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特許7301392スタノゾロールとヒアルロン酸とのコンジュゲート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】スタノゾロールとヒアルロン酸とのコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/55 20170101AFI20230626BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20230626BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20230626BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20230626BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20230626BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20230626BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20230626BHJP
   C08B 37/08 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
A61K47/55
A61K31/58
A61K31/728
A61P19/04
A61P19/02
A61P17/02
A61P17/00
A61P27/02
A61P9/00
A61K47/61
A61P19/10
A61P7/10
A61L27/20
A61L27/52
A61L27/40
C08B37/08 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020550101
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 IB2019052034
(87)【国際公開番号】W WO2019180548
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】102018000003841
(32)【優先日】2018-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】502192476
【氏名又は名称】アクメ ドラッグス ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】ACME DRUGS S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】プレディエリ,パオロ・ジュリオ
【審査官】内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0202645(US,A1)
【文献】MERO, A. et al,Hyaluronic Acid Bioconjugates for the Delivery of Bioactive Molecules,Polymers,2014年,Vol.6,pp.346-369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/55
A61K 31/58
A61K 31/728
A61P 19/04
A61P 19/02
A61P 17/02
A61P 17/00
A61P 27/02
A61P 9/00
A61K 47/61
A61P 19/10
A61P 7/10
A61L 27/20
A61L 27/52
A61L 27/40
C08B 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタノゾロールのヒドロキシル基とエステル結合を形成し、かつ、ヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩のカルボキシル基とエステル結合又はアミド結合を形成するスペーサーを介して、スタノゾロールがヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩のカルボキシル基とコンジュゲートされている、スタノゾロールとヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩との間のコンジュゲートであって、
式(I)
【化12】

[式中:
n=1~12であり;
Xは、-O-及び-NH-より選択される二価基であり;
は、水素イオン又はアルカリ金属の陽イオンであり;

