(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】蛍光化合物及びそれを用いたオートファジー検出試薬
(51)【国際特許分類】
C07D 221/14 20060101AFI20230626BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230626BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
C07D221/14 CSP
A61K49/00
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019518905
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2018019418
(87)【国際公開番号】W WO2018212355
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2017100197
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】590005081
【氏名又は名称】株式会社同仁化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】岩下 秀文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 亮
(72)【発明者】
【氏名】江副 公俊
(72)【発明者】
【氏名】尾関 信之
(72)【発明者】
【氏名】石山 宗孝
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05917045(US,A)
【文献】国際公開第00/031039(WO,A1)
【文献】国際公開第01/017356(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105646346(CN,A)
【文献】GAO,Y.Q. et al.,Theoretical Investigation of the Directional Electron Transfer in 4-Aminonaphthalimide Compounds,Journal of Physical Chemistry A,2002年,Vol.106,p.1956-1960,ISSN 1089-5639, Figure 2
【文献】ELBERT,J.E. et al.,A study of 4-(alkylamino)amino substituted 1,8-naphthalimide fluoroionophores,Journal of Photochemistry and Photobiology, A: Chemistry,2005年,Vol.169,p.9-19,ISSN 1010-6030, Fig.1
【文献】BANTHIA,S. et al.,Long and Short Brick Network Architecture: Role of Water Molecules Acting as Three-Connecting Spacer,Crystal Growth & Design,2006年,Vol.6,p.360-362,ISSN 1528-7483, Figure 1
【文献】MISRA,A. et al.,Microwave-assisted synthesis of 1,8-naphthalic anhydride and fluorescent probes based on its derivat,Monatshefte fuer Chemie,2009年,Vol.140,p.1209-1215,ISSN 0026-9247, 5b~5d
【文献】CARVALHO,C.P. et al.,An aminonaphthalimide-putrescine conjugate as fluorescent probe for cucurbituril host-guest complexe,Supramolecular Chemistry,2013年,Vol.25,p.91-99,ISSN 1029-0478, dye 4
【文献】GAO,Y. et al.,A naphthalimide-based [12]aneN3 compound as an effective and real-time fluorescence tracking non-vir,Chemical Communications,2015年,Vol.51,p.16695-16698,ISSN 1359-7345, Scheme 1
【文献】Database REGISTRY,2016年07月07日,RN 1947418-80-5,Retrieved from STN international [online] ;retrieved on 22 June 2018
【文献】QIAO,Q. et al.,A turn-on fluorescent probe for imaging lysosomal hydrogen sulfide in living cells,RSC Advances,2014年,Vol.4,p.25790-25794,ISSN 2046-2069, 全文
【文献】LEE,M.H. et al.,Mitochondria-Immobilized pH-Sensitive Off-On Fluorescent Probe,Journal of the American Chemical Society,2014年,Vol.136,p.14136-14142,ISSN 0002-7863, 全文
【文献】FEILER,L. et al.,Synthesis of perylene-3,4-dicarboximides - novel highly photostable fluorescent dyes,Liebigs Annalen,1995年,No.7,p.1229-1244,ISSN 0947-3440, 全文
【文献】ZHANG,J. et al.,pH-responsive self-assembly of fluorophore-ended homopolymers,Chemical Communications,2014年,Vol.50,p.7511-7513,ISSN 1359-7345, 全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
C12Q
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式4a~4f、6h及び6iのいずれかで表されることを特徴とする蛍光化合物又はその塩。
【化1】
【化2】
【請求項2】
下記の式4b又は6hで表されることを特徴とする請求項
1に記載の蛍光化合物又はその塩。
【化3】
【化4】
【請求項3】
下記の一般式(II)で表される蛍光化合物又はその塩。
【化5】
なお、上記一般式(II)において、
R
11は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R
12は、水素原子又はアルキル基を表し、
R
13は、式-(CH
2)
m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R
14は、式-CH
2-又は-NR
16-で表される原子団を表し(R
16はアルキル基を表す。)、
R
15は、式-(CH
2)
n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
R
Nは、式-NH
2、-NHR
17、-NR
17R
18及び-N
+R
17R
18R
19のいずれかで表される原子団であり(R
17、R
18、R
19は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
R
12がアルキル基であり、かつR
14が式-NR
16-で表される原子団である場合、R
12とR
16は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項4】
下記の式11又は13で表されることを特徴とする請求項
3に記載の蛍光化合物又はその塩。
【化6】
【化7】
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の蛍光化合物及びそれらの塩からなる群より選択される1又は複数を含むオートファジー検出試薬。
【請求項6】
下記の式4a~4fのいずれかで表される蛍光化合物及びそれらの塩からなる群より選択される1又は複数と、下記の式6h及び6iのいずれかで表される蛍光化合物及びそれらの塩からなる群より選択される1又は複数とを含むことを特徴とする請求項
5に記載のオートファジー検出試薬。
【化8】
【化9】
【請求項7】
下記の式4bで表される蛍光化合物又はその塩及び下記の式6hで表される蛍光化合物又はその塩を含むことを特徴とする請求項
6に記載のオートファジー検出試薬。
【化10】
【化11】
【請求項8】
下記の式11で表される蛍光化合物又はその塩及び下記の式13で表される蛍光化合物又はその塩を含むことを特徴とする請求項
5に記載のオートファジー検出試薬。
【化12】
【化13】
【請求項9】
下記の一般式(Ia)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、下記の一般式(IIb)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、或いは
下記の一般式(Ib)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、下記の一般式(IIa)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数とを含むことを特徴とする請求項
5に記載のオートファジー検出試薬。
【化14】
【化15】
なお、上記一般式(Ia)及び(Ib)において、
R
1は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R
2は、水素原子又はアルキル基を表し、
R
3は、式-(CH
2)
m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R
5は、式-(CH
2)
n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
R
Nは、式-NH
2、-NHR
7、-NR
7R
8及び-N
+R
7R
8R
9のいずれかで表される原子団であり(R
7、R
8、R
9は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
上記一般式(Ia)において、R
6はアルキル基を表し、R
2とR
6は、互いに結合して環を形成していてもよく、
上記一般式(IIa)及び(IIb)において、
R
11は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R
12は、水素原子又はアルキル基を表し、
R
13は、式-(CH
2)
m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R
15は、式-(CH
2)
n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
R
Nは、式-NH
2、-NHR
17、-NR
17R
18及び-N
+R
17R
18R
19のいずれかで表される原子団であり(R
17、R
18、R
19は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
上記一般式(IIa)において、R
16はアルキル基を表し、R
12とR
16は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項10】
下記の式6hで表される蛍光化合物又はその塩及び下記の式11で表される蛍光化合物又はその塩、或いは
下記の式4bで表される蛍光化合物又はその塩及び下記の式13で表される蛍光化合物又はその塩を含むことを特徴とする請求項
9に記載のオートファジー検出試薬。
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な蛍光化合物及びそれを用いたオートファジー検出試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母からヒトに至る真核生物には、細胞内の不要なタンパク質、細胞小器官等の細胞内成分を再利用又は代謝するための分解過程が普遍的に存在し、オートファジー(autophagy)と呼ばれている。オートファジーは、栄養飢餓状態時に自己を非選択的に分解し、栄養分を確保し、飢餓状態を生き抜くための生存機構であると考えられていたが、その後の研究により、変成タンパク質の除去、細胞内で過剰に産生されたタンパク質の蓄積の防止、劣化した細胞内小器官や病原性微生物の排除等を通して、恒常性の維持、個体発生過程のプログラム細胞死、ハンチントン病等の疾患の抑制や、細胞のガン化の抑制等にも関与していることが解明された。
【0003】
