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特許7300656土壌・地下水浄化処理用浄化剤及びその製造方法、並びに土壌・地下水の浄化処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】土壌・地下水浄化処理用浄化剤及びその製造方法、並びに土壌・地下水の浄化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20230623BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20230623BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230623BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230623BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
B01J20/20 D
B01J20/28 Z
C02F1/28 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021091115
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022183674
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504262960
【氏名又は名称】株式会社中村基礎
(73)【特許権者】
【識別番号】521236874
【氏名又は名称】ジオラフター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508120400
【氏名又は名称】有限会社エコルネサンス・エンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】松井 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】岩原 功二郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和明
(72)【発明者】
【氏名】今井 知之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武
(72)【発明者】
【氏名】尾張 新吾
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/192254(WO,A1)
【文献】特開平07-308682(JP,A)
【文献】特開2021-122787(JP,A)
【文献】特開2020-110801(JP,A)
【文献】Journal of Hazardous Materials,2015年12月30日,Vol.300,443-450
【文献】水環境学会誌,2004年07月10日,Vol.27 No.7,481-485
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/08
B01J 20/20
B01J 20/28
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.05~0.30μmであってBET比表面積が10~60m/gである金属鉄粒子と、BET比表面積500~1400m/gの活性炭粒子とからなる複合粒子を有効成分として含有する水懸濁液からなる土壌・地下水浄化処理用浄化剤であって、
該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積が0.20mL/g以上であり、
該金属鉄粒子と該活性炭粒子との配合割合が重量比で10:90~70:30であり、
該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90であり
該金属鉄粒子が該活性炭粒子の表面及びマクロ孔に陥入・担持されていることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項2】
前記金属鉄粒子の表面がマグネタイト相を形成しており、前記金属鉄粒子のX線回折スペクトルにおいて、α-Feの(110)面の回折強度D110とFeの(311)面の回折強度D311との強度比(D110/(D311+D110))が0.30~0.95であり、S含有量が3500~10000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤。
【請求項3】
平均粒子径が0.05~0.30μmであってBET比表面積が10~60m/gである金属鉄粒子と、BET比表面積500~1400m/gの活性炭粒子とを、該金属鉄粒子と該活性炭粒子との配合割合を重量比で10:90~70:30とし、該金属鉄粒子と該活性炭粒子との合計量が水懸濁液に対して10~40重量%となるよう水中に投入し、湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処置し、複合粒子を有効成分として含有する水懸濁液からなる土壌・地下水浄化処理用浄化剤を製造する方法であって、
該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤の製造方法
【請求項4】
平均粒子径が0.05~0.30μmであってBET比表面積が10~60m/gである金属鉄粒子を水中に投入し、湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処置することによって得られる液と、BET比表面積500~1400m/gの活性炭粒子を水中に投入し、湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処置することによって得られる液とを混合し、複合粒子を有効成分として含有し、該複合粒子の含有量が10~40重量%である水懸濁液からなる土壌・地下水浄化処理用浄化剤を製造する方法であって、
該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤の製造方法
【請求項5】
