(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】フック部材及び引張りバネ
(51)【国際特許分類】
F16B 45/00 20060101AFI20230626BHJP
F16F 1/12 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
F16B45/00 Z
F16F1/12 L
F16B45/00 A
(21)【出願番号】P 2019088051
(22)【出願日】2019-05-08
【審査請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504254770
【氏名又は名称】株式会社佐原
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】千葉 弘樹
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-032631(JP,U)
【文献】実開昭61-032842(JP,U)
【文献】実開昭53-025657(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0040504(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 45/00
F16F 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルバネの軸方向の端部に取り付けて用いられるフック部材であって、
対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの外周面に螺合可能な取付部とを備え、
前記取付部が、前記コイルバネの外周面との摺動面に、前記コイルバネを構成す
る一巻目
のみの外周面の反転形状を有し、
前記取付部が、前記コイルバネの軸方向と同方向に延びる平板状であ
り、
前記取付部の前記コイルバネ側の端部には逃げ形状が形成されているフック部材。
【請求項2】
前記取付部が、さらに前記コイルバネの内周面に螺合可能であって、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成す
る一巻目
のみの内周面の反転形状を有する請求項1に記載のフック部材。
【請求項3】
コイルバネの軸方向の端部に取り付けて用いられるフック部材であって、
対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの内周面に螺合可能な取付部とを備え、
前記取付部が、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成す
る一巻目
のみの内周面の反転形状を有し、
前記取付部が、前記コイルバネの軸方向と同方向に延びる平板状であ
り、
前記取付部の前記コイルバネ側の端部には逃げ形状が形成されているフック部材。
【請求項4】
コイルバネと、
前記コイルバネの軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材とを備え、
前記フック部材が、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの外周面に螺合可能な取付部とを有し、
前記取付部が、前記コイルバネの外周面との摺動面に、前記コイルバネを構成す
る一巻目
のみの外周面の反転形状を有し、
前記フック部材の取付部が、前記コイルバネの軸方向と同方向に延びる平板状であ
り、
前記取付部の前記コイルバネ側の端部には逃げ形状が形成されている引張りバネ。
【請求項5】
前記フック部材の取付部が、さらに前記コイルバネの内周面に螺合可能であって、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成す
る一巻目
のみの内周面の反転形状を有する請求項4に記載の引張りバネ。
【請求項6】
コイルバネと、
前記コイルバネの軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材とを備え、
前記フック部材が、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの内周面に螺合可能な取付部とを有し、
前記取付部が、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成す
る一巻目
のみの内周面の反転形状を有し、
前記フック部材の取付部が、前記コイルバネの軸方向と同方向に延びる平板状であ
り、
前記取付部の前記コイルバネ側の端部には逃げ形状が形成されている引張りバネ。
【請求項7】
前記コイルバネの軸方向の端部が、前記フック部材の取付部にカシメ固定されている請求項4から6のいずれか一項に記載の引張りバネ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フック部材及びフック部材を備える引張りバネに関し、詳細には、コイルバネの軸方向の端部に取り付けて用いられるフック部材及びコイルバネとコイルバネの軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材とを備える引張りバネに関する。
【背景技術】
【0002】
引張りバネは、通常、軸方向の両端に設けたフック部材を対象となる部材に引っ掛けることで、対象部材同士を付勢するために用いられる。このような引張りバネとしては、例えば、
図4(b)に示すように、コイルバネの軸方向の両端部を別途製造したフック部材に形成された2つの孔部に差し込んだ構造のものや、特許文献1に示されるように、コイルバネとフック部材を別の素材で作り、コイルバネとフック部材それぞれの端部に把持部を作って両者を組み合わせることで一体構造としたもの等がある。
【0003】
