(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】回転散液具およびそれを備える蒸発装置
(51)【国際特許分類】
B01D 1/22 20060101AFI20230623BHJP
B01D 3/00 20060101ALI20230623BHJP
B01F 27/80 20220101ALI20230623BHJP
B01F 35/90 20220101ALI20230623BHJP
【FI】
B01D1/22 D
B01D3/00 Z
B01F27/80
B01F35/90
(21)【出願番号】P 2019195441
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】向田 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】山路 寛司
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-026324(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/043368(WO,A1)
【文献】特開2016-097348(JP,A)
【文献】特開平11-235522(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203273(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01B 1/00-1/08
B01D 1/00-8/00
B01F 27/00-27/96
B01F 35/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発装置の撹拌槽内に配置され、そして該撹拌槽内に貯留された原料液を熱源に散布するための回転散液具であって、
下端から上端に向かって拡径する内側表面を有する、環状基部と、
該環状基部の該上端を構成する円周の一部から上方に向かって放射状に延びる、複数の樋状部材と、
該複数の該樋状部材を互いに連結し、かつ該蒸発装置の回転軸に取り付け可能な連結部と、
を備える、回転散液具。
【請求項2】
前記環状基部の前記内側表面に沿って、前記環状基部の前記下端から前記上端への前記原料液の移動を制御する遮蔽部が設けられており、そして該原料液が該遮蔽部に設けられた複数の開口を通じて該環状基部の該下端から該上端まで移動可能である、請求項1に記載の回転散液具。
【請求項3】
前記複数の樋状部材が、前記環状基部における前記遮蔽部の前記複数の開口の位置に対応して設けられている、請求項2に記載の回転散液具。
【請求項4】
前記複数の樋状部材が長さ方向において略円弧状の流路断面を有し、そして該流路断面の曲率が、該樋状部材の下端から上端にかけて大きくなるように変動する、請求項1から3のいずれかに記載の回転散液具。
【請求項5】
蒸発装置であって、
原料液供給口、揮発性成分出口および濃縮液出口を備え、かつ原料液を収容する、撹拌槽と、
該撹拌槽の内部に設けられた熱源と、
該撹拌槽内に設けられておりかつ該熱源に該原料液を流下する、散液部と、
該撹拌槽の外周に設けられておりかつ該撹拌槽の内壁を冷却する、第1コンデンサーと、
を備え、
該散液部が、回転軸と、該回転軸に取り付けられた請求項1から
4のいずれかに記載の回転散液具とから構成されている、蒸発装置。
【請求項6】
さらに、前記撹拌槽の前記内側に第2コンデンサーを備え、該第2コンデンサーが前記散液部の回転軌跡の内側に配置されている、請求項
5に記載の蒸発装置。
【請求項7】
前記撹拌槽
の底部に第2揮発性成分出口を備え、該第2揮発性成分出口が、前記第2コンデンサーの下方に配置されている、請求項
6に記載の蒸発装置。
【請求項8】
原料液を含む原料タンクと、
該原料タンクから供給される該原料液を処理する、請求項
5から
7のいずれかに記載の蒸発装置と、
を備える、蒸発システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転散液具およびそれを備える蒸発装置に関し、より詳細には、撹拌槽内の原料液に含まれる揮発性成分を熱源に散布して蒸発させるための回転散液具およびそれを備える蒸発装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品工業、化学工業および医薬品工業の分野において、夾雑物や不純物を含む液体から揮発性成分である溶媒を回収または分離するために、「流下薄膜蒸発装置」と呼ばれる蒸発装置が使用されている。
【0003】
