(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】送粉昆虫用巣箱の冷却装置
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20230626BHJP
A01K 47/06 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
A01K67/033 502
A01K47/06
(21)【出願番号】P 2019230152
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019227238
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505094984
【氏名又は名称】株式会社アグリ総研
(74)【代理人】
【識別番号】100069073
【氏名又は名称】大貫 和保
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】弁理士法人小竹アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】手塚 俊行
(72)【発明者】
【氏名】小原 慎司
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-210069(JP,A)
【文献】登録実用新案第3127810(JP,U)
【文献】特開2005-061723(JP,A)
【文献】実開平02-034918(JP,U)
【文献】特開2005-192499(JP,A)
【文献】特開2017-012128(JP,A)
【文献】特開2015-198583(JP,A)
【文献】特開2019-213475(JP,A)
【文献】特開2003-210070(JP,A)
【文献】実開昭57-049364(JP,U)
【文献】特開2006-214612(JP,A)
【文献】特開平09-271296(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109380184(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/033
A01K 47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送粉昆虫の巣箱が収納され、その巣箱の周囲に冷却用空気流路が形成される巣箱収納空間と、該巣箱収納空間の冷却用空気流路に、気化熱により冷却された冷風を供給する冷却空気発生装置とを備え、前記冷却空気発生装置として、水が溜められた容器と、その上面を閉塞する密閉部材を持って水の上面を流れる空気流路を作り、この空気流路の一方側に送風機を有する空気吸入口が、他方側に前記巣箱収納空間の冷却用空気流路に接続の連通路をそれぞれ設けたことを特徴とする送粉昆虫用巣箱の冷却装置。
【請求項2】
水が溜められた容器の周囲に蟻除けの水張り部を設けたことを特徴とする請求項1記載の送粉昆虫用巣箱の冷却装置。
【請求項3】
送粉昆虫の巣箱収納空間及び冷却空気発生装置は、紙又は樹脂により製造されたことを特徴とする請求項1記載の送粉昆虫用巣箱の冷却装置。
【請求項4】
送風機の電源として、太陽光発電器を用いたことを特徴とする請求項1記載の送粉昆虫用巣箱の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マルハナバチ類等の送粉昆虫用巣箱の冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりミツバチは、養蜂業の発達と共に農作物の花粉媒介に利用されている。しかしながら、トマト、ナスなどのように花蜜を生産しない花には訪花せず、また狭い閉鎖空間内での飼育ができないなどの使用上の限界もあった。これら花粉媒介の問題点を解決したのがマルハナバチ類である。
【0003】
当出願人は古くからマルハナバチを養殖し販売しており、ダンボール等の紙や、プラスチックの巣箱に女王バチのみならず働きバチを50匹ほどを入れ、農家などに送り出し、農家などのユーザーは、それらの巣箱をトマトなどのハウス内の所定の位置に配置されて授粉作業を行なわせていた。
【0004】
マルハナバチのみならず、ミツバチなどの送粉昆虫を効率よく利用するためには、巣箱の温度管理を行なう必要がある。従来からは、巣箱の上に日よけを配し、直射日光を防いでいるが、効果があまり見られない。そこで、当出願人はマルハナバチ類の送粉昆虫の巣箱の温度を管理する恒温箱(特許文献1)を開発し、販売している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、送粉昆虫の巣箱を収納する箱体を作り、この箱体内に送粉昆虫の最適生存環境温度帯に保つため、ペルチェ素子(電子冷凍素子)を用いた冷暖房装置(恒温箱)を開発した。これにより、常時25度以上30度以下の最適温度帯に保ち、送粉昆虫の体力の消耗を防ぎつつ、活動範囲の拡大を図ることができた。
【0007】
ペルチェ素子は電源を必要とするため、電源設備のない場所では使用することができないし、またペルチェ素子及びそれらを制御するための制御部品が多く、装置が高額となる欠点があった。しかし、送粉昆虫の働きを向上促進させるため、送粉昆虫用の巣箱の温度制御は必要で、安価な装置の開発が要望されていた。
