(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】X連鎖性中心核ミオパチーを処置するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230623BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230623BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230623BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230623BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230623BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230623BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230623BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230623BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230623BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230623BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230623BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230623BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230623BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/47
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K31/7088
A61K48/00
A61K38/16
A61K35/76
A61K35/12
A61P21/02
(21)【出願番号】P 2020525908
(86)(22)【出願日】2018-11-12
(86)【国際出願番号】 EP2018080964
(87)【国際公開番号】W WO2019092251
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-08
(32)【優先日】2017-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョスラン・ラポルテ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンティナ・リオネッロ
(72)【発明者】
【氏名】ベリンダ・コーリング
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1997年12月12日,Vol.272, No.50,p.31453 - 31458
【文献】SCIENCE,2002年,Vol.297, No.5584,p.1193 - 1196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/12
C07K 14/47
C12N 15/63
C12N 15/864
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
A61K 31/7088
A61K 48/00
A61K 38/16
A61K 35/76
A61K 35/12
A61P 21/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X連鎖性劣性中心核ミオパチー(XL
-CNM
)の処置
のための医薬組成物であって、前記組成物が、アンフィファイジン2ポリペプチド又は
前記アンフィファイジン2ポリペプチドをコードするBIN1核
酸を含み、前記アンフィファイジン2ポリペプチドが、配列番号26、28、30又は32に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記BIN1核
酸が、配列番号25
、31、27又は29によって表される核酸配列を含
む、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
前記アンフィファイジン2ポリペプチドが、配列番
号26、28、30
又は32によって表されるアミノ酸配
列を含む、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
前記BIN1核酸
が、組換え発現ベクター
に含まれる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記BIN1核酸が、アンフィファイジン2ポリペプチドの産生を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ベクターが
、発現ウイルスベクターである、請求項
4に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルスに由来する発現ウイルスベクターである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記BIN1核酸
が、組換え宿主細胞
に含まれる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
薬学的担体を
さらに含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
X連鎖性劣性中心核ミオパチー(XL-CNM)の処置のための医薬組成物の製造におけるアンフィファイジン2ポリペプチド又は前記アンフィファイジン2ポリペプチドをコードするBIN1核酸の使用であって、前記アンフィファイジン2ポリペプチドが、配列番号26、28、30又は32に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、使用。
【請求項11】
前記BIN1核酸が、配列番号25、31、27又は29によって表される核酸配列を含む、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記アンフィファイジン2ポリペプチドが、配列番号26、28、30又は32によって表されるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
前記BIN1核酸が、組換え発現ベクターに含まれる、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
前記BIN1核酸が、アンフィファイジン2ポリペプチドの産生を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記ベクターが、発現ウイルスベクターである、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルスに由来する発現ウイルスベクターである、請求項13に記載の使用。
【請求項17】
前記BIN1核酸が、組換え宿主細胞に含まれる、請求項10に記載の使用。
【請求項18】
前記医薬組成物が、薬学的担体をさらに含む、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X連鎖性中心核ミオパチー(X-linked centronuclear myopathy)の処置における使用のための、BIN1タンパク質又はBIN1タンパク質を産生若しくはコードするBIN1核酸配列に関する。本発明は、X連鎖性中心核ミオパチーを処置するための組成物及び方法を提供する。本発明は、X連鎖性中心核ミオパチーを有する対象にBIN1ポリペプチドを送達する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中心核ミオパチー(CNM)は、核筋力低下を特徴とし、並びに線維萎縮、I型線維優位、及び筋肉再生に続発したものではない核の中心化の増加によって組織学的に確認される一群の先天性ミオパチーである。CNMの3つの主な特徴付けられた形態のうち、X連鎖性中心核ミオパチー(XLCNM、筋細管ミオパチー-XLMTM、又はOMIM 310400とも呼ばれる)は、CNMの最も一般的で重度の形態であり、新生児期に発症し、しばしば生後数年で死亡する(Jungbluth、H.ら、Orphanet J Rare Dis、2008. 3: 26頁)。生後期間を超える生存は、胃瘻栄養及び機械的換気をしばしば含む集中支援を必要とする。現在のところ、この障害に利用可能な治癒法もなければ、効果的処置もない。
【0003】
XLCNMは、ホスホイノシチドホスファターゼミオチューブラリン(phosphoinositides phosphatase myotubularin)(MTM1)の変異に起因する(Laporte、J.ら、Nature Genetics、1996. 13(2): 175~82頁)。今日までに、MTM1における200を超える種々の変異が約450家族で報告されており、そのほとんどがタンパク質の強い低下をもたらす。異常なオルガネラ配置、核の誤局在化、及び筋萎縮を含む古典的な組織学的特徴を有する、対応する筋力低下を伴うCNM表現型を再現するMtm1ノックアウト又はノックインマウスが以前に特徴付けられている(Buj-Bello A、Laugel V、Messaddeq N、Zahreddine H、Laporte J、Pellissier JF、Mandel JL.、The lipid phosphatase myotubularin is essential for skeletal muscle maintenance but not for myogenesis in mice、Proc Natl Acad Sci U S A. 2002年11月12日;99(23): 15060~5頁. Epub 2002年10月21日; Pierson CR、Dulin-Smith AN、Durban AN、Marshall ML、Marshall JT、Snyder AD、Naiyer N、Gladman JT、Chandler DS、Lawlor MW、Buj-Bello A、Dowling JJ、Beggs AH.、Hum Mol Genet. 2012年2月15日;21(4):811~25頁 doi: 10.1093/hmg/ddr512. Epub 2011年11月7日; Mol Cell Biol. 2013年1月;33(1):98~110頁 doi: 10.1 128/MCB.01075-12. Epub 2012年10月29日 Defective autophagy and mTORCl signaling in myotubularin null mice. Fetalvero KM、Yu Y、Goetschkes M、Liang G、Valdez RA、Gould T、Triantafellow E、Bergling S、Loureiro J、Eash J、Lin V、Porter JA、Finan PM、Walsh K、Yang Y、Mao X、Murphy LO)。異常な興奮収縮連関を伴う三連構造(triads structure)の異常が、種々の形態のCNMを有するいくつかの動物モデル及び患者で検出され、全てのCNM形態に共通する異常を同定した(Toussaint A.ら、Acta Neuropathol. 2011年2月; 121(2):253~66頁)。これは、トライアドの筋小胞体成分のホスホイノシチドレベルの調節における提案されているMTM1の役割と一致している。MTM1は、膜リモデリング及びベータ1インテグリンリサイクリングにおいて重要な役割を果たす。ベータ1インテグリンは、筋線維が機械的ストレスに曝されたときにその接着を維持できるようにするフォーカルアドヒージョン複合体(focal adhesion complex)の一部である。XLCNM筋肉患者では、野生型と比べてベータ1インテグリン局在化の異常が観察されている(Ribeiroら、Phosphoinositide regulation of integrin trafficking required for muscle attachment and maintenance.、PLoS Genet. 2011年2月10日10;7(2):e1001295. doi: 10.1371/journal.pgen. 1001295. PMID:2134728)。Ribeiroらは、ショウジョウバエ筋肉におけるMTM1の枯渇がベータ1インテグリンリサイクリングに問題を引き起こすことを示した(Ribeiroら 2011)。更なる分析は、XLCNM患者線維芽細胞では、初期エンドソーム小胞においてブロックされるベータ1インテグリンが増加することを示した(Ketelら 2016 A phosphoinositide conversion mechanism for exit from endosomes. Nature. 2016年1月21日;529(7586):408~12頁. doi: 10.1038/naturel6516. Epub 2016年1月13日 PMID: 26760201)。
【0004】
BIN1(すなわち、Bridging INtegrator 1)はアンフィファイジン2をコードし、この遺伝子の変異はCNM、特に常染色体劣性CNM(ARCNMとも名付けられた)を引き起こすことがある。BIN1は普遍的に発現され、エンドサイトーシス、膜リサイクリング及びリモデリングに不可欠である。BIN1の様々な組織特異的アイソフォームがあり、その中で、骨格筋特異的なのがホスホイノシチド(PI)結合ドメインを含有するアイソフォーム8である。このドメインはPtdIns4,5P2、PtdIns5P及びPtdIns3Pに対するBIN1の親和性を高め、インビトロ試験は、骨格筋のT管に似た膜小管の生成におけるこのドメインの関与を立証した(Leeら Amphiphysin 2 (BIN1) and T-tubule biogenesis in muscle. Science. 2002年8月16日:297(5584): 1193~6頁 PMID: 12183633)。MTM1及びBIN1は相互作用し、この相互作用が膜の管形成に極めて重要であることが示されている(Royerら The myotubularin-amphiphysin 2 complex in membrane tubulation and centronuclear myopathies. EM BO Rep. 2013年10月; 14(10):907~15頁 doi : 10.1038/cmbor.2013. 119. Epub 2013年8月6日 PMID: 23917616)。しかし、BIN1及びMTM1がインビボで共通の経路の一部であることを示した関連性はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第5,399,346号
【文献】米国特許第5,580,859号
【文献】米国特許第5,589,466号
【文献】WO 01/96584
【文献】WO 01/29058
【文献】米国特許第6,326,193号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jungbluth、H.ら、Orphanet J Rare Dis、2008. 3: 26頁
【文献】Laporte、J.ら、Nature Genetics、1996. 13(2): 175~82頁
【文献】Buj-Bello A、Laugel V、Messaddeq N、Zahreddine H、Laporte J、Pellissier JF、Mandel JL.、The lipid phosphatase myotubularin is essential for skeletal muscle maintenance but not for myogenesis in mice、Proc Natl Acad Sci U S A. 2002年11月12日;99(23): 15060~5頁. Epub 2002年10月21日
【文献】Pierson CR、Dulin-Smith AN、Durban AN、Marshall ML、Marshall JT、Snyder AD、Naiyer N、Gladman JT、Chandler DS、Lawlor MW、Buj-Bello A、Dowling JJ、Beggs AH.、Hum Mol Genet. 2012年2月15日;21(4):811~25頁 doi: 10.1093/hmg/ddr512. Epub 2011年11月7日
【文献】Mol Cell Biol. 2013年1月;33(1):98~110頁 doi: 10.1 128/MCB.01075-12. Epub 2012年10月29日 Defective autophagy and mTORCl signaling in myotubularin null mice. Fetalvero KM、Yu Y、Goetschkes M、Liang G、Valdez RA、Gould T、Triantafellow E、Bergling S、Loureiro J、Eash J、Lin V、Porter JA、Finan PM、Walsh K、Yang Y、Mao X、Murphy LO
【文献】Toussaint A.ら、Acta Neuropathol. 2011年2月; 121(2):253~66頁
【文献】Ribeiroら、Phosphoinositide regulation of integrin trafficking required for muscle attachment and maintenance.、PLoS Genet. 2011年2月10日10;7(2):e1001295. doi: 10.1371/journal.pgen. 1001295. PMID:2134728
