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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】レンズ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/04 20210101AFI20230626BHJP
   G02B 7/10 20210101ALI20230626BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
G02B7/04 D
G02B7/10 C
G03B21/14 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019124264
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021009268
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】勝山 智仁
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-031774(JP,A)
【文献】特開2013-161062(JP,A)
【文献】特開昭60-241006(JP,A)
【文献】特開2003-207709(JP,A)
【文献】特開2018-194813(JP,A)
【文献】中国実用新案第208580252(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 - 7/16
G03B 21/00 - 21/30
G03B 33/00 - 33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定筒部に対して周方向へ回動操作可能な調整リングを有するレンズ鏡筒を備えるレンズ装置において、前記固定筒部に対して、螺合部を介して周方向へ回動操作可能に装着し、前記調整リングにおける被対向面に対して対向する対向面を形成した押圧リング部と、前記対向面と前記被対向面間に介在させるとともに、少なくとも周方向への変位が規制される部位を硬質素材により形成した中間リング部と、この中間リング部の光軸方向への変位を許容し、かつ周方向への変位を規制するとともに、前記中間リング部の内周面又は前記固定筒部の外周面における、一方に形成した光軸方向に平行となる直線スリット,及び他方から突出し、かつ前記直線スリットに係合する係合規制部により構成した変位規制部と、前記固定筒部に対する前記押圧リング部の位置をロックするリングロック部とを有してなる調整リング固定機構を備えることを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記調整リングは、フォーカス調整リング,ズーム調整リング,アイリス調整リング、の一又は二以上を含むことを特徴とする請求項1記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記係合規制部は、断面円形の係合ピンにより構成することを特徴とする請求項1記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記リングロック部は、前記押圧リング部における周面部の径方向に螺着し、回動操作により当該周面部の内周面から露出する先端部が前記固定筒部に当接可能なロックネジを備えることを特徴とする請求項1記載のレンズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定筒部の周方向へ回動操作可能な調整リングを有するレンズ鏡筒を備えるレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクタ等に搭載し、固定筒部の周方向へ回動操作可能なズーム調整リング及びフォーカス調整リングなどの調整リングを有するレンズ鏡筒を備える投射用のレンズ装置は知られている。ところで、プロジェクタに搭載するレンズ装置の場合、プロジェクタの設置状況によっては、調整リングの調整位置が長期の使用により徐々にズレてしまう問題がある。例えば、プロジェクタを天吊り方式により設置し、レンズ装置が前下がりに傾斜した場合、初期設置時に、ズーム調整リングによりズーミング調整を行っても、長期の使用により、ズーミング位置が徐々にズレてしまうとともに、一旦、ズーミング位置がズレた場合、天吊り方式により設置したプロジェクタに対する再調整は容易でない。
【0003】
