(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】変速機の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20230623BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 K
(21)【出願番号】P 2019161318
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591043260
【氏名又は名称】明石機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智成
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-113305(JP,A)
【文献】特開2010-144856(JP,A)
【文献】特開2014-173658(JP,A)
【文献】実開昭59-189957(JP,U)
【文献】特開2012-112482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケース内に設けた回転軸の端面に開口する軸内油路に漏斗状のオイルガイドを介してオイルを案内する変速機の潤滑構造であって、
前記オイルガイドは、前記変速機ケースのオイルガイド保持部に周縁部が保持される基部と、前記基部の一表面に突設されて前記軸内油路に挿入される筒部と、前記基部の周縁部に突設した爪部とを備え、
前記オイルガイド保持部は、前記オイルガイドの前記基部の周縁部を囲う内壁面に前記爪部が係合する係合溝を備えている、変速機の潤滑構造。
【請求項2】
前記オイルガイドは、樹脂製であり、前記爪部よりも前記基部の中央側の位置で前記基部の周縁部に設けた開口部を備え、前記爪部と前記開口部との間の前記基部の部位が撓み変形することで前記爪部が前記基部の中央側へ変位可能に構成されている、請求項1に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項3】
前記オイルガイド保持部は、前記オイルガイドの前記基部における前記一表面とは反対側の裏面が当接する段差部を備え、
前記オイルガイドの前記爪部と前記オイルガイド保持部の前記係合溝は、前記段差部に前記基部の裏面が当接した状態で係合する位置に設けられている、請求項1又は2に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項4】
前記オイルガイド保持部の前記係合溝は、前記段差部の隅部で前記内壁面に設けたアンダーカット溝で構成されている、請求項3に記載の変速機の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機ケース内に設けた回転軸の端面に開口する軸内油路に漏斗状のオイルガイドを介してオイルを案内する変速機の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手動変速機などの各種の変速機においては、例えば回転軸を支持する軸受部やギヤなど、潤滑が必要な部位に変速機ケース内のオイル(潤滑油)を供給するように構成されている。このようなオイルの供給を、回転軸内の軸内油路に対して漏斗状のオイルガイドを通じて行う構成はよく知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1では、鋼板製の変速機ケース内壁に溶接にてオイルガイドを連結する構成が開示されている。また、特許文献2には、変速機ケース内壁に設けたオイルガイド取付け用の凹部に板金製のオイルガイドを圧入することで、オイルガイドを変速機ケース内壁に取り付ける構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実願平1-90590号のマイクロフィルム
【文献】特開2018-194111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の変速機の潤滑構造は、特許文献1のように鋼板製ケースを使用する場合には部品点数が多くなるとともに、オイルガイドを溶着するための溶接機及び溶接工程が必要であり、製造コストが高くなるという問題があった。また、特許文献2に開示の構成では、オイルガイドを変速機ケースに圧入するためのプレス機及び圧入工程が必要であり、この場合も製造コストが高くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような現状を検討して改善を施した変速機の潤滑構造を提供することを技術的課題としている。
【0007】
本発明は、変速機ケース内に設けた回転軸の端面に開口する軸内油路に漏斗状のオイルガイドを介してオイルを案内する変速機の潤滑構造であって、前記オイルガイドは、前記変速機ケースのオイルガイド保持部に周縁部が保持される基部と、前記基部の一表面に突設されて前記軸内油路に挿入される筒部と、前記基部の周縁部に突設した爪部とを備え、前記オイルガイド保持部は、前記オイルガイドの前記基部の周縁部を囲う内壁面に前記爪部が係合する係合溝を備えているものである。
【0008】
本発明の変速機の潤滑構造によれば、変速機ケースへのオイルガイドの取付け工程に関して、溶接や圧入などではなく、オイルガイドをオイルガイド保持部に嵌め込んで爪部と係合溝とを係合させるという簡単な操作でオイルガイドを変速機ケースに装着できる。これにより、オイルガイドの取付けに要する時間を短縮化して生産性を向上できるとともに、オイルガイドの取付けに関して溶接機やプレス機を必要としないので製造コストを低減できる。
【0009】
本発明の変速機の潤滑構造において、前記オイルガイドは、樹脂製であり、前記爪部よりも前記基部の中央側の位置で前記基部の周縁部に設けた開口部を備え、前記爪部と前記開口部との間の前記基部の部位が撓み変形することで前記爪部が前記基部の中央側へ変位可能に構成されているようにしてもよい。
【0010】
このような態様によれば、オイルガイドを樹脂製にすることで軽量化を実現できるとともに、オイルガイドを射出成形品とすることで板金絞り加工を必要としないので生産性を向上できる。
【0011】
本発明の変速機の潤滑構造において、前記オイルガイド保持部は、前記オイルガイドの前記基部における前記一表面とは反対側の裏面が当接する段差部を備え、前記オイルガイドの前記爪部と前記オイルガイド保持部の前記係合溝は、前記段差部に前記基部の裏面が当接した状態で係合する位置に設けられているようにしてもよい。例えば、オイルガイド保持部の係合溝は、段差部の隅部で内壁面に設けたアンダーカット溝で構成されているようにしてもよい。
【0012】
このような態様によれば、オイルガイドをオイルガイド保持部に取り付ける際に、オイルガイドのリブ裏面が段差部に当接するまでオイルガイドを押し込むという簡単な操作でオイルガイドを容易に所定位置に取り付けることができ、オイルガイドの取付けの確実性及び取付時間の短縮化による生産性の向上を実現できる。さらに、オイルガイド保持部の係合溝として、凹部の隅部に対して実施されるアンダーカット加工処理で形成されるアンダーカット溝を利用するようにすれば、製造コストの上昇を抑制しながらオイルガイドをオイルガイド保持部に保持できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の変速機の潤滑構造は、オイルガイドの取付けに要する時間を短縮化して生産性を向上できるとともに、オイルガイドの取付けに関して溶接機やプレス機を必要としないので製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】同手動変速機の動力伝達系統を示すスケルトン図である。
【
図4】同手動変速機の動力伝達系統を示す展開断面図である。
【
図5】本体部及び蓋部を分離した状態での変速ギヤ機構と切換機構との斜視図である。
【
図6】本体部及び蓋部を分離した状態での変速ギヤ機構と切換機構との平面図である。
【
図7】本体部及び蓋部を分離した状態での変速ギヤ機構と切換機構との側面図である。
【
