(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】多孔質炭素粒子、多孔質炭素粒子分散体及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230626BHJP
C01B 37/00 20060101ALI20230626BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230626BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230626BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20230626BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230626BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230626BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B37/00
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01D39/20 C
B01J20/30
H01M4/139
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2018038098
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2020-06-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591064508
【氏名又は名称】御国色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121898
【氏名又は名称】田中 ひろみ
(72)【発明者】
【氏名】井元 拓磨
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347864(JP,A)
【文献】特開2016-046287(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029920(WO,A1)
【文献】特開2012-082134(JP,A)
【文献】特開2003-157846(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042266(WO,A1)
【文献】特表2004-532727(JP,A)
【文献】特開2017-128497(JP,A)
【文献】特表2001-526974(JP,A)
【文献】特開平02-080314(JP,A)
【文献】特開2012-188309(JP,A)
【文献】特表2013-531596(JP,A)
【文献】森下隆広 et al.,炭素,日本,2006年,No.223,p.220-226
【文献】森下隆広 et al.,炭素,2007年,P.19-P.24
【文献】XIA Bao Yu et al.,ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2008年,18,P.1790-P.1798
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C01B 33/20ー39/54
B01J 20/20-20/28
B01J 20/30ー20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BJH法による吸着側の細孔直径ピークが2nm~50nmの間に存在し、比表面積が100~600m
2/gであり、かつBJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積が0.4ml/g以上であり、BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積とt法によるミクロ細孔容積との比(BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積)/(t法によるミクロ細孔容積)は、
9~15であり、
平均細孔径が7~15nmであり、かつ粒径D50が0.5~10μmである多孔質炭素粒子。
