(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】アルデヒド系ガス検出用材料及びノナナールガス検出用材料
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20230626BHJP
C03C 3/06 20060101ALI20230626BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20230626BHJP
C03C 3/076 20060101ALI20230626BHJP
C03C 11/00 20060101ALI20230626BHJP
G01N 33/497 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
G01N31/00 V
C03C3/06
C03C3/083
C03C3/076
C03C11/00
G01N33/497 A
(21)【出願番号】P 2019019353
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018132856
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 容子
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-274288(JP,A)
【文献】特開2010-261811(JP,A)
【文献】特開2003-254959(JP,A)
【文献】特開2018-035025(JP,A)
【文献】宇尾基弘、牧島亮男,特集 無機質多孔材料 多孔質ガラスの合成と応用,石膏と石灰,日本,1992年,Vol.240, Page.382-388,DOI https://doi.org/10.11451/mukimate1953.1992.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00-31/22
C03C 3/06
C03C 3/083
C03C 3/076
C03C 11/00
G01N 33/497
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する多孔体と、前記細孔内に担持されたアルカリ性化合物、及びガス検知剤とを有し、
前記多孔体が、質量%で、SiO
2 85~100%を含有する多孔質ガラスであり、
前記ガス検知剤が、バニリン、及び/又はバニリンの誘導体であることを特徴とする
アルデヒド系ガス検出
用材料。
【請求項2】
前記アルカリ性化合物が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1に記載の
アルデヒド系ガス検出
用材料。
【請求項3】
前記アルデヒド系ガスが肺がん患者の呼気に含まれるアルデヒド系ガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルデヒド系ガス検出用材料。
【請求項4】
前記アルデヒド系ガスがノナナールガスであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のアルデヒド系ガス検出用材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルデヒド系ガス検出用材料であることを特徴とするノナナールガス検出用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出材料に関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんは、死亡率が最も高いがんのひとつである。それは現状の主な検査方法である胸部エックス線撮影では、肺がんの早期発見が困難なことによるものである。そこで、呼気から肺がん患者に特異的に増加する成分を分析することにより、肺がんを早期診断する方法が検討されている。
【0003】
例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)を用いて、肺がん患者の呼気を分析した結果、健常者と比較し、ノナナール等のアルデヒド系ガスが高濃度で含まれているといった結果が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】半田、宮澤、肺がんの呼気分析による診断、医学のあゆみ、Vol.240、No.11、933-935(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、GC-MSは、大がかりで非常に高価であり、分析に長時間を要するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、小型かつ安価で、アルデヒド系ガスを検出することが可能なガス検出材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス検出材料は、細孔を有する多孔体と、細孔内に担持されたアルカリ性化合物、及びガス検知剤とを有することを特徴とする。多孔体の細孔内に担持されたガス検知剤が、触媒であるアルカリ性化合物下にてアルデヒド系ガスと反応すると、ガス検知剤の特定波長での吸光度が変化する。この吸光度の変化を測定することにより、アルデヒド系ガスを検出することができる。
【0008】
本発明のガス検出材料は、多孔体が、質量%で、SiO2 85~100%を含有する多孔質ガラスであることが好ましい。
【0009】
本発明のガス検出材料は、アルカリ性化合物が、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0010】
本発明のガス検出材料は、ガス検知剤が、バニリン、及び/又はバニリンの誘導体を含むことが好ましい。
【0011】
