(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】中継芯、筆先ユニット及び液体塗布具
(51)【国際特許分類】
B05C 17/00 20060101AFI20230622BHJP
A45D 34/04 20060101ALI20230622BHJP
B43K 1/12 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B05C17/00
A45D34/04 510Z
B43K1/12 Z
(21)【出願番号】P 2020560040
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047777
(87)【国際公開番号】W WO2020116604
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2018229019
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109440
【氏名又は名称】テイボー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】椎木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】傘 俊人
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-078325(JP,A)
【文献】特開平08-282173(JP,A)
【文献】特開平11-180089(JP,A)
【文献】特開2010-269133(JP,A)
【文献】特開2003-11566(JP,A)
【文献】特開平4-10993(JP,A)
【文献】特開2010-213869(JP,A)
【文献】特開2015-58128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00-21/00
A45D 34/04
B43K 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含有する液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であ
り、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、中継芯。
【請求項2】
前記流路の横断面の最大流路幅は、前記粒子の投影断面の幅より大きい、請求項1に記載の中継芯。
【請求項3】
前記中継芯の中央部分の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、請求項1
又は2に記載の中継芯。
【請求項4】
前記中継芯の中央部分の横断面において、横断面の中心に流路を備える、請求項1
又は2に記載の中継芯。
【請求項5】
合成樹脂を主成分とする材料を用いた、請求項1~
4のいずれか一項に記載の中継芯。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の中継芯と、
前記中継芯から供給される液体を用いて筆記するために設けられる筆先と、
中継空間形成部材と、
前記筆先の後端部分、前記中継芯、前記中継空間形成部材を覆うように設けられる軸筒と、
を備え、
前記中継芯の先端部分は、前記筆先の後端部分の内側に設けられ、
前記中継芯の中央部分は、前記中継空間形成部材に取り囲まれるように設けられ、
前記中継芯の後端部分は、液体収容部側に延在する、筆先ユニット。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の中継芯、又は、請求項
6に記載の筆先ユニットを用いた液体塗布具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具や化粧用具等の液体塗布具に用いられる中継芯、筆先ユニット、及び、該筆先ユニットを用いた液体塗布具に関する。特に、粒子が含まれる液体を塗布するための中継芯、筆先ユニット、及び、液体塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆先を液体に浸漬することなく、筆先に液体を供給できるタイプの液体塗布具は、現在に至るまで筆記具や化粧用具等に欠かせないものとして広く普及している。また、多様化する塗布具の用途や市場のニーズに合わせて、さまざまな筆先の構造や素材、液体供給方法や供給部分の構造、供給される液体の種類等の開発がなされている。
