(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】道路表面の水の固体状態を確定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
G01N21/17 F
(21)【出願番号】P 2021562947
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2020059227
(87)【国際公開番号】W WO2020216591
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】102019205903.1
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】バウムガートナー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】フェラ,ジーナ
(72)【発明者】
【氏名】クンツ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ベルシュ,ボルフガング
【審査官】柳澤 朱香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-083352(JP,A)
【文献】特開2006-162593(JP,A)
【文献】特表2013-533159(JP,A)
【文献】特開2006-046936(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02402747(EP,A2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0076495(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/956
G01B 11/00-G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路表面(70)の水の固体状態を確定するための方法であって、
移動手段(80)の光学センサ(30)の光源の光を、所定の角度で前記道路表面(70)に放射し、前記光源が、少なくとも2つの互いに相違する所定の波長または所定の波長領域をもつ光を放射するように構成されているステップ(100)と、
前記放射された光のうち前記道路表面(70)から前記光学センサ(30)へと後方散乱された成分の強度を表している前記光学センサ(30)の光検出器の信号を受信するステップ(200)と、
前記信号中
のそれぞれの所定の波長または所定の波長領域の光強度に関する受信された値の比に基づいて、道路表面(70)の水の固体状態を確定するステップ(300)と
、
前記信号の絶対値と第1の所定の閾値とのマッチング
と、
前記信号の信号対雑音比と第2の所定の閾値とのマッチングによって
、
前記道路表面(70)の水の固体状態を分類するステップ(400)と、
前記水の固体状態について
の確定された情報を前記移動手段(80)内で使用するステップ(500)と
、
を含む方法
において、
前記信号の絶対値と第1の所定の閾値とのマッチングの際、前記移動手段(80)のシャーシのその時々のたわみ度についての情報が考慮される、
方法。
【請求項2】
前記光源が、
1つもしくは複数の照明手段を含み、かつ/または
レーザ光源もしくはLED光源であり、かつ/または
波長
が800nm~3000nmの間の範囲内にある近赤外光を放射するために形成されている、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記道路表面(70)に対す
る移動手段(80)
の光学センサ(30)
の所定の角度が、10°~54°の間の角
度である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記道路表面(70)に対する移動手段(80)の光学センサ(30)の所定の角度が、15°~35°の間の角度である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記道路表面(70)に対する移動手段(80)の光学センサ(30)の所定の角度が、20°の角度である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記道路表面(70)の水の固体状態を分類するステップ(400)が
、前記移動手段(80)のさらなるセンサ(40)に基づ
