(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】照明装置、照明システム及び照明制御方法
(51)【国際特許分類】
H05B 47/16 20200101AFI20230623BHJP
H05B 45/10 20200101ALI20230623BHJP
H05B 45/20 20200101ALI20230623BHJP
H05B 47/155 20200101ALI20230623BHJP
A61M 21/00 20060101ALI20230623BHJP
H05B 47/165 20200101ALI20230623BHJP
【FI】
H05B47/16
H05B45/10
H05B45/20
H05B47/155
A61M21/00 Z
H05B47/165
(21)【出願番号】P 2022501097
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006483
(87)【国際公開番号】W WO2021167100
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2020026628
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム『i-Brain×ICT 「超快適」スマート社会の創出グローバルリサーチコンプレックス』 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【氏名又は名称】坪内 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】三井 勝裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀崇
(72)【発明者】
【氏名】大林 賢史
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/225245(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/225247(WO,A1)
【文献】米国特許第10420184(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 47/16
H05B 45/10
H05B 45/20
H05B 47/155
A61M 21/00
H05B 47/165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を出射する発光部と、
前記発光部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の第1低下率が、昼間点灯時の照明光の照度に対する夜間点灯時の照明光の照度の第2低下率よりも大きくなるように、照明光を制御する、照明装置。
【請求項2】
前記制御部は、夜間点灯時の照度が、昼間点灯時の照明光の照度よりも小さくなるように、照明光を制御する、請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1低下率が、夜間点灯時の照明光の色温度の昼間点灯時の照明光の色温度に対する第3低下率よりも大きくなるように、照明光を制御する、請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記制御部は、夜間点灯時の照明光の色温度が、昼間点灯時の照明光の色温度よりも小さくなるように、照明光を制御する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1低下率が、夜間点灯時の照明光の光子束の昼間点灯時の照明光の光子束に対する第4低下率が大きくなるように、照明光を制御する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項6】
前記制御部は、夜間点灯時の照明光の光子束を、昼間点灯時の照明光の光子束よりも小さくするように、照明光を制御する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項7】
前記制御部は、メラトニン分泌開始時刻に基づいて前記メラノピック照度を低くするタイミングを決定する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項8】
前記制御部は、メラトニン分泌開始時刻においてメラノピックパワーが所定値以下になるように、照明光を制御する、請求項1から7までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項9】
