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特許7300744単結晶X線構造解析用試料の吸蔵装置と吸蔵方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】単結晶X線構造解析用試料の吸蔵装置と吸蔵方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20025 20180101AFI20230623BHJP
【FI】
G01N23/20025
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020557651
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045699
(87)【国際公開番号】W WO2020105725
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018219811
(32)【優先日】2018-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/115223(WO,A1)
【文献】特開2008-137961(JP,A)
【文献】特開平05-060665(JP,A)
【文献】特開2006-329775(JP,A)
【文献】猪熊泰英,結晶スポンジ法による極小量化合物のX線結晶構造解析,ファルマシア,2014年,Vol.50 No.8,pp.756-761
【文献】INOKUMA, Yasuhide,X-ray analysis on the nanogram to microgram scale usingporous complexes,nature,2013年03月28日,Vol.495,pp.461-466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を吸蔵させる吸蔵装置であって、
前記試料を試料ホルダに保持された細孔性錯体結晶に供給する供給部と、
前記細孔性錯体結晶の温度を制御する温度調整部と、
前記供給部を駆動する駆動部と、
前記供給部と前記温度調整部と前記駆動部とを制御する制御部と、を備え
前記試料ホルダはアプリケータに装着された状態で前記吸蔵装置にセットされ、
前記供給部は、前記アプリケータの内部で前記試料ホルダに保持された前記細孔性錯体結晶に前記試料を供給し、
前記温度調整部は、前記試料が供給された前記アプリケータの内部で前記試料ホルダに保持された前記細孔性錯体結晶の温度を制御することを特徴とする吸蔵装置。
【請求項2】
請求項記載の吸蔵装置であって、
前記供給部は、前記試料ホルダを装着した前記アプリケータに前記試料を注入する注入パイプを備え、
前記吸蔵装置は、前記試料ホルダを装着した前記アプリケータの内部から前記試料の一部を排出パイプを通して搬出する排出部を更に備え、
前記駆動部は、前記注入パイプと前記排出パイプとを駆動して、前記注入パイプと前記排出パイプとを前記アプリケータの内部への出し入れを行うことを特徴とする吸蔵装置。
【請求項3】
請求項記載の吸蔵装置であって、
前記駆動部は、前記注入パイプを前記試料ホルダに形成された第1の貫通穴を通して前記アプリケータに挿入し、前記排出パイプを前記試料ホルダに形成された第2の貫通穴を通して前記アプリケータに挿入することを特徴とする吸蔵装置。
【請求項4】
請求項記載の吸蔵装置であって、
前記注入パイプと前記排出パイプとは、前記アプリケータに挿入した状態で、前記試料ホルダの内部への挿入深さが異なることを特徴とする吸蔵装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の吸蔵装置であって、
前記第1の貫通穴と前記第2の貫通穴は、前記注入パイプまたは前記排出パイプが出入りする側の端部にテーパ状の面が形成されて、
前記駆動部は、前記第1貫通穴のテーパ状の面から前記注入パイプを挿入し、前記第2貫通穴のテーパ状の面から前記排出パイプを挿入することを特徴とする吸蔵装置。
【請求項6】
請求項2~5の何れか1項に記載の吸蔵装置であって、
前記アプリケータは、前記試料ホルダとの間をシールする第1のシール部を備え、
前記駆動部は、前記注入パイプと前記排出パイプを保持する保持部を備え、
前記保持部は、前記注入パイプ周りで前記保持部と前記試料ホルダとの間をシールする第2のシール部と、前記排出パイプ周りで前記保持部と前記試料ホルダとの間をシールする第3のシール部とを備えていることを特徴とする吸蔵装置。
【請求項7】
請求項記載の吸蔵装置であって、
前記保持部は、保持ブロックで形成され、
前記駆動部で前記保持ブロックを前記試料ホルダに近づく方向に駆動することにより、前記保持ブロックに保持された前記注入パイプと前記排出パイプとを前記アプリケータに挿入すると共に、前記第1のシール部、前記第2のシール部、および前記第3のシール部を作動させることにより前記アプリケータの内部を気密にすることを特徴とする吸蔵装置。
【請求項8】
請求項記載の吸蔵装置であって、
前記第1シール部、前記第2のシール部、および前記第3のシール部は、Oリングであることを特徴とする吸蔵装置。
【請求項9】
請求項記載の吸蔵装置であって、
前記駆動部で前記保持部を前記試料ホルダに押し付けることにより前記第1から第3のシール部を形成するOリングを押圧し、前記アプリケータと前記試料ホルダとの間、および前記試料ホルダと前記保持部との間を気密にすることを特徴とする吸蔵装置。
【請求項10】
試料を吸蔵させる吸蔵方法であって、
細孔性錯体結晶を保持した試料ホルダが装着されたアプリケータを吸蔵装置にセットする工程と、
前記吸蔵装置の駆動部で注入パイプと排出パイプとを保持する保持ブロックを下降させて前記注入パイプと前記排出パイプとをそれぞれ前記試料ホルダに形成された第1の貫通穴と第2の貫通穴とに挿入して前記注入パイプと前記排出パイプとを前記試料ホルダと前記アプリケータとで囲まれた領域に露出させる工程と、
前記駆動部で前記保持ブロックを更に下降させて前記試料ホルダを前記アプリケータに押圧するとともに前記保持ブロックを前記試料ホルダに押圧して気密にする工程と、
前記気密にされた前記試料ホルダと前記アプリケータとで囲まれた領域に前記注入パイプを通して前記試料を供給する工程と、
前記試料が供給された前記アプリケータの温度を前記試料の種類に応じて温度調整部で制御して、前記細孔性錯体結晶に前記試料を吸蔵させる工程と、
前記試料ホルダと前記アプリケータとで囲まれた領域から前記排出パイプを介して前記供給された試料を排出する工程と、を含むことを特徴とする吸蔵方法。
【請求項11】
請求項10記載の吸蔵方法であって、
前記気密にする工程は、前記アプリケータの側に装着したシール部を前記試料ホルダで押圧することにより前記試料ホルダと前記アプリケータとの間を気密にすることを特徴とする吸蔵方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の吸蔵方法であって、
