(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20230626BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230626BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230626BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M4/13
H01M4/48
(21)【出願番号】P 2019562915
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044816
(87)【国際公開番号】W WO2019131030
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2017253429
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮成 光則
(72)【発明者】
【氏名】棗田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小林 径
(72)【発明者】
【氏名】見澤 篤
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-123485(JP,A)
【文献】特開2011-091020(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103656(WO,A1)
【文献】特開2015-185491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合剤層を有する正極と、負極合剤層を有する負極とがセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体を備えた非水電解質二次電池であって、
前記負極合剤層には、負極活物質として黒鉛及びSiO
x(0.5≦x≦1.6)で表される酸化ケイ素が含まれ、
前記負極合剤層の巻き始め側端は、前記正極合剤層の巻き始め側端を超えて前記電極体の巻き始め端側に延出し、
前記負極合剤層のうち前記正極合剤層の巻き始め側端から延出する部分の長さY(mm)と、前記負極活物質の総質量に対する前記
酸化ケイ素の割合X(質量%)とが、
Y≧3X-15(6≦X≦15)
の関係を満たすことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極合剤層の巻き始め側端は、前記正極の巻き始め側端に位置し、
前記負極合剤層の巻き始め側端は、前記負極の巻き始め側端に位置する、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
SiOxで表される酸化ケイ素などのケイ素化合物は、黒鉛などの炭素系活物質と比べて単位体積当りに多くのリチウムイオンを吸蔵できることが知られている。例えば、特許文献1には、負極活物質としてケイ素化合物を用いた非水電解質二次電池が開示されている。特許文献1の電池では、負極活物質としてケイ素化合物と黒鉛を併用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ケイ素化合物は、黒鉛と比べてリチウムイオンの挿入による体積膨張が大きいため、負極活物質にケイ素化合物を用いた場合は負極に歪み応力が発生し易くなる。特に、負極活物質に占めるケイ素化合物の割合が多くなると、大きな歪み応力が負極に加わり、負極が変形する場合がある。また、負極の変形の影響によって、正極及びセパレータにも変形が生じる場合がある。
【0005】
本開示の目的は、負極活物質にケイ素化合物を用いた非水電解質二次電池において、負極の変形を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極合剤層を有する正極と、負極合剤層を有する負極とがセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体を備えた非水電解質二次電池であって、前記負極合剤層には、負極活物質としてケイ素化合物が含まれ、前記負極合剤層の巻き始め側端は、前記正極合剤層の巻き始め側端を超えて前記電極体の巻き始め端側に延出し、前記負極合剤層のうち前記正極合剤層の巻き始め側端から延出する部分の長さY(mm)と、前記負極活物質の総質量に対する前記ケイ素化合物の割合X(質量%)とが、Y≧3X-15(6≦X≦15)の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、負極活物質にケイ素化合物を用いた非水電解質二次電池において、負極の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池の縦方向断面図である。
【
図2】
図2は実施形態の一例である電極体の一部を示す横方向断面図である。
【
図3】
図3は実施形態の一例である正極及び負極を示す図である。
【
図4】
図4は非対向部の長さYとケイ素化合物の割合Xとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、ケイ素化合物はリチウムイオンの挿入による体積膨張が大きいため、負極活物質にケイ素化合物を用いた場合は負極に歪み応力が発生し易くなる。負極が変形すると、内部短絡などのリスクが高まるので、負極の変形を抑制することは重要な課題である。なお、負極は正極よりも一回り大きく形成されるのが一般的であるため、巻回型の電極体における負極の巻き始め側端部には、正極と対向しない部分(非対向部)が存在する。正極と対向する負極の対向部では負極合剤層が充電により体積膨張するが、非対向部の負極合剤層は充電時に体積膨張しない。このため、対向部の応力により非対向部が引っ張られ、非対向部に歪み応力が作用する。この歪み応力が非対向部の幅方向中央部、特に対向部と非対向部との境界に集中することで、当該幅方向中央部で負極が変形すると考えられる。
【0010】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、正極合剤層の巻き始め側端から負極合剤層の巻き始め側端までの長さYと、負極活物質の総質量に対するケイ素化合物の割合Xとが、Y≧3X-15(6≦X≦15)の関係を満たす場合に、負極の非対向部における歪み応力を分散でき、負極の変形が抑制されることを見出した。Y≧3X-15(6≦X≦15)の関係が満たされる場合に、負極の非対向部に作用する歪み応力が分散され、負極の変形が抑制されると考えられる。
