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特許7300480血管疎通手術において使用される脳卒中カテ-テルおよび、その方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】血管疎通手術において使用される脳卒中カテ-テルおよび、その方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/22 20060101AFI20230622BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20230622BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20230622BHJP
   A61M 25/098 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61B17/22
A61M25/00 534
A61M25/10 520
A61M25/098
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021107195
(22)【出願日】2021-06-29
(62)【分割の表示】P 2017549486の分割
【原出願日】2016-03-24
(65)【公開番号】P2021164670
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】62/138,599
(32)【優先日】2015-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514205573
【氏名又は名称】トマス,ジェフリー,イー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トマス,ジェフリー,イー.
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0214002(US,A1)
【文献】国際公開第2013/123007(WO,A1)
【文献】特表2014-517726(JP,A)
【文献】米国特許第06165199(US,A)
【文献】特表2003-523803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/22
A61M 25/00
A61M 25/10
A61M 25/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管閉塞を緩和するためのカテーテルシステムであって、前記カテーテルシステムは、
アウターカテーテルであって、前記アウターカテーテルは、近位部分、遠位部分、中心ルーメン、前記アウターカテーテルの側壁を通じる穿孔を備える穿孔領域、および1つ以上の膨張可能バルーンを有し、前記1つ以上の膨張可能バルーンは前記アウターカテーテル上に配置され、かつ前記遠位部分に配置された第1膨張可能バルーンを備え、前記穿孔領域は、前記第1膨張可能バルーンと前記近位部分との間にある、アウターカテーテルと、
近位開口端および遠位開口端を伴うバイパスルーメンを有する第1バイパスカテーテルであって、前記第1バイパスカテーテルはスライド可能に前記アウターカテーテル内に配置され、前記第1バイパスカテーテルは、前記アウターカテーテルの遠位部分を通じてそこを越え、さらに血管内に位置する閉塞を通じて延びるように構成され、かつ前記遠位開口端を通じて流体を送るように構成される、第1バイパスカテーテルと、
前記1つ以上の膨張可能バルーンを膨張させるように構成された膨張ルーメンと、
前記穿孔領域の穿孔を介して吸引するべく、前記アウターカテーテルの中心ルーメン内に陰圧を付与するための第1ポンピング手段と、
前記近位開口端にて前記第1バイパスカテーテル内に、さらに前記第1バイパスカテーテルを通じて完全に前記近位開口端から前記遠位開口端に向かってかつそこを通じて外に、血栓溶解薬または他の流体をポンピングするための第2ポンピング手段と、
を備える、カテーテルシステム。
【請求項2】
前記第1ポンピング手段は陰圧ポンプを備える、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項3】
前記第1ポンピング手段は、前記陰圧を付与するように構成されるシリンジを備える、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項4】
前記第1ポンピング手段は流量制御バルブを備える、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項5】
前記陰圧は、前記アウターカテーテルの穿孔領域を通じて血餅破片の少なくとも一部を吸引する、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項6】
前記陰圧は、血餅破片の少なくとも一部が前記アウターカテーテルの表面に付着するのを助ける、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項7】
前記アウターカテーテルの穿孔領域の両側に位置するX線撮影用マーカーをさらに備える、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項8】
前記第1バイパスカテーテルはマイクロカテーテルである、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項9】
前記1つ以上の膨張可能バルーンは、膨張されるときに血流を遮断する、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項10】
前記膨張ルーメンは、前記アウターカテーテルの周縁に配置される、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項11】
前記閉塞の部位にて前記穿孔領域の穿孔を通じて流体をポンピングするように構成される、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項12】