前記気密にする工程は、前記保持ブロックの側の前記注入パイプを囲む領域と前記排出パイプを囲む領域とに装着したシール部を前記試料ホルダに当てて押圧することにより前記保持ブロックと前記試料ホルダとの間を密封気密にすることを特徴とする吸蔵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶X線構造解析に用いる解析試料を準備するための吸蔵装置とその方法に係り、特に、本発明に関連して提案されている単結晶X線構造解析装置で使用する試料ホルダの一部に取り付けた結晶スポンジに吸蔵させるのに適したX線構造解析用試料の吸蔵装置と吸蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新たなデバイスや材料の研究開発では、日常的に材料の合成、材料の評価、それに基づいた次の研究方針の決定が行なわれている。短期間に材料開発を行うためのX線回折を用いた物質の構造解析では、目的の材料の機能・物性を実現する物質構造を効率良く探索するために、構造解析を効率的に行うことを可能とする物質の構造解析を中心とした物質構造の探索方法とそれに用いるX線構造解析は必要不可欠である。
【0003】
しかし、当該手法で得られた結果に基づいて構造解析を行うことは、X線の専門家でなければ難しかった。そのため、X線の専門家でなくても構造解析を行うことができるX線構造解析システムが求められていた。その中でも、特に、以下の特許文献1にも知られるように、単結晶X線構造解析は、正確で精度の高い分子の立体構造を得ることができる手法として注目されている。
【0004】
他方、この単結晶X線構造解析には、試料を結晶化して単結晶を用意しなければならないという大きな制約があった。しかしながら、以下の非特許文献1や2、更には、特許文献2にも知られるように、「結晶スポンジ」と呼ばれる材料(例えば、直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた細孔性錯体結晶)の開発によって、結晶化しない液体状化合物や結晶化を行うに足る量を確保できない試料なども含め、単結晶X線構造解析を広く適用することが可能となっている。
【0005】
単結晶X線構造解析の分野において、単結晶サンプルを単結晶X線構造解析装置で解析して単結晶の結晶構造を求める場合、分析対象の単結晶サンプルを作成することが難しく、さらに、この分析対象の単結晶サンプルを単結晶X線構造解析装置で解析して得られたデータから単結晶の結晶構造を求めるには経験と勘などの熟練度が必要になり、ごく限られた人しか操作することができなかった。
【0006】
一方、近年、単結晶X線構造解析装置の技術開発が進み、単結晶サンプルさえ手に入れられれば、結晶構造解析技術に熟練していない人でも単結晶サンプルを単結晶X線構造解析装置で解析できて、単結晶サンプルの結晶構造を比較的容易に求めることができるようになってきた。
【0007】
また、ガス状の小分子からタンパク質やその他の生体由来分子のような大分子までの特定の化合物を、選択的に取り込む及び/又は放出することができる細孔群を2種以上有する高分子錯体として、特許文献1には、芳香族化合物配位子の間に前記非配位性芳香族化合物が挿入されてなる積み重ね構造を含む3次元格子状構造を有し、この積み重ね構造を構成する非配位性芳香族化合物は、高分子錯体の主骨格を形成しており、3次元格子状構造内に、ゲスト成分に対して固有の親和性を有する互いに同一な細孔からなる細孔群を2種以上備えていることを特徴とする高分子錯体について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-3394号公報
【文献】再公表特許WO2016/017770号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Makoto Fujita; X-ray analysis on the nanogram to microgram scale using porous complexes; Nature 495, 461-466; 28 March 2013
【文献】Hoshino et al. (2016), The updated crystalline sponge method IUCrJ, 3, 139-151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術では、非特許文献1に記載されているように、微細な孔が多数形成されている極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを形成して、この結晶スポンジの微細な孔の内部に試料を吸蔵し、これを単結晶X線構造解析装置で解析することにより、単結晶の結晶構造を比較的容易に求めることができる。
【0011】
この結晶スポンジを用いて単結晶X線構造解析装置で解析するには、結晶スポンジの微細な孔の内部に吸蔵させて形成した単結晶化した試料を、単結晶X線構造解析装置で分析するために使用される試料用ホルダの一部(ゴニオヘッドピンの先端)に確実に装着させることが必要になる。しかしながら、上述した従来技術には、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジに吸蔵して形成した試料を単結晶X線構造解析装置内の計測位置に確実に搭載する方法やそのための装置については開示されていない。
【0012】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決し、本発明に関連して提案されている試料ホルダを利用して、解析する試料を当該試料ホルダに取り付けた極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジに確実に吸蔵して、迅速かつ容易に、単結晶X線構造解析装置に供給することを可能にする単結晶X線構造解析用試料の吸蔵装置及び吸蔵方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の吸蔵装置は、試料を吸蔵させる吸蔵装置であって、前記試料を試料ホルダに保持された細孔性錯体結晶に供給する供給部と、前記細孔性錯体結晶の温度を制御する温度調整部と、前記供給部を駆動する駆動部と、前記供給部と前記温度調整部と前記駆動部とを制御する制御部と、を備えることを特徴としている。
【0014】
(2)また、本発明の吸蔵装置において、前記試料ホルダはアプリケータに装着された状態で前記吸蔵装置にセットされ、前記供給部は、前記アプリケータの内部で前記試料ホルダに保持された前記細孔性錯体結晶に前記試料を供給し、前記温度調整部は、前記試料が供給された前記アプリケータの内部で前記試料ホルダに保持された前記細孔性錯体結晶の温度を制御することを特徴としている。
【0015】
