(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】パイプを用いる撓み測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20230623BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20230623BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20230623BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
G01B7/16 R
G01B7/16 C
E02D17/20 106
G01N27/04 Z
G01N27/22 C
(21)【出願番号】P 2018241947
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592252027
【氏名又は名称】山内 常生
(73)【特許権者】
【識別番号】594184159
【氏名又は名称】丹羽 章二
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】山内常生
(72)【発明者】
【氏名】丹羽章二
【審査官】神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-197298(JP,A)
【文献】特開2018-096797(JP,A)
【文献】特開2005-300519(JP,A)
【文献】特開2004-114752(JP,A)
【文献】特開2008-040835(JP,A)
【文献】特開2013-061558(JP,A)
【文献】特開2017-083200(JP,A)
【文献】特開2016-121975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01L 1/20
G01L 5/00-5/28
G01D 21/00
G01N 27/04
G01N 27/22
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の非導電性の可撓性パイプを連結してなる地滑り測定装置であって、
前記パイプは軸方向に伸展されたセンサを備えるセンサ装置であって、前記パイプの撓み量に応じた出力を生成するセンサ装置と、
前記各パイプのセンサ装置からの出力をモニタするモニタ部と、を備える地滑り測定装置において、
前記センサ装置は可撓性の導電性シートであって、前記可撓性パイプの外面又は内面に接着された導電性シートと、
該導電性シートは前記可撓性パイプと一体となって曲がる、
該導電性シートの電気抵抗の変化を周波数の変化に変換する変換回路と、を備える、地滑り測定装置。
【請求項2】
前記導電性シートはその全体が可撓性である、請求項1に記載の地滑り測定装置。
【請求項3】
複数の非導電性の可撓性パイプを連結してなる地滑り測定装置であって、
前記パイプは軸方向に伸展されたセンサを備えるセンサ装置であって、前記パイプの撓み量に応じた出力を生成するセンサ装置と、
前記各パイプのセンサ装置からの出力をモニタするモニタ部と、を備える地滑り測定装置において、
前記センサ装置は前記可撓性パイプの軸方向に伸展され、対向した一対の電極と
、該電極の少なくとも一方は片持ちはりの状態で前記可撓性パイプに固定される、
該一対の電極間の電気容量の変化を周波数の変化に変換する変換回路と、を備える、地滑り測定装置。
【請求項4】
前記パイプのセンサ装置は、少なくとも隣接する他のパイプのセンサ装置がオフの状態で、前記出力を生成する、請求項1から3の何れかに記載の地滑り装置。
【請求項5】
前記各パイプへ通される共通信号線が更に備えられ、
前記各センサ装置の変換回路は防水連結部を介して前記共通信号線に繋がれ、
該防水連結部は下側解放のケースであって前記変換回路を内蔵するケースと該ケース内に充填される非導電性かつ防水性の充填材を備え、
前記共通信号線及び前記変換回路と前記可撓性導電体若しくは一対の電極との連結線は、前記ケースの下側開口部から前記ケース内に導入されて前記変換回路に繋がれる、請求項1~4の何れかに記載の地滑り測定装置。
【請求項6】
前記導電性シートはリボン状の部材であり、防水留め具で前記パイプの周面に固定され、
該防水留め具は前記リボン状の可撓性導電体の裏打ち部材と前記可撓性部材の周縁に配置される枠状体とを備えてなり、前記枠状体は前記裏打ち部材の表面と前記パイプの表面に水密に固定される、請求項1又は2に記載の地滑り測定装置。
