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特許7300718制御装置、システム、方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】制御装置、システム、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20008 20180101AFI20230623BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20230623BHJP
   G01N 23/20016 20180101ALI20230623BHJP
【FI】
G01N23/20008
G01N23/207
G01N23/20016
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019225823
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021096091
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小林 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 克彦
(72)【発明者】
【氏名】小中 尚
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-338059(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130663(WO,A1)
【文献】特開2000-055838(JP,A)
【文献】特開2003-294656(JP,A)
【文献】特表平09-502530(JP,A)
【文献】特開2003-156457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0307854(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の姿勢を制御する制御装置であって、
φ軸に対する試料の傾斜を表す傾斜情報の入力を受け付ける入力部と、
前記傾斜情報を用いて、変化するφ値に対し試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定する調整量決定部と、
X線回折測定時に、前記決定されたω値およびχ値の調整量に基づいて、前記試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させる駆動指示部と、を備え
前記駆動指示部は、前記X線回折測定時に、前記φ軸回転に伴い、前記ω値およびχ値の調整量に基づいてω軸回転およびχ軸回転をX線回折装置に行わせ、前記試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルを一致させながら駆動させることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記ゴニオメータは、同時に駆動できる3つ以上の回転軸を有し、
前記駆動指示部は、前記3つ以上の回転軸を用いて前記ゴニオメータを駆動させることを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記3つ以上の回転軸は、φ軸、χ軸およびω軸を含むことを特徴とする請求項2記載の制御装置。
【請求項4】
前記ω軸は、2つの駆動軸であるθs軸およびθd軸を組み合わせて制御され、
前記θs軸は、X線の入射角度を制御する回転軸であり、
前記θd軸は、X線の受光角度を制御する回転軸であることを特徴とする請求項3記載の制御装置。
【請求項5】
変化するφ値に対するω値およびχ値の調整量を駆動時用の計算式として記憶する記憶部を更に備え、
前記駆動指示部は、前記記憶された駆動時用の計算式に基いて前記ゴニオメータを駆動させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の制御装置。
【請求項6】
前記傾斜情報に応じて、変化するφ値に対するω値およびχ値の調整値との対応関係をテーブルとして記憶する記憶部を更に備え、
前記調整量決定部は、前記記憶されたテーブルの対応関係に基づいてω値およびχ値の調整値を決定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の制御装置。
【請求項7】
前記ω値およびχ値の調整量に基いて、前記試料の外形表面と格子面とのオフ角を算出するオフ角算出部を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の制御装置。
【請求項8】
前記X線回折測定は、インプレーン測定、インプレーン極点測定、ロッキングカーブ測定、アウトオブプレーン測定または逆格子マップ測定であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の制御装置。
【請求項9】
前記調整量決定部は、前記ゴニオメータ上に載置されたXYステージの測定位置ごとに前記ω値およびχ値の調整量を決定し、
前記駆動指示部は、前記XYステージの測定位置ごとに、前記決定された調整量に基いて前記試料のφ軸回転に応じて前記ゴニオメータを駆動させる指示を行うことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の制御装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の制御装置と、
X線焦点からX線を発生するX線発生部と、X線を前記試料に入射させ、前記試料から生じた回折X線を検出する光学系を構成し、前記光学系には前記ゴニオメータを有する前記X線回折装置と、を備え、
前記ゴニオメータは、前記試料および点領域の検出器に対して測角を行い、
前記X線回折装置は、3箇所以上のφの位置に対する前記測角に基づいて前記傾斜情報を計算し、
前記ゴニオメータは、同時に駆動できる3つ以上の回転軸を有し、前記制御装置からの指示により駆動されることを特徴とするシステム。
【請求項11】
試料の姿勢を制御する方法であって、
φ軸に対する試料の傾斜を表す傾斜情報の入力を受け付けるステップと、
