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特許7300720シンバスタチンの1つまたは複数の代謝産物を直接投与することによって無血管性軟骨組織における欠損を処置するための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】シンバスタチンの1つまたは複数の代謝産物を直接投与することによって無血管性軟骨組織における欠損を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/22 20060101AFI20230623BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230623BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230623BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
A61K31/22
A61K9/10
A61K47/36
A61P19/02
A61P43/00 105
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019563365
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 US2018032635
(87)【国際公開番号】W WO2018213221
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】62/506,104
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513182776
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・シンシナティ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】リン,チア-イーン・ジェームズ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-512921(JP,A)
【文献】国際公開第2009/092094(WO,A2)
【文献】Dental Materials Journal,2007年,26(3),451-456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/22
A61K 9/10
A61K 47/36
A61P 19/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傷害を受けた実質的に無血管性の軟骨組織の損傷を修復またはその変性の進行を遅延するための制御放出組成物であって
シンバスタチン-ベータ-ヒドロキシ酸(SVA);および
ヒドロゲル
を含み、
前記制御放出組成物が、それを必要とする対象の関節腔に注入によって直接投与され、
前記SVAが、前記無血管性軟骨組織において、傷害を受けた実質的に無血管性の軟骨組織に対する損傷を修復またはその変性の進行を遅延させるために効果的な速度および量で放出される、
前記制御放出組成物。
【請求項2】
軟骨組織が脊椎椎間板にある、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
軟骨組織が関節にある、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
軟骨組織が半月板軟骨を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
対象が変形性椎間板疾患を患い、かつ直接投与が椎間板内投与を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
注入が、制御放出製剤を運搬するシリンジをガイドするためのフルオロスコープを使用して行われる、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
ヒドロゲルが、疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
ポリマーが、ホモポリマーまたはコポリマーである、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記制御放出組成物の投与が、損傷した軟骨部位において、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞の増殖を促進する、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
対象が哺乳動物である、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
関節腔への注入可能な投与のために製剤化された制御放出組成物であって
シンバスタチン-ベータ-ヒドロキシ酸(SVA);および
ヒドロゲル
を含む、制御放出組成物。
【請求項12】
SVAがヒドロゲル内に分散された、請求項11に記載の制御放出組成物。
【請求項13】
ヒドロゲルが、疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーを含む、請求項12に記載の制御放出組成物。
【請求項14】
ヒドロゲル中の親水性ポリマーが、約10%から50%、約20%から40%、または約20%から30%の範囲で存在する、請求項13に記載の制御放出組成物。
【請求項15】
ヒドロゲル中の疎水性ポリマーが、40%から90%、約60%から80%、または約70%~80%の範囲で存在する、請求項13に記載の制御放出組成物。
【請求項16】
分散したSVAの量が、1から50mg/mlの範囲である、請求項12に記載の制御放出組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2017年5月15日に出願された米国特許仮出願第62/506,104号に基づく優先権を主張するものであり、その開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明の実施形態は、概して治療薬理学に関し、特に、損傷した、そうでなければ欠陥した軟骨組織、すなわち無血管性軟骨組織によって特徴付けられる疾患および状態を患う対象を処置するための効果的な方法および組成物であって、無血管性組織へシンバスタチンの1つまたは複数の代謝産物を直接投与することによる方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
