IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社LIXILグループの特許一覧 ▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

<>
  • 特許-浄水カートリッジ 図1
  • 特許-浄水カートリッジ 図2
  • 特許-浄水カートリッジ 図3
  • 特許-浄水カートリッジ 図4
  • 特許-浄水カートリッジ 図5
  • 特許-浄水カートリッジ 図6
  • 特許-浄水カートリッジ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】浄水カートリッジ
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20230623BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230623BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230623BHJP
【FI】
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
C02F1/28 D
C02F1/28 R
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019060237
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157242
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 友邦
(72)【発明者】
【氏名】前浪 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一博
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 守信
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-110409(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116859(WO,A1)
【文献】特開2007-186403(JP,A)
【文献】特開2003-171111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20
B01J 20/28
C02F 1/28
C01B 32/354
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭を含んでなる活性炭成形体を備えた浄水カートリッジであって、
前記活性炭は、
浄水カートリッジに用いられる遊離塩素除去用の活性炭であって、
BET-DFT法により測定される、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔容積が0.1967cm/g以上であり、
積算粒度分布での50%粒子径が60μm~90μmの粒子状であり、
前記活性炭成形体の体積が37.6cm3以下である浄水カートリッジ
【請求項2】
JIS S3201に準拠した測定方法により測定した、ろ過流量2.5L/minの通水条件下で濃度2ppmの遊離塩素含有水を連続通水した際の遊離塩素除去率が80%に低下するまでの累積通水量が、前記活性炭成形体の体積1cm当たり37.7L以上である請求項1に記載の浄水カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性炭及び浄水カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には有機塩素化合物吸着用活性炭が開示されている。この活性炭は、フェノール樹脂粉末の炭化、賦活粒子が結合してなる粒状炭素成形物であり、細孔直径100Å以下の細孔容積が0.20~0.80cc/gであり、かつ細孔直径100Å以下の細孔容積に占める細孔直径6~8Åの細孔容積の割合が65vol%以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-110409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示の構成では、遊離塩素の除去という観点で、不十分である。具体的には、有機塩素化合物は主に活性炭による吸着作用により除去される一方、遊離塩素は有機塩素化合物とは異なる作用を受けて除去されるため、上述の要件を満たすのみでは十分な遊離塩素除去性能が得られないのが実情である。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、遊離塩素除去性能に優れた活性炭及びそれを用いた浄水カートリッジを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
