(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ポリ(グリセロールセバケート)/アルギネート連続繊維を製造する方法及びシステム、並びに連続ポリ(グリセロールセバケート)繊維を含むヤーン
(51)【国際特許分類】
D01F 6/92 20060101AFI20230622BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20230622BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20230622BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
D01F6/92 307A
D01D5/06
D03D15/283
D06M11/00 100
(21)【出願番号】P 2020524494
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 US2018058742
(87)【国際公開番号】W WO2019089951
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-07
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516334709
【氏名又は名称】ザ・セカント・グループ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】タスカン,メブリュト
(72)【発明者】
【氏名】ローブルスキー,ケイラ
(72)【発明者】
【氏名】クランブリング,トッド
(72)【発明者】
【氏名】フレメンス,マイケル・エス
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526432(JP,A)
【文献】特開2017-042689(JP,A)
【文献】特表2017-516901(JP,A)
【文献】Progress in Polymer Science,2012年,37,1051-1078
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/92
D01D 5/06
D03D 15/283
D06M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維の製造方法であって、
前記少なくとも1つの連
続PG
S/アルギネート繊維を、水中にPGS及びアルギネートを含むポリマー溶液から紡糸すること;
少なくとも1つの凝固浴中で前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を牽伸すること;及び
前記少なくとも1つの凝固浴から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を引き出すこと;
を含む
、前記製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維が、複数の連続PGS/アルギネート繊維
である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記複数の連続PGS/アルギネート繊維を交絡させてマルチフィラメント円形ヤーンを形成することを更に含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を乾燥させて所定の水分率を有するヤーンを形成することを更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を、約6°以上の綾振り角でボビン上に巻き取ることを更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
溶融PGSと水中のアルギネートのアルギネート溶液とを混合して
前記ポリマー溶液を形成することを更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルギネート溶液が前記アルギネート溶液の3~10重量%の水中のアルギネートを含み、前記溶融PGSを前記アルギネートに対して重量基準で1:1~3:1の比で混合する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの凝固浴が、水中に少なくとも2重量%の塩化カルシウムを含む第1の凝固溶液を含む第1の凝固浴を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの凝固浴が、蒸留水中に1重量%以下の塩化カルシウムを含む第2の凝固溶液を含む第2の凝固浴を更に含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維から布帛を形成することを更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記形成することは、織成、編成、及び編組からなる群から選択される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記布帛を形成した後に、前記少なくとも1つの連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維の
前記PGSを硬化させることを更に含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維形成システムであって、
アルギネート及びPGSのポリマー溶液を保持する供給タンク;
前記供給タンクから前記アルギネート及びPGSのポリマー溶液を受け取って、前記アルギネート及びPGSの水溶液をポンプ移送するポンプ;