シンバスタチン(SV)は、現在は、循環器疾患/高コレステロール血症を処置するために広範囲に処方される薬物であり、その誘導体は、ごく最近では、椎間板細胞における軟骨形成を促進し、椎間板疾患を改善するためのものを含む多くの他の用途で使用されている。
【0004】
30,000種類を超える天然化合物のライブラリーの調査に基づいて、Mundyおよび共同研究者らは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤である、シンバスタチン(SV)などのスタチンが、ネズミおよびヒト骨細胞におけるBMP-2 mRNAをin vitroで特に増加させ、その後の骨形成をin vivoで誘導する唯一の種類の分子であることを発見した。スタチンは、一般に処方されるコレステロール低下薬物であり、コレステロール生合成経路を阻害する。それ以来、スタチンの骨同化作用、骨保護効果に関するこの「副作用」の発見および基本的な機序は、骨粗鬆症のためのレジメンとしてなど、鋭意研究の対象となった。SVは、非形質転換骨芽細胞、骨髄間質細胞、ヒト血管平滑筋細胞、およびラット軟骨細胞などのさまざまなタイプの細胞においてBMP-2発現を増加させるというさらなる研究も実証された(例えばZhang、Hら(2008年)Spine、33(16)、Zhang、H.ら(2009年)Arthritis Res Ther Arthritis Research & Therapy、11(6)、およびThan、K.D.ら(2014年)The Spine Journal、14(6)、1017~1028頁を参照されたく、これらの開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれるものとする)。
【0005】
変形性椎間板疾患(DDD)は、腰痛の主な一因と考えられ、一般的な医学的問題、著しい社会経済的負担をもたらす。しかし、DDDの処置のための現在の臨床基準は、特に外科的介入が関与する場合の合併症と関連することが多い。変形性椎間板(IVD)の生物学的修復または再生は、組換えヒト骨形成タンパク質-2(BMP-2)を含む組換え治療用タンパク質における近年の進歩と共に推奨されてきた。しかし、これらの組換えヒト成長因子の必須用量は、生理学的用量を超え、毒性および他の不所望の合併症の可能性に関する懸念を増大させることが多い。
【0006】
現在の処置レジメンに代わるものとして、過去10年にわたって、組織工学および再生アプローチが、精力的な調査の取組みの主題となってきている。特に、骨形成タンパク質(BMP)ファミリーなどの成長因子は、損傷した椎間板組織内でのマトリックス再生の刺激において大いに有望であることを示している。初期の結果は励みになるものであるが、組換え成長因子の臨床用途は、特に無血管性椎間板組織内における望ましくない血管の成長、副作用のリスクを増加させる治療有効性に必要な生理学的濃度の超過、および臨床グレードの組換えタンパク質の製造と関連する高いコストを含む多くの懸念をもたらす。その結果、そのような問題のない再生医薬品がより望まれる。
【0007】
本発明者らは、10年以上にわたってSVの効果を広範に研究し、SV刺激が、アグリカン、II型コラーゲン、および変性の進行を遅延させかつ変性したIVDの修復を促進する助けとなる硫酸グリコサミノグリカンを含む、哺乳動物髄核(NP)細胞のいくつかの表現型発現を促進することを報告している。SVは、処置されたNP細胞において内因性BMP-2発現を上方制御することによって軟骨形成を促進し、影響を受けたIVDのin vivoでの修復を促進するために有効であることが発見された。DDDのために提案されたSV処置のさらなる利点は、椎間板内注入手順が、開腹手術を必要とせず、これが、術後疼痛および回復時間、ならびに最終的には醜い変形が生じる過度の椎間板逸脱(disc perturbation)のリスクを最小限にすることも含んでいた。手順は、一般的であり、かつ脊椎外科医に加えて多くの他の臨床専門医によって行うことができ、そのようなアプローチを、現行の健康管理制度においてより手頃に、実用的に、かつ採用可能にする。したがって、SVは、DDDの処置のためのタンパク質系再生医薬品に代わる有望なものと考えられる。
【0008】
椎間板と半月板との組成の間の類似点に基づいて、SVの直接投与は、半月板組織欠陥を処置し、椎間板モデルと類似した様式で軟骨形成を刺激することによって治癒を改善することに利用するためにも考慮されている。半月板断裂は、膝の最も一般的な損傷のうちの1つであり、人口の大部分に、若齢の人々の間にさえも、生産性の実質的な損失およびクオリティオブライフの低下をもたらす。医師は、50歳を超える国民のおよそ3分の1は、半月板を少なくとも1回断裂しており、この集団は、年齢を重ねるにつれ、安定性/転倒および慢性疼痛に対してより脆弱になることを報告している。
【0009】
本発明者らは、周知の半月板損傷モデルを以前に利用し、生検パンチまたはk-ワイヤを使用して十分な厚さの環状病変部を半月板に作成し、FDA承認の生分解性ヒドロゲルと共にSVの持続的な薬物送達を使用し、注入してから4週間以内に新規の組織の成長を実証した(Zhang & Lin、(2008年)Spine、33(16)、およびZhangら(2016年)The American Journal of Sports Medicine.doi:10.1177頁を参照されたく、その開示内容全体は、本明細書に組み込まれるものとする)。
【0010】
全身送達されたSVが、肝臓で広範な初回通過代謝を受けることは周知である。結果として、薬物は、3’-ヒドロキシSV(hSV)、6’-エキソメチレンSV(eSV)、3’,5’-ジヒドロジオールSV(dSV)、およびSVベータ-ヒドロキシ酸(SVA)を含むいくつかの酸化物へ急速に加水分解されるようになる(図5)。SVAを含むこれらの代謝産物のヒドロキシ酸形態のうちのいくつかも、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であることが発見され、その後、SVAはSVに対する競合物であることが認められた。その結果、全身投与されたSVに起因する治療的効果のうちの少なくともいくつかが、SV代謝産物のうちの1つまたは複数に実際は関与することが仮定され得る。
【0011】
しかし、厳密には、SVをIVDまたは関節腔へ直接注入しても、これらは両方とも無血管性である(血液またはリンパ液を連通させるまたは循環させる血管がない)ので、IVDまたは関節腔においてSV代謝産物が存在することは期待できないであろう。直接注入は、肝臓代謝を迂回し、したがって、無血管性組織において観察されるSVの再生効果は、SV代謝産物と関与せず、かつSV活性自体の生理薬理学に起因することが結論付けられ得る。
【0012】
