(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/46 20060101AFI20230622BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230622BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230622BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230622BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20230622BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230622BHJP
B41M 5/26 20060101ALI20230622BHJP
G09F 3/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B41M5/46 510
B23K26/00 B
B32B7/023
B32B27/20 A
B32B27/26
B32B27/30 A
B41M5/26
G09F3/02 F
(21)【出願番号】P 2020003968
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】米田 大介
(72)【発明者】
【氏名】松野 美里
【審査官】石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190451(JP,A)
【文献】特開2011-170105(JP,A)
【文献】特開2008-265074(JP,A)
【文献】特開2011-126142(JP,A)
【文献】国際公開第2019/152671(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/46
B32B 7/023
B32B 27/26
B32B 27/30
B32B 27/20
B23K 26/00
G09F 3/02
B41M 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーマーキングラベルに用いられる積層体であり、
当該積層体は、レーザー光を透過する第一層と、
前記レーザー光によって発色する第二層と、
粘着性を有する第三層と、がこの順で重なっており、
前記第二層は、アクリル系共重合体、イソシアネート系架橋剤、発色顔料および白色顔料を含む樹脂組成物からなり、
前記イソシアネート系架橋剤は、(i)芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤、または(ii)脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物、から選択され、
前記イソシアネート系架橋剤の含有量は、前記アクリル系共重合体100質量部に対して、5質量部以上、40質量部以下であり、
前記第二層は前記第一層と接していることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記発色顔料は、酸化ビスマス、銅化合物、モリブデン化合物およびアンチモン化合物からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記発色顔料の含有量は、前記樹脂組成物100質量%に対して、0.2質量%以上、4.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第二層の厚さが、15μm以上、70μm以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記白色顔料の、前記発色顔料に対する重量比が、3以上、35以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記イソシアネート系架橋剤は、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤であることを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤は、キシレンジイソシアネート系架橋剤であることを特徴とする、請求項6に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
文字や二次元コード等の各種情報を表示するためのラベルとして、レーザー光を照射して各種情報をマーキングする、レーザーマーキングラベルが知られている。レーザーマーキングラベルとしては、例えば、レーザー光によって樹脂を発色させて各種情報を印字する、発色タイプのレーザーマーキングラベルや、レーザー光によって表層をエッチングして、下層を表出させることで各種情報を印字する、エッチングタイプのレーザーマーキングラベルがある。
【0003】
発色タイプのレーザーマーキングラベルでは、発色層にレーザー光で変色する顔料を含むため、レーザー光による顔料の変色と熱による発色層に含まれる樹脂の炭化によって印字が行われる。このレーザーマーキングラベルは、レーザーマーキング時の粉塵の放出を抑えることができ、さらに、発色層の上にフィルム層を設けることもできる。この内部発色タイプのレーザーマーキングラベルは粉塵の外部への放出や表面摩耗や薬品落下によって印字が消失する心配も少ないという利点がある。
【0004】
また、レーザーマーキングラベルは、トレーサビリティ用のラベルとして用いられる場合がある。この用途では、トレーサビリティの役割を終えたラベルが剥がされる場合がある。このため、トレーサビリティラベルとしてのレーザーマーキングラベルには、印字の読み取り性が良好であることだけでなく、被着体からラベルを残すことなくきれいに剥離できる、再剥離性が良好であることも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-190451号公報(2016年11月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の内部発色タイプのレーザーマーキングラベルでは、レーザーマーキング時に発色層から発生した粉塵やレーザーマーキング時の熱によって、ラベルに膨れが生じ、レーザーマーキングラベルの識別性不良が起こる場合がある。また、レーザーマーキングラベルの再剥離性には、表層と発色層の密着性が重要であるが、レーザーマーキング時の発塵は、表層と発色層との密着性を低下させる原因ともなり、再剥離性を低下させるという問題を有している。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1には、レーザーラベルの表面層と発色層との間に特定の組成の中間層を設けることによって、レーザーマーキング時の発塵や発熱によって起こるフクレを抑制し、レーザーマーキング部の識別性を改善することが開示されている。
【0008】
しかし、特許文献1のレーザーラベルは、表面層と発色層との間に中間層を設けるので、レーザーラベルの製造工程が複雑になり、製造コストがアップするという課題を有している点で、改善の余地がある。
【0009】