そこで、本出願人は、この問題を有効に解決するレンズ装置を、既に特許文献1により提案した。このレンズ装置は、回動筒部(調整リング)の調整位置がズレる不具合を解消し、煩わしい再調整作業を不要にするとともに、不適切な調整位置での視聴等を回避し、加えて、回動筒部を回動操作する際の操作性や操作力を最適な状態に設定することを目的としたものであり、具体的には、固定筒部に対して回動操作可能な回動筒部を装着してなるレンズ鏡筒を有するレンズ装置を構成するに際して、固定筒部と回動筒部間に、少なくとも回動筒部を回動操作する際における回動操作トルクを所定の大きさに設定可能なトルク設定部材を介在させて構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-14766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載されるレンズ装置は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0006】
第一に、トルク設定部材により回動操作トルクの大きさを設定して回動筒部(調整リング)の調整位置に対するズレを防止するため、レンズ装置をプロジェクタに搭載した場合、小型のレンズ装置の場合には、一定のズレ防止効果を得ることができるが、大型(大重量)のレンズ装置の場合や振動や衝撃等の影響を受けやすい環境に設置した場合など、レンズ装置の構造や設置環境によっては十分なズレ防止効果を得にくい。
【0007】
第二に、弾性材料又は摩擦材料を用いたトルク設定部材により回動操作トルクの大きさを設定するとともに、ズレ防止を目的とするため、通常、回動操作トルクは、大きめに設定する必要がある。このため、特に、大型のレンズ装置の場合、大きめの操作力が要求されることになり、操作性に悪影響を来す虞れがあるとともに、弾性材料又は摩擦材料の素材による影響により正確な調整を行いにくい。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したレンズ装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するため、固定筒部2に対して周方向Ffへ回動操作可能な調整リング3を有するレンズ鏡筒Sを備えるレンズ装置1を構成するに際し、固定筒部2に対して、螺合部4を介して周方向Ffへ回動操作可能に装着し、調整リング3における被対向面3cに対して対向する対向面5cを形成した押圧リング部5と、対向面5cと被対向面3c間に介在させるとともに、少なくとも周方向Ffへの変位が規制される部位を硬質素材により形成した中間リング部6と、この中間リング部6の光軸方向Fcへの変位を許容し、かつ周方向Ffへの変位を規制するとともに、中間リング部6の内周面6i又は固定筒部2の外周面2fにおける、一方に形成した光軸方向Fcに平行となる直線スリット11,及び他方から突出し、かつ直線スリット11に係合する係合規制部12により構成した変位規制部7と、固定筒部2に対する押圧リング部5の位置をロックするリングロック部8とを有してなる調整リング固定機構Mcを備えることを特徴とする。
【0010】
この場合、発明の好適な態様により、調整リング3には、フォーカス調整リング3f,ズーム調整リング,アイリス調整リング、の一又は二以上を含ませることができる。なお、係合規制部12は、断面円形の係合ピン12pにより構成することが望ましい。さらに、リングロック部8には、押圧リング部5における周面部5mの径方向Fdに螺着し、回動操作により当該周面部5mにおける内周面5iから露出する先端部13sが固定筒部2に当接可能なロックネジ13を用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
このような構成を有する本発明に係るレンズ装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) 螺合部4を介して装着し、調整リング3における被対向面3cに対して対向する対向面5cを形成した押圧リング部5と、対向面5cと被対向面3c間に介在し、固定筒部2に対して、光軸方向Fcへの変位が許容され、かつ周方向Ffへの変位が規制された中間リング部6と、固定筒部2に対する押圧リング部5の位置をロックするリングロック部8とを有してなる調整リング固定機構Mcを備えるため、振動や衝撃等の影響を受けやすい環境に設置された場合であっても、調整リング3の調整位置に対する十分なズレ防止効果(ズレ阻止効果)を得ることができる。したがって、特に重量の大きい大型のレンズ装置1が垂直に又は傾斜して設置される場合に有効性を高めることができる。
【0013】
(2) 調整リング3の回動操作に影響する弾性材料や摩擦材料等のトルク設定部材を使用しないとともに、調整リング3の回動操作トルクを大きくする必要がないため、最適な操作力、更には操作性を確保することができる。したがって、調整リング3の回動操作による調整を容易かつ正確に行なうことができる。
【0014】
(3) 中間リング部6における少なくとも周方向Ffへの変位が規制される部位を硬質素材により形成したため、中間リング部6の素材面及び剛性面からズレ防止を図ることができる。これにより、中間リング部6の更なるズレ防止効果の向上に寄与できる。
