(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230623BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230623BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2020540031
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007694
(87)【国際公開番号】W WO2020044614
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2018160149
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 良憲
(72)【発明者】
【氏名】金井 敏信
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-257885(JP,A)
【文献】特開2000-133262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有する、Ni、Mn及び任意要素のCo含有リチウム遷移金属酸化物を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、75モル%~95モル%の範囲であり、
前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するMnの割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合以上であり、
前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、0モル%~2モル%の範囲であり、
前記層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して、1モル%~2.5モル%の範囲であり、
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属酸化物はAlを含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの解析結果から得られる結晶構造のa軸長を示す格子定数a及びc軸長を示す格子定数cが、2.867Å≦a≦2.877Å、14.18Å≦c≦14.21Åの範囲である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦600Åの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極に用いられる正極活物質としては、例えば、以下のものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、組成式LiaNibCocMndO2(0.1≦a≦1.2、0.40≦b<1.15、0<c<0.60、0<d<0.60であって、1.00≦b+c+d≦1.15、0<c+d≦0.60の関係を有する)で表され、Li層の遷移金属占有率eが0.006≦e≦0.150の範囲である複合酸化物からなる正極活物質が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、[Li]3a[Ni1-x-yCoxAly]3b[O2]6c(但し、[ ]の添え宇はサイトを表し、x、yは0<x≦0.20,0<y≦0.15なる条件を満たす)で表され、かつ層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル複合酸化物において、X線回折図形のリートベルト解析から得られる3aサイトのリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が3%以下であり、かつ一次粒子の平均粒径が0.1μm以上で、該一次粒子が複数集合して二次粒子を形成している正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-133262号公報
【文献】特開2000-30693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して75モル%~95モル%の範囲であるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質は、高い充放電容量を示す反面、熱安定性が低いという問題がある。正極の熱安定性が低いと電池の自己発熱開始温度が低くなり、過充電や短絡等によって電池内の温度が上昇した場合、その温度上昇に伴って、電池内で発熱を伴う更なる化学反応(自己発熱反応)が進行し、電池の温度が更に上昇する虞がある。
【0008】
そこで、本開示は、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して75モル%~95モル%の範囲であるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質の熱安定性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有する、Ni、Mn及び任意要素のCo含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、75モル%~95モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するMnの割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合以上であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、0モル%~2モル%の範囲であり、前記層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して、1モル%~2.5モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であることを特徴とする。
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質を有する正極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して75モル%~95モル%の範囲であるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質の熱安定性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有する、Ni、Mn及び任意要素のCo含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、75モル%~95モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するMnの割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合以上であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、0モル%~2モル%の範囲であり、前記層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して、1モル%~2.5モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であることを特徴とする。
【0013】
通常、Niの割合がLiを除く金属元素の総量に対して75モル%~95モル%の範囲であるリチウム遷移金属酸化物は、熱安定性が低い。これは、Niの割合が75モル%以上であるリチウム遷移金属酸化物においては、その構造安定性が低いためであると考えられる。
【0014】