【0003】
液体塗布具は、収容された液体を中継芯の毛細管力により塗布用の筆先に一定量供給するものである。従来の液体塗布具に用いられる該中継芯は、一般的にアクリル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等の合成繊維束をウレタン樹脂等で固めて形成したものである(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塗布する液体にラメやパールの顔料等の粒子が含まれる場合、従来の中継芯は繊維同士が複雑に絡み合った状態で入り組んだ液体の流路を形成しているため、液体中の粒子は濾過効果により中継芯内において目詰まりを生じやすいという課題があった。また、かかる目詰まりにより、液体自体も筆先に供給できなくなるという問題も生じた。
【0006】
さらには、ラメやパールの顔料等の粒子を含有する液体の、中継芯に対する通過しやすさである通過性を向上させるために、中継芯の流路幅や流路断面積を広くすると、中継芯の毛細管力や液体保持力が弱められ、液体塗布具から液漏れが発生してしまう、という問題も生じた。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、液体塗布具において、粒子を含有する液体を、中継芯が毛細管力や液体保持力を有した上で、中継芯で目詰まりすることなく、塗布用の筆先に一定量供給することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の中継芯は、粒子を含有する液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の筆先ユニット及び液体塗布具は、上記中継芯を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の中継芯によれば、粒子を含有する液体を、中継芯が毛細管力や液体保持力を有した上で、中継芯内で目詰まりすることなく、塗布用の筆先に一定量供給することができる。
つまり、液体の流路が、中継芯の軸線方向に沿ってほぼまっすぐに延在し、かつ、粒子が通過可能な幅と面積を備えた横断面形状を有するため、使用を継続しても液体中の粒子が詰まりにくい。その上、横断面は毛細管力で液体を保持可能な形状の部分も有するため、液体収容部から筆先への液体供給もスムーズとなり、かつ、液体が保持されないことによる液体塗布具からの液漏れを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)、(b)に中継芯の外観の一例を示す。
【
図2A】(1)~(24)に中継芯の横断面図の例を示す。
【
図2B】(a)~(c)に従来の中継芯の横断面図の例を示す。
【
図3】(a)、(b)に筆先ユニットの例の縦断面図を示す。
【
図4】(a)、(b)に液体塗布具の例の縦断面図を示す。
【
図5】(a)に粒子の外接直方体、(b)に粒子投影断面を示す。
【
図6A】(a)に中心核の中心核径が小さい形状の中継芯(試料(1))の横断面、(b)に該中継芯の横断面と筆先の関係を示す。
【
図6B】(a)に中心核の中心核径が大きい形状の中継芯(試料(21))の横断面、(b)に該中継芯の横断面と筆先の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の液体塗布具1は、中継芯2と、筆先3と、中継空間形成部材7と、軸筒8を備える筆先ユニット20を用いたものであり、
図4(a)、
図4(b)に例を示す。以下に、本発明の中継芯2、筆先ユニット20、及び、液体塗布具1について詳細に説明する。以降、符号を付して説明するが、発明内容を限定するものではない。
なお、本願明細書において、「先端部」は各部品における液体塗布具の筆先側の最先端部(位置)を指し、「後端部」は各部品における液体塗布具の筆先と反対側の最後端部(位置)を指し、「先端部分」は各部品における先端部の近辺部分を指し、「後端部分」は各部品における後端部の近辺部分を指し、「中央部分」は各部品における先端部分及び後端部分以外の概ね中央部近辺を指す。また、「先端側」は筆先側を指し、「後端側」は筆先と反対側を指す。
【0013】
(中継芯の構成)
中継芯2は、筆先3に液体5を供給する、すなわち液体5を筆先3に「中継」するために設けられる芯である。中継芯2の後端部分は液体5に浸漬され、中継芯2の有する毛細管力によって液体5を先端側に吸い上げる。中継芯2の先端部分は先端部を含めて筆先3に覆われ、毛細管力によって吸い上げられた液体5を、筆先3の後端部分の内側から筆先3に供給することができるように構成される。