前記カテーテルシステムは第2バイパスカテーテルを備え、前記第2バイパスカテーテルは中心ルーメンおよび遠位開口端を備え、前記第2バイパスカテーテルは、前記遠位開口端を通じて流体を送ることができ、かつスライド可能に前記アウターカテーテル内に配置される、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【請求項13】
前記第2バイパスカテーテルは、前記閉塞を通じかつそこを超えて延びるように構成される、請求項12に記載のカテーテルシステム。
【請求項14】
前記1つ以上の膨張可能バルーンは、前記近位部分に配置された第2膨張可能バルーンをさらに備え、前記穿孔領域は、前記第1膨張可能バルーンと前記第2膨張可能バルーンとの間にある、請求項1に記載のカテーテルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、本明細書にその全体を参考として組み込まれる2015年3月26日に出願された米国特許仮出願番号62/138,599の優先性を主張する。
【0002】
本出願は、一般に脳卒中治療カテーテルシステムおよび、分岐部閉塞または主要な脳血管に形成された血餅を治療するための方法に関する。具体的には、本出願は、血餅捕捉機構、血餅破片を回収する吸引機構、および患者の血管の血流回復および開通性を延ばすために血餅をバイパスする方法を組み合わせたバイパスカテーテルシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
大脳動脈の血栓性または塞栓性閉塞は、虚血性または急性脳卒中の原因となることが多い。脳卒中とは、突然に脳領域へ血液循環が失われ、特定の神経機能を失う結果になることであると特徴付けられる。中大脳動脈(MCA)またはその分岐における閉塞は、初回脳卒中全体の3分の2の原因となる最も一般的タイプの前方循環系梗塞である。そのような急性脳卒中の直後には、閉塞したMCAを再度開通する必要があり、初期の閉塞発症から8時間内で行われることが好ましい。大脳血管内皮の修復には、損傷部位に付着する血小板付着が先行し、続いて走化性因子として作用している凝固要因を血小板と一緒に挟み、血液から凝固したより多くのタンパク質を誘発して取り除く。この増幅機構の結果(すなわち、血小板の凝集および活性化)は、血小板の蓄積および、血管を急速に再閉塞する白色血栓、つまりフィブリン/血小板血栓、の部位における血小板の結合となる。この状況において、tPAのような血栓溶解薬は、この異なるタイプの血栓に対しては作用しないため、もはや有効ではない。従って、血管内の閉塞を除去する従来の方法は、すべての状況において適切とはならないことがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、血管閉塞を緩和するためのカテーテルシステムが提供されている。当該カテーテルシステムは、近位端、遠位端、中心ルーメン、穿孔部分を有するアウターカテーテル;少なくとも1つの膨張可能バルーン;バイパスマイクロカテーテル;およびガイドワイヤーからなる。当該カテーテルシステムにおいて、バイパスマイクロカテーテルはアウターカテーテル内にスライド可能に配置されている。
【0005】
血管閉塞を除去するための方法は、アウターカテーテルとバイパスカテーテルを備えるカテーテルシステムを提供することを含み、当該カテーテルシステムでは、バイパスマイクロカテーテルが、アウターカテーテル内にスライド可能に配置され、カテーテルシステムの遠位端が血管内の閉塞の近位端に位置し、血流が閉塞の近位で遮断されるようにバルーンを膨張させられる。続いて、バイパスマイクロカテーテルを血管内で閉塞を通りそこを越えて遠位に延ばすことによって、バイパス機構が開始され、そうすることで第1薬物治療用液剤が、バイパスマイクロカテーテルを通じて脳の領域、または血管が及ぶ他の組織へと送達されることができる。それに並行して、当該方法はまた、アウターカテーテルの穿孔部分を閉塞の近位または閉塞内に位置させること、閉塞を分解するために第2の薬液を閉塞へ送達すること、そしてそれに続き、アウターカテーテルのルーメンを通じて除去可能な閉塞の一部を除去することを含む。
【0006】
一実施形態では、血管分岐の閉塞を治療するための脳卒中治療カテーテルシステムが提供される。当該カテーテルシステムは、少なくとも1つの膨張可能バルーン、第1バイパスマイクロカテーテル、第2バイパスマイクロカテーテル、および少なくとも1つのガイドワイヤーを有するアウターカテーテルを備え、第1および第2バイパスマイクロカテーテルは、アウターカテーテル内にスライド可能に配置され、血管内の分岐する遠位枝に入るように延長可能となっている。
【0007】
分岐血管における血管閉塞を治療するための方法は、アウターカテーテル、第1バイパスマイクロカテーテル、第2バイパスマイクロカテーテルを備えたカテーテルシステムを含み、当該アウターカテーテルは、第1膨張可能バルーンと第2膨張可能バルーンと穿孔部分を含み、アウターカテーテルシステムの遠位端を閉塞の先であり分岐血管の手前に位置させ、第1バルーンを閉塞の先で膨張させ、第2バルーンを閉塞手前で膨張させて、膨張したバルーンが閉塞の近位への血流を遮断し、このようにして閉塞を第1および第2の膨張したバルーンの間で区域的に捕捉するようにし、第1バイパスマイクロカテーテルと第2バイパスマイクロカテーテルを血管の開通性を維持して薬物治療用液剤を送達するためにそれぞれ第1および第2遠位分岐枝内に延ばす。当該方法は、局所的に捕らえた閉塞において、それを分解するためにアウターカテーテル上の穿孔部分を通して薬液を送達すること、および分解された血餅破片を除去するためのアウターカテーテルの中心ルーメンによって有効化された吸引機構を更に含む。
【0008】
