(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】波長変換複合部材並びにそれを用いた発光装置及び電子機器
(51)【国際特許分類】
F21V 9/40 20180101AFI20230623BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20230623BHJP
F21V 9/38 20180101ALI20230623BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20230623BHJP
【FI】
F21V9/40 200
F21S2/00 311
F21V9/38
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2022517030
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015835
(87)【国際公開番号】W WO2021215386
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020076772
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【氏名又は名称】細川 覚
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】新田 充
(72)【発明者】
【氏名】大塩 祥三
(72)【発明者】
【氏名】藤原 ちぐさ
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-161709(JP,A)
【文献】特開平1-105935(JP,A)
【文献】特開2019-101201(JP,A)
【文献】特表2014-513378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21V 9/40
F21S 2/00
F21V 9/38
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の基材と、
パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有し、前記基材に設けられた第一の波長変換部材と、
パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有し、前記基材に設けられた第二の波長変換部材と、
を備え、
前記第一の波長変換部材及び前記第二の波長変換部材は、前記基材の円周方向に沿って互いに隣接して配置され、
前記第一の波長変換部材及び前記第二の波長変換部材の全体の重心位置が前記基材の回転軸上に存在するように、前記第一の波長変換部材及び前記第二の波長変換部材が前記基材に設けられている、波長変換複合部材。
【請求項2】
前記基材の主面に垂直な方向において、前記第一の波長変換部材は、前記第二の波長変換部材よりも厚みが大きい、請求項1に記載の波長変換複合部材。
【請求項3】
前記基材の回転軸に沿って見た場合、前記第二の波長変換部材が占有する面積は、前記第一の波長変換部材が占有する面積よりも大きい、請求項1又は2に記載の波長変換複合部材。
【請求項4】
前記第二の波長変換部材の近傍に、第一の蛍光体及び第二の蛍光体を含まない錘部材を設けることにより、前記第一の波長変換部材、前記第二の波長変換部材及び前記錘部材の全体の重心位置が前記基材の回転軸上に存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の波長変換複合部材。
【請求項5】
前記第一の波長変換部材及び前記第二の波長変換部材は、それぞれ複数に分割されており、
前記第一の波長変換部材及び前記第二の波長変換部材は、前記基材の円周方向に沿って交互に配置されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の波長変換複合部材。
【請求項6】
前記基材の主面に垂直な方向において、前記第一の波長変換部材の主光出射面から前記基材の主面までの高さは、前記第二の波長変換部材の主光出射面から前記基材の主面までの高さと同じである、請求項1から5のいずれか一項に記載の波長変換複合部材。
【請求項7】
前記基材は光反射性を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の波長変換複合部材。
【請求項8】
前記基材は透光性を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の波長変換複合部材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の波長変換複合部材を備える、発光装置。
【請求項10】
前記第一の波長変換部材及び前記第二の波長変換部材に照射される光を放射する固体発光素子をさらに備える、請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
医療用発光装置である、請求項9又は10に記載の発光装置。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載の発光装置を備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換複合部材並びにそれを用いた発光装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザー光などの一次光を放射する固体発光素子と、蛍光体を含む波長変換部材とを組み合わせた発光装置が知られている。このような発光装置としては、例えば、レーザー照明装置やレーザープロジェクターが知られている。そして、当該発光装置では、モーターで回転する蛍光体ホイール型の波長変換部材が使用されている。
【0003】
特許文献1では、光源と、第1の基板及び第2の基板を有する蛍光体ホイールとを備える光源装置を開示している。当該蛍光体ホイールは、第1の基板と第2の基板との間に配置された第1の蛍光体及び第2の蛍光体を有し、第1の蛍光体及び第2の蛍光体は、蛍光体ホイールの回転方向において異なる位置に配置されている。そして、第1の蛍光体が、第1の基板及び第2の基板に接し、第2の蛍光体が、第2の基板に接している。このような構成により、蛍光体の発熱の影響を受けにくく、かつ、発光効率の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、第1の蛍光体及び第2の蛍光体を蛍光体ホイールの回転軸に沿って見た場合、第1の蛍光体の面積は第2の蛍光体の面積よりも小さくなっており、さらに第1の蛍光体の厚みは、第2の蛍光体の厚みよりも大きい構成となっている。また、当該回転軸に沿って見た場合、第1の基板及び第2の基板には、第1の蛍光体及び第2の蛍光体のいずれも接触していない領域、つまり蛍光体が無い領域が存在する。そのため、第1の蛍光体及び第2の蛍光体により構成される蛍光体層の重心は、蛍光体ホイールの回転軸からずれた位置に存在する場合がある。したがって、特許文献1の蛍光体ホイールを回転駆動装置で回転させた場合、回転軸と重心のずれに起因して蛍光体ホイールの回転が不安定になるため、高速回転ができないという問題がある。また、蛍光体ホイールの回転が不安定となった場合、回転駆動装置が故障してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、波長変換部材を備えた基材を円滑に回転させて信頼性を高めることが可能な波長変換複合部材、並びに当該波長変換複合部材を用いた発光装置及び電子機器を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る波長変換複合部材は、円盤状の基材と、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有し、基材に設けられた第一の波長変換部材と、パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有し、基材に設けられた第二の波長変換部材と、を備える。第一の波長変換部材及び第二の波長変換部材は、基材の円周方向に沿って互いに隣接して配置されている。第一の波長変換部材及び第二の波長変換部材の全体の重心位置が基材の回転軸上に存在するように、第一の波長変換部材及び第二の波長変換部材が基材に設けられている。
【0008】
本発明の第二の態様に係る発光装置は、上記波長変換複合部材を備える。
【0009】
本発明の第三の態様に係る電子機器は、上記発光装置を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換部材を備えた発光装置を示す概略図である。
図1(b)は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換部材を備えた発光装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換部材と、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換部材との両方を備えた発光装置を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る波長変換複合部材の一例を概略的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る波長変換複合部材の他の例を概略的に示す図である。
