(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】シート成形装置及びクランプ方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/26 20060101AFI20230626BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
B29C51/26
B29C51/14
(21)【出願番号】P 2019215335
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000168115
【氏名又は名称】KTX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】山田 康二
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸行
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-077818(JP,A)
【文献】特開2001-071377(JP,A)
【文献】特開2001-121600(JP,A)
【文献】特開2000-318028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00 - 51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元形状の成形面(4,34)を有する成形型(1,31)と、熱可塑性樹脂製のシート(5)を加熱して軟化させる加熱装置(6)と、前記シート(5)の周縁部をクランプして該シート(5)を成形型(1,31)に当接させるクランプ装置(10,40)とを備えるシート成形装置において、
成形型(1,31)は、周縁部である見切り面(3,33)に部位間で高低差があるものであり、
クランプ装置(10,40)は、成形型(1,31)の周囲に分散配置された複数の部分クランプ装置(11,41)から構成され、
各部分クランプ装置(11,41)は、シート(5)の周縁部の一部分をクランプするクランパー(12,42)と、該クランパー(12,42)をシート面交差方向に任意量変位させ
、かつ、前記見切り面(3,33)の高低差に応じて各クランパー(12)の変位量を任意に変え、各クランパー(12)をその任意変位量の位置で止める交差変位装置(16,46)とを備えることを特徴とするシート成形装置。
【請求項2】
各部分クランプ装置(11)は、クランパー(12)をシート面平行方向に任意量変位させる平行変位装置(23)を備える請求項1記載のシート成形装置。
【請求項3】
シート成形装置は、シート(5)をクランプして加熱装置(6)にかけるための、前記クランプ装置(10)とは別の加熱用クランプ枠(7)と、該加熱用クランプ枠(7)を加熱装置(6)からクランプ装置まで搬送する搬送装置(8)とを備え、シート(5)を加熱用クランプ枠(7)からクランプ装置(10)のクランパー(12)に受け渡すようにした請求項1又は2記載のシート成形装置。
【請求項4】
クランパー(12)は、加熱用クランプ枠(7)から受け渡されるシート(5)を下から突き刺してクランプする針(13)を含むものである請求項3記載のシート成形装置。
【請求項5】
交差変位装置(16)は、平行クランク機構を複数上下に組み合わせてなるレージートング伸縮機構(19)を用いたものである請求項1~4のいずれか一項に記載のシート成形装置。
【請求項6】
熱可塑性樹脂製のシート(5)の周縁部をクランプして該シート(5)を成形型(1,31)に当接させるクランプ方法において、
成形型(1,31)は、周縁部である見切り面(3,33)に部位間で高低差があるものであり、
シート(5)の周縁部の複数の箇所を複数のクランパー(12,42)によりクランプし、各クランパー(12,42)をシート面交差方向に任意量変位させ
、かつ、前記見切り面(3,33)の高低差に応じて各クランパー(12,42)の変位量を任意に変え、各クランパー(12,42)をその任意変位量の位置で止めることを特徴とするクランプ方法。
【請求項7】
各クランパー(12)をシート面平行方向に任意量変位させる請求項6記載のクランプ方法。
【請求項8】