【請求項2】
液中に請求項1記載の多孔質炭素粒子を1~35重量%含有する多孔質炭素粒子分散体。
【請求項3】
請求項2記載の多孔質炭素粒子分散体をバインダーと混合して、シート状に加工することを特徴とするフィルターの製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の多孔質炭素粒子分散体を、カーボンブラックと、バインダーと混錬・ペースト化して、シート状に加工することを特徴とする電気二重層キャパシタ電極の製造方法。
【請求項5】
請求項2記載の多孔質炭素粒子分散体を、活物質、導電材、及びバインダーと混錬・ペースト化して、シート状に加工することを特徴とするリチウムイオン電池電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多孔質炭素粒子、多孔質炭素粒子を含有する分散体及びこれらの製造方法並びにこれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多孔質炭素が様々な分野で注目されている。例えば、リチウム2次電池、燃料電池等の電池材料用途、細孔を利用したエネルギーや水素の貯蔵、その他各種の物質の吸着、触媒担体などである。他にも、触媒、吸着、ガス検知、イオン交換、キャパシタ、平板振動板、フィルター材、金属精錬の際のガス吹き込み管、フィルター、断熱材、着材、電極、空気中の液体資料中の吸着物質の濃度測定、高表面積電極材料や小型分離用途、生体分子に対する吸着・脱離に関する試料調整への適用可能性が検討されている。
【0003】
このように細孔を利用した用途での多孔質炭素としては、従来は活性炭が代表的であったが、活性炭は細孔容量は大きいものの、細孔径の分布が広い。これに対して近年は特に、細孔のうち2~50nmのいわゆるメソ孔の機能に注目し、メソ孔を多く付与した多孔質炭素(メソポーラスカーボン)の製造や細孔径のコントロール技術、用途開発の研究が活発に行われている。
【0004】
メソ孔を多く有することにより、吸着しようとする物質の吸着や濃縮が高速で、電荷を貯めやすく、吸蔵がしやすい等の利点があるとされる。例えば高湿度における水蒸気吸着量はメソ孔容量に異存するとされるため、ヒートポンプ等への適用も検討されている。またタンパク質や酵素などの大きさにメソ孔が対応できるため、ライフサイエンス分野への適用も期待されている。
このようなメソ孔の多い多孔質炭素材料としては様々な形状のものが開発されている。例えば、フェルト状、膜状、シート状、板状、円筒状、スポンジ状、球状などがある。
【0005】
従来の代表的な多孔質炭素である活性炭は低結晶性であるのに対し、グラファイト化したメソポーラスカーボン、ナノ樹状体構造を有するもの、細孔壁が単層グラフェンからなるもの等もある。
【0006】
また、メソ孔を多く有する多孔質炭素では、孔同士が繋がり連通孔を形成することを特徴とするものもある。細孔のコントロールは一般に、大きさがコントロールされ鋳型となる物質(粘土鉱物、シリカや酸化マグネシウム等の酸化物や金属アルコキシドなど)を炭素源となる材料を混ぜあるいは鋳型と炭素源を兼ね備える材料から鋳型となる物質を用いて炭化処理して炭素を析出させ、さらに鋳型となる物質を除去する方法が一般的である(特許文献1~7、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特許文献1 WO2015/137106
特許文献2 WO2010/104102
特許文献3 WO2012/029920
特許文献4 特開2014-017230号公報
特許文献5 特開2007-123284号公報
特許文献6 特開2014-129597号公報
特許文献7 特開2017-126514号公報
【非特許文献】
【0008】
非特許文献1 京谷他 「炭素 TANSO 」2001(no.199)176-186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、これらメソポーラスカーボンのうち、直接シートや膜等の形成体を作成するのは物性のコントロールが難しく手間がかかると考えられる。そこで球状の多孔質炭素や多孔質炭素の破砕物を用い、樹脂や電極活物質等と混合して用いることが工程上有利である。しかし、既存の多孔質材料の粒子や破砕物を用いた場合、機能が十分に発揮できないことが分かった。多孔質炭素が十分に機能を発揮するには、たとえば電池材料として用いる場合には活物質や樹脂等他の電極構成成分と均一に混合される必要がある。と同時に、特徴である細孔が十分に維持されなければ機能は発揮できない。