【0014】
中継芯2を用いて筆先3に供給する液体5には、各種インキ、液状化粧料、薬液、修正液等が例示される。液体5にラメやパール等の顔料をはじめとする粒子を含有してもよい。
該粒子の形状は、薄片状、球状、板状、糸状、顆粒状等が挙げられるが、それらに限定されない。粒子のサイズは、中継芯の流路2bを通過できれば特に制限はないが、粒子がラメの場合、後述する「粒子投影断面」の算出における外接直方体の幅bが概ね260μm以下、厚さtが概ね5μm以下、長さlが概ね590μm以下であることが望ましく、幅bが62μm以下、厚さtが3.7μm以下、長さ(粒度)lが80μm以下であることがより望ましい。
また、液体5には、液体塗布具1の目的に合わせた形状の上記粒子を複数種類含有させることもできる。
【0015】
上記粒子を含有する液体5を筆先3に供給するため、中継芯2はその軸線方向に沿って延在する1本以上の流路2bを有する。すなわち、流路2bの縦断面は中継芯2の後端部分から先端部分まで略直線状であり、液体5の流路2bは中継芯2の後端部から先端部までほぼまっすぐである。このため、粒子を含有する液体5であっても、粒子投影断面より大きい横断面形状の部分を有する流路2bに吸い上げられた粒子は、中継芯2の内部で詰まりを発生させることなく通過可能であり、筆先3に供給される。
また、中継芯2の流路2bの横断面形状は、上述したような液体5中の粒子が通過可能な形状の部分を有する他、毛細管力で液体5を保持可能な形状を有する部分を備える。該毛細管力で液体5を保持可能な形状は、溝、凹部、角、ひだ等が例示される。液体保持力は、それらの形状の間隔、幅、奥行き、数、角度等に依存する。
【0016】
ここで、本願明細書での「粒子投影断面」とは、粒子の外接直方体の長さをl、幅をb、厚さをtとした場合、b×tで表される面側から投影した断面のサイズ及び形状である。外接直方体とは、1個の粒子が収容される最小体積の直方体であり、l≧b≧tである。粒子が半径rの球状粒子の投影断面はπr
2のサイズの円であり、長さl×幅b×厚さtの薄片状粒子の投影断面はb×tのサイズの長方形であり、半径rの断面及び長さlを有する糸状粒子の投影断面はπr
2のサイズの円である。
図5に、不定形粒子の例における、(a)粒子の外接直方体、(b)粒子投影断面を示す。
そして、「粒子投影断面より大きい横断面形状の部分を有する流路2b」とは、流路2bの横断面に粒子投影断面より大きい部分が含まれるような流路2bであることを示す。すなわち、流路2bの横断面に粒子投影断面を重ねた場合、流路2bの横断面に粒子投影断面すべてを覆うことができる部分が存在することを示す。このような関係が成立する場合、液体5に含有する粒子は、中継芯2の流路2bを通過可能となる。
【0017】
なお、粒子がラメ等の薄片状であったり、粒子サイズが小さい場合、粒子の厚さtが小さいため、流路2bの横断面が粒子投影断面すべてを覆うことができるかどうかの判断は、流路2bの横断面うちの最大幅が、粒子投影断面の幅bより大きいかどうかを判断の指標の一つにすることができる。すなわち、中継芯2の流路2bの横断面で最も長い直線を「最大流路幅」として、最大流路幅を粒子投影断面の幅bと比較すれば、中継芯に対する粒子の通過性を評価することができる。
【0018】
図1に中継芯2の一例の外観を示す。
中継芯2の材質は、合成樹脂のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(商標登録)、ABS樹脂、AS樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエステルエラストマー等の各種エラストマー、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が例示される。なお、中継芯の材質は、ホルムアルデヒド対策や研磨性を有するものを選択することが望ましく、ポリエステルエラストマー等が例示される。また、目的に応じ、充填剤、各種添加剤等が配合されてもよい。
中継芯2の製造方法は、軸線方向に沿って流路2bが延在するように成形されれば特に制限はないが、上記熱可塑性樹脂を押出成形により、所定の断面形状、サイズに成形し、その後、所定の長さに切断し、後端部を研磨し、先端部分を筆先3の形状や塗布目的に合わせて尖らせ、あるいは丸め、さらには削って形状を整えて中継芯2を得る方法、その他公知の方法が例示される。