【化13】

は、ヒアルロン酸又はそのアルカリ金属塩の繰り返し単位であり、その際、記号*は、X基と結合した前記繰り返し単位の炭素原子を示す]
で示される、コンジュゲート。
【請求項2】
ヒアルロン酸のコンジュゲーション度が、ヒアルロン酸又はその塩の繰り返し二量体単位の数に対して1から90%mol/molの間の範囲である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
Xが、基-O-である、請求項1又は2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
少なくとも1種の担体又は賦形剤と混合された、請求項1又は2に記載のコンジュゲートを含む医薬組成物及び獣医学的組成物。
【請求項5】
ヒドロゲル、注射可能なヒドロゲル、外用ヒドロゲル、クリーム、ローション、フォーム、関節内使用のための水溶液、眼科用のエマルジョン、又は点眼薬の形態の、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のコンジュゲートを含む足場、人工組織及び培地。
【請求項7】
骨軟骨の欠損及び病変、腱及び靱帯の病変、関節組織の変性過程、創傷、びらん、眼病変、物理及び化学熱傷、外傷性病変、血管浮腫又はクインケ浮腫、皮膚血管炎及び血栓性静脈炎の局所処置における使用のための、請求項1又は2に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のコンジュゲートを含む、
骨軟骨の欠損及び病変、腱及び靱帯の病変、関節組織の変性過程、創傷、びらん、眼病変、物理及び化学熱傷、外傷性病変、血管浮腫又はクインケ浮腫、皮膚血管炎、又は血栓性静脈炎の局所処置のための医薬組成物。
【請求項9】
骨軟骨の欠損及び病変、腱及び靱帯の病変、関節組織の変性過程、創傷、びらん、眼病変、物理及び化学熱傷、外傷性病変、血管浮腫又はクインケ浮腫、皮膚血管炎、又は血栓性静脈炎の局所処置のための医薬の製造における、
請求項1又は2に記載のコンジュゲートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタノゾロールのヒドロキシル基とエステル結合を形成し、かつ、ヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩のカルボキシル基とエステル結合又はアミド結合を形成するスペーサーを介して、スタノゾロールがヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩のカルボキシル基とコンジュゲートされていることを特徴とする、スタノゾロールとヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩との間のコンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
ヒアルロン酸は、滑液の主成分である。粘性補充療法(viscosupplementation)として公知のヒアルロン酸の関節内投与は、安全であり、痛みを軽減し、関節可動性を改善することから、膝及び他の関節の軽度及び中等度の変形性関節症の処置のために幅広い支持を受けている(Henrotin Y, et al., Semin Arthritis Rheum. 2015 Oct;45(2):140-9. doi: 10.1016/j.semarthrit.2015.04.011)。高分子量ヒアルロン酸は、arg1、IL-10及びmrc1などの遺伝子を発現することにより組織修復を刺激するマクロファージ表現型を誘導するように(Rayahin JE, et al., ACS Biomater Sci Eng. 2015 Jul 13;1(7):481-493))、抗炎症特性を有し、軟骨保護効果を発揮する(Bauer C, et al., J Inflamm (Lond). 2016 Sep 13;13(1):31. doi: 10.1186/s12950-016-0139-y)。
【0003】
ヒアルロン酸は、関節内及び静脈内使用のための医療機器及び専売医薬品の生産に使用され、角膜及び結膜粘膜に水分を補給し、それらを滑らかにする目的で、眼科用の点眼薬、ゲル及び人工涙液を調製するためにも使用される。
【0004】
スタノゾロールは、そのタンパク質同化効果及び食欲促進効果から、獣医学において動物の悪液質状態に長い間使用されてきた合成ステロイドである。残念ながら、スタノゾロールは実質的に水に不溶性であり、アセトンにほんのわずかに可溶性である。スタノゾロールが組織及び生物に実際に有毒でないにしろ、耐容性に乏しいか、又は刺激物質である溶媒にのみ可溶性であるという事実は、スタノゾロールの治療的活用の可能性を限定し、その結果、その可能性は水性懸濁液及び錠剤により処置できる障害に限られる。残念ながら、懸濁液及び錠剤は、スタノゾロールが他の医薬品形態、医療機器、足場及び培地中で投与又は使用できるように水溶性にされたならばもてるであろう治療的可能性を生かしきっていない。
【0005】
スタノゾロールを他のアンドロゲン性タンパク質同化ステロイド(AAS)とはっきりと区別するいくつかの重要な性質が近年大きく取り上げられた。天然アンドロゲン及び他のAASと異なり、スタノゾロールは、高親和性結合を介してグルココルチコイド受容体(GR)及びプロゲステロン受容体と相互作用する。したがって臨床的観点から、スタノゾロールの作用は、タンパク質同化性-筋肉同化性だけでなく、とりわけ抗異栄養性(anti-dystrophic)と定義することができる。線維芽細胞培養物のインビトロ研究は、スタノゾロールが形質転換成長因子B1(TGF-ベータ1)を生成することによって用量依存的な動態でコラーゲンの合成を増加させ、したがって組織の成長及び修復を促進することを実証した(V. Falanga, et al., J Invest Dermatol, 111 (1998), pp. 1193-1197)。スタノゾロールは、すでにイヌにおける気管虚脱の処置に経口的に使用されており、その有効性及び安全性が実証されている(Adamama-Moraitou, K. K., et al. (2011). International Journal of Immunopathology and Pharmacology 24(1): 111-118)。関節内投与によって得られたインビボ研究の結果は、滑膜細胞の増生及び増殖中の軟骨芽細胞群の出現を促進する軟骨組織の特異的再生作用を示しており(Spadari A, et al., Res vet Sci 2013;94:379-87);そのうえ、関節内投与によって与えられると、それは、変形性関節症のウマにおける跛行を軽減する(Spadari A, et al., J Equine Vet Sci 2015;35:105-10)。しかし、懸濁液(担体中に懸濁されたスタノゾロール結晶又は微結晶)の形態のスタノゾロールの関節内注射は、以下の欠点を伴う:
- 関節の軟組織及び関節軟骨に望ましくない擦過作用を及ぼす;
- マクロファージ(特に好中球)を血流から関節腔内に誘引し、重篤な炎症反応をもたらす;
- 高いクリアランスが関節腔からのスタノゾロールの迅速で大量の搬出を引き起こす;
- 関節から血流へのスタノゾロールの急激な移動が、標的関節組織への直接作用を限定し、したがってその関節-組織再生の可能性を低下させる;
- 関節腔からのスタノゾロールの迅速な消失により、頻繁な注射が必要となり(滑液中に十分な濃度を維持するために少なくとも週1回の注射が必要である)、これはコンプライアンス及び望ましくない全身副作用(非標的器官に対するホルモンの作用)のリスクから見て明らかな欠点を伴う。
【0006】
結膜嚢内へのスタノゾロール懸濁液の滴下は、角膜及び結膜擦過傷のリスクを伴うことから、スタノゾロールの創傷治癒特性及び再上皮化特性を眼科分野で生かしきることができない。
【0007】
結果として、関節腔、眼腔又は足場マトリックスに保持されることができ、該ステロイドを軟骨、骨、滑膜、靱帯及び角膜組織などの周辺組織に徐々に生物学的に利用可能にすることができ、その局所効果を最大化する、スタノゾロールの親水性誘導体の必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の説明
今や、スタノゾロールのヒドロキシル基とエステル結合を形成し、かつ、ヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩のカルボキシル基とエステル結合又はアミド結合を形成するスペーサーを介して、スタノゾロールをヒアルロン酸とコンジュゲートすることによって、上記の欠点を解消できることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による好ましいコンジュゲートは、式(I)
【化1】

