IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ワシントン・ユニバーシティの特許一覧

特許7301394部位特異的タウリン酸化に基づく診断法及び治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】部位特異的タウリン酸化に基づく診断法及び治療方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230626BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C07K14/47
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020561809
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2019030725
(87)【国際公開番号】W WO2019213612
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】62/666,504
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/666,509
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・バルテルミー
(72)【発明者】
【氏名】ランドール・ジョン・ベイトマン
(72)【発明者】
【氏名】エリック・マクデイド
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/053739(WO,A1)
【文献】特表2016-535283(JP,A)
【文献】特表2013-535690(JP,A)
【文献】NICOLAS R. BARTHELEMY; ET AL,TAU HYPERPHOSPHORYLATION ON T217 IN CEREBROSPINAL FLUID IS SPECIFICALLY ASSOCIATED TO AMYLOID-β PATHOLOGY,BIORXIV,2017年11月30日,P1-41,https://www.biorxiv.org/content/10.1101/226977v1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無症候性対象を分類する方法であって、以下、
(a)前記対象から得られた単離タウ試料を用意し、(i)T217及びT205、(ii)T181及びT205、または(iii)T181、T205、及びT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに
(b)T217またはT181でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.5σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.5σ未満高い場合に、前記対象を、アルツハイマー病による軽度認知障害の発症までの年数に関して分類すること、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団において測定された、T217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である、
を含む、前記方法。
【請求項2】
T217でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.5σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.5σ未満高い場合に、前記対象は、分類される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)T217でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.75σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.75σ未満高い、(ii)T217でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.8σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.8σ未満高い、または(iii)T217でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.9σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.9σ未満高い場合に、前記対象は、分類される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
T217でのタウリン酸化が平均より少なくとも2σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より2σ未満高い場合に、前記対象は、分類される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
T181でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.5σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.5σ未満高い場合に、前記対象は、分類される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(i)T181でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.75σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.75σ未満高い、(ii)T181でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.8σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.8σ未満高い、または(iii)T181でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.9σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.9σ未満高い場合に、前記対象は、分類される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
T181でのタウリン酸化が平均より少なくとも2σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より2σ未満高い場合に、前記対象は、分類される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
T181及びT217でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.5σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.5σ未満低い場合に、前記対象は、分類される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(i)T181及びT217でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.75σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.75σ未満高い、(ii)T181及びT217でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.8σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より1.8σ未満高い、または(iii)T181及びT217でのタウリン酸化が少なくとも1.9σあり、かつT205でのタウリン酸化が1.9σ未満である場合に、前記対象は、分類される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
T181及びT217でのタウリン酸化が平均より少なくとも2σ高く、かつT205でのタウリン酸化が平均より2σ未満高い場合に、前記対象は、分類される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
記対象0~5年のうちにアルツハイマー病による軽度認知障害を発症するとして分類される、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
記対象0~0年のうちにアルツハイマー病による軽度認知障害を発症するとして分類される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
対象のために治療薬を選択する方法であって、該方法は、
(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T205およびT181、T205およびT217、またはT205、T181、およびT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに
(b)アミロイド沈着が増加するのを防ぐ治療薬を選択することであって、ここで対象から得られた単離タウ試料は、平均より少なくとも1.5σ高いT181でのタウリン酸化及び/または平均より少なくとも1.5σ高いT217でのタウリン酸化、および平均より1.5σ未満高いT205でのタウリン酸化を含有する、選択することを含み、
ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団において測定された残基でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である、方法。
【請求項14】
対象から得られた単離試料が、(i)平均より少なくとも1.5σ高いT217でのタウリン酸化及び平均より少なくとも1.5σ低いT205でのタウリン酸化;(ii)平均より少なくとも1.5σ高いT181でのタウリン酸化及び平均より少なくとも1.5σ低いT205でのタウリン酸化;または(iii)平均より少なくとも1.5σ高いT181及びT217でのタウリン酸化及び平均より少なくとも1.5σ低いT2055でのタウリン酸化を含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象から得られた単離試料が、(i)平均より少なくとも1.5σ高いT217及びT205でのタウリン酸化;(ii)平均より少なくとも1.5σ高いT181及びT205でのタウリン酸化;または(iii)平均より少なくとも1.5σ高いT181、T205及びT217でのタウリン酸化を含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
治療薬が、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-セクレターゼ阻害剤、抗Ab抗体、抗タウ抗体、p38アルファMAPK阻害剤、受動免疫療法、活性ワクチン、タウタンパク質凝集阻害剤、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ活性化剤、ホスファターゼ阻害剤、APP産生の選択的阻害剤及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
無症候性対象を治療する方法のための薬剤の製造における抗Aβ抗体の使用であって、ここで抗Aβ抗体の投与前に対象から得られた単離タウ試料中の残基T217及び/または残基T181でのタウリン酸化が平均より少なくとも1.5σ高い、使用。
【請求項18】
T111、T153、T205、S208、またはT231から選択される残基でのタウリン酸化が、抗Aβ抗体の投与後に対象から得られた単離タウ試料において測定される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
投与前に対象から得られた単離タウ試料中の残基T205でのタウリン酸化が、平均より少なくとも1.5σ高い、請求項17または18に記載の使用。
【請求項20】
投与前に対象から得られた単離タウ試料中の残基T205でのタウリン酸化が、平均より少なくとも1.5σ低い、請求項17または18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年5月3日出願の米国仮出願第62/666,504号、及び2018年5月3日出願の米国仮出願第62/666,509号の優先権を主張し、これらの開示は、本明細書中参照として援用される。
【0002】
政府の権利
本発明は、国立衛生研究所により授与されたNS065667及びNS095773の下、政府支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
配列表の参照
本出願は、配列表を含み、この配列表は、EFS-Webを経由してASCIIフォーマットで提出されており、そのまま全体が本明細書により参照として援用される。ASCIIコピーは、2019年5月3日に作成されており、ファイル名は623217_ST25.txtであり、ファイルサイズは24KBバイトである。
【背景技術】
【0004】
微小管結合タンパク質タウ(MAPTまたはタウ)は、ニューロンの形態及び生理機能において重要な役割を果たす。タウは、その全長タンパク質に6種の異なるアイソフォームが存在し、アセチル化、グリコシル化、及びリン酸化をはじめとする複数の翻訳後修飾を受けることが可能である。リン酸化は、軸索安定化におけるタウの正常機能を調節するのに重要であり、80を超える異なる残基で生じる可能性がある。しかしながら、タウの過剰なリン酸化は、タウが凝集して細胞内不溶性対らせん状細線維(PHF)及び神経原線維変化(NFT)になる可能性を上昇させるようである。PHF及びNFTは、主に過剰リン酸化タウからなる。
【0005】
大脳皮質の細胞内神経原線維変化は、アルツハイマー病(AD)を決定付ける病理学的特徴であり、細胞外アミロイドβ(Aβ)プラークの出現からかなり遅れて臨床症候が発症することと相関している。細胞外アミロイドβプラークは、症候が発症する前、最長20年前から発達しはじめる。ADでは、可溶性p-タウ及び非リン酸化タウが脳脊髄液(CSF)中で2倍に増加する。こうした変化は、タウ及びNFTをCSFに受動的に放出するニューロン死(神経変性)の効果を反映していると提唱されてきた。しかしながら、顕著なNFT病態及び神経変性を伴う他のタウオパチー(例えば、進行性核上麻痺、前頭側頭葉変性症-タウ)では、可溶性p-タウ及びタウ総量のCSFレベルは上昇しない。これらの知見は、Aβが、AD独自のタウオパチーを招くプロセスの引き金を引いている可能性を示唆し、この考えは、細胞モデル及び動物モデルにより支持される。この概念は、ヒトにおいて、アミロイドプラークの存在下、可溶性タウの能動産生が増加することによりさらに支持される。
【0006】
タウは、AD病態の特徴を構成し、凝集型または溶解型で測定可能であるものの、この重要な神経タンパク質の翻訳後修飾が、ヒトにおいて、どのようにNFT及び神経変性の発生を招くのかについての理解には、重大な空白が残っている。例えば、タウとアミロイドβプラークとの関連は不明である。同様に、もしあるとしたら、どのような病態生理学的変化がADの発症前及び臨床段階中にタウに生じるのかということも不明である。そのため、もし可能だとしたら、どの程度タウを利用して、ADと関連した症候の発症前に対象を段階分けする及び治療決定を誘導することができるかも不明である。
【0007】
したがって、タウリン酸化を定量する改善された方法が、当該分野で依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
1つの態様において、本開示は、対象を、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)へのコンバージョンリスクが高いと診断する方法を包含する。本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高いと診断すること、を含む。T181、T205、及び/またはT217でのタウリン酸化測定を使用し、任意選択でタウ総量の測定を併用することに代えて、あるいは、これに加えて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比を使用する場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。比以外の数学演算も、使用する場合がある。
【0009】
別の態様において、本開示は、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)の発症前に対象を段階分けする方法を包含する。本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を、ADによるMCIの発症までにある特定の年数が存在すると診断すること、を含む。T181、T205、及び/またはT217でのタウリン酸化測定を使用し、任意選択でタウ総量の測定を併用する代わりに、またはこれに加えて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比を使用する場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。比以外の数学演算も、使用する場合がある。
【0010】
別の態様において、本開示は、アルツハイマー病(AD)症候の発症後に対象を段階分けする方法を包含する。本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を、ADによるMCIの発症からある特定の年数が経過していると診断すること、を含む。T181、T205、及び/またはT217でのタウリン酸化測定を使用し、任意選択でタウ総量の測定を併用する代わりに、またはこれに加えて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比を使用する場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。比以外の数学演算も、使用する場合がある。
【0011】
別の態様において、本開示は、治療を必要としている対象を治療するための方法を包含する。本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象に、医薬組成物を投与すること、を含む。T181、T205、及び/またはT217でのタウリン酸化測定を使用し、任意選択でタウ総量の測定を併用する代わりに、またはこれに加えて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比を使用する場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。比以外の数学演算も、使用する場合がある。
【0012】
別の態様において、本開示は、対象を臨床試験に登録するための方法を包含する。本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を臨床試験に登録すること、を含む。T181、T205、及び/またはT217でのタウリン酸化測定を使用し、任意選択でタウ総量の測定を併用する代わりに、またはこれに加えて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比を使用する場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。比以外の数学演算も、使用する場合がある。
【0013】
本発明の他の態様及び反復を、以下でより詳しく記載する。
【0014】
本出願のファイルは、カラー写真を少なくとも1枚含む。カラー写真を含めた本特許出願公報の写しは、請求に応じて、必要な手数料の支払いがあり次第、特許庁から提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】最長ヒトタウアイソフォーム(2N4R)及びタウ抗体のエピトープの図である。N末端、ミッドドメイン、MTBR、及びC末端は、このアイソフォームに関しては同定されており、他のタウアイソフォーム(例えば、2N3R、1N4R、1N3R、0N4R、及び0N3R)に関しては予測可能な形で変化する。
図2】並列反応モニタリング実験の原理を示す図である。
