(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】アルミニウム系合金めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20230623BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20230623BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20230623BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20230623BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20230623BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20230623BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230623BHJP
C22C 38/04 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
C23C28/02
C23C14/14 C
C22C18/04
C22C21/02
C22C21/10
C23C2/12
C22C38/00 301T
C22C38/04
(21)【出願番号】P 2022533094
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 KR2020017347
(87)【国際公開番号】W WO2021112521
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0160730
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ウ-ソン
(72)【発明者】
【氏名】パク、 サン-フン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 スク-キュ
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-144193(JP,A)
【文献】特開2011-241458(JP,A)
【文献】特表2018-513909(JP,A)
【文献】特表2019-531406(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0294400(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0146986(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/02
C23C 14/14
C22C 18/04
C22C 21/02
C22C 21/10
C23C 2/12
C22C 38/00
C22C 38/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板;
前記素地鋼板の少なくとも一面に形成されたAl系合金めっき層;及び
前記Al系合金めっき層上に形成され、重量%で、Al:0.5~1.0%、残部Zn及び不可避不純物を含み、めっき付着量が3~12g/m
2であるZn-Al系めっき層;を含む、アルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項2】
前記Zn-Al系めっき層の硬度は65Hv以上である、請求項1に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項3】
前記Al系合金めっき層は重量%で、Si:5~12%、Zn:5~30%、Mg:0.5~5%、Mn:0.01~2%、Fe:0.1~2%、残部Al及び不可避不純物を含む、請求項1に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板。
【請求項4】
素地鋼板を用意する段階;
前記素地鋼板上に溶融アルミニウムめっき方式を用いて、Al系合金めっき層を形成してアルミニウム合金めっき鋼板を得る段階;
前記アルミニウム合金めっき鋼板の表面に真空蒸着方式を用いて、重量%で、Al:0.5~1.2%、残部Zn及び不可避不純物を含み、めっき付着量が3~12g/m