【0019】
図2A(1)~
図2A(24)に、試料(1)~(24)の中継芯2の中央部分の横断面図の例を示す。
図2A(1)~
図2A(12)に示される試料(1)~(12)は、丸棒状の中継芯2であり、その横断面の外周に合成樹脂の外郭部2aを有する。該外郭部2aは、横断面の外周すべてを取り囲むように構成される。流路2bすべてが外郭部2aに取り囲まれて閉じられるため、筆先3に供給される液体5はほぼ全量中継芯2の外郭部2aの中を流れる。
図2A(13)~
図2A(16)に示される試料(13)~(16)は、矩形状の中継芯2であり、その横断面の外周に合成樹脂の外郭部2aを有する。該外郭部2aは、横断面の外周すべてを取り囲むように構成される。流路2bすべてが外郭部2aに取り囲まれて閉じられるため、筆先3に供給される液体5はほぼ全量中継芯2の外郭部2aの中を流れる。
【0020】
図2A(17)~
図2A(22)に示される試料(17)~(22)は、略丸棒状の中継芯2であり、その横断面の外周すべてを取り囲む外郭部2aを備えない形状を有する。したがって、流路2bは中継芯2の径方向外側に開口している。毛細管力により、筆先3に供給される液体5の多くは中継芯2の溝や凹部、角、ひだ等の形状の部分を有する流路2bに保持されるが、一部は中継芯2の径方向外側と中継空間形成部材7との間に貯留され、あるいは、中継芯2の毛細管力に引っ張られるようにして、中継芯2の外側を分流する。
図2A(23)に示される試料(23)は、略丸棒状の中継芯2であり、その横断面の外周すべてを取り囲む外郭部2aを備えない形状を有し、かつ、その内部に閉じられた流路2bを有する。
図2A(24)に示される試料(24)は、略丸棒状の中継芯2であり、流路2bは、中継芯2の外側に開口している部分と、中継芯2の内部に閉じられた部分を有する。
【0021】
また、中継芯2の中心部の中心核2cの有無及びサイズによっても分類することができる。
図2Aの(1)~(9)、(17)~(24)(試料(1)~(9)、(17)~(24))の中継芯2の横断面の中心は、合成樹脂等の中心核2cを備えるように成形されている。
一方、
図2Aの(10)~(12)(試料(10)~(12))の横断面の中心は、流路2bとなっている。
【0022】
本願明細書において中継芯2の中心核2cとは、中継芯2の横断面の中心と流路2bまで結ぶ最も短い距離を半径とした核をいい、中心核径とは該半径を2倍したものである。
【0023】
略丸棒状の試料(1)~(12)、(17)~(24)の中継芯2の外径、中心核径、及び、最大流路幅を、表1に示す。表1において、最大流路幅は四捨五入して10μmの桁まで、中心核径は四捨五入して小数点以下1桁まで表示した。
【0024】
【0025】
図2B(a)~(c)に、従来例として比較試料(a)~(c)の中継芯の中央部分の横断面図を示す。
比較試料(a)~(c)はいずれも、ポリエステル繊維束をウレタン樹脂で固めて成形した中継芯であり、比較試料(a)に比べ、比較試料(b)、(c)のほうがより隙間が大きい。比較試料(a)~(c)は、いずれも流路の縦断面が略直線状となっておらず、入り組んだ形状となっている。
【0026】
以上のように例示される中継芯2(試料(1)~(24))は、比較試料(a)~(c)と比較し、粒子を含有する液体5を、中継芯2の毛細管力や液体保持力を維持しながら、中継芯2の目詰まりを抑制しつつ、塗布用の筆先3に一定量供給することができる。
但し、粒子の形状やサイズ、液体5の粘度や性質、中継芯2の太さや長さ、中継芯2の横断面の形状、筆先3の形状や素材やサイズ等は、液体塗布具1の用途により様々であるため、以下に述べる観点等から液体塗布具1それぞれに対して中継芯2の断面形状を最適化することが好ましい。
【0027】
まず、液体5に含有された粒子の通過性は、流路2bが、該粒子の粒子投影断面より大きい横断面形状の部分を有するかどうかに依存する。粒度分布や液体中での膨潤等も考慮し、流路2bが適切な大きさの断面形状の部分を有するように、中継芯2の横断面形状を設計することが好ましい。また、上述したように、粒子の通過性は、中継芯2の最大流路幅を指標の一つにすることができる。すなわち、中継芯2の最大流路幅が、液体5に含有させる粒子の投影断面の幅bより大きいと、粒子の通過性は向上する。
それと同時に、中継芯2の毛細管力は、中継芯2の流路2bの溝や凹部、角、ひだ等の形状、大きさ、数等に依存する。毛細管力や液体保持力を向上させるために、流路2bの溝や凹部、角、ひだ等の間隔や幅を適宜狭め、奥行きを深め、数を増やし、角度を鋭角にする等により、中継芯2の横断面形状を設計することが好ましい。