く道路表面(70)の水の固体状態の分類をさらに含む、請求項1
~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記固体状態のそれぞれの水の層厚を前記信号に基づいて確定するステップ(600)をさらに含む、請求項1
~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記信号中のそれぞれの所定の波長または所定の波長領域の光強度に関する受信された値の比に基づいて、道路表面(70)の水の固体状態を確定するステップ(300)が、機械学習法に基づいて行われる、請求項1
~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水の固体状態に関する信頼値を確定するステップ(700)と、
前記
水の固体状態に関する信頼値
を移動手段(80)内で使用するステップ(800)と
、
をさらに含む、請求項1
~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記道路表面(70)の水の固体状態を分類するステップ(400)が、前記移動手段(80)の異なるポジションでそれぞれ受信された前記光学センサ(30)の複数の信号
を考慮
する、請求項1
~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
道路表面(70)の水の固体状態を確定するための装置であって、
評価ユニット(10)と、
データ入力部(12)と、
データ出力部(14)とを含んでおり、
前記評価ユニット(10)が、
前記データ出力部(
14)と関連して、移動手段(80)の光学センサ(30)の光源の光を、所定の角度で道路表面(70)に放射するように構成されており、前記光源が、少なくとも2つの互いに相違する所定の波長または所定の波長領域をもつ光を放射するように構成されており、
前記評価ユニット(10)がさらに、
前記データ入力部(12)と関連して、前記放射された光のうち前記道路表面(70)により前記光学センサ(30)へと後方散乱された成分の強度を表している前記光学センサ(30)の光検出器の信号を受信するように構成されており、
前記信号中のそれぞれの前記所定の波長または所定の波長領域の光強度に関する受信された値の比に基づいて、道路表面の水の固体状態を確定するように構成されており、
前記信号の絶対値と第1の所定の閾値とのマッチングと、
前記信号の信号対雑音比と第2の所定の閾値とのマッチングによって、
前記道路表面(70)の水の固体状態を分類するように構成されており、
前記データ出力部(14)と関連して、前記確定された水の固体状態を前記移動手段(80)内で使用する、
ように構成されている装置において、
前記信号の絶対値と第1の所定の閾値とのマッチングの際、前記移動手段(80)のシャーシのその時々のたわみ度についての情報が考慮される、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路表面の水の固体状態を確定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動手段の自動運転動作または高度自動運転動作のためのシステムが知られており、このシステムは、移動手段の信頼できるまたは確実な制御のため、なかでもその時々に存在している環境条件についての情報を使用する。確実な高度自動運転を保証するには、例えば走行する道路の摩擦係数をできるだけ正確に確定することが有利である。摩擦係数は、とりわけ道路上にある「中間媒体」(つまり道路表面と移動手段のタイヤとの間の媒体)、例えば水、雪、氷、葉、または油によって影響を及ぼされる。このような媒体の捕捉は、様々なセンサ(例えばカメラ、音響センサ、超音波センサ、または赤外線領域で働く光学センサ)によって行われ得る。近赤外線領域(約800nm~3000nm)で働く光学センサは、能動的に放射された複数の波長または波長領域の光の拡散反射および/または正反射を適切に評価することができる。この検出される波長または波長領域は、すべての凝集状態(液体、氷、雪、または混合状態)での水の光学スペクトル内に、この波長または波長領域に異なる強さで現れる吸収線があることによって区別される。これにより、乾いた道路と乾いていない道路とを区別でき、個々の中間媒体を水の状態としてカテゴライズでき、しかもそれぞれの中間媒体の層厚さえ決定できる。このために、比較または閾値または機械学習法を使って、とりわけ強度および強度比が評価される。ただしこの光学的捕捉原理に基づくと、自動運転動作のために有利に利用可能かつ信頼できる、雪に覆われた道路表面と氷に覆われた道路表面との区別は、雪スペクトルと氷スペクトルの類似性のゆえに誤分類されやすい。