【0015】
(4) 変位規制部7を、中間リング部6の内周面6i又は固定筒部2の外周面2fにおける、一方に形成した光軸方向Fcに平行となる直線スリット11,及び他方から突出し、かつ直線スリット11に係合する係合規制部12により構成したため、簡易な加工と構造により変位規制部7を構成できる。これにより、容易かつ低コストに実施することができる。
【0016】
(5) 好適な態様により、調整リング3に、フォーカス調整リング3f,ズーム調整リング,アイリス調整リング、の一又は二以上を含ませれば、特に、問題として無視できないフォーカス調整リング3fにおけるズレ防止や操作性向上等の改善に加え、同様の効果をズーム調整リングやアイリス調整リングにも適用できるため、レンズ装置1全体の付加価値向上、更には商品性向上に寄与できる。
【0017】
(6) 好適な態様により、係合規制部12を断面円形の係合ピン12pにより構成すれば、係合規制部12(係合ピン12p)と直線スリット11を線接触係合とすることができるため、ズレ防止構造に伴う剛性を損なうことなく、精度を確保した十分なズレ防止効果を確保できる。
【0018】
(7) 好適な態様により、リングロック部8に、押圧リング部5における周面部5mの径方向Fdに螺着し、回動操作により当該周面部5mにおける内周面5iから露出する先端部13sが固定筒部2に当接可能なロックネジ13を用いれば、ハンドル部などを設けることにより容易に回動操作できるため、固定筒部2と押圧リング部5間を確実に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好適実施形態に係るレンズ装置における要部構成を含むレンズ境筒の一部を示す側面断面図、
図2】同レンズ装置の一部抽出拡大図を含む図3中A-A線断面図、
図3】同レンズ装置におけるレンズ境筒の一部を示す側面断面図、
図4】同レンズ装置に備える中間リング部の中心方向から見た内周面における直線スリットと突起部の関係を示すレイアウト図、
図5】同レンズ装置を搭載したプロジェクタの設置状態説明図、
図6】同レンズ装置に備える調整リングの調整前における調整リング固定機構の作用説明図、
図7】同レンズ装置に備える調整リングの調整後における調整リング固定機構の作用説明図、
図8】同レンズ装置における調整リング固定機構の変更例を示す図2中の一部抽出拡大図に対応する断面図、
図9】同レンズ装置における調整リング固定機構の他の変更例を示す図6と同一位置における断面図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係るレンズ装置1の構成について、図1図7を参照して具体的に説明する。
【0022】
図5は、本実施形態に係るレンズ装置1を搭載した大型のプロジェクタPを示す。このプロジェクタPは、傾斜面Kに設置し、斜め上方の投射面(不図示)に投射する場合を示している。また、レンズ装置1は、レンズ鏡筒Sを備え、このレンズ鏡筒Sの外周部に、フォーカス調整リング3fをはじめ、図に現れないズーム調整リング及びアイリス調整リングを備えている。これらフォーカス調整リング3f,ズーム調整リング及びアイリス調整リングは、調整リング3を構成する。
【0023】
図3は、レンズ装置1の要部構成を含むレンズ鏡筒Sの一部を示す。したがって、図3には、フォーカス調整機構Mf及び調整リング固定機構Mcが含まれる。このレンズ鏡筒Sには固定筒部2を備えるとともに、この固定筒部2の内部側には、この固定筒部2の内周面2iに接し、かつ光軸方向Fcへの変位が許容されるフォーカスレンズ支持筒21を備え、また、固定筒部2の外部側には、この固定筒部2の外周面2fに接し、かつ周方向Ffへの変位が許容されるフォーカス調整リング3fを備える。フォーカス調整リング3fは、全体を筒形に形成し、外周面の前部には回動操作のためのグリップ部3fgを形成するとともに、後端面には後述する押圧リング部5に形成した対向面5cに対向する被対向面3cを形成する。一方、フォーカスレンズ支持筒21は、内周面にレンズ支持部21sを有し、このレンズ支持部21sにより複数のフォーカスレンズL1,L2,L3が支持される。なお、例示のフォーカスレンズL1,L2,L3は、レンズの存在を模式的に示したものであり、正確性を有するものではない。
【0024】
さらに、図1に示すように、固定筒部2の光軸方向Fcに平行となる複数組(例示は周方向Ffに三組)のガイド溝22…を形成するとともに、フォーカス調整リング3fの周方向Ffには当該ガイド溝22…に対応する傾斜したカム溝23…を形成する。なお、24…は、フォーカス調整リング3fの周方向Ffに平行に形成した複数組のガイド溝を示す。そして、フォーカスレンズ支持筒21の外周面にはローラ状に構成した複数組のコロ部25…を取付け、各ガイド溝22…及びカム溝23…に係合させるとともに、固定筒部2の外周面2fに取付けたローラ状に構成した複数組のコロ部26…をガイド溝24…に係合させる。
