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特許7300659特注の抵抗を伴う厚膜抵抗器及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】特注の抵抗を伴う厚膜抵抗器及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/14 20060101AFI20230623BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
H05B3/14 F
H05B3/12 A
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2021568527
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 US2020026714
(87)【国際公開番号】W WO2020236324
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】16/415,570
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】507088266
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
【住所又は居所原語表記】One Beacon Street,31st Floor,Boston,Massachusetts 02108
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】クレック,エリカ シー.
(72)【発明者】
【氏名】ハーンドン,メアリー ケー.
(72)【発明者】
【氏名】シキナ,トーマス ヴイ.
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト,ジェームズ イー.
(72)【発明者】
【氏名】サウスワース,アンドリュー アール.
(72)【発明者】
【氏名】ワイルダー,ケヴィン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ラナシンハ,オシャダ ケー.
(72)【発明者】
【氏名】アキュルツ,アルキム
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102011007138(DE,A1)
【文献】米国特許第02795680(US,A)
【文献】特開2006-225237(JP,A)
【文献】特開昭62-092864(JP,A)
【文献】米国特許第04782202(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0022000(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/14
H05B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムストロンチウムを含む誘電体材料を炭素系インクと混合して、改質炭素系インクを形成するステップ;
構造体上に前記改質炭素系インクを印刷するステップ;
250℃を超えない温度で、前記構造体上で前記の印刷された改質炭素系インクを硬化させるステップ;及び
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップ;
を含む方法であって:
前記炭素系インクと混合された前記誘電体材料の量が、前記改質炭素系インクの15重量%を超えず;かつ
前記改質炭素系インクは、前記炭素系インクの少なくとも2倍の抵抗率を有する;
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記構造体上に前記改質炭素系インクを印刷するステップは、前記の印刷された改質炭素系インクが複数の導電性トレースを接続するように、前記構造体上に前記改質炭素系インクを印刷するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の印刷された改質炭素系インクが160℃を超えない温度で硬化される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップは、前記の硬化した印刷された改質炭素系インクをエッチングして所望の抵抗値を得るステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップは、0.25W~0.5Wの電力を前記厚膜抵抗器に印加するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記厚膜抵抗器は、
溶解せずに200mAまでの電流を取り扱う抵抗器;及び
溶解せずに1.0Wまでの出力を取り扱う抵抗器;
のうちの少なくとも1つとして構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
チタン酸バリウムストロンチウムを含む誘電体材料と混合された炭素系厚膜材料を含む改質炭素系厚膜材料を得るステップ;
前記改質炭素系厚膜材料を構造体上に堆積するステップ;
構造体上に堆積された前記改質炭素系厚膜材料を、250℃を超えない温度で硬化させるステップ;及び
前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料を処理して厚膜抵抗器を形成するステップ;
を含む方法であって:
前記炭素系厚膜材料と混合された前記誘電体材料の量が、前記改質炭素系厚膜材料の15重量%を超えない;
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記改質炭素系厚膜材料は、前記炭素系厚膜材料の少なくとも2倍の抵抗率を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記改質炭素系厚膜材料を構造体上に堆積するステップは、前記の堆積された改質炭素系厚膜材料が複数の導電性トレースを接続するように、前記改質炭素系厚膜材料を前記構造体上に堆積するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記の堆積された改質炭素系厚膜材料は、160℃を超えない温度で前記構造体上で硬化される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料を処理して前記厚膜抵抗器を形成するステップは、前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料をエッチングして所望の抵抗値を得るステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料を処理して、前記厚膜抵抗器を形成するステップは、0.25W~0.5Wの電力を前記厚膜抵抗器に印加するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記厚膜抵抗器は、
