(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】集電舟装置
(51)【国際特許分類】
B60L 5/08 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
B60L5/08 A
B60L5/08 B
(21)【出願番号】P 2019083053
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390014775
【氏名又は名称】株式会社工進精工所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】四釜 敏男
(72)【発明者】
【氏名】野呂 誠
(72)【発明者】
【氏名】風間 竜
(72)【発明者】
【氏名】水島 文夫
(72)【発明者】
【氏名】若林 雄介
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-080642(JP,A)
【文献】特開2012-080640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に配置された舟体と、
前記舟体の上方に幅方向に並んで配置されるとともに、前記舟体に対する上下方向変位を可能に支持された複数個の摺り板素子、および、該摺り板素子の下面に1個ずつ支持固定された複数個の取付板部を有する、摺り板ユニットと、
を備え、
前記取付板部のそれぞれの一部が、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子と幅方向に隣接して配置された前記摺り板素子の下方に配置されて
おり、
前記摺り板素子が、進行方向に対して傾斜した幅方向端縁を有し、
前記取付板部が、進行方向と平行な幅方向端縁を有しており、
前記取付板部のうちで最も幅方向片側に存在する取付板部を除く取付板部のそれぞれの幅方向他側部分のうちの進行方向片半部が、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子の幅方向他側に隣接して配置された前記摺り板素子の幅方向片側部分の下方に配置されており、
前記取付板部のうちで最も幅方向他側に存在する取付板部を除く取付板部のそれぞれの幅方向片側部分のうちの進行方向他半部が、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子の幅方向片側に隣接して配置された前記摺り板素子の幅方向他側部分の下方に配置されている、
集電舟装置。
【請求項2】
前記取付板部のそれぞれが、進行方向と平行な幅方向端縁を有し、前記摺り板素子の下面に支持固定された基板部と、該基板部の幅方向端縁からU字形に折り返された折り返し部とを備える、請求項
1に記載の集電舟装置。
【請求項3】
前記摺り板素子のそれぞれが、下面のうちで、該摺り板素子のそれぞれと幅方向に隣接して配置された摺り板素子に支持固定された前記取付板部の前記折り返し部が当接ないし近接対向する部分に、上方に凹んだ段部を有する、請求項
2に記載の集電舟装置。
【請求項4】
幅方向に配置された舟体と、
前記舟体の上方に幅方向に並んで配置されるとともに、前記舟体に対する上下方向変位を可能に支持された複数個の摺り板素子、および、該摺り板素子の下面に1個ずつ支持固定された複数個の取付板部を有する、摺り板ユニットと、
を備え、
前記取付板部のそれぞれの一部が、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子と幅方向に隣接して配置された前記摺り板素子の下方に配置されて
おり、
前記取付板部のそれぞれが、前記摺り板素子の下面に支持固定された基板部と、該基板部から幅方向に延出した腕部とを備える、
集電舟装置。
【請求項5】
前記腕部が、前記基板部の幅方向端縁から下方に折れ曲がった垂下板部と、該垂下板部の下端部から幅方向に折れ曲がった延出板部と、該延出板部の幅方向端部から上方に折り返されたフック部とを備える、請求項
4に記載の集電舟装置。
【請求項6】
幅方向に配置された舟体と、
前記舟体の上方に幅方向に並んで配置されるとともに、前記舟体に対する上下方向変位を可能に支持された複数個の摺り板素子、および、該摺り板素子の下面に1個ずつ支持固定された複数個の取付板部を有する、摺り板ユニットと、
を備え、
前記取付板部のそれぞれの一部が、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子と幅方向に隣接して配置された前記摺り板素子の下方に配置されて
