(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】ポリカーボネートシートのプレス成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/52 20060101AFI20230623BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20230623BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230623BHJP
B32B 38/12 20060101ALI20230623BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20230623BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
B29C43/52
B29C43/20
B32B27/36 102
B32B38/12
B29K69:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020550535
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039082
(87)【国際公開番号】W WO2020075619
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018192739
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】鴇田 敦大
(72)【発明者】
【氏名】高崎 雅登
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-000688(JP,A)
【文献】特開2017-072915(JP,A)
【文献】特開2018-103518(JP,A)
【文献】特開2002-069210(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂層(A)の少なくとも一方の面上に高硬度樹脂(B)を主成分とする樹脂層(B)およびハードコート層(C)を順に積層させたポリカーボネートシートのプレス成形体の製造方法であって、以下の工程:
工程(I):前記ポリカーボネートシートを前記樹脂層(A)のガラス転移点-45℃以上ガラス転移点以下の範囲の温度に予備加熱する工程、
工程(II):予備加熱された前記ポリカーボネートシートを金属製の成形型の上型および下型の間に配置する工程であって、前記工程(I)の完了後からポリカーボネートシートを成形型の上型および下型の間に配置するまでの時間が
60秒以内である、工程、および
工程(III):成形型を型締めすることにより上型および下型の一方の型を他方の型に対して押圧して、ポリカーボネートシートのプレス成形体を得る工程であって、前記成形型の温度が前記樹脂層(A)のガラス転移点以下の温度である、工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記工程(III)において、前記成形型の温度が前記樹脂層(A)のガラス転移点-10℃以上ガラス転移点以下の範囲の温度である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(III)において、成形型の型締め力が2000kgf以下である、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリカーボネートシートの鉛筆硬度が2H以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
高硬度樹脂(B)は、下記樹脂(B1)~(B5):
樹脂(B1) 下記一般式(1):
【化19】
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり;R2は炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよい5~18のシクロアルキル基である。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)、および、下記一般式(2):
【化20】
(式中、R3は水素原子またはメチル基であり;R4は炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよいシクロヘキシル基である。)
で表される脂肪族ビニル構成単位(b)を含む共重合体を含む樹脂;
樹脂(B2) (メタ)アクリル酸エステル構成単位を6~77質量%、スチレン構成単位を15~71質量%、および、不飽和ジカルボン酸構成単位を5~25質量%含む共重合体(D)を含む樹脂;
樹脂(B3) 下記一般式(6):
【化21】
で表される構成単位(c)、および、任意に下記一般式(7):
【化22】
で表される構成単位(d)を含む共重合体を含む樹脂;
樹脂(B4) スチレン構成単位を5~20質量%、(メタ)アクリル酸エステル構成単位を60~90質量%、および、N-置換型マレイミド構成単位を5~20質量%含む共重合体(G)を含む樹脂;ならびに
樹脂(B5) 下記一般式(8):
【化23】
で表される構成単位(e)、任意に前記一般式(6)で表される構成単位(c)、および
任意に前記一般式(7)で表される構成単位(d)を含む重合体を含む樹脂;
から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、一般式(7):
【化24】
で表される構成単位を含み、末端停止剤として一般式(5):
【化25】
(式中、R
1は、炭素数8~36のアルキル基または炭素数8~36のアルケニル基を表す。)
で表される1価フェノールを使用して製造されたポリカーボネート樹脂である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
樹脂層(A)のガラス転移点と、樹脂層(B)のガラス転移点とが、以下の関係:
-10℃≦(樹脂層(B)のガラス転移点)-(樹脂層(A)のガラス転移点)≦40℃
を満たす、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレス成形体は、自動車、電機・電子機器、家電製品、または航空機の用途に用いられる部品・部材である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートシートのプレス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機などの内外装部品、電機・電子機器、家電製品などには樹脂成形体が多く用いられている。例えば、計器カバーなどの自動車内装品や家電、OA機器、パーソナルコンピュータ、小型携帯機器などの表示面の構成部品には、ガラス板、透明樹脂板などが使用され、これを保持する枠部品などに樹脂製の成形体(樹脂成形体)が用いられている。また、携帯電話端末などに用いられるタッチパネル型表示面の構成部品には、射出成形樹脂(樹脂成形体)からなる枠部品に透明シート、特に、ガラス板を両面粘着テープなどで接着し、樹脂成形体を積層したものが用いられている。タッチパネル型表示面に用いられる樹脂成形体は、薄さ、強度、耐擦り傷性や指紋ふき取り性などの点から高弾性率の樹脂製材料が選択される。
【0003】
上記のような用途に使用される樹脂成形体は、樹脂シートを成形することにより製造することができるが、用途に応じた特性を付与すべく、種々の工夫がなされている。例えば、樹脂シートをハードコート層、加飾シート等で修飾したり、異なる組成を有する樹脂層を積層して樹脂シートを構成したり、使用する樹脂の組成を工夫したりということがなされている。
【0004】
加飾シートとしては、例えばアクリル系樹脂が用いられており、アクリル系樹脂層の上面または下面にハードコート層を有するものや、アクリル系樹脂層上に印刷等の意匠を設けた上に、更にフィルムを貼り合わせたものなども用いられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、表面側から順に、透明アクリル系樹脂シート層、絵柄印刷インキ層、ABS樹脂シート層およびABS樹脂バッカー層が積層された化粧シートが開示されている。特許文献2には、ポリカーボネート樹脂層の表面にメタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子からなる層が積層されてなる多層フィルムが開示されており、その多層フィルムの一方の面に加飾が施され、その加飾面に熱可塑性樹脂シートが積層された加飾シートが開示されている。さらに、その加飾面に熱可塑性樹脂を射出成形することによって製造された加飾成形品も開示されている。
【0006】
特許文献3には、樹脂基材上に熱硬化型もしくは紫外線硬化型のハードコート層を設けたシートを用いて成形された樹脂成形品が開示されている。
また、特許文献4には、基材フィルムの片面に特定組成のハードコート塗料を用いて形成した層を有する加飾用ハードコートフィルムが開示されており、基材フィルム上に印刷層を設けてよいことも記載されている。この加飾フィルムは、熱成形が可能である。特許文献4に記載の加飾フィルムは、成形用樹脂と一体化され、加飾成形品となる。
【0007】
特許文献5は、ポリカーボネート系樹脂組成物を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂を主成分とする被覆層を備えた積層シートを開示している。
【0008】
上記のように、種々の成形用樹脂シートまたはフィルムが提案されているが、用途により適した特性を有する樹脂成形体を製造することができる樹脂シートまたはフィルムを追及することは、尽きることのない課題である。
従来、異なる種類の樹脂層を積層し、その上にハードコート層を設ける場合には、各層に含まれる樹脂のガラス転移点(Tg)や溶融粘度が異なり、クラック等の不具合が生じないように熱成形することが難しいという問題があった。
【0009】
特許文献6では、二次元曲げされたハードコートシートの製造方法が開示されている。同文献の方法では、積層した樹脂層間のTg差および二次元曲げの加工温度を調節して二次元曲げを行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2001-334609号公報
【文献】特開2009-234184号公報
【文献】特公平4-40183号公報
【文献】特開2010-284910号公報
【文献】特開2009-196153号公報
【文献】特開2014-000688号公報
【発明の概要】
【0011】
最近の進展にもかかわらず、ポリカーボネートシートのプレス成形体の新たな製造方法が依然として求められている。
【0012】
本発明は、例えば以下のとおりである。
[1] ポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂層(A)の少なくとも一方の面上に高硬度樹脂(B)を主成分とする樹脂層(B)およびハードコート層(C)を順に積層させたポリカーボネートシートのプレス成形体の製造方法であって、以下の工程:
工程(I):前記ポリカーボネートシートを前記樹脂層(A)のガラス転移点-45℃以上ガラス転移点以下の範囲の温度に予備加熱する工程、
工程(II):予備加熱された前記ポリカーボネートシートを金属製の成形型の上型および下型の間に配置する工程であって、前記工程(I)の完了後からポリカーボネートシートを成形型の上型および下型の間に配置するまでの時間が90秒以内である、工程、および
工程(III):成形型を型締めすることにより上型および下型の一方の型を他方の型に対して押圧して、ポリカーボネートシートのプレス成形体を得る工程であって、前記成形型の温度が前記樹脂層(A)のガラス転移点以下の温度である、工程
を含む、製造方法。
[2] 前記工程(II)において、工程(I)の完了後からポリカーボネートシートを成形型の上型および下型の間に配置するまでの時間が60秒以内である、[1]に記載の方法。
[3] 前記工程(III)において、前記成形型の温度が前記樹脂層(A)のガラス転移点-10℃以上ガラス転移点以下の範囲の温度である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記工程(III)において、成形型の型締め力が2000kgf以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記ポリカーボネートシートの鉛筆硬度が2H以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 高硬度樹脂(B)は、下記樹脂(B1)~(B5):
樹脂(B1) 下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基であり;R2は炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよい5~18のシクロアルキル基である。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)、および、下記一般式(2):