従来の流下薄膜蒸発装置は、熱源により加熱された内壁を有する撹拌槽と、当該撹拌槽の内壁に接触して周回するローラーやワイパーとを備える。この流下薄膜蒸発装置は、撹拌槽の上方から濡れ面を形成しながら内壁上を流下した原料液を加熱し、かつ原料液に含ませる揮発性成分を内壁上で蒸発させる一方、内壁上で周回するローラーまたはワイパーによって内壁の伝熱面に存在する原料液を強制的に表面更新し、蒸発効率を高めることができる。しかし、こうした流下薄膜蒸発装置は、供給される原料液がいわゆる「ワンオパス」による1回の流下で移動するため、原料液に大量の揮発性成分が含まれているような場合には、内壁を流下するまでの間に十分に揮発性成分が蒸発しないことがあり、蒸発効率の改善が所望されていた。
【0004】
これに対し、近年では、撹拌槽内に原料液を一時的に貯留し、ローラーおよびワイパーに代えて、撹拌槽内で水平方向に回転することにより撹拌槽内に貯留した原料液を掬い上げた後、当該回転に伴って掬い上げた原料液を樋状の流路を通じて上方に引き上げ、かつ上端部から撹拌槽の内壁に向かって散布する回転散液具を備える蒸発装置が提案されている(例えば、特許文献1)。このような回転散液具を備える蒸発装置では、原料液が繰り返し、撹拌槽内の内壁上に散布かつ流下可能であるため、原料液内の揮発性成分を効率良く蒸発させることができる。ここで、特許文献1は、こうした回転散液具を上下方向に多段式に配置することにより原料液を段階的に濃縮可能であることや、撹拌槽内にコンデンサー(冷却器)を配置することにより蒸発した揮発性成分をコンデンサー上で凝縮させ、液体として回収可能であることも記載している。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の回転散液具は、蒸発装置の撹拌槽内で自らが回転して原料液の掬い上げを行う際に原料液の液面を激しく揺動させることがある。特に撹拌槽内に貯留された原料液が少量であると、液面の揺動によって回転散液具から当該原料液を適切に掬い上げることが困難となる場合がある。
【0006】
あるいは、撹拌槽の内壁に散布や液面の揺動によって撹拌槽内に原料液の不要な飛沫が発生することがある。撹拌槽内に発生する原料液の飛沫量が多くなると、それが撹拌槽内に配置されたコンデンサーに付着する可能性を高めることになり、コンデンサーで凝縮される揮発性成分を汚染して純度の低下を招くことが考えられる。
【0007】
このように回転散液具を備える蒸発装置は、従来の流下薄膜蒸発装置と比較して揮発性成分の蒸発効率を向上させてきた一方で、撹拌槽内の原料液の飛沫を低減させるための新たな改良が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、撹拌槽内における原料液の無用な飛沫の発生を低減することができる回転散液具およびそれを備える蒸発装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、蒸発装置の撹拌槽内に配置され、そして該撹拌槽内に貯留された原料液を熱源に散布するための回転散液具であって、
下端から上端に向かって拡径する内側表面を有する、環状基部と、
該環状基部の該上端を構成する円周の一部から上方に向かって放射状に延びる、複数の樋状部材と、
該複数の該樋状部材を互いに連結し、かつ該蒸発装置の回転軸に取り付け可能な連結部と、
を備える、回転散液具である。
【0011】
1つの実施形態では、上記環状基部の上記内側表面に沿って、上記環状基部の上記下端から上記上端への上記原料液の移動を制御する遮蔽部が設けられており、そして該原料液が該遮蔽部に設けられた複数の開口を通じて該環状基部の該下端から該上端まで移動可能である。
【0012】
さらなる実施形態では、上記複数の樋状部材は、上記環状基部における上記遮蔽部の上記複数の開口の位置に対応して設けられている。
【0013】
1つの実施形態では、上記複数の樋状部材は長さ方向において略円弧状の流路断面を有し、そして該流路断面の曲率は、該樋状部材の下端から上端にかけて大きくなるように変動する。
【0014】
1つの実施形態では、上記複数の樋状部材は、回転方向内側に屈曲する屈曲部を有する。
【0015】
本発明はまた、蒸発装置であって、
原料液供給口、揮発性成分出口および濃縮液出口を備え、かつ原料液を収容する、撹拌槽と、
該撹拌槽の内部に設けられた熱源と、
該撹拌槽内に設けられておりかつ該熱源に該原料液を流下する、散液部と、
該撹拌槽の外周に設けられておりかつ該撹拌槽の内壁を冷却する、第1コンデンサーと、
を備え、
該散液部が、回転軸と、該回転軸に取り付けられた上記回転散液具とから構成されている、蒸発装置である。
【0016】
1つの実施形態では、本発明の蒸発装置は、さらに上記撹拌槽の上記内側に第2コンデンサーを備え、該第2コンデンサーが上記散液部の回転軌跡の内側に配置されている。
【0017】
さらなる実施形態では、本発明の蒸発装置は上記撹拌槽の上記底部に第2揮発性成分出口を備え、該第2揮発性成分出口は、上記第2コンデンサーの下方に配置されている。
【0018】