図8】変速ギヤ機構と切換機構との関係を示す拡大斜視図である。
【
図9】変速ギヤ機構と切換機構とオイルレシーバを示す側面図である。
【
図10】変速ギヤ機構とオイルレシーバを示す平面図である。
【
図11】変速ギヤ機構とオイルレシーバを示す背面図である。
【
図12】オイルレシーバとオイルガイドをケース本体部とともに示す側面図である。
【
図13】オイルレシーバのオイル捕集を
図14のA-A位置断面で示す側面図である。
【
図16】
図14のC-C位置で切断したオイルレシーバを示す拡大斜視図である。
【
図17】レシーバ本体への補足部材の取付構造を説明するための拡大斜視図であり、(A)は左後斜め上から見た図、(B)は右前斜め上から見た図である。
【
図18】ブリーザ機構とオイルレシーバの補足部材を示す斜視図である。
【
図19】(A)はオイルガイドの一表面側斜視図、(B)は同オイルガイドの裏面側斜視図、(C)は同オイルガイドの周縁部とオイルガイド保持部を示す縦断面図である。
【
図20】
図12のB-B位置でのオイルガイド取付位置周辺を示す断面図であり、(A)は組立状態、(B)は分離状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明において必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば「左右」「上下」等)を用いる場合は、エンジンE及び手動変速機1を搭載する車両の前進方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく前進方向に向かって右側を単に右側と称して、これらを基準にしている。これらの用語は説明の便宜のために用いたものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、
図1~
図9はいずれも、車両内のフロアシフトが中立位置(ニュートラル位置)に位置しているときの状態を示している。
【0016】
図1及び
図2に示すように、実施形態の手動変速機1は、前進五速及び後進一速式のものであり、車両のエンジンルーム(図示省略)内に搭載した横置き式のエンジンEの左側に位置するように、エンジンEに取り付けられている。
図3~
図9に示すように、手動変速機1は、エンジンEからの出力を変速する変速ギヤ機構2と、変速ギヤ機構2を切換作動させる切換機構3と、変速ギヤ機構2及び切換機構3を収容する変速機ケース4とを備えている。
【0017】
変速機ケース4は、深さの深い本体部5と、本体部5の開口を塞ぐ蓋部6とで、二つ割り状に構成されている。詳細な図示は省略するが、本体部5は右向きに開口している。蓋部6は左右両側に向けて開口している。蓋部6には、内部を左右に区画する側壁が形成されている。従って、蓋部6には、側壁を底部とする左開口部と右開口部とが形成されている。
【0018】
蓋部6の左開口部内には変速ギヤ機構2及び切換機構3の一部が収まり、変速ギヤ機構2及び切換機構3の大部分が本体部5内に収まっている。実施形態では、変速機ケース4内(具体的には蓋部6の左開口部内)に差動ギヤ機構7も収容している。つまり、実施形態の変速機ケース4は、内部に変速ギヤ機構2と差動ギヤ機構7とを収容する、いわゆるトランスアクスルケースである。つまり、実施形態の手動変速機1は前輪駆動式のものに採用されている。本体部5と蓋部6(左開口部側)とは、変速ギヤ機構2、切換機構3並びに差動ギヤ機構7を収容した状態でボルト締結されている。変速ギヤ機構2及び切換機構3の軸群は、本体部5の開口方向(本体部5と蓋部6との締結方向、実施形態では左右方向)に沿って延びている。
【0019】
蓋部6の右開口部内には、エンジンEから変速ギヤ機構2への動力伝達を継断する主クラッチCLが収容されている。変速ギヤ機構2の変速入力軸10(詳細は後述する)が蓋部6内の側壁を回転可能に貫通している。エンジンEから突出したエンジン出力軸SH(クランク軸)は、主クラッチCLを介して右開口部内に突出した変速入力軸10に連結されている。蓋部6(右開口部側)は、主クラッチCLを収容した状態でエンジンEにボルト締結されている。
【0020】
エンジンEの動力は、エンジン出力軸SHから変速ギヤ機構2に伝達されて適宜変速され、当該変速動力が差動ギヤ機構7を介して左右の前車輪(図示省略)に伝達される。
【0021】
次に、手動変速機1の変速ギヤ機構2について説明する。
図3に詳細に示すように、変速機ケース4内に収容された変速ギヤ機構2は、エンジンEの動力が入力される変速入力軸10と、変速入力軸10と平行状に延び且つ差動ギヤ機構7に動力伝達する変速出力軸20とを備えている。変速入力軸10と変速出力軸20とには、変速入力軸10から変速出力軸20に動力伝達する複数の前進変速段ギヤ列G1~G5と、後進ギヤ列GRとが設けられている。前進変速段ギヤ列G1~G5はそれぞれ、互いに常時噛み合う二つのギヤで構成されている。後進ギヤ列GRは、後進時に互いに噛み合う三つのギヤで構成されている。実施形態の変速ギヤ機構2では、エンジンE側から、一速ギヤ列G1、後進ギヤ列GR、二速ギヤ列G2、三速ギヤ列G3、四速ギヤ列G4、及び五速ギヤ列G5の順に並んでいる。
【0022】
一速ギヤ列G1及び二速ギヤ列G2はそれぞれ、変速入力軸10に固定した一速入力ギヤ11及び二速入力ギヤ12と、変速出力軸20に相対回転可能に被嵌した一速出力ギヤ21及び二速出力ギヤ22とを有している。また、三速ギヤ列G3~五速ギヤ列G5は、変速入力軸10に相対回転可能に被嵌した三速入力ギヤ13~五速入力ギヤ15と、変速出力軸20に固定した三速出力ギヤ23~五速出力ギヤ25とを有している。後進ギヤ列GRは、変速入力軸10に固定した後進入力ギヤ17と、変速出力軸20に相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌した後進出力ギヤ27と、変速入力軸10及び変速出力軸20と平行状に延びる後進アイドル軸30に回転可能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌した後進アイドルギヤ37とで構成されている。変速出力軸20のエンジンE寄りの端部(右端部)には、差動ギヤ機構7のリングギヤ8と常時噛み合う出力ギヤ28が固定されている。
【0023】
変速出力軸20上における一速出力ギヤ21と二速出力ギヤ22との間には、低速スライダ51が相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。低速スライダ51の作用によって、一速出力ギヤ21と二速出力ギヤ22とが変速出力軸20に択一的に連結される。変速入力軸10上における三速入力ギヤ13と四速入力ギヤ14との間には、中速スライダ52が相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。中速スライダ52の作用によって、三速入力ギヤ13と四速入力ギヤ14とが変速入力軸10に択一的に連結される。変速入力軸10上において五速入力ギヤ15よりもエンジンEから遠い箇所には、高速スライダ53が相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。高速スライダ53の作用によって、五速入力ギヤ15が変速入力軸10に連結又は連結解除される。
【0024】
フロアシフト(図示省略)の前進シフト操作に基づきスライダ51~53を変速出力軸20又は変速入力軸10に沿ってスライド移動させることによって、に基づきスライダ51,52,53を変速出力軸20又は変速入力軸10に沿ってスライド移動させることによって、相対回転可能な出力ギヤ21,22又は入力ギヤ13~15が変速出力軸20若しくは変速入力軸10に固定されて、対応する前進変速段ギヤ列G1~G5が動力接続状態になる。
【0025】
