IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 興和株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-眼科撮影装置 図1
  • 特許-眼科撮影装置 図2
  • 特許-眼科撮影装置 図3
  • 特許-眼科撮影装置 図4
  • 特許-眼科撮影装置 図5
  • 特許-眼科撮影装置 図6
  • 特許-眼科撮影装置 図7
  • 特許-眼科撮影装置 図8
  • 特許-眼科撮影装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】眼科撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20230623BHJP
   A61B 3/11 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
A61B3/14
A61B3/11
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020535847
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031186
(87)【国際公開番号】W WO2020032128
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2018149401
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 和典
(72)【発明者】
【氏名】川上 昭夫
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-055123(JP,A)
【文献】特開2014-094182(JP,A)
【文献】国際公開第2008/066135(WO,A1)
【文献】特開2010-136781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者眼の前眼部を不可視光で照明する前眼部照明手段と、
少なくとも不可視光に感度を有しており、前記被検者眼を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子の画像を処理する処理手段と、を備え、
前記処理手段は、
前記前眼部に投影される測距用の2つの指標の像がそれぞれ規定のガイド内に入ると、前記前眼部照明手段の不可視光による前記前眼部からの反射光によって前記撮像素子に写し出される画像を用いた前記被検者眼の瞳孔径の検知を開始し、
前記画像内において少なくとも前記被検者眼の虹彩と瞳孔との境界に対して交差する仮想のラインに沿って輝度値の走査を行い、前記輝度値の変化量から抽出された前記被検者眼の虹彩と瞳孔との境界点の位置から前記瞳孔径を検知する、
眼科撮影装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記前眼部に投影される測距用の指標の像が、前記撮像素子に写し出される画像内で所定位置にあることを検知すると、前記前眼部照明手段の不可視光による前記前眼部からの反射光によって前記撮像素子に写し出される画像を用いた前記瞳孔径の検知を開始する、
請求項1に記載の眼科撮影装置。
【請求項3】
前記眼科撮影装置は、前記撮像素子に結像する部位を前記被検者眼の眼底と前記前眼部との間で切り替える切替手段を更に備え、
前記処理手段は、前記瞳孔径の検知が完了すると、前記撮像素子に結像する部位を前記切替手段で前記前眼部から前記眼底へ切り替える、
請求項1または2に記載の眼科撮影装置。
【請求項4】
前記処理手段は、複数の前記仮想のラインに沿って輝度値の走査を行い、複数の前記境界点の位置から前記瞳孔径を検知する、
請求項1から3の何れか一項に記載の眼科撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底の観察や撮影に際しては、カメラと被検眼との相対的な位置調整(例えば、特許文献1を参照)や、瞳孔径に応じた各種の動作(例えば、特許文献2-5を参照)が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-17394号公報