本発明はまた、原料液を含む原料タンクと、該原料タンクから供給される該原料液を処理する上記蒸発装置とを備える、蒸発システムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ローラーやワイパーなどの部材を用いることなく、原料液から揮発性成分を効率良く蒸発することができる。さらに、この蒸発にあたり、撹拌槽内の原料液の飛沫の発生が低減され、原料液から分離されかつ凝縮した揮発性成分に当該飛沫が混入して、揮発性成分を汚染する可能性を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の回転散液具の一例を示す当該回転散液具の斜視図である。
【
図2】
図1に示す回転散液具のA-A方向断面図である。
【
図3】
図1に示す回転散液具のB-B方向断面図である。
【
図4】
図1に示す回転散液具のC-C方向断面図である。
【
図5】
図1に示す回転散液具を備える本発明の蒸発装置の一例を模式的に表す部分断面図である。
【
図6】本発明の蒸発装置を備える蒸発システムを模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を添付の図面を参照して説明する。
【0022】
(回転散液具)
図1は、本発明の回転散液具の一例を示す当該回転散液具の斜視図である。
【0023】
本発明の回転散液具100は、環状基部102、複数の樋状部材104および連結部106から構成されている。
【0024】
環状基部102は、水平方向に沿って略円形かつ中央が空洞である環状の形態を有する。
図1に示す回転散液具100のA-A方向断面図を
図2に示す。
図2に示すように、環状基部102は、下端108から上端110に向かって拡径する内側表面112を有する。内側表面112は下端108から上端110にかけて好ましくは滑らかな面を有し、原料液が貯留された撹拌槽内で回転散液具100を所定の速度以上で回転させることにより、原料液は、原料液に含まれる構成成分の粘性と当該構成成分に付加される遠心力によって、当該内側表面112全体に広がり、より具体的には内側表面112の下端108から汲み上げられ、上端に110に向かって移動することができる。
【0025】
図2において、回転散液具100の鉛直方向に対する内側表面112の傾斜角θ
1は、鉛直線V
L1に対する内側表面112の傾斜角として表される。内側表面112の傾斜角θ
1は、必ずしも限定されないが、好ましくは1°~10°である。傾斜角θ
1が1°を下回ると、原料液の液面(水平面)に対して内側表面の立ち上がりが大きすぎて、高速で回転しても原料液が下端から上端に十分に移動しないことがある。傾斜角θ
1が10°を上回ると、原料液の液面(水平面)に対する内側表面の立ち上がりが小さすぎて回転散液具自体が少なくとも水平方向において大きくなり、例えばそれを用いてコンパクトな蒸発装置を構成することが難しくなる場合がある。
【0026】
さらに、環状基部102には、内側表面112上に環状の遮蔽部114が設けられていてもよい。遮蔽部114は、環状基部102の内側表面112に沿って配置されており、環状基部102の下端108から上端110への原料液の移動を制御することができる。具体的には、遮蔽部114は環状基部102の内側表面112に対して水平方向に延びる環状の遮蔽板116と、当該遮蔽板116の中に所定の間隔をあけて配置された複数の開口118を備える(例えば
図3を参照のこと)。回転散液具100の回転によって環状基部102の下端108から上方に向かって移動する原料液は、一旦遮蔽部114の遮蔽板116でその上方への移動が遮られ、遮蔽板116に沿って内側表面112上を水平方向に広がるように移動する。そして、遮蔽板116の間に設けられた複数の開口118にて原料液は当該開口118を通過し、再び環状基部102の上方に向かって移動させることができる。その結果、原料液は、環状基部102の遮蔽部116に設けられた複数の開口118を通じて環状基部102の下端108から上端110まで、遮蔽部116によりその移動が制御された状態で移動可能となる。
【0027】
環状基部102における遮蔽部114の取り付け位置は必ずしも限定されないが、回転散液具100の回転を停止した状態において、撹拌槽内に貯留される原料液の液面が可能な限り遮蔽部114の遮蔽板116よりも上方に位置することを防ぐために、環状基部102の上端110の近傍に設けられていることが好ましい。
【0028】
さらに環状基部102の外周に沿って、フランジ状の突出部120が設けられていてもよい。回転散液具100の回転により、撹拌槽内に貯留された原料液は、原料液に含まれる構成成分の粘性と当該構成成分に付加される遠心力によって、環状基部102の内側表面112を上記のように広がって移動するとともに、環状基部102の外側表面122においても下端108から上方に向かって広がることがある。こうした環状基部102の外側表面122における原料液の移動を防ぐために、フランジ状の突出部120は遮蔽壁の役割を果たす。すなわち、フランジ状の突出部120は、回転散液具100の回転により、環状基部102の下端108から外側表面122に沿って上昇する原料液の移動を妨げ、フランジ状の突出部120よりも上方に原料液が移動することを防止することができる。これにより、原料液は、環状基部102の下端108から環状基部102の内側表面112のみから汲み上げられ、移動することができる。