【請求項7】
前記対向した一対の電極は、少なくともその対向面が絶縁材料で被覆された導電性部材であり、パイプの内周面の第1の位置で固定される第1の電極と、第2の位置で固定される第2の電極とを備えてなり、前記第1の位置と前記第2の位置とがパイプの軸方向に平行な投影面内で重なることなく配置される、請求項3に記載の地滑り測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地すべり地の地盤の変形量のモニタリングや構造物の撓み量のモニタリングができるパイプを用いる撓み測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気象庁により「記録的短時間大雨情報」や「土砂災害警戒情報」が各地で発表され、地すべり等の土砂災害の危険が高まっている。地すべり地ではその原因となる滑り層の変位を定量的、経時的に捉えることが極めて重要であるが、長期間の観測に耐える測定装置がなく、測定装置の開発もなされてこなかった。特許文献1の
図5からも明らかなように、平成14年に出願された発明でも30年以上前に開発されたパイプ式歪計をボーリング孔に縦列に設置して使用することが前提にされている。このパイプ式歪計はVP管の表面にひずみゲージを貼り付ける構成で、地中に設置後2,3年経過すると湿気でセンサ部が機能しなくなる。しかし、測定装置をVP管の内部に収納する構成にすればセンサ部を湿気から保護できる。
【0003】
また、道路や鉄道用のトンネル・橋梁等の老朽化が進み、構造物の異常な変形を事前に把握するために構造物の変形量のモニタリングが必要とされ、モニタリングのための発明がなされている(特許文献2)。しかしながら、湿気の高いトンネル内や風雨にさらされる橋梁等では測定環境が悪く長期間のモニタリングが難しい。変形量のモニタリングを長期間継続するためにはセンシング部分を構造物の内部、ないしは、構造物を構成する部材内部に設けることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-214812
【文献】特許5397767
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地滑り観測に土中に埋設するパイプ式歪計を利用する場合、パイプ内部で撓み量のセンシングができれば湿気でセンシング部分が劣化することはなく、長期間の観測ができる。パイプ式歪計は高感度であるが地盤が大きく変動する地滑り時にはスケールアウトすることも欠点である。ダイナミックレンジを広くすれば、地滑り時の撓み量の測定ができるし、VP管が破断するまで測定できれば地すべり時の記録が余すことなく残せることになりより好適である。
【0006】
長く使用されてきたパイプ式歪計の場合、塩化ビニール(VP)製のパイプの外面にひずみゲージを接着した後、テープを巻き付ける方法でひずみゲージの防水をしている。このため、2,3年するとひずみゲージが劣化して使用できなくなる。さらに、ひずみゲージ用の信号線がパイプ外部に出ているためにVP管を設置する際には、VP管をボーリング孔に挿入しながら信号線も挿入する必要があり、信号線の処理が大変で設置工事に手間がかかる。
【0007】
ひずみゲージは小型であってVP管の外面に貼り付けた場合、その貼り付けた部分の変形しか測定できず(点測定に近い)、滑り層の滑りを測定するためには、できるだけ広範囲の地盤の変位情報を得ることが好ましく、測定範囲が広い線状的測定、さらに測定対象が広範囲になる面状的測定が望ましい。
【0008】
橋梁等の変形のモニタリングに使用されるセンサは、通常、橋梁等の構造物の外側に取りけられるため、湿気等の影響を受けやすく長期間測定を継続することは難しい。ステンレスパイプ等の内部においてパイプの撓み量のセンシングができれば、センシング部分を内蔵したパイプを老朽化したトンネルの天井や側壁に取り付け撓み量のモニタリングすることができ、湿気でセンシング部分が劣化することはない。さらに、橋梁等の素材として使用されているパイプを、センシング部分を内蔵したパイプに交換し、内部でデジタル信号に変換すれば、橋梁等の撓み量のモニタリングができる。
【0009】
VP管内部やステンレスパイプの内部にセンシング装置を内蔵するとともにデジタル信号に変換すれば、複数のセンサを内蔵したパイプを連結し、共通の信号線でデータを伝送でき、少ない信号線で多点のモニタリングができる。