【文献】特開2010-136781号公報
【文献】特開2003-290145号公報
【文献】特許第5511575号公報
【文献】特許第5784056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼底の観察や撮影は、瞳孔の大きさの影響を受ける。そこで、眼底の観察や撮影においては、適正な眼底像を得るために、例えば、瞳孔の大きさに応じた機器の調整が眼底の観察や撮影前に行われる。しかし、カメラと被検眼との相対的な位置関係や瞳孔径は、様々な要因により変化しやすいため、瞳孔径の検知を眼底の観察や撮影に先立って適正に行うことは容易でない。
【0005】
そこで、本願は、瞳孔径を容易に検知可能な眼科撮影装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、前眼部に投影される指標の像が所定条件を満たすと、不可視光による前眼部からの反射光によって前記撮像素子に写し出される画像を用いた被検者眼の瞳孔径の検知を開始することにした。
【0007】
詳細には、本発明は、眼科撮影装置であって、被検者眼の前眼部を不可視光で照明する前眼部照明手段と、少なくとも不可視光に感度を有しており、被検者眼を撮像する撮像素子と、撮像素子の画像を処理する処理手段と、を備え、処理手段は、前眼部に投影される指標の像が所定条件を満たすと、前眼部照明手段の不可視光による前眼部からの反射光によって撮像素子に写し出される画像を用いた被検者眼の瞳孔径の検知を開始する。
【0008】
ここで、前眼部とは、眼球の前側部分であり、例えば、角膜から水晶体までの部分をいう。また、不可視光とは、人の眼が感知しない光であり、例えば、赤外光を適用することができる。また、所定条件とは、被検者眼が適正な位置にある場合に前眼部に投影される指標の像の状態であり、例えば、眼科撮影装置の対物レンズと被検者眼との間の距離を表す指標が、被検者眼が適正な位置にある場合における状態が挙げられる。
【0009】
上記の眼科撮影装置であれば、前眼部に投影される指標の像が所定条件を満たすと瞳孔径の検知が開始されるので、瞳孔径を容易に検知することができる。この結果、観察者は、例えば、被検者の眼底像を簡単な操作でスムーズに得ることが可能となる。
【0010】
なお、処理手段は、前眼部に投影される測距用の指標の像が、撮像素子に写し出される画像内で所定位置にあることを検知すると、前眼部照明手段の不可視光による前眼部からの反射光によって撮像素子に写し出される画像を用いた瞳孔径の検知を開始するものであってもよい。ここで、所定位置とは、被検者眼が適正な位置にある場合に前眼部に投影される指標の位置であり、例えば、眼科撮影装置の対物レンズと被検者眼との間の距離を表す指標が、被検者眼が適正な位置にある場合における画像内の位置が挙げられる。このような眼科撮影装置であれば、眼科撮影装置の対物レンズと被検者眼との間が適正な距離になると瞳孔径の検知が開始されるため、瞳孔径を容易に検知することができる。
【0011】
また、眼科撮影装置は、撮像素子に結像する部位を被検者眼の眼底と前眼部との間で切り替える切替手段を更に備え、処理手段は、瞳孔径の検知が完了すると、撮像素子に結像する部位を切替手段で前眼部から眼底へ切り替えるものであってもよい。このような眼科撮影装置であれば、瞳孔径の検知が完了すると、撮像素子に写る像が前眼部から眼底へ直ちに切り替わるので、観察者は、被検者の眼底像を簡単な操作でスムーズに得ることができる。
【0012】
また、処理手段は、画像内において少なくとも被検者眼の虹彩と瞳孔との境界に対して交差する仮想のラインに沿って輝度値の走査を行い、輝度値の変化量から抽出された被検者眼の虹彩と瞳孔との境界点の位置から瞳孔径を検知するものであってもよい。このような眼科撮影装置であれば、瞳孔径の検知に伴う演算処理の負荷を低減することができる。
【0013】
