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  • 特許-固体電解質接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】固体電解質接合体
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230622BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230622BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230622BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20230622BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M8/12 101
H01M8/1246
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020500546
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2019005290
(87)【国際公開番号】W WO2019160019
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018024558
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城 勇介
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大山 旬春
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 康博
(72)【発明者】
【氏名】八島 勇
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 和夫
(72)【発明者】
【氏名】塩田 忠
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔一
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/111110(WO,A1)
【文献】DEVELOS-BAGARINAO, Katherine et al.,"Effect of La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ microstructure on oxygen surface exchange kinetics",Solid State Ionics,2016年,Vol.288,pp.6-9
【文献】CRUMLIN, Ethan J. et al.,"Oxygen Electrocatalysis on Epitaxial La0.6Sr0.4CoO3-δ Perovskite Thin Films for Solid Oxide Fuel Cells",Journal of The Electrochemical Society,2012年,Vol.159, No.7,pp.F219-F225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 8/12
H01M 8/1246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導性を有する多結晶の固体電解質と、該固体電解質に接して積層され且つ酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導電極層とが接合されてなり、
前記固体電解質を構成する材料のc軸と、前記混合伝導電極層を構成する材料のc軸とが、いずれも、該固体電解質と該混合伝導電極層との積層方向に沿って配向しており、
前記固体電解質がアパタイト型複合酸化物である、固体電解質接合体。
【請求項2】
前記混合伝導電極層が多結晶である請求項1に記載の固体電解質接合体。
【請求項3】
前記固体電解質が、一般式:A9.33+x[T6.00-y]O26.0+z(式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表され、式中のxは-1.00以上1.00以下の数であり、式中のyは0.40以上3.00以下の数であり、式中のzは-3.00以上2.00以下の数であり、Mのモル数に対するAのモル数の比率が3.00以上26.0以下である複合酸化物を含む請求項1又は2に記載の固体電解質接合体。
【請求項4】
酸化物イオン伝導性を有する多結晶の固体電解質と、該固体電解質に接して積層され且つ酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導電極層とが接合されてなり、
前記固体電解質を構成する材料と、前記混合伝導電極層を構成する材料とが、いずれも、該固体電解質と該混合伝導電極層との積層方向に沿って一軸配向しており、
前記混合伝導電極層の(010)の面間隔が4.54Å以上5.04Å以下である、固体電解質接合体。
【請求項5】
酸化物イオン伝導性を有する多結晶の固体電解質と、該固体電解質に接して積層され且つ酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導電極層とが接合されてなり、
前記固体電解質を構成する材料と、前記混合伝導電極層を構成する材料とが、いずれも、該固体電解質と該混合伝導電極層との積層方向に沿って一軸配向しており、
前記混合伝導電極層がペロブスカイト型酸化物であり、