[式中、
n=1~12であり;
Xは、-O-及び-NH-より選択される二価基であり;
は、水素イオン又はアルカリ金属の陽イオンを表し;

【化2】

は、ヒアルロン酸又はそれとアルカリ金属との塩の繰り返し単位を表し、その際、記号*は、X基と結合した該繰り返し単位の炭素原子を示し、
Xは、好ましくは-O-であり、nは、好ましくは2、3、4又は5である]
により表される。
【0010】
本発明に使用されるヒアルロン酸は、1,000~10,000,000Da、好ましくは5,000~8,000,000Da、もっとも好ましくは30,000~1,000,000Daの範囲の分子量を有する。
【0011】
ヒアルロン酸は、抽出、発酵又は生合成の工程によって得ることができる。
【0012】
本発明によるコンジュゲートにおいて、スタノゾロール及びヒアルロン酸は、相互に直接結合するわけではなく、スタノゾロールのヒドロキシル基と共有エステル結合を形成し、かつ、ヒアルロン酸の繰り返し単位のD-グルクロン酸のカルボキシル基とエステル結合又はアミド結合を形成するスペーサーを介して相互に結合する。
【0013】
スペーサーと、ヒアルロン酸の繰り返し単位のD-グルクロン酸のカルボキシル基との間の共有結合は、存在するカルボキシル基に対して1%~90%の率(置換度)を伴う。置換度は、モルベースで好ましくは1~50%の間であり、もっとも好ましくは、これもモルベースで5~30%の間である。
【0014】
本発明によるスタノゾロールとヒアルロン酸又はヒアルロン酸塩との間のコンジュゲートは、以下の段階を伴う工程によって得られる:
a)ヒアルロン酸又はそのアルカリ塩を対応するテトラアルキルアンモニウム塩に変換する段階であって;出発生成物としてヒアルロン酸のナトリウム塩が好ましくは使用され、有機溶媒中のその溶解度を上げるために、それがテトラアルキルアンモニウム塩、好ましくはテトラブチルアンモニウム塩に変換され;該変換が、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いた処理により予めそのテトラブチルアンモニウム型に変換された、アンバーライト(amberlite)などの酸型のイオン交換樹脂により好都合に行うことができる段階;
b)スタノゾロールのピラゾール環のNH基をアミノ保護基で保護して、式(II)
【化3】

[式中、PGは、下の式(IIa)及び(IIb)
【化4】

によって表されるように、無差別にピラゾール環の1位又は2位の窒素原子に位置することができる、フルオレニルメトキシカルボニル基などのアミノ保護基を表す]
で示される化合物を与える段階
c)式(II)の化合物を式(III)
A-CO-(CH-Y (III)
[式中、Aはハロゲンであり、nは式(I)で示される化合物の場合と同義であり、Yはハロゲン、好ましくは臭素、又はNH-PG'基であり、PG'は、PGと同じ又は異なり得る一級アミノ保護基である]で示される化合物と反応させて、式(IV)
【化5】