【0029】
環状基部102におけるフランジ状の突出部120の取り付け位置は必ずしも限定されないが、回転散液具100の回転を停止した状態において、撹拌槽内に貯留される原料液の液面が可能な限りフランジ状の突出部120よりも上方に位置することを防ぐために、環状基部102の下端108から離れた位置(例えば環状基部102の外周であってかつ該環状基部102の上端110の近傍)に設けられていることが好ましい。
【0030】
環状基部102の大きさは必ずしも限定されない。備え付けられる蒸発装置の撹拌槽の容量および内径に応じて任意の大きさに設計され得る。
【0031】
環状基部102は、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。環状基部102は、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0032】
樋状部材104は、
図2に示すように、環状基部102の上端110を構成する円周の一部から上方に向かって延びるように複数設けられている。環状基部102に設けられる樋状部材104の数は必ずしも限定されないが、好ましくは2本~6本の樋状部材104が設けられている。複数の樋状部材104はまた、環状基部102の回転軸を中心にして略等角となるように所定の間隔をあけて設けられていることが好ましい。
【0033】
樋状部材104は、回転散液具100の回転により環状基部102の上端110にまで移動した原料液を回収し、当該回転によって内側に設けられた流路126を通じてこの原料液を樋状部材104の下端128から上端130まで移動させることができる。
【0034】
樋状部材104の流路126は、例えば、
図3に示すように略円弧状または半円筒状の断面を有していてもよい。あるいは、樋状部材104の流路126は、半角筒状、V字状などの、半円筒状以外の他のハーフパイプのような流路断面を有していてもよく、あるいは
図2に示す下端128および上端130がこのようなハープパイプの流路断面を有し、かつその間の中間部分が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状、または角筒状)に加工されたものであってもよく、あるいは、全体が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状または角筒状)に加工されたものであってもよい。
【0035】
本発明において、樋状部材104が、
図3に示すような略円弧状の流路断面を有する場合、当該流路断面の曲率は樋状部材104の下端128から上端130にかけて変動し、好ましくは下端128から上端130にかけて大きくなるように設計されている。例えば、樋状部材104の下端128では、環状基部102の下部108から内側表面112を伝って上昇した原料液をより多くかつ効率的に集めることが所望される。このため、樋状部材104の下端128における流路断面は、環状基部102の上端110を構成する円周の一部(円弧)に一致した曲率を有することが好ましい。一方、樋状部材104の下端128で集められた原料液は、上端130に移動するにあたり、樋状部材104の流路126から零れ出ることを防止することが所望される。このため、樋状部材104の下端128から上端130にかけて流路断面の曲率を例えば徐々に大きくして、流路126内を移動する原料液が樋状部材104の側方に広がることなく、上端130に向かって効率良く移動させることができる。本発明の1つの実施形態では、
図4に示すように、樋状部材104の中間またはそれ以上の位置における流路126の略円弧上の流路断面の曲率は、
図3に示すような樋状部材104の下方近傍の位置における流路126の曲率よりも大きくなるように設計されている。
【0036】
さらに、本発明の回転散液具100において、環状基部102に上記遮蔽部114が設けられている場合、樋状部材104は、環状基部102上の上記遮蔽部114の開口118が設けられた位置に対応して設けられていることが好ましい。この場合、遮蔽部114によって環状基部102から上昇する原料液は開口118からのみ環状基部102の上端110に向かって排出される。樋状部材104がこのような位置に配置されていることにより、この開口118から排出される原料液は効率良く樋状部材104に集めることができる。
【0037】
再び
図2を参照すると、本発明の回転散液具100は、上記複数の樋状部材104が、例えば高さ方向の中間またはその近傍の屈曲部132において、回転方向内側に屈曲していることが好ましい。屈曲部132にて屈曲することにより、本発明の回転散液具100は、樋状部材104の上端130が軸固定部134側により近付いた構造を有する。これにより、回転散液具100の全体的な直径L