メソポーラスカーボンには分散性に優れているとされる製品もあるが、やはりそのままでは粒径が20μm以上もあり、メディアに十分均一に分散することができない。他方、粒子径を微細化すると、その過程でメソ孔も破壊され、十分に機能が発揮できないことが推測される。
また、多孔質炭素と他の成分との親和性が十分でなければ経時で不均一化するおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討を行った。その結果、特定の粒径、細孔径及び最高分布を有する多孔質炭素を得ることができ、優れた機能が得られることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、
(1)BJH法による吸着側の細孔直径ピークが2.6nm~200nmの間に存在し、比表面積が100~600m2/gであり、かつBJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積が0.4ml/g以上である多孔質炭素粒子、
(2)BJH法による吸着側の細孔直径ピークが2.6nm~200nmの間に存在し、比表面積が100~600m2/gであり、かつ全細孔容積が0.5~1.3ml/gである多孔質炭素粒子、
(3)液中に上記(1)又は(2)記載の多孔質炭素粒子を1~35重量%含有する多孔質炭素粒子分散体、
(4)上記(3)記載の多孔質炭素粒子分散体を、バインダーと混合して、シート状に加工することを特徴とするフィルターの製造方法、
(5)上記(3)記載の多孔質炭素粒子分散体を、カーボンブラックと、バインダーと混錬・ペースト化して、シート状に加工することを特徴とする電気二重層キャパシタ電極の製造方法。
(6)上記(3)記載の多孔質炭素粒子分散体を、活物質、導電材、及びバインダーと混錬・ペースト化し、シート状に加工することを特徴とするリチウムイオン電池電極の製造方法、
にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、メソ孔領域の細孔を多く有し、このメソ孔領域の細孔が有効活用でき、かつ分散性に優れ各種の媒体への均一な混合が容易な多孔質炭素粒子及びこれを含有する分散体を提供でき、各種の用途への展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例1、2及び比較例1の分散体を用いてメチレンブルー吸着試験を行った結果を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例におけるメチレンブルー吸着テストでの吸光度の測定結果を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1及び2の分散液の原料として用いた市販の多孔質炭素材料のSEM写真を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1の分散液中の多孔質炭素粒子のSEM写真を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例2の分散液中の多孔質炭素粒子のSEM写真を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例2の分散液中の多孔質炭素粒子のSEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<多孔質炭素材料の説明>
本発明における多孔質炭素材料とは、炭素を主体とし、細孔を有する材料である。
本発明においては細孔の大きさや量は、以下のとおりである。
【0014】
<出発原料>
出発原料として用いることのできる多孔性炭素材料は、好ましくは以下の細孔特性を有する。
【0015】
<比表面積>
比表面積は限定されないが、200m2/g以上が一般的である。好ましくは400m2/g以上、さらに好ましくは500m2/g、最も好ましくは600-2000m2/gである。ただし、用途に応じて選択すればよい。
【0016】
<メソ孔容量>
メソ孔容積、いわゆるメソ孔領域(直径2~50nm)の細孔の容積も特に限定されないが、メソ孔の有する機能を発揮しうる用途のためには、通常0.2-1.5ml/gが好適である。