有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類で汚染された地下水に対して、請求項1又は2に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤、または請求項3又は4に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤の製造方法により得られる土壌・地下水浄化処理用浄化剤を用いて浄化処理を行うことを特徴とする土壌・地下水の浄化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌又は地下水に含まれる有機ハロゲン化合物を分解し土壌又は地下水を浄化する土壌・地下水浄化処理用浄化剤及びその製造方法、並びに浄化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の脂肪族有機ハロゲン化合物は、半導体工場での洗浄用や金属加工金属の脱脂用として幅広く用いられている。
【0003】
また、都市ごみや産業廃棄物を焼却するごみ焼却炉から発生する排ガスや飛灰、主灰中には、微量ではあるが人体に対して極めて強い毒性を持つ芳香族有機ハロゲン化合物であるダイオキシン類が含まれている。ダイオキシン類は、ジベンゾ-p-ジオキシン、ジベンゾフラン等の水素が塩素で置換された化合物の総称である。排ガスや飛灰はごみ焼却炉周辺に滞留し周辺地域の土壌中にダイオキシン類が残存することとなる。
【0004】
さらに、PCB(ポリ塩化ビフェニル)は化学的、熱的に安定であり、電気絶縁性にも優れており、トランス、コンデンサーの絶縁油、可塑剤、熱媒体として多用されていたが、有害であることから製造及び使用が禁止されている。しかしながら、過去において使用されていたPCBの有効な処理方法は確立されておらず、大部分が処理されずにそのまま保存されている。
【0005】
脂肪族有機ハロゲン化合物及び芳香族有機ハロゲン化合物等の有機ハロゲン化合物は難分解性であるうえに発癌性物質又は強い毒性を有する物質であるため、土壌・地下水の有機ハロゲン化合物による汚染が深刻な環境問題になっている。
【0006】
即ち、前記有機ハロゲン化合物が排出された場合、有機ハロゲン化合物は難分解性であるため、排出された土壌中に蓄積され有機ハロゲン化合物で汚染された状態となり、また、地下水も有機ハロゲン化合物によって汚染されることとなる。さらに、地下水は汚染土壌以外の周辺地域についても広がるため、広範な領域で有機ハロゲン化合物による汚染が問題となる。
【0007】
有機ハロゲン化合物によって汚染された土壌では土地の再利用・再開発を行うことができないため、有機ハロゲン化合物によって汚染された土壌・地下水の浄化処理方法として様々な技術手段の提案がなされているが、有機ハロゲン化合物は難分解性であり、しかも、多量の土壌・地下水が処理対象となるため、効率的、且つ、経済的な浄化技術は未だ十分に確立されていない。
【0008】
有機ハロゲン化合物によって汚染された土壌の浄化方法として、各種触媒を用いて浄化処理する方法、有機ハロゲン化合物の揮発性を利用して吸引除去する方法、土壌を掘削して加熱処理によって無害化する熱分解法、微生物を利用する方法等が知られている。また、有機ハロゲン化合物によって汚染された地下水の浄化方法として、汚染地下水を土壌外に抽出して無害化する方法、地下水を揚水することによって有機ハロゲン化合物を除去する方法等が知られている。
【0009】
有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水・廃水の浄化方法として提案されている技術手段のうち、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水・廃水と鉄系粒子を用いた浄化剤とを混合接触させて無害化する技術手段が提案されている(特許文献1~11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-5740号公報
【文献】特開2002-161263号公報
【文献】特開2003-105313号公報
【文献】特開2003-136051号公報
【文献】特開2004-83860号公報
【文献】特開2006-326561号公報
【文献】特開2010-194450号公報
【文献】特開2010-194451号公報
【文献】特開2011-26524号公報
【文献】特開2011-46985号公報
【文献】特開2013-208527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
土壌又は地下水に含まれる有機ハロゲン化合物類を効率よく、経済的に分解できる浄化剤は、現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0012】
即ち、前出特許文献1には銅を含有した鉄粉を用いて土壌中の有機ハロゲン化合物を無害化する技術が開示されているが、有機ハロゲン化合物の分解に長時間を必要とするため効率よく有機ハロゲン化合物を無害化できるとは言い難いものである。
【0013】
また、前出特許文献2には、ニッケル、銅、コバルト及びモリブデンから選ばれる金属が表面に付着し、付着金属以外の表面が鉄酸化被膜で覆われている有機ハロゲン化合物分解用鉄粉が記載されているが、ミルスケールで得られた鉄粉や溶鋼を水アトマイズした鉄粉を用いており、記載されている鉄粉の比表面積から、鉄粉の粒子サイズが大きいと思われ、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0014】
また、前出特許文献3には、黒鉛とFe-Niから成り、黒鉛含有量が1~20重量%、Ni含有量が0.1~15重量%である有機ハロゲン化合物の無害化処理剤が記載されているが、粒子サイズが大きいと思われ、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0015】
また、前出特許文献4には、鉄を主成分とする相を母材金属相とし、ニッケルを主成分とする相を付着金属相としたニッケル付着鉄粒子からなる有機ハロゲン化合物分解用金属粉が記載されているが、粒子径が1~500μmと大きく、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0016】
また、前出特許文献5には、α-Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子粉末を有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水に用いて浄化処理を行うことが記載されているが、少量の添加量で短期間に効率よく分解するためには未だ十分とは言い難いものである。
【0017】
また、前出特許文献6には、鉄を主成分とする鉄粉の表面に、平均粒径1~50nmのNi微粒子を付着させた浄化用鉄系粉末が記載されているが、鉄系粒子の平均粒子径が65μmと大きく、有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0018】