溶解せずに200mAまでの電流を取り扱う抵抗器;及び
溶解せずに1.0Wまでの出力を取り扱う抵抗器;
のうちの少なくとも1つとして構成される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
チタン酸バリウムストロンチウムを含む誘電体材料を炭素系インクと混合して、改質炭素系インクを形成するステップ;
構造体上に前記改質炭素系インクを印刷するステップ;
250℃を超えない温度で、前記構造体上で前記の印刷された改質炭素系インクを硬化させるステップ;及び
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップ;
を含む方法であって:
前記炭素系インクと混合された前記誘電体材料の量が、前記改質炭素系インクの15重量%を超えず;かつ
前記改質炭素系インクは、前記炭素系インクの少なくとも2倍の抵抗率を有する;
ことを特徴とする方法により製作されている厚膜抵抗器を有する装置。
【請求項15】
前記厚膜抵抗器が構造体の複数の導電性トレースを接続する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記厚膜抵抗器は、溶解せずに200mAまでの電流を取り扱うように構成されている、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記厚膜抵抗器は、溶解することなく1.0Wまでの電力を取り扱うように構成されている、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
チタン酸バリウムストロンチウムを含む誘電体材料を炭素系インクと混合して、改質炭素系インクを形成するステップ;
構造体上に前記改質炭素系インクを印刷するステップ;
250℃を超えない温度で、前記構造体上の前記の印刷された改質炭素系インクを硬化させるステップ;及び
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップ;
を含む方法であって:
前記誘電体材料を前記炭素系インクと混合するステップにより、前記改質炭素系インクが、前記炭素系インクの抵抗率の少なくとも2倍の抵抗率を有する;
ことを特徴とする方法。
【請求項19】
前記改質炭素系インクを前記構造体上に印刷するステップは、前記の印刷された改質炭素系インクが複数の導電性トレースを接続するように、前記構造体上に前記改質炭素系インクを印刷するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記の印刷された改質炭素系インクが160℃を超えない温度で硬化される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップは、前記の硬化した印刷された改質炭素系インクをエッチングして所望の抵抗値を得るステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップは、0.25W~0.5Wの電力を前記厚膜抵抗器に印加するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記厚膜抵抗器は、
溶解せずに200mAまでの電流を取り扱う抵抗器;及び
溶解せずに1.0Wまでの出力を取り扱う抵抗器;
のうちの少なくとも1つとして構成される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
チタン酸バリウムストロンチウムを含む誘電体材料と混合された炭素系厚膜材料を含む改質炭素系厚膜材料を得るステップ;
前記改質炭素系厚膜材料を構造体上に堆積するステップ;
構造体上に堆積された前記改質炭素系厚膜材料を、250℃を超えない温度で硬化させるステップ;及び
前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料を処理して厚膜抵抗器を形成するステップ;
を含む方法であって:
前記誘電体材料を前記炭素系厚膜材料と混合するステップにより、前記改質炭素系厚膜材料が、前記炭素系厚膜材料の抵抗率の少なくとも2倍の抵抗率を有する;
ことを特徴とする方法。
【請求項25】
前記炭素系厚膜材料と混合された前記誘電体材料の量が、前記改質炭素系厚膜材料の5重量%~15重量%を超えない、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記改質炭素系厚膜材料を構造体上に堆積するステップは、前記の堆積された改質炭素系厚膜材料が複数の導電性トレースを接続するように、前記改質炭素系厚膜材料を前記構造体上に堆積するステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記の堆積された改質炭素系厚膜材料は、160℃を超えない温度で前記構造体上で硬化される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料を処理して前記厚膜抵抗器を形成するステップは、前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料をエッチングして所望の抵抗値を得るステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記の硬化された堆積改質炭素系厚膜材料を処理して、前記厚膜抵抗器を形成するステップは、0.25W~0.5Wの電力を前記厚膜抵抗器に印加するステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記厚膜抵抗器は、
溶解せずに200mAまでの電流を取り扱う抵抗器;及び
溶解せずに1.0Wまでの出力を取り扱う抵抗器;
のうちの少なくとも1つとして構成される、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
炭素系インクと混合したチタン酸バリウムストロンチウムを含む誘電体材料を有する改質炭素系インクを構造体上に印刷するステップ;
250℃を超えない温度で、前記構造体上で前記の印刷された改質炭素系インクを硬化させるステップ;及び
前記の硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成するステップ;
