(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】アシスト力付与具、鋏、せん断具
(51)【国際特許分類】
B26B 13/24 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
B26B13/24
(21)【出願番号】P 2020054533
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】520183081
【氏名又は名称】オキノ工業ロボティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107010
【氏名又は名称】橋爪 健
(72)【発明者】
【氏名】沖野 晃久
(72)【発明者】
【氏名】武田 和久
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-100169(JP,U)
【文献】特開2002-066166(JP,A)
【文献】米国特許第01802904(US,A)
【文献】特開2002-292159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋏半体と、第2鋏半体と、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体を回動自在に連結する軸支部を備えた鋏又はせん断具において、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体による切断に対してアシスト力を付与するアシスト力付与部であって、
一方の端部と他方の端部を有
し、弾性変形により復元力がある復元力付与部と、
前記復元力付与部の一方の端部側を支持し、前記軸支部又は前記第
2鋏半体に固定される支持固定部と、
前記復元力付与部の他方の端部側を摺動可能に支持し、前記第
1鋏半体に固定される摺動部と
を有し、
前記復元力付与部は、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体の柄が開かれるときに
前記復元力付与部の他方の端部側が前記摺動部を摺動して弾性変形して、閉じられるときに元に戻ろうとする力が作用するようにした、アシスト力付与具。
【請求項2】
鋏であって、
第1鋏半体と、
第2鋏半体と、
前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体を回動自在に連結する軸支部と、
前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体による切断に対してアシスト力を付与するアシスト力付与部、
を備え、
前記アシスト力付与部は、
一方の端部と他方の端部を有
し、弾性変形により復元力がある復元力付与部と、
前記復元力付与部の一方の端部側を支持し、前記軸支部又は前記第
2鋏半体に固定される支持固定部と、
前記復元力付与部の他方の端部側を摺動可能に支持し、前記第
1鋏半体に固定される摺動部と
を有し、
前記復元力付与部は、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体の柄が開かれるときに
前記復元力付与部の他方の端部側が前記摺動部を摺動して弾性変形して、閉じられるときに元に戻ろうとする力が作用するようにした、鋏。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された鋏又はアシスト力付与具において、
前記復元力付与部の前記支持固定部への取り付け角度若しくは位置、前記復元力付与部のばね定数若しくは変形量と発生反力、前記復元力付与部の径若しくは太さ、前記復元力付与部の断面形状、又は、これらの組み合わせの設定により、予め定められた特性のパワーアシスト力が設定されることを特徴とする鋏又はアシスト力付与具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された鋏又はアシスト力付与具において、
前記支持固定部は、前記復元力付与部の一方の端側を支持する位置及び/又は角度が異なる複数の取付部を備え、