(3)また、本発明の吸蔵装置において、前記供給部は、前記試料ホルダを装着した前記アプリケータに前記試料を注入する注入パイプを備え、前記吸蔵装置は、前記試料ホルダを装着した前記アプリケータの内部から前記試料の一部を排出パイプを通して搬出する排出部を更に備え、前記駆動部は、前記注入パイプと前記排出パイプとを駆動して、前記注入パイプと前記排出パイプとを前記アプリケータの内部への出し入れを行うことを特徴としている。
【0016】
(4)また、本発明の吸蔵装置において、前記駆動部は、前記注入パイプを前記試料ホルダに形成された第1の貫通穴を通して前記アプリケータに挿入し、前記排出パイプを前記試料ホルダに形成された第2の貫通穴を通して前記アプリケータに挿入することを特徴としている。
【0017】
(5)また、本発明の吸蔵装置において、前記注入パイプと前記排出パイプとは、前記アプリケータに挿入した状態で、前記試料ホルダの内部への挿入深さが異なることを特徴としている。
【0018】
(6)また、本発明の吸蔵装置において、前記第1の貫通穴と前記第2の貫通穴は、前記注入パイプまたは前記排出パイプが出入りする側の端部にテーパ状の面が形成されていることを特徴としている。
【0019】
(7)また、本発明の吸蔵装置において、前記アプリケータは、前記試料ホルダとの間をシールする第1のシール部を備え、前記駆動部は、前記注入パイプと前記排出パイプを保持する保持部を備え、前記保持部は、前記注入パイプと前記試料ホルダとの間をシールする第2のシール部と、前記排出パイプと前記試料ホルダとの間をシールする第3のシール部とを備えていることを特徴としている。
【0020】
(8)また、本発明の吸蔵装置において、前記保持部は、保持ブロックで形成され、前記駆動部で前記保持ブロックを前記試料ホルダに近づく方向に駆動することにより、前記保持ブロックに保持された前記注入パイプと前記排出パイプとを前記アプリケータに挿入すると共に、前記第1のシール部、前記第2のシール部、および前記第3のシール部を作動させることにより前記アプリケータの内部を気密にすることを特徴としている。
【0021】
(9)また、本発明の吸蔵装置において、前記第1シール部、前記第2のシール部、および前記第3のシール部は、Oリングであることを特徴としている。
【0022】
(10)また、本発明の吸蔵装置において、前記駆動部で前記保持部を前記試料ホルダに押し付けることにより前記第1から第3のシール部を形成するOリングを押圧し、前記アプリケータと前記試料ホルダとの間、および前記試料ホルダと前記保持部との間を気密にすることを特徴としている。
【0023】
(11)また、本発明の吸蔵方法は、試料を吸蔵させる吸蔵方法であって、細孔性錯体結晶を保持した試料ホルダが装着されたアプリケータを吸蔵装置にセットする工程と、前記吸蔵装置の駆動部で注入パイプと排出パイプとを保持する保持ブロックを下降させて前記注入パイプと前記排出パイプとをそれぞれ前記試料ホルダに形成された第1の貫通穴と第2の貫通穴とに挿入して前記注入パイプと前記排出パイプとを前記試料ホルダと前記アプリケータとで囲まれた領域に露出させる工程と、前記駆動部で前記保持ブロックを更に下降させて前記試料ホルダを前記アプリケータに押圧するとともに前記保持ブロックを前記試料ホルダに押圧して気密にする工程と、前記気密にされた前記試料ホルダと前記アプリケータとで囲まれた領域に前記注入パイプを通して前記試料を供給する工程と、前記試料が供給された前記アプリケータの温度を前記試料の種類に応じて温度調整部で制御して、前記細孔性錯体結晶に前記試料を吸蔵させる工程と、前記試料ホルダと前記アプリケータとで囲まれた領域から前記排出パイプを介して前記前記供給された試料を排出する工程と、を含むことを特徴としている。
【0024】
(12)また、本発明の吸蔵方法において、前記気密にする工程は、前記アプリケータの側に装着したシール部を前記試料ホルダで押圧することにより前記試料ホルダと前記アプリケータとの間を気密にすることを特徴としている。
【0025】
(13)また、本発明の吸蔵方法において、前記気密にする工程は、前記保持ブロックの側の前記注入パイプを囲む領域と前記排出パイプを囲む領域とに装着したシール部を前記試料ホルダに当てて押圧することにより前記保持ブロックと前記試料ホルダとの間を密封気密にすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明の単結晶X線構造解析用試料の吸蔵装置によれば、単結晶X線構造解析装置の試料ホルダに保持されている極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジである細孔性錯体結晶に、試料を確実に吸蔵させることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例に係るX線構造解析用試料吸蔵装置を備えた単結晶X線構造解析装置のシステム全体の概略の構成を示すブロック図である。
図2】上記単結晶X線構造解析装置のシステム外観構成を示す斜視図である。
図3】上記単結晶X線構造解析装置の測定部の構成を示す斜視図である。
図4】(a)は、上記単結晶X線構造解析装置の電気的な内部構成の詳細の一例を示すブロック図、(b)は、上記単結晶X線構造解析装置の電気的な内部構成内に複数の測定データを記憶するためのデータファイル構造を示す図である。
図5】上記単結晶X線構造解析装置で観察するXRDSパターンのイメージを示す正面図である。
図6】(a)は、上記単結晶X線構造解析装置の測定用アプリケーションソフトの実行画面の正面図、(b)は、上記単結晶X線構造解析装置の測定用アプリケーションソフトの別の実行画面の正面図である。
図7】上記単結晶X線構造解析装置の構造解析プログラムを用いて作成した分子モデルを表示した画面の正面図である。
図8】本発明の実施例に係るX線構造解析用試料吸蔵装置の構成を示すブロック図である。
図9】上記吸蔵装置における供給側のセンサの出力波形の一例を示すグラフを含む図である。
図10】上記吸蔵装置における排出側のセンサの出力波形の一例を示すグラフを含む図である。
図11】上記吸蔵装置においてX線構造解析用試料を結晶スポンジに吸蔵するために使用される試料ホルダの断面図である。
図12】上記吸蔵装置において、試料ホルダに注入針と排出針とを挿入する針挿入部の構造の一例を示す断面図である。
図13】上記吸蔵装置で使用する試料ホルダを収納するアプリケータの断面図である。
図14】上記吸蔵装置で使用する試料ホルダをアプリケータに収納した状態を示す断面図である。
図15】上記吸蔵装置において、アプリケータに収納した試料ホルダに針挿入部により注入針と排出針とを挿入した状態を示す断面図である。