おり、
前記摺り板ユニットが、上下方向に関する撓み変形が可能な、少なくとも1枚の板ばねをさらに備え、
前記摺り板素子と前記取付板部とを、1個ずつ互いに重ね合わせ、かつ、幅方向に並べて配置した状態で、前記少なくとも1枚の板ばねのうち、最も上側に配置された板ばねの上面に支持固定している、
集電舟装置。
【請求項7】
前記少なくとも1枚の板ばねは、複数枚の板ばねにより構成される、請求項
6に記載の集電舟装置。
【請求項8】
幅方向に配置された舟体と、
前記舟体の上方に幅方向に並んで配置されるとともに、前記舟体に対する上下方向変位を可能に支持された複数個の摺り板素子、および、該摺り板素子の下面に1個ずつ支持固定された複数個の取付板部を有する、摺り板ユニットと、
を備え、
前記取付板部のそれぞれの一部が、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子と幅方向に隣接して配置された前記摺り板素子の下方に配置されて
おり、
前記摺り板ユニットが、前記取付板部と、該取付板部の進行方向両端部から下方に折れ曲がった1対の折り曲げ板部とをそれぞれ有する、複数個の風切板をさらに備える、
集電舟装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線から電力を取り入れるため、鉄道車両の屋根上に設置して使用する、集電舟装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の屋根の上方には集電舟装置を備えたパンタグラフ装置を支持し、架線から電力を取り入れるようにしている。すなわち、集電舟装置の上部に上下方向に関する変位を可能に支持した導電材製の摺り板を、架線の下縁に弾性的に押し付け、この架線から車両に電気を取り入れるようにしている。
【0003】
新幹線などの高速車両では、摺り板が架線から離れる(離線する)ことによって、アークが発生するのを防止するため、車両の幅方向に分割され、かつ、幅方向に並んで配置された複数個の摺り板素子からなる、多分割式の摺り板を備える集電舟装置が使用されている。このような集電舟装置は、例えば特開2005-160266号公報に記載されているように、舟体と、該舟体の内側に支持固定されたフレームと、該フレームに上下方向の変位を可能に支持され、かつ、上向きの弾力が付与された複数個のガイドと、該ガイドのそれぞれの上部に1個ずつ支持された複数個の摺り板素子とを備える。多分割式の摺り板を備える集電舟装置によれば、架線に対する追従性を良好にすることができて、アークの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上述のような多分割式の摺り板を備える集電舟装置は、例えば区分装置を通過する際に、該区分装置のスライダが、幅方向に互いに隣接した摺り板素子同士の間の段差と衝突するなどの問題を生じる可能性がある。この理由について、
図9および
図10を参照しながら説明する。
【0006】
集電舟装置100は、車両の幅方向(
図9の上下方向、
図10の左右方向)に分割され、かつ、幅方向に並んで配置された複数個の摺り板素子101a、101bからなる、多分割式の摺り板102を備える。摺り板素子101a、101bのそれぞれは、パンタグラフ枠の上端部に支持された、図示しない舟体に対し、フレームとガイドとを介して、上下方向の変位を可能に支持され、かつ、上向きの弾力が付与されている。また、摺り板素子101a、101bの幅方向端縁(幅方向両端を除く中間部に配置された摺り板素子101aの幅方向両側縁、幅方向両端に配置された摺り板素子101bの幅方向内端縁)は、車両の進行方向(
図9の左右方向)に対し傾斜し、かつ、互いに微小隙間を介して対向している。
【0007】
区分装置104は、駅構内や車庫などにおいて、第1の架線105と第2の架線106とを互いに絶縁して接続する、いわゆる碍子形のセクションインシュレータであって、1対のスライダ107a、107bを備える。1対のスライダ107a、107bのうちの一方のスライダ107aは、車両の幅方向に関して、第1の架線105の片側(
図9の上側)に配置され、かつ、車両の進行方向片側(
図9の右側)に向かうほど第1の架線105から離れる方向に傾斜する方向に伸長している。これに対し、他方のスライダ107bは、車両の幅方向に関して、第2の架線106の他側(
図9の下側)に配置され、かつ、車両の進行方向他側(
図9の左側)に向かうほど第2の架線106から離れる方向に傾斜する方向に伸長している。