前記複数の取付部のいずれかを選択して前記復元力付与部の一端側を支持することによりパワーアシスト力を調整可能にしたことを特徴とする鋏又はアシスト力付与具。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された鋏又はアシスト力付与具において、
前記復元力付与部は、超弾性合金ワイヤであり、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体の柄を開く範囲を前記超弾性合金ワイヤの特性の弾性領域を超える開き角度・変位とすることを特徴とする鋏又はアシスト力付与具。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された鋏又はアシスト力付与具において、
前記支持固定部は、前記軸支部又は前記第2鋏半体に、ツメによるラッチ構造又は磁石によって固定されたことを特徴とする鋏又はアシスト力付与具。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載された鋏又はアシスト力付与具において、
前記軸支部は、おねじの中心部にめねじ加工が施されたベースねじを有し、
前記支持固定部は、前記ベース
ねじのめねじにねじにより取り付けられたこと、
を特徴とする鋏又はアシスト力付与具。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載された鋏又はアシスト力付与具において、
前記摺動部は、前記復元力付与部を摺動可能に通す穴又は凹部又はU字形部又は溝を有し、前記第1鋏半体の柄部又はリング又はヒットポイントに取り付けられたことを特徴とする鋏又はアシスト力付与具。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載された鋏又はアシスト力付与具において、
前記摺動部は、前記第1鋏半体の指入れリングに一方が固定され、他方が前記復元力付与部の他方の端側を摺動可能に支持する部品に連結する、撚り線ワイヤ、リンクアーム機構部品、又は、ローラー機構部品をさらに備えたことを特徴とする鋏又はアシスト力付与具。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載された鋏において、
前記第1鋏半体と前記摺動部、前記第2鋏半体と前記支持固定部は、それぞれ一体に形成されていることを特徴とする鋏。
【請求項11】
せん断具であって、
第1せん断具半体と、
第2せん断具半体と、
前記第1せん断具半体及び前記第2せん断具半体を回動自在に連結する軸支部と、
前記第1せん断具半体及び前記第2せん断具半体による切断に対してアシスト力を付与するアシスト力付与部、
を備え、
前記アシスト力付与部は、
一方の端部と他方の端部を有
し、弾性変形により復元力がある復元力付与部と、
前記復元力付与部の一方の端部側を支持し、前記軸支部又は前記第
2せん断具半体に固定される支持固定部と、
前記復元力付与部の他方の端部側を摺動可能に支持し、前記第
1せん断具半体に固定される摺動部と
を有し、
前記復元力付与部は、前記第1せん断具半体及び前記第2せん断具半体の柄が開かれるときに
前記復元力付与部の他方の端部側が前記摺動部を摺動して弾性変形して、閉じられるときに元に戻ろうとする力が作用するようにした、せん断具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシスト力付与具、鋏、せん断具に係り、特に、鋏・せん断具用のばね式のアシスト力付与具、ばね式パワーアシスト付きの鋏・せん断具、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーアシスト付きの鋏には、例えば、次のようなものある。
特許文献1では、「握力による剪断力とモータの動力による剪断力の合力によって剪断する方式であって、切断作業性の優れた電動アシスト機能付きはさみ」(要約)が記載されている。
特許文献2では、「理容用または美容用の鋏であり、鋏本体100とアシスト手段40と」を備え、「指や手首や腕への負担を軽減し、腱鞘炎を予防するとともに、腱鞘炎を発症したカット技術者でも使用可能な鋏」(要約)が記載されている。