を含む方法により製作されている厚膜抵抗器を有する装置であって:
前記炭素系インクと混合された前記誘電体材料によって、前記改質炭素系インクが、前記炭素系インクの少なくとも2倍の抵抗率を有する、
ことを特徴とする装置。
【請求項32】
前記厚膜抵抗器が、前記構造体の複数の導電トレースを電気的に接続している、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記厚膜抵抗器が、溶解することなく200mAまでの電流を取り扱うように構成されている、請求項31に記載の装置。
【請求項34】
前記厚膜抵抗器は、溶解することなく1.0Wまでの電力を取り扱うように構成されている、請求項31に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、抵抗器及び抵抗器を製造するための技術に関する。より具体的には、本開示は、カスタマイズ可能な抵抗(特注の抵抗)を有する厚膜抵抗器及び製造方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
抵抗器は、多数の電子デバイスその他のデバイスにおいて種々の方法で使用され、異なるタイプの抵抗器が長年にわたって開発されてきた。「表面実装」抵抗器は、一般に、プリント回路基板その他の基板の表面上に実装された電気端子を有する抵抗器を表す。「薄膜」抵抗器は、一般に、セラミックベースその他の基板上に抵抗材料の薄層を堆積することによって形成された抵抗器を表す。「厚膜」抵抗器は、一般に、抵抗材料の厚いペーストをプリント回路基板その他の基板上に堆積することによって形成された抵抗器を表す。
【0003】
表面実装抵抗器は、典型的には、ロープロファイル又はローコストのデバイスではなく、表面実装抵抗器の使用は、回路又はデバイスにおける寄生キャパシタンス及び寄生インダクタンスの発生につながる可能性がある。厚膜抵抗器は、薄膜抵抗器よりも、高電流又は高出力用途での使用により適していることが多い。残念ながら、厚膜抵抗器は、特定のタイプの基板に接着することが困難である可能性がある。また、厚膜抵抗器は、依然として、電流及び電力処理能力に限界があり、特定の高電流又は高電力用途での使用を妨げる可能性がある。さらに、厚膜抵抗器の形状(したがって抵抗)を制御することは、薄膜抵抗器と比較して、より困難であることが多い。厚膜抵抗体を形成するために使用される厚膜材料は、典型的には、硬化後に高粘度及び高収縮を有し、これは、幾何学的制御を困難にする。加えて、厚膜抵抗器の製造技術は、焼結その他の高温操作を含むことが多く、これは、500℃、700℃、850℃、又はそれ以上の温度を含むことが多い。これらの温度は、他の電気部品を損傷し、種々の用途のためのこれらの製造技術の使用を妨げる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、カスタマイズ可能な抵抗(特注の抵抗)を有する厚膜抵抗器及び製造方法を提供する。
【0005】
第1の実施形態に従った方法は、チタン酸塩を含む誘電体材料を炭素系インクと混合して、改質炭素系インクを形成することを含む。本方法はまた、改質炭素系インクを構造体上に印刷することを含む。本方法は、さらに、構造体上に印刷された改質炭素系インクを、約250℃を超えない温度で硬化させる工程を含み、さらに、硬化された印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成する工程を含む。炭素系インクと混合される誘電体材料の量は、改質炭素系インクの約15重量%を超えない。改質炭素系インクは、炭素系インクの少なくとも2倍の抵抗率を有する。
【0006】
第2の実施形態に従った方法は、誘電体材料と混合された炭素系厚膜材料を含む改質炭素系厚膜材料を得ることを含む。本方法はまた、改質炭素系厚膜材料を構造体上に堆積するステップを含む。本方法は、さらに、構造体上に堆積された改質炭素系厚膜材料を、約250℃を超えない温度で硬化させる工程を含み、さらに、本方法は、硬化された改質炭素系厚膜材料を処理して厚膜抵抗器を形成する工程を含む。炭素系厚膜材料と混合される誘電体材料の量は、改質炭素系厚膜材料の約15重量%を超えない。
【0007】
第3の実施形態に従った装置は、(i)チタン酸塩を含む誘電体材料を炭素系インクと混合して、改質炭素系インクを形成し、(ii)改質炭素系インクを構造体上に印刷し、(iii)構造体上に印刷された改質炭素系インクを、約250℃を超えない温度で硬化させ、(iv)硬化した改質炭素系インクを加工して、厚膜抵抗器を形成することによって製造された厚膜抵抗器を含む。炭素系インクと混合される誘電体材料の量は、改質炭素系インクの約15重量%を超えない。改質炭素系インクは、炭素系インクの少なくとも2倍の抵抗率を有する。
【0008】
第4の実施形態に従った方法は、チタン酸塩を含む誘電体材料を炭素系インクと混合して、改質炭素系インクを形成することを含む。本方法はまた、改質炭素系インクを構造体上に印刷することを含む。本方法は、さらに、構造体上に印刷された改質炭素系インクを、約250℃を超えない温度で硬化させる工程を含み、さらに、硬化した印刷された改質炭素系インクを処理して厚膜抵抗器を形成する工程を含む。誘電体材料を炭素系インクと混合することにより、改質炭素系インクは、炭素系インクの少なくとも2倍の抵抗率を有する。
【0009】
第5の実施形態に従った方法は、誘電体材料と混合された炭素系厚膜材料を含む改質炭素系厚膜材料を得るステップを含む。本方法はまた、改質炭素系厚膜材料を構造体上に堆積するステップを含む。本方法は、さらに、構造体上に堆積された改質炭素系厚膜材料を、約250℃を超えない温度で硬化させる工程を含み、さらに、本方法は、硬化した改質炭素系厚膜材料を処理して厚膜抵抗器を形成する工程を含む。誘電体材料を炭素系厚膜材料と混合することにより、改質炭素系厚膜材料が、炭素系厚膜材料の少なくとも2倍の抵抗率を有するようにする。
【0010】
第6の実施形態では、装置は、(i)改質炭素系インクを構造体上に印刷することによって製造された厚膜抵抗器を含み、ここで、改質炭素系インクは、炭素系インクと混合されたチタン酸塩を含む誘電体材料を含み、(ii)印刷された改質炭素系インクを、約250℃を超えない温度で構造体上で硬化させ、そして(iii)硬化した改質炭素系インクを加工して、厚膜抵抗器を形成する。誘電体材料を炭素系インクと混合することにより、改質炭素系インクが、炭素系インクの少なくとも2倍の抵抗率を有するようにする。
【0011】
他の技術的特徴は、以下の図面、詳細な説明、及び特許請求の範囲から当業者には容易に明らかとなり得る。
【0012】