【文献】Ketelら 2016 A phosphoinositide conversion mechanism for exit from endosomes. Nature. 2016年1月21日;529(7586):408~12頁. doi: 10.1038/naturel6516. Epub 2016年1月13日 PMID: 26760201
【文献】Leeら Amphiphysin 2 (BIN1) and T-tubule biogenesis in muscle. Science. 2002年8月16日:297(5584): 1193~6頁 PMID: 12183633
【文献】Royerら The myotubularin-amphiphysin 2 complex in membrane tubulation and centronuclear myopathies. EM BO Rep. 2013年10月; 14(10):907~15頁 doi : 10.1038/cmbor.2013. 119. Epub 2013年8月6日 PMID: 23917616
【文献】Needleman and Wunsch (Journal of Molecular Biology; 1970, 48(3): 443-53)
【文献】Smith及びWaterson (Journal of Molecular Biology; 1981、147: 195~197頁)
【文献】Amphiphysin 2(BIN1) and T-tubule biogenesis in muscle._Lee E、Marcucci M、Daniell L、Pypaert M、Weisz OA、Ochoa GC、Farsad K、Wenk MR、De Camilli P. Science. 2002年8月16日;297(5584): 1193~6頁. PMID: 12183633
【文献】Regulation of 5 Binl SH3 domain binding by phosphoinositides. _Kojima C、Hashimoto A、Yabuta I、Hirose M、Hashimoto S、Kanaho Y、Sumimoto H、Ikegami T、Sabe H. EMBO J. 2004年11月10日;23(22):4413~22頁. Epub 2004年10月14日 PMID: 15483625
【文献】Mutations in amphiphysin 2 (BIN1) disrupt interaction with dynamin 2 and cause autosomal recessive centronuclear myopathy. Nicot AS、Toussaint A、Tosch V、Kretz C、Wallgren-Pettersson C、Iwarsson E、Kingston H、Gamier JM、Biancalana V、Oldfors A、Mandel JL、Laporte J. Nat Genet. 2007年9月;39(9): 1134~9頁. Epub 2007年8月5日
【文献】Sambrookら(2001、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York)
【文献】Wuら、2005、Gene Ther、12(6): 477~486頁
【文献】Vora S、Tuttle M、Cheng J、Church G、FEBS J. 2016年9月;283(17):3181~93頁. doi: 10.1111/febs.l3768. Epub 2016年7月2日 Next stop for the CRISPR revolution: RNA-guided epigenetic regulators
【文献】Remington: The Science and Practice of Pharmacy (第20版)、A. R. Gennaro、Lippincott Williams & Wilkins編、2000
【文献】Encyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988~1999、Marcel Dekker、New York
【文献】H. Tasfaoutら、Nat Commun 8、15661頁、2017
【文献】Ratcliffeら、Traffic 17、670~688頁(2016)
【発明の概要】
【0007】
本明細書では、BIN1の過剰発現はXLCNM表現型を完全にレスキューするのに十分であること、並びにBIN1及びMTM1は両方ともベータ1インテグリンリサイクリングに関与することが立証される。BIN1の過剰発現は、故に、Mtm1KOマウスによって示されたミオパチーをレスキューすることができ、これにより、そのような過剰発現はXLCNMを処置するための有効な治療になる。
【0008】
本開示は、BIN1の過剰発現によってXLCNMを処置するための方法及び組成物を提供する。本発明は、それを必要とする対象においてXLCNMを処置するための組成物及び方法を提供する。
【0009】
本発明は、XLCNMを有する対象に対してBIN1を発現する方法に関する。本発明の組成物及び方法は、XLCNMを有する対象において筋力を増加させ、及び/又は筋肉機能を改善し、及び/又は組織学的特徴をレスキューすることができる。
【0010】
1つの実施形態において、本発明は、XLCNMを有する個体の処置に有用である。特に、本発明は、XLCNMの処置における使用のための、アンフィファイジン2ポリペプチド又はBIN1核酸配列に関する。換言すれば、本発明は、XLCNMを処置するための医薬を調製するための、アンフィファイジン2ポリペプチド又はBIN1核酸配列の使用に関する。より具体的には、本発明は、それを必要とする対象にアンフィファイジン2ポリペプチド又はBIN1核酸配列の治療的に有効な量を投与する工程を含む、前記対象においてXLCNMを処置するための方法に関する。実際に、本発明は、罹患した対象における筋肉機能を改善し、生存を延長させる。
【0011】
特定の態様において、本発明は、アンフィファイジン2ポリペプチド又はそのようなポリペプチドを産生若しくはコードする、BIN1等の核酸配列を含む組成物に関する。前記組成物は、XLCNMの処置における使用のためのものであってもよい。
【0012】
本発明はまた、アンフィファイジン2タンパク質を含む単離されたポリペプチド、及び薬学的担体と組み合わせてアンフィファイジン2タンパク質を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明はまた、少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む単離された核酸配列、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含むそのような核酸配列を含む発現ベクター、及び薬学的担体と組み合わせてこれを含む医薬組成物に関する。
【0014】
更に、本発明は、そのようなアンフィファイジン2又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む構築物を製造する方法に関する。
【0015】
更に、XLCNMを処置するための、アンフィファイジン2ポリペプチド、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む発現ベクターを使用する方法が本明細書に開示される。本発明のこれらの及び他の目的及び実施形態は、本発明の詳細な説明の後により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】BIN1の過剰発現が、Mtm1-/yマウスの寿命の異常(lifespan defect)をレスキューすることを示す図である。配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8が本明細書で使用されている。(A)分析したマウスの寿命(生存率として表される)。(B)年齢による体重(n>5)。(C)懸垂テスト。マウスをケージの蓋から最大60秒間ぶら下げ、各マウスはテストを3回繰り返した(n>5)。(D)全てのトリプトファン含有タンパク質を蛍光標識するTCE (2,2,2-トリクロロエタノール)に対して正規化されたBIN1定量化。(E)抗BIN1及びMTM1抗体でプローブした前脛骨筋(TA)筋溶解物からのウエスタンブロット; GAPDHに対して正規化された、WT、Tg BIN1、Mtm1-/y、Mtm1-/y Tg BIN1マウスで示されたタンパク質レベル。(F)総体重のパーセンテージとして表される前脛骨筋(TA)筋の重量。(G)TAの比筋力;テストは2ヶ月(n>5)、7ヶ月(n>5)、及び24ヶ月(n=4)時点で行った。NA: Mtm1-/yマウスが先に死亡したため該当なし。統計的検定:一元配置Anova、ボンフェローニ事後検定; ns:非有意、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図2】BIN1の過剰発現が、8週齢のMtm1-/yマウスにおける組織像及び超微細構造をレスキューすることを示す図である。配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8が本明細書で使用されている。(A) HE及びSDHで染色したTA筋横断面;スケールバー500μm。(B)TAに異常な(内部移行し、中心化した)核を有する線維の頻度(n=5)。(C) 5μm間隔にグループ分けしたTA線維の最小フェレ径(Minimum ferret)(n=5)。(D)筋肉超微細構造の分析。サルコメアごとに計数したトライアドの頻度; T管誤局在化の頻度。(E)電子顕微鏡検査(EM)によって観察したTA筋超微細構造。スケールバー1μm。トライアドの高倍率挿入図。(F) DHPR及びBIN1抗体で染色したTA筋縦断面(2ヶ月齢マウス)。画像は共焦点顕微鏡検査によって取得した。スケールバー10μm。統計的検定:一元配置Anova、ボンフェローニ事後検定; ns:非有意、*p<0.05、**p<0.01。
【
図3A-I】AAVによるBIN1の出生後筋肉内過剰発現が、Mtm1-/yマウスにおける筋萎縮及び比筋力をレスキューすることを示す図である。Mtm1-/yマウスに、対照としてのAAV空又はAAV-BIN1(配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8、又は配列番号25の配列のBIN1の長いアイソフォーム9)のいずれかを3週齢で注射した;特に明記する場合を除き、マウスを注射後2週目に分析した。(A)マウス体重に対するTA筋の比のパーセンテージ(n≧5)(BIN1アイソフォーム8)。(B)最大TA筋力(n≧5)。(C)TA比筋力(n≧5)(BIN1アイソフォーム8)。(D) HE及びSDHで染色したTA横断面。スケールバー500μm (BIN1アイソフォーム8)。(E)電子顕微鏡検査(EM)によって観察した縦断TA筋超微細構造。スケールバー1μm(BIN1アイソフォーム8)。(F)Mtm1-/yマウスTA筋線維像:左側、AAVBIN1を注射したTA筋、右側、AAV対照を注射したTA筋、両方とも注射後5週目に観察された(BIN1アイソフォーム8)。(G)WT対照マウス及びMtm1-/yマウスのTAにおける異常な(内部移行し、中心化した)核位置を有する線維の頻度(n≧2)(BIN1アイソフォーム8)。(H)抗BIN1抗体によるウエスタンブロット(左のパネル)。WT、Mtm1-/yで観察され、GAPDHに対して正規化されたBIN1タンパク質レベル(倍数差)(右のパネル) (BIN1アイソフォーム8)。(I)5μm間隔にグループ分けしたTA線維の最小フェレ径(n=5)。スケールバー1μm (BIN1アイソフォーム8)。(J) AAV空対照又はAAV-BIN1の長いアイソフォーム9を注射したWT及びMtm1-/yマウスの比筋力。統計的検定:一元配置Anova、ボンフェローニ事後検定; ns:非有意、*p<0.05、**pO.01、***p<0.001。
【
図3J】AAVによるBIN1の出生後筋肉内過剰発現が、Mtm1-/yマウスにおける筋萎縮及び比筋力をレスキューすることを示す図である。Mtm1-/yマウスに、対照としてのAAV空又はAAV-BIN1(配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8、又は配列番号25の配列のBIN1の長いアイソフォーム9)のいずれかを3週齢で注射した;特に明記する場合を除き、マウスを注射後2週目に分析した。(A)マウス体重に対するTA筋の比のパーセンテージ(n≧5)(BIN1アイソフォーム8)。(B)最大TA筋力(n≧5)。(C)TA比筋力(n≧5)(BIN1アイソフォーム8)。(D) HE及びSDHで染色したTA横断面。スケールバー500μm (BIN1アイソフォーム8)。(E)電子顕微鏡検査(EM)によって観察した縦断TA筋超微細構造。スケールバー1μm(BIN1アイソフォーム8)。(F)Mtm1-/yマウスTA筋線維像:左側、AAVBIN1を注射したTA筋、右側、AAV対照を注射したTA筋、両方とも注射後5週目に観察された(BIN1アイソフォーム8)。(G)WT対照マウス及びMtm1-/yマウスのTAにおける異常な(内部移行し、中心化した)核位置を有する線維の頻度(n≧2)(BIN1アイソフォーム8)。(H)抗BIN1抗体によるウエスタンブロット(左のパネル)。WT、Mtm1-/yで観察され、GAPDHに対して正規化されたBIN1タンパク質レベル(倍数差)(右のパネル) (BIN1アイソフォーム8)。(I)5μm間隔にグループ分けしたTA線維の最小フェレ径(n=5)。スケールバー1μm (BIN1アイソフォーム8)。(J) AAV空対照又はAAV-BIN1の長いアイソフォーム9を注射したWT及びMtm1-/yマウスの比筋力。統計的検定:一元配置Anova、ボンフェローニ事後検定; ns:非有意、*p<0.05、**pO.01、***p<0.001。
【
図4】出生後全身性BIN1過剰発現が、Mtm1-/yマウスの生存及び筋肉異常をレスキューすることを示す図である。Mtm1-/yマウスに、対照としてのAAV空又はAAV-BIN1(配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8)のいずれかをP1で注射した;マウスを10週時点で分析した。(A)10週時点での屠殺前のマウス生存率。(B)体重。(C)マウス総体重に対するTA筋量の比(n≧5)。(D)絶対最大TA筋力(n≧4)。(E)TA比筋力(n≧4)。(F)異常な(内部移行した又は中心化し)核を有する線維のパーセンテージ(n=5)。(G)5μm間隔にグループ分けしたTA線維の最小フェレ径(n≧3)。(H) HE及び(an)SDHで染色したTA筋横断面。スケールバー500μm(I)縦断TA筋超微細構造。フェロシアン酸塩でマークしたT管、及びTEMによって取得した像。スケールバー1μm。トライアドの高倍率挿入図。(J)筋肉超微細構造の分析:サルコメアごとに計数したトライアドの頻度;誤局在化T管の頻度。(K)DHPR及びBIN1抗体で染色したTA筋縦断面。画像は共焦点顕微鏡検査によって取得した。スケールバー10μm。(L)抗BIN1及びGAPDH抗体でプローブしたウエスタンブロット(左のパネル)。グラフは、GAPDHに対してBIN1の過剰発現を示す(右のパネル)。統計的検定: T検定; ns:非有意、**p<0.01。
【