図4(a)は平面図であり、
図4(b)は断面図である。
【
図5】
図5は、比較例に係る波長変換複合部材を概略的に示す図である。
図5(a)は平面図であり、
図5(b)は断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る波長変換複合部材の他の例を概略的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る波長変換複合部材の他の例を概略的に示す平面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る波長変換複合部材の他の例を概略的に示す平面図である。
【
図9】
図9は、第一の波長変換部材と第二の波長変換部材の高さが異なる波長変換複合部材を用いた発光装置を概略的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る波長変換複合部材において、第一の波長変換部材と第二の波長変換部材の高さが同じである例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る発光装置の一例を示す概略図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る電子機器の一例を示す概略図である。
【
図13】
図13は、本実施形態に係る電子機器の他の例を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係る波長変換複合部材、並びに当該波長変換複合部材を用いた発光装置及び電子機器について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
発光素子と蛍光体とを組み合わせてなる発光装置としては、
図1に示すように、一次光を放射する固体発光素子2と、蛍光体を含む波長変換部材3と、波長変換部材3を表面に保持する基材4とを備えるものを挙げることができる。
【0013】
固体発光素子2は、一次光としてのレーザー光Lを放射する発光素子であり、例えば、面発光レーザーダイオード等のレーザーダイオードを用いることができる。波長変換部材3は、レーザー光Lの受光により、レーザー光Lよりも長波長の蛍光Fを放射する。つまり、波長変換部材3は、正面3aでレーザー光Lを受光し、背面3bから蛍光Fを放射する。基材4は、レーザー光Lが透過可能な透明度を有しており、基材4の表面である主面4aから入射されたレーザー光Lが透過するようになっている。透明な基材4としては、例えば、石英基材やサファイヤ基材、透光性蛍光セラミックス基材が用いられる。
【0014】
このような発光装置1において、基材4に照射されたレーザー光Lは、基材4及び波長変換部材3を透過する。そして、レーザー光Lが波長変換部材3を透過する際に、波長変換部材3に含まれる蛍光体がレーザー光Lの一部を吸収して蛍光Fを放射する。これにより発光装置1は、出力光として、レーザー光Lと蛍光Fとを含む光を放射する。そのため、例えば、レーザー光Lが青色であり、蛍光Fが黄色である場合には、レーザー光Lと蛍光Fとの加法混色により、白色の出力光が放射される。
【0015】
ここで、波長変換部材3(3A)に含まれる蛍光体が、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体の場合、当該蛍光体は遷移確率が高いため、レーザー光Lを効率的に吸収することができる。つまり、蛍光体が、例えば、Ce
3+で賦活されたイットリウムアルミニウムガーネット(Y
3Al
2(AlO
4)
3:Ce
3+、YAG:Ce
3+)である場合、蛍光体は青色のレーザー光Lを90%程度吸収し、黄色の蛍光Fを放射する。そのため、
図1(a)に示すように、発光装置1において、波長変換部材3Aに含まれる蛍光体が、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体である場合、波長変換部材3Aの厚みを比較的薄くすることができる。具体的には、波長変換部材3Aの厚みt1は、例えば50μm~100μmとすることができる。
【0016】
これに対して、波長変換部材3(3B)に含まれる蛍光体が、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体の場合、当該蛍光体は遷移確率が低いため、レーザー光Lを効率的に吸収することができない。つまり、蛍光体が、Cr
3+で賦活された(Gd,La)
3(Ga,Sc)
2(GaO
4)
3:Cr
3+蛍光体(GSG蛍光体)である場合、蛍光体は青色のレーザー光Lを60%程度吸収し、近赤外の蛍光Fを放射する。そのため、
図1(b)に示すように、発光装置1Aにおいて、波長変換部材3Bに含まれる蛍光体が、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体である場合、波長変換部材3Bの厚みを比較的厚くして波長変換効率を高める必要がある。具体的には、波長変換部材3Bの厚みt2は、例えば300μm~400μmとする必要がある。
【0017】
ここで、上述の固体発光素子2、波長変換部材3A及び波長変換部材3Bを組み合わせることにより、出力光として白色光と近赤外光の両方を放射することができる発光装置を得ることができる。具体的には、固体発光素子2として青色のレーザー光Lを放射する発光素子を用い、波長変換部材3AとしてYAG:Ce
3+蛍光体を含む部材を用い、波長変換部材3BとしてGSG蛍光体を含む部材を用いる。そして、
図2に示すように、透明な基材4に波長変換部材3A及び波長変換部材3Bを積層する。
図2(a)に示す発光装置1Bでは、基材4の上方に波長変換部材3Aを積層し、さらに波長変換部材3Aの上方に波長変換部材3Bを積層している。
図2(b)に示す発光装置1Cでは、基材4の上方に波長変換部材3Bを積層し、さらに波長変換部材3Bの上方に波長変換部材3Aを積層している。
【0018】
このような発光装置1B,1Cに対して、基材4の主面(下面)4aから青色のレーザー光Lを照射すると、照射されたレーザー光Lは、基材4並びに波長変換部材3A及び3Bを透過する。レーザー光Lが波長変換部材3Aを透過する際、波長変換部材3Aに含まれるYAG:Ce
3+蛍光体がレーザー光Lの一部を吸収して黄色の蛍光を放射する。また、レーザー光Lが波長変換部材3Bを透過する際、波長変換部材3Bに含まれるGSG蛍光体がレーザー光Lの一部を吸収して近赤外の蛍光を放射する。そのため、
図2の発光装置は、レーザー光L及び黄色の蛍光の加法混色で生成した白色光と、近赤外光との両方を光出射面Oから出射することができる。
【0019】
上述のように、波長変換部材3Aに含まれる蛍光体はパリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体であるため、波長変換部材3Aの厚みを比較的薄くすることができる。これに対して、波長変換部材3Bに含まれる蛍光体はパリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体であるため、波長変換部材3Bの厚みを比較的厚くして波長変換効率を高める必要がある。そのため、
図2(a)に示す発光装置1Bでは、波長変換部材3Aから放射された黄色の蛍光が、厚膜の波長変換部材3Bに阻まれてしまい、波長変換部材3Bを十分に透過することができない場合がある。また、
図2(b)に示す発光装置1Cでは、基材4を透過したレーザー光Lが波長変換部材3Bで吸収されてしまい、波長変換部材3Aに十分に到達することができない場合がある。
【0020】
このように、
図2に示す発光装置1B,1Cは、波長変換部材3A及び波長変換部材3Bを基材4の厚み方向に積層しているため、厚膜の波長変換部材3Bに起因して、白色光の取り出し効率が低下してしまうという問題がある。
【0021】
本実施形態の波長変換複合部材は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換部材と、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換部材の両方を備える場合でも、光取り出し効率を高めることが可能な構成を備えている。
【0022】
[波長変換複合部材]
本実施形態の波長変換複合部材は、
図3に示すように、円盤状の基材13と、基材13に設けられた第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12とを備えている。第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の一方の主面13aに固定されている。
【0023】
第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、平面視した場合に円弧状であり、さらに基材13の円周方向に沿って互いに隣接して配置されている。つまり、
図3に示す波長変換複合部材10では、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12はそれぞれ二分割されて円弧状を成している。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の周縁に沿って交互に配置されており、全体として円環状の波長変換部材を形成している。
【0024】
なお、