本発明は、内部発色タイプのレーザーマーキングラベル、特にトレーサビリティ用のラベルとして、印字読み取り性および再剥離性が良好な積層体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための、本発明の一態様に係る積層体は、レーザーマーキングラベルに用いられる積層体であり、当該積層体は、レーザー光を透過する第一層と、前記レーザー光によって発色する第二層と、粘着性を有する第三層と、がこの順で重なっており、前記第二層は、アクリル系共重合体、イソシアネート系架橋剤、発色顔料および白色顔料を含む樹脂組成物からなり、前記イソシアネート系架橋剤は、(i)芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤、または(ii)脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物、から選択され、前記イソシアネート系架橋剤の含有量は、前記アクリル系共重合体100質量部に対して、5質量部以上、40質量部以下であり、前記第二層は前記第一層と接している構成である。前記「芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤」は、分子中に、イソシアネート基と芳香環とがアルキレン基を介して結合した構造を有している芳香脂肪族イソシアネート化合物に由来する架橋剤が意図される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る積層体は、レーザーマーキング時の第二層における粉塵の発生が抑制され、且つ従来のレーザーマーキングラベルと比べて第一層と第二層との密着性および第二層の靭性が向上している。その結果、本発明の一態様に係る積層体は、印字読み取り性および再剥離性が良好な積層体となり得るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の断面構造の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、「質量部」および「質量%」は特に断りの無い限り、固形分換算で求められる値を意味し、「質量」は「重量」と同義語として扱う。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を示す「A~B」は、「A以上、B以下」であることを意味する。
【0014】
〔積層体〕
本発明の一態様に係る積層体は、レーザーマーキングラベルに用いられる積層体であり、当該積層体は、レーザー光を透過する第一層と、前記レーザー光によって発色する第二層と、粘着性を有する第三層と、がこの順で重なっている。前記第二層は、アクリル系共重合体、イソシアネート系架橋剤、発色顔料および白色顔料を含む樹脂組成物からなり、前記イソシアネート系架橋剤は、(i)芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤、または(ii)脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物、から選択され、前記イソシアネート系架橋剤の含有量は、前記アクリル系共重合体100質量部に対して、5質量部以上、40質量部以下であり、前記第二層は前記第一層と接している。
【0015】
本発明の一態様に係る積層体は、前記構成により、レーザーマーキング時の第二層における粉塵の発生が抑制され、且つ従来のレーザーマーキングラベルと比べて第一層と第二層との密着性および第二層の靭性が向上している。その結果、本発明の一態様に係る積層体は、印字読み取り性および再剥離性が良好であるという効果を奏する。特に、本発明の一態様に係る積層体は、高温、高湿度環境下(例えば、85℃、湿度85%)に所定時間(例えば、96時間)置いた後の印字読み取り性および再剥離性が良好であるという優れた効果を奏する。
【0016】
ここで、積層体の印字読み取り性とは、レーザーマーキング後の積層体における印字部(「レーザーマーキング部」ともいう)の読み取り性能をいう。本明細書では、本発明の一態様に係る積層体がトレーサビリティラベルとして使用される環境のうち、特に過酷な環境、例えば夏場の倉庫保管や船便での輸送を想定して、特に、レーザーマーキング後の積層体を高温、高湿度環境下(「促進環境」ともいう)に所定時間おいた後の、印字部の読み取り性能を評価対象としている。促進環境下に所定時間おいた後の積層体の印字読み取り性は、例えば、後述する実施例に記載の方法により評価することができる。
【0017】
また、積層体の再剥離性とは、レーザーマーキング後の積層体を被着体に貼付けた後に、当該被着体から当該積層体が残ることなくきれいに剥離できる性能をいう。本明細書では、本発明の一態様に係る積層体がトレーサビリティラベルとして使用される環境を想定して、再剥離性についても、同様に、促進環境下に所定時間おいた後の積層体の再剥離性を評価対象としている。促進環境下に所定時間おいた後の積層体の再剥離性は、例えば、後述する実施例に記載の方法により評価することができる。
【0018】
次いで、本発明の一実施形態に係る積層体1の断面構造を、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体1の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、積層体1は、第一層10、第二層20および第三層30を有し、第一層10、第二層20および第三層30は、この順で重なっている。第二層20は第一層10と接している。
【0019】
本発明の一態様に係る積層体1は、第一層10、第二層20および第三層30の三層構造であり、第一層10と第二層20との間に他の層を有していない。このため、例えば、特許文献1に記載の積層体のように、第一層10と第二層20との間に他の層を有している積層体と比較して、積層体1は、製造工程を簡略化でき、且つ製造コストを下げることができるという利点を有している。また、積層体1は、粘着性を有する第三層30を有しているので、被着体への積層体1の貼付けおよび被着体からの積層体1の剥離が可能である。従って、積層体1は、被着体への接着性と再剥離性との両方が要求されるトレーサビリティラベルとして使用することができる。
【0020】
ここで、積層体1に対するレーザーマーキングについて説明する。まず、レーザー光を、積層体1の第一層10側から照射する。照射したレーザー光は、第一層10を透過し、第二層20に作用する。第二層20は発色顔料を含む樹脂組成物から形成されているので、第二層20におけるレーザー光が照射された部位では、発色顔料が発色し、且つレーザー光の熱によって樹脂が炭化する。第二層20における発色および炭化した部分が、レーザーマーキングラベルにおける印字部となる。印字部は、第二層20における黒色に変じた領域である。このように、発色顔料を含む発色層をフィルム内部に含み、当該発色層をレーザー照射によって発色させるタイプのレーザーマーキングラベルを、特に、内部発色タイプのレーザーマーキングラベルと称する場合がある。なお、本明細書中では、「レーザーマーキング」は、文字や符号等の意味のある情報を積層体1に書き付ける行為のみに限定されず、積層体1の第二層20の少なくとも一部をレーザー光の照射によって発色させる行為全般が、「レーザーマーキング」と称される。
【0021】
以下に、積層体1の各層について説明する。
【0022】
[第一層10]
第一層10は、レーザー光を透過する層である。なお、本明細書では、第一層10を表面層と称する場合がある。
【0023】
第一層10としては、光学的に透明なフィルムが用いられる。前記「光学的に透明」とは、例えば、レーザー光の透過率が50%以上であり、且つ可視光の透過率が80%以上であることを意味する。第一層10における可視光の透過率が十分に高いと、レーザーマーキング後の積層体1を第一層10側から平面視した場合に、その下位層である第二層20を第一層10越しに十分に視認することが可能となる。基材フィルムのレーザー光の透過率および可視光の透過率は、例えば、公知の分光光度計を用いて測定することができる。
