(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】コンクリートの発熱特性試験装置及び発熱特性試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20230623BHJP
G01N 25/48 20060101ALI20230623BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
G01N25/20 Z
G01N25/48
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2019236085
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】樋口 正典
(72)【発明者】
【氏名】臺 哲義
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-329719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/166417(US,A1)
【文献】特開昭62-15447(JP,A)
【文献】特開2017-173182(JP,A)
【文献】特開2000-292387(JP,A)
【文献】特表2000-501764(JP,A)
【文献】米国特許第5637646(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートが充填された充填容器が設置される内部空間を備えた保温容器と、
前記内部空間の、前記保温容器の側壁と前記充填容器の設置領域との間に周状且つ面状に配置された発熱体と、
前記発熱体を制御する制御手段と、
前記充填容器の内部に配置される第1の温度計と、
前記充填容器と前記発熱体との間に配置される第2の温度計と、を有し、
前記制御手段は前記第1の温度計で計測された第1の温度T1と前記第2の温度計で計測された第2の温度T2の温度差T2-T1を求め、前記温度差が正となるように前記発熱体を制御する、コンクリートの発熱特性試験装置。
【請求項2】
前記発熱特性試験装置は前記コンクリートを冷却する手段を備えておらず、前記温度差は前記発熱体だけで制御される、請求項1に記載のコンクリートの発熱特性試験装置。
【請求項3】
前記制御手段は前記温度差が0.5~1.5度程度となるように前記発熱体を制御する、請求項1または2に記載のコンクリートの発熱特性試験装置。
【請求項4】
前記充填容器の外面に配置される熱流センサを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のコンクリートの発熱特性試験装置。
【請求項5】
前記保温容器は外側容器と前記外側容器に収容された内側容器とを有し、前記外側容器は前記内側容器より比重が小さく、前記内側容器は前記外側容器より耐熱性が高い、請求項1から4のいずれか1項に記載のコンクリートの発熱特性試験装置。
【請求項6】
コンクリートが充填された充填容器を、発熱体を備える試験容器に設置することと、
前記コンクリートの発熱の際に、制御手段によって前記発熱体を制御することと、を有し、
前記充填容器は、前記試験容器が有する保温容器の内部空間に設置され、前記発熱体は前記保温容器の側壁と前記充填容器の設置領域との間に周状且つ面状に配置され、
前記充填容器の内部の第1の位置と、前記充填容器と前記発熱体との間の第2の位置とで温度が計測され、前記制御装置は前記第1の位置で測定された第1の温度T1と前記第2の位置で計測された第2の温度T2の温度差T2-T1を求め、前記温度差が正となるように前記発熱体を制御する、コンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項7】
前記試験容器は前記内部空間を冷却する手段を備えておらず、前記温度差は前記発熱体だけで制御される、請求項6に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項8】
前記制御手段は前記温度差が0.5~1.5度程度となるように前記発熱体を制御する、請求項6または7に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項9】
前記充填容器の外面に配置された熱流センサによって、前記充填容器に入る熱流密度を計測することと、