しかし、本開示の一態様によれば、リチウム遷移金属酸化物中に含まれるMnにより、層状構造中の酸素の放出が抑制され、また、層状構造のLi層に所定量のLi以外の金属元素が存在することにより、充電時において、層状構造中のO-O間の反発が抑えられるため、層状構造の安定化が図られていると推察される。また、Niの割合を95モル%以下とすることで、Niの反応性が抑えられるため、上記Mnによる効果や上記層状構造のLi層中に所定量存在するLi以外の金属元素による効果が十分に得られ、層状構造の安定化が図られていると推察される。さらに、リチウム遷移金属酸化物中に含まれるCoの量を制限し、Mnの含有量をCoの含有量より多くすることで、上記Mnによる効果が十分に得られ、層状構造の安定化が図られていると推察される。また、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅は、層状構造のLi層と遷移金属層間の配列の揺らぎを表す指標であるが、本開示の一態様のように、上記所定の範囲にある場合には、層状構造のLi層と遷移金属層間の配列に適度な揺らぎが生じるため、層状構造の安定化に繋がると考えられる。このように、本開示の一態様による上記の各構成はいずれも、リチウム遷移金属酸化物の層状構造の安定化に寄与するものであり、熱安定性を高めるという効果は、上記の各構成の結合により初めてもたらされるものである。
【0015】
以下に、本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質を用いた非水電解質二次電池の一例について説明する。
【0016】
実施形態の一例である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。正極と負極との間には、セパレータを設けることが好適である。具体的には、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体と、非水電解質とが外装体に収容された構造を有する。電極体は、巻回型の電極体に限定されず、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、非水電解質二次電池の形態としては、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型などが例示できる。
【0017】
以下、実施形態の一例である非水電解質二次電池に用いられる正極、負極、非水電解質、セパレータについて詳述する。
【0018】
<正極>
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0019】
正極は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。
【0020】
正極活物質は、層状構造を有する、Ni、Mn及び任意要素のCo含有リチウム遷移金属酸化物を含む。以下、層状構造を有する、Ni、Mn及び任意要素のCo含有リチウム遷移金属酸化物を「本実施形態のリチウム遷移金属酸化物」と称する。
【0021】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、高容量化、層状構造の安定性等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。
【0022】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、電池の高容量化を図ること、熱安定性を高めること等の点で、75モル%~95モル%の範囲であり、好ましくは85モル%~95モル%の範囲である。Niの割合が95モル%を超えると、Niの反応性が高くなり、層状構造の安定性が低下する等により、熱安定性の低下が引き起こされる。なお、Niの割合が75モル%未満であると、そもそも電池の高容量化を図ることが困難となる。
【0023】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するMnの割合は、熱安定性を高めること等の点で、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合以上であればよいが、好ましくは1モル%~10モル%の範囲であり、より好ましくは2モル%~8モル%の範囲である。Coの割合がMnの割合より多くなると、層状構造中の酸素の放出が抑制されず、層状構造の安定性が低下する等により、熱安定性の低下が引き起こされる。
【0024】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、熱安定性を高める等の点で、0モル%~2モル%の範囲であり、好ましくは0.5~2の範囲である。Coの割合が、2モル%を超えると、例えば、Mnによる上記効果が低減し、層状構造の安定性が低下する等により、熱安定性の低下が引き起こされる。
【0025】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、Li、Ni、Mn、Co以外の金属元素を含んでいてもよく、例えば、Al、Fe、Mg、Si、Ti、Cr、Cu、Sn、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Na、K、Ba、Sr、Bi、Be、Zn、Ca及びBから選ばれる少なくとも1種の金属元素等が挙げられる。これらの中では、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、Al、Fe、Nb、Si、Mo、Tiから選ばれる少なくとも1種の金属元素が好ましく、さらにこれらの中ではAlが好ましい。他の金属元素は、例えば、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の層状構造内に均一に分散していてもよいし、層状構造内の一部に存在していてもよい。また、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の製造段階において、層状構造内に含まれる他の金属元素の一部が、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の粒子表面に析出する場合があるが、この析出した金属元素も、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物を構成する金属元素である。
【0026】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0027】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、その層状構造のLi層にLi以外の金属元素が存在している。そして、層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、自己発熱開始温度を高める等の点で、リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して1モル%~2.5モル%であり、好ましくは1モル%~2モル%である。層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合が、上記範囲外であると、層状構造の安定性が低下し、熱安定性の低下が引き起こされる。層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素は、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物を構成する元素の割合から、主にNiであるが、その他の金属元素もあり得る。
【0028】
層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物のX線回折測定によるX線回折パターンのリートベルト解析結果から得られる。
【0029】
X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
測定範囲;15-120°
スキャン速度;4°/min
解析範囲;30-120°
バックグラウンド;B-スプライン
プロファイル関数;分割型擬Voigt関数
束縛条件;Li(3a) + Ni(3a)=1