つまり、粒子の通過性を有する広めの流路部分と、毛細管力を有する狭めの流路部分の両方が備わるように、中継芯2の横断面形状を設計することが好ましい。
【0028】
次に、横断面に外郭部2aを有する中継芯2は、筆先3に供給される液体5がほぼ全量中継芯2の外郭部2aの中を流れるため、中継芯2の外側に貯留、分流される部分がほぼない分、液体5の筆先3への供給効率が向上しやすい。
また、外郭部2aを有する場合、中継芯2の製造時、中継芯2の径方向外周部の太さや形の微調整がしやすく、外径のばらつきを調整しやすい。外郭部2aを削る等で調整できるからである。また、中継空間形成部材7の径の狙い値を一定の範囲で変更する場合においても、外郭部2aを有する中継芯2は、金型等を新たに準備することなく同様に外郭部2aを削る等で調整できる。
【0029】
一方、横断面に外郭部2aを有しない中継芯2は、流路2bの全部又は一部が中継芯2の径方向外側に開口している。毛細管力により、筆先3に供給される液体5の多くは中継芯2の溝や凹部等に形成された流路2bに保持されるが、一部は中継芯の外側と中継空間形成部材7との間に貯留、分流される。
外郭部2aを有しない中継芯2は、中継空間形成部材7と中継芯2の隙間に、液体5中の粒子が流れ得るため、その点では目詰まりが発生しにくい利点がある。また、流路2bを形成する樹脂部分が径方向で左右に若干動くことができるため、中継芯2の外径が多少太くても、中継芯2の中継空間形成部材7への挿入性の低下を抑えることができる。
なお、外郭部2aを有しない中継芯2は、中継空間形成部材7や周辺部材から液体5以外の異物の混入を避けるように生産する必要が生じる場合もある。また、外郭部2aを有しない場合、中継芯2の製造時、中継芯2の径方向外周部の大きさや形の微調整にやや高度な技術が必要となる場合がある。径方向外側に部材の突条部を有する断面形状の場合、機械的強度が下がり加工しにくくなるからである。
【0030】
横断面の中心に中心核2cを備える中継芯2は、該中心核2cのサイズ(径)が小さいほうが、液体5の筆先3への供給効率が向上しやすい。
図6A(a)に、中心核2cの中心核径が小さい試料(1)の中継芯2の横断面を示す。中継芯2の外径は1.43mmに対し、中心核径は0.1mmであった。
図6A(b)に、試料(1)の中継芯2の先を尖らせて筆先に組付けた場合の例を示す。中継芯2の先を尖らせると、試料(1)の外郭部2aが削られ、筆先3のより先端側まで流路2bが広い面積をもって接触するため、粒子を含有する液体5が効率よく筆先3に移行することができる。
【0031】
一方、
図6B(a)に、中心核2cの中心核径が大きい試料(21)の中継芯2の横断面を示す。中継芯2の外径は1.43mmに対し、中心核径は1.1mmであった。
図6B(b)に、試料(21)の中継芯2の先を尖らせて筆先に組付けた場合の例を示す。中継芯2の先を尖らせると、試料(21)の径方向外側に開口する流路2bが削られ、中心核2cが残り、筆先3のより先端側まで流路2bが広い面積をもって接触できないため、粒子を含有する液体5を効率よく筆先に移行させることができにくい。
【0032】
なお、
図6A及び
図6Bでは、先端に向かってテーパー状にした筆先3の形状に合わせ、中継芯2の先端を尖らせた場合の、液体5の筆先への移行性について説明したが、筆先3の形状が異なれば、かかる移行性も異なる。
さらに、
図2A(10)~(12)に示される試料(10)~(12)は、中心核を有さず、中継芯2の中心は流路2bとなっている。このような横断面形状では、筆先3のより先端側まで流路2bが広い面積をもって接触し、粒子を含有する液体5を効率よく供給することができるという観点では優れている。但し、中継芯2の先端部分を尖らせる加工において、機械的強度を考慮した技術が必要となる場合がある。
【0033】
中継芯2の横断面形状は、略円形状の他、矩形状、楕円状等が例示される。筆先3の形状に相似させると、液体5の供給効率が向上させやすい。また、中継芯2のサイズ(径等)は、筆先3のサイズや、使用時の液体5の供給量により調整される。アイライナーの用途の場合、中継芯2の径として1.0mm~3.0mmの範囲が例示されるが、これに限定されない。
【0034】
以上のような観点等を総合的に組み合わせて、液体塗布具1それぞれに対して中継芯2の断面形状を決定する。
【0035】