【0008】
図10(A)に示すように、集電舟装置100が区分装置104を通過する際、スライダ107aと擦れ合う摺り板素子101a(
図10(A)の右側の摺り板素子101a)は、下向きの押圧力が作用するため、上向きの弾力に抗して下方に変位する。これに対し、幅方向に隣接する摺り板素子101a(
図10(A)の左側の摺り板素子101a)は、下向きの押圧力が作用せず、下方に変位しない。このため、スライダ107aと擦れ合う摺り板素子101aの上面と、幅方向に隣接する摺り板素子101aの上面との間に、段差Gが生じる可能性がある。
図9に示すように、車両の進行方向に対する、摺り板素子101a、101bの幅方向端縁の傾斜角度と、スライダ107a、107bの伸長方向の傾斜角度とはほぼ同じである。このため、
図10(B)に示すように、集電舟装置100が区分装置104を通過する際に、幅方向に隣接する摺り板素子101a(、101b)同士の間に生じる段差Gに、スライダ107a(、107b)が衝突して、摺り板素子101a(、101b)とスライダ107a(、107b)との間に衝撃が発生する可能性がある。
【0009】
本発明は、上述のような事情を鑑み、多分割式の摺り板を備える集電舟装置において、互いに隣接する摺り板素子同士間に段差が生じるのを防止することができる構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の集電舟装置は、舟体と、摺り板ユニットとを備える。
前記舟体は、幅方向に配置されている。
前記摺り板ユニットは、複数個の摺り板素子と、複数個の取付板部とを有する。
前記摺り板素子は、前記舟体の上方に幅方向に間隔をあけて配置されるとともに、前記舟体に対する上下方向変位を可能に支持されている。
前記取付板部は、前記摺り板素子の下面に1個ずつ支持固定されている。
特に、本発明の集電舟装置は、前記取付板部のそれぞれの一部が、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子と幅方向に隣接して配置された前記摺り板素子の下方に配置されている。
【0011】
本発明の集電舟装置を実施する場合、前記摺り板素子を、進行方向に対して傾斜した幅方向端縁を有するものとするとともに、前記取付板部を、進行方向と平行な幅方向端縁を有するものとすることが好ましい。
【0012】
この場合、前記取付板部のうちで最も幅方向片側に存在する取付板部を除く取付板部のそれぞれの幅方向他側部分のうちの進行方向片半部を、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子の幅方向他側に隣接して配置された前記摺り板素子の幅方向片側部分の下方に配置し、前記取付板部のうちで最も幅方向他側に存在する取付板部を除く取付板部のそれぞれの幅方向片側部分のうちの進行方向他半部を、該取付板部のそれぞれが支持固定された前記摺り板素子の幅方向片側に隣接して配置された前記摺り板素子の幅方向他側部分の下方に配置することができる。
この場合には、さらに、前記取付板部のそれぞれは、進行方向と平行な幅方向端縁を有し、前記摺り板素子の下面に支持固定された基板部と、該基板部の幅方向端縁からU字形に折り返された折り返し部とを備えることができる。
この場合には、さらに、前記摺り板素子のそれぞれは、下面のうちで、該摺り板素子のそれぞれと幅方向に隣接して配置された摺り板素子に支持固定された前記取付板部の前記折り返し部が当接ないし近接対向する部分に、上方に凹んだ段部を有することができる。
【0013】
前記取付板部のそれぞれは、前記摺り板素子の下面に支持固定された基板部と、該基板部から幅方向に延出した腕部とを備えることができる。
この場合、前記腕部は、前記基板部の幅方向端縁から下方に折れ曲がった垂下板部と、該垂下板部の下端部から幅方向に折れ曲がった延出板部と、該延出板部の幅方向端部から上方に折り返されたフック部とを備えることができる。
【0014】
本発明の集電舟装置を実施する場合の応用例として、前記摺り板ユニットを、上下方向に関する撓み変形が可能な板ばねをさらに備える構造とすることもできる。この場合、前記摺り板素子と前記取付板部とを、1個ずつ互いに重ね合わせ、かつ、幅方向に(直列に)並べて配置した状態で、前記板ばねのうち、最も上側に配置された板ばねの上面に支持固定することが好ましい。この場合、前記板ばねは、複数枚(2枚以上)の板ばねにより構成されることが好ましい。
【0015】