本開示をより完全に理解するために、添付の図面と併せて、以下の図面の簡単な説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本開示に従った、カスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器を有する回路例を示す図である。
図1B】本開示に従った、カスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器を有する回路例を示す図である。
図2】本開示に従った、カスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器を形成するための例示的な操作フローを示す図である。
図3】本開示に従った、カスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器を形成するための例示的な方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に説明する図1A乃至図3及び本特許文献において本発明の原理を説明するために用いる様々な実施形態は、例示のためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限するために決して解釈されるべきではない。当業者であれば、本発明の原理は、任意のタイプの適切にアレンジされた装置又はシステムで実施することができることを理解するであろう。
【0015】
上述したように、厚膜抵抗器は、薄膜抵抗器及び表面実装抵抗器よりも、しばしば、使用により望ましく、又は、より好適であるが、厚膜抵抗器は、多くの欠点がある。例えば、厚膜抵抗器は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)その他のタイプの基板から形成されるもののような特定のタイプの基板に接着することが困難であり、電流及び電力処理能力が限られる可能性がある。また、厚膜抵抗器を形成するために使用される厚膜材料は、典型的には、硬化後に高粘度及び高収縮を有し、厚膜抵抗器の幾何学的制御(したがって、抵抗制御)を困難にする。加えて、厚膜抵抗器の製造技術は、しばしば、焼結その他の高温動作の性能を含み、他の構成要素を損傷する可能性がある。
【0016】
本開示は、カスタマイズ可能な(特注の)抵抗を伴う厚膜抵抗器を印刷その他の方法で形成するための種々の技術を記載する。以下にさらに詳細に説明するように、炭素系インク、ペースト、その他の厚膜材料は、改質された厚膜材料を製造するために厚膜材料に誘電体材料(一般に「改質剤(modifier)」と呼ばれる)を加えることによって改質することができる。誘電体材料の例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウムストロンチウムなどの少なくとも1つのチタン酸塩が挙げられる。炭素系の厚膜材料に加えられる改質剤の量は、改質された厚膜材料の所望の抵抗に基づいてもよい。次いで、改質された厚膜材料は、プリントされるか、さもなければ、プリント回路基板その他の基板又は構造体上に堆積され、硬化され、処理されて厚膜抵抗器を形成することができる。
【0017】
炭素系の厚膜材料に添加される改質剤の量は、厚膜材料を使用して得られる抵抗を変化させる。これにより、厚膜材料を用いて形成された厚膜抵抗器の抵抗を、必要に応じて制御又はカスタマイズすることができる。しかしながら、炭素系の厚膜材料に添加される改質剤の量は、比較的少なくすることができる(例えば、約15重量%まで)。これにより、炭素系の厚膜材料は、十分な導電性炭素粒子を保持し、実質的な電流及び電力処理能力を達成する一方で、(厚膜材料自体の抵抗と比較して)著しく高い抵抗を達成することが可能になる。
【0018】
このようにして、厚膜抵抗器は、薄膜抵抗器よりも高い電流又は電力を取り扱うことができる一方で、表面実装抵抗器よりも低い物理的プロファイル及びより少ない寄生容量及びインダクタンスを有する厚膜抵抗器を製造することができる。さらに、改質された厚膜材料の表面エネルギーは比較的低いので、厚膜材料は、多くの基板(PTFE基板を含む)に良好に接着することができる。さらに、これらのアプローチは、厚膜材料の幾何学的形状及び抵抗率の両方の改善された制御を可能にする。例えば、非硬化改質厚膜材料の粘度は、典型的な厚膜材料と比較して低くすることができ、これにより、改質厚膜材料のより高い厚さでの堆積における改質厚膜材料の改良された制御を可能にする。さらに、厚膜抵抗器は、反復可能で安定した性能を達成しながら、著しく低い温度(例えば、250℃未満)で硬化させることができる。全体として、これは、必要に応じて抵抗を調整することを可能にしながら、少なくとも1つの所望の幾何学形状を有する厚膜抵抗器を製作することを可能にし、これは、積層温度に耐えるように、同時に、典型的な抵抗インクの高温硬化(多くの場合、500℃を超える)を必要としないように、種々の基板タイプ及びカスタマイズ可能なシート抵抗率を使用して生じることができる。
【0019】
図1A及び図1Bは、本開示に従ったカスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器102を有する例示的な回路100を示す。特に、図1Aは、厚膜抵抗器102を伴う回路100の一部分の断面図を示し、図1Bは、厚膜抵抗器102を伴う回路100の一部分の平面図を示す。
【0020】
図1A及び図1Bに示すように、回路100は、厚膜抵抗器102を使用して、2つの導電性トレース104及び106を電気的に結合する。厚膜抵抗器102並びに導電性トレース104及び106は、基板108上に配置される。導電性トレース104及び106は、電気信号が厚膜抵抗器102との間を流れることができる任意の適切な導電経路を表す。導電性トレース104及び106は、任意の適切な材料から形成されてもよい。例えば、導電性トレース104及び106は、1つ以上の導電性金属その他の材料を使用して形成された銅トレースその他の電気トレースを表すことができる。また、導電性トレース104及び106は、導電性材料を堆積及びエッチングするなど、任意の適切な方法で形成されてもよい。さらに、導電性トレース104及び106の各々は、任意の適切なサイズ、形状、及び寸法を有してもよい。図1A及び図1Bにおける厚膜抵抗器102並びに導電性トレース104及び106の相対位置は、例示のためのものに過ぎず、必要に応じて、又は所望により変化し得ることに留意されたい。例えば、導電性トレース104及び106は、厚膜抵抗器102上に形成されてもよい。
【0021】