前記制御部は、メラトニン分泌開始時刻から所定時間前に、メラノピックパワーを低下させ始めるように、照明光を制御する、請求項1から8までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項10】
前記制御部は、メラトニン分泌量が所定値を超えた時刻を、前記メラトニン分泌開始時刻として、照明光を制御する、請求項7から9までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項11】
前記制御部は、対象者の就床時刻の所定時間前までに前記対象者のメラトニン分泌量を少なくとも3回の測定それぞれによって得られたデータから算出された前記メラトニン分泌量の標準偏差の2倍の値を超えたときの時刻を、前記メラトニン分泌開始時刻として、照明光を制御する、請求項7から9までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項12】
前記制御部は、メラノピックパワーを所定値以下にするものの、照明光の照度の低下率をメラノピック照度の低下率よりも小さくする、請求項1から11までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項13】
前記制御部は、対象者の就床時刻において、メラノピックパワーを0%にする、請求項1から12までのいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項14】
サーバと、照明光を出射する照明装置とを備え、
前記サーバは、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の第1低下率が、昼間点灯時の照明光の照度に対する夜間点灯時の照明光の照度の第2低下率よりも大きくなるように、照明光を制御する、照明システム。
【請求項15】
照明光を出射する発光部を備える照明装置が、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の第1低下率が、昼間点灯時の照明光の照度に対する夜間点灯時の照明光の照度の第2低下率よりも大きくなるように、前記発光部が出射する照明光を制御することを含む、照明制御方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願へのクロスリファレンス】
【0001】
本出願は、日本国特許出願2020-26628号(2020年2月19日出願)の優先権を主張するものであり、当該出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、照明装置、照明システム及び照明制御方法に関する。
【背景技術】
【0003】
特定の環境に対するユーザの好みによって照明を制御するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の一実施形態に係る照明装置は、照明光を出射する発光部と、前記発光部を制御する制御部とを備える。前記制御部は、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の第1低下率が、夜間点灯時の照明光の照度の昼間点灯時の照明光の照度に対する第2低下率よりも大きくなるように、照明光を制御する。
【0006】
本開示の一実施形態に係る照明システムは、照明光を出射する照明装置と、サーバとを備える。前記サーバは、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の第1低下率が、昼間点灯時の照明光の照度に対する夜間点灯時の照明光の照度の第2低下率よりも大きくなるように、照明光を制御する
【0007】
本開示の一実施形態に係る照明制御方法は、照明光を出射する発光部を有する照明装置が照明光を制御することを含む。前記照明装置は、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の第1低下率が、夜間点灯時の照明光の照度の昼間点灯時の照明光の照度に対する第2低下率よりも大きくなるように、照明光を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る照明システム及び照明装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】ipRGC細胞の分光感度曲線の一例を示すグラフである。
【
図3】照度及び光子束を維持しつつメラノピック照度を低下させたスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図4】照度及び色温度を維持しつつメラノピック照度を低下させたスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図5】照明光のメラノピック照度を時間の経過に応じて変化させる例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