図3において、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、互いに接触して円環状となっているが、第一の波長変換部材11と第二の波長変換部材12との間には空隙が存在していてもよい。
【0025】
第一の波長変換部材11は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有している。第一の蛍光体としては、遷移金属イオンの電子エネルギー遷移に基づく蛍光を放射する蛍光体を用いることができ、例えば賦活剤としてCr、Mn、Fe、Cu、Niからなる群より選ばれる少なくとも一つのイオンを含む蛍光体を用いることができる。具体的には、第一の蛍光体としては、賦活剤としてCr3+及びMn4+の少なくとも一方を含む蛍光体を用いることができる。第一の蛍光体の発光はパリティー禁制遷移に起因することから、励起光の吸収率が低下してしまう。なお、第一の蛍光体の母体は特に限定されないが、例えば酸化物、硫化物、窒化物、ハロゲン化物、酸硫化物、酸窒化物及び酸ハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0026】
詳細に説明すると、第一の蛍光体の賦活剤は、固体発光素子から発せられた励起光(一次光)を吸収して、当該励起光よりも長波長の光成分に変換する性質を持つ蛍光イオンである。そして、第一の蛍光体の賦活剤は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射することが可能なイオンであり、例えばCr3+及びMn4+の少なくとも一方であることが好ましい。
【0027】
第一の蛍光体としては、上述の賦活剤を添加したハロリン酸塩、リン酸塩、ハロ珪酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、アルミノ珪酸塩、硼酸塩、ゲルマン酸塩、窒化珪酸塩、窒化アルミノ珪酸塩、酸窒化珪酸塩、酸窒化アルミノ珪酸塩などがある。そのため、第一の蛍光体は、これらの中から照明設計に適するものを適宜選択して利用すればよい。
【0028】
ここで、第一の蛍光体の賦活剤は、Cr3+であることが好ましい。Cr3+の利用によって、可視光、特に青色光又は赤色光を吸収して、深赤色~近赤外の光成分に変換する性質を持つ第一の蛍光体を得ることができる。また、賦活剤を添加する母体の種類によって、蛍光体の光吸収ピーク波長や蛍光ピーク波長を変えることも容易となり、励起スペクトル形状や蛍光スペクトル形状を変える上で有利になる。さらに、青色光や赤色光を吸収して近赤外の蛍光成分に変換するCr3+で賦活された蛍光体も数多く知られている。このため、一次光を放つ固体発光素子の選択の幅が広がるだけでなく、第一の蛍光体が放つ蛍光のピーク波長を変えることが容易となることから、出力光の分光分布の制御に有利な発光装置となる。
【0029】
なお、蛍光イオンがCr3+である蛍光体は、励起光を吸収して、当該励起光よりも長波長の蛍光に変換するものであれば特に限定されず、既知のCr3+賦活蛍光体から適宜選択すればよい。ただ、Cr3+賦活蛍光体は、製造が容易な複合金属酸化物を母体とした蛍光体であることが好ましい。
【0030】
Cr3+賦活蛍光体は、多くの実用実績を持つガーネット型の結晶構造を持つ複合酸化物蛍光体であることが好ましい。このようなCr3+賦活ガーネット蛍光体としては、Y3Al2(AlO4)3:Cr3+、La3Al2(AlO4)3:Cr3+、Gd3Al2(AlO4)3:Cr3+、Y3Ga2(AlO4)3:Cr3+、La3Ga2(AlO4)3:Cr3+、Gd3Ga2(AlO4)3:Cr3+、Y3Sc2(AlO4)3:Cr3+、La3Sc2(AlO4)3:Cr3+、Gd3Sc2(AlO4)3:Cr3+、Y3Ga2(GaO4)3:Cr3+、La3Ga2(GaO4)3:Cr3+、(Gd,La)3Ga2(GaO4)3:Cr3+、Gd3Ga2(GaO4)3:Cr3+、Y3Sc2(GaO4)3:Cr3+、La3Sc2(GaO4)3:Cr3+、Gd3Sc2(GaO4)3:Cr3+、及び(Gd,La)3(Ga,Sc)2(GaO4)3:Cr3+からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、Cr3+賦活ガーネット蛍光体は、これらの蛍光体を端成分としてなる固溶体であってもよい。
【0031】
第一の波長変換部材11は、第一の蛍光体を封止材で封止することによって作製することができる。封止材は、有機材料及び無機材料の少なくとも一方、特に、透明(透光性)有機材料及び透明(透光性)無機材料の少なくとも一方であることが好ましい。有機材料の封止材としては、例えば、シリコーン樹脂などの透明有機材料が挙げられる。無機材料の封止材としては、例えば、低融点ガラスなどの透明無機材料が挙げられる。
【0032】
また、第一の波長変換部材11としては、第一の蛍光体を焼結してなり、内部に複数の空隙を有する焼結体を用いることができる。さらに、第一の波長変換部材11としては、第一の蛍光体を焼結してなり、内部に複数の空隙を有しないセラミックス体を用いることもできる。第一の波長変換部材11がこのような焼結体又はセラミックス体であることにより、第一の波長変換部材11の製造や取り扱いが容易になるため、工業生産に適した波長変換部材となる。
【0033】
第二の波長変換部材12は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有している。このような第二の蛍光体としては、賦活剤としてCe3+,Eu2+及びYb2+からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む蛍光体を用いることができる。第二の蛍光体の発光はパリティー許容遷移に起因することから、励起光の吸収率が高い。なお、第二の蛍光体の母体は特に限定されないが、例えば酸化物、硫化物、窒化物、ハロゲン化物、酸硫化物、酸窒化物及び酸ハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0034】
詳細に説明すると、第二の蛍光体の賦活剤は、固体発光素子から発せられた励起光(一次光)を吸収して、当該励起光よりも長波長の光成分に変換する性質を持つ蛍光イオンである。そして、第二の蛍光体の賦活剤は、パリティー許容遷移による蛍光を放射することが可能なイオンであり、例えばCe3+,Eu2+及びYb2+からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0035】
第二の蛍光体としては、上述の賦活剤を添加したハロリン酸塩、リン酸塩、ハロ珪酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、アルミノ珪酸塩、硼酸塩、ゲルマン酸塩、窒化珪酸塩、窒化アルミノ珪酸塩、酸窒化珪酸塩、酸窒化アルミノ珪酸塩などがある。そのため、第二の蛍光体は、これらの中から照明設計に適するものを適宜選択して利用すればよい。
【0036】
なお、第二の蛍光体として特に好ましい蛍光体は、ガーネット型の結晶構造を持ち、Ce3+で賦活された複合酸化物蛍光体である。このようなCe3+賦活ガーネット蛍光体としては、Lu3Al2(AlO4)3:Ce3+、Y3Al2(AlO4)3:Ce3+、Lu3Ga2(AlO4)3:Ce3+、及びY3Ga2(AlO4)3:Ce3+からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を用いることができる。また、Ce3+賦活ガーネット蛍光体は、これらの蛍光体を端成分としてなる固溶体であってもよい。
【0037】
当該Ce3+賦活ガーネット蛍光体は、青色光を吸収して黄色~緑色の光に変換する性質を持つものが多い。また、上述のように、Cr3+賦活ガーネット蛍光体は、青色光又は赤色光を吸収して深赤色~近赤外の光に変換する性質を持つものが多い。そのため、青色光を放つ固体発光素子と、第一の蛍光体としてのCr3+賦活ガーネット蛍光体と、第二の蛍光体としてのCe3+賦活ガーネット蛍光体とを利用することで、光の三原色を構成する光成分と、近赤外の光成分を含んでなる出力光を得ることができる。
【0038】
第二の波長変換部材12も、第一の波長変換部材11と同様に、第二の蛍光体を封止材で封止することによって作製することができる。また、第二の波長変換部材12としては、第二の蛍光体を焼結してなり、内部に複数の空隙を有する焼結体を用いることができる。さらに、第二の波長変換部材12としては、第二の蛍光体を焼結してなり、内部に複数の空隙を有しないセラミックス体を用いることもできる。
【0039】
波長変換複合部材10において、円盤状の基材13は、中心部に、モーターなどの回転駆動装置の出力軸へ直接的又は間接的に接続される貫通孔13bを有する。そして、基材13は、固体発光素子から発せられる励起光並びに第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12から放射される蛍光を反射する特性を有するものを用いることができる。つまり、基材13は、光反射性を有するものとすることができる。このような基材13は特に限定されないが、例えば金属からなる基材を用いることができ、具体的にはアルミニウムからなる基材を用いることができる。
【0040】
また、基材13は、固体発光素子から発せられる励起光並びに第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12から放射される蛍光を透過する特性を有するものを用いることができる。つまり、基材13は、透光性を有するものとすることができる。このような基材13は特に限定されないが、例えば石英、サファイヤ又は透光性蛍光セラミックスからなる基材を用いることができる。