図16】上記吸蔵装置において、先端部分に結晶スポンジを取り付けた試料ホルダを装着したアプリケータを複数個収納したサンプルトレイの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明による、解析試料をスポンジ状の材料(結晶スポンジ、又は、細孔性錯体結晶)内に吸蔵させ、単結晶X線構造解析装置の試料ホルダとして確実に供給することを可能にする単結晶X線構造解析装置用の単結晶X線構造解析用試料の吸蔵装置及び吸蔵方法について、図面を用いて説明する。なお、本出願において「AまたはB」の表現は、「AおよびBの少なくとも一方」を意味し、AおよびBがありえないという特段の事情がない限り「AおよびB」を含む。
【0029】
図1に、本実施例に係る単結晶X線構造解析用試料の吸蔵装置を備えた単結晶X線構造解析システム100全体の概略構成を示す。本実施例に係る単結晶X線構造解析システム100は、気体や液体などのサンプルの中から分析対象の試料を抽出するクロマトグラフィ装置200、クロマトグラフィ装置200で抽出した試料から単結晶X線構造解析用の試料を作製する単結晶X線構造解析装置用吸蔵装置300(以下、単に吸蔵装置300とも記す)、吸蔵装置300で作成した単結晶X線構造解析用の試料を収納して移動するサンプルトレイ410、サンプルトレイ410に収納された試料を、X線を用いて分析する単結晶X線構造解析装置500を備えて構成されている。
【0030】
なお、試料は、サンプルトレイ410を用いずに、試料を単品で吸蔵装置300から単結晶X線構造解析装置500へ移動させるようにしてもよい。
【0031】
添付の図2には、本発明の一実施の形態になる、単結晶X線回折装置を含む単結晶X線構造解析装置の全体外観構成が示されており、図からも明らかなように、単結晶X線構造解析装置500は、冷却装置やX線発生電源部を格納した基台504と、その基台504の上に載置された防X線カバー506とを有する。
【0032】
防X線カバー506は、単結晶X線回折装置509を包囲するケーシング507及びそのケーシング507の前面に設けられた扉等を有する。ケーシング507の前面に設けられた扉は開くことができ、この開いた状態で内部の単結晶X線回折装置509に対して種々の操作を行うことができる。なお、図に示す本実施形態は、後にも述べる結晶スポンジを利用して物質の構造解析を行う単結晶X線回折装置509を含んだ単結晶X線構造解析装置500である。
【0033】
単結晶X線回折装置509は、図3にも示すように、X線管511及びゴニオメータ512を有する。X線管511は、ここでは図示しないが、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲット(「対陰極」とも言う)と、それらを気密に格納するケーシングとを有し、このフィラメントは、図2の基台504に格納されたX線発生電源部によって通電されて発熱して熱電子を放出する。
【0034】
また、フィラメントとターゲットとの間にはX線発生電源部によって高電圧が印加され、フィラメントから放出された熱電子が高電圧によって加速されてターゲットに衝突する。この衝突領域がX線焦点を形成し、このX線焦点からX線が発生して発散する。より詳細には、このX線管511は、ここでは図示しないが、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含んで構成されており、より高い輝度のビームを照射することが可能であり、また、Cu、MoやAgなどの線源から選択可能となっている。上記に例示するように、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲットと、それらを気密に格納するケーシングが、X線源として機能し、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含むX線照射のための構成がX線照射部として機能する。
【0035】
また、ゴニオメータ512は、解析すべき試料Sを支持すると共に、試料SのX線入射点を通る試料軸線ωを中心として回転可能とするθ回転台516と、θ回転台のまわりに配置されて試料軸線ωを中心として回転可能な2θ回転台517とを有する。ゴニオメータ512には、試料Sを搭載するゴニオメータヘッド514を備えている。なお、試料Sは、本実施形態の場合、後にも詳述する試料ホルダ513の一部に予め取り付けられた結晶スポンジの内部に吸蔵されている。
【0036】
ゴニオメータ512の基台518の内部には、上述したθ回転台516及び2θ回転台517を駆動するための駆動装置(図示せず)が格納されており、これらの駆動装置によって駆動されてθ回転台516は所定の角速度で間欠的又は連続的に回転し、いわゆるθ回転する。また、これらの駆動装置によって駆動されて2θ回転台517は間欠的又は連続的に回転し、いわゆる2θ回転する。上記の駆動装置は任意の構造によって構成できるが、例えば、ウォームとウォームホイールとを含んで構成される動力伝達構造によって構成できる。
【0037】
ゴニオメータ512の外周の一部にはX線検出器522が載置されており、このX線検
出器522は、例えば、CCD型やCMOS型の2次元ピクセル検出器、ハイブリッド型ピクセル検出器などによって構成される。なお、X線検出測定部は、試料により回折又は散乱されたX線を検出して測定する構成を指し、X線検出器22およびこれを制御する制御部を含む。
【0038】
単結晶X線回折装置509は、以上のように構成されているので、試料Sは、ゴニオメータ512のθ回転台516のθ回転によって試料軸線ωを中心としてθ回転する。この試料Sがθ回転する間、X線管511内のX線焦点から発生して試料Sへ向けられるX線は所定の角度で試料Sに入射して回折・発散する。即ち、試料Sへ入射するX線の入射角度は試料Sのθ回転に応じて変化する。
【0039】
試料Sに入射するX線の入射角度と結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると、その試料Sから回折X線が発生する。この回折X線はX線検出器522に受光されてそのX線強度が測定される。以上により、入射X線に対するX線検出器522の角度、すなわち回折角度に対応する回折X線の強度が測定され、この測定結果から試料Sに関する結晶構造等が解析される。
【0040】
続いて、図4の(a)は、上記単結晶X線構造解析装置500における制御部550を構成する電気的な内部構成の詳細の一例を示す。なお、本発明が以下に述べる実施形態に限定されるものでないことは、もちろんである。
【0041】
この単結晶X線構造解析装置500は、上述した内部構成を含んでおり、更に、適宜の物質を試料として測定を行う測定装置562と、キーボード、マウス等によって構成される入力装置563と、表示手段としての画像表示装置564と、解析結果を印刷して出力するための手段としてのプリンタ566と、CPU(Central Processing Unit)557と、RAM(Random Access Memory)558と、ROM(Read Only Memory)559と、外部記憶媒体としてのハードディスクなどを有する。これらの要素はバス552によって相互につながれている。
【0042】
