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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】材、溶接方法、及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20230626BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
B23K9/23 G
B23K9/23 H
B23K9/16 M
B23K9/16 J
B23K9/16 L
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019162178
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2020131287
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019023536
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示会(イノベーション・ジャパン2019~大学見本市&ビジネスマッチング) 開催日(発表日):2019年8月29日~30日 開催場所:東京ビッグサイト 青海展示棟Bホール(東京都江東区青海1-2-33) 材、溶接方法、及び溶接装置(大気混入シールドガスによるチタン溶接金属部の耐食性向上技術)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 イノベーション・ジャパン2019~大学見本市&ビジネスマッチングにおける講演 開催日(発表日):2019年8月29日 開催場所:東京ビッグサイト 青海展示棟Bホール(東京都江東区青海1-2-33) 材、溶接方法、及び溶接装置(大気混入シールドガスによるチタン溶接金属部の耐食性向上技術)
(73)【特許権者】
【識別番号】519049558
【氏名又は名称】株式会社ダイテック
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 順一
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】230116296
【弁護士】
【氏名又は名称】薄葉 健司
(72)【発明者】
【氏名】清水 大吾
(72)【発明者】
【氏名】小原 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 千悟
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-255393(JP,A)
【文献】特開2018-187664(JP,A)
【文献】特公昭62-061393(JP,B2)
【文献】特開2005-34860(JP,A)
【文献】特開2001-121267(JP,A)
【文献】特開昭61-172682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とが溶接された材であって、
前記材における溶接部は、
前記材の少なくとも一面側の表層に、侵入型元素との化合物が、下記要件を満たす範囲内で、存在してなり、
前記表層よりも深い位置の内層には、侵入型元素との化合物が存在しないか、存在しても、その量は下記要件を満たす範囲内であり、
前記化合物の量は、
前記溶接部でのアノード分極曲線における電流密度が4.0×10-6A/cm以下となる量であり、
前記溶接部でのビッカース硬度が117HV~180HVとなる量であり、
前記溶接部での引張強度試験における最大応力σが0.3GPa~0.5GPaとなる量であり、
前記侵入型元素がO,N,Cの群の中から選ばれる一種または二種以上である
材。
【請求項2】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とが溶接された材であって、
前記材における溶接部は、
その厚さが0.4mm以上であり、
前記材の少なくとも一面側の表面からの深さが1μm迄の位置の表層に侵入型元素が下記要件を満たす範囲内で存在し、
前記表面からの深さが100μmより深い位置の内層には、侵入型元素が存在しないか、存在しても、その量は下記要件を満たす範囲内であり、
前記表層における前記侵入型元素の量は、前記元素による化合物の理論的な化学量論的組成比を100%とした場合の90~100%であり、
前記内層における前記侵入型元素の量は、前記元素による化合物の理論的な化学量論的組成比を100%とした場合の5%以下であり、
前記侵入型元素がO,N,Cの群の中から選ばれる一種または二種以上である
材。
【請求項3】
表層における侵入型元素はTiMx(MはO,N,Cの群の中から選ばれる一種または二種以上の元素。MがOの場合には、xは1.8~2の数。MがN,Cの場合には、xは0.9~1の数)の形態で存在してなる
請求項1または請求項2の材。
【請求項4】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給され、
前記侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である
溶接方法。
【請求項5】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給され、
前記侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である
溶接方法。
【請求項6】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給され、
前記侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である
溶接方法。
【請求項7】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給され、
前記侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である
溶接方法。
【請求項8】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給され、
前記侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である
溶接方法。
【請求項9】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給され、
前記侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である
溶接方法。
【請求項10】
溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所でのガスにおける前記侵入型元素のガスの量が0.05~1体積%である
請求項4,6,7,9いずれかの溶接方法。
【請求項11】
材を挟んで溶接具が存在しない側でのガスにおける前記侵入型元素のガスの量が0.05~0.5体積%である
請求項5,6,8,9いずれかの溶接方法。