【化2】
(式(2)中、R3は水素原子またはメチル基であり;R4は炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよいシクロヘキシル基である。)
で表される脂肪族ビニル構成単位(b)を含む共重合体を含む樹脂;
樹脂(B2) (メタ)アクリル酸エステル構成単位を6~77質量%、スチレン構成単位を15~71質量%、および、不飽和ジカルボン酸構成単位を5~25質量%含む共重合体(D)を含む樹脂;
樹脂(B3) 下記一般式(6):
【化3】
で表される構成単位(c)、および、任意に下記一般式(7):
【化4】
で表される構成単位(d)を含む共重合体を含む樹脂;
樹脂(B4) スチレン構成単位を5~20質量%、(メタ)アクリル酸エステル構成単位を60~90質量%、および、N-置換型マレイミド構成単位を5~20質量%含む共重合体(G)を含む樹脂;ならびに
樹脂(B5) 下記一般式(8):
【化5】
で表される構成単位(e)、任意に前記一般式(6)で表される構成単位(c)、および
任意に前記一般式(7)で表される構成単位(d)を含む重合体を含む樹脂;
から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記ポリカーボネート樹脂が、一般式(7):
【化6】
で表される構成単位を含み、末端停止剤として一般式(5):
【化7】
(式中、R
1は、炭素数8~36のアルキル基または炭素数8~36のアルケニル基を表す。)
で表される1価フェノールを使用して製造されたポリカーボネート樹脂である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 樹脂層(A)のガラス転移点と、樹脂層(B)のガラス転移点とが、以下の関係:
-10℃≦(樹脂層(B)のガラス転移点)-(樹脂層(A)のガラス転移点)≦40℃
を満たす、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記プレス成形体は、自動車、電機・電子機器、家電製品、または航空機の用途に用いられる部品・部材である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【0013】
本発明によれば、ポリカーボネートシートのプレス成形体の新たな製造方法が提供される。
本発明の一つの態様によれば、硬度が高く、成形時にハードコートクラックやシートの割れが生じにくい樹脂成形体を提供することができる。
本発明の好ましい態様によれば、成形時にスプリングバックが小さい樹脂成形体を提供することができる。
本発明の好ましい態様によれば、成形時に梨地状の凹凸の発生が抑制された樹脂成形体を提供することができる。
本発明の好ましい態様によれば、二次元曲げ用成形型だけでなく多様な曲面形状の成形型を用いて製造された熱プレス成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例および比較例の熱プレス工程に用いた成形型(二次元状(トンネル型))の断面を示す模式図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例13の成形体の断面写真であり、
図2(b)は、実施例5の成形体の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について製造例や実施例等を例示して詳細に説明するが、本発明は例示される製造例や実施例等に限定されるものではなく、本発明の内容を大きく逸脱しない範囲であれば任意の方法に変更して行なうこともできる。
【0016】
本発明の一形態は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂層(A)の少なくとも一方の面上に高硬度樹脂(B)を主成分とする樹脂層(B)およびハードコート層(C)を順に積層させたポリカーボネートシートのプレス成形体の製造方法に関する。該製造方法は、以下の工程(I)~(III)を含む。
工程(I):前記ポリカーボネートシートを前記樹脂層(A)のガラス転移点-45℃以上ガラス転移点以下の範囲の温度に予備加熱する工程
工程(II):予備加熱された前記ポリカーボネートシートを金属製の成形型の上型および下型の間に配置する工程であって、前記工程(I)の完了後からポリカーボネートシートを成形型の上型および下型の間に配置するまでの時間が90秒以内である、工程
工程(III):成形型を型締めすることにより上型および下型の一方の型を他方の型に対して押圧して、ポリカーボネートシートのプレス成形体を得る工程であって、前記成形型の温度が前記樹脂層(A)のガラス転移点以下の温度である、工程
【0017】
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂を基材として含み、表面にハードコート層を設けた高硬度のポリカーボネートシート(成形用樹脂シート)のプレス成形体の製造方法について鋭意研究した。その結果、成形に用いるポリカーボネートシートを所定の積層体(樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C))の構成とし、かつ、所定のプレス成形方法により成形することで、硬度が高いシートでも割れにくく、成形時にクラックの発生が抑制され、外観異常が生じにくい成形体を提供できることを見出した。さらに、実施形態の製造方法によれば、ハードコート層を有する樹脂積層体の熱成形の従来法では困難であった、多様な曲面形状の成形型(例えば、二次元形状(例えば厚さ2mmのシートにて曲率半径70mm以下、さらには曲率半径50mm以下のトンネル型)、半球状の金型、曲率半径約100mmR以上の三次元形状の金型)を用いることができ、これにより多様な形状(例えば三次元形状)の熱プレス成形体を得ることができることを見出した。
【0018】
以下、実施形態のプレス成形に用いられるポリカーボネートシートおよびプレス成形方法について説明する。
1.ポリカーボネートシート
本発明の成形に用いる成形用のポリカーボネートシート(以下、単に「樹脂シート」とも称する)は、ポリカーボネート樹脂(a1)を主成分とする樹脂層(A)と、樹脂層(A)の少なくとも一方の面上に位置する、高硬度樹脂(B)を主成分とする樹脂層(B)と、ハードコート層(C)とを有する。樹脂層(B)は、樹脂層(A)とハードコート層(C)との間に位置する。樹脂層(A)と樹脂層(B)の間、樹脂層(B)とハードコート層(C)の間には、それぞれさらなる層が存在していてもよい。さらなる層としては、接着剤層、プライマー層等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらなる層は存在していなくてもよい。1つの実施形態として、樹脂シートは、ポリカーボネート樹脂(a1)を主成分とする樹脂層(A)と、樹脂層(A)の少なくとも一方の面の直上に積層された樹脂層(B)と、樹脂層(B)の直上に積層されたハードコート層(C)とを有する。
【0019】
樹脂層(B)およびハードコート層(C)は、樹脂層(A)の少なくとも一方の側に設ければよく、他方の側の構成に特に制限はない。また、樹脂層(B)を樹脂層(A)の両側に設けてもよく、その場合、一方または両方の樹脂層(B)上にハードコート層(C)を設けることができる。樹脂層(B)を樹脂層(A)の両側に設ける場合には、2つの樹脂層(B)で同じ高硬度樹脂(B)を使用することが、反りの少ない安定した、熱プレス成形に適した樹脂シートを得るために望ましい。
【0020】
続いて、ポリカーボネートシート(樹脂シート)の各構成部材について説明する。
2.樹脂層(A)
樹脂層(A)は、は、ポリカーボネートシートの基材となる層であり、ポリカーボネート樹脂(a1)を主成分として含む樹脂層である。樹脂層(A)に含まれるポリカーボネート樹脂(a1)は、1種類であっても2種類以上であってもよい。ここで「ポリカーボネート樹脂(a1)を主成分とする」とは、例えば、樹脂層(A)中のポリカーボネート樹脂(a1)の含有量が、樹脂層(A)の全質量に対して50質量%以上を占めることをいうものとする。樹脂層(A)中のポリカーボネート樹脂(a1)の含有量は、75質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。ポリカーボネート樹脂の含有量を増やすことで、耐衝撃性が向上する。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(a1)としては、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む単位、即ち、-[O-R-OCO]-単位(ここで、Rは、脂肪族基、芳香族基、または脂肪族基と芳香族基との双方を含んでいてもよく、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい)を含むものであれば特に限定されるものではない。中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、芳香族ジヒドロキシ化合物を用いて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂がより好ましく、特に下記式(7)の構成単位を含むポリカーボネート樹脂を使用することが好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を使用することで、耐衝撃性により優れた樹脂シートを得ることができる。
【0022】
【化8】
具体的には、ポリカーボネート樹脂(a1)として、芳香族ポリカーボネート樹脂(例えば、ユーピロンS-2000、ユーピロンS-1000、ユーピロンE-2000;三菱エンジニアリングプラスチックス社製)等が好ましく挙げられる。これらのポリカーボネート系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移点を制御する目的で、下記一般式(4)で表されるような1価フェノールを末端停止剤として付加したポリカーボネート樹脂も使用されている。具体的には、上記式(7)で表される構成単位を含み、末端停止剤として一般式(4)で表される1価フェノールを使用して製造されたポリカーボネート樹脂である。本発明においても、このような末端停止剤を付加したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【化9】
(式中、R
1は、炭素数8~36のアルキル基または炭素数8~36のアルケニル基を表し;R
2~R
5はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、または置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数6~12のアリール基を表し;ここで、前記置換基は、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基である。)
本明細書中において、「アルキル基」および「アルケニル基」は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、置換基を有していてもよい。
より好ましくは、一般式(4)で表される1価フェノールは、下記一般式(5)で表される。
【化10】
(式中、R
1は、炭素数8~36のアルキル基または炭素数8~36のアルケニル基を表す。)
【0024】
一般式(4)または一般式(5)におけるR1の炭素数は、特定の数値範囲内であることがより好ましい。具体的には、R1の炭素数の上限値として30が好ましく、22がより好ましく、18が特に好ましい。また、R1の炭素数の下限値として、10が好ましく、12がより好ましい。
一般式(4)または一般式(5)におけるR1の炭素数が上記範囲であると、生産性(経済性)に優れ、しかもポリカーボネート樹脂のガラス転移点の上昇が抑制され、熱成形性に優れる。
【0025】
一般式(4)または一般式(5)で示される1価フェノールの中でも、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステルのいずれかもしくは両方を末端停止剤として使用することが特に好ましい。
【0026】
例えば、一般式(5)においてR1が炭素数16のアルキル基である1価フェノールを末端停止剤として使用した場合、ガラス転移温度、溶融流動性、成形性、耐ドローダウン性等に優れたポリカーボネート樹脂を得ることができるため、特に好ましい。
【0027】
このような1価フェノールを末端停止剤として使用したポリカーボネート樹脂としては、例えば、ユピゼータT-1380(三菱ガス化学製)等が挙げられる。
【0028】
本発明において、ポリカーボネート樹脂(a1)の重量平均分子量(Mw)は、樹脂シートの耐衝撃性および熱安定性に影響し得る。ポリカーボネート樹脂(a1)の重量平均分子量(Mw)は、耐衝撃性及び熱安定性の観点から、15,000~75,000が好ましく、20,000~70,000がより好ましい。さらに好ましくは20,000~65,000である。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0029】