画像表示装置564は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ等といった画像表示機器によって構成されており、画像制御回路553によって生成される画像信号に従って画面上に画像を表示する。画像制御回路553はこれに入力される画像データに基づいて画像信号を生成する。画像制御回路553に入力される画像データは、CPU557、RAM558、ROM559及びハードディスクを備えた解析部551を含んで構成されるコンピュータによって実現される各種の演算手段の働きによって形成される。
【0043】
プリンタ566は、インクプロッタ、ドットプリンタ、インクジェットプリンタ、静電転写プリンタ、その他任意の構造の印刷用機器を用いることができる。なお、解析部551は、ハードディスクのほかに、光磁気ディスク、半導体メモリ、その他、任意の構造の記憶媒体によって構成することもできる。
【0044】
ハードディスクを備えて単結晶の構造解析処理を行う解析部551の内部には、単結晶X線構造解析装置500の全般的な動作を司る分析用アプリケーションソフト5511と、測定装置562を用いた測定処理の動作を司る測定用アプリケーションソフト5512と、画像表示装置564を用いた表示処理の動作を司る表示用アプリケーションソフト5513とが格納されている。これらのアプリケーションソフトは、必要に応じて解析部551のハードディスクから読み出されてRAM558へ転送された後に所定の機能を実現する。
【0045】
この単結晶X線構造解析装置500は、更に、上記測定装置562によって得られた測定データを含めた各種の測定結果を記憶するための、例えば、クラウド領域に置かれたデータベースも含んでいる。図の例では、後にも説明するが、上記の測定装置562によって得られたXRDSイメージデータを格納するXRDS情報データベース571、顕微鏡により得られた実測イメージを格納する顕微鏡イメージデータベース572、更には、例えば、XRFやラマン光線等、X線以外の分析により得られた測定結果や、物性情報を格納するその他分析データベース573が示されている。なお、これらのデータベースは、必ずしも、単結晶X線構造解析装置500の内部に搭載される必要はなく、例えば、外部に設けられてネットワーク580等を介して相互に通信可能に接続されてもよい。
【0046】
データファイル内に複数の測定データを記憶するためのファイル管理方法としては、個々の測定データを個別のファイル内に格納する方法も考えられるが、本実施形態では、図4(b)に示すように、複数の測定データを1つのデータファイル内に連続して格納することとしている。なお、図4(b)において「条件」と記載された記憶領域は、測定データが得られたときの装置情報および測定条件を含む各種の情報を記憶するための領域である。
【0047】
このような測定条件としては、(1)測定対象物質名、(2)測定装置の種類、(3)測定温度範囲、(4)測定開始時刻、(5)測定終了時刻、(6)測定角度範囲、(7)走査移動系の移動速度、(8)走査条件、(9)試料に入射するX線の種類、(10)試料高温装置等といったアタッチメントを使ったか否か、その他、各種の条件が考えられる。
【0048】
XRDS(X-ray Diffraction and Scattering)パターン又はイメージ(図5を参照)は、上記測定装置562を構成するX線検出器522の2次元空間である平面上で受け取られたX線を、当該検出器を構成する平面状に配列された画素毎(例えば、CCD等)に受光/蓄積して、その強度を測定することにより得られるものである。例えば、X線検出器522の各画素毎に、積分によって受光したX線の強度を検出することによれば、rとθの2次元空間上のパターン又はイメージが得られる。
【0049】
<測定用アプリケーションソフト>
照射されるX線に対する対象材料によるX線の回折や散乱によって得られる観測空間上のXRDSパターン又はイメージは、対象材料の実空間における電子密度分布の情報を反映している。しかしながら、XRDSパターンは、rとθの2次元空間であり、3次元空間である対象材料の実空間における対称性を直接的に表現するものではない。そのため、一般的に、現存のXRDSイメージだけでは、材料を構成する原子や分子の(空間)配列を特定することは困難であり、X線構造解析の専門知識を必要とする。そのため、本実施例では、上述した測定用アプリケーションソフトを採用して自動化を図っている。
【0050】
その一例として、図6(a)及び(b)にその実行画面を示すように、単結晶構造解析のためのプラットフォームである「CrysAlisPro」と呼ばれるX線回折データ測定・処理ソフトウェアを搭載し、予備測定、測定条件の設定、本測定、データ処理などを実行する。更には、「AutoChem」と呼ばれる自動構造解析プラグインを搭載することにより、X線回折データ収集と並行して、構造解析および構造の精密化を実行する。そして、図7にも示す「Olex2」と呼ばれる構造解析プログラムにより、空間群決定から位相決定、分子モデルの構築と修正、構造の精密化、最終レポート、CIFファイルの作成を行う。
【0051】
以上、単結晶X線構造解析装置500の全体構造やその機能について述べたが、以下には、特に、本発明に係る結晶スポンジと、それに関連する装置や器具について、添付の図面を参照しながら詳細に述べる。
【0052】
<結晶スポンジ>
上述したように、内部に直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた、寸法が数10μm~数100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な細孔性錯体結晶である「結晶スポンジ」と呼ばれる材料の開発によって、単結晶X線構造解析は、結晶化しない液体状化合物や、或いは、結晶化を行うに足る量が確保できない数ng~数μgの極微量の試料なども含め、広く適用することが可能となっている。
【0053】
しかしながら、現状においては、上述した結晶スポンジの骨格内への試料の結晶化である吸蔵(post-crystallization)を行うためには、各種の前処理(分離)装置によって分離された数ng~数μg程度の極微量の試料を、既に述べたように、容器内において、シクロヘキサン等の保存溶媒(キャリア)に含浸して提供される外径100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵させる工程が必要となる。保存溶媒(キャリア)には、液体と、気体(ガス)と、その中間にあたる超臨界流体が含まれる。更には、その後、この試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを、迅速に(結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短い時間で)、容器から取り出し、回折装置内のX線照射位置に、より具体的には、ゴニオメータ512の試料軸(所謂、ゴニオヘッドピン)の先端部に、センタリングを行いながら正確に搭載する工程を必要とする。
