(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】睡眠状態推定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
A61B5/16 130
(21)【出願番号】P 2021567905
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2021025053
(87)【国際公開番号】W WO2022269936
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2021-10-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-29
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514118321
【氏名又は名称】ヘルスセンシング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 正巳
(72)【発明者】
【氏名】新関 久一
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】伊藤 幸仙
【審判官】石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0190086(US,A1)
【文献】特開2017-64338(JP,A)
【文献】特開2004-89267(JP,A)
【文献】特開2020-75136(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0015417(US,A1)
【文献】国際公開第2020/248008(WO,A1)
【文献】特開2013-210367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の睡眠中に圧電センサにより取得した前記動物の生体振動信号から抽出した心拍間隔の変動の瞬時位相と前記心拍間隔の変動と同一時系列における
前記生体振動信号から抽出した呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて算出した位相コヒーレンスを取得する位相コヒーレンス取得手段と、
前記生体振動信号から前記心拍間隔の変動と同一時系列における前記動物の体動に関する体動情報を取得する体動情報取得手段と、
前記生体振動信号から前記心拍間隔の変動と同一時系列における前記動物の心拍に関する心拍情報を取得する心拍情報取得手段と、
前記生体振動信号から前記心拍間隔の変動と同一時系列における呼吸に関する呼吸情報を取得する呼吸情報取得手段と、
動物の睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階を教師データとし、前記睡眠ポリグラフィ検査と同時に取得した前記睡眠ポリグラフィ検査の対象の動物の生体振動信号から、位相コヒーレンス、体動情報、心拍情報及び呼吸情報の4つのデータを取得し、それらのデータのうち位相コヒーレンスを含む少なくとも2つを入力データとして機械学習を行うことにより作成した睡眠状態推定モデルを内蔵した睡眠状態推定手段と、を含み、
前記睡眠状態推定手段は、前記位相コヒーレンス取得手段により取得した位相コヒーレンス、前記体動情報取得手段により取得した体動情報、前記心拍情報取得手段により取得した心拍情報及び前記呼吸情報取得手段により取得した呼吸情報のうち、前記入力データと同じ種類のデータを前記睡眠状態推定モデルに入力し、当該睡眠状態推定モデルからの演算結果に基づいて
、動物の睡眠状態を推定することを特徴とする睡眠状態推定システム。
【請求項4】
前記心拍情報取得手段が取得する前記心拍情報が心拍数であり、前記呼吸情報取得手段が取得する前記呼吸情報が呼吸数であることを特徴とする請求項1に記載の睡眠状態推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物から取得した生体情報に基づいて、睡眠状態を推定する睡眠状態推定システムに関し、特に、動物の睡眠中に取得した心拍間隔の変動の瞬時位相と、前記心拍間隔の変動と同一時系列における前記動物の呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて算出した位相コヒーレンスに基づいて、睡眠状態を推定する睡眠状態推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠に大別され、睡眠中に約90分周期で繰り返すと言われている。客観的に眠りの質や量(睡眠周期や睡眠深度)を評価する為には、睡眠ポリグラフィが必要であり、医療機関での計測や医療機関から機器を借りてきて計測が行われるが、脳波や心電図、筋電図、眼電図などの複数のセンサが必要であり、取り扱いが煩雑である。
また、複数のセンサを身体の各所に固定する必要があり、センサによる拘束で動きが制限されていた。睡眠中の無意識の動作によってセンサが外れる可能性もあり、センサが外れると信号が検出できず、状態を把握できない点でも問題があった。
さらに、装置が大型であるため、個人で評価できるような指標ではなく、睡眠の質を個人が把握できる状況には至っていない。このため、個人が簡便にストレス状態や睡眠の質を把握できる生体計測手法とその装置が求められている。
【0003】
特許文献1には、動物の睡眠中に取得した心拍間隔の変動の瞬時位相と、心拍間隔の変動と同一時系列における動物の呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて位相コヒーレンスを算出する位相コヒーレンス算出手段を含む睡眠状態測定装置が開示されており、心拍間隔の変動の瞬時位相と動物の呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づく位相コヒーレンスが、睡眠中の脳波におけるδ波と相関していることから、位相コヒーレンスを計測することにより、睡眠状態を測定することが開示されている。
また、特許文献1では、シート型圧電センサを用いて、生体振動信号を検出し、生体振動信号から心拍間隔と呼吸パターンを取得し、さらに、呼吸性不整脈と呼吸パターンをヒルベルト変換し、解析信号から瞬時位相を求め、その位相差から位相コヒーレンスを算出することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
睡眠は、大きくはレム睡眠とノンレム睡眠に分類されるが、ノンレム睡眠は、さらにステージIからIVまでの4段階に分類される。ステージI(まどろみ期、入眠期)は、うとうとした状態であり、α波のリズムが失われ、徐々に平坦化する。ステージIIは、ステージIよりは眠りが深い状態であり、睡眠紡錘波(spindle)とK複合波が出現する。ステージIIIは、かなり深い睡眠であり、δ波が20%以上50%未満を占める。ステージIVは、δ波が50%以上を占める段階であり、最も深い睡眠状態である。ノンレム睡眠のステージIII及びIVは、脳波が徐波を示すことから徐波睡眠とも呼ばれる。米国睡眠医学会ではステージIをN1、ステージIIをN2、ステージIIIおよびIVをまとめてN3に分類している。