前記ペロブスカイト型酸化物の空間群がR-3cである、固体電解質接合体。
【請求項6】
酸化物イオン伝導性を有する多結晶の固体電解質と、該固体電解質に接して積層され且つ酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導電極層とが接合されてなり、
前記固体電解質を構成する材料と、前記混合伝導電極層を構成する材料とが、いずれも、該固体電解質と該混合伝導電極層との積層方向に沿って一軸配向しており、
前記混合伝導電極層は、La、Sr、Co及びNiを含む複合酸化物である、固体電解質接合体。
【請求項7】
前記固体電解質に接合している前記混合伝導電極層の前記積層方向に沿う厚みが100nm以上である請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項8】
前記固体電解質接合体において、前記混合伝導電極層が配置されている面と反対側の面に金属電極が配置されている請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項9】
酸化物イオン伝導性を有する多結晶の固体電解質と、該固体電解質に接して積層され且つ酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導電極層とが接合されてなり、
前記固体電解質を構成する材料と、前記混合伝導電極層を構成する材料とが、いずれも、該固体電解質と該混合伝導電極層との積層方向に沿って一軸配向しており、
前記固体電解質接合体において前記混合伝導電極層が配置されている面と反対側の面に、前記混合伝導電極層と同一の又は異なる混合伝導電極層が配置されている、固体電解質接合体。
【請求項10】
酸素透過素子、酸素センサ又は固体電解質型燃料電池として用いられる請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質の接合体に関する。本発明の固体電解質接合体は、その酸素イオン伝導性を利用した様々な分野に利用される。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性の固体電解質が種々知られている。かかる固体電解質は、例えば酸素透過素子、燃料電池の電解質、及びガスセンサなどとして様々な分野で用いられている。例えば特許文献1には、一般式:La1-XSrGa1-YMg(式中、X=0.05~0.3、Y=0.025~0.3)で表される成分組成を有し、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物イオン伝導体からなる電気化学セル用電解質膜が記載されている。この電解質膜は、膜面に垂直方向に成長し膜表面まで成長した柱状晶組織を有している。膜表面まで成長した柱状晶組織は、112方向が膜面に対して垂直方向に配向している。
【0003】
特許文献2には、LaSiOを主成分とする第1の層とLaSiを主成分とする第2の層とを接触させた接合界面の近傍に、アパタイト型の結晶構造を有するランタンケイ酸塩が生成され、そのランタンケイ酸塩の結晶が、元の接合界面に対して、c軸が垂直方向に沿って配向している結晶配向セラミックスが記載されている。
【0004】
特許文献3には、アノード側電極とカソード側電極との間にアパタイト型複合酸化物からなる固体電解質が介装された電解質・電極接合体が記載されている。カソード側電極と固体電解質との間には、酸化物イオン伝導が等方性を示す中間層が介装されている。中間層は、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム又はランタンがドープされた酸化セリウムからなる。固体電解質は、LaSi1.5X+12(8≦X≦10)からなる。この電解質・電極接合体によれば、固体酸化物形燃料電池の発電性能が向上すると、同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-10411号公報
【文献】国際公開2012/015061号公報
【文献】特開2013-51101号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1ないし3に記載のとおり、酸化物イオン伝導性の固体電解質を利用したデバイスは種々提案されているものの、デバイス全体で評価した場合、固体電解質が本来的に有している酸化物イオン伝導性を十分に引き出しているとは言えなかった。
【0007】
したがって本発明の課題は、固体電解質が本来的に有している酸化物イオン伝導性を十分に活用できるデバイスを提供することにある。
【0008】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討したところ、酸化物イオン伝導性の固体電解質に特定の状態となるよう材料を接合させて接合体となすことで、固体電解質が本来的に有している酸化物イオン伝導性を十分に引き出し得ることを知見した。
【0009】
本発明の固体電解質接合体は前記知見に基づきなされたものであり、酸化物イオン伝導性を有する多結晶の固体電解質と、該固体電解質に接して積層され且つ酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導電極層とが接合されてなり、