Ni(3a) + Ni(3b)=y
yはリチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合(0.75≦y<0.95)
ICSD No.;98-009-4814
【0030】
また、X線回折パターンのリートベルト解析には、リートベルト解析ソフトであるPDXL2(株式会社リガク)が使用される。
【0031】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物において、上記X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nは、熱安定性を高める等の点で、0.30°≦n≦0.50°であり、好ましくは0.30°≦n≦0.45°である。(208)面の回折ピークの半値幅nが、上記範囲外の場合、層状構造のLi層と遷移金属層間の配列の揺らぎが小さすぎたり大きすぎたりして、層状構造の安定性が低下し、熱安定性の低下が引き起こされる。
【0032】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、上記X線回折によるX線回折パターンの結果から得られる結晶構造のa軸長を示す格子定数aが2.867Å≦a≦2.877Åの範囲であり、c軸長を示す格子定数cが14.18Å≦c≦14.21Åの範囲であることが好ましい。上記格子定数aが2.867Åより小さい場合、上記範囲を満たす場合と比較して、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、熱安定性の低下が引き起こされる場合がある。また、上記格子定数aが2.877Åより大きい場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、熱安定性の低下が引き起こされる場合がある。また、上記格子定数cが14.18Åより小さい場合、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、熱安定性の低下が引き起こされる場合がある。また、上記格子定数cが14.21Åより大きい場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、熱安定性の低下が引き起こされる場合がある。
【0033】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物は、上記X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式(Scherrer equation)により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦650Åであることが好ましい。本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の上記結晶子サイズsが上記範囲外の場合、層状構造の安定性が低下し、熱安定性の低下が引き起こされる場合がある。シェラーの式は、下式で表される。
【0034】
s=Kλ/Bcosθ
式において、sは結晶子サイズ、λはX線の波長、Bは(104)面の回折ピークの半値幅、θは回折角(rad)、KはScherrer定数である。本実施形態においてKは0.9とする。
【0035】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の含有量は、例えば、正極活物質の熱安定性を効果的に高める等の点で、正極活物質の総質量に対して90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態の正極活物質は、本実施形態のリチウム遷移金属酸化物以外に、その他のリチウム遷移金属酸化物を含んでいても良い。その他のリチウム遷移金属酸化物としては、例えば、Ni含有率が0モル%~75モル%未満のリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0037】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の製造方法の一例について説明する。
【0038】
本実施形態のリチウム遷移金属酸化物の製造方法は、例えば、Ni、Mn及び任意の金属元素を含む複合酸化物を得る第1工程と、第1工程で得られた複合酸化物とLi化合物とを混合する第2工程と、当該混合物を焼成する第3工程と、を備える。最終的に得られる本実施形態のリチウム遷移金属酸化物において、その層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合、(208)面の回折ピークの半値幅n、格子定数a、格子定数c、結晶子サイズs等の各パラメータは、第2工程における原料の混合割合及び第3工程における焼成条件等を制御することにより調整される。
【0039】
第1工程において、例えば、Ni、Mn及び任意の金属元素(Co、Al等)を含む金属塩の溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば8.5~14.0)に調整することにより、Ni、Mn及び任意の金属元素を含む複合水酸化物を析出(共沈)させ、当該複合水酸化物を焼成することにより、Ni、Mn及び任意の金属元素を含む複合酸化物を得る。Niと任意の金属元素との配合割合は、Ni、Mn等の割合が上記範囲となるように適宜決定されればよい。焼成温度は、特に制限されるものではないが、例えば、500℃~600℃の範囲である。
【0040】
第2工程において、第1工程で得られた複合酸化物と、Li化合物とを混合して、混合物を得る。第1工程で得られた複合酸化物とLi化合物との混合割合は、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、Liを除く金属元素:Liのモル比が、1:0.98~1:1.08の範囲とする。第2工程では、第1工程で得られた複合酸化物とLi化合物とを混合する際、必要に応じて他の金属原料を添加してもよい。他の金属原料は、第1工程で得られた複合酸化物を構成する金属元素及びLi以外の金属元素を含む酸化物等である。
【0041】
第3工程において、第2工程で得られた混合物を所定の温度及び時間で焼成し、本実施形態に係るリチウム遷移金属酸化物を得る。第3工程における混合物の焼成は、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、以下の2段階焼成を採用する。1段階目の焼成条件は、例えば、5.5℃/min~1.5℃/minの範囲の昇温速度で、450℃~650℃の範囲まで焼成し、到達温度保持時間は0~5時間とする。また、2段階目の焼成条件は、例えば、3.5℃/min~0.1℃/minの範囲の昇温速度で、1段階目の焼成温度~800℃の範囲まで焼成し、到達温度保持時間は1~10時間とする。混合物の焼成の際には、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、例えば、酸素濃度60%以上の酸素気流中で行い、酸素気流の流量を、焼成炉10cm3あたり、0.2mL/min~4mL/minの範囲及び混合物1kgあたり0.3L/min以上とする。
【0042】
以下に、正極活物質層に含まれるその他の材料について説明する。
【0043】
正極活物質層に含まれる導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる、これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
正極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
<負極>
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、例えば、負極活物質、結着材、増粘材等を含む。
【0046】
負極は、例えば、負極活物質、増粘材、結着材を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布・乾燥することによって、負極集電体上に負極活物質層を形成し、当該負極活物質層を圧延することにより得られる。