前記第1の温度T1の変化量に基づき前記充填容器に充填されたコンクリートの概略発熱量を求めることと、
前記熱流センサで計測された熱流密度に基づき前記充填容器への給熱量を求めることと、
前記概略発熱量から前記給熱量を減ずることによってコンクリートの発熱量を算出することと、を有する、請求項6から8のいずれか1項に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートの発熱特性試験装置及び発熱特性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マスコンクリート構造物の施工においては、セメントの水和発熱に起因する温度ひび割れに対して、温度応力解析による事前照査が行われる。温度応力解析ではコンクリートの発熱速度が入力データとして使用される。土木学会コンクリート標準示方書(2012年制定)によれば、「コンクリートの温度解析に使用するコンクリートの発熱速度は、材齢と、場所ごとに異なるコンクリート温度を考慮してモデル化することを原則とする」とされている。このため、発熱速度は温度の関数として求められ、この関数は温度依存型水和発熱速度式とも呼ばれる。温度依存型水和発熱速度式を算出するために、コンクリートの断熱温度上昇試験が行われる。この試験は、一般的には加熱手段と冷却手段とを備えた試験装置を用いて行われる。コンクリートを充填した容器を試験装置に設置し、コンクリートの温度制御を行いながら、コンクリートの温度変化を測定する。試験装置内の温度をコンクリートの温度と等しくなるように制御することで断熱条件が満たされる。しかし、試験装置は比較的大型のものとなり、研究施設等への設置が前提となっている。
【0003】
特許文献1には、比較的簡易な構成の装置を用いてコンクリートの断熱温度上昇量を推定する方法が開示されている。発泡スチロールからなる断熱容器の中に試験体を設置し、コンクリートの発熱による試験体の温度変化を測定する。次に、コンクリートの単位時間当たりの断熱温度上昇量を複数通り設定し、温度解析モデルにより試験体の温度変化を解析する。解析では断熱容器からの放熱量などが考慮される。最も測定値に近い解析結果を与える断熱温度上昇量が試験体の断熱温度上昇量と推定される。試験体の発熱量は断熱温度上昇量に試験体の熱容量を乗ずることによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法は簡易な構成の断熱容器を用いるため、試験のコストが抑えられる。一方、コンクリートの発熱速度はコンクリートの温度が高いほど大きいことから、コンクリート温度が放熱によって低下すると積算発熱量が減少する。特許文献1に記載された方法は放熱を許容するため、コンクリートの発熱量を少なく評価する可能性がある。
本発明は、簡易な装置で放熱を抑え、コンクリートの発熱特性を安全側に評価することができるコンクリートの発熱特性試験装置及び発熱特性試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコンクリートの発熱特性試験装置は、コンクリートが充填された充填容器が設置される内部空間を備えた保温容器と、内部空間の、保温容器の側壁と充填容器の設置領域との間に周状且つ面状に配置された発熱体と、発熱体を制御する制御手段と、充填容器の内部に配置される第1の温度計と、充填容器と発熱体との間に配置される第2の温度計と、を有している。制御手段は第1の温度計で計測された第1の温度T1と第2の温度計で計測された第2の温度T2の温度差T2-T1を求め、温度差が正となるように発熱体を制御する。
【0007】
本発明のコンクリートの発熱特性試験方法は、コンクリートが充填された充填容器を、発熱体を備える試験容器に設置することと、コンクリートの発熱の際に、制御手段によって発熱体を制御することと、を有している。充填容器は、試験容器が有する保温容器の内部空間に設置され、発熱体は保温容器の側壁と充填容器の設置領域との間に周状且つ面状に配置される。充填容器の内部の第1の位置と、充填容器と発熱体との間の第2の位置とで温度が計測される。制御装置は第1の位置で測定された第1の温度T1と第2の位置で計測された第2の温度T2の温度差T2-T1を求め、温度差が正となるように発熱体を制御する。
【発明の効果】
【0008】