【0008】
即ち、高価となるペルチェ素子及びそれを制御するための制御装置を用いず、送粉昆虫の巣箱が収納され、その巣箱の周囲に形成の冷却用空気流路に冷風を供給する新たな冷却空気発生装置を備えた送粉昆虫用巣箱の冷却装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の送粉昆虫用巣箱の冷却装置は、送粉昆虫の巣箱が収納され、その巣箱の周囲に冷却用空気流路が形成される巣箱収納空間と、該巣箱収納空間の空気流路に、気化熱により冷却された冷風を供給する冷却空気発生装置とを備えたことにある。これにより、送粉昆虫の巣箱の収納空間の該巣箱の周囲に形成の冷却用空気流路に、気化熱により冷却された冷風が供給される。そして、冷風は巣箱を冷やし、送粉昆虫の活動最温度である25度~30度間の範囲内の維持に寄与できる。夏期の気温が40度近くまで上昇すると、巣箱内の温度もこれに連動して上昇するが、気化熱利用の冷風で冷やすと巣箱内の温度の上昇を5度から8度程低下させ、巣箱内の気温は30度を少し超えた程度で、超える時間帯も減少させることとなる。
【0010】
また、冷却空気発生装置として、水が溜められた容器と、その上面を閉塞する密閉部材を持って水の上面を流れる空気流路を作り、この空気流路の一方側に送風機を有する空気吸入口が、他方側に前記巣箱収納空間の冷却用空気流路に接続の連通路をそれぞれ設けたことにある(請求項1)。これにより、容器内に溜められた水が気化する時にエネルギー即ち気化熱を必要とする。25度時における水の気化熱は584kcal/kgであり、水の気化により周囲から熱エネルギーを吸収する。そのため、周囲の温度が低下する。冷風は、空気流路内を送風機の働きにより随時流され、連通路を介して、巣箱収納空間の冷却用空気流路内を通り、巣箱を冷やして、巣箱内を気温より低い温度に低下せしめる。なお空気流路内は空気吸入口より新たなる外気が導入されるので、熱エネルギーの供給がなされる。
【0011】
さらに、水が溜められた容器の周囲に蟻除けの水張り部を設けたことにより(請求項2)、巣箱がハウス内など土面に近い場所にあり、蟻の発生が多い農場では、その進入を水張り部によって、巣箱及びその冷却装置内に進入が防がれる。また、水張り部内の水が巣箱の冷却も兼ねることになる。
【0012】
さらにまた、送粉昆虫の巣箱収納空間及び冷却空気発生装置は、紙又は樹脂により製造されたことにより(請求項3)、ダンボールや発泡スチロールなどから作られ、製造は容易である。
【0014】
それからまた、送風機の電源として、太陽光発電器を用いたので(請求項4)、送風機の5V程の規格で充分に発電が間に合うことで、ハウス内で電源設備がなくても充分に使用に耐え、冷却を可能とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、送粉昆虫の巣箱の収納空間内の巣箱の周囲に形成の冷却用空気流路に、冷却空気発生装置内で気化熱により冷却された冷風が供給される。この冷風が巣箱を冷やし、送粉昆虫の活動最適温度領域を広げることができる。特に夏期においる送粉昆虫の活動範囲の拡大、送粉昆虫の体力の消耗を防ぐことができる。
【0016】
具体的には、冷却空気発生装置の水の溜められた容器上面を流れる空気が水の気化により冷却され、冷風となって送粉昆虫の巣箱に供給され、冷やされる。気化熱を利用する送粉昆虫用巣箱の冷却装置は、ペルチェ等の高額な部品や、その制御機器を用いておらず、製造コストを引き下げ、安価な装置を提供することができる。機械部品は送風機のみであると共に、その使用電力は極めて少なく、太陽光発電器の発電電力により充分に駆動制御ができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、水が溜められた容器の周囲に蟻除けの水張り部があることで、蟻の巣箱への侵入を防ぐことができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、送粉昆虫の巣箱収納空間及び冷却空気発生装置は、紙又は樹脂製であり、製造もまた容易で且つ製造コストの引き下げに寄与できる。
【0020】
請求項4の発明によれば、太陽光発電器を持っているので、送風機を駆動でき、電源設備のない所でも、送粉昆虫用巣箱の冷却装置を稼動できるため、設置所を選ばない利点を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明に係る送粉昆虫用巣箱の冷却装置の斜視図である。
【
図3】同上の巣箱収納空間を取り外した状態の冷却空気発生装置を上方から見た平面図である。
【
図5】同上の実施例の装置を用いて、気温と冷風とにより冷やされた巣箱の温度を示した特性線図である。
【
図6】日時を別にした同上の実施例の装置を用いて、気温と冷風とにより冷やされた巣箱の温度を示した特性線図である。
【
図7】この発明の第2番目の実施例の斜視図である。
【
図9】この発明の第3番目の実施例の縦断面図である。
【
図11】この第3番目の実施例の装置を用いて、気温と冷風とにより冷やされた巣箱の温度を示した特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0022】