【0010】
そこで本発明者等は,地盤の変位による可撓性パイプの変位を検出する場合、パイプの長軸に沿った広い範囲で検出する方法がよいと考え、可撓性の導電性シートを線状センサとして利用する発明に想到した。可撓性の導電性シートは張力の作用で伸長すると可撓性のシート内部に混ぜ合わされたフィラーと呼ばれる微粉末状の導電物質の相対的な距離が離れるため、結果として可撓性の導電性シートの抵抗値が大きくなる性質がある。したがって、パイプの外面や内面に可撓性の導電性の導電性シートを接着しパイプと一体となった状態でパイプを曲げれば、パイプの湾曲と共に可撓性の導電性シートが変形し、可撓性の導電性シートの抵抗値が変化する。この性質を利用すれば、パイプが受ける長軸方向の曲がりによる変位量を可撓性の導電性シートの抵抗値の変化として検出できる。可撓性の導電性シートであればパイプの内面に接着することが可能で電子回路や信号線をパイプ内部に収納できる。信号線がパイプ内部に収納できれば、パイプを設置する際に信号線の処理が簡単になる効果がある。
【0011】
また、トンネルや橋梁等の撓み量のモニタリングにはステンレスパイプ等の金属製のパイプ内部で撓み量を測定する発明に想到した。ステンレスパイプ等の金属製のパイプ内部であれば、完全にシールドとされた環境下であり、センシング信号のデジタル化に好適である。撓み量の測定はパイプの軸方向に配置した細長い電極の容量変化を利用する。対になった電極の1カ所(例えば端や中央)をパイプの側面に固定する配置にする。撓みが生じると電極が相対的に移動し、対になった電極間の電気容量が変化するから、容量の変化から撓み量の変化が分かる。
【0012】
地滑り地では長さ1m程度のVP管の中央にひずみゲージを貼りつけたパイプ式歪計をボーリング孔に縦列に配置し、深度別にVP管の撓み量の測定をしている。しかしながら、各VP管の中央に貼られたひずみゲージによる点測定で撓み量を検出するため、ひずみゲージ近傍の地盤が大きく変形した場合や、ひずみゲージの正面に小石があった場合など、測定された撓み量は局所的な影響を受けやすい欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明はかかる課題を解決するためになされた。この発明の第1の局面は次のよう規定される。すなわち,
複数の非導電性の可撓性パイプを連結してなる地滑り測定装置であって、
前記パイプは軸方向に伸展されたセンサを備えるセンサ装置であって、前記パイプの撓み量に応じた出力を生成するセンサ装置を備え、
前記各パイプのセンサ装置からの出力をモニタするモニタ部を更に備えてなる地滑り測定装置。
【0014】
上記第1の局面によれば、可撓性パイプはその軸方向に伸展されたセンサを備える。従って、地盤の変動等によりパイプが変形すると、このパイプの撓みに追従してセンサも変形する。このセンサはパイプの撓み量に応じた出力を生成するので、この出力をモニタすることでパイプの撓み量を特定できる。パイプの撓み量は地盤の変動に追従しているので、このようにして特定されたパイプの撓み量は地盤の変動量を表している。即ち、前もってパイプの撓み量とセンサの出力との関係を取得して保存しておき、その関係を参照すれば出力の変化から撓み量が求められる。
地盤の変動が局所的であり、その結果パイプにかかる力も局所的である場合であっても、可撓性のパイプは全体的に変形するので、地盤変動がパイプの範囲内のとき、換言すれば地盤変動がパイプにわずかでも干渉すれば、これを確実に測定できる。
【0015】
この発明の第2の局面は次のよう規定される.すなわち,
前記センサ装置は可撓性導電体と、該可撓性導電体の電気抵抗の変化を周波数の変化に変換する変換回路とを備える、第1の局面に記載の地滑り測定装置。
上記の第2の局面で規定する、電気抵抗を周波数の変換する変換回路は専ら抵抗とコンデンサから構成されるので、簡易な構造でかつ安価に提供できる。簡単の構造の回路は出力が安定してかつ耐久性も確保しやすい。また、出力をデジタル化することにより高精度化が図れ、測定レンジの幅も広くなる。可撓性導電体の材料マトリックスを高分子材料(ゴム、エラストマー)としたとき、その靭性は例えば合成樹脂製からなる可撓性パイプのそれに比べて高くなる。従って、可撓性パイプが破損するまで、即ち可撓性パイプの変形限界においても、可撓性導電体からなるセンサはその変形量に応じた出力(抵抗変化)を生成可能である。広い測定レンジを有する変換回路であれば、かかる撓性パイプの大きな変形、即ち可撓性導電体の大きな抵抗変化にも対応可能である。