発熱体は、充填容器の内部で計測された温度T1と、充填容器の外部で計測された温度T2がT2>T1の関係を満たすように制御される。すなわち発熱体は、充填容器からのコンクリートの放熱を許容しないように制御される。このため、コンクリートの発熱特性を安全側に評価することが可能である。よって、本発明によれば、簡易な装置で放熱を抑え、コンクリートの発熱特性を安全側に評価することができるコンクリートの発熱特性試験装置及び発熱特性試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコンクリートの発熱特性試験装置の概略構成図である。
【
図3】シートヒータとその支持胴の分解斜視図である。
【
図4】コンクリートの充填容器とその据え付け冶具の分解斜視図である。
【
図5】発熱特性試験装置の計測制御系の概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。本発明はあらゆるコンクリートに適用できるが、マスコンクリート構造物、特にコンクリート標準示方書にて温度ひび割れに対する温度応力解析が要求されるマスコンクリート構造物に使用されるコンクリートに好適に適用できる。
【0011】
図1は、コンクリートの発熱特性試験装置1の概略構成図である。発熱特性試験装置1は試験容器2を有している。試験容器2は内部空間31を備えた保温容器3と、内部空間31に設置されたシートヒータ4と、を有している。内部空間31にはコンクリートが充填された充填容器5が設置される。
【0012】
図2に、保温容器3の分解斜視図を示す。保温容器3は外側容器6と外側容器6に収容された内側容器7とを有している。外側容器6と内側容器7は、充填容器5より熱伝達率が低い材料で形成されている。外側容器6は容器本体61と上蓋62とからなる中空の容器である。容器本体61は円筒形の内部空間と底板とを有する円筒形の部材であり、上部に円形の開口63が設けられている。上蓋62は開口63に嵌められる円板状の部材である。
【0013】
内側容器7は胴部71と上蓋72と底板73とからなる中空の容器である。胴部71と上蓋72と底板73は保温容器3の外側容器6の内径と略同じ外径を有し、外側容器6にほぼ隙間なく挿入される。胴部71と上蓋72と底板73はほぼ密閉された内部空間31を形成する。内部空間31は充填容器5の設置される空間を形成する。外側容器6と内側容器7を設けることで、保温容器3の断熱性能を高めることができる。内側容器7はその内壁がシートヒータ4と接することから、高い耐熱性を有している。外側容器6は内側容器7と同程度の耐熱性能は不要であるが、内側容器7よりも体積が大きいため、軽量であることが好ましい。外側容器6を軽量化することで、試験容器2の重量を抑え、機動性を高めることができる。すなわち、外側容器6は内側容器7より比重が小さく、内側容器7は外側容器6より耐熱性が高いことが望ましい。本実施形態では、外側容器6は発泡スチロールで、内側容器7はアルカリアースシリケート(AES)ウールで形成されている。発泡スチロールの耐熱温度は80℃程度であり、シートヒータ4の表面温度は最大150℃程度まで上昇する可能性がある。AESウールの耐熱温度は1300℃程度である。外側容器6とシートヒータ4との間に内側容器7を配置することで、外側容器6を保護することができる。内側容器7は、グラスウール、ロックウール、ウレタンなどで形成することもできる。
【0014】
図3に、シートヒータ4とその支持胴8の分解斜視図を示す。シートヒータ4にはリード線41と温度計42が埋め込まれている。温度計42としてはT型熱電対が使用される。支持胴8はステンレス鋼からなる円筒形の部材であり、円筒形の胴部81と、胴部81に接続された円形の底板82と、を有している。シートヒータ4は胴部81の外周面に巻き付けられる。底板82は充填容器5を設置するためのベースとして用いられる。シートヒータ4は展開時に概ね長方形の面状発熱体であり、その一方の短辺にスプリング44を介してループ状の留め具43が設けられ、他方の短辺に留め具43と係合するフック45が設けられている。スプリング44を引っ張りながら胴部81に巻き付け、留め具43をフック45に係合させることで、シートヒータ4を支持胴8に固定することができる。支持胴8に固定されたシートヒータ4は内側容器7の内部空間31に設置される。シートヒータ4は保温容器3によって形成される内部空間31の、内側容器7の内面と充填容器5の設置領域との間に周状に配置される。シートヒータ4は内側容器7の内面と密着しているが、多少の隙間が設けられていてもよい。
【0015】