【0011】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体14が円筒形状の電池ケース15に収容された円筒形電池を例示するが、電池ケースは円筒形に限定されず、例えば角形であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された電池ケースであってもよい。本明細書では、説明の便宜上、電池ケース15の封口体17側を「上」、外装缶16の底部側を「下」として説明する。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の縦方向(軸方向)断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回構造を有する。電池ケース15は、有底筒状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成される。また、非水電解質二次電池10は、外装缶16と封口体17との間に配置される樹脂製のガスケット28を備える。
【0013】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。
【0014】
電極体14は、長尺状の正極11と、長尺状の負極12と、長尺状の2枚のセパレータ13と、正極11に接合された正極タブ20と、負極12に接合された負極タブ21とで構成される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。
【0015】
本実施形態では、正極タブ20が正極11の長手方向中央部であって、電極体14の巻き始め側端部及び巻き終り側端部から離れた位置に設けられている。他方、負極タブ21は電極体14の巻き終り側に位置する負極12の長手方向一端部に設けられている。
【0016】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。
図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極タブ20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極タブ21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極タブ20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極タブ21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0017】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。上述のように、外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池ケース15の内部空間が密閉される。外装缶16は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体17を支持する溝入れ部22を有する。溝入れ部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。また、外装缶16の上端部は、内側に折り曲げられ封口体17の周縁部に加締められている。
【0018】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0019】
以下、
図2及び
図3を適宜参照しながら、電極体14について詳説する。
図2は、電極体14の巻き始め側端部及びその近傍を示す横方向(径方向)断面図である。
図3は、電極体14を構成する正極11及び負極12の巻き始め側端部を示す図である。
図2及び
図3では、セパレータ13の図示を省略している。
【0020】
[正極]
図2及び
図3に例示するように、正極11は、帯状の正極集電体30と、正極集電体30の両面に形成された正極合剤層31とを有する。正極集電体30には、アルミニウムなど正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層31は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含む。正極11は、例えば正極集電体30上に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層31を正極集電体30の両面に形成することにより作製できる。
【0021】
正極活物質は、リチウム金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。なお、リチウム金属複合酸化物の粒子表面には、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着していてもよい。
【0022】
正極合剤層31に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層31に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0023】
[負極]
負極12は、帯状の負極集電体40と、負極集電体40の両面に形成された負極合剤層41とを有する。負極集電体40には、銅など負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層41は、負極活物質、及び結着剤を含む。負極12は、例えば負極集電体40上に負極活物質、及び結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層41を負極集電体40の両面に形成することにより作製できる。
【0024】
負極合剤層41には、負極活物質として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出するケイ素化合物が含まれる。さらに、負極合剤層41は、負極活物質として、天鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛を含むことが好ましい。負極合剤層41におけるケイ素化合物の含有量は、負極活物質の総質量に対して、例えば6~15質量%であり、好ましくは7~10質量%である。ケイ素化合物と黒鉛との混合比率は、例えば質量比で6:94~15:85であり、好ましくは7:93~10:90である。
