膜及びエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合物(EC-DEC、1:1v/v)中に溶解された1MのLiPF電解質溶液を有するCR2032(3V)コイン型セルを使用して電気化学測定を実施した。セルの組立をアルゴン充填グローブボックス内で行った。CV測定は、1mV/sの走査速度でCH-6電気化学ワークステーションを使用して実施された。高弾性ポリマー結合剤を特徴とするセル及びPVDF結合剤を含有するセルの電気化学的性能は、Arbin電気化学ワークステーションを使用して50mA/gの電流密度で定電流充電/放電サイクル経過によって評価された。
【0101】
PVDF結合V粒子を含有するカソード、PVDF結合グラフェン包含V粒子を含有するカソード、ETPTAポリマー結合V粒子を含有するカソード及びETPTAポリマー結合グラフェン包含V粒子を含有するカソードの4つのリチウムセルの比インターカレーション容量曲線が図3(B)に要約される。サイクル数が増加すると、PVDF結合V電極の比容量は、急速に低下する。対照的に、本発明の高弾性ポリマー結合剤は、大きいサイクル数に対して有意により安定な且つ高い比容量を有するバッテリーセルを提供する。これらのデータは、明らかに本発明の高弾性ポリマー結合剤の驚くべき且つ優れた性能を実証した。
【0102】
高弾性ポリマー結合剤は、カソード活物質粒子が膨張及び収縮するときに破損することなく、大きい程度まで、可逆的に変形することができるように思われる。また、ポリマーは、これらの粒子が膨張又は収縮するとき、活物質粒子に化学的に結合したままである。対照的に、PVDF結合剤は、崩壊するか又は活物質粒子のいくつかから剥離する。これらは、SEMを使用して、数回の充電-放電サイクル後にバッテリーセルから再生された電極の表面を調査することによって観察された。
【0103】
実施例2:高弾性ポリマー結合剤結合リン酸リチウム鉄(LFP)粒子
LFP粒子を化学的に結合するための結合剤としての高弾性ポリマーは、スクシノニトリル(SN)中でのシアノエチルポリビニルアルコール(PVA-CN)のカチオン性重合及び架橋に基づくものであった。この手順は、混合物溶液を形成するために、PVA-CNをスクシノニトリル中に溶解することによって開始された。このステップに続いて、溶液中に開始剤を添加した。高弾性ポリマーにいくつかのリチウム種を組み込む目的でLiPFを開始剤として使用することを選択した。LiPF及びPVA-CN/SN混合物溶液間の比率は、一連の前駆体溶液を形成するために重量で1/20~1/2まで種々であった。その後、炭素コーティングLFP粒子及び(導電性添加剤としての)アセチレンブラック粒子をこれらの溶液中に導入し、一連のスラリーを形成した。次いで、スラリーを別々にAl箔表面上にコーティングして、カソード活物質層を作成した。次いで、この層を75~100℃の温度において2~8時間加熱して、高弾性ポリマー結合カソード活物質粒子の層を得た。
【0104】
加えて、反応塊、PVA-CN/LiPFをガラス表面上にキャストして、いくつかの膜を形成し、これを重合及び架橋して、異なる架橋度を有する架橋ポリマーを得た。これらの膜上で引張試験も実行され、いくつかの試験結果は、図4(A)に要約される。この一連の架橋ポリマーは、約80%(より高い架橋度)~400%(より低い架橋度)まで柔軟に伸張可能である。
【0105】
高弾性ポリマー結合LFP粒子及びPVDF結合LFP粒子からのバッテリーセルを実施例1に記載された手順を使用して作製した。図4(B)は、本発明の高弾性ポリマー結合剤の方法に従って作製されたカソードが、PVDF結合LFP粒子をベースとしたカソードと比較して有意により安定なサイクル挙動及びより高い可逆的な容量を提供することを示す。高弾性ポリマーは、活物質粒子及び導電性添加剤を一緒に保持し、活物質電極の構造完全性を有意に改善することがより可能である。
【0106】
実施例3:PETEAベースの高弾性ポリマーによって結合された金属フッ化物ナノ粒子
樹脂結合剤としてFeFナノ粒子を一緒に結合するために、ペンタエリトリトールテトラアクリレート(PETEA)、式3をモノマーとして使用した。
【0107】
CoF、MnF、FeF、VF、VOF、TiF及びBiFの商業的に入手可能な粉末に高強度ボールミル粉砕を受けさせ、粒径を約0.5~2.3μmまで低下させた。次いで、これらの金属フッ化物粒子のそれぞれのタイプを(導電性添加剤としての)グラフェンシートと一緒にPETEAモノマー液状懸濁液中に添加し、複数成分スラリーを形成した。スラリーをAl箔の表面上に湿潤層にキャストし、続いて液体を除去して、乾燥させた層を形成した。次いで、乾燥させた層を圧縮化層に圧縮させた。PETEAの量は、フッ化物粒子表面が完全に被覆されず、代わりに最高50%のみがコーティングされるような様式で選択された。
【0108】
代表的な手順では、前駆体溶液は、1,2-ジオキソラン(DOL)/ジメトキシメタン(DME)(体積比で1:1)の溶媒混合物中に溶解された1.5重量%のPETEA(C1720)モノマー及び0.1重量%のアゾジイソブチロニトリル(AIBN、C12)開始剤から構成された。PETEA/AIBN前駆体溶液を70℃で30分間重合及び硬化し、カソード活性層を得た。
【0109】