クランプしたシート(5)の一部にスリット(50)を形成する請求項6又は7記載のクランプ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂製のシートを三次元形状に成形するシート成形装置と、該シートの周縁部をクランプして該シートを成形型に当接させるクランプ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂製のシートを三次元形状に成形することを含む成形方法として、シートの真空成形、圧空成形又は真空圧空成形や、シートの成形を伴う表皮インサート射出成形等がある。これらの成形に用いるシート成形装置は、三次元形状の成形面を有する成形型と、シートを加熱して軟化させる加熱装置と、前記シートの周縁部をクランプして該シートを成形型に当接させるクランプ装置とを備えている。クランプ装置は、最も単純なものはシートの周縁部を連続周状にクランプする枠状のものであるが、成形面の三次元形状に応じてシートの一部が薄くなりすぎたり、しわになったりしないように、次のようなクランプ装置が考えられている。
【0003】
[1]傾斜するクランプ装置
特許文献1には、フィルムの周縁端部を保持枠で固定し、保持枠を傾斜手段としての油圧シリンダで傾斜させることにより、真空成形型の傾斜されたエアシール面の傾斜方向と略同方向にフィルムを傾斜せしめ、次いで真空成形型又はフィルムを上下方向に移動することによりフィルムの周縁部を真空成形型のエアシール面に密着させてから真空成形すること、そして、これによりフィルムのうち成形後に切り取る不要部が少なくなり、材料歩留まりが向上することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、周縁部をクランプで固定した表皮を、表皮と一対の真空吸引型との干渉量が少なく、かつ、その干渉量が前後左右方向でバランスする角度に傾斜保持し、次いで基材をセットした真空吸引型を上昇させて基材を表皮に当接させ、表皮側の真空吸引型を下降させて当接させてから真空成形すること、そして、これにより基材の湾曲部に被覆した表皮の厚みのバラツキを抑制することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、シートの前後方向両端を保持するチャック装置が傾斜して図示されている。各チャック装置は、複数個のクランプアームを備えるが、各クランプアームは一体として傾斜するように本体アームで連結されている。
【0006】
[2]屈折するクランプ装置
特許文献4には、シートを挟持するクランプ枠を成形型の成形面形状に沿って屈折可能とすること、成形型を上昇させてクランプ枠を屈折させることにより、シートを成形面に沿わせ変形させてから真空成形すること、そして、これにより成形品の厚さを均一化でき、延伸量を少なく留めることが記載されている。
【0007】
[3]シート面平行方向に変位するクランプ装置
特許文献5には、成形型の周縁と平行する方向と直行する方向との2方向に移動可能な分割されたクランパーを移動させ、成形後のシートが厚くなる傾向の部分を引き伸ばし、成形後のシートが薄くなる傾向の部分を引き寄せ、次いで成形型を上昇させるかあるいはクランパー群を降下させることによりシートを成形型に当接させてから真空成形すること、そして、これにより成形品全体に適正なシート厚さを与えることが記載されている。
【0008】
特許文献6には、シートの対向する2辺をそれぞれ把持するクランプ材のうち、少なくとも一方のクランプ材を他方のクランプ材に向けて移動させることにより、シートを真空成形型の上部に凹状に撓ませ、次いでクランプ材を下降させてシートを成形型の外縁に当接させてから真空成形すること、そして、これにより成形品の底部分の伸びが抑えられ、所定の肉厚が確保されることが記載されている。
【0009】
特許文献7には、シートの周縁部を把持する複数の把持具が連結機構によって把持具の間隔方向及び前後方向に移動可能な状態に連結されてなる把持機構が複数設けられ、シートを加熱した後、把持具の間隔を広げ後退させてシートを延伸し、さらにシートを加熱するのに併せて、把持具の間隔を狭め前進させてシートを収縮させ、次いで熱成形型を上昇させてその上縁をシートに添着してから真空成形すること、そして、これにより熱処理を精密に制御でき、成形品の特性を改良できることが記載されている。
【0010】
特許文献8には、シートの走行方向の端縁を把持する所定個数のクランプ手段と該手段を昇降する昇降機構と該機構を幅方向に移動させる幅調整機構とを具備する一対の幅クランプ装置と、シートの走行方向に直行する端縁を把持する所定個数のクランプ手段と該手段を昇降する昇降機構と該機構を走行方向に移動させる幅調整機構とを具備する一対の前後クランプ装置を用い、シートを一対の幅クランプ装置と一対の前後クランプで把持して、上成形型の形状にあわせて成形時の上成形型の下降速度に同調することにより、しわが発生せずに材料の歩留まりが向上することが記載されている。
