(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ダイカスト離型剤用水性組成物
(51)【国際特許分類】
B22C 3/00 20060101AFI20230622BHJP
B22D 17/20 20060101ALI20230622BHJP
C10M 173/02 20060101ALI20230622BHJP
C10M 105/26 20060101ALN20230622BHJP
C10M 105/30 20060101ALN20230622BHJP
C10M 133/04 20060101ALN20230622BHJP
C10M 133/06 20060101ALN20230622BHJP
C10M 125/10 20060101ALN20230622BHJP
C10N 40/36 20060101ALN20230622BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20230622BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20230622BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20230622BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230622BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230622BHJP
【FI】
B22C3/00 C
B22D17/20 D
C10M173/02
C10M105/26
C10M105/30
C10M133/04
C10M133/06
C10M125/10
C10N40:36
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:08
C10N30:00 Z
C10N30:06
(21)【出願番号】P 2022097937
(22)【出願日】2022-06-17
(62)【分割の表示】P 2020527471の分割
【原出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018120685
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】辻元 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】富松 宏明
(72)【発明者】
【氏名】横尾 光秋
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-259788(JP,A)
【文献】特開2002-205139(JP,A)
【文献】特開2011-042709(JP,A)
【文献】米国特許第04454050(US,A)
【文献】特開平01-299896(JP,A)
【文献】特開昭55-139498(JP,A)
【文献】特開昭63-089592(JP,A)
【文献】特開平04-238643(JP,A)
【文献】特開2010-084076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 3/00-3/02
B22D 17/00-17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジピン酸と、テレフタル酸と、塩基性化合物と、水とを含むダイカスト離型剤用水性組成物であって、
アジピン酸とテレフタル酸との合計含有率が、前記ダイカスト離型剤用水性組成物全量に対して、3~30質量%であることを特徴とするダイカスト離型剤用水性組成物。
【請求項2】
前記塩基性化合物は、アミン化合物、ピロリジン、ピペリジン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のダイカスト離型剤用水性組成物。
【請求項3】
アジピン酸とテレフタル酸との合計含有率が、前記ダイカスト離型剤用水性組成物全量に対して、3~15質量%である請求項1又は請求項2に記載のダイカスト離型剤用水性組成物。
【請求項4】
30℃における粘度が100mPa・s以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のダイカスト離型剤用水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いた金属の成形法としては、鋳造法及び型鍛造法等が挙げられる。また、鋳造法としては、例えば、低圧鋳造法及びダイカスト法等が挙げられる。このような金型を用いた金属の成形法には、成形後の金属製品(成形品)を金型から取り出しやすくする等のため、成形前に、金型に予め離型剤として、水性組成物、油性組成物、粉体組成物、及び顆粒組成物等を塗布することがある。具体的には、鋳造法では、金型への溶融金属の充填前に、金型と溶融金属(溶湯)との溶着を抑制するとともに、成形品の型離れを補助することを目的として、金型に水性組成物、油性組成物、粉体組成物、及び顆粒組成物等を予め塗布することがある。
【0003】
金型を用いた金属の成形法は、金型による成形を行う前に、金型内に溶湯を充填する。例えば、ダイカスト法等においては、金型内に連結されたスリーブ内に溶湯を流し込んだ後に、スリーブ内にプランジャーを摺動させることによって、スリーブ内の溶湯を金型に溶湯を流し込む。このとき、前記プランジャーと前記スリーブとの摺動面における前記プランジャー及び前記スリーブの摩耗を低減するとともに、前記プランジャーの射出速度を安定化させること等を目的として、前記プランジャーと前記スリーブとの間に、潤滑剤として、水性組成物、油性組成物、粉体組成物、及び顆粒組成物等を塗布することがある。
【0004】