また、前出特許文献7には、鉄粉末及び当該鉄粉に対して0.1重量%未満の硫酸ニッケル及び/又は塩化ニッケルを有機ハロゲン化物で汚染された土壌、排水又は地下水に混合する有機ハロゲン化物の浄化方法が記載されており、前出特許文献8には、鉄粉の内部及び/又は表面に鉄とニッケルの部分合金相を有する部分合金粉末と当該部分合金粉末に対して0.1重量%未満の硫酸ニッケル及び/又は塩化ニッケルを有機ハロゲン化物で汚染された土壌、排水又は地下水に混合する有機ハロゲン化物の浄化方法が記載されている。しかしながら、上記鉄粉末および部分合金粉末の粒子径が比較的大きく、少量の添加量で有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0019】
また、前出特許文献9には、ニッケル等の鉄より貴な金属で表面被覆した鉄粉からなる有機ハロゲン化合物の分解材が記載されているが、鉄粉粒子径が大きく、少量の添加量で有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0020】
また、前出特許文献10には、鉄粉と水溶性ニッケル水溶液を粉砕、又は強攪拌することによって、表面にニッケルが析出し、さらに当該ニッケルを鉄と部分合金化した鉄粉からなる有機ハロゲン化物分解用処理剤が記載されているが、鉄粉粒子径が大きく、少量の添加量で有機ハロゲン化合物を十分に低減できるとは言い難いものである。
【0021】
また、前出特許文献11には、Ni及び/又はCuが、粒子表面近傍に金属状態で被覆・担持されたα-Feとマグネタイトとからなる鉄複合粒子粉末を、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水に用いて浄化処理を行うことが記載されているが、短期間に効率よく分解するためには未だ十分とは言い難いものである。
【0022】
本発明は、土壌又は地下水中に含まれる有機ハロゲン化合物類を効率よく、また経済的に処理できる土壌・地下水浄化処理用浄化剤及びその製造方法、並びに該土壌・地下水浄化処理用浄化剤を用いた浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記技術的課題は以下の通りの本発明により達成できる。
即ち、本発明は、平均粒子径が0.05~0.30μmであってBET比表面積が10~60m/gである金属鉄粒子と、BET比表面積500~1400m/gの活性炭粒子とからなる複合粒子を有効成分として含有する水懸濁液からなる土壌・地下水浄化処理用浄化剤であって、該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積が0.20mL/g以上であり、該金属鉄粒子と該活性炭粒子との配合割合が重量比で10:90~70:30であり、該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90であり、該金属鉄粒子が該活性炭粒子の表面及びマクロ孔に陥入・担持されていることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明1)。
【0024】
また本発明は、平均粒子径が0.05~0.30μmであってBET比表面積が10~60m/gである金属鉄粒子と、BET比表面積500~1400m/gの活性炭粒子とを、該金属鉄粒子と該活性炭粒子との配合割合を重量比で10:90~70:30とし、該金属鉄粒子と該活性炭粒子との合計量が水懸濁液に対して10~40重量%となるよう水中に投入し、湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処置し、複合粒子を有効成分として含有する水懸濁液からなる土壌・地下水浄化処理用浄化剤を製造する方法であって、該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤の製造方法である(本発明)。
【0025】
また本発明は、平均粒子径が0.05~0.30μmであってBET比表面積が10~60m/gである金属鉄粒子を水中に投入し、湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処置することによって得られる液と、BET比表面積500~1400m/gの活性炭粒子を水中に投入し、湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処置することによって得られる液とを混合し、複合粒子を有効成分として含有し、該複合粒子の含有量が10~40重量%である水懸濁液からなる土壌・地下水浄化処理用浄化剤を製造する方法であって、該複合粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積の比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90であることを特徴とする土壌・地下水浄化処理用浄化剤の製造方法である(本発明)。
【0026】
また本発明は、前記金属鉄粒子の表面がマグネタイト相を形成しており、前記金属鉄粒子のX線回折スペクトルにおいて、α-Feの(110)面の回折強度D110とFeの(311)面の回折強度D311との強度比(D110/(D311+D110))が0.30~0.95であり、S含有量が3500~10000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤である(本発明)。
【0027】
また本発明は、有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類で汚染された地下水に対して、請求項1又は2に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤、または請求項3又は4に記載の土壌・地下水浄化処理用浄化剤の製造方法により得られる土壌・地下水浄化処理用浄化剤を用いて浄化処理を行うことを特徴とする土壌・地下水の浄化処理方法である(本発明5)。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば土壌又は地下水中に含まれる有機ハロゲン化合物類を効率よく、また経済的に処理できる土壌・地下水浄化処理用浄化剤及びその製造方法、並びに該土壌・地下水浄化処理用浄化剤を用いた浄化方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の構成を詳しく説明すれば、次の通りである。
【0030】
