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特許7300904地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法
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  • 特許-地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法 図1
  • 特許-地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法 図2
  • 特許-地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/06 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
E02D1/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019115860
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001487
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穂刈 利之
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-017905(JP,A)
【文献】特開平07-190871(JP,A)
【文献】登録実用新案第3181247(JP,U)
【文献】特開昭64-010812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-3/115
E21B 1/00-49/10
G01N 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で多段に配置されたパッカーを備えた地下水観測装置を、地中に設けた孔内に設置する方法であって、
孔壁保護のための管状のケーシングを孔内に挿入配置するステップと、孔内に挿入配置した前記ケーシングの内部に前記地下水観測装置を挿入するステップと、その後、前記ケーシングを孔から所定長だけ引き抜くことによって、前記ケーシングがない裸孔の区間を設け、この区間に位置する前記パッカーを膨張して孔壁に密接配置するステップとを備えることを特徴とする地下水観測装置の設置方法。
【請求項2】
前記ケーシングがない裸孔の区間の全ての前記パッカーを膨張して孔壁に密接配置した後、前記地下水観測装置が自立したことを確認するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の地下水観測装置の設置方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地下水観測装置の設置方法によって前記地下水観測装置を孔内に設置するステップと、設置した前記地下水観測装置で地下水を観測するステップとを備えることを特徴とする地下水調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば軟岩試錐調査における地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、地下深部の調査は、以下に示すように徐々に調査域を絞っていく方法がとられる。
(1)空中から行われるもので、衛星データを使用するリモートセンシング、重力探査、磁気探査、空中電磁探査など飛行機、ヘリコプターを用いるものがある。
(2)地表から行われるもので、地震探査(反射法・屈折法)、電気探査、電磁探査などの物理探査、地表踏査などが含まれる。
(3)地表から地下深部に試錐孔を穿孔して直接地下の情報を得るもので、穿孔時に行われるものと、観測装置を設置して定期的に観測を行うものがある。
【0003】
上記(3)における試錐調査においては、対象が堆積岩のような軟岩の場合、孔壁崩壊を防ぐために、弱部をセメントで固めてから、再び試錐を行うことが先ず行われる。しかし、調査対象が地下深部となり弱部が多い場合は孔井仕上が行われる(例えば、特許文献1を参照)。孔井仕上とは、孔壁保護のための鋼製ケーシングの建込、鋼製ケーシングと岩盤の間にセメント注入を行うセメンチング、CBL(セメントボンドログ)によるセメンチングと岩盤の癒着確認、これを多段で対象深度まで繰返し、最後にJP(ジェットパーフォレーション)によって鋼製ケーシングに細孔を開け、地下水観測を可能にすることからなる。図2に、堆積軟岩における試錐調査の孔井仕上の例を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-048984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