本発明のガス検出材料は、アルデヒド系ガス検出用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小型かつ安価で、アルデヒド系ガスを検出することが可能なガス検出材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のガス検出材料について説明する。
【0014】
本発明のガス検出材料は、細孔を有する多孔体と、アルカリ性化合物、及びガス検知剤とを有する。アルカリ性化合物とガス検知剤の双方が、多孔体の細孔内に担持されている。
【0015】
以下に各構成要素ごとに説明する。
【0016】
(多孔体)
上述した通り、ガス検知剤の特定波長での吸光度の変化を測定することにより、アルデヒド系ガスを検出するため、多孔体には高い光透過率が要求される。そのため、多孔体は、高い光透過率を有する多孔質ガラスであることが好ましい。なお、光透過率の点で多孔質ガラスには劣るが、多孔質高分子材料、多孔質セラミック、シリカゲル等を多孔体として使用しても構わない。
【0017】
以下に多孔質ガラスの製造方法について説明する。
【0018】
まず、以下のようにして多孔質ガラス用ガラス母材を用意する。質量%で、SiO2 40~80%、B2O3 0超~40%、Na2O 0超~20%、ZrO2 0~10%、Al2O3 0~5%、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有し、質量比でNa2O/B2O3が0.25~0.5のガラス組成になるように、ガラス原料を調合する。以下に、各成分の含有量を上記のように特定した理由を説明する。なお、特に断りがない場合、以下の成分含有量に関する説明において、「%」は「質量%」を意味する。
【0019】
SiO2はガラスネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量は40~80%、45~75%、50~70%、特に52~65%であることが好ましい。SiO2の含有量が少なすぎると、耐候性や機械的強度が低下する傾向がある。一方、SiO2の含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0020】
B2O3はガラスネットワークを形成し、分相を促進する成分である。B2O3の含有量は0超~40%、10~30%、特に20~25%であることが好ましい。B2O3を含有していないと、上記効果が得にくい。一方、B2O3の含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。
【0021】
B2O3/SiO2は0.3~0.5、0.35~0.48、0.38~0.46、特に0.4~0.45であることが好ましい。B2O3/SiO2が小さすぎると、後述するアルカリ水溶液にてSiO2コロイドを除去する工程において、内部応力が発生しやすくなるため多孔質ガラスに割れが発生しやすくなる。一方、B2O3/SiO2が大きすぎると、後述するアルカリ水溶液にてSiO2コロイドを除去する工程において、機械的強度が低下しやすくなるため多孔質ガラスに割れが発生しやすくなる。なお、「B2O3/SiO2」は、B2O3の含有量をSiO2の含有量で除した値を指す。
【0022】
Na2Oは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに分相を促進させる成分である。Na2Oの含有量は0超~20%、3~10%、特に4~8%であることが好ましい。Na2Oを含有していないと、上記効果が得にくい。一方、Na2Oの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0023】
Na2O/B2O3は0.25~0.5、0.28~0.4、特に0.3~0.35であることが好ましい。Na2O/B2O3が小さすぎると、後述する酸にて酸化ホウ素リッチ相を除去する工程において、酸化ホウ素リッチ相を除去し難くなる。一方、Na2O/B2O3が大きすぎると、シリカゲルの水和による膨張量が、シリカリッチ相中からNa2Oが溶出することによる収縮量より小さくなりやすく、多孔質ガラスに割れが発生しやすくなる。
【0024】
ZrO2は耐候性を向上する成分である。なお、多孔質ガラスとアルカリ性化合物が反応すると、当該反応にアルカリ性化合物が消費されてしまい、多孔質ガラス内に担持されるアルカリ性化合物の量が低減し、その結果ガス検知材料の機能が低下するおそれがある。一方、多孔質ガラスにZrO2を含有させることにより、多孔質ガラスの耐アルカリ性が向上するため、上記のような不具合が発生しにくくなる。ZrO2の含有量は0~10%、1~10%、3超~10%、4~8%、特に5~7%であることが好ましい。ZrO2の含有量が多すぎると、失透しやすくなると共に分相しにくくなる。
【0025】
Al2O3は耐候性や機械的強度を向上させる成分である。Al2O3の含有量は0~5%、2~5%、特に3~4%であることが好ましい。Al2O3の含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0026】
RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)は、シリカリッチ相のZrO2含有量を増加し、耐候性を向上させる成分である。ROの含有量(MgO、CaO、SrO、BaOの合量)は0~20%、0.5~20%、1~17%、3~15%、4~13%、特に5~10%であることが好ましい。ROの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。なお、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量は各々0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、特に5~10%であることが好ましい。なかでも耐候性を向上させる効果が特に大きいという点でCaOを使用することが好ましい。
