(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
A61M25/09 516
(21)【出願番号】P 2019118084
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 丈人
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-276413(JP,A)
【文献】特開2016-174645(JP,A)
【文献】特表2014-520596(JP,A)
【文献】特開2014-147459(JP,A)
【文献】特開平09-294812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端と基端を有するコアワイヤと、
前記コアワイヤの先端に固定された先端チップと、
螺旋状のコイル線により構成され、前記コアワイヤの周囲に設けられ、先端が前記先端チップの基端に固定されたコイル体と、
前記コアワイヤの周囲に設けられ、前記コアワイヤの廻りを回転自在であり、かつ先端が前記コイル体の基端部に固定された中空シャフトと、を備え、
前記コアワイヤの長さ方向に沿って互いに隣り合う前記コイル線の、基端側の第1部分と先端側の第2部分の間には、隙間が形成され、
前記第1部分の前記第2部分側には、係合部が設けられ、前記第2部分の前記第1部分側には、被係合部が設けられ、
前記コイル体は、前記第1部分と前記第2部分とが相対的に回転可能となるように構成され
、
前記係合部と前記被係合部との係合は、前記コイル体の回転方向を、前記コイル体の縮径方向に制限するラチェット機構を構成する、ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記係合部は凸形状をなし、前記被係合部は凹形状をなし、前記係合部は前記被係合部の形状に対応する形状を有する、請求項
1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
前記係合部の前記凸形状は、
第1係合面と、前記第1係合面に対して前記コイル線の長さ方向において基端側に位置する第2係合面と、を含み、
前記コイル線の長さ方向に対する第1係合面の角度が、前記コイル線の長さ方向に対する第2係合面の角度よりも大きい、請求項
2に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記係合部は凹形状をなし、前記被係合部は凸形状をなし、前記係合部は前記被係合部の形状に対応する形状を有する、請求項
1に記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記係合部の前記凹形状は、
第1係合面と、前記第1係合面に対して前記コイル線の長さ方向において先端側に位置する第2係合面と、を含み、
前記コイル線の長さ方向に対する第1係合面の角度が、前記コイル線の長さ方向に対する第2係合面の角度よりも大きい、請求項
4に記載のガイドワイヤ。
【請求項6】
前記コイル線の長さ方向に沿って、前記係合部と前記被係合部が、それぞれ複数設けられている請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載のガイドワイヤ。
【請求項7】
前記コイル線の長さ方向に沿って、前記複数の係合部が一定の間隔にて設けられ、前記複数の被係合部が前記一定の間隔にて設けられている請求項
6に記載のガイドワイヤ。
【請求項8】
前記螺旋状のコイル線は、素線を螺旋状に巻回して構成されている請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載のガイドワイヤ。
【請求項9】
前記螺旋状のコイル線は、円筒状のパイプにスリットを形成することにより構成されている請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載のガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓を取り巻く冠動脈などの血管に生じた狭窄の治療や、石灰化の進行により血管内が完全に閉塞した部位(例えば、慢性完全閉塞:CTOなど)を治療する際、バルーンカテーテル等の治療器具に先行してこれらを案内するためのガイドワイヤが血管に挿入される。