前記ポンプから前記アルギネート及びPGSの水溶液を受け取り、少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を前記PGS及びアルギネートから形成して押出す紡糸口金;
水中に塩を含む第1の溶液を保持し、前記紡糸口金から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第1の凝固浴;
前記第1の凝固浴から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第1のワインダー;
蒸留水を含む第2の溶液を保持し、前記第1のワインダーから前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第2の凝固浴;
前記第2の凝固浴から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第2のワインダー;及び
前記第2のワインダーからの前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を少なくとも1つのボビン上に巻き取るボビンワインダー;
を含む上記システム。
【請求項14】
前記紡糸口金と前記第2のワインダーの間に配置され、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維と接触して前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を延伸し、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維上に所定の張力を維持する複数の延伸ロールを更に含む、請求項
13に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。
【請求項15】
前記第2のワインダーと前記ボビンワインダーの間に乾燥機を更に含み、前記乾燥機は、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維から水を除去して、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維中の所定の水分率を達成する、請求項
13に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。
【請求項16】
前記第2のワインダーと前記ボビンワインダーとの間に交絡機を更に含み、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維は複数の連続PGS/アルギネート繊維
であり、前記交絡機は前記複数の連続PGS/アルギネート繊維を受け取り、組み合わせてマルチフィラメント円形ヤーンにする、請求項
13に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。
【請求項17】
前記紡糸口金が、モノフィラメント紡糸口金、マルチフィラメント紡糸口金、及びシースコア紡糸口金からなる群から選択される、請求項
13に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、2017年11月2日に出願された米国仮出願第62/580,749号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に対する優先権及びその利益を主張する。
【0002】
[0002]本出願は、ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)を含む繊維、かかる繊維から形成される布帛、並びに繊維製造のシステム及び方法に関する。より詳細には、本出願は、連続PGS繊維;PGS/アルギネート繊維;かかる繊維を含む織布、編成布、編組布、及び不織布;並びに連続PGS繊維を製造するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)は、グリセロール及びセバシン酸からコポリマーとして形成される架橋性エラストマーである。PGSは、生体適合性及び生分解性であり、炎症を減少させ、治癒を改善し、そして抗菌特性を有し、これらの全てによりそれはバイオメディカル分野における生体材料として有用である。
【0004】
[0004]PGSは従来は電界紡糸のための繊維に形成されているが、かかる繊維はマットを作るために堆積されており、これらは容易に織成、編成、又は編組することができない。PGS樹脂の三次元化学構造、粘着性、及び熱的性質により、それを連続繊維として製造することが妨げられている。
【0005】
[0005]アルギネートは、褐藻から誘導することができる多糖である。アルギネートは、生体適合性の高吸収性材料として創傷ケアの分野で一般に使用されている。
【発明の概要】
【0006】
[0006]代表的な実施形態は、連続PGS/アルギネート繊維の製造方法、連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維を含む布帛の製造方法、連続PGS/アルギネート繊維を含むヤーン、連続PGS/アルギネート繊維を含む布帛、及び連続PGS繊維を含む布帛に関する。
【0007】
[0007]代表的な実施形態によれば、製造方法は、水中にPGS及びアルギネートを含むポリマー溶液から少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を紡糸すること、少なくとも1つの凝固浴中で少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を牽伸すること、及び少なくとも1つの凝固浴から少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を引き出すことを含む。