一方、レム睡眠は、覚醒時に似た低振幅速波パターンの脳波を示すのに、覚醒させるために徐波睡眠よりも強い刺激を必要とする深い睡眠状態であり、急速眼球運動を伴う。健康成人ではこれら二種類の睡眠状態が、通常、約90分の周期(睡眠周期)で変動し、まとまって一夜の睡眠を形作る。入眠期にステージIから徐々に睡眠が深くなり、ステージII、ステージIII、IVへと移行し、その後、一旦睡眠が浅くなり、レム睡眠に移行する。睡眠の後半は浅いノンレム睡眠とレム睡眠の組み合わせが続いて覚醒へと至る。上記のように、脳波における周波数1~4Hzのδ波は、徐波睡眠において観察されることから、δ波を睡眠の深さの指標とすることができる。
【0006】
特許文献1に記載の睡眠状態測定装置は、睡眠状態等を判定する判定機能として、算出した位相コヒーレンスを閾値と比較して、閾値よりも大きい場合は深い睡眠であると判定し、小さい場合は浅い睡眠と判定すること、位相コヒーレンスが閾値よりも大きい値だった時間で睡眠の品質を評価すること、位相コヒーレンスの変動の周期によって睡眠の品質を評価することが開示されている。
また、複数の数値を設定し、段階的に睡眠の質を評価してもよいことは開示されている。
しかし、睡眠状態は、上記のとおり、非常に複雑なものであり、睡眠ポリグラフィで検出した睡眠深度と同等の睡眠状態を推定できる睡眠状態推定装置の要望が存在する。
【0007】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決することを目的とするものであり、実際の睡眠ポリグラフィで検出した睡眠状態のように、複数の睡眠深度を含む睡眠状態を推定できる睡眠状態推定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の睡眠状態推定システムは、
動物の睡眠中に取得した心拍間隔の変動の瞬時位相と、前記心拍間隔の変動と同一時系列における前記動物の呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて算出した位相コヒーレンスを取得する位相コヒーレンス取得手段と、
前記心拍間隔の変動と同一時系列における前記動物の体動に関する体動情報を取得する体動情報取得手段と、前記心拍間隔の変動と同一時系列における心拍に関する心拍情報を取得する心拍情報取得手段と、前記心拍間隔の変動と同一時系列における呼吸に関する呼吸情報を取得する呼吸情報取得手段と、
動物の睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階を教師データとし、前記睡眠ポリグラフィ検査と同時に取得した生体振動信号から、位相コヒーレンス、体動情報、心拍情報及び呼吸情報の4つのデータを取得し、それらのデータのうち少なくとも2つを入力データとして機械学習を行うことにより作成した睡眠状態推定モデルを内蔵した睡眠状態推定手段と、を含み、
前記睡眠状態推定手段は、前記位相コヒーレンス取得手段が前記心拍情報取得手段により取得した心拍間隔の変動と前記呼吸情報取得手段により取得した呼吸パターンから算出した前記位相コヒーレンス、前記体動情報取得手段により取得した前記体動情報、前記心拍情報取得手段により取得した前記心拍情報、及び前記呼吸情報取得手段により取得した前記呼吸情報のうち、前記入力データと同じ種類のデータを前記睡眠状態推定モデルに入力し、当該睡眠状態推定モデルからの演算結果に基づいて、前記動物の睡眠状態を推定することを特徴とする。
また、前記機械学習が双方向長期・短期記憶(BiLSTM)ニューラルネットワークに基づいて行われるものであることを特徴とする。
【0009】
さらに、上記睡眠状態推定システムにおいて、前記位相コヒーレンス取得手段は、前記心拍情報取得手段が取得した心拍間隔の変動の瞬時位相と前記呼吸情報取得手段が取得した呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて前記位相コヒーレンスを算出するものであってよい。
さらに、前記心拍情報取得手段が取得する前記心拍間隔の変動と前記心拍数が、生体振動信号を入力データとして推定した推定心電図信号から算出されたものであってよいし、生体振動信号をCWT(Continuous Wavelet Transform)処理して得られた周波数成分のうち5~15Hzの周波数成分のパワーを積算して得られたものであってよいし、または生体振動信号を5~15Hzのバンドパスフィルタを通過させて得られた信号から算出されたものであってもよい。
【0010】
さらに、前記呼吸情報取得手段が取得する呼吸パターンと呼吸数が、生体振動信号を0.5Hzのローパスフィルタを通過させて得られた信号から算出されたものであってもよい。
また、体動情報は、体動の回数(生体振動信号が閾値を越えたピーク数)、所定時間内における体動の回数または所定時間内における体動信号の積分値であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、振動センサ等の非拘束型のセンサ一枚で、医学的に確立している睡眠ポリグラフィ検査を用いた睡眠段階判別法に相当する結果を得ることができるとともに、睡眠に係る詳細なデータ、具体的には入眠・起床時間、深い睡眠時間とその割合、REM睡眠時間、WAKE(覚醒)時間、睡眠効率、睡眠周期等の睡眠に係る多くの情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】(A)及び(B)は睡眠状態推定処理のフローチャート
【
図7】振動センサで取得した生体振動信号から得られた心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動(BM)の10s移動平均
【
図8】睡眠状態と、生体振動信号から得られた心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動(BM)の10s移動平均を30s間隔でサンプリングした信号波形
【
図9】
図8において、心拍数(HR)と位相コヒーレンス(λ)が、心電図に基づいている信号波形
【
図10】(A)睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)、(B)推定した睡眠状態、(C)推定結果と真値(実測値)の混同行列
【
図11】(A)睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)、(B)推定した睡眠状態、(C)推定結果と真値(実測値)の混同行列
【
図12】(A)睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)、(B)推定した睡眠状態、(C)推定結果と真値(実測値)の混同行列
【
図13】(A)睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)、(B)推定した睡眠状態、(C)推定結果と真値(実測値)の混同行列
【
図14】(A)睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)、(B)推定した睡眠状態、(C)推定結果と真値(実測値)の混同行列
【発明を実施するための形態】
【0013】