上述のような、コイルバネにフック部材が取り付けられた構造の引張りバネは、コイルバネの軸方向の両端部を立ち上げてフックとした引張りバネに比べて高い応力にも耐えられるため、コイルバネ自体の寿命が延びるという利点がある。一方で、コイルバネにフック部材を取り付けるには、隙間なく設けられたコイルバネの端部を軸方向に引っ張り、一定の隙間を作った上で、フック部材の孔部又は把持部に沿うようにコイルバネの端部を差し込んでいく必要があり、非常に手間がかかるため、コストアップを招くという問題がある。また、フック部材を取り付けた状態では、フック部材の孔部又は把持部のせいでコイルバネの端部でコイル同士に隙間が生じてしまうので、その分、コイルバネの有効巻数(バネとして作用する有効な巻数)が減ってしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述のような事情に基づいてなされたものであり、コイルバネに容易に取り付けることのできるフック部材及びこのフック部材を備える引張りバネの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、コイルバネの軸方向の端部に取り付けて用いられるフック部材であって、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの外周面に螺合可能な取付部とを備え、前記取付部が、前記コイルバネの外周面との摺動面に、前記コイルバネを構成する少なくとも一巻目の外周面の反転形状を有するフック部材を提供する(発明1)。
【0007】
なお、コイルバネの巻数は、線材が巻き始めから何回転しているかで数えるため、コイルバネの一巻目とは、線材の端末から数えて一巻目をいう。
【0008】
かかる発明(発明1)によれば、取付部の摺動面が、コイルバネを構成する少なくとも一巻目の外周面の反転形状を有しているので、コイルバネのコイル同士を密着させた状態のままで、コイルバネの端部の外周面に取付部を螺合するだけで、フック部材を容易にコイルバネに取り付けることができる。
【0009】
上記発明(発明1)においては、前記取付部が、さらに前記コイルバネの内周面に螺合可能であって、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成する少なくとも一巻目の内周面の反転形状を有することが好ましい(発明2)。
【0010】
かかる発明(発明2)によれば、取付部が、コイルバネの外周面だけでなく内周面にも螺合可能であるので、フック部材をより強固にコイルバネに取り付けることができる。
【0011】
第二に本発明は、コイルバネの軸方向の端部に取り付けて用いられるフック部材であって、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの内周面に螺合可能な取付部とを備え、前記取付部が、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成する少なくとも一巻目の内周面の反転形状を有するフック部材を提供する(発明3)。
【0012】
かかる発明(発明3)によれば、取付部の摺動面が、コイルバネを構成する少なくとも一巻目の内周面の反転形状を有しているので、コイルバネのコイル同士を密着させた状態のままで、コイルバネの端部の内周面に取付部を螺合するだけで、フック部材を容易にコイルバネに取り付けることができる。
【0013】
上記発明(発明1-3)においては、前記取付部が、前記コイルバネの軸方向と同方向に延びる平板状であることが好ましい(発明4)。
【0014】
かかる発明(発明4)によれば、円筒状等の立体状の取付部を備えるフック部材を製造する場合に比べて製造工程を簡易化することができるため、製造コストを抑えることができるとともに、軽量化が実現されるため、取扱い性が向上する。
【0015】
第三に本発明は、コイルバネと、前記コイルバネの軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材とを備え、前記フック部材が、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの外周面に螺合可能な取付部とを有し、前記取付部が、前記コイルバネの外周面との摺動面に、前記コイルバネを構成する少なくとも一巻目の外周面の反転形状を有する引張りバネを提供する(発明5)。
【0016】
かかる発明(発明5)によれば、コイルバネのコイル同士を密着させた状態のままで、コイルバネの端部の外周面にフック部材の取付部を螺合するだけで、フック部材を容易にコイルバネに取り付けることができるので、引張りバネ全体の製造時間を短縮させることができるとともに製造コストを抑えることができる。また、フック部材を取り付けた状態でもコイルバネのコイル同士に隙間が生じないため、従来の引張りバネと比べてコイルバネの有効巻数を増やすことができるので、歪み量を小さくすることができ、もって引張りバネの耐久性を向上させることができる。
【0017】
上記発明(発明5)においては、前記フック部材の取付部が、さらに前記コイルバネの内周面に螺合可能であって、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成する少なくとも一巻目の内周面の反転形状を有することが好ましい(発明6)。
【0018】
かかる発明(発明6)によれば、フック部材の取付部が、コイルバネの外周面だけでなく内周面にも螺合可能であるので、コイルバネに対するフック部材の取り付けをより強固なものとすることができる。
【0019】
上記発明(発明5-6)においては、前記フック部材の取付部が、前記コイルバネの軸方向と同方向に延びる平板状であることが好ましい(発明7)。
【0020】
かかる発明(発明7)によれば、円筒状等の立体状の取付部を備えるフック部材を製造する場合に比べてフック部材の製造工程を簡易化することができるため、引張りバネ全体としての製造コストを抑えることができるとともに、フック部材の軽量化が実現されるため、引張りバネ全体としての取扱い性も向上する。
【0021】