【0024】
第一層10としての基材フィルムの材料として用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれでもよい。より具体的には、第一層10としての基材フィルムの材料として用いられる樹脂は、例えば、(メタ)アクリル系共重合体、ビニルブチラール樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(TPU)である。これらの樹脂は、透明性、耐熱性、および取扱い性に優れている。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。
【0025】
上述の樹脂の中でも、特に、レーザー光を十分に透過でき、且つ取扱い性および耐熱性が良好であることから、基材フィルムの材料として用いられる樹脂は、ポリエステル系樹脂が好適である。第一層10としての基材フィルムがポリエステル系樹脂で構成されることにより、積層体1の汎用性を高めることができ、且つ精細なレーザーマーキングを実現することができる。
【0026】
ポリエステル系樹脂は、レーザーマーキング時の熱による変形を抑制する観点から、芳香族エステル系樹脂であることが好ましい。芳香族エステル系樹脂は、透明樹脂であることが、レーザー光照射時の熱による変形を抑制する観点からより好ましい。
【0027】
芳香族エステル系樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート(PEN)が含まれる。中でも、前述の観点から、芳香族エステル系樹脂はポリエチレンテレフタレート(PET)であることがより好ましい。
【0028】
第一層10の厚さは、特に制約はないが、耐薬品性や耐摩耗性の観点から、厚さが厚い方がより好ましい。第一層10の厚さの上限は、作業性やコストの観点から適宜設定すればよい。例えば、積層体1を被着体に貼り合わせる際の作業性(例えば、取扱い性)が良好になる観点から、第一層10の厚さは、10μm以上、200μm以下の範囲であることが好ましい。
【0029】
また、第一層10としての基材フィルムの材料として用いられる樹脂は、印字読み取り性および再剥離性を損なわない範囲で、各種添加剤を含んでもよい。このような添加剤は、例えば、分散剤、光安定剤、熱安定剤、可塑剤、フィラー、着色剤である。
【0030】
[第二層20]
第二層20は、レーザー光によって発色する。なお、本明細書では、第二層20を発色層20と称する場合がある。
【0031】
第二層20は、アクリル系共重合体、イソシアネート系架橋剤、発色顔料および白色顔料を含む樹脂組成物からなる。
【0032】
第二層20の厚さは、特に制約はないが、15μm以上、70μm以下であることが好ましい。第二層20の厚さが15μm以上であれば、レーザー光に対する耐貫通性および印字性が向上する。また、第二層20の厚さが70μm以下であれば、第二層20の生産性が向上する。
【0033】
(アクリル系共重合体)
本明細書において、「アクリル系共重合体」は、(メタ)アクリル酸およびその誘導体をモノマーとする重合体であり、コポリマーである。「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルの一方または両方を意味する。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を意味する。さらに、「(メタ)アクリルモノマー」は、アクリル酸、その誘導体、メタクリル酸およびその誘導体の少なくともいずれかを意味する。
【0034】
アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル単量体、および水酸基を有する(メタ)アクリル単量体を主たる単量体成分とすることが好ましい。また、さらにカルボキシル基を有する(メタ)アクリル単量体を単量体成分としてもよい。
【0035】
アクリル系共重合体の主たる単量体成分となる(メタ)アクリル単量体の例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-メトキシ(メタ)アクリレート、2-エトキシ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートおよびテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートが含まれる。これらアクリル単量体成分は、一種でもそれ以上でもよい。
【0036】
主たる単量体成分となる(メタ)アクリル単量体の含有量は、80%以上、99%以下の範囲内であることが好ましい。また、アクリル系共重合体は、水酸基を有する(メタ)アクリル単量体を1%以上、20%未満含んでいることが好ましい。さらに、水酸基を有する(メタ)アクリル単量体を3%以上17%未満含んでいることにより、より好適に、イソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基との架橋構造を形成できる。
【0037】
水酸基を有する(メタ)アクリル単量体の例には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-メチル-3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチル-3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチル-3-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-3-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが含まれる。水酸基を有する(メタ)アクリル単量体は、一種でもそれ以上でもよい。アクリル系共重合体は、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル単量体を含んでもよい。
【0038】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル単量体の例には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グルタコン酸およびシトラコン酸が含まれる。これらの単量体は、一種でもそれ以上でもよい。
【0039】
アクリル系共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、共重合可能な単量体を含んでいてもよく、当該単量体には、例えば、酢酸ビニル、ビニルエーテル、アクリロニトリル、およびスチレン等が挙げられる。
【0040】
アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5,000以上、1,000,000以下の範囲内であることが好ましい。アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)が、5,000以上であれば、フィルムが脆くなりにくいという効果を奏する。また、アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)が、1,000,000以下であれば、製膜性に優れるという効果を奏する。
【0041】
