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特許7300677Rh基合金からなるプローブピン用材料およびプローブピン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】Rh基合金からなるプローブピン用材料およびプローブピン
(51)【国際特許分類】
   G01R 1/067 20060101AFI20230623BHJP
   G01R 1/073 20060101ALI20230623BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20230623BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230623BHJP
   C22F 1/14 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
G01R1/067 A
G01R1/073 E
C22C5/04
C22F1/00 623
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 650A
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685A
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019223409
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021092450
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】横田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】東峰 寿行
(72)【発明者】
【氏名】松澤 篤央
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-291725(JP,A)
【文献】特表2017-527695(JP,A)
【文献】特表2021-518980(JP,A)
【文献】特開昭51-094413(JP,A)
【文献】国際公開第2008/065790(WO,A1)
【文献】国際公開第03/005042(WO,A1)
【文献】特開2005-233967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
C22C 5/04
C22F 1/00
C22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Hfが0.05~4.0mass%、残部をRhおよび不可避不純物からなる合金からなるプローブピン用材料。
【請求項2】
請求項1に記載のプローブピン用材料を用いて作製されたプローブピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ上の集積回路等の電気的特性を検査するためのプローブカードに組み込まれるプローブピン(以下、「プローブピン」と略称する)用材料およびプローブピンに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ上に形成された集積回路等の電気的特性の検査には、複数のプローブピンが組み込まれたプローブカードが用いられている。この検査は、プローブカードに組み込まれたプローブピンを、集積回路等の電極や端子、導電部にプローブピンを接触させることにより行われている。
【0003】
このようなプローブピンは、高導電性はもちろん、安定した検査結果を得るため、耐食性、耐酸化性が求められ、且つ検査対象物に繰り返し接触させるため、十分な強度が必要となる。強度が必要なのは、何万回と検査体にプローブピンを接触することによる摩耗を低減させる必要があるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-38922
【文献】特開平10-221366
【文献】特開平11-94872
【文献】特開2000-137042
【文献】特開2005-233967
【文献】特許第4878401号
【文献】特許第5074608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、プローブピンには、例えば特許文献1や特許文献2に示すようにベリリウム銅やリン青銅、タングステンが使用されている。
ベリリウム銅やリン青銅、タングステンを使用しているプローブピンは、耐酸化性に劣り、使用の際、表面に酸化膜が生成され、繰り返し検査を続けていくうちに酸化物が検査対象物に付着し、導通不良が発生するといった問題がある。
【0006】
このようなプローブピンの酸化膜形成による不良を防ぐために、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6のようにパラジウム合金、白金合金を使用する場合がある。
このなかでパラジウム合金を使用しているプローブピンは、加工硬化で硬さを向上させる場合と、析出硬化により硬さを向上させる場合、あるいはその両方により硬さを向上させる。また、白金合金は、固溶硬化および加工硬化により硬さを向上させる。
【0007】
その中、プローブカードで検査する半導体の中でパワー半導体の割合が徐々に増えつつある。
【0008】
パワー半導体は、インバータ回路等に使用されており、使用環境および使用方法から通常の半導体より高温にさらされる場合が多い。それに伴い検査も高温での検査が要求されている。従来の半導体では、Siウェハの検査温度が100℃を超えることはほとんどないが、パワー半導体の場合、100℃を超える場合がある。
【0009】
このような試験温度での検査は、タングステンやベリリウム銅等も使用されるが、通常使用されている温度領域よりもさらに酸化しやすい状況となるため、検査不良が起きやすく、白金合金やパラジウム合金が使用される割合が多くなっている。
【0010】
ただし、白金合金やパラジウム合金も問題があり、白金合金の場合、他の材質よりも抵抗が大きいため、抵抗加熱によるプローブピンの温度上昇が起きやすい、パラジウム合金の場合、時効温度に近くなる、または時効温度での検査になるため、プローブピンの時効が進むことにより、脆化し折れやすくなるといった懸念が存在している。
【0011】
この中、金属の中でも比抵抗が低く、耐酸化性もあるRhが注目されている。
【0012】
特許文献7のように、低抵抗、防汚性を有するプローブピンとしてロジウム合金の特許が出されている。
【0013】
特許文献7は、加工性を確保しつつ、低抵抗、防汚性を向上させるため、RhにFe、Ir、Reを数百ppm程度のごく微量添加した特許が公開されている。
【0014】