【0003】
上記ガイドワイヤには、例えば、ガイドワイヤの芯線の先端部を複数の円錐体により構成し、複数の円錐体の節部での傾斜角に一定の関係を持たせることにより、病変部での通過性を向上させたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、歯を有する細長部材料部片から構成されたコイルを備えるカテーテル管内器具(ガイドワイヤ)が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6281731号
【文献】特開平9-294812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のガイドワイヤでは、芯線の先端部の周囲に巻回されたコイルの外径は常に一定である。特許文献2のカテーテル管内器具では、コイルを回転させたとしても、コイルの素線の一巻き分の部位が、歯によって、隣接する一巻き分の部位に固定されて、回転するのが阻止されるので、コイルの外径は常に一定である。このため、狭窄部の穴径が当該外径よりも小さい場合には、コイルが狭窄部を通過するのは困難である。
【0006】
本開示は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、コイル体を狭窄部に対し容易に通過させることができるガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するために、本開示の一態様であるガイドワイヤは、先端と基端を有するコアワイヤと、前記コアワイヤの先端に固定された先端チップと、螺旋状のコイル線により構成され、前記コアワイヤの周囲 に設けられ、先端が前記先端チップの基端に固定されたコイル体と、前記コアワイヤの周囲に設けられ、前記コアワイヤの廻りを回転自在であり、かつ先端が前記コイル体の基端部に固定された中空シャフトと、を備え、前記コアワイヤの長さ方向に沿って互いに隣り合う、前記コイル線の基端側の第1部分と先端側の第2部分の間には、隙間が形成され、前記第1部分の前記第2部分側には、係合部が設けられ、前記第2部分の前記第1部分側には、被係合部が設けられ、前記コイル体は、前記第1部分と前記第2部分とが相対的に回転可能となるように構成されている。
【0008】
前記係合部と前記被係合部との係合は、前記コイル体の回転方向 を、前記コイル体の縮径方向に制限するラチェット機構を構成してもよい。
【0009】
前記係合部は凸形状をなし、前記被係合部は凹形状をなし、前記係合部は前記被係合部の形状に対応する 形状を有してもよい。
【0010】
前記係合部の前記凸形状は、第1係合面と、前記第1係合面に対して前記コアワイヤの長さ方向において基端側に位置する第2係合面と、を含み、前記コイル線の長さ方向に対する第1係合面の角度が、前記コイル線の長さ方向に対する第2係合面の角度よりも大きくてもよい。
【0011】
前記係合部は凹形状をなし、前記被係合部は凸形状をなし、前記係合部は前記被係合部の形状に対応する形状を有してもよい。
【0012】
前記係合部の前記凹形状は、第1係合面と、前記第1係合面に対して前記コアワイヤの長さ方向において先端側に位置する第2係合面と、を含み、前記コイル線の長さ方向に対する第1係合面の角度が、前記コイル線の長さ方向に対する第2係合面の角度よりも小さくてもよい。
【0013】
前記コイル線の長さ方向に沿って、前記係合部と前記被係合部が、それぞれ複数設けられていてもよい。
【0014】
前記コイル線の長さ方向に沿って、前記複数の係合部が一定の間隔にて設けられ、前記複数の被係合部が前記一定の間隔にて設けられていてもよい。
【0015】
前記螺旋状のコイル線は、素線を螺旋状に巻回して構成されていてもよい。
【0016】
前記螺旋状のコイル線は、円筒状のパイプにスリットを形成することにより構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、コイル体を狭窄部に対し容易に通過させることができるガイドワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一実施形態に係るガイドワイヤの側面図である。
【
図2】(a)はコイル体の隣り合う金属素線の概略図であり、(b)係合部の説明図である。
【
図3】コイル体が収縮した状態のガイドワイヤの側面図である。