また、処理手段は、複数の仮想のラインに沿って輝度値の走査を行い、複数の境界点の位置から瞳孔径を検知するものであってもよい。このような眼科撮影装置であれば、瞳孔径の誤検知抑制と演算処理の負荷低減との両立を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上記の眼科撮影装置であれば、瞳孔径を容易に検知可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態の眼科撮影装置の光学系の概略構成を示した図である。
図2図2は、眼科撮影装置に備わる電気回路のブロック線図の一例である。
図3図3は、眼科撮影装置で実現される処理フローを示した図である。
図4図4は、前眼部のアライメントが調整される際にLCDパネルに映し出される画像の一例を示した図である。
図5図5は、瞳孔径を検知する仕組みを解説した第1の図である。
図6図6は、瞳孔径を検知する仕組みを解説した第2の図である。
図7図7は、瞳孔径を検知する仕組みを解説した第3の図である。
図8図8は、境界点の抽出範囲をイメージで表した図である。
図9図9は、輝度値を走査する画像の範囲を限定した場合の瞳孔径の検知の内容をイメージで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0017】
図1は、本実施形態の眼科撮影装置の光学系の概略構成を示した図である。眼科撮影装置1は、被検眼Eの眼底を撮影する装置であり、対物レンズ2、前眼部照明2A(本願でいう「前眼部照明手段」の一例である)、前眼部結像レンズ2B、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4、ハーフミラー5、内部固視灯6、リレーレンズ7、フォーカスドットミラー8、フォーカス指標投影系9、黒点板ガラス10、リレーレンズ11、リングスリット12、拡散板13、撮影用照明14、観察用照明15、結像レンズ16、狭角用レンズ17、広角用レンズ18、イメージセンサ20(本願でいう「撮像素子」の一例である)を備える。
【0018】
まず、眼科撮影装置1に備わる各部品の位置関係および機能について説明する。対物レンズ2は、被検眼Eの正面に位置するレンズである。また、前眼部照明2Aは、被検眼Eの前眼部を赤外光で照明する機能と、被検眼Eの前眼部に距離測定用の指標を投射する機能とを兼ね備えた赤外LED(Light Emitting Diode)である。そして、対物レンズ2の後方の光軸上には、前眼部結像レンズ2B、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4、ハーフミラー5、内部固視灯6が順に配置されている。前眼部結像レンズ2Bは、対物レンズ2の後方の光軸上に挿抜される可動式のレンズであり、眼科撮影装置1に設けられた切替ボタン(以下、「前眼部/眼底切替ボタン」という)や制御信号に連動してアクチュエータ(本願でいう「切替手段」の一例である)で動く。有孔ミラー3は、対物レンズ2の光軸が通過する部位に貫通孔が形成されたミラーであり、対物レンズ2の光軸に対し適当な傾き角で眼科撮影装置1内に固定されている。
【0019】
有孔ミラー3で反射されて被検眼Eに照射される照明光を導く照明光学系の軸上には有孔ミラー3側から順に、リレーレンズ7、フォーカスドットミラー8、黒点板ガラス10、リレーレンズ11、リングスリット12、拡散板13、撮影用照明14、観察用照明15が配置される。よって、撮影用照明14や観察用照明15から放たれた光は、拡散板13やリングスリット12を通過する過程で環状の照射光となり、リレーレンズ11、黒点板ガラス10、フォーカスドットミラー8、リレーレンズ7を経て有孔ミラー3で反射され、対物レンズ2を経て被検眼Eの眼底を照明する。
【0020】
黒点板ガラス10は対物レンズ2による反射光が撮影像に写り込むのを防ぐもので、板ガラスの中心、すなわち光軸のある位置に、小さい遮光物が配置されているものである。その黒点板ガラス10とリレーレンズ7との間にあるフォーカスドットミラー8には、反射光がリレーレンズ7の光軸に一致することになる角度でフォーカス指標投影系9からの光が入射する。フォーカス指標投影系9は、被検眼Eの眼底にフォーカス指標を投影する。よって、被検眼Eの眼底には、撮影用照明14及び観察用照明15が放つ光の他、フォーカス指標投影系9が放つフォーカス指標の光が入射することになる。フォーカス指標投影系9には、赤外光を放つ赤外LEDが用いられている。