本明細書に組込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の態様の様々な例示的実施形態を示す、様々な例示的なシステム、方法、等を示す。図内に示された部品の境界線(例えば、ボックス、ボックスのグループ、または他の形状)は、境界線の一例を表すものであると理解されよう。1つの部品が複数部品として設計されることができ、または複数部品が1つの部品として設計されることができることを当業者は理解するであろう。別の部品の内部部品として示される1つの部品が、外部部品として供給されることができ、その逆も可能である。更に、部品は縮尺に合わせて描かれていない場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1a】単一管腔のアウターカテーテルの一部の側面斜視図である。
図1b】複式管腔のアウターカテーテルの一部の側面斜視図である。
図1c】頭蓋外ガイドカテーテル(ECGC)の側面斜視図である。
図1d】頭蓋外ガイドカテーテル(1d)の断面図である。
図1e】単一管腔アウターカテーテル(1e)の断面図である。
図1f】複式管腔アウターカテーテル(1f)の断面図である。
図1g】閉塞部位に配置された頭蓋外ガイドカテーテル、アウターカテーテル、バイパスマイクロカテーテルの側面図である。
図2図1bの複式管腔カテーテルの近位部分の側面図である。
図3】2つの膨張したバルーンを備えた図1の複式管腔カテーテルの側面図である。
図4】分岐した遠位枝路(M1およびM2)および分岐の結合部近くに沈着する閉塞を有する脳血管の側面図である。
図5図4の閉塞の近位に配置された図1の単一管腔カテーテルの側面図である。
図6a図4の閉塞を越えて延びるバイパスカテ-テルを有する図1aの単一管腔カテーテルの側面図である。
図6b図4の閉塞を越えて延びるガイドワイヤーを有する図1bの複式管腔カテーテルの側面図である。
図7図4の閉塞を越えて延びる第1および第2バイパスマイクロカテーテルを有する複式管腔カテーテルの側面図である。
図8】第1バイパスマイクロカテーテルが部分的に引き込まれ閉塞部位の近位に位置し、第2バイパスマイクロカテーテルが遠位分岐M2の1つ内に延びていることを示す複式管腔カテーテルの側面図である。
図9】閉塞する血餅が分岐した遠位分岐(M1およびM2)から一定距離を置いて沈着した脳血管の側面図である。
図10図9の閉塞の近位に位置する複式管腔カテーテルの近位部分の側面図である。
図11図9の閉塞を通り、図9の閉塞を越えて延びる、複式管腔カテーテルの側面図である。
図12】第1および第2膨張バルーンの間の閉塞を捕らえるための捕捉機構が配置された、複式管腔カテーテルの側面図である。
図13a】狭まった遠位端を有する図1の単一管腔カテーテルの一部の側面斜視図である。
図13b】徐々にテーパーが付いた遠位端を有する図1の単一管腔カテーテルの側面斜視図である。
図14】アウターカテーテルの代替的実施形態の側面斜視図である。
図15】分岐を含む右中大脳動脈の主要管腔の閉塞を示す血管造影像である。
図16】2本の分岐のうち1本のみの部分的血管疎通を示す血管造影像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
カテーテルシステム10は、大脳血管の閉塞した部分への血流を回復するために、例えば、虚血性脳卒中に苦しむ患者に用いることができる。一般的に、図1に示される当該カテーテルシステム10は、管状部材13を有する単一管腔装置(図1a)または管状部材13および14の複式管腔装置(図1b)を備える。一実施形態において、カテーテルシステム10は、アウターカテーテル12、バイパスマイクロカテーテル23、少なくとも1つの血流遮断バルーン24-a、およびガイドワイヤー11を備える。別の実施形態では、カテーテルシステム10は、アウターカテーテル12、第1バイパスマイクロカテーテル23、第2バイパスマイクロカテーテル25、2つの膨張可能血流遮断バルーン24-aおよび24-bならびに少なくとも1つの(図1bおよび図2に示す)ガイドワイヤー11aを備える。カテーテルシステム10は、近位端4、遠位端3、単一ルーメン8、周縁に配置された膨張ルーメン7、および頭蓋外頚動脈内、または脊柱や他の動脈において血液の順流を遮断することが可能な少なくとも単一の血流遮断バルーン6を有する、頭蓋外ガイドカテーテル(ECGC)5を介して患者の血管へ導入される。
【0011】
アウターカテーテル12は概して筒状の形状で、第1筒状管腔13、第2筒状管腔14、近位端21、移行部分(図示せず)、遠位端22を備えている。第1筒状管腔13および第2筒状管腔14は、アウターカテーテル12と一体化形成されるか、またはアウターカテーテル12に別途取付けられることができる。各筒状管腔13および14は、近位開口端16および17、ならびに遠位開口端19および20をそれぞれ備えている。アウターカテーテル12はまた、近位端21に配置された少なくとも1つの膨張可能血流遮断バルーン24-a、および近位端21の側壁上に少なくとも1つの穿孔18を備える。好ましくは、アウターカテーテル12の近位端21の側壁部は、近位端21および/または遠位端22および/または移行部分を覆う(図2)、実質的に穿孔した区域/領域45を形成する複数の穿孔を備えることができる。X線撮影用マーカー46-aおよび46-bは、(図2および図5に示す)アウターカテーテル12の穿孔部分45の両側に配置することができる。
【0012】
図1に示されるアウターカテーテル12に類似して、第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25は、各近位端26および27、移行部分(図示せず)、各遠位端28および29を有する概して筒状の本体を備えている。アウターカテーテル12、第1バイパスマイクロカテーテル23、および第2バイパスカテーテル25のそれぞれは、筒状本体の遠位端22、28、29から筒状本体の近位端21、26、27へと延びるそこに少なくとも1つのルーメン15、13’および14’(図1bに示す)を備えることができる。しかしながら、第1および第2バイパスマイクロカテーテルのルーメン13’および14’のみが、近位端26および27、ならびに遠位端28および29に開口端を備え、一方で、アウターカテーテル12のルーメン15は近位端21においてのみ開口しており、遠位端22においては閉じていることができる。
【0013】