本発明の集電舟装置を実施する場合、前記摺り板ユニットを、前記取付板部と、該取付板部の進行方向両端部から下方に折れ曲がった1対の折り曲げ板部とをそれぞれ有する、複数個の風切板をさらに備えるものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述のような本発明の集電舟装置によれば、多分割式の摺り板を備える構造において、互いに隣接する摺り板素子同士間に段差が生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(A)は、本発明の実施の形態の第1例に係る集電舟装置を、車両の進行方向から見て示す側面図であり、
図1(B)は、
図1(A)の上方から見た平面図である。
【
図4】
図4は、
図1(B)のC部を透視した状態で示す模式図である。
【
図5】
図5は、スライダと擦れ合う摺り板の様子を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態の第2例に係る集電舟装置を、舟体を取り外すとともに、分解して示す部分拡大斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態の第3例に係る集電舟装置を示す、
図6と同様の図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態の第4例に係る集電舟装置を示す、
図6と同様の図である。
【
図9】
図9は、従来の集電舟装置が区分装置を通過する様子を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1~
図5は、本発明の実施の形態の第1例を示している。なお、本例を含めて、本発明の特徴は、多分割式の摺り板1を備える構造において、互いに隣接する摺り板素子2a(、2b)同士の間に段差が生じるのを防止するための構造にある。
【0019】
本例の集電舟装置3は、舟体4と、摺り板支持機構5と、摺り板ユニット6とを備える。
【0020】
舟体4は、アルミニウム合金などの金属製の素材を削り出し加工するか、あるいは、ダイキャスト成形することにより、略船形に造られたものであって、上面に開口する収容凹部7を有する。舟体4は、図示しないパンタグラフ枠の上端部に、車両の幅方向に伸長するように配置された状態で支持される。舟体4とパンタグラフ枠との間には、従来から鉄道車両用のパンタグラフ装置の技術分野で広く知られているような、図示しないリンク機構を設けて、パンタグラフ枠の起倒にかかわらず、舟体4の上面が車両の屋根面と平行になるようにしている。
【0021】
摺り板支持機構5は、固定フレーム8と複数個の可動ガイド9を、複数個の圧縮コイルばね10を介して組み合わせてなる。
【0022】
固定フレーム8は、アルミニウム合金などの金属製の素材を削り出し加工するか、あるいは、ダイキャスト成形することにより、幅方向に伸長する略矩形箱状または略矩形筒状に形成されている。固定フレーム8は、幅方向の複数箇所で、かつ、進行方向2箇所位置にそれぞれ、上面に開口する凹部11を有する。固定フレーム8は、舟体4の収容凹部7の内側に収容された状態で、舟体4に対し支持固定されている。
【0023】
可動ガイド9は、金属板を矩形筒状に曲げ成形してなるもので、進行方向に関する幅寸法を、固定フレーム8の進行方向に関する幅寸法よりも僅かに大きくするとともに、上下方向寸法を、固定フレーム8の上下方向寸法よりも大きくしている。このような可動ガイド9を、固定フレーム8のうち、幅方向に関して凹部11と整合する部分の周囲に配置するとともに、凹部11の底部と可動ガイド9の上板部との間に圧縮コイルばね10を弾性的に圧縮した状態で挟持している。これにより、可動ガイド9を固定フレーム8に対して、上下方向の変位を可能に支持するとともに、可動ガイド9に上向きの弾力を付与している。
【0024】
なお、可動ガイド9のうち、幅方向両端に配置された可動ガイドは、進行方向両側に配置された側板部から幅方向に延出した延出部を備え、該延出部を、固定フレーム8の進行方向両側面に、進行方向に配置した枢軸を中心とする揺動変位を可能に支持している。すなわち、幅方向両端に配置された可動ガイドは、前記枢軸を中心に揺動することにより、上下方向に変位する。
【0025】
摺り板ユニット6は、多分割式の摺り板1と、複数個の風切板12とを備える。
【0026】
摺り板1は、幅方向に分割され、かつ、幅方向に並んで(直列に)配置された複数個(図示の例では14個)の摺り板素子2a、2bからなる。摺り板素子2a、2bの幅方向端縁(幅方向両端を除く中間部に配置された摺り板素子2aの幅方向両端縁、および幅方向両端に配置された摺り板素子2bの幅方向内端縁)は、車両の進行方向に対し傾斜し、かつ、幅方向に隣り合うもの同士が微小隙間を介して近接対向している。具体的には、摺り板素子2a、2bの幅方向端縁は、車両の進行方向片側(