【0008】
[0008]別の代表的な実施形態によれば、ヤーンは、連続PGS/アルギネート繊維を含む。
[0009]別の代表的な実施形態によれば、連続PGS/アルギネート繊維形成システムは、アルギネート及びPGSのポリマー溶液を保持する供給タンク;アルギネート及びPGSのポリマー溶液を供給タンクから受け取って、アルギネート及びPGSの水溶液をポンプ移送するポンプ;アルギネート及びPGSの水溶液をポンプから受け取り、少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維をPGS及びアルギネートから形成して押出す紡糸口金;水中に塩を含む第1の溶液を保持し、紡糸口金から少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第1の凝固浴;第1の凝固浴から少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第1のワインダー;蒸留水を含む第2の溶液を保持し、第1のワインダーから少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第2の凝固浴;第2の凝固浴から少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第2のワインダー;及び、第2のワインダーからの少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を少なくとも1つのボビン上に巻取るボビンワインダー;を含む。
【0009】
[0010]代表的な実施形態の有利性の中には、繊維又は布帛を医療用途において使用することができることがある。
[0011]別の有利性は、繊維又は布帛が生分解性であることである。
【0010】
[0012]更に別の有利性は、繊維又は布帛がエラストマー特性を有することである。
[0013]更なる有利性は、繊維又は布帛が抗菌特性を有することである。
[0014]本発明の他の特徴及び有利性は、本発明の原理を例として示す代表的な実施形態の以下のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】[0015]
図1は、本発明の一実施形態における連続PGS/アルギネート繊維形成システム及び製造方法を概略的に示す。
【
図2】[0016]
図2は、本発明の一実施形態における、凝固浴中に押し出される連続PGS/アルギネート繊維の画像である。
【
図3】[0017]
図3は、本発明の一実施形態におけるモノフィラメント連続PGS/アルギネート繊維の一部の画像である。
【
図4】[0018]
図4は、本発明の一実施形態における、ボビンワインダー上に綾振りされる連続PGS/アルギネート繊維の画像である。
【
図5】[0019]
図5は、本発明の一実施形態における連続PGS/アルギネート繊維のボビンの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0020]可能な限り、同じ参照番号は、図面全体にわたって同じ部品を表すために使用される。
[0021]代表的な実施形態は、連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維並びに連続PGS/アルギネート繊維を含むヤーン及び布帛を製造するシステム及び方法、連続PGS/アルギネート繊維を含む製造されたヤーン及び布帛、並びに連続PGS繊維を含む製造された布帛に関する。本発明の実施形態は、本明細書に開示される特徴の1以上を使用しない布帛及び製造プロセスと比較して、織成可能で、編成可能で、編組可能な連続繊維中にPGSを与え、抗菌特性を有する生分解性のヤーンを与え、抗菌特性を有する生分解性の布帛を与え、PGSを含むヤーンを与え、PGSを含む布帛を与え、又はそれらの組み合わせを与える。
【0013】
[0022]本発明においては、連続PGS/アルギネート繊維、製造システム及び方法、並びに使用方法が与えられる。主にマルチフィラメントヤーンに関して議論するが、当業者に理解されるように、連続PGS繊維は、或いはモノフィラメント又はシースコア構造として形成して使用することができる。
【0014】
[0023]PGSの連続繊維は、PGSとアルギネートの組み合わせによって形成される。連続繊維は、テキスタイル製造のために更に加工することができる。連続PGS繊維の生成において、PGSとアルギネートのこの組み合わせは1以上の複数の形態をとるこができ、これらとしては、アルギネートの海中におけるPGSの機械的分散、PGSコアを取り囲むアルギネートのシースコア、及びアルギネートとより良好に混合するように化学的に変性されたPGSを挙げることができるが、これらに限定されない。化学的に変性されたPGSはPGS塩であってよい。幾つかの実施形態においては、PGSはコポリマーの一部として与えられる。
【0015】
[0024]予期しなかったことに、連続PGS繊維は、アルギネートの不存在下での未硬化のPGS樹脂とは異なり、アルギネートと組み合わせて形成すると、未硬化状態で非粘着性である。これにより、連続PGS繊維をボビン上に巻取り、巻戻し、次にテキスタイル構造に形成することが可能である。例えばシースコア構造を有するような幾つかの実施形態においては、連続PGS/アルギネート繊維は、PGS/アルギネート繊維の全長又は実質的に全長に延在する連続PGS繊維を含む。連続PGS繊維から構造体を形成したら、硬化プロセスによってそれを硬化させることができる。適切な硬化プロセスとしては、対流硬化、赤外(IR)硬化、マイクロ波硬化、又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。繊維のタイプに応じて、PGSが構造体中で完全に硬化したら、アルギネートを犠牲材料として洗浄除去して、それによって100%又は実質的に100%のPGS繊維を生成させることができる。