特許文献3では、「ハサミ2が開状態から閉状態となる場合に、力センサ5により計測された力と、角度センサ4により計測された開き角θと、に基づいて、アシスト力を算出して、アクチュエータへアシスト力を指令する制御部6」を備え、「利用者の使用感を満足させつつ、利用者の指等にかかる負荷を軽減することができる」(要約)ようにしたパワーアシスト機能付き鋏が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-188349号公報
【文献】特開2018-139790号公報
【文献】特開2019-84008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、理容、美容の鋏(以下、理容鋏という。)は、比較的軽い力で使用されるが、1秒に2~3回等すばやく開閉する使い方もある。また、作業姿勢も腕を伸ばして4本の指で一方の刃を支え、親指のみの動作で切断を行う使い方のため、鋏を閉じて切断をする動作において指およびそれを動かす筋、腱等への負担も比較的大きく、例えば、数十年に及ぶ毎日の仕事の疲労の蓄積によって、人によってひどいときは腱鞘炎を発症する場合がある。
上述のような従来技術では、これらを解消するため、アシスト力を付与する機構部品・実装部品が備えられる。しかしながら、このような従来技術では、アクチュエータ等を使用することにより重量が追加することで手や腕に負担がかかることが想定されるため、手や腕に負担がかからないような軽量化が望まれる。また、従来技術では、電気系の構成を使用するため、構造が複雑となり、比較的高価となることが想定される。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、構造が簡単で軽量なパワーアシストを実現する、鋏・せん断具用のアシスト力付与具、鋏、せん断具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の解決手段によると、
第1鋏半体と、第2鋏半体と、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体を回動自在に連結する軸支部を備えた鋏又はせん断具において、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体による切断に対してアシスト力を付与するアシスト力付与部であって、
一方の端部と他方の端部を有し、弾性変形により復元力がある復元力付与部と、
前記復元力付与部の一方の端部側を支持し、前記軸支部又は前記第2鋏半体に固定される支持固定部と、
前記復元力付与部の他方の端部側を摺動可能に支持し、前記第1鋏半体に固定される摺動部と
を有し、
前記復元力付与部は、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体の柄が開かれるときに前記復元力付与部の他方の端部側が前記摺動部を摺動して弾性変形して、閉じられるときに元に戻ろうとする力が作用するようにした、アシスト力付与具が提供される。
【0007】
本発明の第2の解決手段によると、
鋏であって、
第1鋏半体と、
第2鋏半体と、
前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体を回動自在に連結する軸支部と、
前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体による切断に対してアシスト力を付与するアシスト力付与部、
を備え、
前記アシスト力付与部は、
一方の端部と他方の端部を有し、弾性変形により復元力がある復元力付与部と、
前記復元力付与部の一方の端部側を支持し、前記軸支部又は前記第2鋏半体に固定される支持固定部と、
前記復元力付与部の他方の端部側を摺動可能に支持し、前記第1鋏半体に固定される摺動部と
を有し、
前記復元力付与部は、前記第1鋏半体及び前記第2鋏半体の柄が開かれるときに前記復元力付与部の他方の端部側が前記摺動部を摺動して弾性変形して、閉じられるときに元に戻ろうとする力が作用するようにした、鋏が提供される。
【0008】
本発明の第3の解決手段によると、
せん断具であって、
第1せん断具半体と、
第2せん断具半体と、
前記第1せん断具半体及び前記第2せん断具半体を回動自在に連結する軸支部と、
前記第1せん断具半体及び前記第2せん断具半体による切断に対してアシスト力を付与するアシスト力付与部、
を備え、
前記アシスト力付与部は、