[式中、PG、n及びYは、上記と同義である]で示される化合物を与える段階であって、反応が、一般的に室温で、クロロホルム又は塩化メチレンなどの溶媒中、ピリジン及び4-ジメチルアミノピリジンなどの有機塩基の存在下で位置異性体(IIa)と(IIb)との混合物をω-ハロゲン-カルボン酸の酸ハロゲン化物と反応させることによって行われる段階;
d)式(IV)[式中、Yはハロゲンである]で示される化合物を、段階a)で得られたヒアルロン酸テトラアルキルアンモニウム塩と反応させて、PG基を同時に除去しながら所望の置換度を有する式(I)[式中、Xは-O-である]で示される化合物をテトラアルキルアンモニウム塩として与える段階であって、式(IV)で示される化合物と該テトラアルキルアンモニウム塩との間の化学量論比が、式(I)で示されるスタノゾロール-ヒアルロン酸コンジュゲートについて所望の置換度を得るための比であり;コンジュゲーション及び保護基の除去が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリジノンより選択される溶媒中、室温で操作する一段階で行われる段階;又は
d')式(IV)[式中、Yは段階c)で得られたNH-PG'基である]で示される化合物からPG'基を除去して、式(IVa)
【化6】

で示される、脱保護された一級アミノ基を有する対応する生成物を与え、それを場合により単離することができ、続いてスタノゾロール-ヒアルロン酸コンジュゲートについて所望の置換度を得るために、式(IVa)(又は化合物(IVa)が単離されない場合は、式IV[式中、YはNH-PG'である])で示される化合物とヒアルロン酸との間の化学量論比を使用して、式(IVa)で示される化合物をヒアルロン酸のカルボキシル基及び縮合剤と反応させる段階であって;反応条件下で、PG基をその場で除去して、所望の置換度を有する式(I)[式中、Xは-NH-である]で示される化合物を酸として与える段階;
e)段階d)又は段階d')で得られた生成物を、所望の置換度を有する酸又は塩の形態の式(I)で示される対応する化合物に変換する段階。
【0015】
スタノゾロールのヒドロキシル基のアシル化によるそのコンジュゲーションのための二官能性スペーサーの使用は、スタノゾロールの17β位におけるOH基の低反応性の問題を解決し、該OH基は、酸媒質中で特に立体障害を受け、不安定であり、結果としてステロイドのC環及びD環に構造変化をもたらす転位反応の可能性がある三級基である。スタノゾロールはまた、その後のO-アシル化段階の前に適切に保護されなければならない、ヒドロキシルよりも求核性が高いピラゾール窒素を有する。したがって、保護基の選択は、ヒアルロン酸とのその後のコンジュゲーションのため及び最終生成物を得るために重要な要因である。
【0016】
本発明によるコンジュゲートは、医薬、医療機器及び足場の生産に適した調節可能な水溶性を有する。ヒアルロン酸がスタノゾロールとコンジュゲートされる部位の部分だけを飽和させることにより、様々な粘弾性度によって特徴づけられる高い水溶性のヒドロゲルが得られ、今度はそのヒドロゲルを使用して、投与又は使用された部位で持続し、非結晶性分子状態で低用量の水溶性スタノゾロールの低速の一定量放出によって特徴づけられる培地、医療機器及び生物学的に利用可能な医薬品を調製することができる。
【0017】
本発明の別の目的は、コンジュゲートを活性成分として含有する組成物である。
【0018】
本発明による組成物は、擦過特性を欠き、局所及び全身レベルで耐容性が良好であり、長期持続する作用及び高レベルの臨床的有効性を保証する。
【0019】
コンジュゲーションにより、本発明によるコンジュゲートの成分間の相乗効果の結果としてスタノゾロールの用量を減らすことができることも見出された。該相乗効果は、スタノゾロールとヒアルロン酸との混合物が投与される場合に観察される効果よりも大きい。
【0020】
そのうえ、水溶液(懸濁液)の状態のスタノゾロールとヒアルロン酸ナトリウムとの単なる物理的混合物は、成分が急速に分離し、再懸濁、測定及び投与が困難なスタノゾロール沈着物の形成を引き起こすので、不安定である。
【0021】
本発明によるコンジュゲートは:
- 歯科、整形外科、眼科若しくは神経学的使用のため、又は形成外科における組織再建のために、種々の程度の粘弾性、靱性及び持続性で、本発明によるコンジュゲートを含浸、それをコーティング又はそれと混合された有機又は無機の、多孔性又は非多孔性のマトリックスからなる足場及び人工組織;
- 低い関節クリアランス、長時間持続性の局所効果、高い耐容性及び擦過作用の欠如によって特徴づけられるスタノゾロールの関節内低放出のための水溶液の状態の長時間作用性医薬;
- 長時間持続性効果を有し、組織に擦過作用又は刺激作用を有しない、スタノゾロールを非結晶形態で緩徐放出する眼科用の水溶液又はエマルジョン形態の医薬;
- 細胞、組織及び器官の人造の分野における体細胞又は幹細胞の規則的な長いホルモン刺激に適した培地;
- 緩徐で規則的な一定のホルモン刺激により、所望の細胞株に向けた幹細胞の分化を案内及び決定し、その増殖(例えば幹細胞からの軟骨組織の生成)を強化することが可能な培地