本発明1から4に係る土壌・地下水浄化処理用浄化剤は、金属鉄-活性炭複合粒子を有効成分として含有する水懸濁液である。まず、土壌・地下水浄化処理用浄化剤の有効成分である金属鉄-活性炭複合粒子(以下、「浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子」という)について述べる。本実施形態において、有機ハロゲン化合物類の水素化脱ハロゲンと有機ハロゲン化合物類の分解とは同義である。
【0031】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子のBET比表面積値は、250~1400m/gが好ましい。BET比表面積値が250m/g未満の場合には、有機ハロゲン化合物類の初期分解速度は速いが、早期に分解性能が劣化し、持続性の低下を生じ好ましくない。BET比表面積値が1400m/gを超える場合には、分解性能の早期劣化は少ないが、有機ハロゲン化合物類の分解に長時間要する。より好ましくは300~1300m/g、さらにより好ましくは400~1300m/gである。
【0032】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子のマクロ孔の細孔容積は、0.20mL/g以上が好ましい。0.20mL/g未満の場合、結果的に金属鉄粒子の活性炭粒子のマクロ孔内への担持量が少なくなり、有機ハロゲン化合物類の分解速度が小さくなる。より好ましくは0.25mL/g以上である。尚、マクロ孔とは、直径50nm以上の細孔のことを示すものである。
【0033】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子の細孔径1μm以上のマクロ孔の細孔容積は、0.08mL/g以上が好ましい。0.08mL/g未満の場合、全金属鉄粒子に対する活性炭粒子マクロ孔内への金属鉄粒子の担持割合が低くなり、有機ハロゲン化合物類の分解速度が小さくなる傾向がある。より好ましくは0.10mL/g以上である。
【0034】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子の平均粒子径は0.05~0.30μmが好ましい。平均粒子径が0.05μm未満の場合には、金属鉄粒子と水との反応性が高すぎて、急速に酸化が起こり、金属鉄粒子表層にゲータイトが生成してしまい、有機ハロゲン化合物類との水素化脱ハロゲン反応を阻害するため好ましくない。平均粒子径が0.30μmを超える場合には、金属鉄粒子と水との反応性が遅く、有機ハロゲン化合物類との水素化脱ハロゲンの反応速度が小さくなる。また、浄化剤調製時の湿式粉砕処理によって、活性炭粒子のマクロ孔へ金属鉄粒子が陥入・担持され難くなる。より好ましくは0.05~0.25μm、さらにより好ましくは0.05~0.20μmである。
【0035】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子のBET比表面積は10~60m/gが好ましい。BET比表面積値が60m/gを超える場合には、浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子による有機ハロゲン化合物類の初期分解速度は速いが、早期に分解性能が劣化し、持続性の低下を生じる。BET比表面積値が10m/g未満の場合には、浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子による有機ハロゲン化合物類の分解性能の早期劣化は少ないが、有機ハロゲン化合物類の分解に長時間要し、本発明の目的とする課題を容易に解決することができない。より好ましくは10~50m/g、さらにより好ましくは15~50m/gである。
【0036】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子の形状は、粒状、球状、りん片状等、特に制限されないが、好ましくは粒状、球状である。
【0037】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子は、粒子表面が空気あるいは水中等で表面が酸化されてFe相を形成しているものが好ましい。
【0038】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子のFeの含有量は金属鉄粒子に対して75重量%以上が好ましく、より好ましくは76~98重量%であり、さらにより好ましくは77~95重量%である。また、浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子のX線回折スペクトルにおいて、α-Feの(110)面の回折強度D110とFeの(311)面の回折強度D311との強度比(D110/(D311+D110))が0.30~0.95が好ましい。前記強度比が0.30未満の場合には、浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子による有機ハロゲン化合物類の浄化性能が十分ではなく本発明の目的とする効果が得られ難い。前記強度比が0.95を越える場合には、粒子サイズが極端に大きいか又はBET比表面積が極端に小さく空気中で安定な状態であり、有機ハロゲン化合物類の分解性能が著しく劣るものとなる。好ましくは0.40~0.93である。
【0039】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子には、微量のSを含有させることが好ましく、S含有量は3500~10000ppmが好ましく、より好ましくは3500~7000ppmである。
【0040】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる活性炭粒子のBET比表面積値は、500~1400m/gである。BET比表面積値が500m/g未満の場合には、有機ハロゲン化合物類の吸着作用が低くなるとともに、活性炭粒子のマクロ孔の容積が小さくなり、マクロ孔内への金属鉄粒子の担持がされ難くなる。BET比表面積値が1400m/gを越える場合には、有機ハロゲン化合物類の吸着作用が高くなるものの、金属鉄粒子による水素化脱ハロゲンは起こり難くなる。より好ましくは600~1380m/g、さらにより好ましくは700~1350m/gである。
【0041】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる活性炭粒子のマクロ孔の細孔容積は、0.30mL/g以上が好ましい。0.30mL/g未満の場合、金属鉄粒子の活性炭粒子のマクロ孔内への担持量が少なくなり、有機ハロゲン化合物類の分解速度が小さくなる。より好ましくは0.35mL/g以上である。