一方の端部と他方の端部を有し、弾性変形により復元力がある復元力付与部と、
前記復元力付与部の一方の端部側を支持し、前記軸支部又は前記第2せん断具半体に固定される支持固定部と、
前記復元力付与部の他方の端部側を摺動可能に支持し、前記第1せん断具半体に固定される摺動部と
を有し、
前記復元力付与部は、前記第1せん断具半体及び前記第2せん断具半体の柄が開かれるときに前記復元力付与部の他方の端部側が前記摺動部を摺動して弾性変形して、閉じられるときに元に戻ろうとする力が作用するようにした、せん断具が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以上のように、構造が簡単で軽量なパワーアシストを実現する、鋏・せん断具用のアシスト力付与具、鋏、せん断具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)パワーアシスト付き鋏の構成図(分解図)、(B)軸支部3を中心とした断面図。
【
図5】ワイヤ41の取付け角度とばねの反力(復元力)についての説明図。
【
図6】ワイヤ41の取付け位置とばねの反力(復元力)についての説明図。
【
図7】鋏に対する支持側の(超弾性合金)ワイヤ41の取付け位置とばねの反力(復元力)についての説明図。
【
図8】鋏に対する自由端側の(超弾性合金)ワイヤ41の取付け位置とばねの反力(復元力)についての説明図。
【
図9】支持固定部42の変形例(1)及び(2)の説明図。
【
図18】ワイヤ(ばね)の取付け方式についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.概要
一例として、理容鋏・美容鋏は、通常、右利きの場合、薬指を鋏の柄の輪に入れ、親指を除く残る3指で鋏を支える。これにより一方の鋏半体を静止状態に保つ。この鋏半体の刃を静刃と呼ぶ、一方、親指は他方の鋏半体のもう一つ柄の輪に挿入され、この指を動かすことで鋏を操作し、髪を切断する。この鋏半体の刃を動刃と呼ぶ。
本発明及び/又は本実施の形態では、例えば、第2鋏半体(静刃)側に超弾性合金ワイヤ等のワイヤを片持ち支持固定して、ワイヤの反対側を第1鋏半体(動刃)側の親指リングに取り付けた摺動部の穴に通す。鋏を開くことでワイヤを弾性変形させて、鋏を閉じる方向では、ワイヤが元に戻ろうとする力(復元力)が作用して、動刃の操作力を低減する。即ちパワーアシストするものである。
【0012】
本発明及び/又は本実施の形態によると、例えば、動刃部と親指リングを有する第1鋏半体と、静刃部と薬指リングを有する第2鋏半体とが軸支部にて回動自在に連結され、動刃部と静刃部が切断面を形成する鋏本体と、アシスト力付与部として、鋏が開くときに弾性変形をさせて、閉じるときに元に戻ろうとする力(復元力)が作用するような位置に超弾性合金ワイヤ(ばね)等の復元力付与部を備えた理容用または美容用の鋏やその他用途の鋏、せん断具を提供することができる。
さらに、本発明及び/又は本実施の形態によると、例えば、このようなアシスト力付与部と同様の構成を備え、既存の鋏やせん断具に外付けすることができるアシスト力付与具を提供することができる。
【0013】
本発明及び/又は本実施の形態によると、例えば、以下のような格別な効果がある。
1)無負荷で鋏を開く時に、その力を復元力付与部に蓄積し、鋏を閉じて切断する時に蓄積された力を開放し腕、指の力を補助することで、腕、指への負担を軽減し障害の発生を予防する鋏を実現することができる。
2)通常の鋏を使用できない又は使用することが難しいような、理容師、美容師、園芸師、障害のある方、子供、高齢者等(以下、理容師等という場合がある。)でも作業が出来る鋏を提供することができる。
3)アシスト力の付与手段の機構部品(実装部品)を軽量化し、構造も簡単とし、安価とすることができる。
4)理容師等が人によって職業的に避けられない場合が考えられる腱鞘炎等の障害の可能性を未然に防いだり、あるいは既に障害があり通常の鋏・せん断具を使用することが出来ない又は難しい理容師等が、仕事に復帰することや使用することができること等を期待することができる。
5)パワーアシストを付与する機構部品(実装部品)は、既存の鋏・せん断具に対して追加改造取付けができるため、理容師等の経済的負担が少なくて済み、また、使い慣れた若しくは所望の鋏・せん断具を用いることができる。