図5A-G】MTM1が、哺乳動物筋肉におけるベータ1インテグリン輸送及びフォーカルアドヒージョン機能に不可欠であることを示す図である。Mtm1マウスは、誤局在化ベータ1インテグリンを有する。配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8が本明細書で使用されている。(A)ジストロフィンについて染色した横断WT及びMtm1-/y TA筋。スケールバー10μm。(B)骨格筋におけるフォーカルアドヒージョンのモデル。(C)細胞外マトリクスタンパク質ラミニンについて染色した横断WT及びMtm1-/y TA筋免疫蛍光。スケールバー10μm。(D)細胞外マトリクスタンパク質コラーゲンについて染色した横断WT及びMtm1-/y TA筋免疫蛍光。スケールバー10μm(E)抗ビンクリン及びベータ1インテグリンでプローブした横断WT及びMtm1-/y TA筋免疫蛍光。スケールバー10μm。(F)EEA1及びベータ1インテグリンについて染色したWT及びMtm1-/y TA筋横断面。矢印は、EEA-1陽性エンドソームにおけるベータ1インテグリンの異常な細胞内蓄積を指している。スケールバー10μm及び1μm(ズーム)。(G)抗ベータインテグリン、抗Mtm1及び抗GAPDH抗体でプローブしたWT及びMtm1-/y TA筋(5週齢マウス)のウエスタンブロット(左のパネル)。GAPDHに対して正規化されたベータ1インテグリンレベル倍数発現(右のパネル)。(H)X連鎖性中心核ミオパチー患者(MTM1の変異c. l41-144delAGAA p.Glu48LeufsX24)との、対照ヒト骨格筋からの筋肉横断面の比較。スケールバー20μm。(I)マッソントリクロームで染色した8週WT及びMtm1-/y TA筋。スケールバー10μm。(J)ベータ1インテグリンについてプローブされたWT及びMtm1-/y初代筋芽細胞。スケールバー10μm。(K)抗FAK及び抗p-FAK(Tyr397)抗体でプローブしたWT及びMtm1-/y TA筋(5週齢マウス)のウエスタンブロット。(L)TCEに対して正規化されたFAKの定量化、並びに(M)総FAKに対するp-FAK(Tyr397)の定量化。(N)接着アッセイ:播種後異なる時点の初代筋芽細胞の接着性表面(n>=2マウスからのn≧25)。(O)遊走アッセイ: 24時間中にWT及びMtm1-/y筋芽細胞によって遊走された距離(μm)(n=3マウスからのn≧0)。(P)融合インデックス:分化が開始した後の3つの時点(24、48、72時間)でのWT及びMtm1-/y筋管中の核の数(n>=2マウスからのn≧36)。統計的検定: T検定; ns:非有意、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図5H-P】MTM1が、哺乳動物筋肉におけるベータ1インテグリン輸送及びフォーカルアドヒージョン機能に不可欠であることを示す図である。Mtm1マウスは、誤局在化ベータ1インテグリンを有する。配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8が本明細書で使用されている。(A)ジストロフィンについて染色した横断WT及びMtm1-/y TA筋。スケールバー10μm。(B)骨格筋におけるフォーカルアドヒージョンのモデル。(C)細胞外マトリクスタンパク質ラミニンについて染色した横断WT及びMtm1-/y TA筋免疫蛍光。スケールバー10μm。(D)細胞外マトリクスタンパク質コラーゲンについて染色した横断WT及びMtm1-/y TA筋免疫蛍光。スケールバー10μm(E)抗ビンクリン及びベータ1インテグリンでプローブした横断WT及びMtm1-/y TA筋免疫蛍光。スケールバー10μm。(F)EEA1及びベータ1インテグリンについて染色したWT及びMtm1-/y TA筋横断面。矢印は、EEA-1陽性エンドソームにおけるベータ1インテグリンの異常な細胞内蓄積を指している。スケールバー10μm及び1μm(ズーム)。(G)抗ベータインテグリン、抗Mtm1及び抗GAPDH抗体でプローブしたWT及びMtm1-/y TA筋(5週齢マウス)のウエスタンブロット(左のパネル)。GAPDHに対して正規化されたベータ1インテグリンレベル倍数発現(右のパネル)。(H)X連鎖性中心核ミオパチー患者(MTM1の変異c. l41-144delAGAA p.Glu48LeufsX24)との、対照ヒト骨格筋からの筋肉横断面の比較。スケールバー20μm。(I)マッソントリクロームで染色した8週WT及びMtm1-/y TA筋。スケールバー10μm。(J)ベータ1インテグリンについてプローブされたWT及びMtm1-/y初代筋芽細胞。スケールバー10μm。(K)抗FAK及び抗p-FAK(Tyr397)抗体でプローブしたWT及びMtm1-/y TA筋(5週齢マウス)のウエスタンブロット。(L)TCEに対して正規化されたFAKの定量化、並びに(M)総FAKに対するp-FAK(Tyr397)の定量化。(N)接着アッセイ:播種後異なる時点の初代筋芽細胞の接着性表面(n>=2マウスからのn≧25)。(O)遊走アッセイ: 24時間中にWT及びMtm1-/y筋芽細胞によって遊走された距離(μm)(n=3マウスからのn≧0)。(P)融合インデックス:分化が開始した後の3つの時点(24、48、72時間)でのWT及びMtm1-/y筋管中の核の数(n>=2マウスからのn≧36)。統計的検定: T検定; ns:非有意、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図6A-F】BIN1の過剰発現が、Mtm1-/yマウス筋肉におけるベータ1インテグリンレベル及びフォーカルアドヒージョンをレスキューすることを示す図である。配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8が本明細書で使用されている。(A)細胞外マトリクスタンパク質ラミニンについて染色した8週WT及びMtm1-/y TgBIN1 TA筋横断面免疫蛍光。スケールバー10μm。(B)細胞外マトリクスタンパク質コラーゲンについて染色した8週WT及びMtm1-/y TgBIN1 TA筋横断面免疫蛍光。スケールバー10μm。(C)抗ビンクリン及び抗ベータ1インテグリン抗体でプローブした横断TA筋。スケールバー10μm。(D)対照としてのAAV空を全身注射したWTマウス、及び抗ベータ1インテグリン抗体でプローブしたAAVBIN1を全身注射したMtm1-/yマウスの横断TA筋。スケールバー10μm。(E)ベータ1インテグリン、BIN1及びMTM1(上のパネル)をプローブしたウエスタンブロット。同じゲルのTCEに対して正規化されたベータ1インテグリンの定量化(下のパネル)。(F)FAKをプローブしたウエスタンブロット及びローディング対照としてのブロットのTCE像。(G)トリクロームマッソン染色で染色した8週WT及びMtm1-/y TgBIN1 TA筋横断面。スケールバー10μm。(H)抗ラミニン抗体(上のパネル)でプローブしたウエスタンブロット。TCEに対して正規化したラミニンの定量化(下のパネル)。統計的検定:一元配置Anova、ボンフェローニ事後検定; ns:非有意、*p<0.05、**p<0.01。
【
図6G-H】BIN1の過剰発現が、Mtm1-/yマウス筋肉におけるベータ1インテグリンレベル及びフォーカルアドヒージョンをレスキューすることを示す図である。配列番号27の配列のBIN1アイソフォーム8が本明細書で使用されている。(A)細胞外マトリクスタンパク質ラミニンについて染色した8週WT及びMtm1-/y TgBIN1 TA筋横断面免疫蛍光。スケールバー10μm。(B)細胞外マトリクスタンパク質コラーゲンについて染色した8週WT及びMtm1-/y TgBIN1 TA筋横断面免疫蛍光。スケールバー10μm。(C)抗ビンクリン及び抗ベータ1インテグリン抗体でプローブした横断TA筋。スケールバー10μm。(D)対照としてのAAV空を全身注射したWTマウス、及び抗ベータ1インテグリン抗体でプローブしたAAVBIN1を全身注射したMtm1-/yマウスの横断TA筋。スケールバー10μm。(E)ベータ1インテグリン、BIN1及びMTM1(上のパネル)をプローブしたウエスタンブロット。同じゲルのTCEに対して正規化されたベータ1インテグリンの定量化(下のパネル)。(F)FAKをプローブしたウエスタンブロット及びローディング対照としてのブロットのTCE像。(G)トリクロームマッソン染色で染色した8週WT及びMtm1-/y TgBIN1 TA筋横断面。スケールバー10μm。(H)抗ラミニン抗体(上のパネル)でプローブしたウエスタンブロット。TCEに対して正規化したラミニンの定量化(下のパネル)。統計的検定:一元配置Anova、ボンフェローニ事後検定; ns:非有意、*p<0.05、**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的目的語の1つ又は複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すように本明細書で使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素又は複数の要素を意味する。
【0018】
量、時間的持続等などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用されるとき、「約(About)」又は「およそ(around)」は、指定された値から±20%又は±10%、より好ましくは±5%、更により好ましくは±1%、及び更により好ましくは±0.1%の変動を包含することを意図する。これは、そのような変動が、開示された方法又は組成物を実施するのに適当であるためである。
【0019】
範囲:本開示全体を通して、本発明の様々な態様は範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は、単に便宜上及び簡潔さのためであることが理解されるべきであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではない。
【0020】
したがって、範囲の記載は、全ての可能性のある部分範囲及びその範囲内の個々の数値を具体的に開示しているとみなされるべきである。例えば、1~6等の範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等などの部分範囲、並びにその範囲内の個々の数値、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6を具体的に開示しているとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0021】
本発明によれば、「含む(comprise)」又は「含む(comprising)」という用語(及び他の同等の用語、例えば、「含有する(containing)」、及び「含む(including)」)は「オープンエンド」であり、具体的に述べられた特徴の全て、並びに任意の任意選択の、追加の及び指定されていない特徴が含まれるように一般的に解釈され得る。特定の実施形態によれば、該用語はまた、指定された特徴、並びに請求された発明の基本的及び新規の特性に実質的に影響を与えない任意の任意選択の、追加の及び指定されていない特徴が含まれる「から本質的になる(consisting essentially of')」という句、又は特に明記されない限り、指定された特徴のみが含まれる「からなる(consisting of)」という句として解釈することもできる。
【0022】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基のポリマーを指すのに本明細書で互換的に使用される。該用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマー、並びに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。「ポリペプチド」には、例えば、とりわけ、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴポリペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然のペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0023】
本明細書で使用されるとき、「疾患又は障害を処置する」は、疾患又は障害の症状が患者によって経験される頻度を低下させることを意味する。疾患及び障害は、本明細書で互換的に使用される。該用語が本明細書で使用されるとき、疾患を「処置する」ことは、対象によって経験される疾患又は障害の少なくとも1つの徴候又は症状の頻度又は重症度を低下させることを意味する。本発明の文脈内では、処置という用語は、根治的、対症的、及び予防的処置を表す。本明細書で使用されるとき、疾患の「処置」という用語は、対象(又は患者)の寿命を延ばすことが意図された、治療及び疾患進行の遅延等の任意の行為を指す。処置は、疾患を根絶する、疾患の進行を止める、及び/又は疾患の退縮を促進するように設計され得る。疾患の「処置」という用語はまた、筋緊張低下及び筋力低下等の、疾患に関連する症状を減少させることが意図された任意の行為も指す。より具体的には、本発明による処置は、XLCNM表現型若しくは症状の出現を遅らせ、又はXLCNM表現型若しくは症状を逆戻りさせ、運動及び/若しくは筋肉挙動並びに/又は寿命を改善することが意図される。
【0024】
疾患若しくは障害の症状の重症度、そのような症状が患者によって経験される頻度、又は両方が低下するならば、疾患又は障害は「緩和される」。「治療的」処置は、病変の徴候を示す対象に、それらの徴候の少なくとも1つ又は全てを減らす又は排除する目的で施される処置である。
【0025】
「治療的に有効な量」という句は、本明細書で使用されるとき、対象への有益な効果の提供又はそのような疾患の症状の緩和を含む、疾患又は障害を予防又は処置する(疾患又は障害の発症を遅らせる又は予防する、疾患又は障害の進行を予防する、疾患又は障害を抑制、減少又は好転させる)のに十分又は有効である量を指す。
【0026】
「患者」、「対象」、「個体」等という用語は、本明細書で互換的に使用され、インビトロがインサイチュかにかかわらず、本明細書に記載された方法に適した任意の動物、又はその細胞を指す。特定の非限定的な実施形態において、患者、対象又は個体はヒトである。好ましくは対象は、年齢又は性別が何であれ、ヒト患者である。新生児、乳児、小児も同様に含まれる。
【0027】
「コードする」は、ヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNA及びmRNA)の定義された配列又はアミノ酸の定義された配列のいずれかを有する、生物学的プロセスにおいて他のポリマー及び高分子を合成するための鋳型として機能する、遺伝子、cDNA、又はmRNA等のポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の特性、及びそこから生じる生物学的特性を指す。故に、遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が、細胞又は他の生物系でタンパク質を産生するならば、その遺伝子は該タンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列はmRNA配列と同一であり、通常、配列表に提供される)、及び遺伝子又はcDNAの転写の鋳型として使用される非コード鎖は両方とも、その遺伝子又はcDNAのタンパク質又は他の産物をコードするとみなすことができる。
【0028】
「発現ベクター」は、本明細書では構築物と呼ばれることもある、発現されるヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用エレメントを含む。発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって又はインビトロ発現系で供給され得る。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み込むコスミド、プラスミド(例えば、裸の又はリポソームに含有された)、及びウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)等の当技術分野で公知の全てのものが含まれる。故に、「ベクター」という用語には、自己複製プラスミド又はウイルスが含まれる。該用語はまた、細胞への核酸の導入を容易にする、例えば、ポリリジン化合物、リポソーム等などの非プラスミド及び非ウイルス化合物を含むとも解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が含まれるが、これらに限定されない。構築物はそれ故に、発現ベクターに組み込まれる。
【0029】
「相同な」は、2つのポリペプチド間、又は2つの核酸分子間の配列類似性又は配列同一性を指す。2つの比較される配列の両方における位置が、同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子の各々における位置がアデニンによって占められているならば、分子はその位置において相同である。2つの配列間の相同性のパーセントは、2つの配列によるマッチング位置又は共有される相同な位置の数を、比較される位置の数で徐し、×100した関数である。例えば、2つの配列中の位置の10個中6個がマッチする又は相同であるならば、2つの配列は60%相同である。例として、DNA配列ATTGCC及びTATGGCは50%の相同性を共有する。一般的に、比較は、2つの配列が最大相同性を得るように整列される場合になされる。2つのヌクレオチド(又はアミノ酸)配列間の「相同性の%」は、最適な比較のためにこれらの配列をアラインメントしたときに決定することができる。アラインメントが同じ又は類似した長さの配列を使用して行われるならば、配列の最適なアラインメントは、本明細書では好ましくは、グローバル相同性アラインメントアルゴリズム、例えば、Needleman及びWunschによって記載されたアルゴリズム(Journal of Molecular Biology; 1970、48(3): 443~53頁)等によって、このアルゴリズムのコンピュータ実装(例えば、DNASTAR (登録商標) Lasergeneソフトウェアを使用した)によって、又は目視検査等によって実施され得る。或いは、アラインメントが異なる長さの配列を使用して行われるならば、配列の最適なアラインメントは、ローカル相同性アラインメントアルゴリズム、例えば、Smith及びWatersonによって記載されたアルゴリズム(Journal of Molecular Biology; 1981、147: 195~197頁)等によって、このアルゴリズムのコンピュータ実装(例えば、DNASTAR (登録商標) Lasergeneソフトウェアを使用した)によって、又は目視検査によって好ましくは実施され得る。グローバル及びローカル相同性アラインメントアルゴリズムの例は当業者に周知であり、限定するものではないが、ClustalV(グローバルアラインメント)、ClustalW(ローカルアラインメント)、及びBLAST(ローカルアラインメント)が含まれる。
【0030】
「単離された」は、天然の状態から変更された又は取り出された状態を意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸又はペプチドは、「単離され」ていないが、天然の状態の共存する物質から部分的又は完全に分離された同じ核酸又はペプチドは、「単離されている」。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在してもよく、又は例えば、宿主細胞等の非天然環境中に存在してもよい。
【0031】
本発明の文脈において、普通に存在する核酸塩基に対して以下の略号が使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」シトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、及び「U」はウリジンを指す。
【0032】