金型を用いた金属の成形法において、離型剤及び潤滑剤等に用いられる水性組成物としては、シリコーンオイルを主成分として含む水性組成物が挙げられる。このシリコーンオイルを主成分として含む水性組成物は、シリコーンオイルの高い耐熱性により、離型性や潤滑性が向上すると考えられる。そして、このシリコーンを主成分として含む水性組成物の離型性や潤滑性をより高めるために、シリコーンの変性やシリコーンオイルへの添加剤についての開発が進められている。
【0005】
シリコーンオイルを含む水性組成物を離型剤として用いたダイカスト方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法等が挙げられる。
【0006】
特許文献1には、シリコーン化合物等の離型成分の含有量(固形分換算)が5~60質量%である高濃度水性ダイカスト用離型剤を、所定の条件を満たすように金型に噴霧する工程を含むダイカスト方法が記載されている。特許文献1によれば、高濃度の水性ダイカスト用離型剤を水で希釈することなく極少量で使用することができるから、金型の乾燥効率が向上し、しかも従来のダイカスト方法と比較して離型剤の廃液を大幅に減少させられることから水質汚染等の環境汚染の問題を改善することが可能となることが開示されている。
【0007】
また、金型を用いた金属の成形法に用いる水性組成物で、シリコーンオイルを主成分として含む水性組成物以外の水性組成物としては、特許文献2に記載の離型剤等が挙げられる。
【0008】
特許文献2には、金型の成形面に塗布される水溶性の離型剤であって、還元性を有する有機酸又は有機酸塩を、使用時濃度として0.01wt%以上、かつ、原液濃度として離型剤エマルションの安定限界である所定濃度以下の割合で含有する離型剤が記載されている。特許文献2によれば、繰り返し行われる鋳造サイクルによって金型成形面の状況を向上させて、金型の寿命を積極的に延長させることができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-89140号公報
【文献】特開2007-118035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ない水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面は、下記式(1)で表されるカルボン酸化合物、下記式(2)で表されるカルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、塩基性化合物と、水とを含むことを特徴とする水性組成物である。
【0012】
【0013】
式(1)中、Rは、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環を示し、aは、2又は3を示す。
【0014】
【0015】
式(2)中、Rは、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環を示す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ない水性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
金型を用いた金属の成形法、例えば、ダイカスト法においては、離型剤を約100倍に希釈し、その希釈した離型剤を数百mLや数Lといった比較的多量に金型へ塗布することによって、金型を冷却し、離型被膜を金型表面に形成させる。このことにより、金属製品(成形品)を、金型内に形成させ、金型から離型させることができる。
【0018】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、金型を用いた金属の成形法に用いる離型剤として、シリコーンを主成分として含む水性組成物、例えば、特許文献1に記載の離型剤等を用いた場合、金型のキャビティ内に離型剤が堆積して金型が汚染され、それにより洗浄を困難にすることがあった。さらに、洗浄が不充分な金型を用いて得られた成形品は、電子部品等へ適応が困難な場合があった。また、前記水性組成物の耐熱性が低く、特に金型温度が高い場合等に、金型に接触した離型剤がガス化し、発生したガスによる内部欠陥、例えば、鋳巣等が発生することもあった。また、水性組成物を離型剤として用いた場合、離型成分が金型に充分に付着しない場合もあった。
【0019】
そこで、離型剤として、シリコーンを主成分として含む水性組成物以外の水性組成物、例えば、特許文献2に記載の離型剤等を用いることが考えられる。
【0020】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、特許文献2に記載の離型剤は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性のいずれかが優れておらず、臭気が多い場合があった。すなわち、特許文献2に記載の離型剤は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性の全てに優れ、臭気の少ない離型剤というわけではなかった。
【0021】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ない水性組成物を提供することを目的とする。
【0022】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の実施形態に係る水性組成物は、下記式(1)で表されるカルボン酸化合物、下記式(2)で表されるカルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、塩基性化合物と、水とを含むことを特徴とする水性組成物である。
【0024】
【0025】
式(1)中、Rは、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環を示し、aは、2又は3を示す。
【0026】
【0027】
式(2)中、Rは、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環を示す。
【0028】