【0027】
本発明の多孔質ガラス用ガラス母材には、上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0028】
K2Oは、溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに分相を促進させる成分である。K2Oの含有量は0~20%、3~10%、特に4~8%であることが好ましい。K2Oの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0029】
ZnOは、シリカリッチ相におけるZrO2含有量を増加し、耐候性を向上させる成分である。ZnOの含有量は、0~20%、0~10%、特に0~3%未満であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0030】
上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で種々の成分を含有させることができる。例えば、TiO2、La2O3、Ta2O5、TeO2、Nb2O5、Gd2O3、Y2O3、Eu2O3、Sb2O3、SnO2、P2O5及びBi2O3等をそれぞれ15%以下、さらには10%以下、特に5%以下、合量で30%以下の範囲で含有させてもよい。
【0031】
次に、調合したガラスバッチを、1300~1500℃で4~12時間溶融する。次いで、溶融ガラスを板状に成形した後、400~600℃で10分~10時間徐冷を行いガラス母材を得る。得られたガラス母材の形状は特に限定されないが、表面形状が矩形や円形の板状であることが好ましい。なお、得られたガラス母材を所望の形状にするために、切削、研磨等の加工を施しても構わない。また、耐火物炉による連続生産でも構わない。ガラスの溶融および成形の方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【0032】
得られたガラス母材は、アスペクト比が2~1000、特に5~500であることが好ましい。アスペクト比が小さすぎると、後述する酸にて酸化ホウ素リッチ相を除去する工程において、ガラス母材の表面と内部にて酸化ホウ素リッチ相を除去する速度に大きな差が出るため、応力が発生しやすく多孔質ガラスが割れやすくなる。一方、アスペクト比が大きすぎると、取り扱いにくくなる。なお、アスペクト比は下記の式により算出する。
【0033】
アスペクト比=(ガラス母材の底面積)1/2/ガラス母材の厚み
【0034】
なお、得られたガラス母材の底面積と厚みは、上記アスペクト比となるように適宜調整すればよい。例えば、底面積は1~1000mm2、特に5~500mm2であることが好ましく、厚みは0.1~1mm、特に0.2~0.5mmであることが好ましい。
【0035】
次に、得られたガラス母材を熱処理し、シリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分相させる。熱処理温度は、500~800℃、特に600~700℃であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、ガラス母材が軟化し、所望の形状を得にくくなる。一方、熱処理温度が低すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間は、10分以上、1時間以上、特に3時間以上であることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間の上限は特に限定されないが、長時間熱処理しても分相はある一定以上は進まなくなるため、現実的には、180時間以下である。
【0036】
次に、2相に分相させたガラス母材を酸に浸漬させ、酸化ホウ素リッチ相を除去し、多孔質ガラスを得る。酸としては、塩酸、硝酸を用いることができる。なお、これらの酸を混合して用いてもよい。酸の濃度は0.1~5規定、特に0.5~3規定であることが好ましい。酸の浸漬時間は1時間以上、10時間以上、特に20時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、多孔質ガラスを得にくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には、100時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、多孔質ガラスを得にくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には、95℃以下である。
【0037】
なお、ガラス母材を熱処理し、シリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分相させる工程において、ガラス母材の最表面にシリカ含有層(シリカを概ね80質量%以上含有する層)が形成される傾向がある。シリカ含有層は酸で除去し難いため、シリカ含有層が形成された際は、分相させたガラス母材を切削、研磨し、シリカ含有層を除去した後に酸に浸漬させると、酸化ホウ素リッチ相を除去しやすくなる。
【0038】
さらに、得られた多孔質ガラスの細孔中に残留するZrO2コロイド、SiO2コロイドを除去することが好ましい。以下に、ZrO2コロイド、SiO2コロイドの除去方法を説明するが、これらの方法に限定されるものではない。
【0039】
ZrO2コロイドは、例えば硫酸にて除去することができる。硫酸の濃度は0.1~5規定、特に1~5規定であることが好ましい。硫酸の浸漬時間は1時間以上、特に10時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、ZrO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には、100時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、ZrO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には、95℃以下である。
