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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】作業機械および制御システム
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20230622BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
E02F9/20 N
E02F9/26 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020028362
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021131004
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】森木 秀一
(72)【発明者】
【氏名】成川 理優
(72)【発明者】
【氏名】井村 進也
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065657(JP,A)
【文献】特開2007-019733(JP,A)
【文献】特開2019-056246(JP,A)
【文献】特開2008-248653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の作業機械や作業員との協働作業を行う作業機械において、
前記作業機械を動作させる駆動装置と、
前記作業機械に関する情報の前記作業機械の内外での共有を行う協調機能装置と、
前記作業機械の動作を制御する動作制御信号を演算し、前記駆動装置へ出力するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記協調機能装置に異常がある場合には、前記作業機械の動作を制限するように前記駆動装置へ出力される前記動作制御信号を制限するとともに、前記作業機械が前記協働作業中である場合には、前記協働作業を行っていない場合よりも前記作業機械の動作の制限度合いが強くなるように前記動作制御信号を制限することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、
前記協調機能装置は、前記作業機械の外部との情報の授受を行う通信装置、前記作業機械の周囲の物体を検知する周囲検知装置、前記作業機械の動作状態を前記作業機械の外部に報知する状態報知装置、及び、前記周囲検知装置の検知結果に基づいて前記作業機械の外部に警報を報知する警報装置のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記協調機能装置に異常がある場合であって、かつ、前記作業機械が動作中でない場合には、前記協働作業を行っていない場合よりも前記作業機械の動作の制限度合いが強くなるように前記動作制御信号を制限することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記作業機械の作業対象となる範囲として予め定められた作業領域と、前記作業機械の可動範囲との比較結果に基づいて、前記作業機械が協働作業中であるか否かを判定することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
他の作業機械や作業員との協働作業を行う作業機械の動作を制御する制御システムにおいて、
前記作業機械を動作させる駆動装置と、前記作業機械の動作を制御する動作制御信号を演算し、前記駆動装置へ出力するコントローラとを有する作業機械と、
前記作業機械に関する情報の前記作業機械の内外での共有を行う協調機能装置とを備え、
前記コントローラは、前記協調機能装置に異常がある場合には、前記作業機械の動作を制限するように前記駆動装置へ出力される前記動作制御信号を制限するとともに、前記作業機械が前記協働作業中である場合には、前記協働作業を行っていない場合よりも前記作業機械の動作の制限度合いが強くなるように前記動作制御信号を制限することを特徴とする制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の制御システムにおいて、
前記協調機能装置は、前記作業機械の周囲の物体を検知する周囲検知装置、前記周囲検知装置の検知結果に基づいて前記作業機械の外部に警報を報知する警報装置、及び、前記作業機械が協働作業を行っているか否かを判定する判定装置のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械および制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