【0016】
[0025]
図1を参照すると、連続PGS繊維形成システム10は、アルギネート及びPGSの水溶液をヤーン36に変換する。アルギネート及びPGSの水溶液を、ポンプ14によって供給タンク12から紡糸口金16に送り、これによってPGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を生成させて、第1の凝固浴20中に押出す。次に、PGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を、第1の凝固浴20を通して延伸ロール22上で延伸し、第1のワインダー24によって第1の凝固浴20から引き出し、第2の凝固浴26中に導入する。更なる延伸ロール22によって、PGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を第2の凝固浴26を通して送る。次に、PGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を、第2のワインダー28によって交絡機30中に供給して、円形ヤーン(yarn round)32を生成させる。過剰の水を乾燥機34によって円形ヤーン32から除去してヤーン36を与え、これをボビンワインダー40によってボビン38上に綾振りする。
【0017】
[0026]
図2は、PGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18が第1の凝固浴20中に押出されている際の画像である。
[0027]
図3は、未硬化状態のモノフィラメント連続PGS/アルギネート繊維42の画像である。モノフィラメント連続PGS/アルギネート繊維42は、約100μmの直径を有する。
【0018】
[0028]
図4は、ボビンワインダー40によってボビン38上に巻き取られているヤーン36の画像である。
[0029]
図5は、ボビン38上に巻き取られたヤーン36の画像である。
【0019】
[0030]幾つかの実施形態においては、供給タンク12のための混合物は、まず、混合、及び好ましくは約70℃(158°F)以上の温度、より好ましくは約80℃(176°F)以上の温度まで加熱しながら、蒸留水中のアルギネートの溶液を調製することによって調製される。溶液中のアルギネートは、重量基準で、約3%~約10%、或いは約3%~約7%、或いは約3%~約5%、或いは約5%~約7%、或いは約4%~約5%、或いは約5%~約6%、或いは約3%、或いは約4%、或いは約5%、或いは約6%、或いは約7%、又はそれらの間の任意の値、範囲、又は下位範囲である。代表的な実施形態においては、アルギネートは、80℃の1重量%溶液において2センチポアズ~10センチポアズの範囲の粘度を有するように選択される。次に、溶融PGSを溶液に加えて、約1:1以上、或いは約1:1、或いは約1:1~約3:1、或いは約1:1~約2:1、或いは約2:1、或いは約2:1~約3:1、或いは約3:1、又はこれらの間の任意の値、範囲、又は下位範囲のPGS/乾燥アルギネートの重量比を達成する。代表的な実施形態においては、PGSは、80℃において3000センチポアズ~4000センチポアズの範囲の粘度を有するように選択される。
【0020】
[0031]マルチフィラメント円形ヤーン32を形成するために、マルチホール紡糸口金16、1以上の凝固浴20、26、延伸ロール22、交絡機30、ボビンワインダー40、及び綾振り装置(図示せず)を有する標準的な湿式紡糸ラインを利用することができる。少なくとも1つの場合においては、交絡機30から排出されるマルチフィラメント円形ヤーン32は約65重量%の水分率を有することが観察された。場合により、所定の水分率を有するヤーン36を達成するなどのために、所望であれば1以上の乾燥機34を直列で使用して、円形ヤーン32から少なくとも多少の残留水を除去する。グリセロールベースの紡糸仕上げ剤を、場合によりヤーン36の湿潤状態か又は部分的に乾燥した繊維に適用して水の蒸発を妨げるか、又は場合によりヤーン36の部分的に乾燥したか、実質的に乾燥したか、又は乾燥した繊維に適用して、繊維を潤滑し、その脆性を減少させる。幾つかの実施形態においては、交絡機30は、マルチフィラメント円形ヤーン32の形成中にマルチフィラメント円形ヤーン32の繊維が平坦化するのを妨げる。
【0021】
[0032]連続PGS繊維形成システム10のために適切な紡糸口金16としては、PGS/アルギネート繊維の所望の形態に応じて、マルチフィラメント構造、モノフィラメント構造、又はシースコア構造を挙げることができるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態においては、マルチフィラメント紡糸口金16は約40個の孔を含み、それぞれの孔は約125μmの直径を有する。
【0022】
[0033]凝固浴20、26のために適切な組成物としては、水又は蒸留水中の1~20重量%の塩の水溶液を挙げることができるが、これに限定されない。幾つかの実施形態においては、塩は二価カチオンの塩である。幾つかの実施形態においては、二価カチオンはカルシウムである。幾つかの実施形態においては、塩は塩化カルシウム(CaCl2)である。幾つかの実施形態においては、交絡機30の前の最終凝固浴中で蒸留水を使用して繊維を洗浄する。
【0023】