オートファジーには、マクロオートファジー、ミクロオートファジー、シャペロン介在型オートファジー等のメカニズムの異なる複数の過程が存在することが知られている。初期の電子顕微鏡を用いた研究により、マクロオートファジーにおいて、二重膜で構成される隔離膜が次第に伸長し、不要物等の分解基質を覆い、オートファゴソームを形成し、次いで、オートファゴソームとリソソームが融合したオートリソソームの段階で消化酵素により、オートファゴソームの内容物が分解を受けることが確認された。いずれの過程も、分解基質が最終的にリソソームに移行し、そこで分解を受ける点において共通している。
【0004】
近年、オートファジーの分子機構についても解明が進みつつあり、オートファジーに関連する遺伝子等が同定されている。オートファジーの検出法として、細胞を溶解し、得られたmRNAからオートファジー関連因子の発現量を、ウェスタン・ブロット法や免疫染色法で確認する方法が存在するが(例えば、特許文献1参照)、この方法では、細胞を破砕するため、ライブセルイメージングには適用できない。
【0005】
生細胞内におけるオートファジーをモニタリングする方法として、オートファゴソームの形成に関与する遺伝子産物(Atgタンパク質)の一種であるLC3にGFPを組み込んだLC3-GFPをコードするプラスミドベクターを細胞内に導入し、LC3の発現をGFPの発光によりモニターする方法がある(例えば、非特許文献1参照)。GFPは、酸性条件下において蛍光強度が低下するため、オートファジーの初期段階の検出には優れている。ただし、この方法では、この方法では、細胞内にLC3-GFPを発現させる必要があるため、あらゆる細胞に適用できるわけではない。
【0006】
ライブセルイメージングの代表的な方法としては、細胞内にKeimaと呼ばれるpH応答蛍光タンパク質を発現させ、Keimaに由来する蛍光強度をモニタリングする方法がある(例えば、非特許文献2参照)。Keimaは、励起スペクトルがpHにより変化する。中性環境下では短波長側(440nm)が優勢であるが、酸性環境下では長波長側(550nm)が優勢になる。この2つの励起波長による画像データから得られるRatio(550nm/440nm)画像で観察すると、中性環境下にあるKeimaでは、Ratio値は低くなり、酸性環境下にあるKeimaでは、Ratio値は高くなる。この現象を利用して、オートファジーに伴う分解基質のpH変化を蛍光画像から読み出することにより、オートファジーの各段階(オートファゴソームの形成、リソソームとの融合等)を検出することができる。ただし、この方法では、細胞内にKeimaを発現させる必要があるため、あらゆる細胞に適用できるわけではない。
【0007】
一方、低分子蛍光色素を用いたオートファジーの検出事例として、モノダンシルカダベリン(MDC)を用いる方法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、MDCの励起波長は紫外領域であるため、細胞毒性及びブリーチング等の問題点がある。近年、Enzo社により、MDCの問題点を克服した新規な色素としてCYTO-ID(商標名)が開発された(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-99305号公報(段落0016)
【非特許文献】
【0009】
【文献】Kuma A et al. The role of autophagy during the early neonatal starvation period. Nature Vol. 432, 1032-1036 (2004).
【文献】T. Kogure, et al. A fluorescent variant of a protein from the stony coral Montipora facilitates dual-color single-laser fluorescence cross-correlation spectroscopy; Nature Biotechnology. vol. 24, 577-581 (2006).
【文献】"Autophagy Preceded Apoptosis in Oridonin-Treated Human Breast Cancer MCF-7 Cells", Qiao CUI et al. Biol. Pharm. Bull., vol. 30, No. 5, p.859-864 (2007).
【文献】http://www.enzolifesciences.com/ENZ-51031/cyto-id-autophagy-detection-kit/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献4に記載の色素は、pH応答性がないため、オートファジーのどの段階を検出しているか不明瞭である。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、遺伝子組換え等の煩雑な操作が不要で、あらゆる細胞においてオートファジーの検出が可能な蛍光化合物及びそれを用いたオートファジー検出試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の式4a~4f、6h及び6iのいずれかで表される蛍光化合物又はその塩を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0016】
【0017】
【0018】
本発明の第1の態様に係る蛍光化合物は、下記の式4b又は6hで表されるもの又はその塩であることが好ましい。
【0019】
【0020】
【0021】
本発明の第2の態様は、下記の一般式(II)で表される蛍光化合物又はその塩を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0022】
【0023】
なお、上記一般式(II)において、
R11は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R12は、水素原子又はアルキル基を表し、
R13は、式-(CH2)m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R14は、式-CH2-又は-NR16-で表される原子団を表し(R16はアルキル基を表す。)、
R15は、式-(CH2)n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
RNは、式-NH2、-NHR17、-NR17R18及び-N+R17R18R19のいずれかで表される原子団であり(R17、R18、R19は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
R12がアルキル基であり、かつR14が式-NR16-で表される原子団である場合、R12とR16は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0024】
本発明の第2の態様に係る蛍光化合物は、下記の式11又は13で表されるもの又はその塩であることが好ましい。
【0025】
【0026】
【0027】
本発明の第3の態様は、本発明の第1又は第2の態様に係る蛍光化合物及びそれらの塩からなる群より選択される1又は複数を含むオートファジー検出試薬を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0028】
本発明の第3の態様に係るオートファジー検出試薬において、上記の式4a~4fのいずれかで表される蛍光化合物及びそれらの塩からなる群より選択される1又は複数と、上記の式6h及び6iのいずれかで表される蛍光化合物及びそれらの塩からなる群より選択される1又は複数を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の第3の態様に係るオートファジー検出試薬において、上記の式4bで表される蛍光化合物又はその塩及び上記の式6hで表される蛍光化合物又はその塩を含んでいることが好ましい。
【0030】
本発明の第3の態様に係るオートファジー検出試薬において、上記の式11で表される蛍光化合物又はその塩及び上記の式13で表される蛍光化合物又はその塩を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の第3の態様に係るオートファジー検出試薬において、下記の一般式(Ia)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、下記の一般式(IIb)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、或いは下記の一般式(Ib)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、下記の一般式(IIa)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数とを含むことが好ましい。
【0032】
【0033】
【0034】
なお、上記一般式(Ia)及び(Ib)において、
R1は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R2は、水素原子又はアルキル基を表し、
R3は、式-(CH2)m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R5は、式-(CH2)n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
RNは、式-NH2、-NHR7、-NR7R8及び-N+R7R8R9のいずれかで表される原子団であり(R7、R8、R9は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
上記一般式(Ia)において、R6はアルキル基を表し、R2とR6は、互いに結合して環を形成していてもよく、
上記一般式(IIa)及び(IIb)において、
R11は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R12は、水素原子又はアルキル基を表し、
R13は、式-(CH2)m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R15は、式-(CH2)n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
RNは、式-NH2、-NHR17、-NR17R18及び-N+R17R18R19のいずれかで表される原子団であり(R17、R18、R19は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
上記一般式(IIa)において、R16はアルキル基を表し、R12とR16は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0035】
本発明の第3の態様に係るオートファジー検出試薬において、上記の式6hで表される蛍光化合物又はその塩及び上記の式11で表される蛍光化合物又はその塩、或いは上記の式4bで表される蛍光化合物又はその塩及び上記の式13で表される蛍光化合物又はその塩を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
上記一般式で表される蛍光化合物は、疎水場で蛍光発光するナフタルイミド及びペリレンイミドを蛍光発色団として用いている。そのため、オートファゴソームやオートリソソームに取り込まれることにより蛍光強度が増大するため、オートファジーを蛍光発光により読み出すことができる。また、官能基R1~R5を適宜選択することにより、疎水性の制御や、光誘起電子移動(PET)を利用した蛍光強度又は蛍光波長のpH応答性の付与等を容易に行うことができる。更に、オートファジーの各段階におけるオートファゴソーム及びオートリソソームの内部環境(pH等)の変化に対する感受性の異なる複数の蛍光化合物を組み合わせることにより、オートファジーの各段階を観測することが可能になる。特に、オートファゴソーム及びオートリソソームの内部環境の変化に対する感受性に加え、発光波長の異なる一般式(Ia)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、一般式(IIb)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数、或いは一般式(Ib)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、一般式(IIa)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数とを組み合わせて用いる場合、オートファジーの各段階を段階的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】蛍光化合物4a、4b、4e及び4fの蛍光強度のpH依存性を示すグラフである。
【
図2】Hela細胞に化合物4bを導入し、6時間及び20時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡写真である。
【
図3】Hela細胞に化合物4bを導入し、飢餓培養条件下で6時間及び20時間インキュベートした後のフローサイトメトリーの測定結果を示すグラフである。
【