【0003】
独国特許発明第2712199号明細書は、ある特定の波長の光を道路表面に放つ光源と、道路によって反射された光を相応の電気信号に変換できる受信器と、道路上に氷が形成されている場合に生じる電気信号を自動車の運転者に認識させ得る警告機構とを特徴とする、路面が滑りやすいことを自動車の運転者に警告するための装置を説明している。
【0004】
独国特許発明第4133359号明細書は、道路上にある水の層の厚さを測定するための方法および装置を説明している。このために光源により、赤外線のスペクトル成分をもつ光線が道路に放射される。水の層がある場合はこの水の層を貫通して道路によって後方散乱された光が、近赤外線領域内の少なくとも2つの波長について選択的に調べられる。選択的に調べられた後方散乱された光束の振幅から、水の層の厚さが決定され、かつ表示ユニットによって表示される。
【0005】
独国特許出願公開第19506550号明細書は、液状および/または固体状の凝集状態で存在している分子構造の結晶化度に依存する、水または水のように挙動する凝固可能なプロトン性の液体もしくは溶液の透過特性および反射特性を、スペクトル分析を用いて測定し、かつコンピュータを用いて計量化学的に評価することにより、交通路での、さらに飛行機およびすべての種類の機械の凍結防止処理されていない部品での、例えば一面で凍っている水分および/または凍った表面のような滑りやすいことに起因する危険性を警告するための方法および装置を説明している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に基づき、とりわけ道路表面の氷と雪を区別するために使用可能な、道路表面の水の固体状態を確定するための方法が提案される。本発明による方法の第1のステップでは、移動手段の光学センサの光源の光が、所定の角度で道路表面に放射される。
【0007】
光源は、少なくとも2つの互いに相違する所定の波長または波長領域をもつ光を放射するように構成されている。説明の簡略化の意味において、所定の波長領域の概念は、以下では所定の波長の代わりにも使用される。光源は、1つの照明手段または複数の照明手段を含み得る。つまり、少なくとも2つの所定の波長領域のために、光を1つの広帯域照明手段(少なくとも2つの所定の波長領域を含む)によって生成することができ、または複数の狭帯域照明手段によって生成することができ、この場合、各照明手段が、所定の波長領域のそれぞれ1つでの光を放射するように構成されている。
【0008】
移動手段は、例えば路上走行車(例えばオートバイ、乗用車、バン、トラック)または鉄道車両または航空機/飛行機または船舶であり得る。光学センサの光源は、例えば、とりわけ波長または波長領域が好ましくは800nm~3000nmの間の範囲内にある近赤外光を放射するために形成されたレーザ光源またはLED光源であり得る。それだけでなく、原則的には光源のさらなる種類および/またはさらなる波長もしくは波長領域によっても本発明による方法が実施され得る。センサによって放射された光が上記の所定の角度で道路表面に当たり、かつ道路表面によって散乱されたこの光学センサの光源の光が、少なくとも相応の割合で光学センサにおいて受信され得るのであれば、光学センサは基本的に移動手段の任意のポジションに配置され得る。光学センサの配置に関する適切なポジションは、例えば、移動手段のフロントエプロンの中もしくは表面または床裏領域の、光学センサを固定でき、かつ道路表面の方向へと下に向けられるポジションであり得る。それだけでなく、光学センサは例えば移動手段のフロントエプロンの下の領域および/または車輪カバーの領域にも配置され得る。道路表面に対する光学センサの所定の角度(つまり、光学センサによって放射された光が道路表面に当たる角度)は、10°~54°の間の角度、とりわけ15°~35°の間の角度、好ましくは20°の角度であり得る。光学センサの所定の角度に関するここで挙げた値は、本発明による方法との関連で有利に用い得る値であり、ただし、本発明による方法の意味における所定の角度の値は、ここで挙げた値には限定されないことを指摘しておく。とりわけ10°以上の角度を使用することにより、放射された光のうち道路表面で直接反射される割合が、本発明による方法にとって場合によっては高すぎることを回避でき、この高すぎる割合は、道路表面または道路表面にある中間媒体の捕捉を妨害し得る。