特に指定されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードする全ての全てのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質又はRNAをコードするヌクレオチド配列という句には、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が一部の型でイントロンを含有し得る限り、イントロンも含まれ得る。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれか)を指す。核酸、核酸配列、及びポリヌクレオチドは、本明細書で使用されるとき、交換可能である。故に、この用語には、一本鎖、二本鎖若しくは多重鎖DNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、又はプリン及びピリミジン塩基を含むポリマー、又は他の天然の、化学的又は生化学的に修飾された、非天然の、若しくは誘導されたヌクレオチド塩基が含まれるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドの骨格は、糖及びリン酸基(典型的にはRNA又はDNAで見出され得るように)、又は修飾若しくは置換された糖若しくはリン酸基を含んでもよい。或いは、ポリヌクレオチドの骨格は、ホスホルアミデート等の合成サブユニットのポリマーを含んでもよく、故に、オリゴデオキシヌクレオシドホスホルアミデート(P-NH2)又は混合ホスホルアミデートホスホジエステルオリゴマーであってもよい。本発明の核酸は、化学合成、組換え、及び突然変異誘発を含む、当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。好ましい実施形態において、本発明の核酸は、DNA分子、好ましくは二本鎖DNA分子であり、当業者に周知の組換え方法、例えば、通常のクローニング技術及びPCR(商標)等を使用した、組換えライブラリー又は細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング等によって、及び合成手段によって好ましくは合成される。
【0034】
「プロモーター」という用語は、本明細書で使用されるとき、細胞の合成機構、又は導入された合成機構によって認識される、ポリヌクレオチド配列の特定の転写を開始するのに必要なDNA配列として定義される。
【0035】
本明細書で使用されるとき、「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調節配列に作動可能に連結された遺伝子産物の発現に必要な核酸配列を意味する。一部の例では、この配列はコアプロモーター配列であってもよく、他の例では、この配列は、遺伝子産物の発現に必要なエンハンサー配列及び他の調節エレメントも含んでもよい。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的に遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0036】
「恒常性(constitutive)」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は指定するポリヌクレオチドと作動可能に連結される場合、細胞のほとんど又は全ての生理的条件下で、細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0037】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は指定するポリヌクレオチドと作動可能に連結される場合、実質的に、プロモーターに対応するインデューサーが細胞中に存在している場合にのみ、細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0038】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子がコードする又は遺伝子によって指定されるポリヌクレオチドと作動可能に連結される場合、実質的に、細胞がプロモーターに対応する組織タイプの細胞である場合にのみ、細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0039】
ヒトBIN1発現は、Mtm1KOマウスによって示されるミオパチーをレスキューすることができ、これにより、XLCNMを処置するための有効な作用物質になる。この方法は、筋力、筋肉のサイズ、及び機能の持続的改善をもたらすことができる。
【0040】
ヒトBIN1遺伝子は、染色体2 NC 000002.12位置の塩基対127048023から塩基対127107400に位置する。BIN1遺伝子又は遺伝子産物は、AMPH2、AMPHL、SH3P9を含むがこれらに限定されない他の名称によっても知られている。cDNA BIN1完全長は、ヒトで見出される最も長いアイソフォームに対応し、19個のエクソンを包含する。前記BIN1配列は配列番号1によって表され、筋肉特異的エクソン11を含有せず、故に筋肉で天然に発現されない。しかし、本発明の文脈において、エクソン11の存在は必須ではない。BIN1はDNA上に合計20個のエクソンを有するが、これらのエクソンがヒトのRNAレベルで一斉に見出されることは決してない(20個のエクソンは全て、本発明に従って使用され得るが)。配列番号1によって表される配列の一部、又はBIN1の少なくとも2個若しくは3個の異なるエクソン1~20 (それぞれ、配列番号3~22)の任意の組み合わせ、より好ましくは、エクソン1~20の昇順番号付け(increasing numbering)によるBIN1の少なくとも2個若しくは3個の異なるエクソン1~20 (それぞれ、配列番号3~22)の任意の組み合わせが、本発明に従って使用され得る。「エクソンの昇順番号による」は、エクソンがその連続順、又は換言すれば番号順に従って組み合わされることを意味することを当業者は容易に理解するであろう。好ましくは、本発明のBIN1核酸配列に存在するエクソンの数は、配列番号3~22によって表される、及びより好ましくは該配列内の前記エクソン1~20の昇順番号付けによる20個のBIN1エクソンから選択される3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、又は20個のエクソンである。例えば、以下の配列が本発明に従って使用されてもよい:少なくともエクソン1~6及び8~11を含む人工cDNA配列(配列番号23)、少なくともエクソン1~6、8~10、12、及び17~20を含むcDNA(配列番号25;長いアイソフォーム9とも称される)、少なくともエクソン1~6、8~10、12、及び18~20を含むcDNA (配列番号31;短いアイソフォーム9とも称される)、少なくともエクソン1~6、8~12、及び18~20を含むcDNA(配列番号27;アイソフォーム8とも称される-エクソン17なし、筋肉特異的エクソン11を含有するBIN1の短い筋肉アイソフォームである)、又は少なくともエクソン1~6、8~12、及び17~20を含むcDNA(配列番号29;アイソフォーム8とも称される-エクソン17あり、筋肉特異的エクソン11を含有するBIN1の長い筋肉アイソフォームであり、NCBIアイソフォーム8に対応する)。本発明に従って使用されるBIN1核酸配列は、本発明のアンフィファイジン2ポリペプチドをコードすることができる。本発明による特に好ましいBIN1核酸は、少なくともエクソン1~6、8~10、12、及び17~20を含むcDNA(配列番号25;長いアイソフォーム9とも称される)であり、並びに少なくともエクソン1~6、8~12、及び18~20を含むcDNA(配列番号27;アイソフォーム8とも称される-エクソン17なし、筋肉特異的エクソン11を含有するBIN1の短い筋肉アイソフォームである)である。
【0041】
上述の通り、BIN1の様々な組織特異的アイソフォーム又は転写変異体があり、その中で、骨格筋特異的に見出されるアイソフォームは、ホスホイノシチド(PI)結合ドメインを含有するアイソフォーム8である。前記cDNAアイソフォーム8は、配列番号27又は配列番号29によって表され、対応するタンパク質は、配列番号28又は配列番号30によって表される。
【0042】
本発明の天然のヒトアンフィファイジン2タンパク質は、593アミノ酸長である。該タンパク質は、BIN1遺伝子(Gene ID 274)によってコードされる。アンフィファイジン2タンパク質は、BIN1、AMPH2、AMPHL、SH3P9を含むがこれらに限定されない他の名称によっても知られている。前記タンパク質は、配列番号2によって表される。上述の通り、BIN1遺伝子の様々な組織特異的アイソフォームがある。配列番号2によって表される配列の一部、又は少なくとも2個若しくは3個の異なるBIN1エクソン1~20の任意の組み合わせから得られる若しくは該組み合わせによってコードされる、より好ましくは、BIN1エクソン1~20の昇順番号付けによる少なくとも2個若しくは3個の異なるBIN1エクソン1~20 (それぞれ、配列番号3~22)の任意の組み合わせから得られる若しくは該組み合わせによってコードされる任意のポリペプチド配列が、本発明に従って使用されてもよい。特定の実施形態によれば、XLCNMの処置に有用なアンフィファイジン2ポリペプチドは、配列番号2、24、26、28、30又は32によって表されるアミノ酸配列を含む。本発明による特に好ましいアンフィファイジン2ポリペプチドは、配列番号26又は28によって表されるアミノ酸配列を含む。
【0043】
1つの態様において、本明細書に開示されたアンフィファイジン2タンパク質は、配列番号2、24、26、28、30若しくは32に対して少なくとも90%同一な(又は相同な)アミノ酸配列、又はその生物活性断片若しくは変異体を含む。一部の実施形態において、アンフィファイジン2は、配列番号2、24、26、28、30又は32に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%同一なアミノ酸配列を含み、593アミノ酸長若しくは593アミノ酸長未満であり、又はその生物活性断片若しくは変異体である。
【0044】
本明細書で使用されるとき、本明細書に開示されたアンフィファイジン2は、上記のように593アミノ酸長であり、配列番号2によって表されるヒトアンフィファイジン2の天然に存在するタンパク質の様々なアイソフォーム、断片、変異体、融合タンパク質、及び修飾された形態を含み得る。天然に存在するアンフィファイジン2ポリペプチドそのようなアイソフォーム、断片又は変異体、融合タンパク質、及び修飾された形態は、天然に存在するポリペプチドに対して実質的な配列同一性のアミノ酸配列の少なくとも一部を有し、天然に存在するアンフィファイジン2ポリペプチドの少なくとも1つの機能を保持する。
【0045】
特定の実施形態において、天然に存在するアンフィファイジン2ポリペプチドの生物活性断片、変異体、又は融合タンパク質は、配列番号2、26、28、30又は32の天然に存在するアンフィファイジン2に対して少なくとも80%、85%、好ましくは少なくとも90%、95%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。本明細書で使用されるとき、「断片」又は「変異体」は、本明細書に記載の「生物活性」を示す生物活性断片又は生物活性変異体を含むと理解される。すなわち、アンフィファイジン2の生物活性断片又は変異体は、測定及びテストすることができる生物活性を示す。例えば、生物活性断片又は変異体は、天然の(すなわち、野生型、又は通常の)アンフィファイジン2タンパク質と同じ又は実質的に同じ生物活性を示し、そのような生物活性は、例えば、インビトロで(細胞にトランスフェクションしたとき)若しくはインビボで膜を曲げる又はリモデリングする、又はダイナミン2のような既知のエフェクタータンパク質、若しくはホスホイノシチドのような脂質を結合する、断片又は変異体の能力によって評価することができる。これらの基準のいずれかを評価する方法は本明細書に記載されており、及び/又は以下の参考文献がより具体的に参照されなければならない: Amphiphysin 2(BIN1) and T-tubule biogenesis in muscle._Lee E、Marcucci M、Daniell L、Pypaert M、Weisz OA、Ochoa GC、Farsad K、Wenk MR、De Camilli P. Science. 2002年8月16日;297(5584): 1193~6頁. PMID: 12183633; Regulation of 5 Binl SH3 domain binding by phosphoinositides. _Kojima C、Hashimoto A、Yabuta I、Hirose M、Hashimoto S、Kanaho Y、Sumimoto H、Ikegami T、Sabe H. EMBO J. 2004年11月10日;23(22):4413~22頁. Epub 2004年10月14日 PMID: 15483625; Mutations in amphiphysin 2 (BIN1) disrupt interaction with dynamin 2 and cause autosomal recessive centronuclear myopathy. Nicot AS、Toussaint A、Tosch V、Kretz C、Wallgren-Pettersson C、Iwarsson E、Kingston H、Gamier JM、Biancalana V、Oldfors A、Mandel JL、Laporte J. Nat Genet. 2007年9月;39(9): 1134~9頁. Epub 2007年8月5日)。
【0046】
本発明の文脈において、アンフィファイジン2ポリペプチド、又はその生物活性断片若しくは変異体の機能(又は生物活性)は、以下に記載された実施例に記載されているように、特に、例えば生存、寿命、筋力、筋協調、筋線維/筋肉の超微細構造の組織化、及び/又はフォーカルアドヒージョンの改善を評価することによってテストすることもできる。
【0047】
本明細書で使用されるとき、「実質的に同じ」は、パラメータが比較して測定される対照の少なくとも70%である任意のパラメータ(例えば、上記のような活性又は生物活性)を指す。特定の実施形態において、「実質的に同じ」はまた、パラメータが比較して測定される対照の少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%、100%、102%、105%、又は110%である任意のパラメータ(例えば、活性)も指す。
【0048】
特定の実施形態において、本明細書に開示されたアンフィファイジン2ポリペプチドのいずれかは、インビボでの安定性、インビボでの半減期、取り込み/投与、及び/又は精製の1つ又は複数を増強する1つ又は複数のポリペプチド部分を更に含むキメラポリペプチドで場合により使用するためのものである。
【0049】
本明細書で使用されるとき、BIN1核酸配列は、本発明のタンパク質若しくは断片(上述したもの等)をコードし、及び/又は配列番号1、23、25、27、29若しくは31、若しくはその断片を含有するBIN1核酸配列を含んでもよい。1つの実施形態において、本発明に従って使用され得るBIN1核酸配列は、ストリンジェントな条件下で配列番号1、23、25、27、29又は31の配列にハイブリダイズする。別の実施形態において、本発明は、配列番号1、23、25、27、29又は31の核酸配列に相補的な核酸配列を提供する。更に別の実施形態において、本発明は、本発明の融合タンパク質をコードする核酸配列を提供する。更なる実施形態において、本発明は、本発明のBIN1核酸配列のいずれかの対立遺伝子変異体を提供する。
【0050】
本発明は、筋肉でのBIN1発現を増加させる組成物を提供する。例えば、1つの実施形態において、組成物は、単離されたBIN1核酸配列、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む核酸を含む。本明細書に記載されているように、そのような核酸配列を含む組成物の送達は、筋肉機能を改善する。更に、そのような核酸配列を含む組成物の送達は、XLCNMを有する対象の生存を延長させる。
【0051】
本発明はまた、上記に定義されたアンフィファイジン2ポリペプチド、又は上記に定義された少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む発現ベクターを、薬学的担体と組み合わせて含む医薬組成物に関する。また、開示された前記組成物は、XLCNMの処置における使用のためのものである。
【0052】
本発明は、更に、そのような処置を必要とする対象に、上記に定義された、アンフィファイジン2ポリペプチド、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む発現ベクターの治療的に効率的な量を投与する工程を含む、XLCNMを処置するための方法に関する。
【0053】
最後に、本発明は、XLCNMを処置するための医薬組成物を調製するための、上記に定義された、アンフィファイジン2ポリペプチド、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む発現ベクターの使用に関する。
【0054】
上記に定義された単離された核酸配列又は生物学的に機能的なその断片若しくは変異体は、当技術分野で公知の多くの組換え方法のいずれかを使用して、例えば、標準的な手法(PCR等)を使用して、BIN1遺伝子を発現している細胞からcDNA又はDNAライブラリーをスクリーニングすること、遺伝子を含むことがわかっているベクターから遺伝子を得ること、又は遺伝子を含有する細胞及び組織から直接単離すること等によって得ることができる。或いは、目的とする遺伝子は、クローン化されるよりむしろ合成的に作製されてもよい。
【0055】
本発明はまた、単離されたBIN1核酸配列又は本発明の少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む核酸が挿入され;及びBIN1の発現を指示する1つ又は複数の制御配列に概ね作動可能に連結されるベクターも含む。当技術分野には本発明において有用な適切なベクターが豊富である。それはまた、本発明のベクターで形質転換された核酸構築物又は組換え宿主細胞も指す。
【0056】