以下、この発明に係る送粉昆虫用巣箱の冷却装置の第1番目の実施例を
図1乃至
図3を用いて説明する。
送粉昆虫として、ミツバチ、マルハナバチなどがあり、それらはトマト、ナス、キュウリ、イチゴなどの花に蜜や花粉を集めるため、訪花しその際に蜂の体に付着した花粉により、それらの植物の授粉作業を行なっていた。
送粉昆虫の活動温度範囲は25度から30度時に活発に訪花活動し、授粉活動行なっている。特に近年、夏の気温上昇が異常で、異常に反応して送粉昆虫の活動時間が短くなってきている。この対策として、当出願人は特許第3018150号の恒温箱を開発し、農家などのユーザーが使用している。
【0023】
1番目の実施例は、冷却空気発生装置1とこれの上に設置の巣箱収納空間15より成っている。冷却空気発生装置1は、樹脂等で作られた水を溜められる容器2と、その上方開口を蓋などの密閉部材3で閉じ、内部を閉塞の空間となっていて、下記に説明する空気流路4となっている。
【0024】
空気流路4は、前記水を溜められる容器2内の水の上面と前記蓋3で構成され、前期蓋3の一方側に空気吸入口5が開口されている。この空気吸入口5には送風機6が設置され、該送風機6の駆動にて外気を空気流路4内に取り込んでいる。送風機6は太陽光発電器7からの電力が供給される。
また、蓋3の他方側に多数の連通孔8を蓋3の外方近くに形成している。したがって、送風機6が駆動されると、空気吸入口5により外気が
図4に示す矢印のように吸い込まれ、空気流路4内に導入される。そして、容器2内の水の上面を
図4に示す矢印のように流れ、連通孔8より
図4に示す矢印のように、下記する巣箱収納空間15内に吹出される。
【0025】
空気流路4内では、水が気化され、そのため周囲から気化熱が奪われ、周囲の温度が低下する。そのため、ここを通る空気が冷却され、冷風となる。25度時における水の気化熱は584kcl/kgであり、水の気化により周囲から熱エネルギーを吸収する。
【0026】
巣箱収納空間15は、紙や樹脂等で作られた四角状の容器で、下方が開口していて、前記冷却空気発生装置1の蓋3の上面で空気吸入口5の反対側に載置されている。この巣箱収納空間15には、二点鎖線で示したように、送粉昆虫の巣箱16が収納されている。巣箱16は、女王バチ、働きバチが入る巣本体や餌等が入っていて、ハチが生存できる環境となっている。巣箱16は、その周囲の巣箱収納空間15との間に隙間を作り、冷却用空気流路17が形成され、前記した連通路8に連通している。それから、巣箱収納空間15には、上方で四方に空気排出口18が形成され、冷風は
図4に示す矢印のごとく流れ、巣箱16を冷却し、空気排出口18により排出される。
【0027】
図5において、実施例1を用いて、気温と冷風により冷やされた巣箱の温度変化の特性線図(3日間)、
図6において、同じく実施例1を用いて、日時を別にした気温と冷風とにより冷やされた巣箱の温度変化の特性線図(4日間)が示している。この特性線図を見れば、例えば8月31日には12時過ぎに気温が38度近くなり、同時刻に巣箱内通常(冷却なし温度)は40度近くになったが、本実施例では、冷風に冷やされた巣箱は32度までとなり、ハチが暑さに耐えうる温度範囲に至っている。また、例えば9月7日には、12時過ぎに気温が40度近くになり、同時刻に巣箱内通常(冷却なし温度)は40度を超えたが、本実施例では、冷風に冷やされた巣箱は35度までとなり、ハチが暑さに耐えうる温度範囲に至っている。
【0028】
図7及び
図8において、この発明の2番目の実施例が示され、蟻の発生が多い場所に採用されるもので、水が溜められた容器2の外周に蟻除けの水張り部20を設けたもので、この水張り部20は、水が溜められた容器2の左右の長さより大きい容器21を用いて作られ、両容器2と21との間の隙間にあって、水は水が溜められた容器2の切り欠き22を介して出入し、共通化している。このため、蟻は水張り部20にて阻止され、巣箱16への侵入は防がれる。その他の部分は実施例1と同一構造のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
図9及び
図10において、この発明の3番目の実施例が示され、気化用の水を持たないが、地面(土面)が含有する水分を用いて気化熱にて空気流路4を流れる空気を冷却する。そのため、地面に接触し、下面が開口25の地面用容器26を持つ冷却空気発生装置1が採用されている。その他の部分は実施例1と同一構造のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
図11において、この3番目の実施例の構造を気温と冷風により冷やされた巣箱の温度変化で表している。この特性線図を見れば、例えば8月30日には12時過ぎに気温が38度近くになり、同時刻に巣箱内の通常(冷却なし温度)は40度を超えたが、本実施例では、冷風に冷やされた巣箱は35度までとなり、ハチが暑さに耐える温度範囲に至っている。
【符号の説明】
【0031】
1 冷却空気発生装置
2 水が溜められる容器
3 蓋
4 空気流路
5 空気吸入口
6 送風機
7 太陽光発電器
8 連通路
15 巣箱内収納空間
16 巣箱
17 冷却用空気流路
18 空気排出口