第四に本発明は、コイルバネと、前記コイルバネの軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材とを備え、前記フック部材が、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部と、前記コイルバネの内周面に螺合可能な取付部とを有し、前記取付部が、前記コイルバネの内周面との摺動面に、前記コイルバネを構成する少なくとも一巻目の内周面の反転形状を有する引張りバネを提供する(発明8)。
【0022】
かかる発明(発明8)によれば、コイルバネのコイル同士を密着させた状態のままで、コイルバネの端部の内周面にフック部材の取付部を螺合するだけで、フック部材を容易にコイルバネに取り付けることができるので、引張りバネ全体の製造時間を短縮させることができるとともに製造コストを抑えることができる。また、フック部材を取り付けた状態でもコイルバネのコイル同士に隙間が生じないため、従来の引張りバネと比べてコイルバネの有効巻数を増やすことができるので、歪み量を小さくすることができ、もって引張りバネの耐久性を向上させることができる。
【0023】
上記発明(発明8)においては、前記フック部材の取付部が、前記コイルバネの軸方向と同方向に延びる平板状であることが好ましい(発明9)。
【0024】
かかる発明(発明9)によれば、円筒状等の立体状の取付部を備えるフック部材を製造する場合に比べてフック部材の製造工程を簡易化することができるため、引張りバネ全体としての製造コストを抑えることができるとともに、フック部材の軽量化が実現されるため、引張りバネ全体としての取扱い性も向上する。
【0025】
上記発明(発明5-7)においては、前記コイルバネの軸方向の端部が、前記フック部材の取付部にカシメ固定されていることが好ましい(発明10)。
【0026】
かかる発明(発明10)によれば、長時間の動作でも、フック部材がコイルバネから外れるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のフック部材によれば、取付部の摺動面が、コイルバネを構成する少なくとも一巻目の外周面及び/又は内周面の反転形状を有しているので、コイルバネのコイル同士を密着させた状態のままで、コイルバネの端部の外周面及び/又は内周面に取付部を螺合するだけで、フック部材を容易にコイルバネに取り付けることができる。また、本発明の引張りバネによれば、コイルバネのコイル同士を密着させた状態のままで、コイルバネの端部の外周面及び/又は内周面に取付部を螺合するだけで、フック部材を容易にコイルバネに取り付けることができるので、引張りバネ全体の製造時間を短縮させることができるとともに製造コストを抑えることができる。そして、フック部材を取り付けた状態でもコイルバネのコイル同士に隙間が生じないため、従来の引張りバネと比べてコイルバネの有効巻数を増やすことができるので、歪み量を小さくすることができ、もって引張りバネの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係るフック部材の中央縦断面図、(b)は(a)のフック部材を備える引張りバネの中央縦断面図である。
【
図2】(a)は本発明の第2の実施形態に係るフック部材の中央縦断面図、(b)は(a)のフック部材を備える引張りバネの中央縦断面図である。
【
図3】(a)は本発明の第3の実施形態に係るフック部材の中央縦断面図、(b)は(a)のフック部材を備える引張りバネの中央縦断面図である。
【
図4】(a)は総巻数が40巻のコイルバネを備える
図2(b)の引張りバネの中央縦断面図、(b)は(a)と総巻数が同数のコイルバネを備える従来の引張りバネの中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のフック部材及びこのフック部材を備える引張りバネの実施の形態について、適宜図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではない。
【0030】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態に係るフック部材及びこのフック部材を備える引張りバネについて、
図1を用いて説明する。
図1(a)は、フック部材1の中央縦断面図であって、
図1(b)は、(a)のフック部材1を備える引張りバネ10の中央縦断面図である。なお、
図1(b)では、コイルバネ4の軸方向下側の一部を省略して示している。
【0031】
〈フック部材〉
フック部材1は、コイルバネ4の軸方向の端部に取り付けて用いられるものであって、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部11と、コイルバネ4の外周面41に螺合可能な取付部12とを備える。
【0032】
フック部材1のフック部11は、
図1(a)に示すように、略C字形状を有するが、対象となる部材を引っ掛けることができれば、その形状は特に限定されるものではなく、例えば円環形状であってもよい。
【0033】
第1の実施形態において、フック部材1の取付部12は、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる円筒状であって、コイルバネ4の外周面41との摺動面121に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411の反転形状を有している。なお、コイルバネの巻数は、線材が巻き始めから何回転しているかで数えるため、コイルバネ4の一巻目とは、線材の端末から数えて一巻目をいう。
【0034】
コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411の反転形状とは、コイルバネ4の一巻目の外周面411に係合する形状であって、コイルバネ4の一巻目の外周面411に螺合可能であるように、その外形形状を反転させた凹凸形状を意味する。なお、取付部12の摺動面121は、コイルバネ4の一巻目の外周面411に螺合可能であれば、上記反転形状をその全体に有していてもよいし、一部に有していてもよい。