光学センサはさらに、移動手段のオンボードネットワークを介して移動手段の本発明による評価ユニットと情報技術的に接続でき、これにより、評価ユニットによって制御され、かつ/または光学センサが捕捉した信号が評価ユニットにより本発明による方法の意味において処理される。つまり、本発明による方法のこのプロセスステップおよび以下に説明するプロセスステップは、評価ユニットによって実施され得る。本発明による評価ユニットは、独自の制御機器の構成要素または移動手段の既存の制御機器の構成要素であり得る。それだけでなく、評価ユニットが光学センサ自体の構成要素であってもよい。つまり、センサによって生成された(前処理された)Raw値の形態での信号は、センサの脇に配置された評価ユニットまたはセンサ内に配置された評価ユニットに伝送され得る。
【0009】
本発明による方法の第2のステップでは、放射された光のうち道路表面により光学センサへと後方散乱された成分の強度を表しているこの光学センサの光検出器の信号が、本発明による評価ユニットによって受信される。光学センサによって生成された信号は、センサによってデジタル信号またはアナログ信号の形態で出力され得る。評価ユニットはこの信号を適切なデジタルまたはアナログの信号インターフェイスを介して受信でき、かつ後の処理のために、デジタル信号は直接的な経路でおよびアナログ信号はA/D変換後に、評価ユニットに内部および/または外部で接続されたメモリユニットに格納し得る。光検出器は1つの検出器または複数の検出器を含むことができ、これに関し1つの検出器は、少なくとも2つの所定の波長領域を受信するように構成された広帯域検出器であることができ、その一方で複数の検出器は、検出器ごとに所定の波長領域の1つをそれぞれ受信するように構成され得る。
【0010】
本発明による方法にとって不可欠なのは、光源と光検出器の適切な組合せにより、それぞれの波長領域内の後方散乱された光のそれぞれの強度が互いに独立して受信され得ることである。これは、例えば複数の照明手段と、対応している複数の検出器とを組み合わせることで達成され得る。その代わりにまたはそれに加えて、複数の照明手段を1つの広帯域検出器と組み合わせることも、それぞれの波長領域内での測定が相次いで行われることによって、したがって検出器で受信される光強度をそれぞれの照明手段に割り当て得ることによって可能である。さらにその代わりにまたはそれに加えて、1つの広帯域照明手段を1つの広帯域検出器と組み合わせることも、検出器によって生成された信号に、それぞれの波長領域でのフィルタリングを施すことによって可能である。
【0011】
本発明による方法の第3のステップでは、道路表面の水の固体状態が、信号中のそれぞれの所定の波長または所定の波長領域の光強度に関する受信された値の比に基づいて確定される。言い換えれば、このプロセスステップでは、光検出器によって捕捉された散乱光の強度の、異なる所定の波長または所定の波長領域の相対値、つまり絶対値の比の評価が行われる。所定の波長または所定の波長領域が、氷および/または雪の特徴的な吸収線または吸収線領域を表すことが好ましい。さらに所定の波長または所定の波長領域が、液体の水の特徴的な吸収線または吸収線領域を表すこともできる。吸収線は氷と雪で実質的に同一であり、その一方で水と氷では、それに応じて水と雪でも、スペクトル内の吸収線が互いにずれていることを指摘しておく。異なる所定の波長または所定の波長領域の絶対値の比を考察するのには、光学センサによって捕捉された光強度の絶対値の純粋な考察では、干渉の影響による強度変動に基づいて誤分類が生じ得るという背景がある。このような誤分類は、例えば、移動手段のシャーシがたわみ、これにより光学センサの道路表面に対する間隔が変化する場合に発生し得る。絶対値の純粋な考察での誤分類の原因に関するさらなる一例は路面標示の可能性があり、路面標示は、道路上にある雪と同じように強く後方散乱する可能性があり、このことから、それぞれ大きな絶対値が生じ得る。それゆえ光強度の純粋な絶対値考察に基づいては、このような路面標示を、存在している雪と一義的に区別することはできない。この理由から、本発明による方法は、上述のように最初に道路表面の水の固体状態の確定を行い、これは、相対値に基づいて高い信頼性で行われ得る。絶対値ならびに相対値とは、ここではとりわけ、光学スペクトル内の信号の振幅値および/もしくはエネルギーの、または光学スペクトルの包絡線の(一部分)の、絶対値ならびに相対値のことである。つまり、光の放射された波長または放射された波長領域について把握し、続いて受信された光の強度を評価することにより、それぞれの所定の波長領域に吸収があるか否かが逆推論され得る。このプロセスステップで氷および/または雪に特徴的な吸収線が確定され得ない場合には、道路表面の水の固体状態は確定され得ない。道路表面の水の固体状態が確定され得ないという情報は、評価ユニットにより、評価ユニットに接続されたメモリユニットに格納され得る。信号中のそれぞれの所定の波長または所定の波長領域の光強度に関する受信された値の比に基づいて、さらに液体の水に特徴的な吸収線も確定され得ない場合には、評価ユニットにより、道路表面が乾いていると格付けされ得る。このような乾いた道路状態についての情報も、評価ユニットにより、評価ユニットに接続されたメモリユニットに格納され得る。