【0047】
負極活物質層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、炭素材料、リチウムと合金を形成することが可能な金属またはその金属を含む合金化合物等が挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができ、合金化合物としては、リチウムと合金形成可能な金属を少なくとも1種類含むものが挙げられる。リチウムと合金形成可能な元素としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。上記の他、チタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0048】
負極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、正極の場合と同様にフッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。負極活物質層に含まれる結着材としては、正極の場合と同様にフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて負極合材スラリーを調製する場合は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0049】
負極活物質層に含まれる増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
<非水電解質>
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0051】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0052】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0053】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0054】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0055】
<セパレータ>
セパレータは、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよく、セパレータの表面にアラミド樹脂等が塗布されたものを用いてもよい。セパレータと正極及び負極の少なくとも一方との界面には、無機物のフィラーを含むフィラー層が形成されてもよい。無機物のフィラーとしては、例えばチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)の少なくとも1種を含有する酸化物、リン酸化合物またその表面が水酸化物等で処理されているものなどが挙げられる。フィラー層は、例えば当該フィラーを含有するスラリーを正極、負極、又はセパレータの表面に塗布して形成することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.90Mn0.04Co0.02Al0.04O2)と、LiOHとを、Ni、Mn、Co及びAlの総量とLiとのモル比が1:1.03になるように混合した。流量は10cm3あたり2mL/min、遷移金属酸化物1kgあたり5L/minで、酸素濃度95%の酸素気流中にて、当該混合物を、昇温速度3.5℃/minで、650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から730℃まで焼成した。この焼成物を水洗し、リチウム遷移金属酸化物を得た。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は90モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は4モル%であった。
【0058】
また、実施例1のリチウム遷移金属酸化物に対して、既述の条件で粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。その結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.7モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.43°であり、格子定数aは、2.873Åであり、格子定数cは14.20Åであり、結晶子サイズsは、548Åであった。これを実施例1の正極活物質とした。
【0059】
<比較例1-1>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.93Co0.02Al0.05O2)とTi(OH)4及びLiOHをNi、Mn、Co、Al及びTiの総量とLiとのモル比が1:1.05になるように混合したこと、流量を10cm3あたり0.1mL/min、遷移金属酸化物1kgあたり0.25L/minとしたこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al、Tiの割合を測定した結果、Niの割合は90モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は5モル%、Tiの割合は3モル%であった。
【0060】
また、比較例1-1のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.4モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.37°であった。これを比較例1-1の正極活物質とした。
【0061】
<比較例1-2>
Ni、Mn、Co及びAlの総量とLiとのモル比が1:0.97になるように混合したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は90モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は4モル%であった。
【0062】
また、比較例1-2のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、3モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.48°であった。これを比較例1-2の正極活物質とした。
【0063】
<比較例1-3>
Ni、Mn、Co及びAlの総量とLiとのモル比が1:1.1になるように混合したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は90モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は4モル%であった。
【0064】
また、比較例1-3のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.31°であった。これを比較例1-3の正極活物質とした。
【0065】
<比較例1-4>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.92Co0.02Al0.05O2)とNb2O5及びLiOHとをNi、Mn、Co、Al及びNbの総量とLiとのモル比が1:1.1になるように混合したこと、昇温速度1℃/minで、650℃まで焼成した後、昇温速度0.05℃/minで、650℃から730℃まで焼成したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Al、Nbの割合を測定した結果、Niの割合は90モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は2モル%、Nbの割合は2モル%であった。
【0066】