なお、シートヒータ4は保温容器3の側壁と充填容器5の設置領域との間に周状且つ面状に配置された発熱体の一例であり、コンクリートを加熱できる限りあらゆる種類の発熱体を用いることができる。例えば、複数の赤外線ランプやハロゲンランプを保温容器3の側壁と充填容器5の設置領域との間に周状且つ面状に配置することも可能である。しかし、設置や制御の容易性からシートヒータ4が最も優れた発熱体である。
【0016】
シートヒータ4と充填容器5との間は環状の空間とされている。本実施形態は充填容器5にシートヒータ4を直接巻き付ける方法と比べて、いくつかの点で有利である。まず、シートヒータ4は細かい発熱体を内蔵しているため、表面温度に若干のムラが発生する。シートヒータ4と充填容器5との間に空間を設けることで、充填容器5がより均一に加熱される。特に本実施形態では、シートヒータ4の内側にある支持胴8がシートヒータ4で加熱され、支持胴8の輻射熱が環状の空間を介して充填容器5に伝わるため、充填容器5が均一に加熱される。また、充填容器5にシートヒータ4を直接巻き付ける場合、試験のたびにシートヒータ4を充填容器5に巻き付ける作業が発生する。本実施形態では、シートヒータ4が試験容器2の一部とされているため、試験の際に充填容器5を試験容器2にセットするだけでよく、試験工程が簡略化される。
【0017】
図4に充填容器5とその据え付け冶具9の分解斜視図を示す。
図4(a)は充填容器5と据え付け冶具9の斜視図、
図4(b)は
図4(a)のA-A線で切った断面図である。充填容器5はブリキ製の密閉された円筒形容器である。充填容器5はコンクリートの試験体を収容する収容容器としてだけでなく、コンクリートの型枠としての機能も有する。充填容器5には、例えば株式会社マルイ製コンクリート供試体成形型枠 「サミットモールド」などの市販の製品を利用することができる。充填容器5の寸法は、一例では直径約150mm、高さ約300mmである。充填容器5の形状は円筒形に限定されず、上下方向中心線と垂直な断面が正方形、八角形などの多角形形状であってもよい。据え付け冶具9は充填容器5を設置する底板91と、充填容器5の天板を保持する天板92と、底板91と天板92とを連結する複数のロッド93とを有している。天板92にはロッド93が貫通する穴95が設けられており、ロッド93はアイナット94によって天板92に固定される。天板92の中央には第1及び第3の温度計101,103(後述)のリード線を引き出すための穴96が設けられている。天板92の縁部には第2及び第4の温度計102,104(後述)及び第1~第3の熱流センサ111~113のリード線を引き出すための切欠き97が設けられている。充填容器5を据え付け冶具9で保持し、アイナット94で吊り下ろすことによって、充填容器5を迅速かつ安全に試験容器2に据え付けることができる。充填容器5と試験容器2との間隔、すなわち充填容器5の外面と支持胴8の内面との間隔は据え付け冶具9の設置スペースを考慮して決定され、一例では約30mmである。充填容器5は支持胴8と同軸となるように試験容器2の中心に設置することが好ましい。
【0018】
充填容器5にはT型熱電対からなる第1~第4の温度計101~104が取り付けられる。第1の温度計101と第3の温度計103は充填容器5の中心軸と同軸のシース51に設置され、充填容器5の径方向及び高さ方向の中心(以下、第1の位置P1という)におけるコンクリートの温度(以下、第1の温度T1という)を測定する。シース51は充填容器5の天板から底板まで延びる管部材であり、コンクリートが充填される前に充填容器5に設置される。第1の温度計101と第3の温度計103はできるだけ同じ位置に設置することが好ましい。第2の温度計102と第4の温度計104は充填容器5の外面(以下、第2の位置P2という)に貼り付けられ、充填容器5の外部の温度(以下、第2の温度T2という)を測定する。第2の温度計102と第4の温度計104はできるだけ同じ位置に設置することが好ましい。本実施形態では、第1~第4の温度計101~104は充填容器5の高さ方向の中心付近に設置される。
【0019】