遠隔操作される作業機械と運搬車両とが配備される作業現場において通信障害に鑑みて運搬車両を制御する技術として、例えば、特許文献1には、操作信号に基づいて動作する作業機械と、前記作業機械の外部に設けられ、前記操作信号を送信する操作装置と、前記作業機械により積み込まれた積荷を運搬する運搬車両と、前記操作装置と前記作業機械との間の通信に障害を検出した場合に、前記運搬車両に走行抑制指示信号を送信する制御装置とを備える作業システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-65657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、操作装置と作業機械との間の通信に障害が生じた場合に、走行抑制指示信号として停止指示信号や減速信号を送信して運搬車両を停止または減速させることで、作業機械と運搬車両の接触を防止している。
【0005】
しかしながら、例えば、作業機械に搭乗したオペレータが操作を行う場合や自律作業を行う場合において、作業を行う機能が正常である場合には、作業の遂行について通信の障害が問題にならない場合がある。すなわち、このような場合には、通信の障害に対する作業機械の停止や減速は過剰な制御であり、作業効率の不要な低下を招いてしまう。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、作業機械の過度な動作制限を抑制することにより、作業効率の不要な低下を抑制することができる作業機械および制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、他の作業機械や作業員との協働作業を行う作業機械において、前記作業機械を動作させる駆動装置と、前記作業機械に関する情報の前記作業機械の内外での共有を行う協調機能装置と、前記作業機械の動作を制御する動作制御信号を演算し、前記駆動装置へ出力するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記協調機能装置に異常がある場合には、前記作業機械の動作を制限するように前記駆動装置へ出力される前記動作制御信号を制限するとともに、前記作業機械が前記協働作業中である場合には、前記協働作業を行っていない場合よりも前記作業機械の動作の制限度合いが強くなるように前記動作制御信号を制限するものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業機械の過度な動作制限を抑制することにより、作業効率の不要な低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
図2】第1の実施の形態に係るコントローラの処理機能の一部を関連構成とともに抜き出して示す機能ブロック図である。
図3】通信部で抽出される作業情報の一例である数値データを示す図である。
図4】作業情報から得られる立体形状の一例を示す図である。
図5】協働作業判定部における協働作業判定処理の処理内容を示すフローチャートである。
図6】作業領域と油圧ショベルの可動範囲との関係の一例を示す図である。
図7】動作制限部における動作制限処理の処理内容を示すフローチャートである。
図8】作業領域と通常の減速領域の関係の一例を示す図である。
図9】作業領域と拡大した減速領域の関係の一例を示す図である。
図10】第2の実施の形態に係るコントローラの処理機能の一部を関連構成とともに抜き出して示す機能ブロック図である。
図11】第2の実施の形態に係る管理サーバの処理機能の一部を関連構成とともに抜き出して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、作業機械の一例として油圧ショベルを例示して説明するが、作業現場において協働作業を行う他の作業機械においても本発明を適用することも可能である。
【0011】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を図1図9を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
【0013】
図1において、油圧ショベルM1は、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム11、アーム12、バケット(作業具)8)を連結して構成された多関節型のフロント作業機15と、車体を構成する上部旋回体10及び下部走行体9とを備え、上部旋回体10は下部走行体9に対して旋回可能に設けられている。また、フロント作業機15のブーム11の基端は上部旋回体10の前部に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム12の一端はブーム11の基端とは異なる端部(先端)に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム12の他端にはバケット8が垂直方向に回動可能に支持されている。ブーム11、アーム12、バケット8、上部旋回体10、及び下部走行体9は、油圧アクチュエータ(駆動装置)であるブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、及び左右の走行油圧モータ3(一方の走行油圧モータのみを図示)によりそれぞれ駆動される。