【0042】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる活性炭粒子の細孔径1μm以上の細孔容積は、0.10mL/g以上が好ましい。0.10mL/g未満の場合、金属鉄粒子が活性炭粒子のマクロ孔内へ陥入し難くなり、結果的に金属的粒子の担持量が減少してしまい、有機ハロゲン化合物類の分解速度が小さくなる。より好ましくは0.15mL/g以上である。
【0043】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子に用いられる金属鉄粒子と活性炭粒子の配合割合は、重量比で10/90~70/30である。該重量比が10/90未満の場合は、金属鉄粒子による有機ハロゲン化合物類の分解速度が十分でない。該重量比が70/30を超える場合は、活性炭粒子による有機ハロゲン化合物類の吸着作用が小さくなり、結果的に金属鉄粒子による水素化脱ハロゲンの反応が遅くなってしまう。より好ましくは10/90~60/40、さらにより好ましくは10/90~50/50である。
【0044】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子は、該複合粒子粉末のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90である。比率(A)/(B)が0.50未満の場合、該活性炭粒子のマクロ孔への有機ハロゲン化合物類の吸着量が小さくなり、該金属鉄粒子による効率的な有機ハロゲン化合物類の分解効果が得られ難くなる。比率(A)/(B)が0.90を超えると、該活性炭粒子のマクロ孔内への該金属鉄粒子の担持量が少なく、該金属鉄粒子による効率的な有機ハロゲン化合物類の分解効果が得られ難くなる。比率(A)/(B)は好ましくは0.60~0.88、より好ましくは0.62~0.85である。
【0045】
次に、本発明に係る土壌・地下水浄化処理用浄化剤(以下、「浄化剤」という)について述べる。
【0046】
本発明に係る浄化剤は、前記浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子を有効成分として含有する水懸濁液であり、浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子の水懸濁液中の含有量は10~40重量%の範囲内で適宜選択することができ、より好ましくは10~30重量%である。40重量%を越える場合、浄化剤が増粘するため、撹拌時の機械的負荷が伝わり難く、均一に混合することが難しいため、濃度の調整が困難となる。
【0047】
本発明に係る浄化剤の浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子のpH7におけるゼータ電位が-5mV以下であることが好ましい。より好ましくは-10mV以下である。
【0048】
次に、本発明に係る浄化剤の製造法について述べる。
【0049】
本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子の平均粒子径は0.05~0.30μmが好ましい。平均粒子径が0.05μm未満の場合には、金属鉄粒子と水との反応性が高すぎて、急速に酸化が起こり、金属鉄粒子表層にゲータイトが生成してしまい、有機ハロゲン化合物類との水素化脱ハロゲン反応を阻害するため好ましくない。0.30μmを超える場合には、金属鉄粒子と水との反応性が遅く、有機ハロゲン化合物類との水素化脱ハロゲンの反応速度が小さくなる。より好ましくは0.05~0.25μm、さらにより好ましくは0.05~0.20μmである。
【0050】
本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子のBET比表面積値は10~60m/gが好ましい。BET比表面積値が60m/gを超える場合には、該浄化剤による有機ハロゲン化合物類の初期分解速度は速いが、早期に分解性能が劣化し、持続性の低下を生じる。BET比表面積値が10m/g未満の場合には、該浄化剤による有機ハロゲン化合物類の分解性能の早期劣化は少ないが、有機ハロゲン化合物類の分解に長時間要し、本発明の目的とする課題を容易に解決することができない。より好ましくは10~50m/g、さらにより好ましくは15~50m/gである。
【0051】
本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子の形状は、粒状、球状、りん片状等、特に制限されないが、好ましくは粒状、球状である。
【0052】
本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子は、粒子表面が空気あるいは水中等で表面が酸化されてFe相を形成しているものが好ましい。
【0053】
本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子のFeの含有量は金属鉄粒子に対して75重量%以上が好ましく、より好ましくは76~98重量%であり、さらにより好ましくは77~95重量%である。また、本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子のX線回折スペクトルにおいて、α-Feの(110)面の回折強度D110とFeの(311)面の回折強度D311との強度比(D110/(D311+D110))が0.30~0.95が好ましい。前記強度比が0.30未満の場合には、本浄化剤による有機ハロゲン化合物類の浄化性能が十分ではなく本発明の目的とする効果が得られ難い。前記強度比が0.95を越える場合には、粒子サイズが極端に大きいか又はBET比表面積が極端に小さく空気中で安定な状態であり、有機ハロゲン化合物類の分解性能が著しく劣るものとなる。好ましくは0.40~0.93である。
【0054】
本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子には、微量のSを含有させることが好ましく、S含有量は3500~10000ppmが好ましく、より好ましくは3500~7000ppmである。
【0055】
本発明に係る浄化剤に用いられる活性炭粒子のBET比表面積値は500~1400m/gである。BET比表面積値が500m/g未満の場合には、有機ハロゲン化合物類の吸着作用が低くなるとともに、活性炭粒子のマクロ孔の容積が小さくなり、マクロ孔内への金属鉄粒子の担持がされ難くなる。BET比表面積値が1400m/gを越える場合には、有機ハロゲン化合物類の吸着作用が高くなるものの、金属鉄粒子による水素化脱ハロゲンは起こり難くなる。より好ましくは600~1380m/g、さらにより好ましくは700~1350m/gである。
【0056】