孔井仕上を行うことで、地下水観測装置(例えばMPシステム)をジャミングされることなく安全に地中に設置することができ、定期的に地下水の観測を実施できる。しかし、その一方で、孔井仕上により原位置地下水への水質が擾乱されること、鋼製ケーシングの細孔部の目詰まりなどにより原位置岩盤の水理状況の把握が困難になる等の不具合が生じるおそれがある。その例として水質の変化を図3に示す。図3のグラフでは2つの測点のpHと全鉄濃度の経時変化を示してある。左端の値は孔井仕上前のものであり、それ以降は孔井仕上後の値である。この図から、孔井仕上によりpHが大きく上昇していること、および全鉄濃度も同様に大きく増加していることがわかる。このため、孔壁崩壊が懸念されるような試錐孔に対して孔井仕上を行わずに地下水観測装置を設置することができる方法が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、孔壁崩壊が懸念されるような試錐孔に対して、孔井仕上を行わずに地下水観測装置を適切に設置することができる地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る地下水観測装置の設置方法は、地下水を観測するための地下水観測装置を、地中に設けた孔内に設置する方法であって、孔壁保護のための管状のケーシングを孔内に挿入配置するステップと、孔内に挿入配置したケーシングの内部に地下水観測装置を挿入するステップと、その後、ケーシングを孔から所定長だけ引き抜くことによって、ケーシングがない裸孔の区間を設け、この区間に位置する地下水観測装置を膨張して孔壁に密接配置するステップとを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の地下水観測装置の設置方法は、上述した発明において、地下水観測装置は所定の間隔で多段に配置されたパッカーを備えており、ケーシングがない裸孔の区間の全パッカーを膨張して孔壁に密接配置した後、地下水観測装置が自立したことを確認するステップをさらに備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る地下水調査方法は、上述した地下水観測装置の設置方法によって地下水観測装置を孔内に設置するステップと、設置した地下水観測装置で地下水を観測するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る地下水観測装置の設置方法によれば、地下水を観測するための地下水観測装置を、地中に設けた孔内に設置する方法であって、孔壁保護のための管状のケーシングを孔内に挿入配置するステップと、孔内に挿入配置したケーシングの内部に地下水観測装置を挿入するステップと、その後、ケーシングを孔から所定長だけ引き抜くことによって、ケーシングがない裸孔の区間を設け、この区間に位置する地下水観測装置を膨張して孔壁に密接配置するステップとを備えるので、孔壁崩壊が懸念されるような試錐孔に対して、孔井仕上を行わずに地下水観測装置を適切に設置することができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る他の地下水観測装置の設置方法によれば、地下水観測装置は所定の間隔で多段に配置されたパッカーを備えており、ケーシングがない裸孔の区間の全パッカーを膨張して孔壁に密接配置した後、地下水観測装置が自立したことを確認するステップをさらに備えるので、パッカーを備えるMPシステムなどの地下水観測装置を、孔井仕上を行わずに適切に設置することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る地下水調査方法によれば、上述した地下水観測装置の設置方法によって地下水観測装置を孔内に設置するステップと、設置した地下水観測装置で地下水を観測するステップとを備えるので、原位置地下水の地球化学環境の擾乱を最低限に抑えることができるため、高品質な地球化学環境データの取得が可能となる。また、孔井仕上を行わないことから工期の短縮ができ、調査費用のコストダウンが図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法の実施の形態を示す図である。
図2図2は、従来の堆積軟岩における試錐調査の孔井仕上の例を示す図である。
図3図3は、従来の孔井仕上による水質変化の例を示す図であり、(1)はpH、(2)は全鉄濃度である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
本発明の実施の形態に係る地下水観測装置の設置方法は、孔壁弱部を鋼製ケーシングで保護し、段階的に鋼製ケーシングを引き抜きながら地下水観測装置を設置していく方法である。図1を参照しながら具体的な手順を説明する。
【0016】
まず、図1(1)に示すように、地表GLから地下深部に試錐孔10を穿孔して試錐調査を行う。試錐調査は裸孔において概ね以下の(1)~(6)の項目について実施する。なお、本実施の形態の地下深部は堆積軟岩である場合を想定しているが、本発明はこれに限るものではない。
【0017】
(1)穿孔:泥水掘削および泥水モニタリング(mud logging)、岩芯採取および岩芯試験
(2)物理検層:キャリパー、音波、温度、比抵抗(SP含む)、密度、中性子、γ-γ線、BHTV
(3)拡孔:物理検層プローブと次の水理試験用の装置の径が同程度なら不要