具体的には、低速スライダ51がエンジンE側(右側)にスライド移動すると、一速出力ギヤ21が変速出力軸20に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、一速入力ギヤ11、一速出力ギヤ21、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進一速状態で回転駆動する。低速スライダ51がエンジンEから離れる側(左側)にスライド移動すると、二速出力ギヤ22が変速出力軸20に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、二速入力ギヤ12、二速出力ギヤ22、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進二速状態で回転駆動する。
【0026】
中速スライダ52がエンジンE側にスライド移動すると、三速入力ギヤ13が変速入力軸10に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、三速入力ギヤ13、三速出力ギヤ23、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進三速状態で回転駆動する。中速スライダ52がエンジンEから離れる側にスライド移動すると、四速入力ギヤ14が変速入力軸10に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、四速入力ギヤ14、四速出力ギヤ24、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進四速状態で回転駆動する。
【0027】
高速スライダ53がエンジンE側にスライド移動すると、五速入力ギヤ15が変速入力軸10に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、五速入力ギヤ15、五速出力ギヤ25、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進五速状態で回転駆動する。
【0028】
後進ギヤ列GRを構成する後進出力ギヤ27は、低速スライダ51に取り付けられている。フロアシフトの後進シフト操作に基づき後進アイドルギヤ37を後進アイドル軸30に沿ってエンジンEから離れる側にスライド移動させることによって、後進アイドルギヤ37が後進入力ギヤ17と後進出力ギヤ27との双方に噛み合う。その結果、後進ギヤ列GRが動力接続状態になる。すなわち、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、後進入力ギヤ17、後進アイドルギヤ37、後進出力ギヤ27、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が後進状態で回転駆動する。
【0029】
次に、手動変速機1の切換機構3について説明する。
図5~
図8に示すように、変速機ケース4内の切換機構3は、変速入力軸10、変速出力軸20並びに後進アイドル軸30と平行状に延びる低中速操作軸61及び高速後進操作軸62を備えている。低中速操作軸61及び高速後進操作軸62はいずれも、変速機ケース4内に軸方向にスライド可能に支持されている。実施形態では、低中速操作軸61及び高速後進操作軸62の一端側(右端側)が蓋部6の側壁に軸方向にスライド可能に支持され、低中速操作軸61及び高速後進操作軸62の他端側(左端側)が本体部5の内壁に軸方向にスライド可能に支持されている。
【0030】
低中速操作軸61には、低速スライダ51に係合する低速フォーク63と、中速スライダ52に係合する中速フォーク64とが軸方向にスライド可能に被嵌されている。高速後進操作軸62には、高速スライダ53に係合する高速フォーク65と、後進アイドルギヤ37をスライド作動させる後進フォーク66とが固定されている。低中速操作軸61上における低速フォーク63と中速フォーク64との間には、低速フォーク63、中速フォーク64又は後進フォーク66を択一的に選択する選択アーム67と、選択アーム67を低中速操作軸61回りに回動作動させる案内レバー68とが取り付けられている。
【0031】
選択アーム67は、低中速操作軸61に固定されていて、低中速操作軸61と共に回動可能である。案内レバー68は、低中速操作軸61に対して相対的にスライド可能で且つ低中速操作軸61回りに回動可能に被嵌されている。案内レバー68は、低中速操作軸61に沿ったスライド移動が不能になっている。低速フォーク63、中速フォーク64及び後進フォーク66には、選択アーム67の先端側が係合可能な係合片69~71がそれぞれ突設されている。
【0032】
案内レバー68の低中速操作軸61回りの回動作用によって、選択アーム67が共に低中速操作軸61回りに回動して、低速フォーク63の低速係合片69、中速フォーク64の中速係合片70及び後進フォーク66の後進係合片71のうちいずれかに係合する。その結果、低速フォーク63と中速フォーク64と後進フォーク66とが選択アーム67ひいては低中速操作軸61に択一的に連結される。実施形態では、低速フォーク63、中速フォーク64又は後進フォーク66を選択アーム67が択一的に選択した状態では、案内レバー68の作用によって、選択外のフォークが低中速操作軸61や高速後進操作軸62に沿ってスライド移動するのを阻止するように構成されている。
【0033】
低中速操作軸61上において低速フォーク63よりもエンジンE寄りの箇所には、係止溝部73付きのシフトスリーブ72が固定されている。後述するシフトアーム81の回動に連動して、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61が軸方向にスライドするように構成されている。
【0034】
フロアシフトのセレクト操作に基づき案内レバー68を低中速操作軸61回りに回動させると、案内レバー68に連動して選択アーム67が低中速操作軸61回りに回動して、低速フォーク63の低速係合片69、中速フォーク64の中速係合片70又は後進フォーク66の後進係合片71に、選択アーム67が択一的に係合する。その結果、低速フォーク63と中速フォーク64と後進フォーク66とが選択アーム67ひいては低中速操作軸61に択一的に連結される。
【0035】
そして、フロアシフトの前進シフト操作に基づきシフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61を軸方向にスライド移動させると、選択されたフォーク63,64,66に対応したスライダ51~53が変速出力軸20又は変速入力軸10に沿ってスライド移動して、前述の通り、対応する前進変速段ギヤ列G1~G5が動力接続状態になる。
【0036】
フロアシフトを一速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンE側(右側)にスライド移動して、これに伴い低速フォーク63ひいては低速スライダ51がエンジンE側にスライド移動する。その結果、一速出力ギヤ21が変速出力軸20に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進一速状態で回転駆動する。
【0037】
フロアシフトを二速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンEから離れる側(左側)にスライド移動して、これに伴い低速フォーク63ひいては低速スライダ51がエンジンEから離れる側にスライド移動する。その結果、二速出力ギヤ22が変速出力軸20に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進二速状態で回転駆動する。
【0038】
フロアシフトを三速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンE側にスライド移動して、これに伴い中速フォーク64ひいては中速スライダ52がエンジンE側にスライド移動する。その結果、三速入力ギヤ13が変速入力軸10に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進三速状態で回転駆動する。
【0039】
フロアシフトを四速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンEから離れる側にスライド移動して、これに伴い中速フォーク64ひいては中速スライダ52がエンジンEから離れる側にスライド移動する。その結果、四速入力ギヤ14が変速入力軸10に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進四速状態で回転駆動する。