アウターカテーテル12の第1管腔13および第2管腔14の内部に配置された第1バイパスカテーテル23および第2バイパスカテーテル25は、移動可能で、時計回り/反時計回りの方向に回転可能、またはアウターカテーテル112内で水平軸Aに沿って前方/後方方向にスライド可能である。膨張管腔7は、少なくともアウターカテーテル12または、1つもしくは両方のバイパスマイクロカテーテル23および25の周縁にそれぞれ配置されることができる(図1d~gに示す)。食塩液または滅菌水などの標準の膨張流体が満たされると膨張ルーメンは、アウターカテーテル12の近位部にある1つ以上のバルーンを膨張させるように働くことができる。第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25が(図4に示す)主な血管ルーメン30、または遠位分岐31(M1)および32(M2)の血管ルーメン内へ導かれる際に、の可視化できるようにするため、X線不透過性マーカー36-a、36-bが、それぞれ、第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25の遠位部上に配置されることができる(図7に示す)。
【0014】
急性脳卒中などの頭蓋内での用途のために、アウターカテーテル12は、低刺激性シリコーンゴム、ニチノール、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PETE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ラテックス、チタン、ステンレス鋼、熱可塑性エラストマー、またはこれらの組み合わせなどの可撓性材料で作製されることができるが、これらに限定されない。他の好適な材料もまた、検討される。第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25は、アウターカテーテル12と同じ材料から作製されることができ、または異なる材料から作製されることもある。アウターカテーテル12、第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25は、すべて親水性表面コーティングを有することができる。第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25は、約150cmから約300mmの全長を有することができ、約0.62mmから約0.95mmの外径を有することができる。一般に、アウターカテーテル12の内径は、第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25の外径より大きい。理想的には、アウターカテーテル12は、それぞれ第1および第2バイパスマイクロカテーテル23、25の外径より大きな約0.10mmから約0.50mmの内径を有することができる。
【0015】
アウターカテーテル12、第1バイパスマイクロカテーテル23、第2バイパスマイクロカテーテル25のすべては、マッチングシステムを形成するために色識別または番号識別されることができる。同時に使用される全カテーテルは、あらゆる不一致を防止するために互いに似たように符号化されなければならない。
【0016】
カテーテルシステム10はまた、1つ以上のガイドワイヤー(図1~3に示す)を備えることができる。第1ガイドワイヤー11は、親水性物質でコーティングされてよく、カテーテルシステム10を初めに挿入するために使用されることができる。第1ガイドワイヤー11は、約180cmから約190cmの全長を有することができる。図6、7、11~13に示される第2および第3ガイドワイヤー11a、11bは、第1バイパスマイクロカテーテル23または第2バイパスマイクロカテーテル25を導くために使用されることができ、また、同様に構成され、約300cmの全長を有することができる。
【0017】
図1gにて示すように、患者の大腿動脈へダブルルーメンシース(図示せず)を挿入することで、カテーテルシステム10は患者の体内に導入されることができる。当該シースはまた、動脈血化血液を排除するための追加の流路を有することができる。アウターカテーテル12、バイパスマイクロカテーテル23を備えるカテーテルシステム10は、脳卒中患者の場合、その後、シースの第1ルーメンを通り大腿動脈へと導かれ、大動脈弓まで上り巡り、頚動脈または椎骨動脈へ入ってから頭蓋底へと入るように導かれ、大脳動脈の動脈閉塞部位に配置される。頭蓋外に残る中間ガイドカテーテル(ECGC)5は、頭蓋外脊椎動脈または頚動脈の中に配置されることができ、その後、装置用の静止したガイドとして機能し、頭蓋内を通過する。このECGCは、血管内の血流を遮断するために追加的に機能することができる膨張したバルーン6によって適切な位置に固定されることができる。ガイドワイヤー11は、その後、図6aに示すように閉塞を通って、それを越えるように延びるバイパスマイクロカテーテル23を配置するために使用される。続いて、外科医は、血管内でECGC上のバルーン6を越え閉塞の近位へ滴る血流を遮断するために、図6aに示すように単一のバルーンを、または図6bに示すように2つのバルーンを、または単一のバルーンをダンベル形状に膨張することができる。この血流を遮断する工程は、バイパス機構を初期化、および/または血栓溶解治療の前に実施することができる。
【0018】
アウターカテーテル12、第1バイパスマイクロカテーテル23、および第2バイパスマイクロカテーテル25が、体内を通り導かれ、図6bに示されるように閉塞部位に位置される一方で、(約300mmHgで)加圧され、および/またはヘパリン添加された生理食塩水が近位端21から中心ルーメン15へポンプで汲み上げられ、閉塞40の部位においてアウターカテーテル12の穿孔18を通じて排出される点に留意すべきである。ヘパリン添加された生理食塩水は更に、閉塞40を越えて遠位分枝M1 31およびM2 32へと送達され、それぞれ近位端26、27から第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25のルーメン13’、14’を通り、遠位開口端28、29を通り排出される。ヘパリン添加生理食塩水のカテーテル12、23、および25を通じた流入は、血液や塞栓などの他の潜在的な破片が、カテーテルに入り、カテーテルを詰まらせることを防止する。一実施形態では、第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25は、動脈血化または酸素化された血液、血栓溶解薬、冷血漿、生理食塩水などの他の治療薬液を送達するために用いられることができる。