【0011】
特許文献9には、シートの対向する短辺をそれぞれ全長にわたって把持する2つの第一クランプと、シートの対向する長辺の複数個所をそれぞれ把持する上下方向及び水平方向へ変位可能に構成された複数の第二クランプとを用い、第二クランプを上下方向の所定範囲で自在に移動させ、かつ、短辺方向の所定範囲で自在に移動させることによって、シートをストレスなくドローダウンさせ、次いでシートを成形型に密着させて真空成形すること、そして、これにより歩留まり良く均一な板厚の製品を成形加工できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平10-16044号公報
【文献】特開2009-78419号公報
【文献】特開2014-226887号公報
【文献】特開昭61-2527号公報
【文献】特開昭60-49921号公報
【文献】特開平8-132518号公報
【文献】特開平10-58536号公報
【文献】特開2009-101564号公報
【文献】特開2015-58586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記[1]の傾斜するクランプ装置と、[2]の屈折するクランプ装置は、シートの広域をシート面に斜めに交差する方向に変位させるものということができる。これらのクランプ装置によれば、たとえ成形型の周縁部である見切り面に高低差があるものや、三次元形状の成形面の高低差が大きいものであっても、それらの高低差が単純に変化するものである場合には、シートを見切り面と成形面に沿わすことができるため、材料歩留まりの向上や、厚さの均一化等の効果が得られる。しかし、その周縁部の高低差が複雑に変化するものである場合には、シートを成形面の形状に十分に沿わすことができないため、これらの効果が十分に得られず、シートが局部的に過剰に伸ばされて薄くなりすぎたり破れたりすることがあり、そうならないようにシートを余分に厚く設定したりサイズ増加させたりする必要があった。
【0014】
上記[3]の面平行方向に変位するクランプ装置は、シートの周縁部をシート面と平行の方向(面内外方向や面周縁方向)に変位させるものである。これらのクランプ装置は、三次元形状の成形面の高低差の小さいものである場合には、材料歩留まりの向上や、厚さの均一化や、しわの防止等の効果が得られる。しかし、例えば特許文献1~3に記載されたような、成形面の周縁部である見切り面に高低差があるものや、三次元形状の成形面の高低差が大きいものである場合には、これらの効果が十分に得られない。
【0015】
なお、特許文献9のクランプ装置は、第二クランプが、第二クランプに接続したワイヤと、ワイヤに接続したリング部材と、リング部材を挿通する棒状のクランプガイドと、クランプガイドの所定高さに設けられたストッパとで支持されることで、上下方向及び短辺方向の移動が可能となっている。しかし、その第二クランプの上下方向の移動は、シートに引っ張られることによる受動的なものであり、また移動量はストッパで決まるものであって任意量ではない。
【0016】
また、シートを加熱して軟化させる加熱装置は、特許文献1,6,7,8に図示又は説明されているように、成形型から離間した加熱場所に設置されていることが多い。そして、従来のクランプ装置は、シートの周縁部をクランプした状態で加熱装置に入り、次いで成形型に搬送されてシートを成形型に渡すようになっている。よって、従来のクランプ装置は上記の変位のための機構とともに、加熱装置の狭い加熱空間に入るようコンパクトにしなくてはならないため、上記の変位をあまり大きくとることができず、成形面の色々な形状・複雑な形状に対応しにくいという問題もあった。また、従来のクランプ装置は、加熱装置に入ってシートと共に加熱されるため、熱の影響を受けやすかった。
【0017】
そこで、本発明の目的は、成形型の周縁部である見切り面に高低差があるものや、三次元形状の成形面の高低差が大きいものであり、かつ、それらの高低差が複雑に変化するものである場合であっても、シートを見切り面と成形面に沿わすことができるようにして、シートが局部的に過剰に伸ばされて薄くなりすぎたり破れたりする不具合を起こりにくくし、もってシートを余分に厚く設定したりサイズ増加させたりする必要をなくすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
[1]シート成形装置