[睡眠状態推定システム]
本発明の睡眠状態推定システムは、
図1に示すように、少なくとも情報取得部2及び情報処理部3を備えており、さらに睡眠状態推定システム1は、記憶部4、操作部5、及び出力部6を備えていてもよい。
情報取得部2は、位相コヒーレンス取得手段22、体動情報取得手段23、心拍情報取得手段24、呼吸情報取得手段25の一つ又は複数を含んでおり、さらに、睡眠状態取得手段26を含んでいてもよく、さらに他の情報(画像、音声、温度等)を取得する手段を含んでいてもよい。
情報処理部3は、睡眠状態推定手段31を含み、さらに、位相コヒーレンス算出手段32、体動情報算出手段33、心拍情報算出手段34、呼吸情報算出手段35の一つ又は複数を含んでいてもよく、さらに、睡眠状態推定モデル学習手段36を含んでいてもよい。
睡眠状態推定システム1は、1台の装置で実現されてもよいし、ネットワーク等で接続された複数の装置又は部品で実現されてもよい。
例えば、センサと、センサが接続された携帯情報端末(たとえば、携帯電話、スマートフォン等)と、携帯情報端末とネットワークを介して接続されたサーバとによって、センサを情報取得部2とし、携帯情報端末を情報処理部3の一部である各種情報算出手段及び位相コヒーレンス算出手段とし、サーバを睡眠状態推定手段31として、本発明の睡眠状態推定システム1を実現してもよい。
なお、睡眠状態取得手段26及び睡眠状態推定モデル学習手段36は、睡眠状態推定システム1には必要な構成ではないが、睡眠状態測定システム1を睡眠状態推定モデル学習システムとして機能させる際に使用される。
【0014】
情報取得部2は、睡眠状態の推定に必要な情報を取得するものであり、動物を計測するためのセンサ及びセンサの情報を有線又は無線で入力する入力部を含む構成であってもよいし、すでに計測又は算出済みの情報が記録された他の記録媒体からの情報を有線又は無線で入力可能な入力部を含む構成であってもよい。
すなわち、情報取得部2は、少なくとも情報を入力する入力部を備えており、場合によっては入力部と有線又は無線で接続された生体情報を計測するためのセンサを備えていてもよい。情報取得部2は、取得する情報によって、位相コヒーレンス取得手段22、体動情報取得手段23、心拍情報取得手段24、呼吸情報取得手段25、睡眠状態取得手段26等として機能する。
【0015】
情報処理部3は、入力された情報を処理するものであり、例えば、コンピュータのCPU(中央処理装置)の演算処理機能を利用することができる。また、情報処理の中には、デジタル回路ではなくアナログ回路で実現することも可能である。
例えば、周波数フィルタ処理は、コンデンサや抵抗及びオペアンプ等で構成されたローパスフィルタ(LPF)やハイパスフィルタ(HPF)のアナログフィルタで実現してもよいし、CPUの演算処理機能によってフィルタリングを行なうデジタルフィルタで実現してもよい。
情報処理部3は、情報処理の種類に応じて、デジタル回路とアナログ回路の両方を含んでいてもよいし、入力される情報がアナログであれば、アナログ-デジタル変換回路によってデジタル信号に変換してもよい。
情報処理部3は、入力される情報によって必要となる機能又は処理が異なるが、処理する情報に応じて、睡眠状態推定手段31、位相コヒーレンス算出手段32、体動情報算出手段33、心拍情報算出手段34、呼吸情報算出手段35、睡眠状態推定モデル学習手段36等として機能する。
【0016】
位相コヒーレンス取得手段22は、すでに算出された位相コヒーレンスを有線又は無線で入力可能な入力部でもよいし、位相コヒーレンスを算出するために必要な情報を情報取得部2に入力し、その情報から位相コヒーレンス算出手段32によって算出した位相コヒーレンスを取得してもよい。
位相コヒーレンス算出手段32は、各種の情報から位相コヒーレンスを算出する手段である。位相コヒーレンスを算出するためには、例えば、次のような情報を入力して算出することができる。
A)情報取得部2に、同一時系列における心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相との瞬時位相差を入力し、情報処理部3の位相コヒーレンス算出手段32によって入力された瞬時位相差を用いて位相コヒーレンスを算出する。
B)情報取得部2の心拍情報取得手段24及び呼吸情報取得手段25に、同一時系列における心拍間隔の変動の瞬時位相及び呼吸パターンの瞬時位相を入力し、情報処理部3が、両者の瞬時位相差を算出する瞬時位相差算出機能を有し、瞬時位相差算出機能によって両者の瞬時位相差を算出し、算出された瞬時位相差を用いて位相コヒーレンス算出手段32によって位相コヒーレンスを算出する。
C)情報取得部2の心拍情報取得手段24及び呼吸情報取得手段25に、同一時系列における心拍間隔の変動及び呼吸パターンを入力(センサによる検出結果の入力を含む)し、情報処理部3の心拍情報算出手段34及び呼吸情報算出手段35が、それぞれ心拍間隔の変動の瞬時位相及び呼吸パターンの瞬時位相を算出し、算出された瞬時位相を用いて瞬時位相差算出機能及び位相コヒーレンス算出手段32によって位相コヒーレンスを算出する。
D)情報取得部2の心拍情報取得手段24及び呼吸情報取得手段25に、心拍に関する情報を含んだ生体情報及び呼吸に関する情報を含んだ生体情報を入力(センサによる検出結果の入力を含む)し、情報処理部3の心拍情報算出手段34及び呼吸情報算出手段35が、心拍間隔算出機能及び呼吸パターン算出機能を有し、心拍間隔算出機能によって心拍の情報を含んだ生体情報から心拍間隔の変動を算出し、呼吸パターン算出機能によって呼吸パターンの情報を含んだ生体情報から呼吸パターンを算出し、その後、上記C)と同様の処理を行う。
なお、心拍に関する情報を含んだ生体情報は、生体振動情報に基づいて別途推定された推定心電図を含んでもよいし、別途取得された心電図であってもよい。
E)情報取得部2に、心拍に関する情報及び呼吸に関する情報の両方を含む生体情報を入力し(センサによる検出結果の入力を含む)、情報処理部3の心拍情報算出手段34及び呼吸情報算出手段35が、かかる生体情報から心拍の情報及び呼吸パターンの情報を算出し、検出又は算出した心拍の情報又は呼吸パターンの情報を用いてその後の処理をしてもよい。
【0017】
位相コヒーレンスは、呼吸に伴う心拍間隔の変動の瞬時位相ψ
h(t)と呼吸パターンの瞬時位相ψ
r(t)とを算出し、これらの差(瞬時位相差)を算出し、算出された瞬時位相差を使用して算出される。
心拍間隔の変動の瞬時位相ψ
h(t)は、心拍間隔のデータから呼吸に伴う心拍間隔変動の時間的変化(S(t))を算出し、心拍間隔変動の時間的変化(S(t))を下記式(1)で表されるヒルベルト変換により解析信号にすることによって算出できる。なお、式(1)及び式(2)のH[…]はヒルベルト変換作用素であり、P.V.はコーシーの主値を意味する。
【0018】
また、呼吸パターンの瞬時位相ψ
r(t)は、呼吸パターンの情報から、呼吸パターン時間的変化(R(t))を算出し、呼吸パターンの時間的変化(R(t))を下記式(2)で表されるヒルベルト変換することによって算出できる。
【0019】
瞬時位相差Ψ(t)は、式(1)及び式(2)によって算出された心拍間隔の変動の瞬時位相ψ
h(t)及び呼吸パターンの瞬時位相ψ
r(t)を用いて、次の式(3)で算出できる。