その結果、本発明者らによる本明細書において報告される調査に先行して、どのSV代謝産物が無血管性組織におけるBMP-2発現の増加に関して同様に効果的であるかを判定するための、特に競合的HMG-CoAレダクターゼ阻害剤として知られている代謝産物であるeSVおよびSVAに関する研究は行われていない。さらに、非HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるSV代謝産物、すなわちhSVおよびdSVが、それでもなおBMP-2発現を制御することができるまたは観察された他の細胞/分子活性体を調節することができるかどうかを検証するための研究は行われていない。特に、関節および椎間板への直接注入に伴う、注入体積の減少、製剤の利点、および副作用の減少を伴う有効性の増加などの潜在的な利点全てが、SV代謝産物のさらなる調査につながり、欠陥した無血管性組織を再生するための効果的で比較的非侵襲的な方法の発見に強力にアプローチする。
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、SV代謝産物であるSVAが、メバロネート変換を、SVよりもより効率的に阻害し、かつ直接投与したときに、無血管性組織の再生においてSV単独よりも同化を5~6倍促進することを確認した。さらに、SVAは、抗異化作用の一因となり、相乗効果を与え、SVで観察されたように軟骨形成を促進することが発見された。興味深いことに、dSVとhSVの両方を含む、非HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるSV代謝産物の投与が、ある程度の再生を促進したことも見出され、代謝産物の有効性と関連する機序は未だに解明されていないことを示唆した。したがって、1つまたは複数のSV代謝産物の組成物の直接投与は、DDDまたは半月板損傷のいずれかを患う患者にとってSV単独の投与よりも優れた再生利点を提供する。
【0014】
よって、1つの実施形態は、実質的に変性したまたは傷害を受けた無血管性の軟骨組織の損傷を修復するまたは遅延させる方法を提供する。方法は、シンバスタチン(SV)の少なくとも1つの酸化代謝産物を含む組成物を、それを必要とする対象の無血管性組織の部位へ直接投与するステップを含む。他の実施形態において、方法は、HMG-CoAレダクターゼを阻害することなく骨形成タンパク質(BMP)発現を増加させる少なくとも1つの活性体(active)を、それを必要とする対象の傷害を受けた無血管性組織の部位へ直接投与するステップを含む。特定の実施形態において、少なくとも1つの活性体は、hSV、dSVおよびこれらの組合せから選択される。
【0015】
別の実施形態は、注入可能な投与のために製剤化された制御放出組成物であって、シンバスタチン(SV)の少なくとも1つの酸化代謝産物を含む、制御放出組成物を提供する。
【0016】
他の実施形態は、これらに限定されないが、DDDおよび半月板損傷を含む無血管性軟骨組織損傷を患う患者を処置するための方法を対象とする。
これらのおよび他の実施形態は、以下の図面および詳細な説明を参照することによってより完全に記載され、かつ明白にされるであろう。
【0017】
図面は、本発明の特定の実施形態および態様を例示するために示されるものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される全範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】ラットNP細胞におけるBMP-2 mRNA発現に対する1μMシンバスタチン(SV)およびシンバスタチンヒドロキシ酸(SVA)の効果を示す図である。データはGAPDHを用いて正規化され、ビヒクル(DMSO)に対する比として示される。
図1B】ラットNP細胞におけるBMP-2 mRNA発現に対する3μMシンバスタチン(SV)およびシンバスタチンヒドロキシ酸(SVA)の効果を示す図である。データはGAPDHを用いて正規化され、ビヒクル(DMSO)に対する比として示される。
図2】SVで観察されたIVD修復に対するSV代謝産物の効果の略図を示す図である。
図3A】3μM(in vitroで効果的な用量)SVで処置したときに、ラットNP細胞において上方制御されたBMP-2 mRNA発現は、コレステロールの存在とは無関係であったことを実証する図である。
図3B】FPPの阻害から刺激は除外されたが、MVA経路に沿った下流基質GGPPの阻害によって高度に影響を受けたことを示す図である。
図3C】個々のGGTaseの阻害は、BMP-2の刺激を達成したが、レベルは、シンバスタチンによって直接刺激されたものに相当しなかったことを示す図である。
図3D】両方の阻害が同時に出現したときに、刺激が、各単独の阻害と比較して著しく増加したが、レベルは、依然としてシンバスタチンによって促進された発現を下回ったことを示す図である。
図4】アグリカン、コラーゲンII型、コラーゲンI型のmRNA発現、および「分化指標」であるヒトNPおよびAF細胞のコラーゲンII/I比に対するシンバスタチンの効果を示す図である。データは、GAPDHを用いて正規化され、かつビヒクルに対する比として示される(、P<0.05および**、P<0.01、ビヒクルと比較した)。
図5】シンバスタチンおよびその代謝産物の構造および経路を示す図である。
図6A】右内側半月板の完成した1.4mm欠陥を示す写真である。
図6B】ヒドロゲル組成物の左内側半月板への注入を示す写真である。
図7A】損傷から8週間後の、損傷のみの対照の2倍のヘマトキシリンエオシン組織学的染色(H&E)を示す図であり、修復組織が存在しないことを示している。
図7B】損傷から8週間後の、処置が行われた2倍のH&Eを示す図であり、修復組織の存在を示している。
図8A】損傷から8週間後の、処置が行われた40倍のH&Eを示す図であり、修復組織の存在を示している。
図8B】損傷から8週間後の、処置が行われた40倍のBMP-II免疫組織化学を示す図であり、修復組織の存在を示している。
図9A】損傷から8週間後の、処置が行われた40倍の(右内側半月板)サフラノンO染色を示す図であり、修復部位における修復組織を示している。
図9B】半月板組織の内側1/3に位置する構造化された細胞の、9Aと同じ対象の40倍のポジティブSAFO染色を示す図である。
図10A】損傷から8週間後の、処置が行われた40倍の(右内側半月板)COL-I免疫組織化学を示す図であり、修復部位における修復組織を示している。
図10B】半月板組織の内側1/3に位置するCOL-Iに関する構造化された細胞の、図10Aと同じ対象のポジティブ染色を示す図である。
図11A】損傷から8週間後の、処置が行われた40倍の(右内側半月板)COL-II免疫組織化学を示す図であり、修復部位における修復組織を示している。