【0016】
なお、前もってパイプの撓み量と電気抵抗(導電率)の関係を取得して保存しておき、その関係を参照すれば電気抵抗(導電率)の変化から撓み量が求められる。
可撓性導電体の電気抵抗に対する外乱の影響を避けるため可撓性導電体は防水処理されることが好ましい。
【0017】
この発明の第3の局面は次のよう規定される.すなわち、
前記センサ装置は対向した一対の電極と、該一対の電極間の電気容量の変化を周波数の変化に変換する変換回路とを備える、第1の局面に記載の地滑り測定装置。
このように規定される第3の局面の変換回路は、第2の局面のものと同様の作用を備える。即ち、電気容量を周波数に変換する変換回路は専ら抵抗とコンデンサから構成されるので、簡易な構造でかつ安価に提供できる。簡単の構造の回路は出力が安定してかつ耐久性も確保しやすい。また、出力をデジタル化することにより高精度化が図れ、測定レンジの幅も広くなる。
【0018】
第2及び第3の局面で採用される変換回路はパイプの撓み具合に応じて固有の周期の電気信号(周波数信号)を出力する。その結果、かかる変換回路を備えたパイプを連続させたとき、一のパイプの変換回路が他のパイプの変換回路に干渉するおそれがあることに気がついた。
かかる干渉を予防するため、前記各パイプのセンサ装置は、少なくとも隣接する他のパイプのセンサ装置がオフの状態で、前記出力を生成することが好ましい(第4の局面)。
【0019】
上記の第4の局面によれば、パイプに備えられたセンサ装置の変換回路が周波数信号を生成る際、隣接するセンサ装置は停止状態でそこからは何ら周波数信号は出力されていない、よって、パイプに備えられたセンサ装置の出力は何ら外乱を受けることがなく、地盤変動に基づくパイプの変形量を正確に出力する。
外乱を確実に排除するためには、隣接するパイプに備えられたセンサ装置をオフにした後、所定の時間をおいて(時定数を考慮して)、測定対象のパイプのセンサ装置をオンとする。
【0020】
なお、複数のパイの連結体において、1つのパイプのセンサ装置をオンにするときは他の全てのパイプのセンサ装置をオフとしておくことが、より精密な測定をする見地からは、好ましい。ただ、本発明者らの検討によれば、隣接するパイプのセンサ装置をオフとしておけば、地滑りによる変形の測定に要求される精度からは十分であった
縦列でパイプを設置したとき、各パイプに制御線等の信号線を地表に設けられたロガー等の解析装置と接続していては、信号線の処理が大変で設置経費が膨大になる。そこで、
【0021】
この発明の第5の局面は次のよう規定される.すなわち、
前記各パイプへ通される共通信号線が更に備えられ、
前記各センサ装置の変換回路は防水連結部内に収納され、
該防水連結部は下側解放のケースであって前記変換回路を収納するケースと該ケース内に充填される非導電性かつ防水性の充填材を備え、
前記共通信号線及び前記変換回路と前記センサとの接続線が前記ケースの下側開口部から前記ケース内に導入されて前記変換回路に繋がれる、第2~4の局面の何れかに記載の地滑り測定装置。
【0022】
上記の第5の局面によれば、連結した各パイプをボーリング孔に縦列に設置し、共通信号線を介して各パイプからの信号をモニタする地表に設置されたモニタ部に伝送する。この場合、パイプの連結体内へ水が浸入することを完全に防止することはできない。例えば、地表付近のパイプに亀裂が入りその亀裂からパイプ内部に浸水することがあるからである。そこで、パイプ内の電気部品の防水が必要なる。
【0023】
ここに、各パイプのセンサ装置の変換回路を下側解放のケースである防水連結部内に設けてこれに共通信号線に接続し、そのケース内を非導電性かつ防水性の充填材で充填すると上部から浸水あった場合でも、防水連結部に水が浸透することがない。よって、パイプ内の電気部品に対する防水が確保できる。
【0024】
パイプ内の電気部品(変換回路)そのものの防水、およびこれと配線との接続部の防水対策は、既述の第5の局面で対応できている。勿論、可撓性導電体からなるセンサ自体にも耐水性は不可欠である。そこで、
この発明の第6の局面は次のよう規定される.すなわち、
前記可撓性導電体はリボン状の部材であり、防水留め具で前記パイプの周面に固定され、
該防水留め具は前記リボン状の可撓性導電体の裏打ち部材と前記可撓性部材の周縁に配置される枠状体とを備えてなり、前記枠状体は前記裏打ち部材の表面と前記パイプの表面に水密に固定される、第2の局面に記載の地滑り測定装置。
【0025】