図1(B)および
図4の上側)に向かうほど、幅方向片側(
図1(A)、
図1(B)、
図4および
図5の左側)に向かう方向に傾斜している。このため、幅方向中間部に配置された摺り板素子2aは、上下方向から見て、平行四辺形の平面形状を有する。
【0027】
また、摺り板素子2a、2bは、幅方向端部下面のうち、進行方向に関する一部に、上方に凹んだ段部13(
図3および
図4参照)を有する。具体的には、幅方向中間部に配置された摺り板素子2aでは、幅方向片端部下面のうちの進行方向片側部分と、幅方向他端部(
図1(A)、
図1(B)、
図4および
図5の右端部)下面のうちの進行方向他側部分(
図1(B)および
図4の下側部分)とに、段部13がそれぞれ形成されている。また、幅方向両端に配置された摺り板素子2bのうち、幅方向片端の摺り板素子2bでは、幅方向他端部下面のうち、進行方向他側部分に、段部13が形成されている。これに対し、幅方向他端の摺り板素子2bでは、幅方向片端部下面のうち、進行方向片側部分に、段部13が形成されている。
【0028】
風切板12は、鋼板などの十分な剛性を有する金属板を、略コ字形に曲げ成形してなるもので、取付板部14と、該取付板部14の進行方向両端部から下方に折れ曲がった1対の折り曲げ板部15とを有する。風切板12は、取付板部14を、摺り板素子2a、2bの下面に重ね合わせた状態で、摺り板素子2a、2bに対し、ボルト16により支持固定されている。
【0029】
取付板部14は、基板部17と、該基板部17の幅方向端縁の一部からU字形に折り返された折り返し部18とを備える。基板部17は、進行方向と平行な幅方向端縁(幅方向中間部に配置された摺り板素子2aに支持固定された風切板12の基板部17では、幅方向両端縁、幅方向両端に配置された摺り板素子2bに支持固定された風切板12の基板部17では、幅方向内端縁)を有する。したがって、幅方向中間部に配置された摺り板素子2aに支持固定された風切板12の基板部17は、上下方向から見て矩形の平面形状を有する。
【0030】
折り返し部18は、基板部17の幅方向端縁の一部(それぞれの風切板12が支持固定された摺り板素子2a、2bと幅方向に隣接して配置された摺り板素子2a、2bの下方に位置する部分)からU字形に折り返されている。具体的には、幅方向片端に配置された摺り板素子2bを除く摺り板素子2a、2bに支持固定された風切板12では、基板部17の幅方向片端縁の進行方向他側部分から、上方かつ幅方向他側に向けてU字形に折り返すことにより、取付板部14の幅方向片側部分に折り返し部18を形成している。これに対し、幅方向他端に配置された摺り板素子2bを除く摺り板素子2a、2bに支持固定された風切板12では、基板部17の幅方向他端縁の進行方向片側部分から、上方かつ幅方向片側に向けてU字形に折り返すことにより、取付板部14の幅方向他側部分に折り返し部18を形成している。
【0031】
風切板12を摺り板素子2a、2bに対し支持固定した状態では、
図3および
図4に示すように、該風切板12の取付板部14のうち、折り返し部18の上面が、該風切板12が支持固定された摺り板素子2a、2bと幅方向に隣接する摺り板素子2a、2bの段部13に当接ないし近接対向する。具体的には、風切板12の取付板部14の幅方向片側に形成された折り返し部18の上面が、該風切板12が支持固定された摺り板素子2a、2bの幅方向片側に隣接する摺り板素子2a、2bの幅方向他端部下面に形成された段部13に当接ないし近接対向する。また、風切板12の取付板部14の幅方向他側に形成された折り返し部18の上面が、該風切板12が支持固定された摺り板素子2a、2bの幅方向他側に隣接する摺り板素子2a、2bの幅方向片端部下面に形成された段部13に当接ないし近接対向する。
【0032】
折り曲げ板部15は、取付板部14の基板部17の進行方向両側縁から下方に折れ曲がっている。折り曲げ板部15は、それぞれの外側面(進行方向片側の折り曲げ板部15の進行方向片側面および進行方向他側の折り曲げ板部15の進行方向他側面)を、舟体4の進行方向両側に配置された側壁部19の内側面に近接対向させている。これにより、車両走行中に、摺り板1の下面と、舟体4の側壁部19の上面との隙間から、舟体4の収容凹部7内に雪などの異物が侵入するのを防止するとともに、摺り板1と側壁部19との間の開口部を小さくして、車両走行時における騒音を抑えている。