前記傾斜情報を用いて、変化するφ値に対し試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定するステップと、
X線回折測定時に、前記決定されたω値およびχ値の調整量に基づいて、試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させるステップと、を含み、
前記ゴニオメータを駆動させるステップは、前記X線回折測定時に、前記φ軸回転に伴い、前記ω値およびχ値の調整量に基づいてω軸回転およびχ軸回転をX線回折装置に行わせ、前記試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルを一致させながら駆動させることを特徴とする方法。
【請求項12】
試料の姿勢を制御するプログラムであって、
φ軸に対する試料の傾斜を表す傾斜情報の入力を受け付ける処理と、
前記傾斜情報を用いて、変化するφ値に対し試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定する処理と、
X線回折測定時に、前記決定されたω値およびχ値の調整量に基づいて、試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させる処理と、をコンピュータに実行させ
前記ゴニオメータを駆動させる処理は、前記X線回折測定時に、前記φ軸回転に伴い、前記ω値およびχ値の調整量に基づいてω軸回転およびχ軸回転をX線回折装置に行わせ、前記試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルを一致させながら駆動させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の姿勢を制御する制御装置、システム、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜は基板表面に薄く2次元的に形成されたものであるため、一般的に積層方向と面内方向で異方性が存在する。そのため、積層方向と面内方向の2つの方向について薄膜内の構造を評価することが多い。薄膜内の構造を評価するためには、着目する方向に応じて、様々な測定方法がある。例えば、面内方向を評価する場合、インプレーン測定や非対称面の逆格子マップ測定が行われる。
【0003】
X線を用いた薄膜の評価には、X線の入射角度の高精度な制御が必要である。試料の厚さが薄いと回折信号強度は微弱になる。こうした微弱信号を検出するために、インプレーン測定では、効率的な表面への入射X線の照射が必要となる。具体的には、試料表面に対してすれすれにX線を入射させる。また、逆格子マップ測定は、特に格子面が非常に揃っている材料(エピタキシャル膜)を測定するため、格子面に対して正確にX線を入射させる。
【0004】
インプレーン測定や逆格子マップ測定では、試料の面内回転つまり試料のφ軸回りの回転が必要である。しかし、通常、試料をX線回折装置に設置しただけでは、一般的に、この回転軸φが対象試料の結晶軸や表面法線とは一致していないため、φ軸回転に対して対象試料の結晶軸や表面法線に歳差運動が生じる。この場合に、φ軸に対して対象方向の結晶軸または表面法線をあらかじめ合わせておくと、試料面に対するX線の入射角度を一定に維持することが容易となる。これを実現するため試料の傾きを調整するための軸としては、傾斜移動軸がある。
【0005】
傾斜移動軸は、例えば、特許文献1記載のチルト機構のようにφ回転軸の上に設けられ、直交する2軸x,y方向に試料の傾きを調整するものである。これによりあおり角を調整することで傾斜移動軸上の試料の結晶軸または面法線をφ軸に一致させることが可能である。
【0006】
図10(a)、(b)は、それぞれ傾斜移動軸(Rx軸、Ry軸)の調整前後の試料S0を示す概略図である。図10(a)に示すように、調整前の試料S0の面法線nは、φ軸から傾いている。測定前にRx軸、Ry軸の回転により調整を行うことで、図10(b)に示すように、試料S0の面法線nをφ軸に一致させることができる。この状態でφ軸回転を行いつつX線を照射すると、試料面に対するX線の入射方向を一定に維持しつつ試料S0を回転させることができる。このような傾斜移動軸に関する技術が開示されている。
【0007】
例えば、特許文献2は、試料の表面を通過して互いに直交する二つの回転中心線の回りに試料を回転(Ru,Rv回転)させる機構を備える装置を開示している。この装置は、表面に平行な平面内で試料を2次元方向(U,V方向)に並進移動させる機構と試料を面内回転(φ回転)させる機構も備えている。
【0008】
また、特許文献3は、ベースステージと、ベースステージに重ねて配置される搭載ステージとを備えた試料支持装置を開示している。そして、ベースステージは、試料を面内回転させるφ軸移動ステージを有し、試料を面内スライド移動させるX-Y軸移動ステージ(XYアタッチメント)または試料の姿勢を調整するRx-Ry軸移動ステージ(RxRyアタッチメント)を搭載できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-287773号公報
【文献】特開2004-294136号公報
【文献】特開2007-017273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
X線回折装置において、試料台周りの空間は限られている。したがって、傾斜移動軸のような特別な軸構成を採用するためには、試料台の組み込み方を工夫する必要がある。しかしながら、特別な軸構成を採用すると、様々な制限が生じうる。例えば特許文献2記載の装置では測定できる試料の厚さが制限される。また、特許文献3記載の装置では、測定の種類が制限される。一方、RxRyアタッチメントのような特別な軸構成を取り付けられない装置では、φ軸の回転に伴う試料の姿勢制御はできない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、回折計のゴニオメータに備わる軸を有効活用し、特別な軸構成を有しなくても、φ軸の回転に伴う精密な入射角度の制御を可能にする制御装置、システム、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の制御装置は、試料の姿勢を制御する制御装置であって、φ軸に対する試料の傾斜を表す傾斜情報の入力を受け付ける入力部と、前記傾斜情報を用いて、変化するφ値に対し試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定する調整量決定部と、X線回折測定時に、前記決定されたω値およびχ値の調整量に基づいて、前記試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させる駆動指示部と、を備えることを特徴としている。