【0040】
フロアシフトを五速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンE側にスライド移動して、これに伴い後進フォーク66に高速後進操作軸62を介して連結した高速スライダ53がエンジンE側にスライド移動する。その結果、五速入力ギヤ15が変速入力軸10に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進五速状態で回転駆動する。
【0041】
この場合、後進フォーク66には、融通アーム74を介して後進アイドルギヤ37を連動連結させている。詳細は省略するが、融通アーム74は、後進フォーク66及び高速後進操作軸62がエンジンEから離れる側にスライド移動するときのみ、後進アイドルギヤ37を後進アイドル軸30に沿ってエンジンEから離れる側にスライド移動させるように構成されている。従って、後進フォーク66及び高速後進操作軸62がエンジンE側にスライド移動する状態では、融通アーム74の作用によって、後進アイドルギヤ37はスライド移動しない。
【0042】
フロアシフトを後進シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンEから離れる側にスライド移動して、これに伴い後進フォーク66がエンジンEから離れる側にスライド移動する。その結果、融通アーム74を介して後進アイドルギヤ37が後進アイドル軸30に沿ってエンジンEから離れる側にスライド移動して、後進アイドルギヤ37が後進入力ギヤ17と後進出力ギヤ27との双方に噛み合い、前述の通り、左右の前車輪が後進状態で回転駆動する。
【0043】
さて、変速機ケース4は、低中速操作軸61をスライドさせるシフト操作をするシフト軸76と、低中速操作軸61を回動させるセレクト操作をするセレクト軸75とを備えている。実施形態では、シフト軸76及びセレクト軸75が低中速操作軸61と交差する方向に延びる縦向きの姿勢で、変速機ケース4の上面に回動可能に支持されている(軸支されている)。この場合、セレクト軸75は本体部5の上面に回動可能に支持されている一方、シフト軸76は蓋部6の左開口部側の上面に回動可能に支持されている。
【0044】
セレクト軸75における本体部5外の突端側には、セレクト軸75を回動操作するセレクト外レバー77が固定されている。シフト軸76における蓋部6外の突端側には、シフト軸76を回動操作するシフト外レバー78が固定されている。セレクト外レバー77とシフト外レバー78とには、リンク機構やワイヤーを含む連係機構(図示省略)を介してフロアシフトに連動連結されている。フロアシフトをセレクト方向に操作することによって、連係機構及びセレクト外レバー77を介してセレクト軸75が回動し、フロアシフトをシフト方向に操作することによって、連係機構及びシフト外レバー78を介してシフト軸76が回動するように構成されている。
【0045】
シフト軸76は、低中速操作軸61と交差する方向から切換機構3に係合するように構成されている。すなわち、シフト軸76における蓋部6内の突端側には、シフトスリーブ72の係止溝部73に係合するシフトアーム81が取り付けられている。シフトアーム81がシフトスリーブ72の係止溝部73に上方から嵌め込まれている。シフトアーム81のシフト軸76回りの回動作用によって、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61が軸方向にスライドするように構成されている。
【0046】
セレクト軸75は、低中速操作軸61の軸方向から切換機構3に係合するように構成されている。すなわち、案内レバー68には、上方向及び低中速操作軸61の軸方向に開放されたU字状の係止凹部79が形成されている一方、セレクト軸75における本体部5内の突端側には、案内レバー68の係止凹部79に係合するセレクトアーム80が取り付けられている。セレクトアーム80は、低中速操作軸61の軸方向、つまり、本体部5の開口方向(本体部5と蓋部6との締結方向、実施形態では左右方向)に沿う姿勢で案内レバー68の係止凹部79に差し込まれている。セレクトアーム80のセレクト軸75回りの回動作用によって、案内レバー68ひいては選択アーム67が低中速操作軸61回りに回動するように構成されている。
【0047】
なお、詳細は省略するが、蓋部6の左開口部内には、シフト軸76をシフト方向の中立位置に保持するシフトデテント機構が設けられている。手動変速機1の組み付け作業時も、シフト軸76をシフト方向の中立位置に保持して、シフトアーム81とシフトスリーブ72の係止溝部73とをスムーズに係合し得るように構成されている。
【0048】
また、本体部5内には、セレクト軸75を完全中立位置に保持するセレクトデテント機構が設けられている。手動変速機1の組み付け作業時も、セレクト軸75を完全中立位置に保持して、セレクトアーム80と案内レバー68の係止凹部79とをスムーズに係合し得るように構成されている。
【0049】
次に、手動変速機1における潤滑構造について、
図10~
図20も参照しながら説明する。
図9に符号LOで示すように、変速機ケース4内の底部にオイル(潤滑油)が貯留されている。変速機ケース4内の上部に樋状のオイルレシーバ100が配置されている。オイルレシーバ100は、リングギヤ8や、一速出力ギヤ21や後進出力ギヤ27などの変速段ギヤの回転で掻き上げられた変速機ケース4内のオイルを一時的に貯留して、変速入力軸19の左端部(一端部)や、変速出力軸20上の出力ギヤ22,23,24,25,27などの潤滑対象部位に案内するための部材である。オイルレシーバ100の詳細については後述する。
【0050】
図4等に示すように、変速入力軸10には、左端部から右向きに延びる入力軸内油路10aと、入力軸内油路10aから半径方向に延び、変速入力軸10における三速~五速入力ギヤ13~15の摺動面に開口する潤滑穴10b~10dが設けられている。変速入力軸10の左端部の左方に、変速機ケース4の左端面に取り付けられ、入力軸内油路10a内に挿入される漏斗状のオイルガイド200が設けられている。なお、変速入力軸10の左右両端部は、軸受31,32を介して、変速機ケース4に回転自在に支持されている。
【0051】
また、変速出力軸20には、右端部(他端部)から左向きに延びる出力軸内油路20aと、出力軸内油路20aから半径方向に延び、変速出力軸20における一速、二速出力ギヤ21,22の摺動面に開口する潤滑穴20b,20cが設けられている。変速出力軸20の右端部の右方に、変速機ケース4の右端面(蓋部6)に取り付けられ、出力軸内油路20a内に挿入される漏斗状オイルガイド300が設けられている。なお、変速出力軸20の左右両端部は、軸受33,34を介して、変速機ケース4に回転自在に支持されている。
【0052】
差動ギヤ機構7は、リングギヤ8と一体回転するデフケース55に収容された差動ギヤ56(ピニオンギヤ及びサイドギヤ)を備えている。デフケース55の左右ボス部は、左側軸受57と右側軸受58を介して変速機ケース4に回転自在に支持されている。差動ギヤ56の左右のサイドギヤには、左車軸35と右車軸36が相対回転不能に連結されている。左右の車軸35,36は変速機ケース4から左右に突出しており、左右の車軸35,36と変速機ケース4との隙間は、左オイルシール59と右オイルシール60で密閉されている。
【0053】
次に、手動変速機1の潤滑構造の概要について説明する。
図9~
図16等に示すように、本実施形態の潤滑構造は、変速機ケース4内に設けた差動ギヤ機構7のリングギヤ8によって掻き上げられたオイルを桶状のオイルレシーバ100で捕集して回転軸としての変速入力軸10の左端部(一端部)へ向けて案内するように構成されている。
図10、
図11、
図13及び
図16において、実線矢印はギヤで掻き上げられたオイル又はオイルレシーバ100から流出するオイルの移動を示し、破線矢印はオイルレシーバ100上でのオイルの移動を示す。
【0054】