図3】103-126(0Nアイソフォーム)のモノリン酸化タウ配列のPRMスクリーニングから得られたデータを示す。未修飾ペプチド103-126の近くで溶出し、T111(a)、S113(b)、またはT123(c)でのリン酸化が予想される一連の断片を含有する独自のLC-MS/MSパターンが同定された。各p-タウペプチドに由来するyイオン断片として仮定されるものを配列に下線で示す。3種の推定モノリン酸化ペプチドの同時溶出の可能性を解析した。リン酸基を持たないイオン断片y15は、残基T111でリン酸化したペプチド(y15(a))に特異的であり、リン酸基を持つy8断片は、残基T123でのp-タウペプチド(y8(c))に特異的である。対応する抽出イオンクロマトグラム(XIC)が、検出限度よりは高いものの少量で検出され、このことは、2種の対応するモノリン酸化タウペプチドの同定を支持する。反対に、リン酸基を持つy15断片、これはpT111及びpS113に共通し(y15(a+b))、ならびにリン酸基を持たないy8断片、これはpS113及びpT123に共通するが(y8(b+c))、これらは、はるかに量が多い。これらのシグナルの違いは、パターンの主要種として、残基S113でモノリン酸化したタウペプチド(b)の存在を支持する。
図4】6つのリン酸化可能部位を有するモノリン酸化タウ配列68-126(1Nアイソフォーム)のPRMスクリーニングから得られたデータを示す。3つのリン酸化部位は、図3で記載したとおり、残基103-126を有するペプチドに共通する(d~f)。6つのLC-MSパターンが同定された。リン酸基を有するY28断片は、pS68(a)またはpT69(b)に共通するが、これは、2つのLC-MSパターン4及び5で見られた。このことは、2種のリン酸化ペプチドが存在することを実証するが、対応するLC-MSパターンは、イオン断片y29を検出してpS68とpT69の区別をつけないことには、厳密に帰属させることができない。pT71(c)及びpT111(d)に対応する特異的断片は、それぞれ、LC-MSパターン6及び1に見られる。pS113(e)及びpT123(f)の特異的断片(リン酸基を持つy15)は、LC-MSパターン2に見られる。このパターンは、リン酸基を持つy10断片及び持たないy10断片の両方を含んでおり、このことは、これら2種のリン酸化ペプチドが同時溶出することを示唆する。リン酸基を持たないy10はリン酸基を持つy10に比べて大きなシグナルであることから、pT123の度合いは、pS113より低いように思われる。LC-MSパターン3は、非リン酸化ペプチドについて見られるとおり、パターン4のリン酸化ペプチド由来の少量の配座異性体またはLCアーチファクトに起因する。
図5】モノリン酸化タウ配列45-67(1N及び2Nアイソフォーム)のPRMスクリーニングから得られたデータを示す。配座異性体由来の強いシグナルは、非リン酸化ペプチドLC-MSパターンの前で同定された。したがって、リン酸化ペプチドの対応するLC-MSパターンもLCにより分離可能な配座異性体を有することが予想された。実際、PRMスキャン解釈の結果、この配列においてpT50(b)が主要リン酸化部位として検出された(パターン2)。パターン1も同様な断片化のフィンガープリントを持つが、これは、pT50の配座異性体に帰属された。pS46(a)も、シグナルをpT50(b)から区別することができるが、検出されなかったため、このリン酸化が存在しない、または少量であって、同様な非特異的断片を共有する他のリン酸化ペプチドと同時溶出した可能性を示唆している。LC-MSパターン3の同時溶出したy9、リン酸基を持たないy15、及びリン酸基を持つy17は、残基T52(c)でのリン酸化と同定された。パターン4/6及びパターン5/7は、それぞれ、配座異性体の対とされた。すなわち、2種のリン酸化ペプチドは、分離不可能であった。これらのパターンで見られた断片は、S61(e)、T63(f)、及びS64(g)残基のうち1箇所でのリン酸化に一致した。MS/MS強度は、これらの部位を同定するには不十分であったが、これら3箇所のうち少なくとも2箇所は、この配列においてリン酸化されているようであった。さらに、リン酸基を持たないy9断片が少量、パターン7のショルダーで見られ、これは、残基S56(d)での少量のリン酸化に帰属することができた。
図6】モノリン酸化タウ配列88-126(2Nアイソフォーム)のPRMスクリーニングから得られたデータを示す。この配列にはリン酸化可能な部位が6箇所あり、6つのLC-MSパターンが同定された。パターン1及びパターン2に見られる断片は、それぞれ、残基T111(d)及び残基S113(e)でのリン酸化ペプチドに一致した。残基T123(f)でのリン酸化ペプチドによる特異的断片は見られなかった。パターン4及びパターン6は、残基T101(b)または残基T102(c)でのリン酸化に一致するy29断片の低シグナルを含んでいたが、これらを区別することができる特異的断片は検出されなかった。パターン3及びパターン5は、パターン4及びパターン6に見られる断片を共有していたが、その量は少なく、N末端の残基G109でのリン酸化残基の位置にあった。このことは、さらなるリン酸化ペプチド、あり得るとしたら残基T95(a)でのリン酸化ペプチド、あるいはパターン4及びパターン6に見られるペプチドの大量配座異性体の存在を示している可能性がある。
図7】リン酸化可能な部位が4箇所あるモノリン酸化タウ配列68-87のPRMスキャンを示す。3つのLC-MSパターンが検出された。パターン2及びパターン3は、残基S68(a)または残基T69(b)でのリン酸化と一致した。パターン1は、T71(c)及びT76(d)でのリン酸化ペプチド2種が同時溶出して存在することに対応する断片を両方とも含んでいた。パターン1中のリン酸基を持つy14 XICと持たないy14 XICの比較は、pT71(c)の方がpT76(d)より多いことを示す。
図8A】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8B】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8C】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8D】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8E】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8F】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8G】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8H】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8I】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8J】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8K】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図8L】脳p-タウタンパク質のミッドドメイン及びC末端におけるリン酸化部位の検出を示す。
図9A】タウ配列195-209(配列番号38)及びタウ配列212-221(配列番号64)由来のリン酸化ペプチドプロファイルが、可溶性脳画分、正常CSF、及びADのCSFのタウタンパク質の間で可変であることを示す。脳可溶性タウ抽出物は、対応するCSFタウレベルとおおよそ一致するように表示どおりに希釈されている。195-209でのリン酸化ペプチド:脳ライセートでは、2種のリン酸化ペプチドpS199及びpS202の同時溶出に対応する1つのシグナルが観察される。CSFでは、2つの追加シグナルが観察される。断片の分析により、左側のシグナルはpT205に帰属させることができた。ADのCSFでは、この2つのシグナルは増大して、特異的断片の同定が可能になり、右側のシグナルがpS208に帰属された。212-221でのリン酸化ペプチド:同様なMS強度を持つ2つのシグナルは、pT217及びpS214に対応するもので、これらは脳ライセートで同定される。CSFでは、pT217に対応するシグナルが最も強いが、pS214は検出限界に近く、脳抽出物との比較において、これらの相対存在量が劇的に変化していることを示す。ADのCSFでは、pT217は、特異的高リン酸化により顕著に増加している。
図9B】タウ配列195-209(配列番号38)及びタウ配列212-221(配列番号64)由来のリン酸化ペプチドプロファイルが、可溶性脳画分、正常CSF、及びADのCSFのタウタンパク質の間で可変であることを示す。脳可溶性タウ抽出物は、対応するCSFタウレベルとおおよそ一致するように表示どおりに希釈されている。195-209でのリン酸化ペプチド:脳ライセートでは、2種のリン酸化ペプチドpS199及びpS202の同時溶出に対応する1つのシグナルが観察される。CSFでは、2つの追加シグナルが観察される。断片の分析により、左側のシグナルはpT205に帰属させることができた。ADのCSFでは、この2つのシグナルは増大して、特異的断片の同定が可能になり、右側のシグナルがpS208に帰属された。212-221でのリン酸化ペプチド:同様なMS強度を持つ2つのシグナルは、pT217及びpS214に対応するもので、これらは脳ライセートで同定される。CSFでは、pT217に対応するシグナルが最も強いが、pS214は検出限界に近く、脳抽出物との比較において、これらの相対存在量が劇的に変化していることを示す。ADのCSFでは、pT217は、特異的高リン酸化により顕著に増加している。
図9C】タウ配列195-209(配列番号38)及びタウ配列212-221(配列番号64)由来のリン酸化ペプチドプロファイルが、可溶性脳画分、正常CSF、及びADのCSFのタウタンパク質の間で可変であることを示す。脳可溶性タウ抽出物は、対応するCSFタウレベルとおおよそ一致するように表示どおりに希釈されている。195-209でのリン酸化ペプチド:脳ライセートでは、2種のリン酸化ペプチドpS199及びpS202の同時溶出に対応する1つのシグナルが観察される。CSFでは、2つの追加シグナルが観察される。断片の分析により、左側のシグナルはpT205に帰属させることができた。ADのCSFでは、この2つのシグナルは増大して、特異的断片の同定が可能になり、右側のシグナルがpS208に帰属された。212-221でのリン酸化ペプチド:同様なMS強度を持つ2つのシグナルは、pT217及びpS214に対応するもので、これらは脳ライセートで同定される。CSFでは、pT217に対応するシグナルが最も強いが、pS214は検出限界に近く、脳抽出物との比較において、これらの相対存在量が劇的に変化していることを示す。ADのCSFでは、pT217は、特異的高リン酸化により顕著に増加している。
図9D】タウ配列195-209(配列番号38)及びタウ配列212-221(配列番号64)由来のリン酸化ペプチドプロファイルが、可溶性脳画分、正常CSF、及びADのCSFのタウタンパク質の間で可変であることを示す。脳可溶性タウ抽出物は、対応するCSFタウレベルとおおよそ一致するように表示どおりに希釈されている。195-209でのリン酸化ペプチド:脳ライセートでは、2種のリン酸化ペプチドpS199及びpS202の同時溶出に対応する1つのシグナルが観察される。CSFでは、2つの追加シグナルが観察される。断片の分析により、左側のシグナルはpT205に帰属させることができた。ADのCSFでは、この2つのシグナルは増大して、特異的断片の同定が可能になり、右側のシグナルがpS208に帰属された。212-221でのリン酸化ペプチド:同様なMS強度を持つ2つのシグナルは、pT217及びpS214に対応するもので、これらは脳ライセートで同定される。CSFでは、pT217に対応するシグナルが最も強いが、pS214は検出限界に近く、脳抽出物との比較において、これらの相対存在量が劇的に変化していることを示す。ADのCSFでは、pT217は、特異的高リン酸化により顕著に増加している。
図9E】タウ配列195-209(配列番号38)及びタウ配列212-221(配列番号64)由来のリン酸化ペプチドプロファイルが、可溶性脳画分、正常CSF、及びADのCSFのタウタンパク質の間で可変であることを示す。脳可溶性タウ抽出物は、対応するCSFタウレベルとおおよそ一致するように表示どおりに希釈されている。195-209でのリン酸化ペプチド:脳ライセートでは、2種のリン酸化ペプチドpS199及びpS202の同時溶出に対応する1つのシグナルが観察される。CSFでは、2つの追加シグナルが観察される。断片の分析により、左側のシグナルはpT205に帰属させることができた。ADのCSFでは、この2つのシグナルは増大して、特異的断片の同定が可能になり、右側のシグナルがpS208に帰属された。212-221でのリン酸化ペプチド:同様なMS強度を持つ2つのシグナルは、pT217及びpS214に対応するもので、これらは脳ライセートで同定される。CSFでは、pT217に対応するシグナルが最も強いが、pS214は検出限界に近く、脳抽出物との比較において、これらの相対存在量が劇的に変化していることを示す。ADのCSFでは、pT217は、特異的高リン酸化により顕著に増加している。
図9F】タウ配列195-209(配列番号38)及びタウ配列212-221(配列番号64)由来のリン酸化ペプチドプロファイルが、可溶性脳画分、正常CSF、及びADのCSFのタウタンパク質の間で可変であることを示す。脳可溶性タウ抽出物は、対応するCSFタウレベルとおおよそ一致するように表示どおりに希釈されている。195-209でのリン酸化ペプチド:脳ライセートでは、2種のリン酸化ペプチドpS199及びpS202の同時溶出に対応する1つのシグナルが観察される。CSFでは、2つの追加シグナルが観察される。断片の分析により、左側のシグナルはpT205に帰属させることができた。ADのCSFでは、この2つのシグナルは増大して、特異的断片の同定が可能になり、右側のシグナルがpS208に帰属された。212-221でのリン酸化ペプチド:同様なMS強度を持つ2つのシグナルは、pT217及びpS214に対応するもので、これらは脳ライセートで同定される。CSFでは、pT217に対応するシグナルが最も強いが、pS214は検出限界に近く、脳抽出物との比較において、これらの相対存在量が劇的に変化していることを示す。ADのCSFでは、pT217は、特異的高リン酸化により顕著に増加している。
図10A】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10B】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10C】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10D】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10E】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10F】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10G】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10H】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図10I】pT153、pT175、及びpT231リン酸化ペプチドが、CSF中で同定されることを示す。AQUA内部標準シグナルは、pT175及びpT231のために示してある。pT153の断片化パターンは、未修飾のものと同様である。
図11】S113リン酸化と比べたT111でのリン酸化存在量が、脳中よりもCSF中で高いことを示す。脳及びCSFの両方で、タウ配列103-126での全てのモノリン酸化ペプチドに共通するMS/MS断片y18が検出される。pS113(b)由来のy15断片の相対存在量は、脳抽出物に比較して、CSF中で顕著に少ない。逆に、pT111(a)由来のy15断片は、CSF中に豊富に存在し、ADのCSFタウレベルに一致するように希釈された脳可溶性抽出物中では検出不能である。
図12】タウリン酸化の相対存在量が、生体抽出物に依存し、タンパク質配列にわたり変化することを示す。タウリン酸化存在量を、正常脳ライセート、正常CSF、及びADのCSFから、HJ8.5及びタウ1を用いた免疫捕獲により抽出してMSにより測定することにより比較したもの。円の面積は、リン酸化部位の存在量に比例する。赤色及び緑色は、それぞれ、基準にした脳可溶性画分プロファイル(青色)に対する増加及び減少を示す。タウは、CSF中では、C末端でトランケートされており、このことは、リン酸化部位のC末端クラスターが検出されないことを説明づける。T205及びS208でのリン酸化は、CSFに特異的である(脳可溶性画分の赤字X-上段)。
図13】タウリン酸化部位が、脳、正常CSF、及びADのCSFで異なって修飾されることを示す。測定は、対応する非リン酸化部位に対するリン酸化シグナルの相対存在量である(HJ8.5+タウ1 IP-MS)。脳の結果は、CSFタウレベルに一致するように、500×~8000×倍で希釈したライセートで得たものである。T205及びS208でのリン酸化は、脳組織では検出不能である。T111でのリン酸化は、500倍希釈ライセートでは検出不能であるが、10倍希釈ライセートでは検出され、これは0.02%の存在量に相当する。凡例:**は、p=0.01レベルでの有意性を示し、は、p=0.05レベルでの有意性を示す。
図14A】IP-MSにより測定したリン酸化比に対する抗体効果を示す。タウN末端突出ドメイン(タウ13もしくはHJ8.5)またはミッドドメイン(HJ8.7、タウ1、もしくはタウ5)に対する抗体を用いて、脳ライセートプール、非AD(n=1)プール、及びADのCSF(n=1)プールから、並行して免疫沈降させた。主要CSF部位で測定したリン酸化比のレーダープロット(log10尺度)を、脳ライセート(図14A、左パネル)、非ADのCSF(図14A、中央パネル)、及びADのCSF(図14A、右パネル)について示す。pT181/T181、pT231/T231でのタウリン酸化比の測定は、試験した抗体にわたり一致している。PS199/S199は、他の抗体に比べてタウ1またはタウ1+HJ8.5を用いることにより減少する。
図14B】IP-MSにより測定したリン酸化比に対する抗体効果を示す。タウN末端突出ドメイン(タウ13もしくはHJ8.5)またはミッドドメイン(HJ8.7、タウ1、もしくはタウ5)に対する抗体を用いて、脳ライセートプール、非AD(n=1)プール、及びADのCSF(n=1)プールから、並行して免疫沈降させた。タウ1またはタウ1+HJ8.5IPによるpS199の回収の低さは、試験した他の抗体に比べて、pS199/S199比の測定の過少評価をもたらす。タウ13、HJ8.5、及びHJ8.7抗体は、脳とCSFの間にpS199リン酸化比の有意な変化がないことを示す。脳に比べて、CSFのpS202/S202低リン酸化
図14C】IP-MSにより測定したリン酸化比に対する抗体効果を示す。タウN末端突出ドメイン(タウ13もしくはHJ8.5)またはミッドドメイン(HJ8.7、タウ1、もしくはタウ5)に対する抗体を用いて、脳ライセートプール、非AD(n=1)プール、及びADのCSF(n=1)プールから、並行して免疫沈降させた。脳に比べて、CSFのpS202/S202低リン酸化(図14C)及びpT217/pT217高リン酸化(図14D)は、IP-MSに使用された抗体とは無関係に明らかである。図14B~Dの凡例は、同一であり、図14Cに示す-脳(青色)、非ADのCSF(緑色)、及びADのCSF(赤色)。
図14D】IP-MSにより測定したリン酸化比に対する抗体効果を示す。タウN末端突出ドメイン(タウ13もしくはHJ8.5)またはミッドドメイン(HJ8.7、タウ1、もしくはタウ5)に対する抗体を用いて、脳ライセートプール、非AD(n=1)プール、及びADのCSF(n=1)プールから、並行して免疫沈降させた。脳に比べて、CSFのpS202/S202低リン酸化(図14C)及びpT217/pT217高リン酸化(図14D)は、IP-MSに使用された抗体とは無関係に明らかである。
図15】CSFのインキュベーションがタウでのリン酸化率測定に影響を及ぼさないことを示す。
図16A】アミロイドプラークが、タウ高リン酸化と強く相関しているが、リン酸化の部位によって異なることを示す。被験者を、Aβ PiB-PET(SUVRカットオフは1.25)に基づきAβ病態を有するとして分類した際のタウ総量(青色、AUC=0.62)及び部位特異的リン酸化比の受信者動作特性であり、p-T217(黄色線)は、Aβ病態とのほぼ完璧な関連性を示し(AUC=0.97)、続いてp-T181(AUC=0.89)、そしてp-T205(AUC=0.74)である。