【請求項12】
前記侵入型元素のガスは、温度が350~1000℃の個所に向けて、供給される
請求項4~請求項11いずれかの溶接方法。
【請求項13】
請求項1~3いずれかの材を得る
請求項4~請求項12いずれかの溶接方法。
【請求項14】
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接する装置であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給される手段と、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される手段と、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される手段
とを具備してなり、
前記侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である
溶接装置。
【請求項15】
供給された前記侵入型元素ガスが分散する分散手段を更に具備してなる
請求項14の溶接装置。
【請求項16】
シールド手段を更に具備してなり、
前記シールド手段が無い場合に比べて、前記シールド手段によって、供給された不活性ガスの滞留時間が、長い
請求項14又は15の溶接装置。
【請求項17】
請求項1~3いずれかの材を得る
請求項14,15,16いずれかの溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチタン材に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン(純チタン又はチタン合金)材は、密度が小さく、融点は高く、機械的特性(強度や延性)に優れている。熱伝導率や導電率が低い。化学的には非常に活性である。しかし、安定な膜(例えば、TiO膜)が表面に出来やすい。この為、耐食性が改善される。斯かる観点から、各種の分野(装置)において、チタン材が用いられている。
【0003】
しかし、前記チタン材にも弱点が有る。例えば、溶接が難しい。
【0004】
前記チタン材の溶接に際しては、溶接個所のチタン材が大気中の酸素(又は、窒素、或いは水素など)と反応する。この為、溶接個所が脆化する。
【0005】
前記脆化の問題点を解決する為、溶接部を大気から遮断する方法が提案(特開2016-73999号公報、特開2004-66304号公報、特開2000-280076号公報)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-73999号公報
【文献】特開2004-66304号公報
【文献】特開2000-280076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、大気を遮断してチタン溶接を行うと、溶接部の耐食性が低下していた。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、溶接部の耐食性の向上が図れ、かつ、脆化が防止されたチタン材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
チタン材溶接部の脆化と耐食性とのトレードオフの問題を解決する為の研究が、鋭意、推し進められて行った。その結果、非常に簡単な事ではあるが、誰も、これまでは、思い付きもしなかった知恵の啓示を得るに至った。前記脆化の原因は、前記溶接部の内部(表面から深い位置の深部)にまで、Oが多く含まれている事に、本発明者は、気付いたのである。前記耐食性に関しては、前記溶接部の内部までO(TiO)が存在する必要はなく、表層にO(TiO)が存在すれば良い事に、本発明者は、気付いたのである。
【0010】
斯かる知見に基づいて、本発明が達成された。
【0011】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とが溶接された材であって、
前記材における溶接部は、
前記材の少なくとも一面側の表層に、侵入型元素との化合物が、下記要件を満たす範囲内で、存在してなり、
前記表層よりも深い位置の内層には、侵入型元素との化合物が存在しないか、存在しても、その量は下記要件を満たす範囲内であり、
前記化合物の量は、
前記溶接部でのアノード分極曲線における電流密度が4.0×10-6A/cm以下となる量であり、
前記溶接部でのビッカース硬度が117HV~180HVとなる量であり、
前記溶接部での引張強度試験における最大応力σが0.3GPa~0.5GPaとなる量である
材を提案する。
【0012】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とが溶接された材であって、
前記材における溶接部は、
その厚さが0.4mm以上であり、
前記材の少なくとも一面側の表面からの深さが1μm迄の位置の表層に侵入型元素が下記要件を満たす範囲内で存在し、
前記表面からの深さが100μmより深い位置の内層には、侵入型元素が存在しないか、存在しても、その量は下記要件を満たす範囲内であり、
前記表層における前記侵入型元素の量は、前記元素による化合物の理論的な化学量論的組成比を100%とした場合の90~100%であり、
前記内層における前記侵入型元素の量は、前記元素による化合物の理論的な化学量論的組成比を100%とした場合の5%以下である
材を提案する。
【0013】
本発明は、前記材であって、前記侵入型元素が、例えばO,N,Cの群の中から選ばれる一種または二種以上である材を提案する。
【0014】
本発明は、前記材であって、前記表層における侵入型元素は、例えばTiMx(MはO,N,Cの群の中から選ばれる一種または二種以上の元素。MがOの場合には、xは0.3~2の数。MがN,Cの場合には、xは0.5~1の数)の形態で存在してなる材を提案する。
【0015】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される
溶接方法を提案する。
【0016】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される
溶接方法を提案する。
【0017】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される
溶接方法を提案する。
【0018】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される
溶接方法を提案する。
【0019】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される
溶接方法を提案する。
【0020】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接装置を用いて溶接する方法であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給され、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される
溶接方法を提案する。
【0021】