【0025】
なお、負極活物質には、Si以外のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、当該金属を含有する化合物等が用いられてもよい。負極活物質としてチタン酸リチウム等の導電性の低い材料を用いる場合は、負極合剤層41にカーボンブラック等の導電剤を添加してもよい。
【0026】
上記ケイ素化合物としては、SiOxで表される酸化ケイ素が例示される。SiOxで表される酸化ケイ素は、例えば非晶質のSiO2マトリックス中にSiの微粒子が分散した構造を有す。好適な酸化ケイ素の一例は、SiOx(0.5≦x≦1.6)である。リチ ウムシリケート相中にSiの微粒子が分散した構造を有するLi2ySiO(2+y)(0<y<2)で表されるケイ素化合物も例示される。
【0027】
SiOxで表される酸化ケイ素の粒子表面には、酸化ケイ素よりも導電性の高い材料で構成される導電被膜が形成されていることが好ましい。導電被膜の構成材料としては、炭素材料、金属、及び金属化合物から選択される少なくとも1種が例示できる。中でも、非晶質炭素等の炭素材料が好ましい。炭素被膜は、例えばアセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等をSiOx粒子と混合し、熱処理を行う方法などで形成できる。また、カーボンブラック等の導電フィラーを結着剤を用いてSiOxの粒子表面に固着させることで導電被膜を形成してもよい。導電被膜は、例えばSiOx粒子の質量に対して0.5~10質量%で形成される。
【0028】
負極合剤層41に含まれる結着剤には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて合剤スラリーを調製する場合は、CMC又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョン、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどを用いることが好ましい。
【0029】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0030】
[電極体]
電極体14は、上述のように、正極11と負極12とがセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体である。負極12の表面におけるリチウムの析出を防止するため、負極12は正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。このため、負極合剤層41の巻き始め側端42は、正極合剤層31の巻き始め側端32を超えて電極体14の巻き始め端側に延出している。つまり、負極12の巻き始め側端部には、正極11と対向しない非対向部44が形成される。なお、負極12は、電極体14の巻き始め端を構成していてもよいが、一般的にはセパレータ13の巻き始め側端が負極12の巻き始め側端を超えて電極体14の巻き始め端側に延出している。即ち、セパレータ13の巻き始め側端が電極体14の巻き始め端に位置する。
【0031】
本実施形態では、正極合剤層31の巻き始め側端32が正極11の巻き始め側端に位置し、負極合剤層41の巻き始め側端42が負極12の巻き始め側端に位置する。即ち、正極合剤層31の巻き始め側端32が正極集電体30の巻き始め側端に一致し、負極合剤層の巻き始め側端42が負極集電体40の巻き始め側端に一致している。
【0032】
正極11の巻き始め側端部には、正極合剤層31が形成されない、正極集電体30の表面が露出した露出部が設けられていてもよい。同様に、負極12の巻き始め側端部には負極集電体40の表面が露出した露出部が設けられていてもよい。当該露出部には電極タブが接続されていてもよい。なお、集電体の端と合剤層の端とが一致しない形態においても、後述の式1で示す関係を満たす必要がある。
【0033】
電極体14の巻回方向(周方向)において、負極合剤層41のうち正極合剤層31の巻き始め側端32から延出する部分の長さY(mm)と、負極活物質の総質量に対するケイ素化合物の割合X(質量%)とが、下記式1の関係を満たす。長さYは、言い換えると、負極12の長手方向における非対向部44の長さである。
式1:Y≧3X-15(6≦X≦15)
【0034】
長さYは、ケイ素化合物の割合Xが多いほど長くなり、割合Yが少ないほど短くなる。上述のように、負極12の非対向部44の幅方向中央部Rには、正極11に対向する対向部43の負極合剤層41と、正極11に対向しない非対向部44の負極合剤層41との体積膨張差に起因した歪み応力が集中し易い。非水電解質二次電池10では、式1に基づき割合Xに応じた適切な長さYを設定することで、非対向部44の幅方向中央部Rに作用する歪み応力を効率良く分散して負極12の変形を抑制できる。
【0035】
式1の関係は、負極活物質の総質量に対するケイ素化合物の割合Xが6~15質量%の範囲で成立する。割合Xが6質量%未満である場合は、長さYが短くても負極12の変形は生じない。他方、割合Xが15質量%を超える場合に、長さYを30mmを超える長さとしても、歪み応力の増加に対して応力の緩和効果が小さくなり、負極12の変形を十分に抑制できない。
【0036】
図4は、ケイ素化合物の割合X(質量%)を横軸に、非対向部44の長さYを縦軸に用いたグラフであって、後述する実施例及び比較例の結果をプロットしている。負極12の変形が確認されなかった実施例を●で、負極12の変形が確認された比較例を×でプロットしている。
図4に示すように、ケイ素化合物の割合Xが大きくなるほど非対向部44の長さYを長くする必要があるが、非対向部の長さYが少なくともY=3X-15の関係を満たしていれば負極12の変形は抑制されている。したがって、X及びYが式1:Y≧3X-15(6≦X≦15)の条件を満たす場合に、負極12の変形が抑制される。式1は略必要最小限の非対向部44の長さYを規定するものであり、Yの上限値は電池の設計容量などに応じて任意に決定することができる。
【実施例1】