三次元形状の成形面を有する成形型と、熱可塑性樹脂製のシートを加熱して軟化させる加熱装置と、前記シートの周縁部をクランプして該シートを成形型に当接させるクランプ装置とを備えるシート成形装置において、
成形型は、周縁部である見切り面に部位間で高低差があるものであり、
クランプ装置は、成形型の周囲に分散配置された複数の部分クランプ装置から構成され、
各部分クランプ装置は、シートの周縁部の一部分をクランプするクランパーと、該クランパーをシート面交差方向に任意量変位させ、かつ、前記見切り面の高低差に応じて各クランパーの変位量を任意に変え、各クランパーをその任意変位量の位置で止める交差変位装置とを備えることを特徴とする。
【0019】
「シート面交差方向」は、シート面に対して、直交して交差する方向、又は直交以外の斜めに交差する方向のいずれでもよい。
【0020】
ここで、各部分クランプ装置は、クランパーをシート面平行方向に任意量変位させる平行変位装置を備えることが好ましい。「シート面平行方向」は、シート面に対して平行の、面内外方向、面周縁方向、又はそれら両方向のいずれでもよい。
【0021】
また、シート成形装置は、シートをクランプして加熱装置にかけるための、前記クランプ装置とは別の加熱用クランプ枠と、該加熱用クランプ枠を加熱装置からクランプ装置まで搬送する搬送装置とを備え、シートを加熱用クランプ枠からクランプ装置のクランパーに受け渡すようにすることが好ましい。
【0022】
[2]クランプ装置
熱可塑性樹脂製のシートを三次元形状に成形するシート成形装置に備えられるクランプ装置において、
クランプ装置は、成形型の周囲に分散配置された複数の部分クランプ装置から構成され、
各部分クランプ装置は、シートの周縁部の一部分をクランプするクランパーと、該クランパーをシート面交差方向に任意量変位させる交差変位装置とを備えることを特徴とする。
【0023】
ここで、各部分クランプ装置は、クランパーをシート面平行方向に任意量変位させる平行変位装置を備えることが好ましい。
【0024】
[3]クランプ方法
熱可塑性樹脂製のシートの周縁部をクランプして該シートを成形型に当接させるクランプ方法において、
成形型は、周縁部である見切り面に部位間で高低差があるものであり、
シートの周縁部の複数の箇所を複数のクランパーによりクランプし、各クランパーをシート面交差方向に任意量変位させ、かつ、前記見切り面の高低差に応じて各クランパーの変位量を任意に変え、各クランパーをその任意変位量の位置で止めることを特徴とする。
【0025】
ここで、各クランパーをシート面平行方向に任意量変位させることが好ましい。
【0026】
また、クランプしたシートの一部にスリットを形成して、シートの変形の自由度をより大きくすることが好ましい。
【0027】
<作用>
(ア)クランプ装置は、分散配置された複数の部分クランプ装置のクランパーで、シートの周縁部の複数の部分をクランプし、各交差変位装置で各クランパーをシート面交差方向に任意量変位させることにより、シートの周縁部を成形型の高低差のある見切り面に合わせたり、シートのたるみを三次元形状の成形面に合わせて生じさせたりすることができる。これにより、成形型の周縁部である見切り面に高低差があるものや、三次元形状の成形面の高低差が大きいものであり、かつ、それらの高低差が複雑に変化するものである場合であっても、シートを見切り面と成形面に沿わすことができるため、シートが局部的に過剰に伸ばされて薄くなりすぎたり破れたりする不具合が起こりにくくなり、もってシートを余分に厚く設定したりサイズ増加させたりする必要がなくなる。また、成形品の品質向上・歩留まり向上になる。
【0028】
(イ)さらに、クランプ装置が、各平行変位装置で各クランパーをシート面平行方向に任意量変位させることができるようにした場合には、各平行変位装置で各クランパーをシート面平行方向に任意量変位させることにより、シートの伸ばされやすい部分の伸びを緩和したり、シートのしわになりやすい部分を緊張させたりすることができる。これにより、シートの厚さを均一化でき、また、シートのサイズ低減も可能となる。
【0029】