【0033】
なお、本例では、可動ガイド9の上面と、風切板12の下面との間に、通電板20と、重ね合わせた複数枚(2枚以上)の板ばね21とが挟持されている。なお、板ばね21は、摺り板素子2a、2bのいずれかが、架線105、106やスライダ107a、107b(
図9および
図10参照)により下方に押圧された際に生じる反力を、摺り板素子2aの中央部が押圧された場合と、幅方向に隣り合う1対の摺り板素子2a同士の間部分が押圧された場合とで、ほぼ同じとするために設けられたものである。ただし、本発明は、板ばね21を備えない集電舟装置にも適用することができる。
【0034】
通電板20は、銅などの導電性を有する金属製で、帯板状に構成されている。
【0035】
板ばね21のそれぞれは、幅方向に伸長する矩形板状で、ステンレス鋼板などの弾性を有し、かつ、板厚が0.1mm~1mm程度の金属板製である。ただし、板ばね21のそれぞれは、金属板以外にも、炭素強化繊維プラスチック(CFRP)などの非金属製の板材により構成することもできる。なお、便宜上、
図2では、板ばね21を1枚のみ示している。
【0036】
上述のように、通電板20および重ね合わせた複数枚の板ばね21を、可動ガイド9の上面と、風切板12の下面との間に挟持することにより、架線と摺り板素子2a、2bとの接触部(摺接部)から取り入れた電力の通電経路を確実に確保するとともに、可動ガイド9が上下方向に変位することに対して、適度な抵抗を付与している。
【0037】
特に本例では、板ばね21を複数枚重ね合わせることにより、該板ばね21のそれぞれの強度および耐久性を確保しつつ、該摺り板素子2a、2bに付与する弾力(剛性)を小さくしている。すなわち、架線やスライダ26により、摺り板素子2a、2bが下方に押されることにより、重ね合わせた複数枚の板ばね21が弾性変形する際には、上側に配置された板ばね21が大きく湾曲するのに対し、下側に配置された板ばね21は小さく湾曲する。これにより、板ばね21のそれぞれの強度および耐久性を確保しつつ、摺り板素子2a、2bに付与する弾力を小さくすることができる。摺り板素子2a、2bに付与する弾力を小さくすることにより、架線やスライダ26に追従して変位する摺り板素子2a、2bの個数を少なく抑え、摺り板1のうち、架線に追従して変位する部分の質量を低減している。この結果、架線に対する摺り板素子2a、2bの追従性を向上させている。ただし、本発明を実施する場合、通電板20および1枚の板ばね21を、可動ガイド9の上面と、風切板12の下面との間に挟持することもできる。
【0038】
本例の集電舟装置3では、風切板12の取付板部14の幅方向端部のうち、進行方向に関する一部を、該取付板部14が支持固定された摺り板素子2a、2bと幅方向に隣接して配置された摺り板素子2a、2bの下方に配置している。このため、本例では、
図5(B)に示すように、架線やスライダ26と擦れ合う摺り板素子2a(、2b)(
図5(B)の左側の摺り板素子2a)が下方に変位すると、架線やスライダ26と擦れ合う摺り板素子2a(、2b)と幅方向に隣接する摺り板素子2a(、2b)(
図5(B)の右側の摺り板素子2a)に支持固定された風切板12の取付板部14の幅方向端部(架線やスライダ26と擦れ合う摺り板素子2a(、2b)に近い側(
図5(B)の左側)の端部)が下方に押される。これにより、架線やスライダ26と擦れ合う摺り板素子2a(、2b)と幅方向に隣接する摺り板素子2a(、2b)が、架線やスライダ26と擦れ合う摺り板素子2a(、2b)に近い側に向かうほど下方に向かう方向に傾斜する。したがって、架線やスライダ26と擦れ合う摺り板素子2a(、2b)の上面と、該摺り板素子2a、2bと幅方向に隣接する摺り板素子2a(、2b)の上面との間に、
図10に示すような段差Gが生じるのを防止することができる。
【0039】
特に、本例では、風切板12の取付板部14に備えられた折り返し部18の上面を、該取付板部14が支持固定された摺り板素子2a、2bと幅方向に隣接して配置された摺り板素子2a、2bに形成された段部13に、当接ないし近接対向させている。これにより、取付板部14と、該取付板部14が支持固定された摺り板素子2a、2bと幅方向に隣接して配置された摺り板素子2a、2bとの接触面積を小さくして、該摺り板素子2a、2bを下方に確実に押すことができる。この結果、架線やスライダ26と擦れ合う摺り板素子2a、2bの上面と、該摺り板素子2a、2bと幅方向に隣接する摺り板素子2a、2bの上面との間に、段差Gが生じるのを防止することができる