上記の第6の局面によれば、センサを構成する可撓性導電体をリボン状とすることによりセンサが薄くなる。よって、小径のパイプにも配設可能となる。かかるリボン状のセンサの防水構造として、裏打ち部材と枠状体で構成される防水留め具はこれを薄く形成する構造として好適である。
なお、リボン状の可撓性導電体をパイプの外側に水密に取り付けた場合は、パイプに穴を開けてリード線をパイプの内部に引き込みパイプ内部の変換回路に接続する。そして、リボン状の可撓性導電体の抵抗値の変化をRC発振回路で周波数の変化に変換し、その周波数の変化から可撓性パイプの撓み量を求める。
【0026】
この発明の第7の局面は次のよう規定される。すなわち、
前記対向した一対の電極は、少なくともその対向面が絶縁材料で被覆された導電性部材であり、パイプの内周面の第1の位置で固定される第1の電極と、第2の位置で固定される第2の電極とを備えてなり、前記の第1の位置と前記の第2の位置とがパイプの軸方向に平行な投影面内で重なることなく配置される、第3の局面に記載の地滑り測定装置。
【0027】
上記の第7の局面によれば導電性部材からなる一対の電極がパイプの軸方向に平行に配置され、パイプ内面に対するそれぞれの固定位置がパイプの軸方向において異なっている。これにより、パイプが撓んだとき第1の電極と第2の電極との間隔に変化が生じる。パイプを撓ませる外力はパイプの軸方向全域に均等に加えられるものではないので、パイプの変形は軸方向に全て均一ではないからである。よって、電極の相対位置が変化すれば両者の間の電気容量が変化する。なお、各電極の対向面は絶縁材料で被覆されているので、パイプの変形に伴い両者が接触してもショートすることがない。
前もってパイプの撓み量と電気容量の関係を取得して保存しておき、その関係を参照すれば電気容量の変化から撓み量が求められる。ここに、パイプの撓み量とは、無負荷状態のパイプに対する変形後のパイプの最大変化量(軸垂直方向の)を指す。容量の変化は第6の局面と同様にRC回路により周波数に変換し、その周波数の変化から可撓性パイプの撓み量を求める。
【0028】
上記第7の局面では軸方向に伸展させた一対の電極による容量変化から可撓性パイプの撓み量を求めたが、各センサパイプを縦列に設置して第6の局面と同様の方式で共通信号線と接続すれば、深度別に地盤の変形量が求められる。
地滑り地に埋設して使用する場合は、各電極を防水仕様とすることが好ましい。そのためには、防水性かつ絶縁性を備えた合成樹脂材料等(例えば、フッ素樹脂)で各電極の全面を被覆することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1はこの発明の実施例の地滑り測定装置を示す模式図である。
【
図3】
図3はリボン状の可撓性導電体とその防水留め具を示す展開図である。
【
図4】
図4は抵抗変化に基づくセンサの構造を示す断面図である。
【
図5】
図5は他のセンサの構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は容量変化に基づくセンサの構造を示す断面図である。
【
図7】
図7は容量変化に基づく他のセンサの構造を示す断面図である。
【
図8】
図8は容量変化に基づく他のセンサの構造を示す断面図である。
【
図9】
図9は抵抗変化又は容量変化を周波数に変換する変換回路(発振回路)を示す。
【
図10】
図10は試験例のVP40の撓み量と抵抗値の変化の割合の関係を示す図である
【
図11】
図11は試験例のデータを測定する測定装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の地滑り測定装置1を
図1に示す。この測定装置1はモニタ部としてのデータ・解析装置5とパイプユニット10の連結体とを備えてなる。データ・解析装置5はコンピュータ装置を備え、共通信号線7を介して送られてくる各パイプユニット10からの出力信号を予め定められたプログラムにより処理して、パイプユニット10の変形を検出する。パイプユニット10の変形は地盤の変動を表している。
パイプユニット10の連結体はボーリング穴に挿入される。
【0031】
パイプユニット10の詳細構造を
図2に示す。
パイプユニット10は非導電性かつ可撓性の材料から形成されるパイプ本体11を備える。非導電性かつ可撓性のある材料としてVP等の合成樹脂を挙げることができる。パイプ本体11の上下端には他のパイプ本体11へ連結するためのねじが螺設されている。