(ウ)さらに、シート成形装置が、クランプ装置とは別の加熱用クランプ枠と搬送装置とを備え、シートを加熱用クランプ枠からクランプ装置のクランパーに受け渡すようにした場合には、加熱用クランプ枠は加熱装置にかけるためにコンパクトに形成する一方、クランプ装置は加熱装置に拘束されないので交差変位装置と平行変位装置を自由な大きさ・構造で形成でき、交差変位装置と平行変位装置による各変位の最大ストロークを大きくとることができる。このため、見切り面や成形面の高低差がより大きいものやより複雑なものであっても、上記(ア)(イ)で述べた作用を得ることができる。また、クランプ装置は、加熱装置の熱の影響を受けにくくなる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、成形型の周縁部である見切り面に高低差があるものや、三次元形状の成形面の高低差が大きいものであり、かつ、それらの高低差が複雑に変化するものである場合であっても、シートを見切り面と成形面に沿わすことができるため、シートが局部的に過剰に伸ばされて薄くなりすぎたり破れたりする不具合が起こりにくくなり、もってシートを余分に厚く設定したりサイズ増加させたりする必要がなくなり、原価を低減できる、という優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は実施例1のシート成形装置を示し、シートを加熱しクランプ装置に受け渡すまでを表す正面図である。
【
図3】
図3は同シート成形装置で、クランプ装置によりシートを成形型に当接させたときの正面図である。
【
図5】
図5は同シート成形装置で、成形型に対する各部分クランプ装置のクランパー変位を示す斜視図である。
【
図6】
図6は同シート成形装置で、シートを真空成形したときの部分正面図である。
【
図7】
図7は部分クランプ装置の後退時を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図8】
図8は部分クランプ装置の前進時を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図9】
図9は部分クランプ装置の側面を示し、(a)はクランパー退却時の側面図、(b)はクランパー作動時の部分側面図である。
【
図10】
図10は実施例2のシート成形装置の一部を示し、(a)はクランプ装置にシートが受け渡されたときの正面図、(b)はクランプ装置により成形型にシートを当接させたときの正面図、(c)はシートの裏面に樹脂を射出成形したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(1)シート
熱可塑性樹脂製のシートは、特定の熱可塑性樹脂、層構成、厚さ等に限定されず、熱可塑性樹脂については例えばエラストマーも含み、層構成については単層も複数層も含み、厚さについては例えばフィルムと称されるものも含む。
【0033】
(2)成形型
成形型は、シートを三次元形状に成形することを含む成形に用いる型であれば特に限定されない。真空成形型、圧空成形型、真空圧空成形型、シートの成形を伴うインサート射出成形型等を例示できる。
成形型の成形面の向きは、特に限定されず、単一の成形型の場合、上向き、下向き、横向きのいずれでもよく、型締めする一対の成形型の場合、上下対向、左右対向のいずれでもよい。
【0034】
(3)部分クランプ装置
部分クランプ装置が成形型の周囲に分散配置される数は、特に限定されないが、6台以上であることが好ましい。
【0035】
(3-1)クランパー
前述した従来の連続線状にクランプする枠状のものに対して、分散配置された複数のクランパーによりシートの周縁部の複数の部分をクランプするということは、分割した点状のクランプになることから、各クランプの自由な配置が可能になるととともに、各クランプを個別に変位させることが可能になる。
クランパーの構造としては、特に限定されないが、シートを突き刺してクランプする針によるもの、シートをつかんでクランプするフィンガー、ブロック、プレート等による挟持機構等を例示できる。
【0036】
(3-2)交差変位装置
交差変位装置の構造としては、特に限定されないが、レージートング伸縮機構、ボールネジ、油圧シリンダー、エアシリンダー、電動シリンダー、ジップチェーン、チェーン機構、ベルト機構等による装置を例示できる。
【0037】
(3-3)平行変位装置
平行変位装置の構造としては、特に限定されないが、ボールネジ、油圧シリンダー、エアシリンダー、電動シリンダー、スライダ、ラック&ピニオン機構、ベルト機構等による装置を例示できる。
【0038】
(4)加熱装置等
加熱装置の熱源による種類としては、特に限定されないが、電熱ヒーター、マイクロ波誘電加熱、加熱ガス等による加熱装置を例示できる。
加熱用クランプ枠の構造は、特に限定されないが、加熱装置の加熱空間を過大にしないようコンパクトなものが好ましく、シートの周縁部を連続周状にクランプする枠状のもの等を例示できる。