【
図4】コイル体が縮径した状態のガイドワイヤの側面図である。
【
図5】コイル体の縮径および復元プロセスの説明図である。
【
図6】ガイドワイヤが血管の狭窄部を通過するプロセスの説明図である。
【
図9】(a)は変形例に係るコイル体の隣り合う金属素線の概略図であり、(b)変形例に係る係合部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の一実施形態に係るガイドワイヤについて図面を参照して説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施形態にのみ限定されるものではない。なお、本開示において、先端とはガイドワイヤにおいて先端チップが位置する端部を意味し、基端とは当該先端とは反対側の端部を意味する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るガイドワイヤ1の側面図である。
【0021】
図1に示すように、ガイドワイヤ1は、コアワイヤ2と、コイル体10と、先端チップ3と、中空シャフト4とを備える。
【0022】
コアワイヤ2は、その基端から先端まで略一定の外径を有し、ガイドワイヤ1の基端から先端まで延びている。コアワイヤ2を構成する材料としては、例えば、SUS304などのステンレス鋼、ニッケルチタン合金、コバルトクロム合金などの金属材料等が挙げられる。コアワイヤ2の全長は、例えば1,800~3,000mmであり、コアワイヤ2の外径は、例えば0.02~0.06mmである。
【0023】
コイル体10は、コアワイヤ2の先端部の周囲に設けられている。コイル体10の詳細な構成については後述する。
【0024】
先端チップ3は、略半球形状をなし、ガイドワイヤ1の先端に設けられ、コアワイヤ2の先端とコイル体10の先端とを接合している。先端チップ3は、例えば、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金、Sn-Ag合金、Au-Sn合金などの金属ロウ等を用いてロウ付けすることで形成される。
【0025】
中空シャフト4は、コアワイヤ2の周囲にその周りを回転自在に設けられ、コイル体10の基端からガイドワイヤ1の基端に向かって延びている。中空シャフト4の先端は、コイル体10の基端に接合されている。中空シャフト4の先端とコイル体10の基端との接合は、例えば、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金、Sn-Ag合金、Au-Sn合金などの金属ロウ等によるロウ付けにより行われる。
【0026】
中空シャフト4を構成する材料としては、例えば、SUS304などのステンレス鋼、ニッケルチタン合金、コバルトクロム合金などの金属材料等が挙げられる。中空シャフト4の全長は、コアワイヤ2よりもコイル体10および先端チップ3の長さだけ短く構成され、中空シャフト4の外径は、例えば0.25~0.5mmである。なお、コアワイヤ2の基端は、中空シャフト4の基端よりも基端側に突出している。本実施形態では、コアワイヤ2は、中空シャフト4に固定されていないが、コアワイヤ2の一部が、中空シャフト4の内周面のどこかに固定されていてもよい。なお、中空シャフト4の基端側の端部において手技者によるガイドワイヤ1の押圧操作、回転操作等が行われる。
【0027】
次に、コイル体10の構成について説明する。
図2(a)は、コイル体10の隣り合う金属素線11の概略図であり、(b)は、係合部13の説明図である。
【0028】
図1に示すように、コイル体10は、一本の金属素線11をコアワイヤ2の周りに螺旋状に巻回することにより、中空円筒形状に形成されている。コイル体10の先端は、先端チップ3に接合され、コイル体10の基端は、中空シャフト4に接合されている。金属素線11は、コイル線に相当する。
【0029】
コイル体10に外力が作用していない状態では、コアワイヤ2の長さ方向において、コイル体10の隣り合う金属素線11は、互いに離間しており隙間12を有する。すなわち、
図2(a)に示すように、コアワイヤ2の長さ方向に沿って互いに隣り合う金属素線11のうち、基端側の金属素線11を第1部分15とし、先端側の金属素線11を第2部分16とした場合、第1部分15と第2部分16との間に隙間12が形成されている。コイル体10は、第1部分15と第2部分16とが相対的に回転可能なように構成されている。すなわち、第1部分15が、それに隣接する第2部分16に固定されることなく回転可能となっている。