【0041】
ここで、基材13が光反射性を有する場合には、第一及び第二の波長変換部材11,12に対して励起光を照射した際、励起光の照射方向とは逆の方向に出力光が放出される構成となる。つまり、
図4(b)に示す波長変換複合部材10Aにおいて、第一及び第二の波長変換部材11,12に対して、励起光を上方から下方に向けて照射した場合、出力光は上方に向けて放出される構成となる。具体的には、光反射性を有する基材13の主面13c(上面)に向けて上方から励起光を照射した場合、励起光は第一及び第二の波長変換部材11,12に照射される。そして、第一及び第二の波長変換部材11,12から上方に向けて出力光が放射される。
【0042】
これに対して、基材13が透光性を有する場合には、第一及び第二の波長変換部材11,12に対して励起光を照射した際、照射方向と同じ方向に出力光が放出される。つまり、
図4(b)に示す波長変換複合部材10Aにおいて、第一及び第二の波長変換部材11,12に対して、励起光を下方から上方に向けて照射した場合、出力光は上方に向けて放出される。具体的には、透光性を有する基材13の他方の主面13c(下面)から励起光を照射した場合、励起光は基材13を透過して、第一及び第二の波長変換部材11,12に照射される。そして、第一及び第二の波長変換部材11,12から上方に向けて出力光が放射される。
【0043】
上述のように、波長変換複合部材10では、円盤状の基材13の主面13aに、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12を円環状に配置している。そのため、波長変換複合部材10を回転駆動装置で回転させることにより、第一の波長変換部材11から発せられる蛍光と第二の波長変換部材12から発せられる蛍光の両方を含んでなる出力光を放射することができる。また、波長変換複合部材10を回転させることにより、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12に含まれる蛍光体の実効的な表面積を広げて、空気との熱交換を促進することができる。その結果、第一の蛍光体及び第二の蛍光体の温度消光を抑制し、当該蛍光体の発光を効率的に行うことができる。
【0044】
ここで、波長変換複合部材10では、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の全体の重心位置が、基材13の回転軸R上に存在するように、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12が基材13の主面13aに設けられている。
【0045】
上述のように、第一の波長変換部材11に含まれる第一の蛍光体はパリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体である。そのため、第一の蛍光体は固体発光素子から照射された励起光を効率的に吸収することができず、第一の波長変換部材11は第一の蛍光体を多量に含有する必要がある。これに対して、第二の波長変換部材12に含まれる第二の蛍光体はパリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体である。そのため、第二の蛍光体は、固体発光素子から照射された励起光を効率的に吸収することができることから、第二の波長変換部材12は第二の蛍光体を多量に含有する必要がない。したがって、第一の波長変換部材11の全体の質量は、第二の波長変換部材12の全体の質量よりも大きくなる。
【0046】
そのため、波長変換複合部材10では、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の全体の重心Gの位置が、基材13の回転軸R上に存在するように、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12が配置されている。具体的には、
図3に示すように、波長変換複合部材10では、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12はそれぞれ二分割されている。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の各々は、中心角が約90度である円弧状を成している。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の周縁に沿って交互に配置されており、全体として円環状の波長変換部材を形成している。つまり、二つの第一の波長変換部材11は、回転軸Rを中心に点対称の状態で配置されている。同様に、二つの第二の波長変換部材12は、回転軸Rを中心に点対称の状態で配置されている。
【0047】
このように、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12を二分割して点対称に配置することにより、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の全体の重心Gの位置は、基材13の回転軸R上に存在するようになる。そのため、回転駆動装置を用いて波長変換複合部材10を回転させた場合でも、波長変換複合部材10の回転が不安定と成り難いため、高速回転させることが可能となる。
【0048】
上述のように、第一の蛍光体は遷移確率が低く、励起光の吸収率も低いため、第一の波長変換部材11は、第一の蛍光体を多量に含有して、吸収率を高めることが好ましい。これに対して、第二の蛍光体は遷移確率が高く、励起光の吸収率も高いため、第二の波長変換部材12は、第一の波長変換部材11のように、第二の蛍光体を多量に含有する必要がない。そのため、
図4に示すように、基材13の主面13aに垂直な方向において、第一の波長変換部材11は、第二の波長変換部材12よりも厚みが大きいことが好ましい。これにより、第一の波長変換部材11は厚みが増加するため、励起光の吸収率を高めて、効率的に蛍光を放出することが可能となる。
【0049】
また、上述のように、波長変換複合部材10Aでは、第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置が基材13の回転軸R上に存在するように、第一及び第二の波長変換部材11,12が配置されている。そのため、第一の波長変換部材11の厚みを第二の波長変換部材12よりも大きくした場合でも、波長変換複合部材10Aを安定的に回転させることが可能となる。
【0050】
第一の波長変換部材11の厚みT1及び第二の波長変換部材12の厚みT2は、第一の蛍光体及び第二の蛍光体の種類、並びに波長変換部材における蛍光体の密度から、適宜設定することができる。第一の波長変換部材11の厚みT1は、例えば300μm~400μmとすることができる。また、第二の波長変換部材12の厚みT2は、例えば50μm~100μmとすることができる。
【0051】
ここで、
図5では、比較例に係る波長変換複合部材10aを示している。波長変換複合部材10aでは、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、それぞれ中心角が約180度である円弧状を成している。また、第一の波長変換部材11の厚みT1は、第二の波長変換部材12の厚みT2よりも大きい。そのため、第一の波長変換部材11の全体の質量は、第二の波長変換部材12の全体の質量よりも大きくなっている。したがって、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の全体の重心Gの位置は、回転軸Rよりも第一の波長変換部材11側に偏っている。そのため、波長変換複合部材10aを回転させた場合、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12のバランスの悪さに起因して、回転が不安定となる。その結果、波長変換複合部材10aと連結した回転駆動装置が故障する可能性がある。
【0052】
本実施形態の波長変換複合部材において、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の全体の重心Gの位置を回転軸R上に存在するように調整する方法は、
図3及び
図4に示す方法に限定されない。例えば、
図6に示すように、波長変換複合部材10Bにおいて、基材13の回転軸Rに沿って見た場合、第二の波長変換部材12が占有する面積を、第一の波長変換部材11が占有する面積よりも大きくすることも好ましい。
【0053】
上述のように、第一の波長変換部材11の全体の質量は、第二の波長変換部材12の全体の質量よりも大きくなる傾向にある。そのため、第二の波長変換部材12の占有面積を、第一の波長変換部材11の占有面積よりも大きくすることにより、第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置を回転軸R上に存在させることが可能となる。
【0054】
第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置を回転軸R上に存在するように調整する方法としては、
図7に示すような方法も挙げることができる。
図7の波長変換複合部材10Cでは、第二の波長変換部材12の近傍に、第一の蛍光体及び第二の蛍光体を含まない錘部材14を設けることにより、第一の波長変換部材、第二の波長変換部材及び錘部材の全体の重心Gの位置を、基材の回転軸R上に存在させている。