図11B】半月板組織の内側1/3に位置するCOL-IIに関する構造化された細胞の、図11Aと同じ対象のポジティブ染色を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
腰痛(LBP)は、米国において最も一般的な医学的問題の1つであり、米国の人口の約80%が人生のどこかの時点で悩まされている。仕事を休むのに最も一般的な理由のうちの1つでもあり、かつ慢性LBPは麻薬依存を促進し、したがって、莫大な社会経済的負担ならびに公衆衛生問題が生じる。特異的(例えば脊髄腫瘍または感染症)または非特異的(明らかな原因がない)のいずれかのLBPの症例の中でも、変形性椎間板疾患(DDD)は、LBPの主要な一因として考えられている。DDDを治療するための現在の臨床基準は、特に外科的介入が関与したときの合併症と関連することが多い。したがって、異常な椎間板を、治療化合物を用いてin situで生物学的に修復または再生するための能力は、将来の処置選択肢にとって魅力的な選択である。最小限の侵襲的な介入を提供するためだけではなく、傷害を受けた椎間板の再構成を潜在的に促進するために、このような戦略が好ましい。
【0020】
現在利用可能な再構成レジメンは、組換え成長因子の使用を伴い、これは製造コストが非常に高いだけではなく、毒性および必要とされる生理学的用量を超えることと関連する他の不所望の合併症に関する懸念をもたらす。したがって、残念なことに、DDDのための現在の標準治療は、椎間板修復よりも、疼痛コントロール、脊椎の安定化、および疾患進行の減速を焦点に合わせている。
【0021】
本発明者らは、コレステロール低下薬物として通常処方されるシンバスタチン(SV)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤が、in vitroで薬物処置されたときに、哺乳動物髄核(NP)細胞の表現型発現を促進することを以前に示した。in vivoでは、DDDのラットモデルにおける影響を受けた椎間板(IVD)がSVの制御放出製剤を注入されたときに、該化合物は変性の進行を遅延し、また悪化したIVDの修復を最も顕著に促進した(同化作用)。さらに、抗炎症におけるシンバスタチンの公知の多面的効果も観察され、ここでは細胞外マトリックスを分解する酵素の発現が抑制された(抗異化作用)。これらのマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、典型的には、病的な椎間板における炎症促進性サイトカインによって刺激される。結果は、SVが、DDDを処置するための組換えタンパク質の優れた代替物であるという初のエビデンスを提供する。それにもかかわらず、SVプロドラッグの疎水性は、現在利用可能な/承認されたヒドロゲルビヒクルを用いたその局所送達をも著しく制限する。
【0022】
興味深いことに、本発明者らによって取り組まれた最新の研究において、SVの活性加水分解代謝産物であるシンバスタチンベータ-ヒドロキシ酸(SVA)は、プロドラッグSVで認められる結果として生じる椎間板修復のメディエーターである内因性骨形成タンパク質-2(BMP-2)の上方制御において、実際はより効果的であることが観察され、SV代謝産物のうちの少なくとも1つは、IVDの処置において観察されたSVの有効性を指示する場合があることを示唆した。
【0023】
NP細胞は、「軟骨細胞様」細胞と通常は称される。その理由は、これらの細胞は、最初は脊索性であるが、小児の間に、関節軟骨の軟骨細胞と類似している円形細胞へ徐々に置き換えられるためである。NP細胞は、IVD組織マトリックスを構成するための軟骨形成性表現型を維持し、かつNP細胞をBMP-2へ曝露すると、軟骨形成性表現型の発現が促進される。さらに、最近の発見も、BMP-2を含む内因的に産生されたBMPは、炎症促進性サイトカインの効果に干渉することを示した。両方の現象は、上述の結果と一致する。この実験は、無血管性組織において刺激されたBMP-2発現が、HMG-CoAレダクターゼの阻害における強力な競合物でもある活性代謝産物のSVAを投与することによって、かつSVAおよび少なくとも1つの追加のSV代謝産物を含む組成物によって、ならびにSVおよびHMG-CoAレダクターゼ阻害剤以外の代謝産物を含む少なくとも1つの活性SV代謝産物を含む組成物によって強化されることを示すように設計される。
【0024】
スタチンは、コレステロール生合成の強力な阻害剤である。しかし、継続中の持続的な研究も、スタチンのコレステロール非依存的または「多面的」効果のうちのいくつかは、脂質レベルの変化のみから期待され得るものよりも有益であることを示す。SVを含むスタチンは、下流低分子量G-タンパク質の機能に重要であるタンパク質プレニル化の酵素活性に影響を与える。これらのG-タンパク質は、多くの生理学的応答、ならびに極性、遺伝子転写および細胞内小胞輸送を含む細胞内シグナル伝達経路の調節剤である。したがって、RhoファミリーおよびそのサブファミリーのRac G-タンパク質に対するSV代謝産物の効果に関心が持たれる。SVはRhoを不活性化することによって抗炎症作用を与え、これはMMPの抑制において観察されたものと関連する一方、SVによって阻害された場合、Racは酸化的ストレスを減少させる。最近の研究は、NP細胞において誘発された酸化的ストレスは、椎間板変性と関連することを報告している。したがって、SVプロドラッグで観察される2つのG-タンパク質の下方制御におけるSV代謝産物の役割を解明することが重要である。
【0025】
全身性送達において、SVは、肝代謝を受け、SVAなどのいくつかのヒドロキシ酸を含むさまざまな代謝産物を生成する(図5を参照のこと)。これらの酸性代謝産物は、律速酵素活性の点でプロドラッグSVと競合する場合があり、かつ特定の生物学的活性に潜在的に大きな影響を及ぼす。しかし、無血管性組織への送達に関しては、SVの全身投与も直接投与も、活性代謝産物を付与することは予想されないはずである。
【0026】
上述のように、BMP-2上方制御に対するスタチンの多面的効果の発見は、特に骨同化作用および骨防護におけるそれらの影響に関する熱心な調査を生み出している。上方制御に関する基本的な機序を解明するために、拡大研究も実施されており、その結果は、スタチンが、Ras/PI3K/Akt/MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)/BMP-2経路を通してBMP-2の発現を増加させることを示す(Ghosh-Choudhury Nら、J Biol Chem.2007年;282(7))。Chenら(Chen P.Y.ら、Nutr Res.2010年;30(3):191~9頁)は、これらの結果を確認し、スタチン誘発性骨形成に関するPI3K/Akt経路は、低分子量GTPase、Rasの活性化に依存し、これは細胞内膜上のタンパク質を局在化することによって促進されることをさらに報告した。骨に加えて、BMPは、BMP2、4、7および14の使用に焦点を合わせた研究で、IVD変性のための潜在的な治療剤としても示唆されている。これらの成長因子の全ては、BMPRIIの存在を必要とする同じ受容体に作用し、機能する。しかし、1つの研究のみがヒトIVD組織におけるこの受容体の発現を調査している。WangH.ら(J Mol Med-Jmm.2004年;82(2):126~34頁)は、逆転写酵素PCRを使用し、6つのヒト脊柱側湾の椎間板(IVD discs)においてBMP受容体の発現を実証し、3つの受容体に関するmRNAが発現されたことを示した。