6)鋏を大きく開く場合に必要な力は、鋏の開き角度に比例するばね取付け機構に比べて低減できる。
7)さらに、超弾性合金ワイヤ(ばね)を用いることで、より最大開き角度時の反力を低減することができる。
【0014】
本発明及び/又は本実施の形態は、以下では主に理容・美容用の鋏に適用する例について説明するが、これに限られず、園芸用、金属加工・木工・プラスチック等の適宜の材料加工用の鋏・せん断具や、線材・板材等の適宜の形状のものを切る鋏・せん断具(ニッパ等を含む。)に適用することができる。また、本発明及び/又は本実施の形態は、動刃と静刃の区別がない両刃を備えた鋏・せん断具にも適用することができる。
【0015】
B.パワーアシスト付き鋏・せん断具、鋏・せん断具用アシスト力付与具
図1(A)に、パワーアシスト付き鋏の構成図(分解図)を示し、
図1(B)に、軸支部3を中心とした断面図を示す。この実施の形態は、一例として、超弾性合金ワイヤを使用したパワーアシスト鋏の構成例である。
図2に、鋏の開閉動作の説明図を示す。
本実施の形態の鋏は、第1鋏半体1、第2鋏半体2、軸支部3、アシスト力付与部4を備える。
【0016】
第1鋏半体1は、動刃1a、柄1b(ハンドル)、親指リング1cを有し、親指リング1cにはヒットポイント11が取り付けられる。第2鋏半体2は、静刃2a、柄2b(ハンドル)、薬指リング2cを備える。軸支部3はベースねじを有し、第1鋏半体1と第2鋏半体2とを回動自在に連結する。アシスト力付与部4(アシスト力付与具)は、動刃1aと静刃2aとが形成する切断面による切断に対してアシスト力を付与する。
アシスト力付与部4は、超弾性合金ワイヤ等のワイヤ(復元力付与部)41と、ワイヤ41の一方の端部側を取付部46に支持して軸支部3又は第2鋏半体2に固定ねじ44で固定する支持固定部42と、ワイヤ41の他方の端部側を第1鋏半体1のヒットポイント11に摺動可能に取り付ける自由端側摺動部43とを備え、さらに保護キャップ45とを備えることができる。ワイヤ41により、鋏(刃又は柄)が開くときに弾性変形して、鋏(刃又は柄)が閉じるときに元に戻ろうとする力が作用する。
【0017】
第2鋏半体2(静刃2a)側の軸支部3の回転軸付近に超弾性合金ワイヤ等のワイヤ41を片持ち支持する支持固定部42を取付けて、その反対のワイヤ自由端側を第1鋏半体1(動刃1a)側の親指リング1cに取り付けた自由端側摺動部43の穴に通すことで、ワイヤ41を拘束することなく弾性変形させながら、鋏を開く操作ができる。鋏を閉じる操作では、ワイヤ41が元に戻ろうとする力(復元力)が作用して、動刃1aの操作力を低減する。即ちパワーアシストするものである。
第2鋏半体2(静刃2a)側の超弾性合金ワイヤ等のワイヤ41を片持ち支持する固定位置や固定角度を、支持固定部42(取付部46)により変えることで、鋏の開き角度に伴う弾性変形量を変えることができるため、パワーアシスト力を任意に変えることができる。また、超弾性合金ワイヤ等のワイヤ41の線径・形状等を変えることで、パワーアシスト力を任意に変えることができる。
なお、第1鋏半体1(動刃1a)側に位置する自由端ワイヤ41が接触する摺動部43は、例えば、ワイヤ41に対する摩擦抵抗の少ない樹脂(テフロン(登録商標)・ルーロン等)やセラミックス等を用いると一層よい。
【0018】
パワーアシストを付与する機構部品・実装部品(アシスト力付与具)を鋏・せん断具と別体とすることで、既存の鋏・せん断具に対して追加改造取付けができる。これにより、理容師等の経済的負担が少なくて済み、また、使い慣れた若しくは所望の鋏・せん断具を用いることができる。
一方、鋏とアシスト力付与部4とを別構成としないで、予め一体構成としてもよい。この場合、第1鋏半体1と摺動部43、第2鋏半体2と支持固定部42は、それぞれ一体に形成することができる。
【0019】
以下各構成部について詳細に説明する。
静刃2a(第2鋏半体2):
例えば、理容・美容用の鋏は右利きの場合、薬指を鋏の柄2bの輪(薬指リング2c)に入れ、親指を除く残る3指等で鋏を支える。これにより鋏半体を静止状態に保つ。これを静刃2aと呼ぶ。
動刃1a(第1鋏半体1):
例えば、理容・美容用の鋏は右利きの場合、親指をもう一つ柄1bの輪(親指リング1c)に挿入され、この指を動かすことで鋏を操作し、髪を切断する。これを動刃1aと呼ぶ。
【0020】
ヒットポイント11:
鋏を閉じるときの第2鋏半体2(静刃2a)側指挿入リングと第1鋏半体1(動刃1a)側指挿入リングが干渉するときの衝撃緩和(吸収)させる部品であり、材質はゴムのように衝撃を吸収する弾性体の材質がよい。第1鋏半体1(動刃1a)側指挿入リング(親指リング1c)に対してねじ止めによって固定される。
軸支部3:
軸支部3は、例えばベースねじを有し、ベースねじはおねじの中心部にめねじ加工が施されたねじで、動刃1aと静刃2aの刃物同士の押しつけ力は、このねじの締め付け度合によって変化する。このねじは第1鋏半体1(動刃1a)側に対して固定されているため第1鋏半体1(動刃1a)側の開閉に伴って回転する構造である。
【0021】
ワイヤ(復元力付与部)41:
ワイヤ41として、例えば、超弾性合金ワイヤを用いるとよい(後述参照)。ワイヤ41の支持固定部42へ取付ける、角度・位置、ワイヤ線径・太さ、ワイヤ41のばね定数・変形量と発生反力、等の組み合わせで、任意の特性のパワーアシスト力(復元力)を得ることができる。この取付け(調整)に関しては、使用者(理容師等)自らが取付けすることができる簡単な構造である。ワイヤ(復元力付与部)41としては、通常のワイヤや超弾性合金ワイヤ以外にも、その他の弾性ワイヤ、ピアノ線、スチール線、銅線等を使った適宜の復元力付与部を用いることができ、また、ばね鋼・ステンレス・鋼・形状記憶合金等の適宜の金属材料、ベリリウム・プラスチック・ゴム・ナイロン等の化学物質等の適宜の材質の線(線状のもの)を使った適宜の復元力付与部を用いることができる。また、ワイヤ(復元力付与部)41には、通常の丸断面形状の他、楕円、多角形、台形等の適宜の断面の線材を含む(後述参照)。
【0022】
支持固定部42:
支持固定部42に対してワイヤ41を、圧入・挿入、接着、ねじ等による固定の適宜の手段の取付部46に固定・支持する。また、支持固定部42の静刃2aに対する固定は、ねじ、ピン圧入、ツメ等によるラッチ構造、磁石、接着等の適宜の手段によって固定する(後述参照)。なお、ワイヤ41を支持固定部42に取付けるための取付部46は、この例では、圧入・挿入するための穴を設けている。例えば、ワイヤ41がひとつの取付部46に予め取り付けてある構成とし、復元力を予め設定しておくようにしてもよい。あるいは、取付部46を位置及び/又は角度を変えて複数備え、使用者等がいずれかの取付部46を選択してワイヤ41を取り付けることにより、各取付部46に応じて復元力を調整することができるようにしてもよい(後述参照)。
【0023】
摺動部43:
鋏が開く際にはワイヤ41は、この自由端側摺動部43の穴に通っているだけなので、拘束されずに滑らかな動きとなる。この例では、穴を用いているが、穴に限らず、凹部、U字型部や溝など、適宜の形状を用いても良い(後述参照)。摺動部43の材質は、例えば、ワイヤ41に対して摩擦抵抗の少ないテフロン(登録商標)、ルーロン(商品名)、セラミックス等のすべり軸受けに使用される材質や、含油軸受等に使用される材質がよいが、これに限られない。自由端側の連結構造は、この方式以外に撚り線ワイヤによる方式、リンク機構による方式、ローラーによる方式等の手段がある(後述参照)。
【0024】
固定ねじ44:
支持固定部42を第2鋏半体2(静刃2a)側に対して固定するためのねじである。例えば、ベースねじに対してねじ固定されるためベースねじが回ると、固定ねじ44も回る構造である(なお、支持固定部42は第2鋏半体2(静刃2a)側に対して固定されている。)。
保護キャップ45:
保護キャップ45は、ワイヤ41の自由端の露出による危険性を防止するための保護目的と、装飾性意識した構造物をねじによる固定、圧入による固定、接着による固定等で取付けることができる。または、保護キャップ45を省略して、金属加工によって先端を曲げ丸める等の端部処理方法でも可とする。
【0025】
なお、本発明及び/又は本実施の形態をせん断具に適用する場合は、説明の記載中、例えば、第1鋏半体及び第2鋏半体を、それぞれ、第1せん断具半体及び第2せん断具半体と読み替えることで、鋏と同様の構成を採用することができる。
【0026】
C.ワイヤ(復元力付与部)41
図3に、超弾性合金の特性についての説明図を示す。
以下に、超弾性合金の特性とワイヤ自由端側構造について説明する。