基板108は、電気的構成要素及び電気的経路が形成され得る任意の適切な構造を表す。例えば、基板108は、リジッドプリント回路基板、フレキシブル回路基板、又は、電気的構成要素及び導電トレース、又は、電気的構成要素を結合する他の導電経路を担持するために使用される任意の他の適切なベース又は構造を表すことができる。基板108は、綿紙、ガラス繊維織物、又はガラス織物及びエポキシ樹脂、炭素、金属、アルミナ、その他のセラミック、又はPTFE、ポリイミド、ポリエステル、その他のポリマーのような任意の適切な材料から形成され得る。また、基板108は、単一層の材料を使用することによって、或いは積層され、その他の方法で一緒に接合される複数層の材料を使用することによって、任意の適切な方法で形成されてもよい。さらに、基板108は、任意の適切なサイズ、形状、及び寸法を有し得る。
【0022】
厚膜抵抗器102は、基板108上(及びこの実施例では導電性トレース104及び106上)に厚膜材料を堆積することによって形成される。一旦堆積されると、厚膜材料は硬化され、次いで、必要に応じてさらに処理して厚膜抵抗器102を形成することができる。いくつかの実施態様において、三次元(3D)プリンタ又はアディティブ製造プロセスにおける他の堆積システムを使用すること等により、厚膜材料を印刷によって堆積させることができる。回路又はデバイスの他の構成要素に依存して、これにより、回路又はデバイス全体が、アディティブ製造プロセスを使用して形成され得る。しかしながら、スクリーン印刷、スプレー、浸漬、又はコーティングのような、厚膜抵抗器102を形成するための厚膜材料を堆積するための任意の他の適切な技術を使用することができることに留意されたい。
【0023】
以下にさらに詳細に説明するように、厚膜抵抗器102を形成するために使用される厚膜材料は、誘電体材料(一般に「改質剤」(modifier)と呼ばれる)と混合されているか、その他の方法で組み込まれている炭素系インク(carbon-based ink)のような炭素ベースの厚膜材料である。炭素ベースのインク(APPLIED INK SolutionsからのC-200炭素抵抗性インクのような)のような、任意の適切なタイプの炭素ベースのインクその他の厚膜材料を用いて厚膜抵抗器102を形成することができる。また、任意の適切な誘電体材料を改質剤として使用し、チタン酸塩(titanate)のような炭素ベースの厚膜材料に組み込むことができる。チタン酸塩の例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム及びチタン酸バリウムストロンチウムが挙げられる。
【0024】
炭素ベースの厚膜材料に組み込まれた誘電体材料は、改質された厚膜材料(改質厚膜材料)の抵抗を変化させ、抵抗の変化は、厚膜材料に組み込まれた誘電体材料の量に基づくことができる。これにより、炭素ベースの厚膜材料に組み込まれる誘電体材料の量に基づいて、厚膜抵抗器102の抵抗をカスタマイズすることができる。いくつかの実施形態では、炭素ベースの厚膜材料に組み込まれる誘電体材料の量は、比較的少なくても、改質された炭素ベースの厚膜材料を使用して得ることができる全体の抵抗に、依然として大きな影響を及ぼすことができる。特定の実施形態では、例えば、改質された炭素系インク(改質炭素系インク)その他の改質された厚膜材料は、誘電体材料の約15重量%までを含有することができ、改質された厚膜材料の異なる抵抗を得るために、誘電体材料の異なる重量%を使用することができる。
【0025】
この特定の実施例では、厚膜抵抗器102は、概ね(上部又は下部から見たとき)矩形であるように示されている。しかしながら、改質された厚膜材料は、広範囲の幾何学的形状で印刷されるか、さもなければ堆積され、特定の用途に適した任意のサイズ及び形状を有する厚膜抵抗器102が形成されることを可能にする。また、改質された厚膜材料は、平面又は非平面幾何学的形状で印刷されるか、さもなければ堆積され得る。非平面形状の例としては、ピラミッド状、円筒状、又は長方形のプリズム、並びに一般に、湾曲した基板その他の非平面基板上に堆積された二次元パターンが挙げられる。このアプローチは、改質された厚膜材料の抵抗のカスタマイズと、改質された厚膜材料が堆積される幾何学的形状のカスタマイズの両方を可能にすることによって、厚膜抵抗器が様々な用途のために広範囲の抵抗及び幾何学的形状で製造されることを可能にする高度に調整可能な解決策を提供する。
【0026】
さらに、厚膜抵抗器は、厚膜抵抗器の電流及び電力処理能力に悪影響を与えることなく、高シート抵抗を達成するように製造することができる。これは、厚膜抵抗器102のバルクが、炭素ベースのインクその他の厚膜材料中の導電性炭素その他の導電性材料によって形成されるために生じる(厚膜材料は、比較的少量の誘電性材料を含むことができるため)。これにより、溶解(fuse)することなく、最大約200mAの電流及び/又は最大約0.5W又は約1.0Wの電力を含む用途など、より高い電流又はより高い電力の用途において厚膜抵抗器102を使用することができる。
【0027】
改質された厚膜材料は、ドライ製造プロセスを用いて厚膜抵抗器の製造を可能にする。もちろん、任意の他の適切な製造プロセスが、改質された厚膜材料を使用して厚膜抵抗器を形成することができる。また、1つ以上の厚膜抵抗器102が、種々のタイプの基板(PTFEベースの基板を含む)上に形成され得、各厚膜抵抗器102は、表面実装抵抗器と比較して、より小さな寄生容量効果及び寄生インダクタンス効果を有することができることに留意されたい。さらに、厚膜抵抗器102は、室温で安定であり、高温で安定であり得ることに留意されたい(基板108に依存する)。これは、厚膜抵抗器102の抵抗が、室温及びおそらくより高い温度で、時間にわたって実質的に一定に維持され得ることを意味する。
【0028】
一旦、改質された厚膜材料が堆積され、硬化されると(後述するように比較的低温で起こり得る)、追加の操作を行って、厚膜抵抗器102の抵抗を調整するか、又は、そうでなければ、厚膜抵抗器102の作製を完了することができる。例えば、トリミング操作を行って、厚膜抵抗器102の形状、従って抵抗を変化させることができる。また、これらの構成要素を保護するため、又は厚膜抵抗器102及び導電性トレース104及び106上に他の電気構成要素又は電気経路を形成するために、厚膜抵抗器102並びに導電性トレース104及び106上に追加の材料層を堆積させることができる。
【0029】
いくつかの実施態様において、厚膜抵抗器102は、標準本体又は工業慣行によって確立された標準寸法を有するように製造することができる。特定の例として、厚膜抵抗器102は、標準的な表面実装デバイス(SMD)抵抗器サイズによって規定される寸法を有するように製造されてもよい。例えば、「0402」抵抗器サイズは、長さが約0.04インチ又は1.0ミリメートル、幅が約0.02インチ又は0.5ミリメートル、高さが約0.014インチ又は0.35ミリメートルの抵抗器を指す。「0805」抵抗器サイズは、長さが約0.08インチ又は2.0ミリメートル、幅が約0.05インチ又は1.2ミリメートル、及び高さが約0.018インチ又は0.45ミリメートルである抵抗器を指してもよい。もちろん、厚膜抵抗器102は、任意の他の適切な標準的又は非標準的なサイズ及び形状を有するように製造することができる。