さらに、充填容器5には第1~第3の熱流センサ111~113が取り付けられる。第1~第3の熱流センサ111~113は充填容器5の外面と直交する方向に出入りする熱の熱量密度を測定する。後述するように、第1~第3の熱流センサ111~113はシートヒータ4から充填容器5、すなわちシートヒータ4からコンクリートに入る熱の熱流密度を測定する。熱流センサは熱伝導性両面テープによって充填容器5の外面に貼り付けられる。熱流センサは1箇所だけに設けてもよいが、複数個所に設けるほうが好ましい。本実施形態では、感熱部の中心位置が充填容器5の高さ方向中心位置と一致する高さで、周方向に120°間隔で3つの第1~第3の熱流センサ111~113が設けられている。3つの熱流センサ111~113を設けることで、一つの熱流センサが異常値を示したときに当該熱流センサが異常であるとみなし、当該熱流センサを除いた残りの2つの熱流センサの測定値だけを採用することができる。熱流センサの設置位置及び設置個数はこれに限定されず、例えば充填容器5の底面に設置することもできる。
【0020】
図5は発熱特性試験装置1の計測制御系の概略ブロック図である。図示の都合上、第1の温度計101と第3の温度計103は異なる位置に設けられているが、前述のように、ほぼ同じ位置に設置されている。第2の温度計102と第4の温度計104についても同様である。第1の温度計101と第2の温度計102は温度差計11に接続され、温度差計11はシートヒータ4のリード線41に接続されている。温度差計11はシートヒータ4の制御手段として機能する。温度差計11は第1の温度計101で計測された温度T1と第2の温度計102で計測された温度T2の温度差T2-T1を求め、温度差T2-T1が正となるようにシートヒータ4を制御する。第3の温度計103と第4の温度計104はデータロガー12に接続されている。第1の温度計101と第2の温度計102の出力は温度差計11への入力信号として使用されるため、コンクリートの温度を記録管理する目的で使用することができない。このため、第1の温度計101と第2の温度計102の近傍にそれぞれ設けられた第3の温度計103と第4の温度計104の出力をデータロガー12に送信し、データロガー12でコンクリート温度の時間履歴データを記録する。第1~第3の熱流センサ111~113もデータロガー12に接続され、各熱流センサ111~113で計測した熱量密度の時間履歴データがデータロガー12に記録される。温度計42で計測されたシートヒータ4の温度の時間履歴データもデータロガー12に記録される。
【0021】
次に、本実施形態の発熱特性試験方法の手順を説明する。
【0022】
(ステップ1)
まず、上述の試験容器2と充填容器5を準備する。充填容器5にコンクリートを充填し、充填容器5を密閉する。充填容器5の天板92の中央の穴96からシース51内に第1の温度計101と第3の温度計103を配置し、充填容器5の外面に第2の温度計102と第4の温度計104を配置する。充填容器5の外面にはさらに第1~第3の熱流センサ111~113を配置し、据え付け冶具9を利用して充填容器5を試験容器2に設置する。第1及び第3の温度計101,103のケーブルは天板92の中央の穴96から引き出しておく。第2及び第4の温度計102,104及び第1~第3の熱流センサ111~113のケーブルは天板92の切欠き97から引き出しておく。次に、内側容器7の上蓋72と外側容器6の上蓋62を取り付ける。第1~第4の温度計101~104と第1~第3の熱流センサ111~113のケーブルは内側容器7の上蓋72と外側容器6の上蓋62にそれぞれ設けられた貫通孔(図示せず)を通して試験容器2の外部に引き出す。その後、これらのケーブルを
図5に示すように温度差計11またはデータロガー12に接続する。シートヒータ4を温度差計11に接続し、温度差計11によるオンオフ制御が可能な状態にセットする。コンクリートの水和反応は通常、練混ぜ後数時間程度経過した後に開始される。従って、以上の作業はコンクリートが発熱を開始する前に終了させることができる。支持胴8と充填容器5との間の空間は空気で満たされているが、水などの液体を封入してもよい。シートヒータ4のオンオフに対する温度変化が緩慢になり、制御が容易になる可能性がある。
【0023】
(ステップ2)
第1及び第2の温度T1,T2と熱流密度の測定及びシートヒータ4の制御を開始する。第1の位置P1の第1の温度T1は第1の温度計101によって、第2の位置P2の第2の温度T2は第2の温度計102によって連続的に測定され、温度差計11に入力される。同様に、第1の位置P1の第1の温度T1は第3の温度計103によって、第2の位置P2の第2の温度T2は第4の温度計104によって連続的に測定され、データロガー12に記憶される。熱流密度は第1~第3の熱流センサ111~113によって連続的に測定され、データロガー12に記憶される。必要に応じ、外気温を測定してもよい。コンクリートは時間の経過とともに発熱し、第1の温度T1と第2の温度T2が徐々に上昇する。