wがより短くなり、直径方向においてコンパクトな構造を有することができ、本発明の回転散液具は細長い撹拌槽を備える蒸発装置にも適用可能となる。なお、
図2では、1つの樋状部材104に設けられた屈曲部132は1つであるが、本発明はこれに限定されない。樋状部材104に対して2つまたはそれ以上の屈曲部が設けられていてもよい。
【0038】
屈曲部132における曲げ角度θ
2は、
図2に示すように、鉛直線V
L2に対する屈曲部132から上端130までの上段樋状部材104aの傾斜角として表される。屈曲部132における曲げ角度θ
2は、必ずしも限定されないが、好ましくは1°~10°である。曲げ角度θ
2が1°を下回ると、屈曲部132を設けているにも関わらず、回転散液具100の全体的な直径L
wが余り小さくならず、収容する撹拌槽をコンパクトにすることが困難となる場合がある。曲げ角度θ
2が10°を上回ると、樋状部材104における屈曲部132から上端130までの傾斜が大きくなり、例え回転散液具を高速で回転させたとしても原料液が効率良く上端130まで移動しないことがある。
【0039】
樋状部材104はまた、流路126の縁部135,136の一方の側(流路126の2つの縁部135,136のうち、回転方向に対して後方に位置する縁部135側)において、例えば下端128の近傍から環状基部102の内側表面112の一部にまで延びるフラップ状部材138が設けられていてもよい。回転散液具100の回転によって、原料液は環状基部102の下端108から上端110まで移動し、樋状部材104の下端128で集められるが、その際に集められた原料液が樋状部材104の下端128近傍にて縁134側から零れ出ることが懸念される場合がある。そのような場合に、当該フラップ状部材138を設けておくことにより、樋状部材104の縁部134側にてフラップ状部材138が原料液の回転方向の移動を遮蔽して原料液が零れ出ることを回避または低減することができる。
【0040】
なお、
図2に示すように、フラップ状部材138の下端が環状基部102の内側表面112の一部にまで延びていると、当該下端が撹拌槽内に貯留された原料液の液面よりも下方に位置し、回転散液具の回転によって貯留された原料液自体が撹拌され、液面が上下に大きく変動したり、または無用な飛沫が発生することも考えられる。このような場合は、フラップ状部材138の下端を、想定される撹拌槽内の原料液の液面よりも上方(例えば、樋状部材104の下端108または環状基部102の配置された遮蔽部114と同じ高さまたはそれ以上の位置に配置して、このような液面の変動や飛沫の発生を回避してもよい。
【0041】
樋状部材104は、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。樋状部材104は、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0042】
再び
図1を参照すると、連結部106は、蒸発装置の撹拌槽上部から延びる回転軸(後述)を収容しかつ固定する軸固定部134と、複数の樋状部材104を1本ごとに軸固定部134に連結する連結バー140とを備える。
図1において連結バー140は、樋状部材104の上端130と略同じ高さで固定されており、かつ樋状部材104の外側形状に沿って湾曲した状態で樋状部材104と固定されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、連結バーは樋状部材104の他の位置(例えば、中間部分)に固定されてもよく、あるいは複数の連結部によって、
図1に示すような樋状部材104の上端130付近および他の位置をそれぞれ異なる連結バーで固定したものであってもよい。
【0043】
連結部106は、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。樋状部材104は、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0044】
本発明の回転散液具100は、蒸発装置の撹拌槽内に配置され、撹拌槽内に貯留された原料液を熱源に散布するために用いられる。回転散液具100から熱源に原料液を散布することにより、原料液に含まれる揮発性成分が蒸発して原料液から分離することができる。
【0045】
本発明の回転散液部100は、環状基部102が回転によって撹拌槽内に貯留された原料液を激しく撹拌することなく、樋状部材104に向かって原料液を静かに移動させることができる。その結果、周囲に無用な飛沫を生じさせたり、および/または貯留された原料液の液面を上下に大きく変動させることから解放することができる。本発明の回転散液部100は、例えば、撹拌槽内における原料液の貯留量が少なく、液面から撹拌槽までの付加さが比較的浅い場合、後述のように撹拌槽の内側および/または外側に蒸発した揮発性成分を凝縮するためのコンデンサーが併設されており、当該コンデンサーに原料液の飛沫が接触して、凝縮された揮発性成分の純度を低下させることを回避したい場合に有用である。
