(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】場所打ちコンクリート杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/44 20060101AFI20230623BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
E02D5/44 A
E02D5/34 Z
(21)【出願番号】P 2022025982
(22)【出願日】2022-02-22
(62)【分割の表示】P 2018082633の分割
【原出願日】2018-04-23
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-036086(JP,U)
【文献】特開2008-013971(JP,A)
【文献】特開2017-106280(JP,A)
【文献】特開2005-061216(JP,A)
【文献】特開2008-240270(JP,A)
【文献】実開平03-029591(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/44
E02D 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の軸部と、拡底用掘削機を使用して該軸部の先端部を拡張してなる拡底部を備えた場所打ちコンクリート杭であって、
前記拡底部は、上段拡底部と、該上段拡底部より下方に延びる鉛直拡底部において少なくとも1つの下段拡底部と、を有し、
前記上段拡底部は、平断面視で前記軸部の中心軸を中心とした円形部を備えた形で構築され、
前記下段拡底部は、平断面視で前記軸部の中心軸を中心とした円形外面から径方向外側に突出
し、前記上段拡底部の円形部と同心である場合を含まない凸円弧部を備えた形で構築され、
前記下段拡底部の凸円弧部は、前記上段拡底部の円形部よりも径方向の外側に位置し、
前記拡底用掘削機は、地上に配置された回転支持装置によって回転可能に支持されたロッドと、前記ロッドの下端に設けられた掘削機本体と、前記掘削機本体の外周面から径方向に出没可能に設けられた拡張翼と、前記掘削機本体の先端部の中心部からロッド軸と同軸で下方に向けて突出するスタビライザーと、を備え、
前記拡底用掘削機の全高長さは、前記掘削機本体の上端から前記スタビライザーの先端部までのロッド軸方向の長さであり、
前記鉛直拡底部の上下方向の掘削長さが前記拡底用掘削機の全高以上であることを特徴とする場所打ちコンクリート杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、場所打ちコンクリート杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超高層ビルなど重量の大きい建物では、杭基礎として場所打ちコンクリート拡底杭が多用されている。このような場所打ちコンクリート拡底杭(以下、場所打ちコンクリート杭という)では、例えば、特許文献1に示されるような、略一定の径の軸部と、軸部の先端部側を必要な支持力に合わせて拡底してなる略円錐台状の拡底部とを備えて構築され、杭先端部に拡底部を設けることで支持耐力を大幅に向上させる構造のものが知られている。
【0003】
場所打ちコンクリート杭を構築する際には、例えば、掘削機を用いて地表面から略一定の径の掘削孔を所定の深度まで安定液を充填しつつ掘削形成する。次に、ロッドの先端に接続した拡底用掘削機を挿入して掘削孔の先端部に配置した段階で、拡底用掘削機を拡張させつつロッドを中心軸周りに回転させて孔壁部分の地盤を掘削し、掘削孔の先端部を拡底する。そして、拡底した掘削孔に鉄筋籠を建て込むとともにトレミー管を用いて安定液と置換するようにコンクリートを打設し、必要に応じて杭頭部側を埋め戻したり、杭頭基礎を構築するなどし、場所打ちコンクリート拡底杭の施工が完了する。
【0004】
ここで、
図8(a)に示すように、上記のように構築される場所打ちコンクリート杭1Aは、各種工法ごとにその大きさが異なるが、現状では軸径(軸部10の外径)が最大約3m、拡底径(拡底部20Aの外径)が最大4.8m~5.5mである。
一方、超高層ビルなど非常に大きな柱軸力を受ける場所打ちコンクリート杭1Bでは、最大拡底径でも支持力が不足する場合があり、支持力の不足を補うために、例えば
図8(b)に示すように、拡底部20Bを軸部10の上下方向に複数形成するなどの対策工法が提案、実用化されている。