【0035】
第1の実施形態において、フック部材1の取付部12は、上述のように、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる円筒状である。フック部材1の取付部12が円筒状であることにより、フック部材1に引っ掛けられる対象となる部材の重量が大きい場合であっても、コイルバネ4に対して均等に負荷がかかるので、コイルバネ4の耐久性を向上させることができる。
【0036】
上述のように、第1の実施形態において、フック部材1の取付部12は円筒状であるが、コイルバネ4の外周面41に螺合可能であるようにコイルバネ4の外周面41との摺動面121に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411に係合する形状を有していれば、その他の部分の形状は特に限定されず、例えば、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状、平板状を軸方向に組み合わせた十字状、傘の骨のような放射線状等の様々な形状とすることができる。
【0037】
フック部材1の取付部12が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合には、円筒状等の立体状の取付部12を備えるフック部材1を製造する場合に比べて、製造工程を簡易化することが可能となるため、製造コストを抑えることができるとともに、軽量化が実現される。また、フック部11及び取付部12を含めてフック部材1全体が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合には、製造工程をさらに簡易化することが可能となるとともに、さらなる軽量化が実現される。
【0038】
上述のように、フック部材1の取付部12は、コイルバネ4の外周面41に螺合可能であるので、フック部材1全体がコイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合、フック部材1はコイルバネ4の軸中心と同軸を通る平板状となり、
図1(a)に示すフック部材1の中央縦断面形状と同様の形状を有することになる。この場合、フック部材1の取付部12は、コイルバネ4の外周面41との摺動面121に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411に係合する形状を有するので、フック部材1を回転させつつ、コイルバネ4の外周面41に対して取付部12を螺合するだけで、フック部材1をコイルバネ4に取り付けることができる。
【0039】
なお、フック部材1の取付部12又はフック部材1全体が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合、平板部分の厚さは、取り付けるコイルバネ4の線径d、外径Do及び総巻数等に応じて適宜設定することができる。例えば、線径dが1.08mm、外径Doが8.3mm、総巻数が40巻のコイルバネ4に取り付けるフック部材1については、平板部分が2-3mm程度の厚さであることが好ましい。
【0040】
第1の実施形態において、フック部材1の摺動面121の径方向の寸法R1は、コイルバネ4の外径Doと略同寸法であって、寸法公差をΔとすると、寸法R1=外径Do+寸法公差Δ+約0.15~0.2で表される。また、フック部材1の摺動面121によって形成される凹部1211の軸方向の最大寸法r1は、コイルバネ4の線径dと略同寸法であって、寸法公差をΔとすると、最大寸法r1=線径d+寸法公差Δ+約0.15~0.2で表される。なお、凹部1211のうち、中央縦断面視において左側を凹部1211a、右側を凹部1211bとすると、凹部1211aは、凹部1211bに対して軸方向下側にコイルバネ4の線径dの約1/2の寸法に対応した上下の段差をもって配置されている。
【0041】
また、フック部材1の取付部12のコイルバネ4側の端部123は、コイルバネ4の二巻目以降の巻目が、バネの伸縮の際に接触することがないような、いわゆる逃げ形状を有している。逃げ形状とは、例えば、取付部12のコイルバネ4側の端部123の周囲に面取りやR面が設けられている形状である。第1の実施形態においては、
図1(a)に示すように、端部123の逃げ形状として、摺動面121に対応するコイルバネ4の一巻目の線形中心Xから軸方向下側に垂直に降ろした線を垂線X’とすると、垂線X’を基準として線径中心Xから径方向外側に略45度の角度で切り欠いた面取り形状を採用している。
【0042】
なお、フック部材1の材質としては、例えば金属、合金、樹脂等を使用することができるが、強度の面から、金属又は合金が好ましく、特にステンレス系合金が好ましい。なお、後述するように、引張りバネ10において、コイルバネ4の軸方向の端部が、フック部材1の取付部12にカシメ固定される場合には、フック部材1の材質として、塑性変形しやすい金属又は合金が好ましく、特に銅-亜鉛系合金が好ましい。
【0043】
〈コイルバネ〉
第1の実施形態において、コイルバネ4は、
図1(b)に示すように、線径dを有する金属製の線材を、所定の中心軸周りに外径Doで、線材同士が密接するように螺旋状に巻回することで形成されており、バネが圧縮する方向に荷重を受けると反発力が発生する圧縮コイルバネとは異なり、外部から引張力を作用させない状態でコイル同士が密着している。なお、コイルバネ4の総巻数は必要に応じて適宜設定することができる。例えば、線径dが1.08mm、外径Doが8.3mmのコイルバネ4は、総巻数が40巻程度であることが好ましい。
【0044】
本実施形態におけるフック部材1を用いれば、フック部材1を取り付ける際だけでなく、フック部材1を取り付けた後でもコイルバネ4のコイル同士に隙間が生じないので従来の引張りバネに比べて、コイルバネ4の有効巻数を増やすことができる。
【0045】
〈引張りバネ〉