【0019】
図6~8は、大動脈や血管30内の分岐枝の結合部の近くに詰まった閉塞40に対して移動する位置での脳卒中カテーテルシステム10を示している。図6aおよび図6bは、閉塞40の近位に位置するアウターカテーテル12、および閉塞40を越えて遠位分岐M1 31ならびにM2 32へ向かって延びるガイドワイヤー11aならびに11bを示している。第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25の遠位端に配置されたX線不透過性マーカー36-aおよび36-bは更に、外科医が両方のバイパスマイクロカテーテル23および25を遠位分岐M131およびM232へ向けて導くことを支援する(図7)。図6に示される閉塞40を周り、または通過する施術は、脈管構造の組織壁の膨張性特性によって可能となっている。更に、バルーン24-aおよび/または24-bの膨張は、外科医がアウターカテーテル12を定位置に固定できるようにするだけでなく、血管内で閉塞の近位への血流を遮断するために重要に機能する(図8)。一般に、完全に膨張すると、バルーン6、24-aおよび24-bは、少なくとも直径約3mmで全長約5mmとなることができ、ECGC5ならびに/または血管壁内のアウターカテーテル12が動くことを十分に防止し、また閉塞40の部位にて血流を十分に遮断するように設計されている。バルーンの設計は、更に、より線形の介在区域で分割される2つのダンベル状端部が単一の膨張流路を通じて膨張するようにできる。すべてのバルーンが膨張可能であり、血液の前進流を遮断できると、外科医は、例えばECGC上のバルーン6など、1つのバルーンだけを膨張させることを選択することができる。場合によって、外科医は血液の前進流を遮断するために、2つのバルーン6および24-aもしくは24-b、またはECGCおよびアウターカテーテル12上に配置されているすべてのバルーンを膨張させることを選択することができる。血管壁の特性や脆性に応じて、外科医は血流を遮断するためにバルーンを異なる圧力で膨張させることもできる。
【0020】
更に、図8に示すように、バイパスマイクロカテーテル23および25の両方は、アウターカテーテル12内で移動可能なので、外科医は2つのバイパスマイクロカテーテルのうち1つを部分的に引き抜くことを選択できる。そのようにすることで、部分的に引き抜かれたバイパスマイクロカテーテルは、(図8に示すように、)閉塞40の近位に位置するようにでき、閉塞40の血栓溶解を開始するために、血栓溶解薬をアウターカテーテル12の穿孔部分45を通して送達することに加えて、同じ血栓溶解薬を閉塞40に送達するために使用することができる。同時に、遠位分岐M1 31およびM2 32のいずれか1つの内部に配置された別のバイパスマイクロカテーテルが、虚血性イベントによって酸欠状態の脳の部分(バイパス機構)へ動脈血化血液または冷血漿を送達して、少なくとも1つの分枝内に血流を回復させるために使用され得る(図8)。
【0021】
動脈血化血液の有害な閉塞を越えた送達は、閉塞が取り除かれる前に少なくとも1つの酸欠状態の分岐血管の活力を回復させるだけでなく、重要なことにも、外科医が閉塞を分解して、患者の虚血性脳への正常な血流を回復させるために要する時間を増加させることになる。例えば、カテーテルシステム10を使用して閉塞の遠位の領域で血流を回復するために要する時間は、15分内であることができ、手術が開始されて8分から10分内が好ましい。或いは、患者自身の血液を大腿動脈からシリンジ(図示せず)へ引き込み、ヘパリン添加された生理食塩水とその血液を混合することによって、分岐血管(図8の第2バイパスマイクロカテーテル25に示す)の1つに延びたバイパスマイクロカテーテルを通してヘパリン添加生理食塩水を添加した動脈血化血液を注入投与することができる。
【0022】
バイパスマイクロカテーテルの1つが血管分岐M1 31/M2 32(図8に示すように)の1つへの血流を回復するために位置決めされた後、外科医は、(図8の第1バイパスマイクロカテーテル23に示すように)有害な閉塞40の近位に位置する部分的に引き抜いたバイパスマイクロカテーテルを通じて血栓溶解薬をポンピング注入して血栓溶解治療を開始することができる。血栓溶解薬の閉塞への送達は、閉塞40の溶解または分解を促進することができる。更に、陰圧をアウターカテーテル12の中心ルーメン15を介して適用することができる。この圧力は、陰圧ポンプによって、または流量制御バルブが付いたシリンジを使用するオペレータによって付与されることができる。この生成された陰圧は、関係する血管壁を崩壊させるために必要な圧力より概して低い。
【0023】
アウターカテーテルの中心ルーメン15にて形成された陰圧は、アウターカテーテル12の穿孔18を介してより小さな血餅破片を更に吸引することができるようにする。適用される圧力はまた、穿孔18を通過できないより大きな破片がアウターカテーテル12の表面に付着するようにする。有害な閉塞40が完全に分解された後、部分的に引き込まれたバイパスマイクロカテーテル23を介した血栓溶解薬の送達は停止され、アウターカテーテル12はその表面に付着した血餅破片と共に引き込まれることができる。その間、第2バイパスマイクロカテーテル25は、図8に示すように、取り外される前に追加の5~10分に渡って動脈血化血液を送達することができる。
【0024】
一般に、第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25の両方は、バイパス手段を実現して遠位の血管分岐枝へのアクセスするためにアウターカテーテル12の遠位端の10cm先まで延びすることができる。動脈血化血液に加え、血栓溶解薬、冷血漿、および生理食塩水が、上述の方法で閉塞を越えて投与され得る。局所低体温を形成するために冷血漿が用いられることができ、外科医が効果的に障害となっている血餅を除去するための時間を延長することができる。
【0025】