図16B】アミロイドプラークが、タウ高リン酸化と強く相関しているが、リン酸化の部位によって異なることを示す。p-T217(図16B)、p-T181、(図16C)、p-S202(図16D)、p-T205(図16E)の標準化(zスコア)リン酸化比、及びタウ総量(図16F)レベルを、Aβ PiB-PET四分位(n=45、47、28、30)により示し、変異保持者についてはAβ PiB-PETレベルが上昇しているリン酸化の部位特異的差異を強調してある:p-T217及びp-T181は、増加が最大であり、最初にAβ PiB-PET量が増加し、それが遅くなって、Aβ PiB-PETのレベルは最高を維持する。一方、p-T205及びタウ総量は、増加し続けることを実証する。p-S202については、Aβ PiB-PET四分位の最高値において最低値に比べて、リン酸化に有意な減少が存在する;***-P値<0.001、**-P値<0.01、ウィルコクソン二標本検定に基づく;正中線は、中央値を表し、上部及び下部のノッチ=中央値+/-1.58四分位範囲/平方根(n-観測値)、上部及び下部のヒゲ=上部/下部ヒンジ以上/以下の最大観測値+1.58IQR。
図16C】アミロイドプラークが、タウ高リン酸化と強く相関しているが、リン酸化の部位によって異なることを示す。p-T217(図16B)、p-T181、(図16C)、p-S202(図16D)、p-T205(図16E)の標準化(zスコア)リン酸化比、及びタウ総量(図16F)レベルを、Aβ PiB-PET四分位(n=45、47、28、30)により示し、変異保持者についてはAβ PiB-PETレベルが上昇しているリン酸化の部位特異的差異を強調してある:p-T217及びp-T181は、増加が最大であり、最初にAβ PiB-PET量が増加し、それが遅くなって、Aβ PiB-PETのレベルは最高を維持する。一方、p-T205及びタウ総量は、増加し続けることを実証する。p-S202については、Aβ PiB-PET四分位の最高値において最低値に比べて、リン酸化に有意な減少が存在する;***-P値<0.001、**-P値<0.01、ウィルコクソン二標本検定に基づく;正中線は、中央値を表し、上部及び下部のノッチ=中央値+/-1.58四分位範囲/平方根(n-観測値)、上部及び下部のヒゲ=上部/下部ヒンジ以上/以下の最大観測値+1.58IQR。
図16D】アミロイドプラークが、タウ高リン酸化と強く相関しているが、リン酸化の部位によって異なることを示す。p-T217(図16B)、p-T181、(図16C)、p-S202(図16D)、p-T205(図16E)の標準化(zスコア)リン酸化比、及びタウ総量(図16F)レベルを、Aβ PiB-PET四分位(n=45、47、28、30)により示し、変異保持者についてはAβ PiB-PETレベルが上昇しているリン酸化の部位特異的差異を強調してある:p-T217及びp-T181は、増加が最大であり、最初にAβ PiB-PET量が増加し、それが遅くなって、Aβ PiB-PETのレベルは最高を維持する。一方、p-T205及びタウ総量は、増加し続けることを実証する。p-S202については、Aβ PiB-PET四分位の最高値において最低値に比べて、リン酸化に有意な減少が存在する;***-P値<0.001、**-P値<0.01、ウィルコクソン二標本検定に基づく;正中線は、中央値を表し、上部及び下部のノッチ=中央値+/-1.58四分位範囲/平方根(n-観測値)、上部及び下部のヒゲ=上部/下部ヒンジ以上/以下の最大観測値+1.58IQR。
図16E】アミロイドプラークが、タウ高リン酸化と強く相関しているが、リン酸化の部位によって異なることを示す。p-T217(図16B)、p-T181、(図16C)、p-S202(図16D)、p-T205(図16E)の標準化(zスコア)リン酸化比、及びタウ総量(図16F)レベルを、Aβ PiB-PET四分位(n=45、47、28、30)により示し、変異保持者についてはAβ PiB-PETレベルが上昇しているリン酸化の部位特異的差異を強調してある:p-T217及びp-T181は、増加が最大であり、最初にAβ PiB-PET量が増加し、それが遅くなって、Aβ PiB-PETのレベルは最高を維持する。一方、p-T205及びタウ総量は、増加し続けることを実証する。p-S202については、Aβ PiB-PET四分位の最高値において最低値に比べて、リン酸化に有意な減少が存在する;***-P値<0.001、**-P値<0.01、ウィルコクソン二標本検定に基づく;正中線は、中央値を表し、上部及び下部のノッチ=中央値+/-1.58四分位範囲/平方根(n-観測値)、上部及び下部のヒゲ=上部/下部ヒンジ以上/以下の最大観測値+1.58IQR。
図16F】アミロイドプラークが、タウ高リン酸化と強く相関しているが、リン酸化の部位によって異なることを示す。p-T217(図16B)、p-T181、(図16C)、p-S202(図16D)、p-T205(図16E)の標準化(zスコア)リン酸化比、及びタウ総量(図16F)レベルを、Aβ PiB-PET四分位(n=45、47、28、30)により示し、変異保持者についてはAβ PiB-PETレベルが上昇しているリン酸化の部位特異的差異を強調してある:p-T217及びp-T181は、増加が最大であり、最初にAβ PiB-PET量が増加し、それが遅くなって、Aβ PiB-PETのレベルは最高を維持する。一方、p-T205及びタウ総量は、増加し続けることを実証する。p-S202については、Aβ PiB-PET四分位の最高値において最低値に比べて、リン酸化に有意な減少が存在する;***-P値<0.001、**-P値<0.01、ウィルコクソン二標本検定に基づく;正中線は、中央値を表し、上部及び下部のノッチ=中央値+/-1.58四分位範囲/平方根(n-観測値)、上部及び下部のヒゲ=上部/下部ヒンジ以上/以下の最大観測値+1.58IQR。
図16G】アミロイドプラークが、タウ高リン酸化と強く相関しているが、リン酸化の部位によって異なることを示す。無症候性変異保持者(n=139)に関する皮質と皮質下の間のAβ PiB-PET SUVR及び部位特異的リン酸化の二変量相関である。色表示は、相関性が正の相関(黄色~赤色)及び負の相関(青色)であることを表す;全ての相関性は、偽陽性率を乗り越えて統計上有意な値を示し(p<0.05)、上から下に向かって相関性が高い順に並べられている。
図17A】異なるリン酸化タウ部位の長期的変化が、疾患特異的な段階でありADが進行するにつれて反対方向に変化することを示す。(図17A)p-T217、(図17B)p-T181、(図17C)タウ総量、(図17D)p-T205、及び(図17E)p-S202のリン酸化比の個別、z変換、長期的変化を、変異保持者(黒色=無症候性変異保持者、(n=152)、赤色=症候性変異保持者(77))、及び非保持者(青色、(n=141))について、症候発生までの推定年数(EYO)にわたり示す。垂直の破線は、予想される症候発症時点であり、緑色の線は、各p-タウアイソフォームの変化率が、非保持者よりも変異保持者の方で大きくなった場合のモデル推定時間を表す。
図17B】異なるリン酸化タウ部位の長期的変化が、疾患特異的な段階でありADが進行するにつれて反対方向に変化することを示す。(図17A)p-T217、(図17B)p-T181、(図17C)タウ総量、(図17D)p-T205、及び(図17E)p-S202のリン酸化比の個別、z変換、長期的変化を、変異保持者(黒色=無症候性変異保持者、(n=152)、赤色=症候性変異保持者(77))、及び非保持者(青色、(n=141))について、症候発生までの推定年数(EYO)にわたり示す。垂直の破線は、予想される症候発症時点であり、緑色の線は、各p-タウアイソフォームの変化率が、非保持者よりも変異保持者の方で大きくなった場合のモデル推定時間を表す。
図17C】異なるリン酸化タウ部位の長期的変化が、疾患特異的な段階でありADが進行するにつれて反対方向に変化することを示す。(図17A)p-T217、(図17B)p-T181、(図17C)タウ総量、(図17D)p-T205、及び(図17E)p-S202のリン酸化比の個別、z変換、長期的変化を、変異保持者(黒色=無症候性変異保持者、(n=152)、赤色=症候性変異保持者(77))、及び非保持者(青色、(n=141))について、症候発生までの推定年数(EYO)にわたり示す。垂直の破線は、予想される症候発症時点であり、緑色の線は、各p-タウアイソフォームの変化率が、非保持者よりも変異保持者の方で大きくなった場合のモデル推定時間を表す。
図17D】異なるリン酸化タウ部位の長期的変化が、疾患特異的な段階でありADが進行するにつれて反対方向に変化することを示す。(図17A)p-T217、(図17B)p-T181、(図17C)タウ総量、(図17D)p-T205、及び(図17E)p-S202のリン酸化比の個別、z変換、長期的変化を、変異保持者(黒色=無症候性変異保持者、(n=152)、赤色=症候性変異保持者(77))、及び非保持者(青色、(n=141))について、症候発生までの推定年数(EYO)にわたり示す。垂直の破線は、予想される症候発症時点であり、緑色の線は、各p-タウアイソフォームの変化率が、非保持者よりも変異保持者の方で大きくなった場合のモデル推定時間を表す。
図17E】異なるリン酸化タウ部位の長期的変化が、疾患特異的な段階でありADが進行するにつれて反対方向に変化することを示す。(図17A)p-T217、(図17B)p-T181、(図17C)タウ総量、(図17D)p-T205、及び(図17E)p-S202のリン酸化比の個別、z変換、長期的変化を、変異保持者(黒色=無症候性変異保持者、(n=152)、赤色=症候性変異保持者(77))、及び非保持者(青色、(n=141))について、症候発生までの推定年数(EYO)にわたり示す。垂直の破線は、予想される症候発症時点であり、緑色の線は、各p-タウアイソフォームの変化率が、非保持者よりも変異保持者の方で大きくなった場合のモデル推定時間を表す。
図17F】異なるリン酸化タウ部位の長期的変化が、疾患特異的な段階でありADが進行するにつれて反対方向に変化することを示す。各リン酸化部位についてのモデル推定長期変化率であり、非保持者の変化率に対して標準化されており、アミロイドPET(赤色)及び認知低下(黄色)と併せてEYOにわたりプロットされている;塗潰し円は、各変数について非保持者に対して保持者の変化率が最初に異なった時点を表す。これは、ADスペクトルの過程にわたるp-タウアイソフォームについての変化パターン及びアミロイドプラークの成長とp-T217における増加との間の密接な関連性を強調し、プラークは、-21EYOで増加を開始し、p-T217(黒色)の高リン酸化は-21EYOで開始し、これら2つの部位でのリン酸化率の減少は、認知の低下(黄色線)を伴う。対照的に、p-T205(紫色)は疾患の進行全体を通じて増加を続け、タウ総量レベル(灰色)は症候発症時点の近辺では増加率が上昇する。
図18A】リン酸化タウ部位が、脳の代謝低下及び萎縮と異なって関連することを示す。無症候性変異保持者(n=152)における皮質及び皮質下の萎縮と部位特異的リン酸化比の間の二変量相関は、p-T205及びp-T217のリン酸化の増加を実証し、p-T181については、関連はそれより小さい。タウ総量レベルは、複数の皮質及び皮質下領域においてより多くの萎縮と関連する。
図18B】リン酸化タウ部位が、脳の代謝低下及び萎縮と異なって関連することを示す。無症候性変異保持者(n=143)におけるFDG-PETにより測定した皮質及び皮質下の脳代謝と部位特異的リン酸化比の間の二変量相関は、p-T205のリン酸化の増加がほとんどの皮質及び皮質下領域の減少と関連するが、他のp-タウ部位またはタウについてはそうではないことを実証する。
図19A】p-T217、p-T181、及びp-T205でのリン酸化の減少が、認知症及び認知低下と関連することを示す。変異保持者について、p-タウアイソフォーム及びタウ総量の個別推定年次変化率(y軸)は、全般的な認知機能の年次変化と相関していた。直線は、単純線形回帰を表し、網掛け部分は、95%信頼区間を表す。各点は、測定間の個別レベル相関を表す。線形回帰は、認知症なし(黒色、n=47)及び認知症あり(赤色、n=25)に対して当てはめを行なった。p-T217(図19A)、r=0.43(p=0.02)、p-T181(図19B)、r=0.72(p<.001)、及びp-T205(図19C)、r=0.41(p=0.03)におけるリン酸化率の低下は、症候発症後の認知低下と関連した(赤色)。タウ総量については、認知との逆相関を示唆する傾向が存在したが(図19D)、これは有意ではなかった。
図19B】p-T217、p-T181、及びp-T205でのリン酸化の減少が、認知症及び認知低下と関連することを示す。変異保持者について、p-タウアイソフォーム及びタウ総量の個別推定年次変化率(y軸)は、全般的な認知機能の年次変化と相関していた。直線は、単純線形回帰を表し、網掛け部分は、95%信頼区間を表す。各点は、測定間の個別レベル相関を表す。線形回帰は、認知症なし(黒色、n=47)及び認知症あり(赤色、n=25)に対して当てはめを行なった。p-T217(図19A)、r=0.43(p=0.02)、p-T181(図19B)、r=0.72(p<.001)、及びp-T205(図19C)、r=0.41(p=0.03)におけるリン酸化率の低下は、症候発症後の認知低下と関連した(赤色)。タウ総量については、認知との逆相関を示唆する傾向が存在したが(図19D)、これは有意ではなかった。
図19C】p-T217、p-T181、及びp-T205でのリン酸化の減少が、認知症及び認知低下と関連することを示す。変異保持者について、p-タウアイソフォーム及びタウ総量の個別推定年次変化率(y軸)は、全般的な認知機能の年次変化と相関していた。直線は、単純線形回帰を表し、網掛け部分は、95%信頼区間を表す。各点は、測定間の個別レベル相関を表す。線形回帰は、認知症なし(黒色、n=47)及び認知症あり(赤色、n=25)に対して当てはめを行なった。p-T217(図19A)、r=0.43(p=0.02)、p-T181(図19B)、r=0.72(p<.001)、及びp-T205(図19C)、r=0.41(p=0.03)におけるリン酸化率の低下は、症候発症後の認知低下と関連した(赤色)。タウ総量については、認知との逆相関を示唆する傾向が存在したが(図19D)、これは有意ではなかった。
図19D】p-T217、p-T181、及びp-T205でのリン酸化の減少が、認知症及び認知低下と関連することを示す。変異保持者について、p-タウアイソフォーム及びタウ総量の個別推定年次変化率(y軸)は、全般的な認知機能の年次変化と相関していた。直線は、単純線形回帰を表し、網掛け部分は、95%信頼区間を表す。各点は、測定間の個別レベル相関を表す。線形回帰は、認知症なし(黒色、n=47)及び認知症あり(赤色、n=25)に対して当てはめを行なった。p-T217(図19A)、r=0.43(p=0.02)、p-T181(図19B)、r=0.72(p<.001)、及びp-T205(図19C)、r=0.41(p=0.03)におけるリン酸化率の低下は、症候発症後の認知低下と関連した(赤色)。タウ総量については、認知との逆相関を示唆する傾向が存在したが(図19D)、これは有意ではなかった。
図20】タウPETが、DIAD変異保持者において症候発症近辺で増加することを示す。変異保持者(赤色、n=12)及び非保持者(青色、n=9)についての皮質標準化単位値比(SUVR)の平均を、y軸、これらの被験者の症候発症までの推定年数(EYO)を、x軸に取り、タウPETの時点に先行して長期的CSF評価を行う。プロットは、変異保持者について、推定症候発症時点(EYO=0)まで、タウPETの上昇はほとんどないことを示す。この図は、AV-1451により検出される神経原線維変化(NFT)病態が、複数の可溶性ホスホタウ部位の増加よりかなり遅れて生じることを示し、これらの可溶性タウマーカーが、NFT病態のマーカーらしく見えるものの、どちらかといえば、AD病態に特徴的な過剰リン酸化不溶性タウ沈着の発生の素因である可能性を示唆する。
図21A】タウ及びタウリン酸化部位における長期的変化が、優性遺伝性ADにおける神経原線維タウ(タウPET)と異なって関連することを示す。リン酸化及びタウ総量の個別推定変化率(y軸)をタウ-PETスキャンの時間(x軸)に対して示す。垂直線は、1.22というSUVRであり、NFTタウPET(複数の皮質及び辺縁領域の合成)が、非保持者に比べて上昇したとみなされる時点の控えめな推定を表す。プロットは、可溶性タウ及びp-T205の増加が、凝集タウのレベルの高さと関連し、一方で、p-T217及びp-T181でのリン酸化率は、凝集タウのレベルが上昇するにつれて低下することを示唆する。これらの知見は、部位が異なればタウ及びリン酸化のレベルの上昇も異なることを示し、場合によっては、過剰リン酸化凝集体の負荷がタウ病態の拡散とともに増大することで可溶性p-タウが隔絶されることを示す可能性がある。これらは、凝集タウの増加とともに、可溶性タウレベルも上昇し、このレベルは、凝集タウ病態の負荷がより重くなることと併せて受動的または能動的放出のいずれかを表す可能性があることも示唆する。
図21B】タウ及びタウリン酸化部位における長期的変化が、優性遺伝性ADにおける神経原線維タウ(タウPET)と異なって関連することを示す。リン酸化及びタウ総量の個別推定変化率(y軸)をタウ-PETスキャンの時間(x軸)に対して示す。垂直線は、1.22というSUVRであり、NFTタウPET(複数の皮質及び辺縁領域の合成)が、非保持者に比べて上昇したとみなされる時点の控えめな推定を表す。プロットは、可溶性タウ及びp-T205の増加が、凝集タウのレベルの高さと関連し、一方で、p-T217及びp-T181でのリン酸化率は、凝集タウのレベルが上昇するにつれて低下することを示唆する。これらの知見は、部位が異なればタウ及びリン酸化のレベルの上昇も異なることを示し、場合によっては、過剰リン酸化凝集体の負荷がタウ病態の拡散とともに増大することで可溶性p-タウが隔絶されることを示す可能性がある。これらは、凝集タウの増加とともに、可溶性タウレベルも上昇し、このレベルは、凝集タウ病態の負荷がより重くなることと併せて受動的または能動的放出のいずれかを表す可能性があることも示唆する。
図21C】タウ及びタウリン酸化部位における長期的変化が、優性遺伝性ADにおける神経原線維タウ(タウPET)と異なって関連することを示す。リン酸化及びタウ総量の個別推定変化率(y軸)をタウ-PETスキャンの時間(x軸)に対して示す。垂直線は、1.22というSUVRであり、NFTタウPET(複数の皮質及び辺縁領域の合成)が、非保持者に比べて上昇したとみなされる時点の控えめな推定を表す。プロットは、可溶性タウ及びp-T205の増加が、凝集タウのレベルの高さと関連し、一方で、p-T217及びp-T181でのリン酸化率は、凝集タウのレベルが上昇するにつれて低下することを示唆する。これらの知見は、部位が異なればタウ及びリン酸化のレベルの上昇も異なることを示し、場合によっては、過剰リン酸化凝集体の負荷がタウ病態の拡散とともに増大することで可溶性p-タウが隔絶されることを示す可能性がある。これらは、凝集タウの増加とともに、可溶性タウレベルも上昇し、このレベルは、凝集タウ病態の負荷がより重くなることと併せて受動的または能動的放出のいずれかを表す可能性があることも示唆する。
図21D】タウ及びタウリン酸化部位における長期的変化が、優性遺伝性ADにおける神経原線維タウ(タウPET)と異なって関連することを示す。リン酸化及びタウ総量の個別推定変化率(y軸)をタウ-PETスキャンの時間(x軸)に対して示す。垂直線は、1.22というSUVRであり、NFTタウPET(複数の皮質及び辺縁領域の合成)が、非保持者に比べて上昇したとみなされる時点の控えめな推定を表す。プロットは、可溶性タウ及びp-T205の増加が、凝集タウのレベルの高さと関連し、一方で、p-T217及びp-T181でのリン酸化率は、凝集タウのレベルが上昇するにつれて低下することを示唆する。これらの知見は、部位が異なればタウ及びリン酸化のレベルの上昇も異なることを示し、場合によっては、過剰リン酸化凝集体の負荷がタウ病態の拡散とともに増大することで可溶性p-タウが隔絶されることを示す可能性がある。これらは、凝集タウの増加とともに、可溶性タウレベルも上昇し、このレベルは、凝集タウ病態の負荷がより重くなることと併せて受動的または能動的放出のいずれかを表す可能性があることも示唆する。