【0013】
これにより、φ軸の回転の影響を受けないように試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正する調整角度を、φ軸回転から独立したω値およびχ値の調整量に変換できる。その結果、試料台にRxRyアタッチメントを載せて試料の傾斜を調整することなくφ軸回転を伴う測定が可能になる。また、さらに高精度な試料の傾斜の調整が可能になる。
【0014】
(2)また、本発明の制御装置は、前記ゴニオメータが、同時に駆動できる3つ以上の回転軸を有し、前記駆動指示部は、前記3つ以上の回転軸を用いて前記ゴニオメータを駆動させることを特徴としている。ゴニオメータの同時に駆動できる3つ以上の回転軸を用いることで、ゴニオメータを用いて試料の傾斜を調整しながらφ軸回転を伴う測定が可能になる。
【0015】
(3)また、本発明の制御装置は、前記3つ以上の回転軸が、φ軸、χ軸およびω軸を含むことを特徴としている。これにより、χ値およびω値により試料の傾斜を調整しながらφ軸回転を伴う測定が可能になる。
【0016】
(4)また、本発明の制御装置は、前記ω軸が、2つの駆動軸であるθs軸およびθd軸を組み合わせて制御され、前記θs軸は、X線の入射角度を制御する回転軸であり、前記θd軸は、X線の受光角度を制御する回転軸であることを特徴としている。これにより、θs軸回転およびθd軸回転の調整により、ω値の調整が可能になる。
【0017】
(5)また、本発明の制御装置は、変化するφ値に対するω値およびχ値の調整量を駆動時用の計算式として記憶する 記憶部を更に備え、前記駆動指示部は、前記記憶された駆動時用の計算式に基いて前記ゴニオメータを駆動させることを特徴としている。このように、計算式を用いることで個別の状況に応じて柔軟にゴニオメータを駆動できる。
【0018】
(6)また、本発明の制御装置は、前記傾斜情報に応じて、変化するφ値に対するω値およびχ値の調整値との対応関係をテーブルとして記憶する記憶部を更に備え、前記調整量決定部は、前記記憶されたテーブルの対応関係に基づいてω値およびχ値の調整値を決定することを特徴としている。このように、テーブルを用いることで処理量を減らすことができ、簡易で素早い対応が可能になる。
【0019】
(7)また、本発明の制御装置は、前記ω値およびχ値の調整量に基いて、試料の外形表面と格子面とのオフ角を算出するオフ角算出部を更に備えることを特徴としている。これにより、例えばRx軸、Ry軸の値に相当するω値やχ値の調整量を比較することで、基板表面のオフ角度や、基板とエピタキシャル成長膜の方位のオフ角の角度量とそのズレ方位を解析できる。
【0020】
(8)また、本発明の制御装置は、前記X線回折測定が、インプレーン測定、インプレーン軸を用いた極点測定、ロッキングカーブ測定または逆格子マップ測定であることを特徴としている。特にインプレーン測定に代表されるφ軸回転を伴う測定において、RxRyアタッチメントを使用することなく高精度の測定を行うことができる。
【0021】
(9)また、本発明の制御装置は、前記調整量決定部が、前記ゴニオメータ上に載置されたXYステージの測定位置ごとに前記ω値およびχ値の調整量を決定し、前記駆動指示部が、前記XYステージの測定位置ごとに、前記決定された調整量に基いて試料のφ軸回転に応じて前記ゴニオメータを駆動させる指示を行うことを特徴としている。これにより、事前にXYステージによる試料の位置調整をしてφ軸回転を伴う測定を行うことができる。
【0022】
(10)また、本発明のシステムは、上記の(1)から(9)のいずれかに記載の制御装置と、X線を前記試料に入射させ、前記試料から生じた回折X線を検出する光学系を構成し、前記光学系には前記ゴニオメータを有するX線回折装置と、を備え、前記ゴニオメータは、同時に駆動できる3つ以上の回転軸を有し、前記制御装置からの指示により駆動されることを特徴としている。これにより、φ軸の回転の影響を受けないように試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するための調整角度を、φ軸回転から独立したω値およびχ値の調整量に変換できる。
【0023】
(11)また、本発明の方法は、試料の姿勢を制御する方法であって、φ軸に対する試料の傾斜を表す傾斜情報の入力を受け付けるステップと、前記傾斜情報を用いて、変化するφ値に対し試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定するステップと、X線回折測定時に、前記決定されたω値およびχ値の調整量に基づいて、試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させるステップと、を含むことを特徴としている。これにより、φ軸の回転の影響を受けないように試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するための調整角度を、φ軸回転から独立したω値およびχ値の調整量に変換できる。
【0024】
(12)また、本発明のプログラムは、試料の姿勢を制御するプログラムであって、φ軸に対する試料の傾斜を表す傾斜情報の入力を受け付ける処理と、前記傾斜情報を用いて、変化するφ値に対し試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定する処理と、X線回折測定時に、前記決定されたω値およびχ値の調整量に基づいて、試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させる処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、φ軸の回転の影響を受けないように試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するための調整角度を、φ軸回転から独立したω値およびχ値の調整量に変換できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、回折計のゴニオメータに備わる軸を有効活用し、特別な軸構成を有しなくても、φ軸の回転に伴う精密な入射角度の制御を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)、(b)それぞれ本発明の制御によるφ=0°および180°での試料を示す概略図である。