また、アクリル系共重合体のガラス転移温度Tgは、0℃以上、100℃以下であることが好ましい。アクリル系共重合体のガラス転移温度Tgが0℃以上であれば、フィルムとしての製膜性が良い(タックが出ない)という効果を奏する。また、アクリル系共重合体のガラス転移温度Tgが100℃以下であればフィルムの作業性が良く、脆くなりにくいという効果を奏する。なお、アクリル系共重合体を複数種類混合して用いる場合は、混合後のアクリル系共重合体混合物のガラス転移温度Tgが上記範囲となることが好ましい。
【0042】
アクリル系共重合体の重合様式は、特に限定されず、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合またはグラフト共重合であり得る。
【0043】
アクリル系共重合体の具体例としては、例えば、後述する実施例で使用したアクリル系共重合体の市販品であるKP-1876E(商品名:ニッセツ(登録商標)、日本カーバイド工業社製)、H-4002(根上工業社製)等が挙げられる。
【0044】
(イソシアネート系架橋剤)
イソシアネート系架橋剤は、(i)芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤、または(ii)脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物、から選択される。
【0045】
イソシアネート系架橋剤は、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤であることが好ましく、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤は、キシレンジイソシアネート(XDI)系架橋剤であることがより好ましい。
【0046】
イソシアネート系架橋剤として芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤を選択することにより、本発明の一態様に係る積層体に、良好な印字読み取り性および再剥離性を付与することができる。
【0047】
(i)芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤
本明細書において、前記「芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤」とは、芳香脂肪族イソシアネート化合物に由来する架橋剤が意図される。芳香脂肪族イソシアネート化合物に由来する架橋剤には、芳香脂肪族イソシアネート化合物の単量体に加えて、例えば、芳香脂肪族イソシアネート化合物の二量体若しくは三量体、つまり、ウレトジオン若しくはイソシアヌレート;芳香脂肪族イソシアネート化合物とポリオール樹脂とのプレポリマー;(a)芳香脂肪族イソシアネート化合物と、(b)プロピレングリコール(2官能アルコール)、ブチレングリコール(2官能アルコール)、トリメチロールプロパン(TMP,3官能アルコール)、グリセリン(3官能アルコール)、ペンタエリスリトール(4官能アルコール)等の多価アルコール化合物、尿素化合物等と、のアダクト体;芳香脂肪族イソシアネート化合物のビウレット体、等が挙げられる。
【0048】
前記「芳香脂肪族イソシアネート化合物」は、分子中に、イソシアネート基と芳香環とがアルキレン基を介して結合した構造を有しているものが意図される。このような芳香脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、分子中に、イソシアネート基と芳香環とがメチレン基を介して結合した構造を有しているものが挙げられる。分子中に、イソシアネート基と芳香環とがメチレン基を介して結合した構造を有している芳香脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、o-キシレンジイソシアネート(XDI)、m-キシレンジイソシアネート(XDI)、p-キシレンジイソシアネート(XDI)、等が挙げられる。
【0049】
芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤の市販品としては、例えば、タケネート(登録商標) D-131N(三井化学社製)、タケネート(登録商標) D-110N(三井化学社製)等が挙げられる。
【0050】
上述のとおり、XDI系架橋剤は、イソシアネート基と芳香環がメチレン基を介して結合した芳香脂肪族イソシアネートであるので、芳香族イソシアネートと、脂肪族または脂環族イソシアネートとの両方の特性を併せ持つ。この特性から、XDI系架橋剤を用いることで、芳香族イソシアネートの特徴として、樹脂間の結合を強固にすることができ、表面層である第一層10と発色層である第二層20との密着性を向上させることができ、かつ、脂肪族または脂環族イソシアネートの特徴として、樹脂フィルムの脆化が起こりにくいという効果を奏する。その結果、トリレンジイソシアネート(TDI)系架橋剤に代表される通常の芳香族イソシアネート化合物のみを架橋剤として用いる場合よりも、XDI系架橋剤を用いることで、樹脂の靭性を上げることができ、再剥離性能を向上させることができる。さらには、XDI系架橋剤は芳香環を有しているので、レーザー光照射時の熱による樹脂の炭化が起こりやすい。その結果、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系架橋剤に代表される通常の脂肪族または脂環族イソシアネート化合物のみを架橋剤として用いる場合よりも、XDI系架橋剤を用いることで、レーザーマーキング性が向上する。
【0051】
第二層20に用いられる樹脂組成物中の芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤の含有量は、前記アクリル系共重合体100質量部に対して、5質量部以上、40質量部以下であることが好ましい。第二層20に用いられる樹脂組成物中の芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤の含有量が、前記アクリル系共重合体100質量部に対して5質量部以上であることで、表面層である第一層10と発色層である第二層20との密着性が良好となる。また、第二層20に用いられる樹脂組成物中の芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤の含有量が、前記アクリル系共重合体100質量部に対して40質量部以下であることで、発色層である第二層20の脆化を抑制することができる。これにより、第一層10と第二層20との間に中間層を設けずとも、レーザーマーキング時の第二層20における粉塵の発生を抑制し、且つ第一層10と第二層20との密着性および第二層20の靭性を向上させることができる。
【0052】
芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。また、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤の効果を損なわない範囲で、他の架橋剤を含んでいてもよい。他の架橋剤としては、例えば、メラミン系架橋剤、ベンゾグアナミン系架橋剤、尿素系架橋剤、金属キレート系架橋剤、オルガノシラン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、酸無水物系架橋剤等が挙げられる。
【0053】
(ii)脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物