図21E】タウ及びタウリン酸化部位における長期的変化が、優性遺伝性ADにおける神経原線維タウ(タウPET)と異なって関連することを示す。リン酸化及びタウ総量の個別推定変化率(y軸)をタウ-PETスキャンの時間(x軸)に対して示す。垂直線は、1.22というSUVRであり、NFTタウPET(複数の皮質及び辺縁領域の合成)が、非保持者に比べて上昇したとみなされる時点の控えめな推定を表す。プロットは、可溶性タウ及びp-T205の増加が、凝集タウのレベルの高さと関連し、一方で、p-T217及びp-T181でのリン酸化率は、凝集タウのレベルが上昇するにつれて低下することを示唆する。これらの知見は、部位が異なればタウ及びリン酸化のレベルの上昇も異なることを示し、場合によっては、過剰リン酸化凝集体の負荷がタウ病態の拡散とともに増大することで可溶性p-タウが隔絶されることを示す可能性がある。これらは、凝集タウの増加とともに、可溶性タウレベルも上昇し、このレベルは、凝集タウ病態の負荷がより重くなることと併せて受動的または能動的放出のいずれかを表す可能性があることも示唆する。
図22】アルツハイマー病において、タウ病態が各異なる段階を通じて発展することを示す図である。決定論的アルツハイマー病変異を有する被験者の群において異なる可溶性タウ種4種及び不溶性タウを測定することにより、本発明者らは、35年の過程(x軸)にわたり、疾患の段階及び他の測定可能なバイオマーカーに基づいて、タウ関連変化が進展(y軸)及び異なっていくことを示す。A.始まりは線維性アミロイド病態の発生であり、位置217(紫色)及び181(青色)でのリン酸化が増加し始める。B.神経機能障害(代謝変化に基づく)の増加とともに、位置205(緑色)でのリン酸化が可溶性タウ(橙色)と併せて増加し始める。C.最後に、神経変性(脳萎縮及び認知低下に基づく)の発症とともに、タウPETタングル(赤色)が発生し始める一方で、217及び181でのリン酸化は減少し始める。合わせると、これは、疾患の過程にわたる可溶性及び凝集タウの動的な多岐にわたるパターンならびにアミロイド病態との密接な関連性を強調する。
図23A】CSF中のリン酸化タウアイソフォームの定量を示す。CSF中のタウリン酸化ペプチド及び対応する未修飾ペプチドの並列反応モニタリング(PRM)分析から得られた抽出イオンクロマトグラムの合計である。microLCシステムを用いたT181モニタリングである。Cps=1秒あたりのカウント数。
図23B】CSF中のリン酸化タウアイソフォームの定量を示す。CSF中のタウリン酸化ペプチド及び対応する未修飾ペプチドの並列反応モニタリング(PRM)分析から得られた抽出イオンクロマトグラムの合計である。nanoLCシステムを用いたS199、S202、T205(枠内シグナルと同時溶出)、及びT217モニタリングである。内在シグナル(青色実線)、15N標識ペプチド(赤色点線)、AQUAペプチド(緑色点線)。Cps=1秒あたりのカウント数。
図23C】CSF中のリン酸化タウアイソフォームの定量を示す。CSF中のタウリン酸化ペプチド及び対応する未修飾ペプチドの並列反応モニタリング(PRM)分析から得られた抽出イオンクロマトグラムの合計である。特異的なPRM遷移を示しており、ペプチド断片のBiemann命名法に従っており、これにより、pS199、pS202、またはpT205を保有する3種の同時溶出したモノリン酸化ペプチドの同定が可能であった。Cps=1秒あたりのカウント数。
図24A】T217でのCSFタウリン酸化がアミロイドーシス状態と関連することを示す。認知低下がないまたは軽度であるアミロイド陰性対照に比べて、アミロイドーシスを有する(PiB-PET及びCSFのAβ42/40比が陽性)被験者において、T217リン酸化が有意に増加する。
図24B】T217でのCSFタウリン酸化がアミロイドーシス状態と関連することを示す。MSによるT217、T181のリン酸化率及びELISAによるT181リン酸化率を用いて、アミロイド陰性被験者とは分けてアミロイド陽性被験者を診断するためのROC曲線。
図24C】T217でのCSFタウリン酸化がアミロイドーシス状態と関連することを示す。pT217/T217比の比較は、アミロイドーシスを有する被験者におけるT217での特異的リン酸化を実証する。
図24D】T217でのCSFタウリン酸化がアミロイドーシス状態と関連することを示す。図24D~E:MSにより測定したT217リン酸化とCSFのAβ42/40変化との比較、及びPiB-PETにより測定したアミロイドプラーク沈着との比較。T217高リン酸化の程度は、CSFのAβ40に対するAβ42の減少と相関しない。5つの矛盾する事例(橙色三角、PiB-PET及びT217高リン酸化は陽性だがCSFのAβは陰性)は全て、アミロイド状態を定義するために選択した閾値0.12よりわずかに高かったことから、これらはCSFアミロイドアッセイの感度不十分に起因する可能性が示唆される。
図24E】T217でのCSFタウリン酸化がアミロイドーシス状態と関連することを示す。図24D~E:MSにより測定したT217リン酸化とCSFのAβ42/40変化との比較、及びPiB-PETにより測定したアミロイドプラーク沈着との比較。PiB-PET負荷量(FBP全皮質平均)は、アミロイド陽性被験者におけるT217リン酸化状態と相関している。PiBによるアミロイド陽性をアミロイド陰性と区別するカットオフ値は0.18である。
図25】T217でのCSFタウリン酸化が、認知状態とは無関係であり、発症前ADにおいて有意に修飾されていることを示す。左パネル:T217リン酸化と臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB)により測定した認知プロファイルの間に相関性は存在しない。右パネル:認知低下のない(CDR-SB=0)被験者のうち、アミロイド陽性群では、T217がすでに有意に高リン酸化している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
中枢神経系においてタウタンパク質が凝集して神経原線維変化になることは、アルツハイマー病(AD)をはじめとするある特定の神経変性疾患の一因となっている。タウ不安定化の機構はまだ完全には解明されていないものの、タウ凝集においてタウタンパク質が過剰リン酸化されることがわかっている。本出願人らは、特定アミノ酸残基でのタウリン酸化を定量するある特定の方法を使用することで、AD過程を、その臨床上無症候段階から症候段階まで縦断して追跡することが可能であることを発見した。図22は、本出願人らの方法により作成された、ADによるMCIの発症までの年数及びある特定の病態生理学的変化に関する、T181、T205、及びT217で測定可能なタウリン酸化の動的パターンを示す。本開示は、特定アミノ酸残基でのタウリン酸化を定量する方法を用いることによる、アルツハイマー病による軽度認知障害の発症までの時間の予測、治療の決定の誘導、臨床試験の対象の選択、及びある特定の治療介入の臨床効果の評価を行う方法を包含する。本発明の他の態様及び反復を、以下でより詳しく説明する。
【0017】
I.定義
本発明を、より容易に理解できるように、ある特定の用語を最初に定義する。特に定義されない限り、本明細書中使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の実施形態が属する分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中記載されるものと同様な、修飾された、または等価な多くの方法及び材料が、過度の実験を行うことなく、本発明の実施形態の実施に使用可能であるが、好適な材料及び方法を、本明細書中記載する。本発明の実施形態の説明及び特許請求において、以下の用語を、以下に記載される定義に従って使用する。
【0018】
「約」という用語は、本明細書中使用される場合、任意の定量可能な変数に関して起こり得る数量の変動、例えば、典型的な測定技法及び装置を通じて起こり得るものを示し、変数として、質量、体積、時間、距離、及び量が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、実世界で使用される固体及び液体の取り扱い手順を考慮すると、組成物の作成または方法の実行などに使用された製造、原料、または成分純度における違いによると思われるある特定の故意ではない誤り及び変動が存在する。「約」という用語は、これらの変動も包含し、変動は、最大で±5%になることが可能であるが、±4%、3%、2%、1%などであることも可能である。「約」という用語により修飾されているか否かに関わらず、特許請求の範囲は、記載される量の等価物を包含する。
【0019】
抗体は、本明細書中使用される場合、当該分野で理解されるとおりの完全抗体、すなわち、2本の重鎖及び2本の軽鎖からなるものであることも、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子であることも可能であり、抗体様分子として、抗体断片、例えば、Fab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体、Fv、及び一本鎖Fvが挙げられるが、これらに限定されない。抗体という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、及びヒト化抗体も示す。様々な抗体系構築物及び断片の調製及び使用の技法は、当該分野で周知である。抗体の調製及びキャラクタライズの手段も、当該分野で周知である(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照;これはそのまま全体が本明細書中参照として援用される)。
【0020】
本明細書中使用される場合、「アプタマー」という用語は、生化学活性、分子認識、または結合特性に関して有用な生物活性を有するポリヌクレオチドを示し、一般的にはRNAまたはDNAである。通常、アプタマーは、特定エピトープ(領域)で標的分子に結合するなどの分子活性を有する。ポリペプチドへの結合において特異的であるアプタマーは、合成されたもの、及び/またはin vitro進化法により同定されたものであってもよいことが、一般に受け入れられている。アプタマーの調製及びキャラクタライズの手段は、in vitro進化法によるものも含めて、当該分野で周知である。例えば、US7,939,313を参照、これはそのまま全体が本明細書中参照として援用される。
【0021】
「Aβ」という用語は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる巨大なタンパク質のカルボキシ末端の領域に由来するペプチドを示す。APPをコードする遺伝子は、21番染色体に存在する。毒性効果を有する可能性があるAβの形態は多数存在する:Aβペプチドは、典型的には、37~43アミノ酸配列長であるが、それらの全長を変化させるトランケーション及び修飾を受けている可能性がある。Aβペプチドは、可溶性及び不溶性コンパートメント中で、単量体型、オリゴマー型、または凝集型で、細胞内または細胞外に見られる可能性があり、他のタンパク質または分子と複合体形成することができる。Aβの有害または毒性効果は、上記のありとあらゆる形態、ならびに具体的に記載されない他のものに起因する可能性がある。例えば、2種のそのようなAβアイソフォームとして、Aβ40及びAβ42が挙げられる;Aβ42アイソフォームは、特に原線維形成性または不溶性であり、疾患状態と関連する。「Aβ」という用語は、典型的には、複数のAβ種を示し、個々のAβ種を区別しない。特定のAβ種は、ペプチドの大きさにより同定され、例えば、Aβ42、Aβ40、Aβ38などである。
【0022】
本明細書中使用される場合、「Aβ42/Aβ40値」という用語は、対象から得られた試料中のAβ40濃度に対する、同試料中のAβ42濃度の比を意味する。
【0023】
「Aβアミロイドーシス」は、臨床的には、脳中のAβ沈着のエビデンスと定義される。Aβアミロイドーシスを有することが臨床上確定した対象は、本明細書中、「アミロイド陽性」と称され、一方βアミロイドーシスを有さないことが臨床上確定した対象は、「アミロイド陰性」と称される。「Aβアミロイドーシス」は、現行技法により検出可能になる前から存在するようである。それにもかかわらず、Aβアミロイドーシスの指標として当該分野で認められているものが存在する。本開示の時点では、Aβアミロイドーシスは、典型的には、アミロイドイメージング(例えば、PiB PET、フロルベタピル、または当該分野で既知である他の撮像法)により、または脳脊髄液(CSF)中のAβ42減少もしくはCSFのAβ42/40比の低下により同定される。平均皮質結合能(MCBP)スコアが>0.18である[11C]PIB-PET画像法は、免疫沈降及び質量分析法(IP/MS)による脳脊髄液(CSF)Aβ42濃度が約1ng/mlであることから、Aβアミロイドーシスの指標である。これらの値、または当該分野で既知である他の値を、単独でまたは組み合わせて用いることで、Aβアミロイドーシスを臨床上確定させることができる。例えば、Klunk W E et al. Ann Neurol 55(3) 2004, Fagan A M et al. Ann Neurol, 2006, 59(3), Patterson et. al, Annals of Neurology, 2015, 78(3): 439-453、またはJohnson et al., J. Nuc. Med., 2013, 54(7): 1011-1013を参照、これらはそれぞれ、そのまま全体が本明細書により参照として援用される。Aβアミロイドーシスを有する対象は、症候性である場合もそうでない場合もあり、症候性の対象は、Aβアミロイドーシスと関連した疾患についての臨床基準を満たす場合も満たさない場合もある。Aβアミロイドーシスと関連した症候の限定ではなく例として、認知機能障害、行動変化、言語機能異常、情動制御不全、てんかん発作、認知症、及び神経系構造または機能の障害を挙げることができる。Aβアミロイドーシスと関連した疾患として、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管症、レビー小体認知症、及び封入体筋炎が挙げられるが、これらに限定されない。Aβアミロイドーシスを有する対象は、Aβアミロイドーシスと関連した疾患を発症するリスクが高い。
【0024】
「Aβアミロイドーシスの臨床兆候」とは、当該分野で既知であるAβ沈着の尺度を示す。Aβアミロイドーシスの臨床兆候として、アミロイドイメージング(例えば、PiB PET、フロルベタピル、または当該分野で既知である他の撮像法)により、または脳脊髄液(CSF)中のAβ42減少もしくはAβ42/40比の低下により同定されるAβ沈着を挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、Klunk WE et al. Ann Neurol 55(3) 2004、及びFagan AM et al. Ann Neurol 59(3) 2006を参照、これらはそれぞれ、そのまま全体が本明細書により参照として援用される。Aβアミロイドーシスの臨床兆候として、Aβ代謝測定、詳細にはAβ42代謝単独での測定または他のAβ異型(例えばAβ37、Aβ38、Aβ39、Aβ40、及び/または全Aβ)の代謝の測定との比較も挙げることができ、そのような測定は、米国特許シリアル番号第14/366,831号、第14/523,148号、及び第14/747,453号に記載されるとおりであり、これらはそれぞれ、そのまま全体が本明細書により参照として援用される。さらなる方法が、Albert et al. Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol.7, pp.170-179;McKhann et al., Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol.7, pp.263-269;及びSperling et al. Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol.7, pp.280-292に記載されており、これらはそれぞれ、そのまま全体が本明細書により参照として援用される。重要なことは、Aβアミロイドーシスの臨床兆候を有する対象は、Aβ沈着と関連した症候を有する場合も有さない場合もあることである。とはいえ、Aβアミロイドーシスの臨床兆候を有する対象は、Aβアミロイドーシスと関連した疾患を発症するリスクが高い。
【0025】
「アミロイドイメージングの候補」とは、アミロイドイメージングが臨床上正当である可能性がある個体であると臨床医により同定された対象を示す。限定ではなく例として、アミロイドイメージングの候補は、Aβアミロイドーシスの臨床兆候を1つまたは複数、Aβプラーク関連症候を1つまたは複数、あるいはCAA関連症候を1つまたは複数、あるいはそれらの組み合わせを持つ対象の場合がある。臨床医は、そのような対象の臨床ケアを指示するためにそのような対象に対してアミロイドイメージングを推奨する場合がある。別の限定ではなく例として、アミロイドイメージングの候補は、Aβアミロイドーシスと関連した疾患の臨床試験の被験者候補(対照群または試験群いずれかの対象)の場合がある。
【0026】
「Aβプラーク関連症候」または「CAA関連症候」は、それぞれ、アミロイド線維と呼ばれる規則的に配列した線維性凝集体で構成されたアミロイドプラークまたはCAAの形成により引き起こされた、あるいはそれに関連した任意の症候を示す。Aβプラーク関連症候の例として、ニューロン変性、認知機能障害、記憶障害、行動変化、情動制御不全、てんかん発作、神経系構造または機能の障害、及びアルツハイマー病もしくはCAAの発症または悪化のリスク上昇を挙げることができるが、これらに限定されない。ニューロン変性として、ニューロンの構造変化(毒性タンパク質、タンパク質凝集体などの細胞内蓄積などの分子変化、及び軸索もしくは樹状突起の形状または長さの変化、ミエリン鞘組成の変化、ミエリン鞘の喪失などマクロレベルでの変化を含む)、ニューロンの機能変化、ニューロンの機能消失、ニューロン死、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。認知機能障害として、記憶、注意力、集中、言語、抽象的思考、創造力、実行機能、計画、及び整理の困難が挙げられるが、これらに限定されない。行動変化として、乱暴な動作または言葉、衝動性、抑制性の低下、無関心、開始の減少、人格の変化、アルコール、タバコ、または薬物の乱用、及び他の中毒関連挙動を挙げることができるが、これらに限定されない。情動制御不全として、抑うつ、不安、狂躁、易刺激性、及び感情失禁を挙げることができるが、これらに限定されない。てんかん発作として、全身性強直間代発作、複雑部分発作、及び非てんかん性、心因性てんかん発作を挙げることができるが、これらに限定されない。神経系構造または機能の障害として、水頭症、パーキンソニズム、睡眠障害、精神病、バランス及び協調の障害を挙げることができるが、これらに限定されない。この障害として、運動障害、例えば、不全単麻痺、不全片麻痺、四肢不全麻痺、運動失調、バリズム、及び振戦を挙げることができる。この障害として、嗅覚、触覚、味覚、視覚、及び聴覚を含む感覚の消失または機能障害も挙げることができる。そのうえさらに、この障害として、自律神経系障害、例えば、腸及び膀胱の機能障害、性機能障害、血圧及び体温の調節不全などを挙げることができる。最後に、この障害として、視床下部及び脳下垂体の機能障害に起因するホルモン性障害、例えば、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン、ゴナドトロピン放出ホルモン、プロラクチン、その他多数のホルモン及び修飾因子の欠乏ならびに調節不全を挙げることができる。
【0027】
本明細書中使用される場合、「対象」という用語は、哺乳類、好ましくはヒトを示す。哺乳類として、ヒト、霊長類、家畜、齧歯類、及びペットが挙げられるが、これらに限定されない。対象は、医療ケアまたは治療を待っている場合があり、医療ケアまたは治療を受けている場合があり、あるいは医療ケアまたは治療を受けたことがある場合がある。
【0028】
本明細書中使用される場合、「健康な対照群」、「正常群」、または「健康な」対照由来の試料という用語は、定性的または定量的検査結果に基づき、臨床医により、Aβアミロイドーシス、またはAβアミロイドーシスと関連した臨床疾患(アルツハイマー病を含むがこれに限定されない)を罹患していないと診断された、対象または対象の群を意味する。「正常」対象は、通常、評価対象の個体と年齢がほぼ同じであり、そのような対象として対象と同じ年齢の対象及び年齢差が5~10年の範囲内の対象が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書中使用される場合、「血液試料」という用語は、血液、好ましくは抹消(または循環)血液由来の生体試料を示す。血液試料は、全血、血漿、または血清であることが可能であるが、血漿が典型的には好適である。
【0030】
「アイソフォーム」という用語は、本明細書中使用される場合、同一タンパク質変異体の複数の異なる形態のいずれかを示し、タンパク質をコードするmRNAの選択的スプライシング、タンパク質の翻訳後修飾、タンパク質のタンパク質分解性プロセシング、遺伝的変異、及び体細胞組換えにより生じる。「アイソフォーム」及び「変異体」という用語は、同義で使用される。