図4】クロロキン存在下で、ラパマイシン又は飢餓誘導によるオートファジーを行ったHela細胞における蛍光強度の変化を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図5】クロロキン存在下で、ラパマイシン又は飢餓誘導によるオートファジーを行ったHela細胞における、LC3の発現量の定量結果を示す写真である。
【
図6】蛍光化合物4b及び6hの蛍光強度のpH依存性を示すグラフである。
【
図7】Hela細胞に導入した化合物4b及び化合物6hの蛍光強度の比較結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図8】Hela細胞に導入した化合物4b及び化合物6hの蛍光強度の比較結果を示す高倍率蛍光顕微鏡写真である。
【
図9】蛍光化合物11の蛍光強度のpH依存性を示すグラフである。
【
図10】Hela細胞に化合物11を導入し、5時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡写真である。
【
図11】Hela細胞に化合物6h及び化合物11を導入し、3時間及び6時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡写真である。
【
図12】Hela細胞に化合物4b及び化合物13を導入し、3時間及び6時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の第一の実施の形態に係る蛍光化合物は、下記の一般式(I)で表される。
【0039】
【0040】
なお、上記一般式(I)において、R1は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表す。アルキル基又はω-アミノアルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基又はω-アミノアルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0041】
上記一般式(I)において、R2は、水素原子又はアルキル基を表す。アルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0042】
上記一般式(I)において、R3は、式-(CH2)m-で表される原子団を表す。mは10以下の自然数であり、2以上6以下であることが好ましい。
【0043】
上記一般式(I)において、R4は、式-CH2-又は-NR6-で表される原子団を表す。R6はアルキル基を表す。アルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0044】
上記一般式(I)において、R5は、式-(CH2)n-で表される原子団を表す。nは10以下の自然数であり、2以上6以下であることが好ましい。
【0045】
上記一般式(I)において、RNは、式-NH2、-NHR7、-NR7R8及び-N+R7R8R9のいずれかで表される原子団である。R7、R8、R9は、それぞれ独立してアルキル基を表す。アルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0046】
RNが、式-NH2、-NHR7又は-NR7R8で表される原子団である場合、RNは、窒素原子がプロトン化を受けた塩を形成していてもよい。塩の種類は、蛍光強度に影響を与えない限り特に限定されないが、塩の具体例としては、塩酸塩、臭化水素塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。RNが、式-N+R7R8R9で表される原子団である場合も、RNは、上述のものと同様の塩を形成していてもよい。
【0047】
なお、上記一般式(I)において、R2がアルキル基であり、かつR4が式-NR6-で表される原子団である場合、R2とR6は、互いに結合して、ピペラジン環等の含窒素環を形成していてもよい。
【0048】
上記一般式(I)で表される蛍光化合物の好ましい例としては、下記の式4a~4f、6h及び6iのいずれかで表されるもの並びにそれらの塩が挙げられる。
【0049】
【0050】
【0051】
これらの化合物は、疎水場で蛍光発光するナフタルイミド基を蛍光発色団として有しており、オートファゴソームの内部に取り込まれることによって初めて蛍光発光するよう分子設計されている。また、式4a~4f及び6iで表される蛍光化合物は、窒素原子上の非共有電子対からの光誘起電子移動(PET)により蛍光が消光されるが、酸性条件下で窒素原子がプロトン化を受けると、蛍光の発光強度が増大する。そのため、これらの蛍光化合物は、オートファジーにおけるリソソームとの融合以降の段階の読み出しに好適に用いることができる。一方、側鎖内に窒素原子を有しない、式6hで表される蛍光化合物は、蛍光強度がpHの影響を受けないため、オートファジーの前段階の読み出しに好適に用いることができる。更に、両者の化合物を適宜組み合わせることにより、オートファジーの全段階を蛍光強度の変化で読み出すことができる。
【0052】
一般式(I)で表される蛍光化合物は、任意の公知の方法を用いて合成することができるが、例えば、式4a~4f、6h及び6iで表される化合物(の塩酸塩)は、下記のスキームにしたがって合成することができる。
【0053】
【0054】
【0055】
本発明の第一の実施の形態に係る蛍光化合物は、下記の一般式(II)で表される。
【0056】
【0057】
なお、上記一般式(II)において、R11は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表す。アルキル基又はω-アミノアルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基又はω-アミノアルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0058】
上記一般式(II)において、R12は、水素原子又はアルキル基を表す。アルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0059】
上記一般式(II)において、R13は、式-(CH2)m-で表される原子団を表す。mは10以下の自然数であり、2以上6以下であることが好ましい。
【0060】
上記一般式(II)において、R14は、式-CH2-又は-NR16-で表される原子団を表す。R16はアルキル基を表す。アルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0061】
上記一般式(II)において、R15は、式-(CH2)n-で表される原子団を表す。nは10以下の自然数であり、2以上6以下であることが好ましい。
【0062】
上記一般式(II)において、RNは、式-NH2、-NHR17、-NR17R18及び-N+R17R18R19のいずれかで表される原子団である。R17、R18、R19は、それぞれ独立してアルキル基を表す。アルキル基は、分岐又は置換基を有していてもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数は特に制限されないが、1以上18以下であることが好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、1以上10以下であることが更に好ましい。
【0063】
RNが、式-NH2、-NHR17又は-NR17R18で表される原子団である場合、RNは、窒素原子がプロトン化を受けた塩を形成していてもよい。塩の種類は、蛍光強度に影響を与えない限り特に限定されないが、塩の具体例としては、塩酸塩、臭化水素塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。RNが、式-N+R17R18R19で表される原子団である場合も、RNは、上述のものと同様の塩を形成していてもよい。
【0064】
なお、上記一般式(II)において、R12がアルキル基であり、かつR14が式-NR16-で表される原子団である場合、R12とR16は、互いに結合して、ピペラジン環等の含窒素環を形成していてもよい。
【0065】
上記一般式(II)で表される蛍光化合物の好ましい例としては、下記の式11及び13で表されるもの並びにそれらの塩が挙げられる。
【0066】
【0067】
【0068】
これらの化合物は、疎水場で蛍光発光するペリレンイミド基を蛍光発色団として有しており、オートファゴソームの内部に取り込まれることによって初めて蛍光発光するよう分子設計されている。また、式11で表される蛍光化合物は、窒素原子上の非共有電子対からの光誘起電子移動(PET)により蛍光が消光されるが、酸性条件下で窒素原子がプロトン化を受けると、蛍光の発光強度が増大する。そのため、これらの蛍光化合物は、オートファジーにおけるリソソームとの融合以降の段階の読み出しに好適に用いることができる。
【0069】
一般式(II)で表される蛍光化合物は、任意の公知の方法を用いて合成することができるが、例えば、式11で表される化合物(の塩酸塩)は、下記のスキームにしたがって合成することができる。
【0070】
【0071】
また、式13で表される化合物(の塩酸塩)は、下記のスキームにしたがって合成することができる。
【0072】
【0073】
上記の一般式(I)及び(II)で表される蛍光化合物(以下、「同化合物」と略称する場合がある。)は、細胞膜、オートファゴソーム及びリソソーム(オートリソソーム)に対する透過性を有しているため、同化合物の細胞への導入は、特別な方法を用いることなく、単に同化合物を細胞に接触させることにより行うことができる。このようにして、同化合物を導入した細胞を所定時間インキュベートし、蛍光顕微鏡等の任意の公知の手段を用いて、細胞からの蛍光発光を測定することにより、細胞内におけるオートファジーを検出することができる。本発明のある実施形態は、上記の一般式で表される蛍光化合物を細胞内に投与する工程と、所定時間インキュベート後、細胞からの蛍光発光を測定する工程とを含む細胞内におけるオートファジーを検知する方法に関する。
【0074】
下記の一般式(Ia)及び(IIa)で表される蛍光化合物は、窒素原子上の非共有電子対からの光誘起電子移動(PET)により蛍光が消光されるが、酸性条件下で窒素原子がプロトン化を受けると、蛍光の発光強度が増大する。そのため、これらの蛍光化合物は、オートファジーにおけるリソソームとの融合以降の段階の読み出しに好適に用いることができる。一方、側鎖内に窒素原子を有しない、一般式(Ib)又は(IIb)で表される蛍光化合物は、蛍光強度がpHの影響を受けないため、オートファジーの前段階の読み出しに好適に用いることができる。したがって、下記の一般式(Ia)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、下記の一般式(IIb)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数、或いは下記の一般式(Ib)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数と、下記の一般式(IIa)で表される蛍光化合物及びその塩からなる群より選択される1又は複数を組み合わせることにより、オートファジーの全段階を蛍光波長及び蛍光強度の変化で読み出すことができる。
【0075】
【0076】
【0077】
なお、上記一般式(Ia)及び(Ib)において、
R1は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R2は、水素原子又はアルキル基を表し、
R3は、式-(CH2)m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R5は、式-(CH2)n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
RNは、式-NH2、-NHR7、-NR7R8及び-N+R7R8R9のいずれかで表される原子団であり(R7、R8、R9は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
上記一般式(Ia)においてR2とR6は、互いに結合して環を形成していてもよく、
上記一般式(IIa)及び(IIb)において、
R11は、アルキル基又はω-アミノアルキル基を表し、
R12は、水素原子又はアルキル基を表し、
R13は、式-(CH2)m-で表される原子団を表し(mは10以下の自然数)、
R15は、式-(CH2)n-で表される原子団を表し(nは10以下の自然数)、
RNは、式-NH2、-NHR17、-NR17R18及び-N+R17R18R19のいずれかで表される原子団であり(R17、R18、R19は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)、
上記一般式(IIa)においてR12とR16は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0078】
上記の組み合わせの好ましい例としては、上記の式6hで表される蛍光化合物又はその塩及び上記の式11で表される蛍光化合物又はその塩、或いは上記の式4bで表される蛍光化合物又はその塩及び上記の式13で表される蛍光化合物又はその塩の組み合わせが挙げられる。
【0079】