【0040】
SiO2コロイドは、例えばアルカリ水溶液にて除去することができる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。なお、これらのアルカリを混合して用いてもよい。アルカリ水溶液の浸漬時間は10分間以上、特に30分間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、SiO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には、100時間以下である。浸漬温度は15℃以上、特に20℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、SiO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には、95℃以下である。
【0041】
得られた多孔質ガラスは、質量%で、SiO2 85~100%を含有することが好ましい。その他の成分として、Al2O3やZrO2等を含有しても構わない。
【0042】
多孔質ガラスの細孔分布の中央径は、1~100nm、4~90nm、特に7~80nmであることが好ましい。細孔分布の中央径が小さすぎると、細孔内へのガスの拡散が著しく困難となる。一方、細孔分布の中央径が大きすぎると、光透過性が低下する傾向がある。また、細孔は、真球状、略楕円体、チューブ状等の様々な形状を有する。なお、多孔質ガラスの厚み、アスペクト比は、ガラス母材と同等である。
【0043】
多孔質ガラスは、波長400nmにおける厚み0.5mmでの光透過率が0.02%以上、0.05%以上、特に0.1%以上であることが好ましい。光透過率が低すぎると、ガス検出材料の多孔体として使用することが困難となる傾向がある。
【0044】
(アルカリ性化合物)
アルカリ性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩等を使用することができる。なかでも、触媒能力が高い水酸化ナトリウムを使用することが好ましい。
【0045】
(ガス検知剤)
ガス検知剤としては、吸収波長が350~750nmにあり、アルカリ性化合物下でアルデヒド系ガスと反応し、吸光度が変化するものであれば特に限定されないが、バニリン、及び/又はバニリン誘導体を使用することが好ましい。バニリン、及び/又はバニリン誘導体は、室温で揮発しないため取り扱いやすいという利点がある。なお、これ以外のガス検知剤を使用することも可能である。
【0046】
次に、本発明のガス検出材料の製造方法の一例について説明する。
【0047】
まず、アルカリ性化合物、及びガス検知剤を水等の溶媒と混合し、アルカリ性化合物、及びガス検知剤を含んだ混合液を得る。混合液中におけるアルカリ性化合物の濃度は0.1~10規定、特に0.25~5規定が好ましい。アルカリ性化合物の濃度が低すぎると、ガスとガス検知剤との反応が十分進まない虞がある。一方、アルカリ性化合物の濃度が高すぎると、多孔体と反応しやすくなり、多孔体の機械的強度が低下する虞がある。
【0048】
ガス検知剤の添加量(混合液中における含有量)は、多孔体に対する質量比で、ガス検知剤/多孔体=0.01~100、特に0.1~10が好ましい。ガス検知剤の添加量が少なすぎると、ガス検出材料の機能が不十分になる傾向がある。一方、ガス検知剤が多すぎると、多孔体の細孔を塞いでしまう虞があり、この場合もガス検出材料の機能が不十分になる傾向がある。
【0049】
次に、得られた混合液中に、多孔体を浸漬させることにより、多孔体の細孔内にアルカリ性化合物、及びガス検知剤が担持されたガス検出材料を得る。なお、0.01~100L(好ましくは0.1~10L)の混合液に対して、0.01g~10kg(好ましくは10g~10kg)の多孔体を浸漬させることが好ましく、浸漬時間は、1分~50時間であることが好ましい。なお、多孔体を浸漬させた後、自然乾燥等により水分を揮発させても構わない。
【0050】
アルカリ性化合物及びガス検知剤の担持は、多孔体を上記混合液に複数回浸漬させることにより行ってもよい。この場合、浸漬工程の後段になる程、混合液におけるアルカリ性化合物の濃度を高くすることが好ましい。これにより、浸漬工程の前段でアルカリ性化合物と多孔体の反応生成物(例えばケイ酸水和物)が、ガス検知剤の担持を阻害することをより一層確実に抑制できる。例えば多孔体を、まず0.01~0.5規定の濃度のアルカリ性化合物とガス検知剤の混合液に浸漬し、次に0.1~10規定の濃度のアルカリ性化合物とガス検知剤の混合液に浸漬することが好ましい。
【0051】
また、アルカリ性化合物とガス検知剤を別々に担持させてもよい。具体的には、ガス検知剤を水等の分散媒と混合し、ガス検知剤分散液を得る。得られた分散液中に、多孔体を浸漬することにより、ガス検知剤が担持された多孔体を得る。続いて、アルカリ性化合物を水等の溶媒と混合し、アルカリ性化合物溶液を得る。得られた溶液中に、ガス検知剤が担持された多孔体を浸漬することにより、ガス検知剤及びアルカリ性化合物が担持されたガス検出材料を得る。これにより、多孔体とアルカリ性化合物の反応生成物が、ガス検知剤の担持を阻害することをさらに一層確実に防止できるといった効果が得られる。
【0052】
次に、アルデヒド系ガスを検出する方法について説明する。
【0053】
まず、ガス検出材料の特定波長での吸光度を分光光度計等により測定する。
【0054】