遊離塩素が活性炭により除去される作用は、主に、細孔内に遊離塩素が吸着される吸着作用と、活性炭により遊離塩素が酸化分解される酸化分解作用の2つに分類される。本願発明者らは、遊離塩素である次亜塩素酸(HClO)の分子径が約0.4nmであることに着目し、活性炭における所定の細孔径の細孔容積と、塩素除去寿命との関係について研究し、本発明をするに至った。
【0007】
〔1〕浄水カートリッジに用いられる遊離塩素除去用の活性炭であって、
BET-DFT法により測定される、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔容積が0.0177cm/g以上である活性炭。このような活性炭を用いることにより、遊離塩素除去性能に優れた浄水カートリッジを提供することができる。さらに、この活性炭によれば、細孔容積が0.0177cm/g以上であるから、例えば、汎用されているスパウトインタイプの浄水カートリッジの活性炭成形体の体積より小さい体積で、浄水カートリッジの塩素除去寿命900Lを達成することが可能となる。
【0008】
〔2〕前記細孔容積が、0.0475cm/g以上である〔1〕に記載の活性炭。この活性炭によれば、細孔容積が0.0475cm/g以上であるから、さらに小さい活性炭成形体の体積により、浄水カートリッジの塩素除去寿命900Lを達成することが可能となる。
【0009】
〔3〕前記細孔容積が、0.1967cm/g以上である〔1〕に記載の活性炭。この活性炭によれば、細孔容積が0.1967cm/g以上であるから、例えば、汎用されているスパウトインタイプの浄水カートリッジの活性炭成形体の体積より小さい体積で、浄水カートリッジの塩素除去寿命1200Lを達成することが可能となる。
【0010】
〔4〕上記〔3〕の活性炭を含んでなる活性炭成形体を備えた浄水カートリッジであって、
前記活性炭成形体の体積が37.6cm以下である浄水カートリッジ。この浄水カートリッジによれば、例えば、汎用されているスパウトインタイプの浄水カートリッジの活性炭成形体の体積より小さい体積で、浄水カートリッジの塩素除去寿命1200Lを達成することが可能となる。
【0011】
〔5〕上記〔3〕の活性炭を含んでなる活性炭成形体を備えた浄水カートリッジであって、JIS S3201に準拠した測定方法により測定した、ろ過流量2.5L/minの通水条件下で濃度2ppmの遊離塩素含有水を連続通水した際の遊離塩素除去率が80%に低下するまでの累積通水量が、前記活性炭成形体の体積1cm当たり37.7L以上である浄水カートリッジ。この浄水カートリッジによれば、例えば、汎用されているスパウトインタイプの浄水カートリッジの活性炭成形体の体積より小さい体積で、浄水カートリッジの塩素除去寿命1200Lを達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る水栓装置の側面図である。
図2】活性炭成形体を模式的に示す断面図である。
図3】活性炭成形体中の0.7nmの細孔容積と塩素除去寿命の関係を表すグラフである。
図4】次亜塩素酸イオンの中心から水分子の酸素までの距離(r)の動径分布(RDF)を表すグラフである。
図5】(a)は、細孔径0.679nm未満の細孔と次亜塩素酸の水和構造を模式的に示す説明図である。(b)は、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔と次亜塩素酸の水和構造を模式的に示す説明図である。(c)は、細孔径0.733nm超の細孔と次亜塩素酸の水和構造を模式的に示す説明図である。
図6】実施例1~実施例4の細孔分布を表すグラフである。
図7】活性炭成形体中の細孔径0.7nmの細孔容積と塩素除去寿命との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0014】
本実施形態の浄水カートリッジ20は、図1に示す水栓装置に装着される。水栓装置は、キッチンのキャビネットの天板1に取り付けられている。この水栓装置は、水栓本体10、操作ハンドル11、吐水ヘッド13、浄水カートリッジ20を備えている。浄水カートリッジ20は、吐水ヘッド13の内部に装着されている。
【0015】
吐水ヘッド13は、グリップ部13Aと、グリップ部13Aに対して着脱自在に設けられたヘッド部13Bと、を備えている。吐水ヘッド13は、浄水カートリッジ20の通水量が塩素除去寿命を超えた場合に、ヘッド部13Bをグリップ部13Aから外して浄水カートリッジ20を交換できるようになっている。
【0016】
浄水カートリッジ20は円筒状である。浄水カートリッジ20は、図2に示す活性炭成形体21と、活性炭成形体21を外周面側から覆う不織布(不図示)と、活性炭成形体21の両端に設けられた封止キャップ(不図示)と、を備える。浄水カートリッジ20は、円筒形状の活性炭成形体21の外周面から中心に向けて水を通過させることによって、水を浄化することができる。
【0017】