前記水性組成物は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ない水性組成物である。具体的には、前記水性組成物は、前記カルボン酸化合物と前記塩基性化合物とを含むことによって、充分に高い離型性及び潤滑性を発揮することができる。このことから、金型を用いた金属の成形法、例えば、ダイカスト法において、離型剤及び潤滑剤として用いることができる。具体的には、金型に予め塗布する離型剤、例えば、ダイカスト用離型剤として用いることができる。また、金型内に溶湯を流し込むためのスリーブと、溶湯を流し込むためのプランジャーとの潤滑性を高めるための潤滑剤、例えば、ダイカスト用プランジャー潤滑剤やダイカスト用スリーブ潤滑剤等としても用いることができる。さらに、前記水性組成物は、付着性及び耐熱性にも優れているので、前記水性組成物を上記のような離型剤や潤滑剤として用いた場合に、より好適な離型性及び潤滑性を発揮することができる。また、前記水性組成物を上記のような離型剤や潤滑剤として用いても、臭気の発生が少なく、作業環境の悪化等を防止することもできる。
【0029】
前記カルボン酸化合物は、前記式(1)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環であり、カルボキシル基(-COOH)の置換度(カルボキシル基の数)であるaが2又は3である。すなわち、前記カルボン酸化合物は、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環に、2つ又は3つのカルボキシル基が置換したカルボン酸化合物である。
【0030】
前記カルボン酸化合物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びトリメリット酸等が挙げられる。このようなカルボン酸化合物を用いることによって、前記水性組成物は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少なくなる。また、前記カルボン酸化合物としては、上記例示のカルボン酸化合物の中でも、アジピン酸、テレフタル酸、及びトリメリット酸がより好ましい。例えば、ダイカスト法等の、金型を用いた金属の成形法において、水性組成物を離型剤として用いた場合等に、得られた成形品が着色してしまうことがある。前記カルボン酸化合物として、アジピン酸、テレフタル酸、及びトリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことによって、このような着色の発生も抑制できる。すなわち、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ないだけではなく、着色性にも優れた水性組成物が得られる。
【0031】
前記カルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記カルボン酸化合物としては、前記式(1)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基及びビニレン基である脂肪族カルボン酸化合物、及び前記式(1)で表され、前記Rがベンゼン環である芳香族カルボン酸化合物が挙げられる。前記カルボン酸化合物を2種以上組み合わせて用いる場合、例えば、前記式(1)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基である脂肪族カルボン酸化合物と、前記式(1)で表され、前記Rがベンゼン環である芳香族カルボン酸化合物とからなることが好ましい。このようなカルボン酸化合物の組み合わせで用いることによって、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ない水性組成物が得られる。また、前記脂肪族カルボン酸が、アジピン酸であり、前記芳香族カルボン酸が、テレフタル酸であることがより好ましい。このようなカルボン酸化合物の組み合わせで用いると、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ないだけではなく、着色性にも優れた水性組成物が得られる。
【0032】
前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸は、前記カルボン酸化合物の無水物である。前記カルボン酸無水物は、前記式(2)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環である。すなわち、前記カルボン酸無水物としては、前記式(2)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基及びビニレン基である脂肪族カルボン酸無水物、及び前記式(2)で表され、前記Rがベンゼン環である芳香族カルボン酸無水物が挙げられる。
【0033】
前記カルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水アジピン酸、無水マレイン酸、無水フマル酸、及び無水フタル酸等が挙げられる。このようなカルボン酸無水物を用いることによって、前記水性組成物は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少なくなる。
【0034】
前記カルボン酸無水物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