パイプ本体11の内周面の一側に軸方向へ伸展したセンサ13の全体が密着されている。これにより、パイプ本体11の変形にセンサ13の変形が追従する。このセンサ13には後述するようにリボン状の導電性高分子が用いられる。センサ13の両端は配線15、16を介して変換回路21に連結される。
【0032】
パイプ本端11の内周面には防水連結部20が固定される。この防水連結部20は下側のみが解放した、即ち上側は閉じられた筒状部材であり、パイプ本体11と同一若しくは同種の合成樹脂材料で形成される。両者を同一の若しくは同種の材料で形成することにより、両者の接合が容易になる。
防水連結部20の内部には変換回路21が収納されている。この変換回路21には共通信号線7、センサ13からの信号線15、16が連結される。防止連結部20には絶縁性でかつ耐水性の充填材を隙間なく充填する。かかる充填材として、ウレタンなどの合成樹脂を用いることができる。
パイプ本体10を地下水の存在する地盤に埋入するときは、パイプ本体10内に図示しない重り若しくは水より比重の高い充填剤を入れて、パイプ本体10自体の浮き上がりを防止する。
【0033】
図3、
図4に、センサ13をパイプ本体11の内周面へ付設する構成の一例を示す。
センサ13はリボン状の可撓性導電体131を備え、この可撓性導電体131を防水留め具で保護する。この防水留め具は枠状体135と裏打ち部材134とから構成される。可撓性導電体131は枠状体135の内孔136に隙間無く収納される。裏打ち部材134の外縁は枠状体135の外縁と一致する。ここに、枠状体135及び裏打ち部材134はパイプ本体11と同一若しくは同種の熱可塑性樹脂(耐水、防水性のあるもの)で形成し、これらを相互に水密に接着若しくは融着する。これにより、可撓性導電体131は外部環境から絶縁され、もって、出力される導電性の変化は専らその変形のみに起因することとなる。
【0034】
枠状体135及び裏打ち部材134はそれぞれ薄肉のパイプの一部を切り出して形成することができる。即ち枠状体135を切り出すパイプはパイプ本体11へ隙間なく挿入可能なものである。そして、このパイプの厚さは可撓性導電体131の厚さと同じとする。このパイプに対し、裏打ち部材134を切り出すパイプは隙間なく挿入可能である。そして各パイプを同じ熱可塑性樹脂(例えば塩化ビニル樹脂)製とする。各パイプの肉厚は薄いので、薄い防水留め具を得られる。
【0035】
図5には可撓性導電体131をシート部材138で被覆した例を示す。このシート部材138は、パイプ本体11と同一若しくは同種の材料からなり、シート部材138の外周がパイプ本体11の内周面へ水密に接着若しくは融着される。
図5に示す構造によれば、
図3、4に示す構造に比べて、構造が簡素化されるので、製造コストを削減できる。
かかる可撓性導電体131はパイプ本体11の外周面へ配設してもよい。
【0036】
図6に他のセンサ40の例を示す。
このセンサ40はパイプ本体11の変形を容量変化に変換する。パイプ本体11の軸方向に伸展した一対の平板状の電極41、42は相互に近接しかつ平行に配置されている。第1の電極41はパイプ本体11の内周面へ第1の連結体45を介して固定される。パイプ本体11においてその対向する位置に第2の電極42が第2の連結体46を介して固定される。第1の連結体45と第2の連結体46はパイプ本体11の軸方向において異なる高さに固定される。これにより、
図6(B)に示すように、パイプ本体11が変形したとき、第1と第2の電極の重なる面積が小さくなる。これにより、第1の電極と第2の電気容量が変化する。
【0037】
図7に他の例のセンサ50を示す。このセンサ50も一対の平板状の電極51、52からなる。第1の電極51は連結体55及び56で両持ちはりの状態でパイプ本体11に連結される。他方、第2の電極52は、第1の電極51と平行であり、連結部材58で片持ちはりの状態でパイプ本体11の内周面に固定される。第2の電極52の連結体58の位置が他の連結体55、56の位置とパイプ本体11の軸方向において異なっている。これにより、パイプ本体11に荷重がかかると、
図7(B)に示すように、第1の電極51と第2の電極52との間隔が変化し、両者間の電気容量が変化する。
図7の例では、第1の電極51の下縁が連結部材56の側面へ挿入されている。これにより、連結体56の上縁が第1の電極51と第2の電極52のスペーサとなって、両者の接触を防止する。
【0038】