【0027】
実施例1において、BMPRIIは、30個のヒト椎間板のNPおよび内側線維輪(AF)細胞へ局在化される。わずかな免疫陽性が、外側AF由来の細胞において認められた。NPにおける細胞は、内側AFにおけるものよりも高比率で免疫陽性を示した。これは、ヒトIVDへ適用されたBMPが、NPおよび内側AF内で最も優れた効果を示すであろうことを示唆する。これらの結果は、受容体発現が軟骨端板およびAFで観察されているにすぎない、マウスにおいて観察されたものと異なる。興味深いことに、発現レベルにおける変化は変性の程度と共に観察されなかった。
【0028】
処置されたNP細胞における内因性BMP-2発現を刺激し、軟骨形成性表現型発現(アグリカンおよびII型コラーゲンmRNA発現ならびにsGAG含有量)を増加させるSVに関する調査からの研究結果は、上記の観察結果と一致し、該小分子が、軟骨形成の促進の点で骨形成と同じくらい有効であることを立証した。しかし驚くべきことに、これらの細胞が、SVの活性加水分解代謝産物であるSVAで処置されたときに、BMP-2の上方制御は、より強度に刺激された。SVは、高コレステロール血症および高トリグリセリド血症を処置するために広範囲に処方されている。ヒトにおいて、それは急速な代謝を受け、4つの主要な酸化NADPH依存性代謝産物の、3’-ヒドロキシSV(hSV)、6’-エキソメチレンSV(eSV)、3’,5’-ジヒドロジオールSV(dSV)、およびSVAを形成する(図5)。これらの中でも、SVAは、HMG-CoAレダクターゼ阻害における最も強力なSVの競合物である。これは、BMP-2上方制御の全体的なスキームにおいて、SVAが優勢であるかどうかに関する疑問を提起した。SVとSVAの両方によって誘発されるBMP-2のレベルは、それぞれどれだけ異なることになるかどうかを試験するために、本発明者らは、以前の研究で開発されたin vitroモデル系を使用し、試験を実施した。尾部椎間板から採取されたラットNP細胞は、最初に単層で、次いでアルギネートビーズで培養された(Zhang H.ら、Spine、2008年;33(16)、その開示内容全体は、参照により本明細書に組み込まれるものとする)。細胞は、DMSO(ビヒクル)、1または3μMのSVまたはSVAで処置された。次いで、細胞は、あらかじめ決められた時点で収集され、RNAが抽出された。RT-qPCRによって遺伝子発現を分析した。結果は、1μMでは、BMP-2のmRNA発現が、1日目から3日目までSVで処置された細胞におけるものと比較して、SVAで処置された細胞では同じまたは2倍であったことを示した。しかし、その後7日目に、差は劇的に増加した。SVA群において誘発されたBMP-2レベルは、SV群におけるものよりも5~6倍高かった(図1A)。処置濃度が3μMへ増加されたときに、差はさらに増加した(図1B)。
【0029】
結果は、BMP-2上方制御に対して、SVを上回るSVAの優れた有効性を示した。BMP-2上方制御のイベントは、HMG-CoAレダクターゼ阻害の結果であり、SV、SVA、およびeSVは全て阻害剤であるため、これらによって達成されることができる。さらに驚くべきことに、いくつかの再生能は、非HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるhSVおよびdSVの投与によって確立されるが、経路は不明である。
【0030】
SVは、イソプレノイド中間体、フェネシルピロホスフェート(FPP)またはゲラニルゲラニルピロホスフェート(GGPP)のいずれかの合成を阻止することができ、これらがRas、Rho、Rabファミリーなどの下流低分子量G-タンパク質の機能を阻害することは公知である。非HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるhSVおよびdSVの効果に関する機構経路の(これらはタンパク質のプレニル化またはG-タンパク質へ直接影響を与えるのかという)問題は、依然として表面化されたままである。RasおよびRhoは、Ras/PI3K/Akt/MAPK/BMP-2経路を通してBMP-2の発現を制御し、かつRhoとRacの両方は、観察された同化および抗異化効果と関連し得るため、代謝産物が、どのようにしてSVで得られた有効性の一因となるのかという機序を詳細に分析すると、追加の治療戦略が得られる。これを説明するスキームを、図2に示す。
【0031】
スタチンによるコレステロール低下に関して理解される古典的機序は、スタチンが、メバロネート(MVA)経路の最初に関与する酵素であるHMG-CoAレダクターゼを競合的に阻害することによって作用することである。この競合は、HMG-CoAレダクターゼがMVAを産生することができ、プレニル化酵素基質FPPおよびGGPPを合成するためのカスケードにおける次の分子が、最終的にコレステロールを生成する助けとなるための速度を減少させる。発明者らによる以前の研究(Zhang H.N.、Lin C.Y.Spine.2008年;33(16)、参照により本明細書に完全に組み込まれるものとする)で示されるように、SVが存在した場合、NP細胞のBMP-2 mRNA発現は、時間および用量依存様式で常に応答した。さらに、3μM SVで処置されたNPにおける刺激は、コレステロール(図3A)ならびにFPP(図3B)の存在とは無関係であった。その代わりに、細胞がMVAで前処置されたときに、刺激は完全に逆転されたことが観察によって示されたように、刺激は、MVA経路に実際は関与した。興味深いことに、下流基質のGGPPが補充されたときにも、逆転は達成された(図3B)。次に、GGTase阻害剤のGGTI-286およびPOHのいずれかが、SVによるGGPP酵素活性化の阻害を模倣するために与えられたときに、これらの両方がBMP-2 mRNA発現を増加させることができたが、それぞれのレベルは、SVで認められたものよりもはるかに低かった(図3C)。IVD細胞が、GGTI286およびPOHと一緒に同時処置されたときに、BMP-2上方制御は、各単独の処置よりも著しく高かった(図3D)。しかし、同時処置によるBMP-2上方制御は、SV処置でのものに相当するレベルに依然として達しておらず、HMG-CoAレダクターゼの阻害とは別個の機序が、BMP-2発現を相乗的に促進し得ることを示唆した。機序に束縛されるものではないが、本発明者らは、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤以外のSV代謝産物、すなわちhSVおよびdSVも、BMP-2上方制御に影響を与えることを発見している。