【0030】
図1A及び図1Bは、カスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器102を有する回路100の一例を示しているが、図1A及び図1Bには様々な変更を加えることができる。例えば、厚膜抵抗器102は、任意の他の適切なサイズ、形状、及び寸法を有してもよい。また、厚膜抵抗器102は、任意の他の適切な方法で使用することができる。さらに、回路100は、任意の適切な数の厚膜抵抗器102を任意の適切な位置又は配置で含むことができ、回路100内の異なる厚膜抵抗器102は、異なるサイズ、形状、又は寸法を有しても有しなくてもよい。
【0031】
図2は、本開示に従ったカスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器を形成するための例示的な操作フロー200を示す。説明を容易にするために、図2に示す操作フロー200は、図1に示す例示回路100の厚膜抵抗器102を製造するために使用されるものとして説明される。しかし、図2に示される操作フロー200は、任意の適切な回路、デバイス、又はシステムにおける任意の適切な厚膜抵抗器を製造するために使用され得る。
【0032】
図2に示すように、操作フロー200は、混合操作202、堆積操作204、及び硬化操作206を含む。混合操作202において、ミキサ208は一般に、炭素ベースのインクその他の炭素ベースの厚膜材料をチタン酸塩その他の誘電体材料と混合するように動作する。これは、改質された炭素ベースの厚膜材料(例えば、改質された炭素ベースのインク又はペースト)が、厚膜材料の導電性材料内にチタン酸塩その他の誘電体材料の実質的に均一な分布を有することを確実にするのに役立つ。ミキサ208は、炭素ベースの厚膜材料と誘電体材料とを混合するように構成された任意の適切な構造を表す。
【0033】
混合作業202の間、炭素ベースのインクその他の炭素ベースの厚膜材料に加えられる誘電体材料の量は、製造されるべき1つ以上の厚膜抵抗器102の所望の抵抗に基づいて変化し得る。上述のように、炭素ベースの厚膜材料に添加される誘電性材料の量は、導電性材料と誘電性材料の合計重量の約15%以下のように、比較的少量に制限することができる。炭素ベースのインクその他の炭素ベースの厚膜材料中のチタン酸塩のような比較的少量の誘電体材料を使用しても、炭素ベースの厚膜材料の抵抗を大幅に増加させることができる。例えば、炭素ベースのインク(C-200炭素抵抗性インクなど)にチタン酸バリウムストロンチウムを約5重量%添加すると、炭素ベースのインクの抵抗が260%以上増加する可能性がある。したがって、少量のチタン酸塩その他の誘電体材料は、改質された炭素ベースの厚膜材料の抵抗を急速に増加させることができ、これにより、改質された厚膜材料中に誘電体材料が存在していても、製造された厚膜抵抗器102の溶解電流が高いままであることが可能になる。特定の実施形態では、誘電体材料は、炭素ベースの厚膜材料の抵抗率を少なくとも2倍にすることができる。
【0034】
堆積操作204では、改質された厚膜材料210(混合操作202によって生成される)が基板その他の構造体上に堆積される。この例では、プリンタ212が、構造100'上に改質された厚膜材料210を堆積する。構造100'は、図1A及び図1Bの回路100を表し、厚膜抵抗器102は存在しない。もちろん、プリンタ212は、改質された厚膜材料210を、任意の他の適切な回路その他の構造体上に堆積させることができる。プリンタ212は、3Dプリンタなどの1つ以上の厚膜抵抗器102を形成するために、1つ以上の構造体上に厚膜材料210を印刷するように構成された任意の適切な構造を表す。特定の例として、堆積操作204は、ノードソンNORDSON CORP.社からの高精度分配システムを用いて実施されてもよいが、堆積操作204は、スクリーン印刷又はスプレー装置のような、厚膜材料210を堆積するのに任意の他の適切な装置を用いてもよいことに留意されたい。
【0035】
改質された厚膜材料210を構造体上に堆積させる場合、厚膜材料210は、任意の適切な方法で堆積され得る。いくつかの実施形態では、例えば、厚膜材料210は、形成される厚膜抵抗器102の中心からの「S」パターン充填を使用して、プリンタ212その他のデバイスによって堆積され得る。ここで、パターンの幅は、形成される厚膜抵抗器102のサイズに依存する。このタイプの堆積パターンは、堆積された厚膜材料210の開始エッジにおける大きなリップの形成を低減又は防止するのに役立つ。しかしながら、改質された厚膜材料210は、任意の他の適切な方法で堆積され得ることに留意されたい。
【0036】
硬化作業206では、構造100'上に堆積された改質厚膜材料210が硬化される。この例では、ヒータ214が、硬化操作206の間に使用され、構造100'及び構造100'上の厚膜材料210を加熱して、厚膜材料210を硬化させる。硬化操作206の温度及び硬化操作206に必要な時間は、改質された厚膜材料210の組成及び堆積された厚膜材料210の形状又は厚さなどの多くの要因に基づいて変化し得る。一般に、硬化操作206の温度は、約250℃以下又は約200℃以下であってもよい。具体的な例として、硬化操作206は、構造体100'及び厚膜材料210を約70℃の温度まで約5時間、又は約160℃の温度まで約30分間加熱することを含んでもよい。改質された厚膜材料210を比較的低温で硬化させる能力は、標準的な焼結操作その他の高温操作(500℃、700℃、850℃、又はそれ以上の温度を含むことが多い)で使用される高温に耐えることができない、種々のプラスチック基板108又は構造100'内の他の構成要素又は材料の使用を可能にする。したがって、操作フロー200は、高温焼結操作を必要とせずに、高いシート抵抗を伴う厚膜抵抗器102の製造を可能にする。
【0037】
理想的には、改質された厚膜材料210を生成するために、混合作業202中に炭素系インクその他の炭素系厚膜材料に加えられる誘電体材料は、熱安定性である。例えば、チタン酸バリウムストロンチウムのようなチタン酸塩は、耐熱性化合物であり、この化合物は、(少なくとも、改質された厚膜材料210が厚膜抵抗器102の製造及び使用の間に経験する温度範囲内で)それらの構成要素に分解しないことを意味する。ベース(変性されていない)炭素ベースのインクその他の炭素ベースの厚膜材料自体が熱安定性であると仮定すると、変性された厚膜材料210は、より高い抵抗を有し、熱安定性も有する。ヒータ214は、厚膜材料210を硬化させるために、堆積された厚膜材料210の温度を上昇させるように構成された任意の適切な構造を表す。例えば、より大きな製造設定その他の設定において、ヒータ214は、大きなオーブンを表すことができる。より小さい設定では、ヒータ214は、より小さいオーブン、又はホットプレートのようなデバイスを表すこともできる。