【0031】
本明細書中特に記載がない限り、「タウタンパク質」または「タウ」という用語は、全長、トランケーション型、または翻訳後修飾型を問わず、全てのタウアイソフォームを包含する。ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類、魚類、ウシ、カエル、ヤギ、及びニワトリをはじめとする多くの動物において、これらに限定されるものではないが、タウは、遺伝子MAPTによりコードされる。ヒトでは、MAPTのエクソン2、3、及び10の選択的スプライシングにより発生する6種のタウアイソフォームが存在する。これらのアイソフォームは、長さが352~441アミノ酸の範囲にわたる。エクソン2及び3は、それぞれN末端における29アミノ酸挿入断片(Nと称する)をコードし、全長ヒトタウアイソフォームは、両方の挿入断片を有する(2N)、1つの挿入断片を有する(1N)、または挿入断片を有さないことが可能である。全ての全長ヒトタウアイソフォームは、微小管結合ドメインの3回反復配列(Rと称する)も有する。C末端にエクソン10を含む場合、エクソン10によりコードされた4番目の微小管結合ドメインが含まれることになる。したがって、全長ヒトタウアイソフォームは、微小管結合ドメインの4回反復配列(エクソン10が含まれる)を含む、または微小管結合ドメインの3回反復配列(エクソン10が含まれない)を含むことが可能である。ヒトタウは、翻訳後修飾されている場合もされていない場合もある。例えば、タウが、リン酸化、ユビキチン化、グリコシル化、及び糖化される可能性があることは、当該分野で既知である。したがって、「ヒトタウ」という用語は、(2N、3R)、(2N、4R)、(1N、3R)、(1N、4R)、(0N、3R)、及び(0N、4R)アイソフォーム、それらのN及び/またはC末端トランケーション型種であるアイソフォーム、ならびに全ての翻訳後修飾型アイソフォームを包含する。タウをコードする遺伝子の選択的スプライシングは、他の動物でも同様に起こる。遺伝子がMAPTとして同定されていない動物では、相同体が当該分野で周知である方法により同定される可能性がある。
【0032】
脳におけるタウ沈着と関連した疾患は、「タウオパチー」と称することができる。当該分野で既知であるタウオパチーとして、進行性核上麻痺、ボクサー認知症、慢性外傷性脳障害、染色体17に関連した前頭側頭葉型認知症及びパーキンソニズム、Lytico-Bodig病、グアムのパーキンソン認知症複合、タングル優位型認知症、神経節細胞膠種及び神経節細胞腫、髄膜血管腫症、亜急性硬化性全脳炎、鉛脳症、結節性硬化症、Hallervorden-Spatz病、リポフスチン沈着症、ピック病、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒病(AGD)、前頭側頭葉変性症、アルツハイマー病、及び前頭側頭葉型認知症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
「平均から有意に逸脱している」は、少なくとも1標準偏差分、好ましくは少なくとも1.3標準偏差分、より好ましくは少なくとも1.5標準偏差分、またはさらにより好ましくは少なくとも2標準偏差分、平均より高いまたは低い値を示す。
【0034】
「Aβ及びタウ治療薬」という語句は、AβアミロイドーシスまたはADを発症するリスクがある対象、Aβアミロイドーシスを有すると診断された対象、タウオパチーを有すると診断された対象、またはADを有すると診断された対象用であることを意図した、あるいはそのような対象で用いられる、任意の造影剤または治療薬を集合的に示す。
【0035】
II.単離タウ試料でのタウ総量及びタウリン酸化の測定
本開示の方法は、対象から得られた単離タウ試料を用意すること、及び1つまたは複数のアミノ酸残基でタウリン酸化を測定し、及び任意選択でタウ総量を測定することを含む。
【0036】
(a)単離タウ試料
単離タウ試料は、本明細書中使用される場合、タウを含む組成物を示し、タウは、対象から得られた血液または脳脊髄液(CSF)から精製されたものである。対象は、哺乳類、好ましくはヒトである。CSFは、留置CSFカテーテルを用いてまたは用いずに腰椎穿刺により得ることができる。対象から同時に収集された複数の血液またはCSF試料をプールすることができる。血液は、静脈内カテーテルを用いてまたは用いずに静脈穿刺により、あるいは指先穿刺(またはそれらの等価物)により収集することができる。いったん収集したら、血液またはCSF試料は、当該分野で既知である方法により処理することができる(例えば、全細胞及び細胞片を除去するための遠心、分析検査前の検体を安定化及び保存するように設計された添加剤の使用など)。血液またはCSF試料は、直ちに使用される場合もあれば、無期限に凍結貯蔵される場合もある。
【0037】
本開示の単離タウ試料では、タウは、血液またはCSFから部分的または完全にのいずれかで精製されている。血液またはCSFからタウを精製する方法は、当該分野で既知であり、そのような方法として、選択的沈殿、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及びアフィニティー精製が挙げられるが、これらに限定されない。適切な方法により、血液またはCSFからリン酸化タウ及び非リン酸化タウの両方を濃縮する。
【0038】
例示の実施形態において、本開示の単離タウ試料は、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含む。アフィニティー精製は、固定リガンドに対する関心対象のタンパク質の特異的結合性質により、その関心対象のタンパク質を精製する方法を示す。典型的には、固定リガンドは、固体支持体、例えば、ビーズ、樹脂、組織培養プレートなどに結合させたリガンドである。適切なリガンドは、リン酸化タウ及び非リン酸化タウの両方と特異的に結合する。1つの例において、適切なリガンドは、タウのミッドドメイン内のエピトープと結合することができる。別の例において、適切なリガンドは、タウのN末端内、好ましくはタウの1番~35番アミノ酸のエピトープと結合することができる。別の例において、適切なリガンドは、タウのMTBR内のエピトープと結合することができる。別の例において、適切なリガンドは、タウのC末端内のエピトープと結合することができる。なおさらなる実施形態において、タウは、2種以上の固定リガンドを用いて血液またはCSFからアフィニティー精製することができる。1つの例において、ある固定リガンドは、タウのN末端内のエピトープと結合し、別の固定リガンドは、タウのミッドドメイン内のエピトープと結合する。別の例において、ある固定リガンドは、タウのMTBR内のエピトープと結合し、別の固定リガンドは、タウのミッドドメイン内のエピトープと結合する。別の例において、ある固定リガンドは、タウのC末端内のエピトープと結合し、別の固定リガンドは、タウのミッドドメイン内のエピトープと結合する。別の例において、ある固定リガンドは、タウのC末端内のエピトープと結合し、別の固定リガンドは、タウのN末端内のエピトープと結合する。別の例において、ある固定リガンドは、タウのMTBR内のエピトープと結合し、別の固定リガンドは、タウのN末端内のエピトープと結合する。別の例において、ある固定リガンドは、タウのMTBR内のエピトープと結合し、別の固定リガンドは、タウのC末端内のエピトープと結合する。上記実施形態のそれぞれにおいて、リガンドは、抗体またはアプタマーである場合がある。適切な抗体の限定ではなく例を、図1に示す。
【0039】
単離タウ試料は、直ちに使用される場合もあれば、当該分野で既知である方法により無期限に貯蔵される場合もある。
【0040】
(b)1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化
タウ中の特定アミノ酸(すなわち「部位」)でのリン酸化は、リン酸化タウ(p-タウ)アイソフォームをもたらす。本開示の方法は、タウの1つまたは複数の特定アミノ酸でのリン酸化について化学量論的に測定する手段を提供する。実施形態によっては、本明細書中の方法は、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。実施形態によっては、本明細書中の方法は、T111、T181、T205、S208、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T181、S214、及びT217から選択される1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、S199を含む1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、S202を含む1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、S199を含む1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T181を含む1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T205を含む1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T217を含む1つまたは複数の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T153及びT175を含む2つ以上の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T181、T205、及びT217から選択される2つ以上の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。他の実施形態において、本明細書中の方法は、T181、T205、及びT217を含む3つ以上の残基でのタウリン酸化を測定することを含む。
【0041】
本出願人らは、タウリン酸化部位を発見するために、並列反応モニタリング(PRM)を用いた高感度かつ特異的質量分析(MS)法を開発し、最初に単離タウタンパク質中のリン酸化部位の存在量を定量した。しかしながら、本開示は、タウの部位特異的リン酸化を定量評価する特定の方法のいずれか1つに限定されない。適切な方法は、単一アミノ酸のリン酸化状態においてのみ異なるタウアイソフォームを識別し、異なるアミノ酸でリン酸化されたp-タウアイソフォームを識別し、タウ総量の全体的な変化とは無関係に特定部位で生じるリン酸化の変化を定量することができなくてはならない。タウ総量の全体的な変化とは無関係に特定部位で生じるリン酸化の化学量論的変化を定量する3つのアプローチを、例において詳細に説明する:1)リン酸化ペプチド異性体間での相対比較、これは、同一配列を共有するリン酸化ペプチドそれぞれの相対存在量の推定に使用することができる;2)タウタンパク質由来の任意のペプチドを基準として用いてリン酸化ペプチドを正規化する;及び3)リン酸化ペプチド及び非リン酸化ペプチドそれぞれについて合成標識化内部基準を用い絶対定量化する、各リン酸化ペプチドの絶対定量値を、タウタンパク質由来の任意のペプチドについて得られた任意の絶対定量値で正規化する。これら3つのアプローチは全て、各部位での相対的リン酸化変化を比較するために内部正規化を利用する。当該分野で既知である他の方法も、利用可能である。
【0042】
例示の実施形態において、タウの部位特異的リン酸化は、高分解能質量分析により測定される。質量分析器の適切な種類は、当該分野で既知である。そのような質量分析器として、四重極型、飛行時間型、イオントラップ及びOrbitrap型、ならびに異なる種類の質量分析計を1つの構造に組み合わせたハイブリッド型質量分析器(例えば、ThermoFisher Scientific製のOrbitrap Fusion(登録商標)Tribrid(登録商標)質量分析器)が挙げられるが、これらに限定されない。MS分析の前に、単離タウ試料のさらなる加工処理を行う場合がある。例えば、タウをタンパク分解性消化に供する場合がある。適切なプロテアーゼとして、トリプシン、Lys-N、Lys-C、及びArg-Nが挙げられるが、これらに限定されない。アフィニティー精製を用いて単離タウ試料を製造する場合、消化は、タウを固定リガンドから溶出させた後、またはタウが結合している間に、起こる場合がある。1つまたは複数のクリーンアップ工程後、消化されたタウペプチドは、高分解能質量分析器と連動した液体クロマトグラフィーシステムにより分離させることができる。クロマトグラフィーシステムは、所望のLC-MSパターンを精製するように定法実験により最適化することができる。部位特異的タウリン酸化を定量分析するのに多彩なLC-MS技法を使用することができる。限定ではなく例として、選択反応モニタリング、並列反応モニタリング、選択イオンモニタリング、及びデータ非依存性解析が挙げられる。上記のとおり、部位特異的タウリン酸化の全ての定量評価は、タウ総量の全体的な変化を説明するものでなければならない。例示の実施形態において、実施例において概要の記載された質量分析プロトコルが使用される。
【0043】
(c)タウ総量
「タウ総量」は、本明細書中使用される場合、所定の試料中の全タウアイソフォームを示す。タウは、可溶性及び不溶性区画中に、単量体型または凝集型で、秩序立ったまたは無秩序な構造で、細胞内または細胞外に見つけることができ、他のタンパク質または分子と複合体形成している場合がある。したがって、生体試料の原料(例えば、脳組織、CSF、血液など)及び生体試料の任意の下流加工は、所定の試料中のタウアイソフォームの総量に影響を及ぼすことになる。
【0044】
タウ総量は、非修飾タウペプチドの存在量をモニタリングすることにより測定可能である。各リン酸化タウ部位について、関心対象のリン酸化ペプチドと共通のアミノ酸配列を共有するタウペプチドを優先的に用いて、タウ総量レベルを測定することができるが、タウ配列由来の任意のペプチドが使用可能である。タウペプチド測定は、質量分析により行うことができ、測定の精度は、参照として標識化内部標準を用いることにより改善可能である。あるいは、タウ総量は、イムノアッセイまたは他のタウ濃度定量法により測定可能である。
【0045】
III.ADによるMCIの発症前に対象を診断して対象のADの段階を診断する方法
本開示の1つの態様は、対象を、アルツハイマー病による軽度認知障害へのコンバージョンリスクが高いと診断する方法、及び任意選択でADによるMCIの発症までの年数に関して対象の段階を診断するまたは分類する方法を包含する。アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)は、ADの症候性の認知症発症前段階を示す。この度合いの認知障害は、その年齢では正常ではないというもので、したがって、加齢に伴う記憶障害及び加齢に伴う認知低下などの構成要件に当てはまらない。ADによるMCIは、臨床診断であり、ADによるMCIの診断の臨床基準は、当該分野で既知である。例えば、Albert et al. Alzheimer’s & Dementia, 2011, 7(3):270-279を参照。対象の認知障害の度合いを客観的に評価するには、認知機能テストが最適である。MCIを有する対象の認知機能テストのスコアは、典型的には、文化的に適切な規範データにおいて(すなわち、利用可能な場合は、障害のあるドメイン(複数可)に関して)対象の年齢及び教育に一致する同等者についての平均より1~1.5標準偏差分低い。MCIの指摘は、臨床的認知症評価(CDR)尺度で全般的評価が0.5であることにより支持される場合が多い。CDRは、認知症の症候の重篤度を定量するために用いられる数値尺度である。他の適切な認知機能テストも当該分野で既知である。認知障害の重篤度を評価する適切なテストが存在するものの、当該分野では、高い信頼度である年数でADによるMCIを発症する対象を同定するテストが必要とされている。
【0046】
1つの実施形態において、対象を、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高いと診断する方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高いと診断すること、を含む場合がある。別の実施形態において、対象を、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高いと診断する方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、各単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)計算された変化(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高いと診断すること、を含む場合がある。「平均から有意に逸脱している」は、平均より、少なくとも1標準偏差分、好ましくは少なくとも1.3標準偏差分、より好ましくは少なくとも1.5標準偏差分、またはさらにより好ましくは少なくとも2標準偏差分大きいまたは小さい値を示す(すなわち、それぞれ、1σ、1.3σ、1.5σ、または1.5σ、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された正規分布により定義される標準偏差である)。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい値)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を用いて、対象を診断する場合がある。単離タウ試料は、無症候性の場合もそうでない場合もある対象から得ることができる。「無症候性対象」は、ADの兆候または症候をなにも示していない対象を示す。もっとも、対象は、ADの兆候または症候(例えば、記憶喪失、物の置き忘れ、気分または挙動の変動など)を呈している場合もあるが、軽度認知障害の臨床診断に十分な認知または機能障害を示していない。さらなる実施形態において、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有している場合がある。代替実施形態において、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有していない場合がある。特定の家族性関連を持たないアルツハイマー病は、孤発性アルツハイマー病と称する。
【0047】
本開示の別の態様は、対象のアルツハイマー病の段階を診断する方法を包含する。様々な実施形態において、「ADの段階」は、ADによるMCIの発症から経過した時間の長さ(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月など。)と定義することができる。ADの臨床診断基準は存在するものの、所定の対象について症候発症の時点についての臨床的設定は不明である、またはMCIとADのどちらであるか診断に疑問が残ることは一般的である。そのため、当該分野には、対象のADの段階を客観的に診断する検査が必要とされている。
【0048】
1つの実施形態において、対象のADの段階を診断する方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象のADの段階を診断すること、を含む場合がある。別の実施形態において、ADによるMCIの発症前に対象を診断する方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、各単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)計算された変化(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を、ADによるMCIの発症までにある特定の年数が存在すると診断すること、を含む場合がある。「平均から有意に逸脱している」は、平均より、少なくとも1標準偏差分、好ましくは少なくとも1.3標準偏差分、より好ましくは少なくとも1.5標準偏差分、またはさらにより好ましくは少なくとも2標準偏差分大きいまたは小さい値を示す(すなわち、それぞれ、1σ、1.3σ、1.5σ、または1.5σ、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された正規分布により定義される標準偏差である)。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい値)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を用いて、対象を診断する場合がある。単離タウ試料は、ADによるMCI、認知症、もしくはADと診断されている場合もそうでない場合もある対象から得ることができる。さらなる実施形態において、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有している場合がある。代替実施形態において、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有していない場合がある。