ここで、nは-π≦Ψ≦πとなる適当な整数である。
【0020】
そして、これらから時刻t
kにおける位相コヒーレンスを下記式(4)から算出することができる。式(4)のNは計算窓におけるデータ数であり、時刻t
k-N/2からt
k+N/2までN個平均して求める。
【0021】
位相コヒーレンスは、0~1の値をとり、心拍間隔の変動と呼吸パターンの瞬時位相差が一定の関係に近いほど1に近づき、瞬時位相差がランダムになるほど0に近づく。
脳波のδ波の振幅が大きくなると位相コヒーレンス(λ)が1に近づき、δ波の振幅が小さくなると位相コヒーレンス(λ)が0に近づく傾向がある。
また、安静リラックス時には位相コヒーレンスが1に近く、精神ストレスがかかると位相コヒーレンスが低下するので、心理ストレスを正規化した指標で推定することも可能である。
【0022】
体動情報取得手段23は、すでに算出された体動情報を有線又は無線で入力可能な入力部でもよいし、各種センサによる検出結果を入力し、情報処理部3の体動情報算出手段33によって検出結果から算出した体動情報を取得してもよい。
体動情報算出手段33は、各種の情報から体動情報を算出する手段であり、センサの種類又は入力される信号に応じて適宜適当な処理が選択される。
体動情報は、機械学習に使用可能な要素であり、例えば、体動の回数、所定時間内における体動の頻度、所定時間内における体動信号の積分値等を含んでもよい。
所定時間は、データ切り取りの単位であり、他の入力データにおける単位時間に合わせることが好ましく、例えば、10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、1分等を設定してもよい。
体動情報を取得するセンサとしては、例えば、圧電センサ等の振動センサ、加速度センサ、電磁波により体の動きを検知できる電磁波体動センサ、筋電図等を使用することができる。
振動センサで検出した生体振動信号は、通常、心臓の拍動による心弾動、呼吸による振動、体動、発声、外部環境等に基づく振動も含まれるため、体動情報算出手段33は、例えば、下限周波数が10Hz以上のハイパスフィルタ(HPF)又はバンドパスフィルタ(BPF)を通過させて、生体振動信号から体動に起因する振動信号を分離抽出する。
体動に起因する振動信号について、例えば、算出した体動に起因する振動信号について、閾値として所定の強度を設定し、閾値を越えたピーク数をカウントして、体動情報として体動の回数を算出してもよいし、さらに所定時間を設定し、所定時間内における体動の回数をカウントして、体動情報として所定時間内における体動の頻度を算出してもよい。また、所定時間内における体動信号を積分して積分値を算出してもよい。
【0023】
心拍情報取得手段24は、すでに算出された心拍情報を有線又は無線で入力可能な入力部でもよいし、各種センサによる検出結果を入力し、情報処理部3の心拍情報算出手段34によって算出した心拍情報を取得してもよい。
心拍情報算出手段34は、各種の情報から心拍情報を算出する手段であり、センサの種類又は入力される信号に応じて適宜適当な処理が選択される。
心拍情報は、機械学習に使用可能な要素であり、例えば、心拍数(HR)、心拍数の変動係数(CVHR)、心拍数の偏差(DHR)、心拍数の偏差の変動係数(CVDHR)、心拍数の標準偏差(SDHR)、心拍数の標準偏差の変動係数(CVSDHR)、心拍間隔(RRI)、心拍間隔の変動係数(CVRRI)、心拍間隔の偏差(DRRI)、心拍間隔の偏差の変動係数(CVDRRI)、心拍間隔の標準偏差(SDRRI)、心拍間隔の標準偏差の変動係数(CVSDRRI)、心拍間隔の変動(VRRI)、心拍間隔の変動の変動係数(CVVRRI)、心拍間隔の変動の瞬時振幅(A(t))、呼吸性不整脈(RSA)、及び呼吸性不整脈の変動係数(CVRSA)等を含んでもよい。
心拍情報の各データは、睡眠中に取得した全データの平均値で正規化した値を使用することが好ましい。例えば、心拍情報として心拍数を睡眠状態推定モデル311に入力する場合は、取得した心拍数の全データの平均との比(各心拍数/平均値)を算出し、正規化された心拍数を入力してもよい。
心拍情報及び/又は呼吸情報を正規化することにより、測定対象の動物における個体差を埋めてより睡眠状態推定モデル311の汎用性を高めることができ、また、測定精度が向上する。ただし、睡眠中の全データを取得して平均値を算出してから正規化するため、リアルタイムで睡眠状態を推定することができない。このため、生データ(心拍数、呼吸数等)を使用してリアルタイムの睡眠状態を算出してもよく、さらに後から正規化したデータを用いた睡眠状態を算出してもよい。
【0024】
心拍情報を取得するセンサとしては、例えば、心電図計測用センサ、脈波センサ、振動センサ等を使用することができる。心拍情報算出手段34は、例えば、心電図計測用センサで検出した心電図波形や脈波センサで検出した脈波から、必要に応じてノイズ(例:体動成分等)を取り除き、各種の心拍情報を算出できる。
また、振動センサで検出した生体振動信号は、通常、心臓の拍動による心弾動、呼吸による振動、体動、発声、外部環境等に基づく振動も含まれるため、心拍情報算出手段34は、例えば、0.5Hz~10Hzのバンドパスフィルタ(BPF)を通過させて、生体振動信号から心臓の拍動による心弾動を分離抽出する。さらに、分離抽出した心弾動に基づいて、各種の心拍情報を算出できる。
また、振動センサで得られた生体振動信号から心拍動成分を抽出するために、5~15Hzのバンドパスフィルタを通して絶対値化し、時定数0.2sのスムージング処理をし、0.3Hzのハイパスフィルタを通して得られた信号に基づいて推定心電図信号を得、その推定心電図信号のピークを計数して心拍数を得ることもできる。推定心電図を推定する機能は、情報処理部3が備えてもよいし(非図示)、他の計算ツール上に備えられ、無線や有線により本睡眠状態推定システムと結合されてもよい。
また、実際の心電図信号を取得して、そのピークを計数することによって心拍数を得ることもできる。
さらには、振動センサで得られた生体振動信号をCWT(Continuous Wavelet Transform)処理して得られた周波数成分について、5Hz~15Hzの周波数成分のパワーを積算して得られた信号のピークを計数して心拍数を得てもよい。
【0025】
呼吸情報取得手段25は、呼吸情報取得手段25は、すでに算出された呼吸情報を有線又は無線で入力可能な入力部でもよいし、各種センサによる検出結果を入力し、情報処理部3の呼吸情報算出手段35によって算出した呼吸情報を取得してもよい。
呼吸情報算出手段35は、各種の情報から呼吸情報を算出する手段であり、センサの種類又は入力される信号に応じて適宜適当な処理が選択される。
呼吸情報は、機械学習に使用可能な要素であり、例えば、呼吸数(RR)、呼吸数の変動係数(CVRR)、呼吸数の偏差(DRR)、呼吸数の偏差の変動係数(CVDRR)、呼吸数の標準偏差(SDRR)、呼吸数の標準偏差の変動係数(CVSDRR)、呼吸間隔(BI)、呼吸間隔の変動係数(CVBI)、呼吸間隔の偏差(DBI)、呼吸間隔の偏差の変動係数(CVDBI)、呼吸間隔の標準偏差(SDBI)、呼吸間隔の標準偏差の変動係数(CVSDBI)、及び単位時間当たりの鼾の回数、呼吸パターンの瞬時振幅(A(t))等を含んでもよい。