現代において支障のない生活のために、夜間の照明が必要とされている。しかし、人間が夜間に光に曝露されることによって、人間の体内におけるメラトニン分泌が抑制され得る。メラトニンには覚醒・睡眠リズムの調整作用、血管拡張作用、抗酸化作用、又は抗ガン作用があると言われていることから、メラトニン分泌の抑制は、人の健康に影響を及ぼし得る。
【0010】
本開示は、ユーザの概日リズムを考慮しつつ、ユーザの生活に支障を生じさせにくいように照明を制御できる照明装置について説明する。
【0011】
(照明装置の構成例)
図1に示されるように、照明システム1は、照明装置10と、サーバ20とを備える。
【0012】
照明装置10は、制御部12と、複数の発光部16とを備える。各発光部16は、所定のスペクトルで特定される光を出射する。所定のスペクトルは、360nmから780nmまでの波長領域に1又は複数のピーク波長を有してよい。360nmから780nmまでの波長領域にピーク波長を有する光は、可視光とも称される。360nmから780nmまでの波長領域は、可視光領域とも称される。つまり、発光部16は、可視光領域に1又は複数のピーク波長を有するスペクトルで特定される光を出射してよい。光を特定するスペクトルは、例えば、分光測光装置などにより分光法を用いて測定される。
【0013】
各発光部16が出射する光をあわせた光は、合成光とも称される。合成光は、照明装置10全体として出射する照明光とみなされる。複数の発光部16のうち、少なくとも1つの発光部16が出射する光のスペクトルは、他の発光部16が出射する光のスペクトルと異なる。制御部12は、異なるスペクトルで特定される光を出射する発光部16をそれぞれ制御することによって、照明装置10全体として出射する照明光のスペクトルを制御できる。
【0014】
制御部12は、照明装置10の種々の機能を実行するための制御及び処理能力を提供するために、少なくとも1つのプロセッサを含んでよい。プロセッサは、制御部12の種々の機能を実現するプログラムを実行しうる。プロセッサは、単一の集積回路として実現されてよい。集積回路は、IC(Integrated Circuit)ともいう。プロセッサは、複数の通信可能に接続された集積回路及びディスクリート回路として実現されてよい。プロセッサは、他の種々の既知の技術に基づいて実現されてよい。
【0015】
制御部12は、記憶部を備えてよい。記憶部は、磁気ディスク等の電磁記憶媒体を含んでよいし、半導体メモリ又は磁気メモリ等のメモリを含んでもよい。記憶部は、各種情報及び制御部12で実行されるプログラム等を格納する。記憶部は、制御部12のワークメモリとして機能してよい。記憶部の少なくとも一部は、制御部12とは別体として構成されてもよい。
【0016】
発光部16は、例えば、発光素子と波長変換部材とを備えてよい。発光素子は、例えば360nmから430nmまでの波長領域にピーク波長を有するスペクトルで特定される光を出射してよい。360nmから430nmまでの波長領域にピーク波長を有するスペクトルで特定される光は、紫色光ともいう。360nmから430nmまでの波長領域は、紫色光領域ともいう。可視光は、紫色光を含むとする。可視光領域は、紫色光領域を含むとする。波長変換部材は、発光素子から波長変換部材に入射してきた光を、可視光領域にピーク波長を有するスペクトルで特定される光に変換して出射する。波長変換部材は、発光素子が出射する光によって励起され、他の波長の光を出射するともいえる。発光素子が出射する光は、励起光とも称される。励起光は、紫色光に限られず、例えば430nmから500nmまでの波長領域にピーク波長を有するスペクトルで特定される青色光等であってもよい。
【0017】
波長変換部材は、蛍光体を含んでよい。蛍光体は、励起光を、例えば400nmから500nmまでの波長領域内にピーク波長を有するスペクトルで特定される光、つまり青色の光に変換してよい。蛍光体は、励起光を、例えば450nmから550nmまでの波長領域内にピーク波長を有するスペクトルで特定される光、つまり青緑色の光に変換してよい。蛍光体は、励起光を、例えば500nmから600nmまでの波長領域内にピーク波長を有するスペクトルで特定される光、つまり緑色の光に変換してよい。蛍光体は、励起光を、例えば600nmから700nmまでの波長領域内にピーク波長を有するスペクトルで特定される光、つまり赤色の光に変換してよい。蛍光体は、励起光を、例えば680nmから800nmまでの波長領域内にピーク波長を有するスペクトルで特定される光、つまり近赤外光に変換してよい。蛍光体は、励起光を、例えば朱色、黄色、又は白色の光に変換してもよい。
【0018】