本発明において、樹脂層(A)のガラス転移点は、樹脂層(B)のガラス転移点と、以下の関係を満たすことが好ましい。
-10℃≦(樹脂層(B)のガラス転移点)-(樹脂層(A)のガラス転移点)≦40℃
このような関係を満たすことにより、硬度が高く、成形する際にクラック、フローマーク等の外観異常が生じにくい成形用樹脂シートを得ることができる。特に熱成形時に外観異常が生じにくく、このような樹脂シートは、熱成形時の条件(温度、加熱時間等)を広く設定することができるため、熱成形に適した樹脂シートであると言える。
【0030】
樹脂層(A)および樹脂層(B)のガラス転移点は、-10℃≦(樹脂層(B)のガラス転移点)-(樹脂層(A)のガラス転移点)≦30℃であることが好ましく、-7℃≦(樹脂層(B)のガラス転移点)-(樹脂層(A)のガラス転移点)≦30℃であることがより好ましい。樹脂層(B)のTgが樹脂層(A)のTgよりも極端に低いと、熱成形時に樹脂層(B)を構成する高硬度樹脂がゴム状態または溶融状態となり、動きやすくなる。このような場合、高度に架橋された構造を有し、熱がかかっても硬いままであるハードコート層(C)が、動きやすくなった高硬度樹脂の動きに追従できずクラックが生じ易くなる。一方、樹脂層(B)のTgが樹脂層(A)のTgと比較して高すぎると、樹脂層(B)を構成する高硬度樹脂と樹脂層(A)を構成するポリカーボネート樹脂との粘度の差が大きくなり、これらを積層する際に界面が荒れてしまい、フローマークが生じ得る。
【0031】
当業者であれば、使用する高硬度樹脂のガラス転移点(Tg)を考慮して、公知のポリカーボネート樹脂の中から上記関係を満たすようなTgを有するポリカーボネート樹脂(a1)を適宜選択して使用することができる。ポリカーボネート樹脂(a1)のTgは90~190℃であることが好ましく、100~170℃であることがより好ましく、110~150℃であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、「樹脂層(A)のガラス転移点」とは、樹脂層(A)の主成分であるポリカーボネート樹脂(a1)のガラス転移温度を意味する。樹脂層(A)が2種以上のポリカーボネート樹脂(a1)を含んでいる場合のガラス転移点は、ポリカーボネート樹脂混合物のガラス転移温度である。また、「樹脂層(B)のガラス転移点」とは、樹脂層(B)の主成分である高硬度樹脂のガラス転移温度を意味する。樹脂層(B)が2種以上の高硬度樹脂を含んでいる場合のガラス転移点は、高硬度樹脂混合物のガラス転移温度である。本明細書において、ガラス転移点とは、示差走査熱量測定装置を用いて、試料10mg、昇温速度10℃/分で測定し、中点法で算出した温度である。
【0032】
樹脂層(A)は、ポリカーボネート樹脂(a1)に加え、他の樹脂を含んでいてもよい。そのような樹脂としては、ポリエステル樹脂等が挙げられる。ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分として主にテレフタル酸を含んでいることが好ましいが、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を含んでいてもよい。
例えば、主成分であるエチレングリコール80~60モル%に対して1,4-シクロヘキサンジメタノールを20~40モル%(合計100モル%)含むグリコール成分とジカルボン酸成分とが重縮合してなるポリエステル樹脂(所謂「PETG」)が好ましい。樹脂層(A)における樹脂は、ポリカーボネート樹脂(a1)のみであることが好ましいが、その他の樹脂を含む場合には、その量は樹脂層(A)の全質量に対して0~50質量%であることが好ましく、0~30質量%であることがより好ましく、0~20質量%であることが特に好ましい。
【0033】
樹脂層(A)は、さらに添加剤等を含んでいてもよい。添加剤としては、樹脂シートにおいて通常使用されるものを使用することができ、そのような添加剤としては、例えば、抗酸化剤、抗着色剤、抗帯電剤、離型剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、樹脂改質剤、相溶化剤、有機フィラーや無機フィラーのような強化材などが挙げられる。添加剤と樹脂とを混合する方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。添加剤の量は、樹脂層(A)の全質量に対して0~10質量%であることが好ましく、0~7質量%であることがより好ましく、0~5質量%であることが特に好ましい。
【0034】
樹脂層(A)の厚みは、0.3~10mmであることが好ましく、0.3~5mmであることがより好ましく、0.3~3.5mmであることが特に好ましい。
【0035】
3.樹脂層(B)
樹脂層(B)は、高硬度樹脂を主成分として含む樹脂層である。ここで「高硬度樹脂を主成分とする」とは、例えば、樹脂層(B)中の高硬度樹脂の含有量が、樹脂層(B)の全質量に対して50質量%以上を占めることをいうものとする。樹脂層(B)中の高硬度樹脂の含有量は、70~100質量%以上であることが好ましく、80~100質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
本明細書において、高硬度樹脂とは、鉛筆硬度がHB以上の樹脂を意味する。高硬度樹脂の鉛筆硬度は、HB以上3H以下であることが好ましく、H以上3H以下であることがより好ましい。ここでいう高硬度樹脂の鉛筆硬度は、高硬度樹脂で構成した樹脂層の表面に対して角度45度、荷重750gで次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を意味する(JIS K 5600-5-4:1999に準拠した鉛筆ひっかき硬度試験)。
樹脂層(B)に含まれる高硬度樹脂は、1種類であっても2種類以上であってもよい。高硬度樹脂は、例えば、以下に示す樹脂(B1)~(B5)の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0036】
<樹脂(B1)>
樹脂(B1)は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)とを含む共重合体(b1)を含む樹脂である。樹脂(B1)は、該共重合体(b1)と他の重合体とのアロイでもよく、例えば、該共重合体(b1)と以下<樹脂(B2)>で説明する共重合体(b2)とのアロイであってよい。好ましくは、樹脂(B1)は、樹脂(B1)の総質量(100質量%)に対して共重合体(b1)の含有量が80~100質量%が好ましく、95~100質量%がより好ましい。
【0037】
【化11】
(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基であり;R2は炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよい炭素数5~18のシクロアルキル基である。)
【化12】
(式(2)中、R3は水素原子またはメチル基であり;R4は炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよいシクロヘキシル基である。)
本明細書中において、「炭化水素基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、置換基を有していてもよい。
本明細書中において、「シクロアルキル」は、単環式または二環式のいずれであってもい。
【0038】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)において、R2は炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~4の炭化水素基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)で置換されていてもよい炭素数5~18のシクロアルキル基であり、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基、ドデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基などが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)のうち、好ましいのはR2がメチル基またはエチル基である(メタ)アクリル酸エステル構成単位であり、更に好ましいのはR1がメチル基であり、R2がメチル基であるメタクリル酸メチル構成単位である。
【0039】
一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)において、R3は水素原子またはメチル基であり、水素原子であることがより好ましい。R4は、シクロヘキシル基または炭素数1~4の炭化水素基(例えば、メチル基、ブチル基)で置換されたシクロヘキシル基であり、置換基を有さないシクロへキシル基であることが好ましい。
脂肪族ビニル構成単位(b)のうち、より好ましいのはR3が水素原子であり、R4がシクロヘキシル基である脂肪族ビニル構成単位である。
【0040】
共重合体(b1)は、(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)を1種または2種以上含有していてもよく、脂肪族ビニル構成単位(b)を1種または2種以上含有していてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と脂肪族ビニル構成単位(b)との合計含有量は、共重合体(b1)の全構成単位に対して好ましくは90~100モル%であり、より好ましくは95~100モル%であり、特に好ましくは98~100モル%である。
【0041】
すなわち、共重合体(b1)は、(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)および脂肪族ビニル構成単位(b)以外の構成単位を含有していてもよい。その量は、樹脂(B1)の全構成単位に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることが特に好ましい。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)および脂肪族ビニル構成単位(b)以外の構成単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーとを重合した後に該芳香族ビニルモノマー由来の芳香族二重結合を水素化して共重合体(b1)を製造する過程において生じる、水素化されていない芳香族二重結合を含む芳香族ビニルモノマー由来の構成単位などが挙げられる。例えば、下記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位が挙げられる。
【化13】
(式(3)中、R5は水素原子またはメチル基であり;R6は炭素数1~4の炭化水素基(例えば、メチル基、ブチル基)で置換されていてもよいフェニル基、シクロヘキサジエン基、シクロヘキセン基である。)
【0043】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)の含有量は、樹脂(B1)中の全構成単位に対して好ましくは65~80モル%であり、より好ましくは70~80モル%である。樹脂(B1)中の全構成単位に対する(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)の割合が65モル%以上であると、樹脂層(A)との密着性や表面硬度に優れた樹脂層を得ることができる。また、80モル%以下であれば、樹脂シートの吸水による反りが発生しづらい。
【0044】
一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)の含有量は、樹脂(B1)中の全構成単位に対して好ましくは20~35モル%であり、より好ましくは20~30モル%である。脂肪族ビニル構成単位(b)の含有量が20モル%以上であれば、高温高湿下でのそりを防ぐことができ、また、35モル%以下であれば、基材との界面での剥離を防ぐことができる。
なお、本明細書において、「共重合体」は、ランダム、ブロックおよび交互共重合体のいずれの構造であってもよい。
【0045】
共重合体(b1)の製造方法は、特に限定されないが、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとを重合した後、該芳香族ビニルモノマー由来の芳香族二重結合を水素化して得られたものが好適である。なお、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸および/またはアクリル酸を示す。
この際に使用される芳香族ビニルモノマーとしては、具体的にはスチレン、α-メチルスチレン、p-ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、クロロスチレン、およびそれらの誘導体などが挙げられる。これらの中で好ましいのはスチレンである。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーの重合には、公知の方法を用いることができるが、例えば、塊状重合法や溶液重合法などにより製造することができる。