【0025】
これにより、フォーカス調整リング3fのグリップ部3fgを、固定筒部2の周方向Ffへ回動操作すれば、この回動変位はコロ部25…に伝達され、更に運動変換されることによりフォーカスレンズ支持筒21に伝達される。この結果、フォーカスレンズL1,L2,L3が光軸方向Fcに変位し、フォーカス調整を行なうことができるフォーカス調整機構Mfが構成される。
【0026】
一方、このフォーカス調整機構Mfには、本発明の要部を構成する調整リング固定機構Mcを付設する。この調整リング固定機構Mcは、例示の場合、構成部品として、押圧リング部5,中間リング部6,変位規制部7及びリングロック部8を備える。
【0027】
押圧リング部5は、図1図3に示すように、全体を筒形に形成し、固定筒部2に対して、螺合部4を介して周方向Ffへ回動操作可能に装着する。即ち、螺合部4は、図7に示すように、押圧リング部5における後部の内周面に形成した雌ネジ部4iとこの雌ネジ部4iが対向する固定筒部2の外周面2fに形成した雄ネジ部4fにより構成する。また、押圧リング部5における外周面の前端寄りには、回動操作のための図1に示すグリップ部5gを形成する。さらに、押圧リング部5における後部寄りの一部の部位となる周面部5mは厚肉形成し、この周面部5mにおける内周面5iは固定筒部2の外周面2fに接触するとともに、押圧リング部5の前部は、当該内周面5iに対して段差面を介して薄肉形成し、フォーカス調整リング3fに対するカバー機能を持たせる。これにより、押圧リング部5の前部により、フォーカス調整リング3fのグリップ部3fgを除く後部側の外周面が覆われる。そして、周面部5mにおける内周面5iの前側に形成した段差面は、前述したフォーカス調整リング3fの後端面に形成した被対向面3cに対向(対面)する押圧リング部5における対向面5cとなる。
【0028】
リングロック部8は、図6に示すように、押圧リング部5における周面部5mの径方向Fdに螺着し、回動操作により当該周面部5mにおける内周面5iから露出する先端部13sが固定筒部2の外周面2fに当接可能なロックネジ13を用いた。即ち、押圧リング部5における周面部5mの部位に外周面から内周面5iに貫通するネジ孔部31を形成し、このネジ孔部31にロックネジ13のネジ棒部32を螺合して構成した。また、ロックネジ13は、ネジ棒部32の外端に、このロックネジ13を回し操作するためのハンドル部33を一体に有する。これにより、押圧リング部5の位置を固定筒部2に対してロック可能(固定可能)なリングロック部8が構成される。このようなロックネジ13を用いれば、ハンドル部などを設けることにより容易に回動操作できるため、固定筒部2と押圧リング部5間を確実に固定することができる。
【0029】
中間リング部6は、フォーカス調整リング3fの被対向面3cの後方に配し、この被対向面3cと押圧リング部5の対向面5c間に介在させる。このため、被対向面3cと対向面5c間には、中間リング部6を収容可能な隙間を確保する(図6参照)。中間リング部6は、光軸方向Fcに一定の厚さに形成するとともに、内径をフォーカス調整リング3fの内径とほぼ同一に選定することにより、固定筒部2の外周面2f上に変位自在に配する。この中間リング部6は、金属素材又は硬質合成樹脂素材等の硬質素材により一体に形成する。これにより、中間リング部6における少なくとも周方向Ffへの変位が規制される部位は硬質素材により形成される。このように形成すれば、中間リング部6の素材面及び剛性面からズレ防止を図れるため、中間リング部6の更なるズレ防止効果の向上に寄与できる。
【0030】
変位規制部7は、図2及び図4に示すように、中間リング部6の内周面6iに、光軸方向Fcに平行となる断面矩形の直線スリット11を形成するとともに、固定筒部2の外周面2fから突出し、かつ直線スリット11に係合する係合規制部12を設けて構成する。例示の場合、係合規制部12は、固定筒部2の外周面2fに、径方向Fdの孔部35を形成し、この孔部35に、金属素材等の硬質素材により形成した断面円形の係合ピン12pを挿入して固定した。係合ピン12pは、図4に示すように、外径Lpを、直線スリット11の幅寸法Lwに一致させる。なお、係合ピン12pを孔部35に固定するに際しては、ネジ込み方式や圧入方式などの各種方式により挿入し、固定することができる。また、係合ピン12pの先端は球面形状に形成することが望ましい。
【0031】
この変位規制部7により、中間リング部6は、固定筒部2の周方向Ffへの変位が規制され、かつ光軸方向Fcへの変位が許容される。このように、変位規制部7を構成するに際し、中間リング部6の内周面6iに形成した光軸方向Fcに平行となる直線スリット11,及び固定筒部2の外周面2fから突出し、かつ直線スリット11に係合する係合規制部12により構成すれば、簡易な加工と構造により構成できるため、容易かつ低コストに実施することができる。また、係合規制部12を、断面円形の係合ピン12pにより構成すれば、係合規制部12(係合ピン12p)と直線スリット11を線接触係合とすることができるため、ズレ防止構造に伴う剛性を損なうことなく、精度を確保した十分なズレ防止効果を確保できる。