を調製するために有利に使用することができる。
【0022】
適切に製剤化された本発明によるコンジュゲートは、骨軟骨の欠損及び病変の局所処置、腱及び靱帯の病変の局所処置、関節組織の変性過程の局所(関節内)処置(再生粘性補充療法)、創傷及びびらんの局所処置、並びに眼病変の局所処置(例えば、角膜病変の処置及び角膜移植片の術後管理)のために有利に使用される。本発明によるコンジュゲートの使用の他の分野は、軟組織欠損(物理及び化学熱傷、外傷性病変、血管浮腫又はクインケ浮腫、皮膚血管炎及び血栓性静脈炎)の矯正のための歯学、整形外科学、皮膚科学及び形成外科学を含む。
【0023】
該応用のために、コンジュゲートは、高粘性ヒドロゲルが浸透した足場、注射可能なヒドロゲル、外用ヒドロゲル、ヒドロゲルベースのクリーム、ローション及びフォーム、並びに人工組織の培養のための培地の形態に製剤化される。
【0024】
関節病変の処置において、ヒドロゲル形態の本発明によるコンジュゲートは、関節組織への潤滑活性、身体運動によって引き起こされる骨頭への機械的損傷に対する保護効果、及び可溶性の生物学的に利用可能なスタノゾロールの緩徐で一定の制御局所放出を発揮し、結果として、組織のタンパク質同化の刺激を引き起こし、スタノゾロールの滑液クリアランスの減速及び減少、並びにスタノゾロールの望ましくない全身作用の消失又は顕著な軽減を招く。
【0025】
該消失/軽減はまた、滑液包の炎症状態に次いで関節クリアランスの変化が生じた場合でも起こり得る。
【0026】
ヒドロゲルからのスタノゾロールの徐放及び関節組織(滑液包、関節軟骨及び軟骨下骨組織)でよく見られるその代謝は、局所レベル及び全身レベルの両方でその有害作用を最小限にする。
【0027】
本発明による製剤の関節内注射は、滑液中のスタノゾロールの治療濃度の長期持続を引き起こし、スタノゾロールが、関節組織を構成する細胞(特に軟骨芽細胞)の細胞質中にヒアルロン酸ミセルからなる「ナノキャリア」の助けを借りて長期間規則的に運搬されることを可能にする。
【0028】
ヒアルロン酸の分解に由来するナノキャリアミセルは、軟骨芽細胞の細胞表面に存在するCD44受容体に結合する。CD44受容体は、細菌発育阻止医薬などの生体活性分子とコンジュゲートされたヒアルロン酸ミセルを細胞質中にインターナリゼーションすることが実証されている(Qiu, L., et al., RSC Advances 6(46): 39896-39902)。具体的には、ヒアルロニダーゼによって支援されるヒアルロン酸スタノゾロールの滑液中での分解は、スタノゾロールとコンジュゲートされたヒアルロン酸ミセルを生じる。該ナノキャリアミセルは、軟骨芽細胞中にスタノゾロールをインターナリゼーションする。軟骨芽細胞及び滑膜細胞は、通常、ヒアルロニダーゼを生成しないが、変形性関節症及び関節リウマチの患者の滑液中でヒアルロニダーゼの発現が増加していることが報告されている(Yoshida M, et al., Arthritis Research & Therapy. 2004;6(6):R514-R520. doi:10.1186/ar1223.)。このような状態で、高分子量ヒアルロン酸によって形成されたヒアルロン酸スタノゾロールは、ヒアルロニダーゼ-2の活性によりミセルの寸法のフラグメント(ナノキャリアミセル)に分解され、それは、CD44受容体に結合し、標的細胞中にインターナリゼーションすることができる。そのとき、細胞質エステラーゼ活性が軟骨芽細胞中へのスタノゾロールの放出を決定する。
【0029】
選択的作用部位である細胞質内へのスタノゾロールのよく見られる放出は、細胞外及び細胞内環境においてエステラーゼ濃度が異なることによって決定される。
【0030】
関連するエステラーゼ活性(マウスにおいて:89.5nM/ml/sec;ウサギにおいて:14.9nM/ml/sec;ブタにおいて:7.0nM/ml/sec)がヒアルロン酸とコンジュゲートされたスタノゾロールの大部分を放出すると考えられる血漿中の状況とは異なり、化膿性関節炎の非存在下で滑液中のエステラーゼ活性は低下し、それにより、ヒアルロン酸とコンジュゲートされたスタノゾロールの無視できる量だけが滑液中に放出され、血流中に入ることで、全身副作用のリスクを最小限にすることができる。
【0031】
本発明は、(i)軟骨再生活性を有する医薬の媒介物として吸収性有機マトリックスを使用し、(ii)組織再生を促進するために必要な最適濃度で医薬を局所的に利用可能にし、全身副作用をほとんどゼロに軽減することから、従来の機器の主な欠点を排除する。
【0032】
製剤中の本発明によるコンジュゲートの濃度は、スタノゾロールの適用及び必要な用量に依存して広い範囲内を変動し得る。例えば、濃度は、総ヒドロゲルの0.1~15重量%の間の範囲であり得る。実施例のコンジュゲートを生理食塩水に1%添加することで、その粘度は数千倍増加し、コンジュゲートは関節内投与に適切になり;濃度を8~12%に増加させた場合、溶液は高粘弾性の半固体又は固体になる。
【0033】
下の実施例に本発明を詳細に例示する。
【実施例
【0034】
実施例1 N-Fmoc-スタノゾロール(Fmoc-Stano)の合成
【化7】