本発明は、前記溶接方法であって、溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所でのガスにおける侵入型元素のガスの量が、好ましくは、0.05~1体積%である溶接方法を提案する。
【0022】
本発明は、前記溶接方法であって、材を挟んで溶接具が存在しない側でのガスにおける侵入型元素のガスの量が、好ましくは、0.05~0.5体積%である溶接方法を提案する。
【0023】
本発明は、前記溶接方法であって、侵入型元素のガスは、温度が350~1000℃の個所に向けて、供給される溶接方法を提案する。
【0024】
本発明は、前記溶接方法であって、前記侵入型元素のガスの接触時間が10秒~30分である溶接方法を提案する。
【0025】
本発明は、前記溶接方法であって、侵入型元素がO,N,C,Hの群の中から選ばれる一種または二種以上である溶接方法を提案する。
【0026】
本発明は、前記溶接方法であって、前記材を得る方法を提案する。
【0027】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接する装置であって、
溶接具と、
不活性ガスが、前記溶接具の先端側に、供給される手段と、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される手段
とを具備する溶接装置を提案する。
【0028】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接する装置であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給される手段と、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される手段
とを具備する溶接装置を提案する。
【0029】
本発明は、
金属A(Aはチタン又はチタン合金)材と金属B(Bは前記Aと同種であっても異なっていても良い。)材とを溶接する装置であって、
不活性ガスが、前記溶接装置の溶接具の先端側に、供給される手段と、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される手段と、
不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される手段
とを具備する溶接装置を提案する。
【0030】
本発明は、前記溶接装置であって、好ましくは、更に、シールド手段を具備してなり、前記シールド手段が無い場合に比べて、前記シールド手段によって、供給された不活性ガスの滞留時間が、長い溶接装置を提案する。
【0031】
本発明は、前記溶接装置であって、例えば前記材を得る溶接装置を提案する。
【0032】
本発明は、
チタン材を溶接トーチにより溶接するチタン溶接方法であって、
前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するトーチシールドガス供給工程と、
前記チタン材の溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールドガス供給工程と、
前記溶接トーチの後方の溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールドガス供給工程
とを備え、
前記バックシールドガス供給工程と前記アフターシールドガス供給工程との少なくとも何れか一方で供給される前記シールドガスに酸素を混入することで前記溶接部の表面に酸化皮膜を形成する
溶接方法を提案する。
【0033】
本発明は、
チタン材を溶融溶接するチタン溶接方法であって、
前記チタン材の溶接部の表側の溶融池表面にシールドガスを供給する溶融池シールドガス供給工程と、
前記チタン材の前記溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールドガス供給工程と、
前記溶融池の後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールドガス供給工程
とを備え、
前記バックシールドガス供給工程と前記アフターシールドガス供給工程との少なくとも何れか一方で供給される前記シールドガスに酸素を混入することで前記溶接部の表面に酸化皮膜を形成する
溶接方法を提案する。
【0034】
本発明は、
チタン材を溶接トーチにより溶接してチタン溶接物を製造するチタン溶接物の製造方法であって、
前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するトーチシールドガス供給工程と、
前記チタン材の溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールドガス供給工程と、
前記溶接トーチの後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールドガス供給工程
とを備え、
前記バックシールドガス供給工程と前記アフターシールドガス供給工程との少なくとも何れか一方で供給される前記シールドガスに酸素を混入することで前記溶接部の表面に酸化皮膜を形成する
溶接方法を提案する。
【0035】
本発明は、
チタン材を溶接するチタン溶接装置であって、
溶接トーチと、
前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するシールドガス供給装置
とを備え、
前記シールドガス供給装置は、さらに、前記チタン材の溶接部の裏側表面と、前記溶接トーチの後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面との少なくとも一方に、酸素が所定量混入された前記シールドガスを供給する
溶接装置を提案する。
【0036】
本発明は、
チタン材を溶接するチタン溶接装置であって、
溶接トーチと、
前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するトーチシールド部と、
前記チタン材の溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールド部と、
前記溶接トーチの後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールド部と、
前記トーチシールド部、前記バックシールド部及び前記アフターシールド部に前記シールドガスを供給するシールドガス供給装置であって、前記バックシールド部に供給する前記シールドガスと前記アフターシールド部に供給する前記シールドガスとの少なくとも一方に酸素を混入するシールドガス供給装置
とを備える溶接装置を提案する。
【発明の効果】
【0037】
チタン材溶接部の脆化が防止されると共にチタン材溶接部の耐食性が優れている。溶接部は機械的特性に優れると共に耐食性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施の形態に係る溶接装置の概略図
図2】トーチシールド、バックシールド及びアフターシールドの模式図
図3】ビッカース硬さ評価試験の結果を示すグラフ
図4】引張強度評価試験の説明図
図5】ビッカース硬さ評価試験の結果を示すグラフ
図6】引張強度評価試験の結果を示すグラフ