次に、ガス検出材料を測定ガスが封入されたテトラバック等に入れ、1分~5時間放置することにより、ガス検出材料に測定ガスを暴露させる。なお、ガス検出材料と測定ガスとの反応を促進させるために、暴露後のガス検出材料を50~200℃にて5分~1時間加熱しても構わない。
【0055】
次いで、暴露後のガス検出材料の特定波長での吸光度を分光光度計等により測定し、先に測定したガス検出材料の吸光度と異なれば、測定ガス中にアルデヒド系ガスが含まれていることになる。なお、あらかじめアルデヒド系ガスの量が既知の標準ガスを用いて、検量線を作成すれば、暴露前後でのガス検出材料の吸光度の差から、アルデヒド系ガスの量を求めることも可能である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
(多孔質ガラスの作製)
まず、質量%で、SiO2 53%、B2O3 23%、Na2O 7%、ZrO2 6%、Al2O3 3%、CaO 8%のガラス組成になるように調合した原料を白金坩堝に入れた後、1400℃で6時間溶融した。ガラスバッチの溶融に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出して、板状に成形した後、500℃で30分間徐冷しガラス母材を得た。
【0058】
得られたガラス母材を電気炉にて675℃で72時間熱処理し、分相させた。分相後のガラス母材を、切削、研磨し、5mm×5mm×0.5mm(厚み)にした。次いで、1規定の硝酸(90℃)中に48時間浸漬した後、3規定の硫酸(90℃)中に48時間浸漬した。その後、イオン交換水で洗浄し、多孔質ガラスを得た。
【0059】
得られた多孔質ガラスの表面をFE-SEM(日立製作所社製SU-8220)で観察したところ、いずれのガラスも、スピノーダル分相に基づいたスケルトン構造を有していた。また、得られた多孔質ガラスの組成は、質量%でSiO2 93%、ZrO2 4%、Al2O3 3%であり、細孔分布の中央径は80nmであった。また、波長400nmにおける厚み0.5mmでの光透過率は0.1%であった。
【0060】
組成は、エネルギー分散型X線分析装置(堀場製作所社製 EX-250)により測定した。
【0061】
細孔分布の中央値は、細孔分布測定装置(カンタクローム社製 QUADRASORB SI)により測定した。
【0062】
光透過率は、分光光度計(島津製作所社製 UV-3100)により測定した。
【0063】
(ガス検出材料の作製)
まず、バニリン0.35g、水酸化ナトリウム1g、4g、10gまたは20gを純水100mlと混合し、水酸化ナトリウム濃度がそれぞれ0.25規定、1規定、2.5規定、5規定である4種類の混合液を得た。
【0064】
次に、得られた各混合液100mlに、多孔質ガラス10gずつを2時間浸漬させた後、大気中に24時間放置し水分を蒸発させることにより、ガス検出材料を得た。
【0065】
(ノナナールの検出)
まず、水酸化ナトリウム濃度が5規定である混合液を用いて作製したガス検出材料の波長420nmでの吸光度を分光光度計(島津製作所社製 UV-3100)により測定したところ、吸光度(a.u.)は4.2であった。
【0066】
次に、ガス検出材料をノナナール2.5ppmを含有するガスを封入したテトラバックに入れ、4時間放置することにより、ガス検出材料にガスを暴露させた。次いで、暴露後のガス検出材料を100℃にて20分間加熱した。
【0067】
加熱後のガス検出材料の波長420nmでの吸光度を分光光度計により測定したところ、吸光度は4.5と暴露前の吸光度より0.3大きくなった。水酸化ナトリウム濃度が0.25規定、1規定、2.5規定の混合液を用いて作製したガス検出材料についても、同様の試験を行ったところ、ガスへの暴露後の吸光度が暴露前と比較して0.1程度大きくなった。このことより、ppmオーダーでのノナナールの検出が可能であることが分かった。
【0068】
(実施例2)
(多孔質ガラスの作製)
実施例1と同様にして作製したガラス母材を電気炉にて675℃で36時間時間熱処理し、分相させた。分相後のガラス母材に対し、実施例1と同様に切削、研磨、酸処理及びイオン交換水での洗浄を行うことにより、多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスはスピノーダル分相に基づいたスケルトン構造を有しており、細孔分布の中央径は50nmであった。また、波長400nmにおける厚み0.5mmでの光透過率は1%であった。
【0069】
(ガス検出材料の作製)
バニリン0.35g、水酸化ナトリウム2gを純水100mlと混合し、水酸化ナトリウム濃度が0.5規定である混合液を得た。それとは別に、水酸化ナトリウム20gを純水100mlと混合し、5規定の水酸化ナトリウム溶液を得た。
【0070】
多孔質ガラス1gを、まず水酸化ナトリウム濃度が0.5規定である混合液100mlに2時間浸漬させた後、大気中に24時間放置して水分を蒸発させ、さらに2.5規定の水酸化ナトリウム溶液に2時間浸漬させた。その後、多孔質ガラスを大気中に24時間放置して水分を蒸発させることにより、ガス検出材料を得た。
【0071】
(ノナナールの検出)
まず、ガス検出材料の波長420nmでの吸光度を分光光度計(島津製作所社製 UV-3100)により測定したところ、吸光度は3.1であった。
【0072】
次に、ガス検出材料をノナナール2.5ppmを含有するガスを封入したテトラバックに入れ、4時間放置することにより、ガス検出材料にガスを暴露させた。次いで、暴露後のガス検出材料を100℃にて20分間加熱した。
【0073】
加熱後のガス検出材料の波長420nmでの吸光度を分光光度計により測定したところ、吸光度は3.6と暴露前の吸光度より0.5大きくなった。このことより、ppmオーダーでのノナナールの検出が可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のガス検出材料は、呼気診断、皮膚ガス測定、口臭チェッカー、環境モニタリング、作業環境管理など幅広い用途に好適である。