呼吸情報の各データは、睡眠中に取得した全データの平均値で正規化したデータを使用することが好ましい。例えば、呼吸情報として呼吸数を睡眠状態推定モデル311に入力する場合は、取得した呼吸数の全データの平均との比(各呼吸数/平均値)を算出し、正規化された呼吸数を入力してもよい。
呼吸情報を取得するセンサとしては、例えば、呼吸センサ、心電図計測用センサ、脈波センサ、圧電センサ等の振動センサ、電磁波により胸郭の動きを検知できる電磁波呼吸センサ等を使用することができる。呼吸情報算出手段35は、例えば、呼吸センサで検出した呼吸パターンの時間変化の信号から、必要に応じてノイズ(例:いびき、寝言等に起因する信号)を取り除き、各種の呼吸情報を算出できる。
また、心電図計測用センサで検出した心電図波形、脈波センサで検出した脈波、振動センサで検出した生体振動信号については、呼吸情報算出手段35は、例えば、上限周波数が1Hz以下のローパスフィルタ(LPF)又はバンドパスフィルタ(BPF)を通過させて、呼吸成分を分離抽出し、さらに、分離抽出した呼吸成分に基づいて、各種の呼吸情報を算出できる。
【0026】
情報取得部2が情報取得手段として振動を計測する振動センサを含む場合、振動センサは、接触式でも非接触式でもよい。
接触型の振動を計測するセンサの場合は、動物に直接又は間接的に接触させて配置することによって、心弾動図波形又は生体振動信号を検出することができる。心弾動図波形又は生体振動信号を検出するための接触型の振動を計測するセンサは、振動を発生する種々の生物に直接又は近傍に配置され、生物からの振動を検出し電気信号として出力できれば足りる。
振動を計測するセンサとしては、圧電センサとしてピエゾ素子が好適に用いられるが、その他のセンサ、例えば高分子圧電体(ポリオレフィン系材料)を用いてもよい。ピエゾ素子の素材としては、例えば、多孔性ポリプロピレンエレクトレットフィルム(Electro Mechanical Film(EMF I))、またはPVDF(ポリフッ化ビニリデンフィルム)、またはポリフッ化ビニリデンと三フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TrFE))、又はポリフッ化ビニリデンと四フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TFE))を用いてもよい。圧電センサとしては、フィルム状であることが好ましい。
さらに、圧電センサの場合、動物を拘束せずに心弾動図波形又は生体振動信号を取得することが可能であり、よりストレスフリーで測定できるので好ましい。ただし、圧電センサは、リストバンド、ベルト、腕時計、指輪、ヘッドバンド等に取り付けて、動物に装着してウェアラブルセンサとして利用することもできる。
また、その他の種類の振動を計測するセンサとして、例えば、高感度の加速度センサを用いて、腕時計、携帯端末のように体と接触させて、あるいはベッド、椅子等の一部に加速度センサを設置して心弾動図波形又は生体振動信号を取得してもよいし、チューブ内の空気圧又は液体圧の変化を圧力センサ等で検知して、心弾動図波形又は生体振動信号を取得してもよい。
さらに、振動を計測するセンサとして、マイクロ波等を用いた信号受発信に伴って非接触で心弾動図波形又は生体振動信号を取得できる非接触式のセンサを利用してもよい。マイクロ波としてはマイクロ波ドップラーセンサ、UWB(ウルトラワイドバンド)インパルスの反射遅延時間を測定し、対象物との距離を測定する受信波による心弾動図波形又は生体振動信号、マイクロ波以外の電磁波を用いて得られた心弾動図波形又は生体振動信号、LED光を使った反射又は透過光から得られる心弾動図波形又は生体振動信号、さらには、超音波の反射波から得られる心弾動図波形又は生体振動信号を使用してもよい。これらのマイクロ波等を用いたセンサは、小型化が可能であり、非接触かつ非拘束で信号を取得でき、遠隔から信号を取得できる。なお、加速度センサも小型化が可能である。
【0027】
睡眠状態推定手段31は、睡眠状態推定モデル311を内蔵しており、
図2(A)に示すように、情報取得部2によって取得した情報を入力データとして睡眠状態推定モデル311に入力し、当該睡眠状態推定モデル311からの演算結果に基づいて出力された動物の睡眠状態を推定結果として取得する。
推定結果である睡眠状態は、必要に応じて出力部6を介して出力する。睡眠状態推定モデル311に入力する情報は、睡眠状態推定モデル311を作成する際に入力した情報であり、少なくとも位相コヒーレンス取得手段によって取得した位相コヒーレンスを含み、さらに、体動情報取得手段によって取得した体動情報、心拍情報取得手段によって取得した心拍情報、呼吸情報取得手段によって取得した呼吸情報、から選ばれた1つ以上のデータを含む。特に、睡眠状態推定モデル311は、位相コヒーレンス及び体動情報を入力して作成することが好ましく、さらに、位相コヒーレンスと体動情報とに加えて、2つ以上の心拍情報及び/又は2つ以上の呼吸情報を入力して作成してもよい。
例えば、位相コヒーレンス(λ)、単位時間(30秒)あたりの体動の頻度(BM)、心拍数(HR)、呼吸数(RR)の4つのデータによって睡眠状態推定モデル311を作成した場合、睡眠状態推定手段31は、情報取得部2で取得した、及び/又は情報処理部3で算出した4つのデータを睡眠状態推定モデル311に入力し、出力された睡眠状態を取得する。
【0028】
睡眠状態推定モデル311は、入力された位相コヒーレンスを含む複数のデータに基づいて、入力された複数のデータを取得した際の動物の睡眠状態がどの状態(覚醒状態、レム睡眠状態、ノンレム睡眠状態又はその段階(N1,N2,N3))かを演算して推定する情報(プログラム又はデータ構造)である。
また、睡眠状態推定モデル学習手段36は、
図2(B)に示すように、睡眠状態推定モデル311を作成する際に使用され、睡眠状態と、対応する位相コヒーレンスと、追加の入力データとを含む基礎データベース41に基づいて機械学習を用いることにより睡眠状態推定モデル311を作成する。
すなわち、基礎データベース41に蓄積された睡眠状態と、対応する位相コヒーレンスと、追加の入力データとを含むビッグデータから、必要なデータを睡眠状態推定モデル311に入力し、学習させる。例えば、睡眠状態推定モデル学習手段36は、睡眠状態取得手段26で取得した睡眠状態と、睡眠状態と同一時系列で測定したデータから算出した位相コヒーレンスとを含み、さらに、睡眠状態と同一時系列で測定した体動情報取得手段によって取得した体動情報、心拍情報取得手段によって取得した心拍情報、呼吸情報取得手段によって取得した呼吸情報の1つ以上のデータとを睡眠状態推定モデル311に入力する。
機械学習に用いられる学習方法の例としては、単純ベイズ分類器、ニューラルネットワーク、ディープラーニング、決定木、サポートベクターマシン、判別分析、最近傍法等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてアンサンブル学習法を用いてもよい。