図2】本発明のX線回折測定のシステムの構成の一例を示す図である。
図3】本発明のX線回折測定のシステムのハード構成の一例を示す図である。
図4】本発明の制御装置の機能的構成を示すブロック図である。
図5】本発明のX線回折測定の方法を示すフローチャートである。
図6】(a)、(b)それぞれ事前測定および調整量算出の動作の一例を示すフローチャートである。
図7】φ値に対するω値およびχ値の調整量を示すグラフである。
図8】φ値に対する調整量ΔωとΔχおよび駆動制御値ω、χを示すテーブルである。
図9】実施例に用いた具体的な構成を示す概略図である。
図10】(a)、(b)それぞれRxRyアタッチメントの調整前後の試料を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0028】
[原理]
本発明では、試料回転軸(φ軸)の動きに連動してX線の入射角度(ω)と試料のあおり角度(χ)を移動し、事前に試料の面法線をφ軸に合わせたのと同様に試料の法線を常に調整された状態を保つ。なお、φ軸は、試料支持部材を自身の軸中心線を指し、ω軸は水平方向に延びる軸線である。χ軸は、水平方向に延びω軸に垂直な軸線である。
【0029】
図1(a)、(b)は、それぞれ本発明の制御によるφ=0°および180°での試料S0を示す概略図である。図1(a)、(b)に示すように、試料S0の面法線nとφ軸とは一致していないが、φ=0°、180°のいずれにおいても試料面に対するX線の入射角度は一定に維持されている。なお、X線の入射角度を一定に維持する対象は、試料表面に限らず、格子面も含まれる。
【0030】
このような測定は、事前に試料表面または格子面の傾斜情報を確認し、φ軸回転に応じたω値およびχ値の調整により実現される。すなわち、軸たて調整時にφ=0°,90°,180°位置でωスキャンを行うことで軸のずれ量を計算し、測定時にφの動きに連動してω、χの2軸を移動させ調整状態を保つ。このようにして得られた測定データは、事前にRxRyアタッチメントによりRxRy軸調整を行った場合と同等に扱うことができる。なお、傾斜情報とは、RxRyに相当する情報であり、φ軸からの試料の傾きαと方位βと等価である。
【0031】
RxRyアタッチメントを用いる場合と同様に測定データが得られるため、本発明の方法は「仮想RxRy軸」ともいえる。なお、上記のような制御は、エピタキシャル薄膜等の測定における試料方位保持に関する技術やインプレーン測定、インプレーン軸を用いた極点測定、ロッキングカーブ測定または逆格子マップ測定における試料保持に関する技術に特に有効である。
【0032】
[システムの構成]
図2は、X線回折測定のシステム5の構成の一例を示す図である。また、図3は、X線回折測定のシステムのハード構成の一例を示す図である。システム5は、X線回折装置30および制御装置40を有している。X線回折装置30は、X線を試料に入射させ、試料から生じた回折X線を検出する光学系を構成し、光学系にはゴニオメータを有する。なお、図2に示す構成は一例であり、その他様々な構成が採られうる。制御装置40は、例えばPCであり、CPUおよびメモリを備える装置である。
【0033】
X線回折装置30は、X線焦点すなわちX線源FからX線を発生するX線発生部6と、入射側光学ユニット7と、試料S0および点領域の検出器10に対して測角を行う5軸ゴニオメータ8とを含んで構成される。
【0034】
X線源Fは、例えば熱電子を放出するフィラメントと、そのフィラメントに対向して配設されるターゲットとによって構成でき、その場合には、フィラメントから放出される熱電子がターゲットに高速度で衝突することによりそのターゲットからX線が放射される。
【0035】
入射側光学ユニット7の内部には、X線源Fから出て発散するX線Rの進行路に沿って、放物面多層膜ミラー7aおよび横方向へのX線の発散を規制するソーラスリット7bが配設される。このような光学要素の構成は、インプレーン回折測定に好適な一例であり、実際には様々な構成が採られうる。
【0036】
試料台は、ベース部14、ヘッド部12および試料板18で構成される。χクレードル(χ軸調整機構)とベース部14は、一体となっており、クレードルに沿って試料台全体を揺動させることができる。ベース部14は、Z軸調整機構およびφ軸回転機構を有している。Z軸調整機構は、試料S0の高さを調整する。φ軸回転機構は、試料S0を回転させる。ヘッド部12は、測定の用途によって取り外し、取り替えが可能となっている。RxRyアタッチメントは、ヘッド部12の種類の一つである。なお、ヘッド部12に、ステージ表面に平行な移動を可能にするXYアタッチメントを設けて、XYステージとしてもよい。ヘッド部12は、その上部に、試料板18を取り付けられるように構成されている。試料板18には、4~8インチまで大きさの異なる試料S0を設置できるものや、空気吸引による吸着台などが用意されている。試料S0は、接着剤による接着、空気吸引による吸着、その他必要に応じた各種の方法によって試料板18に装着される。
【0037】
図2に示す5軸ゴニオメータ8は、入射側アームと出射側アームとを有している。入射側アームは、X線発生部6と入射側光学ユニット7を支持しており、出射側アームは、出射側光学ユニット9および検出器10を支持している。さらに、入射側アームには、試料面の鉛直方向(矢印ω方向)に回転するω(θs)回転系が接続されている。また、出射側アームには、試料面と鉛直方向(矢印2θ方向)に対して回転する2θ(θd)回転系、および試料面と水平方向(矢印2θχ方向)に対して回転する2θχ回転系が接続されている。2θχ回転系に接続されたアームの回転軸を、本明細書ではインプレーン軸と呼ぶ。
【0038】