本発明の一態様に係る積層体においては、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤と同等の効果を奏する範囲において、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤の代わりに、脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物を含むことができる。脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物を使用することにより、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤と同じく、芳香族イソシアネートの特徴として、樹脂間の結合を強固にすることができ、表面層である第一層10と発色層である第二層20との密着性を向上させることができ、かつ、脂肪族または脂環族イソシアネートの特徴として、樹脂フィルムの脆化が起こりにくいという効果を奏することができる。
【0054】
ここで、本明細書において、前記「脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤」とは、脂肪族または脂環族イソシアネート化合物に由来する架橋剤が意図される。脂肪族または脂環族イソシアネート化合物に由来する架橋剤には、脂肪族または脂環族イソシアネート化合物の単量体に加えて、例えば、脂肪族または脂環族イソシアネート化合物の二量体若しくは三量体、つまり、ウレトジオン若しくはイソシアヌレート;脂肪族または脂環族イソシアネート化合物とポリオール樹脂とのプレポリマー;(a)脂肪族または脂環族イソシアネート化合物と、(b)プロピレングリコール(2官能アルコール)、ブチレングリコール(2官能アルコール)、トリメチロールプロパン(TMP,3官能アルコール)、グリセリン(3官能アルコール)、ペンタエリスリトール(4官能アルコール)等の多価アルコール化合物、尿素化合物等と、のアダクト体;脂肪族または脂環族イソシアネート化合物のビウレット体、等が挙げられる。
【0055】
前記「脂肪族または脂環族イソシアネート化合物」は、炭素数1~1000程度の脂肪族化合物にイソシアネート基が結合されていればよい。このような脂肪族または脂環族イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘプタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,4-シクロヘキサンビスメチルイソシアネートのような水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、4,4-メチレンビスシクロヘキシルイソシアネートのような水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)等の脂肪族または脂環族イソシアネート化合物が挙げられる。
【0056】
脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤の市販品としては、例えば、コロネート(登録商標) HK(東ソー株式会社製)、コロネート(登録商標)HX(東ソー株式会社製)、デスモジュール(登録商標) N3300(住化コベストロウレタン株式会社製)等が挙げられる。
【0057】
また、本明細書において、前記「芳香族イソシアネート系架橋剤」とは、芳香族イソシアネート化合物に由来する架橋剤が意図される。芳香族イソシアネート化合物に由来する架橋剤には、芳香族イソシアネート化合物の単量体に加えて、例えば、芳香族イソシアネート化合物の二量体若しくは三量体、つまり、ウレトジオン若しくはイソシアヌレート;芳香族イソシアネート化合物とポリオール樹脂とのプレポリマー;(a)芳香族イソシアネート化合物と、(b)プロピレングリコール(2官能アルコール)、ブチレングリコール(2官能アルコール)、トリメチロールプロパン(TMP,3官能アルコール)、グリセリン(3官能アルコール)、ペンタエリスリトール(4官能アルコール)等の多価アルコール化合物、尿素化合物等と、のアダクト体;芳香族イソシアネート化合物のビウレット体、等が挙げられる。
【0058】
前記「芳香族イソシアネート化合物」は、炭素数1~1000程度の芳香族化合物にイソシアネート基が結合されていればよい。このような芳香族イソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリメリックMDI、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族イソシアネート化合物が挙げられる。
【0059】
芳香族イソシアネート系架橋剤の市販品としては、例えば、コロネート(登録商標) L45E(東ソー株式会社製)、タケネート(登録商標) D-204(三井化学社製)等が挙げられる。
【0060】
脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物を用いる場合、その混合比は、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤と同等の効果を奏する範囲で設定することが好ましい。例えば、脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤の、芳香族イソシアネート系架橋剤に対する重量比は、0.1~10であり、0.5~2であることが好ましい。脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤の、芳香族イソシアネート系架橋剤に対する重量比が上記範囲であれば、芳香族イソシアネートと、脂肪族または脂環族イソシアネートとの両方の特性をバランスよく発揮することができる。
【0061】
脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物を用いる場合は、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤を用いる場合と同じく、脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物の含有量は、前記アクリル系共重合体100質量部に対して、5質量部以上、40質量部以下であることが好ましい。脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物の含有量が、前記アクリル系共重合体100質量部に対して5質量部以上であることで、表面層である第一層10と発色層である第二層20との密着性が良好となる。また、脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物の含有量が、前記アクリル系共重合体100質量部に対して40質量部以下であることで、発色層である第二層20の脆化を抑制することができる。
【0062】
脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物において、脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤および芳香族イソシアネート系架橋剤は、それぞれの架橋剤を1種類ずつ混合してもよく、また複数種類を併用して用いてもよい。また、脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物の効果を損なわない範囲で、他の架橋剤を含んでいてもよい。他の架橋剤としては、例えば、メラミン系架橋剤、ベンゾグアナミン系架橋剤、尿素系架橋剤、金属キレート系架橋剤、オルガノシラン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、酸無水物系架橋剤等が挙げられる。