本実施形態において、第1バイパスマイクロカテーテル23が部分的に引き抜かれ、第2バイパスマイクロカテーテル25が動脈血化血液を分岐M2 32へ送達するように示されているが、当業者には、外科医が血栓溶解薬および動脈血化血液を送達するために、バイパスマイクロカテーテル23および25のどちらか希望する方を使用するように選択できると理解されるであろう。外科医はまた、薬剤を血栓に直接送達するか、閉塞内に存在している穿孔を通して血栓内に注入するかを選択することもできる。
【0026】
別の実施形態では、図9~12に示すように、主要血管30内に存在する有害な閉塞を2つの膨張バルーンによって有効化される閉塞捕捉機構によって分岐枝の結合点からの一定距離で治療されることができる。
【0027】
本実施形態では、アウターカテーテル12は初めに閉塞40を通過して、閉塞40を越えるように導かれ、図11に示すように1つまたは2つのガイドワイヤー11aおよび11bを用いて、少なくとも1つのアウターカテーテル12上のバルーン、例えば図12のバルーン24-aが、第2バルーン24-bが閉塞40の近位に位置する一方で、閉塞40を越えて位置される。2つのバルーン24-aおよび24-bは、アウターカテーテル12上に、それらの間の距離が閉塞の部位にて血流を遮断して、サイズ範囲が約0.5cmから約3.0cmのほとんどの虚血の場合の閉塞を捕捉するような間隔をあける。アウターカテーテル12上の穿孔部分45の両側にある(図5に示す)X線不透過性マーカー46-aおよび46-bならびに/またはバルーン上のマーカー35-aおよび35-bは、外科医が更にこの施術を可視化できるようにできる。閉塞40が2つのバルーン24-aと24-bとの間に配置されると、バルーン24-aおよび24-bは、部分的捕捉領域および/または血液がない領域を形成するために、膨張流体を膨張ルーメンを通して送達することによって膨張されることができる。膨張したバルーン24-aおよび24-bはまた、アウターカテーテル12を定位置に固定できるようにすることができる。重要なことに、アウターカテーテル12上のバルーン24-aおよび24-bを膨張させると、閉塞の近位での血管内の血流を止め、その分けられた領域で閉塞40の血栓溶解を開始するために薬液がアウターカテーテル12上の穿孔部分45を通じて送達されるようになる。並行して、バイパス機構は、X線不透過性マーカー36-aおよび36-bの補助を伴って、第1バイパスマイクロカテーテル23および第2バイパスマイクロカテーテル25を主要血管30の遠位分枝M1 31およびM2 32の中に延ばすことによって開始され得る。そのようにすることで、外科医は、虚血性イベントによって酸欠状態となった閉塞40の先にある脳領域の血流を回復するために、動脈血化血液または冷血漿などの治療用薬液を、1つまたは両方のバイパスマイクロカテーテル23および25を通じて注入できる。
【0028】
本実施形態では、薬液には、これらに限定されないが、血栓溶解薬または抗血小板薬が含まれ、中心ルーメン15を介して、アウターカテーテル12の穿孔部分45を通過し放出することで送達されることができる。閉塞40が部分的に捕捉され、血液が無いことから、薬液の局所的濃度は、閉塞40を分解するために十分となり、薬液投与が局所化され、希釈やウォッシュアウト効果がないことから、閉塞40が部分的に捕捉されていない場合に必要とされる時間よりかなり短い時間内で分解される。一旦、閉塞が十分に分解されると、アウターカテーテル12の中心ルーメン15を介した薬液の送達は停止され、陰圧が適用される。この圧力の適用は、より小さな血餅破片がルーメン15を通り吸引されるようにし、より大きな破片がアウターカテーテル12の表面に付着することを促す。
【0029】
バイパスマイクロカテーテル23および25、ならびにアウターカテーテル12は、別個の異なるルーメンを有することから、アウターカテーテル12が部分的に係合し、少なくとも閉塞40の一部を除去するために使用される一方で、バイパスマイクロカテーテル23および25は、所定位置に留まることができる。図8および図12に示すように、一旦、カテーテルシステム10が閉塞40の一部を除去するために使用されると、バイパスマイクロカテーテル23および25は、閉塞40を越えて加圧した冷却溶液を送達することによって、局所的な流体薬剤による冷却療法を付与するように使用され得る。この溶液には一般に、ヘパリン添加の加圧した生理食塩水および/または、脳に血流を介して局所領域的な低体温を生成するために送達される含血液/含酸素化合物が含まれる。本実施形態では、溶液のヘパリン添加および加圧された生理食塩水成分は、それ自体、または酸素運搬化合物(通常は血液)との組み合わせのいずれかによってカテーテルシステム10に導入される前に冷却される。患者の体外のサーモスタット制御の冷蔵装置などといったあらゆる好適な溶液冷却方法を使用することができると考えられている。
【0030】
図2、5、6~8、および10~12に示すように、アウターカテーテル12の遠位端22は、拡散部位または複数の穿孔18を有する穿孔部分45を備えている。穿孔18は、アウターカテーテル12のルーメンから血管壁30への流体連通を提供する。穿孔18がアウターカテーテル12の遠位端22を越えて延び、いくつかの実施形態では、穿孔18をバルーンが配置される領域に存在しないことができることが検討される。
【0031】
穿孔部分45の両端、またはバルーン22および24上で配置され、バイパスマイクロカテーテル23および25の遠位端に配置されたX線撮影用マーカーは、他の好適なマーカーの中でX線不透過性リングまたは埋め込まれたペレットを含むことができる。実際の閉塞の推測的な長さを知ることは有用であるものの、血管造影法を用いた血栓症の可視化と同時に知ることになるので、長さを知らないことが脳卒中カテーテルシステム10の使用を限定するものではない。
【0032】
一旦アウターカテーテル12の穿孔部分45が閉塞40内に配置されると、アウターカテーテル12のルーメンへの陰圧の適用が停止されることができ、薬物治療用液剤を再度、残りの閉塞40にアウターカテーテル12の穿孔部分45を通じて直接導入することができる。穿孔部分45内の穿孔18を通して行われる局部的、分散的なこの薬剤投与システムは、ターゲット閉塞40のより広い表面積を血栓溶解薬、抗血小板剤、またはニトロ系血管拡張薬(すなわち、酸化窒素系薬品)などの薬物治療用液剤に晒すことになる。血栓溶解薬、抗血小板剤、またはニトロ系血管拡張薬の穿孔部分45を通じた局部的送達は、そこを通る血流を改善するために、前者2つの場合は、それを溶解することによって、後者の場合は、閉塞した血管30の内腔サイズを増加することによって、閉塞40を除去、または閉塞40のサイズを減少させる。