オイルレシーバ100は、リングギヤ8が掻き上げたオイルを変速入力軸10の左端部へ向けて案内する主通路としての第1オイル通路110と、第1オイル通路110の中途部から溢れたオイルを差動ギヤ機構7の差動ギヤ56の側方(右側方)に設けた右オイルシール60へ向けて案内する右シール用通路120と、差動ギヤ56にオイルを供給するために右シール用通路120の中途部に設けられた差動ギヤ用供給口130とを備えている。なお、本実施形態では、第1オイル通路110の中途部から溢れたオイルは、貯留部140を介してシール用通路120に導入される。
【0055】
このように、変速機1の潤滑構造によれば、差動ギヤ機構7のリングギヤ8によって掻き上げられたオイルの一部をオイルレシーバ100の第1オイル通路110及び右シール用通路120を通じて右オイルシール60へ供給できるとともに、差動ギヤ用供給口130から差動ギヤ56へ供給できる。これにより、差動ギヤ56及び右オイルシール60の潤滑不足を防止できる。
【0056】
なお、差動ギヤ用供給口130は、右シール用通路120の底部に設けた開口に限定されず、右シール用通路120の側壁121に設けた開口や切欠き部で構成されていてもよい。また、リングギヤ8が掻き上げたオイルが主通路を経て一端部に供給される回転軸は、変速入力軸10に限定されず、変速出力軸20であってもよいし、変速入力軸10及び変速出力軸20の両方であってもよい。
【0057】
図15及び
図16等に示すように、本実施形態の潤滑構造において、オイルレシーバ100は、差動ギヤ用供給口130の周囲に、右シール用通路120の側壁121よりも低い隔壁131を備えている。
【0058】
右シール用通路120を流れるオイルは、オイルレシーバ100の第1オイル通路110から溢れて右シール用通路120に流入するオイル量が多いときは、右オイルシール60に供給されるとともに差動ギヤ用供給口130の周囲の隔壁131を超えて差動ギヤ56にも供給される。一方、右シール用通路120に流入するオイル量が少ないときは、右シール用通路120を流れるオイルは差動ギヤ用供給口130の周囲の隔壁131を超えずに専らオイルシール60に供給される。これにより、オイルレシーバ100上のオイル量が多くなって変速機ケース4内のオイル油面が低下したときに、差動ギヤ機構7などのオイル撹拌抵抗を低減しながら、差動ギヤ用供給口130から差動ギヤ56へオイルを供給して差動ギヤ56の潤滑不足を防止できる。
【0059】
図10及び
図14~
図16等に示すように、オイルレシーバ100は、第1オイル通路110から溢れたオイルを貯留する貯留部140を備え、右シール用通路120には貯留部140から溢れたオイルが供給されるように構成されている。
【0060】
本実施形態の潤滑構造は、第1オイル通路110から溢れたオイルを貯留部140に貯留することで、変速機ケース4内のオイル油面を低下させて差動ギヤ機構7などのオイル撹拌抵抗を低減できるとともに、貯留部140から溢れる程度にオイルレシーバ100上にオイルが貯留されたときには、貯留部140から右シール用通路120にオイルを流入させて、オイルシール60や差動ギヤ56の潤滑不足を防止できる。
【0061】
なお、第1オイル通路110から溢れたオイルを、貯留部140を経ずに右シール用通路120へ直接流入するように構成してもよいし、他の通路を介して右シール用通路120へ流入するように構成してもよい。
【0062】
図10、
図13~
図15及び
図17等に示すように、本実施形態の潤滑構造は、変速機ケース4内に設けた二速出力ギヤ22及び後進出力ギヤ27等のギヤによって掻き上げられたオイルを桶状のオイルレシーバ100で捕集して変速入力軸10の一端部等の被潤滑部へ向けて案内する構造であって、オイルレシーバ100は、捕集したオイルを被潤滑部へ向けて案内する通路150,160,170,180等を有するレシーバ本体101と、レシーバ本体101の上面側に脱落不能に取り付けられるとともに補足したオイルを通路150へ導く傾斜補足面部102aを有する補足部材102とを備えている。
【0063】
このように、レシーバ本体101と、レシーバ本体101とは別体の補足部材102とでオイルレシーバ100を構成することで、補足部材102の傾斜補足面部102aを所望の傾斜角に設定することでギヤが掻き上げるオイルを積極的かつ確実に捕集できる。さらに、レシーバ本体と補足部材とのそれぞれを射出成形でスライド型の使用無しに低コストで形成できる。
【0064】
次に、オイルレシーバ100の構成について説明する。オイルレシーバ100は、合成樹脂製であり、上述のようにレシーバ本体101と補足部材102とで構成されている。
【0065】
図14及び
図15等に示すように、レシーバ本体101は、リングギヤ8の上方から左斜め前向きに延びて変速機ケース4の左内壁部へ向けて延びる第1オイル通路110(主通路)と、第1オイル通路110の下流側端部に連続して設けたオイル供給端部180とを備えている。リングギヤ8の回転で掻き上げられたオイルは、第1オイル通路110の右端部に設けた第1オイル受け部111にて捕集される。
【0066】
第1オイル通路110の底面は、第1オイル受け部111からオイル供給端部180に向かってわずかに斜め下向きに傾斜しており、第1オイル受け部111で捕集されたオイルがオイル供給端部180に向かって流れるように構成されている。
【0067】
第1オイル通路110の右端部寄り部位の前側に、第1オイル通路110から溢れたオイルを貯留する貯留部140が設けられている。第1オイル通路110と貯留部140は側壁112で区画されている。貯留部140の底部にはオイル戻し穴142が設けられており、貯留部140に溜まったオイルは徐々にオイルレシーバ100の下方へ戻されるように構成されている。
【0068】
第1オイル受け部111の前側壁から右側壁に沿って右シール用通路120が設けられている。
図10等に示すように、右シール用通路120は、平面視で、貯留部140の右後ろ角部から第1オイル受け部111に沿って後側へ湾曲し、さらに右側へ延びて、差動ギヤ機構7の差動ギヤ56の上方を通って右側軸受58の上方へ延設されている。
【0069】
図15及び
図16に示すように、貯留部140を囲う側壁のうち、右シール用通路120との間の側壁141は、他の側壁部分に比べて高さが低く形成されており、貯留部140に一定量以上のオイルが溜まると、優先的に右シール用通路120へオイルが流れるように構成されている。
【0070】
第1オイル受け部111の前部と右シール用通路120とを区画する側壁113は、第1オイル通路110の側壁112よりも高く形成されており、リングギヤ8が掻き上げるオイルを第1オイル受け部111に効率よく捕集するように構成されるとともに、リングギヤ8が掻き上げるオイルや第1オイル通路110から溢れるオイルが右シール用通路120へ直接流入しないように構成されている。
【0071】
図10及び
図11に示すように、貯留部140から右シール用通路120へ流入したオイルは、右シール用通路120の右端部で側壁121に設けた切欠き状の右シール用供給口122から変速機ケース4(蓋部6)の内壁6a(
図11参照)を伝って右側軸受58及び右オイルシール60へ供給される。
【0072】
右シール用通路120底部の中途部には、上下方向に開口する差動ギヤ用供給口130が設けられている。差動ギヤ用供給口130は差動ギヤ機構7の差動ギヤ56の上方に位置している。差動ギヤ用供給口130の周囲には、右シール用通路120の側壁121よりも低い隔壁131が設けられている。これにより、右シール用通路120を流れるオイルは、右シール用通路120に流入するオイル量が少ないときには差動ギヤ用供給口130の周囲の隔壁131を超えずに専らオイルシール60に供給される一方、右シール用通路120に流入するオイル量が多いときは右オイルシール60に供給されるとともに差動ギヤ用供給口130の周囲の隔壁131を超えて差動ギヤ56にも供給される。
【0073】
図14~
図16等に示すように、第1オイル通路110の後側で第1オイル受け部111の左側の位置に、第1オイル通路110から溢れたオイルが流れ込む箱型の左シール用供給部145が設けられている。左シール用供給部145の底部にはオイル滴下穴145aが設けられている。