ただし、用途に応じて選択すればよい。
後述する方法で本発明の多孔質炭素粒子を製造すれば、メソ孔容量はほぼ維持できるため、目的とするメソ孔容量に応じて原料を選択すればよい。
【0017】
<メソ孔径>
メソ孔領域の細孔の特性を示す指標の一つとしていわゆるメソ孔径がある。通常、BJH法により求められる。原料となる多孔質炭素材料のメソ孔径は特に限定されないが、メソ孔の有する機能を発揮しうる用途のためには、通常0.3~200ml/gが好適である。より好ましくは0.3~150ml/g、さらに好ましくは0.3~50ml/gである。ただし、用途に応じて選択すればよい。
後述する方法で本発明の多孔質炭素粒子を製造すれば、メソ孔容量はほぼ維持又は増加できるため、目的とするメソ孔径に応じて原料を選択すればよい。
【0018】
<ミクロ孔容積>
ミクロ孔容積も特に限定されない。通常は0.10ml/g以上であるが、用途によってはより少なくてもよい。また原料となる多孔質炭素材料製造時にミクロ孔容積のコントロールをすることは容易ではなく、また後述する本発明の方法によりミクロ孔を減少できるので、あえて容積を制限する必要はないため、用途に応じて選択すればよい。
ガス補足用途等では、メソ孔が開気孔であって、気孔部分が連続するようなものが好ましい。開気孔とは、気孔の少なくとも一部分が粒子表面に出ていることをいう。開気孔であることからガスと接触し有効活用される細孔部分が多くなるためである。また、気孔部分が連続していれば、ガスの流れが円滑になりガスを補足しやすくなるとされるためである。また炭素質壁が3次元網目構造を形成しているものが強度の点からは望ましい。このような開気孔、連続した気孔部分、3次元網目構造の有無は、電子顕微鏡写真により確認できる。
このような開気孔、連続した気孔部分、3次元網目構造を有する多孔質炭素は、前述した公知の製造方法により得ることができ、また各種の市販品を使用することもできる。
【0019】
<物性値の測定方法>
以上説明した原料となる多孔質炭素材料の各物性は以下の方法により求めることができる。
比表面積はBET比表面積であり、窒素吸着法で相対圧力とN2吸着量の関係(吸着等温線)を調べ吸着等温線の結果からBET法を用いて算出する。装置は特に限定されず各種の比表面積測定装置が使用できる。
一般には試料約0.1gをセルに採取し前処理として300℃で約5時間程度脱ガス処理をした後に測定する。
メソ孔容積及びメソ孔径はBJH法、ミクロ孔容量及びミクロ孔径はHK法で求める。
【0020】
<作り方>
以上のような多孔質炭素材料の製造方法は、特に限定されず、前述した各種の公知の多孔質炭素材料の製造方法によるものが使用できる。
【0021】
<市販品>
各種の市販品も使用できる。
例えば、「クノーベル」(東洋炭素株式会社製)、「エスカーボン」(新日鉄住金化学株式会社製)等が挙げられる。
【0022】
<本発明の多孔質炭素粒子及び多孔質炭素分散体>
以上説明した多孔質炭素材料を、各種の液媒体に分散して本発明の多孔質炭素粒子分散体を得ることができる。本発明の多孔質炭素分散体中には、本発明の多孔質炭素粒子が含有されており、以下の物性を有する。
【0023】
<本発明の多孔質炭素粒子の第一の形態>
本発明の多孔質炭素粒子の第二の形態は、BJH法による吸着側の細孔直径ピークが2.6nm~200nmの間に存在し、比表面積が100~600m2/gであり、かつBJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積が0.4ml/g以上のものである。
【0024】
<本発明の多孔質炭素粒子の第二の形態>
本発明の多孔質炭素粒子の第一の形態は、BJH法による吸着側の細孔直径ピークが2.6nm~200nmの間に存在し、比表面積が100~600m2/gであり、かつ全細孔容積が0.5~1.3ml/gのものである。
【0025】
<BJH法による細孔直径ピーク>
本発明の多孔質炭素粒子は、BJH法による吸着側の細孔直径ピークが2.6nm~200nmの間に存在することを特徴とする。特に好ましくは2~100nm、最も好ましくは2~50nmに存在するものである。ピークが2~50nmに存在するということは、いわゆるメソ孔径の細孔を多く有することであるため、メソ孔に選択的に吸着される物質の吸脱着にはこの範囲の多孔質炭素粒子とすれば好適に使用できる。
【0026】