【0032】
1つの実施形態は、傷害を受けた実質的に無血管性の軟骨組織の損傷を修復または遅延する方法であって、シンバスタチン(SV)の少なくとも1つの酸化代謝産物を含む組成物を、それを必要とする対象の無血管性組織の部位へ直接投与するステップを含む方法を対象とする。さらに特定の実施形態によれば、投与するステップは、シンバスタチン(SV)の少なくとも1つの酸化代謝産物の制御放出製剤を投与することを含み、前記組成物は、前記無血管性軟骨組織において損傷を修復または遅延させるために効果的な速度および量で放出される。SVの少なくとも1つの酸化代謝産物は、3’-ヒドロキシシンバスタチン(hSV)、6’-エキソメチレンシンバスタチン(eSV)、3’,5’-ジヒドロジオールシンバスタチン、3’,5’-ジヒドロジオールシンバスタチン(dSV)、シンバスタチン-ベータ-ヒドロキシ酸(SVA)、およびこれらの組合せからなる群から選択される。極めて特定の実施形態によれば、SVの少なくとも1つの酸化代謝産物は、SVAを含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、SVは、少なくとも1つの代謝産物と共に投与してもよいことが企図され、ここで、「と共に」は、同時投与、タンデム投与、または治療時間枠内での投与を含む。投与が同時である場合、それは、1つの投薬単位または複数の単位であってもよい。治療時間枠は、任意の時間枠であってもよく、その間患者には、傷害を受けたまたは変性された軟骨組織のための治療法が行われている。治療的レジメンは、治療時間枠にわたる単回投与または複数回投与を含んでいてもよい。極めて特定の実施形態によれば、軟骨組織は、脊椎椎間板軟骨/線維軟骨を含み、かつ他の特定の実施形態において、軟骨組織は、関節中にある。さらに特定の実施形態によれば、軟骨組織は、半月板軟骨を含む。
【0034】
いくつかの態様によれば、対象が変形性椎間板疾患を患う場合、投与は、例えば、注入によってまたはガイドカテーテルによって椎間板内腔へ直接投与することを含む。注入は、製剤、例えば、SVを含むまたは含まない、代謝産物のうちの1つまたは複数の制御放出組成物を運搬するシリンジをガイドするためのフルオロスコープを使用して行ってもよい。制御放出組成物の投与は、損傷した軟骨部位において、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞の増殖を促進する。特定の実施形態によれば、対象は哺乳動物であり、かつ極めて特定の実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0035】
特定の実施形態によれば、活性体を含む1つまたは複数のヒドロゲルを含む制御放出組成物が提供される。薬物送達製剤に好適な例示的なヒドロゲルとしては、キトサン(CT)、シクロデキストリン(CD)、p-ジオキサノン(DX)、エチレングリコール(EG)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ヒアルロン酸(HA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチレン-ビス-アクリルアミド(MBAAm)、ポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、ポリカプロラクトン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(プロピレン酸化物)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアミン)、およびこれらの組合せがある。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、ヒドロゲルは、疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーを含み、かついくつかの実施形態において、ポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーである。ヒドロゲル中に、親水性ポリマーは、約10%から50%、約20%から40%、または約20%から30%の範囲で含まれていてもよく、かつ疎水性ポリマーは、40%から90%、約60%から80%、または約70%~80%の範囲で含まれていてもよい。極めて特定の実施形態によれば、親水性ポリマーは、含む。他の極めて特定の実施形態において、疎水性ポリマーはCTを含む。さらに具体的には、HAは、HA-Naポリアニオンを含み、かつCTは、CT-NH ポリカチオンを含み、かつCT対HA(CT to HA)の質量比は、約60:40である。この段落において「約」は、+/-2%を意味する。ある量の少なくとも1つの代謝産物(SVを含むまたは含まない)が、ヒドロゲルマトリックス内に分散される。代謝産物は、3’-ヒドロキシシンバスタチン(hSV)、6’-エキソメチレンシンバスタチン(eSV)、3’,5’-ジヒドロジオールシンバスタチン、3’,5’-ジヒドロジオールシンバスタチン(dSV)、シンバスタチン-ベータ-ヒドロキシ酸(SVA)、およびこれらの組合せからなる群から選択される。特定の実施形態によれば、活性体は、SVAを含む。他の特定の実施形態によれば、活性体は、hSV、dSV、およびこれらの組合せから選択される。いくつかの実施形態によれば、制御放出ヒドロゲル中に分散される活性体の量は、1から50mg/mlを含み、これらの間の全ての範囲および数値量が含まれる。
【0037】
別の実施形態は、傷害を受けた実質的に無血管性の軟骨組織の損傷を修復または遅延する方法を提供する。方法は、HMG-CoAレダクターゼを阻害することなく骨形成タンパク質(BMP)発現を増加させる少なくとも1つの活性体を、それを必要とする対象の傷害を受けた無血管性組織の部位へ直接投与するステップを含む。特定の実施形態によれば、活性体は、hSV、dSVおよびこれらの組合せから選択される。
【0038】
例は、特定の実施形態を例示し、立証するために示され、かつ添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の全範囲を限定すると解釈されるべきではない.