2であるZn-Al系めっき層を形成する段階;を含む、アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記真空蒸着方式は、EML-PVD、Jet-PVD、EB PVD、及びThermal方式のいずれか一つを用いる、請求項4に記載のアルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系合金めっき鋼板及びその製造方法に関するものであって、より詳細には、自動車鋼板などに好ましく適用できるアルミニウム系合金めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム及びアルミニウム合金めっき鋼板は、亜鉛及び亜鉛合金めっき鋼板にはない様々な利点により、既に多様な産業分野で用いられている。特に、最近開発されている様々な高強度鋼にこのようなアルミニウム合金めっきを行う場合、スポット溶接時に発生する液体金属脆化現象が発生せず、犠牲防食性及び塗膜密着性の確保が可能であることから、アルミニウム合金めっきに対する関心が増々高まっている。
【0003】
このようにアルミニウム系めっき鋼板は、様々な元素との合金化によってその欠点が継続的に改善及び補完されているが、めっき層のほとんどはアルミニウムから構成されるため、従来、自動車会社で最も一般的に用いられている亜鉛系後処理が本質的に不可能であるという限界がある。最も代表的なリン酸塩処理の場合、リン酸塩が亜鉛と置換されて皮膜が形成される形態であるが、アルミニウム合金めっきの場合、リン酸塩溶液と反応が可能な亜鉛がないか、または不足して正常なリン酸塩皮膜が形成されなくなる。したがって、アルミニウム合金めっき鋼板を自動車用に適用するためには、自動車生産ラインとは別途のラインでアルミニウムめっき用リン酸塩処理後に用いるか、既存の亜鉛系リン酸塩処理溶液を全てアルミニウム用に溶液変更をする必要があるため、別途処理が必要となって連続生産が不可能かつ溶液変更に伴う生産費用及び生産時間が大幅に増加するという問題が生じる。
【0004】
したがって、アルミニウム合金めっき鋼板は、既存の亜鉛系めっき鋼板の慢性的な問題の解決が可能であり、様々な利点があるにも関わらず、自動車会社の生産費増加という問題によって、後処理が不要な一部の構造用内装材にのみ用いられるなど、その適用が多く制限されている実情である。
【0005】
このような問題を克服するために、特許文献1では、Alめっき鋼板の表面にPVD方式でZnをめっきして改善する方案を提示した。しかし、特許文献1で提示した技術の場合、めっきされたZnの高い延性により耐スクラッチ性が劣ってプレスなどの成形工程でめっき鋼板の表面に多量のスクラッチが発生するか、または摩擦係数及びゴーリング性が低く、金型の汚染がひどくなって生産性が低下するという新たな問題が発生するため、実質的な適用には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国特許公開公報第1995-0027278号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面は、上述した従来技術の問題点を解決するためのものであり、自動車会社で一般的に行われる亜鉛系後処理が可能であり、溶接部の液体金属脆化(LME)現象が発生せず、ゴーリング性もまた優れた自動車用アルミニウム系合金めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全体内容から本発明のさらなる課題を理解することに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、素地鋼板;上記素地鋼板の少なくとも一面に形成されたAl系合金めっき層;及び、上記Al系合金めっき層上に形成され、重量%で、Al:0.5~1.0%、残部Zn及び不可避不純物を含み、めっき付着量が3~12g/m2であるZn-Al系めっき層;を含むアルミニウム系合金めっき鋼板を提供する。
【0010】
本発明の他の実施形態は、素地鋼板を用意する段階;上記素地鋼板上に溶融アルミニウムめっき方式を用いてAl系合金めっき層を形成してアルミニウム合金めっき鋼板を得る段階;上記アルミニウム合金めっき鋼板の表面に真空蒸着方式を用いて、重量%で、Al:0.5~1.2%、残部Zn及び不可避不純物を含み、めっき付着量が3~12g/m2であるZn-Al系めっき層を形成する段階;を含むアルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によると、一般鋼種から超高強度鋼種まで溶接部の液体金属脆化現象が発生せず、既存のZnめっき鋼板と同様のリン酸塩及び後処理が可能であり、特にめっき層の硬度をビッカース硬度の基準で65Hv以上としてゴーリング性に優れた自動車用アルミニウム系合金めっき鋼板を提供することができる。
【0012】
本発明の多様でありながらも有意義な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の好ましい一実施例によるアルミニウム系合金めっき鋼板のめっき層構造を概略的に示した模式図である。
【
図2】真空蒸着方式で製造されたZnめっき及びZn-1wt%Al合金めっきの表面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真及びビッカース硬度を測定した結果である。
【