前記固体電解質を構成する材料と、前記混合伝導電極層を構成する材料とが、いずれも、該固体電解質と該混合伝導電極層が積層方向に沿って一軸配向している。このような固体電解質接合体を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の固体電解質接合体を用いたデバイスの一実施形態を示す厚み方向に沿う断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1に示すとおり、本発明の固体電解質接合体10は、固体電解質からなる層(以下「固体電解質層」という。)11を備えている。固体電解質層11は、所定の温度以上で酸化物イオン伝導性を有する固体電解質からなる。固体電解質層11の一面には、該固体電解質層11に接して積層された混合伝導性を有する電極層(以下「混合伝導電極層」という。)12が接合されている。図1に示す実施形態においては、固体電解質層11と混合伝導電極層12が直接接しており、両者間に他の層は介在していない。混合伝導電極層12は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する材料からなる。これら固体電解質層11及び混合伝導電極層12から固体電解質接合体10が構成されている。
【0012】
図1に示すとおり、固体電解質層11の2つの面のうち、混合伝導電極層12が配置されている面と反対側の面には、更に金属電極13が配置されていてもよい。この場合、固体電解質層11、混合伝導電極層12及び金属電極13がこのような順序で配置されていることによりデバイス20が構成される。図1に示す実施形態においては、固体電解質層11と金属電極13とは直接に接しており、両者間に他の層は介在していない。
【0013】
図1においては、固体電解質層11と混合伝導電極層12とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば固体電解質層11と混合伝導電極層12とは同じサイズであってもよい。固体電解質層11と金属電極13に関しても同様であり、両者は同じサイズであってもよく、あるいは例えば金属電極13よりも固体電解質層11のサイズの方が大きくなっていてもよい。
【0014】
本発明者の検討の結果、固体電解質接合体10において、固体電解質層11に混合伝導電極層12を接合することで、固体電解質層11と混合伝導電極層12との間の電気抵抗を大きく低減させ得ることが判明した。また、デバイス20における電気抵抗を低減させるためには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を高めることがまず重要であると考えられるが、酸化物イオン伝導性の高い材料を用いてデバイス20を構成すると、デバイス20全体での電気抵抗が高くなる傾向にあることが判った。特に、固体電解質層として、酸化物イオン伝導性の高い材料の一つである、ランタンの酸化物を含む固体電解質層を用いた場合、電気抵抗が高くなり、固体電解質接合体10中の酸素透過速度が低下する傾向にあるとの知見が得られた。この理由は現在のところ明確でないが、固体電解質層と、それに隣接して配される電極又は混合伝導電極層との界面の電気抵抗が高いことに起因しているのではないかと本発明者は考えている。
【0015】
デバイス20における電気抵抗の増大、及びそれに起因する酸素透過速度の低下の問題を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、酸化物イオン伝導性を有する層である固体電解質層11に隣接して配される層として、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導電極層12を採用し、且つ固体電解質層11を構成する材料と、混合伝導電極層12を構成する材料とが、いずれも、固体電解質層11と混合伝導電極層12との積層方向に沿って一軸配向していることが有効であることが判明した。これによって、デバイス20の低温作動化を図ることができ、あるいは高い酸素透過量を有するデバイス20を得ることができる。これに対して、固体電解質層11を構成する材料、及び/又は混合伝導電極層12を構成する材料が無配向である場合や、両層の結晶が配向している場合であっても、それらの配向方向のいずれかでも積層方向に一致していない場合には、固体電解質層11と混合伝導電極層12との間の界面における電気抵抗が高くなってしまい、高い酸化物イオン伝導性を示すものとはならない。
【0016】
固体電解質層11を構成する材料と、混合伝導電極層12を構成する材料を、前記積層方向に沿っていずれも一軸配向させるためには、例えば、基板となる固体電解質層11を300℃~700℃に加熱しながら、酸素分圧をコントロールした雰囲気で、物理気相蒸着法や化学気相蒸着法など利用し、固体電解質層11上に混合伝導電極層12の薄膜を形成し、局所的にエピタキシャル成長させればよい。また、原子層堆積法(ALD)を用い、固体電解質層11上に、混合伝導電極層12の一軸配向薄膜を形成することもできる。ただし、これらの手法に限定されるものではない。
【0017】
固体電解質層11を構成する材料と、混合伝導電極層12を構成する材料とが、いずれも一軸配向しているか否かは、接合界面のTEM(透過型電子顕微鏡)による断面観察から判断することができ、固体電解質層11及び混合伝導電極層12の格子定数や面間隔は、搖動させながらX線回折測定を行うことで得られる回折パターンから算出することができる。
【0018】
一層高い酸化物イオン伝導性を得る観点から、固体電解質層11を構成する材料のc軸と、混合伝導電極層12を構成する材料のc軸とが、いずれも、固体電解質層11と混合伝導電極層12との積層方向に沿って配向していることが好ましい。ここで、c軸が積層方向に沿って配向しているとは、多結晶体である固体電解質の個々の結晶におけるc軸の延びる方向と、層が積層する方向とが一致していることをいう。
【0019】
固体電解質層11は、酸化物イオンがキャリアとなる導電体である。固体電解質層11を構成する固体電解質としては多結晶の材料が用いられる。そのような材料としては、酸化物イオン伝導性を有する材料としてこれまで知られている種々の材料が挙げられる。例えば、イットリア安定化ジルコニウム(YSZ)や、ランタンガレート(LaGaO)、などが挙げられる。