図2では、試料水平型ゴニオメータを例示したが、同等の軸走査が可能なゴニオメータの構成であれば、軸名称や軸の走査方向、回転方向は変わっても良い。例えば、2θ走査を試料水平方向とする横型ゴニオメータや、半導体検査装置として構成されたゴニオメータ等でも、本発明の制御装置で制御可能である。
【0039】
5軸ゴニオメータ8は、同時に駆動できる3つ以上の回転軸を有し、制御装置からの指示により駆動されることが好ましい。これにより、RxRyアタッチメント無しで、試料の傾斜を調整しながらφ軸回転を伴う測定が可能になる。5軸ゴニオメータ8は、例えば、測定軸として、5軸(ω、χ、φ、2θおよび2θχ軸)の走査が可能に構成される。
【0040】
また、同時に駆動できる3つ以上の回転軸は、φ軸、χ軸およびω軸を含むことが好ましい。これにより、χ値およびω値により試料の傾斜を調整しながらφ軸回転を伴う測定が可能になる。ω軸、χ軸およびφ軸は、それぞれ直交関係にある3つの軸である。
【0041】
φ軸は試料を設置するステージの表面の面内回転軸(表面に垂直な軸)である。ω軸は、試料またはX線源の姿勢の制御により、試料表面に対して入射するX線の角度を制御する軸である。χ軸は、ω値が0°の時にX線が進行する方向に対して垂直な方向の試料基準面の傾き(=あおり)を制御する軸である。なお、上記の「試料基準面」は、測定の目的に応じて、測定対象の試料の外形における表面または試料に含まれる結晶の格子面のいずれかを意味する。
【0042】
5軸ゴニオメータ8は、試料水平型である場合、4つの回転軸としてφ軸、χ軸、θs軸およびθd軸を含むことがさらに好ましい。この場合、ω軸および2θ軸は、試料水平軸を基準とする2つの駆動軸であるθs軸およびθd軸を組み合わせて制御される。なお、θs軸は、X線の入射角度を制御する回転軸であり、θd軸は、X線の受光角度を制御する回転軸である。ω軸のみを制御する場合は、ω値の駆動制御値分θs軸を回転させる。同時に、θd軸も同一方向に同量回転させる。また、ω軸と2θ軸を同時に制御する場合は、ω値および2θ値とθs値およびθd値は、ω=θs、2θ=θs+θdの関係を保つように制御される。
【0043】
このように、5軸ゴニオメータ8には、さらにωと2θの制御軸としてθs軸およびθd軸が用意されていることが好ましい。これにより、対象配置(2θ/θ)だけでなく、非対称配置(インプレーン測定、2θ/ω、ωスキャン、インプレーン軸を用いた極点測定等)を伴う様々な測定に適応できる。
【0044】
5軸ゴニオメータ8には、試料を移動する軸、測定をする軸、ステージ面内を回転させる軸および試料をあおる軸があり、それぞれ同時制御が可能である。また、特に単結晶を測定する場合には、測定を行う前に、その方位の調整が必要になる。単結晶の測定では、角度制御により高い精度が求められるため、RxRyアタッチメントより回転半径が大きく精度の高いゴニオメータによる調整の方が好適である。
【0045】
出射側光学ユニット9およびその後に配設される検出器10は、出射側アームを構成し、2θ回転系または2θχ回転系によって回転可能に支持される。出射側光学ユニット9の内部には、X線の横方向への発散を規制するソーラスリットや受光スリット等が格納される。
【0046】
上記の各軸は、各回転駆動装置によって駆動される。各軸の回転と駆動装置の関係は、下記の通りである。すなわち、ω軸回転は、θs回転駆動装置21により駆動される。2θ軸回転は、θs回転駆動装置21およびθd回転駆動装置22により駆動される。2θχ軸回転は、2θχ回転駆動装置23により駆動される。χ軸回転は、χ回転駆動装置26により駆動される。φ軸回転は、φ回転駆動装置27により駆動される。また、Z軸駆動装置、X軸Y軸駆動装置などが適宜用意されており、試料を各軸に対して平行移動できるようになっている。
【0047】
θs回転駆動装置21、θd回転駆動装置22、2θχ回転駆動装置23、χ回転駆動装置26、φ回転駆動装置27、Z軸駆動装置、X軸Y軸駆動装置は、いずれも、電動モータ等といった駆動源や、ウオームとウオームホイール等といった動力伝達装置等を用いて構成できる。
【0048】
そしてこれらの駆動装置は図3に示すように、CPU28およびメモリ29を含む制御装置40によってそれらの動作が制御される。メモリ29には、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等といった内部メモリおよびハードディスク等といった外部メモリが含まれる。X線回折装置30によって実行されるX線回折分析方法のための一連の動作を実現するためのプログラムソフトは、例えばメモリ29内のROM内に格納される。
【0049】
制御装置40の入力ポートには、作業者によって操作される入力装置としてのキーボード32や、検出器10(図2参照)の出力端子に接続されたX線強度演算回路33が接続される。X線強度演算回路33は検出器10の出力信号に基づいてX線強度を演算する。演算されたX線強度は信号の形でCPU28へ伝送されてそのCPU28による演算処理に供される。そして、必要に応じてその演算されたX線強度がグラフ等の形でディスプレイ34に映像として表示される。
【0050】
X線回折装置30は以上のように構成されている。この装置を用いてX線回折測定、例えばインプレーン回折測定を行う場合には、図2に示す試料板18の所定位置に試料S0を装着する。その試料S0に対するX線入射角度δを試料表面にすれすれの微小角度に設定し、試料S0に対する検出器10の角度2θをX線入射角度δに対応した所定値に設定する。
【0051】
そして、X線源Fから発生するX線を放物面多層膜ミラー7aによって単色化、例えばCuKα線に単色化し、同時に発散X線ビームを平行X線ビームに形成する。さらに、ソーラスリット7bによって横方向の発散を規制しながら平行X線ビームを微小入射角度δで試料S0に入射する。この状態で、2θχ軸線を中心とした回転により検出器10を試料S0回りに走査回転移動させ、その走査回転中に検出器10によってインプレーン回折線を検出する。
【0052】
[制御装置の構成]
図4は、制御装置40の機能的構成を示すブロック図である。制御装置40は、入力部41、調整量決定部43、記憶部45および駆動指示部47を備え、X線回折測定時に試料の姿勢を制御する。制御装置40は、例えばPCである。特にインプレーンに代表されるφ軸回転を伴う測定において、RxRyアタッチメントによる調整無しで高精度の測定を行うことができる。
【0053】