水和反応はコンクリート試料内でほぼ均一に生じるため、充填容器5が完全な断熱状態に置かれていれば、コンクリートの温度は試料全域で一定となる。しかし、充填容器5の境界面を介する熱移動のため、第1の温度T1と第2の温度T2との間には温度差が生じる。一般的な室温環境下で保温容器3だけで断熱を行う場合、熱は充填容器5から逸散し放熱が生じる。コンクリート温度は充填容器5の中心(第1の位置P1)で最も高くなり、充填容器5の壁面で最も低くなり、T2<T1となる。これに対して、本実施形態ではコンクリートの発熱の際に、T2>T1、すなわち温度差T2-T1が正となるようにシートヒータ4を制御する。コンクリートからの放熱は基本的に生じず、コンクリートの加熱だけが行われる。この結果、第1~第3の熱流センサ111~113は、充填容器5に入る熱(コンクリートへの給熱)の熱流密度を計測することになる。
【0024】
温度差計11は所定の温度差を目標値としてシートヒータ4のオンオフ制御を行う。制御方法は特に限定されないが、本実施形態ではPID制御が用いられる。最初にシートヒータ4を通電し、温度差T2-T1が正の目標値に達すると、温度差計11はシートヒータ4を非通電状態とする。温度差T2-T1が目標値を下回ると温度差計11はシートヒータ4を通電状態とする。これによってシートヒータ4から充填容器5への給熱が行われ、第2の温度T2が上昇する。これに対し、第1の温度T1の上昇速度は第2の温度T2の上昇速度より緩慢であるため、温度差T2-T1は増加する。温度差T2-T1が正の目標値に達すると温度差計11はシートヒータ4を非通電状態とする。これによって第2の温度T2の上昇速度が低下し、場合によっては第2の温度T2は減少に転じる。温度差T2-T1は徐々に減少していくが、目標値を下回ると温度差計11はシートヒータ4を再び通電状態とする。以上の操作を繰り返すことで、シートヒータ4は温度差T2-T1を目標値の近傍に維持する。温度差T2>T1の目標値は0.5~1.5度程度で、コンクリート温度が高くなるほど大きくなるように設定するのが好ましい。温度差T2-T1が小さいと放熱が生じる可能性が高くなる。温度差T2-T1が大きいと熱流密度が大きくなり、コンクリートの発熱量の算定誤差が大きくなる可能性がある。
【0025】
(ステップ3)
以上のステップを打ち込み温度の異なる複数のコンクリートに対して行う。例えば、打ち込み温度10℃、20℃、30℃の3ケースについてステップ1,2を繰り返す。複数のコンクリートは同一配合のコンクリートであることが好ましく、同一バッチのコンクリートであることがさらに好ましい。
【0026】
(ステップ4)
次に、得られたデータをもとに温度依存型水和発熱速度式を算出する。温度依存型水和発熱速度式は以下のように表すことができる。
【0027】
【0028】
ここで、
H:単位重量当たりのセメントの水和発熱速度
Q:単位重量当たりのセメントの積算発熱量
H
∞
(Q):限界水和発熱速度(Q)
-E(Q)/R:セメントの温度活性
T:コンクリートの温度
logH
∞
(Q)と-E(Q)/Rは打ち込み温度の異なる複数のコンクリートに対して算定した積算発熱量Qから求められることが分かっている。コンクリートの温度としてはデータロガー12で記録された第1の温度T1を用いる。従って、打ち込み温度の異なる個々のコンクリートに対する積算発熱量Qを求めれば温度依存型水和発熱速度式を算出することができる。
【0029】
積算発熱量は以下の式から求められる。
Q=cρΔT/C*-Qd/C*/V (式2)
ここで、
c:コンクリートの比熱
ρ:コンクリートの密度
ΔT:コンクリートの温度上昇値
Qd:コンクリートの給熱量
C*:単位セメント量(単位容積当たりのセメント量)
V:充填容器5の容積
コンクリートの温度上昇値ΔTは打ち込み時のコンクリート温度との差分である。例えば、コンクリートの打ち込み時の温度が20℃である場合、コンクリートの温度上昇値ΔTは20℃に対する増分として求められる。コンクリートの温度上昇値ΔTは測定を開始してからの経過時間tの関数として得られる。前述の通り、水和反応が開始されるまでに一定の時間を要するため、コンクリートを充填容器5に充填してからの経過時間を経過時間tと定義してもよく、積算発熱量の評価上はほとんど差が生じない。
【0030】