加えて、反応塊、PETEA/AIBN(活性粒子及び導電性添加剤なし)をガラス表面上にキャストして、いくつかの膜を形成し、これを重合及び硬化して、異なる架橋度を有する架橋ポリマーを得た。これらの膜上で引張試験も実行され、いくつかの試験結果は、図5(A)に要約される。この一連の架橋ポリマーは、約25%(より高い架橋度)~80%(より低い架橋度)まで柔軟に伸張可能である。
【0110】
比較のために、金属フッ化物粒子のいくらかの量をSBR結合剤によって結合させ、電極を製造した。図5(B)に、3つの異なるタイプのカソード活性層:(1)高弾性PETEAポリマー結合剤結合金属フッ化物粒子、(2)PVDF結合剤結合金属フッ化物粒子、及び(3)SBRゴム結合金属フッ化物粒子を有する3つのコインセルの放電容量曲線を示す。これらの結果は、高弾性ポリマー結合剤戦略が、(グラフェンコーティングの有無にかかわらず)高容量カソード活物質を特徴とするリチウム金属バッテリーの容量減衰に対して優れた保護を提供することを明らかに実証した。
【0111】
高弾性ポリマー結合剤は、アノード活物質粒子が膨張及び収縮するときに破損することなく、可逆的に変形することができるように思われる。また、ポリマーは、これらの粒子が膨張又は収縮するとき、カソード活物質粒子に化学的に結合したままである。対照的に、2つの従来の結合剤樹脂であるSBR及びPVDFの両方は、崩壊するか又は活物質粒子のいくつかから剥離する。これらは、SEMを使用して、数回の充電-放電サイクル後にバッテリーセルから再生された電極の表面を調査することによって観察された。
【0112】
実施例4:高弾性ポリマーの層によって保護された金属ナフタロシアニン還元グラフェン酸化物(FePc/RGO)ハイブリッド粒状物
ミル粉砕チャンバー中で30分間、FePc及びRGOの混合物をボールミル粉砕することにより、FePcの粒子/グラフェンシートが得られた。次いで、ポテト型FePc/RGO混合物粒子をPVDF結合剤によって結合させ、Al箔表面上にカソード活性層を形成した。それぞれLi箔アノード、多孔性セパレーター及びFePc/RGOカソードの層を含有する2つのリチウムセルを調製した。しかしながら、2つのセルの1つでは、高弾性ポリマーの薄膜は、多孔性セパレーター及びカソード層間に導入された。これは、バッテリーセル中に結合される前にFePc/RGO混合物層の表面上にETPTA/EGMEAの半相互貫入ネットワークポリマーの膜を噴霧することによって達成された。
【0113】
このETPTA半IPNポリマーの調製のために、ETPTA(Mw=428g/モル、三価アクリレートモノマー)、EGMEA(Mw=482g/モル、一価アクリレートオリゴマー)及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(HMPP、光開始剤)を溶媒(炭酸プロピレン、PC)中に溶解し、溶液を形成した。HMPP及びETPTA/EGMEA混合物間の重量比は、0.2%~2%で様々であった。溶液中のETPTA/EGMEA比は、異なる薄膜厚さを生じるために1%~5%で様々であった。アクリレート混合物中のETPTA/EGMEA比は、10/0~1/9で様々であった。
【0114】
次いで、ETPTA/EGMEA/HMPP膜を20秒間、UV照射に暴露した。UV重合/架橋は、電極の表面上に約2000mW/cmの放射ピーク強度を有するHg UVランプ(100W)を使用して実行された。
【0115】
上記手順は、架橋ETPTA/EGMEAポリマーの薄膜によって保護された電極層を作成するために実行された。これらの2つのセルのサイクル挙動は、図6に示されており、それは、高弾性ポリマー膜保護カソード層を有するリチウム-有機セルが有意により安定なサイクル応答を示すことを示す。この保護層は、触媒遷移金属元素(Fe)及び電解質間の直接接触を減少又は排除するが、それでもリチウムイオンに対して依然として透過性である。
【0116】
実施例5:高弾性ポリマー結合剤におけるリチウムイオン導電性添加剤の効果
電極の構造完全性を維持するための結合剤樹脂材料を調製するために、多様なリチウムイオン導電性添加剤をいくつかの異なるポリマーマトリックス材料に添加した(表1)。これらのポリマー複合物材料が適切な結合剤材料であることが見出された。高弾性ポリマーは、活物質粒子表面の有意な部分を被覆することができるため、(リチウムイオン導電性添加剤の有無にかかわらず)このポリマーは、リチウムイオンが容易に拡散することを可能にすることができるはずである。したがって、ポリマーは、室温で10-5S/cm以上のリチウムイオン導電率を有するであろう。
【0117】
実施例6:様々な再充電可能なリチウムバッテリーセルのサイクル安定性
リチウムイオンバッテリー産業において、必要とされる電気化学的形成後に測定された初期容量に基づき、容量の20%減衰をバッテリーが受ける充電-放電サイクル数としてバッテリーのサイクル寿命を定義することが慣例である。種々の結合剤材料によって結合されたアノード活物質粒子を含有する本発明の電極を特徴とする広範囲にわたる一連のバッテリーのサイクル寿命データを以下の表2に要約する。
【0118】
これらデータから、高弾性ポリマー結合剤戦略が、カソード構造不安定性によって誘発される容量減衰の問題を軽減することに驚くほど有効であることがさらに確認される。
図1A-1B】
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6