本発明に係る浄化剤に用いられる活性炭粒子のマクロ孔の細孔容積は、0.30mL/g以上が好ましい。0.30mL/g未満の場合、金属鉄粒子の活性炭粒子のマクロ孔内への担持量が少なくなり、有機ハロゲン化合物類の分解速度が小さくなる。より好ましくは0.35mL/g以上である。
【0057】
本発明に係る浄化剤に用いられる活性炭粒子の細孔径1μm以上の細孔容積は、0.10mL/gである。0.10mL/g未満の場合、金属鉄粒子が活性炭粒子のマクロ孔内へ陥入し難くなり、結果的に金属的粒子の担持量が減少してしまい、有機ハロゲン化合物類の分解速度が小さくなる。より好ましくは0.15mL/g以上である。
【0058】
本発明に係る浄化剤に用いられる金属鉄粒子と活性炭粒子の配合割合は、重量比で10/90~70/30である。該重量比が10/90未満の場合は、金属鉄粒子による有機ハロゲン化合物類の分解速度が十分でない。該重量比が70/30を超える場合は、活性炭粒子による有機ハロゲン化合物類の吸着作用が小さくなり、結果的に金属鉄粒子による水素化脱ハロゲンの反応が遅くなってしまう。より好ましくは10/90~60/40、さらにより好ましくは10/90~50/50である。
【0059】
本発明に係る浄化剤は、前記金属鉄粒子と活性炭粒子との合計固形分濃度が10~40重量%となるように水中に投入し、湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処理することによって得られる。この粉砕・分散処理によって、金属鉄粒子が衝撃的に活性炭表面及びマクロ孔へ陥入・担持され、金属鉄粒子と活性炭粒子が複合された状態の金属鉄-活性炭複合粒子となっている。
【0060】
湿式粉砕に用いる粉砕装置としては、メディアを用いる場合、転動ミル(ポットミル、チューブミル、コニカルミル)や振動ミル(ファイン・バイブレーションミル)等の容器駆動式、塔型(タワーミル)、攪拌槽型(アトライター)、流通管型(サンドグラインドミル)及びアニュラー型(アニュラーミル)等の媒体攪拌式を用いることができる。メディアを用いない場合、容器回転型(オングミル)、湿式高速回転型(コロイドミル、ホモミキサー、ラインミキサー)等のせん断・摩擦式を用いることができる。特に好ましいのは、メディアによる剪断力・破砕力により金属鉄粒子を衝撃的に活性炭表面及びマクロ孔へ陥入・担持させ、メカノケミカル的に金属鉄粒子と活性炭粒子を複合化が可能な媒体攪拌式粉砕装置である。
【0061】
本発明に係る浄化剤の該金属鉄-活性炭複合粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積比(A)と、該活性炭粒子のマクロ孔の全細孔容積に対する細孔径1μm以上の細孔容積比(B)との比率(A)/(B)が0.50~0.90である。該比率比率(A)/(B)が0.50未満の場合、該活性炭粒子のマクロ孔への有機ハロゲン化合物類の吸着量が小さくなり、該金属鉄粒子による効率的な有機ハロゲン化合物類の分解効果が得られ難くなる。該比率(A)/(B)が0.90を超えると、該活性炭粒子のマクロ孔内への該金属鉄粒子の担持量が少なく、該金属鉄粒子による効率的な有機ハロゲン化合物類の分解効果が得られ難くなる。比率(A)/(B)は好ましくは0.60~0.88、より好ましくは0.62~0.85である。
【0062】
本発明に係る他の浄化剤の製造法について述べる。
【0063】
前記本発明に係る浄化剤の製造法では、金属鉄粒子と活性炭粒子とを水中に投入し、金属鉄粒子と活性炭粒子とが共存する状態でこれらを湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処理するが、ここでは前記金属鉄粒子と前記活性炭粒子とを別々に水中に投入し、湿式粉砕装置を用いてこれらを別々に粉砕・分散処理し、その後これら2つの液を混合し、浄化剤を得る。このようにして得られる浄化剤及び該浄化剤の有効成分である金属鉄-活性炭複合粒子の特性は、先に示した金属鉄粒子と活性炭粒子とを一緒に水中に投入し、金属鉄粒子と活性炭粒子とが共存する状態でこれらを湿式粉砕装置を用いて粉砕・分散処理して得られる浄化剤及び該浄化剤の有効成分である金属鉄-活性炭複合粒子の特性と基本的に同じである。
【0064】
次に、本発明に係る浄化剤を用いた、有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類で汚染された地下水の浄化処理方法について述べる。
【0065】
有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌又は有機ハロゲン化合物類で汚染された地下水の浄化処理は、一般的に、含有される汚染物質を直接地下で分解する原位置分解法を用いて行うのが好ましい。
【0066】
原位置分解法においては、浄化剤を高圧の空気、窒素等のガスあるいは水を媒体にしてそのまま浸透もしくはボーリング孔から地下に導入する方法、或いは掘削攪拌混合機を用いて浄化剤と汚染土壌と攪拌混合する方法が取られる。本発明の浄化剤は水懸濁液であるのでそのまま使用するか必要に応じて希釈すれば良い。
【0067】
本発明に係る浄化剤は、浄化処理に用いる際に浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子の固形分濃度が0.01~10重量%となるように希釈することが好ましい。
【0068】
浄化剤(固形分換算)の添加量は、土壌・地下水の有機ハロゲン化合物類の汚染の程度に応じて適宜選択することができるが、汚染土壌を対象とする場合には、通常土壌100重量部に対して0.01~20重量部が好ましく、より好ましくは0.05~10重量部である。0.01重量部未満の場合には、本発明の目的とする効果が充分得られない。20重量部を超える場合には、浄化効果は向上するが経済的ではない。また、汚染地下水を対象とする場合には、地下水100重量部に対して0.01~20重量部添加することが好ましく、より好ましくは0.05~10重量部である。
【0069】
本発明に係る浄化剤を用いた土壌・地下水の浄化処理方法は、活性炭の有機ハロゲン化合物類の吸着作用と、金属鉄粒子による水素化脱ハロゲン反応がほぼ同時に活性炭粒子表面とマクロ孔内で起こり、金属鉄粒子単体よりも迅速、確実に土壌・地下水汚染が浄化される。金属鉄粒子による浄化で律速であった金属鉄粒子の有機ハロゲン化合物類への効率的物質移動が、活性炭粒子と複合化することで、活性炭粒子の有機ハロゲン化合物類の吸着作用によりその律速が解消され、迅速に金属鉄粒子による水素化脱ハロゲン反応が実現される。
【0070】
<作用>
本発明において重要な点は、本発明に係る浄化剤を用いることによって、土壌・地下水中の有機ハロゲン化合物類を効率よく、経済的に分解処理できるという点である。