【0049】
部位特異的タウリン酸化の測定を使用し、任意選択でタウ総量の測定を併用することに代えて、またはこれに加えて、上記実施形態のいずれかにおいて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比が使用される場合がある。両方のアプローチを例で詳細に記載する。比以外の数学演算も使用される場合がある。例えば、例では、部位特異的タウリン酸化値が、様々な統計モデル(例えば、線形回帰、LME曲線、LOESS曲線など)で、他の既知のバイオマーカー(例えばAPOEε4状態、年齢、性別、認知テストスコア、機能テストスコアなど)と併せて使用される。測定値の選択及び数学演算の選択を最適化することで、方法の特異性を最大化することができる。例えば、診断精度は、ROC曲線の曲線下面積により評価することができ、実施形態によっては、0.7以上というROCのAUC値を、閾値として設定する(例えば、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95など)。
【0050】
ヒトの脳アミロイドプラークは、アミロイド-ポジトロン断層撮影法(PET)を定法としてこれにより測定される。例えば、皮質Aβプラークの11C-ピッツバーグ化合物B(PiB)PET画像法は、Aβプラーク病態の検出に一般的に使用される。皮質PiB-PETの標準取込値比(SUVR)は、信頼性を持って有意な皮質Aβプラークを同定し、対象をPIB陽性(SUVR≧1.25)または陰性(SUVR<1.25)に分類するのに使用される。したがって、上記実施形態において、PET画像法により測定して脳アミロイドプラークがなかった対照集団は、皮質PiB-PET SUVRが1.25未満である対照の集団を示すことができる。PiB結合の他の値(例えば、平均皮質結合能)または皮質領域以外の関心対象領域の分析もまた、対象をPIB陽性または陰性に分類するのに使用可能である。他のPET造影剤も使用可能である。
【0051】
CSF中のAβ42/40測定により測定して脳アミロイドプラークがなかった対照集団は、Patterson et al, Annals of Neurology, 2015に記載されるとおり、質量分析により測定した場合にAβ42/40測定が0.12未満である対照の集団を示すことができる。
【0052】
例示の実施形態において、対象をADによるMCIへのコンバージョンリスクが高いと診断する、または対象のAD段階を診断する方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象をADによるMCIへのコンバージョンリスクが高いと診断する、またはADによるMCIの発症まである特定の年数が存在すると診断する、または対象のAD段階を診断する、を含む場合がある。図22は、単離タウ試料中のT181、T205、及びT217で測定可能なタウリン酸化の動的パターンを、ADによるMCIの発症までの年数に関して示す。平均から有意に逸脱したT217でのリン酸化レベルが最初に生じるのは、ADによるMCIの発症の約21年前である;平均から有意に逸脱したT181でのリン酸化が最初に生じるのは、ADによるMCIの発症の約19年前である;平均から有意に逸脱したタウ総量の増加が最初に生じるのは、ADによるMCIの発症の約17年前である;及び平均から有意に逸脱したT205でのリン酸化レベルが最初に生じるのは、ADによるMCIの発症の約13年前である。症候の発症(例えば、ADによるMCI)に際して、T217及びT181でのリン酸化レベルはプラトーであり、それから減少する。
【0053】
上記のとおり、追加の数学演算が、T181、T205、及び/またはT217でのリン酸化の測定値で行われる場合があり、そのような操作として、測定されたリン酸化レベル(複数可)間の比及び測定されたリン酸化レベル(複数可)とタウ総量の間の比が挙げられるが、これらに限定されない。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)とタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。
【0054】
1つの例において、本開示の方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、(i)T217及びT205、(ii)T181及びT205、または(iii)T181、T205、及びT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)T217及び/またはT181でのタウリン酸化が約1.5σ以上であり、かつT205でのタウリン酸化が約1.5σ以下である場合に、対象は、ADによるMCIの発症まであと約10~約25年、または約10~約20年であると診断することを含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超の場合がある。他の実施形態において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超の場合がある。上記実施形態のそれぞれにおいて、T205でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.51σ、約1.55σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2.0σ、または2.0σ未満の場合がある。あるいは、T205でのタウリン酸化は、約2.0σ、約2.05σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ未満の場合がある。さらなる例において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約2σ以上の場合があり、かつT205でのタウリン酸化は、約2σ以下の場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分高いまたは低い)の使用に加えて、実施形態によっては、対象を診断するのに、平均より大きいまたは小さい変化の程度を用いる場合がある。なおさらなる実施形態において、T205でのタウリン酸化及びT181及び/またはT217でのタウリン酸化の測定されたレベルを様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0055】
別の例において、本開示の方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、タウ総量及び(i)T217及びT205、(ii)T181及びT205、または(iii)T181、T205、及びT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比が約1.5σ以上であり、かつタウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比が約1.5σ以下である場合に、対象は、ADによるMCIの発症まであと約10~約25年、または約10~約20年であると診断することを含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたタウ総量ならびにT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。上記実施形態のそれぞれにおいて、タウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.50σ、約1.55σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2.0σ、または2σ未満である場合がある。あるいは、タウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約2.0σ、約2.05σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ未満である場合がある。さらなる例において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約2σ以上である場合があり、かつタウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約2σ以下である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分高いまたは低い)の使用に加えて、実施形態によっては、対象を診断するのに、平均より大きいまたは小さい変化の程度を用いる場合がある。
【0056】
別の例において、本開示の方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化が約1.5σ以上である場合に、対象は、ADによるMCIの発症まであと約15年以下、または約10年以下であると診断することを含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。さらなる例において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約2σ以上の場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分高いまたは低い)の使用に加えて、実施形態によっては、対象を診断するのに、平均より大きいまたは小さい変化の程度を用いる場合がある。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0057】
別の例において、本開示の方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、タウ総量及び(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比が約1.5σ以上である場合に、対象は、ADによるMCIの発症まであと約15年以下、または約10年以下であると診断することを含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたタウ総量ならびにT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。さらなる例において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約2σ以上である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分高いまたは低い)の使用に加えて、実施形態によっては、対象を診断するのに、平均より大きいまたは小さい変化の程度を用いる場合がある。
【0058】
別の例において、本開示の方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料、を用意し、「第一」及び「第二」は、試料が収集された順序を示し、(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)T181及び/またはT217でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、かつT205でのリン酸化レベル及び任意選択でタウ総量が上昇した場合に、対象のADの段階を診断すること、を含む。第一及び第二単離タウ試料は、日付、週、または月をまたいで収集される場合がある。典型的には、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化も、両方の試料について約1.5σ以上となり、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0059】
別の例において、本開示の方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、「第一」及び「第二」は、試料が収集された順序を示し、タウ総量及び(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及びタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)T181及び/またはT217でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、T205でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、かつタウ総量が増加している場合に、対象のADの段階を診断すること、を含む。第一及び第二単離タウ試料は、日付、週、または月をまたいで収集される場合がある。典型的には、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化も、両方の試料について約1.5σ以上となり、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0060】
タウリン酸化及びタウ総量を測定する方法は、第II章に記載されており、参照することでこの章に援用される。例えば、実施例5~9に詳細を記載するプロトコルを使用すると、T181、T205、及びT217でのタウリン酸化は、CSFから精製された単離タウ試料で測定した場合、PET画像法により測定して脳アミロイドプラークがなかった対照集団において、pタウ/タウ比のパーセンテージで示して、それぞれ、21.7±2.3、0.34±0.13、及び1.2±0.66である(表2、変異非保持者の欄を参照)。したがって、変異非保持者で見られる平均より標準偏差の2倍高い(すなわち2σ)とは、p-T181/T181、p-T205/T205、及びp-T217/T217でそれぞれ、43.4、0.68、及び2.4である。しかしながら、当業者ならわかるだろうが、絶対値は、プロトコルならびに絶対定量化に使用された内部標準の原料/仕様に応じて変化する可能性がある。
【0061】
好適な実施形態において、単離タウ試料は、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は質量分析により測定される。別の好適な実施形態において、単離タウ試料は、タウのミッドドメイン内のエピトープと特異的に結合するリガンド、及び任意選択でタウのN末端内のエピトープと特異的に結合する第二リガンドを用いて、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は高分解能質量分析により測定される。別の好適な実施形態において、単離タウ試料は、タウのミッドドメイン内のエピトープと特異的に結合するリガンド、及び任意選択でタウのMTBRまたはC末端内のエピトープと特異的に結合する第二リガンドを用いて、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は高分解能質量分析により測定される。例示の実施形態において、実施例で概要を記載した質量分析プロトコルが用いられる。
【0062】
IV.治療方法
本開示の別の態様は、治療を必要としている対象を治療するための方法である。「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、または「治療(treatment)」という用語は、本明細書中使用される場合、医療ケアを必要としている対象に対する、訓練を受けたまたは資格を持った専門家による医療ケアの提供を示す。医療ケアは、診断検査、治療的処置、及び/または予防もしくは防止的手段の場合がある。治療的及び予防的処置の目的は、望ましくない生理的変化または疾患/障害を、予防または減速(低減)することである。治療的及び予防的処置の有益なまたは望ましい臨床結果として、症候の軽減、疾患の範囲の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患進行を遅らせるまたは遅くすること、病状の寛解または緩和、及び緩解(一部または全部を問わず)が挙げられるが、これらに限定されず、これらは検出可能であるか不可能であるかを問わない。「治療(treatment)」は、治療を受けなかった場合に予測されるものと比較した場合に長くなった生存率も意味することができる。治療を必要としている者として、疾患、症状、または障害をすでに有する者、ならびに疾患、症状、または障害を有する傾向がある者、または疾患、症状、または障害を予防すべきである者が挙げられる。実施形態によっては、治療を受ける対象は、無症候性である。「無症候性対象」は、本明細書中使用される場合、ADの兆候または症候をなにも示していない対象を示す。他の実施形態において、対象は、ADの兆候または症候(例えば、記憶喪失、物の置き忘れ、気分または挙動の変動など)を呈している場合があるが、アルツハイマー病による軽度認知障害と臨床診断するのに十分な認知または機能障害を示していない。「アルツハイマー病による軽度認知障害」という語句は、第IV章で定義する。症候性対象でも無症候性対象でも、Aβアミロイドーシスを有する場合がある;しかしながら、Aβアミロイドーシスの事前の所見は、治療の必要条件ではない。なおさらなる実施形態において、対象は、ADを有すると診断される場合がある。上記実施形態のいずれかにおいて、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有している場合がある。代替実施形態において、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有していない場合がある。
【0063】
1つの実施形態において、上記のとおり対象を治療するための方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含む場合がある。別の実施形態において、上記のとおり対象を治療するための方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、各単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)計算された変化(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含む場合がある。「平均から有意に逸脱している」は、平均より、少なくとも1標準偏差分、好ましくは少なくとも1.3標準偏差分、より好ましくは少なくとも1.5標準偏差分、またはさらにより好ましくは少なくとも2標準偏差分大きいまたは小さい値を示す(すなわち、それぞれ、1σ、1.3σ、1.5σ、または1.5σ、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された正規分布により定義される標準偏差である)。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を用いて、対象を診断する場合がある。
【0064】
任意選択でタウ総量の測定を併用する部位特異的タウリン酸化の測定の使用に代えてまたはそれに加えて、上記実施形態のいずれかにおいて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比が使用される場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。比以外の数学演算も使用される場合がある。例えば、例では、部位特異的タウリン酸化値が、様々な統計モデル(例えば、線形回帰、LME曲線、LOESS曲線など)で、他の既知のバイオマーカー(例えば、APOEε4状態、年齢、性別、認知テストスコア、機能テストスコアなど)と併せて使用される。
【0065】
AβアミロイドーシスまたはADを発症するリスクがある対象、Aβアミロイドーシスを有すると診断された対象、タウオパチーを有すると診断された対象、またはADを有すると診断された対象用であることを意図した、あるいはそのような対象で用いられる、多くの造影剤または治療薬は、特定の病態生理学的変化を標的としている。例えば、Aβ標的治療薬は、一般に、Aβ産生を減少させる、Aβ凝集と拮抗する、または脳Aβクリアランスを増加させるように設計される;タウ標的治療薬は、一般に、タウリン酸化パターンを改変する、タウ凝集と拮抗する、またはNFTクリアランスを増加させるように設計される;様々な治療薬は、CNS炎症または脳インスリン抵抗性を低下させるように設計されている;などである。これら種々の作用剤の有効性は、本明細書中開示される方法により測定した場合に、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231である特定のタウリン酸化レベルを有する対象に作用剤を投与することにより、改善される可能性がある。