同化合物の細胞への導入の際には、同化合物を適当な溶媒又は緩衝液に、所定の濃度で溶解又は分散させた状態で行うことができる。本発明のある実施形態は、溶媒又は緩衝液に所定の濃度で同化合物を溶解又は分散させたオートファジー検出試薬に関する。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。なお、以下の実施例において、「式Xで表される化合物」を「化合物X」と呼称する場合がある。
【0081】
実施例1:蛍光化合物の合成(1)
【0082】
6-ブロモ-2-プロピル-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(1a)の合成
200mLのナスフラスコに4-ブロモ-1,8-無水ナフタル酸(1g、3.6mmol)、プロピルアミン(298mg、1.4当量、5.04mmol)、DMAP(528mg、1.2当量、4.3mmol)、50mLのEtOHを加え80℃で16時間還流した。室温に戻した後、析出した結晶をろ過し黄色結晶を930mg得た(収率:84%)。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.65 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.55 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.40 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.03 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.84 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 4.13 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 1.79-1.71 (m, 2H), 1.01 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 163.5, 133.1, 131.9, 131.1, 131.0, 130.5, 130.1, 128.9, 128.0, 123.1, 122.2, 42.0, 21.3, 11.5.
【0083】
6-ブロモ-2-ペンチル-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(1b)の合成
化合物1aと同様に、4-ブロモ-1,8-無水ナフタル酸(1g、3.6mmol)、アミルアミン(436mg、1.4当量、5.04mmol)、DMAP(528mg、1.2当量、4.3mmol)、50mLのEtOHを用いて合成し、黄色結晶を1.2g得た(収率:80%)。
【0084】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.65 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.56 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.40 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.03 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.84 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 4.16 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 1.75-1.69 (m, 2H), 1.42-1.38 (m, 4H), 0.91 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 163.5, 133.1, 131.9, 131.1, 131.0, 130.5, 130.1, 128.9, 128.0, 123.1, 122.3, 40.6, 29.2, 27.7, 22.4, 14.0.
【0085】
6-ブロモ-2-ヘプチル-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(1c)の合成
化合物1aと同様に、4-ブロモ-1,8-無水ナフタル酸(2.0g、7.2mmol)、ヘプチルアミン(1.1g、1.4当量、10.1mmol)、DMAP(1.0g、1.2当量、8.6mmol)、100mLのEtOHを用いて合成し、黄色結晶を1.5g得た(収率:55.6%)。
【0086】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.65 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.56 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.03 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.84 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 4.16 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 1.76-1.68 (m, 2H), 1.43-1.30 (m, 8H), 0.89 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 163.5, 133.1, 131.9, 131.1, 131.0, 130.5, 130.1, 128.9, 128.0, 123.1, 122.2, 40.6, 31.7, 29.0, 28.0, 27.0, 22.6, 14.0.
【0087】
6-ブロモ-2-デシル-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(1d)の合成
化合物1aと同様に、4-ブロモ-1,8-無水ナフタル酸(2.0g、7.2mmol)、1-アミノデカン(1.6g、1.4当量、10.1mmol)、DMAP(1.0g、1.2当量、8.6mmol)、100mLのEtOHを用いて合成し、黄色結晶を1.5g得た(収率:50%)。
【0088】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.65 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.56 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.04 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.84 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 4.16 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 1.76-1.68 (m, 2H), 1.45-1.25 (m, 17H), 0.88 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 163.5, 133.1, 131.9, 131.1, 131.0, 130.5, 130.1, 128.9, 128.0, 123.1, 122.2, 40.6, 31.9, 29.5, 29.3, 28.0, 27.1 22.6, 14.1.
【0089】
tert-ブチル(2-(6-ブロモ-1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-2(3H)-イル)エチル)カルバメート(1e)の合成
化合物1aと同様に、4-ブロモ-1,8-無水ナフタル酸(1.0g、3.6mmol)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,2-ジアミノエタン(807mg、1.4当量、5.04mmol)、DMAP(528mg、1.2当量、4.3mmol)、50mLのEtOHを用いて(1a)と同様に合成し、黄色結晶を1.3g得た(収率:86%)。
【0090】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.66 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.57 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.04 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.84 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 4.93 (s, 1H), 4.35 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.54-3.53 (m, 2H), 1.27 (s, 9H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 163.9, 156.0, 133.3, 132.2, 131.3, 131.0, 130.5, 130.3, 129.0, 128.0, 122.8, 122.0, 79.1, 40.0, 39.5, 28.2.
【0091】
tert-ブチル(4-(6-ブロモ-1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-2(3H)-イル)ブチル)カルバメート(1f)の合成
化合物1aと同様に、4-ブロモ-1,8-無水ナフタル酸(1.0g、3.6mmol)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-ジアミノブタン(948mg、1.4当量、5.04mmol)、DMAP(528mg、1.2当量、4.3mmol)、50mLのEtOHを用いて(1a)と同様に合成し、を用いて(1a)と同様に合成し、黄色結晶を900mg得た(収率:56%)。
【0092】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.65 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.57 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.04 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.85 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 4.62 (s, 1H), 4.18 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.20-3.18 (m, 2H), 1.79-1.75 (m, 2H), 1.62-1.57 (m, 2H), 1.42 (s, 9H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 163.5, 155.9, 133.2, 132.0, 131.2, 131.0, 130.5, 130.2, 128.9, 128.0, 123.0, 122.1, 79.0, 40.2, 40.0, 28.4, 27.5, 25.4.
【0093】
6-(ピペラジン-1-イル)-2-プロピル-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(2a)の合成
200mLのナスフラスコに、化合物1a(500mg、1.5mmol)、ピペラジン(1.3g、10当量、15mmol)、50mLの2-メトキシエタノールを加え120℃で16時間還流した。反応の進行を確認後、反応溶液をエバポレーターで留去した。精製はシリカゲルカラムを使用し、100%クロロホルムからクロロホルム/メタノール=7/3のグラジェントにて行った。黄色結晶を400mg得た(収率:82%)。
【0094】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.58 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.52 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.42 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.69 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 4.13 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.22 (d, 8H, J = 7.8 Hz), 1.78-1.73 (m, 2H), 1.01 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.5, 164.0, 156.3, 132.5, 131.0, 130.2, 129.9, 126.2, 125.6, 123.3, 116.7, 114.9, 54.4, 46.2, 41.7, 21.4, 11.5.