また、比較例1-4のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、3モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.23°であった。これを比較例1-4の正極活物質とした。
【0067】
<比較例1-5>
Ni、Mn、Co及びAlの総量とLiとのモル比が1:1.1に変更したこと、焼成の最高到達温度を680℃に変更したこと以外は実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は90モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は4モル%であった。
【0068】
また、比較例1-5のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.64°であった。これを比較例1-5の正極活物質とした。
【0069】
[正極の作製]
実施例1の正極活物質を95質量部、導電材としてアセチレンブラックを3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを2質量部の割合で混合した。当該混合物を混練機(T.K.ハイビスミックス、プライミクス株式会社製)を用いて混練し、正極合材スラリーを調製した。次いで、正極合材スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔に塗布し、塗膜を乾燥してアルミニウム箔に正極活物質層を形成した。これを実施例1の正極とした。比較例1-1~1-5も同様にして正極を作製した。
【0070】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.2モル/リットルの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0071】
[試験セルの作製]
実施例1の正極と、黒鉛を負極活物質とする負極とを、セパレータを介して互いに対向するように積層し、これを巻回して、電極体を作製した。次いで、電極体及び上記非水電解質をアルミニウム製の外装体に挿入し、試験セルを作製した。比較例1-1~1-5も同様にして試験セルを作製した。
【0072】
[暴走反応測定試験]
暴走反応測定装置(Accelerated rate calorimeter:ARC、Thermal Hazard Technology社製)を用いて、以下に示す条件で、電池の自己発熱開始温度を測定した。
測定開始温度:100℃
保持温度:20min
発熱検出温度:0.02℃/min
昇温幅:5℃
電池電圧:4.2V充電状態
測定開始温度から20分間、発熱検出温度以上の昇温が検出されない場合、次のステップに昇温して再び測定を行う、発熱検出温度以上の昇温が検出された場合、自己発熱開始と判断し、そのときの温度を自己発熱開始温度とした。
【0073】
表1に、実施例1、及び比較例1-1~1-5の電池の自己発熱開始温度の結果をまとめた。表1では、比較例1-1の自己発熱開始温度を基準とし、実施例1及び他の比較例の自己発熱開始温度との差を求め、自己発熱開始温度変化量として示している。したがって、プラスの値であれば、自己発熱開始温度が高められ、正極活物質の熱安定性が向上したことを示している。
【0074】
【0075】
表1の結果から分かるように、実施例1のみ、自己発熱開始温度が高められ、正極活物質の熱安定性が向上した結果となった。
【0076】
<実施例2>
[正極活物質の作製]
Ni、Mn及びCoを含む複合酸化物(Ni0.94Mn0.04Co0.02O2)と、LiOHとを、Ni、Mn及びCoの総量とLiとのモル比が1:1.03になるように混合した。流量は10cm3あたり4mL/min、遷移金属酸化物1kgあたり10L/minで、酸素濃度95%の酸素気流中にて、当該混合物を、昇温速度3.5℃/minで、650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から700℃まで焼成した。この焼成物を水洗し、リチウム遷移金属酸化物を得た。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Coの割合を測定した結果、Niの割合は94モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%であった。
【0077】
また、実施例2のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.44°であり、格子定数aは、2.875Åであり、格子定数cは14.21Åであり、結晶子サイズsは、607Åであった。これを実施例2の正極活物質とした。
【0078】
<比較例2-1>
Ni、Mn及びCoを含む複合酸化物をNi、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Mn0.02Co0.03Al0.01O2)に変更したこと以外は実施例2と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は94モル%、Mnの割合は2モル%、Coの割合は3モル%、Alの割合は1モル%であった。
【0079】
また、比較例2-1のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.4モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.32°であった。これを比較例2-1の正極活物質とした。
【0080】
<比較例2-2>
Ni、Mn及びCoを含む複合酸化物をNi、Mn及びCoを含む複合酸化物(Ni0.94Mn0.03Co0.03O2)に変更したこと以外は実施例2と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Coの割合を測定した結果、Niの割合は94モル%、Mnの割合は3モル%、Coの割合は3モル%であった。
【0081】
また、比較例2-2のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.9モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.49°であった。これを比較例2-2の正極活物質とした。
【0082】
<比較例2-3>
Ni、Mn及びCoを含む複合酸化物をNi、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Mn0.01Co0.02Al0.03O2)に変更したこと以外は実施例2と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は94モル%、Mnの割合は1モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は3モル%であった。
【0083】
また、比較例2-3のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.6モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.32°であった。これを比較例2-3の正極活物質とした。
【0084】
<比較例2-4>
Ni、Mn及びCoを含む複合酸化物をNi、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)に変更したこと以外は実施例2と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は94モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は4.5モル%であった。
【0085】
また、比較例2-4のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.4°であった。これを比較例2-4の正極活物質とした。
【0086】