図10及び
図11に示すように、オイル滴下穴145aから流出するオイルは、変速機ケース4の本体部5の内壁5aを伝って左側軸受57及び左オイルシール59に供給されるように構成されている。
【0074】
図10及び
図14等に示すように、貯留部140の前方に、貯留部140に沿って左向きに延びる第2オイル通路190が設けられている。第2オイル通路190の右端部は、一速出力ギヤ21の回転で掻き上げられたオイルを捕集する第2オイル受け部191を構成している。第2オイル通路190の右端部寄り部位と貯留部140との間の側壁192は、上端部が変速機ケース4の内壁上面の近傍に位置するように高く形成されており、一速出力ギヤ21が掻き上げたオイルを第2オイル受け部191に効率よく捕集可能に構成されている。
【0075】
図10、
図11、
図14、
図15等に示すように、第2オイル通路190の中途部には、箱型の後進用供給部193と二速及び三速用供給部194が連設されている。後進用供給部193の底部に設けたオイル滴下穴193aは後進出力ギヤ27上に位置し、二速及び三速用供給部194の底部に設けたオイル滴下穴194a,194bは二速出力ギヤ22上と三速出力ギヤ23に位置している。
【0076】
第2オイル通路190と供給部193,194との間の隔壁は、第2オイル通路190の側壁よりも低い寸法で形成されており、第2オイル通路190を流れるオイル量が一定量を超えたときに、供給部193,194に第2オイル通路190からオイルが流入して、オイル滴下穴193a,194a,194bから出力ギヤ27,22,23へオイルが滴下するように構成されている。
【0077】
図10~
図15等に示すように、第2オイル通路190の前方に、第3オイル通路150が第2オイル通路190とは間隔を空けて設けられている。
図12等に示すように、第3オイル通路150は、出力ギヤ22,23,27の上方で左右方向に延設されており、第2オイル通路190よりも高い位置に設けられている。第3オイル通路150の右寄り部位は、二速出力ギヤ22及び後進出力ギヤ27が掻き上げたオイルを捕集する第3オイル受け部151を構成している。
【0078】
第3オイル通路150には、第3オイル受け部151の上方を覆うようにして、レシーバ本体101とは別体の補足部材102が連結されている。補足部材102の詳細については後述する。
【0079】
第2オイル通路190の中途部と第3オイル通路150の中途部は上向き開口のコ字形の連結部199で連結されている。レシーバ本体101には、第2オイル通路190と第3オイル通路150と連結部199と後述する中間オイル通路160とで囲われた開口部198が設けられている。
図6、
図7及び
図12等に示すように、開口部198に、上述のセレクトアーム80がセレクト軸75回りに回動可能に配置される。
【0080】
第3オイル通路150の左端部(オイル流れ方向の下流側端部)は、底部が凹状の中間オイル通路160に接続している。中間オイル通路160は、前側から順に、第3オイル通路150の左端部からオイル供給端部180の近傍まで左向きに延びる前高後低姿勢の前側傾斜部161と、前側傾斜部161の右端寄り部位に隣接する前高後低姿勢の中央傾斜部162と、中央傾斜部162に隣接する前低後高姿勢の後側傾斜部163を有する。後側傾斜部163は、第2オイル通路190の左端部に隣接しており、後側傾斜部163と第2オイル通路190との間には隔壁164が立設されている。
図10に示すように、中間オイル通路160の前側傾斜部161は、四速出力ギヤ24や五速出力ギヤ25が掻き上げたオイルを捕集するオイル受け部を構成している。
【0081】
中間オイル通路160のV字状の底部をなす傾斜部162,163の左端部は、第2オイル通路190の左端部と合流し、より深い略V字溝状の合流オイル通路170に繋がっている。合流オイル通路170は、中間オイル通路160の後側傾斜部163及び第2オイル通路190の左端部と同じ傾斜角度で前低後高姿勢に傾斜している。合流オイル通路170と中間オイル通路160の中央傾斜部162との間は左低右高姿勢の傾斜部171にて連続している。合流オイル通路170の左端部は、オイル供給端部180に繋がっている。
【0082】
中間オイル通路160の前側傾斜部161の中途部には、箱型の四速及び五速用供給部165が連設されている。四速及び五速用供給部165の底部に設けたオイル滴下穴165a、165bは四速出力ギヤ24上と五速出力ギヤ25に位置している。
【0083】
前側傾斜部161と四速及び五速用供給部165との間には隔壁166が設けられ、合流オイル通路170と四速及び五速用供給部165との間には隔壁172が設けられている。四速及び五速用供給部165には、合流オイル通路170に溜まったオイル量が一定量を超えたときにオイルが隔壁172上を通って流入して、オイル滴下穴165a,165bから出力ギヤ24,25へオイルが滴下するように構成されている。
【0084】
オイル供給端部180は、略V字溝状に形成され、第1オイル通路110及び合流オイル通路170の左端部(オイル流れの下流側端部)に接続されている。オイル供給端部180の左前端部は、前低後高姿勢のノズル状に形成された入力軸心用供給口181を構成している。
【0085】
図12及び
図20に示すように、変速機ケース4の本体部5の左側面内壁5bには、レシーバ本体101の左端部(オイル供給端部180)が挿入される右向き開口の略コ字形のレシーバ支持溝5cが設けられている。レシーバ支持溝5cは前低後高姿勢に設けられ、変速入力軸10の左端部を支持する軸受31を収容する円筒状の軸受支持部5dに繋がっている。
【0086】
詳細は後述するが、軸受支持部5dの底部(左側面部)には、オイルガイド200を支持する段差部からなるオイルガイド保持部5eと、オイルガイド200と変速機ケース4内壁との間にオイルを貯留可能なオイル貯留部5fが設けられている。オイル供給端部180の入力軸心用供給口181から流出するオイルは、オイル貯留部5fに供給されるように構成されている。
【0087】
図5~
図7に示すように、オイルレシーバ100は、変速機ケース4の本体部5に支持されている。より具体的には、
図12、
図14及び
図15等に示すように、レシーバ本体101の左シール用供給部145の左側面部に左向きに突設した取付突起部104が本体部5の内壁ボス部に設けた取付穴5g(
図14参照)に右側から圧入され、第3オイル通路150の後側の側壁151a後面に突設した左向きL字状の取付突起部105が本体部5の内壁ボス部(セレクト軸75を挿通する上下方向貫通孔を有するボス部)に設けた取付穴5h(
図12及び
図14参照)に右側から挿入され、オイル供給端部180が本体部5の左側面内壁5bに設けたレシーバ支持溝5cに挿入される。
【0088】
次に、オイルレシーバ100の補足部材102について説明する。
図10~
図15及び
図17等に示すように、補足部材102は、後端部がレシーバ本体101の第3オイル受け部151の後側の側壁151aに連結され、第3オイル受け部151よりも前向きに突出して設けられている。補足部材102は、前高後低姿勢の後側の傾斜補足面部102aと、傾斜補足面部102aの前端部に連続する前低後高姿勢の前側のオイル阻止部102bとを備え、側面視で上向き凸形の略へ字状の形態を有する。
【0089】
図10及び
図13に示すように、補足部材102の傾斜補足面部102aは、第3オイル受け部151の上方を覆うとともに、第3オイル受け部151よりも前側で出力ギヤ22,27の上方に配置されている。出力ギヤ22,27によって掻き上げられたオイルは、傾斜補足面部102aの下面に補足され、傾斜補足面部102aの下面を伝って第3オイル受け部151に捕集される。これにより、出力ギヤ22,27等が掻き上げるオイルを積極的かつ確実に捕集できる。
【0090】
補足部材102のオイル阻止部102bは、傾斜補足面部102aの前部から前斜め下向きに延設されている。オイル阻止部102bの右縁部は、傾斜補足面部102aの右縁部よりも右側へ突出して、後述するブリーザ室カバー部材401の近傍に配置されている。