機械学習に用いられるニューラルネットワークの例としては、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)や、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)や、長期・短期記憶(LSTM:Long Short-Term Memory)ニューラルネットワーク(長期的な依存関係を学習することが可能な再帰型ニューラルネットワーク)等が挙げられる。睡眠状態の状態遷移傾向を捉えるためには、学習方法として再帰的な結合をもつニューラルネットワーク(CNN、LSTM)を用いることが好ましい。
【0029】
記憶部4は、情報取得部2で取得した情報や、情報処理部3で算出した結果、判定機能で判定した結果などを記憶することができ、基礎データベース41を有している。
基礎データベース41は、ビッグデータとして、動物の睡眠中に取得した睡眠状態と、前記睡眠状態と同一時系列で測定したデータから算出した位相コヒーレンスと、前記睡眠状態と同一時系列で測定した体動情報、心拍情報及び/又は呼吸情報とが格納されている。
さらに、基礎データベース41には、測定対象となる動物の種類、性別、年齢、身長、体重などの身体情報や、測定日の日付、睡眠時間、就寝時刻、起床時刻、季節などの時間情報、測定場所の気温、湿度、天気、騒音などの環境情報を含んでいてもよい。
基礎データベース41に格納されている個々の睡眠状態と、その状態に対応する位相コヒーレンスと、各種の体動情報、心拍情報及び/又は呼吸情報とは、睡眠状態推定モデル311の学習に使用される。
さらに、身体情報、時間情報、及び/又は環境情報も特徴変数として睡眠状態推定モデル311に入力してもよい。
また、身体情報、時間情報、及び/又は環境情報に応じて複数の睡眠状態推定モデル311を作成してもよく、例えば、年代別(10代、20代、30~50代)成人男性を対象とする睡眠状態推定モデル、昼間に睡眠した場合の睡眠状態推定モデル、最低気温が25度以上の熱帯夜における睡眠状態推定モデル等を作成し、睡眠状態を推定する測定対象の状況に応じて睡眠状態推定モデルを変更してもよい。
【0030】
操作部5は、使用者が睡眠状態測定装置1を操作するためのスイッチ、タッチパネル、ボタン、つまみ、キーボード、マウス、音声入力用マイク等の操作端子が設けられている。また操作部5には、操作内容等を表示するディスプレイが設けられていてもよい。
出力部6は、推定した睡眠状態を出力してもよいし、取得した各種情報を出力してもよい。出力部6としては、結果を画像で表示するディスプレイ、結果を紙で出力するプリンター、結果を音声で出力するスピーカー、結果を電子情報で出力する有線又は無線の出力端子などを使用することができる。
なお、出力部6としてのディスプレイを操作部5におけるタッチパネルや操作内容等を表示するディスプレイと兼用させる構成であってもよい。
【0031】
図3(A)は、睡眠状態推定システム1の一実施態様における睡眠状態推定処理のフローチャートである。S1において、睡眠状態推定システム1は、情報取得部2によって位相コヒーレンス及び睡眠状態推定モデル311に入力する同一時系列のデータを取得する。S2において、睡眠状態推定手段31は、位相コヒーレンス及び取得したデータを睡眠状態推定モデル311に入力する。S3において、睡眠状態推定モデル311は、入力された位相コヒーレンス及びデータから、最も確率の高い動物の睡眠状態を演算する。S4において、睡眠状態推定モデル311は、演算の結果、入力された位相コヒーレンス及びデータを測定した時の動物の最も尤度の高い睡眠状態であると推定して出力する。
【0032】
図3(B)は、睡眠状態推定システム1の他の実施態様における睡眠状態推定処理のフローチャートである。
S11において、睡眠状態推定システム1は、振動センサで検出した動物の生体振動信号を取得する。
S12において、情報処理部3は、取得した生体振動信号から各種情報を算出する。体動情報算出手段33は、生体振動信号から体動情報を算出し、心拍情報算出手段34は、生体振動信号から心拍情報として少なくとも心拍数と心拍間隔の変動の瞬時位相を算出し、呼吸情報算出手段35は、生体振動信号から呼吸情報として少なくとも呼吸数と呼吸パターンの瞬時位相を算出する。
S13において、位相コヒーレンス算出手段32は、心拍情報算出手段34及び呼吸情報算出手段35で算出した心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相とから、それらの瞬時位相差の位相コヒーレンスを算出する。
S14において、算出した心拍情報及び呼吸情報を睡眠中のデータの全部の平均値で正規化する。正規化処理は、情報処理部2において実行され、基礎データベース41に格納された睡眠中の全データから平均値を算出し、算出した平均値により心拍情報及び呼吸情報を正規化する。
その後、S15において、睡眠状態推定手段31は、位相コヒーレンス、正規化した心拍情報、呼吸情報および体動情報のうち少なくとも2つを睡眠状態推定モデル311に入力する。
S16において、睡眠状態推定モデル311は、入力された位相コヒーレンス、正規化した心拍情報、呼吸情報および体動情報のうち少なくとも2つから、最も尤度の高い動物の睡眠状態を演算する。
S17において、睡眠状態推定モデル311は、演算の結果、最も尤度の高かった睡眠状態を入力された位相コヒーレンス、心拍情報、呼吸情報および体動情報を測定した時の動物の睡眠状態であると推定して出力する。
【0033】
実施例1
本実施例では、双方向長期・短期記憶(BiLSTM:Bidirectional Long Short-Term Memory)ニューラルネットワークに基づいて学習させた睡眠状態推定モデル311を用いて睡眠状態を推定した。
BiLSTMニューラルネットワークは、短期記憶と長期記憶とを関連させることにより、双方向の長期的な依存関係を学習できるようにしたモデルである。本実施例のBiLSTMの構造は、入力層としてsequence input、中間層としてBiLSTM3層、出力層として6段階(LV、WK、REM、N1、N2、N3)の分類出力とし、各BiLSTM層には128個の隠れユニットを設定した。
実証試験では、8人の各被験者について、睡眠ポリグラフィ検査と同時に取得した生体振動信号から、位相コヒーレンス(λ)、体動情報(BM)、心拍数(HR)及び呼吸数(RR)を取得し、睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階を教師データとして、睡眠状態推定モデル311の機械学習をLeave-one-out法により行った。
ここで、睡眠ポリグラフィ検査と同時にとは、生体振動信号の取得開始時刻と取得時間が睡眠ポリグラフィ検査と同じであることを意味する。
医学的に確立している睡眠ポリグラフィ検査は、脳波(EEG)、眼電図(EOG)、筋電図(EMG)、心電図(ECG)、口鼻気流等を記録する。記録終了後に、30秒を1エポックとして、エポックごとに専門家が国際的に使用されている睡眠段階判定基準に基づいて、上記のような睡眠段階を判定する。
本発明に係る睡眠状態推定モデル311の機械学習においては、この睡眠段階を教師データとし、各種の記録のうち、生体振動信号(筋電図(EMG)、心電図(ECG)、口鼻気流)から位相コヒーレンス(λ)、体動情報(BM)、心拍数(HR)及ひ呼吸数(RR)を取得した。
【0034】