【0054】
これらの工程は、X線構造解析の専門知識の有無に関わらず、作業者に非常に緻密な作業を要求する繊細で、かつ、迅速性をも要求される作業であり、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなる。即ち、これらの作業が極微小な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を歩留まりの悪いものとしており、このことが、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析が広く利用されることから阻害されることの一因ともなっている。
【0055】
本発明は、上述したような発明者の知見に基づいて達成されたものであり、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、以下に述べる結晶スポンジ用試料ホルダ(単に、試料ホルダともいう)を用いることにより、確実にかつ容易に行うことを可能とするものであり、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、ユーザーフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現するものである。
【0056】
即ち、本発明に係る次世代の単結晶X線構造解析装置では、極微量な試料Sを吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを用意すると共に、更には、当該試料S(結晶スポンジ)を吸蔵容器から取り出して、ゴニオータの先端部の所定位置に、正確かつ迅速に取り付けなければならないという、大きな制約があるが、特に、汎用性に優れたユーザーフレンドリな装置を実現するためには、かかる作業を、高度な専門知識や作業の精密(緻密)性を必要とせずに、迅速かつ容易に実行可能なものとする必要がある。
【0057】
本発明は、かかる課題を解消し、即ち、極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを使用しながらも、誰でも、迅速かつ確実かつ容易に、歩留まり良く効率的で、ユーザーフレンドリに行うことが可能で、かつ、汎用性にも優れた単結晶X線構造解析を行うための装置や方法、更には、そのための器具である試料ホルダを提供するものであり、以下に詳述する。
【0058】
<吸蔵装置>
図1に示した本発明の第一の実施例に係る単結晶X線構造解析装置500を備えた単結晶X線構造解析システム100の構成における、結晶スポンジに分析対象試料を吸蔵させる吸蔵装置300の構成を、図8乃至図16を用いて説明する。
【0059】
図8は、本発明の実施例に係る単結晶X線構造解析装置500用の吸蔵装置300の構成を示すブロック図である。本実施例に係る吸蔵装置300は、供給側配管301、供給側第1アクチュエータ302、供給側分析部303、供給側第2アクチュエータ304、供給側配管305、注入針(注入パイプ)306、試料ホルダ310(図3の試料ホルダ513に相当)を装着したアプリケータ311、温度調節器(調温器)320、排出針(排出パイプ)331、排出管332、排出側第1アクチュエータ333、排出側分析部334、排出側第2アクチュエータ335、排出側配管336、制御部340および読取部350を備えている。
【0060】
吸蔵装置300は、分離装置(例えばガスクロマトグラフィ又は液体クロマトグラフィなど)200から供給された分析対象の試料(気体、液体または超臨界流体など)を含む担体又は溶媒(以下、これらを含めて試料と記す)が供給側配管301を通して供給され、供給側第1アクチュエータ302で試料の流量や圧力などが調整される。
【0061】
次に、試料を含む担体は、供給側分析部303に送られ、そこで、圧力、濃度、温度が調整された試料の成分が分析される。図9にその分析した結果の一例を示す。図9のグラフでは、分離装置200から送られてきた試料が、ある特定の成分での信号強度にピーク901を持っていることを示している。
【0062】
供給側分析部303で分析された試料は、供給側配管305から、先端部分がアプリケータ311に装着された試料ホルダ310の内部に差し込まれている注入針306に送られ、注入針306の先端部分からアプリケータ311の内部の試料ホルダ310に供給される。注入針306は、図示していない駆動手段で駆動されて、アプリケータ311の内部に装着された試料ホルダ310の内部へ差し込まれる。
【0063】
この状態で、温度調節器320は、制御部340で制御されて、試料ホルダ310を含むアプリケータ311が所望の温度になるように、アプリケータ311を加熱または冷却する。
【0064】
温度調節器320により温度がコントロールされたアプリケータ311内に装着された試料ホルダ310の内部に注入針306から試料が注入された状態で所定の時間が経過した後、排出側第1アクチュエータ333が作動して、先端部分がアプリケータ311に装着された試料ホルダ310の内部に差し込まれた排出針331から、排出管332を介してアプリケータ311の内部に供給された試料のうち過剰な試料が排出される。すなわち、過剰な試料とは、排出針331の長さに応じて排出される試料を指す。排出針331は、図示していない駆動手段で駆動されて試料ホルダ310の内部へ差し込まれる。
【0065】
このように試料は、供給側配管から供給側の注入針306に送られ、供給側の注入針306の先端部分からアプリケータ311の内部の試料ホルダ310に供給される。試料のみ、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が、供給側の注入針306内を流れ供給される。このことにより、導入された当該極微量の試料Sは、アプリケータ300の収納空間301内において、試料ホルダ310のピン状の保持部の先端に取り付けた結晶スポンジに接触して試料の吸蔵が行われる。なお、ここでの電気泳動装置は、キャピラリー電気泳動や等電点電気泳動等、種々の電気泳動装置を含む。吸蔵装置300を用いる場合、試料が注入された状態で所定の時間が経過した後、排出側の排出針331から過剰な試料、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が排出される。吸蔵装置300を用いない場合、不要な保存溶媒(キャリア)または溶液が排出側の排出針331内を流れ排出される。したがって、排出側の排出針331には、試料が流れない場合がありうる。
なお、気体や超臨界流体をキャリアとした場合には、試料を含んだキャリアが排出される。
【0066】
排出側第1アクチュエータ333によりアプリケータ311の内部から排出された試料は、排出側分析部334で成分が分析される。図10に、その分析した結果の一例を示す。排出側分析部334で成分が分析されたアプリケータ311の内部から排出された試料は、排出側第2アクチュエータ335で圧力、流量、又は濃度が調整されて、排出側配管336から質量分析装置600へ送られて、その質量成分が分析される。