【0014】
オペレータが搭乗する運転室16には、種々の情報が表示されるモニタ(図示せず)のほか、油圧アクチュエータ3,4,5,6,7を操作するための操作信号を出力する操作レバー1c,1d(操作装置)、左右の走行油圧モータ3を操作するための操作信号を出力する走行操作レバー1a,1b(操作装置)、油圧ショベルM1の外部(例えば、管理事務所内の管理サーバや制御装置など)との情報の授受を無線通信により行う通信装置44、油圧ショベルM1の運転状態を切り換える運転切換スイッチ40、油圧ショベルM1の全体の動作を制御するコントローラ100などが設けられている。
【0015】
図示はしないが操作レバー1c,1dはそれぞれ前後左右に傾倒可能であり、レバーの傾倒量、すなわちレバー操作量を電気的に検知する図示しない検出装置を含み、検出装置が検出したレバー操作量を操作信号として制御装置であるコントローラ100に電気配線を介して出力する。つまり、操作レバー1c,1dの前後方向または左右方向に、油圧アクチュエータ3,4,5,6,7の操作がそれぞれ割り当てられている。
【0016】
運転切換スイッチ40は、油圧ショベルM1の運転状態をオペレータの操作によって手動運転と自動運転とで選択的に切り換えるスイッチである。運転切換スイッチ40で手動運転が選択されている場合には、オペレータによる操作装置(操作レバー1c,1d、走行操作レバー1a,1b)の操作に応じて作業機械が動作する。また、運転切換スイッチ40で自動運転が選択されている場合には、通信装置44で受信する通信信号に含まれる情報(作業情報、作業開始指示、作業モード、などの情報)に基づいて作業機械が自動で動作する。
【0017】
運転室16の上部には、油圧ショベルM1の運転状態を周囲に報知する状態報知装置41が配置されている。状態報知装置41は、例えば、油圧ショベルM1の運転状態に応じた色の発光を行う、又は、運転状態に応じた発光状態(点灯、点滅など)とすることで、周囲に運転状態を報知する。
【0018】
また、運転室16の上部および上部旋回体10の後部の左右には、油圧ショベルM1の周囲の物体を検知する検知センサ42a,42b,42c(周囲検知装置)がそれぞれ設けられている。また、上部旋回体10の上部には、コントローラ100の制御により、検知センサ42a,42b,42cの検知結果に応じて油圧ショベルM1の周囲に警報を発報する警報装置43が設けられている。検知センサ42a,42b,42cは、例えば、物体の位置を検出するLiDAR装置(Light Detection and Ranging:光検出と測距装置)である。なお、検知センサ42a,42b,42cは、物体の位置を検知することができればよく、例えば、ミリ波レーダや赤外線センサ、カメラ等を用いてもよい。また、警報装置43は、検知センサ42a,42b,42cによって、油圧ショベルM1の周囲に予め定めた範囲(検知範囲)に物体(例えば、作業員)が検知された場合に、周囲に注意を促す、或いは、検知範囲からの退避を促す警報を報知するものである。
【0019】
ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、及び左右の走行油圧モータ3の動作制御は、エンジン14(又は、電動モータなど)の原動機によって駆動される油圧ポンプ装置2から各油圧アクチュエータ3,4,5,6,7に供給される作動油の方向及び流量をコントロールバルブ20で制御することにより行う。コントロールバルブ20の動作制御は、図示しない電磁比例弁を有しており、図示しないパイロットポンプからコントロールバルブ20に出力されるパイロット圧を制御する電磁比例弁をコントローラ100から出力される車体制御信号(動作制御信号)により駆動することにより行う。
【0020】
上部旋回体10、ブーム11の上部旋回体10との連結部近傍、アーム12のブーム11との連結部近傍、及びバケット8のアーム12との連結部近傍には、それぞれ、姿勢センサとして慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)13a,13b,13c,13dが配置されている。以降、これらの慣性計測装置を区別する必要が有る場合は、それぞれ、ブーム慣性計測装置13a、アーム慣性計測装置13b、バケット慣性計測装置13c、及び車体慣性計測装置13dと称する。
【0021】