【0071】
本発明者は、土壌・地下水中の有機ハロゲン化合物類を効果的に分解できる理由は未だ明らかではないが、下記のように推定している。
【0072】
即ち、本発明に係る土壌・地下水浄化処理用浄化剤及びこの処理剤を用いた土壌・地下水の浄化処理方法においては、活性炭の有機ハロゲン化合物類の吸着作用と、金属鉄粒子による水素化脱ハロゲン反応がほぼ同時に活性炭粒子表面とマクロ孔内で起こり、金属鉄粒子単体よりも迅速、確実に土壌・地下水汚染が浄化される。金属鉄粒子による浄化で律速であった金属鉄粒子の有機ハロゲン化合物類への効率的物質移動が、活性炭粒子と複合化することで、活性炭粒子の有機ハロゲン化合物類の吸着作用によりその律速が解消され、迅速に金属鉄粒子による水素化脱ハロゲン反応が進行するものと思われる。
【0073】
以上のように、金属鉄粒子と活性炭粒子とを複合化することで金属鉄粒子の有機ハロゲン化合物類への物質移動、さらには有機ハロゲン化合物類の分解速度が速まり、効率的かつ経済的に短期間で浄化処理を行うことが可能となり、特に高濃度の有機ハロゲン化合物類で汚染された土壌・地下水の浄化に好適である。
【実施例
【0074】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0075】
<本発明の実施の形態>
ゲータイト粒子粉末の平均長軸径及び軸比は、「透過型電子顕微鏡:JEM-F200」(日本電子製)を用いて倍率30000倍の写真で測定した。ヘマタイト粒子粉末及び浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子粉末の平均粒子径は「走査型電子顕微鏡:S-4800」(日立ハイテク製)による倍率30000倍の写真を用いて測定した。
【0076】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子粉末のFe量、Al量は、「誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS4000」(セイコー電子工業(株)製)を使用して測定した。
【0077】
各粒子粉末のS含有量は、「炭素・硫黄分析装置:EMIA-920V2」(堀場製作所製)を使用して測定した。
【0078】
各粒子粉末の比表面積は、「比表面積測定装置:マルチソーブ16」(カンタクローム社製)を使用し、BET法により測定した値で示した。
【0079】
各粒子粉末の結晶相は、「X線回折装置:NEW D8 ADVANCE」(Bruker AXS社製)によって10~90°の範囲で測定して同定した。
【0080】
浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子粉末のピーク強度比は、前記の通りX線回折の結果から、α-Feの(110)面の回折強度D110及びマグネタイトの(311)面の回折強度D311を測定し、D110/(D311+D110)として強度比を求めた。
【0081】
各粒子粉末のマクロ孔(50nm以上)の細孔分布測定は、「細孔径分布測定装置:オートポアV9620」(micromeritics社製)を用いて測定した。
【0082】
<模擬地下水、排水中有機ハロゲン化合物の浄化処理評価>
<検量線の作製:有機ハロゲン化合物類の定量>
有機ハロゲン化合物類の濃度は、下記手順に従ってあらかじめ検量線を作成し、得られた検量線に基づいて濃度を算出した。
トリクロロエチレン(TCE:CHCl):分子量131.39
試薬特級(99.5%)、密度(20℃)1.461~1.469g/mL
トリクロロエチレンを1.0μL、2.0μL及び3.5μLの3水準とし、褐色バイアル瓶100mLにイオン交換水40mLを添加し、次いで、トリクロロエチレンを各水準量注入し、直ちにフッ素樹脂ライナー付きゴム栓で蓋をし、その上からアルミシールで強固に締め付ける。バイアル瓶を30℃、20分静置した後、ヘッドスペースのガスをシリンジで0.5mL分取し、「SRI8610C」(SRI社製)を用いてトリクロロエチレンを測定する。トリクロロエチレンは全く分解されないものとして、添加量とピーク面積との関係を求める。このときのカラムはキャピラリーカラム(Ultra Alloy-624:Frontier Laboratories社製、液相:シアノプロピルフェニルメチルポリシロキサン)とし、キャリアガスにはHeガス(25mL/min)を使用し、50℃、1分間保持した後、10℃/minの速度で120℃まで昇温してガスを分析する。
【0083】
<有機ハロゲン化合物類測定用試料調製>
褐色バイアル瓶100mLに浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子として0.132gとなる量の浄化剤と該浄化剤中の水含有量とあわせて40.0mLとなる量のイオン交換水とを注入し、次いで、トリクロロエチレン1.3μLを注入し、直ぐにフッ素樹脂ライナー付きゴム栓で蓋をし、その上からアルミシールで強固に締め付けて静置反応させる。
【0084】
<有機ハロゲン化合物類の分解反応の評価方法(トリクロロエチレン分解率の測定)>
前記バイアル瓶を30℃で静置し、所定反応時間後にバイアル瓶中のヘッドスペースからシリンジで0.5mLのガスを分取した。なお、ガスの分取は、回分法によって所定時間におけるトリクロロエチレンの残存濃度を、前記「SRI8610C」(SRI社製)を用いて測定し、トリクロロエチレンの分解率(1-(反応後の濃度/反応前<静置後0時間>の濃度))を算出した。
【0085】
分解生成物の定性分析については、前記「SRI8610C」(SRI社製)と「GC-2014」(島津製作所社製)を用いて測定した。尚、「GC-2014」のGC充填剤は、「Porapak Q」(Waters社製)を用いた。
【0086】
<金属鉄粒子粉末1の製造>
毎秒3.4cmの割合でNガスを流すことによって非酸化性雰囲気に保持された反応容器中に、1.16mol/LのNaCO水溶液704Lを添加した後、Fe2+1.35mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液296Lを添加、混合(NaCO量は、Feに対し2.0倍当量に該当する。)し、温度47℃においてFeCOを生成させた。
【0087】
ここに得たFeCOを含む水溶液中に、引き続き、Nガスを毎秒3.4cmの割合で吹き込みながら、温度47℃で70分間保持した後、当該FeCOを含む水溶液中に、温度47℃において毎秒2.8cmの空気を5.0時間通気してゲータイト粒子を生成させた。なお、空気通気中におけるpHは8.5~9.5であった。
【0088】