活性炭成形体21は、図2に示すように、円筒状の中芯23と、中芯23の外周面上に配置される活性炭層25とを備える。中芯23は、任意の材料を使用可能であるが、活性炭成形体21を成形する際に変形せず、また、得られた活性炭成形体21を浄水カートリッジ20に組み込み、ユーザーが実際に使用した際に変形しないものとされる。このような中芯の材料としては、多孔質セラミック、多孔質金属フィルタ、硬質不織布等が挙げられる。
【0018】
活性炭層25は、活性炭を含んでなる。活性炭の形状は特に限定するものではないが、粒子状、繊維状とすることができる。粒子状の活性炭を用いる場合には、保形性の観点から、活性炭層25が更にフィブリル繊維を含む構成とすることができる。活性炭としては、任意の出発原料から得られる活性炭を使用できる。具体的には、ヤシ殻、石炭、フェノール樹脂等を賦活させて活性炭としたものを使用できるが、ここに例示した以外の出発原料で製造した活性炭も使用できる。フィブリル繊維としては、粒子状活性炭を絡めて保形でき、且つ、中芯の表面と結合するものであれば、任意の繊維を使用できる。このようなフィブリル繊維としては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、セルロース繊維が挙げられる。
【0019】
活性炭は、粒子状の場合には積算粒度分布での50%粒子径(メジアン径)が50μm~130μmのものを使用することが好ましく、60μm~90μmのものを使用することがより好ましい。粒子径を調整するために、粒度分布の異なる2種以上の粒子状活性炭を混合させてもよい。粒子状活性炭の50%粒子径が50μm以上であると、中芯の細孔径に関わらず活性炭成形体のろ過流量を確保することができ、目詰まりしにくくなる。また、粒子状活性炭の50%粒子径が130μm以下であると、活性炭成形体が十分な遊離塩素除去性能を発揮できる傾向にある。
【0020】
また、活性炭は、繊維状の場合には繊維径が5μm~30μmのものを使用することが好ましく、10μm~20μmのものを使用することがより好ましい。繊維径が5μm以上であると、中芯の細孔径に関わらず活性炭成形体のろ過流量を確保することができ、目詰まりしにくくなる。また、繊維径が5μm以上であると、活性炭の強度が高くなり活性炭成形体を成形する際等に壊れにくくなる。また、繊維径が30μm以下であると、活性炭成形体が十分な遊離塩素除去性能を発揮できる傾向にある。
【0021】
この活性炭は、比表面積が500m/g~4000m/gのものを使用することが好ましく、1000m/g~2000m/gのものを使用することがより好ましい。比表面積が500m/g以上であると、活性炭成形体が十分な遊離塩素除去性能を発揮できる傾向にある。比表面積が4000m/g以下であると、活性炭の強度が高くなり活性炭成形体を成形する際等に壊れにくくなる。また、活性炭は、全細孔容積が0.1cm/g~5.0cm/gのものを使用することが好ましく、0.3cm/g~1.5cm/gのものを使用することがより好ましい。全細孔容積が0.1cm/g以上であると、活性炭成形体が十分な遊離塩素除去性能を発揮できる傾向にある。全細孔容積が5.0cm/g以下であると、活性炭の強度が高くなり活性炭成形体を成形する際等に壊れにくくなる。活性炭は、真密度が1.6g/cm以上が好ましく、1.8g/cm以上が更に好ましい。活性炭の真密度は、通常2.2g/cm以下である。さらに、活性炭は、嵩密度が0.1g/cm~2.0g/cmのものを使用することが好ましく、0.4g/cm~1.3g/cmのものを使用することがより好ましい。嵩密度が0.1g/cm以上であると、活性炭の強度が高くなり活性炭成形体を成形する際等に壊れにくくなる。嵩密度が5.0g/cm以下であると、活性炭成形体が十分な遊離塩素除去性能を発揮できる傾向にある。
【0022】
本実施形態の活性炭は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)-DFT法(Density Functional Theory)により測定される、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔容積(「細孔径0.7nmの細孔容積」とも称する)が0.0102cm/g以上である。この細孔容積は、遊離塩素除去性の観点において、0.0177cm/g以上であることが好ましく、0.0647cm/g以上であることがより好ましく、0.1967cm/g以上であることが更に好ましい。活性炭の細孔径0.7nmの細孔容積は、通水に耐えうる十分な強度を確保するという観点において、5.0cm/g以下であることが好ましく、1.5cm/g以下であることがより好ましい。なお、細孔容積1.5cm/gは、比表面積4000m/gに相当する。
なお、細孔径0.7nmの細孔容積は、活性炭の出発原料、賦活法、賦活後の後処理の有無、後処理の種類等により適宜設計可能である。
【0023】