【0033】
酸化窒素系血管拡張薬を投与する場合、血管拡張薬の閉塞血管区域への分配の効果の1つは、局所的血管拡張を許容し、血管壁を閉塞した血栓から拡張することによって血栓から血管壁を解放できるようにすることである。
【0034】
穿孔部分45は更に、病巣内薬剤投与、特に病変を溶解するための血栓溶解薬剤、および/または閉塞部位において血管42の幅を拡げるための血管拡張薬の投与をするために使用してもよい。穿孔部分45はまた、抗血小板剤(2B3Aグリコプロテイン受容体遮断薬)または血管拡張薬などの薬剤を血管の選択した部分へ送達するために使用してよい。
【0035】
単一のバイパスマイクロカテーテルを有するカテーテルシステム100は、図13aに示すように遠位端122のみでテーパーが付けられるか、または図13bに示すように遠位端を徐々にテーパーを付けることができる。本実施形態では、アウターカテーテル120は、バイパスマイクロカテーテル130を収容するために図13aに示す単一ルーメン150を有する。本実施形態におけるバイパスマイクロカテーテル130は、アウターカテーテル120の遠位端の遠位部分122と一体化形成されるか、または遠位部分122に別途取付けられることができる。いくつかの実施形態では、アウターカテーテル12の遠位端および/またはバイパスマイクロカテーテル130は、外科医が機械的に閉塞40に係合し、細かい破片に破断できるようにする複数の鋸歯状の歯150を備えることができる(図13aおよびb)。本実施形態では、バイパスマイクロカテーテル130は、アウターカテーテル12に別途取付けられ、バイパスマイクロカテーテル130の回転および/または時計回りまたは反時計回りの動きで外科医が機械的に閉塞40を貫通できるようにする。鋸歯状の歯は、1.0mmから約4.0mmの間の長さを有することができ、格納式であることもできる。
【0036】
アウターカテーテル120の遠位部分122は徐々にテーパーが付き、アウターカテーテル120の遠位端の内径は、バイパスカテーテル130の外径よりわずかに大きい。アウターカテーテルの遠位部分122にテーパーをつけることで、アウターカテーテル120の遠位端からの流動を防ぎ、穿孔118を通る薬剤の流れを誘導する。
【0037】
別の実施形態では、アウターカテーテル200の単一ルーメンは、少なくとも2つのバイパスマイクロカテーテル230および240を収容するために十分大きな直径を有することができる(図14)。図14に示すようにアウターカテーテルの他の変形形態もまた、検討される。
【0038】
更に、カテーテルシステム10は、頭蓋内および末梢(四肢、虚血腸管、臓器虚血)の血管不全によって特徴付けられるいずれの状況においても使用することができると考えられる。冠状動脈へ挿入して血管内バイパス、血餅除去、システムの局所的薬剤送達機能を利用することによるこのような実施形態の1つを、虚血性心疾患を治療するために使用することができる。この技術は、静脈閉塞または機能不全の状況のために静脈管構造内において使用されることができる。
【0039】
予測される実施例
【0040】
近頃、心房細動と診断された62歳の男性患者が、左半身麻痺と2時間に渡る不明瞭な発語を伴って緊急治療部門へ運び込まれる。
【0041】
検査は、協力患者が左半身を動かすことができないという警告を示している。心律動は心房細動である。発語は、首尾一貫しているが構音障害があり、左顔面下垂がある。脳血管造影は、右中大脳動脈の閉塞を示している。静脈内血栓溶解が開始され、外科班が神経介入治療に動員された。
【0042】
患者は、インターベンショナル神経放射線の手術室へ運ばれ、インフォームド・コンセントを得た後に気管内全身麻酔が施される。患者は手術台の上で仰向けにされ、手術中の脳波電位モニタリングのための頭皮および四肢用電極が素早く取付けられる。右大腿動脈に動脈シースを装着するためには、微小穿刺セルジンガー法が用いられる。シースは、大腿動脈の管腔と繋がり、ガイドカテーテルを送るシース通過孔から分岐するサイドポートを備えている。このサイドポートは、バイパスマイクロカテーテル用に大腿動脈からの動脈血を提供するために利用される。このポートとバイパスマイクロカテーテルの近位端の間に介在するものは、大腿動脈血化血液をヘパリン添加生理食塩水で希釈する手段、および必要に応じて、選択的特定の低体温症に効果を及ぼすために動脈血化血液を冷却する手段である。
【0043】
適切な口径(例えば、6Fr)の頭蓋外ガイドカテーテルが、親水性ガイドワイヤー(例えば、0.035)の上で、大腿動脈シースを通り、そして下行大動脈を通り、そこから大動脈弓へと導かれる。ガイドカテーテルが下行大動脈の中にある間、大脳脈管構造に当接する前に残留する空気や血栓を除去するためにガイドカテーテルが洗い流される。ガイドカテーテルは、その後右総頚動脈内に配置される。その後、ロードマップ画像が右内頚動脈へ選択的の送達するために使用される。開通性がチェックされ、その後、2つの視野の面で6Frカテーテルを使用して大脳動脈注射が行われる。動脈注射は、右中大脳動脈の塞栓性閉塞を実証して確認する。閉塞の位置が、血管の分岐において特定される。
【0044】
上述のカテーテルシステムが、その後、すでに適切な位置にあるガイドカテーテルを通じて閉塞した右中大脳動脈に配置される。当該システムは、図15に示すように血管造影にはっきりと画像化される閉塞の近位側に導かれる。(図15は分岐を含む右中大脳動脈の主要管腔の閉塞を示す。)
【0045】
アウターカテーテル内にスライド可能に配置された内部バイパスカテ-テルは、その後、透視診断法を用いて、マイクロガイドワイヤー上で導かれ、1つの閉塞した分岐内へと導かれる。マイクロガイドワイヤーは取り除かれ、右中大脳動脈の分枝の通常の血管造影組織構造を示す微細血管造影がマイクロカテーテルを通じて行われる。この微小血管造影は、バイパスカテ-テルが閉塞部位の先にあることを示す。バイパスカテ-テルは、患者の大腿動脈からの動脈血化血液を希釈や冷却をして、もしくは希釈や冷却をせずに、または冷却生理食塩水を伴うだけで、閉塞の遠位の虚血性脳組織へ送達するために使用される。