【0021】
撮影用照明14や観察用照明15の光で照明された被検眼Eの眼底からの反射光は、対物レンズ2、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4を通過してハーフミラー5に入射する。ハーフミラー5は、対物レンズ2の光軸に対し適当な傾き角で眼科撮影装置1内に固定されている。よって、被検眼Eの眼底からの反射光は、ハーフミラー5において、対物レンズ2の光軸に対し適当な角度をもって反射される。フォーカスレンズ4から入射したハーフミラー5の反射光の光軸上には、結像レンズ16、イメージセンサ20が順に設けられている。そして、結像レンズ16とイメージセンサ20との間には、観察者が所望する倍率に応じて適宜選択される変倍レンズである狭角用レンズ17または広角用レンズ18が挿入される。よって、被検眼Eの眼底からの反射光は、ハーフミラー5で反射された後に結像レンズ16を通過し、狭角用レンズ17または広角用レンズ18を経た後、イメージセンサ20へ入射する。イメージセンサ20では、マトリクス状に配列された光電変換素子が光のエネルギーを受けて電気信号を発し、被検眼Eの眼底の画像が得られる。
【0022】
イメージセンサ20は、少なくとも可視光および赤外光に感度を有する撮像素子である。よって、イメージセンサ20は、被検眼Eを照明する光の光源が、被検眼Eの前眼部を照明する前眼部照明2A、被検眼Eの眼底を照明する撮影用照明14、同じく被検眼Eの眼底を照明する観察用照明15の何れであっても、前眼部或いは眼底の画像を得ることができる。このようなイメージセンサ20としては、例えば、CMOSが挙げられる。
【0023】
なお、眼科撮影装置1では、上記の光学系部品を筐体に収めた撮影装置本体が架台に載っている。そして、眼科撮影装置1には、架台に載っている筐体を操作レバーによる操作で前後、左右或いは上下に移動する移動機構が備わっており、当該操作レバーを操作することで、被検眼Eに対する撮像装置本体の位置関係を調整できるようになっている。
【0024】
図2は、眼科撮影装置1に備わる電気回路(本願でいう「処理手段」の一例である)のブロック線図の一例である。眼科撮影装置1には、例えば、CPU基板21、LCDパネル22(Liquid Crystal Display)、LCDバックライト23、操作部24、メイン基板25が備わっている。図2では、フォーカスレンズ4を動かすアクチュエータ、撮影用照明14を発光させる高圧回路、フォーカス指標投影系9に備わるLED、観察用照明15を全て電子部品類26として纏めて図示している。
【0025】
CPU基板21は、主にイメージセンサ20で取得された画像の処理を担う回路基板であり、画像を処理するCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)、画像を記録するSDカード(「SD」は登録商標)用のドライブ等の各種電子部品が実装されている。イメージセンサ20は、CPU基板21の制御信号に応じて作動し、取得した画像をCPU基板21に提供する。CPU基板21では、イメージセンサ20が取得した画像に対する各種の処理が行われ、処理された画像がLCDパネル22或いはSDカードへ出力される。LCDパネル22では、CPU基板21から出力された画像が表示される。
【0026】
メイン基板25は、眼科撮影装置1全体の制御を司る回路基板であり、FPGAやその他の各種電子部品が実装されている。メイン基板25は、操作部24で受け付けた操作内容に従ってCPU基板21や電子部品類26を作動させる。メイン基板25は、以下の処理フローを実現する。
【0027】