【0047】
共重合体(b1)は、芳香族ビニルモノマー由来の芳香族二重結合の70%以上が水素化されたものであることが好ましい。即ち、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中に含まれる芳香族二重結合の未水素化率は、30%未満であることが好ましい。未水素化率が30%未満であることにより、透明性に優れた樹脂を得ることができる。未水素化率は、より好ましくは10%未満であり、さらに好ましくは5%未満である。
【0048】
樹脂(B1)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、強度および成形性の観点から、50,000~400,000であることが好ましく、70,000~300,000であることがより好ましい。
【0049】
樹脂(B1)のガラス転移点(Tg)は、110~140℃の範囲であることが好ましく、110~135℃であることがより好ましく、110~130℃であることが特に好ましい。ガラス転移点(Tg)が110℃以上であることにより、本発明で提供される樹脂シートが熱環境あるいは湿熱環境において変形や割れを生じることが少ない。一方、140℃以下であることにより、鏡面ロールや賦形ロールによる連続式熱賦形、あるいは鏡面金型や賦形金型によるバッチ式熱賦形によって成形する場合に加工性に優れる。
【0050】
樹脂(B1)として、具体的には、オプティマス7500、6000(三菱ガス化学製)が挙げられる。
【0051】
高硬度樹脂として樹脂(B1)を使用する場合には、ポリカーボネート樹脂(a1)として上記一般式(7)で表される構成単位を含み、末端停止剤として上記一般式(5)で表される1価フェノールを使用して製造されたポリカーボネート樹脂(例えばユピゼータT-1380(三菱ガス化学製))を使用することが好ましい。樹脂(B1)として、一般式(1)で表される構成単位(R1、R2がともにメチル基;メタクリル酸メチル)を75モル%、一般式(2)で表される構成単位(R3が水素原子、R4がシクロヘキシル基)を25モル%含む共重合体を使用し、ポリカーボネート樹脂(a1)として一般式(7)の構成単位を含み、末端停止剤として一般式(5)で表される1価フェノール(R1の炭素数が8~22)を使用して製造したポリカーボネート樹脂を使用する態様が特に好ましい。
【0052】
<樹脂(B2)>
樹脂(B2)は、(メタ)アクリル酸エステル構成単位を6~77質量%、スチレン構成単位を15~71質量%、および不飽和ジカルボン酸構成単位を5~25質量%含む共重合体(D)を含む樹脂である。樹脂(B)は共重合体(D)同士のアロイである樹脂、更には、共重合体(D)と共重合体(D)以外の高硬度の重合体のアロイである樹脂であってよい。共重合体(D)以外の高硬度の重合体としては、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体などが挙げられる。アロイにする場合には、高硬度樹脂のTg低下を避けるため、より高Tgである重合体同士のアロイが良い。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステル構成単位を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えばアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられ、特にメタクリル酸メチルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、2種以上を混合して使用してもよい。
(メタ)アクリル酸エステル構成単位の含有量は、共重合体(D)の全質量に対して6~77質量%であり、6~70質量%が好ましく、20~70質量%であることがより好ましい。
【0054】
スチレン構成単位としては、特に限定されず、任意の公知のスチレン系単量体を用いることが出来る。入手の容易性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン等が好ましい。これらの中でも、相溶性の観点からスチレンが特に好ましい。これらのスチレン系単量体は、2種以上を混合して使用しても良い。
スチレン構成単位の含有量は、共重合体(D)の全質量に対して15~71質量%であり、20~71質量%であることがより好ましい。
【0055】
不飽和ジカルボン酸構成単位を構成する不飽和ジカルボン酸無水物単量体としては、例えばマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の酸無水物が挙げられ、スチレン系単量体との相溶性の観点から無水マレイン酸が好ましい。これらの不飽和ジカルボン酸無水物単量体は2種以上を混合して使用しても良い。
不飽和ジカルボン酸構成単位の含有量は、共重合体(D)の全質量に対して5~25質量%であり、6~24質量%が好ましく、8~23質量%であることがより好ましい。
【0056】
上記(メタ)アクリル酸エステル構成単位、スチレン構成単位および不飽和ジカルボン酸構成単位の合計含有量は、共重合体(D)の全構成単位に対して好ましくは90~100モル%であり、より好ましくは95~100モル%であり、特に好ましくは98~100モル%である。
すなわち、共重合体(D)は、上記(メタ)アクリル酸エステル構成単位、スチレン構成単位および不飽和ジカルボン酸構成単位以外の構成単位を含有していてもよい。その量は、共重合体(D)の全構成単位に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることが特に好ましい。
【0057】
その他の構成単位としては、例えば、N-フェニルマレイミドなどが挙げられる。
共重合体(D)の製造方法は、特に限定されないが、塊状重合法や溶液重合法が挙げられる。
【0058】
樹脂(B2)として、具体的には、レジスファイ R100、R200、R310(デンカ製)、デルペット980N(旭化成ケミカル製)、hw55(ダイセルエボニック製)等が挙げられる。
【0059】
樹脂(B2)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、50,000~300,000であることが好ましく、80,000~200,000であることがより好ましい。
【0060】
樹脂(B2)のガラス転移点(Tg)は、90~150℃であることが好ましく、100~150℃であることがより好ましく、115~150℃であることが特に好ましい。
【0061】
高硬度樹脂として樹脂(B2)を使用する場合には、ポリカーボネート樹脂(a1)として一般式(7)の構成単位を含むポリカーボネート樹脂を使用する態様が好ましい。さらには、末端停止剤として一般式(5)で表される1価フェノール(R1の炭素数が8~22)を使用して製造されたポリカーボネート樹脂を使用するする態様が特に好ましい。樹脂(B2)としてメタクリル酸メチル構成単位6~26質量%、スチレン構成単位55~71質量%、無水マレイン酸構成単位15~23質量%で構成される共重合体(R100、R200、またはR310;デンカ製)を使用し、ポリカーボネート樹脂(a1)として上記一般式(7)で表される構成単位を含み、末端停止剤として上記一般式(5)で表される1価フェノールを使用して製造されたポリカーボネート樹脂(例えばユピゼータT-1380)または上記一般式(7)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(例えばユーピロンS-100)を使用する態様が好ましい。また、樹脂(B2)としてメタクリル酸メチル構成単位21質量%、スチレン64質量%、無水マレイン酸15質量%で構成される共重合体(R100;デンカ製)を使用し、ポリカーボネート樹脂(a1)として上記一般式(7)で表される構成単位を含み、末端停止剤として上記一般式(5)で表される1価フェノールを使用して製造されたポリカーボネート樹脂(例えばユピゼータT-1380)を使用する態様が特に好ましい。
【0062】
<樹脂(B3)>
樹脂(B3)は、下記一般式(6)で表される構成単位(c)と、任意に下記一般式(7)で表される構成単位(d)とを含む共重合体を含む樹脂である。樹脂(B3)は、構成単位(d)を含んでいても含んでいなくてもよいが、含んでいることが好ましい。
【化14】
【0063】
樹脂(B3)の全構成単位における構成単位(c)の割合は、50~100モル%であることが好ましく、60~100モル%であることがより好ましく、70~100モル%であることが特に好ましい。樹脂(B3)の全構成単位における構成単位(d)の割合は、0~50モル%であることが好ましく、0~40モル%であることがより好ましく、0~30モル%であることが特に好ましい。
【0064】
構成単位(c)と構成単位(d)の合計含有量は、樹脂(B3)に対して好ましくは90~100モル%であり、より好ましくは95~100モル%であり、特に好ましくは98~100モル%である。
【0065】
樹脂(B3)は、構成単位(c)および構成単位(d)以外の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成単位を含む場合、その量は、樹脂(B3)の全構成単位に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることが特に好ましい。
その他の構成単位としては、例えば、後述する一般式(8)で表される構成単位などが挙げられる。
【0066】
樹脂(B3)の製造方法は、特に限定されないが、モノマーとしてビスフェノールCを使用することを除いて上述したポリカーボネート樹脂(a1)の製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0067】
樹脂(B3)として、具体的には、ユーピロン KH3410UR、KH3520UR、KS3410UR(三菱エンジニアリングプラスチック社製)等が挙げられる。
【0068】
樹脂(B3)の重量平均分子量(Mw)は、15,000~75,000が好ましく、20,000~70,000がより好ましく、25,000~65,000が特に好ましい。
【0069】
樹脂(B3)のガラス転移点(Tg)は、105~150℃であることが好ましく、110~140℃であることがより好ましく、110~135℃であることが特に好ましい。
【0070】
高硬度樹脂として樹脂(B3)を使用する場合には、ポリカーボネート樹脂(a1)として一般式(7)の構成単位を含むポリカーボネート樹脂を使用する態様が好ましい。さらには、上記一般式(7)で表される構成単位を含み、末端停止剤として一般式(5)で表される1価フェノール(R1の炭素数が8~22)を使用して製造したポリカーボネート樹脂を使用する態様が特に好ましい。このようなポリカーボネート樹脂としては、ユピゼータT-1380(三菱ガス化学製)が挙げられる。特に、樹脂(B3)としてユーピロンKS3410UR(三菱エンジニアリングプラスチックス製)を使用し、ポリカーボネート樹脂(a1)としてユピゼータT-1380(三菱ガス化学製)を使用することが好ましい。
【0071】
高硬度樹脂として樹脂(B3)を使用する場合、樹脂層(B)に含まれる他の樹脂としては、構成単位(c)を含まず、構成単位(d)を含む樹脂が好ましく、構成単位(d)のみからなる樹脂がより好ましい。具体的には、芳香族ポリカーボネート樹脂(例えば、ユーピロンS-2000、ユーピロンS-1000、ユーピロンE-2000;三菱エンジニアリングプラスチックス社製)等が使用可能である。他の樹脂を含む場合、樹脂(B3)は、樹脂層(B)に含まれる全樹脂に対して、好ましくは45質量%以上、より好ましくは55質量%以上の割合で含まれる。
【0072】
<樹脂(B4)>
樹脂(B4)は、スチレン構成単位を5~20質量%、(メタ)アクリル酸エステル構成単位を60~90質量%、およびN-置換型マレイミド構成単位を5~20質量%含む共重合体(G)を含む樹脂である。樹脂(B4)は、共重合体(G)と上記共重合体(D)またはその他の重合体とのアロイであってもよい。アロイの場合には、樹脂層(B)のTg低下を避けるため、より高Tg同士の樹脂のアロイが良い。
【0073】
スチレン構成単位としては、特に限定されず、任意の公知のスチレン系単量体を用いることが出来るが、入手の容易性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン等が好ましい。これらの中でも、相溶性の観点からスチレンが特に好ましい。共重合体(G)は、これらのスチレン構成単位を2種以上含んでいてもよい。スチレン構成単位の含有量は、共重合体(G)の全質量に対して5~20質量%であり、5~15質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。
【0074】
(メタ)アクリル酸エステル構成単位としては、例えばアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル等に由来する構成単位が挙げられ、特にメタクリル酸メチルに由来する構成単位が好ましい。また、共重合体(G)は、これらの(メタ)アクリル酸エステル構成単位を2種類以上含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸エステル構成単位の含有量は、共重合体(G)の全質量に対して60~90質量%であり、70~90質量%であることが好ましく、80~90質量%であることがより好ましい。