慣性計測装置13a,13b,13c,13dは、角速度及び加速度を計測するものである。慣性計測装置13a,13b,13c,13dが配置された上部旋回体10や各被駆動部材8,11,12が静止している場合を考えると、各慣性計測装置13a,13b,13c,13dに設定されたIMU座標系における重力加速度の方向(つまり、鉛直下向き方向)と、各慣性計測装置13a,13b,13c,13dの取り付け状態(つまり、各慣性計測装置13a,13b,13c,13dと上部旋回体10や各被駆動部材8,11,12との相対的な位置関係)とに基づいて、各被駆動部材8,11,12向き(対地角度:水平方向に対する角度)、及び、上部旋回体10の前後方向の対地角度(ピッチ角)や左右方向の対地角度(ロール角)を姿勢に関する情報として検出することができる。ここで、慣性計測装置13a,13b,13c,13dは、複数の被駆動部材8,11,12及び上部旋回体10のそれぞれの姿勢に関する情報(以降、姿勢情報と称する)を検出する姿勢情報検出装置を構成している。
【0022】
なお、本実施の形態においては、姿勢情報検出装置として慣性計測装置13a,13b,13c,13dを例示して説明したが、これに限られず、例えば、慣性計測装置13a,13b,13c,13dに代えて傾斜角センサを用いても良い。また、慣性計測装置13a,13b,13cに代えて各被駆動部材8、11、12の連結部分にポテンショメータを配置し、上部旋回体10や各被駆動部材8、11、12の相対的な向き(姿勢情報)を検出し、検出結果から各被駆動部材8、11、12の姿勢(水平面に対する角度)を求めても良い。また、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、及びバケットシリンダ7にそれぞれストロークセンサを配置し、ストローク変化量から上部旋回体10や各被駆動部材8、11、12の各接続部分における相対的な向き(姿勢情報)を算出し、その結果から各被駆動部材8、11、12の姿勢(水平面に対する角度)を求めるように構成しても良い。
【0023】
油圧ショベルM1は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を備えており、上部旋回体10の上部にはGNSS用の受信アンテナ(GNSSアンテナ)18a,18bが配置されている。GNSSとは複数の測位衛星からの測位信号を受信し、地球上の自己位置を知ることができる衛星測位システム(測位装置)のことである。GNSSアンテナ18a,18bは、地球上空に位置する複数の測位衛星からの測位信号を受信するものであり、得られた測位信号に基づいて図示しないGNSS受信機で演算を行うことにより、GNSSアンテナ18a,18bの地球座標系における位置を取得することができる。油圧ショベルM1に対するGNSSアンテナ18a,18bの搭載位置は予め分かっているので、GNSSアンテナ18a,18bの地球座標系における位置を取得することで、施工現場の基準点に対する油圧ショベルM1の位置や向き(方位角)を位置情報として取得することができる。
【0024】
コントローラ100は、油圧ショベルM1の全体の動作を制御するものであり、操作装置1a,1b,1c,1dからの操作信号、GNSSアンテナ18a,18b(GNSS受信機)からの位置情報、慣性計測装置13a,13b,13c,13dからの姿勢情報、運転切換スイッチ40からの運転切換信号、通信装置44からの通信信号、および検知センサ42a、42b、42cからの周囲検知信号に基づいて、コントロールバルブ20に車体制御信号を出力し、状態報知装置41に状態報知信号を出力し、警報装置43に警報信号を出力する。
【0025】
ここで、状態報知装置41、検知センサ42a,42b,42c、警報装置43、及び通信装置44の少なくとも1つは、作業機械である油圧ショベルM1に関する情報の作業機械の内外での共有を行う協調機能装置を構成する。
【0026】
図2は、油圧ショベルに搭載されるコントローラの処理機能の一部を関連構成とともに抜き出して示す機能ブロック図である。
【0027】
図2において、コントローラ100は、コントローラ100は、状態管理部110、状態報知部120、通信部130、運転制御部140、周囲検知部150、警報部160、協働作業判定部170、及び動作制限部180を有している。
【0028】
状態管理部110は、運転切換スイッチ40からの運転切換信号に応じて、油圧ショベルM1の運転状態を手動運転と自動運転とで選択的に切り換える。すなわち、状態管理部110は、運転切換スイッチ40で選択された運転状態が手動運転と自動運転の何れの状態であるかを判定し、判定した運転状態を状態報知部120及び運転制御部140に出力する。
【0029】
状態報知部120は、状態管理部110からの運転状態に応じて状態報知装置41へ状態報知信号を出力する。状態報知装置41は、例えば、状態報知信号に応じた色を点灯することで、油圧ショベルM1の運転状態を周囲に報知する。
【0030】