次に、上記の睡眠状態推定モデル311に、位相コヒーレンス(λ)、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、体動情報(BM)を入力データとして推定した睡眠状態について説明する。
[1-1 BCGから得たλ、HR、RR、BMを入力データとした場合]
睡眠状態の推定においては、上記機械学習で得られた睡眠状態推定モデル311に、生体振動信号(BCG)から得られた位相コヒーレンス(λ)、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、体動情報(BM)を入力データとして使用する。
図7は、振動センサで取得した生体振動信号(BCG)から得られた心拍数(HR)、呼吸数(RR)、位相コヒーレンス(λ)、体動(BM)の10s移動平均を示す信号の一例である。
図8は、睡眠状態推定モデル311を使用して睡眠状態を推定するときの入力データと、睡眠ポリグラフィ検査(PSG)によって判定された睡眠段階の一例である。いずれの入力データも、教師データの時間間隔に合わせるために、
図7に示す生体振動信号(BCG)から得られた情報を、30s間隔でリサンプリングして睡眠状態推定モデル311に入力して、睡眠状態の推定を行った。
図8の最上段は、睡眠ポリグラフィ検査(PSG)によって判定された睡眠段階であり、機械学習により得られた睡眠状態推定モデル311による推定結果を評価するときの正解データとなる。
上から2段目は、圧電センサで得られた生体振動信号(BCG)から得られた心拍数(HR)である。BCG信号の心拍動成分を抽出するために、5~15Hzのバンドパスフィルタを通して絶対値化し、時定数0.2sのスムージング処理をし、低周波のドリフトを抑えるために0.3Hzのハイパスフィルタを通して得られた信号を心電図の推定装置に入力して推定心電図を得、その推定心電図の信号のピークを計数して心拍数(HR)を得た。
【0035】
ここで、推定心電図信号を得る手段について説明する。
まず、心電図計で取得した心電図信号を取得し、同一時系列の生体振動信号(BCG)を圧電センサで取得する。心電図信号を教師データとし、生体振動信号(BCG)に所定の処理が施されたモデル入力信号(生体振動信号(BCG)、生体振動信号(BCG)の微分信号、生体振動信号(BCG)から抽出された拍動振動信号、前記拍動振動信号の微分信号等)を入力して機械学習することにより推定モデルを生成する。
振動センサで取得した生体振動信号(BCG)(
図6の上から3段目)に5~15Hzのバンドパスフィルタを通して絶対値化し、時定数0.2sのスムージング処理をし、低周波のドリフトを抑えるために0.3Hzのハイパスフィルタを通して得られた信号(
図6の上から2段目)を心電図の推定モデルに入力して推定された心電図を得て(
図6の最上段)、その推定心電図のピークを計数して心拍間隔を得たものである(
図6の最下段)。
【0036】
図8の上から3段目は、圧電センサで得られた生体振動信号(BCG)から得られた呼吸数(RR)である。
下から2段目は、心拍間隔の変動の瞬時位相と呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて算出した位相コヒーレンス(λ)である。
最下段は、生体振動信号(BCG)から得られた体動情報(BM)である。
いずれの入力データも、教師データの時間間隔に合わせるために、30s間隔でデータをサンプリングしている。
図10(A)は、睡眠状態の実測値であり、
図10(B)は、上記BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させた睡眠状態推定モデル311に対し、生体振動信号(BCG)から得られた位相コヒーレンス(λ)、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、体動情報(BM)を入力した時の推定結果であり、
図10(C)は、その推定結果と真値(実測値)との混同行列である。
図10(C)に示すとおり、一致率は86.9%であり、Cohen’s Kappa係数は0.460と中程度の一致の評価となった。このように、BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させたモデルにおいて、良好な睡眠状態の推定が可能であった。
【0037】
推定精度は、線形重み付き一致度ならびにCohen’s kappa係数で評価した。ここで、線形重み付き一致度とは、完全に一致した場合だけではなく、一致していない場合も考慮した一致度であり、本実施例では一次の重み付けとし、k段階の推定で、推定結果がi段階、真値がj段階のとき重み係数は1―|i-j|/(k-1)となる。つまり、6段階の睡眠状態(LV、WK、REM、N1、N2、N3)について、推定結果(推定した睡眠状態)と真値(実測の睡眠状態)とが一致(i=j)していれば1、1段階(|i-j|=1)ずれていれば4/5(0.8)、2段階(|i-j|=2)ずれていれば3/5、3段階(|i-j|=3)ずれていれば2/5、4段階(|i-j|=4)ずれていれば1/5、5段階(|i-j|=5)ずれていれば0となる。
また、Cohen’s Kappa係数κは、推定結果(推定した睡眠状態)と真値(実測の睡眠状態)の一致度を評価する指標であり、κ=(Po-Pe)/(1-Pe)(ただし、Po:観測された重み付け一致度の割合、Pe:偶然一致する割合)で算出される。評価の指標としては、次のとおりである。
κ<0:ほとんど一致していない(poor)
0<κ≦0.2:わずかに一致(slight)
0.2<κ≦0.4:一応一致(fair)
0.4<κ≦0.6:中程度一致(moderate)
0.6<κ≦0.8:実質的に一致(substantial)
0.8<κ:完全一致(perfect
【0038】
[1-2 ECGから得たHRを入力データとした場合]
次に、心電図(ECG)から得られた心拍間隔の変動の瞬時位相と圧電センサで得られた生体振動信号(BCG)から得られた呼吸数(RR)から算出された呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて算出した位相コヒーレンス(λ)と、ECGから得られた心拍数(HR)と、BCGから得られた呼吸数(RR)と体動(BM)を入力データとして、睡眠状態を推定した。
図9は、睡眠状態推定モデル311を使用して睡眠状態を推定するときの入力データと、睡眠ポリグラフィ検査(PSG)によって判定された睡眠段階の一例である。
図9の最上段は、睡眠ポリグラフィ検査(PSG)により判定された睡眠段階であり、機械学習により得られた睡眠状態推定モデル311による推定結果を評価するときの正解データとなる。
図9の上から2段目は、心電図(ECG)から得られた心拍数(HR)である。
図9の上から3段目は、圧電センサで得られた生体振動信号(BCG)から得られた呼吸数(RR)である。
下から2段目は、心電図(ECG)から算出された心拍間隔の変動の瞬時位相と圧電センサで得られた生体振動信号(BCG)から抽出した呼吸パターンの瞬時位相との間の瞬時位相差に基づいて算出した位相コヒーレンス(λ)である。
最下段は、生体振動信号(BCG)から得られた体動(BM)の信号である。
いずれの入力データも、教師データの時間間隔に合わせるために、30s間隔でデータをサンプリングしている。