詳細には、汎用されているスパウトインタイプの浄水カートリッジの活性炭成形体の体積は45cm程度である。細孔径0.7nmの細孔容積が0.0177cm/g以上である場合、汎用品より小さい約40cmで900Lの塩素除去寿命を達成することが可能となる。なお、900Lの塩素除去寿命は、1日10Lの浄水を使用すると想定して、3ヶ月分に相当する。
また、細孔径0.7nmの細孔容積が0.0475cm/g以上である場合、さらに小さい約37.6cmで900Lの塩素除去寿命を達成することが可能となる。
さらに、細孔径0.7nmの細孔容積が0.1967cm/g以上である場合、例えば、汎用品より小さい約31.8cmで1200Lの塩素除去寿命を達成することが可能となる。約31.8cm以下の活性炭成形体を用いた場合、従来の浄水カートリッジ(直径約2.66cm)の長さ寸法をそのままに直径2.28cm程度まで小型化することができる。これは、呼径25の規格のパイプ中にそのまま組み込めるサイズであり、水栓のデザイン性が格段に高まる。なお、1200Lの塩素除去寿命は、1日10Lの浄水を使用すると想定して、4ヶ月分に相当する。なお、呼径25とは、給水栓を規定するJIS B2061や一般配管用ステンレス鋼管を規定するJIS G3448に示されるものである。
【0024】
所定の細孔径における細孔容積の算出に当たっては、活性炭に形成された細孔の形状をスリット状と仮定して算出した。まず、測定中に窒素ガスが活性炭に吸着していく累積体積を測定し、解析ソフト(ASAP2020分析プログラム)を用いて活性炭1g当たりの所定の細孔径における細孔容積(cm/g)を算出した。活性炭1g当たりの細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔容積X(cm/g)は、細孔径0.679nm以下の細孔容積B(cm/g)と細孔径0.643nm以下の細孔容積A(cm/g)との差分値と、細孔径0.733nm以下の細孔容積C(cm/g)と細孔径0.679nm以下の細孔容積B(cm/g)との差分値の合算値として求めた(X=C-A)。
【0025】
細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔において、遊離塩素が除去される作用について説明する。
本願発明者らは、図3に示すように、浄水カートリッジ20に含まれる細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔容積と、塩素除去寿命との間に正の相関関係があることを新たに見出した。なお、図3のグラフ中、各プロットは後述する実施例1~実施例4の活性炭において得られたデータに対応する。一方、カートリッジに含まれる細孔径0.679nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積と、塩素除去寿命との間には相関関係がみられなかった。また、カートリッジに含まれる細孔径0.733nm以上の細孔径を有する細孔の細孔容積と、塩素除去寿命との間には相関関係がみられなかった。なお、この塩素除去寿命は、JIS S3201に準拠して測定した、ろ過流量2.5L/minの通水条件下で濃度2ppmの遊離塩素含有水を連続通水した際の遊離塩素除去率が80%に低下するまでの累積通水量として求めた。
【0026】
細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔が、塩素除去作用に有効である理由は定かではないが、次のように推察される。第一原理分子動力学法により水和構造計算を行い、次亜塩素酸イオンの中心から、水分子の酸素の中心までの距離(r)の動径分布(RDF)を算出すると、図4のグラフに示すように溶媒和イオン半径約3.2Å(0.32nm)付近にピークを有することが示された。つまり、親水性の次亜塩素酸イオンM1は、水中において周囲に水分子M2を伴って直径約0.64nmの水和構造を形成していると考えられる(図5参照)。図5(a)に示すように、この水和構造を形成した次亜塩素酸イオンM1は、細孔径0.679nm未満の細孔25Aの内部に進入しにくく、細孔径0.679nm未満の細孔25Aによる遊離塩素の除去作用は小さいと考えられる。図5(c)に示すように、この水和構造を形成した次亜塩素酸イオンM1は、細孔径0.733nm超の細孔25Cの内部に進入することが許容され得る。しかし、細孔25Cは水和構造を形成した次亜塩素酸イオンM1に対して細孔径が大きすぎるため、細孔25Cの内壁と内部に進入した次亜塩素酸イオンM1との距離が大きくなり、活性炭による遊離塩素の吸着や酸化分解が十分に促進されないと考えられる。また、浄水カートリッジ20のようにろ過流量が大きい条件(例えば空間速度(SV)が3500/h以上)で使用される場合には、細孔径0.733nm超の細孔25Cでは水和構造を有する次亜塩素酸イオンM1を十分に捕捉しておくことができないものと推測される。一方、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔25Bは、図6(b)に示すように、好適に水和構造を有する次亜塩素酸イオンM1を補足して、遊離塩素の吸着や酸化分解が促進されると考えられる。