【0046】
(蒸発装置)
図5は、
図1に示す回転散液具100を備える本発明の蒸発装置200の一例を模式的に表す部分断面図である。
【0047】
本発明の蒸発装置200は、撹拌槽202、熱源204、散液部206、および第1コンデンサー208を備える。
【0048】
撹拌槽202は、水溶液、スラリーなどの液体で構成される原料液を収容し、かつ撹拌することができる密閉可能な槽であり、例えば、平底または丸底の形状を有する底部210を有する。
【0049】
撹拌槽202の大きさ(容量)は、蒸発装置200の用途(例えば、供給される原料液の種類)や、原料液の処理量などによって適宜設定され得るため、必ずしも限定されないが、例えば、0.1リットル~100,000リットルである。撹拌槽202を構成する材質は特に限定されないが、例えば、種々の原料液に対して安定であり、熱伝導性に優れ、および/または入手および加工が容易であるとの理由から、鉄、ステンレススチール、チタン、ハステロイまたは銅のような金属で構成されていることが好ましい。撹拌槽202の内壁212は、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0050】
撹拌槽202はまた、原料液供給口214、揮発性成分出口216および濃縮液出口218を備える。
【0051】
原料液供給口214は、例えば撹拌槽202の上方(例えば、撹拌槽202内の回転散液具100の取り付け位置よりも上方に設けられた撹拌槽202の蓋部203)に設けられている。撹拌槽202に設けられる原料液供給口214は1つに限定されない。例えば、複数個の原料液供給口が撹拌槽202の上方に設けられていてもよい。
【0052】
なお、撹拌槽202内において回転軸228の上方(例えば、撹拌槽202内の回転散液具100の取り付け位置よりも上方に設けられた撹拌槽202の蓋部203の近傍)には、回転軸228に直接取り付けられた円盤225が設けられていてもよい。さらに、撹拌槽202内には、当該円盤225が取り付けられた高さに対応して円筒状の補助壁227が設けられていてもよい。原料液供給口214から導入された原料液は、撹拌槽202内で一旦円盤225に配置され、回転軸228の回転に伴って円盤225上の原料液は半径方向に広がって円盤225の縁から拡散される。その際、円盤225から拡散した原料液は、補助壁227の内側表面に衝突し、下方に向かって流下する。流下した原料液は、補助壁227の下端から撹拌槽202の下方(例えば、熱源204)に向かって散液することができる。これにより円盤225から排出された原料液は、例えば撹拌槽202の内壁212に向かって直接飛散することがなく、原料液が誤って揮発性成分収容区画220に移動することを回避できる。
【0053】
図5において、揮発性成分出口216は、撹拌槽202内の揮発性成分収容区画220に連通して設けられている。揮発性成分収容区画220は、撹拌槽202の底部210(より具体的には、撹拌槽202の底部210の一部)と内壁212と、撹拌槽202内の底部210から上方に延びかつ撹拌槽202の内周に沿って一定の間隔をあけて設けられた隔壁222とで囲まれており、上方が開放されている。揮発性成分収容区画220は、内壁212で凝縮し流下した原料液に含まれる揮発性成分(好ましくは液体状の揮発性成分)を一時的に収容することが可能である。さらに揮発性成分収容区画220内の揮発性成分は、凝縮液として揮発性成分出口216を介して外部に排出され得る。
【0054】
図5において、濃縮液出口218は、例えば撹拌槽202内の底部210の一部と連通して設けられている。ここで、本明細書中に用いられる用語「原料液」とは、原料液供給口214から導入された(未処理の)原料液;後述する熱源204との接触により揮発性成分の少なくとも一部が蒸発した後の残渣;ならびにこれらの混合液;を包含して言う。さらに原料液は、揮発性成分が蒸発した後は最終的に濃縮液として濃縮液出口218を介して外部に排出され得る。濃縮液出口218は必要に応じて図示しないバルブの開閉により濃縮液の排出が制御され得る。例えば濃縮液の排出が停止されている状態では、原料液は、撹拌槽202の底部210に、より具体的には撹拌槽202の底部210と、隔壁222と、回転散液具100の環状基部102の内側において底部210から上方に向かって延びる第2隔壁223との間で構成される原料液収容区画225に、一時的に貯留される。
【0055】
撹拌槽202の蓋部203は、例えば、メンテナンス・ホールのような開閉可能な構造を別途有していてもよい。さらに、撹拌槽202の上部には、撹拌槽202内を大気圧とするまたは減圧するための減圧口(図示せず)が設けられていてもよい。