ここに得たゲータイト粒子を含有する懸濁液に、Al3+0.3mol/Lを含む硫酸Al水溶液20Lを添加、十分撹拌した後フィルタープレスで水洗し、得られたプレスケーキを圧縮成型機を用いて孔径4mmの成型板で押し出し成型して120℃で乾燥してゲータイト粒子粉末の造粒物とした。
【0089】
ここに得た造粒物を構成する含有するゲータイト粒子粉末は、平均長軸径0.30μm、軸比(長軸径/短軸径)12.5の紡錘状を呈した粒子であった。BET比表面積は85m/g、Al含有量は0.13重量%、S含有量は400ppmであった。
【0090】
前記造粒物を300℃で加熱しヘマタイト粒子とし乾式粉砕する。その後水に邂逅し70%硫酸を10mL/kgの割合で添加し攪拌する。その後、脱水しプレスケーキとし、圧縮成型機を用いて孔径3mmの成型板で押し出し成型して120℃で乾燥してヘマタイト粒子粉末の造粒物とした。
【0091】
ここに得た造粒物を構成するヘマタイト粒子粉末は、平均長軸径0.24μm、軸比(長軸径/短軸径)10.7の紡錘形を呈した粒子であった。S含有量は3300ppmであった。
【0092】
前記ヘマタイト粒子粉末の造粒物100gを固定層還元装置に導入し、Hガスを通気させながら、450℃で180分間、完全にα-Feとなるまで還元した。次に、Nガスに切替え室温まで冷却した後、酸素分圧を徐々に増加させて空気と同じ比率として粒子表面に安定な酸化被膜を形成し、金属鉄粒子粉末1を得た。ここに得た金属鉄粒子粉末1は、α-Feを主体としており、平均粒子径0.09μm、BET比表面積25m/g、Fe含有量87.2wt%、Al含有量0.22wt%、S含有量は4000ppmであった。X線回折の結果、α-FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α-Fe)とD311(Fe)の強度比D110/(D110+D311)は0.90であった。
【0093】
<金属鉄粒子粉末2の製造>
Fe2+1.50mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液12.8Lと0.44-NのNaOH水溶液30.2L(硫酸第一鉄水溶液中のFe2+に対し0.35当量に該当する。)とを混合し、pH6.7、温度38℃においてFe(OH)を含む硫酸第一鉄水溶液の生成を行なった。次いで、Fe(OH)を含む硫酸第一鉄水溶液に温度40℃において毎分130Lの空気を3.0時間通気してゲータイト核粒子を生成させた。
【0094】
前記ゲータイト核粒子を含む硫酸第一鉄水溶液(ゲータイト核粒子の存在量は生成ゲータイト粒子に対し35mol%に該当する。)に、5.4NのNaCO水溶液7.0L(残存硫酸第一鉄水溶液中のFe2+に対し1.5当量に該当する。)を加え、pH9.4、温度42℃において毎分130Lの空気を4時間通気してゲータイト粒子を生成させた。ここに得たゲータイト粒子を含有する懸濁液にAl3+0.3mol/Lを含む硫酸Al水溶液を0.96Lを添加、十分撹拌した後をフィルタープレスで水洗し、得られたプレスケーキを圧縮成型機を用いて孔径4mmの成型板で押し出し成型して120℃で乾燥してゲータイト粒子粉末の造粒物とした。
【0095】
ここに得た造粒物を構成する含有するゲータイト粒子粉末は、平均長軸径0.33μm、軸比(長軸径/短軸径)25.0の針状を呈した粒子であった。BET比表面積は70m/g、Al含有量は0.42重量%、S含有量は4000ppmであった。
【0096】
前記ゲータイト造粒物を330℃で加熱しヘマタイト粒子とした後、そのヘマタイト造粒物100gを固定層還元装置に導入し、Hガスを通気させながら、400℃で180分間、完全にα-Feとなるまで還元した。次に、Nガスに切替え室温まで冷却した後、酸素分圧を徐々に増加させて空気と同じ比率として粒子表面に安定な酸化被膜を形成し、金属鉄粒子2を得た。ここに得た金属鉄粒子2は、α-Feを主体としており、平均粒子径0.11μm、BET比表面積20m/g、Al含有量0.68wt%、Fe含有量85.9wt%、S含有量は5500ppmであった。X線回折の結果、α-FeとFeとが存在することが確認された。そのD110(α-Fe)とD311(Fe)の強度比D110/(D110+D311)は0.88であった。
【0097】
<金属鉄粒子粉末3>
純鉄の旋盤屑をボールミルで機械的に破砕した平均粒子径75μm、BET比表面積0.88m/gのりん片状ものを用いた。
【0098】
<活性炭粒子粉末>
下記表1の特性を有する活性炭粒子粉末(市販品)1、2を用いた。また、活性炭粒子粉末3として木炭粒子粉末を用いた。
【0099】
【表1】
【0100】
<浄化剤1の製造>
金属鉄粒子粉末1 25g、活性炭粒子粉末1 64g、イオン交換水226gを先ずジャーテスターにて1分間一次混合を行い、続いてその混合品を、縦型のバッチ式湿式ビーズミル(アイメックス製、有効体積 800mL、粉砕メディア 2mmφガラスビーズ)で粉砕混合処理を60分間行うことによって、複合化された浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子を28重量%(固形分濃度)含む浄化剤1を調製した。浄化剤1を5Cろ紙(アドバンテック製、孔径1μm)で固液分離した後、40℃で乾燥して浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子を取り出し、構造・物性評価を行った。
【0101】
<浄化剤2~11の製造>
金属鉄粒子粉末の種類、活性炭粒子粉末の種類、金属鉄粒子粉末と活性炭粒子粉末の配合比率および浄化剤中の浄化処理用金属鉄-活性炭複合粒子の含有量を種々変化させた以外は、前記発明の実施の形態と同様にして浄化剤を得た。
【0102】
このときの製造条件を表2に、得られた浄化剤の諸特性を表3に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
<模擬地下水、排水中有機ハロゲン化合物の浄化処理評価結果>
使用例1
前記評価方法によれば、前記浄化剤1を用いた場合、トリクロロエチレンの分解率は、2日後で99.9%、7日後で100.0%であった。反応による主要分解生成物としては、エチレンが確認できた。
【0106】
使用例2~4、比較使用例1~7
使用例1と同様に、実施例2~4、比較例1~7の浄化剤を用いて、2日後と7日後のトリクロロエチレン分解率を測定した。
【0107】
このときの処理条件及び測定結果を表4に示す。尚、比較使用例1、3、5、6においては、有害副生成物である1、2-ジクロロエチレン(DCE)が検出された。また、比較使用例7においては、分解生成物が全く検出されなかった(トリクロロエチレンの吸着のみ)。
【0108】
【表4】