【0055】
錘部材14は、第一及び第二の波長変換部材11,12と同様に円弧状であり、第二の波長変換部材12に沿って、第二の波長変換部材12よりも回転軸R側に設けられている。また、錘部材14は、基材13の主面13aに固定するように設けられている。
【0056】
このような錘部材14を用いることにより、第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置を回転軸R上に存在させ、波長変換複合部材10Cを安定的に回転させることが可能となる。なお、錘部材14は、蛍光体を含まない材料からなる部材であればよく、例えば有機材料又は無機材料からなる部材を用いることができる。また、錘部材14は、透光性を有する材料からなる部材であってもよく、光反射性を有する材料からなる部材であってもよい。
【0057】
なお、波長変換複合部材10Cにおいて、第二の波長変換部材12及び錘部材14は、両方とも基材13の主面13aに直接固定され、互いに隣接している。ただ、錘部材14の位置はこのような態様に限定されず、例えば、基材13の主面13aに垂直な方向に沿って、第二の波長変換部材12と錘部材14とを積層させてもよい。また、第二の波長変換部材12と錘部材14との間には空隙が存在してもよい。さらに、錘部材14は円弧状に限定されず、矩形状や円状であってもよい。
【0058】
第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置を回転軸R上に存在するように調整する方法としては、
図8に示すような方法も挙げることができる。
図8の波長変換複合部材10D,10Eでは、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、それぞれ複数に分割されている。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の円周方向に沿って交互に配置されている。
【0059】
具体的には、
図8(a)に示す波長変換複合部材10Dでは、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12はそれぞれ三分割されている。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の各々は、中心角が約60度である円弧状を成している。第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の周縁に沿って交互に配置されており、全体として円環状の波長変換部材を形成している。
【0060】
図8(b)に示す波長変換複合部材10Eでは、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12はそれぞれ四分割されている。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の各々は、中心角が約45度である円弧状を成している。第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の周縁に沿って交互に配置されており、全体として円環状の波長変換部材を形成している。
【0061】
このように、波長変換複合部材10D,10Eでは、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、それぞれ複数に分割されて、回転軸Rを中心に放射状に配置されている。また、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の円周方向に沿って交互に配置されている。これにより、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の全体の重心Gの位置を、基材13の回転軸R上に存在させることが可能となる。
【0062】
なお、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、
図8(a)のように、それぞれ三分割してもよく、
図8(b)のように、それぞれ四分割してもよい。また、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、
図3のように、それぞれ二分割してもよく、それぞれ五分割又は六分割してもよい。
【0063】
上述のように、
図4に示す波長変換複合部材10Aでは、基材13の主面13aに垂直な方向において、第一の波長変換部材11は、第二の波長変換部材12よりも厚みが大きい構成となっている。このような構成により、第一の波長変換部材11は、励起光の吸収効率が高まるため、効率的に蛍光を放射することができる。
【0064】
ここで、
図9では、波長変換複合部材10Aと、一次光Lを放射する固体発光素子20とを備えた発光装置を示している。この発光装置は、固体発光素子20から発せられる一次光Lが、透光性の基材13並びに第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12を透過するような方向に出力光を放つ構成である。
【0065】
具体的には、
図9(a)に示すように、基材13の他方の主面13c(下面)に照射された一次光Lは、基材13及び第一の波長変換部材11を透過する。一次光Lが第一の波長変換部材11を透過する際に、第一の波長変換部材11に含まれる第一の蛍光体が一次光Lの少なくとも一部を吸収して蛍光を放射する。そして、第一の波長変換部材11の上端における主光出射面O1から、蛍光を含む出力光F1を、上方に向けて放射する。その後、主光出射面O1から放射された出力光F1は、レンズ21を透過して集光される。
【0066】
次に、波長変換複合部材10Aが、回転軸Rを中心に回転した場合、
図9(b)に示すように、基材13の他方の主面13cに照射された一次光Lは、基材13及び第二の波長変換部材12を透過する。一次光Lが第二の波長変換部材12を透過する際に、第二の波長変換部材12に含まれる第二の蛍光体が一次光Lの少なくとも一部を吸収して蛍光を放射する。そして、第二の波長変換部材12の上端における主光出射面O2から、蛍光を含む出力光F2,F3を、上方に向けて放射する。その後、主光出射面O
2から放射された出力光は、レンズ21を透過して集光される。
【0067】
ここで、
図9の発光装置において、波長変換複合部材10Aの基材13とレンズ21との間の距離は、一定である。そして、波長変換複合部材10Aでは、第一の波長変換部材11の厚みT1は、第二の波長変換部材12の厚みT2よりも大きい構成となっている。そのため、第一の波長変換部材11の主光出射面O1からレンズ21までの距離は、第二の波長変換部材12の主光出射面O2からレンズ21までの距離よりも短くなっている。つまり、第一の波長変換部材11の主光出射面O1は、第二の波長変換部材12の主光出射面O2よりもレンズ21に近接している。
【0068】
そのため、
図9(a)に示すように、第一の波長変換部材11の主光出射面O1から上方に向けて放射された出力光F1は、大部分がレンズ21に取り込まれて集光される。これに対して、第二の波長変換部材12の主光出射面O2から上方に向けて放射された出力光F2は、レンズ21に取り込まれて集光されるものの、出力光F3は、レンズ21に取り込まれない。そのため、出力光F3は、レンズ21で集光されず、有効に利用されない可能性がある。
【0069】
したがって、基材13の主面13aに垂直な方向において、第一の波長変換部材11の主光出射面O1から基材13の主面13aまでの高さは、第二の波長変換部材12の主光出射面O2から基材13の主面13aまでの高さと同じであることが好ましい。具体的には、
図10に示すように、第一の波長変換部材11の主光出射面O1から基材13の主面13aまでの高さH1は、第二の波長変換部材12の主光出射面O2から基材13の主面13aまでの高さH2と同じであることが好ましい。これにより、第一の波長変換部材11の主光出射面O1からレンズ21までの距離と、第二の波長変換部材12の主光出射面O2からレンズ21までの距離とが同じとなる。そのため、第一の波長変換部材11の主光出射面O1から放射された出力光F1と、第二の波長変換部材12の主光出射面O2から放射された出力光F2,F3のいずれも、レンズ21に取り込まれて集光される。そのため、出力光F1及び出力光F2,F3を有効に活用することが可能となる。
【0070】
第一の波長変換部材11の高さH1と第二の波長変換部材12の高さH2とを同じとする方法は、
図10に示すように、基材13の主面13aと第二の波長変換部材12との間に、高さを調整するための調高部材15を介在させる方法が挙げられる。このような調高部材としては、基材13と同様に、透光性を有する部材を用いることができる。なお、基材13が光反射性を有する部材からなる場合には、調高部材15も光反射性を有する部材とすることができる。
【0071】