通常の金属材料は、弾性領域を超えて変形させて除荷すると弾性変形分しか戻らず永久ひずみが残るが、超弾性合金はフックの法則(弾性の法則)を超える大きな変形を与えても除荷するとひずみが消えて元の形状に戻る。(必要であれば、例えば、古河電工ホームページ https://www.furukawa-ftm.com/index.htm 等参照)
超弾性合金は降伏状態では、ほとんど応力が一定であるため、鋏を開く際に変形する超弾性合金ワイヤ41の曲げ変形部分にかかる応力は、ある一定の開き角度以上は、ほとんど変化しない。
超弾性合金ワイヤ41の上述のような特性を鋏・せん断具に適用し、例えば、鋏を開く範囲を弾性領域を超える開き角度・変位とすることができ、その弾性領域を超えて鋏を開く場合でも、使用者の手が受ける荷重は一定以上とならないような特性のワイヤ41を用いることができる。
【0027】
図18に、ワイヤ(ばね)の取付け方式についての説明図を示す。
図18(A)は、トーションばねを取付けた場合の説明図である。
アシスト力付与として、ばね単体自由時の状態109のようなトーションばねを取付けた場合には、グラフに示すように、鋏の開き角度とばねの反力が比例関係にあるため、鋏の開き角度が大きくなるほど、ばねの反力(復元力)も大きくなる。この方式では、ばねの開き角度に伴う、抵抗負荷も同じように大きくなるため、鋏を閉じる時のアシスト力は十分発生するが、鋏を開く時の腕、指にかかる力が過大となり、腕、指への負担軽減の観点から考えると、好ましくないことがある。また、ばね反力が過大になると、鋏を閉じる勢いが大きくなる場合がある。
【0028】
図18(B)は、本発明及び/又は本実施の形態の機構(本機構)の取付け方式の場合の説明図である。
鋏の第1鋏半体1(動刃1a側)のワイヤ端が固定されずに自由端となっていることにより、鋏を開く際にワイヤ41の長さ(片持ち支持部からの距離L)が長くなるため(L2>L1)、力のモーメント(トルク)発生には有利になる。本機構の取付け方式により、鋏を開く時に手で発生させなければならない力(腕、指が受ける負荷抵抗)を小さくすることが可能で使用者の腕、指への負担が軽減できる。
また、ワイヤ41に超弾性合金を用いることで、鋏を開く時に必要な力をより低くすることができる。
本機構の取付け方式は、通常のばね鋼ワイヤでも、ばねの取付け方式による非線形性により反力がグラフに示すように低下するため、開き角度が大きいときは反力を抑制できる。
【0029】
以下に、ワイヤ41の各種形状について説明する。ワイヤ41は、図示のような各種形状としても良い。
図4に、ワイヤ41の各種形状についての構成図を示す。
図4(A)は、断面丸、長さ方向にわたり同じ断面形状のものである。
図4(B)は、断面四角、長さ方向にわたり同じ断面形状のものである。
図4(C)は、断面四角、先端に行くほど細くなる形状のものである。
図4(D)は、断面丸、先端に行くほど細くなる形状のものである。
本実施の形態の基本構造の超弾性合金ワイヤ等のワイヤ41は、断面が丸の全部が同じ断面形状であるが、上図に示すような四角断面形状や多角形断面や、楕円、台形等の各種断面形状を適宜採用することができる。また、長さ方向に一様の断面形状や太さとしても良いし、一様でなくしても良い。先端に行くほど細くなる形状を使用した場合には、鋏を開くときの負荷を抑制しつつ、ばね反力(復元力)を得られる特性がある。
【0030】
D.支持固定部42
以下に、支持固定部42へのワイヤ41の取り付け角度・位置とばねの反力(復元力)について説明する。
図5に、ワイヤ41の取付け角度とばねの反力(復元力)についての説明図を示す。
鋏の中心部付近のワイヤ41を支持固定する角度の違いにより、鋏を開いた時のワイヤ41の変形状態が
図A~Cの様に異なる。鋏の開き角度とばねの反力(復元力)の関係は、角度それぞれグラフA~Cの様になる。
【0031】
図6に、ワイヤ41の取付け位置とばねの反力(復元力)についての説明図を示す。
鋏の中心部付近のワイヤ41を支持固定する角度が一定でも、平行移動した位置の違いにより、鋏を開いた時のワイヤ41の変形状態が
図D~Fの様に異なる。鋏の開き角度とばね反力(復元力)の関係は、それぞれグラフD~Fの様になる。
【0032】
図7に、鋏に対する支持側の(超弾性合金)ワイヤ41の取付け位置とばねの反力(復元力)についての説明図を示す。
鋏に対して、ワイヤ41を支持固定する端部の位置が変わると、鋏を開いた時のワイヤ41の変形状態が