【0063】
(発色顔料)
発色顔料としては、例えば、ビスマス化合物、銅化合物、モリブデン化合物、鉄化合物、ニッケル化合物、クロム化合物、ジルコニウム化合物、ネオジム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、マイカおよびスズ化合物を用いることができる。これらの中でも、ビスマス化合物、銅化合物、モリブデン化合物およびアンチモン化合物からなる群から選ばれる1種以上を発色顔料として用いることが好ましい。これらの発色顔料は、レーザーマーキング時の発色が優れるため、レーザーマーキング時のレーザーの出力を従来よりも低く設定することができる。その結果、レーザーマーキング時の発塵が抑制され、第一層10と第二層20と間での発塵による膨れが起きず、レーザーマーキング部の読み取り性がより良好となる。これらの発色顔料は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。
【0064】
特に、レーザーマーキングによる発色時の黒色性に優れることから、ビスマス化合物は、酸化ビスマス(III)(Bi2O3)であることがより好ましい。
【0065】
第二層20に用いられる樹脂組成物中の発色顔料の含有量は、第二層20に用いられる樹脂組成物100質量%に対して、0.2質量%以上、4.0質量%以下であることが好ましい。発色顔料の含有量が、第二層20に用いられる樹脂組成物100質量%に対して、0.2質量%以上であれば、発色顔料が十分量含まれているので、レーザーマーキング時に適切に発色し、レーザーマーキング部の読み取り性が良好となる。
【0066】
また、発色顔料の含有量が、第二層20に用いられる樹脂組成物100質量%に対して、4.0質量%以下であれば、レーザーマーキング時の発塵が抑制できるため、第一層10と第二層20と間での発塵による膨れも起きない。その結果、レーザーマーキング後の積層体1の外観が良好となるとともに、レーザーマーキング部の読み取り性が良好となる。
【0067】
(白色顔料)
白色顔料としては、各種の無機顔料を用いることができる。例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(亜鉛華)、塩基性硫酸鉛、硫化亜鉛、および酸化アンチモン等の白色顔料を挙げることができる。また、白色顔料としては、硫酸バリウム、炭酸バリウム、沈降性炭酸カルシウム、珪藻土、タルク、クレー、塩基性炭酸マグネシウム、およびアルミナホワイト等であってもよい。中でも、白色顔料としては、酸化チタン(TiO2)が好ましい。酸化チタン(TiO2)は、白色度が優れているため、印字部の黒色と、非印字部の白色とのコントラストを高くすることができ、その結果、印字部の読み取り性が良好となる。
【0068】
第二層20に用いられる樹脂組成物中の白色顔料の含有量は、発色顔料の含有量に基づき決定することが好ましい。具体的には、白色顔料の、発色顔料に対する重量比が、3以上、35以下であることが好ましい。白色顔料の、発色顔料に対する重量比が3以上であれば、印字部の黒色と、非印字部の白色とのコントラストを高くすることができ、印字部の読み取り性が良好となる。また、白色顔料の、発色顔料に対する重量比が35以下であれば、発色顔料の発色性の低下を防ぐことができる。
【0069】
(その他)
さらに第二層20に用いられる樹脂組成物は、印字読み取り性および再剥離性を損なわない範囲で、各種添加剤を含んでもよい。このような添加剤は、例えば、分散剤、光安定剤、熱安定剤、可塑剤、タッキファイヤー、フィラー、着色剤である。
【0070】
第二層20に用いられる樹脂組成物において、前記白色顔料は、可塑剤で分散した白色顔料を用いることが好ましい。これにより、第二層20に用いられる樹脂組成物における白色顔料の分散性が良好となる。前記可塑剤としては、例えば、ポリエーテルグリコール系可塑剤またはポリエステル系可塑剤が挙げられる。
【0071】
第二層20に用いられる樹脂組成物は、レベリング剤を含んでいることが好ましい。これにより、積層体1の製造において、第二層20に用いられる樹脂組成物を第一層10に塗工して第二層20を形成する際に、第二層20に用いられる樹脂組成物の塗工性が良好となる。レベリング剤としては、例えば、アクリル系のレベリング剤が挙げられる。
【0072】
[第三層30]
第三層30は粘着性を有している。なお、本明細書では、第三層30を粘着剤層30と称する場合がある。
【0073】
第三層30に用いる粘着剤は、樹脂板、金属板、ガラス板等の被着体と接着可能であり、且つ被着体から剥離することができればよい。具体的には、第三層30に用いる粘着剤は、接着力が、0.1N/25mm以上、40N/25mm以下であり、好ましくは0.3N/25mm以上、30/25mm以下である。粘着剤の接着力が0.1N/25mm以上であれば、被着体との密着性が得られる。また、粘着剤の接着力が40N/25mm以下であれば、粘着剤の剥離性が良好となる。なお、上述した粘着剤の接着力は、後述する実施例に記載の方法によって測定した値をいう。
【0074】
第三層30は、樹脂組成物からなる。第三層30に用いられる樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、合成ゴム系粘着剤等が挙げられ、第二層20と第三層30との密着性を高めるという観点から、より好ましくは、(メタ)アクリル系粘着剤である。
【0075】
第三層30の厚さは、特に制約はないが、5μm以上、100μm以下の範囲であることが好ましい。第三層30の厚さが上記範囲であれば、積層体1を被着体に貼り合わせる際の作業性(例えば、取扱い性)が良好になる。
【0076】
また、第三層30に用いられる樹脂組成物は、印字読み取り性および再剥離性を損なわない範囲で、各種添加剤を含んでもよい。このような添加剤は、例えば、分散剤、光安定剤、熱安定剤、可塑剤、タッキファイヤー、フィラー、着色剤である。
【0077】
また、第三層30に用いられる樹脂組成物を芯材の両面に塗工して、第三層30を、粘着剤間に芯材を含む両面テープとすることも可能である。
【0078】
〔積層体1に対するレーザーマーキング方法〕
積層体1に対するレーザーマーキングは、レーザー光を、積層体1の第一層10側から照射することによって行うことができる。
【0079】
レーザーマーキングに用いるレーザーは、例えば、波長1000nm程度の近赤外レーザー;YVO4レーザー、YAGレーザー、ファイバレーザーを使用することができる。
【0080】
積層体1へのレーザーマーキングは、通常、積層体1を被着体に貼る前に行う。積層体1を被着体に貼り付けた後に、レーザーマーキングを行うことも可能であるが、この場合は、積層体1を貼り付けた被着体をレーザー照射によって傷つけないように、積層体1が十分な耐貫通性を有していることが好ましい。
【0081】
〔積層体1の製造方法〕
本発明の一態様に係る積層体1は、第一層10、第二層20、第三層30をこの順に重なるように配置、形成することにより製造することが可能である。例えば、積層体1は、第一層10の一方の面に、第二層20を形成する第二層形成工程と、前記第二層形成工程後の第二層20の、第一層10と接していない側の面に、第三層30を形成する第三層形成工程と、を少なくとも含む製造方法によって製造することが可能である。
【0082】