このように、本実施形態の波長変換複合部材10,10A,10B,10C,10D,10E,10Fは、円盤状の基材13と、第一の波長変換部材11と、第二の波長変換部材12とを備える。第一の波長変換部材11は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有し、基材13の主面13aに設けられている。第二の波長変換部材12は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有し、基材13の主面13aに設けられている。第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、基材13の円周方向に沿って互いに隣接して配置されている。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12の全体の重心Gの位置が基材13の回転軸R上に存在するように、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12が基材13の主面13aに設けられている。
【0072】
このような構成により、回転駆動装置を用いて波長変換複合部材10,10A,10B,10C,10D,10E,10Fを回転させた場合でも、波長変換複合部材の回転が不安定と成り難いため、波長変換複合部材を円滑に回転させて信頼性を高めることができる。その結果、第一の波長変換部材11中の第一の蛍光体及び第二の波長変換部材12中の第二の蛍光体を高効率で励起し、同一円周上から複数種類の蛍光を放射することが可能となる。
【0073】
また、第一の波長変換部材11中の第一の蛍光体は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体である。このような蛍光体としては、例えば、青色光又は赤色光を吸収して深赤色~近赤外の光成分に変換する性質を持つ蛍光体を挙げることができる。さらに、第二の波長変換部材12中の第二の蛍光体は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体である。このような蛍光体としては、例えば、青色光を吸収して緑、黄、赤などの光成分に変換する性質を持つ蛍光体を挙げることができる。そのため、本実施形態の波長変換複合部材を用いることにより、白色光などの可視光と近赤外光とを放射することが可能な発光装置を得ることができる。
【0074】
なお、本実施形態の波長変換複合部材において、第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置を回転軸R上に存在するように調整する方法は、
図3から
図10に示す構成に限定されない。また、
図3から
図10に示す構成を任意に組み合わせて、第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置を回転軸R上に存在するようにしてもよい。
【0075】
[発光装置]
次に、本実施形態に係る発光装置について説明する。本実施形態の発光装置は、上述の波長変換複合部材10,10A,10B,10C,10D,10E,10Fを備えている。また、発光装置は、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12に照射される光(一次光)を放射する固体発光素子20をさらに備えていることが好ましい。このような固体発光素子としては、波長435nm以上560nm未満、好ましくは波長440nm以上480nm未満の範囲内に強度最大値を持つ一次光を放つ素子を使用することができる。
【0076】
固体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)又はレーザーダイオードなどを用いることができる。そして、例えば、1W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュール又はレーザーダイオードを利用することにより、数百mWクラスの光出力を期待できる発光装置となる。また、3W以上あるいは10W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュールなどを利用することにより、数Wクラスの光出力を期待できる発光装置となる。さらに、30W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュールなどを利用することにより、10Wを超える光出力を期待できる発光装置となる。また、100W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュールなどを利用することにより、30Wを超える光出力を期待できる発光装置となる。
【0077】
固体発光素子としてレーザーダイオードを利用し、一次光をレーザー光にすると、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12に高密度のスポット光を照射する仕様になる。そのため、得られる発光装置は、高出力の点光源とすることができるため、固体照明の産業利用の範囲を広げることが可能となる。このようなレーザーダイオードとしては、例えば、端面発光レーザー(EEL:Edge Emitting Laser)、垂直共振器面発光型レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等を利用できる。
【0078】
固体発光素子と波長変換複合部材との間には、光ファイバーなどの導光部材を介在させてもよい。これにより、固体発光素子と波長変換複合部材とが、空間的に離れる構造にすることができる。そのため、発光部が軽くて自在に動かすことができ、その結果、照射場所を自在に変えることが容易な発光装置にすることができる。
【0079】
上述のように、発光装置において、固体発光素子は、発光ダイオードおよびレーザーダイオードの少なくとも一方であることが好ましい。ただ、固体発光素子はこれらに限定されず、高出力の一次光を放つことが可能であれば、あらゆる発光素子を用いることができる。
【0080】
なお、発光装置が備える固体発光素子の個数は特に限定されず、単数であってもよく、複数であってもよい。固体発光素子が複数であることにより、一次光の出力を大きくすることが容易にできるので、高出力化に有利な発光装置となる。
【0081】
固体発光素子の個数は特に限定されないが、例えば、9個以上、16個以上、25個以上、36個以上、49個以上、64個以上、81個以上、又は100個以上などから適宜選択すればよい。また、個数の上限も特に限定されるものではないが、例えば、9個以下、16個以下、25個以下、36個以下、49個以下、64個以下、81個以下、又は100個以下などから適宜選択すればよい。
【0082】
発光装置において、固体発光素子は、面発光形の面発光光源であることが好ましい。これにより、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12を照射する一次光の強度分布のばらつきや色調のむらを抑制するので、出力光の強度分布むらの抑制に有利な発光装置になる。
【0083】
図11では、本実施形態に係る発光装置の一例を示している。発光装置100では、固体発光素子20が放つ一次光を、波長変換複合部材10における第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12に間接的に照射するようにする。そして、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12によって波長変換された光成分を出力する。
【0084】
発光装置100では、固体発光素子20を複数設けている。そして、固体発光素子20が放つ一次光は、反射ミラー31によって反射され、第一レンズ32aで集光された後、基材13の主面13aに形成した第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12に照射される。基材13は光反射性を有するため、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12が放つ蛍光は、固体発光素子20が放つ一次光が照射される方向とは逆方向に反射する。
【0085】
基材13によって反射された光成分は、集光レンズ33によって集光される。その後、光成分は、第一光軸変換ミラー34a、第二レンズ32b、第二光軸変換ミラー34b、第三レンズ32c及び第三光軸変換ミラー34cによって、光軸変換と集光の繰り返しがなされる。そして当該光成分は、出射レンズ35への入射を経て、発光装置100から出射される。
【0086】
ここで、発光装置100では、回転駆動装置16を使用して、波長変換複合部材10を回転可能としている。上述のように、波長変換複合部材10では、第一及び第二の波長変換部材11,12の全体の重心Gの位置が基材13の回転軸R上に存在しているため、波長変換複合部材10を安定的に回転させることができる。そのため、発光装置100では、第一の波長変換部材11中の第一の蛍光体及び第二の波長変換部材12中の蛍光体を高効率で励起して蛍光を放射することが可能となる。
【0087】
次に、本実施形態の発光装置に関し、性能改善のための改良例について説明する。
【0088】
本実施形態の発光装置は、固体発光素子20を高出力型のものにする、又は固体発光素子20の数を増やすなどの手段によって、出力光を構成する光子の絶対数を増加させることができる。これにより、発光装置から放出される出力光の光エネルギーを、3W、好ましくは10W、より好ましくは30Wを超えるものにすることができる。このような高出力型の発光装置とすることにより、強い出力光(例えば、近赤外光)で照らすことができるため、照射対象物との距離が大きくても、比較的強い近赤外線を照射することができる。また、照射対象物が微小なものや厚みを持つものであっても、対象物に関わる情報を得ることが容易な発光装置にもなる。
【0089】