【0027】
続いて、本実施形態の一態様である、BET-DFT法により測定される、細孔径0.7nmの細孔容積が0.1967cm/g以上である活性炭を含んでなる活性炭成形体21を備えた浄水カートリッジ20について説明する。
【0028】
浄水カートリッジ20は、活性炭成形体21の体積が37.6cm以下であることが好ましい。活性炭成形体21の体積の下限値は、特に定めるものではないが、31.8cm以上とすることができる。さらに、浄水カートリッジ20は、JIS S3201に準拠した測定方法により測定した、ろ過流量2.5L/minの通水条件下で濃度2ppmの遊離塩素含有水を連続通水した際の遊離塩素除去率が80%に低下するまでの累積通水量が、活性炭成形体の体積1cm当たり37.7L以上であることが好ましい。このような塩素除去寿命が長い活性炭を用いた浄水カートリッジ20は、十分な塩素除去寿命を確保しつつ、従来の浄水カートリッジより小型化可能である。
【0029】
この活性炭成形体21の体積及び単位体積当たりの累積通水量は、本願発明者らが別に得た、塩素除去寿命Lが、活性炭成形体の体積Vの2乗に比例するとの知見に基づき算出されたものである。この知見に基づき、細孔径0.7nmの細孔容積が異なる活性炭について、活性炭の体積37.6cmのカートリッジを作成して、JIS S3201に準拠して通水試験を行って比例定数を算出し、活性炭成形体の体積と塩素除去寿命との関係式を導き出した。図7において実施例1と記された太い実線のグラフが、細孔径0.7nmの細孔容積が0.1967cm/gの活性炭における関係式(L=1.1880×V)を表すグラフである。この関係式から、本実施形態の活性炭成形体21の体積と、活性炭成形体1cm当たり累積通水量を算出した。なお、図7において、各グラフにプロットされた、活性炭成形体の体積19.3cm、24.8cm、30.1cm、44.8cm、52.5cmにおける塩素除去寿命は、上記の関係式に基づき算出された理論値である。
【実施例
【0030】
本実施形態に係る活性炭成形体を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
1.活性炭(実施例1~実施例4)
(1)比表面積、全細孔容積、細孔径0.7nmの細孔容積、細孔分布
実施例1~実施例4の活性炭は、表1に示す比表面積、全細孔容積、細孔径0.7nmの細孔容積であった。この比表面積、全細孔容積、細孔径0.7nmの細孔容積は、次のようにして測定した。
まず、活性炭0.1gを380℃にて真空加熱した後、Surface Area Porosity Analyzer(マイクロメリティックス社製、ASAP-2020)を用いて、窒素ガスを吸着させて吸着等温線を求め、BET法により比表面積(m/g)を算出した。そして、この吸着等温線から細孔直径300nm以下の細孔の全細孔容積(cm/g)を算出した。
活性炭1g当たりの細孔径0.7nmの細孔容積は、上述の実施形態に記載したようにBET-DFT法により算出した。実施例1の細孔径0.7nmの細孔容積は、0.1967cm/gであった。実施例2の細孔径0.7nmの細孔容積は、0.0177cm/gであった。実施例3の細孔径0.7nmの細孔容積は、0.0475cm/gであった。実施例4の細孔径0.7nmの細孔容積は、0.1166cm/gであった。
また、BET-DFT法により所定の細孔径の細孔容積を算出し、細孔分布を求めた。その結果を、図6に示す。図6のグラフは、横軸が細孔径(nm)を示し、縦軸が細孔容積(cm/g)を示す。
【0032】
(2)真密度、嵩密度
実施例1~実施例4の活性炭は、表1に示す真密度、嵩密度であった。活性炭の真密度(cm/g)は、JIS Z 8807の比重瓶による密度及び比重の測定方法に従い、測定液に1-ブタノールを用いて求めた。活性炭の嵩密度(cm/g)は、以下の式により求めた。
嵩密度=真密度/{1+(全細孔容積×真密度)}
【0033】
【表1】
【0034】
2.浄水カートリッジ(実施例1~実施例4)
(1)実施例1~実施例3の活性炭(粒子状)を用いた浄水カートリッジの作製
実施例1~実施例3の活性炭を含むスラリーに、吸引ポンプに接続された中芯を投入し、吸引ポンプを作動して活性炭を中芯の周囲に付着させた。そして、活性炭が付着した中芯を乾燥機にて十分乾燥させた後、外径24.5mm×内径8.3mm×長さ90mm、体積37.6cmの円筒形状に成形し、活性炭成形体を得た。なお、中芯は、SiOを主成分とした多孔質セラミックによって作製されたものを用いた。得られた活性炭成形体の外周面に透水性を有する不織布を巻き、さらに、円筒形状の活性炭成形体の長手方向の一端側に、一端側の面を完全に閉塞できる円形状のキャップを装着させ、他端側に中心部分が開口した円形状のキャップを装着させることで、浄水カートリッジを作製した。
【0035】
(2)実施例4の活性炭(繊維状)を用いた浄水カートリッジの作製