(4)水理調査:間隙水圧測定、水理試験
(5)地球化学調査:揚水による物理化学変数の観測、地下水の採水・分析
(6)岩盤力学調査:孔内載荷試験による初期地圧測定
【0018】
所定の深度まで試錐調査が完了したら、継続的に地下水観測を行うために地下水観測装置を設置するが、試錐調査完了から地下水観測装置設置までの期間が孔壁が最も不安定になるために、孔壁保護のために鋼製ケーシング12を裸孔10内に設置する。鋼製ケーシング12は例えば鋼管で構成することができる。
【0019】
次に、図1(2)に示すように、地下水観測装置14をケーシング12内に挿入する。なお、上記の試錐調査結果から地下水調査を行う区間をあらかじめ決定しておき、それに基づいた編成を行った地下水観測装置14を所定の深度に挿入することが望ましい。
【0020】
地下水観測装置14としては、例えばMPシステムを用いることができる。このMPシステムは、多段式のパッカー16を備えるMPケーシング18を孔内に設置することによって、複数の観測区間での水圧計測および地下水採取が可能なシステムである。パッカー16で挟まれた観測区間のMPケーシング18内には水圧計が設置される。水圧計の計測データは地上のデータロガーに記録される。パッカー16は、裸孔10の径に適した密封装置であり、地上からの注入圧の制御により膨張が制御される。また、MPケーシング18内の採水ポートを開放し小型ポンプを設置することで、ポンプによる採水が可能であるとともに、専用の採水プローブ等を用いて、観測区間の圧力を保持した状態で地下水を採取することができる。
【0021】
次に、図1(3)に示すように、鋼製ケーシング12を所定の揚管距離Lだけ裸孔10から引き揚げる(引き抜く)。揚管距離Lは、孔壁の崩落の可能性および地下水観測装置14の荷重を考慮して決定することが望ましい。
【0022】
次に、図1(4)に示すように、鋼製ケーシング12がなくなり、裸孔となった区間のパッカー16を順次拡張(膨張)し、裸孔10の孔壁に密接配置する。
【0023】
次に、上記の図1(3)、(4)の作業を繰り返す。
【0024】
そして、図1(5)に示すように、地下水観測装置14の全パッカー16を拡張し、装置14が自立したことを確認して地下水観測装置14の設置完了とする。その後、地下水観測装置14を用いて継続的に地下水観測を行う。
【0025】
本実施の形態の設置方法によれば、孔壁崩壊が懸念されるような試錐孔10に対して孔井仕上を行わずに地下水観測装置14の設置が可能である。また、本実施の形態の地下水調査方法によれば、孔井仕上のための鋼製ケーシング、セメントを使用しないことで原位置地下水の地球化学環境の擾乱を最低限に抑えることができるため、高品質な地球化学環境データの取得が可能となる。
【0026】
また、本実施の形態によれば、孔井仕上用の鋼製ケーシング、セメントを使用しないこと、およびCBL、JPを行わないことから工期の短縮が可能である。したがって、孔井仕上を行う場合に比べて材料費や施工費を低減することができ、工期短縮による費用低減も可能であることから、調査費用の全体的なコストダウンが図れる。
【0027】
以上説明したように、本発明に係る地下水観測装置の設置方法によれば、地下水を観測するための地下水観測装置を、地中に設けた孔内に設置する方法であって、孔壁保護のための管状のケーシングを孔内に挿入配置するステップと、孔内に挿入配置したケーシングの内部に地下水観測装置を挿入するステップと、その後、ケーシングを孔から所定長だけ引き抜くことによって、ケーシングがない裸孔の区間を設け、この区間に位置する地下水観測装置を膨張して孔壁に密接配置するステップとを備えるので、孔壁崩壊が懸念されるような試錐孔に対して、孔井仕上を行わずに地下水観測装置を適切に設置することができる。
【0028】
また、本発明に係る他の地下水観測装置の設置方法によれば、地下水観測装置は所定の間隔で多段に配置されたパッカーを備えており、ケーシングがない裸孔の区間の全パッカーを膨張して孔壁に密接配置した後、地下水観測装置が自立したことを確認するステップをさらに備えるので、パッカーを備えるMPシステムなどの地下水観測装置を、孔井仕上を行わずに適切に設置することができる。
【0029】
また、本発明に係る地下水調査方法によれば、上述した地下水観測装置の設置方法によって地下水観測装置を孔内に設置するステップと、設置した地下水観測装置で地下水を観測するステップとを備えるので、原位置地下水の地球化学環境の擾乱を最低限に抑えることができるため、高品質な地球化学環境データの取得が可能となる。また、孔井仕上を行わないことから工期の短縮ができ、調査費用のコストダウンが図れる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明に係る地下水観測装置の設置方法および地下水調査方法は、軟岩試錐調査などの地下深部の調査に有用であり、特に、孔壁崩壊が懸念されるような試錐孔に対して、孔井仕上を行わずに地下水観測装置を適切に設置するのに適している。
【符号の説明】
【0031】
10 孔
12 ケーシング
14 地下水観測装置
16 パッカー
18 MPケーシング
GL 地表
L 揚管距離(所定長)
図1
図2
図3