以上のことから、前記水性組成物には、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。すなわち、前記水性組成物には、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記塩基性化合物は、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸を中和することができる化合物であれば、特に限定されず、塩基性有機化合物であっても、塩基性無機化合物であってもよい。前記塩基性有機化合物としては、例えば、トリエチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、及びテトラメチルエチレンジアミン等のアミン化合物、ピロリジン、ピペリジン、及びピリジン等が挙げられる。また、前記塩基性無機化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等が挙げられる。前記塩基性化合物は、これらの中でも、臭気が少ない点等から、塩基性無機化合物が好ましく、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムがより好ましい。さらに、入手容易性等から、水酸化ナトリウムが好ましい。また、前記塩基性化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記水は、特に限定されず、水性離型剤や水性潤滑剤等の水性組成物に用いることができる水等が挙げられ、具体的には、工業用水、イオン交換水、及び純水等が挙げられる。
【0038】
前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸の合計含有率は、前記水性組成物全量に対して、3~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、3~15質量%であることがさらに好ましい。前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸が少なすぎると、潤滑性及び離型性が低下する傾向がある。また、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸が多すぎると、カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸が水性組成物から析出し、水性組成物を塗布しにくくなる傾向がある。よって、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸の合計含有率が上記範囲内であれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ない水性組成物が得られる。
【0039】
前記塩基性化合物の含有率は、特に限定されないが、例えば、前記水溶性化合物のpHが7~13となる含有率であることが好ましく、前記水溶性化合物のpHが7~10となる含有率であることがより好ましく、前記水溶性化合物のpHが8となる含有率であることがさらに好ましい。前記塩基性化合物が少なすぎると、金型や周辺設備を腐食する傾向がある。前記塩基性化合物が多すぎると、作業者の目や皮膚への刺激が高くなり、安全性が劣る傾向がある。よって、前記塩基性化合物の含有率が上記範囲内であれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ない水性組成物が得られる。
【0040】
前記水性組成物において、残部は、前記水である。例えば、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、前記塩基性化合物、及び前記水からなる水性組成物の場合、前記水性組成物は、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、無水トリメリット酸、及び前記塩基性化合物以外が、水である。また、前記水性組成物が、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、無水トリメリット酸、前記塩基性化合物、及び前記水以外の他の成分を含む場合は、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、無水トリメリット酸、前記塩基性化合物、及び前記他の成分以外が、水である。
【0041】
前記水性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、無水トリメリット酸、前記塩基性化合物、及び前記水以外の成分(他の成分)を含有してもよい。前記他の成分としては、水溶性高分子等が挙げられる。また、前記水性組成物は、従来の水性離型剤や水性潤滑剤、例えば、エマルジョンタイプの離型剤や潤滑剤に添加して用いてもよいし、従来の水性離型剤や水性潤滑剤、例えば、エマルジョンタイプの離型剤や潤滑剤を、前記水性組成物に添加して用いてもよい。このようにして得られた水性組成物の場合、他の成分として、従来の離型剤や潤滑剤に含まれている成分等が挙げられる。
【0042】
前記水溶性高分子は、特に限定されず、水性離型剤や水性潤滑剤等の水性組成物に用いることができる水溶性高分子等が挙げられる。前記水溶性高分子としては、具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、ポリエチレングリコール、イソブチレン・マレイン酸共重合体、ジイソブチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、及びポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)がより好ましい。
【0043】
前記水溶性高分子は、前記水性組成物に含有されていても、含有されていなくてもよいが、含有することによって、潤滑性及び離型性がより高まる。前記水溶性高分子が含有されている場合は、その含有率は、前記水性組成物全量に対して、0.1~10質量%であること好ましく、0.1~5質量%であることが好ましい。前記水溶性高分子が少なすぎると、前記水溶性高分子を添加した効果を充分に奏することができない傾向がある。また、前記水溶性高分子が多すぎると、水性組成物の粘度が高くなり、水性組成物を塗布しにくくなる傾向がある。
【0044】
前記水性組成物は、30℃における粘度が100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましい。前記水性組成物の粘度が高すぎると、前記水性組成物を塗布しにくくなる傾向がある。
【0045】