【0075】
共重合体(G)におけるN-置換型マレイミド構成単位としては、N-フェニルマレイミド、N-クロロフェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-カルボキシフェニルマレイミド、N-ニトロフェニルマレイミド、N-トリブロモフェニルマレイミドなどのN-アリールマレイミド等に由来する構成単位が挙げられ、アクリル樹脂との相溶性の観点からN-フェニルマレイミドに由来する構成単位が好ましい。共重合体(G)は、これらのN-置換型マレイミド構成単位を2種以上含んでいてもよい。N-置換型マレイミド構成単位の含有量は、共重合体(G)の全質量に対して5~20質量%であり、5~15質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。
【0076】
スチレン構成単位、(メタ)アクリル酸エステル構成単位、およびN-置換型マレイミド構成単位の合計含有量は、共重合体(G)に対して好ましくは90~100モル%であり、より好ましくは95~100モル%であり、特に好ましくは98~100モル%である。
共重合体(G)は、上記構成単位以外の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成単位を含む場合、その量は、共重合体(G)の全構成単位に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることが特に好ましい。
【0077】
その他の構成単位としては、例えば、下記一般式(1)に由来する構成単位、一般式(2)に由来する構成単位などが挙げられる。
【化15】
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり;R2は炭素数1~18のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ドデシル基、オクタデシル基など)または炭素数1~4の炭化水素基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)で置換されていてもよい炭素数5~18のシクロアルキル基(例えばシクロヘキシル基、イソボルニル基など)である。)
【化16】
(式中、R3は水素原子またはメチル基であり;R4は炭素数1~4の炭化水素基(例えばメチル基、ブチル基)で置換されていてもよいシクロヘキシル基である。)
【0078】
共重合体(G)の製造方法は、特に限定されないが、溶液重合、塊状重合などによって製造することができる。
【0079】
樹脂(B4)として、具体的には、デルペット PM120N(旭化成ケミカル社製)が挙げられる。
【0080】
樹脂(B4)の重量平均分子量(Mw)は、50,000~250,000であることが好ましく、100,000~200,000がより好ましい。
【0081】
樹脂(B4)のガラス転移点(Tg)は、110~150℃であることが好ましく、115~140℃であることがより好ましく、115~135℃であることが特に好ましい。
【0082】
高硬度樹脂として樹脂(B4)を使用する場合には、ポリカーボネート樹脂(a1)として一般式(7)の構成単位を含むポリカーボネート樹脂を使用する態様が好ましい。さらには、上記一般式(7)で表される構成単位を含み、末端停止剤として一般式(5)で表される1価フェノール(R1の炭素数が8~22)を使用して製造したポリカーボネート樹脂を使用する態様が特に好ましい。このようなポリカーボネート樹脂としては、ユピゼータT-1380(三菱ガス化学製)が挙げられる。特に、樹脂(B4)としてスチレン構成単位7%、(メタ)アクリル酸エステル構成単位86%、およびN-置換型マレイミド構成単位7%からなるデルペットPM-120Nを使用し、ポリカーボネート樹脂(a1)としてユピゼータT-1380を使用するのが好ましい。
【0083】
<樹脂(B5)>
樹脂(B5)は、下記一般式(8)で表される構成単位(e)を含む重合体(E)を含む樹脂である。
【化17】
【0084】
重合体(E)の全構成単位における構成単位(e)の割合は、80~100モル%であることが好ましく、90~100モル%であることがより好ましく、95~100モル%であることが特に好ましい。
重合体(E)は、構成単位(e)以外の構成単位を含んでいてもよいが、構成単位(e)からなるポリカーボネート樹脂であることが好ましい。その他の構成単位を含む場合、その量は、重合体(E)の全構成単位に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることが特に好ましい。
【0085】
その他の構成単位としては、例えば、下記一般式(6)で表される構成単位(c)、一般式(7)で表される構成単位(d)などが挙げられる。すなわち、樹脂(B5)は、上記一般式(8)で表される構成単位(e)、任意に前記一般式(6)で表される構成単位(c)、および任意に前記一般式(7)で表される構成単位(d)を含む重合体を含む樹脂である。
【化18】
【0086】
重合体(E)の製造方法は、特に限定されないが、モノマーとしてビスフェノールAPを使用することを除き、上述したポリカーボネート樹脂(a1)の製造方法と同様の方法で製造することができる。
樹脂(B5)として、具体的には、ユピゼータ FPC0220(三菱ガス化学社製)が挙げられる。
【0087】
樹脂(B5)の重量平均分子量(Mw)は、10,000~1,000,000であることが好ましく、15,000~50,000がより好ましい。
【0088】
樹脂(B5)のガラス転移点は、120~200℃であることが好ましく、130~190℃であることがより好ましく、140~190℃であることが特に好ましい。
【0089】
高硬度樹脂として樹脂(B5)を使用する場合には、ポリカーボネート樹脂(a1)として一般式(7)の構成単位を含むポリカーボネート樹脂を使用する態様が好ましい。このようなポリカーボネート樹脂としては、ユーピロンE-2000(三菱エンジニアリングプラスチックス製)が挙げられる。特に、樹脂(B5)としてユピゼータFPC0220(三菱ガス化学製)を使用し、ポリカーボネート樹脂(a1)としてユーピロンE-2000(三菱エンジニアリングプラスチックス製)を使用することが好ましい。
【0090】
高硬度樹脂として樹脂(B5)を使用する場合、樹脂層(B)に含まれる他の重合体としては、構成単位(e)を含まず、樹脂(B3)で説明した構成単位(d)を含む重合体が好ましく、構成単位(d)のみからなる重合体がより好ましい。具体的には、芳香族ポリカーボネート樹脂(例えば、ユーピロンS-2000、ユーピロンS-1000、ユーピロンE-2000;三菱エンジニアリングプラスチックス社製)等が使用可能である。樹脂(B5)が他の重合体を含む場合、重合体(E)は、樹脂層(B)に含まれる全重合体に対して、好ましくは45質量%以上、より好ましくは55質量%以上の割合で含まれる。
【0091】
樹脂層(B)に含まれる高硬度樹脂は、1種類であっても2種類以上であってもよく、樹脂(B1)~(B5)から2種類以上を選択する場合は、同じまたは異なるカテゴリーから選択することができ、さらに樹脂(B1)~(B5)以外の高硬度樹脂を含んでいてもよい。
好ましい一態様では、高硬度樹脂は、樹脂(B2)を含む。
【0092】
樹脂層(B)は、上記で説明したような高硬度樹脂に加え、他の樹脂を含んでいてもよい。そのような樹脂としては、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネート、シクロオレフィン(コ)ポリマー樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、各種エラストマーなどが挙げられる。樹脂層(B)における樹脂は、高硬度樹脂のみであることが好ましいが、その他の樹脂を含む場合、その量は樹脂層(B)に対して35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0093】
樹脂層(B)は、さらに添加剤等を含んでいてもよい。添加剤としては、上記「2.樹脂層(A)」において記載したのと同様の添加剤を使用することができ、その量についても同様である。
【0094】
樹脂層(B)の厚さは、成形用樹脂シートの表面硬度や耐衝撃性に影響する。つまり、樹脂層(B)が薄すぎると表面硬度が低くなり、厚すぎると耐衝撃性が低下する。樹脂層(B)の厚みは、好ましくは10~250μmであり、より好ましくは30~200μmであり、特に好ましくは60~150μmである。
【0095】
4.樹脂層(A)と樹脂層(B)との積層体
上述したとおり、樹脂層(A)と樹脂層(B)の間にはさらなる層が存在していてもよいが、ここでは、樹脂層(A)直上に樹脂層(B)を積層する場合について説明する。その積層方法は特に限定されず、他の層が存在する場合にも同様に積層することができる。例えば、個別に形成した樹脂層(A)と樹脂層(B)とを重ね合わせて、両者を加熱圧着する方法;個別に形成した樹脂層(A)と樹脂層(B)とを重ね合わせて、両者を接着剤によって接着する方法;樹脂層(A)と樹脂層(B)とを共押出成形する方法;予め形成しておいた樹脂層(B)に、樹脂層(A)をインモールド成形して一体化する方法、などの各種方法がある。これらのうち、製造コストや生産性の観点から、共押出成形する方法が好ましい。
【0096】
共押出の方法は特に限定されない。例えば、フィードブロック方式では、フィードブロックで樹脂層(A)の片面上に樹脂層(B)を配置し、Tダイでシート状に押し出した後、成形ロールを通過させながら冷却して所望の積層体を形成する。また、マルチマニホールド方式では、マルチマニホールドダイ内で樹脂層(A)の片面上に樹脂層(B)を配置し、シート状に押し出した後、成形ロールを通過させながら冷却して所望の積層体を形成する。
【0097】
樹脂層(A)と樹脂層(B)との合計厚みは、好ましくは0.5~3.5mm、より好ましくは0.5~3.0mm、特に好ましくは1.2~3.0mmである。合計厚みを0.5mm以上とすることにより、シートの剛性を保つことができる。また、3.5mm以下とすることにより、シートの下にタッチパネルを設置する場合等にタッチセンサーの感度が悪くなるのを防ぐことができる。樹脂層(A)と樹脂層(B)の合計厚みに占める樹脂層(A)の厚みの割合は、好ましくは75%~99%であり、より好ましくは80~99%であり、特に好ましくは85~99%である。上記範囲とすることにより、硬度と耐衝撃性を両立できる。
【0098】
5.ハードコート層(C)
本発明の樹脂シートは、樹脂層(B)上にハードコート層(C)を有する。ハードコート層(C)と樹脂層(B)の間にさらなる層が存在していてもよいが、好ましくは、ハードコート層(C)は樹脂層(B)の直上に積層される。
【0099】
硬度の高いハードコート層(C)を表面に有する樹脂シート、特に樹脂層(A)としてポリカーボネート樹脂を基材として用いた樹脂シートは、通常のガラス板と比較して耐衝撃性に優れ、安全性が高く、軽量である。また、通常のガラス板よりも曲げ易く、少しの曲げでは割れにくい。これは、樹脂シートにおけるハードコート層(C)が、ある程度の柔軟性を有するためであると考えられる。
本発明の樹脂シートは、樹脂層(A)とハードコート層(C)との間に樹脂層(B)が配置されており、これにより、樹脂シートの硬度をさらに高めることができる。ポリカーボネートの樹脂層(A)上に直接ハードコート層(C)を設けた場合には、弾性率が低く座屈しやすいという問題が生じ得るが、樹脂層(B)を設けることによりこのような問題も解決することができる。また、本発明によると、所定の積層体(樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C))の構成とし、さらに、所定の熱プレス条件を用いることにより、クラック等の不具合を抑制しつつ熱成形することができる。
【0100】
ハードコート層(C)は、特に制限されず、アクリル系、シリコン系、メラミン系、ウレタン系、エポキシ系の公知のハードコートを使用することができる。中でも、ハードコート層(C)は、アクリル系ハードコートであることが好ましい。本明細書において、「アクリル系ハードコート」とは、重合基として(メタ)アクリロイル基を含有するモノマーまたはオリゴマーまたはプレポリマーを重合して架橋構造を形成した塗膜を意味する。アクリル系ハードコートの組成としては、(メタ)アクリル系モノマー2~98質量%、(メタ)アクリル系オリゴマー2~98質量%および表面改質剤0~15質量%を含むことが好ましく、さらに、(メタ)アクリル系モノマーと(メタ)アクリル系オリゴマーと表面改質剤との総和100質量部に対して、0.001~7質量部の光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0101】
ハードコート層(C)は、より好ましくは、(メタ)アクリル系モノマーを5~50質量%、(メタ)アクリル系オリゴマーを50~95質量%、および表面改質剤を1~10質量%含み、特に好ましくは、(メタ)アクリル系モノマーを20~40質量%、(メタ)アクリル系オリゴマーを60~80質量%、および表面改質剤を2~5質量%含む。