前記第二層形成工程は、第一層10としての基材フィルムの一方の面に、第二層20に用いられる樹脂組成物を塗布し、硬化させて第二層20を形成する工程であり得る。第二層20に用いられる樹脂組成物については、前記「第二層20」の項で説明したとおりである。積層体1の製造方法において、第二層20に用いられる樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されず、公知の塗布方法によって塗布することが可能である。このような塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、コンマコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スプレー塗装等が挙げられる。
【0083】
第二層20に用いられる樹脂組成物の硬化方法については、第二層20に用いられる樹脂組成物に含まれている樹脂、架橋剤等の種類に応じた公知の方法によって硬化させることが可能である。このような硬化方法としては、例えば、熱風による乾燥、および、オーブンまたはホットプレートなどの加熱装置による加熱等が挙げられる。
【0084】
前記第三層形成工程は、前記第二層形成工程後の第二層20の、第一層10と接していない側の面に、第三層30に用いられる樹脂組成物を塗布し、硬化させて第三層30を形成する工程であり得る。別の実施形態において、前記第三層形成工程は、第三層30に用いられる樹脂組成物を塗布し、硬化させて第三層30を形成し、その後、第三層30を、前記第二層形成工程後の第二層20の、第一層10と接していない側の面に貼り合わせる工程であり得る。第三層30に用いられる樹脂組成物については、前記「第三層30」の項で説明したとおりである。積層体1の製造方法において、第三層30に用いられる樹脂組成物の塗布方法、および第三層30に用いられる樹脂組成物の硬化方法についても、上述したような、公知の塗布方法および硬化方法によって行うことができる。
【0085】
積層体1の製造方法において、必要に応じて、さらに、第一層10を形成する第一層形成工程を、前記第二層形成工程の前に含んでいてもよい。
【0086】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る、積層体は、レーザーマーキングラベルに用いられる積層体であり、当該積層体は、レーザー光を透過する第一層と、前記レーザー光によって発色する第二層と、粘着性を有する第三層と、がこの順で重なっており、前記第二層は、アクリル系共重合体、イソシアネート系架橋剤、発色顔料および白色顔料を含む樹脂組成物からなり、前記イソシアネート系架橋剤は、(i)芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤、または(ii)脂肪族または脂環族イソシアネート系架橋剤と芳香族イソシアネート系架橋剤との混合物、から選択され、前記イソシアネート系架橋剤の含有量は、前記アクリル系共重合体100質量部に対して、5質量部以上、40質量部以下であり、前記第二層は前記第一層と接している構成である。
【0087】
上記の構成によれば、レーザーマーキング時の第二層における粉塵の発生が抑制され、且つ従来のレーザーマーキングラベルと比べて第一層と第二層との密着性および第二層の靭性が向上しているので、印字読み取り性および再剥離性が良好な積層体となり得る。
【0088】
本発明の態様2に係る積層体は、上記の態様1において、前記発色顔料は、酸化ビスマス、銅化合物、モリブデン化合物およびアンチモン化合物からなる群から選ばれる1種以上である構成としてもよい。
【0089】
上記の構成によれば、レーザーマーキング時の発色が優れるため、レーザーマーキング時のレーザーの出力を従来よりも低く設定することができる。その結果、レーザーマーキング時の発塵が抑制され、第一層と第二層と間での発塵による膨れが起きず、レーザーマーキング部の読み取り性がより良好となる。
【0090】
本発明の態様3に係る積層体は、上記の態様1または2において、前記発色顔料の含有量は、前記樹脂組成物100質量%に対して、0.2質量%以上、4.0質量%以下である構成としてもよい。
【0091】
上記の構成によれば、レーザーマーキング時に適切に発色し、レーザーマーキング部の読み取り性が良好となる。また、レーザーマーキング時の発塵が抑制できるため、第一層と第二層と間での発塵による膨れも起きない。その結果、レーザーマーキング後の積層体の外観が良好となるとともに、レーザーマーキング部の読み取り性が良好となる。
【0092】
本発明の態様4に係る積層体は、上記の態様1~3のいずれかにおいて、前記第二層の厚さが、15μm以上、70μm以下である構成としてもよい。
【0093】
上記構成によれば、第二層のレーザーに対する耐貫通性および印字性が向上すると共に、製造性が向上する。
【0094】
本発明の態様5に係る積層体は、上記の態様1~4のいずれかにおいて、前記白色顔料の、前記発色顔料に対する重量比が、3以上、35以下である構成としてもよい。
【0095】
上記構成によれば、印字部の黒色と、非印字部の白色とのコントラストを高くすることができ、印字部の読み取り性が良好となると共に、発色顔料の発色性の低下を防ぐことができる。
【0096】
本発明の態様6に係る積層体は、上記の態様1において、前記イソシアネート系架橋剤は、芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤である構成としてもよい。
【0097】
上記構成によれば、第一層と第二層との密着性および第二層の靭性を向上させることができると共に、レーザーマーキング性を向上させることができる。
【0098】
本発明の態様7に係る積層体は、上記の態様6において、前記芳香脂肪族イソシアネート系架橋剤は、キシレンジイソシアネート系架橋剤である構成としてもよい。
【0099】
上記構成によれば、第一層と第二層との密着性および第二層の靭性を向上させることができると共に、レーザーマーキング性を向上させることができる。
【0100】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0101】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0102】
〔発色層用樹脂組成物の調製〕
実施例1~3および比較例1~5の積層体における発色層(第二層に相当)を形成するために、以下の成分を表1に示す量で混合して、発色層用樹脂組成物を調製した。なお、表1中の各成分の質量部数は、発色層用樹脂組成物に含まれている各成分の固形分換算の質量部数を表す。
【0103】
(主剤)
以下の2種類のアクリル系共重合体を、固形分換算でKP-1876E/H4002=50.4質量部/49.6質量部となるように混合して、合計100質量部とした。
【0104】
・アクリル系共重合体 商品名:ニッセツ(登録商標) KP-1876E(日本カーバイド工業社製、固形分50.0%、MMA/EA/2HEMA=21/65/14、Tg=1℃、MW 120,000)
・アクリル系共重合体 商品名:H-4002(根上工業社製、固形分54.5%、MMA/nBMA/BA/2HEMA/AA=40/33.5/13.5/13/0.5、Tg=44℃、MW 10,000)
アクリル系共重合体混合物のTgは19.6℃であった。
【0105】
(架橋剤)
・XDI系架橋剤 商品名:タケネート(登録商標) D-131N(三井化学社製、固形分75.0%、NCO%=14.0%)
・TDI系架橋剤 商品名:コロネート(登録商標) L45E(東ソー株式会社製、固形分45%、NCO%=7.9%)