【0012】
上記のプロセスステップで評価ユニットにより道路表面の水の固体状態が確定された場合には、本発明による方法の第4のステップで、道路表面の水の固体状態(氷または雪)が分類される。この分類は、信号の絶対値と第1の所定の閾値とのマッチングによって、および/または信号の信号対雑音比と第2の所定の閾値とのマッチングによって行われる。それだけでなく、それぞれ対応している波長領域に適合された複数の所定の第1の閾値および/または複数の所定の第2の閾値を使用することが有意義であり得る。波長に依存した閾値は、適切な方法により、例えばセンサに存在するすべての波長の信号の加重平均値を出すことで確定され得る。第1および/または第2の所定の閾値は、評価ユニットに接続されたメモリユニットに格納でき、かつ評価ユニットによりメモリユニットから適切な時点で読み出されて使用され得ることが好ましい。信号の絶対値に基づく水の状態の分類により、氷と雪は、とりわけ、信号の高い絶対値が一般的に雪の存在の高いパーセンテージを示し、その一方で信号の低い絶対値が一般的に氷の存在の高いパーセンテージを示すことで区別され得る。道路表面にある水は、氷、雪、または液体といった状態からの混合状態でもあり得るので、信号のそれぞれの絶対値の高さから、水の相応の混合状態も確定され得る。水の液体状態の分類は、とりわけ、光学センサの信号のスペクトル内の吸収線の位置の上述の考察によって行われ得ることを指摘しておく。これは、ここで説明している第4のプロセスステップの過程で、および/または既に第3のプロセスステップで実施され得る。このようにして本発明による方法は、道路表面のその時々の状態を、乾いた状態、濡れた状態、および固体状の水に分類することを可能にし、この固体状の水は、水のその時々の状態に関し、雪の状態もしくは氷の状態またはそれらをベースとした混合形態の状態に格付けされ得る。
【0013】
その代わりにまたはそれに加えて、氷と雪の区別は、上述のように光学センサの信号の信号対雑音比に基づいて実施され得る。評価ユニットが、光学センサの信号中の高い信号対雑音比(つまり有効信号と比べて少ない雑音割合)を確定する場合には、水のこの時の状態は「雪」と格付けされ得る。これに対して評価ユニットが信号中の低い信号対雑音比(つまり有効信号と比べて高い雑音割合)を確定する場合には、水のこの時の状態は「氷」と格付けされ得る。信号中の雑音割合は、一方の雪に関しては、比較的高い絶対値のゆえに比較的低い。他方で氷の信号はより強く場所に依存する。後者は、一つには氷に覆われた道路表面の信号が、氷に閉じ込められた小さな気泡の数によって影響を及ぼされるせいである。もう一つには、近赤外光が、雪の場合は強く散乱され、かつ氷の場合は光の散乱プロセスが主として氷に閉じ込められた小さな気泡で起こるので、氷に覆われた道路では、雪に覆われた道路の場合より、道路表面自体が信号に大きく寄与するのである。これにより、光学センサによって放射された光は、氷に覆われた道路表面では、同じ層厚で雪に覆われた道路表面より有意に高い強度で地盤に到達する。道路表面はたいていの場合、はっきりしたマクロ構造を有するアスファルト表面なので、道路表面は一般的により強く場所に依存する信号を生じさせ、したがって信号中の相応により高い雑音割合を生じさせる。信号対雑音比の評価の過程で、信号の雑音割合が、例えば移動手段のそれぞれの速度を基準として正規化されることにより、移動手段の異なる速度の影響も考慮され得ることを指摘しておく。
【0014】
それだけでなく評価ユニットにより、信号対雑音比のそれぞれの高さに基づいて、相応する氷と雪の混合形態も突き止められ得る。それぞれの混合形態を決定するために、それぞれ水の状態の具体的な混合形態を表す複数の第1および/または第2の閾値が、メモリユニットに格納され得る。絶対値および/または信号対雑音比に基づく分類のそれぞれの結果は、その後、個々に移動手段内で使用され得るか、またはさらなる使用の前に1つの結果へと適切にまとめられ得る。