本発明の多孔質炭素粒子は、原料とする多孔質炭素材料の有するメソ孔をほぼ維持できる上、後述するように分散工程によって原料の内部に存在していた細孔が表面に出てくる。また原料のミクロ孔が分散工程によって細孔径が広がり、メソ孔を増加させていると推測される。しかも、本発明の多孔質炭素粒子は、後述するように多孔質炭素材料の製造工程でメソ孔量を増大させる方法に比べて比表面積が抑えられる。このため、比表面積が大きすぎる場合のような粒子の凝集等の問題も防止できるという利点を有する。
【0027】
なお、BJHプロットにおいて吸着側の細孔直径の極大値が複数ある場合、最も大きな極大値がここでいう最高直径ピークである。
BJH法による吸着側の細孔直径ピークは、以下のようにして求める。
まず、以下の条件で窒素吸着法による吸着等温線を求め、マイクロトラック・ベル(株)推奨のFHH基準曲線を用いてBJHプロットを算出し、吸着側の細孔直径ピークを求める。
【0028】
前処理方法
装置:BELPREP-vacII(マイクロトラック・ベル(株)製)
測定方法
装置:BELSORP-mini(マイクロトラック・ベル(株)製)
定容法を用いて、窒素による吸着脱離等温線を測定する。
吸着温度:77K
吸着質断面積:0.162nm2
吸着質:窒素
平衡待ち時間(吸脱着の際の圧力変化が所定の値以下になる状態)に達してからの待ち時間:500sec
なお、他の方法でも同等の値を求めることのできる方法であれば制限なく使用できる。
【0029】
<BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積>
本発明の多孔質炭素粒子の第一の形態において、BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積は、0.4ml/g以上である。より好ましくは0.5ml/g以上、最も好ましくは0.6ml/g以上である。
BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積は、メソ孔領域である2~50nmの細孔を多く含む。つまり本発明の多孔質炭素粒子はメソ孔領域の細孔を多く含みメソ孔を有効に活用できる。
【0030】
特に、本発明の多孔質炭素粒子は後述のようにミクロ孔の量を抑えることができ、全細孔の平均細孔径をメソ孔領域に有することができるため、本発明の多孔質炭素粒子はメソ孔領域の細孔を極めて多く含むものとすることができる。
例えば、BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積とt法によるミクロ細孔容積との比(BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積)/(t法によるミクロ細孔容積)は、5~30、さらに好ましくは7~20、より好ましくは9~15とすることもできる。
【0031】
また、本発明の多孔質炭素粒子は、原料となる多孔質炭素材料に比較してもBJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積、ひいてはメソ孔領域の粒子の量を維持し、さらには増加させることもできている。
BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積は、BHJプロットをマイクロトラック・ベル株式会社推奨のFHH基準曲線を用いて算出する。具体的にはマイクロトラック・ベル社のガス吸着装置に付属する専用ソフト「BELMaster」を使用すればよい。
【0032】
<全比表面積>
本発明の多孔質炭素粒子の第二の形態においては、BET法により求めた全比表面積(A(m2/g))が通常、100~700m2/gである。より好ましくは、200~600m2/gである。この範囲で、ハンドリングに優れ、各種の分散媒に好適に分散する。
また、この範囲にすることによりメソ孔領域の細孔容積を特に有効に活用できる。
【0033】
<全細孔容積>
本発明の多孔質炭素粒子は、全細孔容積は、0.45ml以上、好ましくは0.5~1.3ml/gとすることが好ましい。より好ましくは0.5~2.0ml/g、最も好ましくは0.5~1.0ml/gである。
全細孔容積が多すぎると、ミクロ孔の割合が大きくなりやすく、他方メソ孔領域の細孔の割合を維持しつつ全細孔容積を増やすと炭素壁の強度が十分でなくなることもあるためである。
【0034】
全細孔容積は、相対圧(0.99)までの全細孔容積であり、下記の式を用いて吸着等温線の相対圧(P/P0)の吸着量より算出する。