また、状態報知部120は、状態報知装置41の異常(状態報知機能の異常)を検知する機能を有しており、例えば、状態報知装置41の動作に異常がないか否か、或いは、状態報知装置41との間の配線に断線がないか否かを判定し、判定結果を動作制限部180に出力する。異常の判定方法には種々のものが考えられるが、例えば、状態報知部120と状態報知装置41とを接続する信号線の電圧値や電流値が所定の範囲から外れていないか否か、或いは、状態報知装置41からのチェック信号(例えば、CAN通信におけるArrival信号)が正常であるか否かなどにより判定することができる。なお、本実施の形態においては、状態報知装置41が正常であると判定した場合に、その判定結果(状態報知正常判定)を動作制限部180に出力し、異常であると判定した場合には、動作制限部180には信号を出力しないものとする。
【0031】
通信部130は、通信装置44で受信した通信信号から、作業情報、作業開始指示、及び、作業モードなどの情報を抽出し、コントローラ100の各部へ出力するものである。具体的には、通信部130は、作業情報を運転制御部140、協働作業判定部170、及び動作制限部180に出力し、作業開始指示を運転制御部140に出力し、作業モードを運転制御部140、及び協働作業判定部170に出力する。
【0032】
また、通信部130は、通信装置44による通信途絶などの異常(通信機能の異常)を検知する機能を有しており、例えば、通信装置44の動作に異常がないか否か、或いは、通信装置44との間の配線に断線がないか否かを判定し、判定結果を動作制限部180に出力する。異常の判定は、例えば、状態報知部120と同様の方法を用いることができる。なお、本実施の形態においては、通信装置44が正常であると判定した場合に、その判定結果(通信正常判定)を動作制限部180に出力し、異常であると判定した場合には、動作制限部180には信号を出力しないものとする。
【0033】
図3は、通信部で抽出される作業情報の一例である数値データを示す図である。また、図4は、作業情報から得られる立体形状の一例を示す図である。
【0034】
図3に示すように、作業情報の数値データは、作業領域や設計面を構成する複数の面を作業現場に設定された座標系における3点の座標でそれぞれ示すものである。図3の作業情報を3次元に表すことで、図4に示すような立体形状を得ることができる。作業情報は、作業領域WAと設計面DFとを含んでいる。作業領域WAは、油圧ショベルM1が動作することを許可された2次元の領域情報である。また、設計面DFは、施工対象の目標形状を示す3次元の面情報である。
【0035】
通信部130で抽出される作業モードの情報は、油圧ショベルM1の自動運転時に、運転制御部140において作業内容に応じた動作パターンを生成するための指示として用いられるものである。作業モードには、設計面に応じた形状を掘削するための整形モード、掘削した土をダンプトラックに積込むための積込モードなどがある。
【0036】
周囲検知部150は、検知センサ42a,42b,42cからの検知結果基づいて、油圧ショベルM1の周囲における物体の有無や、物体が有る場合のその位置などの情報を周囲情報として演算し、運転制御部140、及び警報部160に出力する。
【0037】
また、周囲検知部150は、検知センサ42a、42b、42cの異常(検知機能の異常)を検知する機能を有しており、例えば、検知センサ42a、42b、42cの動作に異常がないか否か、或いは、検知センサ42a、42b、42cとの間の配線に断線がないか否かを判定し、判定結果を動作制限部180に出力する。異常の判定は、例えば、状態報知部120と同様の方法を用いることができる。なお、本実施の形態においては、検知センサ42a、42b、42cが正常であると判定した場合に、その判定結果(周囲検知正常判定)を動作制限部180に出力し、異常であると判定した場合には、動作制限部180には信号を出力しないものとする。
【0038】
運転制御部140は、状態管理部110からの運転状態に応じて目標動作を演算し動作制御信号として動作制限部180を介してコントロールバルブ20に出力するものである。運転制御部140は、運転状態が手動運転の場合には、操作装置1a,1b,1c,1dからの操作信号に応じて油圧ショベルM1の目標動作を生成して出力する。また、運転制御部140は、運転状態が自動運転の場合には、通信部130からの作業情報、作業モード、及び作業開始指示に応じて、油圧ショベルM1の目標動作を生成して出力する。
【0039】
また、運転制御部140は、GNSSアンテナ18a,18b(GNSS受信機)からの位置情報と、慣性計測装置13a~13dからの姿勢情報と、周囲検知部150からの周囲情報とに応じて出力する目標動作(動作制御信号)を補正する。例えば、自動運転時において、設計面に基づき演算したバケットの目標軌跡と位置姿勢情報から演算したバケットの実施の軌跡の誤差が小さくなるように公知のフィードバック制御を行っても良いし、周囲情報に含まれる検知物体の位置を避けるようにバケットの目標軌跡を補正しても良い。また、手動運転時においても、検知物体の位置が油圧ショベルM1に近いほど、油圧ショベルM1の動作速度を低下させるようにしても良い。