[0034]第2の凝固浴26は、好ましくは第1の凝固浴20よりも低い塩の濃度を有する。幾つかの実施形態においては、連続PGS繊維形成システム10は、第2の凝固浴26よりも低い塩の濃度を有する第3の凝固浴を含む。幾つかの実施形態においては、最終凝固浴中の塩の濃度は1重量%未満である。最終凝固浴は、塩を含まない蒸留水として開始して、PGS/アルギネート繊維から塩を洗浄することができる。更に、又はこれに代えて、PGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18は、紡糸後に更なるプロセスによって蒸留水で洗浄することもできる。
【0024】
[0035]
図1の連続PGS繊維形成システム10及び方法は湿式紡糸ラインにおいてマルチホール紡糸口金16を使用するものとして記載されているが、PGS/アルギネート繊維は、或いは、モノフィラメントコア/シース孔を使用し、次にPGS/アルギネート繊維を交絡させてヤーン36を製造することによって製造することができる。紡糸は、例えば約15℃~約25℃(約59°F~約77°F)の範囲のような室温又は周囲温度或いはその付近で実施することができる。幾つかの実施形態においては、紡糸は、例えば約25℃~約35℃(約77°F~約95°F)の範囲のような室温又は周囲温度よりわずかに高い昇温温度で実施する。
【0025】
[0036]幾つかの実施形態においては、第1の凝固浴20は蒸留水中の塩の溶液である。第1の凝固浴20は、例えば約15℃~約25℃(約59°F~約77°F)の範囲のような室温又は周囲温度或いはその付近であってよい。幾つかの実施形態においては、第1の凝固浴20は、例えば約25℃~約45℃(約77°F~約113°F)の範囲のような室温又は周囲温度よりわずかに高い昇温温度である。幾つかの実施形態においては、第1の凝固浴20は約10重量%以上の塩を含む。第1の凝固浴20を加熱してその温度を上昇させることによって塩のより低い濃度において牽伸プロセスを行うことが可能であるが、塩の濃度は、好ましくは第1の凝固浴20については昇温温度においても2重量%以上である。第1の凝固浴20を加熱することにより、PGS/アルギネート繊維のより強いマルチフィラメント円形ヤーン32を生成する牽伸を可能にすることもできる。牽伸の後、ヤーンを交絡機30に通し、次に乾燥機34に通すことができる。乾燥機34は、通風乾燥機又は赤外乾燥機であってよい。
【0026】
[0037]ヤーン36を形成するための代表的な製造方法においては、蒸留水中の6重量%のアルギン酸ナトリウム溶液を調製し、次に溶融PGSをアルギネートの乾燥重量に一致するように加える。例えば、100gの6%アルギネートを6gの溶融PGSと混合することができる。次に、この組み合わせを混合する。二重非対称高剪断ミキサーを使用して、アルギネート中のPGSの分散液を生成させることができる。次に、この混合物を、例えば0.3cc/revのギアポンプのようなポンプ14により、例えば10孔の100μm紡糸口金16のような紡糸口金16を通して、10重量%塩水溶液のような第1の凝固溶液の第1の凝固浴20中に供給し、形成されたPGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を、例えば約20m/分の速度で、延伸ロール22上で延伸する。形成されたPGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を、第1の凝固浴20から引き出し、5重量%塩水溶液のような第2の凝固溶液の第2の凝固浴26に引き込む。場合によっては、PGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を、更に第2の凝固浴26から引出して、1重量%以下の塩を含む第3の凝固浴(図示せず)中に引き込むことができる。次に、PGS/アルギネートマルチフィラメント繊維18を交絡機30中に供給して、マルチフィラメント円形ヤーン32を生成させる。過剰の水は1以上の乾燥機34によって除去することができ、PGS/アルギネートマルチフィラメントヤーン36は、例えば大きな綾振り角でボビン38上に巻き取る。大きな綾振り角は、約6°以上、例えば約6~18°、或いは約9~15°、或いは約11~13°、或いは約12°、又はそれらの間の任意の値、範囲、又は下位範囲の任意の角度であってよい。
【0027】
[0038]製造されたマルチフィラメント円形ヤーン32を適当に乾燥した後、それを布帛に織成、編成、又は編組することができる。布帛への成形は、伝統的な布帛形成方法を用いて行うことができる。必要であれば、布帛形成前に更なる巻戻し及び撚合を行うことができる。ヤーンの強度が例えば織成のような特定の用途のために十分に大きくない場合には、経糸に関してサイジングを使用することができ、及び/又は経糸に高い撚合を施すことができる。幾つかの実施形態においては、布帛形成プロセス中の張力は、ヤーン36の引張特性に対して最小にする。幾つかの実施形態においては、編成及び編組プロセス中においては織成プロセス中よりも小さい張力が加えられるので、織成のためには高デニールヤーンが使用され、編成及び編組のためには低デニールヤーンが使用される。
【0028】
[0039]PGS/アルギネート繊維から布帛を製造したら、布帛を加工して布帛中のPGSポリマーを硬化させることができる。続いて、ヤーン36のタイプに応じて、硬化後に水で高温洗浄することによって、アルギネートの一部、全部、又は実質的に全部を布帛から除去して、それによって少なくとも99重量%、或いは少なくとも99.5重量%、或いは約100重量%のPGSであってよい布帛を製造することができる。アルギネートを除去する場合、得られる布帛の構造的完全性、特に引張特性がアルギネートの除去によって影響されないように、好ましくはPGS/アルギネートコア/シース繊維構造を使用する。硬化したら、PGSを架橋し、PGS/アルギネート繊維のアルギネート部分を除去することによって、生理学的に安定な100%PGS繊維布帛を生成させることができる。
【0029】