【実施例1】
【0039】
この例は、変性されたヒトNP細胞のモデル系の有効性を実証し、かつSVおよびその代謝産物を試験する。
先行文献は、齧歯動物を使用したin vitroおよびin vivo調査に全て基づいており、したがって、変性されたヒトNP細胞を有するモデル系を確立するために取り組んだ。興味深いことに、結果は、ラットおよびブタ細胞を用いた他の研究と比較して、薬物に対するヒト細胞応答に関し異なるパターンを示す。DDDを呈するヒト患者から採取されたIVD細胞を、SVへ曝露した場合、これらの細胞は刺激され、軟骨形成性表現型を維持し、またはさらには用量依存様式で増加させた。しかし、ラットIVD細胞におけるもの(Zhang HN、LinCY、Spine.2008年;33(16)を参照のこと)とは異なる発現パターンが存在した。SVは、ラット細胞において観察されたように、ヒトNP細胞と線維輪(AF)細胞の両方においてBMP-2 mRNA発現を上方制御した。さらに、NP細胞とAF細胞の両方がBMP-2受容体、BMPRIIを発現し、両方のタイプの細胞が、SVによって誘発されるBMP-2の上方制御対して感受性が強く、所期の経路を媒介することを示した(データは示されていない)。しかし、ヒトNP細胞が、ラット細胞を処置するためにも使用された同じ用量(0.3から3μM)のSVで処置されたときに、アグリカンおよびII型コラーゲンのmRNA発現は影響を受けなかった。あるいはSVは、I型コラーゲンmRNA発現を用量依存様式で抑制し、したがって、II型対I型コラーゲンの比を著しく増加させた(図4)。この現象は、使用された他の種(ラット(Zangら、2008年)、ウサギおよびブタ、データは示されていない)由来のものと比較し、ヒトNP細胞においてのみ観察された。処置を行っても、ヒトAF細胞におけるアグリカン、コラーゲンII型およびコラーゲンI型のmRNA発現は変化しなかった。Col II/Col Iの比(「分化指標」とも称する)が増加したという結果は、SVが、変性された椎間板においてヒトNP細胞の脱分化を抑制し、その軟骨形成性表現型の維持を補助したであろうことを示唆する。
【0040】
この発見に基づいて、本研究では、ヒトIVDを修復するために提案される戦略をさらに容易にするために、ヒトNP細胞を使用する。しかし、特にCRISPRゲノム編集技術を使用した実験に関して高度な一貫性を得るために、Dr.Win-Ping Dengによる(Liu M.C.ら、Tissue Eng Part C-Me.2014年;20(1):1~10頁、参照により本明細書に完全に組み込まれるものとする)、台北医学大学(Taipei Medical University and Hospital)、台北、台湾由来のヒトNP細胞株を用いた。
【0041】
SV代謝産物
SVA、eSV、hSVおよびdSVを含む、本研究における全ての化合物は、LIPITOR(商標登録)(アトルバスタチン)開発での成功を含む、スタチンに広範な知識および経験を有する、先のPfizer chemistsによって創立および運営されたAAPharmaSyn、LLC、国際化学医薬品開発業務受託機関(global chemistry contract research organization)によって合成され、キャラクタリゼーションされた(例えば、化学構造、溶解度、粒子サイズ、不純物および多形)。この会社は、非HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の2つのSV代謝産物であるhSVおよびdSVも、研究のために開発した。
【0042】
処置設計
前述のように、不死化ヒトNP(ihNP)細胞を増殖させ、続いてアルギネートビーズで封入し、3次元環境においてそれらの表現型を維持する(Zangら、2008年)。新規の形成されたアルギネートビーズを、6ウェルプレートの各ウェルで培養し、10%FBS媒体+2mM L-グルタミン+50μg/mLビタミンCを含むDMEM/F12媒体に入れた。3日後、媒体を交換し、細胞を、0.3、1、および3μMのSVプロドラッグおよび各SV代謝産物でそれぞれ、SVとSVAの両方に関して前述したように処置する。細胞を、処置してから1、2、3、および7日目にアルギネートビーズから取り出す。細胞を、0.15M NaClですすぎ、次いで溶解緩衝液(55mmol/Lクエン酸ナトリウムおよび0.15M NaCl、pH6.0)中、37℃で15分間インキュベートする。細胞を、遠心分離によってペレット化し、溶解液を収集して評価する。全RNAを、Trizol試薬、続いてRNeasy Mini KitおよびRNase-free DNase setを用いたDNase消化を使用して抽出する。全RNAの濃度を、分光光度計を用いて260nmで判定する。逆転写を、SuperScript First-Strand Synthesis Systemを使用して行う。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を使用し、Gene Amp 7700 Sequence Detection Systemを使用して行われるTaqManリアルタイムPCR Kitを使用してBMP-2の遺伝子発現レベルを定量化する。BMP-2の遺伝子発現の量を、標準的なサンプルを用いて算出し、GAPDH内部対照を用いて正規化する。さらに、各3つの濃度の全ての代謝産物を用いた組合せ処置も行い、これらの化合物からの全体的な寄与が相乗的または拮抗的であるかどうかを調べる。
【実施例2】
【0043】
この例は、小分子量GTP結合タンパク質(G-タンパク質)に対するSV代謝産物の効果を試験および実証する。
RasおよびRho GTPaseファミリーのメンバーは、プレニル化による翻訳後修飾のための主要な基質である。RasとRhoの両方が、低分子量GTP結合タンパク質であり、これらは不活性GDP結合状態と活性GTP結合状態との間を循環する。内皮細胞において、細胞質から形質膜へのRas転移は、ファルネシル化に依存し、一方Rho転移は、ゲラニルゲラニル化に依存する。スタチンは、RasとRhoとの両方のイソプレニル化を阻害し、細胞質における不活性RasおよびRhoの蓄積をもたらす。Rhoは、ゲラニルゲラニル化の主要な標的であるため、Rhoおよびその下流標的であるRhoキナーゼの阻害は、血管壁、白血球および骨に対するスタチンの多面的効果のうちのいくつかを媒介する有望な機序である。さまざまな研究が、Rhoの不活性化は、スタチン誘発性BMP-2発現に関与することを示唆しており、これは、SVによるGGPPの阻害が、処置されたIVD細胞においてBMP-2上方制御を支配することを示したという予備調査結果と一致する。さらに、Luanらは、スタチンは、血管平滑筋細胞およびマクロファージからのMMP-1、-2、-3および-9の分泌を阻害することを報告し、MMPの分泌は、GGPPを再び適用することによって復活したため、GGPP-媒介性プレニル化の阻害は、この現象に関する機序であることを示唆した。