図7】ビッカース硬さ評価試験の結果を示すグラフ
図8】引張強度評価試験の結果を示すグラフ
図9】引張強度評価試験の結果を示す説明図
図10】耐食性試験の結果を示すグラフ
図11】耐食性試験の結果を示すグラフ
図12】耐食性試験の結果を示すグラフ
図13】耐食性試験の結果を示すグラフ
図14】耐食性試験の結果を示すグラフ
図15】耐食性試験の結果を示すグラフ
図16】耐食性試験の結果を示すグラフ
図17】耐食性試験の結果を示すグラフ
図18】耐食性試験の結果を示すグラフ
図19】耐食性試験の結果を示すグラフ
図20】耐食性試験の結果を示すグラフ
図21】耐食性試験の結果を示すグラフ
図22】耐食性試験の結果を示すグラフ
図23】耐食性試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0039】
第1の発明は材である。
前記材は、金属A材と金属B材とが溶接された材である。溶接は、例えば母材(例えば、前記金属A,B材)の溶融による。前記金属Aはチタン及びチタン合金の群の中から選ばれた金属である。前記金属Bは、前記金属Aと異種であっても良い。例えば、Fe,Ni,Cu,Al等の構造材料金属(合金)であっても良い。しかしながら、前記金属Aと前記金属Bとが異種金属の場合、溶接部では脆い金属間化合物が形成され易い。従って、前記金属Bは、好ましくは、チタン及びチタン合金の群の中から選ばれた金属である。前記金属A材と前記B材とは同じ金属材であることが好ましい。
【0040】
前記材における溶接部(前記金属A材と前記金属B材との溶接部)の少なくとも一面側の表層に、侵入型元素が、存在する。前記表層における侵入型元素は、例えばTiMx(MはO,N,Cの群の中から選ばれる一種または二種以上の元素。MがOの場合には、xは1.8~2の数。MがN,Cの場合には、xは0.9~1の数)の形態で存在する。例えば、TiOx(x=1.8~2)である。例えば、TiNx(x=0.9~1)である。例えば、TiCx(x=0.9~1)である。TiOxの場合には、最表面にあっては、酸素が十分であろうから、TiOが形成されるであろう。しかし、下方に行くにつれて、酸素が不十分であろうから、TiOが形成されると言うよりも、TiOx(x<2)が形成されるであろう。深い個所では、TiOxすら形成されないであろう。すなわち、前記侵入型元素は殆ど存在しないであろう。TiNx,TiCxにあっても、同様であろう。
【0041】
前記溶接部の表層や内層に存在する侵入型元素の量は、例えば下記要件を満たす量である。
ここで、表層と内層とに分けて記載しているが、結局は、全体における量であろう。但し、最表面に形成されているのは、例えばTiO,TiN,TiC等であろう。これ等の化合物による膜は耐食性に優れている。深い位置に進むにつれて、O,N,C量は減少するであろう。O,N,C量を少なくする事によって、脆化の問題が解決されるであろう。
前記侵入型元素の量は、前記溶接部のアノード分極曲線における電流密度が4.0×10-6A/cm以下となる量であった。好ましくは、3.0×10-6A/cm以下となる量であった。更に好ましくは、2.0×10-6A/cm以下となる量であった。前記溶接部のアノード分極曲線における電流密度は低ければ低い方が良い。例えば、1.0×10-9A/cmであっても良い。
前記侵入型元素の量は、前記溶接部のビッカース硬度が117HV以上で180HV以下となる量であった。好ましくは、175HV以下となる量であった。更に好ましくは、150HV以下となる量であった。好ましくは、140HV以上となる量であった。
前記侵入型元素の量は、前記溶接部の引張強度試験での最大応力σが0.3GPa以上で0.5GPa以下となる量であった。好ましくは、0.45GPa以下となる量であった。更に好ましくは、0.4GPa以下となる量であった。
前記アノード分極曲線における電流密度はJIS T 0302より腐食性の高い濃度30%の塩酸溶液中で6x10mmの試験片にて求められた。
前記ビッカース硬度はJIS Z 2244に準じて求められた。
前記引張強度試験における応力σはJIS Z 2241に準じて求められた。
【0042】
前記溶接部の表面からの深さが1μm迄の位置(ここでは、これを表層と言う。)や前記溶接部の表面からの深さが100μmより深い位置(ここでは、これを内層と言う。)における侵入型元素の量は、例えば下記要件を満たす量であった。
前記材の少なくとも一面側の前記表層には侵入型元素が下記要件を満たす範囲内で存在する。
前記内層には、侵入型元素が存在しないか、存在しても、その量は下記要件を満たす範囲内であった。
前記表層における前記侵入型元素の量は、前記元素による化合物の理論的な化学量論的組成比を100%とした場合の90~100%であった。
例えば、TiOの場合(侵入型元素がOの場合)には、TiOx(x=1.8~2)である。前記90%はTiO1.8を意味する。前記100%はTiOを意味する。例えば、TiNの場合(侵入型元素がNの場合)には、TiNx(x=0.9~1)である。前記90%はTiN0.9を意味する。前記100%はTiNを意味する。例えば、TiCの場合(侵入型元素がCの場合)には、TiCx(x=0.9~1)である。前記90%はTiC0.9を意味する。前記100%はTiCを意味する。
最表面に形成されているのは、例えばTiO,TiN,TiC等であろう。これ等の化合物による膜は耐食性に優れている。深い(下方)位置に進むにつれて、O,N,C量は減少するであろう。すなわち、TiO1.8,TiN0.9,TiC0.9と言った如く、O等の量が減少する。
前記内層における前記侵入型元素の量は、好ましくは、前記元素による化合物の理論的な化学量論的組成比を100%とした場合の5%以下であった。更に好ましくは1%以下であった。もっと好ましくは0.1%以下であった。勿論、0%であっても良い。
例えば、TiOの場合(侵入型元素がOの場合)には、TiOx(x=0~0.05)である。前記0%はOが0を意味する。前記5%はTiO0.1を意味する。例えば、TiNの場合(侵入型元素がNの場合)には、TiNx(x=0~0.05)である。前記0%はNが0を意味する。前記5%はTiN0.05を意味する。例えば、TiCの場合(侵入型元素がCの場合)には、TiCx(x=0~0.05)である。前記0%はCが0を意味する。前記5%はTiC0.05を意味する。
前記溶接部の厚みは0.4mm以上である。勿論、これより厚くても良い。例えば、0.7mm以上でも良い。1mm以上でも良い。2~4mmであっても良い。1cmであっても良い。上限値に格別な制限はない。前記溶接部の厚さが薄過ぎると、溶接強度が弱い。
【0043】
本発明者は、前記侵入型元素の量が、どの程度の深さにおいて、どの程度であれば、耐食性が確保され、かつ、機械的特性(脆化)に問題が起きないかを検討した。その結果が次の通りであった。表面から深さが1μmまでの位置において、前記侵入型元素が化学量論的組成比の90%以上存在しておれば、溶接部における耐食性が良かった。表面から深さが100μm以上深い位置において、前記侵入型元素が化学量論的組成比の5%以下(更には1%以下、更には0.4%以下、更には0.1%以下)の場合に、溶接部における酷い脆化の問題が解決されていた。
【0044】