引張りバネ10は、コイルバネ4と、コイルバネ4の軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材1とを備える。フック部材1は、上述のように、コイルバネ4の外周面41に螺合可能な取付部12を有しており、取付部12は、コイルバネ4の外周面41との摺動面121に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411の反転形状を有するので、コイルバネ4の外周面41に、フック部材1の取付部12を螺合するだけで、フック部材1をコイルバネ4に取り付けることができる。このように、引張りバネ10によれば、コイルバネ4のコイル同士を密着させた状態のままで、フック部材1をコイルバネ4に取り付けることができるので、製造時間を短縮させることができるとともに製造コストを抑えることができる。
【0046】
引張りバネ10においては、コイルバネ4の軸方向の端部が、フック部材1の取付部12にカシメ固定されていることが好ましい。なお、カシメ固定とは、塑性変形しやすい部材(例えば金属)に圧力を加えて変形させることにより、他の部材に固定する方法である。カシメ固定は、例えばカシメ打ち等の工具を用いて行うことができる。第1の実施形態においては、フック部材1の取付部12のコイルバネ4側の端部123であって、コイルバネ4の一巻目と二巻目との境界に対応するカシメ部1231を、径方向外側から軸中心に向かって押圧することでカシメ固定を行っている。中央縦断面視では、カシメ部1231は、軸方向下側にコイルバネ4の線径dの約1/2の寸法に対応した上下の段差をもって配置されることになる。コイルバネ4の軸方向の端部が、フック部材1の取付部12にカシメ固定されていることにより、長時間の動作によりフック部材1がコイルバネ4から外れるのを抑制することができる。
【0047】
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態に係るフック部材及びこのフック部材を備える引張りバネについて、
図2を用いて説明する。
図2(a)は、フック部材2の中央縦断面図であって、
図2(b)は、(a)のフック部材2を備える引張りバネ20の中央縦断面図である。なお、
図2(b)では、コイルバネ4の軸方向下側の一部を省略して示している。
【0048】
第2の実施形態は、フック部材の取付部がさらにコイルバネの内周面に螺合可能な取付部を備える点で、第1の実施形態とは異なる。なお、他の構成については、第1の実施形態と実質的に同様であるため、第1の実施形態と実質的に同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
〈フック部材〉
フック部材2は、コイルバネ4の軸方向の端部に取り付けて用いられるものであって、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部21と、コイルバネ4の外周面41及び内周面42に螺合可能な取付部22とを備える。
【0050】
フック部材2のフック部21は、
図2(a)に示すように、略C字形状を有するが、対象となる部材を引っ掛けることができれば、その形状は特に限定されるものではなく、例えば円環形状であってもよい。
【0051】
第2の実施形態において、フック部材2の取付部22は、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる円筒状であって、その内部に軸方向下側に延びる略円柱状の突起部23を有する。また、フック部材2の取付部22は、コイルバネ4の外周面41との摺動面221に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411の反転形状を有しているとともに、コイルバネ4の内周面42との摺動面222に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421の反転形状を有している。なお、摺動面222は、
図1(a)に示すように、突起部23の外周面に位置しているため、フック部材2をコイルバネ4に取り付けた際には、突起部23が、コイルバネ4の内周面42に螺合されることになる。
【0052】
コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411の反転形状とは、コイルバネ4の一巻目の外周面411に係合する形状であって、コイルバネ4の一巻目の外周面411に螺合可能であるように、その外形形状を反転させた凹凸形状を意味する。なお、取付部22の摺動面221は、コイルバネ4の一巻目の外周面411に螺合可能であれば、上記反転形状をその全体に有していてもよいし、一部に有していてもよい。
【0053】
また、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421の反転形状とは、コイルバネ4の一巻目の内周面421に係合する形状であって、コイルバネ4の一巻目の内周面421に螺合可能であるように、その外形形状を反転させた凹凸形状を意味する。なお、取付部22の摺動面222は、コイルバネ4の一巻目の内周面421に螺合可能であれば、上記反転形状をその全体に有していてもよいし、一部に有していてもよい。
【0054】
第2の実施形態において、フック部材2の取付部22は、上述のように、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる円筒状であって、その内部に軸方向下側に延びる略円柱状の突起部23を有している。フック部材2の取付部22が内部に突起部23を有する円筒状であることにより、フック部材2に引っ掛けられる対象となる部材の重量が大きい場合であっても、コイルバネ4に対して均等に負荷がかかるので、コイルバネ4の耐久性を向上させることができる。また、取付部22が、突起部23によって、コイルバネ4の外周面41だけでなく内周面42にも螺合可能であるので、フック部材2をより強固にコイルバネ4に取り付けることができる。
【0055】