図3は、眼科撮影装置1で実現される処理フローを示した図である。眼科撮影装置1の使用が開始されると、イメージセンサ20の作動や観察用照明15の通電が開始される。眼科撮影装置1の使用開始時は、被検眼Eの前眼部がLCDパネル22に映し出される前眼部モードが選択されているため、前眼部結像レンズ2Bが光軸上に挿入された状態となっており、また、前眼部を照明する前眼部照明2Aの通電も行われる。そして、眼科撮影装置1では、被検眼Eの前眼部が鮮明に写るようにアライメント調整が行われる(S101)。
【0028】
前眼部のアライメントは、次のようにして調整される。図4は、前眼部のアライメントが調整される際にLCDパネル22に映し出される画像の一例を示した図である。図4(A)は、前眼部のアライメントが合っていない状態を示し、図4(B)は、前眼部のアライメントが合っている状態を示している。被検眼Eの前眼部は前眼部照明2Aで照明されているため、眼科撮影装置1のLCDパネル22には、前眼部照明2Aから照射された光の角膜反射による指標WDL,WDRが映し出される。指標WDL,WDRは、被検眼Eと対物レンズ2との距離を表す測距用の指標である。観察者は、LCDパネル22を観察しながら、指標WDLがワーキングアライメントガイドWGL内に入り、指標WDRがワーキングアライメントガイドWGR内に入るように、操作レバーの操作を行う。ワーキングアライメントガイドWGL,WGRは、被検眼Eと対物レンズ2との間が適正な距離の場合における画像内での指標WDL,WDRの位置(本願でいう「所定位置」の一例である)を表している。よって、指標WDLがワーキングアライメントガイドWGL内に入り、指標WDRがワーキングアライメントガイドWGR内に入るように被検眼Eに対する撮像装置本体の位置関係が調整されることで、撮像装置本体と被検眼Eとの位置関係が、眼科撮影装置1で設計上定められている適正な位置関係となる。
【0029】
前眼部のアライメント調整が行われている間、メイン基板25は、CPU基板21で処理される画像を監視し、指標WDLがワーキングアライメントガイドWGL内に入り、指標WDRがワーキングアライメントガイドWGR内に入ったか否かの判定を行う(S102)。また、メイン基板25は、ステップS102の処理で否定判定が行われている間、前眼部/眼底切替ボタンが押されたか否かの判定を行う(S103)。そして、メイン基板25は、ステップS102で肯定判定を行うと、以下に説明する瞳孔径のチェックを開始する(S104)。
【0030】
図5は、瞳孔径を検知する仕組みを解説した第1の図である。被検眼Eの前眼部に照射される光のうち、虹彩EKに入射した光は虹彩EKで反射する一方、瞳孔EDに入射した光は瞳孔EDを透過して眼底に入射する。よって、被検眼Eの前眼部を映す画像のうち虹彩EKの部位を映す部位の画素の輝度は、瞳孔EDを映す部位の画素の輝度よりも明るくなる。そこで、メイン基板25では、CPU基板21で処理される画像の各画素の輝度値を分析し、瞳孔EDと虹彩EKとの境界の位置を検出する。そして、メイン基板25では、画像解析に係る演算処理の負荷を低減するため、瞳孔EDと虹彩EKとの境界の位置を、環状の境界の全周に渡って連続的に抽出するのではなく、離散的な複数箇所についてのみ抽出する。すなわち、メイン基板25では、図5(A)に示す前眼部のイメージ図で符号HLで示されるライン(以下、「判定ラインHL」という)に沿って各画素の輝度値を走査する処理が行われることにより、図5(B)のグラフのように連続データとして取得され、当該連続データにおいて輝度値が最も大きく変化している画素の部位が、瞳孔EDと虹彩EKとの境界として抽出される。
【0031】
輝度値が最も大きく変化している画素の特定は、判定ラインHL沿いの各画素の輝度値の連続データに対して微分を行うことによって得られるデータ、すなわち、図5(C)のグラフに示されるようなデータにおいて、最も大きな値を示した部位を特定することによって実現される。本実施形態の眼科撮影装置1において、瞳孔EDと虹彩EKとの境界を輝度値で抽出するのではなく、輝度値の変化量で抽出する理由は、虹彩EKの模様が被検者によって様々である故、虹彩EKの輝度値も被検者によって様々となるから、瞳孔EDと虹彩EKとの境界を輝度値で抽出すると境界が明確に出現しにくいのに対し、瞳孔EDは虹彩EKのように光を反射する領域ではないため、瞳孔EDと虹彩EKとの境界において輝度値の変化が急峻となり、輝度値で抽出するよりも輝度値の変化量で抽出する方が境界を明確に検知できるためである。しかし、眼科撮影装置1は、瞳孔EDと虹彩EKとの境界を輝度値の変化量で抽出する形態に限定されるものでなく、例えば、輝度値で抽出してもよいし、或いは、その他の方法で抽出してもよい。