前記深さにおける前記侵入型元素の量はJIS Z 2613に準じて求められた。
【0045】
第2の発明は溶接方法である。
前記方法は、前記金属A材と前記金属B材とを溶接装置を用いて溶接する方法である。
前記方法の一つの例は次の通りである。不活性ガスが前記溶接装置の溶接具の先端側に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される。前記方法は、例えば、不活性ガスが前記溶接装置の溶接具の先端側に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される工程とを具備する。
【0046】
前記方法の他の例は次の通りである。不活性ガスが前記溶接装置の溶接具の先端側に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される。前記方法は、例えば、不活性ガスが前記溶接装置の溶接具の先端側に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される工程とを具備する。
【0047】
前記方法の他の例は次の通りである。不活性ガスが前記溶接装置の溶接具の先端側に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される。前記方法は、例えば、不活性ガスが前記溶接装置の溶接具の先端側に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される工程とを具備する。
【0048】
前記方法は次の表現も可能である。不活性ガスが前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に供給される。前記方法は、例えば、不活性ガスが前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に供給される工程とを具備する。
【0049】
前記方法は次の表現も可能である。不活性ガスが前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される。前記方法は、例えば、不活性ガスが前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される工程とを具備する。
【0050】
前記方法は次の表現も可能である。不活性ガスが前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に供給され、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される。前記方法は、例えば、不活性ガスが前記溶接装置の溶接具側の溶融池表面に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に供給される工程と、不活性ガスと侵入型元素のガスとが前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に供給される工程とを具備する。
【0051】
前記方法は次の表現も可能である。チタン材を溶接トーチにより溶接するチタン溶接方法であって、前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するトーチシールドガス供給工程と、前記チタン材の溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールドガス供給工程と、前記溶接トーチの後方の溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールドガス供給工程とを具備してなり、前記バックシールドガス供給工程と前記アフターシールドガス供給工程との少なくとも何れか一方で供給される前記シールドガスに酸素を混入することで前記溶接部の表面に酸化皮膜を形成するチタン溶接方法である。
【0052】
前記方法は次の表現も可能である。チタン材を溶融溶接するチタン溶接方法であって、前記チタン材の溶接部の表側の溶融池表面にシールドガスを供給する溶融池シールドガス供給工程と、前記チタン材の前記溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールドガス供給工程と、前記溶融池の後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールドガス供給工程とを具備してなり、前記バックシールドガス供給工程と前記アフターシールドガス供給工程との少なくとも何れか一方で供給される前記シールドガスに酸素を混入することで前記溶接部の表面に酸化皮膜を形成するチタン溶接方法である。
【0053】
前記方法において、前記不活性ガスと前記侵入型元素のガス(例えば、O,O,N,NO,CO等)とは混合ガスの形態で供給されても良い。
各々のガスが独立して(別々に)供給され、供給(吐出:噴射)された後で混ざる形態であっても良い。
前記侵入型元素のガスの雰囲気下に前記不活性ガスが供給され、前記侵入型元素のガスによる溶接部の変性が内部の深い位置に進む前に、前記不活性ガスによって前記侵入型元素のガスが溶接部から排除される形態であっても良い。
初期段階では前記侵入型元素のガスの供給量を抑えた状態で行い、或る時間経過以降では前記侵入型元素のガスの供給を停止すると共に、不活性ガスを供給する形態であっても良い。
不活性ガスの雰囲気下に前記侵入型元素のガスが供給され、前記侵入型元素のガスによる溶接部の変性が内部の深い位置にまで進まない形態であっても良い。
不活性ガスの供給と侵入型元素のガスの供給とが時間差で以って制御され、前記侵入型元素のガスによる溶接部の変性が内部の深い位置にまで進まない形態であっても良い。
しかし、不活性ガスと侵入型元素のガスとの混合ガスの形態で供給するのが最も簡単である。
【0054】
前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に供給される侵入型元素のガスの量は、好ましくは、0.01体積%以上であった。更に好ましくは、0.05体積%以上であった。もっと好ましくは、0.1体積%以上であった。好ましくは、7体積%以下であった。更に好ましくは、5体積%以下であった。もっと好ましくは、1体積%以下であった。
【0055】
前記溶接具が存在しない側に供給される侵入型元素のガスの量は、好ましくは、0.01体積%以上であった。更に好ましくは、0.05体積%以上であった。もっと好ましくは、0.1体積%以上であった。好ましくは、3体積%以下であった。更に好ましくは、1体積%以下であった。もっと好ましくは、0.5体積%以下であった。
【0056】
前記方法において、侵入型元素のガスは、好ましくは、温度が350℃以上の個所に向けて供給される。更に好ましくは、400℃以上の個所であった。もっと好ましくは、450℃以上の個所であった。例えば、1000℃以下の個所であった。
【0057】
前記侵入型元素のガスは、例えばO,O,N,NO,CO等の群の中から選ばれる一種または二種以上である。空気であっても良い。
前記不活性ガスは、例えばHe,Ne,Ar等である。特にArである。
【0058】
前記方法は、好ましくは、前記材を得る方法である。