要約すると、BIN1核酸配列の発現は、BIN1核酸配列又はその部分をプロモーターに作動可能に連結し、構築物を発現ベクターに組み込むことによって典型的には達成される。使用されるベクターは、複製及び、場合により真核細胞への組み込みに適している。典型的なベクターは、転写及び翻訳ターミネーター、開始配列、並びに所望の核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターを含有する。
【0057】
本発明のベクターはまた、標準的な遺伝子送達プロトコルを使用して遺伝子治療に使用することもできる。遺伝子送達の方法は当技術分野で公知である。例えば、米国特許第5,399,346号;第5,580,859号;又は第5,589,466号参照。別の実施形態において、本発明は、遺伝子治療ベクターを提供する。
【0058】
本発明のBIN1核酸配列は、いくつかのタイプのベクターにクローン化することができる。例えば、核酸は、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、及びコスミドを含むがこれらに限定されないベクターにクローン化することができる。特に目的とするベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、及び配列決定ベクターが含まれる。
【0059】
更に、ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は、当技術分野で周知であり、例えば、Sambrookら(2001、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York)、及び他のウイルス学及び分子生物学マニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、及びレンチウイルスが含まれるが、これらに限定されない。一般に、適切なベクターは、少なくとも1つの生物で機能する複製起点、プロモーター配列、都合の良い制限エンドヌクレアーゼ部位、及び1つ又は複数の選択可能なマーカーを含有する(例えば、WO 01/96584; WO 01/29058;及び米国特許第6,326,193号)。
【0060】
いくつかのウイルスベースの系が、哺乳動物細胞への遺伝子導入用に開発されている。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達系用に都合の良いプラットフォームを提供する。選択された遺伝子は、当技術分野で公知の手法を使用してベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージングすることができる。組換えウイルスは、次いで単離し、インビボ又はエクスビボのいずれかで対象の細胞に送達することができる。いくつかのレトロウイルス系は当技術分野で公知である。一部の実施形態において、アデノウイルスベクターが使用される。いくつかのアデノウイルスベクターが当技術分野で公知である。1つの実施形態において、レンチウイルスベクターが使用される。
【0061】
例えば、レンチウイルス等のレトロウイルス由来のベクターは、導入遺伝子の長期の安定な組み込み及びその娘細胞への伝播を可能にするため、長期遺伝子導入を達成するための適切なツールである。好ましい実施形態において、組成物は、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来のベクターを含む。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、様々な障害を処置するための有力な遺伝子送達ツールになっている。AAVベクターは、病原性の欠如、最小の免疫原性、及び分裂終了細胞を安定及び効率的に形質導入する能力を含む、該ベクターを遺伝子治療に理想的に適合させるいくつかの特徴を持つ。AAVベクター内に含有される特定の遺伝子の発現は、AAV血清型、プロモーター、及び送達方法の適当な組み合わせを選択することによって1つ又は複数の細胞タイプに対して特異的に標的化することができる。
【0062】
1つの実施形態において、BIN1核酸配列はAAVベクター内に含有される。AAVの30を超える天然に存在する血清型が利用可能である。AAVカプシド中の多くの天然の変異体が存在し、骨格筋に特異的に適合された特性を有するAAVの同定及び使用を可能にしている。AAVウイルスは、従来の分子生物学的手法を使用して改変されてもよく、ミオチューブラリン核酸配列の細胞特異的送達、免疫原性の最小化、安定性及び粒子の寿命の調整、効率的な分解、核への正確な送達等のためにこれらの粒子を最適化することが可能になる。
【0063】
ヒト又はヒト以外の霊長類(NHP)から単離され、十分に特徴付けられたAAVの血清型の中で、ヒト血清型2は、遺伝子導入ベクターとして開発された最初のAAVである。ヒト血清型2は、種々の標的組織及び動物モデルでの効率的な遺伝子導入実験用に幅広く使用されている。一部のヒト疾患モデルに対するAAV2ベースのベクターの実験的応用の臨床試験が進行中である。他の有用なAAV血清型には、AAVl、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9及びAAV10が含まれる。
【0064】
1つの実施形態において、本明細書に記載された組成物及び方法において有用なベクターは、少なくとも、選択されたAAV血清型カプシド、例えば、AAV8カプシド、又はその断片をコードする配列を含有する。別の実施形態において、有用なベクターは、少なくとも、選択されたAAV血清型repタンパク質、例えば、AAV8 repタンパク質、又はその断片をコードする配列を含有する。場合により、そのようなベクターは、AAVcap及びrepタンパク質の両方を含有してもよい。
【0065】
本発明のAAVベクターは、AAV5'(逆方向末端反復) ITR及びAAV3' ITRと隣接している上記のようなBIN1核酸配列を含むミニ遺伝子を更に含有してもよい。適切な組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、本明細書に定義されているアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型カプシドタンパク質、又はその断片をコードする核酸配列;機能性rep遺伝子;少なくとも、AAV逆方向末端反復(ITR)及びBIN1核酸配列、又は生物学的に機能的なその断片からなるミニ遺伝子;並びにAAVカプシドタンパク質へのミニ遺伝子のパッケージングを可能にする十分なヘルパー機能を含有する宿主細胞を培養することによって生成される。AAVカプシドにAAVミニ遺伝子をパッケージングするために宿主細胞において培養されるのに必要な成分は、宿主細胞にトランスで提供されてもよい。或いは、必要な成分(例えば、ミニ遺伝子、rep配列、cap配列、及び/又はヘルパー機能)の任意の1つ又は複数は、当業者に公知の方法を使用して必要な成分の1つ又は複数を含有するように改変されている安定な宿主細胞によって提供されてもよい。
【0066】
特定の実施形態において、そのような安定な宿主細胞は、恒常性プロモーターの制御下で必要な成分を含有するであろう。他の実施形態において、必要な成分は誘導性プロモーターの制御下にあってもよい。適切な誘導性及び恒常性プロモーターの例は、本明細書において他の場所で提供され、当技術分野で周知である。更に他の代替において、選択された安定な宿主細胞は、選択された成分を恒常性プロモーターの制御下で、及び他の選択された成分を1つ又は複数の誘導性プロモーターの制御下で含有してもよい。例えば、293細胞(恒常性プロモーターの制御下でE1ヘルパー機能を含有する)由来であるが、誘導性プロモーターの制御下でrep及び/又はcapタンパク質を含有する安定な宿主細胞が生成されてもよい。更に他の安定な宿主細胞が当業者によって生成されてもよい。
【0067】
本発明のrAAVを作製するのに必要なミニ遺伝子、rep配列、cap配列、及びヘルパー機能は、その上に担持された配列を導入する任意の遺伝的エレメントの形態でパッケージング宿主細胞に送達されてもよい。選択された遺伝的エレメントは、本明細書に記載されたもの及び当技術分野で利用可能ないずれか他のものを含む、任意の適切な方法を使用して送達することができる。本発明の任意の実施形態を構築するのに使用される方法は、核酸操作における当業者に公知であり、遺伝子改変、組換え改変、及び合成手法を含む。同様に、rAAVビリオンを生成する方法は周知であり、適切な方法の選択は本発明への制限にならない。
【0068】
特に指定されない限り、AAV ITR、及び本明細書に記載された他の選択されたAAV成分は、限定するものではないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9及びAAV10又は他の既知の若しくはまだ知られていないAAV血清型を含む、任意のAAV血清型の中から容易に選択することができる。これらのITR又は他のAAV成分は、当業者に利用可能な手法を使用してAAV血清型から容易に単離することができる。そのようなAAVは、学術的、商業的、又は公的供給源(例えば、アメリカンタイプカルチャーコレクション、マナッサス、Va.)から単離する又は得ることができる。或いは、AAV配列は、例えば、GenBank、PubMed等などの文献又はデータベースで利用可能なような公開された配列を参照して、合成手段又は他の適切な手段により得ることができる。
【0069】
ミニ遺伝子、少なくとも、ΒIΝ1核酸配列(導入遺伝子)及びその制御配列、並びに5'及び3' AAV逆方向末端反復(ITR)からなる。1つの実施形態において、AAV血清型2のITRが使用される。しかし、他の適切な血清型由来のITRが選択されてもよい。カプシドタンパク質にパッケージングされ、選択された宿主細胞に送達されるのはこのミニ遺伝子である。配列をコードする核酸をコードするBIN1は、宿主細胞での導入遺伝子の転写、翻訳、及び/又は発現を可能にする形で調節成分に作動可能に連結される。
【0070】
ミニ遺伝子について上記に同定された主なエレメントに加えて、AAVベクターは、プラスミドベクターでトランスフェクトされた細胞、又は本発明によって作製されたウイルスに感染した細胞でのその転写、翻訳及び/若しくは発現を可能にする形で導入遺伝子に作動可能に連結された従来の制御エレメントを一般的に含む。本明細書で使用されるとき、「作動可能に連結された」配列は、目的とする遺伝子と隣接する発現制御配列、及びトランスで又は少し離れて作用して目的とする遺伝子を制御する発現制御配列の両方を含む。発現制御配列には、適当な転写開始、終結、プロモーター及びエンハンサー配列;スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナル等の効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(すなわち、コザックコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;並びに所望であれば、コードされた産物の分泌を増強する配列が含まれる。天然、恒常性、誘導性及び/又は組織特異的であるプロモーターを含む非常に多くの発現制御配列が当技術分野で公知であり、利用され得る。追加のプロモーターエレメント、例えば、エンハンサーは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能性エレメントを含有することが最近示された。プロモーターエレメント間の間隔は柔軟であることが多く、そのため、エレメントが互いに対して反転又は移動する場合、プロモーター機能は保存される。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、協同的又は独立的に機能して転写を活性化することができるようである。
【0071】
BIN1の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターは、ウイルスベクターによってトランスフェクト又は感染させようとする細胞集団からの発現細胞の同定及び選択を容易にするための選択可能なマーカー遺伝子若しくはレポーター遺伝子のいずれか又は両方を含有することもできる。他の態様において、選択可能なマーカーは分離しDNA片に担持され、同時トランスフェクション手順で使用されてもよい。選択可能なマーカー及びレポーター遺伝子はいずれも、宿主細胞での発現を可能にするように適当な制御配列と隣接され得る。有用な選択可能なマーカーには、例えば、ネオ等などの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0072】
レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性がある細胞を同定し、制御配列の機能性を評価するのに使用される。一般に、レポーター遺伝子は、レシピエント生物又は組織に存在しないか又は発現されず、発現がいくつかの容易に検出可能な特性、例えば、酵素活性によって表されるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞に導入された後、適切な時点でアッセイされる。適切なレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌アルカリホスファターゼ、又は緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子を含み得る。適切な発現系は周知であり、公知の手法を使用して調製する、又は商業的に入手することができる。一般に、レポーター遺伝子の最も高いレベルの発現を示す最小の5'フランキング領域を含む構築物が、プロモーターとして同定される。そのようなプロモーター領域は、レポーター遺伝子に連結され、プロモーター駆動転写を調節する能力について作用物質を評価するのに使用され得る。
【0073】
1つの実施形態において、組成物は、上記に定義される裸の単離されたBIN1核酸を含み、該単離された核酸は、トランスフェクション促進タンパク質、ウイルス粒子、リポソーム製剤等から本質的に遊離している。例えば裸のDNAを含む、裸の単離された核酸構造物の使用は、筋肉での発現の誘導とうまく機能することは当技術分野で周知である。そのため、本発明は、筋肉への局所送達及び全身投与のためのそのような組成物の使用を包含する(Wuら、2005、Gene Ther、12(6): 477~486頁)。
【0074】
遺伝子を細胞に導入し、発現させる方法は、当技術分野で公知である。発現ベクターの文脈において、ベクターは、当技術分野の任意の方法によって宿主細胞、例えば、哺乳動物、細菌、酵母、又は昆虫細胞容易に導入することができる。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的、又は生物学的手段によって宿主細胞に導入することができる。
【0075】
インビボで使用するために、本発明のヌクレオチドは、リン酸骨格修飾(例えば、ホスホロチオエート結合)等の化学修飾により安定化されてもよい。本発明のヌクレオチドは、遊離(裸の)形態で、若しくは安定性及び/若しくは標的化を増強する送達系、例えば、リポソームの使用によって投与されてもよく、又はハイドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル、生体接着性ミクロスフェア、若しくはタンパク質性ベクター等の他の媒体に組み込まれてもよく、又はカチオン性ペプチドと併用されてもよい。本発明のヌクレオチドはまた、バイオミメティック細胞貫通ペプチドに結合することもできる。本発明のヌクレオチドはまた、その前駆体又はこれをコードするDNAの形態で投与することもできる。
【0076】
ヌクレオチドの化学的に安定化された型には、「モルホリノ「(ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー- PMO)、2'-O-メチルオリゴマー、AcFIN-(RXR BR)2XBペプチドタグ化PMO(R、アルギニン、X、6-アミノヘキサン酸及びB、(登録商標)-アラニン)(PPMO)、トリシクロ-DNA、又は核内低分子(sn) RNAも含まれる。これらの手法は全て、当技術分野で周知である。ヌクレオチドのこれらの型は、内因性BIN1の発現を促進するためのエクソンスキッピングに使用することもできるであろう。
【0077】
非ウイルス送達系が利用される場合、例示的な送達媒体はリポソームである。脂質製剤の使用が、宿主細胞に核酸を導入する(インビトロ、エクスビボ又はインビボで)ために企図される。他の態様において、核酸は脂質と結合されてもよい。脂質と結合された核酸は、リポソームの水性内部にカプセル化され、リポソームの脂質二重層内に分散され、リポソーム及びオリゴヌクレオチドの両方と結合される連結分子を介してリポソームに付加され、リポソームに封入され、リポソームと複合体化され、脂質を含有する溶液に分散され、脂質と混合され、脂質と結合され、懸濁液として脂質中に含有され、ミセルと共に含有若しくは複合体化され、又はさもなければ脂質と結合されてもよい。脂質、脂質/DNA又は脂質/発現ベクター結合組成物は、溶液中のいずれの特定の構造にも限定されない。
【0078】
宿主細胞に外因性核酸を導入する、又はさもなければ本発明のBIN1核酸配列に細胞を曝露するのに使用される方法に関係なく、宿主細胞中の組換えDNA配列の存在を確認するために、様々なアッセイが行われ得る。そのようなアッセイには、例えば、サザン及びノーザンブロッティング、RT-PCR及びPCR等の当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ;例えば、免疫学的手段(ELISA及びウエスタンブロット)又は本発明の範囲内にある作用物質を同定するための本明細書に記載されたアッセイによる、特定のペプチドの存在又は非存在の検出等の「生化学的」アッセイが含まれる。
【0079】