【0040】
警報部160は、周囲検知部150からの周囲情報に応じて、警報装置43へ警報信号を出力する。具体的には、油圧ショベルM1の周囲に設定された検知範囲で物体を検知した場合に、油圧ショベルM1の内外に警報を報知するための警報信号を警報装置43に出力する。
【0041】
また、警報部160は、警報装置43の異常(警報機能の異常)を検知する機能を有しており、例えば、警報装置43の動作に異常がないか否か、或いは、警報装置43との間の配線に断線がないか否かを判定し、判定結果を動作制限部180に出力する。異常の判定は、例えば、状態報知部120と同様の方法を用いることができる。なお、本実施の形態においては、警報装置43が正常であると判定した場合に、その判定結果(警報正常判定)を動作制限部180に出力し、異常であると判定した場合には、動作制限部180には信号を出力しないものとする。
【0042】
協働作業判定部170は、通信部130からの作業情報及び作業モードと、GNSS受信機18からの位置情報とに基づいて、油圧ショベルM1が協働作業中であるか否かを判定し、判定結果(協働作業判定)を動作制限部180へ出力する。本実施の形態においては、油圧ショベルM1の周囲で他の作業機械や作業員が油圧ショベルM1と協働するための何らかの作業を行うことを協働作業と定義する。
【0043】
動作制限部180は、状態報知部120からの状態報知正常判定、通信部130からの通信正常判定と作業情報、協働作業判定部170からの協働作業判定、周囲検知部150からの周囲検知正常判定、及び警報部160からの警報正常判定に基づいて、運転制御部140からコントロールバルブ20に送られる動作制御信号(目標動作)を制限する。動作制限部180で制限された動作制御信号を車体制御信号と称する。
【0044】
図5は、協働作業判定部における協働作業判定処理の処理内容を示すフローチャートである。
【0045】
図5において、協働作業判定部170は、まず、バケット8が予め定めた作業領域WAの外部へ到達可能か否かを判定し(ステップS100)、判定結果がYESの場合には、協働作業中であると判定し(ステップS130)、処理を終了する。
【0046】
図6は、作業領域と油圧ショベルの可動範囲との関係の一例を示す図である。
【0047】
バケット8が予め定めた作業領域WAの外部へ到達可能か否かの判定は、図6に示すように、作業領域WAと油圧ショベルM1の可動範囲MAとを比較することで判定することができる。例えば、図6に示す場合には、可動範囲MAが作業領域WAの外側へはみ出てしており、バケット8が予め定めた作業領域WAの外部へ到達可能であると判定することができる。この場合には、作業領域WAのすぐ外側で他の作業機械や作業員が作業を行っている可能性があることから、協働作業中であると判定する。
【0048】
図5に戻り、ステップS100での判定結果がNOの場合、すなわち、バケット8が予め定めた作業領域WAの外部へ到達可能ではないと判定した場合には、作業モードが積込モードであるか否かを判定し(ステップS110)、判定結果がYESの場合には、協働作業中であると判定し(ステップS130)、処理を終了する。積込作業においては、ダンプトラックなどの他の機械へ掘削対象を積込む可能性が高いため、協働作業中であると判定している。なお、積込モード以外でも他の機械が油圧ショベルM1の周囲に存在する可能性が高い作業であれば協働作業中であると判定しても良い。
【0049】
また、ステップS110での判定結果がNOの場合、すなわち、作業モードが積込モードではない、他の作業モードである場合には、協働作業中ではないと判定し(ステップS120)、処理を終了する。
【0050】
図7は、動作制限部における動作制限処理の処理内容を示すフローチャートである。
【0051】
図7において、動作制限部180は、まず、状態報知機能が正常か否かと(ステップS200)、警報機能が正常か否かと(ステップS210)、通信機能が正常か否かと(ステップS220)、検知機能は正常か否かとを判定し(ステップS230)、ステップS200~S230の判定結果が全てYESの場合には、通常の減速領域での減速制御を行い(ステップS240)、処理を終了する。
【0052】
図8は、作業領域と通常の減速領域の関係の一例を示す図である。
【0053】
図8において、減速領域DA1は、作業領域WAの外周に沿ってその内側に設けられている。減速制御とは、油圧ショベルM1の少なくとも一部(例えばバケット8)が減速領域DA1において移動する場合に、作業領域WAの境界線に近づくほど動作速度を小さくすることで、油圧ショベルM1が作業領域から逸脱することを防止する制御である。動作速度の制限は、動作制限部180によって動作制御信号を制限することにより行う。