搬送装置の構造は、特に限定されないが、加熱用クランプ枠を、レール上でスライドさせたり、吊って移動させたりするもの等を例示できる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を具体化した実施例について図面を参照して説明する。なお、実施例で記す材料、構成、数値は例示であって、適宜変更できる。
【0040】
[実施例1]
図1~
図9に示す実施例1のシート成形装置は、三次元形状の成形面を有する成形型1,2と、熱可塑性樹脂製のシート5を加熱して軟化させる加熱装置6と、シート5の周縁部をクランプして該シート5を成形型1に当接させるクランプ装置10とを備える。シート成形装置は、さらに、シート5をクランプして加熱装置6にかけるための、前記クランプ装置10とは別の加熱用クランプ枠7と、加熱用クランプ枠7を加熱装置6から前記クランプ装置10まで搬送する搬送装置8とを備え、シート5を加熱用クランプ枠7からクランプ装置10のクランパー12に受け渡すようにしている。
【0041】
成形型は真空成形型であり、下側の第1型1と、上側の第2型2とからなる。第1型1に対して、第2型2は上下方向に移動して型開き・型締め可能となっている。
【0042】
第1型1は、
図1、
図5等に示すように、上向きの周縁部の見切り面3に対して中央部の成形面4が突出したコア型(雄型)である。その見切り面3及び成形面4の高さは、
図5において、右側で高く、左側で低く2段状をなし、手前側と奥側で徐変している。また、左側の一部に内外方向に折曲した折曲箇所がある。
【0043】
第2型2は、
図6に示すように、下向きの周縁部の見切り面に対して中央部の成形面が凹んだキャビティ型(雌型)である。その見切り面及び成形面の高さは、第1型1の見切り面3及び成形面4の高さと対応して変化している。第2型2は、複数の真空吸引孔(図示略)を有し、型外部の真空吸引装置(図示略)が接続されている。
【0044】
クランプ装置10は、第1型1の周囲(成形面4の向きを中心線にした周囲)に分散配置された複数の部分クランプ装置11から構成されている。詳しくは、
図2に示すように、成形型の左側に4台の部分クランプ装置11が間隔をおいて配置され、そのうちの1台は第1型1の折曲箇所に正対するように他の3台に対して向きが変えられている。第1型1の右側には4台、手前側には1台、奥側には1台の部分クランプ装置11が配置されている。
【0045】
各部分クランプ装置11は、
図7~
図9に示すように、シート5の周縁部の一部分をクランプするクランパー12と、該クランパー12をシート5面交差方向に任意量変位させる交差変位装置16と、該クランパー12をシート5面平行方向に任意量変位させる平行変位装置23とを備える。部分クランプ装置11間では、互いの交差変位装置16が相手のクランパー12を変位させない、また、互いの平行変位装置23が相手のクランパー12を変位させない。
【0046】
クランパー12は、シート5を下から突き刺してクランプする針13と、針13を上下させる上下用アクチュエータ14と、針13が遊挿する貫通穴を備えた保護板15とからなる。
【0047】
交差変位装置16は、下台17と、上台18と、下台17・上台18間に設けられたレージートング伸縮機構19と、レージートング伸縮機構19を伸縮させる交差変位用アクチュエータ20とからなる。上台18に前記上下用アクチュエータ14が取り付けられている。レージートング伸縮機構19は、平行クランク機構を複数上下に組み合わせてなり、下前端と上前端がそれぞれ下台17と上台18に固定されたブラケット21に軸着され、下後端と上後端がそれぞれ下台17と上台18に対して前後スライド可能に設けられたスライダ22に軸着されている。交差変位用アクチュエータ20は、下台17に取り付けられて、スライダ22を前後方向に駆動するものである。交差変位用アクチュエータ20によりスライダ22を任意量前進させると、レージートング伸縮機構19が伸び、クランパー12を上昇させてシートの面交差上方向に任意量変位させる。交差変位用アクチュエータ20によりスライダ22を任意量後退させると、レージートング伸縮機構19が縮み、クランパー12を下降させてシートの面交差下方向に任意量変位させる。
【0048】
平行変位装置23は、基台24と、基台24上に設けられたガイドレール及びスライドブロックからなるリニアガイド25と、基台24上にリニアガイド25と平行に設けられた平行変位用アクチュエータ26とからなる。交差変位装置16の下台17が、リニアガイド25のスライドブロックに取り付けられるとともに、平行変位用アクチュエータ26に連結されている。平行変位用アクチュエータ26により交差変位装置16を任意量前進させると、クランパー12を前進させてシートの面内方向に任意量変位させる。平行変位用アクチュエータ26により交差変位装置16を任意量後退させると、クランパー12を後退させてシートの面外方向に任意量変位させる。