【0030】
第1部分15の第2部分16側には、金属素線11の巻回方向に沿って複数の係合部13が一定の間隔で設けられている。第2部分16の第1部分15側には、巻回方向に沿って複数の被係合部14が一定の間隔で設けられている。すなわち、互いに隣り合う金属素線11において、第1部分15の先端側部には、係合部13が設けられ、第2部分16の基端側部には、被係合部14が設けられている。金属素線11の巻回方向は、コイル線の長さ方向に相当する。
【0031】
図2(a)に示すように、各係合部13は、第1係合面13Aと、第2係合面13Bとから構成される凸形状をなしている。第2係合面13Bは、第1係合面13Aに対して、金属素線11の巻回方向において基端側に位置している。各第1係合面13Aは、ガイドワイヤ1の長軸を含む平面に平行をなしている。第2係合面13Bは、第1係合面13Aの先端から、当該第1係合面13Aに対し巻回方向において基端側に隣接する第1係合面13Aの基端に向かって延びている。第1係合面13Aと第2係合面13Bとが、金属素線11の巻回方向に沿って順次形成されることにより、複数の係合部13が金属素線11の先端側に設けられる。
【0032】
図2(b)に示すように、金属素線11の巻回方向に対する第1係合面13Aの角度α1が、金属素線11の巻回方向に対する第2係合面13Bの角度α2よりも大きく構成されている。すなわち、第1係合面13Aに対して、コイル体10の矢印R1に沿った回転により金属素線11が基端側から引っ張られる方向において、基端側に位置する第2係合面13Bの角度α2が、第1係合面13Aの角度α1よりも小さく構成されている。金属素線11の巻回方向は、
図2(b)における破線L1に沿った方向である。
【0033】
図2(a)に示すように、各被係合部14は、第1被係合面14Aと、第2被係合面14Bとから構成される凹形状をなしている。各第1被係合面14Aは、ガイドワイヤ1の長軸を含む平面に平行をなしている。第2被係合面14Bは、第1被係合面14Aの先端から、当該第1被係合面14Aに対し巻回方向において基端側に隣接する第1係合面14Aの基端に向かって延びている。第1被係合面14Aと第2被係合面14Bとが、金属素線11の巻回方向に沿って順次形成されることにより、複数の被係合部14が金属素線11の基端側に設けられる。
【0034】
各係合部13は、各被係合部14に対し対応する形状を有している。このため、コアワイヤ2の長さ方向において、コイル体10の互いに隣り合う金属素線11どうしが接した場合、被係合部14に係合部13が隙間なく係合する。コイル体10に外力が作用していない状態では、互いに隣り合う金属素線11において、複数の係合部13および複数の被係合部14は、コアワイヤ2の長さ方向において互いに対向するように形成されている。
【0035】
コイル体10の金属素線11の線径は、例えば0.03~0.1mmであり、コイル体10の外径は、例えば、0.25~0.5mmであり、コイル体10のコアワイヤ2の長さ方向に沿う長さは、100~200mmである。金属素線11のピッチは、例えば線径が0.072mmの場合、11.00~13.88Pitch/mmである。金属素線11のピッチが13.88Pitch/mmの場合、金属素線11は密着巻であり、金属素線11のピッチが11.00Pitch/mmの場合、金属素線11間の隙間は0.019mmである。
【0036】
金属素線11の複数の係合部13および複数の被係合部14は、断面円形の金属素線を、例えばフェムト秒オーダーの超短パルスレーザによる微細加工により形成される。例えば
図2に示されるように、点線で示された加工前の断面円形の金属素線を、レーザ加工により、点線と実線との間の部分をカット処理することにより、複数の係合部13および複数の被係合部14を有する金属素線11が形成される。カット形状および寸法は、コイル体10の外径、金属素線11の線径、1ピッチ当たりの分割数、溝深さ等に基づき決定される。1ピッチ当たりの分割数(係合部13(被係合部14)の数)は、例えば4~20である。溝深さは、第1係合面13Aおよび第1被係合面14Aのコアワイヤ2の長さ方向に沿う長さであり、線径に対して10~20%の長さである。本実施形態では、例えばコイル体10の外径は0.345mmm、金属素線11の線径は0.072mm、1ピッチ当たりの分割数は8、溝深さは0.010mmである。