図3】本発明の一実施例による比較例1、5と発明例1、2、4に対して、リン酸塩処理を施した後、その表面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真である。
【
図4】本発明の一実施例による発明例1~4、比較例8~10に対して、測定繰り返し回数に応じた摩擦係数を測定した結果を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで用いられる専門用語は、特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定する意図ではない。ここで用いられる単数の形態は、文脈上明らかに異なる意味ではない限り、複数の表現も含む。
【0015】
本明細書で用いられる「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分及び/または群の存在や付加を除外するものではない。
【0016】
他に定義してはいないが、ここで用いられる技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。一般的に用いられる辞書に定義された用語は、関連技術文献及び現在開示されている内容に符合する意味を有するものとして追加解釈され、定義されていない限りは、理想的または非常に公式的な意味として解釈されない。
【0017】
本発明者らは、アルミニウムめっき鋼板のリン酸塩処理性を確保しながらも優れた加工性を確保するための方案について深く研究した。その結果、既存のAl系めっき層上にZnめっき層を形成するが、適切なめっき量に制限し、上記Znめっき層に適正量のAlを添加してZnめっき層の硬度を65Hv以上に向上させると、既存のZnめっき鋼板と同一のリン酸塩及び後処理が可能でありながら、優れた耐食性及びゴーリング性が確保できるという点を新たに見出して、これに基づいて本発明を完成した。
【0018】
以下、本発明の一側面によるアルミニウム系合金めっき鋼板について詳細に説明する。本発明において、各元素の含有量を示す際に特に断りのない限り、重量%を意味することに留意する必要がある。また、結晶や組織の割合は、特に異なって表現しない限り、面積を基準とする。
【0019】
図1は、本発明の好ましい一実施例によるアルミニウム系合金めっき鋼板のめっき層構造を概略的に示した模式図である。
図1を参照して説明すると、本発明のアルミニウム系合金めっき鋼板は、素地鋼板1;上記素地鋼板1の少なくとも一面に形成されたAl系合金めっき層2;及び、上記Al系合金めっき層2上に形成されたZn-Al系めっき層3;を含むことができる。
【0020】
本発明では、素地鋼板の種類について特に限定しないことができる。上記素地鋼板は、通常の亜鉛めっき鋼板の素地鋼板として用いられるFe系素地鋼板、すなわち熱延鋼板または冷延鋼板であることができるが、これに制限されるものではない。また、上記素地鋼板は、例えば自動車用素材として用いられる炭素鋼、極低炭素鋼、または高マンガン鋼であることができるが、これに制限されるものではない。特に、好ましくはスポット溶接時に液体金属脆化が発生しやすい引張強度800MPa以上の自動車構造体に用いられるDP、TRIP、TWIP、MARTなどの超高強度及び極超高強度鋼が用いられるが、これに制限されるものではない。
【0021】
素地鋼板の少なくとも一面には、Al系合金めっき層が形成されることができる。詳細には、Al系合金めっき層は、素地鋼板の一面にのみ形成されることがあり、素地鋼板の両面に形成されていることもある。
【0022】
上記Al系合金めっき層は、アルミニウム系合金からなることができる。本発明においてアルミニウム系合金とは、アルミニウムを主成分とし、少量の合金元素及び不可避不純物を含む合金と定義することができる。当該技術分野で自動車用鋼板として一般的に用いられるアルミニウム系合金層であれば、本発明のAl系合金めっき層として好ましく適用できるため、Al系合金めっき層をなすアルミニウム系合金については、特に限定しないことができる。但し、一例として重量%で、Si:5~12%、Zn:5~30%、Mg:0.5~5%、Mn:0.01~2%、Fe:0.1~2%、残部Al及び不可避不純物を含むことができるが、これに制限されるものではない。
【0023】
上記Al系合金めっき層上には、Zn-Al系めっき層が形成されることができる。上記Zn-Al系めっき層は、重量%で、Al:0.5~1.0%、残部Zn及び不可避不純物を含むことができ、他の合金元素が含まれることを排除するものではない。
【0024】
一定厚さ以上のZn-Al系めっき層を形成すると、既存のZnめっき鋼板と同様の様々なリン酸塩処理及び後処理が可能となる。しかし、従来技術の問題点として指摘されたように、Zn-Al系めっき層が形成されると、Znの延性(ビッカース硬度値52~55Hvレベル)によってゴーリング特性が急激に劣化することによるめっき層の剥離が発生するか、金型清掃サイクルの増加による生産性の低下によって生産費用が増加して、自動車用めっき鋼板への使用が制限されることがある。本発明では、このような従来技術の問題点を解決するために、Zn-Al系めっき層に0.5~1.0%のAlを含有させることで、適切なレベル以上の硬度を確保することができる。このような硬度の上昇は、微量の合金化による固溶強化及び結晶粒微細化に起因する。