【0067】
ここで、排出側分析部334で分析して得られた図10のグラフを、供給側分析部303での分析で得られた図9のグラフと比較すると、図9で強度のピーク901を示していた成分の信号に対応する図10のグラフにおける成分のピーク1001のレベルが低下していることがわかる。これは、図9でピークを示した成分の一部が、アプリケータ311の内部で消費されたことを示している。
【0068】
この図9に示したようなデータと図10に示したようなデータとを制御部340で比較して、両者のピーク値の差又は比率が予め設定した値になった時点で、アプリケータ311の内部に装着された試料ホルダ310の先端部分に取り付けた結晶スポンジに、分析対象の試料が吸蔵されたと判定し、一連の操作を終了する。
【0069】
図11には、試料ホルダ310を正面から見た断面図を示す。試料ホルダ310は、取り扱う作業者が把持する根元部分3101の一方の端部に平坦な面3102が形成されている。この平坦な面3102の先端には、外径が根元部分3101よりも細い胴体部3103が形成されており、胴体部3103の先端にはテーパ状に加工された案内面310Dが形成され、その先端部に細いピン3104が形成されている。
【0070】
根元部分3101の他方の端面である図の上面310Aには、当該試料ホルダを単結晶X線構造解析装置500のゴニオメータヘッド514に装着するための位置決め部材である凹部3105が形成されている。また、試料ホルダ310には、根元部分3101から胴体部3103にかけて貫通する注入針用孔3106と排出針用孔3107が形成されている。
【0071】
注入針用孔3106と排出針用孔3107には、それぞれその凹部3105側の端面に、テーパ状に加工されたテーパ部310Bと310C形成されている。
【0072】
テーパ部310Bと310Cとは、注入針306および排出針331を挿入するときのガイド面となる。また、凹部3105のうち、テーパ面310Bが形成された周囲とテーパ面310Cが形成された周囲とは、後述する注入針306と排出針331とをそれぞれ注入針用孔3106と排出針用孔3107に挿入したときのシール面となる。
【0073】
試料ホルダ310の全体、または、その一部である根元部分3101の凹部3105は、ゴニオメータヘッド514の先端部分と磁気的に結合させるため、磁性体で形成されている。
【0074】
ピン3104の先端部分には、分析する試料を吸蔵するための結晶スポンジ380が付着(接着)されている。この結晶スポンジ380は、分析する対象試料の種類に応じて異なる成分で形成される。
【0075】
図12に、試料ホルダ310に注入針306と排出針331とを挿入するための針挿入部390の断面図を示す。この針挿入部390は、注入針306と排出針331とを保持する保持ブロック360と、保持ブロック360を上下方向(図の矢印参照)に駆動する駆動部370を備えている。
【0076】
注入針306と排出針331とは、例えば溶接などにより保持ブロック360に密着して保持されている。
【0077】
保持ブロック360には、注入針306および排出針331の先端部分の側(図12では、下側)に、突起部361が形成されている。さらに、この突起部361の端面には、Oリング挿入用の溝3611および3621が形成されており、それぞれの溝3611および3621には、Oリング3612および3622が装着されている。
【0078】
また、突起部361の外径寸法は、試料ホルダ310に形成された凹部3105の内径寸法より僅かに小さく形成されている。
【0079】
駆動部370は、その詳細は省略するが、例えば電動モータ、または、エアシリンダ、または油圧シリンダなどを用いて構成され、保持ブロック360を上下方向に駆動する。
【0080】
図13には、アプリケータ311の断面を示す。アプリケータ311には、試料ホルダ310の根元部分3101が挿入される部分である開口部3111、試料ホルダ310の胴体部3103が挿入される筒状の空間部分3112、そして、試料ホルダ310のピン3104が挿入される先端空間部分3113が形成されている。ピン3104が挿入される先端空間部分3113は、先端に行くほど径が小さくなる、所謂、円錐状の形状をしている。また、アプリケータ311では、試料ホルダ310が装着された状態でその根元部分3101の平坦な面3102と当接する面3114には、Oリング溝3115が形成されている。
【0081】
図14に、試料ホルダ310をアプリケータ311に装着した状態を示す。試料ホルダ310のピン3104の先端部分に結晶スポンジ380を付着させた状態で、胴体部3103の先端にテーパ状に加工された案内面を案内として、試料ホルダ310の胴体部3103が、アプリケータ311の筒状の空間部分3112に挿入される。
【0082】
さらに、試料ホルダ310をアプリケータ311に押し込むと、アプリケータ311の筒状の空間部分3112に挿入された試料ホルダ310の胴体部3103がガイドとなって、試料ホルダ310の根元部分3101がアプリケータ311の開口部3111に挿入される。
【0083】
このように、試料ホルダ310をアプリケータ311に装着して試料ホルダ310の根元部分3101がアプリケータ311の開口部3111に挿入された状態で、注入針用孔3106と排出針用孔3107に注入針306と排出針331とを挿入して、アプリケータ311の筒状の空間部分3112およびその先端空間部分3113に試料を供給する。
【0084】
図15に、注入針用孔3106と排出針用孔3107から注入針306と排出針331とを、アプリケータ311の筒状の空間部分3112に挿入した状態を示す。この状態で、アプリケータ311は図示していない保持手段により保持されて、注入針306と排出針331が挿入された姿勢が保たれている。注入針306と排出針331とは、これらを保持する保持ブロック360を駆動部370で下方に押し下げることにより、それぞれが注入針用孔3106または排出針用孔3107内に挿入される。
【0085】
注入針306が注入針用孔3106内に挿入され、排出針331が排出針用孔3107内に挿入される手順としては、これらの針を駆動部370により保持ブロック360と一緒に押し下げる。このことにより、まず注入針306の先端部分が注入針用孔3106の上端部分のテーパ状に加工されたテーパ面310Bに当接して注入針用孔3106に入り、次に排出針331の先端部分が排出針用孔3107の上端部分のテーパ状に加工されたテーパ面310Cに当接して排出針用孔3107に入る。
【0086】
駆動部370による駆動をその状態を継続することにより、注入針306の先端部分が注入針用孔3106の内部を下降して、アプリケータ311の筒状の空間部分3112に到達する。次いで、排出針331の先端部分が排出針用孔3107の内部を下降してアプリケータ311の筒状の空間部分3112に到達する。