【0054】
図7に戻り、ステップS200~S230の何れかでの判定結果がNOの場合、すなわち、状態報知機能、警報機能、通信機能、及び検知機能のうち少なくとも1つの機能に異常があると判定した場合には、油圧ショベルM1が動作中であるか否かと(ステップS201)、協働作業中であるか否かとを判定する(ステップS202)。ステップS201における判定では、例えば、制御周期における1周期前の車体制御信号が所定値以上である場合に動作中であると判定する。
【0055】
ステップS201,S202の両方の判定結果がYESの場合、すなわち、油圧ショベルM1が動作中であって、かつ、協働作業中ではない場合には、油圧ショベルM1の移動を制限する(停止、或いは、減速する)ように動作制御信号を制限し(ステップS203)、さらに、拡大した減速領域での減速制御を行い(ステップS204)、処理を終了する。
【0056】
図9は、作業領域と拡大した減速領域の関係の一例を示す図である。
【0057】
図9において、拡大した減速領域DA2は、通常の減速領域DA1よりも作業領域WAの内側に向かって拡大して設けられている。減速領域DA2による減速処理では、減速領域DA1による減速処理に比べて、作業領域WAの外周からより遠い位置において油圧ショベルM1の速度の減速が行われるため、より確実に油圧ショベルM1が作業領域から逸脱することを防止することができる。また、減速領域DA2による減速処理では、油圧ショベルの動作速度が平均して遅くなる(緩やかになる)と言うことができる。
【0058】
図7に戻り、ステップS201,S202の少なくとも何れか一方の判定結果がNOの場合、すなわち、油圧ショベルM1が動作中ではない、或いは、協働作業中である場合には、フロント作業機15の動作を制限する(停止、或いは、減速する)ように動作制御信号を制限し(ステップS205)、ステップS203,S204の処理を経て処理を終了する。
【0059】
以上のように構成した本実施の形態の効果を説明する。
【0060】
従来技術においては、操作装置と作業機械との間の通信に障害が生じた場合に、走行抑制指示信号として停止指示信号や減速信号を送信して運搬車両を停止または減速させることで、作業機械と運搬車両の接触を防止する。しかしながら、作業機械に搭乗したオペレータが操作を行う場合や自律作業を行う場合において、作業を行う機能が正常である場合には、作業の遂行について通信の障害が問題にならない場合がある。すなわち、このような場合には、通信の障害に対する作業機械の停止や減速は過剰な制御であり、作業効率の不要な低下を招いてしまう。
【0061】
これに対して本実施の形態においては、他の作業機械や作業員との協働作業を行う油圧ショベルM1において、油圧ショベルを動作させる油圧アクチュエータ(駆動装置)であるブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、及び左右の走行油圧モータ3と、油圧ショベルM1に関する情報の油圧ショベルM1の内外での共有を行う協調機能装置(状態報知装置41、検知センサ42a,42b,42c、警報装置43、及び通信装置44)と、油圧ショベルM1の動作を制御する動作制御信号を演算し、駆動装置へ出力するコントローラ100とを備え、コントローラ100は、協調機能装置に異常がある場合には、油圧ショベルM1の動作を制限するように駆動装置へ出力される動作制御信号を制限するとともに、油圧ショベルM1が協働作業中である場合には、協働作業を行っていない場合よりも油圧ショベルM1の動作の制限度合いが強くなるように動作制御信号を制限するように構成したので、作業機械の過度な動作制限を抑制することにより、作業効率の不要な低下を抑制することができる。
【0062】
すなわち、状態報知機能、警報機能、通信機能、検知機能のいずれかが正常でない場合であっても、動作中であって協働作業中でない場合には、フロント作業機15による作業を継続することが可能である(過度な動作制限を行わない)ため、作業効率の不要な低下を抑制することができる。
【0063】
また、動作停止中または協働作業中である場合、すなわち、他の作業機械や作業員が油圧ショベルM1の周囲にいる可能性がある場合には、フロント作業機15の動作を制限することができる。
【0064】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を図10及び図11を参照しつつ説明する。
【0065】
本実施の形態は、第1の実施の形態におけるコントローラ100の機能部のうち、周囲検知部150(検知センサ42a,42b,42cを含む)、警報部160(警報装置43を含む)、及び協働作業判定部170の少なくとも1つの機能を油圧ショベルM1の外部(例えば、管理事務所内の管理サーバなど)に設けて制御システムを構成する場合を示すものである。
【0066】