また、発光装置は、固体発光素子20をレーザーダイオードなどの高光密度の一次光を放つ発光素子にする、又は固体発光素子20が放つ光を光学レンズで集光するなどの手段によって、蛍光体に供給する光子密度を高めることもできる。例えば、固体発光素子20が放つ一次光の光エネルギー密度は、0.3W/mm2、好ましくは1.0W/mm2、より好ましくは3.0W/mm2を超えるものにすることができる。この場合、一次光の光エネルギー密度が大きいため、光拡散させた一次光を、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12に照射する構成にしても、比較的強い出力光を放つ発光装置になる。また、光拡散させない一次光を、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12に照射する構成にすると、光エネルギー密度が大きい出力光を放つ発光装置になる。そのため、光出射面が小さな発光素子を利用しつつ、出力光を大面積に照射できる発光装置や、光エネルギー密度が大きな出力光を照射する発光装置を提供することができる。さらに、例えば、光エネルギー密度が大きな近赤外光を点出力することが可能な発光装置にもなる。なお、固体発光素子が放つ一次光の光エネルギー密度の上限は特に限定されないが、例えば30W/mm2とすることができる。
【0090】
そして、このような高光密度の一次光を放つ固体発光素子20を用いることで、第一の波長変換部材11及び第二の波長変換部材12は、放出する光のエネルギー密度を0.3W/mm2、好ましくは1.0W/mm2、より好ましくは3.0W/mm2を超えるものにすることができる。
【0091】
なお、適切な固体発光素子を選択することによって、出力光における、440nmよりも波長が短い領域の光成分の強度を、蛍光強度最大値の3%を下回るものに調整することができる。また、出力光における、440nmよりも波長が短い領域の光成分の強度を、蛍光強度最大値の1%を下回るものに調整することもできる。このようにすると、フォトレジストが感光しやすい、紫外~青の波長領域の光成分の強度がゼロに近い出力光になるため、イエロールームでの使用などに適する半導体関連の検査作業用として有利な近赤外の光を放つ発光装置になる。
【0092】
本実施形態の発光装置は、配光特性を制御する配光制御機構をさらに備えてもよい。このような構成にすると、例えば車載用の配光可変型の照明システムなど、所望の配光特性を持つ出力光を得る上で有利な発光装置になる。
【0093】
本実施形態の発光装置は、投入電力の制御装置など、例えば近赤外線の強度を変える出力強度可変機構をさらに備えてもよい。このような構成にすると、近赤外線照射によって損傷しやすい食品や薬剤などの検査などに有利な発光装置になる。
【0094】
本実施形態の発光装置は、例えば、波長700nm以上2500nm未満の範囲内に蛍光強度最大値を持つ光成分のピーク波長を変える可変機構をさらに備えてもよい。このような構成にすると、汎用性が大きく、雑多な用途への対応が容易な発光装置になる。また、照射対象物の内部への光の侵入深さは波長によって変わるため、照射対象物の深さ方向の検査などに有利な発光装置にもなる。なお、このような蛍光ピーク波長の可変機構としては、例えば、バンドパスフィルターやローカットフィルターなどの光学フィルターを用いることができる。
【0095】
本実施形態の発光装置は、出力光の少なくとも一部の波長成分の出力を、ON-OFF制御する光制御機構をさらに備えてもよい。このような構成にしても、汎用性が大きく、雑多な用途への対応が容易な発光装置になる。
【0096】
なお、本実施形態の発光装置は、出力光における、波長700nm未満の可視の光成分および波長700nm以上の光成分をパルス光とすることができる。パルス光の照射時間の半値幅は、300ms未満とすることができる。また、出力光の出力強度の大きさが大きいほど、半値幅を短くすることもできる。そのため、出力光の出力強度に合わせて、半値幅を100ms未満、30ms未満、10ms未満、3ms未満、又は1ms未満とすることができる。なお、パルス光の消灯時間は、1ms以上10s未満とすることができる。
【0097】
ここで、人の目は、50~100Hz(周期20~10ms)の光をフリッカーとして感じることが報告されている。また、ハトなどの鳥類は150Hz(周期6.7ms)前後の光をフリッカーとして感じ、ハエなどの昆虫は300Hz(周期3.3ms)前後の光をフリッカーとして感じることが報告されている。そのため、これらの生き物がフリッカーを感じない30ms未満の消灯時間が一つの好ましい形態となる。
【0098】
一方で、強い光照射は、照らしたモノに損傷を与えるリスクを持つので、フリッカーを気にする必要性がない用途では、パルス光の消灯時間は、100ms以上、特に300ms以上が好ましい形態となる。
【0099】
なお、人の毛髪や体毛の成長調整をする美容の目的で好ましい、出力光の光エネルギーは、0.01J/cm2以上1J/cm2未満である。そのため、発光装置から発せられる出力光の光エネルギーをこの範囲とし、当該出力光を毛根部付近に照射すると、皮膚内部に存在するメラニン等に光を吸収させることができ、その結果、毛髪等の成長を調整することが可能となる。
【0100】
ここで、出力光の好ましい1/10残光時間、つまり消灯する直前の光強度が1/10に強度低下するまでの時間は、100μs未満であることが好ましく、10μs未満であることがより好ましく、1μs未満であることが特に好ましい。これにより、瞬時点灯や瞬時消灯し得る発光装置を得ることができる。
【0101】
本実施形態の発光装置は、120nm以上380nm未満、好ましくは250nm以上370nm未満の波長範囲内に強度最大値を持つ紫外線を放つ紫外光源を、さらに備えることもできる。このようにすると、紫外線による殺菌効果なども併せ持つ発光装置になる。
【0102】
本実施形態の発光装置は、医療用発光装置であることが好ましい。つまり、近赤外の光成分を放つことが可能な本実施形態の発光装置は、医療用又はバイオ技術用の光源又は照明装置とすることができる。特に、本実施形態の発光装置は、蛍光イメージング法若しくは光線力学療法に使用される医療用発光装置、又は細胞、遺伝子及び検体などの検査並びに分析などに使用されるバイオ技術用発光装置とすることができる。近赤外の光成分は、生体や細胞などを透過する性質を持つため、このような発光装置により、体内外から患部の観察や治療を行ったり、バイオ技術に利用することが可能となる。
【0103】
また、近赤外の光成分を放つことが可能な本実施形態の発光装置は、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。このようにすると、例えば、有機物を透過する性質を持つ近赤外の光成分や、物体によって反射される近赤外の光成分を利用して、有機物製の袋又は容器における中身又は異物を、未開封状態で検査することができる。また、このような発光装置により、人を含む動植物やモノの監視などを行うことができる。
【0104】
[電子機器]
次に、本実施形態に係る電子機器について説明する。本実施形態に係る電子機器は、上述の発光装置を備えている。
図12では、本実施形態に係る電子機器の一例を概略的に示している。電子機器200は、電源回路41と、導体42と、波長変換複合部材、回転駆動装置及び固体発光素子を備える発光装置100とを少なくとも備えている。
【0105】
電源回路41は、発光装置における回転駆動装置及び固体発光素子に電力を供給する。また、電源回路41は、導体42を通じて、回転駆動装置及び固体発光素子に電気エネルギーを供給する。
【0106】
発光装置100は、上述のように、電気エネルギーを光エネルギーに変換するものである。発光装置100は、電源回路41から供給される電気エネルギーの少なくとも一部を、出力光43となる光エネルギーに変換して出力する。なお、
図12の発光装置100は、近赤外の光を含む出力光43を放出する構成となっている。
【0107】
図12の電子機器200は、第一の検出器47A及び第二の検出器47Bをさらに備えている。第一の検出器47Aは、発光装置100から放射され、被照射物44に照射された出力光43の透過光成分45を検知する。具体的には、第一の検出器47Aは、被照射物44を透過した透過光成分45における近赤外光を検知する。第二の検出器47Bは、発光装置100から放射され、被照射物44に照射された出力光43における反射光成分46を検出する。具体的には、第二の検出器47Bは、被照射物44で反射した反射光成分46における近赤外光を検知する。
【0108】
このような構成の電子機器200では、被照射物44に近赤外の光成分を含む出力光43が照射され、被照射物44を透過した透過光成分45及び被照射物44で反射された反射光成分46を、それぞれ第一の検出器47A及び第二の検出器47Bで検出する。そのため、電子機器200により、近赤外の光成分が関与する被照射物44の特性情報を検出することが可能となる。
【0109】
ここで、本実施形態の発光装置は、可視光と近赤外光とを含み、人の目にも検出器にも都合のよい出力光43を放出することができる。そのため、当該発光装置と近赤外線の検出器と組み合わせることで、産業用途に適する電子機器となる。
【0110】
また、本実施形態の発光装置は、出力光43のエネルギーが大きく、広い範囲を照らす構成にすることができる。そのため、離れた距離から出力光43を被照射物44に照射しても、S/N比(シグナル/ノイズ比)の良好な信号を検出することができる。したがって、大きな被照射物44の検査や、広範囲に分布するモノの一括検査、広範囲に亘る検査面積の一部に存在するモノの検知、遠方からの人やモノの検知などに適する電子機器になる。