波長変換部材は、複数の種類の蛍光体を含んでよい。蛍光体の種類は、上述した種類に限られず、他の種類を含んでもよい。波長変換部材が含有する蛍光体の種類の組み合わせは、特に限定されない。波長変換部材が含有する蛍光体の比率は、特に限定されない。波長変換部材は、励起光を、含有する蛍光体の種類及び比率に基づいて定まるスペクトルで特定される光に変換する。照明装置10は、例えば、紫色、青色、緑色、青緑色、朱色、黄色、赤色、及び白色の各色の光を出射する発光部16を備えてよい。照明装置10は、各発光部16が出射する光の強度を制御することによって、合成光のスペクトルを制御する。
【0019】
サーバ20は、照明装置10と有線又は無線で通信可能に接続される。サーバ20は、少なくとも1つのプロセッサを含んでよい。サーバ20に含まれるプロセッサは、制御部12に含まれるプロセッサと同一又は類似のプロセッサであってよい。サーバ20は、後述する照明光の制御に関する動作を、制御部12の代わりに実行してもよい。サーバ20は、通信によって発光部16に対する制御指示を送信してよい。
【0020】
(メラノピック照度)
人間の体内でメラトニン分泌に寄与するipRGC(intrinsically photosensitive retinal ganglion cell)細胞の分光感度のグラフが
図2に示される。
図2において、横軸は、光の波長を表す。縦軸は、各波長におけるipRGC細胞の相対感度を表す。ipRGC細胞の分光感度は、約490nmの波長においてピークを有する。
【0021】
下記<論文1>によれば、暗闇の中にいる人間のメラトニン分泌量に対して、光に曝露される人間のメラトニン分泌量は、少ない。メラトニン分泌量の減少量は、光の波長に依存する。460nmの波長の光に曝露される人間のメラトニン分泌量の減少量は、550nmの波長の光に曝露される人間のメラトニン分泌量の減少量よりも大きい。つまり、ipRGC細胞の分光感度がピークとなる波長に近い波長の光に曝露されることによって、人間のメラトニン分泌量の減少量が大きくなる。
<論文1>
Cajochen C et al. J Clin Endocrinol Metab. 2005; 90(3): 1311-1316
【0022】
下記<論文2>において、照明光のスペクトルがipRGC細胞に及ぼす影響の数値化が試みられている。<論文2>において、ipRGC細胞に及ぼす影響を減少させるように、照明光のスペクトルを制御することが提案されている。このように制御するために、ipRGC細胞の分光感度に基づいて定まるメラノピック照度を照明光のパラメータとして制御することが提案されている。
<論文2>
Robert J. Lucas et al. Trends in Neurosciences January 2014, Vol. 37, No. 1
【0023】
メラノピック照度は、例えばLucasらが提供する下記URLでダウンロードできる表計算シートに基づいて算出され得る。
http://personalpages.manchester.ac.uk/staff/robert.lucas/Lucas%20et%20al%202014%20workbook.xls
【0024】
本実施形態において、メラノピック照度は、主に400nmから550nmまでの波長領域に含まれる各波長の放射照度に基づいて算出されるとする。
【0025】
(スペクトルの制御例)
本実施形態に係る照明装置10は、メラノピック照度をパラメータとして照明光のスペクトルを制御することによって、照明光が人間の概日リズムに及ぼす影響を低減できる。具体的には、照明装置10は、照明光を出射する発光部16と、発光部16を制御する制御部12とを備える。制御部12は、照明光のメラノピック照度を制御して、夜間点灯時の照明光のメラノピック照度を、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度よりも低くすることができる。その結果、人間の概日リズムに影響を及ぼしにくく、且つ、生活に支障を生じさせにくい照明光が実現され得る。なお、夜間とは、例えば、19時~24時であってよい。また、昼間とは、例えば、10~12時であってよい。
【0026】
<照度>
照明装置10は、可視光の照度をパラメータとして照明光のスペクトルを制御してもよい。照度は、対象物が照らされる明るさの度合いを表す。つまり、照明装置10が照度とメラノピック照度とをパラメータとして照明光のスペクトルを制御することによって、人間の概日リズムに影響を及ぼしにくく、かつ、生活に支障を生じさせにくい照明光が実現され得る。
【0027】
制御部12は、照明光のメラノピック照度を制御して、夜間点灯時の照明光の照度を、昼間点灯時の照明光の照度よりも低くすることができる。これによって、照明光のスペクトルの変化が生活に支障を生じさせにくいようにできる。
【0028】