【0005】
さらに、
図8(c)に示す場所打ちコンクリート杭1Cのように、杭の支持力を増大するため、拡底掘削長さを長くすることでビール瓶形状となるように掘削された拡底部20Cを形成し、杭の周面摩擦を増大させる工法も行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】平川 恭章、濱田 純次、山下 清、「あべのハルカスの基礎構造設計と施工」基礎工、2014.11、p.029-036
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、拡底部を2つ以上離隔して形成する従来の場所打ちコンクリート杭では、増加した拡底部の分だけ硬質な支持層を掘削して杭長を長くする必要があり、工費、工程に与える影響が非常に大きい。このため、より効率的且つ効果的に支持耐力を向上させることを可能にする手法が強く望まれている。
【0009】
また、杭の支持力を増やすため
図8(c)に示すような拡底掘削長さを長くしてビール瓶状の拡底部20Cを掘削し、杭の周面摩擦を増やした場所打ちコンクリート杭1Cの場合には、大きな支持力を確保できる先端支持力は従来と変わらず、周面摩擦力のみしか増えないため、支持力を大きくするためには支持層G2に根入れする杭の長さを大きくする必要があり、支持層G2の掘削量が増えるという課題があった。
さらに、この場合には、排土量や打設コンクリートの量が掘削径の自乗に比例するが、周面積は掘削径に比例するため、支持力を確保するためのコストが大きくなることから、その点で改善の余地があった。
【0010】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、従来と比較し、より効率的且つ効果的に支持耐力を向上させることができ、施工費と施工時間の低減を図ることが可能な場所打ちコンクリート杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る場所打ちコンクリート杭は、円柱状の軸部と、拡底用掘削機を使用して該軸部の先端部を拡張してなる拡底部を備えた場所打ちコンクリート杭であって、前記拡底部は、上段拡底部と、該上段拡底部より下方に延びる鉛直拡底部において少なくとも1つの下段拡底部と、を有し、前記上段拡底部は、平断面視で前記軸部の中心軸を中心とした円形部を備えた形で構築され、前記下段拡底部は、平断面視で前記軸部の中心軸を中心とした円形外面から径方向外側に突出し、前記上段拡底部の円形部と同心である場合を含まない凸円弧部を備えた形で構築され、前記下段拡底部の凸円弧部は、前記上段拡底部の円形部よりも径方向の外側に位置し、前記拡底用掘削機は、地上に配置された回転支持装置によって回転可能に支持されたロッドと、前記ロッドの下端に設けられた掘削機本体と、前記掘削機本体の外周面から径方向に出没可能に設けられた拡張翼と、前記掘削機本体の先端部の中心部からロッド軸と同軸で下方に向けて突出するスタビライザーと、を備え、前記拡底用掘削機の全高長さは、前記掘削機本体の上端から前記スタビライザーの先端部までのロッド軸方向の長さであり、前記鉛直拡底部の上下方向の掘削長さが前記拡底用掘削機の全高以上であることを特徴としている。
【0012】
本発明では、拡底用掘削機を偏心位置に移動する作業を行うことにより、上段拡底部より大きく拡底された下段拡底部を簡単に構築することができる。すなわち、本発明の場所打ちコンクリート杭は、下段拡底部(杭底面)が平断面視で鉛直拡底部の中心軸を中心とした鉛直拡底部の円形外面から径方向外側に突出する凸円弧部を備えた形状となり、下段拡底部における杭底面の底面積で拡底用掘削機の最大拡底径よりも約2倍以上の大きな拡底杭を構築することができる。
このように、本発明では、杭の底面積が大きいため、場所打ちコンクリート杭に大きな支持力を負担させることができる。そのため、従来のビール瓶状の拡底部を設ける場合のように拡底掘削を支持層全体で行ったり、複数の拡径部を設けるために支持層を深く掘削する必要がなくなることから、支持層の掘削量の増加を抑えることができ、施工費と施工時間の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の場所打ちコンクリート杭によれば、従来と比較し、より効率的且つ効果的に支持耐力を向上させることができ、施工費と施工時間の低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態による場所打ちコンクリート杭の掘削孔の構成を示す側面図である。