・HDI系架橋剤 商品名:コロネート(登録商標) HK(東ソー株式会社製、固形分100%、NCO%=20%)
・メラミン系架橋剤 商品名:MS-11(日本カーバイド工業株式会社製、固形分60.0%)
(発色顔料)
・酸化ビスマス系顔料 商品名:トマテック42-970A(東罐マテリアル・テクノロジー社製、固形分100%)
(白色顔料)
・酸化チタン系顔料 商品名:NX-501(大日精化工業社製、固形分79.0%)
(可塑剤)
・ポリエーテルグリコール系可塑剤 商品名:PTMG-1000(三洋化成工業社製、固形分100%)
(レベリング剤)
・アクリル系のレベリング剤 商品名:ポリフロー No.85HF(共栄社化学社製、固形分70.0%)
【0106】
【0107】
各発色層用樹脂組成物における、発色層用樹脂組成物100質量%に対する発色顔料の含有量(質量%)は、表1に示した通りである。
【0108】
〔粘着剤層用樹脂組成物の調製〕
本発明の一態様に係る積層体の第三層に相当する粘着剤層を形成するために、以下の成分を以下の量で混合して、粘着剤層用樹脂組成物を調製した。
【0109】
・アクリル系共重合体 商品名:ニッセツ(登録商標) KP-1405(日本カーバイド工業社製、固形分40.0%) 100質量部(固形分換算:100質量部)
・白色顔料 商品名:NX-501(大日精化工業社製、固形分79.0%) 7.6質量部(固形分換算:15.0質量部)
・HDI系架橋剤 商品名:スミジュール(登録商標) N-75(住化コベストロウレタン株式会社製、固形分75.0%) 0.5質量部(固形分換算:0.93質量部)
〔実施例1〕
実施例1の積層体を作製した。第一層に相当する透明表面層は、東洋紡社製、厚さ50μmのPETフィルム「A4360」を用いた。実施例1で使用した透明表面層の可視光領域ならびにレーザー光波長領域である1000nmでの透過率は89%であった。なお、レーザー光の透過率は、日立ハイテクサイエンス製分光光度計U-4100を使用し、スキャンスピード300nm/分、スリット4.0nmにて分光透過率を測定した。
【0110】
前記「発色層用樹脂組成物の調製」の項で作製した、発色層用樹脂組成物を、透明表面層に塗工後、145℃で3分間加熱乾燥することで、厚さが30μmの発色層を得た。得られた発色層は白色であった。
【0111】
次いで、前記「粘着剤層用樹脂組成物の調製」の項で作製した粘着剤層用樹脂組成物を、ポリエチレンコート剥離紙(SLK110W#6000、住化加工紙社製)に塗工後、90℃で3分間加熱乾燥することで、厚さが30μmの粘着剤層を得た。この粘着剤層の粘着面を前記発色層に貼り合わせて、実施例1のレーザーマーキング用積層体(以下、単に「積層体」と称する。)を得た。この粘着剤層の接着力は1.5N/10mmであった。なお、粘着剤層の接着力は、10mm幅の積層体をアルミ板に2kg荷重にて貼り付け、23℃、24時間放置後に、剥離角度180°、剥離速度300mm/分、測定温度23℃にて当該積層体をアルミ板から剥離することによって測定した。
【0112】
〔実施例2、3および比較例1~5〕
実施例2、3および比較例1~5の積層体の発色層を作製するために、それぞれ、表1に記載した実施例2、3および比較例1~5発色層用樹脂組成物を使用した。これ以外は、実施例1と同じ方法により、実施例2、3および比較例1~5の積層体を得た。
【0113】
<印字読み取り性および再剥離性の評価>
実施例1~3および比較例1~5の積層体の印字読み取り性および再剥離性を評価した。
【0114】
(1)印字読み取り性の評価方法
実施例および比較例の各積層体に以下の条件にてレーザーマーキングを行った。印字後に、各積層体をアルミ板に貼り付けて各試験片を作製した。その後、各試験片を、85℃、湿度85%の環境下に96時間投入後に、以下の条件にて読み取り試験を実施した。なお、85℃、湿度85%の促進環境は、トレーサビリティラベルが使用されることが想定される船便の環境を想定して設定した。
【0115】
(レーザーマーキング条件)
各試験片について、10mmの正方形内に、QRコード(登録商標)・モデル2、4型(33×33セル)のパターンである二次元バーコードを、FAYbレーザー(パナソニック デバイスSUNX社製、製品名:レーザーマーカーLP-Z130)を用いて、波長1064nmにてレーザーマーキングを行った。
【0116】
レーザーパワー:7.5
スキャンスピード:1500mm/s
印字パルス周期:20.0μs
線幅:0.070mm
(読み取り試験条件)
二次元バーコードリーダー(キーエンス社製、製品名:SR-600)を用いて、各試験片のマーキング部を10回読み取りして印字読み取り性を判定した。
【0117】
試験結果を表2に「可」または「不可」で表した。なお、試験結果を「可」または「不可」とする場合の評価基準は、以下のとおりである。
【0118】
可:10回とも読み取れる
不可:1回でも読み取れない
試験結果が「可」である積層体を合格品とした。
【0119】
(2)再剥離性の評価方法
実施例および比較例の各積層体に以下の条件にてレーザーマーキングを行った。印字後に、各積層体をアルミ板に貼り付けて各試験片を作製した。その後、各試験片を、85℃、湿度85%の環境下に96時間投入後に、以下の条件にて剥離試験を実施した。
【0120】
(レーザーマーキング条件)
各試験片について、短波長レーザーであるFAYbレーザー(パナソニック デバイスSUNX社製、製品名:レーザーマーカーLP-Z130)を用いて、波長1064nmにて15mmの正方形塗りつぶしパターンのレーザーマーキングを行った。レーザーマーキング条件は、前記「(1)印字読み取り性の評価方法」の項で説明した条件と同一条件で行った。
【0121】
(剥離試験条件)
レーザーマーキング後の各試験片の角をピンセットでつまみ、剥離角度約120°、剥離時間1秒以内となるように剥離を実施した。
【0122】
試験結果を表2に「可」または「不可」で表した。なお、試験結果を「可」または「不可」とする場合の評価基準は、以下のとおりである。
【0123】
可:アルミ板になにも残らず、きれいに剥離できる
不可:アルミ板に基材フィルムが少しでも残る
試験結果が「可」である積層体を合格品とした。
【0124】
【0125】
<結果>
実施例1~3の積層体は、促進環境に投入後にも印字読み取り性および再剥離性に優れていた。
【0126】
一方、比較例2の積層体は、印字読み取り性が低下していた。具体的には、促進環境に投入後に印字の発色性が悪くなり、印字が薄くなった。これは、レーザー光によって還元された顔料が促進環境によって酸化された可能性が考えられた。
【0127】
比較例3および比較例4の積層体は、剥離の際に、透明表面層と発色層との間で剥離した。これらの積層体は、透明表面層と発色層との層間密着が悪いため、促進環境によって、界面が弱くなり、特にレーザーマーキングによって樹脂が炭化している部分から層間剥離が起こったと考えられた。
【0128】
比較例1および比較例5の積層体は、剥離の際に、透明表面層ごと発色層が破断された。
【0129】
以上の結果から、発色層用樹脂組成物中に所定量のXDI系架橋剤を含むことによって、得られた積層体が良好な印字読み取り性と再剥離性とを有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、トレーサビリティラベルとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 積層体
10 第一層(表面層)
20 第二層(発色層)
30 第三層(粘着剤層)