【0066】
例示の実施形態において、AβアミロイドーシスまたはADを発症するリスクがある対象、Aβアミロイドーシスを有すると診断された対象、タウオパチーを有すると診断された対象、またはADを有すると診断された対象用であることを意図した、あるいはそのような対象で用いられる、造影剤及び治療薬(本明細書中、まとめて「Aβ及びタウ治療薬」と称する)の有効性は、本明細書中開示される、及び例えば図22に示される方法により測定した場合に、T181、T205、及び/またはT217である特定のタウリン酸化レベルを有する対象にAβ及びタウ治療薬を投与することにより、改善される可能性がある。例えば、T217でのタウリン酸化が約1.5σ以上であり、かつT181及びT205でのタウリン酸化が約1.5σ以下である場合、好適な治療薬として、対象がアミロイド陽性になるのを防ぐように設計されたものを挙げることができる(例えば、Aβ産生を減少させる、Aβ凝集と拮抗するように設計されたアミロイド標的治療薬など)。別の例として、T217及び/またはT181でのタウリン酸化が約1.5σ以上であり、かつT205でのタウリン酸化が約1.5σ以下である場合、好適な治療薬として、アミロイド沈着が増加するのを防ぐ、または対象の既存プラーク負荷を減少させるように設計されたものを挙げることができる。別の例として、T217、T181、及びT205でのタウリン酸化が約1.5σ以上である場合、好適な治療薬として、アミロイド沈着が増加するのを防ぐ、対象の既存プラーク負荷を減少させる、タウ凝集を防ぐ、またはNFTを標的とするように設計されたものを挙げることができる。別の例として、T217、T181、及びT205でのタウリン酸化が約1.5σ以上であり、かつT217またはT181でのタウリン酸化がプラトーであるまたは減少しており、かつタウ総量及び/またはT205でのタウリン酸化が増加している場合、好適な治療薬として、アミロイド沈着が増加するのを防ぐ、対象の既存プラーク負荷を減少させる、タウ凝集を防ぐ、またはNFTを標的とするように設計されたもの、ならびにADを有する対象専用のものを挙げることができる。本明細書中開示される詳細は、他の標的(例えば、CNS炎症、ApoEなど)に対して設計された治療薬を投与するためにも同様に使用可能であり、そのような標的として以下の段落で同定されるものが挙げられるが、それらに限定されない。
【0067】
1つの例において、本開示は、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高い対象を治療するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、(i)T217及びT205、(ii)T181及びT205、または(iii)T181、T205、及びT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)T217及び/またはT181でのタウリン酸化が約1.5σ以上であり、かつT205でのタウリン酸化が約1.5σ以下である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。上記実施形態のそれぞれにおいて、T205でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.51σ、約1.55σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2.0σ、または2.0σ未満である場合がある。あるいは、T205でのタウリン酸化は、約2.0σ、約2.05σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ未満である場合がある。さらなる例において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約2σ以上であり、かつT205でのタウリン酸化は、約2σ以下である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の治療基準として使用する場合がある。なおさらなる実施形態において、T205でのタウリン酸化の測定されたレベル及びT181及び/またはT217でのタウリン酸化の測定されたレベルを様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0068】
別の例において、本開示は、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高い対象を治療するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、タウ総量及び(i)T217及びT205、(ii)T181及びT205、または(iii)T181、T205、及びT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比が約1.5σ以上であり、かつタウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比が約1.5σ以下である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された、タウ総量ならびにT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。上記実施形態のそれぞれにおいて、タウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.50σ、約1.55σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2.0σ、または2σ未満である場合がある。あるいは、タウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約2.0σ、約2.05σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ未満である場合がある。さらなる例において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約2σ以上である場合があり、かつタウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約2σ以下である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい値)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の治療基準として使用する場合がある。
【0069】
別の例において、本開示は、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高い対象を治療するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化が約1.5σ以上である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された、T217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。さらなる例において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約2σ以上である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の治療基準として使用する場合がある。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを、様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0070】
別の例において、本開示は、ADによるMCIへのコンバージョンリスクが高い対象を治療する方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、タウ総量及び(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比が約1.5σ以上である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された、タウ総量ならびにT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。さらなる例において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約2σ以上である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の治療基準として使用する場合がある。
【0071】
別の例において、本開示は、ADの症候を有する対象を治療するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、「第一」及び「第二」は、試料が収集された順序を示し、(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を測定すること;ならびに(c)T181及び/またはT217でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、T205でのリン酸化レベル及び任意選択でタウ総量が増加している場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含む。第一及び第二単離タウ試料は、日付、週、または月をまたいで収集される場合がある。典型的には、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化も、両方の試料で約1.5σ以上になり、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された、T217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを、様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0072】
別の例において、本開示は、ADの症候を有する対象を治療するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、「第一」及び「第二」は、試料が収集された順序を示し、タウ総量ならびに(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及びタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)T181及び/またはT217でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、T205でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、及びタウ総量が増加している場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含む。第一及び第二単離タウ試料は、日付、週、または月をまたいで収集される場合がある。典型的には、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化も、両方の試料で約1.5σ以上になり、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された、T217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを、様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0073】
上記実施形態のそれぞれにおいて、医薬組成物は、造影剤を含む場合がある。造影剤の限定ではなく例として、機能性造影剤(例えばフルオロデオキシグルコースなど)及び分子造影剤(例えば、ピッツバーグ化合物B、フロルベタベン、フロルベタピル、フルテメタモル、放射性核種標識化抗体など)が挙げられる。
【0074】
あるいは、医薬組成物は、活性医薬成分を含む場合がある。活性医薬成分の限定ではなく例として、コリンエステラーゼ阻害剤、N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、抗鬱薬(例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、非定型抗鬱薬、アミノケトン、選択的セロトニン及びノルエピネフリン再取り込み阻害剤、三環系抗鬱薬など)、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-セクレターゼ阻害剤、抗Aβ抗体(抗原結合断片、バリアント、またはそれらの誘導体を含む)、抗タウ抗体(抗原結合断片、バリアント、またはそれらの誘導体を含む)、幹細胞、栄養補助食品(例えばリチウム水、オメガ3脂肪酸+リポ酸、長鎖トリグリセリド、ゲニステイン、レスベラトロール、クルクミン、及びブドウ種子エキスなど)、セロトニン受容体6のアンタゴニスト、p38アルファMAPK阻害剤、組換え顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、受動免疫療法、活性ワクチン(例えばCAD106、AF20513など)、タウタンパク質凝集阻害剤(例えばTRx0237、塩化メチルチオニニウムなど)、血糖制御を改善する治療薬(例えば、インスリン、エキセナチド、リラグルチドピオグリタゾンなど)、抗炎症剤、ホスホジエステラーゼ9A阻害剤、シグマ1受容体アゴニスト、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ活性化剤、ホスファターゼ阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬、CB1及び/またはCB2エンドカンナビノイド受容体部分アゴニスト、β-2アドレナリン受容体アゴニスト、ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト、5-HT2A逆作動薬、アルファ2cアドレナリン受容体アンタゴニスト、5-HT1A及び1D受容体アゴニスト、グルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ阻害剤、APP産生の選択的阻害剤、モノアミンオキシダーゼB阻害剤、グルタミン酸受容体アンタゴニスト、AMPA受容体アゴニスト、神経成長因子賦活薬、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、神経栄養剤、ムスカリンM1受容体アゴニスト、GABA受容体修飾薬、PPARガンマアゴニスト、微小管タンパク質修飾薬、カルシウムチャネル遮断薬、降圧薬、スタチン、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0075】
別の代替形態において、医薬組成物は、キナーゼ阻害剤を含む場合がある。適切なキナーゼ阻害剤は、サウザンドアンドワンアミノ酸キナーゼ(TAOK)、CDK、GSK-3β、MARK、CDK5、Fyn、5’アデノシン一リン酸活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)、カルシウムカルモジュリンキナーゼII、サイクリン依存性キナーゼ5(cdk5)、カゼインキナーゼ1(CK1)、カゼインキナーゼ2(CK2)、サイクリックAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)、二重特異性チロシンリン酸化制御型キナーゼ1A(DYRK1A)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK-3)、JNK、LRRK2、微小管親和性調節キナーゼ(MARK)、MSK1、p35/41、p42/p44分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(ERKs1/2)、p38分裂促進因子活性化キナーゼ(p38MAPK)、p70S6キナーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、PKB/AKT、タンパク質キナーゼC(PKC)、タンパク質キナーゼN(PKN)、前立腺由来ステリル20様キナーゼ1アルファ/ベータ、90kDaリボソームS6キナーゼ(RSK1/2)(PSK1/TAOK2)、前立腺由来ステリル20様キナーゼ2(PSK2/TAOK1)、ストレス活性化タンパク質キナーゼ(SAPK)1ガンマ、SAPK2a、SAPK2b、SAPK3、SAPK4、SGK1、SRPK2、またはタウチューブリンキナーゼ1/2(TTBK1/2)を阻害する場合がある。
【0076】
さらに別の代替形態において、医薬組成物は、ホスファターゼ活性化剤を含む場合がある。限定ではなく例として、ホスファターゼ活性化剤は、タンパク質ホスファターゼ1、2A、2B、または5の活性を高める場合がある。
【0077】
タウリン酸化及びタウ総量の測定法は、第II章に記載されており、参照することでこの章に援用される。好適な実施形態において、単離タウ試料は、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は、質量分析により測定される。別の好適な実施形態において、単離タウ試料は、タウのミッドドメイン内のエピトープと特異的に結合するリガンドを用い、任意選択でタウのN末端内のエピトープと特異的に結合する第二リガンドを併用して、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は、高分解能質量分析により測定される。別の好適な実施形態において、単離タウ試料は、タウのミッドドメイン内のエピトープと特異的に結合するリガンドを用い、任意選択でタウのMTBRまたはC末端内のエピトープと特異的に結合する第二リガンドを併用して、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は、高分解能質量分析により測定される。例示の実施形態において、実施例に概要を記載した質量分析プロトコルが使用される。
【0078】
V.臨床試験
本開示の別の態様は、対象を臨床試験に登録する、詳細にはAβまたはタウ治療薬の臨床試験に登録するための方法であり、ただし臨床試験の他の基準が全て満たされているものとする。1つの実施形態において、対象を臨床試験に登録するための方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を臨床試験に登録すること、を含む場合がある。別の実施形態において、対象を臨床試験に登録するための方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、各単離タウ試料中の、T111、S113、T181、S199、S202、S208、T153、T175、T205、S214、T217、及びT231から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)計算された変化(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を臨床試験に登録すること、を含む場合がある。「PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団」という語句は、第IV章で定義されている。「平均から有意に逸脱している」は、平均より、少なくとも1標準偏差分、好ましくは少なくとも1.3標準偏差分、より好ましくは少なくとも1.5標準偏差分、またはさらにより好ましくは少なくとも2標準偏差分大きいまたは小さい値を示す(すなわち、それぞれ、1σ、1.3σ、1.5σ、または1.5σ、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された正規分布により定義される標準偏差である)。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の登録基準として使用する場合がある。
【0079】