【
図2】(a)、(b)は、従来の拡底掘削機を用いて拡底部を形成した場合を示す側面、及び各掘削部の外径を示す平面図である。
【
図3】場所打ちコンクリート杭の構築方法を示す側面図であって、(a)は軸部を示す図、(b)は上段拡底部及び鉛直拡底部の拡底掘削を行っている状態を示す図である。
【
図4】(a)、(b)は、場所打ちコンクリート杭の構築方法を示す側面図であって、拡底用掘削機を偏心位置に配置させた状態を示す図である。
【
図5】(a)、(b)は、場所打ちコンクリート杭の構築方法を示す側面図であって、拡底用掘削機によって下段拡底部の拡底掘削を行っている状態を示す図である。
【
図6】場所打ちコンクリート杭の構築方法を示す平面図であって、(a)は4箇所の偏心位置で拡底掘削を行った場合の図、(b)は6箇所の偏心位置で拡底掘削を行った場合の図、(c)は8箇所の偏心位置で拡底掘削を行った場合の図である。
【
図7】(a)、(b)、(c)は、それぞれ
図6(a)、(b)、(c)を簡略化した図である。
【
図8】(a)、(b)、(c)は、従来の場所打ちコンクリート杭を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態による場所打ちコンクリート杭について、図面に基づいて説明する。
【0016】
本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の構築方法では、
図1に示すように、円柱状の軸部10と、この軸部10の先端部を拡張してなる拡底部2(21、22、23)と、を構築するための方法である。場所打ちコンクリート杭1は、通常の地盤(ここでは軟弱層G1)の下層に位置する支持層G2に、軸部10の先端部10a、すなわち拡底部2の一部(本実施形態では後述する下段拡底部23の一部)が配置されるように構築される。
【0017】
拡底部2(21、22、23)は、詳しくは後述するが、
図2(a)、(b)に示すように、周知の拡底用掘削機3を用いて形成される。拡底用掘削機3としては、例えばφ2.1~3.0m等のある範囲の径の軸部10(大径軸11、小径軸12)において拡底部2の掘削孔2Aを掘削することにより形成できる装置が採用される。ここで、
図2(a)、(b)は、軸部10の先端部に1つの拡底部2のみを設けた従来の場所打ちコンクリート杭の構築方法を示している。
【0018】
場所打ちコンクリート杭1の構築方法では、先ず、
図3(a)に示すように、従来と同様に、アースドリル等の杭用の掘削機(図示省略)を用いて地表面から地盤の所定の深度まで安定液を充填しつつ掘削し、場所打ちコンクリート杭1の略一定の軸径(例えば3.0m等)の軸部10の第1掘削孔10Aを形成する。
【0019】
次に、
図3(b)に示すように、例えば最大拡底径が4.0m以上の拡底用掘削機3(第1拡底用掘削機、第2拡底用掘削機)を使用し、その拡底用掘削機3を軸部10の第1掘削孔10Aの先端部に挿入するとともに、拡底用掘削機3の中心軸(ロッド軸C1)を軸部10の中心軸Oに一致させた後に拡張翼33を拡げながら掘削する(
図3(b)の符号P1の二点鎖線の位置)。
【0020】
拡底用掘削機3は、
図3(b)に示すように、例えば地上に配置された不図示の回転支持装置によって回転可能に支持されたロッド31と、ロッド31の先端(下端)に設けられた筒状の掘削機本体32と、掘削機本体32の外周面32aからロッド31のロッド軸C1に対して直交する径方向に出没可能に設けられた左右一対の拡張翼33と、掘削機本体32の底面32b(先端部)の中心部からロッド軸C1と同軸で下方に向けて突出するスタビライザー34(位置決め凸部)と、を備えている。
【0021】
ロッド31は、ロッド軸C1方向を鉛直方向に向けてロッド軸C1を中心に回転可能に支持され、ロッド下端が掘削機本体32の上面中心に一体的に固定されている。掘削機本体32は、ロッド31の回転とともにロッド軸C1を中心に回転される。
【0022】
拡張翼33は、側面視で上から下に向けて径方向の外側となる略三角形板状をなし、上から斜め下方に延びる傾斜部33aにはその傾斜方向に沿って複数の掘削刃(図示省略)が設けられている。拡張翼33は、掘削機本体32から最も突出したときの外径が拡底用掘削機3の最大拡底径となる。一対の拡張翼33は、ロッド軸C1方向から見て掘削機本体32を挟んだ両側にそれぞれが対向する位置に設けられている。
【0023】
スタビライザー34は、