【0095】
2-ペンチル-6-(ピペラジン-1-イル)-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(2b)の合成
化合物2aと同様に、化合物1b(1g、2.8mmol)、ピペラジン(2.6g、10当量、31mmol)、100mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、黄色結晶を800mg得た(収率:79%)。
【0096】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.56 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.69 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.15 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.24-3.21 (m, 2H), 1.91 (s, 2H), 1.72 (m, 2H), 1.39 (s, 4H), 0.91 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.4, 163.9, 156.3, 132.5, 131.0, 130.2, 129.8, 126.1, 125.5, 123.2, 116.7, 114.8, 54.4, 46.2, 40.2, 29.2, 27.8, 22.4, 14.0.
【0097】
2-ヘプチル-6-(ピペラジン-1-イル)-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(2c)の合成
化合物2aと同様に、化合物1c(1g、2.6mmol)、ピペラジン(2.3g、10当量、26mmol)、100mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、黄色結晶を800mg得た(収率:79%)。
【0098】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.57 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.69 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.15 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.25-3.20 (m, 8H), 1.75-1.68 (m, 2H), 1.43-1.28 (m, 8H), 0.89 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.3, 163.8, 156.2, 132.4, 130.9, 130.1, 129.7, 126.3, 126.0, 125.5, 123.2, 116.6, 114.8, 54.3, 46.2, 40.2, 31.7, 31.5, 29.0, 28.8, 28.1, 27.2, 27.1, 22.7, 22.5, 22.4, 14.0.
【0099】
2-デシル-6-(ピペラジン-1-イル)-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(2d)の合成
化合物2aと同様に、化合物1d(1g、2.4mmol)、ピペラジン(2.0g、10当量、24mmol)、100mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、黄色結晶を800mg得た(収率:79%)。
【0100】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.57 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.69 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.22 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.15 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.25-3.20 (m, 8H), 1.75-1.67 (m, 2H), 1.44-1.25 (m, 14H), 0.88 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.3, 163.9, 156.2, 132.4, 130.9, 130.1, 129.8, 126.1, 125.8, 125.5, 123.2, 116.7, 114.8, 54.3, 46.2, 40.3, 31.8, 31.6, 29.5, 29.3, 29.2, 28.1, 27.1, 22.6, 22.4, 14.1.
【0101】
tert-ブチル(2-(1,3-ジオキソ-6-(ピペラジン-1-イル)-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-2(3H)-イル)エチル)カルバメート(2e)の合成
化合物2aと同様に、化合物1e(500mg、1.2mmol)ピペラジン(1.0g、10当量、12mmol)、50mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、黄色結晶を420mg得た(収率:82%)。
【0102】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.57 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.40 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.20 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 5.08 (s, 1H), 4.34 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.52-3.51 (m, 2H), 3.23-3.21 (m, 8H), 1.30 (s, 9H); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.8, 164.3, 156.5, 156.0, 132.8, 131.3, 130.4, 129.9, 126.1, 125.6, 123.0, 116.3, 114.9, 79.0, 54.3, 46.2, 39.9, 39.6, 28.2.
【0103】
tert-ブチル(2-(1,3-ジオキソ-6-(ピペラジン-1-イル)-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-2(3H)-イル)ブチル)カルバメート(2f)の合成
化合物2aと同様に、化合物1f(500mg、1.1mmol)ピペラジン(962mg、10当量、11mmol)、50mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、黄色結晶を330mg得た(収率:66%)。
【0104】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.57 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.50 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.41 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.69 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.67 (s, 1H), 4.18 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.25-3.18 (m, 10H), 1.78-1.74 (m, 2H), 1.62-1.58 (m, 2H), 1.42 (s, 9H); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.5, 164.0, 156.4, 155.9, 132.6, 131.1, 130.3, 129.9, 126.1, 125.6, 123.2, 116.6, 114.9, 79.0, 54.4, 46.2, 40.2, 39.7, 28.4, 27.5, 25.4.
【0105】
tert-ブチル(2-(4-(1,3-ジオキソ-2-プロピル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エチル)カルバメート(3a)の合成
100mLのナスフラスコに、化合物2a(500mg、1.5mmol)、2-(boc-アミノ)臭化エチル(827mg、2.5当量、3.7mmol)、K2CO3(510mg、2.5当量、3.7mmol)50mLのアセトニトリルを加え100℃で16時間還流した。反応溶液を室温に戻しろ過後、反応溶液をエバポレーターで留去した。精製はシリカゲルカラムを使用し、100%クロロホルムからクロロホルム/メタノール=9/1のグラジェントにて行った。黄色結晶を380mg得た(収率:54%)。
【0106】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.58 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.39 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 5.01 (s, 1H), 4.13 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.29 (m, 6H), 2.79 (s, 4H), 2.62 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 1.78-1.73 (m, 2H), 1.47 (s, 9H), 1.00 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.4, 163.9, 155.9, 155.8, 132.4, 131.0, 130.1, 129.8, 126.1, 125.6, 123.2, 116.7, 114.8, 79.2, 61.9, 57.2, 52.9, 42.3, 41.7, 37.1, 28.4, 23.2, 21.4, 11.5.
【0107】
tert-ブチル(2-(4-(1,3-ジオキソ-2-ペンチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エチル)カルバメート(3b)の合成
化合物3aと同様に、化合物2b(150mg、0.42mmol)、2-(boc-アミノ)臭化エチル(287mg、3.0当量、1.26mmol)、K2CO3(177mg、3.0当量、1.26mmol)15mLのアセトニトリルを用いて合成し、黄色結晶を100mg得た(収率:48%)。
【0108】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.58 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.39 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.99 (s, 1H), 4.15 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.29 (s, 6H), 2.78 (s, 4H), 2.62 (m, 2H), 1.72 (m, 2H), 1.47 (s, 9H), 1.39 (s, 2H), 1.39 (s, 4H), 0.91 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.4, 164.0, 155.9, 155.8, 132.5, 131.0, 130.1, 129.8, 126.1, 125.6, 123.3, 116.8, 114.9, 79.3, 57.2, 53.0, 45.7, 40.3, 37.1, 29.7, 29.2, 28.4, 27.8, 22.4, 14.0.
【0109】
tert-ブチル(2-(4-(2-ヘプチル-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エチル)カルバメート(3c)の合成
化合物3aと同様に、化合物2c(300mg、0.79mmol)、2-(boc-アミノ)臭化エチル(531mg、3.0当量、2.4mmol)、K2CO3(327mg、3.0当量、2.4mmol)30mLのアセトニトリルを用いて合成し、黄色結晶を220mg得た(収率:53%)。
【0110】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.56 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.39 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.99 (s, 1H), 4.15 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.29 (s, 6H), 2.78 (s, 4H), 2.62 (t, 2H, J = 7.8 Hz), 1.75-1.68 (m, 2H), 1.47 (s, 9H), 1.43-1.28 (m, 8H), 0.87 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.4, 164.0, 155.9, 155.8, 132.4, 131.0, 130.1, 129.8, 126.1, 125.6, 123.3, 116.8, 114.9, 79.3, 57.2, 53.0, 40.3, 31.7, 29.6, 29.0, 28.4, 28.1, 27.9, 27.1, 23.2, 22.6, 14.0.
【0111】
tert-ブチル(2-(4-(2-デシル-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エチル)カルバメート(3d)の合成
化合物3aと同様に、化合物2d(300mg、0.71mmol)、2-(boc-アミノ)臭化エチル(478mg、3.0当量、2.1mmol)、K2CO3(294mg、3.0当量、2.1mmol)30mLのアセトニトリルを用いて合成し、黄色結晶を200mg得た(収率:50%)。
【0112】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.58 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.39 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.99 (s, 1H), 4.15 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.29 (s, 6H), 2.78 (s, 4H), 2.62 (t, 2H, J = 7.8 Hz), 1.75-1.67 (m, 2H), 1.47 (s, 9H), 1.44-1.25 (m, 14H), 0.88 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.4, 163.9, 155.9, 155.8, 132.4, 131.0 130.1, 129.8, 126.1, 125.6, 123.3, 116.8, 114.8, 79.2, 61.2, 57.2, 53.0, 40.3, 37.1, 31.8, 29.5, 29.4, 29.3, 28.7, 28.4, 28.1, 27.9, 27.1, 22.6, 14.1.