【0091】
図17等を参照しながら、補足部材102のレシーバ本体101への取付構造を説明する。補足部材102後部の左右3箇所に後向きに突設した係合部102cを、レシーバ本体101における第3オイル受け部151の後側の側壁151aに設けた左右3箇所の挿通穴151cに前斜め上側から挿入する。
【0092】
補足部材102の前部を下向き回動させ、補足部材102の係合部102cに設けた上下方向に開口する係合穴102dをレシーバ本体101の挿通穴151c上部に設けた下向き凸状の係合突起151dに係合する。これにより、補足部材102のレシーバ本体101に対する上下左右方向の移動が制限される。
【0093】
また、第3オイル受け部151の前側の側壁151bの右端部に上向きに突設した係合爪151eを補足部材102の右側部(傾斜補足面部102aの右側部)に設けた係合切欠き部102eに下側から挿入し、係合爪151e先端部を後向きに弾性変形させながら傾斜補足面部102a上面に突出させることで、係合爪151eの前向き爪部が係合切欠き部102e前方の傾斜補足面部102a上面に係合する。これにより、レシーバ本体101に取り付けた補足部材102前部の上向き回動が禁止される。
【0094】
そして、係合爪151eの左側に設けた支持段差部151fに傾斜補足面部102aの右縁部下面が接触する一方、傾斜補足面部102aの左縁部に対向するように第3オイル通路150に立設した支持突起部151g上端が傾斜補足面部102aの左縁部に接触することで、補足部材102前部の下向き回動が制限される。また、補足部材102後縁部の下面から下垂した左右方向に延びる下向きリブ部102fが第3オイル受け部151の後側の側壁151aの前向き面に隣接配置されることでも、補足部材102前部の下向き回動が制限されるように構成されている。
【0095】
このように、工具を使用せずに、かつ簡単な工程で、補足部材102をレシーバ本体101に装着できる。なお、係合爪151eの先端部を後向きに変位させて係合爪151eの前向き爪部を係合切欠き部102eの上方に位置させた状態で補足部材102の前部を上向き回動させることで、補足部材102をレシーバ本体101から取り外すことも可能である。
【0096】
図10、
図13及び
図18等に示すように、補足部材102の前部に設けた前低後高姿勢のオイル阻止部102bの右縁部は、傾斜補足面部102aの右縁部よりも右側へ突出して、ブリーザ室カバー部材401の近傍に配置されている。
【0097】
手動変速機1には、変速機ケース4内外を連通するブリーザ機構400が設けられている。ブリーザ機構400は、変速機ケース4の蓋部6の内壁面6iに設けた凹状のブリーザ室6bと、ブリーザ室6b周囲の内壁面6iに設けた凸条のリブ部6cに取り付けたブリーザ室カバー部材401と、ブリーザ室6bと変速機ケース4外部とを連通する通気孔6dと、変速機ケース4外部から通気孔6dに取り付けたブリーザプラグ402とを備える。
【0098】
ブリーザ室6bは、蓋部6の左向き内壁面6iの上部前寄り部位に設けられ、高速後進操作軸62を支持する支持孔6gの上方に配置されている。リブ部6cは、ブリーザ室6bの開口縁部を囲っている一方、ブリーザ室6bの開口縁部の一部(下部前寄り部位)を開放する通気部6eを有している。ここでは、ブリーザ室6b下側のリブ部6cは、高速後進操作軸62の右端部を摺動自在に支持する支持孔6gの周囲に設けたボス部、及びブリーザ室カバー部材401を蓋部6に取り付けるためのボルト403が捩じ込まれるねじ穴6hの周囲に設けたボス部で構成されている。
【0099】
通気孔6dはブリーザ室6bの上面から上向きに変速機ケース4(蓋部6)の上面まで貫通して設けられている。ブリーザプラグ402は、変速機ケース4の内圧を調整可能に構成されており、通気孔6d上部を塞ぐようにして変速機ケース4の上面に取り付けられている。
【0100】
ブリーザ室カバー部材401は、金属製であり、ブリーザ室6b及び通気部6eを左側から覆う平板部を有し、リブ部6cに当接するようにして上下2箇所のボルト403,404で蓋部6の内壁面6iに固定される。また、蓋部6の内壁面6iには、ボルト403が捩じ込まれるねじ穴6h周囲のボス部から下向きに延びる下向きリブ部6fが設けられており、ブリーザ室カバー部材401の右側面が下向きリブ部6fに当接することで、出力ギヤ21、27等が掻き上げたオイルが通気部6eに到達しないように構成されている。なお、ブリーザ室カバー部材401は、後進アイドルギヤ37をスライド移動させる融通アーム74(
図6参照)を回動自在に支持する部材を兼ねている。
【0101】
ブリーザ室カバー部材401には、ブリーザ室6bに対向する位置に、左右方向に貫通する貫通孔401aが設けられている。ブリーザ室6bは、貫通孔401aと通気部6eの2箇所で変速機ケース4内に通じている。通気部6eに対してオイル侵入環境が異なる貫通孔401aを設けることで、手動変速機1の温度上昇によって変速機ケース4内圧が上昇してブリーザプラグ402から変速機ケース4内の空気が外部へ放出される際に、通気部6eからのオイルの吸い上げ現象を抑制でき、ひいてはブリーザプラグ402からのオイル噴出を防止できる。
【0102】
図9、
図10、
図13及び
図18に示すように、オイルレシーバ100の補足部材102(オイル阻止部102b)の右端部は、ブリーザ室カバー部材401に近接配置され、かつ貫通孔401a下方に位置するように設けられる。オイル阻止部102bは、出力ギヤ21,27等で掻き上げられたオイルが貫通孔401aへ直接向かうのを阻止する。これにより、出力ギヤ21,27等で掻き上げられたオイルが貫通孔401aへ直接侵入したり、貫通孔401a周囲のブリーザ室カバー部材401表面に大量のオイルが付着して貫通孔401aを塞ぐのを防止できる。そして、貫通孔401aを介してのブリーザ室6bへのオイルの侵入を抑制でき、ひいてはブリーザプラグ402からのオイル噴出を防止できる。
【0103】
【0104】
本実施形態の潤滑構造は、変速機ケース4内に設けた回転軸としての変速入力軸10の端面に開口する入力軸内油路10aに漏斗状のオイルガイド200を介してオイルを案内する。オイルガイド200は、変速機ケース4のオイルガイド保持部5eに周縁部が保持される基部201と、基部201の一表面201aに突設されて入力軸内油路10aに挿入される筒部202と、基部201の周縁部に突設した爪部203とを備えている。オイルガイド保持部5eは、オイルガイド200の基部201の周縁部を囲う内壁面5iに爪部203が係合する係合溝5jを備えている。
【0105】
このような態様によれば、変速機ケース4へのオイルガイド200の取付け工程に関して、溶接や圧入などではなく、オイルガイド200をオイルガイド保持部5eに嵌め込んで爪部203と係合溝5jとを係合させるという簡単な操作でオイルガイド200を変速機ケース4に装着できる。これにより、オイルガイド200の取付けに要する時間を短縮化して生産性を向上できるとともに、オイルガイド200の取付けに関して溶接機やプレス機を必要としないので製造コストを低減できる。
【0106】
図19及び
図20に示すように、オイルガイド200は、樹脂製であり、爪部203よりも基部201の中央側の位置で基部201の周縁部に設けた開口部204を備え、爪部203と開口部204との間の基部201の部位が撓み変形することで爪部203が基部201の中央側へ変位可能に構成されている。
【0107】
このような態様によれば、オイルガイド200を樹脂製にすることで軽量化を実現できるとともに、オイルガイド200を射出成形品とすることで板金絞り加工を必要としないので生産性を向上できる。
【0108】
図19及び
図20に示すように、オイルガイド保持部5eは、オイルガイド200の基部201における一表面201aとは反対側の裏面(ここでは裏面201b周縁部に設けたリブ部201cのリブ裏面201d)が当接する段差部5kを備え、オイルガイド200の爪部203とオイルガイド保持部5eの係合溝5jは、段差部5kに基部201のリブ裏面201dが当接した状態で係合する位置に設けられている。
【0109】