【0032】
図6は、瞳孔径を検知する仕組みを解説した第2の図である。また、図7は、瞳孔径を検知する仕組みを解説した第3の図である。瞳孔EDと虹彩EKとの境界の位置を離散的な複数箇所について抽出するため、メイン基板25では、上述したような判定ラインHL沿いに行われる瞳孔EDと虹彩EKとの境界の位置の抽出が、予め設定された仮想の複数の判定ラインHLについてそれぞれ行われる。すなわち、メイン基板25では、例えば、図6(A)や図7(A)に示されるように、瞳孔EDと虹彩EKとの境界を6箇所で交差するように配置された6本の判定ラインHLが予め設定されており、各判定ラインHLにおいて輝度が変化する変化点を境界点として抽出する処理が行われる。この結果、メイン基板25では、図6(B)や図7(B)に示されるように、境界点が6箇所抽出される。なお、本実施形態では、境界点を6箇所抽出しているが、これは瞳孔径の誤検知抑制と演算処理の負荷とのバランスを考慮して定められたものであり、境界点の抽出箇所は6箇所に限定されない。眼科撮影装置1は、例えば、境界点の抽出を5箇所以下、或いは7箇所以上で行ってもよい。輝度値は画像に偶然写り込んだものが原因で大きく変動することがあるため、例えば、瞳孔径をより少ない判定ラインHLで検知しようとすれば、瞳孔EDと虹彩EKとの境界ではない部位が境界点として抽出される可能性がある。また、瞳孔EDの形状は個人差があるため、瞳孔径をより少ない判定ラインHLで検知しようとすれば、例えば、瞳孔EDが楕円形の場合に、検知された瞳孔径と実際の瞳孔径との誤差が拡大する可能性が高まる。一方、瞳孔径をより多い判定ラインHLで検知しようとすれば、演算処理の量が増大するため、例えば、瞳孔径の検知に要する時間が長くなる。
【0033】
メイン基板25では、このようにして境界点の抽出が行われた後、抽出された境界点が、予め定められた基準円の外側と内側の何れに位置するかの判定が行われる。この基準円とは、眼科撮影装置1において被検眼Eの眼底を小瞳孔撮影モードで撮像すべき瞳孔径の大きさの円である。無散瞳眼底カメラにおいては、眼底を照らす照明光の減少を防ぐべく、瞳孔径が当該基準円の内側に収まる場合には、瞳孔径が当該基準円に収まらない場合よりも、リングスリット12の内径を小さくしたり、照明光の発光強度を高めることにより、より多くの円環状の照明光を被検眼Eに入射させたり、或いは、撮影絞りを変更したりする小瞳孔撮影モードの選択が望まれる。そこで、メイン基板25では、境界点がこの基準円の外側と内側の何れに位置するかに応じて、小瞳孔撮影モードへ切り換えるべきか否かの判別処理が行われる。
【0034】
すなわち、メイン基板25は、図3におけるステップS104の処理を実行することにより、判定ラインHL沿いで境界点を抽出する上述の処理を6つの各判定ラインHLにおいて行う。そして、メイン基板25は、輝度の境界点が抽出できたか否かの判定処理(S105)や、境界点が基準円の外側に位置するか否かの判定処理(S107)を行う。
【0035】
また、メイン基板25は、ステップS105で否定判定を行った場合には、判定ラインHL沿いの画素の輝度値が所定の数値以下であるか否かの判定を行う(S106)。ここでいう所定の数値とは、瞳孔EDと虹彩EKとを識別できる輝度値であり、例えば、瞳孔EDを映す箇所にある画素の輝度値の平均値と、虹彩EKを映している箇所にある画素の輝度値の平均値との中間値、或いは、瞳孔EDを映す箇所にある画素の輝度値の最高値と、虹彩EKを映している箇所にある画素の輝度値の最低値との中間値が挙げられる。
【0036】