【0113】
tert-ブチル(2-(6-(4-(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エチル)ピペラジン-1-イル)-1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-2(3H)-イル)エチル)カルバメート(3e)の合成
化合物3aと同様に、化合物2e(300mg、0.71mmol)、2-(boc-アミノ)臭化エチル(475mg、3.0当量、2.1mmol)、K2CO3(290mg、3.0当量、2.1mmol)30mLのアセトニトリルを用いて合成し、黄色結晶を220mg得た(収率:54%)。
【0114】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.58 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.52 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.40 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 5.01 (s, 2H), 4.33 (bs, 2H), 3.52-3.51 (m, 2H), 3.29 (s, 6H), 2.79 (s, 4H), 2.62 (bs, 2H), 1.47 (s, 9H), 1.30 (s, 9H); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.8, 164.3, 156.0, 155.9, 132.8, 131.3, 130.4, 130.0, 126.1, 125.6, 123.0, 116.5, 114.9, 79.3, 79.0, 57.2, 53.0, 52.9, 39.9, 39.6, 37.1, 28.4, 28.2.
【0115】
tert-ブチル(2-(6-(4-(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エチル)ピペラジン-1-イル)-1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-2(3H)-イル)ブチル)カルバメート(3f)の合成
化合物3aと同様に、化合物2f(150mg、0.33mmol)、2-(boc-アミノ)臭化エチル(300mg、4.0当量、1.32mmol)、K2CO3(69mg、1.5当量、0.5mmol)15mLのアセトニトリルを用いて合成し、黄色結晶を160mg得た(収率:81%)。
【0116】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.57(d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.51 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 8.40 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 7.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 4.98 (s, 1H), 4.62 (s, 1H), 4.18 (t, 2H, J = 7.8 Hz), 3.29 (s, 6H), 3.19-3.18 (m, 2H), 2.79 (s, 4H), 2.62 (t, 2H, J = 7.8 Hz), 1.78-1.74 (m, 2H), 1.62-1.58 (m, 2H), 1.47 (s, 9H), 1.42 (s, 9H); 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.5, 164.0, 155.9, 132.6, 131.1, 130.3, 129.8, 126.1, 125.6, 123.2, 116.7, 114.9, 79.3, 79.0, 57.2, 53.0, 40.2, 39.7, 37.1, 28.4, 27.5, 25.4.
【0117】
2-(4-(1,3-ジオキソ-2-プロピル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン塩酸塩(4a)の合成
50mLのナスフラスコに3a(150mg、0.32mmol)、5mLのTHFを加え溶解した。これに5mLの4N HCl/ジオキサンを加え室温で2時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、THF、CHCl3でろ洗し黄色結晶を100mg得た(収率:77%)。
【0118】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.61-8.54 (m, 3H), 7.86 (t, 1H, J = 8.3 Hz), 7.50 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 4.12 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 3.71-3.56 (m, 12H), 1.80-1.71 (m, 2H), 1.01 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CD3OD): δ 164.2, 163.7, 153.7, 131.9, 130.9, 129.8, 129.3, 126.3, 126.0, 122.9, 117.8, 115.8, 53.2, 52.5, 49.6, 41.3, 33.7, 20.9, 10.3.
【0119】
2-(4-(1,3-ジオキソ-2-ペンチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン塩酸塩(4b)の合成
化合物4aと同様に、化合物3b(130mg、0.26mmol)、5mLのTHF、5mLの4N HCl/ジオキサンを用いて合成し、黄色結晶を90mg得た(収率:80%)。
【0120】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.62-8.54 (m, 3H), 7.87 (t, 1H, J = 8.3 Hz), 7.50 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 4.15 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 3.68-3.50 (m, 12H), 1.73 (t, 2H, J = 8.3 Hz), 1.42 (s, 4H), 0.95 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CD3OD): δ 164.1, 163.7, 153.7, 131.9, 130.9, 129.8, 129.3, 126.3, 126.0, 122.9, 117.8, 115.8, 53.2, 52.5, 49.6, 39.8, 33.7, 28.9, 27.3, 22.0, 12.9.
【0121】
2-(4-(2-ヘプチル-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン塩酸塩(4c)の合成
化合物4aと同様に、化合物3c(130mg、0.24mmol)、5mLのTHF、5mLの4N HCl/ジオキサンを用いて合成し、黄色結晶を80mg得た(収率:70%)。
【0122】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.50 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 8.43 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 7.80 (t, 1H, J = 8.3 Hz), 7.42 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 4.08 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 3.87-3.59 (m, 12H), 1.68 (t, 2H, J = 8.3 Hz), 1.41-1.32 (m, 8H), 0.91 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CD3OD): δ 164.1, 163.7, 153.7, 131.8, 130.8, 129.8, 129.3, 126.3, 126.0, 122.8, 117.8, 115.7, 53.2, 52.5, 49.6, 39.8, 33.7, 31.5, 28.7, 27.6, 26.7, 22.2, 13.0.
【0123】
2-(4-(2-デシル-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン塩酸塩(4d)の合成
化合物4aと同様に、化合物3d(130mg、0.23mmol)、5mLのTHF、5mLの4N HCl/ジオキサンを用いて合成し、黄色結晶を80mg得た(収率:69%)。
【0124】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.56-8.53 (m, 2H), 8.49 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 7.84 (t, 1H, J = 8.3 Hz), 7.46 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 4.20 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 3.90-3.58 (m, 12H), 1.74-1.67 (m, 2H), 1.41-1.30 (m, 14H), 0.90 (t, 3H, J = 7.3 Hz); 13C-NMR (101 MHz, CD3OD): δ 164.1, 163.7, 153.7, 137.7, 131.8, 130.8, 129.8, 129.3, 128.1, 126.3, 126.0, 124.7, 122.9, 117.8, 115.7, 53.3, 52.5, 49.6, 39.8, 33.9, 33.7, 31.6, 29.4, 29.2, 29.0, 27.6, 27.2, 26.7, 22.3, 13.0.
【0125】
2-(4-(2-(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エチル)-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン塩酸塩(4e)の合成
化合物4aと同様に、化合物3e(120mg、0.21mmol)、5mLのTHF、5mLの4N HCl/ジオキサンを用いて合成し、黄色結晶を70mg得た(収率:75%)。
【0126】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.67-8.59 (m, 3H), 7.90 (t, 1H, J = 8.3 Hz), 7.52 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 4.49 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 3.71-3.57 (m, 12H).
【0127】
2-(4-(2-(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エチル)-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)ブタン-1-アミン塩酸塩(4f)の合成
化合物4aと同様に、化合物3f(40mg、0.067mmol)、5mLのTHF、5mLの4N HCl/ジオキサンを用いて合成し、黄色結晶を20mg得た(収率:64%)。
【0128】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.63-8.56 (m, 3H), 7.88 (t, 1H, J = 8.3 Hz), 7.51 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 4.22 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 3.74-3.57 (m, 12H), 3.03 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 1.87-1.75 (m, 4H); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-d6): δ 164.0, 163.5, 154.3, 132.5, 131.3, 130.9, 129.4, 127.0, 125.8, 123.1, 117.2, 116.3, 53.4, 51.9, 49.7, 33.8, 25.2, 25.1.
【0129】
tert-ブチル(5-((1,3-ジオキソ-2-ペンチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)アミノ)ペンチル)カルバメート(5h)の合成
200mLのナスフラスコに、化合物1b(300mg、0.86mmol)、tert-ブチル(5-アミノペンチル)カルバメート(210mg、1.2当量、1.0mmol)、40mLの2-メトキシエタノールを加え120℃で16時間還流した。反応の進行を確認後、反応溶液をエバポレーターで留去した。精製はシリカゲルカラムを使用し、100%クロロホルムからクロロホルム/メタノール=9/1のグラジェントにて行った。微黄色オイルを310mg得た(収率:77%)。
【0130】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.58 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 8.46 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 8.17 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.61 (t, 1H, J = 7.8 Hz), 6.70 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 5.38 (bs, 1H), 4.54 (bs, 1H), 4.15 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 3.43-3.39 (m,), 3.22-3.10 (m), 1.85 (t), 1.72 (t), 1.59-1.25 (m), 0.90 (t, 3H).