【0056】
本発明の蒸発装置200において、熱源204は、例えば撹拌槽202の内部において内壁212と略平行となるように配置されている。
図5において、熱源204は、例えば中空の材料で構成されており、熱媒体導入口224を通じて撹拌槽202の外部から、例えば水蒸気や熱媒油などの熱媒体が導入され、熱源204の外表面(与熱面または伝熱面)に接した原料液から、揮発性成分を蒸発させることができる。原料液が熱源204に接触すると、原料液の揮発性成分は気化し、気体となって撹拌槽202内に拡散する。熱源204を通った熱媒体は、その後熱媒体排出口226を通じて撹拌槽202の外部に排出される。
【0057】
なお、
図5に示す実施形態では、熱源204の与熱面(伝熱面)は、両面(すなわち撹拌槽202の内壁212側および中心軸側の両方の面)に現れている。これにより、揮発性成分との接触面積が増加し、原料液からより効率的に揮発性成分を蒸発させることができる。また、熱源204は、撹拌槽202の内部に設けられていることにより、外部に設けられる場合と比較して熱損失が少なく、保温が容易または不要となる利点を有する。
【0058】
本発明の蒸発装置200において、散液部206は、撹拌槽202の内部に、撹拌槽202の底部210に貯留された原料液を熱源204に散布して流下させるための役割を果たす。散液部206は、回転軸228と、回転軸228に取り付けられた上記回転散液具100とから構成されている。散液部206は、回転軸228に接続されたモーター230の回転により、撹拌槽202の底部210(原料液収容区画225)に貯留された原料液を、回転散液具100内の樋状部材104の長さ方向に沿って設けられた流路126を通じて撹拌槽202の下方から上方に向かって流動させることができる。その結果、撹拌槽202の底部210(原料液収容区画225)に貯留する原料液を、樋状部材104の上端130から熱源204の上方に向けて吐出することができる。そして、熱源204に衝突した原料液はそのまま熱源204の表面を落下し、原料液の散布を行うことができる。さらに、散布された原料液は、熱源204の上方から下方に向かって流下する間に、含有成分である揮発性成分の蒸発が促される。同時に熱源204を流下する間に蒸発しなかった残渣が濃縮液として熱源204を下降し、熱源204の下部に設けられたガイド232(ここで、ガイド232は、撹拌槽202内で、当該撹拌槽202に配置された隔壁222よりも内側に配置されている)を伝って、再び撹拌槽202の底部210(原料液収容区画225)に貯留される。
【0059】
回転軸228は、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの剛性を有する金属で構成されたシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸228は、撹拌槽202内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸228の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸228の長さは、使用する撹拌槽202の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。回転軸202は、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0060】
図5において、回転軸228の下端は、撹拌槽202の底部210に接しておらず、例えば、撹拌槽202の底部210から一定の間隔を開けた位置に配置されている。
【0061】
本発明の蒸発装置200において、撹拌槽202内の原料液を汲み上げるために好適な回転軸228の回転数(すなわち、散液部206の回転数)は、原料液の構成成分、その粘性、撹拌槽202の大きさ、撹拌槽202の底部210(原料液収容区画225)に貯留される原料液の量などによって異なるため、必ずしも限定されないが、例えば、30rpm~500rpmmである。
【0062】
本発明の蒸発装置200において、第1コンデンサー208は、撹拌槽202の外周に設けられており、好ましくは撹拌槽202の外周に対して連続的に密着して覆うように設けられている。
【0063】
第1コンデンサー208には、冷却水などの冷却媒体が注入口240を通じて注入され、第1コンデンサー208内を流動し、排出口242を通じて外部に排出される。これにより、第1コンデンサー208内を流動する冷却媒体の温度が撹拌槽202の内壁212にまで伝わり、内壁212が冷却媒体によって低温に保持される。一方、熱源204で蒸発により気化した原料液の揮発性成分は、この内壁212において冷却され、凝縮し、液滴となって内壁212上を流下する。その後、内壁212を流下した原料液の揮発性成分は、揮発性成分収容区画220に収容され、凝縮液として揮発性成分出口216を介して外部に排出される。