【0020】
特に、固体電解質層11を構成する材料として、ランタンの酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる点から好ましい。ランタンの酸化物としては、例えばランタン及びガリウムを含む複合酸化物や、該複合酸化物にストロンチウム、マグネシウム又はコバルトなどを添加した複合酸化物、ランタン及びモリブデンを含む複合酸化物などが挙げられる。特に、酸化物イオン伝導性が高いことから、ランタン及びケイ素の複合酸化物からなる酸化物イオン伝導性材料を用いることが好ましい。
【0021】
ランタン及びケイ素の複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含むアパタイト型複合酸化物が挙げられる。アパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタンと、四価元素であるケイ素と、Oとを含有し、その組成がLaSi1.5x+12(Xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸化物イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物を固体電解質層11として用いる場合には、c軸を固体電解質層11の厚み方向と一致させることが好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.33Si26である。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0022】
固体電解質層11を構成する材料の別の例として、一般式(1):A9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zで表される複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物もアパタイト型構造を有するものである。式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。c軸配向性を高める観点から、MはB、Ge及びZnからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素であることが好ましい。
【0023】
式中のxは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、-1.00以上1.00以下であることが好ましく、0.00以上0.70以下であることが更に好ましく、0.45以上0.65以下であることが一層好ましい。式中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋める観点から、0.40以上3.00以下であることが好ましく、0.40以上2.00以下であることが更に好ましく、0.40以上1.00以下であることが一層好ましい。式中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-3.00以上2.00以下であることが好ましく、-2.00以上1.50以下であることが更に好ましく、-1.00以上1.00以下であることが一層好ましい。
【0024】
前記式中、Mのモル数に対するAのモル数の比率、言い換えれば前記式における(9.33+x)/yは、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、3.00以上26.0以下であることが好ましく、6.20以上26.0以下であることが更に好ましく、12.00以上16.0以下であることが一層好ましい。
【0025】
前記の一般式(1)で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.33+x[T6.00-yy]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+x、La9.33+x(Ge4.701.30)O26.0+zなどを挙げることができる。前記の一般式(1)で表される複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0026】
固体電解質層11の厚みは、固体電解質接合体10の電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上700μm以下であることが更に好ましく、100nm以上500μm以下であることが一層好ましい。この固体電解質層11の厚みは、例えば触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0027】
混合伝導電極層12は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する材料から構成されている。特に混合伝導電極層12は、触媒作用を有する材料から構成されていることが好ましい。ここでいう触媒作用とは、酸素分子(O)を酸化物イオン(O2-)に還元させる作用や、酸化物イオン(O2-)を酸素分子(O)に酸化させる作用のことである。そのような材料としては、例えばLaCoOやLaMnOなどの原子の一部を他原子で置換した、(La,Sr)MnO、(La,Sr)CoO、(La,Sr)(Co,Fe)Oなどが挙げられる。
【0028】