Vp=(V/22414)×Mg/ρg
Vp:相対圧(0.99)までの全細孔容積
V:相対圧(0.99)の吸着量
Mg:吸着質(N2)の分子量(28.013)
Ρg:吸着質(N2)の密度(0.808)
【0035】
<平均細孔径>
本発明の多孔質炭素粒子の平均細孔径は、特に限定されないが、通常、4~50nm、より好ましくは5~20nm、さらに好ましくは7~15nmである。
この範囲において特にメソ孔領域の細孔を多く含有させることができ、メソ孔を活用する用途に好適である。
【0036】
平均細孔径は、比表面積及び全細孔容積より以下の式により求めることができる。
D=4V/A×1000
D:平均細孔径(nm)
V:全細孔容積(cm3/g)
A:比表面積(m2/g)
【0037】
なお、平均細孔径は、原料とした多孔質炭素材料に比べて通常少し大きくなる。また、以下に説明するようにミクロ孔領域の細孔容積は少なくなる。これは、ミクロ孔領域の細孔が分散工程により広がり、メソ孔領域に移行したとも推測される。
このため、本発明の多孔質炭素粒子では、有効にメソ孔として機能する細孔が多く存在していると推測される。
【0038】
<ミクロ細孔容積>
本発明の多孔質炭素粒子において、ミクロ細孔容積は特に限定されないが、通常、0.05~0.15ml/gである。より好ましくは0.07~0.10mlである。
もっとも用途に応じて選択すればよく、ミクロ細孔はより少なくともよい。
本発明の多孔質炭素粒子のミクロ細孔容積は、原料となる多孔質炭素材料におけるミクロ細孔容積に対して減少させることができ、3分の2から3分の1程度にも減らすこともできる。ミクロ細孔容積減少の過程は完全には明らかではないが、分散工程により粒子表面のミクロ細孔の細孔径が大きくなりメソ孔領域に移行していることが推測される。
【0039】
上記のミクロ細孔容積は、MP法により細孔直径約0.42nm~約2nmの解析を行うことにより求めることができる。MP-Plotはマイクロトラック・ベル株式会社推奨のHarkins-Jura基準曲線を用いて算出することができる。具体的にはマイクロトラック・ベル社のガス吸着装置に付属する専用ソフト「BELMaster」を使用すればよい。
ミクロ細孔容積はt法でも測定可能であるが、この場合の数値は好ましくは0.04~0.1ml、より好ましくは0.05~0.09mlである。
ミクロ孔も同様に「BELMaster」を使用して解析すればよい。
【0040】
<粒径>
本発明の多孔質炭素粒子の粒径D50は一般には、0.5~10μm、好ましくは1.0~5.0μm、さらに好ましくは1.5~4.0μmである。
この範囲で分散性が良く安定な液として存在する上、各種の媒体への均一な混合が容易である。さらに、以上説明した細孔特性を得ることが容易である。
【0041】
<粘度>
本発明の多孔質炭素粒子を含有する多孔質炭素粒子分散体は、特に限定されないが、粘度が5~30000 mPa・sとすることができる。より好ましくは6~25000 mPa・s、さらに好ましくは6~10000 mPa・s 、さらに好ましくは6~1000 mPa・s、さらに好ましくは6~100mPa・s、さらに好ましくは6~30mPa・sである。
この範囲において、特にハンドリング性に優れ、各種の材料と良好に混合することができる。また、本発明の多孔質炭素粒子分散体は、多孔質炭素粒子の含有量を1~40重量%近くとすることもでき、このように高濃度で上記の粘度範囲に調整することができるため実用上も非常に有用である。
【0042】
<製造方法>
本発明の多孔質炭素粒子は、例えば以下の方法で作製することができる。
まず、前述した出発原料となる多孔質炭素材料を液体中で分散して所望の粒子径にするのが効率的である。
ここで分散とは、材料を、より細かくするつまり微粒化を意味する。分散方法としては、湿式分散、乾式分散のいずれでもよいが、特に液体中で分散する湿式分散が、装置が簡便で均一な分散ができる。湿式分散の方法は、液体中で材料である多孔質炭素にシェアをかけて微粒化することのできる方法であれば、特に制限されない。例えば、メディア分散、メディアレス分散等各種の公知の方法を採用できる。
【0043】
これらのうち特に、メディア分散が好ましい。メディア分散とは、材料である多孔質炭素を分散する過程で、いわゆるメディアすなわちビーズ等の固体が材料である多孔質炭素に衝突することによって微細化するものである。例えばビーズミル、ボールミル等が代表的である。