前記水性組成物の製造方法は、前記水性組成物を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、水に対して、所定量となるように、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、無水トリメリット酸、前記塩基性化合物、及び他の成分を投入し、混合することによって、前記水性組成物を製造することができる。
【0046】
前記水性組成物は、上述したように、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と前記塩基性化合物とを含むことによって、金型を用いた金属の成形法、例えば、ダイカスト法において、充分に高い離型性及び潤滑性を発揮することができる。このことから、前記水性組成物は、金型に予め塗布する離型剤、例えば、ダイカスト用離型剤として用いることができる。また、前記水性組成物は、金型内に溶湯を流し込むためのスリーブと、溶湯を流し込むためのプランジャーとの潤滑性を高めるための潤滑剤、例えば、ダイカスト用プランジャー潤滑剤やダイカスト用スリーブ潤滑剤等としても用いることができる。さらに、前記水性組成物は、付着性及び耐熱性にも優れているので、前記水性組成物を上記のような離型剤や潤滑剤として用いた場合に、より好適な離型性及び潤滑性を発揮することができる。また、前記水性組成物を上記のような離型剤や潤滑剤として用いても、臭気の発生が少なく、作業環境の悪化等を防止することもできる。
【0047】
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0048】
本発明の一局面は、下記式(1)で表されるカルボン酸化合物、下記式(2)で表されるカルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、塩基性化合物と、水とを含むことを特徴とする水性組成物である。
【0049】
【0050】
式(1)中、Rは、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環を示し、aは、2又は3を示す。
【0051】
【0052】
式(2)中、Rは、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環を示す。
【0053】
このような構成によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ない水性組成物を提供することができる。
【0054】
また、前記水性組成物において、前記カルボン酸化合物は、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びトリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記カルボン酸無水物は、無水コハク酸、無水アジピン酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0055】
このような構成によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ない水性組成物が得られる。
【0056】
また、前記水性組成物において、前記カルボン酸化合物は、アジピン酸、テレフタル酸、及びトリメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0057】
このような構成によれば、着色性にも優れる。すなわち、この水性組成物を、金型を用いた金属の成形法、例えば、ダイカスト法において、離型剤として用いた場合等に、得られた成形品が着色してしまうことを充分に抑制することができる。よって、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ないだけではなく、着色性にも優れた水性組成物が得られる。
【0058】
また、前記水性組成物において、前記カルボン酸化合物は、前記式(1)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基である脂肪族カルボン酸化合物と、前記式(1)で表され、前記Rがベンゼン環である芳香族カルボン酸化合物とからなることが好ましい。
【0059】
このような構成によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ない水性組成物が得られる。
【0060】
また、前記水性組成物において、前記脂肪族カルボン酸が、アジピン酸であり、前記芳香族カルボン酸が、テレフタル酸であることがより好ましい。
【0061】
このような構成によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ないだけではなく、着色性にも優れた水性組成物が得られる。
【0062】
また、前記水性組成物において、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び無水トリメリット酸の合計含有率が、前記水性組成物全量に対して、3~30質量%であることが好ましい。
【0063】
このような構成によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性により優れ、臭気のより少ない水性組成物が得られる。
【0064】
本発明によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ない水性組成物を提供することができる。
【0065】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1~18、比較例1~14
本実施例において、水性組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0067】
[前記式(1)で表され、前記Rがビニレン基であり、置換度aが2であるカルボン酸化合物]
マレイン酸:HOOC-CHCH-COOH(シス体)(東京化成工業株式会社製のマレイン酸)