【0032】
次に、本実施形態に係るレンズ装置1における要部の機能(作用)について、各図を参照しつつ図6及び図7に基づいて説明する。
【0033】
最初に、レンズ装置1に備えるフォーカス調整リング3fの調整前における調整リング固定機構Mcの状態を図6を参照して説明する。フォーカス調整リング3fの調整前には、ロックネジ13におけるハンドル部33を緩める方向に回し操作し、ロックネジ13(ネジ棒部32)の先端部13sを、固定筒部2の外周面2fから離間させることにより、押圧リング部5の位置に対するロックを解除する。図6におけるLsは離間した隙間を示している。そして、ロックが解除された押圧リング部5のグリップ部5g(図1)を回動操作し、押圧リング部5がフォーカス調整リング3fから離間する方向へ変位させることにより、フォーカス調整リング3f(中間リング部6)との間に、図6に示す隙間Luの遊びを確保する。
【0034】
これにより、フォーカス調整リング3fに対する調整リング固定機構Mcによる規制(固定)は解除されるため、図1に示すフォーカス調整リング3fのグリップ部3fgを、固定筒部2に対して周方向Ffへ回動操作すれば、この回動変位はコロ部25…に伝達され、更に運動変換されることによりフォーカスレンズ支持筒21に伝達される。この結果、フォーカスレンズL1,L2,L3が光軸方向Fcに変位し、フォーカス調整を行なうことができる。そして、フォーカス調整が終了したなら、調整リング固定機構Mcを用いることにより、調整後におけるフォーカス調整リング3fの位置を固定する。
【0035】
次に、この調整リング固定機構Mcを用いることにより調整後におけるフォーカス調整リング3fの位置を固定する操作について、図7を参照して説明する。この場合、まず、図1に示す押圧リング部5のグリップ部5gを回動操作し、押圧リング部5を前方へ変位させる。これにより、押圧リング部5の対向面5cにより中間リング部6及びフォーカス調整リング3fが押圧(加圧)され、フォーカス調整リング3fの位置が圧接により固定される。この際、中間リング部6は、固定筒部2に対して、光軸方向Fcへの変位が許容され、かつ周方向Ffへの変位が規制されているため、押圧リング部5の加圧力は光軸方向Fcへのみ伝達され、回動方向の変位はフォーカス調整リング3fに伝達されない。したがって、調整後におけるフォーカス調整リング3fの位置にズレが生じる不具合は回避され、フォーカス調整リング3fの位置が固定される。図7におけるLuoはフォーカス調整リング3f(中間リング部6)と押圧リング部5間の隙間(遊び)がゼロになり、圧接した状態を示している。
【0036】
そして、この後、ロックネジ13のハンドル部33を締める方向に回し操作し、ロックネジ13(ネジ棒部32)の先端部13sを、固定筒部2の外周面2fに圧接させることにより押圧リング部5の位置をロックする。図7におけるLsoは、ロックネジ13の先端部13sが固定筒部2の外周面2fに圧接して図6における隙間Lsがゼロになった状態を示している。
【0037】
よって、このような本実施形態に係るレンズ装置1によれば、基本構成として、固定筒部2に対し、螺合部4を介して周方向Ffへ回動操作可能に装着し、調整リング3における被対向面3cに対して対向する対向面5cを形成した押圧リング部5と、対向面5cと被対向面3c間に介在させた中間リング部6と、この中間リング部6の光軸方向Fcへの変位を許容し、かつ周方向Ffへの変位を規制する変位規制部7と、固定筒部2に対する押圧リング部5の位置をロックするリングロック部8とを有してなる調整リング固定機構Mcを備えるため、振動や衝撃等の影響を受けやすい環境に設置された場合であっても、調整リング3の調整位置に対する十分なズレ防止効果(ズレ阻止効果)を得ることができる。したがって、特に重量の大きい大型のレンズ装置1が垂直に又は傾斜して設置される場合に有効性を高めることができる。
【0038】
また、調整リング3の回動操作に影響する弾性材料や摩擦材料等のトルク設定部材を使用しないとともに、調整リング3の回動操作トルクを大きくする必要がないため、最適な操作力、更には操作性を確保することができる。したがって、調整リング3の回動操作による調整を容易かつ正確に行なうことができる。特に、調整リング3に、フォーカス調整リング3fを適用すれば、問題として無視できないフォーカス調整リング3fの位置ズレ防止や操作性向上等の有効な改善を図ることができるとともに、調整リング固定機構Mcは、ズーム調整リングやアイリス調整リングにも同様に適用できるため、レンズ装置1全体の付加価値向上、更には商品性向上に寄与できる。
【0039】
次に、本実施形態に係るレンズ装置1に備える調整リング固定機構Mcの変更例について、図8及び図9図3)を参照して説明する。