【0015】
本発明による方法の第5のステップでは、水の固体状態についての確定された情報が移動手段内で使用される。この目的のために本発明による評価ユニットは、移動手段のオンボードネットワークについてのそれぞれ確定された情報を、この情報のための1つまたは複数の受信側制御機器に伝送し得る。受信側制御機器としては、例えば、移動手段のその時々の制御を適合させるための高度自動運転動作用制御機器または移動手段の運転者に水の固体状態についての情報を出力するためのオンボードコンピュータシステムが考慮される。それだけでなく、確定された情報が、移動手段のさらなる制御機器(例えば運転者支援システム)内で使用されることも考えられる。
【0016】
従属請求項は本発明の好ましい変形形態を示している。
本発明の有利な一形態では、信号の絶対値と第1の所定の閾値とのマッチングの際、追加的に、移動手段のシャーシのその時々のたわみ度についての情報が考慮される。こうすることで、信号の絶対値の評価結果の信頼性が改善され得る。シャーシのそれぞれその時々に存在するたわみ度は、例えば移動手段の加速度センサおよび/または車高センサおよび/または慣性センサによって捕捉でき、かつそれぞれ対応している制御機器内で(例えば本発明による評価ユニットによって)確定できる。移動手段の確定されたたわみ度に基づいて、それによって引き起こされた光学センサの信号の望ましくない変化が、評価ユニットによって相応に補正され得る。この補正の過程で評価ユニットにより、光学センサの信号のそれぞれの値ならびに/または第1および/もしくは第2の閾値が適切に適合され得る。その代わりに、本発明による方法にとって不都合な、移動手段のシャーシのたわみ段階に光学センサによって生成された信号は、拒否されてもよく、またはもしかしたら複数の測定値の平均値を出す際に相応により低く重み付けされ得る。つまり、このような段階では水の固体状態についてのその時々の情報は確定されない。その代わりに、このような段階になる前に確定された情報が、このような段階中もそのまま使用され得る。
【0017】
本発明のさらなる有利な一形態では、道路表面の水の固体状態の分類が、追加的に、移動手段のさらなるセンサに基づいて実施される。このために、移動手段の例えば道路を捕捉しているカメラおよび/または音響変換器および/または温度センサおよび/または超音波センサの信号が使用でき、これらの信号は、オンボードネットワークを介して本発明による評価ユニットによって受信され得る。こうして、氷と雪の区別がカメラの信号に基づいて、例えば氷および雪によって生成された道路表面での異なる光反射が評価ユニット内で確定されることによって行われ得る。
【0018】
本発明のさらなる有利な一形態では、追加的に、それぞれの固体状態の水の層厚が、信号に基づいて確定される。このために評価ユニットにより、移動手段の光学センサの信号の2つの波長または波長領域の対数強度比が評価され得ることが好ましい。この評価結果に基づいて、水のそれぞれの固体状態での相応する層厚が決定され得る。それぞれの層厚に応じて信号の異なるスペクトルが生じ得るので、層厚についての確定された情報が、例えば道路表面の水の固体状態の分類との関連で用いられ得ることが有利である。
【0019】
本発明のさらなる有利な一形態では、道路表面の水の固体状態の確定が、機械学習法に基づいて行われ得る。この目的のために、公知の教師ありまたは部分教師あり学習のためのアルゴリズム(例えば人工ニューラルネットワークのサポートベクターマシン、ランダムフォレスト、またはディープラーニング法)が用いられ得ることが好ましく、これらのアルゴリズムは、上述のコンピュータプログラムの構成要素として実現され得る。このようにして、機械学習法により、本発明による評価ユニットを用い、実験室での基準測定(広帯域での、または幾つかの狭帯域の波長もしくは波長領域での)を、シミュレーションを、ならびに/または移動手段および/もしくは専用のトレーニング用移動手段の1回もしくは複数回のトレーニング用走行を評価する過程で、水の異なる状態が学習され得る。このようにして学習されたアルゴリズム構成は、その後、この移動手段自体に適用でき、かつ/またはさらなる移動手段に伝送され(例えば移動手段の製造プロセスの過程で)、そこで適用され得る。
【0020】
本発明のさらなる有利な一形態では、追加的に、水の固体状態に関する信頼値が確定される。信頼値は、例えば機械学習との関連では、例えば様々なクラスの分離面に対する間隔に対応し得る。
【0021】
信頼値では、測定値の雑音または測定値の高さも考慮され得る。