【0059】
第3の発明は製造方法である。
前記製造方法は前記溶接方法が実施される方法である。すなわち、前記溶接方法が実施される事による製造方法である。
前記方法は、例えばチタン材を溶接トーチにより溶接してチタン溶接物を製造するチタン溶接物の製造方法である。前記方法は、例えば前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するトーチシールドガス供給工程と、前記チタン材の溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールドガス供給工程と、前記溶接トーチの後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールドガス供給工程とを具備してなり、前記バックシールドガス供給工程と前記アフターシールドガス供給工程との少なくとも何れか一方で供給される前記シールドガスに酸素を混入することで前記溶接部の表面に酸化皮膜を形成する方法である。
【0060】
第4の発明は溶接装置である。
前記装置は、前記金属A材と前記金属B材とを溶接する装置である。
前記装置の一つの例は次の通りである。
前記装置は溶接具を具備する。前記装置は、不活性ガスが前記溶接具の先端側に供給される手段を具備する。前記装置は、不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される手段を具備する。
【0061】
前記装置の他の例は次の通りである。
前記装置は溶接具を具備する。前記装置は、不活性ガスが前記溶接具の先端側に供給される手段を具備する。前記装置は、不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される手段を具備する。
【0062】
前記装置の他の例は次の通りである。
前記装置は溶接具を具備する。前記装置は、不活性ガスが前記溶接具の先端側に供給される手段を具備する。前記装置は、不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在する側で、かつ、前記溶接具による溶接済個所に、供給される手段を具備する。前記装置は、不活性ガスと侵入型元素のガスとが、前記材を挟んで前記溶接具が存在しない側に、供給される手段を具備する。
【0063】
前記装置は、好ましくは、分散手段を具備する。前記分散手段は、供給された侵入型元素ガスを分散させる機能を有する。前記分散とは散乱の意味合いであっても良い。様々な方向に進行する意味合いであっても良い。レーザー光の如きの収束の意味合いに対抗する意味合いである。要するに、供給された侵入型元素ガスが一点に集中・照射されず、広い範囲に亘って照射されるものであれば良い。侵入型元素ガスと共に不活性ガスが供給される場合にあっては、前記分散手段は前記侵入型元素ガスを分散させるのみではなく、不活性ガスを分散させるものであっても良い。前記分散手段は、例えば前記供給手段と前記材との間に設けられる。前記分散手段は、例えばスチールウール状部材である。例えば、多孔質材である。例えば、積層網材である。例えば、ガス供給パイプに沿って前記分散手段が設けられていると、前記ガス供給パイプを介して供給されて来た侵入型元素ガスが前記パイプの周壁に設けられている孔から外に噴射され、前記噴射されたガスが前記分散手段によって四方八方に飛散(発散)する。この結果、前記侵入型元素ガスが前記材の目標位置に万遍なく照射され、溶接部表面にTiと侵入型元素との化合物層が形成される。
【0064】
前記装置は次の表現も可能である。
前記装置は、チタン材を溶接するチタン溶接装置であって、溶接トーチと、前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するシールドガス供給装置とを具備してなり、前記シールドガス供給装置は、更に、前記チタン材の溶接部の裏側表面と、前記溶接トーチの後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面との少なくとも一方に、酸素が所定量混入された前記シールドガスを供給する。
【0065】
前記装置は次の表現も可能である。
前記装置は、チタン材を溶接するチタン溶接装置であって、溶接トーチと、前記溶接トーチの先端部にシールドガスを供給するトーチシールド部と、前記チタン材の溶接部の裏側表面にシールドガスを供給するバックシールド部と、前記溶接トーチの後方の前記溶接部(溶接済個所)の表側表面にシールドガスを供給するアフターシールド部と、前記トーチシールド部、前記バックシールド部及び前記アフターシールド部に前記シールドガスを供給するシールドガス供給装置であって、前記バックシールド部に供給する前記シールドガスと前記アフターシールド部に供給する前記シールドガスとの少なくとも一方に酸素を混入するシールドガス供給装置とを具備する。
【0066】
前記装置は、好ましくは、シールド手段を更に具備する。
前記シールド手段が無い場合に比べて、前記シールド手段の存在によって、供給された不活性ガスの滞留時間が、長くなる。これによって、不活性ガスの無駄遣いが少なくなる。
【0067】
前記溶接装置は、例えば前記材を得る装置である。
【0068】
前記溶接の技術は、好ましくは、ティグ溶接(TIG welding)を用いた技術である。しかし、ミグ溶接(MIG welding)を用いた技術、イナートガスアーク溶接を用いた技術、プラズマ溶接(Plasma
arc welding)を用いた技術、電子ビーム溶接(Electron beam welding)を用いた技術、レーザビーム溶接(Laser beam welding)を用いた技術、抵抗溶接(Resistance welding)を用いた技術であっても良い。
【0069】
以下、具体的な実施例が挙げられる。例えば、以下の実施例では、TIG溶接による場合で説明される。又、チタン金属板とチタン金属板との溶接の場合で説明される。不活性ガスとしてArガスが、侵入型元素のガスとして大気が用いられた例で説明される。しかし、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例や応用例も本発明に含まれる。
【0070】
図1は溶接装置(チタン溶接装置)の概略図である。図2は、前記溶接装置のシールド個所における模式図(概略図)である。
【0071】
1はチタン溶接装置(TIG(Tungsten Inert Gas)溶接装置)である。10は溶接トーチである。11はガス(シールドガス:不活性ガス:Ar)の流路である。12はタングステン電極である。15はチタン金属製の溶加棒である。これ等の構成は知られているから、詳細な説明は省略される。
【0072】
20はガス供給装置である。ガス供給装置20は、トーチシールド部21と、バックシールド部31と、アフターシールド部41とを具備する。トーチシールド部21等の構成は知られているから、詳細な説明は省略される。前記装置は、Arガスボンベ50と、大気混入Arガスボンベ51とを具備する。大気混入Arガスボンベ51は一つの特徴である。
【0073】