上述のように、第2の実施形態において、フック部材2の取付部22は内部に突起部23を有する円筒状であるが、コイルバネ4の外周面41に螺合可能であるようにコイルバネ4の外周面41との摺動面221に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411に係合する形状を有するとともに、コイルバネ4の内周面42にも螺合可能であるようにコイルバネ4の内周面42との摺動面222に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421に係合する形状を有していれば、その他の部分の形状は特に限定されず、例えば、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状、平板状を軸方向に組み合わせた十字状、傘の骨のような放射線状等の様々な形状とすることができる。
【0056】
フック部材2の取付部22が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合には、円筒状等の立体状の取付部22を備えるフック部材2を製造する場合に比べて、製造工程を簡易化することが可能となるため、製造コストを抑えることができるとともに、軽量化が実現される。また、フック部21及び取付部22を含めてフック部材2全体が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合には、製造工程をさらに簡易化することが可能となるとともに、さらなる軽量化が実現される。
【0057】
上述のように、フック部材2の取付部22は、コイルバネ4の外周面41及び内周面42に螺合可能であるので、フック部材2全体がコイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合、フック部材2はコイルバネ4の軸中心と同軸を通る平板状となり、
図2(a)に示すフック部材2の中央縦断面形状と同様の形状を有することになる。この場合、フック部材2の取付部22は、コイルバネ4の外周面41との摺動面221に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411に係合する形状を有するとともに、コイルバネ4の内周面42との摺動面222に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421に係合する形状を有するので、フック部材2を回転させつつ、コイルバネ4の外周面41及び内周面42に対して取付部12を螺合するだけで、フック部材2をコイルバネ4に取り付けることができる。
【0058】
なお、フック部材2の取付部22又はフック部材2全体が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合、平板部分の厚さは、取り付けるコイルバネ4の線径d、外径Do及び総巻数等に応じて適宜設定することができる。例えば、線径dが1.08mm、外径Doが8.3mm、総巻数が40巻のコイルバネ4に取り付けるフック部材2については、平板部分が2-3mm程度の厚さであることが好ましい。
【0059】
第2の実施形態において、フック部材2の摺動面221の径方向の寸法R21は、コイルバネ4の外径Doと略同寸法であって、寸法公差をΔとすると、寸法R21=外径Do+寸法公差Δ+約0.15~0.2で表される。また、フック部材2の摺動面222の径方向の寸法R22は、コイルバネ4の内径Diと略同寸法であって、寸法公差をΔとすると、寸法R22=内径Di+寸法公差Δ+約0.15~0.2で表される。
【0060】
フック部材2の摺動面221及び摺動面222によって形成される凹部2211の軸方向の最大寸法r2は、コイルバネ4の線径dと略同寸法であって、寸法公差をΔとすると、最大寸法r2=線径d+寸法公差Δ+約0.15~0.2で表される。なお、凹部2211のうち、中央縦断面視において左側を凹部2211a、右側を凹部2211bとすると、凹部2211aは、凹部2211bに対して軸方向下側にコイルバネ4の線径dの約1/2の寸法に対応した上下の段差をもって配置されている。
【0061】
また、フック部材2において、取付部22は、突起部23を含むコイルバネ4側の端部223が、コイルバネ4の二巻目以降の巻目が、バネの伸縮の際に接触することがないような、いわゆる逃げ形状を有している。逃げ形状とは、例えば、取付部22のコイルバネ4側の端部223の周囲に面取りやR面が設けられている形状である。第2の実施形態においては、
図2(a)に示すように、端部223の逃げ形状として、摺動面221及び摺動面222によって形成される凹部2211に対応するコイルバネ4の一巻目の線形中心Xから軸方向下側に垂直に降ろした線を垂線X’とすると、垂線X’を基準として線径中心Xから径方向外側と径方向内側にそれぞれ略45度の角度で切り欠いた面取り形状を採用している。
【0062】
なお、フック部材2の材質としては、例えば金属、合金、樹脂等を使用することができるが、強度の面から、金属又は合金が好ましく、特にステンレス系合金が好ましい。なお、後述するように、引張りバネ20において、コイルバネ4の軸方向の端部が、フック部材2の取付部22にカシメ固定される場合には、フック部材2の材質として、塑性変形しやすい金属又は合金が好ましく、特に銅―亜鉛系合金が好ましい。
【0063】
〈コイルバネ〉
第2の実施形態において、コイルバネ4は、第1の実施形態と共通であるため、その説明を省略する。
図4(a)は、第2の実施形態のフック部材2及び総巻数が40巻のコイルバネ4を備える引張りバネ20の中央縦断面図であり、
図4(b)は(a)と総巻数が同数のコイルバネを備える従来の引張りバネの中央縦断面図である。
図4からも明らかなように、本実施形態におけるフック部材2を用いれば、フック部材2を取り付ける際だけでなく、フック部材2を取り付けた後でもコイルバネ4のコイル同士に隙間が生じないので、従来の引張りバネに比べて、コイルバネ4の有効巻数を増やすことができる。
【0064】
〈引張りバネ〉