【0131】
tert-ブチル(2-((2-((1,3-ジオキソ-2-ペンチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)アミノ)エチル)(メチル)アミノ)エチル)カルバメート(5i)の合成
化合物5hと同様に、化合物1b(200mg、0.57mmol)、tert-ブチル(2-((2-アミノエチル)(メチル)アミノ)エチル)カルバメート(188mg、1.5当量、0.86mmol)、20mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、微黄色オイルを120mg得た(収率:43%)。
【0132】
2-(4-(1,3-ジオキソ-2-プロピル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン塩酸塩(6h)の合成
50mLのナスフラスコに、化合物5h(100mg、0.86mmol)、10mLのTHFを加え溶解した。これに10mLの4N HCl/ジオキサンを加え室温で2時間撹拌した。析出した結晶をろ取後、THF、CHCl3でろ洗し、黄色結晶を20mg得た(収率:23%)。
【0133】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.57-8.52 (m, 2H), 8.38 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 7.67 (t, 1H, J = 8.3 Hz), 6.82 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 4.12 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 3.51 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 2.97 (t, 2H), 1.89-1.85 (m, 2H), 1.79-1.69 (m, 2H), 1.63-1.57 (m, 2H), 1.54-1.46 (m, 2H), 1.41 (m, 4H), 0.95 (t, 3H, J = 7.3 Hz).
【0134】
2-(4-(1,3-ジオキソ-2-プロピル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-6-イル)ピペラジン-1-イル)エタン-1-アミン塩酸塩(6i)の合成
50mLのナスフラスコに、化合物5i(100mg、0.2mmol)、10mLのTHFを加え溶解した。これに10mLの4N HCl/ジオキサンを加え室温で2時間撹拌した。析出した結晶をろ取後、THF、CHCl3でろ洗し、黄色結晶を20mg得た(収率:23%)。
【0135】
図1に示すように、化合物4a、4b、4e及び4fは、いずれもpH6以下の酸性環境下において蛍光強度が増大することが確認された。
【0136】
実施例2:オートファジーの検出試験(1)
(1)細胞への蛍光化合物の導入及びオートファジーの誘導又は阻害
HeLa細胞を、μ-slide 8 well (Ibidi)に播種し、37℃、CO2インキュベーターにて一晩培養した。血清培地で希釈した化合物4b(1μM)又は化合物6h(0.1μM)を添加し30分インキュベートした。血清培地で2回洗浄後、アミノ酸不含培地又は血清含有培地にて37℃で6時間又は20時間インキュベートし、蛍光顕微鏡で観察した。オートファジー誘導剤として、0.5μMラパマイシン、オートファジー阻害剤として、10μMクロロキン及び0.1μMバフィロマイシンA1を使用した。
【0137】
(2)フローサイトメトリーを用いた評価
HeLa細胞を24ウェルプレートに播種し、37℃、CO2インキュベーターにて一晩培養した。血清培地で希釈した1μMの化合物4bを添加し、30分インキュベートした。血清培地で2回洗浄後、アミノ酸及び血清不含培地を加え、37℃で6時間又は20時間インキュベートした。細胞をPBSで1回洗浄後、0.25%トリプシン-EDTAで剥離し、フローサイトメトリー解析に用いた。
【0138】
(3)ウェスタン・ブロット解析
任意の条件にて誘導した細胞をPBSで1回洗浄し、プロテアーゼインヒビターを含むLysis bufferで細胞を回収した。15%ポリアクリルアミドゲルで分離しPVDF膜に転写した。ブロッキング操作後、1,000倍に希釈したAnti-LC3抗体(MBL)に漬け、4℃で16時間インキュベートした。PVDF膜をPBSTで洗浄後、10,000倍に希釈したHRP結合抗体に浸し1時間室温で振とうした。PBSTで3回洗浄後、化学発光により検出した。
【0139】
Hela細胞に化合物4bを導入し、6時間及び20時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡像を
図2に示す。
図2において、「Control」は対照群の結果を示す。ラパマイシンの添加によりオートファジーを誘導した場合(Rapamycin & Chloroquine)、飢餓培養してオートファジーを誘導した場合(Starved)のいずれにおいても、蛍光強度の増大が観測された。
【0140】
Hela細胞に化合物4bを導入し、飢餓培養条件下で6時間及び20時間インキュベートした後のフローサイトメトリーの測定結果を
図3に示す。化合物4bは、蛍光顕微鏡のみならず、フローサイトメトリーを用いたオートファジーの検出にも有用であることが確認された。
【0141】
クロロキン存在下で、ラパマイシン(Rapamycin & Chloroquine)又は飢餓誘導(Starved)によるオートファジーを行ったHela細胞における蛍光強度の変化を
図4に示す。
図4において、「Nutrient」は、対照群として、通常の栄養培地中でインキュベーションを行ったHela細胞の測定結果を示す。
図2の結果と同様、オートファジーの誘導に伴う蛍光強度の増大が確認されたが、蛍光強度の増大は、
図5に示す、ウェスタン・ブロット法を用いた、オートファジーマーカーであるLC3の発現量の定量結果と相関することが認められた。
【0142】
図6は、化合物4b及び6hの蛍光強度のpH依存性を示すグラフである。化合物6hの蛍光強度は、化合物4bと異なり、pH依存性を示さないことが確認された。化合物6hは、側鎖中に非共有電子対を有する窒素原子が存在しないため、光誘起電子移動が起こらないため、pH6以上の環境下においても蛍光強度が低下しないことがわかる。
【0143】
図7は、Hela細胞に導入した化合物4b及び化合物6hの蛍光強度の比較結果を示す。オートファジーが殆ど起こらない対照群(Control)、ATPase阻害剤であり、オートファゴソームとリソソームの融合を阻害するバフィロマイシン存在下(Bafilobycin)では、両化合物とも蛍光強度が低く、オートファジーが誘導された飢餓条件下(Starve)において、両化合物とも高い蛍光強度を示すのに対し、飢餓条件下でバフィロマイシンを添加した場合、化合物4bの蛍光強度が低下しているのに対し、化合物6hの蛍光強度は低下していない。この結果は、リソソームと融合していないオートファゴソームの内部においても、pHに依存せず、化合物6hは蛍光発光を示すことを示している。
【0144】
図8は、化合物4b及び6hを導入したHela細胞の、オートファジー誘導条件下における高倍率蛍光顕微鏡像を示す。A-1及びA-2に示す蛍光顕微鏡像の部分拡大図から明らかなように、化合物6hはリング状に蛍光発光していることが確認された。このことは、化合物6hが、オートファゴソーム膜のみを染色していることを示唆している。これらの結果より、化合物6hはオートファゴソームの形成段階から応答を示すことが期待される。
【0145】
蛍光強度がpH依存性を示す蛍光化合物4b及び蛍光強度がpH依存性を示さない蛍光化合物6hを用いることで、オートファゴソームの形成(オートファジーの初期)、分解過程のオートリソソーム(オートファジーの後期)を段階的に検出できる可能性がある。既存の手法と組み合わせることで、オートファジーのメカニズム及び細胞内オルガネラとの関連性の解明も期待できる。
【0146】
実施例3:蛍光化合物の合成(2)
【0147】
2-ペンチル-1H-ベンゾ[10,5]アントラ[2,1,9-def]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(7)の合成
200mLのナスフラスコにペリレン-3,4-ジカルボン酸無水物(1g、3.1mmol)、プロピルアミン(322mg、1.2当量、3.7mmol)、DMAP(452mg、1.2当量、3.7mmol)、100mLのDMFを加え90℃で16時間還流した。室温に戻した後、析出した結晶を濾過し赤色結晶を1g得た(収率:82%)。
【0148】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.40 (d, 2H), 8.24 (d, 2H), 8.18 (d, 2H), 7.81 (d, 2H), 7.55 (d, 2H), 4.16 (t, 2H), 1.78-1.75 (m, 2H), 1.46-1.42 (m, 4H), 0.94 (t, 3H).
【0149】
8-ブロモ-2-hexイル-1H-ベンゾ[10,5]アントラ[2,1,9-def]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(8)の合成
200mLのナスフラスコに化合物7(1g、2.5mmol)、100mLの1,2-ジクロロエタンを加え溶解させた。臭素を加え16時間還流し、黒色結晶を800mg得た(収率:68%)。
【0150】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.56 (t, 2H), 8.44 (d, 1H), 8.38 (d, 1H), 8.33 (d, 1H), 8.29 (d, 1H), 8.18 (d, 1H), 7.89 (d, 1H), 7.70 (t, 1H), 4.19 (t, 2H), 1.76 (t, 2H), 1.42 (m, 4H), 0.93 (t, 3H).