ゲノム編集もまた、本発明によるツールとして使用され得る。ゲノム編集は、人工的に改変されたヌクレアーゼ、又は「分子のハサミ」を使用して、DNAが挿入され、置き換えられ、又はゲノムから除去される遺伝子改変の一種である。ヌクレアーゼは、ゲノムの所望の位置で特異的二本鎖切断(DSB)を作り出し、細胞の内因性機構を利用して、誘導された切断を相同組換え(HR)及び非相同末端結合(NHEJ)の天然のプロセスによって修復する。現在、改変ヌクレアーゼの4つのファミリーが使用されている:ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクター(TALEN)、CRISPR/Casシステム(より具体的には、Nature Methods、第10巻、第10号、2013年10月にP. Maliらによって記載されているようなCas9システム)、又は改変メガヌクレアーゼ再改変ホーミングエンドヌクレアーゼ(engineered meganuclease re-engineered homing endonucleases)。前記ヌクレアーゼは、DNA又はmRNAのいずれかとして細胞に送達することができ、そのようなDNA又はmRNAは、本発明によるBIN1を過剰発現するように改変される。CRISPR/Casシステムは、転写活性化又はエピジェネティック修飾によりBIN1の発現を増強するように、アクチベーター又はレギュレータータンパク質と融合して使用され得る(Vora S、Tuttle M、Cheng J、Church G、FEBS J. 2016年9月;283(17):3181~93頁. doi: 10.1111/febs.l3768. Epub 2016年7月2日 Next stop for the CRISPR revolution: RNA-guided epigenetic regulators)。
【0080】
本発明に従って使用される上記に定義されるヌクレオチドは、DNA前駆体の形態で投与されてもよい。
【0081】
上記に定義されるアンフィファイジン2ポリペプチド(その断片又は変異体を含む)は、従来の固相化学等の当技術分野で公知の手法を使用して化学的に合成することができる。断片又は変異体は、(例えば、化学合成によって)作製され得、例えば、インビトロで(細胞にトランスフェクションしたとき)若しくはインビボで膜を曲げる又はリモデリングする、又はダイナミン2のような既知のエフェクタータンパク質、若しくはホスホイノシチドのような脂質を結合する、又はXLCNMを処置するその能力をテストすることによって、天然のタンパク質と同様に又は実質的に同様に機能することができるそれらの断片又は変異体を同定するためにテストされ得る。
【0082】
特定の実施形態において、本発明は、治療的若しくは予防的有効性、又は安定性(例えば、エクスビボでの有効期間、及びインビボでのタンパク質分解性分解に対する耐性)を増強するといった目的で、アンフィファイジン2ポリペプチドの構造を修飾することを企図する。そのような修飾されたアンフィファイジン2ポリペプチドは、天然に存在する(すなわち、天然の又は野生型)アンフィファイジン2ポリペプチドと同じ又は実質的に同じ生物活性を有する。修飾ポリペプチドは、例えば、1つ又は複数の位置でのアミノ酸置換、欠失、又は付加によって作製することができる。例えば、イソロイシン若しくはバリンとのロイシンの、グルタミン酸とのアスパラギン酸の単独置換、又は構造的に関連するアミノ酸とのアミノ酸の同様の置換(例えば、保存的変異)は、得られた分子の生物学的活性に大した影響を与えないことを例えば予想することが妥当である。保存的置換は、その側鎖において関連するアミノ酸のファミリー内で生じるものである。
【0083】
特定の実施形態において、本発明に従って投与される治療的に有効な量は、XLCNMの徴候の少なくとも1つ若しくは全てを緩和する、又はXLCNMを有する対象の筋肉機能を改善するのに十分な量である。投与されるアンフィファイジン2、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む発現ベクターの量は、当業者に周知の標準的な手順によって決定することができる。適当な投与量を、中心核ミオパチーを示さない対象と場合により比較して決定するために、患者の生理学的データ(例えば年齢、サイズ、及び体重)、投与経路、及び処置される疾患が考慮されなければならない。当業者は、投与されるアンフィファイジン2ポリペプチド、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含むベクターの量は、XLCNMの徴候の少なくとも1つ若しくは全てを処置する、又はXLCNMを有する対象の筋肉機能を改善するのに十分な量となることを認識するであろう。そのような量は、とりわけ、選択されたアンフィファイジン2ポリペプチド若しくはこれを発現するベクター、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列ポリペプチドを含む発現ベクター、患者の性別、年齢、体重、全体的な身体状態等といった要因に依存して変わり得、ケースバイケースで決定され得る。
【0084】
量はまた、処置プロトコルの他の構成要素(例えば、他の医薬品の投与等)によっても変わり得る。一般的に、治療的薬剤が核酸である場合、適切な用量は、約1mg/kg~約100mg/kg、及びより普通には約2mg/kg/日~約10mg/kgの範囲にある。核酸のウイルスベースの送達が選択される場合、適切な用量は、使用されるウイルス、送達経路(筋肉内、静脈内、動脈内又は他の)等の種々の要因に依存するであろうが、典型的には10-9~10-15ウイルス粒子/kgにわたり得る。当業者は、そのようなパラメータが通常は臨床試験中に解明されることを認識するであろう。更に、当業者は、疾患症状は本明細書に記載された処置によって完全に緩和され得るが、これに当てはまる必要はないことを認識するであろう。症状の部分的又は断続的軽減でされ、レシピエントにとって非常に有益となり得る。更に、患者の処置は単一の事象であってもよく、或いは患者は、アンフィファイジン2若しくはこれをコードする核酸、又は少なくとも1つのBIN1核酸配列を含む発現ベクターを複数回投与され、これは、得られた結果に応じて、数日間隔、数週間間隔、又は数ヶ月間隔、又は更には数年間隔であってもよい。
【0085】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の標準的な薬務に従って製剤化される(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (第20版)、A. R. Gennaro、Lippincott Williams & Wilkins編、2000、並びにEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988~1999、Marcel Dekker、New York参照)。
【0086】
可能性のある医薬組成物には、経口、直腸、膣内、粘膜、局所(経皮、口腔及び舌下を含む)、又は非経口(皮下(sc)、筋肉内(im)、静脈内(iv)、動脈内、皮内、胸骨内、注射、又は点滴法を含む)投与に適したものが含まれる。これらの製剤のために、従来の賦形剤が当業者に周知の手法に従って使用されてもよい。
【0087】
特に、筋肉内又は全身投与が好ましい。特に、局所治療効果を提供するために、特定の筋肉又は筋肉内投与経路が好ましい。
【0088】
本発明による医薬組成物は、実質的に投与直後、又は投与後のいずれか所定の時点若しくは期間に活性薬物を放出するように製剤化され得る。
【0089】
配列表
配列番号1
cDNAヒトBIN1アイソフォーム1(最も長いアイソフォーム)
【0090】
【0091】
配列番号2
ヒトBIN1アイソフォーム1(最も長いアイソフォーム)のアミノ酸配列
【0092】
【0093】
配列番号3-エクソン1
【0094】
【0095】
配列番号4-エクソン2
【0096】
【0097】
配列番号5-エクソン3
【0098】
【0099】
配列番号6-エクソン4
【0100】
【0101】
配列番号7-エクソン5
【0102】
【0103】
配列番号8-エクソン6
【0104】
【0105】
配列番号9-エクソン7(骨格筋アイソフォームには存在しない)
【0106】
【0107】
配列番号10-エクソン8
【0108】
【0109】
配列番号11-エクソン9
【0110】
【0111】
配列番号12-エクソン10
【0112】
【0113】
配列番号13-エクソン11(筋肉特異的エクソン)
【0114】
【0115】
配列番号14-エクソン12(骨格筋アイソフォームには存在しない)
【0116】
【0117】
配列番号15-エクソン13(骨格筋アイソフォームには存在しない)
【0118】
【0119】
配列番号16-エクソン14(骨格筋アイソフォームには存在しない)
【0120】
【0121】
配列番号17-エクソン15(骨格筋アイソフォームには存在しない)
【0122】
【0123】
配列番号18-エクソン16(骨格筋アイソフォームには存在しない)
【0124】
【0125】
配列番号19-エクソン17
【0126】
【0127】
配列番号20-エクソン18
【0128】
【0129】
配列番号21-エクソン19
【0130】
【0131】
配列番号22-エクソン20
【0132】
【0133】
配列番号23-エクソン1~6及び8~11を含む人工cDNA配列
【0134】
【0135】
配列番号24
エクソン1~6及び8~11を含む人工cDNA配列に対応するアミノ酸配列
【0136】
【0137】
配列番号25-エクソン1~6、8~10、12、及び17~20を含むcDNA配列-長いアイソフォーム9と称される
【0138】
【0139】
配列番号26
エクソン1~6、8~10、12、及び17~20を含むcDNA配列に対応するアミノ酸配列-長いアイソフォーム9と称される
【0140】
【0141】
配列番号27-エクソン1~6、8~12、及び18~20を含むcDNA -アイソフォーム8と称される-エクソン17なし、筋肉特異的エクソン11を含有するBIN1の短い筋肉アイソフォームである
【0142】
【0143】
配列番号28
アミノ酸配列-アイソフォーム8-エクソン17なし
【0144】
【0145】
配列番号29 -エクソン1~6、8~12、及び17~20を含むcDNA -アイソフォーム8と称される-エクソン17あり、筋肉特異的エクソン11を含有するBIN1の長い筋肉アイソフォームであり、NCBIアイソフォーム8に対応する
【0146】
【0147】
配列番号30
アミノ酸配列アイソフォーム8 -エクソン17あり
【0148】
【0149】
配列番号31 -エクソン1~6; 8~10; 12及び18~20を含む人工cDNA配列-短いアイソフォーム9と称される
【0150】
【0151】
配列番号32 -エクソン1~6、8~10、12、及び18~20を含むcDNA配列に対応するアミノ酸配列-短いアイソフォーム9と称される
【0152】
【0153】
配列番号33 -プライマーBIN1
【0154】
【0155】
配列番号34 -プライマーBIN
【0156】
【0157】
以下の例は、例示の目的のために示され、限定のためではない。
【実施例】
【0158】
略号:
Aa又はAA:アミノ酸; AAV:アデノ随伴ウイルス; DMSO:ジメチルスルホキシド; EDTA:エチレンジアミン四酢酸; HE:ヘマトキシリン-エオシン; KO:ノックアウト; MTM:ミオチューブラリン; MTMR:ミオチューブラリン関連; PPIn:ホスホイノシチド; PtdIns3P:ホスファチジルイノシトール3-リン酸; PtdIns(3,5)P2:ホスファチジルイノシトール3,5-ビスホスフェート; SDH:コハク酸デヒドロゲナーゼ(deshydrogenase); SDS:ドデシル硫酸ナトリウム; TA:前脛骨筋; Tg:トランスジェニック; WT:野生型
【0159】
1. 材料及び方法
1.1.試験設計
各実験の標本サイズは図の説明に含まれる。この試験では、マウス(WT及びMtm1-/yマウス)及び初代筋芽細胞はWT及びMtm1-/y仔マウスから得た。使用するマウスの数は、同じモデルで実施した以前の表現型分析に基づき選択した。Mtm1-/yマウスは2~3ヶ月前に死亡したため、2ヶ月まで分析した。試験した他の遺伝子型(WT、TgBIN1、Mtm1-/y TgBIN1及びAAY-BIN1を全身注射したMtm1-/y)の表現型を決定し、一定の年齢で安楽死させた。ブラインド表現型テストを、マウスWT、TgBIN1、Mtm1-/y TgBIN1及び初代細胞で実施した。各実験は少なくとも3回繰り返した。試験で除外された外れ値はなかった。
【0160】
1.2. Mtm1-/yマウス、及びMtm1-/y Tg BIN1マウスの生成
Mtm1-/yマウス系統(129PAS)は以前に生成され、特徴付けられた(A. Buj-Belloら、Proc Natl Acad Sci U S A 99、15060~15065頁、2002; H. Tasfaoutら、Nat Commun 8、15661頁、2017)。TgBINJ(B6J)マウスは、180.52Kbのゲノム配列を含む完全BIN1遺伝子を包含するヒトBAC (n° RP11-437K23 Grch37 Chr2: 127761089~127941604)を挿入して得た。Mtm1ヘテロ接合体メスマウスをTgBIN1オスと交配して4つの遺伝子型: WT、TgBIN1、Mtm1-/y TgBIN1及びMtm1-/yを生成した。動物を12時間明サイクル/12時間暗サイクルにより室温で維持した。倫理委員会によって承認された動物実験及び実験に関する欧州法(APAFIS#5640-2016061019332648; Com'Eth 01594、2016031110589922)に従って、動物を頸椎脱臼によって安楽死させた。
【0161】
1.3. 動物の表現型
動物テストを、3週齢~16週齢までは毎週、4ヶ月齢~12ヶ月齢までは毎月行った。懸垂テスト:マウスをケージの蓋に60秒間ぶら下げた。テストを平均3回繰り返した;握力テスト:四肢筋力を動力計を使用して測定し、3回繰り返しの平均を検討した。結果はグラム体重(g)に対する力(g)として表す;ロータロッドテスト:マウスは該テストを5日間行った。1日目、マウスに走る訓練をさせた。2日目~5日目、加速しながら(4~40rpm)最大5分間マウスを走らせた;棒テスト:マウスを懸垂棒の上に置いた。棒に沿って歩く時間を測定した;フットプリントテスト:マウス2匹の後ろ足をインクで着色し、マウスに白い紙の上を歩かせた。ImageJを使用してフットプリントパターンの角度を測定した。
【0162】
1.4.筋力測定
マウスに腹腔内注射によるペントバルビタール(Pentobarbitol)(50mg/kg)を使用して麻酔をかけ、前脛骨筋(TA)の筋力を、力変換器(Aurora Scientific社)を使用して以前に記載されているように測定した(H. Tasfaoutら、Nat Commun 8、15661頁、2017)。パルス頻度1~125Hzで座骨神経のテタヌス刺激後に、TA絶対最大筋力を測定した。最大比筋力は、絶対最大筋力をTA筋量で徐して決定した。座骨神経を50Hzの頻度で連続的に刺激して疲労を測定した。
【0163】
1.5. TA筋のAAV形質導入及び全身性形質導入
1.5.1.筋肉内注射
3週齢オス野生型及びMtm1-/y 129PASマウスに、ケタミン(20mg/ml)及びキシラジン0.4%(5μL/g体重)の腹腔内注射によって麻酔をかけた。TA筋に、エクソン17がないAAV9-CMV-BIN1アイソフォーム8(配列番号27)20μΤ/g又はPBS溶液に希釈したAAV9空対照を注射した。注射濃度は、約7×10^11vg/mLであった。
【0164】
1.5.2.全身性注射
仔マウスに生後最初の24時間以内に注射した。容量50μLのAAV-CMV-BIN1アイソフォーム8エクソン17なし(配列番号27)又はAAV9空対照をi.pにより注射した。注射濃度はwas 10^13vg/mLであった。仔マウスを母親と共にすぐにケージに収容した。
【0165】
1.5.3.他のAAVBIN1ウイルスベクター
アイソフォーム8以外のBIN1の天然のアイソフォーム、又は人工cDNA BIN1構築物を含む代替のAAVウイルスベクター(本出願に記載されている)を作製し、テストした(特に、配列番号25によって表されるBIN1の長いアイソフォーム9)。
【0166】
1.6.組織採取
頸椎脱臼を使用して、二酸化炭素窒息後にマウスを致死させた。TA及びGAS(腓腹筋(gastronecmius))を抽出し、次いで液体窒素で冷却した冷イソペンタン中で凍結した。横隔膜を採取し、ドライアイス中のOCTで直接凍結した。心臓、肝臓及び脳を採取し、液体窒素中で直接凍結した。全ての組織を次いで-80℃で保存した。
【0167】
1.7.組織像
TA、GAS及び横隔膜の8μmスライド(凍結切片)をクライオスタットで切断し、次いでヘマトキシリン及びエオシン(HE)並びにコハク酸脱水素酵素(SDH)で組織学的分析用に染色した。染色後、画像をHamamatsu Nano Zoomer 2HTスライドスキャナーで取得した。内部移行した核のパーセンテージを、FijiソフトウェアのCellカウンタープラグインを使用して計数した。マクロを使用してTA線維径を測定した。TA線維メートルを、1群あたり3~5匹に対して計算した(マウス1匹あたり500線維)。中心化した又は内部移行した核を有するTA筋線維のパーセンテージを、Imageの細胞カウンタープラグインを使用して線維500本で計数した。
【0168】
1.8.免疫染色
横断面をイソペンタン中で凍結したTAから得、次いでクライオスタットで8μmで切断した。縦断染色のために、TAをPFAで4℃、一晩インキュベートし、3 PBS 1×洗浄後、30%スクロースに4℃で一晩移した。断面をPBS-Triton 0.5%で透過処理し、次いでPBS中BSA 5%でブロックした。
【0169】