図4(a)に示すように、各掘削孔の底面に突き当たって突き刺すことによって拡底用掘削機3を安定させるための位置決め凸部を構成している。なお、本実施形態のスタビライザー34は、その突出方向の先端部がテーパー状、尖った形で形成されている。また、ドリルやオーガー状にして下方地盤に突き刺さりやすくしても良い。
【0024】
次に、
図3(b)に示すように、先行掘削して形成した軸部10の第1掘削孔10Aの先端部10a(
図3(a)参照)の孔壁を拡底用掘削機3の拡張翼33を拡げながら拡張するように掘削して軸部10の第1掘削孔10Aと同軸となる拡底部2、すなわち上段拡底部21の第2掘削孔21A及び上段拡底部21より下方に延びる鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aを形成する。上段拡底部21は、平断面視で軸部10の中心軸を中心とした円形部を備えた形で形成される。
【0025】
具体的な施工方法としては、ロッド31の下端に接続した掘削機本体32を軸部10の第1掘削孔10Aの先端部まで挿入して配置する(
図3(b)に示す符号P1の二点鎖線の位置)。このとき、拡底用掘削機3のスタビライザー34を軸部10の第1掘削孔10Aの杭底面の地盤に突き刺し、掘削機本体32が左右方向にずれないように位置決めした状態にした方が安定性を高めるためには好ましい。
【0026】
続いて、拡底用掘削機3を拡張しつつロッド軸C1周りに回転させて軸部10の第1掘削孔10Aの孔壁部分を拡底掘削することで、軸部10の第1掘削孔10Aの先端部に略円錐台状の拡底部2の掘削孔が形成される。ここで、拡底用掘削機3の拡張翼33は、最大に拡げられた状態で拡張されるが、このとき設定される拡底部2の拡底径寸法に応じて拡張量を設定すればよい。
【0027】
軸部10の第1掘削孔10Aの先端部に略円錐台状の拡底部2が形成された後、拡底用掘削機3を回転させ、ロッド31とともに掘削機本体32を所定の深さの位置(ここでは上段拡底部21の位置)まで引き上げながら掘削することで、ビール瓶形状の拡底部2が形成されることになる。つまり、拡張翼33における掘削刃を有する傾斜部33aが上向きに配置されているので、掘削機本体32を引き上げて軸部10の第1掘削孔10Aを拡径掘削することで、軸部10の中心軸Oと同軸で、かつ拡張翼33を張り出したときの最大拡底径の鉛直拡底部22が形成される。そして、掘削機本体32の引き上げを停止させた所定位置(
図3(b)に示す符号P3の実線の位置)には、上段拡底部21が形成される。
なお、
図3(b)において、符号P2の二点鎖線の位置にある拡底用掘削機3は、P1の位置からP3の位置へ引き上げる途中の状態を示している。
【0028】
鉛直拡底部22の第3掘削孔の掘削長さL1(軸部10の底面からの高さ)は、
図4(a)に示すように、拡底用掘削機3における掘削機本体32とスタビライザー34の先端部までのロッド軸C1方向の長さ(全高)Lm以上に設定されている。
【0029】
図4(a)、(b)に示すように、掘削される上段拡底部21の第2掘削孔21Aの下端外径、及び鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの外径は、掘削機本体32が鉛直拡底部22内に配置された状態において、ロッド31が軸部10の孔壁に当接する位置、及び拡張翼33が閉じた状態の掘削機本体32の外周面32aが鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの孔壁に当接する位置のうち少なくとも一方(本実施形態では両方)で決められる。
【0030】
次に、
図4(a)、(b)に示すように、拡底用掘削機3を鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの所定深さの位置(孔底近傍の位置、
図4(a)に示す二点鎖線Q1の位置)に挿入するとともに、拡底用掘削機3のロッド軸C1を軸部10の中心軸Oに対して所定の偏心量Nで水平方向にスライドすることにより偏心させて配置する。本実施形態における拡底用掘削機3の偏心位置(
図4(a)の符号Q2の位置、及び
図4(b)の符号Q3の位置)は、ロッド31が軸部10の孔壁に当接する位置で、かつ拡張翼33が閉じた状態の掘削機本体32の外周面32aが鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの孔壁に当接する位置に配置される。このとき、