中継芯2の評価例としては、(1)中継芯2内の粒子の詰まりの発生、(2)中継芯2から筆先3への粒子の移行、(3)筆先3で筆記した筆跡の粒子の有無、(4)筆先3からの液漏れ有無等を評価することが挙げられる。
(1)中継芯2内の粒子の詰まりの発生は、成形した中継芯2の後端部から粒子を含有する液体5を吸わせ、下にした先端部から出てくる液体の粒度分布を測定して比較するものである。(2)中継芯2から筆先3への粒子の移行は、成形した中継芯2を筆先3に組み付け、供給前の液体5と筆先3に供給された液体の粒度分布を測定して比較するものである。(3)筆先3で筆記した筆跡の粒子の有無は、成形した中継芯2を筆先3に組み付けて筆記した筆跡に、粒子の有無を目視で評価するものである。(4)筆先3からの液漏れの有無は、液体5の入った液体塗布具1に中継芯2を組み付けた筆先3を組み込み、キャップをした状態で下向きに40℃雰囲気で放置し、一定時間経過後にキャップ内の液漏れの有無を確認するものである。
試料(1)、(3)、(17)、(21)及び比較試料(a)につき、粒子としてアルミニウム基材にシリカをコーティングした厚さ3.7μm、幅62μm、長さ80μmのラメを用い、粘度2.6cpsの液体にて評価した結果を、表2に示す。
【0036】
【0037】
表2に示される評価結果より、従来の比較試料(a)は中継芯の縦断面形状が略直線状になっていないため、ラメが通過しないことが分かった。また、本評価条件の場合、試料(21)は流路2bの最大流路幅が他の試料に比べて狭いために中継芯内においてもラメの通過性が低く、また、中心核2cの中心核径が他の試料に比べて大きく流路2bと筆先3との接触面積が小さいためにラメの筆先3への移行性も低いことが分かった。
すなわち、液体5に含有する粒子の、中継芯2の通過性、筆先3への移行性は、中継芯2が毛細管力を有する横断面形状であることを前提に、表1で示される流路2bの最大流路幅、中心核2cの中心核径、及び、中継芯2の外径を制御することにより、高めることができることが分かった。
【0038】
中継芯2の長さは、液体塗布具1の大きさや用途等により調整される。アイライナーの用途の場合、10mm~80mmの範囲が例示されるが、これに限定されない。
【0039】
(筆先の構成)
筆先3は、筆先3の後端部から中継芯によって供給される液体5を用い、筆先3の先端部分で筆記するために設けられる。
筆先3は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の合成樹脂材からなる糸材を束ねたもの、アクリル繊維やポリエステル繊維、ナイロン繊維等の合成繊維束をウレタン樹脂等を用いて固めたもの、PBT(ポリブチレンテレフタレート)製テーパーフィラメントやナイロン製テーパーフィラメント等の先端部分がテーパー加工されたもの等の他、相互に連通状の連続気孔を有する立体網目構造で、かつ、保形性と適度な可撓性を備えた、ポリオレフィン系フォーム等の熱可塑性生成物からなるもの、熱可塑性樹脂製の各粒状粒子が互いに部分的に融着し、かつ、各粒状粒子間に相互に連通状の連続気孔を形成している焼結法で成形されるもの、熱可塑性樹脂を溶融押出成形により所要の断面形状・寸法に成形される多孔質体等が例示される。
【0040】
また、筆先3の後端部分の内側に中継芯2の先端部分を挿入等により取り囲めるように、筆先3の後端部には適宜孔部や溝部が設けられる。
【0041】
(中継空間形成部材の構成)
中継空間形成部材7は、中継芯2の中央部分を取り囲むように、中継芯2と軸筒8の間に設けられる。中継芯2の中央部分は、筆先3に取り囲まれた先端部分及び液体収容部4に浸漬されている後端部分を除いた部分である。
中継空間形成部材7は中継芯2と軸筒8の間の空間を埋めるとともに、中継芯2の形状により中継芯2から外側に出た一部の液体5を貯留、分流する目的で設けられる。
【0042】
中継空間形成部材7の形状は、毛細管力を持たせるために縦溝と中継芯2に向けて多数の環状横溝を有するもの、ジャバラ状のものが例示されるが、液体収容部4の空気が温度上昇等によって膨張した場合に液体収容部4から押し出される液体を筆先3や空気孔からボタ落ちさせないために一時的に保溜する機能を有していればこれに限定されない。
中継空間形成部材7の材質としては、合成樹脂のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(商標登録)、ABS樹脂、AS樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド等が例示される。目的に応じ、充填剤、各種添加剤等が配合されてもよい。