このような態様によれば、オイルガイド200をオイルガイド保持部5eに取り付ける際に、オイルガイド200のリブ裏面201dが段差部5kに当接するまでオイルガイド200を押し込むという簡単な操作でオイルガイド200を容易に所定位置に取り付けることができ、オイルガイド200の取付けの確実性及び取付時間の短縮化による生産性の向上を実現できる。
【0110】
なお、オイルガイド200の基部201は、裏面201bにリブ部201cが形成されていない構成であってもよい。この場合、爪部203は基部201の外周面に周方向外向きに突設される。また、本実施形態では、後述するように3つの爪部203が設けられているが、爪部203の個数は特に限定されない。
【0111】
図19及び
図20に示すように、オイルガイド保持部5eの係合溝5jは、段差部5kの隅部で内壁面5iに設けたアンダーカット溝で構成されている。
【0112】
このような態様によれば、凹部の隅部に対して実施されるアンダーカット加工処理で形成されるアンダーカット溝を利用するので、製造コストの上昇を抑制しながらオイルガイド200をオイルガイド保持部5eに保持できる。
【0113】
なお、オイルガイド保持部5eの係合溝5jは、アンダーカット溝で形成されたものに限定されず、例えば内壁面5iの軸方向中途部に設けられた溝で構成されてもよい。
【0114】
次に、オイルガイド200及びオイルガイド保持部5eの構成について説明する。
図19等に示すように、樹脂成形品のオイルガイド200は、略円形平板状の基部201と、基部201の一表面201aの中央部に立設された略円筒形の筒部202とを備える。基部201の中央部には筒部202に連通する穴が設けられており、オイルが基部201の裏面201b側から筒部202内部を通って筒部202の外部へ流通可能に構成されている。筒部202の外径は、変速入力軸10の入力軸内油路10aの内径よりも小さく設けられ、筒部202を入力軸内油路10aに挿入可能に構成されている。
【0115】
基部201の直径は、変速出力軸20の左端部を支持する軸受31の外径よりも小さく設定されている。軸受31は、変速機ケース4の本体部5の左側面内壁5bに設けた略円柱形凹状の軸受支持部5dに支持される。オイルガイド200の基部201は、軸受支持部5dの底部に軸受支持部5dよりも小径に設けた略円柱形凹状のオイルガイド保持部5eに保持される。なお、軸受31は、例えば、側面に金属製シールド又はゴム製シールが装着されたシールド形・シール形玉軸受で構成されている。
【0116】
基部201は、その裏面201bの周縁部に、一表面201aとは反対向きに突出する凸条のリブ部201cを備えている。リブ部201cは、基部201の周縁部に沿って設けられ、円形に対して一部が切り欠かれたC字形に設けられている。
【0117】
リブ部201cの外周面(基部201の周縁部)の3箇所に、基部201の径方向外向きに突出する爪部203が設けられている。3つの爪部203は、基部201の周縁部に沿って等間隔に配置されおり、1つの爪部203は基部201の中央部を挟んでリブ部201cが切り欠かれた位置に対向する位置に設けられている。
【0118】
図19(C)に示すように、3つの爪部203は、リブ部201c外周面においてリブ裏面201dに近接して設けられており、リブ裏面201d側ほど基部201の径方向内側に位置するように傾斜した傾斜部203aを備えている。
【0119】
リブ部201cは、爪部203の近傍部分が他の部分よりも幅広に形成されており、当該幅広部分に、爪部203とは間隔をあけて爪部203よりも基部201の中央側の位置に設けた開口部204が形成されており。開口部204は、基部201の一表面201aからリブ裏面201dにわたって貫通して設けられており、爪部203と開口部204との間の基部201の部位(リブ部201c)が撓み変形することで爪部203が基部201の中央側へ変位可能に構成されている。
【0120】
基部201には、リブ部201cが切り欠かれた位置から径方向外側へ突設された舌部205が設けられている。舌部205は、基部201の周縁部から径方向外側へ延びた後、筒部202の突出方向と平行な方向へ屈曲され、さらに径方向外側へ屈曲された側方視クランク状の形態を有する。
【0121】
図12及び
図20(B)に示すように、オイルガイド200は、変速機ケース4の本体部5にオイルレシーバ100が取り付けられてオイルレシーバ100のオイル供給端部180が本体部5のレシーバ支持溝5cに係合された状態で、
図12及び
図20(A)に示すように、舌部205をレシーバ支持溝5c内に位置させるようにしてオイルガイド保持部5eに取り付けられる。
【0122】
オイルガイド200の舌部205は、レシーバ支持溝5c内でオイルレシーバ100の入力軸心用供給口181を右側から覆うように設けられる。これにより、入力軸心用供給口181から流出するオイルが、舌部205と本体部5内壁との間を通ってリブ部201cの切欠き部からオイル貯留部5fへ効率良く且つ確実に流入するように構成されている。オイル貯留部5fに供給されたオイルは、オイルガイド200の筒部202を通って変速入力軸10の入力軸内油路10aに供給される。
【0123】
図19(C)に示すように、変速機ケース4の本体部5のオイルガイド保持部5eは、オイルガイド200の基部201の周縁部(リブ部201cの外周面)を囲う内壁面5iと、リブ部201cのリブ裏面201dが当接する段差部5kと、オイルガイド200の爪部203が係合する係合溝5jを備えている。内壁面5iの内径は、オイルガイド200のリブ部201c外径よりもわずかに大きく、かつ、基部201の中心と同心で爪部203の先端を通る仮想円よりも小さい寸法に設けられている。
【0124】
オイルガイド200のオイルガイド保持部5eへの装着時には、舌部205をレシーバ支持溝5cに位置合わせしてオイルガイド200を段差部5kへ向けて押し込むことで、爪部203の傾斜部203aがオイルガイド保持部5eの開口角部(内壁面5iの軸受支持部5d側の端部)に当接し、オイルガイド200を段差部5k側へ移動させるにしたがって傾斜部203aに沿って爪部203が径方向内側へ変位する。オイルガイド200をリブ裏面201dが段差部5kに当接するまでさらに押し込む。爪部203は、係合溝5jに到達し、開口部204外側の基部201部位(リブ部201c部位)の弾性力で径方向外向きに変位して係合溝5jに係合する。このように、オイルガイド200を簡単かつ短時間でオイルガイド保持部5eに装着できる。
【0125】
手動変速機1の組み立て作業時において、本体部5と蓋部6とを連結するより前に、
図6及び
図7等に示すように、本体部5にセレクト軸75、セレクト外レバー77、セレクトアーム80、オイルレシーバ100及びオイルガイド200を組み付け、蓋部6に変速ギヤ機構2及び切換機構3などを組み付ける。そして、本体部5と蓋部6とを連結すれば、
図20(A)等に示すように、本体部5の軸受支持部5dに軸受31が嵌め込まれ、軸受31によって(本実施形態では軸受31の外輪の左側に設けた円環状のスペーサ部材39によって)、オイルガイド200の右側への移動が規制される。
【0126】
また、オイルガイド200の筒部202の先端部は、軸受支持部5dの開口縁部(蓋部6側の縁部)よりも軸受支持部5d底部側(オイルガイド保持部5e側)に位置しているので、軸受31の軸受支持部5dへの嵌め込みに際して、軸受31が筒部202先端部に接触することはなく、筒部202の損傷を防止できる。
【0127】
なお、本発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。例えば実施形態の手動変速機1は前輪駆動式のものに採用されているが、これに限らず、後輪駆動式のものに採用してもよいし、四輪駆動式のものに採用することも可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 手動変速機(変速機の一例)
4 変速機ケース
5e オイルガイド保持部
5i 内壁面
5j 係合溝
5k 段差部
10 変速入力軸(回転軸の一例)
200 オイルガイド
201 基部
201a 一表面
201d リブ裏面(基部の裏面)
202 筒部
203 爪部
204 開口部