図4(b)に示すように、拡底用掘削機3のスタビライザー34を鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの底面の地盤に突き刺し、掘削機本体32が左右方向にずれないように位置決めした状態(符号Q3の状態)にする。
【0031】
なお、本実施形態では、拡底用掘削機3を偏心させる際に、ロッド31を所定の偏心位置に案内する偏心拡底掘削用ガイド等の図示しない位置決め保持手段を使用してもよい。
この場合、拡底用掘削機3をロッド軸C1周りに回転させ孔壁を拡底掘削すると、拡底用掘削機3が上記位置決め保持手段によってその偏心位置で保持され、好適に拡底掘削を行うことができる。
【0032】
次に、
図5(a)に示すように、鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの孔壁を偏心した位置に配置された掘削機本体32から拡張翼33を拡げつつロッド軸C1周りに回転させて拡張するように拡底掘削して下段拡底部23の第4掘削孔23Aを形成する(
図6(a)、(b)、(c)参照)。このときの拡底用掘削機3の拡張翼33は、最大に拡げられた状態で拡張されるが、形成する下段拡底部23の第4掘削孔23Aの拡底径寸法に応じて拡張量が設定される。下段拡底部23は、平断面視で鉛直拡底部22から径方向の外側に突出する凸円弧部23aを備えた形で構築される。下段拡底部23の凸円弧部23aは、上段拡底部21の円形部よりも径方向の外側に位置している。
【0033】
次いで、
図5(b)に示すように、拡底用掘削機3を
図4(a)に示す符号Q3の位置から水平方向にスライドすることにより別の偏心位置(符号Q4の位置)に配置する。そして、上述したように拡底用掘削機3のスタビライザー34を鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの底面の地盤に固定した後、拡張翼33を拡げながら拡底掘削して、その符号Q4の位置において下段拡底部23の第4掘削孔23Aを形成する。
【0034】
このような拡底掘削を複数の偏心位置において数回掘削を行うことで、
図6(a)、(b)、(c)に示すような拡底用掘削機3の最大拡底径を超えた場所打ちコンクリート杭1を構築することができる。
図7(a)、(b)、(c)は、
図6(a)、(b)、(c)において、それぞれ2箇所の偏心位置の拡底用掘削機3のみを示した図である。
図6(a)は、軸部10周りに一定の間隔をあけた4箇所の下段拡底部23の第4掘削孔23Aを形成した状態を示している。すなわち、
図6(a)は、4箇所の偏心位置毎に拡底用掘削機3を配置して4回の拡底掘削を行ったものである。
図6(b)は、6箇所の偏心位置毎に拡底用掘削機3を配置して6回の拡底掘削を行ったものである。
図6(c)は、8箇所の偏心位置毎に拡底用掘削機3を配置して8回の拡底掘削を行ったものである。
このように構築した本実施形態の場所打ちコンクリート杭1は、その杭底面1aが平断面視で軸部10の中心軸Oを中心とした鉛直拡底部22の円形外面(第3掘削孔22Aの孔壁)から径方向外側に突出する凸円弧部を備えた形で構築される。
【0035】
次に、
図1に示すように、軸部10、上段拡底部21、鉛直拡底部22、及び下段拡底部23の各掘削孔10A、21A、22A、23Aにトレミー管を用いて安定液と置換するようにコンクリートを打設し場所打ちコンクリート杭1を構築する。なお、各掘削孔10A、21A、22A、23A内に鉄筋篭を挿入したり、必要に応じて杭頭部側を埋め戻したり、杭頭基礎を構築する等を行い、場所打ちコンクリート拡底杭の施工が完了する。
【0036】
次に、場所打ちコンクリート杭1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の構築方法によれば、
図1、
図5(a)、(b)及び
図6(a)~(c)に示すように、拡底用掘削機3を偏心位置に移動する作業を行うことにより、上段拡底部21より大きく拡底された下段拡底部23を簡単に構築することができる。すなわち、本実施形態の場所打ちコンクリート杭1は、下段拡底部23の杭底面が平断面視で鉛直拡底部22の中心軸Oを中心とした鉛直拡底部22の円形外面から径方向外側に突出する凸円弧部23a(
図6(a)~(c)参照)を備えた形状となり、下段拡底部23における杭底面23bの底面積で拡底用掘削機3の最大拡底径よりも約2倍以上の大きな拡底杭を構築することができる。
【0037】