【0046】
中大脳動脈の分岐が閉塞されていることから、単一管腔バイパスは限られた利点しか有することができず、バイパス(インナー)カテーテルを送るために使用されない分岐は閉塞した状態が続く。分散した脳組織は酸素化された血液で灌流されることができず、選択的な低体温神経保護作用で治療されることができない(図2は2本のうち1本だけの分枝の部分的な血管疎通を示している)。
【0047】
このように、脳卒中カテーテルの分岐の実施形態では、第2インナーバイパスカテーテルがマイクロガイドワイヤー上に配置され、分岐の第2の分枝へと挿入される。この第2バイパスマイクロカテーテルを通じた微細血管造影は、第2バイパスマイクロカテーテルが現時点で閉塞の先にあることを実証する。血管内のバイパスは前述で概略を述べたように実施される。
【0048】
現時点で脳は虚血から保護され、閉塞性血栓の対処のためにより多くの時間をかけることができる。この血栓は、特に難しい物理的特徴(硬く、組織化された、患者の左心房に長時間存在する、静脈内血栓溶解薬に抵抗性がある血餅)および問題を有する物理的位置(分岐の選択を要するステントを用いた血管疎通、および血栓が硬く、組織化された血栓の溶解であることから単純な吸引の影響を受けにくい分岐部)によって特徴付けられる。
【0049】
この状況では、血栓溶解薬剤を(装置の主要管腔、およびその穿孔が位置する)閉塞の近位端への送達すること、および血栓溶解薬を穿孔を通じて血餅に直接送達することによる選択的な血栓溶解を実施することができる。この状況では、遠位バルーンを膨張させる必要はなく、また、分岐血管は中大脳動脈の主要血管に比べ著しく小さいことからバルーン膨張はより危険を伴うことになり得る。しかしながら、この段階で血流は妨げられていることから、血栓溶解薬は、物理的に集中して、長期に渡り影響を与えるために血餅の領域に留まる傾向になり、バルーン間で隔離された区域を有することに似た状況になる。これらの要因が血栓溶解効果の向上に寄与する。
【0050】
血栓溶解薬が徐々に血餅を溶かすと、穿孔部分は、より内側に強く血餅に係合するために、分岐部まで徐々に前進するように動かすことが可能になる。血栓溶解薬の選択的送達の間、スライド可能に配置されたバイパスカテ-テルは、脳保護を継続するためにバイパス位置に留まる。この特に抵抗力のある血栓を溶解するために必要とされる、このように長い間暴露され、高度に集中的に、特定的に向けられた血栓溶解薬は、虚血性ニューロン(死亡率は、大きな血管閉塞で分あたり約200万となる。Saverらによる、2009年)の保護を損なうことなく、このようにして得られる。
【0051】
更に、追加の血栓溶解薬が、2本のバイパスカテーテルを穿孔の水準に向けて後退させることによって、残る血栓溶解内での変化する距離において血栓溶解薬を残りの閉塞性血餅内に投与でき、また、血栓溶解薬をバイパスカテーテルを通じて血餅内に送達する。このような手術中、この特定なマイクロカテーテルのバイパス機能は中断される。スライド可能に配置されたバイパスマイクロカテーテルは、随時、遠位バイパス位置に戻すことができる。
【0052】
この介入の効果は、術中神経モニタリングパラメータの回復または改善を観察すること、およびバイパス開通性を実証する定期的微細血管造影を観察することによってモニターされ得る。
【0053】
穿孔は更に、アクセスした閉塞の近位部分を定期的に吸引するため、可能であれば血餅の破片を除去するために使用することができる。システムが一旦取り外されると、血栓溶解が一部のみ完了したが、より細かい断片がより小さな閉塞を生じ、その後に続く血栓溶解治療により、影響を受けやすい場合、細かな血餅の断片の遠位分岐への最終的な流出の可能性が残る。(全身循環への特定濃度の送達と無駄を最小化する理由から)より少ない量の血栓溶解薬の投与には、この装置の使用が求められるため、その後に続く外科手術での更なる薬剤送達のための多くの治療的マージンが残る。
【0054】
一旦、(経過時間、脳の電位の改善の実証、および閉塞の近位側からの微細血管造影に基づいて)介入を終了することが決められると、装置を引き込むと同時に、遠位穿孔が最終的に吸引されることができる。このことは溶解した粒子状物質の吸引を向上させ、また、装置が引き込まれるときに、装置側壁に付着した大きな粒子の捕捉を強化することになる。装置引き込み前の、頭蓋外ガイドカテーテル(ECGC)上のバルーンの膨張は有用になる。この施術は、頭蓋外頚動脈または脊椎動脈での血流を止めることになり、引き込まれていた捕捉された血餅粒子が解放されて頭蓋内循環内に進む可能性を低減する。
【0055】
実施例を説明することで、例示的な方法および構成が示され、実施例を相当詳細に説明してきたが、それは出願者が、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に限定することを意図するものではない。当然ながら、すべての考えられる部品の組み合わせや、本明細書で記載されるシステム、方法、装置、などを説明するためのすべての方法論を説明することはできない。追加の利点や変更は、当業者には容易に明らかとなるであろう。従って、本発明は特定の細目に限定されず、代表的な血管疎通カテーテルシステム10、および例示的実施例が示され、説明されている。このように、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれる代替、変更、変形形態を受容することを意図している。更に、前述の説明は、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。むしろ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれと同等なものによって定められるものとする。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図1g
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b
図14
図15
図16