その後、この信頼値は、例えば上述の高度自動運転動作用制御機器内でおよび/または1つもしくは複数の運転者支援システム内で用いられることにより、移動手段内で使用される。その代わりにまたはそれに加えて、この信頼値は、道路表面の水の固体状態についての情報を移動手段のユーザに出力する過程でも適用され得る。
【0022】
本発明のさらなる有利な一形態では、水の固体状態の分類の際に、移動手段の異なるポジションでそれぞれ受信された光学センサの複数の信号が考慮される。こうすることで、雪に覆われた道路と比較した氷に覆われた道路に関連する、信号のより強い場所依存性が、上で説明した光学センサの1つの測定信号の信号対雑音比においてだけでなく、光学センサの異なる測定信号間での信号値のより強いバラツキによっても突き止められ得る。
【0023】
本発明の第2の態様に従い、道路表面の水の固体状態を確定するための装置が提案される。この装置は、データ入力部およびデータ出力部を備えた評価ユニットを含んでおり、かつ移動手段の既存の制御機器の構成要素または独自の制御機器であり得る。評価ユニットはさらに、例えばASIC、FPGA、プロセッサ、デジタル信号プロセッサ、マイクロコントローラなどとして形成することができ、かつ内部および/または外部のメモリユニットに情報技術的に接続でき、このメモリユニットには、評価ユニットによって受信および/または計算されたデータが、その後の処理のために格納され得る。評価ユニットはさらに、上述の本発明によるプロセスステップを、このプロセスステップを実装しているコンピュータプログラムに基づいて実行するように構成され得る。評価ユニットはさらに、データ出力部と関連して、移動手段の光学センサの光源の光を、所定の角度で道路表面に放射するように構成されており、この光源は、少なくとも2つの互いに相違する所定の波長または所定の波長領域をもつ光を放射するように構成されている。この目的のために評価ユニットは、移動手段の(部分)オンボードネットワークを介して光学センサと情報技術的に接続され得る。両方のコンポーネントを接続している(部分)オンボードネットワークは、例えば現況技術から知られた車両バスシステムを用い得る(例えばCAN、MOST、FlexRay、イーサネットなど)。評価ユニットはさらに、データ入力部と関連して、放射された光のうち道路表面により光学センサへと後方散乱された成分の強度を表しているこの光学センサの光検出器の信号を受信するように構成されている。評価ユニットはそのうえ、信号中のそれぞれの所定の波長または所定の波長領域の光強度に関する受信された値の比に基づいて、水の固体状態を確定するように構成されている。評価ユニットはこれに加えて、道路表面の水の固体状態を、信号の絶対値と第1の所定の閾値とのマッチングおよび/または信号の信号対雑音比と第2の所定の閾値とのマッチングによって分類するように構成されている。再びデータ出力部と関連して、評価ユニットは、水の固体状態についての確定された情報を移動手段内で使用するように構成されている。このために評価ユニットは、確定された情報を、移動手段の(部分)オンボードネットワークを介して1つまたは複数の受信側制御機器に伝送でき、受信側制御機器はこの情報に基づいて、例えば移動手段の高度自動制御を、確定された環境条件に適合し得る。このようにして、例えば雪および/または氷で滑りやすくなっている場合に、自動的に移動手段の速度を下げることができ、これにより、なかでも移動手段の事故リスクが低減され得る。
以下では、添付の図面を参照しながら本発明の例示的実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による方法の1つの実施形態のステップの一例を図解するフロー図である。
【
図2】移動手段と関連させた本発明による装置の図式的概観を示す図である。
【
図3a】
図3aは移動手段の光学センサの第1の信号および第2の信号のスペクトルの比較例を示す図である。
【
図3b】