【0064】
本発明の蒸発装置200はまた、撹拌槽202の内側に第2コンデンサー244が設けられていてもよい。
【0065】
図5において、第2コンデンサー244は、散液部206が回転して構成する回転奇跡の内側(すなわち撹拌槽202の底部210から、上記回転散液具100の環状基部102の内側および撹拌槽202の底部210に設けられた第2隔壁223の内側)を通って上方に延び、撹拌槽202の外部に設けられた第2注入口246から、上記第1コンデンサー205と同様または異なる冷却媒体(すなわち、第1コンデンサー208内に導入される冷却媒体と、第2コンデンサー244に導入される冷却媒体とは同一または異なる種類であってもよく、その設定温度もまた同一または異なっていてもよい)が導入される。第2コンデンサー244は、熱源204で蒸発により気化した原料液の揮発性成分と直接接触することができる。気化した揮発性成分が第2コンデンサー244に接触すると、当該成分は冷却され、凝縮し、液滴となって第2コンデンサー244の上を流下する。その後、流下した液状の揮発性成分は、撹拌槽202の底部210の下方に設けられた第2揮発成分収容区画248に一時的に収容される。第2成分収容区画248では、減圧口249(VCM)を通じて減圧され、流下した液状の揮発性成分は、凝縮液として第2揮発性成分出口250を介して外部に排出される。一方、第2コンデンサー244を通過した冷却媒体は、第2排出口251を通じて撹拌槽202の外部に排出される。
【0066】
本発明の蒸発装置200によれば、撹拌槽202の内壁212上で揮発性成分の凝縮が行われ、従来のような揮発性成分の蒸発のために内壁が加熱されるものではない。このため、蒸発装置の運転停止にあたり、例えば撹拌槽202の内壁212での原料液の焼き付きを懸念することなく、当該停止を比較的短時間で行うことができる。本発明の蒸発装置はまた、撹拌槽内の内壁を「ワンパス」による1回の流下で通過させるような従来の蒸発装置と比較しても、装置自体の停止も容易であり、停止の際の冷却のための原料液の使用も低減することができる。
【0067】
(蒸発システム)
図6は、
図5に示す蒸発装置200を備える蒸発システムを模式的に表す図である。
【0068】
本発明の蒸発システム300は、原料となる原料液を含む原料タンク310と、本発明の蒸発装置200とを備える。さらに、
図6に示す蒸発システム300は、これらに加えて真空ポンプ320も備える。
【0069】
原料液は、ポンプ320の駆動により、原料タンク310から管332を通り、必要に応じて予熱器(図示せず)で一旦予熱され、蒸発装置200に送給される。
図6に示す実施形態では、蒸留装置200内の熱源(図示せず)は、熱媒体導入口224を通じてスチーム(STM)が供給されること加熱される。蒸発装置200内で蒸発した揮発性成分は、上記の通り当該装置200内の第1および第2コンデンサー(図示せず)によって凝縮する。その後、第1コンデンサーで凝縮した(より詳細には、第1コンデンサーを通じて内壁で凝縮した)揮発性成分は、揮発性成分出口(
図5の216)を介して管334から外部に排出される一方、第2コンデンサーで凝縮した揮発性成分は、第2揮発性成分出口(
図5の250)を介して管336から外部に排出される。
【0070】
このように、
図6に示す本発明の蒸発システム300は、システムの構成内に別途コンデンサーを設ける必要がなく、より省スペースな構成とすることができる。
【0071】
本発明の蒸発装置は、例えば、不純物を含有する液体たとえばメチルエステル、乳酸、魚油、油脂、グリセリン、などの精製および濃縮;インク、塗料、化学品などの化学製品に含まれる水、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)、N-メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエン、アセトン、エチレングリコールなどの除去;塗料および樹脂製造分野に使用するモノマーおよびポリマーなどから揮発性の不純物の除去;において有用である。
【符号の説明】
【0072】
100 回転散液具
102 環状基部
104 樋状部材
106 連結部
108 環状基部の下端
110 環状基部の上端
112 内側表面
114 遮蔽部
118 開口
122 外側表面
126 流路
128 樋状部材の下端
130 樋状部材の上端
132 屈曲部
134 軸固定部
138 フラップ状部材
140 連結バー
200 蒸発装置
202 撹拌槽
204 熱源
206 散液部
206 第1コンデンサー
210 底部
212 内壁
214 原料液供給口
216 揮発性成分出口
218 濃縮液出口
222 隔壁
223 第2隔壁
225 原料液収容区画
228 回転軸
244 第2コンデンサー
300 蒸発システム
310 原料タンク
320 真空ポンプ320