入力部41は、φ軸に対する試料の傾斜を表す傾斜情報の入力を受け付ける。傾斜情報は、特定のφ値におけるφ軸に対する試料の面法線の方向を表す情報またはこれに相当する情報であり、RxRyの事前調整量にも相当する情報である。後述するように、φ=0°、90°、180°のそれぞれでのωスキャンによるピーク位置の情報であってもよい。ピーク位置の情報は、X線回折装置30で検出されたデータから自動で入力されてもよいし、作業者により入力されてもよい。
【0054】
調整量決定部43は、傾斜情報を用いて、変化するφ値に対し試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定する。記憶部45は、調整量を決定するための計算式またはテーブルを記憶する。調整量決定部43は、ゴニオメータ8上に載置されたXYステージの測定位置ごとにω値およびχ値の調整量を決定できる。これにより、事前にXYステージによる試料の位置調整をしてφ軸回転を伴う測定が可能となり、面内マッピングも可能である。
【0055】
調整量決定部43は、記憶された計算式および傾斜情報に基いて試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正するためのω値およびχ値の調整量を決定できる。このように計算式を用いることで個別の状況に応じて柔軟にゴニオメータを駆動できる。
【0056】
また、傾斜情報に応じて、変化するφ値に対するω値およびχ値の調整値との対応関係を特定するテーブル選択し、選択されたテーブルの対応関係を用いてω値およびχ値の調整値を決定する。このようにテーブルを用いることで処理量を減らすことができ、簡易で素早い対応が可能になる。
【0057】
オフ角算出部46は、ω値およびχ値の調整量に基いて、試料の外形表面と格子面とのオフ角を算出する。算出されたオフ角は、解析に用いられ、ディスプレイ等により表示される。これにより、例えばRx軸、Ry軸の値に相当するω値やχ値の調整量を比較することで、例えば基板表面のオフ角度や、基板とエピタキシャル成長膜の方位のオフ角の角度量とそのズレ方位を解析できる。なお、基板表面のオフ角度は、基板表面と基板格子面の不一致によるオフ角度であり、基板とエピタキシャル成長膜の方位のオフ角は、基板結晶面と膜結晶面の不一致によるオフ角度である。
【0058】
駆動指示部47は、X線回折測定時に、決定されたω値およびχ値の調整量に基づいて、試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させる。これにより、φ軸の回転の影響を受けないように試料面法線または格子面法線と散乱ベクトルとのズレ量を補正する調整角度を、φ軸回転から独立したω値およびχ値の調整量に変換できる。その結果、試料台にRxRyアタッチメントを載せて試料の傾斜を調整することなくφ軸回転を伴う測定が可能になる。また、さらに高精度な試料の傾斜の調整が可能になる。
【0059】
なお、試料表面においては、試料面法線(試料系)と全反射条件の散乱ベクトル(装置系)を一致させることがズレ量の補正にあたる。また、格子面においては、格子面法線(試料系)と回折条件の散乱ベクトル(装置系)を一致させることがズレ量の補正にあたる。
【0060】
その結果、試料板にRxRyアタッチメントを載せて試料の傾斜を調整することなくφ軸回転を伴う測定が可能になる。また、XYステージ、温度調節機構または温度調節機構付きのXYステージ等の他のアタッチメントとの組み合わせが可能になる。
【0061】
駆動指示部47は、ゴニオメータ上に載置されたXYステージを駆動させる指示を行う。そして、XYステージの測定位置ごとに、決定された調整量に基いて試料のφ軸回転に応じてゴニオメータを駆動させる指示を行う。RxRyアタッチメントを用いて試料の傾斜を調整する場合にはできなかった事前にXYステージによる試料の位置調整をして測定を行うことができる。
【0062】
駆動指示部47は、同時に駆動できる3つ以上の回転軸を用いてゴニオメータを駆動させることが好ましい。ゴニオメータの同時に駆動できる3つ以上の回転軸を用いることで、ゴニオメータを用いて試料の傾斜を調整しながらφ軸回転を伴う測定が可能になる。
【0063】
[X線回折測定の方法]
図5は、本発明のX線回折測定の方法を示すフローチャートである。事前準備として、本測定の測定方法と測定条件を設定する。このとき、必要に応じて測定方法の光学系に切り替えて光学系調整を行う。これらの作業によって、補正前の初期値(ω,χ)が決定される。
【0064】
図5に示すように、まず、エピタキシャル薄膜や単結晶等の試料をX線回折装置30の試料板18に試料S0を設置する(ステップS1)。そして、ωスキャンするφの位置等、事前測定のための情報を入力する(ステップS2)。試料S0の傾斜情報を得るため事前測定を行う(ステップS3)。具体的には、傾斜情報としてφ軸からの試料の傾きαと方位βが得られる。事前測定の詳細は後述する。
【0065】
事前測定により得られた試料S0の傾斜情報は、制御装置40に入力される。制御装置40は、計算式を記憶部45から読み出し、読み出した計算式を用いてφ値に対するω値およびχ値の調整量を算出する(ステップS4)。なお、ステップS2~S4に代えて、調整量を直接に手入力してもよい。調整量の算出の詳細は後述する。得られた調整量は、駆動時用の計算式または調整量から算出した駆動制御値とともにテーブルとして保存する(ステップS5)。駆動制御値の算出の詳細は後述する。そして、仮想RxRyまたは傾き角度および方位角度を表示する(ステップS6)。
【0066】
次に、準備ができたら作業者は測定開始の指示を入力し、制御装置40は、測定開始の指示を受け付けて(ステップS7)、ステップS5で保存した駆動用の計算式またはテーブルを読み出す(ステップS8)。そして、X線回折装置30のX線の照射(ステップS9)、駆動軸の同時制御およびX線の検出等の制御を行い(ステップS10)、所望の範囲の軸駆動を終えたら測定を終了する。このとき、上記のステップS5で得られた駆動制御値を測定時の駆動軸の同時制御に用いる。上記の例では算出後に駆動制御しているが、算出と駆動制御を同時並行で行ってもよい。なお、ステップS9およびS10におけるX線の照射と駆動軸の同時制御は、入れ替えても良い。すなわち、試料位置調整時に本発明を適用し、X線照射の前に対象とするピーク位置まで回転する場合には、駆動軸の同時制御のあとにX線照射をして測定を行う。