引張りバネ20は、コイルバネ4と、コイルバネ4の軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材2とを備える。フック部材2は、上述のように、コイルバネ4の外周面41及び内周面42に螺合可能な取付部22を有しており、取付部22は、コイルバネ4の外周面41との摺動面221に、コイルバネ4を構成する一巻目の外周面411の反転形状を有するとともに、コイルバネ4の内周面42との摺動面222に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421の反転形状を有するので、コイルバネ4の外周面41及び内周面42に、フック部材2の取付部22を螺合するだけで、フック部材2をコイルバネ4に取り付けることができる。このように、引張りバネ20によれば、コイルバネ4のコイル同士を密着させた状態のままで、フック部材2をコイルバネ4に取り付けることができるので、製造時間を短縮させることができるとともに製造コストを抑えることができる。また、取付部22が、コイルバネ4の外周面41だけでなく内周面42にも螺合可能であるので、フック部材2をより強固にコイルバネ4に取り付けることができる。
【0065】
引張りバネ20においては、コイルバネ4の軸方向の端部が、フック部材2の取付部22にカシメ固定されていることが好ましい。第2の実施形態においては、フック部材2の取付部22のコイルバネ4側の端部223であって、コイルバネ4の一巻目と二巻目との境界に対応するカシメ部2231を、径方向外側から軸中心に向かって押圧することでカシメ固定を行っている。中央縦断面視では、カシメ部2231は、軸方向下側にコイルバネ4の線径dの約1/2の寸法に対応した上下の段差をもって配置されることになる。コイルバネ4の軸方向の端部が、フック部材2の取付部22にカシメ固定されていることにより、長時間の動作によりフック部材2がコイルバネ4から外れるのを抑制することができる。
【0066】
〔第3の実施形態〕
次に、第3の実施形態に係るフック部材及びこのフック部材を備える引張りバネについて、
図3を用いて説明する。
図3(a)は、フック部材3の中央縦断面図であって、
図3(b)は、(a)のフック部材3を備える引張りバネ30の中央縦断面図である。なお、
図3(b)では、コイルバネ4の軸方向下側の一部を省略して示している。
【0067】
第3の実施形態は、フック部材の取付部がコイルバネの内周面にのみ螺合可能な取付部を備える点で、コイルバネの外周面にのみ螺合可能な取付部を備える第1の実施形態とは異なる。なお、他の構成については、第1の実施形態と実質的に同様であるため、第1の実施形態と実質的に同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
〈フック部材〉
フック部材3は、コイルバネ4の軸方向の端部に取り付けて用いられるものであって、対象となる部材を引っ掛けるためのフック部31と、コイルバネ4の内周面42に螺合可能な取付部32とを備える。
【0069】
フック部材3のフック部31は、
図3(a)に示すように、略C字形状を有するが、対象となる部材を引っ掛けることができれば、その形状は特に限定されるものではなく、例えば円環形状であってもよい。
【0070】
第3の実施形態において、フック部材3の取付部32は、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる略円柱状であって、コイルバネ4の内周面42との摺動面322に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421の反転形状を有している。
【0071】
コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421の反転形状とは、コイルバネ4の一巻目の内周面421に係合する形状であって、コイルバネ4の一巻目の内周面421に螺合可能であるように、その外形形状を反転させた凹凸形状を意味する。なお、取付部32の摺動面322は、コイルバネ4の一巻目の内周面421に螺合可能であれば、上記反転形状をその全体に有していてもよいし、一部に有していてもよい。
【0072】
第3の実施形態において、フック部材3の取付部32は、上述のように、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる略円柱状である。フック部材3の取付部32が略円柱状であることにより、フック部材3に引っ掛けられる対象となる部材の重量が大きい場合であっても、コイルバネ4に対して均等に負荷がかかるので、コイルバネ4の耐久性を向上させることができる。
【0073】
上述のように、第3の実施形態において、フック部材3の取付部32は略円柱状であるが、コイルバネ4の内周面42に螺合可能であるようにコイルバネ4の内周面42との摺動面322に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421に係合する形状を有していれば、その他の部分の形状は特に限定されず、例えば、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状、平板状を軸方向に組み合わせた十字状等の様々な形状とすることができる。
【0074】
フック部材3の取付部32が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合には、突起状等の立体状の取付部32を備えるフック部材3を製造する場合に比べて、製造工程を簡易化することが可能となるため、製造コストを抑えることができるとともに、軽量化が実現される。また、フック部31及び取付部32を含めてフック部材3全体が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合には、製造工程をさらに簡易化することが可能となるとともに、さらなる軽量化が実現される。
【0075】