【0111】
参考のため、本実施形態の発光装置のサイズを説明すると、例えば、発光装置100の主光取り出し面の面積は、1cm2以上1m2未満、好ましくは10cm2以上1000cm2未満とすることができる。また、発光装置100から被照射物44までの最短距離は、例えば、1mm以上10m未満である。強い近赤外線を被照射物44に照射する必要がある場合、例えば、医療、美容、繊細な異物検査などの場合では、発光装置100から被照射物44までの最短距離は、例えば、1mm以上30cm未満、好ましくは3mm以上10cm未満とすることができる。さらに、広い範囲の被照射物44の検査を行う必要がある場合では、発光装置100から被照射物44までの最短距離は、30cm以上10m未満、好ましくは1m以上5m未満とすることができる。
【0112】
なお、強い近赤外線を広い範囲に亘って照射する必要がある場合、発光装置100が可動する構成にすることが好ましく、照らすモノの形態によって自在に動き得る構成とすることがより好ましい。例えば、発光装置100は、直線又は曲線上を往来し得る構造や、XY軸方向あるいはXYZ方向に走査し得る構造、移動体(自動車、自転車、ドローンなどの飛行体)に取り付けられた構造にすることができる。
【0113】
第一の検出器47A及び第二の検出器47Bは、各種の光検出器を使用することができる。具体的には、電子機器の利用形態に応じて、光が半導体のPN接合に入射したときに生じる電荷を検出する量子型の光検出器(フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトIC、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなど)を用いることができる。また、光検出器としては、光を受光したときの発生熱による温度上昇によって生じる電気的性質の変化を検知する熱型の光検出器(熱電効果を利用するサーモパイル、焦電効果を利用する焦電素子など)、又は光に感光する赤外線フィルムなども用いることができる。
【0114】
第一の検出器47A及び第二の検出器47Bとしては、光電変換素子を単体で利用した単独素子を使用してもよく、光電変換素子を集積化した撮像素子を使用してもよい。撮像素子の形態は、一次元的に配置した線型のものであってもよく、二次元的に配置した面型のものであってもよい。第一の検出器47A及び第二の検出器47Bとしては、撮像カメラを使用することもできる。
【0115】
なお、
図12の電子機器200は、第一の検出器47A及び第二の検出器47Bの両方を備えているが、当該電子機器は第一の検出器47A及び第二の検出器47Bの少なくとも一方を備えていればよい。
【0116】
また、本実施形態の電子機器は、出力光を用い、被照射物の検査装置、検知装置、監視装置又は分別装置として利用することができる。出力光が持つ近赤外の光成分は、殆どの物質を透過する性質を持つ。そのため、物質の外部から近赤外の光を照射して、その透過光又は反射光を検出する構成とすることによって、物質を破壊することなく、内部の状態や異物の有無などを検査することができる。
【0117】
また、近赤外の光成分は人の目に見えず、その反射特性は物質に依存する。そのため、モノに近赤外の光を照射し、その反射光を検出する構成とすることによって、人に悟られること無く、暗闇などにおいても人や動植物、モノなどを検知することができる。
【0118】
さらに、本実施形態の電子機器は、物質を破壊することなく、その内部の状態や異物の有無などを検査して、物質の良否を判定し、良品と不良品の選別をすることができる。そのため、電子機器が、正常状態の被照射物と異常状態の被照射物とを分別する機構をさらに備えることによって、モノの分別を行うことが可能となる。
【0119】
本実施形態の電子機器において、発光装置100は、可動式になっておらず、固定式とすることもできる。このようにすると、発光装置を機械的に動かすための複雑な機構を備える必要がないため、故障が発生し難い電子機器になる。また、発光装置を屋内又は屋外で固定することにより、予め定めた場所における、人やモノの状態を定点観察したり、人やモノの数をカウントすることができる。そのため、課題の発見やビジネス活用などに役立つビッグデータの収集に有利な電子機器となる。
【0120】
本実施形態の電子機器は、発光装置100を可動式とし、照射する場所を変えることもできる。例えば、発光装置100を移動ステージや移動体(車両、飛行体など)に取り付けて、可動式にすることができる。このようにすると、発光装置100が、所望の場所や広い範囲を照射し得るものになるため、大型のモノの検査や屋外におけるモノの状態の検査に有利な電子機器になる。
【0121】
本実施形態の電子機器は、発光装置に加えて、さらに撮像カメラとしてのハイパースペクトルカメラを備える構成とすることができる。これにより、当該電子機器は、ハイパースペクトルイメージングを行うことができる。ハイパースペクトルカメラを備えた電子機器は、肉眼や通常のカメラでは判別できない違いを画像として見分けることができるため、製品の検査や選別などに関わる幅広い分野で有用な検査装置になる。
【0122】
具体的には、
図13に示すように、電子機器200Aは、発光装置100と、ハイパースペクトルカメラ51とを備えている。そして、コンベア52の表面52aに載置されている被照射物53に対して、発光装置100から出力光を照射しつつ、ハイパースペクトルカメラ51で被照射物53を撮像する。そして、得られた被照射物53の画像を解析することにより、被照射物53の検査や選別を行うことができる。
【0123】
本実施形態の電子機器は、発光装置に加えて、さらに機械学習するデータ処理システムを備えるものにすることも好ましい。これにより、コンピューターに取り込んだデータを反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出すことができるようになる。また、新たに取り込んだデータをそのパターンに当て嵌めることもできるようになる。そのため、検査・検知・監視などの自動化や高精度化、さらにはビッグデータを利用する将来予測などに有利な電子機器になる。
【0124】
本実施形態の電子機器は、医療用、動物医療用、バイオ技術用、農林水産業用、畜産業用(食肉・肉製品・乳製品など)、工業用(異物検査、内容量検査、形状検査、包装状態検査など)に利用することができる。また、電子機器は、医薬品、動物実験、食品、飲料、農林水産物、畜産物、工業製品の検査用にも利用することができる。言い換えれば、本実施形態の電子機器は、人体、動植物、物体のいずれにも利用することができ、さらに気体、液体、固体のいずれにも利用することもできる。
【0125】
本実施形態の電子機器は、医療機器、治療機器、美容機器、健康機器、介護関連機器、分析機器、計測機器、評価機器として用いることが好ましい。
【0126】
例えば、医療やバイオ技術開発の目的において、本実施形態の電子機器は、1)血液・体液・それらの成分、2)排泄物(尿・便)、3)たんぱく質・アミノ酸、4)細胞(がん細胞を含む)、5)遺伝子・染色体・核酸、6)生体試料・細菌・検体・抗体、7)生体組織・臓器・血管、8)皮膚病・脱毛症、の検査、検出、測定、評価、分析、解析、観察、監視、分離、診断、治療、浄化などに使用することができる。
【0127】
また、例えば、美容やヘルスケアの目的において、本実施形態の電子機器は、1)皮膚、2)毛髪・体毛、3)口内・歯内・歯周、4)耳・鼻、5)バイタルサイン、の検査、検出、測定、評価、分析、解析、観察、監視、美化、衛生、発育促進、健康増進、診断などに使用することができる。
【0128】
例えば、農林水産業、畜産業、工業の目的において、本実施形態の電子機器は、1)工業製品(電子部材・電子デバイスを含む)、2)農産物(青果物など)、3)酵素・菌、4)海産物(魚類・貝類・甲殻類・軟体類)、5)医薬品・生体試料、6)食品・飲料、7)人・動物・モノの存在・状態、8)ガス(水蒸気を含む)の状態、9)液体・流体・水・水分・湿度、10)モノの形状・色・内部構造・物理状態、11)空間・位置・距離、12)モノの汚染状態、13)分子・粒子の状態、14)産業廃棄物の検査、検出、測定、計測、評価、分析、解析、観察、監視、認識、選別、分別などに使用することができる。
【0129】
例えば、介護の目的において、本実施形態の電子機器は、排泄確認や健康状態の識別、管理、監視などに使用することができる。
【0130】
このように、本実施形態の電子機器は、検査、検出、測定、計測、評価、分析、解析、観察、監視、認識、選別、分別など、あらゆる用途に対応できるものになる。
【0131】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0132】
特願2020-076772号(出願日:2020年4月23日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示によれば、波長変換部材を備えた基材を円滑に回転させて信頼性を高めることが可能な波長変換複合部材、並びに当該波長変換複合部材を用いた発光装置及び電子機器を提供することができる。
【符号の説明】
【0134】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F 波長変換複合部材
11 第一の波長変換部材
12 第二の波長変換部材
13 基材
13a 主面
14 錘部材
20 固体発光素子
100 発光装置
200,200A 電子機器