固体電解質接合体10においては、混合伝導電極層12を構成する材料と、上述した固体電解質層11を構成する材料とが、いずれも、固体電解質層11と混合伝導電極層12との積層方向に沿って一軸配向していることで、両層11,12間の界面における電気抵抗を低減させている。この利点を一層顕著なものとする観点から、両層11,12間の界面において、配向方向に対して直交する面の格子整合を図ることが有利である。例えば、各層11,12を構成する材料のc軸が前記積層方向に沿って配向している場合には、c軸に対して直交する面の格子整合が図られていることが好ましい。この場合、混合伝導電極層12のa軸若しくはb軸の格子定数又は各面間隔のいずれかが固体電解質層11のそれと整合すればよい。更に、固体電解質層11と混合伝導電極層12との整合が図られていない場合であっても、固体電解質接合体10を加熱することで、固体電解質層11の配向方向に対して直交する格子定数又は面間隔に応じて、混合伝導電極層12の格子定数又は面間隔を整合させることができ、それによって一軸配向した結晶を成長させることができる。この観点から、固体電解質層11を構成する材料のc軸に垂直な面の格子定数をaとし、混合伝導電極層12の(010)における面間隔をdとしたとき、aは9.28Å以上9.84Å以下であることが好ましい。また、dは4.54Å以上5.04Å以下であることが好ましく、4.60Å以上4.97Å以下であることが更に好ましく、4.64Å以上4.92Å以下であることが一層好ましい。
【0029】
固体電解質層11と混合伝導電極層12の格子定数及び面間隔dは、固体電解質層11に混合伝導電極層12を接合した後、搖動させながらX線回折測定を行うことで得られた回折ピークから算出した。そのときのX線回折測定条件は、Cu-Kα線を用い、回折角(2θ/θ)10°~140°、あおり角(χ搖動)は-5°~45°、面内回転(φ搖動)は0~360°とした。
【0030】
更に、試料に含まれる元素の種類や組成比が判明している場合には、ICSD (無機結晶構造データベース)などの、標準物質の回折データに基づき、格子定数aや面間隔dを算出することもできる。例えば、固体電解質層11の結晶形が六方晶であり格子定数aが9.60Åの場合、固体電解質層11の(110)面の面間隔は4.80Åである。混合伝導電極層12の(010)の面間隔がd=4.70Åの場合、c軸に対して直交する面の格子不整合が2.2%と低いため、固体電解質層11上に混合伝導電極層12が局所的にエピタキシャル成長すると考えられる。
【0031】
固体電解質層11と混合伝導電極層12との界面において、配向方向に対して直交する面の格子整合を図る観点から、混合伝導電極層12を構成する材料はペロブスカイト型酸化物であることが好ましい。特に、固体電解質層11を構成する材料が上述した一般式(1)で表されるものである場合に、混合伝導電極層12を構成する材料がペロブスカイト型酸化物であると、格子整合を首尾よく図ることができる。この場合、ペロブスカイト型酸化物の空間群がR-3cであると、格子の整合を一層首尾よく図ることができるので好ましい。
【0032】
特に、混合伝導電極層12を構成する材料として、一般式(2):ABOで表されるものを用いることが、酸化物イオン伝導性の更に一層の向上の観点から好ましい。式中、Aは、例えばLa、Sr、Ba、Caから選択される1種又は2種以上の金属元素を用いることが好ましく、特に好ましい金属元素はLa及びSrのうちの少なくとも1種である。Bは、例えば、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、Fe、Cuから選択される1種又は2種以上の金属元素を用いることが好ましく、特に好ましい金属元素はCo及びNiのうちの少なくとも1種である。とりわけ一般式(2)で表される材料は、La、Sr、Co及びNiを含む複合酸化物であることが好ましい。
【0033】
一般式(2)で表される複合酸化物のうち、特に好ましいものは、La0.6Sr0.4Co0.9Ni0.13-δで表されるものである。
【0034】
一般式(2)で表される複合酸化物からなる混合伝導電極層12は、例えば種々の薄膜形成法を用いて固体電解質層11の一面に形成することができる。薄膜形成法としては、物理気相蒸着法や化学気相蒸着法などが挙げられ、これらのうち物理気相蒸着法を用いると混合伝導電極層12を一層首尾よく形成することができる。物理気相蒸着法のうち、特にPLD(Pulsed Laser Deposition)法を用いることが好ましい。
【0035】
混合伝導電極層12は、所定の厚みを有すれば固体電解質層11との間での電気抵抗を効果的に低下させ得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、固体電解質層11に接合している混合伝導電極層12の積層方向に沿う厚みは80nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、100nm以上1000nm以下であることが一層好ましい。混合伝導電極層12の厚みは触針式段差計や電子顕微鏡によって測定することができる。
【0036】
固体電解質層11を挟んで混合伝導電極層12と反対側に形成される金属電極13は、形成が容易であり、且つ触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、例えば白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウム等が挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、金属電極13として、白金族の元素を含むサーメットを用いることもできる。
【0037】
図1に示す実施形態の固体電解質接合体10及びデバイス20は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば先に述べた特開2013-51101号公報や国際公開WO2016/111110に記載の方法を採用することができる。