【0049】
加熱装置6は、
図1に示すように、第1型1の左方に離間して設置されている。加熱装置6は、例えば電熱ヒータによるものであり、加熱用クランプ枠7が通過しうる加熱空間を備えている。
加熱用クランプ枠7は、例えばシート5の周縁部を連続周状にクランプする枠状のものである。
搬送装置8は、例えば加熱用クランプ枠7をレール(図示略)上でスライドさせるものである。
【0050】
以上のように構成された実施例1のシート成形装置を用いて、次の方法でシート5を三次元形状に成形することができる。
(1)
図1に示すように、シート5を、加熱用クランプ枠7でクランプし、加熱用クランプ枠7ごと加熱装置6にかけて加熱し、軟化させる。
【0051】
(2)
図1に2点鎖線で示すように、シート5をクランプした加熱用クランプ枠7を、搬送装置8により加熱装置6からクランプ装置10のすぐ上方まで搬送する。このとき、全ての部分クランプ装置11のクランパー12は交差変位装置16により第1型1よりも上方に上昇しており、但しクランパー12の針13は上下用アクチュエータにより下降している。また、
図2に示すように、左側と手前側と奥側の部分クランプ装置11は平行変位装置23により後退しているが、右側の部分クランプ装置11は平行変位装置23により前進している。
【0052】
(3)次いで、
図1の吹き出し円内に示すように、針13を上下用アクチュエータ14により上昇させる(さらに必要であればクランパー12全体を交差変位装置16により上昇させる)ことにより、シート5の周縁部を針13で指して、シート5をクランパー12に受け渡す。
【0053】
(4)次いで、
図3及び
図4に示すように、全ての部分クランプ装置11のクランパー12を交差変位装置16によりシートの面交差下方向に任意量変位させるとともに、左側と手前側と奥側の部分クランプ装置11のクランパー12を平行変位装置23によりシートの面内方向に任意量変位させることにより、シート5の周縁部を第1型1の周縁部である見切り面3に当接させる。このとき、
図5に示すように、見切り面3の高さが異なるのに応じて、各クランパー12の下降量を任意に変え、各クランパー12をその任意変位量の位置で止める。
【0054】
(5)次いで、
図6に示すように、第1型1に第2型2を型締めしてシート5をプレスするとともに、第2型2の真空吸引孔を型外部の真空吸引装置により減圧してシート5を第2型2の成形面4に真空吸引し密着させる。冷却後、型開きしてシート5を取り出す。以上により、シート5が三次元形状に成形される。
【0055】
本実施例1によれば、次の作用効果が得られる。
(ア)クランプ装置10は、分散配置された複数の部分クランプ装置11のクランパー12で、シート5の周縁部の複数の部分をクランプし、各交差変位装置16で各クランパー12をシート5面交差方向に任意量変位させることにより、シート5の周縁部を第1型1の高低差のある見切り面3に合わせたり、シート5のたるみを三次元形状の成形面4に合わせて生じさせたりすることができる。これにより、第1型1の周縁部である見切り面3に高低差があるものや、三次元形状の成形面4の高低差が大きいものであり、かつ、それらの高低差が複雑に変化するものである場合であっても、シート5を見切り面3と成形面4に沿わすことができるため、シート5が局部的に過剰に伸ばされて薄くなりすぎたり破れたりする不具合が起こりにくくなり、もってシート5を余分に厚く設定したりサイズ増加させたりする必要がなくなり、原価を低減できる。また、成形品の品質向上・歩留まり向上になる。
【0056】
(イ)さらに、クランプ装置10が、各平行変位装置23で各クランパー12をシート5面平行方向に任意量変位させることができるようにしたものである場合には、各平行変位装置23で各クランパー12をシート5面平行方向に任意量変位させることにより、シート5の伸ばされやすい部分の伸びを緩和したり、シート5のしわになりやすい部分を緊張させたりすることができる。これにより、シート5の厚さを均一化でき、また、シート5のサイズ低減も可能となる。
【0057】