照明装置10は、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の低下率が、昼間点灯時の照明光の照度に対する夜間点灯時の照明光の照度の低下率よりも大きくなるように、照明光を制御してもよい。昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の低下率は、第1低下率とも称される。昼間点灯時の照明光の照度に対する夜間点灯時の照明光の照度の低下率は、第2低下率とも称される。言い換えれば、第2低下率は第1低下率よりも小さい。低下率は、パラメータが元の値から低下した大きさをパラメータの元の値で割った値として表される。その結果、照明装置10は、メラノピック照度を低下させることが照度に影響を及ぼしにくくなる。照度が影響を受けにくいことによって、人間の生活に支障が生じにくい。一方で、メラノピック照度が低くされることによって、夜間における人間のメラトニン分泌が抑制されにくくなる。その結果、人間の概日リズムが影響を受けにくくなる。つまり、概日リズムへの影響の低減と、生活支障の低減とが両立され得る。なお、照明装置10は、照明光のパラメータとして照度を維持しつつ、メラノピック照度を低くするように、夜間の照明光のスペクトルを制御してよい。
【0029】
<光子束>
照明装置10は、照明光のパラメータとして光子束を制御してもよい。光子束は、1秒当たり且つ1cm2当たりの光子数を表す。これによって、照明光のスペクトルの変化が生活に支障を生じさせにくいようにできる。つまり、照明装置10が光子束とメラノピック照度とをパラメータとして照明光のスペクトルを制御することによって、人間の概日リズムに影響を及ぼしにくく、且つ、生活に支障を生じさせにくい照明光が実現され得る。
【0030】
また、制御部12は、照明光の光子束を制御して、夜間点灯時の照明光の光子束を、昼間点灯時の照明光の光子束よりも小さくすることができる。これによって、照明光のスペクトルの変化が生活に支障を生じさせにくいようにできる。
【0031】
照明装置10は、昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の第1低下率が、昼間点灯時の照明光の色温度に対する夜間点灯時の照明光の色温度の低下率よりも大きくなるように、照明光を制御してもよい。昼間点灯時の照明光の色温度に対する夜間点灯時の照明光の色温度の低下率は、第3低下率とも称される。言い換えれば、第3低下率が第1低下率よりも小さい。このようにすることで、人間が違和感を覚えにくくなる。なお、照明装置10は、照明光のパラメータとして光子束を維持しつつ、メラノピック照度を低くするように、夜間の照明光のスペクトルを制御してよい。
【0032】
照明装置10は、メラノピック照度を低くする際に、照度の第2低下率だけでなく、光子束の第3低下率がメラノピック照度の第1低下率より小さくなるように制御してよい。なお、照明装置10は、照明光のパラメータとして照度及び光子束の両方を維持しつつ、メラノピック照度を低くしてもよい。
【0033】
<色温度>
照明装置10は、照明光のパラメータとして色温度を制御してもよい。色温度は、黒体の温度に対応づけられるパラメータである。Tで表される温度を有する黒体が放射する光のスペクトルの色温度は、Tと表される。例えば、5000K(ケルビン)の黒体が放射する光のスペクトルの色温度は、5000Kと表される。約4000K~5000Kの色温度を有する光の色は、白色とも称される。色温度が白色の光よりも低いほど、その光の色は、赤色の成分を多く含みうる。つまり、低い色温度を有する光は、赤っぽく見える。色温度が白色の光よりも高いほど、その光の色は、青色の成分を多く含みうる。つまり、高い色温度を有する光は、青っぽく見える。
【0034】
黒体が放射する光のスペクトルだけでなく、黒体が放射する光のスペクトルに近似するスペクトルも、色温度によって表されてよい。所定のスペクトルがTで表される温度を有する黒体が放射する光のスペクトルに近似する場合、所定のスペクトルの色温度はTと表されるとする。2つの光のスペクトルが互いに近似の関係であるか否かは、種々の条件によって決定されてよい。2つの光のスペクトルが互いに近似の関係であるための条件は、例えば、2つの光のスペクトル同士で各波長の相対強度を比較した場合に、各波長における差が所定範囲内であることを含んでよい。2つの光のスペクトルが互いに近似の関係であるための条件は、例えば、2つの光のスペクトルにそれぞれ含まれるピーク波長の差が所定範囲内であることを含んでもよい。2つの光のスペクトルが近似の関係であるための条件は、これらの例に限られず種々の条件を含んでもよい。
【0035】
例えば、正午頃の太陽光のスペクトルは、約5000Kの黒体が放射する光のスペクトルに近似されうる。この場合、正午頃の太陽光の色温度は、約5000Kと表されるとする。約5000Kの色温度で表される光の色は、昼白色とも称される。昼白色の色温度よりも高い約6500Kの色温度で表される光の色は、昼光色とも称される。昼光色は、昼白色よりも青色光の成分又は青色光よりも短い波長の成分を多く含み、青っぽく見える。逆に、昼白色は、昼光色よりも白色に近い色に見える。