上述のように、フック部材3の取付部32は、コイルバネ4の内周面42に螺合可能であるので、フック部材3全体がコイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合、フック部材3はコイルバネ4の軸中心と同軸を通る平板状となり、
図3(a)に示すフック部材3の中央縦断面形状と同様の形状を有することになる。この場合、フック部材3の取付部32は、コイルバネ4の内周面42との摺動面322に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421に係合する形状を有するので、フック部材3を回転させつつ、コイルバネ4の内周面42に対して取付部32を螺合するだけで、フック部材3をコイルバネ4に取り付けることができる。
【0076】
なお、フック部材3の取付部32又はフック部材3全体が、コイルバネ4の軸方向と同方向に延びる平板状である場合、平板部分の厚さは、取り付けるコイルバネ4の線径d、外径Do及び総巻数等に応じて適宜設定することができる。例えば、線径dが1.08mm、外径Doが8.3mm、総巻数が40巻のコイルバネ4に取り付けるフック部材3については、平板部分が2-3mm程度の厚さであることが好ましい。
【0077】
第3の実施形態において、フック部材3の摺動面322の径方向の寸法R3は、コイルバネ4の内径Diと略同寸法であって、寸法公差をΔとすると、寸法R3=内径Di+寸法公差Δ+約0.15~0.2で表される。また、フック部材3の摺動面322によって形成される凹部3221の軸方向の最大寸法r3は、コイルバネ4の線径dと略同寸法であって、寸法公差をΔとすると、最大寸法r3=線径d+寸法公差Δ+約0.15~0.2で表される。なお、凹部3221うち、中央縦断面視において左側を凹部3221a、右側を凹部3221bとすると、凹部3221aは、凹部3221bに対して軸方向下側にコイルバネ4の線径dの約1/2の寸法に対応した上下の段差をもって配置されている。
【0078】
また、フック部材3の取付部32のコイルバネ4側の端部323は、コイルバネ4の二巻目以降の巻目が、バネの伸縮の際に接触することがないような、いわゆる逃げ形状を有している。逃げ形状とは、例えば、取付部32のコイルバネ4側の端部323の周囲に面取りやR面が設けられている形状である。第3の実施形態においては、
図3(a)に示すように、端部323の逃げ形状として、摺動面322に対応するコイルバネ4の一巻目の線形中心Xから軸方向下側に垂直に降ろした線を垂線X’とすると、垂線X’を基準として線径中心Xから径方向内側に略45度の角度で切り欠いた面取り形状を採用している。
【0079】
なお、フック部材3の材質としては、例えば金属、合金、樹脂等を使用することができるが、強度の面から、金属又は合金が好ましく、特にステンレス系合金が好ましい。なお、後述するように、引張りバネ30において、コイルバネ4の軸方向の端部が、フック部材3の取付部32にカシメ固定される場合には、フック部材3の材質として、塑性変形しやすい金属又は合金が好ましく、特に銅―亜鉛系合金が好ましい。
【0080】
〈コイルバネ〉
第3の実施形態において、コイルバネ4は、第1の実施形態と共通であるため、その説明を省略する。本実施形態におけるフック部材3を用いれば、フック部材3を取り付ける際だけでなく、フック部材3を取り付けた後でもコイルバネ4のコイル同士に隙間が生じないので、従来の引張りバネに比べて、コイルバネ4の有効巻数を増やすことができる。
【0081】
〈引張りバネ〉
引張りバネ30は、コイルバネ4と、コイルバネ4の軸方向の一方又は双方の端部に取り付けられる一又は一対のフック部材3とを備える。フック部材3は、上述のように、コイルバネ4の内周面42に螺合可能な取付部32を有しており、取付部32は、コイルバネ4の内周面42との摺動面322に、コイルバネ4を構成する一巻目の内周面421の反転形状を有するので、コイルバネ4の内周面42に、フック部材3の取付部32を螺合するだけで、フック部材3をコイルバネ4に取り付けることができる。このように、引張りバネ30によれば、コイルバネ4のコイル同士を密着させた状態のままで、フック部材3をコイルバネ4に取り付けることができるので、製造時間を短縮させることができるとともに製造コストを抑えることができる。
【0082】
以上、本発明について図面を参照にして説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。上記実施形態においては主に、本発明に係るフック部材を、外部から引張力を作用させない状態でコイル同士が密着している、いわゆる引張コイルバネに取り付ける場合について説明しているが、本発明に係るフック部材は、バネが圧縮する方向に荷重を受けると反発力が発生する、いわゆる圧縮コイルバネにも取り付けて使用することができる。また、上記実施形態においては、本発明に係るフック部材の取付部が、コイルバネの外周面又は/及び内周面との摺動面に、コイルバネを構成する一巻目の外周面又は/及び内周面の反転形状を有している場合について説明しているが、本発明に係るフック部材は、取付部がコイルバネを構成する少なくとも一巻目の外周面又は/及び内周面の反転形状を有していればよく、例えば、コイルバネを構成する二巻目以降の外周面又は/及び内周面の反転形状を追加的に有していてもよい。
【符号の説明】
【0083】
〔第1の実施形態〕
1 フック部材
11 フック部
12 取付部
121 摺動面(コイルバネ4の外周面41との摺動面)
123 端部
1231 カシメ部
〔第2の実施形態〕
2 フック部材
21 フック部
22 取付部
221 摺動面(コイルバネ4の外周面41との摺動面)
222 摺動面(コイルバネ4の内周面42との摺動面)
223 端部
2231 カシメ部
23 突起部
〔第3の実施形態〕
3 フック部材
31 フック部
32 取付部
322 摺動面(コイルバネ4の内周面42との摺動面)
323 端部
4 コイルバネ
41 外周面
411 一巻目の外周面
42 内周面
421 一巻目の内周面
d 線径
Do 外径
Di 内径
10、20、30 引張りバネ