BSA 1%に希釈した使用した一次抗体は、ジストロフィン(ab15277、Abcam社)、ラミニン(ab11575、Abcam社; 1:200)、EEA1(sc-137130、Santa Cruz Biotechnology、Inc.社; 1:50)、アルファ7インテグリン(ab195959、Abcam社; 1:50)、ベータ1インテグリン(MAB1997、Chemicon社; 1:50)、ビンクリン(V9131、Sigma社; 1:200)、DHPR1a(abcam2862. 1:50、Abcam社; 1:50)、BIN1(C99D、Abcam社; 1:50)、抗BIN1(R2405、IGBMC)、GAPDH(MAB374、Chemicon社)、コラーゲンVI(NB120-6588、Novus Biologicals社)、FAK (3285S、Cell Signaling社)、pY397FAK(44-624G、Invitrogen社)、ローダミンファロイジン(PHDR1、Cytoskeleton社)、ウサギ抗DNM2抗体(R2680及びR2865、IGBMC)であった。
【0170】
アレクサフルオロコンジュゲート二次抗体をInvitrogen社から購入した:アレクサフルオロ488(AA11001及びA11008)、アレクサフルオロ594(A11005及びA1112)及びアレクサフルオロ647(A32728)。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートしたマウス及びウサギIgGに対する二次抗体を、Jackson ImmunoResearch Laboratories社から購入した。ECLキットはPierce社から購入した。二次抗体を1%BSAに1:250希釈した。
【0171】
1.9.電子顕微鏡検査
TAを、0.1Mカコジル酸緩衝液中2.5%パラホルムアルデヒド、2.5%グルタルアルデヒドで保存した。断面を電子顕微鏡検査(EM)により観察した。T管を観察するために、フェロシアン化カリウムを緩衝液(K3Fe(CN) 6 0.8%、オスミウム2%、カコジル酸0.1M)に添加した。1サルコメアあたりのトライアド数及びT管の方向を手動で測定した。
【0172】
1.10. RNA抽出及びBIN1アイソフォーム8検出
TAをTRIzol試薬(Invitrogen社、UK)に溶解してRNAを抽出し、逆転写酵素(Thermofisher Scientific社)を使用してcDNAを得た。Mtm1-/y Tg BIN1マウスで過剰発現されたヒトBIN1アイソフォームを同定するために、ヒトBIN1プライマー(配列番号33: ACGGCGGGAAAGATCGCCAG、配列番号34: TTGTGCTGGTTCCAGTCGCT)を使用してBIN1 cDNAを増幅した。ヒトBIN1 cDNAをpENTR1 Aベクターにクローン化し、次いでGATCサービス(ドイツ)を使用して配列決定した。
【0173】
1.11.タンパク質抽出及びウエスタンブロッティング
TA筋を、DMSO 1mM、PMSF 1mM及びミニEDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル錠(Roche Diagnostic社)を含むRIPA緩衝液に氷上で溶解した。BIO-RAD Protein Assay Kit(BIO-RAD社)を使用してタンパク質濃度を測定した。全てのトリプトファン含有タンパク質を可視化するために、ローディング緩衝液(50mM Tris-HCl、2%SDS、10%グリセロール)をタンパク質溶解物に添加し、2,2,2-トリクロロエタノール(TCE、Aldrich社)を含有するSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動でタンパク質を8%>又は10%分離した。ニトロセルロースに移した後、3%BSA又は5%ミルクで飽和を行い、一次抗体及び二次抗体を添加した:ベータ1インテグリン(MAB1997、1:500)、ビンクリン(V9131、1:1000)、BIN1(2405、1:1000; IGBMC)、MTM1(2827、1:1000; IGBMC)、GAPDH(MAB374、1:100000)。
【0174】
1.12.初代筋芽細胞
WT及びMtm1-/y新生マウス由来の初代筋芽細胞を、以前に記載されているように調製した。抽出後、初代細胞を、1:200 マトリゲル Reduced Factor(BD社)及びラミニン(354232、Corning社)上に20%FCS及び1%ニワトリ胚抽出物(MP Biomedical社)を含むIMDMに播種した。
【0175】
1.13.初代筋芽細胞接着実験
実験は、Ratcliffeら、Traffic 17、670~688頁(2016)から適合させたプロトコルに従って実施した。WT及びMtm1-/y初代筋芽細胞をトリプシン処理し、20%FCS及び1%ニワトリ胚抽出物を含むIMDMに再懸濁した。2.5×104初代筋芽細胞を500μl培地に希釈し、ラミニンコートディッシュに播種した。細胞を10、20、30及び60分間接着させた。初代筋芽細胞を次いで温めた培地で洗浄し、4%PFAで固定した。免疫蛍光を実施し、細胞をローダミンファロイジン(Cystoskeleton社)で染色した。共焦点取得後、ImageJプログラムを使用して細胞表面を測定した。
【0176】
1.14.初代筋芽細胞融合インデックス
初代筋芽細胞を4×104でマトリゲルに播種した。細胞が70%に達したら、2%ウマ血清を含むIMDMに培地を交換して初代筋芽細胞分化を誘発し、24時間後、厚層マトリゲル(IMDM中1:3)を添加した。分化後24、48及び72時間時点で、明視野像を生きている筋管で取得した。
【0177】
1.15.初代筋芽細胞の遊走
2×104初代筋芽細胞を、ラミニンコートディッシュで20%FCS及び1%ニワトリ胚抽出物を含むIMDMに播した。細胞の遊走をタイムラプスLeica顕微鏡で24時間観察し、15分ごとに撮像した。Fijiプログラムを使用して遊走速度を測定した。
【0178】
1.16.統計解析
データを平均±標準誤差として表す。グラフ及び曲線は、GraphPad Prismソフトウェア、バージョン5及び6を使用して作成した。対応のないスチューデントT検定を使用して2つの群を解析した;一元配置ANOVA及びボンフェローニ検定を使用して異なる群を比較した。0.05より小さいP値を有意とみなした。マウスの数を実験ごとに図の説明に記載する。
【0179】
2.結果
2.1.ヒトBIN1の過剰発現はMtm1-/y生存をレスキューする
Mtm1-/yマウスは、以前に報告されているように、XLCNMに似た重度及び進行性の骨格筋表現型のため最初の2ヶ月以内に死亡する(Buj-Bello Aら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2002年11月12日;99(23):15060~5頁. Epub 2002年10月21日)。BIN1の過剰発現が、Mtm1-/yマウスの生存をレスキューし得るかどうかをテストするために、ヒトBIN1遺伝子を含有するヒト細菌人工染色体(BAC)をそのフランキング配列と共にマウスゲノムに挿入して、ヒトBIN1遺伝子(Tg BIN1)を発現するトランスジェニックマウスを作出した。脛骨(TA)筋からのRT-PCR、クローニング及び配列決定は、主な筋肉アイソフォームであるヒトBIN1アイソフォーム8の存在を示した(データ不掲載)。BIN1の約4倍の過剰発現が見出された(
図1D~1E)。TgBIN1マウスは、明白な運動表現型なしに生存可能であった(データ不掲載)。筋肉異常から出生時に死亡したBIN1-/-マウスとTgBIN1を交配すると、致死を効率的にレスキューした。4ヶ月時点でWTとBIN1-/-TgBIN1マウスの間に体重、前脛骨筋(TA)量及び比筋力の差は観察されず(データ不掲載)、ヒトBIN1がマウス背景において機能性であることを示した。驚くべきことに、ほとんどのMtm1-/y Tg BIN1マウスが、対照遺伝子型WT及びTg BIN1と同様に12ヶ月を超えて(少なくとも2年齢)生存したが、Mtm1-/yマウスは2ヶ月齢前に死亡した(
図1A)。更に、24ヶ月の寿命を通じてWT、Tg BIN1及びMtm1-/y Tg BIN1マウスの間に体重の差は認められなかったが、Mtm1-/yマウスは同等齢での体重が有意に軽かった(
図IB)。これらの結果は、BIN1の増加が、Mtm1-/yマウスの早期致死をレスキューすることを示唆している。
【0180】
BIN1レベルは、WTと比べてMtm1-/y Tg BIN1マウスで約4倍増加した(
図1D~1E)。これらの結果は、BIN1の発現増加が、Mtm1-/yマウスで観察される出生後致死及び成長異常をレスキューすることを示している。
【0181】
2.2. BIN1の過剰発現はMtm1-/yマウスにおける筋力及び筋協調をレスキューする
Mtm1-/yマウスにおけるBIN1の過剰発現がMtm1-/yマウスの寿命をレスキューするため、次いで生存が総筋力の改善と相関するかどうかを調査した。様々な機能テストを4つの遺伝子型全てにおいて行った。懸垂テストは、マウスが格子に60秒間ぶら下がる必要がある。Mtm1-/yマウスはこのテストを行えなかったのに対し、Mtm1-/y Tg BIN1マウスは、WT及びTg BIN1マウスと同様にテストを完遂することができた(
図1C)。握力テストは、肢の最大筋力を理解するために行った。4ヶ月齢後でのみ、わずかな減少がWT及びTg BIN1マウスと比較したMtm1-/y Tg BIN1マウスで同定された(データ不掲載)。全体的な運動協調は、Mtm1-/yマウスにおけるBIN1の過剰発現のおかげでレスキューされたのかどうかを評価するために、ロータロッド、フットプリント及び棒テストを5週齢及び5ヶ月齢で行った。ロータロッドは4日間行い、マウスを増加加速(crescent acceleration)で最大5分間走らせ、マウスが走ることができた時間を登録した。5週齢時点でWT、Tg BIN1及びMtm1-/y Tg BIN1マウスは試験の4日間、2~3分走ることができ、棒テストを完璧に完遂したが、whilst Mtm1-/yマウスは時間とともにパフォーマンスが低下し、ロータロッドテストで最大50秒になった(データ不掲載)。特に、5週時点で、Mtm1-/yマウスは、懸垂(全身の筋力)、ロータロッド(運動に対する協調及び耐性)、棒歩行(マウスは棒の上を歩行できなかった)、及びフットプリント(協調)テストで強い欠陥を示した(
図1C、及びデータ不掲載)。5ヶ月時点で、Mtm1-/y Tg BIN1マウスは全てのテスト(懸垂、ロータロッド、及びフットプリント)を依然として遂行することができ、4日間の試験期間中ロータロッドに費やす時間がわずかに改善し(
図1C、及びデータ不掲載)、運動機能の長期改善を示した。
【0182】
通常は強い筋萎縮を示すMtm1-/yマウスにおけるBIN1の発現増加は、TA筋萎縮をWTレベルまでレスキューした(
図IF)。TA筋のインサイチュで測定した比筋力は、2ヶ月時点のMtm1-/yマウスで極めて低く、2、7及び24ヶ月齢Mtm1-/y TgBIN1マウスではWTレベルまでレスキューした(
図1G、及びデータ不掲載)。連続刺激中の筋肉消耗時間は、2及び7ヶ月齢時点のMtm1-/y TgBIN1とWTマウスの間で類似していた(データ不掲載)。全体的に、Mtm1-/yマウスの重度の協調及び筋力低下表現型は、Mtm1-/yマウスにおけるBIN1の過剰発現によって完全にレスキューされた。
【0183】
2.3. XLCNMの組織学的特徴はMtm1-/yマウスにおけるBIN1の過剰発現によってレスキューされる
8週齢時点で、Mtm1-/y TA筋は、酸化染色の異常な筋細胞膜下及び中心部蓄積を伴う小さい丸みを帯びた線維を示す(
図2A)。線維サイズ分布(最フェレ径)は、小さい線維に偏った(ピーク径20~25μm)が、Mtm1-/y Tg BIN1では、WT及びTg BIN1筋肉と類似の25~30μmまで増加した(
図2C)。Mtm1-/y TA筋は、核位置(内部移行し、中心化した核を含む)が異常な約20-30%の線維を示したのに対し、Mtm1-/y Tg BIN1は異常な核が2%のみであり、WTと区別がつかなかった(
図2B)。Mtm1-/yマウスでの類似の異常が他の筋肉(腓腹筋、横隔膜(diahphragm))で見出され、Mtm1-/y TgBIN1マウスではWTレベルまで効率的にレスキューされた(データ不掲載)。その後、7ヶ月齢時点で、Mtm1-/y TgBIN1マウスとWTマウスの間でTA及び腓腹筋に差は見出されなかった(データ不掲載)。要約すると、Mtm1-/y Tg BIN1のTA筋力及び組織像は、BIN1の過剰発現が、マウスにおけるXLCNMの主な組織学的な筋肉の特徴をレスキューすることを支持した。
【0184】
2.4. Mtm1-/yマウスにおけるBIN1レベルの増加は筋肉TA超微細構造を改善する
Mtm1-/y Tg BIN1マウスがWT対照と同じくらい強く、TA筋組織像に異常がないという結果に基づき、筋肉の組織化がMtm1-/y Tg BIN1でレスキューされるかどうかをチェックした。WT、Tg BIN1、Mtm1-/y及びMtm1-/y Tg BIN1マウスのTA筋断面像を、透過電子顕微鏡検査(TEM)によって8週齢で取得して、筋線維の組織化を評価した(
図2E)。Z線の整列が崩れ、ミトコンドリアの位置及び形状が変化し、全体的にサルコメア組織が乱れていたMtm1-/yマウスとは対照的に、Mtm1-/y Tg BIN1マウスはhad aligned Z線が整列し、ミトコンドリアに異常性はなかった。換言すれば、Mtm1-/y Tg BIN1マウスは、正常な筋線維超微細構造を示した。骨格筋の基本構造は、骨格筋の興奮収縮連関に関与し、1本のT管及び2つの筋小胞体(SR)槽(sarcoplasmic reticulum (SR) cisternae)によって形成される三連構造である。BIN1は、T管生合成において基本的な役割を果たす存在として知られることから、次に、BIN1の過剰発現がT管及び三連構造に影響を与えるかどうかを分析した。Mtm1-/y TA筋は組織がひどく乱れ、三連構造を識別することは困難であった。しかし、正常なトライアド、T管の形状及び局在化が、Tg BIN1及びMtm1-/y Tg BIN1マウスで観察された(
図2)。
【0185】
TA筋におけるトライアド及びT管の正しい組織化を確認するために、BIN1及びDHPRによって染色したTA筋縦断面を免疫蛍光によって観察した。BIN1及びT管受容体 DHPRは、WT、Tg BIN1及びMtm1-/y Tg BIN1マウスのT管で共局在化していたのに対し、Mtm1-/yマウスでは、染色が乱れたいくつかの線維を認めた(
図2F)。更に、Tg BIN1及びMtm1-/y Tg BIN1マウスは、T管の乱れた配向に相当し得る縦断BIN1及びDHPR染色も示した(
図2F);同じ異常なT管局在化が、EM像でのT管分析中に既に観察された。当然のことながら、ヒトBIN1は故に、T管に予想通りに局在化している。次に、Mtm1-/y TA筋の線維の真ん中に密集しているのが観察されたデスミンの局在化を分析した。Mtm1-/y Tg BIN1 TA筋では、WTのように細胞膜の近位及び線維内部にデスミンの正常な分布を認めた。結論として、BIN1の過剰発現は、Mtm1-/yマウスで観察されたTA筋超微細構造をレスキューした。
【0186】
2.5.ヒトBIN1の出生後筋肉過剰発現はMtm1-/yマウスにおける筋力及び筋線維萎縮をレスキューする
Mtm1-/yマウスにおける初期胎齢からのBIN1の過剰発現は、生存及び筋力等の全てのCNM特徴をレスキューした。重要な点は、生後に発現される場合でもレスキューを可能にするBIN1の正確なアイソフォームを同定することであった。エクソン17がないヒトBIN1アイソフォーム8は、Mtm1-/y Tg BIN1マウスのTAで過剰発現される主なヒトアイソフォームであり、これをAAV9ベクターにクローン化した。次に、このヒトBIN1アイソフォームをTA筋でのみ過剰発現させて、生後の急性BIN1の過剰発現がTA筋力、組織像及び筋肉超微細構造をレスキューし得るかどうかをテストした。そのために、3週齢WT及びMtm1-/yマウスに、AAV-BIN1及び対照空AAVウイルスを(TA筋に)筋肉内注射した。インサイチュ筋力分析を注射後2週及び4週目に行った。注射した筋肉では、BIN1が対照筋肉より約 4倍高く発現された(
図3H)。
【0187】
注射後2週目、AAV-BIN1を注射したMtm1-/yマウスで、骨格筋TA筋力の有意な増加が顕著であった(
図3B~3C、3J)。AAV対照と比べてAAV BIN1を注射したMtm1-/yのTA筋肉重量に、有意な差は観察されなかった(
図3A)。しかし、AAV-BIN1は、酸化染色(SDH)、線維サイズ(増加した線維径)、及び程度はそれほどでもないが、核位置(核位置は完全にはレスキューされなかった)を含む、筋肉の一般的な側面(HE)を大幅に改善した(
図3D、3G及び31)。生後のBIN1の過剰発現が筋肉超微細構造をレスキューするかどうかを決定するために、AAV-BIN1及びAAV対照を注射したTAの電子顕微鏡検査(EM)を行った。予想通り、Mtm1-/yマウスは筋肉組織化の重度の異常を示した。一方、AAV-BIN1を注射したTA筋は、AAV対照を注射したWT TA筋と同じくらいよく組織化された(
図3E)。換言すれば、筋線維組織化は、AAV空対照と比較してAAV- BIN1を注射したMtm1-/yマウスにおいて改善された。
【0188】
類似の効果は注射後4週時点で観察された(データ不掲載)。
【0189】
全体として、これらの結果は、生後のBIN1の筋肉内過剰発現が、Mtm1-/yマウスにおける筋力及び筋線維組織化(TA線維サイズ、TA筋超微細構造)の強い改善を達成するのに十分であることを示している。これは、胚形成の完了後のBIN1の増加が、Mtm1-/yマウスのミオパチー表現型を有意に改善するのに十分であることを強く示唆するものである。
【0190】
2.6. BIN1の出生後全身性過剰発現はMtm1-/y寿命を延長する
筋肉内注射したAAV-BIN1によるTA筋力の著しい増加を証明した後で、BIN1の全身性過剰発現がMtm1-/yマウスの寿命をレスキューし得るかどうかを更に調査することにした。AAV-BIN1又はAAV対照を、出生後1日時点で仔に腹腔内注射により注射した。マウスの体重及び生存を10週齢まで毎週測定した。驚くべきことに、出生後のBIN1の全身性過剰発現は、Mtm1-/yマウスの早期死亡をレスキューした(