前記トーチシールド部21は、タングステン電極12の先端側(チタン金属板5における溶接部(溶融池6))に向けて、ガスライン23を介して、Arガスボンベ50内のArを、供給(照射:噴射)した。トーチシールド部21は、前記溶接部の表側(溶接トーチ10が存在する側)の溶融池6表面に、Arガスを供給した。この供給された不活性ガスArは、前記溶融池6の表面を覆う。従って、溶接部(溶融池6)におけるTiと大気中のO,N,H等との反応が防止された。すなわち、脆化が防止された。
【0074】
前記バックシールド部31は、チタン板5の溶接部(溶融地6)の裏側(前記表側とは反対側:溶接トーチ10が存在しない側)の表面に、ガスを供給した。特に、前記溶融地6に対向した裏側の表面(尤も、当該個所を囲む周辺部の表面)に、ガスを供給した。前記ガスは、不活性ガス(Arガス)であったり、混合ガス(不活性ガスArと侵入型元素ガスO(或いは、空気)との混合ガス)であったりする。前記バックシールド部31は、バックカバー32と、ガスライン35とを具備する。前記バックカバー32は、前記溶接トーチ10による前記溶接部の前記裏側の表面付近(周辺)を覆う。ガスライン35は切替バルブ36を具備する。前記Arガスボンベ50からのArガス(又は、大気混入Arガスボンベ51からの大気混入Arガス)は、前記ガスライン35を介して、バックカバー32内に導入された。前記導入ガスがバックカバー32内に充満した。前記ガスライン35は、切換バルブ36を介して、Arガスボンベ50と大気混入Arガスボンベ51との双方に接続されている。前記切換バルブ36を切り換えることで、バックカバー32内にArガスか大気混入Arガスかのどちらか一方が供給された。前記供給されたガスが前記バックカバー32内に充満した。前記溶接部の前記裏側の表面付近(周辺)が前記ガスで覆われた。
【0075】
前記アフターシールド部41は、チタン板5の溶接部の後方側(溶接トーチ10による溶接済の側:図1中、溶接の進行に伴って溶接トーチ10が左側に移動する場合、溶融池6の右側。当該個所は溶融温度より低い温度に低下している。)の表面に、ガスを供給した。前記ガスは、不活性ガス(Arガス)であったり、混合ガス(不活性ガスArと侵入型元素ガスO(或いは、空気)との混合ガス)であったりする。前記アフターシールド部41は、アフターカバー42と、ガスライン45とを具備する。前記アフターカバー42は、前記溶接トーチ10による前記溶接済部の表面付近を覆う。温度が350~1000℃の個所である。前記温度より低い個所が覆われていても、その意味合いは低いからであった。ガスライン45は切替バルブ46を具備する。前記Arガスボンベ50からのArガス(又は、大気混入Arガスボンベ51からの大気混入Arガス)は、前記ガスライン45を介して、アフターカバー42内に導入された。前記導入ガスがアフターカバー42内に充満した。前記ガスライン45は、切換バルブ46を介して、Arガスボンベ50と大気混入Arガスボンベ51の双方に接続されている。前記切換バルブ46を切り換えることで、アフターカバー42にArガスか大気混入Arガスのどちらか一方が供給された。前記溶接部の前記後方側の表面付近(周辺)が前記ガスで覆われた。
【0076】
チタン材は、非常に活性な金属である。チタン材は、チタン溶接時に、大気中のO,N,H等と反応する。この為、溶接部の脆化が問題になっていた。この問題を解決する為、溶接部を不活性ガスにより覆っていた(シールドしていた)。しかしながら、これによって、溶接部は耐食性の問題が起きるに至った。
【0077】
そこで、本実施例は、バックシールド部31及び/又はアフターシールド部41に、少量のOガス(侵入型元素のガス)を供給するようにした。溶接部の内層部にはO元素(侵入型元素)が殆ど侵入し無い。しかしながら、溶接部の表層にはTiO膜(Tiと侵入型元素との化合物の膜)が形成された。この結果、溶接部の耐食性が確保されると共に、溶接部には大きな脆化が起きなかった。バックシールド部31やアフターシールド部41では、溶接部の温度が低下している。この為、反応性が多少は低下している。従って、大量のOで無ければ(少量のOに曝される程度では)、Oは溶接部表層の酸化で消費されてしまい、内部までの酸化が進行しない。よって、大きな脆化は起きず、かつ、耐食性が良好になった。
【0078】
バックシールド部31とアフターシールド部41との何れに大気混入Arガスを供給するかは、チタン板の表側の表面と裏側の表面の何れに酸化皮膜を形成するかに応じて適宜選択すれば良い。前記の中の一方のみに酸化被膜が形成されても良く、両方に酸化被膜が形成されても良い。チタン板の表側の表面のみに酸化皮膜を形成したい場合には、バックシールド部31にArガスを供給すると共に、アフターシールド部41には大気混入Arガスを供給すれば良い。チタン板の裏側の表面のみに酸化皮膜を形成したい場合には、バックシールド部31には大気混入Arガスを供給すると共に、アフターシールド部41にArガスを供給すれば良い。チタン板の表側及び裏側の両側表面に酸化皮膜を形成したい場合は、バックシールド部31及びアフターシールド部41の双方に大気混入Arガスを供給すれば良い。
【0079】
バックカバー32内及びアフターカバー42内に所定量の大気を混入した場合の特性評価試験が説明される。チタン溶接部の耐食性は、表面に酸化皮膜が形成されている事が好ましい。しかし、溶接部の内部まで酸化が進行していると、脆化が進む。機械的特性が悪くなった。
【0080】
本評価試験(試験方法は前述の通り。)では、バックカバー32内及びアフターカバー42内に大気が導入(大気導入量は適宜変更)された。内層部の酸化度はビッカース硬さ及び引張強度によって評価された。表層部の酸化度は耐食性評価試験によって評価された。比較の為、トーチシールドに所定量の大気が混入された場合の機械的特性試験が行われた。
【0081】
前記ビッカース硬さ試験及び引張試験が説明される。TIG溶接(ビードオンプレート溶接)条件は、電流150A(板厚3mm。図9に示す試験では200A)、溶接速度20cm/minである。
【0082】
図3図5及び図7は、ビッカース硬さ評価試験結果である。図4図6図8及び図9は、引張強度評価試験結果である。図3及び図4は、トーチシールドガスに大気が混入された場合、図5図6及び図9は、バックシールドガスに大気が混入された場合、図7及び図8は、アフターシールドガスに大気が混入された場合の試験結果である。
【0083】
Arガスへの大気混入量は、体積比で、0%(純Ar),0.1%,0.5%,2.0%,5.0%である。比較の為、溶接が行われていない母材(チタン材)についても評価試験が行われた。
【0084】
図6の引張強度評価試験結果は、大気混入量が、体積比で、0%(純Ar),0.1%,0.5%,5.0%の場合である。図9の引張強度評価試験結果は、大気混入量が、体積比で、0%(純Ar),0.5%,1.0%,2.2%,3.5%,4.8%の場合である。
【0085】
比較の為、トーチシールドガスに大気が混入された場合の機械的特性評価が説明される(図3図4参照)。溶融池6では、チタン材の流動性が高い為、Oが内部に溶け込んでいると考えられる。大気の混入量が0.5%超となると、ビッカース硬さ及び引張強度の何れかの評価試験において、機械的特性が低下していた。
【0086】
バックシールドガスに大気が混入された場合の機械的特性評価が説明される(図5図6図9参照)ビッカース硬さ評価試験(図5参照)によれば、何れの試料についても、機械的特性は良好であった。