このように、本実施形態では、杭の底面積が大きいため、場所打ちコンクリート杭1に大きな支持力を負担させることができる。従来のビール瓶状の拡底部を設ける場合のように拡底掘削を支持層全体で行ったり、複数の拡径部を設けるために支持層を深く掘削する必要がなくなることから、支持層G2の掘削量の増加を抑えることができ、施工費と施工時間の低減を図ることができる。
【0038】
また、本実施形態では、鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aにおける上下方向の掘削長さL1が拡底用掘削機3の全高Lm以上であるので、鉛直拡底部22をさらに掘削することなく、鉛直拡底部22の第3掘削孔22A内で拡底用掘削機3を水平方向にスライドさせて偏心でき、施工にかかる作業効率を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、先行掘削した掘削孔の底面がすり鉢状に形成されていたり、砂礫などの崩れやすい地盤であっても、後行掘削によって拡底部2の掘削を行う際に、掘削孔の中心軸からロッド軸C1を所定量偏心させた位置の底面に拡底用掘削機3のスタビライザー34が突き刺すようにして拡底用掘削機3を配置することができる。そのため、拡底用掘削機3が安定し、この状態で拡底用掘削機3がロッド軸C1周りに回転して掘削孔の孔壁を拡底掘削することができる。すなわち、偏心位置に配置した拡底用掘削機3が芯ずれすることなく拡底掘削を行うことができ、確実で好適に拡底用掘削機3の最大拡底径を超えた場所打ちコンクリート杭1を構築することができる。
【0040】
上述のように本実施形態による場所打ちコンクリート杭では、従来と比較し、より効率的且つ効果的に支持耐力を向上させることができ、施工費と施工時間の低減を図ることが可能となる。
【0041】
以上、本発明による場所打ちコンクリート杭の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0042】
例えば、本実施形態のように、上段拡底部21の第2掘削孔21A及び下段拡底部23の第4掘削孔23Aの拡底径を、拡底用掘削機3の拡張翼33を最大に広げた最大拡底径により形成されていることに限定されることはない。つまり、設定される必要な拡底面積で拡底部を構築できればよいので、その拡底面積に対応した径になるように拡張翼33を広げて拡底すればよい。
【0043】
また、本実施形態では、上段拡底部21の第2掘削孔21A及び鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aを掘削する拡底用掘削機3と、下段拡底部23の第4掘削孔23Aを掘削する拡底用掘削機3とが同じ掘削機としているが、それぞれ構成の異なる掘削機を使用してもよい。また、拡底用掘削機3の形状や構成についても、上述した実施の形態に制限されることはない。
【0044】
さらに、上段拡底部21の第2掘削孔21A及び鉛直拡底部22の第3掘削孔22Aの掘削方法として、軸部10の先端に掘削機本体32を配置して拡張翼33を広げつつ上方に引き上げることで掘削する方法としているが、このような本実施の形態の方法に限定されることはなく、他の施工方法を採用することも可能である。例えば先ず上段拡底部21を施工してから拡底用掘削機3の拡張翼33を突出させた状態で回転させながら軸部10の先端まで拡底掘削するような施工方法を採用することもできる。
【0045】
また、例えば、予め、杭底部直下の地盤全体やスタビライザー34が突き当たる部分の地盤(偏心位置の杭底部直下の地盤)を、深層地盤改良工法などを用いて地盤改良しておいてもよい。この場合には、後行掘削によって拡底部の掘削を行う際に、さらに拡底用掘削機を安定した状態にして掘削孔の孔壁を拡底掘削することができ、より確実で好適に拡底用掘削機の最大拡底径を超えた拡底杭を構築することが可能になる。
【0046】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 場所打ちコンクリート杭
2 拡底部
3 拡底用掘削機(第1拡底用掘削機、第2拡底用掘削機)
10 軸部
10A 軸部の第1掘削孔
21 上段拡底部
21A 第2掘削孔
22 鉛直拡底部
22A 第3掘削孔
23 下段拡底部
23A 第4掘削孔
23a 凸円弧部
23b 杭底面
31 ロッド
32 掘削機本体
33 拡張翼
34 スタビライザー(位置決め凸部)
C1 ロッド軸(拡底用掘削機の中心軸)
O 軸部の中心部
G1 軟弱層
G2 支持層