図8に他のセンサ60の例を示す。このセンサ60は平板状の第1の電極61と、第1の電極61を、間隔をあけて、挟むように配置される断面U字状の電極62から構成される。第1の電極61は連結体65により片持ちはりの状態でパイプ本体11の内周面に固定されている。第2の電極62は連結体68により片持ちはりの状態でパイプ本体11の内周面に固定されている。連結体65と連結体68とが、パイプ本体11の軸方向に異なった位置にある。これにより、パイプ本体11に荷重がかかると、
図8(B)に示すように、第1の電極61が上方にスライドし、両者間の重なる面積が変化し電気容量が変化する。
図8(B)に示すように、第1の電極61と第2の電極62との間隔が変化し、両者間の電気容量が変化する。
【0039】
この例のセンサ60では、
図8(B)に示すように、第1の電極61と第2の電極62とが接触することがある。両電極61と62とが電気的に接続すると、両電極間に電気容量は生じないので、この例では第1の電極61の表面は絶縁性の材料、好ましくは防水性も有する材料で、被覆されている。かかる材料としてフッ素樹脂(ポリテトラエチレン)を挙げられる。
図6、
図7の例の電極においても、少なくとも一方の電極において、他方の電極との対向面を絶縁性の材料(好ましくは防水性も有する材料)で被覆することが好ましい。
図6~
図8のセンサ30、40、50を構成する一対の電極にはそれぞれ配線が接続され、
図2に示すようにこの配線は変換回路に接続される。
【0040】
図9に変換回路の例を示す。
かかる変換回路は、その抵抗R1を可撓性導電体131と置き換えることで、可撓性導電体131の電気抵抗の変化を周波数の変化に変換する変換回路となる。
他方、かかる変換回路は、そのキャパシタをセンサ30、40及び50を構成する電極に置き換えることで、各センサ30、40及び50の電気容量の変化を周波数の変化に変換する変換回路となる。
各パイプユニット10において、その防水連結部20にそれぞれ変換回路21が収納されている。この変換回路21は共通信号線7に繋がれて、その出力(周波数)がデータ・解析装置5へ送信される。
【0041】
なお、各パイプユニット10の変換回路21は共通信号線7に直列接続されているので、送られてくる出力の発信元を特定する必要がある。
図9(A)に示す回路では、出力先にシャッタ回路を設け、それぞれ所定のタイミングで出力が共通信号線7へ入力されるようする。データ・解析装置5は当該所定のタイミングに応じて送られてくる出力の発信元を特定する。他方、
図9(B)に示す回路では、シュミット回路の入力ポート2の入力元にシャッタ回路を設け、それぞれ所定のタイミングでオン信号が入力されるようにすればよい。
【0042】
図9に示す変換発振は微弱な電磁波を出力し、この電磁波が他の発振回路に干渉するおそれがある。そこで、パイプユニット10の連結体において1つのパイプの変換回路のみを発信させ、他のパイプの変換回路は停止状態とすることが好ましい。少なくとも、1つのパイプユニット10の変換回路21を発振させるときは、発信タイミングの所定時間前から隣接するパイプの発振回路は停止させておく。なお、変換回路のオン、オフタイミングは、図示しない電源回路からの電源供給を制御することによる。
図9(B)の回路ではポート2へのH信号の入力タイミングで制御可能である。
このように、少なくも隣接するパイプ10の変換回路21を停止しておくことにより、それからの干渉を受けることがない。従って、稼働中の変換回路21の出力はパイプ本体11の変形量を正確に反映したものとなる。
【0043】
以下、
図10は、パイプ本体11の撓み量と抵抗値の変化との関係を測定する装置を示す。具体的には、長さ900mmで幅10mmの可撓性導電体を長さ1000mmのVP40(外径48、内径40)の内面に貼りつけ、VP40の両端に近い部分を固定し、中央を油圧ジャッキで押し上げて変形させ、センサシートの電気抵抗の変化を周波数変化として測定した。
図11は、
図10で測定されたデータから、VP40の撓み量と抵抗値の変化の割合の関係を示す図である。撓み量が僅かであっても抵抗値が大きく変わることが分る。
【0044】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当事者が容易に想到できる範囲で変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 地滑り測定装置5 データ・解析装置
7 共通信号線
10 パイプユニット
11 パイプ本体
20 防水連結部
21 変換回路
13、40、50、60 センサ
131 可撓性導電体
134 裏打ち部材
135 枠状体
41、51、52 第1の電極
42、52、62 第2の電極