スタノゾロール(100mg、0.305mmol)をテトラヒドロフラン(2mL)、水(1mL)及びNaHCO(30mg)の混合物中に懸濁した。該混合物にFmocクロリド(158mg、0.61mmol)を添加し、反応混合物を室温で18時間放置した。次に、テトラヒドロフランを除去し、残ったスラリーを水(10mL)で希釈し、酢酸エチル(20mL)で抽出した。有機層をNaHCOの5%水溶液(2×20mL)で洗浄し、乾燥させ、溶媒を除去した後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー又は結晶化(石油エーテル/EtOAc)により精製した。N-Fmoc-保護スタノゾロールを2種の位置異性体(150mg、90%):(N-(フルオレニルメチルオキシカルボニル)-17a-メチルピラゾール[4',5':2,3]-5a-アンドロスタン-17b-オール及びN-(フルオレニルメチルオキシカルボニル)-17a-メチルピラゾール[3',4':3,2]-5a-アンドロスタン-17b-オールの混合物として得た。
【0035】
2種の位置異性体の混合物について選択されたH-NMR共鳴(300MHz, CDCl3):選択されたH-NMR共鳴(400MHz, CDCl3): δ 0.67(s, 3H, 19-H 一方の異性体), 0.78(s, 3H, 19-H 他方の異性体), 2.38(dd, J = 12.3, 17.1 Hz, 1H, 4-H 他方の異性体), 2.50(d, J = 15.7Hz, 1H, 1-H 一方の異性体), 2.70(d, J = 15.8 Hz, 1H, 1-H 他方の異性体), 7.52(s, 1H, 2'-H 一方の異性体), 7.77(s, 1H, 2'H 他方の異性体)。
【0036】
(N-(フルオレニルメチルオキシカルボニル)-17a-メチルピラゾール[4',5':2,3]-5a-アンドロスタン-17b-オール(2-Fmoc異性体):
【化8】

2-Fmoc異性体、選択されたH-NMR共鳴(400MHz, CDCl3): δ 0.78(s, 3H,19-H), 0.88(s, 3H,18-H), 1.23(s, 3H,20-H), 2.12(d, J = 15.5 Hz, 1 H,1-H), 2.38(dd, J = 12.3, 17.1 Hz, 1H, 4-H), 2.70(d, J = 15.8 Hz, 1H, 1-H), 2.77(dd, J = 5.1, 17.1 Hz, 1H, 4-H), 4.44(t, J = xx Hz, 1H, Fmoc), 4.66(d, J = xx Hz, 2H, Fmoc), 7.32(t, J = xx Hz,2H, Fmoc), 7.43(t, J = xx Hz, 2H, Fmoc), 7.66(d, J = xx Hz, 2H, Fmoc), 7.77(s, 1H, 2'H), 7.80(d, J = xx Hz, 2H, Fmoc)
【0037】
N-(フルオレニルメチルオキシカルボニル)-17a-メチルピラゾール[3',4':3,2]-5a-アンドロスタン-17β-オール(1-Fmoc異性体):
【化9】