図4A)。興味深いことに、AAV対照を注射したマウスと比べて、試験期間中AAV-BIN1を注射したMtm1-/yマウスについて体重のわずかな増加が記録された(
図4B)。要約すると、生後のMtm1-/yマウスにおけるBIN1の過剰発現は、マウスの寿命を延長させた。
【0191】
2.7. BIN1の出生後全身性過剰発現はMtm1-/yマウスにおけるTA筋力をレスキューする
Mtm1-/yマウス生存は、生後のBIN1の過剰発現によってレスキューされた。次いで表現型決定を行った。最高齢の処置したMtm1-/yマウスは、現在1年齢である。AAV-BIN1を注射したMtm1-/yマウスはいずれも、4週齢からMtm1-/yで観察される典型的な特徴である眼瞼下垂及び脊柱後弯を示さなかった(データ不掲載)。成長及び生存に対するプラスの効果が、筋肉量、機能及び構造の増加と相関するかどうかを評価するために、TA及びGAS筋を10週齢で抽出した。AAV-BIN1注射動物におけるBIN1の過剰発現を検証した(
図4L)。TA筋量及び体重の比は、AAV-BIN1を注射したMtm1-/y TAの重量が、WT対照と比べてわずかに低いことを明らかにした(
図4C)。AAV-BIN1を注射したMtm1-/yマウスとAAV対照を注射したWTマウスの間で、TA絶対筋力又はTA比筋力又は疲労までの時間の有意な差はインサイチュでは観察されず(
図4D、4E、及びデータ不掲載)、筋力の完全なレスキューを示した。これらの結果は故に、BIN1過剰発現がMtm1-/yマウスにおいてTA筋力を改善することを強く示唆している。
【0192】
2.8. AAV-BIN1を注射したMtm1-/yマウスは萎縮がないが、XLCNMの典型的ないくつかの組織学的特徴を有する
XLCNMの組織学的特徴は、初期胚形成からBIN1を過剰発現するマウス、及び3週齢で筋肉内注射したMtm1-/yマウスをレスキューした。生後のBIN1の全身性過剰発現が、Mtm1-/yマウスにおける異常な核位置及び線維サイズをレスキューするかどうかを評価するために、10週齢のTAを分析した。WT及びAAV-BIN1を注射したMtm1-/yマウスで筋萎縮は同定されなかった(全体的な組織化及び酸化染色は正常であった)が、AAV-BIN1を注射したMtm1-/yマウスは、それでもやはり、WTと比べて異常な核位置の約15%の増加、及び線維サイズの低下を示した(
図4F~
図4H)。当然のことながら、これらの処置されたMtm1-/yマウスの組織学的特徴は、8週齢の未処置マウス(
図2)と比べて部分的にレスキューされるように見受けられた(
図4F~
図4H)。
【0193】
Mtm1-/yマウスの超微細構造がレスキューされるかどうかを理解するために、EM(
図4I)及びTEM(透過電子顕微鏡検査)(データ不掲載)を用いてTAをチェックした。TA超微細構造分析は、サルコメア組織化がMtm1-/yにおけるBIN1の過剰発現によってレスキューされ、1サルコメアあたりのトライアド数が正常化され、ほとんどのトライアドが正常な形状及び局在化を呈することを明らかにした(
図4I~
図4J)。正しいT管組織化を、TA筋縦断面のBIN1及びDHPR染色によって確認した: BIN1及びDHPRは、WT及びAAV BIN1を注射したMtm1-/yマウスではZ線と平行に局在化されるように見えた(
図4K)。まとめると、AAV-BIN1の全身性注射を受けるMtm1-/yマウスの組織像及び超微細構造分析は、生後のBIN1の過剰発現が筋萎縮及びTA筋超微細構造異常をレスキューすることを示した。しかし、Mtm1-/yマウスは、WT対照と比べて中心化した核が依然として多かった。
【0194】
2.9. Mtm1-/yマウスは、フォーカルアドヒージョン障害をもたらすベータ1インテグリン局在化の異常を有する
接着複合体は、骨格筋線維が持続的機械的ストレスに曝露されるときの線維分解を予防する。CNMとの関連において、線維間空間の増加を伴う発育不全(小さい)及び丸い線維は、細胞接着の異常を示唆する、XLCNM患者の主な組織学的異常である(
図5H)。Mtm1-/yマウスは、これらの特徴を忠実に再現する(
図2A)。これらのMtm1-/y異常が、骨格筋接着の異常と相関しているかどうかをよりよく理解するために、WT及びMtm1-/y TA筋のTA横断面をジストロフィンについて染色した(
図5A)。ジストロフィンは、筋肉の完全性を維持するための、筋肉細胞骨格と細胞外マトリクスの間の構造的関連を提供することが周知のタンパク質であり、前記タンパク質の変異は、特にデュシェンヌ型及びベッカー型筋ジストロフィーに関与している。WT骨格筋の六角形状の線維は互いに完全に接着していたが、Mtm1-/y TA筋はWT対照より丸い筋線維及び線維間空間の増加を示した。これらの線維形状、及びその結果としてより高次の線維間空間が、細胞外マトリクスの増加、及び線維接着に関与する複合体の組織の乱れに対応しているかどうかを調べるために、次に、WT及びMtm1-/yマウスのTA横断面を、骨格筋における細胞外マトリクスの2つの周知の成分:コラーゲン及びラミニンについて染色した。Mtm1-/y TA筋断面は、WTと比べて、ラミニン及びコラーゲンIVによって占められる線維間空間の増加を示した(
図5C~
図5D、
図5I)。ラミニンタンパク質レベルは、WTマウスよりMtm1-/yで高かった(
図6H)。
【0195】
ラミニン等の細胞外マトリクス由来のタンパク質は、インテグリン及びアダプタータンパク質、例えばビンクリン等を含むフォーカルアドヒージョンに関与するタンパク質に連結する(
図5B)。Mtm1-/yマウスは、TAに異常な線維形状及び細胞外マトリクスの増加を有することから、細胞接着に関与するタンパク質の局在化が異常かどうかをチェクした。WTでは、インテグリンは筋細胞膜、具体的には骨格筋のコスタメアに局在化した(
図5F)。驚くべきことに、Mtm1-/yマウスは、内部移行したベータ1インテグリン(
図5E)、アルファ7インテグリン(データ不掲載)、及びビンクリン(
図5E)を示した。換言すれば、アルファ7インテグリンは、ベータ1インテグリンと同じパターンを辿ることなく一部の線維の中央に凝集したが、ビンクリン染色は、Mtm1-/yマウスの線維内部でベータ1インテグリンの1つと類似した異常なパターンを示した。ベータ1インテグリンに関して、この表現型は転写の増加によらない(データ不掲載)、タンパク質レベルの増加と相関していた(
図6E)。
図5Bに例示するように、ベータ1インテグリンは、TA筋線維の細胞膜でアルファ7インテグリンとヘテロダイマーを形成し、タリン及びビンクリンに結合する。
【0196】
以前の試験は、ベータ1インテグリンが、リサイクリングプロセスを経ていることを示した。どの細胞内区画にベータ1インテグリンが蓄積するかを調査するために、エンドソームマーカーを筋肉断面で標識した。ベータ1インテグリンは、Mtm1-/y TAにおいて初期エンドソームマーカーEEA1と共局在化した(
図5F)。EEA1陽性エンドソームはまた、Mtm1-/yでのみ(WTと比べて)筋線維内部にも蓄積した。更に、WTと比べて、Mtm1-/y TA総筋肉溶解物中でより高いレベルのベータ1インテグリンがウエスタンブロットによって検出された。全体として、これらの結果は、ベータ1インテグリンがMtm1-/y筋肉の初期エンドソームで異常に蓄積することを強調し、線維形状の異常及び線維間空間の増加を誘導し得る異常なベータ1インテグリン代謝を示すものである。フォーカルアドヒージョン経路の異常に関連する機構を更に解明するために、ベータ1インテグリンの下流エフェクターであるフォーカルアドヒージョンキナーゼ(FAK)の活性化を測定した。フォーカルアドヒージョン複合体の活性化は、チロシン397でFAKの自己リン酸化をもたらすことが知られている。Mtm1-/y筋肉はFAKの自己リン酸化の減少を示し、フォーカルアドヒージョン経路の活性化が変化したことを裏付けた(
図5K~
図5M)。
【0197】
骨格筋で観察されたフォーカルアドヒージョン異常の機能的影響を分析するために、初代筋芽細胞で実験を実施した。Mtm1-/y筋芽細胞は、WT筋芽細胞より大きなベータ1インテグリン小胞を示し(
図5J)、成体骨格筋で観察されたベータ1インテグリンの蓄積を裏付けた(
図5F)。WT及びMtm1-/y筋芽細胞をラミニンコートディッシュで10、20、40分間接着させて、細胞接着をチェックした。Mtm1-/y筋芽細胞の表面積は、20分時点でWT細胞より低かった(
図5N)。ベータ1インテグリン局在化の異常が、細胞遊走に影響を与えることを試験が示したことから、ラミニンコートディッシュに播種したWT及びMtm1-/y筋芽細胞を用いて遊走アッセイを行った。遊走距離の有意な低下が、WTと比べてMtm1-/y筋芽細胞で観察された(
図50)。最後に、筋芽細胞の融合する能力を、マトリゲルコートディッシュで経時的に追跡した。筋芽細胞融合の有意な異常が、分化後24及び48時間時点にMtm1-/y細胞で同定された(
図5P)。全体として、これらの結果は、Mtm1-/y筋芽細胞が、インテグリン局在化及び筋肉代謝の異常に相関する細胞接着、遊走及び融合の異常を有することを示した。
【0198】
2.10. BIN1過剰発現は、Mtm1-/yマウスにおいてベータ1インテグリンをレスキューし、それ故にフォーカルアドヒージョン異常をレスキューする
Mtm1-/yマウスは、ベータ1インテグリンタンパク質局在化の異常を示し、ベータ1インテグリン組織化に関与している可能性があることを示した。故に、BIN1過剰発現が、細胞外マトリクス及びフォーカルアドヒージョンの異常をレスキューし得るかどうかを分析した。
【0199】
最初に、Mtm1-/y Tg BIN1マウスのTA筋断面は、線維サイズ及び形状のレスキュー(
図2A)に加えて、線維間空間の正常化(観察された低下)とその結果としてのコラーゲン及びラミニン線維間蓄積の低下(
図6A~
図6B及び6G)を示した。また、Mtm1-/yマウスで増加したラミニンレベルは、BIN1の発現が増加すると正常化することも見出された(
図6H)。更に、筋肉免疫染色及びウエスタンブロッティングにより、Mtm1-/y Tg BIN1マウスが細胞内蓄積の低下を示し、ベータ1インテグリンの総レベルを正常化させることが示された(
図6C~
図6D)。フォーカルアドヒージョン経路の更なる調査により、Mtm1-/yマウスで変化したビンクリン局在化が、Mtm1-/y TgBIN1マウスでレスキューされることが示された。Mtm1-/y筋肉でのベータ1インテグリン局在化の同様の正常化は、生後にAAV-BIN1全身性注射をしたときに観察され(
図6D)、このレスキューがBIN1発現に使用される方法論に依存しないことを示した。要約すると、Mtm1-/yマウスにおけるBIN1の過剰発現のおかげで、ベータ1インテグリンのリサイクリング経路が正常化された。
【0200】
3.結論
この試験は、骨格筋におけるMTM1とBIN1の間の遺伝的及び機能的関連を報告する。生後の遺伝的交雑又はウイルス送達によるBIN1の発現増加は、Mtm1-/yマウスの寿命を延長し、中心核ミオパチーの筋力及び主な組織学的特徴をレスキューした。Mtm1-/yマウスでは、インテグリン代謝及びフォーカルアドヒージョン機能の異常は筋線維発育不全及び異常な形状と相関し、これらの表現型はBIN1が過剰発現するとレスキューされた。
【0201】
BIN1及びMTM1の機能欠損変異は、種々の形態のCNMを引き起こし得る。しかし、それらの遺伝的相互作用は、今日まで解明されなかった。本試験は、遺伝子組換え又はAAV媒介形質導入のいずれかによるヒトBIN1の発現増加が、MTM1欠損に関連する寿命、運動異常、組織学的及び超微細構造的筋肉異常の大部分、及び分子変化をレスキューしたことを示している。これらの結果は故に、BIN1の増加がMTM1の欠如を代償することを立証し、MTM1がBIN1の正の調節因子となる共通の経路をMTM1及びBIN1が共有することを示唆した。以前の試験では、CNMにおいて変異する第3のタンパク質であるDNM2の発現減少が、MTM1又はBIN1欠損による両方のCNM表現型をレスキューすることが示され、MTM1及びBIN1がDNM2の負の調節因子であることを支持した。本データと一緒にまとめると、MTM1がBIN1を活性化し、今度はDNM2を阻害するというCNM経路が今や定義され得る。
【0202】
興味深いことに、BIN1タンパク質発現レベルは、8週時点(進行した病期)のMtm1-/yマウスの筋肉でほぼ倍増した(1.9倍の増加)が、前記レベルは5週時点では正常レベルであった(
図IE及び
図3H)。この観察は、レスキューに到達するのに十分な潜在的代償機構を示唆しているが、このレスキューは、例えば遺伝子組換え又はAAV注射によりBIN1外因性発現を約3.5倍増加させて得ることができる(
図IE及び
図4L)。
【0203】
本明細書では、BIN1は、MTM1関連CNMの変更遺伝子として、故に前記疾患のための、特にXLCNMを処置するための新規の治療薬として同定された。本発明者らは故に本明細書において、CNM遺伝子(BIN1)の調節が、他のCNM遺伝子(MTM1)の欠損をレスキューしてMTM1関連ミオパチー、特にXLCNMを処置するという「交差治療(cross-therapy)」概念を提案する。
【0204】
実際に、BIN1発現は、MTM1欠損に関連した出生後筋肉維持異常をレスキューすることが示された。遺伝子組換えアプローチに基づく正の概念実証に続いて、Mtm1-/yマウスの生後にヒトBIN1のAAV送達を行って翻訳アプローチを実証した。BIN1は、先ず筋肉内で、次いで全身性送達によって過剰発現された。両方の戦略は、筋力及び筋線維構造異常をレスキューするのに十分であった。更に、AAV-BIN1の全身性注射は、処置したマウスの寿命を大幅に延長した。注目すべきは、疾患開始後3週時点のAAV注射がレスキューをもたらすのに十分であることが示され、出生時に罹患した患者を処置することが利益をもたらし得ることを示唆したことである。ヒトBIN1導入遺伝子を送達するために本試験がAAV9ベクターに頼っていることは、更に注目されなければならない。このAAV血清型は臨床試験で既に使用されているため、前臨床開発をすぐに開始することができるであろう。更に、AAV媒介MTM1遺伝子治療は、XLCNMの動物モデルで有効であることが以前に示され、現在、臨床試験で評価されている。それ故に、患者がMTM1に初めて曝露されるAAV-MTM1戦略とは対照的に、BIN1は既に患者に存在することから、AAV-BIN1戦略の使用により、該タンパク質に対する免疫応答が生成されるはずはない。更に、このアプローチは、DNM2低減戦略の潜在的な副次的影響を回避することができる。
【0205】
小さい丸い線維及び線維間空間の増加は、XLCNMを診断するための患者における主な組織学的特徴であり、細胞外マトリクスに対する接着の異常を示唆している。ベータ1インテグリンは、骨格筋の主なインテグリン分子であり、フォーカルアドヒージョンと呼ばれるコスタメアで細胞外マトリクスを細胞内細胞骨格及びサルコメアと連結させる。フォーカルアドヒージョンの完全性は、機械的形質導入を媒介し、細胞内シグナル伝達のプラットフォームであることから、筋肉にとって実際に重要である。筋肉中のベータ1インテグリンレベル及び局在化の変化は、コラーゲン及び線維間空間の増加と一緒に、本明細書では5週齢及び8週齢Mtm1-/yマウスで見られた。注目すべきは、正しいサルコメアアラインメント及び完全性がコスタメアに依存することである。実際に、筋原線維形成は、インテグリン二量体と拮抗するだけで阻害され得る。これは、インテグリン-ECM相互作用が、筋発達中の正しいサルコメア形成にとって重要であることを示唆している。サルコメアは、XLCNM及びMtm1-/y筋肉において大幅に変化する。これは、おそらく重度の筋力低下に寄与している。更に、最近の報告は、インテグリンが、インビトロで分化した筋線維の周辺部核配置を調節することを提案し、インテグリン異常がCNMにおける核の中心化も媒介し得ることを示唆した。重要なことには、全てのこれらの異常は本明細書においてBIN1を過剰発現させることによってレスキューされ、フォーカルアドヒージョン経路の異常が該疾患の重要な原因であるという事実を支持した。MTM1及びBIN1は故に、フォーカルアドヒージョンの重要な調節因子として現れる。興味深いことに、ベータ1インテグリンを骨格筋で特異的に欠くマウスは、筋肉量が低下し、サルコメア超微細構造が変化し、肺が膨らむことなく出生時に死亡した。そのような表現型は、XLCNM患者の典型である。また、α7インテグリンのヘテロ接合体変異は、筋ジストロフィーを引き起こすことが示されている。要するに、これは、フォーカルアドヒージョンの機能の異常が、MTM1関連ミオパチーをもたらす機構の重要な構成要素であるという理論的根拠を支持している。
【0206】
MTM1及びBIN1は両方とも、細胞の膜リモデリング及びリサイクリングに関与しており、本発明者らは、ベータ1インテグリンがMtm1-/y筋肉のEEA1陽性エンドソームでブロックされることを観察した。この異常は、MTM1が初期から後期の転換又はリサイクリングエンドソームに関与するという事実に起因し得る。MTM1のショウジョウバエのオルソログがインテグリン代謝に必要であることをRibeiroらが見出したように(Ribeiroら、PLoS Genet 7、el 001295 (2011))、この機能は進化において保存されるようである。本試験は、ビンクリン及びFAK等のインテグリン下流エフェクターがMtm1-/y筋肉において変化し、インテグリン輸送異常がフォーカルアドヒージョンシグナル伝達の変化をもたらすことを支持したことを初めて強調するものである。その後、フォーカルアドヒージョンの変化は、MTM1を欠く筋芽細胞の接着、遊走及び融合に異常を引き起こし、患者筋肉で典型的に見られる筋線維発育不全を連想させる、筋管との筋芽細胞の融合インデックスの減少をもたらした。
【0207】
全体として、この試験は、骨格筋におけるインテグリン輸送の調節及びフォーカルアドヒージョンの活性化においてMTM1及びBIN1が果たす重要な役割を明確に示し、BIN1発現を増加させることによって、例えば遺伝子ウイルス送達によって効率的にレスキューされ得る、XLCNMの重要な原因としてのこれらの機構の異常を指摘するものである。
【配列表】