光重合開始剤の量は、(メタ)アクリル系モノマーと(メタ)アクリル系オリゴマーと表面改質剤との総和100質量部に対して、0.01~5質量部であることがより好ましく、0.1~3質量部であることが特に好ましい。
【0102】
(1)(メタ)アクリル系モノマー
(メタ)アクリル系モノマーとしては、分子内に(メタ)アクリロイル基が官能基として存在するものであれば使用でき、1官能モノマー、2官能モノマー、または3官能以上のモノマーであって良い。
【0103】
1官能モノマーとしては(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが例示できる。2官能および/または3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールオリゴアクリレート、ネオペンチルグリコールオリゴアクリレート、1,6-ヘキサンジオールオリゴアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリルプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物トリアクリレート、グリセリンプロピレンオキシド付加物トリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が例示できる。
ハードコート層(C)は、(メタ)アクリル系モノマーを1種類または2種類以上含んでいてよい。
【0104】
(2)(メタ)アクリル系オリゴマー
(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、2官能以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー〔以下、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーともいう〕、2官能以上の多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー〔以下、多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーともいう〕、2官能以上の多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー〔以下、多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーともいう〕などが挙げられる。ハードコート層(C)は、(メタ)アクリル系オリゴマーを1種類または2種類以上含んでいてよい。
【0105】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとポリイソシアネートとのウレタン化反応生成物;ポリオール類をポリイソシアネートと反応させて得られるイソシアネート化合物と1分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとのウレタン化反応生成物等が挙げられる。
【0106】
ウレタン化反応に用いられる1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0107】
ウレタン化反応に用いられるポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、これらジイソシアネートのうち芳香族のイソシアネート類を水素添加して得られるジイソシアネート(例えば水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチレントリフェニルトリイソシアネートなどのジまたはトリのポリイソシアネート、あるいはジイソシアネートを多量化させて得られるポリイソシアネートが挙げられる。
【0108】
ウレタン化反応に用いられるポリオール類としては、一般的に芳香族、脂肪族および脂環式のポリオールのほか、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が使用される。通常、脂肪族および脂環式のポリオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジメチロールヘプタン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブチリオン酸、グリセリン、水添ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0109】
ポリエステルポリオールとしては、上述したポリオール類とポリカルボン酸との脱水縮合反応により得られるものが挙げられる。ポリカルボン酸の具体的な化合物としては、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、トリメリット酸、ヘキサヒドロフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。これらのポリカルボン酸は、無水物であってもよい。また、ポリエーテルポリオールとしては、ポリアルキレングリコールのほか、上述したポリオール類またはフェノール類とアルキレンオキサイドとの反応により得られるポリオキシアルキレン変性ポリオールが挙げられる。
【0110】
また、多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーは、(メタ)アクリル酸、ポリカルボン酸およびポリオールを使用した脱水縮合反応により得られる。脱水縮合反応に用いられるポリカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘキサヒドロフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。これらのポリカルボン酸は、無水物であってもよい。また、脱水縮合反応に用いられるポリオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールヘプタン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブチリオン酸、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0111】
多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との付加反応により得られる。ポリグリシジルエーテルとしては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0112】
(3)表面改質剤
本発明で使用される表面改質剤とは、レベリング剤、帯電防止剤、界面活性剤、撥水撥油剤、無機粒子、有機粒子などのハードコート層(C)の表面性能を変化させるものである。
レベリング剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリアルキルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエステル変性水酸基含有ポリアルキルシロキサン、アルキル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、変性ポリエーテル、シリコン変性アクリルなどが挙げられる。
【0113】
帯電防止剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステルモノグリセライド、グリセリン脂肪酸エステル有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤などが挙げられる。
無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、シリコン粒子銀粒子、ガラス粒子などが挙げられる。
有機粒子としては、例えば、アクリル粒子、シリコン粒子などが挙げられる。
界面活性剤および撥水撥油剤としては、例えば、含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、含フッ素基・親水性基・親油性基・UV反応性基含有オリゴマーなどのフッ素を含有した界面活性剤および撥水撥油剤が挙げられる。
【0114】
(4)光重合開始剤
ハードコート層(C)は、光重合開始剤を含んでいてよい。本明細書において、光重合開始剤とは光ラジカル発生剤を指す。
【0115】
本発明で使用することができる単官能光重合開始剤としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン[ダロキュアー2959:メルク社製];α-ヒドロキシ-α,α'-ジメチルアセトフェノン[ダロキュアー1173:メルク社製];メトキシアセトフェノン、2,2'-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン[イルガキュア-651]、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトンなどのアセトフェノン系開始剤;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインエーテル系開始剤;その他、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナートなどを例示することができる。
【0116】
(5)ハードコート層(C)の形成方法
ハードコート層(C)の形成方法は特に限定されないが、例えば、ハードコート層(C)の下に位置する層(例えば樹脂層(B))上に、ハードコート液を塗布した後、光重合させることにより形成することができる。
【0117】
ハードコート液を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、メニスカスコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビートコート法、捌け法などが挙げられる。
【0118】
光重合における光照射に用いられるランプとしては、光波長420nm以下に発光分布を有するものが用いられ、その例としては低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが挙げられる。
【0119】
上記ランプの照射強度は、得られるポリマーの重合度を左右する因子であり、目的製品の性能毎に適宜制御される。通常のアセトフェノン基を有する開裂型の開始剤を配合した場合、照度は0.1~300mW/cm2の範囲が好ましい。特に、メタルハライドランプを用いて、照度を10~40mW/cm2とすることが好ましい。
【0120】
光重合反応は、空気中の酸素または反応性組成物中に溶解する酸素により阻害される。そのため、光照射は酸素による反応阻害を消去し得る手法を用いて実施することが望ましい。そのような手法の1つとして、反応性組成物をポリエチレンテレフタレートやテフロン(登録商標)製のフィルムによって覆って酸素との接触を断ち、フィルムを通して光を反応性組成物へ照射する方法がある。また、窒素ガスや炭酸ガスのような不活性ガスにより酸素を置換したイナート雰囲気下で、光透過性の窓を通して組成物に光を照射してもよい。
【0121】
ハードコート層(C)の密着性を向上させる目的で、塗布面に前処理を行うことがある。処理例として、サンドブラスト法、溶剤処理法、コロナ放電処理法、クロム酸処理法、火炎処理法、熱風処理法、オゾン処理法、紫外線処理法、樹脂組成物によるプライマー処理法などの公知の方法が挙げられる。
【0122】
ハードコート層(C)は、UV光(254nm)の照射出力が20mW/cm2のメタルハライドランプを用いて紫外線照射した場合に、鉛筆硬度が2H以上であることが好ましい。
【0123】
ハードコート層(C)の膜厚としては、1μm以上40μm以下が望ましく、2μm以上10μm以下がより望ましい。膜厚が1μm以上であることにより十分な硬度を得ることができる。また、膜厚が40μm以下であると、曲げ加工時のクラックの発生を抑制することができる。なお、ハードコート層(C)の膜厚は、断面を顕微鏡等で観察し、塗膜界面から表面までを実測することにより測定可能である。
【0124】
ハードコート層(C)は、さらに修飾されてもよい。例えば、反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理のいずれか一つ以上を施すことができる。これらの処理方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、反射低減塗料を塗布する方法、誘電体薄膜を蒸着する方法、帯電防止塗料を塗布する方法などが挙げられる。
【0125】
樹脂シート(ポリカーボネートシート)の鉛筆硬度は、2H以上であることが好ましく、例えば2H以上4H以下であり、3H以上4H以下であることが特に好ましい。ここでいう樹脂シートの鉛筆硬度は、ハードコート層(C)の表面に対して角度45度、荷重750gで次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を意味する(JIS K 5600-5-4:1999に準拠した鉛筆ひっかき硬度試験)。