実施例2、比較例2-1~2-4の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、電池の自己発熱開始温度を測定した。
【0087】
表2に、実施例2、及び比較例2-1~2-4の自己発熱開始温度の結果をまとめた。表2では、比較例2-4の自己発熱開始温度を基準とし、実施例2及び他の比較例の自己発熱開始温度との差を求め、自己発熱開始温度変化量として示している。したがって、プラスの値であれば、自己発熱開始温度が高められ、正極活物質の熱安定性が向上したことを示している。
【0088】
【0089】
表2の結果から分かるように、実施例2のみ、自己発熱開始温度が高められ、正極活物質の熱安定性が向上した結果となった。
【0090】
<参考例3-1>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.77Mn0.16Co0.02Al0.05O2)とTi(OH)4及び、LiOHをNi、Mn、Co、Al及びTiの総量とLiとのモル比が1:1.05になるように混合した。流量は10cm3あたり2mL/min、遷移金属酸化物1kgあたり5L/minで、酸素濃度95%の酸素気流中にて、当該混合物を、昇温速度3.5℃/minで、650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から780℃まで焼成した。この焼成物を水洗し、リチウム遷移金属酸化物を得た。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Coの割合を測定した結果、Niの割合は73モル%、Mnの割合は15モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は5モル、Tiの割合は5モル%であった。
【0091】
また、参考例3-1のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.4モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.46°であった。これを参考例3-1の正極活物質とした。参考例3-1の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、電池の自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が73モル%、Coの割合が15モル%、Alの割合が7モル%、Tiの割合が5モル%のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、参考例3-1の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0092】
<実施例3-2>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.82Mn0.11Co0.02Al0.05O2)とFe2O3及びLiOHとをNi、Mn、Co、Al及びFeの総量とLiとのモル比が1:1.05になるように混合したこと以外は参考例3-1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Al、Feの割合を測定した結果、Niの割合は77モル%、Mnの割合は10モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は5モル%、Feの割合は6モル%であった。
【0093】
また、実施例3-2のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.49°であった。これを実施例3-2の正極活物質とした。実施例3-2の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が77モル%、Coの割合が10モル%、Alの割合が7モル%、Feの割合が6モル%のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、実施例3-2の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0094】
<実施例3-3>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.88Mn0.05Co0.02Al0.05O2)とFe2O3及びLiOHとをNi、Mn、Co、Al及びFeの総量とLiとのモル比が1:1.05になるように混合したこと、焼成の最高到達温度を750℃に変更したこと以外は参考例3-1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Al、Feの割合を測定した結果、Niの割合は85モル%、Mnの割合は5モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は5モル%、Feの割合は3モル%であった。
【0095】
また、実施例3-3のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.7モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.45°であり、格子定数aは、2.870Åであり、格子定数cは14.19Åであり、結晶子サイズsは、454Åであった。これを実施例3-3の正極活物質とした。実施例3-3の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が85モル%、Coの割合が12モル%、Alの割合が3モル%、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合が1.0モル%、(208)面の回折ピークの半値幅が0.41°のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、実施例3-3の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0096】
<実施例3-4>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.89Mn0.06Co0.02Al0.03O2)とNb2O5及びLiOHとをNi、Mn、Co、Al及びNbの総量とLiとのモル比が1:1.05になるように混合したこと、焼成の最高到達温度を750℃に変更したこと以外は参考例3-1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Al、Nbの割合を測定した結果、Niの割合は88.5モル%、Mnの割合は6モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は3モル%、Nbの割合は0.5モル%であった。
【0097】
また、実施例3-4のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.39°であり、格子定数aは、2.873Åであり、格子定数cは14.21Åであり、結晶子サイズsは、521Åであった。これを実施例3-4の正極活物質とした。実施例3-4の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が88.5モル%、Coの割合が8モル%、Alの割合が3モル%、Nbの割合が0.5モル%のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、実施例3-4の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0098】
<実施例3-5>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.9Mn0.04Co0.02Al0.04O2)及びLiOHをNi、Mn、Co及びAlの総量とLiとのモル比が1:1.03になるように混合したこと、焼成の最高到達温度を730℃に変更したこと以外は参考例3-1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は90モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は4モル%であった。