【0037】
次に、ガイドワイヤ1のコイル体10の縮径および復元プロセスおよびガイドワイヤ1が血管の狭窄部を通過するプロセスについて、図面を参照して説明する。
図3は、コイル体10が収縮した状態のガイドワイヤ1の側面図である。
図4は、コイル体10が縮径した状態のガイドワイヤ1の側面図である。
図5は、コイル体10の縮径および復元プロセスの説明図である。
図6は、ガイドワイヤ1が血管の狭窄部を通過するプロセスの説明図である。
【0038】
図1、
図5(a)に示すように、ガイドワイヤ1に外力が作用していない状態では、コアワイヤ2の長さ方向において互いに隣接する金属素線11は、隙間12を有して離間している。
図5(a)において、矢印F1は中空シャフト4を入力側からの押す力である。
図6(a)に示すように、先端チップ3を血管V内の狭窄部Sに押し付けた状態で、手技者が入力側(基端側)から中空シャフト4を押すことにより、
図3、
図5(b)に示すように、隙間12をなくすように互いに隣接する金属素線11が当接し、コイル体10が収縮する。
図5(b)において、矢印F2は狭窄部Sからの反力である。このように、入力側からの押す力F1と狭窄部Sからの反力F2とにより、コイル体10が収縮する。この結果、金属素線11において、各係合部13が対向する被係合部14に係合する。なお、
図5(b)では、複数の係合部13の一つである係合部13Cが、対向する被係合部14Cに係合する。
【0039】
図4、
図5(c)に示した矢印R1の回転方向に中空シャフト4を回転させる。矢印R1の回転方向は、金属素線11の基端から先端への巻回方向とは逆方向であり、コイル体10が縮径する方向である。この時、
図2(a)で説明したように、コイル体10において、第1部分15は、第2部分16に移動することが阻止されることなく回転する。これにより、
図4、
図6(b)に示すように、コイル体10が捩じられ、コイル体10の中央部が縮径する。そして、当該捩じりにより、
図5(b)、(c)に示すように、各係合部13と各被係合部14との係合が解除され、係合部13Cは、回転方向における被係合部14Cの隣に位置する被係合部14Dと係合する。この状態において、係合部13の第1係合面13A(
図2参照)と被係合部14の第1被係合面14A(
図2参照)とが当接し、第1係合面13Aおよび第1被係合面14Aはガイドワイヤ1の長軸を含む平面に平行である。このため、係合部13と被係合部14との係合は、コイル体10の回転方向(捩じり方向)を縮径方向に制限するラチェット機構を構成する。よって、コイル体10には元の外径に戻ろうとする復元力が発生するが、係合部13が被係合部14に係合しているため、コイル体10が復元力により元の外径に戻るのが抑制される。
【0040】
ここで、「コイル体10の回転方向を縮径方向に制限する」には、当該縮径方向の逆方向にコイル体10を回転させるのに必要なトルクよりも低トルクでコイル体10を縮径方向に回転可能な状態に制限すること、および、コイル体10を縮径方向にのみ回転可能な状態に制限すること、を含むものとする。上記のように、金属素線11の巻回方向に対する第1係合面13Aの角度α1を、金属素線11の巻回方向に対する第2係合面13Bの角度α2よりも大きく構成されている。すなわち、第1係合面13Aに対して、コイル体10の矢印R1に沿った回転により金属素線11が基端側から引っ張られる方向において、基端側に位置する第2係合面13Bの角度α2が、第1係合面13Aの角度α1よりも小さく構成されているので、コイル体10の回転方向を縮径方向に制限するラチェット機構を提供することができる。
【0041】
この時、コイル体10の巻数は、コイル体10の縮径前と比較して増加する。なお、当該巻数の増加には、1巻以下の増加も含まれる。また、コイル体10の中央部が縮径した状態において、当該中央部における係合部13および被係合部14の数は、コイル体10の両端部における係合部13および被係合部14の数よりも減少する。
【0042】
手技者が入力側から中空シャフト4をさらに押すことにより、先端チップ3およびコイル体10の先端部が狭窄部Sを通過する。これにより、縮径したコイル体10の中央部が狭窄部Sを通過すると共に、狭窄部Sからの反力F2が無くなるので、収縮および縮径したコイル体10が、その復元力によって、