【0126】
6.プレス成形方法
プレス成形方法は、ポリカーボネートシートを熱プレス成形する前に予備加熱する工程(工程(I));予備加熱されたシートを熱プレス用成形型に配置する工程(工程(II))、および型締めを行い成形する工程(工程(III))を含む。以下、実施形態に係るプレス成形方法の各工程について説明する。
【0127】
工程(I)
本工程では、上記ポリカーボネートシート(樹脂シート)を前記樹脂層(A)のガラス転移点-45℃以上樹脂層(A)のガラス転移点以下の範囲の温度に予備加熱する。予備加熱の温度を樹脂層(A)のガラス転移点-45℃以上の温度とすることにより、プレス時のシートの割れが防止できる。予備加熱の温度を樹脂層(A)のガラス転移点以下の温度とすることにより、プレス時のハードコート層へのクラックの発生を抑制できる。ここで、予備加熱の温度は、熱プレス用成形型に配置する工程(工程(II))前の予備加熱されたポリカーボネートシートの温度を指す。
予備加熱の方法は特に制限されず、乾燥機中で乾燥する方法;輻射により加熱する方法などが挙げられる。
【0128】
工程(II)
本工程では、予備加熱された上記ポリカーボネートシート(樹脂シート)を金属製の成形型の上型および下型の間に配置する。この際、工程(I)の完了後からポリカーボネートシートを成形型の上型および下型の間に配置するまでの時間(配置時間)が90秒以内である。配置時間を90秒以内とすることにより、予備加熱したシートの温度の低下が抑制され、プレス時のシートの割れが防止され得る。
配置時間は、スプリングバックの抑制の点で短いほど好ましく、60秒以内が好ましく、50秒以内がより好ましい。
【0129】
工程(III)
本工程では、成形型を型締めすることにより上型および下型の一方の型を他方の型に対して押圧して、上記ポリカーボネートシート(樹脂シート)のプレス成形体を得る。この際、成形型の温度を樹脂層(A)のガラス転移点(Tg)以下の温度とする。成形型の温度を樹脂層(A)のTg以下とすることにより、ハードコートへのクラックの発生を抑制し得る。
成形型の温度は、好ましくは、樹脂層(A)のガラス転移点-20℃以上ガラス転移点以下の範囲の温度である。成形型の温度は、スプリングバックの抑制の点で、より好ましくは樹脂層(A)のガラス転移点-10℃以上ガラス転移点以下の範囲の温度、さらに好ましくは樹脂層(A)のガラス転移点-5℃~ガラス転移点の範囲の温度である。
ここで、成形型の温度とは、上型または下型の少なくとも一つの、ポリカーボネートシートと接する部分の温度をいう。したがって、成形型のうち上型または下型の少なくとも一つのポリカーボネートシートと接する部分が、上記温度条件を満たせばよいが、好ましくは、上型および下型の両方のポリカーボネートシートと接する部分が上記温度条件を満たすことが好ましい。
成形型の材質は、上記所定温度への温度制御が可能な材質であれば特に制限されない。例えば、アルミニウム、ステンレス、鋼材等の金属製のものが使用できる。また、本工程のプレス成形では、二次元曲げ用成形型だけでなく多様な曲面形状の成形型(例えば、二次元形状(例えば厚さ2mmのシートにて曲率半径70mm以下、さらには曲率半径50mm以下のトンネル型)の金型、半球状の金型、三次元形状の金型(例えば曲率半径約100mmR以上))を用いることができる。
なお、特許文献6の方法であると、厚さ2mmのシートでは二次元形状の成形では曲率半径100mmでもクラックが生じてしまうため、曲率半径の大きい(緩い形状)の成形品しか得られない。さらには三次元形状には成形することは不可能であった。
型締めの駆動方法は特に制限されず、サーボモーター、油圧ジャッキ、エアシリンダー、重量物による加重を用いることができる。
成形型の型締め力は、好ましくは3000kgf以下である。成形型の型締め力は、梨地状の凹凸の発生を防止する点で、2000kgf以下であることがより好ましい。また、100kgf以上1500kgf以下がさらに好ましく、100kgf以上1000kgf以下が特に好ましい。
【0130】
7.プレス成形体
上記製造方法で得られたプレス成形体は、硬度が要求される多様な曲面形状(例えば、二次元形状(例えば厚さ2mmのシートにて曲率半径70mm以下、さらには曲率半径50mm以下のトンネル型)、三次元形状(例えば曲率半径約100mmR以上))を有する成形品として好適に使用することができる。例えば、平面部と連続した曲げ部を有する構成部品を首尾よく製造することができるため、新規なデザインや機能を有する製品を提供することもできる。
従来の樹脂シートでは、上記のような形状を有する成形品を製造しようとした場合、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、TOM成形などの熱成形時にクラックが生じるなどの不具合が多く発生していた。そこで、熱成形時のクラック発生を抑制するために、ハードコートの硬さを低下させるなどの工夫をする必要があった。しかしながら、ハードコートの硬さを低下させた場合、熱成形性は向上するものの、ハードコートが軟らかいため傷が付きやすい、耐薬品性が低下するという新たな問題が生じていた。
【0131】
それに対して本発明の製造方法によれば、上述したようにクラックの発生が抑制されるため、ハードコートの硬さを低下させることなく、多様な形状の成形体を提供することができる。本発明の製造方法で得られるプレス成形体は、硬いハードコート層を表層に有するため、傷が付きにくく、耐薬品性も高い。このような特性を利用して、本発明のプレス成形体は、パソコン、携帯電話などの表示面の構成部品、自動車外装用および内装用部材、携帯電話端末、パソコン、タブレット型PC、カーナビなどにおける曲面を有する筐体や前面板などに使用することが可能である。例えば、一実施形態において、プレス成形体は、自動車、電機・電子機器、家電製品、または航空機の用途に用いられる部品・部材である。
【実施例】
【0132】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例の態様に制限されるものではない。本明細書において、%は特記しない限り質量パーセントを示す。
<ガラス転移点(Tg)の測定>
日立ハイテクサイエンス製示差走査熱量計DSC7020を使用し、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下で、実施例および比較例で使用したポリカーボネート樹脂および高硬度樹脂のガラス転移点を測定した。測定に使用した樹脂の重量は10~20mgである。
【0133】
<高硬度樹脂の鉛筆硬度の測定>
実施例および比較例で製造したハードコート層(C)を形成する前の樹脂層(B)と樹脂層(A)との積層体(樹脂シート)について、樹脂層(B)側の鉛筆硬度をJIS K 5600-5-4:1999に準拠した鉛筆ひっかき硬度試験にて評価した。樹脂層(B)の表面に対して角度45度、荷重750gで次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を樹脂層(B)を構成する高硬度樹脂の鉛筆硬度として評価した。
【0134】
<樹脂シートの鉛筆硬度の測定>
実施例および比較例で製造した熱プレス工程前の樹脂シートを、JIS K 5600-5-4:1999に準拠した鉛筆ひっかき硬度試験にて評価した。ハードコート層(C)の表面に対して角度45度、荷重750gで次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度として評価した。
硬度が2H以上を合格とした。
【0135】
<スプリングバックの評価方法>
触針式輪郭形状測定機(東京精密製 コンターレコード2700SD3にて6mm/秒の速度で成形体の曲率半径Rを測定し、スプリングバックを評価した。金型(下型)の曲率半径Rに近いほど良好な結果である。
【0136】
<熱プレス機>
実施例および比較例で用いた熱プレス機はサーボモーターにより型締め駆動する仕組みであり、型締め力の最大値は3000kgfである。
【0137】
<ハードコートクラックの評価>
【0138】
実施例および比較例で製造したプレス成形体について、50mmR部分のクラックの有無を確認した。
【0139】
[実施例1]
軸径35mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、各押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結されたTダイとを有する多層押出装置を用いて、樹脂層(A)と樹脂層(B)とからなる積層体を成形した。具体的には、軸径35mmの単軸押出機に高硬度樹脂(B2)(メタクリル酸メチル構成単位21質量%、スチレン構成単位64質量%、および無水マレイン酸構成単位15質量%の共重合体;レジスファイ R100(デンカ製)、Tg:124℃、重量平均分子量(Mw):171,000、鉛筆硬度:H)を連続的に導入し、シリンダ温度230℃、吐出速度2.6kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機にポリカーボネート樹脂(ユピゼータT-1380;三菱ガス化学製、Tg:125℃、重量平均分子量(Mw):44,500)を連続的に導入し、シリンダ温度240℃、吐出速度83.0kg/hの条件で押し出した。
【0140】
押し出された高硬度樹脂およびポリカーボネート樹脂を2種2層の分配ピンを備えたフィードブロックに導入し、240℃の温度で高硬度樹脂とポリカーボネート樹脂を積層した。さらにそれを温度240℃のTダイに導入してシート状に押し出し、上流側から温度120℃、130℃、190℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、樹脂層(B)とポリカーボネート樹脂層(樹脂層(A))との積層体を得た。得られた積層体の厚みは2mm、樹脂層(B)の厚みは中央付近で60μmであった。
【0141】
上記で得られた積層体の樹脂層(B)側に、ハードコート層(C)を形成した。ハードコート層(C)の材料は、以下のとおりである。
・(メタ)アクリル系オリゴマー:U6HA 6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(新中村化学工業(株)製)60質量%、
・(メタ)アクリル系モノマー:4EG-A PEG200#ジアクリレート(テトラエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学(株)製)35質量%、
および
・表面改質剤:RS-90 含フッ素基・親水性基・親油性基・UV反応性基含有オリゴマー(DIC(株)製)5質量%の混合物100質量部に対して、
・光重合開始剤:I-184(BASF(株)製〔化合物名:1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン〕)を1質量部。
【0142】
上記材料をバーコーターにて積層体に塗布し、メタルハライドランプ(20mW/cm2)を5秒間当ててハードコート層を硬化させ、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを作製した。ハードコート層(C)の膜厚は6μmであった。
【0143】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を3分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は80℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0144】
[実施例2]
実施例1と同じ多層押出装置を用いて、樹脂層(A)と樹脂層(B)からなる積層体を成形した。具体的には、軸径35mmの単軸押出機に高硬度樹脂(B2)(メタクリル酸メチル構成単位6質量%、スチレン構成単位71質量%、および無水マレイン酸構成単位23質量%の共重合体;レジスファイ R310(デンカ製)、Tg:141℃、重量平均分子量(Mw):132,000、鉛筆硬度:2Hを連続的に導入し、シリンダ温度240℃、吐出速度2.6kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機にポリカーボネート樹脂(ユーピロンS-1000;三菱エンジニアリングプラスチックス社製、Tg:147℃、重量平均分子量(Mw):49,500)を連続的に導入し、シリンダ温度280℃、吐出速度83.0kg/hの条件で押し出した。
【0145】
押し出された高硬度樹脂およびポリカーボネート樹脂を2種2層の分配ピンを備えたフィードブロックに導入し、280℃の温度で高硬度樹脂とポリカーボネート樹脂を積層した。さらにそれを温度280℃のTダイに導入してシート状に押し出し、上流側から温度120℃、130℃、190℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、樹脂層(B)とポリカーボネート樹脂層(樹脂層(A))との積層体を得た。得られた積層体の厚みは2mm、樹脂層(B)の厚みは中央付近で60μmであった。