【0037】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
[正極活物質の合成]
Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるニッケル複合酸化物の金属元素の総モル数に対してLiのモル数が1.015の割合となるように、水酸化リチウムを当該複合酸化物と混合し、酸素雰囲気下で焼成して、LiNi0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチ ウムニッケル複合酸化物(正極活物質)を合成した。
【0039】
[正極の作製]
上記正極活物質100質量部と、アセチレンブラック1質量部と、ポリフッ化ビニリデン0.9質量部とを混合し、N-メチル-2-ピロリドンを適量加えて、正極合剤スラリーを調製した。次に、当該正極合剤スラリーをドクターブレード法により厚みが15μmのアルミニウム箔からなる長尺状の正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。乾燥した塗膜をローラーを用いて圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。正極の長手方向中央部に、合剤層が存在せず集電体表面が露出した露出部を設け、アルミニウム製の正極タブを露出部に溶接した。
【0040】
[負極の作製]
黒鉛粉末93質量部と、粒子表面に炭素被膜が形成された、SiO(SiOx、x=1)で表される酸化ケイ素を7質量部と、カルボキシメチルセルロースナトリウム1.5質量部と、スチレン-ブタジエンゴムのディスパージョン1質量部とを混合し、水を適量加えて、負極合剤スラリーを調製した。次に、当該負極合剤スラリーを厚みが8μmの銅箔からなる長尺状の負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。乾燥した塗膜をローラーを用いて圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。負極の長手方向一端部(電極体の巻き終り側に位置する端部)に合剤層が存在せず集電体表面が露出した露出部を設け、ニッケル製の負極タブを露出部に溶接した。
【0041】
炭素被膜を有する上記酸化ケイ素は、下記の方法で得られる。
まず、炭化水素系のガスを用いたCVD法により、SiOの組成を有する酸化ケイ素の粒子表面に炭素被膜を形成した。次に、炭素被膜が形成されたSiO粒子をアルゴン雰囲気下、1000℃で加熱して不均化反応させることにより、SiO粒子内にSi相及びSiO2相を形成した。当該粒子を分級し、負極活物質に用いる酸化ケイ素を得た。
【0042】
[電極体の作製]
上記正極及び上記負極をポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して巻芯(3.3φ)に巻回した後、巻芯を取り除いて、巻回型の電極体を作製した。このとき、正極合剤層の巻き始め側端から負極合剤層の巻き始め側端までの長さY(非対向部の長さY)が6mmとなるように、正極の巻き始め側端から負極が延出した状態として、正極、負極、及びセパレータを巻芯に巻回した。
【0043】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、25:75の体積比(1気圧、25℃)で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度が1mol/Lとなるように溶解して、非水電解液を調製した。
【0044】
[非水電解質二次電池の作製]
鉄製の円筒形状の外装缶に上記巻回型の電極体を挿入した。巻芯を取り除いた後に形成される電極体の中空部に溶接棒を挿入して負極タブにあてがい、負極タブを外装缶の底部内面に抵抗溶接した。上記非水電解液を外装缶内に注入した後、正極タブを封口体に溶接し、封口体で外装缶の開口部を封口して、直径18mm、高さ65mmの円筒形の非水電解質二次電池を作製した。
【0045】
[電池の初回充放電]
上記電池を、0.3Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流が0.02Itになるまで充電した。充電後、電池を0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vとなるまで放電した。初回充放電は室温下で行った。
【0046】
[負極の観察]
上記初回充放電を行った電池を、初回充放電と同じ充電条件で充電した後、充電状態の電池を解体して負極を取り出した。取り出した負極の巻き始め側端部及びその近傍を目視で観察し、変形の有無を評価した。評価結果は表1に示した。
【0047】
<実施例2,3、比較例1~5>
負極活物質に対する上記酸化ケイ素の含有量(質量%)、及び正極の巻き始め側端から負極の巻き始め側端までの長さYを、表1に示す値にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様にして性能評価を行った。
【0048】
【0049】
表1及び
図4に示すように、式1:Y≧3X-15の条件を満たさない比較例1~5の負極には、非対向部の幅方向中央部において、負極合剤層にクラック筋(変形)が確認された。この変形は、ケイ素化合物の大きな体積膨張により負極に歪み応力が作用し、当該応力が非対向部の幅方向中央部に集中したことによって発生したと考えられる。上述のように、負極の対向部では負極合剤層が充電により体積膨張するが、非対向部の負極合剤層は充電時に体積膨張しないため、対向部の応力により非対向部が引っ張られ、非対向部の幅方向中央部に大きな歪み応力が作用するものと推測される。
【0050】
他方、式1の条件を満たす実施例1~3の負極には、非対向部及びその近傍において、クラック筋等の変形は確認されなかった。式1の条件を満たすことで、負極の非対向部に作用する歪み応力が分散され、負極の変形が抑制されると考えられる。
【符号の説明】
【0051】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極タブ、21 負極タブ、22 溝入れ部、23 フィルタ、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 正極集電体、31 正極合剤層、32,42 巻き始め側端、40 負極集電体、41 負極合剤層、43 対向部、44 非対向部