【0036】
照明装置10は、色温度を制御することによって、照明光のスペクトルの変化が生活の支障となりにくいようにできる。つまり、照明装置10が色温度とメラノピック照度とをパラメータとして照明光のスペクトルを制御することによって、人間の概日リズムに影響を及ぼしにくく、かつ、生活に支障を生じさせにくい照明光が実現され得る。
【0037】
制御部12は、夜間点灯時の照明光の色温度を、昼間点灯時の照明光の色温度よりも小さくするように、照明光の色温度を制御することができる。これによって、照明光のスペクトルの変化が生活に支障を生じさせにくいようにできる。
【0038】
照明装置10は、夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する第1低下率が、昼間点灯時の照明光の光子束に対する夜間点灯時の照明光の光子束の低下率よりも大きくなるように、照明光を制御してもよい。昼間点灯時の照明光の光子束に対する夜間点灯時の照明光の光子束の低下率は、第4低下率とも称される。言い換えれば、第4低下率が第1低下率よりも小さくてもよい。このようにすることで、人間に対する予期しない影響が低減され得る。なお、照明装置10は、照明光のパラメータとして色温度を維持しつつ、メラノピック照度を低くするように、夜間の照明光のスペクトルを制御してよい。
【0039】
照明装置10は、メラノピック照度を低くする際に、照度の第2低下率だけでなく、色温度の第4低下率がメラノピック照度の第1低下率より小さくなるように制御してよい。照明装置10は、照明光のパラメータとして照度及び色温度の両方を維持しつつ、メラノピック照度を低くしてもよい。
【0040】
<比較例>
本実施形態に係る照明装置10は、種々の色を出射する発光部16をそなえることによって、種々のスペクトルで特定される光を出射できる。一方で、比較例に係る装置は、青色光を出射する発光素子と、青色光を黄色光に変換する蛍光体とを備える。
【0041】
図3及び
図4において、本実施形態に係る照明装置10が出射する照明光を特定するスペクトルと、比較例に係る装置が出射する照明光を特定するスペクトルとが比較される。
図3及び
図4において、横軸は、照明光の波長を表す。縦軸は、各波長を有する光の放射照度を表す。本実施形態に係る照明装置10が出射する照明光を特定するスペクトルは、実線で示されている。比較例に係る装置が出射する光を特定するスペクトルは、破線で示されている。
【0042】
図3に示されるように、本実施形態の照明光と比較例の照明光とでスペクトルが大きく異なる。本実施形態の照明光の照度は、158.5luxとされている。比較例の照明光の照度は、158.5luxとされている。本実施形態の照明光の光子束は、1.45E+14photons/cm
2/sとされている。比較例の照明光の光子束は、1.45E+14photons/cm
2/sとされている。つまり、本実施形態の照明光の照度及び光子束は、比較例の照明光の照度及び光子束に対して同じ値とされている。
【0043】
一方で、メラノピック照度に強く寄与する、450nmから500nmまでの波長領域内の各波長の放射照度は、本実施形態と比較例とで大きく異なる。450nmから500nmまでの波長領域は、Aで表される範囲に対応する。本実施形態に係る照明光を特定するスペクトルの、Aで表される範囲における放射照度は、比較例に係る照明光の放射照度より低い。本実施形態に係る照明光のメラノピック照度は、40melanopic luxである。比較例に係る照明光のメラノピック照度は、157melanopic luxである。なお、メラノピック照度は、ipRGC細胞の分光感度で重み付けした照度であり、単に「lux」を単位としても用いる場合もある。つまり、本実施形態に係る照明光のメラノピック照度は、比較例に係る照明光のメラノピック照度より低くなっている。
【0044】
以上のとおり、照明装置10は、比較例の照明光に対して、照度及び光子束を維持しつつ、メラノピック照度を低下させることができる。
【0045】
図4に示されるように、本実施形態の照明光と比較例の照明光とでスペクトルが大きく異なる。本実施形態の照明光の照度は、159.6luxとされている。比較例の照明光の照度は、159.3luxとされている。本実施形態の照明光の色温度は、3930Kとされている。比較例の照明光の色温度は、3942Kとされている。つまり、本実施形態の照明光の照度及び色温度は、比較例の照明光の照度及び色温度に対してほとんど同じ値とされている。
【0046】