図10及び図11は、本実施の形態に係る制御システムの処理機能を示す図であり、図10は油圧ショベルに搭載されるコントローラの処理機能の一部を関連構成とともに抜き出して示す機能ブロック図、図11は管理サーバの処理機能の一部を関連構成とともに抜き出して示す図である。図中、第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0067】
図10において、コントローラ100Aは、状態管理部110、状態報知部120、通信部130、運転制御部140、及び動作制限部180を有している。
【0068】
運転制御部140は、GNSSアンテナ18a,18b(GNSS受信機)からの位置情報と、慣性計測装置13a~13dからの姿勢情報と、通信装置44及び通信部130を介して管理サーバ200から送られる周囲情報とに応じて出力する目標動作(動作制御信号)を補正する。
【0069】
動作制限部180は、状態報知部120からの状態報知正常判定と、通信部130からの通信正常判定及び作業情報と、通信装置44及び通信部130を介して管理サーバ200から送られる協働作業判定、周囲検知正常判定、及び警報正常判定とに基づいて、運転制御部140からコントロールバルブ20に送られる動作制御信号(目標動作)を制限する。
【0070】
また、図11において、管理サーバ200は、通信部130A、周囲検知部150、警報部160、及び協働作業判定部170、作業モード設定部210、及び作業情報記憶部220を有している。
【0071】
通信部130Aは、通信装置244で受信した通信信号から、油圧ショベルM1に設けられたGNSSアンテナ18a,18b(GNSS受信機)によって得られた位置情報を抽出し、協働作業判定部へ出力するとともに、管理サーバ200の周囲検知部150で得られた周囲情報及び周囲検知正常判定と、警報部160で得られた警報正常判定と、協働作業判定部170で得られた協働作業判定とを通信装置244を介して油圧ショベルM1に出力するものである。
【0072】
周囲検知部150は、油圧ショベルM1の外部(例えば、油圧ショベルM1の周囲であって、作業範囲を検知範囲とする位置)に設けられた1つ以上の検知センサ242からの検知結果基づいて、油圧ショベルM1の周囲における物体の有無や、物体が有る場合のその位置などの情報を周囲情報として演算し、通信部130A及び警報部160に出力する。また、周囲検知部150は、周囲検知正常判定の結果を通信部130Aに出力する。
【0073】
警報部160は、周囲検知部150からの周囲情報に応じて、警報装置43へ警報信号を出力する。また、警報部160は、警報正常判定の結果を通信部130Aに出力する。
【0074】
協働作業判定部170は、作業モード設定部210で設定された作業モードと、作業情報記憶部220に記憶された作業情報と、通信部130Aを介して得られる油圧ショベルM1の位置情報とに基づいて、油圧ショベルM1が協働作業中であるか否かを判定し、判定結果(協働作業判定)を通信部130Aへ出力する。
【0075】
警報装置242は、油圧ショベルM1の周囲や管理サーバ200が設置される管理事務所などに設置されており、コントローラ100A及び管理サーバ200の制御により、検知センサ242の検知結果に応じて油圧ショベルM1の周囲および管理事務所の管理者に警報を発報するものである。
【0076】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0077】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1a,1b,1c,1d…操作装置、2…油圧ポンプ装置、3…走行油圧モータ、4…旋回油圧モータ、5…ブームシリンダ、6…アームシリンダ、7…バケットシリンダ、8…バケット、9…下部走行体、10…上部旋回体、11…ブーム、12…アーム、13a,13b,13c,13d…慣性計測装置(IMU)、14…エンジン、15…フロント作業機、16…運転室、18a,18b…GNSSアンテナ、20…コントロールバルブ、40…運転切換スイッチ、41…状態報知装置、42a,42b,42c,242…検知センサ、43,243…警報装置、44,244…通信装置、100,100A…コントローラ、110…状態管理部、120…状態報知部、130,130A…通信部、140…運転制御部、150…周囲検知部、160…警報部、170…協働作業判定部、180…動作制限部、200…管理サーバ、210…作業モード設定部、220…作業情報記憶部、DA1,DA2…減速領域、DF…設計面、M1…油圧ショベル、MA…可動範囲、WA…作業領域
図1
図2
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図4
図5
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