[0040]PGSはまた生体適合性及び生分解性であるので、PGS/アルギネートの繊維、ヤーン、及び布帛は、少なくともアルギネート繊維が単独で使用される任意の用途のために使用することができる。しかしながら、PGSは、アルギネートにはない抗菌特性を繊維製品に付加する。これは、かかる抗菌効果及び生分解性を有する任意の用途において使用することができる初めてのタイプの布帛であると考えられる。
【0030】
[0041]PGS/アルギネートの布帛は完全に生分解性であり、PGSの性質により抗菌特性も有する。したがって、PGS/アルギネートの布帛は医療分野において使用することができ、かかる布帛は、人体において使用される任意のタイプのデバイスの一部とすることができる。幾つかの実施形態においては、PGS/アルギネート繊維は医療用途のためのテキスタイル加工において使用される。幾つかの実施形態においては、PGS/アルギネート繊維は、例えば創傷ケア用途などのための埋め込み可能なデバイス又は局所デバイスにおいて使用される。
【0031】
[0042]布帛構造の有利性に加えて、PGS/アルギネート繊維は、任意の生分解性医療デバイスに抗菌効果を与える。縫合保持のために望ましい有孔性及び強度を有するPGS/アルギネート布帛を製造することができる。
【0032】
[0043]幾つかの実施形態においては、PGS-アルギネート混合物を用いて医療用途のための薄膜を生成させる。
[0044]幾つかの実施形態においては、PGS/アルギネート円形ヤーン32を使用して、任意の目的のために人体内又は人体上で使用することができる、織成、編成、又は編組構造を有する布帛を製造する。幾つかの実施形態においては、布帛は創傷ケアのために使用される。アルギネートは既に創傷ケアにおいて使用されているが、PGSを加えることによって、創傷部位における感染を阻害又は予防するための新しい抗菌特性が与えられる。
【0033】
[0045]織成、編成、又は編組した後、製造されたPGS/アルギネート繊維の布帛をオーブン内で硬化させることができる。幾つかの実施形態においては、製造された布帛を、約120℃(約230°F)のオーブン内に約24時間配置して、布帛中のPGSを硬化させる。アルギネートは、硬化した布帛を約80℃(約176°F)の蒸留水で約10分間洗浄することによって洗浄除去することができる。アルギネートを洗浄除去した後は、布帛は純粋に又は実質的に純粋にPGSである。かかる手順は、混合PGS/アルギネートマルチフィラメントヤーン又はPGS/アルギネートシース-コア繊維から形成される任意の構造体について行うことができる。構造体が製造された後は、それは、生体適合性、生分解性、及び抗菌特性が必要とされるか又は望ましい任意の有用な用途において、体内又は体上で使用することができる。
【0034】
[0046]本明細書に記載される連続PGS繊維によって、PGS原材料の製造用途が、テキスタイル構造(織成、編成、編組、又は不織テキスタイル構造を挙げることができるが、これらに限定されない)を包含するように拡張される。PGSはエラストマーであるので、PGSの機械的特性を繊維に移して、それによってエラストマー繊維構造を生成させることができる。生物学的には、PGSを繊維中に組み込むことによって、ニートであろうと、他の材料と組み合わせであろうと、抗菌効果、炎症の減少、及び/又は改善された治癒を与えることができる。薬物送達の観点からは、PGSを繊維中に組み込むことによって、ニート又は又は他の材料との組み合わせのいずれであっても、多数の用途において使用するための制御放出性繊維材料を与えることができる。
【0035】
[0047]上述のように、アルギネートは高吸収性の材料である。アルギネートと組み合わせたPGS繊維は、制御された活性物質放出特性を与えることができる。PGS/アルギネートマルチフィラメント又はモノフィラメントヤーンは、PGSの抗菌的及び生物学的な利益を更に提供しながら、創傷ケアのような用途において流体を吸収することができる。PGS/アルギネートヤーンを含む成分を使用する前に、アルギネートに活性成分を装填することができ、これは、PGS/アルギネート繊維を含む構造体を体内又は体上に配置した場合に、その後に制御された様式でゆっくりと放出される。
【0036】
[0048]上述の明細書は代表的な実施形態を示し、記載するが、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができ、その構成要素の代わりに均等物を用いることができることが当業者によって理解される。更に、その本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は本発明を実施するために企図されるベストモードとして開示される特定の実施形態に限定されず、本発明は添付の特許請求の範囲内の全ての実施形態を包含すると意図される。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[態様1]
少なくとも1つの連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維を、水中にPGS及びアルギネートを含むポリマー溶液から紡糸すること;
少なくとも1つの凝固浴中で前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を牽伸すること;及び
前記少なくとも1つの凝固浴から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を引き出すこと;
を含む製造方法。
[態様2]
前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維が、複数の連続PGS/アルギネート繊維を含む、態様1に記載の製造方法。
[態様3]
前記複数の連続PGS/アルギネート繊維を交絡させてマルチフィラメント円形ヤーンを形成することを更に含む、態様2に記載の製造方法。