一方で、450nmから500nmまでの波長領域内の各波長の放射強度は、本実施形態と比較例とで大きく異なる。450nmから500nmまでの波長領域は、Aで表される範囲に対応する。本実施形態に係る照明光を特定するスペクトルの、Aで表される範囲における放射照度は、比較例に係る照明光の放射照度より低い。本実施形態に係る照明光のメラノピック照度は、78melanopic luxである。比較例に係る照明光のメラノピック照度は、106melanopic luxである。つまり、本実施形態に係る照明光のメラノピック照度は、比較例に係る照明光のメラノピック照度より低くなっている。
【0047】
以上のとおり、照明装置10は、比較例の照明光に対して、照度及び色温度を維持しつつ、メラノピック照度を低下させることができる。
【0048】
(照明光の時間変化)
図5に例示されるように、照明装置10は、照明光のメラノピック照度を時間の経過に応じて変化させてよい。
図5のグラフにおいて、横軸は、照明装置10で照らす対象者の起床から就床までに経過する時間を表す。縦軸は、メラノピックパワーを表す。メラノピックパワーは、照明装置10が出射する照明光における最大メラノピック照度に対する、実際のメラノピック照度の比として表される値である。最大メラノピック照度は、照明装置10が備えるすべての発光部16が最大出力で光を出射する場合に出射される照明光のメラノピック照度に対応する。したがって、メラノピックパワーの最大値は100%である。
【0049】
照明装置10は、対象者が起床してから夕方まで、メラノピックパワーを100%としてよい。夕方は、昼間と夜間との間の時間帯、又は、昼間と夜間との境界の時刻に対応する。照明装置10は、メラノピックパワーを100%未満の値にしてもよい。照明装置10は、メラトニン分泌開始時刻(DLMO:Dim Light Melatonin Onset)においてメラノピックパワーが所定値以下になるように照明光のスペクトルを制御する。このようにすることで、対象者の概日リズムが乱されにくくなる。
【0050】
照明装置10は、メラノピックパワーを所定値以下にするものの、照明光の照度の低下率をメラノピック照度の低下率よりも小さくしてもよい。このようにすることで、対象者の生活に支障が生じにくくなる。
【0051】
照明装置10は、メラトニン分泌開始時刻になったタイミングで急にメラノピックパワーを所定値以下にしてもよい。
【0052】
照明装置10は、メラトニン分泌開始時刻から所定時間前に、メラノピックパワーを低下させ始めてもよい。照明装置10は、例えば夕方からメラトニン分泌開始時刻まで徐々にメラノピックパワーを低下させてもよい。このようにすることで対象者が照明光の変化に気づきにくくなる。
【0053】
図5の例において、所定値は25%とされている。所定値は25%に限られず、他の値に設定されてもよい。
【0054】
メラトニン分泌開始時刻は、例えば、対象者のメラトニン分泌量が所定値(例えば3pg/ml)を超えた時刻に設定されてよい。メラトニン分泌開始時刻は、対象者の就床時刻の所定時間前(例えば2時間前)までに、少なくとも3回の測定(例えば30分毎の測定)それぞれによって得られた少なくとも3つのデータから算出されたメラトニン分泌量の標準偏差の2倍の値を超えたときの時刻に設定されてよい。メラトニン分泌開始時刻は、個人差又は身体状態の差に基づいて適宜設定されてよい。
【0055】
照明装置10は、対象者の就床時刻において、メラノピックパワーを0%にする、もしくは消灯してよい。
【0056】
以上述べてきたように、本実施形態に係る照明装置10は、ユーザの概日リズムを考慮しつつ、ユーザが支障なく生活できるように照明光を制御できる。
【0057】
(照明制御方法)
照明装置10は、以下に例示する手順を含む照明制御方法を実行してよい。照明制御方法は、サーバ20によって実行されてもよい。照明制御方法は、プロセッサに実行させる照明制御プログラムとして実現されてもよい。照明制御プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。照明制御プログラムは、サーバ20を構成するプロセッサに実行させてもよい。
【0058】
<手順>
照明装置10は、夜間点灯時の照明光のメラノピック照度の昼間点灯時の照明光のメラノピック照度に対する第1低下率が、夜間点灯時の照明光の照度の昼間点灯時の照明光の照度に対する第2低下率よりも大きくなるように、照明光を制御する。
【0059】
照明装置10は、上記手順を実行することによって、ユーザの概日リズムを考慮しつつ、ユーザが支障なく生活できるように照明光を制御できる。
【0060】
本開示に係る実施形態について説明する図は模式的なものである。図面上の寸法比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。
【0061】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 照明システム
10 照明装置
12 照明制御部
16 発光部
20 サーバ