【0043】
(軸筒の構成)
軸筒8は、組み付けられた筆先3の後端部分、中継芯2、中継空間形成部材7を保持して覆うように設けられる。
軸筒8は、その先端部により筆先3の後端部分を押さえて保持することで筆記や塗布の操作を安定させ、中継芯2や中継空間形成部材7の内部の乾燥を防ぎ、異物が混入しないようにし、また、組み付けられた筆先3、中継芯2、中継空間形成部材7の位置ずれが起きないようにパッキングする目的で設けられる。
また、軸筒8は、液体収容部4まで延在して液体収容部4と一体的に形成されていてもよい。
【0044】
(筆先ユニットの構成)
本発明の筆先ユニット20は、上述の中継芯2と、中継芯2から供給される液体5を用いて筆記するために設けられる筆先3と、中継空間形成部材7と、軸筒8を組み付けて構成される。該組み付けにおいて、中継芯2の先端部分は、筆先3の後端部分の内側に設けられ、中継芯2の中央部分は、中継空間形成部材7に取り囲まれるように設けられ、中継芯2の後端部分は、液体収容部4側に延在する。
図3(a)、
図3(b)に一例を示す。
筆先ユニット20には、軸筒8と筆先3の間に筆先ホルダ9を配置して、筆先3のまとまりをよくしてもよい。また、軸筒8には、液体塗布具1の把持筒11やキャップ12の位置を画定するために、中継空間形成部材7の範囲に軸筒鍔部8aを設けてもよい。
【0045】
筆先ユニット20は、筆先3の内側から筆先3の表面に向かって粒子を含有する液体5を供給する構造を有する。筆先の外側から液体を供給する構造に比べ、筆先3の全体に粒子が供給され、筆記あるいは塗布において粒子ムラを低減することができ、また、サイズの大きな筆先3にも対応可能となる。
【0046】
(液体塗布具の構成)
本発明の液体塗布具1は、その構成に、上述の中継芯2又は筆先ユニット20を含むものである。
さらに、液体5を収容するように構成される液体収容部4、液体5や液体5に含有する粒子を撹拌可能なように液体収容部4の内部に備えられる撹拌子6、液体収容部4を密栓する尾栓10、使用者が塗布時に把持するための把持筒11、筆先3等の乾燥や異物混入を防ぐためのキャップ12、空気抜きのための孔部等を適宜備えることができる。
図4(a)、
図4(b)に一例を示す。
【0047】
液体塗布具1は、さまざまな用途に用いることができる。
たとえば、アイライナー、アイシャドウ、アイブロー、リップライナー、リップグロス、コンシーラー、ネイルケア製品、まつ毛ケア製品等の化粧用液体塗布具に適用可能である。
ラメアイライナーの一例として、アルミニウムをシリカコーティングしたラメを、粘度2.6cpsの液体5に含有させ、液体収容部4に収容した液体塗布具が挙げられる(
図4(a)参照)。
【0048】
また、たとえば、油性マーカー、水性マーカー、ボードマーカー、ラインマーカー、ぺイントマーカー、修正ペン、医療用マーカーの筆記用液体塗布具、薬液塗布具等に適用可能である。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
材質がポリエステルエラストマーの中継芯(試料(3)、試料(4)、試料(5))を用いて、液体の粘度及び粒子の粒度による粒子の通過状態を確認した。
中継芯の試料(3)、試料(4)、試料(5)は、最大流路幅、中心核径、中継芯外径は同じであり、横断面形状が異なる。
液体中の粒子(ラメ)の粒度を30μm、70μm、液体の粘度を3~15cpsの間で設定した。粘度はPEGの含有量で調整した。
30mmの長さにカットした中継芯の下部を液体に浸漬し、毛細管力により液体を中継芯の上面へ移動させ、該上面を使って筆記し、筆跡に含まれるラメの量(有無及び程度)を目視で評価した。このとき、粘度が9cpsの液体を試料(5)に浸漬させた場合の筆跡に含まれるラメの量を、ラメの粒度ごとに基準にし、基準と同等の場合は〇、基準よりラメの量が多い場合は◎として評価した。
評価結果を、表3に示す。
【0050】
【0051】
表3より、ラメの粒度が70μmの場合でも、横断面形状の凹凸部分が多い試料(5)も少ない試料(3)も、本実施条件において基準と同等量以上のラメが筆跡に含まれることが確認された。さらに、ラメの粒度が30μmの場合は、本実施条件において基準と同等量以上のラメが筆跡に含まれ、特に液体の粘度を下げるとより多くのラメが筆跡に含まれることが確認された。
【0052】
(実施例2)
材質がポリエステルエラストマーの中継芯(試料(3)、試料(4)、試料(5))を用い、粒度30μmの粒子(ラメ)が含まれる粘度9cpsの液体を浸漬させたときの、SEM画像を観察した。