【0087】
注入針306の先端部分と排出針331の先端部分が共にアプリケータ311の筒状の空間部分3112に到達した後も、駆動部370による駆動をその状態で継続すると、保持ブロック360の突起部361が、試料ホルダ310に形成された凹部3105に達する。
【0088】
この状態で駆動部370による駆動を継続すると、試料ホルダ310がアプリケータ311の側に押し付けられてOリング溝3115に装着されているOリング362が押圧され、試料ホルダ310とアプリケータ311との間が、密封される。
【0089】
また、保持ブロック360の突起部361に形成したOリング用の溝3611に装着したOリング3612とOリング用の溝3621に装着したOリング3622とは、それぞれ試料ホルダ310の凹部3105に押圧される。これにより、保持ブロック360と試料ホルダ310との間が密閉される。
【0090】
このような構成とすることにより、試料ホルダ310が装着されたアプリケータ311の内部の筒状の空間部分3112、すなわち、試料ホルダ310とアプリケータ311とで囲まれた空間は、外部に対して気密な状態を保つことができる。
【0091】
この状態で、図8に示した制御部340は、供給側第1アクチュエータ302、供給側分析部303、供給側第2アクチュエータ304および温度調節器320を制御して、クロマトグラフィ装置200から送出された試料を注入針306からアプリケータ311の筒状の空間部分3112とその先端空間部分3113に供給する。
【0092】
また、制御部340は、排出側第1アクチュエータ333、排出側分析部334、排出側第2アクチュエータ335を制御して、排出針331からアプリケータ311の筒状の空間部分3112の内部に供給された試料のうち過剰な試料を排出する。
【0093】
更に、制御部340は、試料をアプリケータ311の筒状の空間部分3112とその先端空間部分3113に供給した状態で温度調節器320を制御することにより、結晶スポンジ380の内部における試料の吸蔵を促進させる。
【0094】
このように温度調節器320でアプリケータ311の温度を所定の時間だけ制御/維持し、供給側分析部303と排出側分析部334からのデータから試料が結晶スポンジ380に吸蔵されたことを確認した後、制御部340は駆動部370を制御して、保持ブロック360を上昇させる。これにより、注入針306と排出針331とは、試料ホルダに形成された注入針用孔3106または排出針用孔3107から取り出されて、試料を結晶スポンジに吸蔵させる工程を終了する。
【0095】
なお、図12及び図15に示した構成に置いては、排出針331よりも注入針306のほうが、その先端部分(図12及び図15では下側)を保持ブロック360から突出している、所謂、長さが長い形状を有する。しかし、取り扱う試料の種類によっては、これとは逆に、注入針306よりも排出針331のほうが、その先端部分が保持ブロック360から突き出して、即ち、長さを長くする場合もある。
【0096】
なお、この図15に示した状態は、上記の図8に示した注入針306及び排出針331が、試料ホルダ310及びアプリケータ311に差し込まれた状態を示している。ただし、図8においては、保持ブロック360および駆動部370の表示を省略している。
【0097】
なお、図8に示した構成においては、質量分析装置600を、吸蔵装置300とは別の構成として説明したが、質量分析装置600を吸蔵装置300と一体化して、吸蔵装置300の一部としてもよい。
【0098】
本実施例に係る吸蔵装置300により、その先端部分に試料を吸蔵した結晶スポンジを含む試料ホルダ310を装着したアプリケータ311を、トレイ400内に複数個収納した状態のサンプルトレイ(ウェルプレート)410の斜視図を図16に示す。サンプルトレイ410には試料ホルダ310を装着したアプリケータ311が複数個収納されているが、試料を吸蔵する結晶スポンジ380の種類に応じてアプリケータ311の色が区別されているので、結晶スポンジ380に吸蔵された試料の種類を容易に判断することができる。
【0099】
本実施例によれば、試料ホルダ310をアプリケータ311内に装着した状態で、試料ホルダ310のピン3104の先端部分に付着させた極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジ380の内部に、試料をより安全に吸蔵させることができる。
【0100】
また、本実施例によれば、制御部340により、供給側第1アクチュエータ302、供給側分析部303、供給側第2アクチュエータ304、および、排出側第1アクチュエータ333、排出側分析部334、排出側第2アクチュエータ335、更に、温度調節器320を制御して、結晶スポンジ380の内部に試料を吸蔵させるので、従来の手作業で試料の吸蔵を行っていた場合と比べて、分析対象の試料の吸蔵条件の設定が容易になる。
【0101】
更に、本実施例によれば、制御部340で、供給側分析部303で分析して得られたデータと、排出側分析部334で分析して得られたデータとを比較することにより、結晶スポンジ380の内部に試料の単結晶が形成されたことを、容易に確認することができる。
【0102】
なお、以上には本発明の種々の実施例を説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するためにシステム全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、またある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能であり、また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能であろう。
【0103】
本発明は、物質構造の探索方法やそれに用いるX線構造解析装置等において広く利用可能である。
【0104】
なお、本国際出願は、2018年11月23日に出願した日本国特許出願第2018-219811号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2018-219811号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0105】
100…単結晶X線構造解析システム、200…クロマトグラフィ装置、300…単結晶X線構造解析装置用吸蔵装置、302…供給側第1アクチュエータ、303…供給側分析部、304…供給側第2アクチュエータ、306…注入針、310…試料ホルダ、311…アプリケータ、320…温度調節器、333…排出側第1アクチュエータ、334…排出側分析部、335…排出側第2アクチュエータ、340…制御部、360…保持ブロック、370…駆動部。
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