【0087】
引張強度特性は、混入量が0~1%の場合、良好な引張強度が得られていた(図6図9参照)。2.4%以上では、引張強度特性が低下していた。機械的特性を考慮すれば、バックシールドガスへの大気混入量は、体積比で0~1%が好ましかった。
【0088】
アフターシールドガスに大気が混入された場合の機械的特性評価が説明される(図7図8参照)。図7から、何れの試料についても、良好な機械的特性が得られている事が判る。図8から、何れの試料についても、良好な機械的特性が得られている事が判る。
【0089】
溶接部の耐食性評価試験が説明される。TIG溶接(ビードオンプレート溶接)条件は、電流115~125A、溶接速度20cm/minである。耐食試験は三電極系アノード分極測定により行われた。試料は純チタン、電解液は30%HCl、作用電極は試料、参照電極は銀-塩化銀電極、補助電極は白金である。
【0090】
図10図17は、バックシールドガスに大気が混入された場合の耐食性試験結果である。図10は大気混入量0%(体積比、以下同様)、図11は大気混入量0.07%、図12は大気混入量0.20%、図13は大気混入量0.27%、図14は大気混入量0.40%、図15は大気混入量0.67%、図16は大気混入量1.33%、図17は大気混入量2.00%の場合である。
【0091】
各試験の試料数はn=5である。図11の大気混入量0.07%の場合は、試料数n=10(図11(a)と図11(b)に分けて示す)である。図12の大気混入量0.20%の場合は、試料数n=9(図12(a)と図12(b)に分けて示す)である。
【0092】
図18図23は、アフターシールドガスに大気が混入された場合の耐食性試験結果である。図18は大気混入量0%、図19は大気混入量0.27%、図20は大気混入量0.40%、図21は大気混入量0.67%、図22は大気混入量1.33%、図23は大気混入量2.60%の場合である。
【0093】
各試験の試料数はn=5である。図21の大気混入量0.67%の場合は、試料数n=3である。図22の大気混入量1.33%の場合は、試料数n=4である。
【0094】
バックシールドガスに大気が混入された場合の耐食性評価が説明される(図10図17参照)。耐食性が良好な場合は、アノード分極曲線において、不動態化皮膜形成に伴う電流値のピークが観察されない。不動態保持電流密度については、低いほど耐食性が良好である。4×10-6A/cmより低い場合は、耐食性は或る程度良好であった。2×10-6A/cmよりも低い場合は、耐食性が非常に良好であった。
【0095】
電流値のピークの観察については、大気混入量が0%以外の0.07%,0.20%,0.27%,0.40%,0.67%,1.33%,2.00%の場合、耐食性は或る程度良好であった。大気混入量が0.40%,0.67%,1.33%の場合は、耐食性が非常に良好であった。
【0096】
不動態保持電流密度に関しては、全ての大気混入量0%,0.07%,0.20%,0.27%,0.40%,0.67%,1.33%,2.00%の場合に、耐食性は或る程度良好であった。大気混入量0.40%,0.67%,1.33%,2.00%の場合は、耐食性が非常に良好であった。
【0097】
以上の結果から、耐食性を考慮すれば、バックシールドガスへの大気混入量は、体積比で、0.07~2%であることが好ましかった。更に好ましくは、0.4~1.33%であった。
【0098】
アフターシールドガスに大気が混入された場合の耐食性評価が説明される(図18図23参照)。電流値のピークの観察によれば、大気混入量が0%以外の0.27%,0.40%,0.67%,1.33%,2.60%の場合は、耐食性は或る程度良好であった。大気混入量が0.40%,0.67%,1.33%,2.60%の場合は、耐食性が非常に良好であった。
【0099】
不動態保持電流密度に拠れば、全ての大気混入量において、耐食性は或る程度良好であった。大気混入量が0.40%,0.67%,1.33%,2.60%の場合は、耐食性が非常に良好であった。
【0100】
以上の結果から、耐食性を考慮すれば、アフターシールドガスへの大気混入量は、体積比で、0.27%以上が好ましかった。更に好ましくは、0.40~2.6%であった。
【0101】
以上より、機械的特性及び耐食性の双方を考慮すれば、バックシールドガスへの大気の混入量は、好ましくは、体積比で、0.07~1%であった。更に好ましくは、0.4~1%であった。アフターシールドガスへの大気の混入量は、好ましくは、体積比で、0.27%以上であった。更に好ましくは、0.4~2.6%であった。
【0102】
シールドガスに所定量の大気が混入された場合について説明された。大気の代わりに酸素と他のガスとの混合ガスでも良い。酸素であっても良い。シールドガスへの混入量が酸素の体積比で表される、空気の組成は酸素が体積比で約20%であるから、次のようになる。バックシールドガスへの酸素の混入量は、好ましくは、体積比で、0.014~0.2%であった。更に好ましくは、0.08~0.2%であった。アフターシールドガスへの酸素の混入量は、好ましくは、体積比で0.054%以上であった。更に好ましくは、0.08~0.52%であった。
【0103】
以上、本実施例が詳細に説明された。チタン溶接時のバックシールドガスやアフターシールドガスに敢えて少量の酸素が混入されて供給されたことで、チタン溶接部の内部の酸化が抑えられ、溶接部の表面には酸化皮膜が形成された。チタン溶接部の耐食性が向上し、かつ、脆化が防止された。
【0104】
バックシールドガスやアフターシールドガスに混入する酸素の混入量が調整された事で、チタン溶接部の機械的特性の劣化が防止され、かつ、耐食性が向上した。
【0105】
上記実施例では、予め大気が混入された大気混入Arガスボンベが用いられた。しかし、純粋不活性ガスのボンベが用いられ、シールドガスラインに設けられた混合バルブによって、シールドガスライン上で所定量の大気(酸素等)が混合されても良い。
【0106】
上記実施例では、平板状のチタン板が溶接される場合であった。しかし、チタン製パイプ等の如く、種々の形状のチタン材の溶接に適用できる。チタン製のパイプを外側から溶接する際には、バックシールドガスラインからパイプ内部にバックシールドガスを流せば良い。従って、このような場合には、バックカバーは不要である。
【0107】
この出願は、2019年2月13日に出願された日本出願特願2019-23536を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0108】
1 チタン溶接装置
5 チタン金属板(被溶接物)
6 溶融池
10 溶接トーチ
11 ガス流路
12 タングステン電極(溶接具)
15 チタン金属製溶加棒
20 ガス供給装置
21 トーチシールド部
23 ガスライン
31 バックシールド部
32 バックカバー
35 ガスライン
36 切替バルブ
41 アフターシールド部
42 アフターカバー
45 ガスライン
46 切替バルブ
50 Arガスボンベ
51 大気混入Arガスボンベ


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23