給熱量Qdは第1~第3の熱流センサ111~113で測定した熱流密度から算定する。熱流密度は単位時間に単位面積を横切る熱量であるので、給熱量Qdは例えば、第1~第3の熱流センサ111~113で測定された熱流密度の平均値と充填容器5の表面積の積を時間積分して(または単位時間当たり熱流密度の平均値と充填容器5の表面積の積の時間累積値として)求めることができる。
【0031】
本実施形態では放熱を防止するためにコンクリートを意図的に加熱している。従って、cρΔT/C*をQd/C*/Vで補正することで(cρΔT/C*からQd/C*/Vを減ずることで)実際の積算発熱量Qを推定することができる。つまり、第1の温度T1の変化量に基づき充填容器5に充填されたコンクリートの概略発熱量(cρΔT/C*)を求め、熱流センサで計測された熱流密度に基づきコンクリートへの給熱量(Qd/C*/V)を求め、概略発熱量を給熱量で補正(概略発熱量-給熱量)することによってコンクリートの発熱量が求められる。
【0032】
このように、本実施形態ではT2>T1となるようにコンクリートの加熱だけを行っている。セメントの水和反応は温度依存性があり、完全な断熱状態と放熱を許容する簡易断熱状態では水和反応過程が異なる可能性がある。水和反応速度は温度が高いほど大きくなるため、放熱を許容する簡易断熱状態では発熱量を過小評価する可能性がある。換言すると、放熱によって温度が下がるとコンクリートの水和反応速度が低下し、水和反応が完全に終了していない状態での積算発熱量を取得する可能性がある。発熱量が減少すると温度依存型水和発熱速度式を非安全側に評価し、マスコンクリート構造物の温度応力解析による事前照査が適切に行われない可能性が生じる。本実施形態ではコンクリートの放熱を許容しないため、コンクリート温度を高めに維持することができる。これによってコンクリートの水和反応がより迅速に進行し、発熱量と温度依存型水和発熱速度式を安全側に評価することができる。
【0033】
本実施形態はコンクリートの加熱だけを行えばいいことから、発熱特性試験装置1は内部空間31を冷却する手段を備えていない。冷却に必要な冷凍機、冷媒の循環のための配管、ポンプ等が不要であるため、試験容器2のコンパクト化が可能である。試験容器2の外形寸法は一例で直径500mm、高さ650mm程度であり、部材の多くは軽量な発泡スチロールで構成されている。充填容器5も運搬時には不要であることから、試験容器2は極めて軽量である。付属設備である据え付け冶具9、温度差計11、温度計101~104、熱流センサ111~113も小型軽量なものであり、現場での測定に容易に対応できる。装置の構成が単純化されているためコストダウンも可能である。従来の高性能の試験装置では、第2の温度T2を第1の温度T1に極力一致させるために精密な制御が必要とされたが、本実施形態はT2>T1である限り、多少ラフな制御であっても問題ない。従って、制御系の簡略化も可能であり、試験装置1のキャリブレーション作業も簡略化が可能である。
【0034】
上記の積算発熱量の算定式において、給熱量Qdによる補正を省略することもできる。温度差T2-T1は1.0度程度と非常に小さいため、給熱量Qdも限定的である。従って、積算発熱量Q=cρΔT/C*として求めても大きな誤差はない。この評価方法は発熱量をさらに大きめに評価することができるため、コンクリートの発熱量に関してもさらに安全側の評価が可能である。
【0035】
本実施形態では、コンクリートの発熱量に関する評価(ステップ4)も簡単な解析で実行できる。例えば特許文献1に記載された方法では有限要素法を用いた逆解析が必要であり、専用または汎用のプログラムが必要となるほか、解析に時間とコストを要する。本実施形態では温度計と熱流センサの出力だけを用いた簡易な計算でコンクリートの発熱量を算定することができる。計算は現場に設置されたPCなどの一般的な計算機で十分に実行することができる。特許文献1に記載された方法では予め容器の熱伝導率など解析に必要な装置の熱特性を把握する必要があるが、本実施形態ではその必要もない。また、特許文献1に記載された方法は、放熱特性を積極的に制御するものではないため、環境温度によって放熱特性(断熱特性)が大きく変わる可能性がある。本実施形態の試験装置1はシートヒータ4を備え、温度差T2-T1を所定の目標値に制御するため、環境温度の影響も小さい。
【符号の説明】
【0036】
1 発熱特性試験装置
2 試験容器
3 保温容器
4 シートヒータ
5 充填容器
6 外側容器
7 内側容器
11 制御手段(温度差計)
31 内部空間
101~104 第1~第4の温度計
111~113 第1~第3の熱流センサ
P1 第1の位置
P2 第2の位置