【0038】
次いで固体電解質層11における2つの面のうちの一方に、混合伝導電極層12を形成する。混合伝導電極層12の形成には、例えば先に述べたPLD法を用いることができる。具体的には、固体電解質層11を構成する材料と、混合伝導電極層12を構成する材料とを、いずれも、該固体電解質層11と混合伝導電極層12との積層方向に沿って一軸配向させるために、先に述べたPLD法を用い、固体電解質層11の一面に混合伝導電極層12を形成するときに、該固体電解質層11を所定温度に加熱すればよい。加熱温度は、例えば600℃以上700℃以下に設定することが、一層首尾よく一軸配向させられる点から好ましい。
このようにして混合伝導電極層12を形成したら、固体電解質層11における混合伝導電極層12の形成面と反対側の面に金属電極13を形成する。金属電極13の形成には、例えば白金族の金属の粒子を含むペーストを用いる。該ペーストを固体電解質層11の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなる電極が形成される。焼成条件は、温度600℃以上、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0039】
以上の方法で目的とする固体電解質接合体10及びデバイス20が得られる。このようにして得られたデバイス20は、その高い酸化物イオン伝導性を利用して例えば酸素透過素子、酸素センサ又は固体電解質型燃料電池などとして好適に用いられる。デバイス20をどのような用途に用いる場合にも、混合伝導電極層12をカソードとして、すなわち酸素ガスの還元反応が起こる極として用いることが有利である。例えばデバイス20を酸素透過素子として使用する場合には、金属電極13を直流電源のアノードに接続するとともに、混合伝導電極層12を直流電源のカソードに接続して、混合伝導電極層12と金属電極13との間に所定の直流電圧を印加する。それによって、混合伝導電極層12側において酸素が電子を受け取り酸化物イオンが生成する。生成した酸化物イオンは固体電解質層11中を移動して金属電極13に達する。金属電極13に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスとなる。このような反応によって、固体電解質層11は、混合伝導電極層12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じて電極13側に透過させることが可能になっている。なお、必要に応じ、混合伝導電極層12の表面及び金属電極13の表面の少なくとも一方に、白金等の導電性材料からなる集電層を形成してもよい。
【0040】
印加する電圧は、酸素ガスの透過量を高める観点から、0.1V以上4.0V以下に設定することが好ましい。両極間に電圧を印加するときには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性が十分に高くなっていることが好ましい。例えば酸化物イオン伝導性が、伝導率で表して1.0×10-3S/cm以上になっていることが好ましい。このため、固体電解質層11を、又はデバイス20の全体を所定温度に保持することが好ましい。この保持温度は、固体電解質層11の材質にもよるが、一般に300℃以上600℃以下の範囲に設定することが好ましい。この条件下でデバイス20を使用することで、混合伝導電極層12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じて金属電極13側に透過させることができる。
【0041】
デバイス20を限界電流式酸素センサとして使用する場合には、混合伝導電極層12側で生成した酸化物イオンが、固体電解質層11を経由して金属電極13側に移動することに起因して電流が生じる。電流値は混合伝導電極層12側の酸素ガス濃度に依存するので、電流値を測定することで、混合伝導電極層12側の酸素ガス濃度を測定することができる。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、固体電解質層11の一面にのみ混合伝導電極層12を配したが、これに代えて、後述する実施例に記載されているとおり、固体電解質層11について混合伝導電極層12と対向する面に、別途の混合伝導電極層12を配してもよい。固体電解質層11について混合伝導電極層12と対向する面にこうした混合伝導電極層12を配する場合には、各混合伝導電極層12は同一のものであってもよく、あるいは異なるものであってもよい。この場合、固体電解質層11を構成する材料と、一方の混合伝導電極層12を構成する材料と、他方の混合伝導電極層12を構成する材料とが、いずれも、それらの積層方向に沿って一軸配向していることが好ましい。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
本実施例では、以下の(1)-(4)の工程に従い図1に示す構造の固体電解質接合体10及びデバイス20を製造した。
(1)固体電解質層11の製造
La23の粉体とSiO2の粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に700MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体を粉末X線回折測定及び化学分析に付したところ、La2SiO5の構造であることが確認された。
【0045】