図2は、真空蒸着方式で製造されたZnめっき及びZn-1wt%Al合金めっきの表面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真及びビッカース硬度を測定した結果である。
図2から分かるように、Zn-Al系めっき層に1.0%のAlを添加した場合、純Znめっきに比べて平均粒子の大きさが半分以下に減少し、上述した強化原理によって硬度値が85Hvと大幅に増加した。
【0025】
上記Zn-Al系めっき層に含まれたAlの含有量が0.5%未満の場合、ビッカース硬度の基準で65Hv以上の硬度を確保することが困難である。一方、Al含有量が1.0%を超過する場合、65Hv以上の硬度は確保でき、優れたゴーリング性を得ることができるが、後続工程でリン酸塩処理時に異常なリン酸塩皮膜が形成されるという問題が発生することがある。したがって、上記Zn-Al系めっき層に含まれるAl含有量は、0.5~1.2%の範囲を有することが好ましい。上記Al含有量の下限は0.6%であることがより好ましく、0.7%であることがさらに好ましく、0.8%であることが最も好ましい。上記Al含有量の上限は1.1%であることがより好ましく、1.0%であることがさらに好ましく、0.9%であることが最も好ましい。
【0026】
上記Zn-Al系めっき層のめっき付着量は3~12g/m2であることができる。後工程のリン酸塩処理過程で緻密且つ安定したリン酸塩層を形成し、構造用シーラーとの優れた密着力を確保するためには、Zn-Al系めっき層が3g/m2以上のめっき付着量を有する必要がある。もし、上記めっき付着量より未満である場合、後工程で行われるリン酸塩処理時に正常なリン酸塩皮膜が形成され難い場合がある。一方、上記めっき付着量が12g/m2を超過する場合、リン酸塩処理性は良好となることができるが、スポット溶接中に液状に存在するZn量が増加するにつれて、Znによる溶接部の液体金属脆化(LME)現象が発生することがあり、不要なめっき付着量の増加によって生産費が増加する。したがって、上記Zn-Al系めっき層のめっき付着量は、3~12g/m2の範囲を有することが好ましい。上記Zn-Al系めっき層のめっき付着量の下限は、4g/m2であることがより好ましく、5g/m2であることがさらに好ましく、6g/m2であることが最も好ましい。上記Zn-Al系めっき層のめっき付着量の上限は、11g/m2であることがより好ましく、10g/m2であることがさらに好ましく、9g/m2であることが最も好ましい。
【0027】
上記Zn-Al系めっき層の硬度は、ビッカース硬度(Vicker’s Hardness)の基準で65Hv以上であることができる。従来に高い延性を示すZnめっき層とは異なってAl添加により一定レベル以上の硬度を確保することで、優れた加工性が得られる。
【0028】
次に、本発明の他の一側面によるアルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法について詳細に説明する。但し、以下で説明する製造方法は、可能である全ての実施形態の1つに過ぎず、本発明のアルミニウム系合金めっき鋼板が必ずしも以下の製造方法のみによって製造されるべきであるという意味ではない。
【0029】
まず、素地鋼板を用意し、上記素地鋼板上に溶融アルミニウムめっき方式を介して、Al系合金めっき層を形成してアルミニウム合金めっき鋼板を製造する。
【0030】
溶融アルミニウムめっき方式については特に制限しないことができ、通常用いられる溶融アルミニウムめっき方式を適用することができる。一例として、素地鋼板を重量%でZn5~30%、Mg0.5~5%、Mn0.01~3%、残部Al及び不可避不純物を含み、めっき浴温度520~560℃に維持されるめっき浴に浸漬させてAl系合金めっき層を形成することができる。
【0031】
この後、Al系合金めっき層が形成されためっき鋼板の表面に重量%で、Al:0.5~1.0%、残部Zn及び不可避不純物を含み、付着量が3~12g/m2であるZn-Al系めっき層を形成する。このとき、Zn-Al系めっき層を形成する方法については、特に制限しない。但し、Al系合金めっき層を形成する際に、既に溶融めっき方式を適用したため、Zn-Al系めっき層の形成時に再び溶融めっき方式を適用することは困難であり、Znの以外に少量のAl成分がさらに含まれる必要があり、また3~12g/m2レベルの付着量で薄く形成すべきである点を考慮すると、真空蒸着方式を用いることが好ましい。特に、高い生産性の確保が可能なEML-PVD、Jet-PVD、EB PVD、及びその他のThermal方式が適用可能であるが、これに制限されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して具体化するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、これから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0033】