【0067】
[事前測定および調整量算出]
図6(a)、(b)は、それぞれ事前測定および調整量の算出の動作の一例を示すフローチャートである。それぞれ図5のフローチャートのステップS2およびS5に対応し、終了によりもとのフローチャートに戻る。図6(a)に示すように、事前測定では、まずφ=0°でωスキャンし、ピーク位置ω=Pを取得する(ステップS31)。次に、φ=90°でωスキャンし、ピーク位置ω=Pを取得する(ステップS32)。そして、φ=180°でωスキャンし、ピーク位置ω=Pを取得する(ステップS33)。各ピーク位置の取得が完了すれば事前測定を終了する。
【0068】
なお、このとき試料面法線または格子面法線のいずれのズレ量を調整するかによって、スキャン対象とするピークが異なる。試料面法線の場合には、全反射条件に設定する。例えば、高密度の膜では2θ=0.8°に設定し、全反射強度のピーク位置を取得する。また、格子面法線の場合には、膜や基板の対称面の回折条件に設定する。例えば、Si基板では、2θ=69.13°(Si004)に設定し、回折強度のピーク位置を取得する。
【0069】
また、ωスキャンするφの位置は、必ずしも0°、90°、180°に限定されるものではなく、90°おきに3箇所のφでωスキャンの測定ができればよい。例えば、10°ずらしたところを基準として、ωスキャンするφの位置は10°、100°、190°であってもよい。
【0070】
上記ようにして得られたデータは、調整量の算出に用いられる。図6(b)に示すように、調整量の算出の際には、φ値に対応するωとχのオフセット値を算出する。まず、P1とP3の中心ω(φ)を以下の計算式(1)の通り計算する(ステップS41)。
【数1】
そして、計算式(2)を用いてφ軸からの試料の傾きαと方位βを計算する(ステップS42)。
【数2】
得られた傾きαと方位βは、制御装置40に入力される。制御装置40は、記憶部45に記憶された計算式(3)を読み出し、計算式(2)を用いて算出されたαとβの値を代入した調整量の計算式を本測定に用いる調整量として記憶し(ステップS43)、調整量算出の処理を終了する。なお、傾きαと方位βが予め用意されている場合は、ステップS2~ステップS42を省略し、直接制御装置40に傾きαと方位βを入力することに代用できる。
【数3】
図7は、φ値に対するω値およびχ値の調整量を示すグラフである。図7は、α=1、β=0°としたときの計算式(3)をグラフで表したものである。ωとχは直交関係にあるため、図7に示すように、φ値の変化に対し、調整量Δχは調整量Δωから90°だけ位相が遅れている。例えばφ軸に対して試料の面法線が傾いている場合、φ回転とロッキングカーブのピーク位置の関係はSinカーブで表現できる。
【0071】
また、上記の事前測定では、ωスキャンを行うφの位置を3箇所としたが、φ=0°~360°まで、任意の角度ごとにωスキャンし、各φの位置に対して、ピークを取得してもよい。各々取得したピーク値から基準となる値を差し引いて、調整量Δωを各々算出する。例えば、2θ=0.5°として、15°ごとにωスキャンした場合、基準となる値は、ω=2θ/2=0.25°となる。取得した全てのピーク値から0.25°を差し引いた値が調整量(Δω)となる。φ=90°のΔωの値をφ=0°のΔχとして、対応するφのΔωをΔχに当てはめる。このようにしてまとめたテーブルを、調整量として使用することもできる。テーブルは、事前測定が終了すると、自動的に生成される。同様の形式のテーブルが、予め用意されている場合は、(ステップS2~ステップS4)を省略し、直接制御装置40に入力することに代用できる。
【0072】
得られた調整量は、補正前の初期値を基準とした駆動制御値に変換し、保存する。制御装置40は、記憶部45に記憶された計算式(4)を読み出し、入力されたωとχの値を代入した調整量の計算式を本測定に用いる駆動制御値として保存する。ωと、χは、本測定の測定方法と測定条件や光学系調整の結果を元に値を決定する。例えば、測定方法インプレーン測定とし、測定条件に入射角度ω=0.5°と設定した場合、計算式(4)のωの値に0.5を代入した計算式が駆動制御値となる。図2に示す5軸ゴニオメータ8の構成では、χは、組み立ての精度や光学系調整の結果によって、値が決まる。試料板の表面がダイレクトビームに対して水平になるように、試料台がχクレードルに取り付けされている場合には、χ=0°となる。取り付けがずれている場合などは、ダイレクトビームに対する試料板表面の水平からのズレ量をχとして使用する。なお、上記のズレ量は、光学系調整により得られる。
【数4】
次に、ω、χの算出とφの回転駆動を繰り返して行う。ω、χの算出は、ω0とχ0の値を計算式(4)に代入した調整量の計算式を使用する。例えば、測定条件として2θχ/φ測定時のステップを0.1°とした場合、φの回転は0.05°ステップで行われる。制御開始時の駆動制御値は、φ回転の駆動開始位置として算出する。その後は、0.05°ずつ増やしたφの値を用いて、ω、χの値を算出する。φのステップごとに、駆動制御値の算出と同時制御を繰り返す。
【0073】
事前測定の別形態で記憶させたテーブルを用いる場合、φに対する調整量(Δω、Δχ)を元に計算式(4)を用いて制御駆動値(ω、χ)を算出し、同テーブルに算出した値を転記したテーブルが保存される。図8は、φ値に対する調整量ΔωとΔχおよび駆動制御値ω、χを示すテーブルである。テーブルを用いる場合には、φ回転の駆動開始位置に相当するφ値とそれに対応する駆動制御値のω値とχ値を駆動開始値として、テーブルの駆動制御値を参照しながら制御を行う。また、駆動のステップがテーブルのステップより細かい場合には、2点間の値を線形的に補間した値を算出して使用してもよい。
【0074】
また、ωとχの値を調整量の計算式(4)に代入した調整量の計算式を元に、テーブル形式に変換しても良い。この場合、任意のφステップで算出した制御駆動値を転記したテーブルが保存される。事前に制御駆動値が全て算出されていることで、制御中の計算コストがかからないため、制御時のスループットが向上する。
【0075】
[実施例1]
(逆格子マップ測定)
単結晶基板やその上に製膜した単結晶薄膜(エピタキシャル薄膜)では、その格子定数や歪状態が評価されている。これらの評価は膜厚方向に近い格子面(対称面)から傾いた格子面(非対称面)の逆格子マップにより行われる。