Rhの加工には熱間加工が用いられるが、加工温度領域が狭く、熱間加工時に再結晶化しやすい。再結晶化したRhに曲げ応力を加わると、粒界を起点としクラックや破折が起こりやすい。そのため加工時に再結晶化し難くし、曲げ加工を施しても、破折等の破断が無く、表面のクラックが無いことが求められている。また、硬さおよび強度の一層の向上が求められている。
【0015】
上述した従来技術の問題に鑑み、本発明の目的は、クラックが起こりにくく、かつ、低抵抗を維持しつつ、Rh以上の硬さおよび強さ(ここでは強さを弾性変形の最大基準応力とし、またRhは降伏現象が確認できないため、0.2%耐力を指標とする、以下0.2%耐力とする)を向上させたプローブピンの提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、RhにHfを添加することにより、クラックが起こりにくく、かつ、低抵抗を維持しつつ硬さおよび0.2%耐力を向上させたプローブピンとして好ましい特性が得られることを見出した。
【0017】
すなわち上記目的は、Hfが0.05~4.0mass%および不可避不純物と合わせて合計で100mass%となるRh合金からなるプローブピン用材料によって達成される。
【0018】
また上記目的は、上記のプローブピン用材料を用いて作製されたプローブピンによって達成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に従うとは、低比抵抗でかつ十分な硬度および0.2%耐力を有し、さらに主要元素がRhであることから、耐酸化性にも優れるため検査対象物を汚染することなく、長期間安定して使用可能なプローブピンを提供す得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のプローブピンは、Hfが0.05~4.0mass%、残部をRhおよび不可避不純物からなる合金からなるものである。
【0021】
Rhは、加工率を上げると、再結晶が進み、クラックが起こりやすいのに対して、RhにHfを添加することにより加工率を上げても繊維状組織を示し、クラックが起こりにくくなる。
【0022】
Hf含有量が0.05mass%を下回る場合には、硬さ(ビッカース硬さ)が低下する。Hf含有量の下限は0.07 mass%が好ましい。
【0023】
Hf含有量が4.0mass%を超えると、硬さ(ビッカース硬さ)は硬くなるが、比抵抗高くなる。Hf含有量の上限は3.5 mass%が好ましい。
【0024】
(プローブピンの製造方法)
本発明に従うプローブピンに使用する合金は、それ自体既知の方法に従い、例えばRhにHfを所定量添加し、それをアーク溶解炉やプラズマ溶解炉にて溶解することにより製造することができる。溶解時の炉雰囲気としては、不活性ガスを使用することができる。また溶融状態の上記の合金を適当な型で凝固させることにより、インゴットを作製する。
【0025】
インゴットを600℃以上の温度で加熱後、温間または熱間鍛造やスェージング加工を施し、加工することができる。
【0026】
インゴットを600~1100℃の温度で加熱後、温間または熱間溝ロールにより角形または多角形の棒材または線材に加工する。さらにダイスを用い600~1100℃で加熱後、温間または熱間伸線加工することにより、プローブピン用材料を作製することができる。また600~1100℃で加熱後、温間または熱間圧延により板形状を作製し、そこから切削加工等を用いて、所定形状のプローブピンとするプローブピン用材料を作製することができる。そのプローブピン用材料を切削等によりプローブピンとすることができる。
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例
【0028】
Rhに、Hfを所定量に配合し、1試料につき40gになるよう所定量配合、所定形状の水冷銅ハース上でアーク溶解炉にて溶解、凝固させ約φ30mm×t8mmのボタンインゴットを作製した。表1に作製した組成を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
加工性を見極めるため、作製したインゴットを、酸素-都市ガスバーナーにより約1000℃に加熱後、t4mmになるまで熱間鍛造を行った。
【0031】
熱間鍛造後のインゴットを600~800℃に加熱後、熱間圧延によりt0.5mmまで圧延し、板を作製した。圧延は1パスで約0.1mmずつ落としており、1パスの圧下率は2%~20%とした。全サンプルとも大きな割れ等は発生しなかった。
【0032】
上記加工後の各サンプル(以下、加工材という)の特性を以下のように測定した。
【0033】
作製した板から、引張試験用、硬さ測定用、比抵抗測定用試験片をワイヤー放電で切り出した。
【0034】
引張試験用試験片形状は、厚さ0.5mm×幅2mm×平行部28mmとし、万能材料試験機で引張強さおよび0.2%耐力を測定した。
【0035】
比抵抗用試験片は、厚さ0.5mm×幅3mm×長さ35mmとし、ノギスおよびマイクロメーターを用い、試験片断面形状および測定間距離を測定し、デジタルマルチメーターを用い直流四端子法で抵抗を測定、比抵抗を算出した。
比抵抗=(抵抗×断面積)/長さ
【0036】
硬さは、マイクロビッカース硬さ計を用い、縦断面を測定した。試験条件は、荷重200g、保持時間10秒とした。
【0037】
試験結果は表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
引張強さ、0.2%耐力は、比較例1-2では比較例1-1のRhと差はなくHfの添加効果が見られなかった。
【0040】
一方、実施例では、引張強さ、0.2%耐力とも向上している。
【0041】
硬さは、Hfの添加量が多いほど硬くなる。
【0042】
比抵抗は、実施例1-1は、Rhと差はなく、低比抵抗を維持している。実施例1-2~実施例1-6の結果から、Hfの添加量が多くなるほど比抵抗は増加するが、実施例1-7の3.4mass%Hf添加でも9.3μΩ・cmであって、Pd(比抵抗:10.5μΩ・cm)やPt(比抵抗:10.5μΩ・cm)よりも低い比抵抗を維持している。
【0043】
次に、表1中の実施例1-2および比較例1-1を細線加工ができるか確認するため、加工実験を行った。1試料につき60gになるよう所定量配合、所定形状の水冷銅ハース上でアーク溶解炉にて溶解、凝固させ約t8mm×w10mm×L60mmの棒状インゴットを作製した。インゴットを酸素-都市ガスバーナーで600℃以上に加熱し、熱間溝ロール加工により□2.5mmまで加工した。更に□2.5mmまで加工したインゴットを、□1.0mmまで700~1000℃で加熱し、熱間溝ロール加工を行った。加工率は、断面減少率40%以下で行っている。そして、溝ロール加工した材料を半径約150mmのリールに巻いた。その時の加工状況を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表7で示すように、各サンプル共に加工直後では特に問題なかったが、リールに巻く段階になると実施例1-2は特に問題なかったが、比較例1-1はリールにかかり、曲げ応力が加わる箇所にて破折が多発した。実施例1-1、1-3~1-7は、実施例1-2と同様の結果を示した。