(実施例)
まず、重量%で、C:0.16%、Mn:2.5%、Si:1.5%及び残部Fe及び不可避不純物を含む合金組成を有する引張強度1.2Gpa級の超高強度素地鋼板を用意し、上記素地鋼板に溶融めっき方式を用いてAl系合金めっき層を形成した。このとき、上記Al系合金めっき層の成分を湿式分析(ICP)方式で測定した結果、Zn:20%、Mg:3%、Mn:2%、Si:7%、Fe:0.9%、残部Alを含有することを確認した。この後、上記Al系合金めっき層上にEML-PVD方式を用いてZn-Al系めっき層を形成した。このとき、下記表1に示したように、上記Zn-Al系めっき層のめっき付着量及びAl含有量を変更した。
【0034】
上述の方法によって得られためっき鋼板について、下記の方法によって物性評価を行い、その結果を下記表1に示した。
【0035】
Zn-Al系めっき層の硬度は、マイクロ硬度テスター(Micro Hardness Tester)を用いて測定した。測定条件は、荷重5mN、荷重到達時間10秒、最大分析深さはめっき層の10%厚さとし、各実施例ごとに測定後に平均値を求めた。
【0036】
ゴーリング性は連続摩擦係数の測定方式で測定した。荷重5MPa、速度200mm/s、洗浄油塗布後の条件で各40回測定し、摩擦係数0.3未満は良好、0.3以上は不良と判定した。
【0037】
リン酸塩溶液及び処理条件は、自動車会社でGIめっき鋼板のリン酸塩処理に用いられる同様の防錆及び塗装下地用亜鉛系リン酸塩処理液で87~95℃で10~45分間浸漬して処理し、リン酸塩処理性は、既存のGIめっき鋼板のリン酸塩処理後の表面状態と類似した場合を良好、リン酸塩処理が不十分であることを不良と評価した。
【0038】
溶接部の液化脆性の発生有無は、溶接条件SEP1220に従って最大溶接電流-0.2、-0.4kAで各4対の試験片を溶接し、各溶接断面を15倍率で観察して発生/未発生を判定した。
【0039】
【0040】
上記表1から確認できるように、Zn-Al系めっき層が0.5~1.0%のAlを含有し、めっき付着量が3~12g/m2を満たす発明例1~8の場合、Zn-Al系めっき層の硬度が最小65Hv以上確保され、ゴーリング性及びリン酸塩処理性が良好であり、溶接部の液化脆性も発生しなかった。
【0041】
比較例1及び2は、Zn-Al系めっき層のめっき量が1g/m2と小さすぎる場合であって、リン酸塩処理性が不良であることが確認できる。
【0042】
比較例3~6は、Zn-Al系めっき層のAl含有量が1.5%と高すぎる場合であって、めっき層の硬度が高くて良好なゴーリング性を示したが、リン酸塩処理性が不良であることが確認できる。
【0043】
比較例7~10は、Zn-Al系めっき層のAl含有量が0.1%と低すぎる場合であって、めっき層の硬度が55Hv以下と低いレベルであり、リン酸塩処理性も不良であることが確認できる。
【0044】
比較例11及び12は、Zn-Al系めっき層のめっき量が15g/m2と高すぎる場合であって、ゴーリング性及びリン酸塩処理性は良好であったが、溶接部で液化脆化現象が観察された。
【0045】
図3は、比較例1、5と発明例1、2、4に対して、リン酸塩処理を施した後、その表面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真である。
図3から分かるように、本発明の条件に符合する発明例1、2、4の場合には、リン酸塩塗布性(coverage)と結晶粒径などが既存のGI材(参考例)のリン酸塩処理後の様子と類似したレベルであることが確認できるのに対し、比較例1、5の場合には、リン酸塩結晶の成長がほとんど行われず、正常なリン酸塩皮膜が形成されなかったことが確認できる。
【0046】
図4は、発明例1~4、比較例8~10に対して、測定繰り返し回数に応じた摩擦係数を測定した結果を示したものである。
図4から分かるように、発明例1~4の場合には、測定繰り返し回数が40回になっても摩擦係数が低いレベルであるのに対し、比較例8~10の場合には、繰り返し回数の約20回前後で摩擦係数が0.3以上と急激に増加することが分かり、これによって自動車用素材としては不適合であることが予測できる。
【0047】
以上、実施例を参照して説明したが、当該技術分野における熟練した通常の技術者は、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で、本発明の多様な修正及び変更が可能であるということを理解することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 素地鋼板
2 Al系合金めっき層
3 Zn-Al系めっき層