実施例4の活性炭を中芯の周りに巻き回して、外径24.5mm×内径8.3mm×長さ90mm、体積37.6cmの円筒形状の活性炭成形体を得た。その他は、実施例1~実施例3と同様にして浄水カートリッジを作製した。
【0036】
(3)活性炭の重量、活性炭成形体における活性炭の充填率
活性炭の重量Wは、浄水カートリッジ(活性炭成形体)に含まれる活性炭全体の重さとして求めた。活性炭成形体における活性炭の充填率は、活性炭成形体の体積Vに対する活性炭の体積(細孔を含む)の比率である。細孔を含む活性炭の体積は、活性炭の重量Wを活性炭の嵩密度で除して求めた。その結果を、表2に示す。
(4)活性炭成形体における細孔径0.7nmの細孔容積
得られた浄水カートリッジについて、活性炭成形体中の細孔径0.7nmの細孔容積と、活性炭成形体1cm当たりの細孔径0.7nmの細孔容積を算出した。活性炭成形体中の細孔径0.7nmの細孔容積Y(cm)は、活性炭1g当たりの細孔径0.7nmの細孔容積X(cm/g)に浄水カートリッジの活性炭の重量W(g)を乗じて算出した(Y=X×W)。また、活性炭成形体1cm当たりの細孔径0.7nmの細孔容積Z(cm/cm)は、活性炭成形体中の細孔径0.7nmの細孔容積Y(cm)を活性炭成形体の体積V(cm)で除して算出した(Z=Y/V)。その結果を、表2に示す。
【0037】
(5)塩素除去寿命の測定
塩素除去寿命は、株式会社LIXIL製の浄水器内蔵水栓「JF-AB461SYX(JW)」に浄水カートリッジを装着し、JIS S3201に準拠した測定方法により測定した、ろ過流量2.5L/minの通水条件下で濃度2ppmの遊離塩素含有水を連続通水した際の遊離塩素除去率が80%に低下するまでの累積通水量として求めた。通水時の印加水圧は、2.5L/minの流速を確保できるように表2のとおりに調整した。なお、印加水圧がほぼ同じになるように浄水カートリッジ中の活性炭の粒度や活性炭成形体の充填率などを制御して圧力損失を調整した。また、通水試験時の空間速度(SV)は3989/hである。通水試験は、実施例毎に3本の浄水カートリッジについて行い、3回の通水試験により求められた塩素除去寿命の平均値を各実施例における浄水カートリッジの塩素除去寿命とした。その結果を、表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
3.活性炭成形体中の細孔径0.7nmの細孔容積と塩素除去寿命との関係
活性炭成形体中の細孔径0.7nmの細孔容積と塩素除去寿命とは、図3に示すような正の相関関係を有することが分かった。この結果から、細孔径0.7nmの細孔が遊離塩素除去に有効であることが示された。
【0040】
4.実施例1~実施例4の活性炭の細孔分布
図6のグラフに示されるように、実施例1の活性炭は0.733nmに細孔分布のピークがあり、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔容積が0.1967cm/gであった。この実施例1の活性炭を用いた浄水カートリッジは、実施例2、実施例3、実施例4の活性炭より、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔容積が大きく、浄水カートリッジに用いた場合の塩素除去寿命が長かった。また、実施例4の活性炭も0.733nmに細孔分布のピークがあり、実施例1の活性炭の次に浄水カートリッジに用いた場合の塩素除去寿命が長かった。これらの結果から、細孔径0.679nm以上0.733nm以下の細孔が塩素除去に有効であることが示唆された。また、細孔分布において、細孔径0.679nm~0.733nmに細孔容積のピークを有する活性炭において塩素除去性能が高いことが示された。
また、実施例2と実施例3の活性炭は、細孔径0.679nm未満に細孔容積のピークを有するが、これらの活性炭は実施例1及び実施例4の活性炭より塩素除去寿命が短かった。この結果から、細孔径0.679nm未満の細孔が塩素除去に有効でないことが示唆された。
【0041】
5.カートリッジに含まれる活性炭の体積と塩素除去寿命との関係
実施例1~実施例4の活性炭について、浄水カートリッジに含まれる活性炭成形体の体積Vと塩素除去寿命Lの関係式を導きだした。この関係式を表すグラフを図7に示す。図7のグラフより、基準値として設定される塩素除去寿命1200Lにおいて、実施例1の活性炭を用いることが浄水カートリッジの小型化に有利であることが示された。また、実施例1の活性炭より細孔径0.7nmの細孔容積が大きい活性炭を用いることで、十分な遊離塩素除去性能を有する小型の浄水カートリッジを実現可能であることが示唆された。
【0042】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
例えば、活性炭成形体の形状は、円筒状に限られず、また、活性炭成形体は中芯を備えていなくても構わない。
【符号の説明】
【0043】
20…浄水カートリッジ
21…活性炭成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7