【0151】
2-ペンチル-8-(ピペラジン-1-イル)-1H-ベンゾ[10,5]アントラ[2,1,9-def]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(9)の合成
200mLのナスフラスコに化合物8(300mg、0.63mmol)ピペラジン(542mg、10当量、6.3mmol)、100mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、黒色結晶を300mg得た(収率:95%)。
【0152】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.52 (t, 2H), 8.41 (d, 1H), 8.34 (t, 2H), 8.24 (t, 2H), 7.62 (t, 1H), 7.19 (d, 1H), 4.19 (t, 2H), 3.22 (m, 8H), 1.70 (m, 2H), 1.42 (m, 4H), 0.92 (t, 3H).
【0153】
tert-ブチル(2-(4-(1,3-ジオキソ-2-ペンチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[10,5]アントラ[2,1,9-def]イソキノリン-8-イル)ピペラジン-1-イル)エチル)カルバメート(10)の合成
100mLのナスフラスコに化合物9(300mg、0.63mmol)、2-(boc-アミノ)臭化エチル(212mg、1.5当量、0.94mmol)、K2CO3(130mg、1.5当量、0.94mmol)50mLのアセトニトリルを用いて合成し、黒色結晶を100mg得た(収率:25%)。
【0154】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.54 (t, 2H), 8.43 (d, 1H), 8.37-8.34 (dd, 2H), 8.28 (d, 1H), 8.22 (d, 1H), 7.62 (t, 1H), 7.20 (d, 1H), 5.03 (s, 1H), 4.19 (t, 2H), 3.34-3.25 (m, 6H), 2.80 (s, 4H), 2.63 (t, 2H), 1.76 (m, 2H), 1.60 (s, 8H), 1.49 (s, 9H), 1.42 (m, 5H), 1.33-1.25 (m, 6H), 0.91 (t, 3H) ; 13C-NMR (101 MHz, CDCl3): δ 164.0, 156.0, 152.6, 137.4, 137.3, 131.5, 131.3, 129.8, 129.5, 129.0, 128.8, 126.7, 126.2, 124.6, 124.0, 123.9, 120.6, 119.7, 118.9, 115.7, 57.3, 53.2, 52.9, 40.4, 37.1, 29.6, 29.5, 29.3, 29.1, 28.4, 27.8, 24.8, 22.6, 22.5, 14.1, 14.0.
【0155】
8-(4-(2-アミノエチル)ピペラジン-1-イル)-2-ペンチル-1H-ベンゾ[10,5]アントラ[2,1,9-def]イソキノリン-1,3(2H)-ジオン(11)の合成
50mLのナスフラスコに化合物10(100mg、0.16mmol)、5mLのTHF、5mLの4N HCl/ジオキサンを用いて合成し、黒色結晶を30mg得た(収率:33%)。
【0156】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.34 (d, 1H), 8.27 (d, 1H), 8.23-8.13 (m, 4H), 7.61 (t, 1H), 7.30 (d, 1H), 4.10 (t, 2H), 3.74-3.49 (m, 12H), 1.74 (t, 2H), 1.46-1.45 (m, 4H), 0.99 (t, 3H).
【0157】
図9に示すように、化合物11は、pH6以下の酸性環境下において蛍光強度が増大することが確認された。
【0158】
tert-ブチル(5-((1,3-ジオキソ-2-ペンチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[10,5]アントラ[2,1,9-def]イソキノリン-8-イル)アミノ)ペンチル)カルバメート(12)の合成
200mLのナスフラスコに化合物8(300mg、0.63mmol)、tert-ブチル(2-((2-アミノエチル)(メチル)アミノ)エチル)カルバメート(210mg、1.5当量、0.94mmol)、30mLの2-メトキシエタノールを用いて合成し、深紫色オイルを100mg得た(収率:19%)。
【0159】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.21-8.20 (m, 3H), 7.92 (d, 1H), 7.85 (d, 2H), 7.62 (d, 1H), 7.47 (t, 1H), 6.63 (d, 1H), 3.30-3.14 (m, 6H), 1.67-1.50 (m, 6H), 1.42 (s, 9H), 1.29-1.28 (m, 4H), 0.88 (t, 3H).
【0160】
5-((1,3-ジオキソ-2-ペンチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[10,5]アントラ[2,1,9-def]イソキノリン-8-イル)アミノ)ペンタン-1-アミン塩酸塩(13)の合成
50mLのナスフラスコに化合物12(100mg、0.16mmol)、5mLのTHF、5mLの4N HCl/ジオキサンを用いて合成し、黒色結晶を30mg得た(収率:33%)。
【0161】
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 8.23-8.22 (m, 3H), 7.94 (d, 1H), 7.86 (d, 2H), 7.65 (d, 1H), 7.46 (t, 1H), 6.66 (d, 1H), 3.35-3.17 (m, 6H), 1.68-1.49 (m, 6H), 1.33-1.29 (m, 4H), 0.92 (t, 3H).
【0162】
化合物13の蛍光強度は、化合物6hと同様、pH依存性を示さないことが確認された。
【0163】
実施例4:オートファジーの検出試験(2)
HeLa細胞を、μ-slide 8 well (Ibidi)に播種し、37℃、CO2インキュベーターにて一晩培養した。血清培地で希釈した化合物6h(0.1μM)を添加し30分インキュベートした。血清培地で2回洗浄後、アミノ酸不含培地又は血清含有培地にて37℃で5時間インキュベートし、蛍光顕微鏡で観察した。
【0164】
Hela細胞に化合物6hを導入し、5時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡像を
図10に示す。
図10において、「Control」は対照群の結果を示す。飢餓培養してオートファジーを誘導した場合(Starve)において、蛍光強度の増大が観測された。
【0165】
実施例5:オートファジーの検出試験(3)
HeLa細胞を、μ-slide 8 well (Ibidi)に播種し、37℃、CO2インキュベーターにて一晩培養した。血清培地で希釈した化合物6h(1μM)及び化合物11(0.1μM)を添加し30分インキュベートした。血清培地で2回洗浄後、アミノ酸不含培地又は血清含有培地にて37℃で3時間又は6時間インキュベートし、蛍光顕微鏡で観察した。
【0166】
Hela細胞に化合物6h及び化合物11を導入し、3時間及び6時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡像を
図11に示す。
図11において、「Control」は対照群の結果を示す。飢餓培養してオートファジーを誘導した場合(Starve)において、化合物6h及び化合物11を同一細胞内に導入し、飢餓培養を行った結果、化合物6hのみによって染色された顆粒点及び化合物6hと化合物11により共染色された顆粒点を確認した。これらの結果は、蛍光波長及びpH応答性の異なる2種類の蛍光化合物を用いることで、オートファゴソーム形成過程とオートリソソーム形成期を段階的に見分けたことを示している。
【0167】
実施例6:オートファジーの検出試験(4)
HeLa細胞を、μ-slide 8 well (Ibidi)に播種し、37℃、CO2インキュベーターにて一晩培養した。血清培地で希釈した化合物4b(1μM)及び化合物13(0.1μM)を添加し30分インキュベートした。血清培地で2回洗浄後、アミノ酸不含培地又は血清含有培地にて37℃で3時間又は6時間インキュベートし、蛍光顕微鏡で観察した。
【0168】
Hela細胞に化合物4b及び化合物13を導入し、3時間及び6時間インキュベートした後の蛍光顕微鏡像を
図12に示す。
図12において、「Control」は対照群の結果を示す。飢餓培養してオートファジーを誘導した場合(Starve)において、化合物4b及び化合物13を同一細胞内に導入し、飢餓培養を行った結果、化合物4bのみによって染色された顆粒点及び化合物4bと化合物13により共染色された顆粒点を確認した。これらの結果は、蛍光波長及びpH応答性の異なる2種類の蛍光化合物を用いることで、オートファゴソーム形成過程とオートリソソーム形成期を段階的に見分けたことを示している。
【0169】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0170】
本出願は、2017年5月19日に出願された日本国特許出願2017-100197号に基づくものであり、その明細書、特許請求の範囲、図面および要約書を含むものである。上記日本国特許出願における開示は、その全体が本明細書中に参照として含まれる。