中継芯の試料(3)、試料(4)、試料(5)は、最大流路幅、中心核径、中継芯外径は同じであり、横断面形状が異なる。また比較例として、5デニールポリエステル繊維の集束体と樹脂からなり、気孔率62%の中継芯でも評価を行った。
30mmの長さにカットした中継芯の下部を液体に浸漬し、毛細管力により液体を中継芯の上面へ移動させ、該上面を使ってメンブレンフィルター(0.2μm)に筆記後、蒸着させずにSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)で撮影した。
それぞれ3か所のSEM画像を、表4に示す。
【0053】
【0054】
試料(3)、試料(4)、試料(5)では、いずれも同程度の量のラメが中継芯の上面に供給されていることが分かった。
一方、繊維集束体及び樹脂からなる中継芯ではフィルター効果によりポリエステル繊維の隙間に大きなラメが引っかかってしまうため、大きなサイズのラメは中継芯を通過せず、中継芯の上面に供給されないことが分かった。
【0055】
(実施例3)
材質がポリエステルエラストマーの中継芯(試料(3)、試料(4)、試料(5))を用い、粒度70μmの粒子(ラメ)が含まれる粘度9cpsの液体を浸漬させたときの、SEM画像を観察した。
中継芯の試料(3)、試料(4)、試料(5)は、最大流路幅、中心核径、中継芯外径は同じであり、横断面形状が異なる。また比較例として、5デニールポリエステル繊維の集束体と樹脂からなり、気孔率62%の中継芯でも評価を行った。
30mmの長さにカットした中継芯の下部を液体に浸漬し、毛細管力により液体を中継芯の上面へ移動させ、該上面を使ってメンブレンフィルター(0.2μm)に筆記後、蒸着させずにSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)で撮影した。
それぞれ3か所のSEM画像を、表5に示す。
【0056】
【0057】
試料(3)、試料(4)、試料(5)では、粒度70μmのラメが中継芯の上面に供給されていることが確認された。試料(3)のような横断面形状を有する中継芯は、粒子の通過性がやや高いことが分かった。
一方、繊維集束体及び樹脂からなる中継芯では、フィルター効果によりポリエステル繊維の隙間に大きなラメが引っかかってしまうため、大きなサイズのラメは中継芯を通過せず、中継芯の上面に供給されないことが分かった。
【0058】
(実施例4)
材質がポリエステルエラストマーの中継芯(試料(3)、試料(4)、試料(5))を用いて、液体のフローの量を確認した。
中継芯の試料(3)、試料(4)、試料(5)は、最大流路幅、中心核径、中継芯外径は同じであり、横断面形状が異なる。
液体中の粒子(ラメ)の粒度を30μm、70μm、液体の粘度を3~15cpsの間で設定した。粘度はPEGの含有量で調整した。
上記中継芯と液体を筆先ユニットに組み込み、該上面を使って10cm/5秒の速度で普通紙へ1m筆記し、筆記に使用された液体の重量(mg)を測定した。すなわち、該液体の重量により、液体の流出量(フロー)を評価することができる。
評価結果を、表6に示す。
【0059】
【0060】
表6より、横断面形状の凹凸部分が多い試料(5)も少ない試料(3)も、本実施条件において液体の組成が同じであれば同等のフローが確保できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、粒子を含有する液体を筆先に供給する中継芯の断面について、流路の横断面が、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子を通過可能な断面形状を有する部分とを備えた形状とすることにより、中継芯が毛細管力や液体保持力を有した上で、中継芯で目詰まりすることなく、液体を筆先に一定量スムーズにムラなく供給することができる。
このため、本中継芯を含む液体塗布具は、ラメやパールの顔料等の粒子を含む液体をきれいに塗布することを求めるユーザーのニーズに沿った化粧用具や筆記具であり、かつ、ラメやパールの顔料等の粒子が目詰まりを生じることなく長期使用できるため、広く応用されることが期待される。
【符号の説明】
【0062】
1 液体塗布具
2 中継芯
2a 外郭部
2b 流路
2c 中心核
3 筆先
3a 筆先鍔部
4 液体収容部
5 液体
6 撹拌子
7 中継空間形成部材
8 軸筒
8a 軸筒鍔部
9 筆先ホルダ
10 尾栓
11 把持筒
12 キャップ
20 筆先ユニット