【0076】
測定前に、予め測定対象の格子面の面内回転と傾きを調整する必要がある。対称面からの傾きの度合いを評価する場合、一般的な調整手順では試料の高さを調整した後、非対称面の回転方向の調整(φスキャン)、対称面の表面からの傾きとあおりの調整(ωスキャンとχスキャン)、および再度非対称面の対称面からの傾きの調整(ωスキャン)といった手順での調整が必要となる。また、複数の非対称面について逆格子マップ測定を行うためには、この操作をそれぞれの測定面について行う必要がある。本発明の実施によりこれらの操作を簡素化できる。
【0077】
一例として、膜厚方向に対してc軸成長したGaNエピタキシャル薄膜のGaN(11-24)周囲の逆格子マップ測定の手順を説明する。
【0078】
まず、あらかじめ非対称面の逆格子マップ測定を行うため、GaN(11-24)の測定配置(ω:89.09°、2θ:99.9)を条件設定する。次に、試料板にGaNエピタキシャル薄膜を設置し、試料の高さの調整を実施する(ステップS1に相当)。そして、対称面GaN(0002)のピークを利用した事前測定を行い(ステップS2、S3に相当)、φ軸からのGaNのc軸の傾きαと方位(方位角)βを取得する。そして、取得された傾きαおよび方位(方位角)βに基づいて、φ値に対するω値およびχ値の調整量を算出する(ステップS4に相当)。
【0079】
次に、GaN(11-24)の測定配置における基準の入射角度ωから得られる制御駆動値を保存する(ステップS5に相当)。このとき、仮想RxRyまたは傾き角度および方位角度を表示してもよい(ステップS6に相当)。そして、GaN(11-24)の測定配置に移動し、調整を行う指示をする(ステップS7に相当)。次に、保存した計算式を読み出す(ステップS8に相当)。そして、測定配置まで試料をφ軸回転させる際、駆動軸の同時制御を行う。X線照射し、調整を行い、非対称面の回転方向の調整(φスキャン)時に駆動軸の同時制御を行う(ステップS9およびS10に相当)。調整が終了したら、GaN(11-24)周囲の逆格子マップ測定を開始する。
【0080】
その後、別の非対称面を測定するためには、測定対象の非対称面の測定配置を条件設定するだけで、制御駆動値を更新できる。その際、上記で決定したGaN(11-24)のφ位置から相対的にφを決定すると、調整も省略できる。例えば、GaN(11-24)から30°面内回転した方向にあるGaN(10-15)の測定を行うためには、上記で調整したGaN(11-24)のφからを30°相対移動させた値をGaN(10-15)の測定配置(φ:調整値+30°、ω:73.08°、2θ:105.01°)に設定すればよい。更新させた制御駆動値に従って移動すれば、ズレ量が補正された位置に移動できるため、一般的な調整手順よりも簡単に測定を開始できる。
【0081】
上記の例では、非対称面の逆格子マップ測定の調整に本発明を適用しているが、非対称面のアウトオブプレーン回折測定(2θ/ωスキャン)、ロッキングカーブ測定(ωスキャン)、対称面での逆格子マップ測定の調整にも同様に適用できる。
【0082】
[実施例2]
(インプレーン軸を使ったロッキングカーブ測定)
インプレーン軸を搭載したゴニオメータでは、単結晶薄膜の試料表面面内方向にある格子面の方位を測定することで、試料の外形や、基板の結晶方位に対する面内方向の結晶方位を評価できる。インプレーン軸を使ったロッキングカーブ測定では、試料表面に対する入射角度の制御により、照射するX線の試料に対する潜り込み深さを制御できる。
【0083】
面内方向の結晶方位評価では、試料の面内回転(φスキャン)を行うが、試料表面が図1(a)の様に傾いている場合には図1(b)の様に入射角度が変化しないよう、測定中にφの移動に伴ったX線の試料への入射角度と試料のあおりの制御を行う。本発明によるc軸成長したGaN(1-100)の結晶方位評価は、以下の手順で行える。
【0084】
まず、GaN(1-100)のロッキングカーブ測定(φスキャン)を行うためGaN(1-100)の測定配置を設定する(入射角度ω:0.5deg、2θχ:32.5deg)。次に、試料板にGaNエピタキシャル薄膜を設置し、試料の高さを調整する(ステップS1に相当)。そして、GaN表面の入射X線の全反射を利用して事前測定を行う(ステップS2、S3に相当)。この事前測定により、φ軸からの試料表面法線の傾きαと方位(方位角)βを取得する。取得された傾きαと方位(方位角)βに基づいて、φ値に対するω値およびχ値の調整量を算出する(ステップS4に相当)。算出された調整量を用い、入射角度ωに対する制御駆動値を算出し、保存する(ステップS5に相当)。このとき、仮想RxRyまたは傾き角度および方位角度を表示してもよい(ステップS6に相当)。
【0085】
次に、GaN(1-100)の測定配置に移動し、ロッキングカーブ測定を行う指示をする(ステップS7に相当)。指示を受けて、保存した計算式を読み出す(ステップS8に相当)。そして、X線照射し、φスキャン時に駆動軸の同時制御を行う(ステップS9、S10に相当)。このようにして、得られたピーク位置からサンプル外形に対するGaN(1-100)の方位を決定できる。
【0086】
上記の例ではインプレーン回折測定のうち、ロッキングカーブ測定(φスキャン)に発明を適用しているが、2θχとφを2:1の相対速度で同時にスキャンするインプレーン測定(2θχ/φスキャン)、ゴニオメータの配置を変えながらφスキャンを行うインプレーン軸を使った極点測定にも適用できる。
【符号の説明】
【0087】
5 システム
6 X線発生部
7 入射側光学ユニット
7a 放物面多層膜ミラー
7b ソーラスリット
8 5軸ゴニオメータ
9 出射側光学ユニット
10 検出器
12 ヘッド部
14 ベース部
15 χクレードル(χ軸調整機構)
18 試料板
21 θs回転駆動装置
22 θd回転駆動装置
23 2θχ回転駆動装置
26 χ回転駆動装置
27 φ回転駆動装置
28 CPU
29 メモリ
30 X線回折装置
32 キーボード
33 X線強度演算回路
34 ディスプレイ
40 制御装置
41 入力部
43 調整量決定部
45 記憶部
46 オフ角算出部
47 駆動指示部
F X線源
S0 試料
n 面法線
Δχ 調整量
Δω 調整量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10