図3bは移動手段の光学センサの第3の信号および第4の信号のスペクトルの比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、道路状態を確定するための本発明による方法の1つの実施形態の例示的なステップを図解するフロー図を示している。ステップ100では、移動手段の光学センサのLED光源の光が、所定の20°の角度で、この移動手段が走行している道路表面に放射される。LED光源は、少なくとも2つの互いに相違する所定の波長または所定の波長領域をもつ光を放射するように構成されている。光学センサは、本発明による評価ユニット、ここではマイクロコントローラによって制御される。この目的のために本発明による評価ユニットは、移動手段のFlexRayバスを介して光学センサと情報技術的に接続されている。ステップ200では、評価ユニットが、放射された光のうち道路表面により光学センサへと後方散乱された成分の強度を表しているこの光学センサの光検出器の信号を受信する。この信号は、デジタルデータの形態で評価ユニットにおいて受信され、かつ評価ユニットにより、評価ユニットの内部のメモリユニットに格納される。ステップ300では、評価ユニットにより、信号中のそれぞれの所定の波長または所定の波長領域の光強度に関する受信された値の比に基づいて、道路表面の水の固体状態が確定される。ステップ400では、評価ユニットにより、道路表面の水の固体状態が分類される。この目的のために、信号の絶対値が、メモリユニットに格納された第1の所定の閾値とマッチングされる。このマッチングが、この実施形態に係る例では、信号の低い絶対値を根拠として、道路が氷に覆われていることを明らかにする。ステップ600では、道路表面の氷の層厚が確定される。次のステップ700では、水の固体状態の分類の信頼性に関する信頼値が確定される。ステップ500およびステップ800では、信頼値が、水の固体状態に関する結果と組み合わせられ、バス信号の形態で、高度自動運転動作用制御機器に伝送される。その後この制御機器内で、結果が、信頼値を考慮したうえで移動手段の制御の適合に用いられる。
【0026】
図2は、移動手段80と関連させた本発明による装置の図式的概観を示している。本発明による装置は、ここではマイクロコントローラである評価ユニット10を含んでいる。評価ユニット10は、外部のメモリユニット20と情報技術的に接続されており、かつ上述の本発明によるプロセスステップをコンピュータプログラムに基づいて実行するように構成されている。評価ユニット10はさらに、データ入力部12およびデータ出力部14により、移動手段80の部分オンボードネットワークを介して光学センサ30と情報技術的に接続されており、光学センサ30は、道路表面70に対して20°の角度に方向づけられており、かつ移動手段80の床裏領域に配置されている。部分オンボードネットワークは、ここではイーサネットに基づいて実現されている。移動手段80のフロント領域に配置され、道路表面70を捕捉しているカメラ40も、上記の部分オンボードネットワークを介して評価ユニット10と情報技術的に接続されている。評価ユニット10は、カメラ40の信号に基づいて、本発明による方法によって確定され得る道路状態を検証することができる。評価ユニット10はさらに、データ出力部14により、部分オンボードネットワークを介して高度自動運転動作用制御機器50と情報技術的に接続されている。評価ユニット10が本発明による方法に基づいて確定した本発明による方法の結果が、データ出力部14により、デジタル信号の形態で、高度自動運転動作用制御機器50に伝送される。高度自動運転動作用制御機器50は、本発明による方法の結果を、移動手段80のその時々の制御を適合させるために使用する。
【0027】
図3aは、移動手段の光学センサの、第1の広帯域捕捉された信号60および第2の広帯域捕捉された信号62のスペクトルの比較例を示している。第1の信号60は、主として道路表面の細孔内にのみ雪があり、したがって道路表面が完全には雪に覆われていないように、道路表面が雪に覆われている場合に、光学センサによって捕捉される信号を表している。第2の信号62は、道路表面が薄い氷の層で覆われている場合に、光学センサによって捕捉される信号を表している。この比較例から、第1および第2の信号の反射率の値が互いに十分に大きく異なっており、詳しくは、本発明による方法に基づいて、それぞれの信号の、雪に覆われたまたは氷に覆われた道路に関する分類を実施できるほど十分に大きく異なっていることが分かる。
【0028】
図3bは、移動手段の光学センサの、第3の広帯域捕捉された信号64および第4の広帯域捕捉された信号66のスペクトルの比較例を示している。第3の信号64は、道路表面が完全に連続的な雪の層で覆われている場合に、光学センサによって捕捉される信号を表している。第4の信号66は、道路表面が厚い氷の層で覆われている場合に、光学センサによって捕捉される信号を表している。この比較例から、第3および第4の信号の反射率の値が互いに十分に大きく異なっており、詳しくは、本発明による方法に基づいて、それぞれの信号の、雪に覆われたまたは氷に覆われた道路に関する分類を実施できるほど十分に大きく異なっていることが分かる。