ハードコート層(C)は実施例1と同様に形成し、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0146】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを150℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を3分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は110℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに144℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0147】
[実施例3]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0148】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を10分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は90℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0149】
[実施例4]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0150】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を3分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は80℃であった。
【0151】
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は1000kgf、プレス時間は3分で行った。
【0152】
[実施例5]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0153】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は1000kgf、プレス時間は3分で行った。
【0154】
[実施例6]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0155】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は1900kgf、プレス時間は3分で行った。
【0156】
[実施例7]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0157】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は100kgf、プレス時間は3分で行った。
【0158】
[実施例8]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0159】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、10秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0160】
[実施例9]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0161】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、10秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに115℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0162】
[実施例10]
実施例2と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0163】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを150℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を3分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は110℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに135℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0164】
[実施例11]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0165】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、80秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0166】
[実施例12]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0167】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、10秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに105℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0168】
[実施例13]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0169】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、10秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は3000kgf、プレス時間は3分で行った。
【0170】
[比較例1]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0171】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを80℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を1分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は60℃であった。
【0172】
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、10秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
【0173】
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0174】
[比較例2]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0175】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを150℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を10分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は130℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機からハードコート付きポリカーボネートを取り出し後、10秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
【0176】
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0177】
[比較例3]
実施例2と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0178】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを150℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を1分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は80℃であった。
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、50秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
【0179】
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに144℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0180】
[比較例4]
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0181】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
【0182】
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、10秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
【0183】
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに130℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った。
【0184】
(比較例5)
実施例1と同様にして、樹脂層(A)、樹脂層(B)、およびハードコート層(C)を順に積層した樹脂シートを得た。
【0185】
熱プレス工程
(工程I)
得られた樹脂シートを120℃に設定した棚段乾燥機に入れ、予備加熱を6分間行った。棚段乾燥機から取り出したシートの温度は85℃であった。
【0186】
(工程II)
棚段乾燥機から樹脂シートを取り出し後、100秒でアルミ製熱プレス金型(
図1)の下型に設置した。
【0187】
(工程III)
樹脂シートをクリアランス(金型上下で成形用シートを挟み込む隙間)が2mmで下型の曲率半径Rが50mmのアルミ製熱プレス用金型(
図1)で熱プレス成形した。上下の金型の温度はともに122℃、型締め力は200kgf、プレス時間は3分で行った
【0188】
<成形体の評価>
実施例および比較例で製造した樹脂シートのプレス成形体について、スプリングバック評価のために曲率半径Rを測定した。また、目視にてハードコートのクラックの有無、成形体のシートの割れおよび成形体表面の梨地の有無を観察した。その結果を以下の表1に示す。
【0189】
【0190】
本発明の所定の条件で予備加熱、成形型への配置、および型締めを実施した実施例の樹脂シートのプレス成形体は、硬度が高く、熱成形後にハードコートクラックおよび割れの外観異常が生じていないことが分かる。なお、実施例で得られた樹脂シートのプレス成形体はフローマークの外観異常も生じていなかった。
また、成形型の型締め力が2000kgf以下である実施例1~12は梨地の発生がなかった。
図2(b)は、実施例5の成形体の断面写真である。一方、成形型の型締め力が2000kgfを超える実施例13は梨地が観察された(
図2(a))。
成形時の成形型の温度が、樹脂層(A)のガラス転移点-10℃未満である実施例12と比較して、成形時の成形型の温度が樹脂層(A)のガラス転移点-10℃以上ガラス転移点以下の温度であり、成形型の温度以外の条件が同一である実施例8,9は、成形体の曲率半径Rが下型の曲率半径(50mm)に近く、スプリングバックの発生が低減されたことが確認される。
さらに、工程(I)完了後から樹脂シートを成形型に配置するまでの時間が60秒を超え90秒以下である実施例11と比較して、配置時間が60秒以下であり、配置時間以外の条件が同一である実施例8は、成形体の曲率半径Rが下型の曲率半径(50mm)に近く、スプリングバックがより抑制されたことが確認される。
【0191】
一方、比較例の樹脂シートのプレス成形体は、熱成形によりハードコートクラックおよび/または割れが発生していることが確認される。
具体的には、予備加熱の温度が樹脂層(A)のガラス転移点-45℃未満である比較例1,3は、熱成形によりシートに割れが見られた。
予備加熱の温度が樹脂層(A)のガラス転移点を超える比較例2はハードコートクラックが発生した。成形時の成形型の温度が樹脂層(A)のガラス転移点を超える比較例4は、熱成形によりハードコートクラックが発生した。
工程(I)完了後から樹脂シートを成形型に配置するまでの時間が90秒を超える比較例5は、シートに割れが見られた。
【0192】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2018-192739号(2018年10月11日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。