【0040】
図8は、調整リング固定機構Mcを構成する変位規制部7の変更例を示す。図1図4に示した変位規制部7は、係合規制部12を設けるに際し、別途用意した部品となる係合ピン12pを孔部35に取付けて構成した場合を示したが、この係合規制部12は、図8に示す変更例のように、固定筒部2の外周面2fに、突起部12eとして一体形成してもよい。
【0041】
他方、図9は、調整リング固定機構Mcを構成する中間リング部6の変更例を示す。図1図4に示した中間リング部6は、金属素材等の硬質素材により一体形成した場合を示したが、この中間リング部6は、図9に示す変更例のように、図1図4に示した中間リング部6を中間リング本体部6mとし、この中間リング本体部6mにおける、押圧リング部5の対向面5cに対向する面に、ゴム素材等の弾性素材により形成した一定厚のリングシート41を貼着し、さらに、このリングシート41に、金属素材により形成したリングプレート42を貼着して構成することも可能である。
【0042】
図9に示す中間リング部6は、光軸方向Fcに加圧した場合、弾性圧縮するため、その反発による加圧力により押圧リング部5の回動変位を阻止することができる。したがって、このリングシート41はリングロック部8を兼用する。なお、図1図4に示したロックネジ13と併用することにより、より強固に押圧リング部5の位置をロックすることができるが、図9の変更例の場合、必ずしもロックネジ13等の他の固定手段を設けることを要しない。
【0043】
その他、図1図4に示した調整リング固定機構Mcは、周方向Ffにおける一個所に設けた場合を示したが、例えば、周方向Ffにおける180゜対向する二個所の位置に同様に構成する調整リング固定機構Mc…を設けてもよい。この場合、図3に示すように、直線スリット11,係合規制部12及びロックネジ13を一個所に設けることに加え、180゜対向する位置に、仮想線で示すロックネジ13seのみを追加する構成であってもよいし、二個所の位置に、それぞれ同一の調整リング固定機構Mcを計二組設ける構成であってもよいなど、各種形態により実施することができる。調整リング固定機構Mcを複数設けることにより、ロック位置のバランスを確保できるため、無用な応力が付加される不具合を回避できるとともに、ロック強度をより高めることができる。
【0044】
以上、変更例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0045】
例えば、フォーカス調整リング3f(調整リング3)に設ける被対向面3c及び押圧リング部5に設ける対向面5cの位置や形状は例示に限定されるものではなく、他の位置や各種形状を選定可能である。また、中間リング部6は、全体を硬質素材により形成した例,及び両面に硬質素材を配した例を示したが、少なくとも周方向Ffへの変位が規制される部位を硬質素材により形成すれば足りる。さらに、変位規制部7を構成するに際し、中間リング部6に、光軸方向Fcに平行な直線スリット11を内周面6iに形成し、この直線スリット11を固定筒部2の外周面2fから突出した係合規制部12に係合させる構成を示したが、直線スリット11と係合規制部12は入れ替えて構成してもよい。即ち、係合規制部12を中間リング部6に設け、かつ直線スリット11を固定筒部2の外周面2fに設けてもよく、少なくとも、中間リング部6が、固定筒部2に対して、光軸方向Fcへの変位が許容され、かつ周方向Ffへの変位が規制される機能を有すれば足りる。なお、係合規制部12は、断面円形の係合ピン12pが望ましいが、断面は多角形や楕円など各種形状を適用可能である。他方、リングロック部8としてロックネジ13を用いる場合を示したが、固定筒部2に対する押圧リング部5の位置をロックする機能を有すれば、各種構成を採用できるとともに、変更例のように、必ずしも設けることを要しない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るレンズ装置は、例示したプロジェクタをはじめ、カメラや望遠鏡等の各種光学機器に利用することができるとともに、家庭用機器及び業務用機器を問うことなく各種用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1:レンズ装置,2:固定筒部,2f:固定筒部の外周面,3:調整リング,3c:被対向面,3f:フォーカス調整リング,4:螺合部,5:押圧リング部,5c:対向面,5m:押圧リング部の周面部,5i:押圧リング部の内周面,6:中間リング部,6i:中間リング部の内周面,7:変位規制部,8:リングロック部,11:直線スリット,12:係合規制部,12p:係合ピン,13:ロックネジ,13s:ロックネジの先端部,Fd:径方向,Ff:周方向,Fc:光軸方向,S:レンズ鏡筒,Mc:調整リング固定機構
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