図H~Gの様に異なる。鋏の開き角度とばね反力(復元力)の関係は、それぞれグラフH~Gの様になる。
【0033】
図8に、鋏に対する自由端側の(超弾性合金)ワイヤ41の取付け位置とばねの反力(復元力)についての説明図を示す。
鋏に対して、ワイヤ41自由端側の端部の位置が変わると、鋏を開いた時のワイヤ41の変形状態が
図I~Jの様に異なる。鋏の開き角度とばね反力(復元力)の関係は、それぞれグラフI~Jの様になる。
【0034】
以上のように、ワイヤ41を取り付ける角度及び/又は位置を適宜組み合わせることで、所望のばねの反力(復元力)を設定することができる。復元力について、ひとつの特性を予め設定してもよいし、複数の特性を設定するように角度及び/又は位置を組み合わせて予め設定してもよい。複数の特性を設定する場合、支持固定部42に、複数の特性に対応したワイヤ41をセットする挿入口等の取付部46を複数設け複数の特性を有するようにし、使用者がいずれかの取付部46を選択してワイヤ41をセットすることで、所望の復元力の特性を選択・設定することができる。なお、各取付部46に関しては、角度だけを変えても良いし、位置だけでも良いし、両方を変えても良い。
【0035】
図9(A)に、支持固定部42の変形例(1)の説明図を示す。
この変形例(1)は、角度と位置を組み合わせた取付部46の例を示す。図示のような構成により、復元力のレンジを広く又は適宜の範囲とすることができる。いずれかの角度及び/又は位置、又はそれらの組み合わせは適宜予め定めることができる。
図9(B)に、ワイヤ41支持固定部42の変形例(2)の説明図を示す。
上述の説明では、支持固定部42へのワイヤ41の取り付けは、穴にワイヤ41を挿入することで固定するものであるが、これに限らず、この変形例(2)の取付部46’のように、凹部や溝等にワイヤ41を挟んだり固定する構造としてもよい。
には、についての説明図を示す。
【0036】
つぎに、支持固定部42の鋏への固定のための各種方法について説明する。
図10に、止めねじ方式の構成図を示す。
この例では、静刃側の第2鋏半体2に対して、支持固定部42を、横からの止めねじ101で固定する。
【0037】
図11に、ねじ方式の構成図を示す。
この例では、静刃側の第2鋏半体2に対して、支持固定部42を、上面からのねじ102で固定する。
【0038】
図12に、ピン方式の構成図を示す。
この例では、静刃側の第2鋏半体2に対して、支持固定部42を、上面からピン103挿入で固定する。
【0039】
図13に、ツメ方式の構成図を示す。
この例では、静刃側の第2鋏半体2に対して、固定用のツメ104のついた支持固定部42で、挟みこんで固定する。
【0040】
図14に、磁石方式の構成図を示す。
この例では、静刃側の第2鋏半体2に対して、磁石105を埋め込んだ支持固定部42を、磁気にて固定をする。
その他の支持固定部42の固定方法としては、例えば、次のような方法を用いることができる。
・接着剤による固定
・両面テープによる固定
・面ファスナー(マジックテープ(登録商標))による固定
【0041】
E.摺動部43
以下に、ワイヤ自由端側の摺動部43の鋏の柄1b(親指リング1c)への取り付けについての各種構成について説明する。これらの、各種構成を用いるようにしても良い。
図15に、撚り線ワイヤ方式の構成図を示す。
この例では、動刃側の第1鋏半体1の指入れリングの近傍に、撚り線ワイヤ106を固定してその反対側の自由端ワイヤを連結する。
【0042】
図16に、リンク方式の構成図を示す。
この例では、動刃側の第1鋏半体1の指入れリングの近傍に、リンクアーム107機構部品を固定してその反対側の自由端ワイヤを連結する。
【0043】
図17に、ローラー方式の構成図を示す。
この例では、動刃側の第1鋏半体1の指入れリングの近傍に、ローラー108機構部品の固定をする。鋏が開く際に、ワイヤ41と接触するローラーは、回転するため接触抵抗(摩擦)を抑えることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 第1鋏半体
2 第2鋏半体
3 軸支部3
4 アシスト力付与部(アシスト力付与具)
41 ワイヤ(復元力付与部)
42 支持固定部
43 摺動部
44 固定ねじ
45 保護キャップ
46 取付部