(ウ)さらに、シート成形装置が、クランプ装置10とは別の加熱用クランプ枠7と搬送装置8とを備え、シート5を加熱用クランプ枠7からクランプ装置10のクランパー12に受け渡すようにした場合には、加熱用クランプ枠7は加熱装置6にかけるためにコンパクトに形成する一方、クランプ装置10は加熱装置6に拘束されないので交差変位装置16と平行変位装置23を自由な大きさ・構造で形成でき、交差変位装置16と平行変位装置23による各変位の最大ストロークを大きくとることができる。このため、見切り面3や成形面4の高低差がより大きいものやより複雑なものであっても、上記(ア)(イ)で述べた作用を得ることができる。また、クランプ装置10は、加熱装置6の熱の影響を受けにくくなる。
【0058】
[実施例2]
次に、
図10に示す実施例2のシート成形装置は、三次元形状の成形面4を有する成形型31,32と、熱可塑性樹脂製のシート5を加熱して軟化させる加熱装置6と、シート5の周縁部をクランプして該シート5を成形型に当接させるクランプ装置40とを備えるものであるが、成形型31,32とクランプ装置40の内容において実施例1と相違し、また、加熱装置6は成形型31の正面と正面から退避した位置とに移動可能である。
【0059】
成形型はインサート射出成形型であり、左側の第1型31と、右側の第2型32とからなる。第2型32に対して、第1型31は左右方向に移動して型開き・型締め可能となっている。
【0060】
第1型31は、右向きの周縁部の見切り面33に対して中央部の成形面34が凹んだキャビティ型(雌型)である。その見切り面33は上側で凹んでいる。第1型31は、複数の真空吸引孔(図示略)を有し、型外部の真空吸引装置(図示略)が接続されている。
【0061】
第2型32は、左向きの周縁部の見切り面に対して中央部の成形面が突出したコア型(雄型)である。その見切り面は、第1型31の見切り面3と対応して上側で突出している。第2型32は、樹脂通路35を有し、樹脂通路の一方に射出口36を有し、他方に射出ノズルの接続口37を有している。
【0062】
クランプ装置40は、第1型31の周囲に分散配置された複数の部分クランプ装置41から構成されている。各部分クランプ装置41は、シート5の周縁部の一部分をクランプするクランパー42と、該クランパー42をシートの面交差方向に任意量変位させる交差変位装置46とを備える。クランパー42は、シート5をつかんでクランプする挟持機構である。交差変位装置46は、油圧シリンダーである。
【0063】
以上のように構成された実施例2のシート成形装置を用いて、次の方法でシート5を三次元形状に成形することができる。
(1)
図10(a)に示すように、シート5を、全ての部分クランプ装置41のクランパー42でクランプし、シート5に接近させた加熱装置6により加熱し、軟化させる。このとき、全ての部分クランプ装置41のクランパー42は交差変位装置46により第1型31よりも右方に変位している。
また、このクランプしたシート5の一部にスリット50を形成してもよい(実施例1においても同じ)。
【0064】
(2)
図10(b)に示すように、全ての部分クランプ装置41のクランパー42を交差変位装置46によりシート5の面交差左方向に任意量変位させることにより、シート5の周縁部を第1型31の見切り面33に当接させる。このとき、見切り面33の位置が異なるのに応じて、各クランパー42の変位量を任意に変え、各クランパー42をその任意変位量の位置で止める。
前記のようにシート5の一部にスリット50を形成した場合には、このときに又は次の真空成形時にスリット50が広がり、シート5の変形の自由度が大きくなる。
【0065】
(3)次いで、第1型31を減圧してシート5を第1型31の成形面34に真空吸引し密着させる。これによりシート5が三次元形状に成形される。
【0066】
(4)次いで、
図10(c)に示すように、第2型32に第1型31を型締めして、シート5と第2型32の成形面との間に樹脂を射出し樹脂基材9を成形する。冷却後、型開きしてシート5と樹脂基材9とが付着した成形品を取り出す。
【0067】
本実施例2によっても、実施例1による作用効果(a)と同様の作用効果が得られる。
【0068】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 第1型
2 第2型
3 見切り面
4 成形面
5 シート
6 加熱装置
7 加熱用クランプ枠
8 搬送装置
9 樹脂基材
10 クランプ装置
11 部分クランプ装置
12 クランパー
13 針
14 上下用アクチュエータ
16 交差変位装置
19 レージートング伸縮機構
20 交差変位用アクチュエータ
23 平行変位装置
26 平行変位用アクチュエータ
31 第1型
32 第2型
33 見切り面
34 成形面
40 クランプ装置
41 部分クランプ装置
42 クランパー
46 交差変位装置
50 スリット