【0040】
[実施の形態の第2例]
図6は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例では、風切板12aの取付板部14aは、矩形の平面形状を有する基板部17aのみから構成されており、折り返し部を備えていない。また、摺り板素子2cは、下面に段部が形成されておらず、該摺り板素子2cの下面全体が、平坦面により構成されている。
【0041】
本例によれば、風切板12aや摺り板素子2cの構造が、実施の形態の第1例に係る風切板12や摺り板素子2a(、2b)の構造よりも単純であり、その製造コストを低く抑えることができる。なお、本例では、
図6に示すように、摺り板素子2cの下面と、可動ガイド9の上面との間に板ばねを備えていないが、必要に応じて板ばねを備えることもできる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0042】
[実施の形態の第3例]
図7は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例では、風切板12bの取付板部14bは、矩形の平面形状を有する基板部17と、該基板部17の幅方向端縁の一部から、上方に向けてL字形に折れ曲がったフック部22とを備え、該フック部22の先端面(上面)を、幅方向に隣接する摺り板素子2cの下面に当接ないし近接対向させている。
【0043】
本例によれば、取付板部14bと、幅方向に隣接する摺り板素子2cの下面との接触面積を、実施の形態の第1例の構造と比較して小さく抑えることができる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例および第2例と同様である。
【0044】
[実施の形態の第4例]
図8は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例では、風切板12cの取付板部14cは、矩形の平面形状を有する基板部17bと、該基板部17bの幅方向端縁のうち、進行方向2箇所からそれぞれ幅方向に延出した腕部23とを備える。
【0045】
基板部17bは、摺り板素子2cの幅方向寸法よりも小さい幅方向寸法を有する。したがって、摺り板素子2cの下面に取付板部14cを支持固定した状態では、基板部17cの上面全体が、摺り板素子2cの下面に覆われる。
【0046】
腕部23は、基板部17cの幅方向端縁から下方に折れ曲がった垂下板部24と、該垂下板部24の下端部から幅方向に折れ曲がった延出板部25と、該延出板部25の幅方向端部から上方に折れ曲がったフック部22aとを備え、該フック部22aの先端面(上面)を、幅方向に隣接する摺り板素子2cの下面に当接ないし近接対向させている。本例では、幅方向に互いに隣接する摺り板素子2cに支持固定された風切板12cの互いに対向する幅方向端縁から延出した腕部23が、進行方向に関して互い違いに配置されるようにしている。
【0047】
本例では、取付板部14cと、幅方向に隣接する摺り板素子2cの下面とを、進行方向に離隔した2箇所位置で接触するようにしている。このため、架線やスライダ107a、107b(
図10参照)と擦れ合う摺り板素子2cが下方に変位することに伴って、該摺り板素子2cと幅方向に隣接する摺り板素子2cに支持固定された摺り板素子2cの取付板部14cを、進行方向に関してバランスよく下方に押すことができる。この結果、架線やスライダ107a、107bと擦れ合う摺り板素子2cの上面と、該摺り板素子2cと幅方向に隣接する摺り板素子2cの上面との間に、
図10に示すような段差Gが生じるのをより効果的に防止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例および第2例と同様である。
【符号の説明】
【0048】
1 摺り板
2a、2b、2c 摺り板素子
3 集電舟装置
4 舟体
5 摺り板支持機構
6 摺り板ユニット
7 収容凹部
8 固定フレーム
9 可動ガイド
10 圧縮コイルばね
11 凹部
12、12a、12b、12c 風切板
13 段部
14、14a、14b、14c 取付板部
15 折り曲げ板部
16 ボルト
17、17a、17b 基板部
18 折り返し部
19 側壁部
20 通電板
21 板ばね
22、22a フック部
23 腕部
24 垂下板部
25 延出板部
26 スライダ
100 集電舟装置
101a、101b 摺り板素子
102 摺り板
104 区分装置
105 第1の架線
106 第2の架線
107a、107b スライダ