1-Fmoc異性体、選択されたH-NMR共鳴(400MHz, CDCl3): δ 0.67(s, 3H, 19-H), 0.87(s, 3H, 18-H), 1.24(s, 3H, 20-H), 2.50(d, J = 15.7Hz, 1H, 1-H). 2.65(dd, J = 5.0, 17.8 Hz, 1H, 4-H), 4.42(t, J = xx Hz, 1H, Fmoc), 4.75(d, J = xx Hz, 2H, Fmoc), 7.33(m, 2H, Fmoc), 7.41(t, J = xx Hz, 2H, Fmoc), 7.52(s, 1H, 2'-H), 7.69(m, 2H, Fmoc), 7.78(d, J = xx Hz, 2H, Fmoc)。
【0038】
実施例2 N-Fmoc-スタノゾロールのブロモ酪酸誘導体(Fmoc-Stano-Br)の合成
【化10】

4-ブロモブチリルクロリド(0.350mg、3.04mmol)及び触媒量のDMAPをCHCl又はCHCl(7mL)及びピリジン(0.245mL、3.04mmol)中のFmoc-Stano(位置異性体混合物)(480mg、0.87mmol)の溶液に添加し、反応混合物を室温で一晩撹拌した。次に、混合物を5%HCl水溶液(5mL)及び5% NaHCO(3×10mL)で洗浄し、乾燥させ、真空中で溶媒を除去して、エステルFmoc-Stano-Brを位置異性体の混合物(578mg、95%)として与えた。
【0039】
ESI-MS(CHCN/MeOH):m/z 723.27(45%)(M+Na)、1421(100%)(2M+Na) 選択されたH-NMR共鳴(400MHz, CDCl3): δ 0.67(s, 3H, 19-H, 異性体1), 0.78(s, 3H,19-H, 異性体2), 0.86(s, 3H,18-H, 異性体1), 0.87(s, 3H,18-H, 異性体2), 1.43(s, 3H, 20-H), 2.43(t, J = 6.9 Hz, 2H, CH2CO), 2.51(d, J = 15.2 Hz, 1H, 1-H, 異性体1), 3.46(t, J = 6.9 Hz, 2H, CH2Br), 4.66(d, J = 7.6 Hz, 2H, Fmoc, 異性体2), 4.76(dd, J = 2.0, 7.6 Hz, 2H, Fmoc, 異性体1), 7.51(s, 1H, 2'-H, 異性体1), 7.77(s, 1H, 2'-H, 異性体2)。
【0040】
実施例3 ヒアルロン酸テトラブチルアンモニウム塩(HA-TBA)の合成
ヒアルロナンナトリウムをテトラブチルアンモニウム塩に変換して有機溶媒中のその溶解度を増加させた:2倍過剰(樹脂の容量と比較)のTBAヒドロキシドの40%w/w水溶液と共に40℃で処理することにより酸型アンバーライト樹脂IR-120(Sigma-Aldrich)をテトラブチルアンモニウム(TBA)型に予備変換した。次に、TBA型の樹脂を蒸留水で洗浄して、pH値を8未満に低下させた。次に、室温で40時間撹拌しながら、樹脂(1.1mmol)をHA-Na(0.2mmol、すなわち繰り返し二量体単位のモル)の1~2%(w/w)水溶液中に移した。樹脂を濾過により除去し、溶液を凍結乾燥させて、HA-TBAを白色固体として得て、それを冷所で保管した。
【0041】
実施例4 ヒアルロン酸-スタノゾロールコンジュゲート(HA-Stano)の合成
【化11】
【0042】
DMF(又はNMP又はDMSO) 2mL中HA-TBA 100mgの溶液に誘導体Fmoc-Stano-Br(22mg)を添加して、HA-TBAの誘導度 20%mol・mol-1(繰り返しHA二量体単位のモルあたりのスタノゾロールのモル)を得た。反応混合物を40℃で48時間磁気撹拌し続けた。アセトンを添加し、続いてDowex樹脂(Na型)でNa/TBAを交換することによって、生成物ヒアルスタン(HIALUSTAN)を白色固体として得た。DMSO-d/DO中のH-NMRスペクトル(400MHz)及びIRによりHA-Stanoコンジュゲートを特徴づけた。