図5(d)、
図6(c)に示すように元の長さおよび元の外径に復元する。なお、コイル体10の長さの復元は進行方向への復元である。
図5(d)において、点線で示した金属素線11Aは縮径状態の金属素線を示している。このようにして、ガイドワイヤ1の先端部に位置するコイル体10が狭窄部Sを通過する。
【0043】
また、
図6(d)に示すように、コイル体10が狭窄部Sを通過する際に、その外径が元に戻ることにより、コイル体10が狭窄部Sに当接してコイル体10がスタックしたとしても、コイル体10と狭窄部Sとの当接部分を支点として、中空シャフト4を上記のように回転させてコイル体10を縮径させることにより、コイル体10を通過させることができる。
【0044】
次に、当該ガイドワイヤ1の使用態様について説明する。当該ガイドワイヤ1を先端部から大腿部の血管に挿入し、血管に沿って冠動脈まで進行させる。次いで、血管の狭窄部やCTO近傍の偽腔などの治療部位を通過させた後、当該ガイドワイヤ1に沿ってバルーンカテーテルやステントなどの治療器具を搬送させ、上記治療部位にて各種処置を実行する。上記処置が完了した後、当該ガイドワイヤ1は、上記血管を逆行させて身体から引き抜かれ、一連の操作が終了する。
【0045】
以上のように、本開示のガイドワイヤ1によれば、先端チップ3を狭窄部Sに押し当て隙間12をなくすように隣り合う金属素線11を当接させ、中空シャフト4を回転させることにより、コイル体10が捩じられてコイル体10が縮径すると共に、係合部13が被係合部14に係合する。これにより、金属素線11間のすべりを抑制することができ、コイル体10がその復元力により元の形状に戻るのを抑制することができる。このため、基端側から中空シャフト4への大きな押圧力を要することなく、コイル体10を狭窄部Sに対し容易に通過させることができる。よって、ガイドワイヤ1を狭窄部Sに通過させるときの操作性を向上させることができる。
【0046】
また、コイル体10が狭窄部Sを通過した際には、その復元力によりコイル体10が元の長さに戻り、隣り合う金属素線11の間に隙間12も復元する。これにより、コイル体10に進行方向への推進力が発生するので、容易にガイドワイヤ1を狭窄部Sに通過させることができる。
【0047】
また、係合部13と被係合部14との係合は、コイル体10の回転方向を縮径方向に制限するラチェット機構を構成するので、縮径したコイル体10がその復元力により元の形状に戻るのをさらに抑制することができ、狭窄部Sを通過させるときの操作性をさらに向上させることができる。
【0048】
また、係合部13が凸形状をなし、被係合部14が凹形状をなし、係合部13が被係合部14の形状に対応する形状を有することで、係合部13が被係合部14に係合した時の接触面積を増加させることができ、ガイドワイヤ1のプッシャビリティーを向上させることができる。
【0049】
係合部13の凸形状は、第1係合面13Aと、第1係合面13Aに対してコアワイヤ2の長さ方向において基端側に位置する第2係合面13Bと、を含み、金属素線11の巻回方向に対する第1係合面13Aの角度α1が、金属素線11の巻回方向に対する第2係合面13Bの角度α2よりも大きく構成されている。当該構成により、コイル体10の回転方向を縮径方向に制限するラチェット機構を提供することができる。
【0050】
金属素線11の巻回方向に沿って、係合部13と被係合部14が、それぞれ複数設けられているので、コイル体10がその復元力により元の形状に戻るのをさらに抑制することができる。
【0051】
金属素線11の巻回方向に沿って、複数の係合部13が一定の間隔にて設けられ、複数の被係合部14が前記一定の間隔にて設けられているので、互いに係合する係合部13と被係合部14とを、コイル体10の回転により金属素線11の巻回方向に沿って切り換えることができるので、コイル体10を容易に縮径することができ、コイル体10を狭窄部Sに対し容易に通過させることができる。
【0052】
コイル体10は、金属素線11を巻回して構成されているので、レーザ加工等により金属素線11の外周面に係合部13および被係合部14を形成することで、本開示のガイドワイヤ1を容易に製造することができる。
【0053】
なお、本開示は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0054】