例えば、図6(C)に示されるように、瞳孔径が基準円よりも大きい場合には、境界点が基準円の外側に位置することになるため、ステップS107の処理では肯定判定が行われることになる。また、図7(C)に示されるように、瞳孔径が基準円よりも小さい場合には、境界点が基準円の内側に位置することになるため、ステップS107の処理では否定判定が行われることになる。また、例えば、瞳孔径が過大で各判定ラインHLが瞳孔EDの領域に完全に収まっており、各判定ラインHLで境界点が抽出されないような場合には、ステップS105で否定判定が行われ、ステップS106では肯定判定が行われることになる。また、例えば、瞳孔径が過小で各判定ラインHLが虹彩EKの領域に完全に収まっており、各判定ラインHLで境界点が抽出されないような場合には、ステップS105とステップS106では否定判定が行われることになる。
【0037】
メイン基板25は、ステップS107の処理で否定判定を行った場合、小瞳孔撮影モードへの切り換えを促す通知を観察者に対して行う処理を実行する(S108)。そして、メイン基板25は、前眼部/眼底切替ボタンが押されたか否かの判定を行う(S109)。そして、メイン基板25は、ステップS103,106,107,109の何れかの処理で肯定判定を行った場合、眼科撮影装置1の各部の状態を、被検眼Eの前眼部がLCDパネル22に映し出される前眼部モードから、被検眼Eの眼底がLCDパネル22に映し出される眼底モードへ切り換える処理を実行する(S110)。
【0038】
眼科撮影装置1の各部が眼底モードへ切り換わると、光路に挿入されていた前眼部結像レンズ2Bが光路から引き抜かれる。そして、メイン基板25がフォーカスレンズ4を作動させて焦点を眼底に合わせることにより、LCDパネル22には、被検眼Eの眼底の像が表示される。その後は、例えば、観察者が操作部24でシャッタースイッチを押すことにより、眼底の撮影等が行われる。
【0039】
眼科撮影装置1は、このように、前眼部のアライメント調整の完了後(S102で肯定判定が行われたタイミング)、前眼部結像レンズ2Bが光路から引き抜かれて眼底モードへ自動で切り替わる前(S110が実行される前)の僅かなタイミングにおいて、上記のような瞳孔径の自動検知(S105~S107)が行われるようにしているため、例えば、観察者が前眼部アライメント調整の完了を確認してから瞳孔径の大きさを目視で確認するような場合に比べると、瞳孔径を容易に検知することができる。また、前眼部のアライメント調整が完了しているにも関わらず、何らかの理由により一時的に縮小した瞳孔EDが拡大中であるような場合に、眼科撮影装置1では、ステップS105,107,108,109,105の順で処理が繰り返され、前眼部/眼底切替ボタンが押されない限りは瞳孔径が基準円よりも大きくなるまでステップS110の実行が保留される。そして、瞳孔径が基準円より大きくなったタイミングでステップS107で肯定判定が行われてステップS110の処理が実行されるので、前眼部から眼底への像の切り換えを瞳孔EDの拡大に連動して自動で行うことが可能である。よって、観察者は、被検者の眼底像を簡単な操作でスムーズに得ることができる。
【0040】
なお、眼底を照らす照明光の変更は、上述したように、リングスリット12の内径の変更や、照明光の発光強度の変更、或いは、撮影絞りの変更といった手段を採ることができる。より詳細には、例えば、瞳孔径が比較的小さいと判定された場合、リングスリットのみを切り換えるか、リングスリットの切り換えと同時に撮影絞りの径を小さく変化させるか、撮影用照明14の発光量を増大させるか、内部固視灯6の光量を小さくして自然散瞳を促すか、或いは、観察者が設定した時間の経過を待った上でもなお瞳孔径が比較的小さいと判定された場合に撮影用照明14の発光量を増大させるといった処理を採ることが可能である。その他の処理としては、例えば、瞳孔径が比較的小さいと判定された場合に、小さいことを観察者に画面表示等の通知手段で示したにも関わらず、観察者が眼科撮影装置1の状態を小瞳孔モードへ変更することなく前眼部モードから眼底モードへ変更した場合に、眼底を照らす照明光の光量を自動的に増大させてもよい。また、例えば、瞳孔径が比較的小さいと判定された場合に、眼科撮影装置1に内蔵された通信ユニットが、眼科撮影装置1の周辺にある照明器具やブラインド等の調光手段の制御装置へ制御信号を送って眼科撮影装置1付近の照度を下げ、被検眼Eの自然散瞳を促すようにしてもよい。