図11(A)は、睡眠状態の実測値であり、
図11(B)は、上記BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させた睡眠状態推定モデル311に対し、ECGに基づく位相コヒーレンス、呼吸数、心拍数と、BCGに基づく体動(BM)を入力した時の推定結果であり、
図11(C)は、その推定結果と真値(実測値)との混同行列である。
図11(C)に示すとおり、一致率は88.4%であり、Cohen’s Kappa係数は0.545と中程度一致の評価となった。このように、BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させたモデルにおいて、実質的な睡眠状態の推定が可能であった。
【0039】
実施例2[BCGから得たλ、RR、BMを入力データとした場合]
各被験者について、睡眠ポリグラフィ検査と同時に取得した生体振動信号から、位相コヒーレンス(λ)、体動情報(BM)及び呼吸数(RR)を取得し、睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階を教師データとして、睡眠状態推定モデル311の機械学習をLeave-one-out法により行った。
図12(A)は、睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)であり、
図12(B)は、上記BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させた睡眠状態推定モデル311に対し、生体振動信号(BCG)から得られた位相コヒーレンス(λ)、呼吸数(RR)、体動情報(BM)を入力した時の推定結果であり、
図12(C)は、その推定結果と真値(実測値)との混同行列である。
図12(C)に示すとおり、一致率は81.3%であり、Cohen’s Kappa係数は0.356と一応一致の評価となった。このように、BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させたモデルにおいて、入力データが3つでも実質的な睡眠状態の推定が可能であった。
【0040】
実施例3[BCGから得たλ、HR、BMを入力データとした場合]
各被験者について、睡眠ポリグラフィ検査と同時に取得した生体振動信号から、位相コヒーレンス(λ)、体動情報(BM)及び心拍数(HR)を取得し、睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階を教師データとして、睡眠状態推定モデル311の機械学習をLeave-one-out法により行った。
図13(A)は、睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)であり、
図13(B)は、上記BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させた睡眠状態推定モデル311に対し、生体振動信号(BCG)から得られた位相コヒーレンス(λ)、心拍数(HR)、体動情報(BM)を入力した時の推定結果であり、
図13(C)は、その推定結果と真値(実測値)との混同行列である。
図13(C)に示すとおり、一致率は84.9%であり、Cohen’s Kappa係数は0.494と中程度の一致の評価となった。このように、BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させたモデルにおいて、入力データが3つでも実質的な睡眠状態の推定が可能であった。
【0041】
実施例4 [BCGから得たλ、BMを入力データとした場合]
各被験者について、睡眠ポリグラフィ検査と同時に取得した生体振動信号から、位相コヒーレンス(λ)、体動情報(BM)を取得し、睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階を教師データとして、睡眠状態推定モデル311の機械学習をLeave-one-out法により行った。
図14(A)は、睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階(実測値)であり、
図14(B)は、上記BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させた睡眠状態推定モデル311に対し、生体振動信号(BCG)から得られた位相コヒーレンス(λ)、体動情報(BM)を入力した時の推定結果であり、
図14(C)は、その推定結果と真値(実測値)との混同行列である。
図14(C)に示すとおり、一致率は76.6%であり、Cohen’s Kappa係数は0.207と一応一致の評価となった。このように、BiLSTMニューラルネットワークに基づいて学習させたモデルにおいて、入力データが2つでも実質的な睡眠状態の推定が可能であった。
【0042】
実施例5[生体振動信号(BCG)にCWT処理して心拍数(HR)得た場合]
生体振動信号(BCG)にCWT(Continuous Wavelet Transform)処理を行い、得られた周波数成分(
図5の2段目)のうち5~15Hzの成分を積算して得られた信号(
図5の3段目)から心拍間隔(
図5の最下段)を得た。
以降は、実施例1、実施例3の場合と同様にして、睡眠状態を推定することができる。
【0043】
実施例6[生体振動信号(BCG)にバンドパスフィルタによる処理をして心拍数(HR)を得た場合]
生体振動信号(BCG)を5~15Hzのバンドパスフィルタを通し、時定数0.1sの全波整流積分をし、0.3Hzのハイパスフィルタを通して心拍間隔(
図4の最下段)を得た。以降は、実施例1、実施例3の場合と同様にして、睡眠状態を推定することができる。
【0044】
本実施例において、心拍数(HR)と呼吸数(RR)のいずれか一方または両方の標準偏差を使用すると、睡眠状態の推定精度を向上させることが可能である。
また、脈波、心音図に基づいて、位相コヒーレンス、心拍数、呼吸数を得、これらに基づいて推定時に睡眠状態推定モデル311に入力するデータを得ることも可能である。
さらには、一旦機械学習をした睡眠状態推定モデル311は、実際に睡眠状態を推定することと並行して、新たな睡眠ポリグラフィ検査によって判定された睡眠段階を教師データとして、その睡眠ポリグラフィ検査と同時に取得された生体振動信号から取得された位相コヒーレンス、体動、心拍数、呼吸数のうち少なくとも2つを入力データとして、さらに機械学習を行ってその推定性能を向上させることができる。
さらには、本実施例では、ヒトを対象としているが、対象は人に限らず、犬や猫等のペットなど幅広い動物に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 睡眠状態測定システム
2 情報取得部
3 情報処理部
4 記憶部
5 操作部
6 出力部
22 位相コヒーレンス取得手段
23 体動情報取得手段
24 心拍情報取得手段
25 呼吸情報取得手段
26 睡眠状態取得手段
31 睡眠状態推定手段
32 位相コヒーレンス算出手段
33 体動情報算出手段
34 心拍情報算出手段
35 呼吸情報算出手段
36 睡眠状態推定モデル学習手段
41 基礎データベース
311 睡眠状態推定モデル