得られたペレット800mgと、B23粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れて、電気炉を用い、大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB23蒸気を発生させるとともにB23蒸気とペレットとを反応させた後、更に1600℃の大気中でアニールをすることで、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.33+x[Si6.00-yy]O26.0+zにおいて、x=0.57、y=0.96、z=0.37であり、LaとBのモル比は10.03であった(以下、この化合物を「LSBO」と略称する。)。500℃における酸化物イオン伝導率は4.22×10-2S/cmであった。固体電解質層11の厚みは350μmであった。偏光顕微鏡観察から、この固体電解質層11は多結晶体から構成されていることが確認された。
【0046】
(2)混合伝導電極層12の製造
(1)で製造した固体電解質層11の一面に混合伝導電極層12を以下の手順で形成した。
固体電解質層11とターゲットとなるLa0.6Sr0.4Co0.9Ni0.13-δ(以下、この物質を「LSCNO」と略称する。)をPLD装置のチャンバー内へセットし、チャンバー内を真空引きしながら、600℃であらかじめ加熱を行った。その後、チャンバー内に酸素を導入し、5.5×10-4 torrとなるように雰囲気を制御した後、KrFエキシマレーザを用い、レーザアブションによって発生した蒸発粒子を固体電解質層11に堆積させることにより混合伝導電極層12を成膜した。このようにして得られた混合伝導電極層12は、固体電解質層11との界面のTEM断面観察により、多結晶体から構成されていることが確認された。また、固体電解質層11の(110)面と混合伝導電極層12の(010)面の間隔が一致しており、固体電解質層11を構成する材料のc軸と、混合伝導電極層12を構成する材料のc軸とが、いずれも積層方向に沿って配向していることが確認された。また、搖動しながらX線回折測定を行った結果、混合伝導電極層12は、空間群がR-3cであるペロブスカイト型酸化物であることが確認された。更に、回折パターンから得た格子定数を基に算出した、固体電解質層11の(110)面の面間隔は、4.80Åであり、混合伝導電極層12の(010)面の面間隔は、4.68Åであった。格子不整合は2.45%であった。
【0047】
(3)金属電極13の製造
(1)で製造した固体電解質層11のうち、混合伝導電極層12を形成した面と反対側の面に金属電極13を形成した。金属電極13の形成には、白金のターゲットを用いたスパッタリング法を用いた。スパッタリングによって固体電解質層11の混合伝導電極層12を形成した面と反対側の面に形成された白金の膜を600℃で1時間アニールすることによって金属電極13を得た。金属電極13の厚みは100nmであった。
【0048】
(4)集電層の製造
混合伝導電極層12及び金属電極13の表面に、白金ペーストを塗布して塗膜を形成した。これらの塗膜を大気中で、600℃で1時間焼成して、集電層を得た。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1の(3)の工程に代えて、同実施例の(2)の工程を行い、固体電解質層11の各面に混合伝導電極層12が配されたデバイス20を得た。
【0050】
〔比較例1〕
実施例1の(2)の工程において、混合伝導電極層12を室温で成膜した。これ以外は実施例1と同様にして、固体電解質接合体10及びデバイス20を得た。この固体電解質接合体10においては、混合伝導電極層12が一軸配向していないことが、X線回折測定によって確認された。
【0051】
〔比較例2〕
本比較例においては、実施例1の(1)の工程で得られた固体電解質層11の各面に、LSCNOを含むペーストを塗布して塗膜を形成し、この塗膜を700℃で1時間焼成することで、厚みがいずれも300nm以上である混合伝導電極層12を形成した。
【0052】
〔比較例3〕
本比較例においては、実施例1の(1)の工程を行う固体電解質層11を形成した。次いで、同実施例の(3)の工程を行い、この固体電解質層11において実施例1の混合伝導電極層12の代わりに白金からなる金属電極13を形成した。またその反対側の面にも、白金からなる金属電極13を形成した。金属電極13の厚みは100nm以上であった。
【0053】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたデバイスについて、酸素透過速度を以下の方法で測定した。また固体電解質層11及び混合伝導電極層12の結晶の配向の有無をX線回折測定によって確認した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0054】
〔酸素透過速度の測定〕
測定は600℃で行った。デバイスの混合伝導電極層12側に空気を、金属電極13側にNガスをそれぞれ200ml/minで供給し、混合伝導電極層12と金属電極13との間に1.0Vの直流電圧を印加した。金属電極13側に酸素濃度計を取り付け、電圧印加前後での金属電極13側の雰囲気中の酸素濃度の変化を測定し、酸素透過速度(ml・cm-2・min-1)を算出した。また式〔酸素濃度計で計測した酸素透過量〕/〔電流密度から計測した酸素透過量〕×100により、酸素透過効率を算出した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた固体電解質接合体及びそれを備えたデバイスは、酸素透過速度が大きく、しかも酸素透過効率も高いものであることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、酸素の透過速度が大きい固体電解質接合体が提供される。この固体電解質接合体を用いることで、デバイスの低温作動化や酸素供給量の増加を図ることができる。
図1