【0041】
眼科撮影装置1の説明は以上の通りであるが、眼科撮影装置1は、上記形態に限定されるものではない。眼科撮影装置1は、例えば、瞳孔径を判定ラインHLに沿った輝度値の走査ではなく、イメージセンサ20で取得した画像の全域を解析して瞳孔EDと虹彩EKとの境界を検知するようにしてもよい。
【0042】
また、眼科撮影装置1は、輝度値を走査する画像の範囲を限定することにより、画像解析に係る演算処理の負荷を低減するようにしてもよい。図8は、境界点の抽出範囲をイメージで表した図である。眼科撮影装置1は、例えば、図8において「処理範囲」として示す破線の枠内の部分についてのみ、上述した境界点の抽出処理を行うようにしてもよい。境界点の抽出を行う範囲を、例えば、図8に示されるように、眼底の観察を行う際に想定される通常の大きさの瞳孔EDが収まる程度の大きさに制限すれば、画像解析に係る演算処理の負荷を可及的に抑制することが可能である。
【0043】
図9は、輝度値を走査する画像の範囲を限定した場合の瞳孔径の検知の内容をイメージで示した図である。輝度値を走査する画像の範囲を限定した場合、境界点の抽出処理が行われる「処理範囲」が瞳孔EDの範囲内に収まる場合があり得る。このような場合、判定ラインHLに沿って各画素の輝度値を走査すると、輝度値は、図5(B)のグラフのように、ほぼ変化のない低い値になり得る。よって、このような輝度値の連続データに対して微分を行うことによって得られる連続データも、図9(C)のグラフに示されるように、有意な変化を示さない低い値になる。眼科撮影装置1では、図3のフローチャートを参照しながら説明したように、判定ラインHL沿いの画素の輝度値が所定の数値以下であるか否かの判定がステップS106で行われているため、このように「処理範囲」が瞳孔EDの範囲内に収まる場合、判定ラインHL沿いの画素の輝度値が一定の数値以下であると判定されて、ステップS106の処理で肯定判定が行われることになる。
【0044】
ところで、虹彩EKの色は、被検者に応じて異なる場合がある。虹彩EKの色としては、例えば、茶色や青色が挙げられる。照明された虹彩EKの輝度は、虹彩EKの色に応じて異なる。そこで、上記実施形態の眼科撮影装置1は、判定ラインHL沿いの各画素の輝度値の連続データに対して微分を行うことによって得られるデータから変化点を抽出する際、変化量のデータから虹彩EKの色を自動判別するようにしてもよい。例えば、判定ラインHL沿いの各画素の輝度値の連続データに対して微分を行うことによって得られるデータのうち、変化点におけるデータの値は、虹彩EKが青色より茶色の方が大きい。そこで、例えば、変化点におけるデータの値を閾値で分別することにより、被検眼Eが茶目であるか青目であるかの自動判別が可能である。判別結果は、例えば、眼底の観察時や撮影時の照明の光量を変更するのに用いてもよいし、或いは、多数の患者の診察が行われる医療機関における被検者の本人確認に用いてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1・・眼科撮影装置:2・・対物レンズ:2A・・前眼部照明:2B・・前眼部結像レンズ:3・・有孔ミラー:4・・フォーカスレンズ:5・・ハーフミラー:6・・内部固視灯:7・・リレーレンズ:8・・フォーカスドットミラー:9・・フォーカス指標投影系:10・・黒点板ガラス:11・・リレーレンズ:12・・リングスリット:13・・拡散板:14・・撮影用照明:15・・観察用照明:16・・結像レンズ:17・・狭角用レンズ:18・・広角用レンズ:20・・イメージセンサ:21・・CPU基板:22・・LCDパネル:23・・LCDバックライト:24・・操作部:25・・メイン基板:26・・電子部品類:E・・被検眼:ED・・瞳孔:EK・・虹彩:WDL,WDR・・指標:WGL,WGR・・ワーキングアライメントガイド:HL・・判定ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9