[態様4]
前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を乾燥させて所定の水分率を有するヤーンを形成することを更に含む、態様1に記載の製造方法。
[態様5]
前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を、約6°以上の綾振り角でボビン上に巻き取ることを更に含む、態様1に記載の製造方法。
[態様6]
溶融PGSと水中のアルギネートのアルギネート溶液とを混合して前記ポリマー溶液を形成することを更に含む、態様1に記載の製造方法。
[態様7]
前記アルギネート溶液が前記アルギネート溶液の3~10重量%の水中のアルギネートを含み、前記溶融PGSを前記アルギネートに対して重量基準で1:1~3:1の比で混合する、態様6に記載の製造方法。
[態様8]
前記少なくとも1つの凝固浴が、水中に少なくとも2重量%の塩化カルシウムを含む第1の凝固溶液を含む第1の凝固浴を含む、態様1に記載の製造方法。
[態様9]
前記少なくとも1つの凝固浴が、蒸留水中に1重量%以下の塩化カルシウムを含む第2の凝固溶液を含む第2の凝固浴を更に含む、態様8に記載の製造方法。
[態様10]
前記少なくとも1つの連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維から布帛を形成することを更に含む、態様1に記載の製造方法。
[態様11]
前記形成することは、織成、編成、及び編組からなる群から選択される、態様10に記載の製造方法。
[態様12]
前記布帛を形成した後に、前記少なくとも1つの連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維の前記PGSを硬化させることを更に含む、態様10に記載の製造方法。
[態様13]
連続ポリ(グリセロールセバケート)繊維を含むヤーン。
[態様14]
前記ヤーンが前記ポリ(グリセロールセバケート)を硬化させる前において非粘着性である、態様13に記載のヤーン。
[態様15]
前記ヤーンが布帛に形成される、態様13に記載のヤーン。
[態様16]
前記布帛が、織成、編成、及び編組からなる群から選択されるプロセスによって形成される、態様14に記載のヤーン。
[態様17]
連続ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)/アルギネート繊維形成システムであって、
アルギネート及びPGSのポリマー溶液を保持する供給タンク;
前記供給タンクから前記アルギネート及びPGSのポリマー溶液を受け取って、前記アルギネート及びPGSの水溶液をポンプ移送するポンプ;
前記ポンプから前記アルギネート及びPGSの水溶液を受け取り、少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を前記PGS及びアルギネートから形成して押出す紡糸口金;
水中に塩を含む第1の溶液を保持し、前記紡糸口金から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第1の凝固浴;
前記第1の凝固浴から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第1のワインダー;
蒸留水を含む第2の溶液を保持し、前記第1のワインダーから前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第2の凝固浴;
前記第2の凝固浴から前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を受け取る第2のワインダー;及び
前記第2のワインダーからの前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を少なくとも1つのボビン上に巻き取るボビンワインダー;
を含む上記システム。
[態様18]
前記紡糸口金と前記第2のワインダーの間に配置され、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維と接触して前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維を延伸し、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維上に所定の張力を維持する複数の延伸ロールを更に含む、態様17に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。
[態様19]
前記第2のワインダーと前記ボビンワインダーの間に乾燥機を更に含み、前記乾燥機は、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維から水を除去して、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維中の所定の水分率を達成する、態様17に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。
[態様20]
前記第2のワインダーと前記ボビンワインダーとの間に交絡機を更に含み、前記少なくとも1つの連続PGS/アルギネート繊維は複数の連続PGS/アルギネート繊維を含み、前記交絡機は前記複数の連続PGS/アルギネート繊維を受け取り、組み合わせてマルチフィラメント円形ヤーンにする、態様17に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。
[態様21]
前記紡糸口金が、モノフィラメント紡糸口金、マルチフィラメント紡糸口金、及びシースコア紡糸口金からなる群から選択される、態様17に記載の連続PGS/アルギネート繊維形成システム。