【0099】
また、実施例3-5のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.7モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.43°であり、格子定数aは、2.873Åであり、格子定数cは14.20Åであり、結晶子サイズsは、548Åであった。これを実施例3-5の正極活物質とした。実施例3-5の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が90モル%、Coの割合が6モル%、Alの割合が4モル%、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合が1.2モル%、(208)面の回折ピークの半値幅が0.42°のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、実施例3-5の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0100】
<実施例3-6>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.92Mn0.015Co0.015Al0.04O2)とSiOとFe2O3及びLiOHをNi、Mn、Co、Al、Si及びFeの総量とLiとのモル比が1:1.05になるように混合したこと、焼成の最高到達温度を700℃に変更したこと以外は参考例3-1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Al、Si、Feの割合を測定した結果、Niの割合は90.5モル%、Mnの割合は1.5モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は5モル%、Siの割合は0.5モル%、Feの割合は1モル%であった。
【0101】
また、実施例3-6のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、1.4モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.33°であり、格子定数aは、2.873Åであり、格子定数cは14.20Åであり、結晶子サイズsは、587Åであった。これを実施例3-6の正極活物質とした。実施例3-6の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が90.5モル%、Coの割合が4.5モル%、Alの割合が5モル%のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、実施例3-6の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0102】
<実施例3-7>
Ni、Mn及びCoを含む複合酸化物(Ni0.94Mn0.04Co0.02O2)及びLiOHをNi、Mn及びCoの総量とLiとのモル比が1:1.03になるように混合したこと、酸素流量を10cm3あたり4mL/min、遷移金属酸化物1kgあたり10L/minにしたこと、焼成の最高到達温度を700℃に変更したこと以外は参考例3-1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Coの割合を測定した結果、Niの割合は94モル%、Mnの割合は4モル%、Coの割合は2モル%であった。
【0103】
また、実施例3-7のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.44°であり、格子定数aは、2.875Åであり、格子定数cは14.21Åであり、結晶子サイズsは、607Åであった。これを実施例3-7の正極活物質とした。実施例3-7の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が94モル%、Coの割合が1.5モル%、Alの割合が4.5モル%、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合が1.7モル%、(208)面の回折ピークの半値幅が0.47のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、実施例3-7の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0104】
<参考例3-8>
Ni、Mn、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.955Mn0.02Co0.02Al0.05O2)及びLiOHをNi、Mn、Co及びAlの総量とLiとのモル比が1:1.05になるように混合したことに変更したこと、焼成の最高到達温度を700℃に変更したこと以外は参考例3-1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Mn、Co、Alの割合を測定した結果、Niの割合は95.5モル%、Mnの割合は2モル%、Coの割合は2モル%、Alの割合は0.5モル%であった。
【0105】
また、参考例3-8のリチウム遷移金属酸化物に対して、実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った結果、層状構造を示す回折線が確認され、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、2.1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅は0.42°、格子定数aは、2.875Åであり、格子定数cは14.21Åであり、結晶子サイズsは、425Åであった。これを参考例3-7の正極活物質とした。参考例3-7の正極活物質を用いて、実施例1と同様に試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度を測定した。また、Mn非含有で、Niの割合が95.5モル%、Alの割合が4.5モル%のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした試験セルを作製し、上記同様の条件で、自己発熱開始温度(基準値)を測定して、参考例3-8の自己発熱開始温度変化量を求めた。その結果を表3に示す。
【0106】
【0107】
表4に実施例3-3~3-6、及び参考例3-8の格子定数a、格子定数c、結晶子サイズsをまとめた。
【表4】
【0108】
表3の結果から分かるように、実施例3-2~3-7のいずれも、電池の自己発熱開始温度が高められ、正極活物質の熱安定性が向上した結果となった。
【0109】
以上の結果から、層状構造を有する、Ni、Mn及び任意要素のCo含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するNiの割合は、75モル%~95モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するMnの割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合以上であり、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対するCoの割合は、0モル%~2モル%の範囲であり、前記層状構造のLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、前記リチウム遷移金属酸化物中のLiを除く金属元素の総量に対して、1モル%~2.5モル%の範囲であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°である、正極活物質によれば、熱安定性が高められると言える。