例えば、上述した実施形態では、コイル体10は金属素線11を巻回して構成していたが、
図7に示すガイドワイヤ21のように、円筒状のパイプにレーザ加工等により螺旋状のスリット32を形成して、係合部33および被係合部34を有するコイル線31によりコイル体30を構成してもよい。本変形例ではスリット32は隙間に相当する。
【0055】
また、コイル体10、30の外周面に樹脂製のジャケットを形成してもよい。ジャケットは、例えば熱収縮チューブであり、ジャケットを構成する樹脂としては、コイル体10、30の伸縮に追従可能な伸縮性を有していればよく、例えば、ウレタンコーティング材料、親水性コーティング材料等が挙げられる。
【0056】
また、係合部13および被係合部14の形状は、上記実施形態で示した形状に限らず、他の形状であってもよい。例えば、第1係合面13Aおよび第1被係合面14Aは、ガイドワイヤ1の長軸を含む平面に平行な面であったが、当該平面に傾斜する面であってもよい。また、係合部13および被係合部14は複数形成されていたが、係合部13が一つのみで被係合部14は複数であってもよいし、係合部13は複数で被係合部14は一つのみであってもよい。
【0057】
図8に示すように、金属素線11の巻回方向を、上記の実施形態における金属素線11の巻回方向の逆方向にしてもよい。この場合、金属素線11の巻回方向に対する第1係合面13Aの角度α1が、金属素線11の巻回方向に対する第2係合面13Bの角度α2よりも大きく構成されている。すなわち、第1係合面13Aに対して、コイル体10の
図8の矢印R2に沿った回転により金属素線11が基端側へ引っ張られる方向において、基端側に位置する第2係合面13Bの角度α2が、第1係合面13Aの角度α1よりも小さく構成されている。金属素線11の巻回方向は、
図8における破線L2に沿った方向であり、第2係合面13Bは、第1係合面13Aに対して、金属素線11の巻回方向において基端側に位置している。
【0058】
上記の実施形態では、係合部13が凸形状、被係合部14が凹形状であったが、
図9(a)に示すように、係合部13が凹形状、被係合部14が凸形状であってもよい。係合部13は、第1係合面13Aと、第2係合面13Bとから構成される。被係合部14は、第1被係合面14Aと、第2被係合面14Bとから構成される。係合部13は、被係合部14に対し対応する形状を有している。これにより、係合部13が被係合部14に係合した時の接触面積を増加させることができ、ガイドワイヤ1のプッシャビリティーを向上させることができる。第2係合面13Bは、第1係合面13Aに対して、金属素線11の巻回方向において先端側に位置している。
【0059】
図9(b)に示すように、金属素線11の巻回方向に対する第1係合面13Aの角度β1が、金属素線11の巻回方向に対する第2係合面13Bの角度β2よりも大きく構成されている。すなわち、第1係合面13Aに対して、コイル体10の矢印R1に沿った回転により金属素線11が基端側へ引っ張られる方向において、先端側に位置する第2係合面13Bの角度β2が、第1係合面13Aの角度β1よりも小さく構成されている。金属素線11の巻回方向は、
図9(b)における破線L1に沿った方向である。当該構成により、コイル体10の回転方向を縮径方向に制限するラチェット機構を提供することができる。
【0060】
図9で説明した係合部13を凹形状および被係合部14を凸形状した場合において、さらに、金属素線11の巻回方向を逆方向にしてもよい。この場合、金属素線11の巻回方向に対する第1係合面13Aの角度β1が、金属素線11の巻回方向に対する第2係合面13Bの角度β2よりも大きく構成される。すなわち、第1係合面13Aに対して、コイル体10の矢印R2に沿った回転により金属素線11が基端側へ引っ張られる方向において先端側に位置する第2係合面13Bの角度β2が、第1係合面13Aの角度β1よりも小さく構成されている。金属素線11の巻回方向は、
図10における破線L2に沿った方向であり、第2係合面13Bは、第1係合面13Aに対して、金属素線11の巻回方向において先端側に位置している。
【符号の説明】
【0061】
1、21:ガイドワイヤ
2:コアワイヤ
3:先端チップ
4:中空シャフト
10、30:コイル体
11:金属素線
12:隙間
13、33:係合部
14、34:被係合部
15:第1部分
16:第2部分
31:コイル線
32:スリット