メディア分散において、メディアの粒径と分散時間を調整して、求める粒子径まで分散することができるので、所望の粒子径に応じて適宜分散を行えばよい。
【0044】
また、メソ孔を多く残しつつ分散性の良い粒径まで到達させるために必要な分散強度は材料の量によっても異なるため、メソ孔の容量の代表値として前述したBJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔容積、BJH法による吸着側の2.6nm~200nmの細孔径、又は比表面積の変化をチェックしながら分散工程を行い、所望の細孔特性を有する条件を求め、これを生産工程に採用すればよい。
【0045】
<他に入れる材料の説明>
分散時には、各種の液媒体を使用できる。多孔質炭素の用途に応じて溶剤を選択すればよい。
一般には、水、アルコール、NMPその他ごく一般的な溶媒を使用できる。
【0046】
固体粒子を液体中に分散させるための分散剤を使用することが好適である。分散剤の種類も特に制限されない。例えば、セルロース系ポリマー、ブチラール系ポリマー、ポリビニルピロリドン系、ポリエーテル系(、ポリエーテルアミン)、ポリエステル系、ポリウレタン系、スチレンアクリル系ポリマー、高級脂肪酸エステル系がある。ポリビニルピロリドンとしてはISP社製のK15、K30がある。
その他一般に分散助剤として知られている銅フタロシアニン誘導体等を使用してもよい。
これら分散剤は一種又は二種以上を併用できる。
【0047】
正極用材料、負極用材料等の電池材料、キャパシタ等の電材用途では、導電材料として知られているカーボンブラックその他の固体微粒子の分散体と混合あるいはこれらの固体微粒子と前述した本発明の多孔質炭素粒子の原料となる多孔質炭素材料とを共に液媒体に配合して分散処理を行ってもよい。
【0048】
<配合量>
各成分の配合量も特に制限されない。
一般には、多孔質炭素粒子100重量部に対して、液媒体を185~9900重量部、好ましくは200~4000重量部、さらに好ましくは300~2000重量部である。液又はスラリー状の本願の多孔質炭素粒子分散体中の多孔質炭素粒子は1~35重量%が好適である。
分散剤の量は、100重量部に対して、1~200重量部、好ましくは5~150重量部、さらに好ましくは10~100重量部である。なお複数の分散剤を用いる場合は分散剤の合計量である。
【0049】
<<用途、使い方>>
こうして得られる本発明の多孔質炭素粒子及び多孔質炭素粒子分散体は、メソ孔を多く有する炭素質材料であることから、メソ孔を使用する用途に好適である。
しかも、そのまま使うのではなく、好ましい粒径に分散してあるため、均一であったり塗工性が良好である。
また、微細化してあるため、表面にメソ孔が多く有効活用できる。
【0050】
各種の用途に使用できる。例えば、本発明の分散体を、電極活物資、バインダーと混合して電極を形成する。あるいは、本発明の粒子を、ヒートポンプの吸着器に収容し、気相の熱媒を吸着及び脱着する吸着剤として用いる。あるいは各種の乾燥装置に充填して吸着剤として用いる。あるいは、生化学解析用ユニットの吸着性領域に充填してタンパク質分離に用いる等、様々な用途に有用である。より具体的には、例えば本発明の多孔質炭素粒子分散体を、バインダーと混合して、シート状に加工してフィルターを製造する、本発明の多孔質炭素粒子分散体を、カーボンブラックと、バインダー(ポリテトラフルオロエチレン粉末等)と混錬・ペースト化して、シート状に加工して電気二重層キャパシタ電極を製造する、本発明の多孔質炭素粒子分散体を、活物質、導電材、及びバインダー(ポリフッ化ビニリデン等)と混錬・ペースト化し、シート状に加工してリチウムイオン電池電極を製造する等である。
【0051】
実施例1
市販の多孔質炭素材料(平均細孔径3.692nm、全細孔容積0.60ml/g、比表面積650m2/g)を5.0重量部、市販のポリビニルピロリドンを1.0重量部、市販の銅フタロシアニン誘導体を0.2重量部、イソプロピルアルコールを93.8重量部添加し、ビーズミルを用いて分散処理して分散液を得た。
分散処理方法は、処理中の液を取り出し、平均細孔径を測定して8.82nmになった所で、分散処理を終了した。
得られた分散液中の多孔質炭素粒子の物性値を測定し、結果を表1に示す。
【0052】
実施例2
平均粒子径が8.82nmになったところで分散処理を終了せず、11.0nmになったところまで継続し、そこで分散処理を終了した以外は、実施例1と同様の操作を行い、分散液を得た。