【0038】
硬化操作206が完了すると、任意の追加的な処理操作216を実行して、厚膜抵抗器102の製作を完了するか、又は厚膜抵抗器102を含む回路、デバイス、又はシステムの製作を完了することができる。例えば、厚膜抵抗器102は、所望の形状又は最終抵抗値を有するようにエッチングされてもよい。いくつかの実施形態では、例えば、厚膜抵抗器102は、約60℃で約30秒から数分間、フルオロエッチング浴に入れることができる。厚膜抵抗器102その他の構成要素も、例えばイソプロピルアルコール又はメタノールを使用することによって洗浄することができる。さらに、一旦製作が完了すると、厚膜抵抗器102の抵抗に対するその後の変化を防止する助けとなるように、ある量の電力(例えば、約0.25W~約0.5W)が厚膜抵抗器102にわたって印加され得る。
【0039】
図2の操作フロー200のある時点で、導電性トレース104及び106の露出表面の酸化を低減又は防止するために、1つ又は複数のステップが必要とされ得る。例えば、銅トレースが回路100内の導電性トレース104及び106として使用される場合、酸化銅が導電性トレース104及び106の露出表面上に形成されてしまう。酸化銅は、比較的低温で形成されてしまい、導電トレース104及び106上に酸化銅が存在すると、導電トレース104及び106と、形成されるべき厚膜抵抗器102との間に電気的に絶縁性の界面が形成される。ここでは、導電トレース104及び106上の酸化物その他の絶縁材料の形成を低減又は防止するために、種々の技術を使用することができる。例として、無電解ニッケル/浸漬金(ENIG)表面めっきを、導電トレース104及び106上に使用することができ、あるいは、カプセル化剤/エポキシ/シーラントを導電トレース104及び106上に配置して、酸素吸収を防止することができる。別の例として、グラフェンベースのインクを誘電体材料と混合して、改質された厚膜材料210を形成することができる。なぜなら、グラフェンは、本質的に、炭素原子の二次元配列であり、酸化物の成長を低減又は防止することができるからである。さらに別の例として、改質された厚膜材料210に水素化ホウ素ナトリウムを添加して、酸化物の形成を低減又は防止することができる。さらに別の例として、厚膜抵抗器102は、真空オーブンその他の無酸素環境で硬化又は焼成することができる。硬化/焼き付けは、典型的には、厚膜抵抗器102の抵抗に小さいが予測可能な変化を引き起こすことに留意されたい。もちろん、導電性トレース104及び106上の酸化物の形成を抑制又は回避するために、任意の他の適切な材料選択又は技術を使用することができる。
【0040】
このようにして製造された厚膜抵抗器102は、標準の厚膜抵抗器よりも様々な利点を有することができる。例えば、チタン酸塩その他の誘電体材料を厚膜材料と混合させることによって、改質された厚膜材料210の抵抗又は導電率を、堆積の前に正確に制御することができる。また、改質された厚膜材料210は、より均一な組成を有することができ、厚膜抵抗器102のより一貫した製造を可能にする。さらに、改質された厚膜材料210内のチタン酸塩その他の誘電体材料の量を低減又は最小化することによって、厚膜抵抗器102内の高い溶解電流を維持しつつ、また、厚膜抵抗器102の温度に対する高い安定性を維持しながら、より高いシート抵抗を得ることができる。上述のように、例えば、いくつかの実施形態では、厚膜抵抗器102は、溶解することなく、約200mAまでの電流及び/又は約0.5Wまでの電力若しくは約1.0Wまでの電力を処理することができる。さらに、いくつかの実施形態では、厚膜抵抗器102は、他の厚膜抵抗器と比較して、小さい又は最小の気孔率を有してもよい。これは、変化する条件(例えば、湿度又は熱条件の変化)下で、厚膜抵抗器102の改良された安定性又は最大安定性を提供するのに役立つ。最後に、厚膜抵抗器102は、室温で実質的に安定である抵抗を有してもよく、これは、厚膜抵抗器102の抵抗が、室温での時間にわたって実質的に一定のままであることを意味する。
【0041】
図2に示される操作フロー200は、多くの状況において有用であり得る。例えば、操作フロー200は、種々の回路、デバイス、又はシステムにおいて厚膜抵抗器102を製造するために、大規模な製造設定で使用することができる。特定の例として、操作フロー200は、3Dプリンタその他のデバイスが、種々の構造の種々の構成の厚膜抵抗器102を製造する、大規模なアディティブ製造プロセスをサポートするために使用され得る。別の例として、操作フロー200は、厚膜抵抗器102を組み込む多数のプロトタイプ又は試験装置を製造するために、研究開発施設、研究所、その他の場所で使用することができる。厚膜抵抗器102の修正可能な抵抗器及び柔軟な幾何学的形状は、厚膜抵抗器102を多くの異なる設計に迅速に組み込むことを可能にする。
【0042】
図2は、カスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器102を形成するための操作フロー200の一例を示しているが、図2には様々な変更を加えることができる。例えば、混合、蒸着、及び硬化操作202、204、及び206において使用されるものとして示される特定の装置は、例示に過ぎない。任意の適切な装置を使用して、操作202、204、206の各々を実行することができる。また、厚膜抵抗器102を製造するために、種々の追加的操作216を必要に応じて、又は所望に応じて実行することができ、追加的操作216は、厚膜抵抗器102を製造するために使用される材料及び/又は厚膜抵抗器102が形成されている構造100'内の材料に基づいて(とりわけ)変化させることができる。
【0043】
図3は、本開示に従ったカスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器を形成するための例示的な方法300を示す。説明を容易にするために、図3に示される方法300は、図2に示される操作フロー200に含まれる装置を使用して、図1に示される例示的な回路100の厚膜抵抗器102を製造するために使用されるものとして説明される。しかしながら、図3に示される方法300は、任意の適切な回路、装置、又はシステムにおいて任意の適切な厚膜抵抗器を形成するために使用され得、種々の操作のための任意の適切な装置の使用を含むことができる。
【0044】