一方、RhoのサブファミリーであるRacは、反応性酸素種(ROS)の産生増加と関連することが認められており、これは、NADPHオキシダーゼの活性化を通した高血圧における血管機能不全の原因となる。しかし、IVDでは、低酸素環境にあり、かつ主に解糖を介してエネルギーを得ると、NP細胞は、特に老化したまたは変性した椎間板において、新血管形成を伴って酸化的代謝を通してROSを依然として生成した。Chenら、Cell Physiol Biochem.2014年;34(4):1175~89頁は、酸化的ストレス下でのNP細胞のアポトーシスの増加は、IVD変性の発症に関与するはずであることを仮定した。この態様のために、阻害されたRac-1活性を、SVによって処置されたNP細胞を用いて本明細書において観察された同化効果の一因となる潜在力機序とすることができた。本研究に基づいて、どのようにしてSV代謝産物が、そのサブファミリーであるRacを含むRhoファミリーに影響を与えるかを理解して、SV処置で観察された結果を使用することは重要である。
【0044】
研究設計
CRISPR/Cas技術を、ihNP細胞中の低分子量G-タンパク質遺伝子を効率的に破壊するために使用する。ウェブツール(www.benchling.comおよびCRISPRscan.org)に従って、標的RhoまたはRac遺伝子に対して高予測活性と高特異性の両方を有するシングルガイド(sg)RNAを設計する。sgRNAおよびCas9二重発現ベクター生成するために、適合するオーバーハングを有する相補的DNAオリゴの対をアニールし、sgRNA発現をドライブするためのU6プロモーター、およびハイフィデリティeSpCas9(1.1)-2A-GFP(Addgeneプラスミド#43138および#71814から改変された)発現をドライブするために遍在的に発現するプロモーターを運搬する、改変されたpX458ベクターへクローン化する。sgRNA編集活性を、T7E1アッセイ(New England Biolabs)によって、ヒト293T細胞において評価し、ゲノムを効率的に改変することが示されているEMX1 sgRNAと一緒に比較する(Ranら、Nat Protoc.2013年;8(11):2281~308頁、参照により本明細書に完全に組み込まれるものとする)。有効なsgRNA/Cas9ベクターを、ihNP細胞へトランスフェクトし、48時間後、GFP発現に基づいて、トランスフェクトされた細胞を、96ウェルプレート中に1ウェル当たり1細胞でソートする。細胞クローンを培養し、遺伝子型を同定し、サンガーシークエンシングによって、2対立遺伝子ナンセンス突然変異を確認する。少なくとも2つの独立した標的化クローン、および非標的化野生型クローンを使用して研究する。
【0045】
処置設計
Rho-またはRac1-欠損ihNP細胞、および野生型対照細胞を増殖させ、培養し、SV代謝産物でそれぞれ処置する。全RNAを、処置してから1、2、3、および7日目に抽出して、RT-qPCRを行い、BMP-2の遺伝子発現レベルを定量化する。
【実施例3】
【0046】
以下の例は、半月板修復を示し、本発明の実施形態に従って修復された断裂半月板を特徴付ける。特にこの例は、SVAのヒドロゲル製剤の注入を用い、傷害を受けた半月板を処置すると、軟骨形成が刺激され、立証可能な半月板修復が得られ、現在では再生不可能と考えられる無血管性半月板断裂のための長期実行可能な治療的介入としてのSVAが確立することを示す。
【0047】
半月板断裂は、一般的な膝損傷であり、米国では年間およそ百万件の矯正手術が行われる。半月板は、膝において必須の構成要素であり、脛骨大腿関節を跨いで負荷を伝達し、関節軟骨に加えられるストレスの量を減少するように設計されている。以前は、患者に不快感をもたらす再生不可能な半月板断裂のための標準的な外科的処置は、治癒の可能性が低く、かつ血管新生が乏しいために、部分的または全体的な半月板切除であった。しかし、調査では、大きなストレスが関節軟骨へ加えられるために、半月板を除去すると、早期の骨関節炎が生じる場合があることが示されている。この実験/研究の目的は、SVAを含むヒドロゲル組成物の部分注入によって修復された半月板組織を特徴付けることである。
【0048】
方法
雌白色ニュージーランドラビット(8~9週齢)の両側損傷を、1.4mm直径k-ワイヤを使用して、無血管性の内側半月板の前方部分に作製した。SVA-ヒドロゲル混合物を、欠陥部へ挿入し、損傷部位において持続的な薬物送達を行った。対象動物は、損傷から8週間後に治癒した。ヘマトキシリンエオシン(H&E)およびサフラニンO(Safran-O)組織学的染色を利用し、欠陥部位における修復組織の形態学的変化を分析した。コラーゲンI、IIおよびBMP-II免疫組織化学を行い、修復された組織の組成を判定した。研究群は、損傷を有さない対照群、損傷のみを有する対照群、および損傷+SVAヒドロゲル修復処置を有する処置群を含んでいた。
【0049】
結果
以前の研究は、本発明者が実施し、SVAは、ラットモデルにおいて骨形成タンパク質2(BMP-2)経路の上方制御を介して軟骨形成を刺激し、椎間板疾患と関連する変形性変化を改善するための治療剤として利用できることを実証した。この経路は、本研究においても利用され、半月板修復組織に認められる形態学につながった(図7Bから図11B)。修復組織は、修復してから8週目において依然として脆弱であったが、これらの図は、組織が、修復部位において構造化された有核細胞を含んでいたことを示す。損傷から8週間後における損傷のみの群では修復された組織が存在しないことを示す図7Aとは対照的である。
【0050】
プロテオグリカン含有量、コラーゲンI、およびコラーゲンIIは、生まれつきの半月板組織に必須の構成要素である。半月板中のプロテオグリカンは、組織が、膝関節にわたる圧縮負荷を吸収するその能力に関与する高水分含有量を維持することを可能にする。コラーゲンIおよびIIは、半月板の能力に関与し、引張負荷に抵抗する。SVAヒドロゲル法で修復された半月板組織におけるプロテオグリカン、コラーゲンI、およびコラーゲンIIの実証(図7B~11B)は、修復された半月板組織と生まれつきの組織との間に類似点を示す。
【0051】
SVAヒドロゲルは、BMP-2経路の上方制御を介して作用するであろうことは、すでに仮説が立てられていた。しかし、図8Bは、損傷から8週間後において、BMP-2に関して、組織は染色陽性ではなかったことを示す。この発見に関する可能な説明は、BMP-2経路は、修復前に短期間で上方制御され、新規の組織成長を刺激し、8週後にはもはや活性はないということである。
【0052】
本明細書において挙げられる全ての文献の開示内容全体は、参照により本明細書に完全に組み込まれるものとする。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B