【0053】
比較例1
実施例1及び2で用いた市販の多孔質炭素材料5.0重量部を分散処理混合撹拌することなく、イソプロピルアルコール93.8重量部に配合し、軽く手で振って混合した。
【0054】
[表1]
原料多孔質炭素材料 実施例1 実施例2
<粒子の細孔特性>
(1) 2.6-200nmピーク 31 24.3 91.0
(2) メソ孔細孔容積 - 0.67 1.17
(3) 比表面積 650 315 440
(4) 平均細孔径 3.692 8.82 11.0
(5) 全細孔容積 0.60 0.69 1.21
(6) T法マイクロ孔容積 - 0.066 0.071
(7) MP法マイクロ孔容積 - 0.090 0.086
(8) DA法細孔容積 0.25 0.12 0.16
(2)/(6) - 10.15 17.73
<液物性>
D10 1.23 0.33
D50 2.84 0.86
D90 5.99 1.36
粘度 11.136 249.6
【0055】
表中、粘度の測定はコーンプレート型粘度計(東機産業社製 RE-115R)を用いて行った。
分散粒径(D10、D50及びD90)の測定はレーザー回折・散乱法(日機装社製 マイクロトラックBlueraytrac)を用いて行った。
【0056】
実施例1の粒子は、原料多孔質炭素材料に比べ、比表面積は半分以下に抑えられているにもかかわらず、全細孔容積は維持され若干増加している。また2.6-200nmピークはメソ孔領域に保たれかつマイクロ孔領域の細孔の容積が減少していることからメソ孔領域の細孔が増加していることがわかる。
また、実施例2の粒子は実施例1の粒子よりも比表面積が増加しているが、原料多孔質炭素材料に比べれば3分の2弱である。また液物性は粘度が低く扱いやすく、粒径が揃っていて安定であることがわかる。
【0057】
<メチレンブルー吸着テスト>
以上の実施例1、2及び比較例1の分散液を用い、以下の方法で細孔に染料(メチレンブルー)を吸着させ、脱色具合で有効な細孔の量を確認した。
(1) 分散液をバットに投入し、100℃で乾燥させ、多孔質炭素粉を準備した。
(2) MB(メチレンブルー)0.1%aqを調製し、20mLサンプラに10.00g入れた。
(3) (2)に(1)で用意した多孔質炭素粉を0.1000g入れ、超音波洗浄機にて手でふりながら30秒混ぜた。
(4) (3)を注射器で全量吸い、5μmのコマフィルターで多孔質炭素粉を除去した。
(5) (4)の除去後の液と(2)の外観を写真に撮った結果を
図1に示す。
(6) 各々の液を100倍希釈に調整して、紫外可視分光光度計UV-1850(島津製作所社製)を用いて波長が500~800nmにおいての吸光度を測定した。セルは光路長10mmの角形セルを使用した。
(7) (6)の測定結果を表2に示す。(6)の測定結果のグラフを
図2に示す。
【0058】
[表2]
MB 比較例1 実施例1 実施例2
@670nm" Abs 2.1321 0.0544 0.0038 1.787
x/MB 100.00% 2.55% 0.18% 83.81%
@620nm" Abs 1.3084 0.0245 0.0018 1.0431
x/MB 100.00% 1.87% 0.14% 79.72%
図1からは実施例1の分散液は色素を良く吸着していることがわかる。また
図2~4からも、実施例1の分散液はメチレンブルーが示す670nm及び620nmにおいて比較例1よりも吸光度が大幅に減少しており、色素を良く吸着していることがわかる。
【0059】
<SEM観察>
実施例1の分散液中の多孔質炭素粒子のSEM写真を
図4に示す。実施例2の分散液中の多孔質炭素粒子のSEM写真を
図5及び6に示す。これらの分散液の原料として用いた市販の多孔質炭素材料のSEM写真を
図3に示す。
図5により多孔質炭素材料に細孔径15~40nm程度の細孔が存在していることがわかる。
図6により実施例1の分散液では原料とした多孔質炭素材料中に存在していた細孔径15~40nm程度の細孔がたくさん残っていることがわかる。これに対し
図7及び8により実施例2の分散液では細孔径15~40nm程度の細孔は全く残っていないことはないが、これらの細孔が分散工程により破砕された痕跡と思われる凹凸の存在が確認できる。このことから、実施例1の分散液は細孔径15~40nm程度の細孔を活用する用途ではより好適であることが推測され、これがメチレンブルー吸着テストの結果にも表れていると推測される。