図3に示されるように、厚膜材料が、ステップ302において、誘電体材料と混合されて、改質された厚膜材料を形成する。これは、例えば、炭素ベースのインクその他の炭素ベースの厚膜材料を、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、その他の誘電体材料とブレンドすることを含み得る。混合は、炭素ベースの導電性材料内の誘電性材料の適切な分配を確実にするのを助けるように設計されたミキサ208を用いて行うことができる。炭素ベースのインクその他の炭素ベースの厚膜材料に加えられる誘電体材料の量は、製造される改質された厚膜材料210の所望の抵抗に基づくことができる。いくつかの実施形態では、例えば、炭素ベースのインクその他の炭素ベースの厚膜材料に添加される誘電体材料の量は、改質された厚膜材料210の最大約5重量%~約15重量%に制限されてもよい。
【0045】
改質された厚膜材料は、ステップ304において所望の幾何学的形状で構造体上に堆積される。これは、例えば、プリンタ212その他の堆積システムを用いて、構造100'の導電性トレース104及び106上に、改質された炭素ベースの厚膜材料を堆積することを含んでもよい。上述のように、製造される厚膜抵抗器102の幾何学的形状は、必要に応じて、例えば、所望の用途及び製造される厚膜抵抗器102のための利用可能な空間に基づいて変化し得る。ここで、改質された厚膜材料210は、厚膜抵抗器102の製造中に幾何学的形状で堆積されるものとして説明されるが、このステップは、複数の厚膜抵抗器102の製造中に、(同じ幾何学的形状又は異なる幾何学的形状を使用して)複数の領域に改質された厚膜材料を堆積することを含んでもよいことに留意されたい。また、このステップは、改良された厚膜材料210が多層に堆積されて厚膜抵抗器102を形成している場合に、同じ厚膜抵抗器102に対して繰り返して生じることがあることに留意されたい。
【0046】
堆積された厚膜材料は、ステップ306において(比較的)低温環境で構造体上に硬化される。これは、例えば、堆積された厚膜材料210と共に構造100'をヒータ214内に配置することを含み得る。硬化は、理想的には、堆積された厚膜材料210のほとんど又は全てが、構造100'上に所望の形状を維持する間、堆積された厚膜材料210を強化又は硬化させる。例示的な硬化温度及び硬化時間は、上記で提供されており、一般に、温度が約250℃を超えない。上述のように、これは、500℃、700℃、又は850℃を容易に超える可能性がある高温焼結作業その他の高温作業を含む他のプロセスよりも著しく低い。堆積された厚膜材料210を低温で硬化させる能力は、標準的な焼結作業その他の高温作業で使用される高温に耐えることができないプラスチックその他の材料の使用を可能にする。
【0047】
厚膜抵抗器を形成するための追加的処理操作は、ステップ308で実行される。これは、例えば、堆積された厚膜材料210をエッチングして、厚膜抵抗器102に対して最終的な所望の抵抗値が得られるようにすることを含んでもよい。これはまた、厚膜抵抗器102又は構造体100'の他の構成要素の洗浄を含んでもよい。さらに、これは、厚膜抵抗器102(「バーンイン」プロセスと称されるプロセスで発生する)の抵抗に対するその後の変化を防止する助けとなるように、厚膜抵抗器102にわたって電力(例えば、約0.25W~約0.5W)を印加することを含んでもよい。
【0048】
所望の構造の作製は、ステップ310で完了する。これは、例えば、厚膜抵抗器102及び導電性トレース104及び106上に材料の1つ以上の保護層又は追加の電気的構成要素を形成することを含むことができる。これはまた、厚膜抵抗器102をより大きな回路に組み込むために、導電性トレース104及び106を他の回路構成要素に電気的に結合することを含んでもよい。もちろん、厚膜抵抗器102は、任意の適切な方法で使用することができ、ここで実行される操作は、厚膜抵抗器102が使用される方法に基づいて広く変化し得る。
【0049】
図3は、カスタマイズ可能な抵抗を伴う厚膜抵抗器を形成するための方法300の一例を示しているが、図3には様々な変更を加えることができる。例えば、一連のステップとして示されているが、図3の様々なステップは、オーバーラップするか、並列に発生するか、異なる順序で発生するか、又は任意の回数で発生することができる。また、種々の追加的操作が、全体のプロセスから所定の結果を得るために、方法300の任意の点で生じ得る。例えば、導電性トレース104及び106上の酸化物形成を低減又は防止するのを助けるために、上述の種々の技術を使用することによって、プロセスの間のある時点で1つ又は複数の操作を起こすことができる。
【0050】
本特許文献を通して使用されている特定の単語及び語句の定義を示すことは有利であろう。用語「含む」及び「有する」は、それらの派生語と同様に、包含を意味するが、これらに限定されない。用語「又は」は、包括的に及び/又を意味する。用語「関連する」及びその派生語は、含み、内部に含まれ、相互接続され、含有し、内部に含有され、連結し/され、結合し/され、相互に伝達可能であり、相互に協力し、相互に置き換えられ、併設し、近接し、拘束し/され、所有し、関係を有する、又はそれらの類似形態を有することを意味し得る。用語「の少なくとも1つ」は、項目のリストと共に使用される場合、リストされた項目の1つ以上の異なる組み合わせが使用されてもよく、リスト内の1つの項目のみが必要とされることを意味する。例えば、「A、B及びCの少なくとも1つ」は、A、B、C、A及びB、A及びC、B及びC、並びにA及びB及びCのいずれかの組み合わせを含む。
【0051】
本願の明細書は、特定の要素、ステップ又は機能が、クレームの範囲に含まれなければならない必須又は重要な要素であることを意味するものとして解釈されるべきではない。機能的な請求項の範囲は、実施形態またはその等価物に限定されない。クレーム内の「メカニズム」、「モジュール」、「デバイス」、「ユニット」、「構成要素」、「素子」、「部材」、「装置」、「機械」、「システム」、「プロセッサ」、又は「コントローラ」のような用語の使用は、クレーム自体の特徴によってさらに修正又は強化されたものとして、当業者に知られた構造を指すことを理解され、意図するものであり、機能的であることを意図するものではない。
【0052】
本開示は、特定の実施形態及び一般的に関連する方法を記載したが、これらの実施形態及び方法の変更及び順列は、当業者には明らかであろう。従って、例示的な実施形態の上述の説明は、本開示を定義したり、制約したりしない。以下の特許請求の範囲によって定義されるように、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、他の変更、置換、及び変更も可能である。
図1A
図1B
図2
図3