フマル酸:HOOC-CHCH-COOH(トランス体)(扶桑化学工業株式会社製のフマル酸)
[前記式(1)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基であり、置換度aが2である脂肪族カルボン酸化合物]
コハク酸:HOOC-(CH2)2-COOH(株式会社日本触媒製のコハク酸SA)
アジピン酸:HOOC-(CH2)4-COOH(BASFジャパン株式会社製のAdipic Acid)
[前記式(1)で表され、前記Rがベンゼン環であり、置換度aが2である芳香族カルボン酸化合物]
フタル酸:HOOC-C6H4-COOH(オルト体)(東京化成工業株式会社製のフタル酸)
イソフタル酸:HOOC-C6H4-COOH(メタ体)(LOTTE CHEMICAL Corporation製のイソフタル酸)
テレフタル酸:HOOC-C6H4-COOH(パラ体)(東レ株式会社製のテレフタル酸)
[前記式(1)で表され、前記Rがベンゼン環であり、置換度aが3である芳香族カルボン酸化合物]
トリメリット酸:C6H3-(COOH)3(東京化成工業株式会社製のトリメリット酸)
[前記式(2)で表され、前記Rが炭素数2~4のアルカンジイル基である脂肪族カルボン酸無水物]
無水コハク酸:東京化成工業株式会社製のこはく酸無水物
無水アジピン酸:富士フイルム和光純薬株式会社製のアジピン酸無水物
[前記式(2)で表され、前記Rがビニレン基であるカルボン酸無水物]
無水マレイン酸:EXCEL Chemical Corporation製のMA
[前記式(2)で表され、前記Rがベンゼン環である芳香族カルボン酸化合物]
無水フタル酸:川崎化成工業株式会社製の無水フタル酸)
[無水トリメリット酸]
無水トリメリット酸:三菱ガス化学株式会社製の無水トリメリット酸
[上記以外のカルボン酸化合物]
ギ酸:HCOOH(富士フイルム和光純薬株式会社製のギ酸)
ペラルゴン酸:CH3(CH2)7COOH(Matrica SPA製のMatrilox- IP001M)
オレイン酸:CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH(花王株式会社製のルナックO-V)
dl-リンゴ酸:HOOC-CH(OH)-CH2-COOH(扶桑化学工業株式会社製のdl-リンゴ酸)
クエン酸:C(OH)(CH2COOH)2COOH(小松屋株式会社製のクエン酸)
L-酒石酸:(CH(OH)COOH)2(DSP五協フード&ケミカル株式会社製のL-酒石酸)
シュウ酸:HOOC-COOH(宇部興産株式会社製のシュウ酸(2水和物))
アゼライン酸:HOOC-(CH2)7-COOH(クローダジャパン株式会社製のCRODACID DC1195-FL-(SI))
セバシン酸:HOOC-(CH2)8-COOH(伊藤製油株式会社製のセバシン酸SR)
ドデカン二酸:HOOC-(CH2)10-COOH(インビスタジャパン合同会社製のドデカン二酸)
安息香酸:C6H5COOH(株式会社伏見製薬所製の安息香酸)
サリチル酸:C6H4(OH)COOH(ソルベイジャパン株式会社製のサリチル酸)
没食子酸:C6H2(OH)3COOH(DSP五協フード&ケミカル株式会社製の没食子酸)
[塩基性化合物]
30質量%の水酸化ナトリウム水溶液:新日本テクノ株式会社製の30%苛性ソーダ
[水溶性高分子]
CMC:カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬株式会社製のSGセロゲンPR)
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(ダイセルファインケム株式会社製のHECダイセルSP200)
[水]
水:イオン交換水
シリコーン:アルキルアラルキル変性シリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製のRELEASE AGENT TN)
高級アルコールアルキレンオキサイド付加物:ポリオキシアルキレンラウリルエーテル(第一工業製薬株式会社製のDKS NL-Dash410)
[調製方法]
上記各成分を表1~4に記載の組成(質量部)となるように混合させた。そうすることによって、水性組成物が得られた。なお、塩基性化合物の含有量は、得られた水性組成物のpHが、表1~4に示すpHとなるような量である。水性組成物のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製のpH METER F-72)を用いて測定した。
【0068】
[評価]
上記のように製造された水性組成物を、以下に示す方法により評価した。
【0069】
(離型性及び潤滑性)
水性組成物の離型性及び潤滑性は、株式会社メックインターナショナル製のLubテスターを用いて測定した。
【0070】
具体的には、まず、200mm×200mm×30mmの鋼板(株式会社メックインターナショナル製のSDK-61材)を350℃に加熱した。この加熱した鋼板に、株式会社アトマックス製のアトマックスノズル(2流体ノズル)(AM45B-0ST)を用いて、スプレー時間0.5秒間、スプレー回数1回、液圧0.1MPa、スプレー圧力0.4MPa、スプレー距離200mm、塗布量2.5gの条件で、水性組成物を塗布した。水性組成物を塗布した鋼板上に、内径80mm、外径100mm、高さ50mmの円筒状部材(株式会社メックインターナショナル製のS45C材からなるリング)を載置した。その際、円筒状部材の周面に直交する下面が、前記鋼板と接触するように載置した。
【0071】
次に、アルミニウム材(アサヒセイレン株式会社製のADC-12)を加熱し、溶融させた。その際、得られた溶湯の温度が670±10℃となるまで加熱した。この溶湯を、前記鋼板に接触させた円筒状部材内に、手動で給湯した。そうすることによって、この円筒状部材内に、前記鋼板に接触した状態で、前記溶湯が注ぎ込まれた。
【0072】
その後、前記溶湯を自然冷却させることによって、凝固させた。凝固後のアルミニウム材の上に、重量9.0kgのおもりを置いた。その状態で、前記円筒状部材を、前記鋼板の板面方向に平行な方向に移動させた。移動させる際、前記円筒状部材に取り付けたロードセルで、前記円筒状部材の移動開始からの引張荷重を測定した。
【0073】
移動開始時の引張荷重を用いて、離型性を評価した。具体的には、移動開始時の引張荷重が5kgf以下であれば、「◎」と評価した。移動開始時の引張荷重が5kgfより大きく10kgf以下であれば、「○」と評価した。移動開始時の引張荷重が10kgfより大きく20kgf以下であれば、「△」と評価した。移動開始時の引張荷重が20kgfより大きければ、「×」と評価した。
【0074】
また、移動開始時から3秒間の引張荷重の平均値を算出した。この平均値を用いて、潤滑性を評価した。具体的には、平均値が5kgf以下であれば、「◎」と評価した。平均値が5kgfより大きく10kgf以下であれば、「○」と評価した。平均値が10kgfより大きく20kgf以下であれば、「△」と評価した。平均値が20kgfより大きければ、「×」と評価した。
【0075】
(付着性)
100mm×100mm×2.5mmの鋼板(神戸ステンレス株式会社製のSUS304)を350℃に加熱した。この加熱した鋼板を、板面方向が水平になるように置いた。この鋼板に、株式会社アトマックス製のアトマックスノズル(2流体ノズル)(AM45B-0ST)を用いて、スプレー時間0.25秒間、塗布量1.5cc、スプレー距離200mm、スプレー圧力0.4MPa、液圧0.1MPaの条件で、水性組成物を塗布した。
【0076】
この塗布前後の鋼板の重量変化を測定した。この重量変化を用いて、付着性を評価した。具体的には、重量変化が、8mg以上であれば、「◎」と評価した。また、重量変化が、5mg以上8mg未満であれば、「○」と評価した。また、重量変化が、2mg以上5mg未満であれば、「△」と評価した。また、重量変化が、2mg未満であれば、「×」と評価した。
【0077】
(耐熱性)
まず、水性組成物20gを60℃で24時間乾燥させた。そうすることによって、水分が蒸発して、残った固体を5mg秤量した。秤量した固体(5mg)を、熱重量・熱量同時測定装置(TG-DTA/DSC)(パーキンエルマー社製のSTA 6000)を用いて、ガス(空気)流量100ml/分の条件下で、昇温速度10℃/分で500℃まで加熱した。そして、加熱後に残存した固体の重量(加熱後の残渣量)を測定した。そして、加熱前の固体の重量に対する、加熱による固体の重量の減少分の比率[加熱後の固体の重量/加熱前の固体の重量×100](%)を算出した。
【0078】
前記比率が、80%以上であれば、「◎」と評価した。また、前記比率が、50%以上80%未満であれば、「○」と評価した。また、前記比率が、20%以上50%未満であれば、「△」と評価した。また、前記比率が20%未満であれば、「×」と評価した。
【0079】
(臭気)
前記離型性及び潤滑性の評価の際、前記溶湯を、前記鋼板に接触させた円筒状部材内に給湯させた際に、試験者2名による官能評価で行った。具体的には、2名の試験者がともに臭気を感じなければ、「○」と評価した。また、どちらか1名の試験者のみが臭気を感じた、又は、2名の試験者が、わずかに臭気を感じた場合は、「△」と評価した。2名の試験者がともに臭気を感じた場合、「×」と評価した。
【0080】
これらの評価結果を、組成とともに、表1~4に示す。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
表1~3からわかるように、上記式(1)で表され、Rが、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環であり、aが2又は3であるカルボン酸化合物と、塩基性化合物と、水とを含む水性組成物(実施例1~13)は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気が少なかった。表4からわかるように、上記式(2)で表され、Rが、炭素数2~4のアルカンジイル基、ビニレン基、又は、ベンゼン環であるカルボン酸無水物又は無水トリメリット酸と、塩基性化合物と、水とを含む水性組成物(実施例14~18)は、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気が少なかった。
【0086】
これに対して、前記カルボン酸化合物、前記カルボン酸無水物、及び前記無水トリメリット酸以外のカルボン酸化合物を含む場合(比較例1~10、及び比較例12~14)は、実施例1~18と比較して、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性のいずれかが劣るか、臭気が強かった。また、シリコーン及び高級アルコールアルキレンオキサイド付加物を含む場合(比較例11)も、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に劣り、臭気がわずかにあった。
【0087】
さらに、着色性について評価した。
【0088】
(着色性)
前記離型性及び潤滑性の評価をした後の、凝固後のアルミニウム材の、前記鋼板と接触していた面を目視で確認した。その結果、着色が確認されなければ、「○」と評価し、着色が確認されれば、「×」と評価した。
【0089】
その結果を、用いたカルボン酸化合物とともに、表5に示す。
【0090】
【0091】
表5からわかるように、カルボン酸化合物として、アジピン酸、テレフタル酸、トリメリット酸、及びこれらの混合物を用いると、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気が少ないだけではなく、着色されていない成形品が得られることがわかった。
【0092】
この出願は、2018年6月26日に出願された日本国特許出願特願2018-120685を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0093】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、離型性、潤滑性、付着性、及び耐熱性に優れ、臭気の少ない水性組成物が提供される。