任意選択でタウ総量の測定を併用する部位特異的タウリン酸化の測定の使用に代えてまたはそれに加えて、上記実施形態のいずれかにおいて、測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比、または測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比を使用する場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)から計算された比は、p-T181とp-T205、p-T217とp-T205、またはp-T181とp-T217の間の比である場合がある。測定されたリン酸化レベル(複数可)及びタウ総量から計算された比は、p-T181とタウ総量、p-T205とタウ総量、またはp-T217とタウ総量の間の比である場合がある。比以外の数学演算も使用される場合がある。例えば、例では、部位特異的タウリン酸化値が、様々な統計モデル(例えば、線形回帰、LME曲線、LOESS曲線など)で、他の既知のバイオマーカー(例えばAPOEε4状態、年齢、性別、認知テストスコア、機能テストスコアなど)と併せて使用される。
【0080】
Aβ及びタウ治療薬の臨床試験の計画は、本明細書中開示される方法により大いに支援される可能性がある。多くの臨床試験は、AD症候の発症前に生じる特定病態生理学的変化を標的とする造影剤または治療薬の有効性を試験するように計画される。第V章において前述したとおり、こうした様々な作用剤の有効性は、本明細書中開示及び例示される方法により測定した場合にある特定の部位特異的タウリン酸化レベルを有する対象に、その作用剤を投与することにより改善される可能性がある。同様に、臨床試験がADの症候を有する対象(例えば、ADによるMCIの発症後)を登録することも、有効性がADの特定段階と関連するかどうかを判断する目的で、登録者のAD状態を正確に段階分けすることが可能であることによって利益を受けると思われる。したがって、対象を臨床試験に、詳細には臨床試験の治療群に登録する前に本明細書中記載されるとおりにタウリン酸化レベルを測定することは、臨床試験の規模が小さくなる及び/または成績が改善されるという結果になる可能性がある。場合によっては、本明細書中記載される方法は、治療薬のコンパニオン診断として開発及び使用される可能性がある。
【0081】
例示の実施形態において、対象を臨床試験に登録するための方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;ならびに(b)測定されたリン酸化レベル(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を臨床試験に登録すること、を含む場合がある。別の実施形態において、対象を臨床試験に登録するための方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、各単離タウ試料中の、T181、T205、及びT217から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基でのタウリン酸化を測定すること、及び任意選択でタウ総量を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)計算された変化(複数可)が、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団における平均から有意に逸脱している場合に、対象を臨床試験に登録すること、を含む場合がある。「PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団」という語句は、第IV章で定義されている。「平均から有意に逸脱している」は、平均より、少なくとも1標準偏差分、好ましくは少なくとも1.3標準偏差分、より好ましくは少なくとも1.5標準偏差分、またはさらにより好ましくは少なくとも2標準偏差分大きいまたは小さい値を示す(すなわち、それぞれ、1σ、1.3σ、1.5σ、または1.5σ、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された正規分布により定義される標準偏差である)。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の登録基準として使用する場合がある。
【0082】
1つの例において、本開示は、対象を臨床試験に登録するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、単離タウ試料中の、(i)T217及びT205、(ii)T181及びT205、または(iii)T181、T205、及びT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)T217及び/またはT181でのタウリン酸化が約1.5σ以上であり、かつT205でのタウリン酸化が約1.5σ以下である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。上記実施形態のそれぞれにおいて、T205でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.51σ、約1.55σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2.0σ、または2.0σ未満である場合がある。あるいは、T205でのタウリン酸化は、約2.0σ、約2.05σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ未満である場合がある。さらなる例において、T217でのタウリン酸化及び/またはT181でのタウリン酸化は、約2σ以上であり、かつT205でのタウリン酸化は、約2σ以下である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の登録基準として使用する場合がある。なおさらなる実施形態において、T205ならびにT181及び/またはT217でのタウリン酸化の測定されたレベルを、様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0083】
別の例において、本開示は、対象を臨床試験に登録するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、タウ総量及び(i)T217及びT205、(ii)T181及びT205、または(iii)T181、T205、及びT217でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比が約1.5σ以上であり、かつタウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比が約1.5σ以下である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたタウ総量ならびにT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。上記実施形態のそれぞれにおいて、タウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.50σ、約1.55σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2.0σ、または2σ未満である場合がある。あるいは、タウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約2.0σ、約2.05σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ未満である場合がある。さらなる例において、タウ総量に対するT217でのタウリン酸化の比及び/またはタウ総量に対するT181でのタウリン酸化の比は、約2σ以上である場合があり、かつタウ総量に対するT205でのタウリン酸化の比は、約2σ以下である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の登録基準として使用する場合がある。
【0084】
別の例において、本開示は、対象を臨床試験に登録するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化が約1.5σ以上である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。さらなる例において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化は、約2σ以上である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の登録基準として使用する場合がある。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを、様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0085】
別の例において、本開示は、対象を臨床試験に登録するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた単離タウ試料を用意し、タウ総量及び(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;ならびに(b)タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比が約1.5σ以上である場合に、対象に医薬組成物を投与すること、を含み、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定されたタウ総量ならびにT217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。様々な実施形態において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約1.3σ、約1.35σ、約1.4σ、約1.45σ、約1.5σ、約1.6σ、約1.7σ、約1.8σ、約1.9σ、約2σ、または2σ超である場合がある。他の実施形態において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約1.85σ、約1.9σ、約1.95σ、約2σ、約2.1σ、約2.2σ、約2.3σ、約2.4σ、約2.5σ、または2.5σ超である場合がある。さらなる例において、タウ総量に対する(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の比は、約2σ以上である場合がある。閾値(例えば、平均より少なくとも1標準偏差分大きいまたは小さい)を使用することに加えて、実施形態によっては、平均より高いまたは低い変化の程度を、対象の登録基準として使用する場合がある。
【0086】
別の例において、本開示は、対象を臨床試験に登録するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、「第一」及び「第二」は、試料が収集された順序を示し、(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及び任意選択でタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)T181及び/またはT217でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、T205でのリン酸化レベル及び任意選択でタウ総量が増加している場合に、対象を臨床試験に登録すること、を含む。第一及び第二単離タウ試料は、日付、週、または月をまたいで収集される場合がある。典型的には、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化も、両方の試料で約1.5σ以上になり、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された、T217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを、様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0087】
別の例において、本開示は、対象を臨床試験に登録するための方法を提供し、本方法は、(a)対象から得られた第一及び第二単離タウ試料を用意し、「第一」及び「第二」は、試料が収集された順序を示し、タウ総量及び(i)T181及びT205、(ii)T217及びT205、または(iii)T181、T217、及びT205でのタウリン酸化を測定すること;(b)測定された各残基での部位特異的リン酸化の変化、及びタウ総量の変化を計算すること;ならびに(c)T181及び/またはT217でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、T205でのリン酸化レベルが低下または一定を保ち、かつタウ総量が増加している場合に、対象を臨床試験に登録すること、を含む。第一及び第二単離タウ試料は、日付、週、または月をまたいで収集される場合がある。典型的には、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化も、両方の試料で約1.5σ以上になり、ただし、σは、PET画像法により測定して及び/またはCSF中のAβ42/40測定によって脳アミロイドプラークがなかった対照集団で測定された、T217及びT205、T181及びT205、またはT181、T205、及びT217でのタウリン酸化の正規分布により定義される標準偏差である。なおさらなる実施形態において、(a)(i)、(a)(ii)、または(a)(iii)に列挙される特定部位でのタウリン酸化の測定されたレベルを、様々な数学演算に用いて、それぞれ自身に比べて予測力を改善することができる。例えば、比(複数可)を、測定されたリン酸化レベルから計算することができる。比以外の数学演算も使用可能である。
【0088】
タウリン酸化及びタウ総量の測定法は、第II章に記載されており、参照することでこの章に援用される。例えば、実施例5~9に詳細を記載するプロトコルを使用すると、T181、T205、及びT217でのタウリン酸化は、CSFから精製された単離タウ試料で測定した場合、PET画像法により測定して脳アミロイドプラークがなかった対照集団において、それぞれ、21.7±2.3、0.34±0.13、及び1.2±0.66である(表2、変異非保持者の欄を参照)。したがって、変異非保持者で見られる平均より標準偏差の2倍高い(すなわち2σ)とは、p-T181、p-T205、及びp-T217でそれぞれ、43.4、0.68、及び2.4、である。しかしながら、当業者ならわかるだろうが、絶対値は、プロトコルに応じて変化する可能性がある。
【0089】
好適な実施形態において、単離タウ試料は、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は、質量分析により測定される。別の好適な実施形態において、単離タウ試料は、タウのミッドドメイン内のエピトープと特異的に結合するリガンドを用い、任意選択でタウのN末端内のエピトープと特異的に結合する第二リガンドを併用して、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は、高分解能質量分析により測定される。別の好適な実施形態において、単離タウ試料は、タウのミッドドメイン内のエピトープと特異的に結合するリガンドを用い、任意選択でタウのMTBRまたはC末端内のエピトープと特異的に結合する第二リガンドを併用して、アフィニティー精製により血液またはCSFから精製されたタウを含み、タウリン酸化は、高分解能質量分析により測定される。例示の実施形態において、実施例に概要を記載した質量分析プロトコルが使用される。
【0090】
上記実施形態のそれぞれにおいて、対象は、臨床試験の治療群に登録される場合がある。「治療」は、第V章で定義されている。臨床試験の治療群に登録された対象には、医薬組成物が投与される場合がある。実施形態によっては、医薬組成物は、造影剤を含む場合がある。造影剤の限定ではなく例として、機能性造影剤(例えばフルオロデオキシグルコースなど)及び分子造影剤(例えば、ピッツバーグ化合物B、フロルベタベン、フロルベタピル、フルテメタモル、放射性核種標識化抗体など)が挙げられる。あるいは、医薬組成物は、活性医薬成分を含む場合がある。活性医薬成分の限定ではなく例として、コリンエステラーゼ阻害剤、N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、抗鬱薬(例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、非定型抗鬱薬、アミノケトン、選択的セロトニン及びノルエピネフリン再取り込み阻害剤、三環系抗鬱薬など)、ガンマセクレターゼ阻害剤、ベータセクレターゼ阻害剤、抗Aβ抗体(抗原結合断片、バリアント、またはそれらの誘導体を含む)、抗タウ抗体(抗原結合断片、バリアント、またはそれらの誘導体を含む)、幹細胞、栄養補助食品(例えばリチウム水、オメガ3脂肪酸+リポ酸、長鎖トリグリセリド、ゲニステイン、レスベラトロール、クルクミン、及びブドウ種子エキスなど)、セロトニン受容体6のアンタゴニスト、p38アルファMAPK阻害剤、組換え顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、受動免疫療法、活性ワクチン(例えばCAD106、AF20513など)、タウタンパク質凝集阻害剤(例えばTRx0237、塩化メチルチオニニウムなど)、血糖制御を改善する治療薬(例えば、インスリン、エキセナチド、リラグルチドピオグリタゾンなど)、抗炎症剤、ホスホジエステラーゼ9A阻害剤、シグマ1受容体アゴニスト、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ活性化剤、ホスファターゼ阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬、CB1及び/またはCB2エンドカンナビノイド受容体部分アゴニスト、β2アドレナリン受容体アゴニスト、ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト、5-HT2A逆作動薬、アルファ2cアドレナリン受容体アンタゴニスト、5-HT1A及び1D受容体アゴニスト、グルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ阻害剤、APP産生の選択的阻害剤、モノアミンオキシダーゼB阻害剤、グルタミン酸受容体アンタゴニスト、AMPA受容体アゴニスト、神経成長因子賦活薬、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、神経栄養剤、ムスカリンM1受容体アゴニスト、GABA受容体修飾薬、PPAR-ガンマアゴニスト、微小管タンパク質修飾薬、カルシウムチャネル遮断薬、降圧薬、スタチン、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。例示の実施形態において、医薬組成物は、キナーゼ阻害剤を含む場合がある。適切なキナーゼ阻害剤は、サウザンドアンドワンアミノ酸キナーゼ(TAOK)、CDK、GSK-3β、MARK、CDK5、またはFynを阻害する場合がある。別の例示の実施形態において、医薬組成物は、ホスファターゼ活性化剤を含む場合がある。限定ではなく例として、ホスファターゼ活性化剤は、タンパク質ホスファターゼ2Aの活性を高める場合がある。
【0091】
上記実施形態のそれぞれにおいて、対象は症候性である場合もそうでない場合もある。「無症候性対象」は、本明細書中使用される場合、ADの兆候または症候をなにも示していない対象を示す。あるいは、対象は、ADの兆候または症候(例えば、記憶喪失、物の置き忘れ、気分または挙動の変動など)を呈している場合があるが、軽度認知障害と臨床診断するのに十分な認知または機能障害を示していない。症候性対象でも無症候性対象でも、Aβアミロイドーシスを有する場合がある;しかしながら、Aβアミロイドーシスの事前の所見は、治療の必要条件ではない。なおさらなる実施形態において、対象は、ADを有する場合がある。上記実施形態のいずれかにおいて、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有している場合がある。代替実施形態において、対象は、優性遺伝性アルツハイマー病を引き起こすことが既知である遺伝子変異の1つを保有していない場合がある。
【0092】
以下の実施例は、本発明の好適な実施形態を実証するために含められている。当業者ならわかるはずだが、以下の実施例に開示される技法は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者らにより発見された技法を表す。しかしながら、当業者なら、本開示に照らして、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示される特定の実施形態に変更を加えることができ、それでもなお、類似または同様な結果を得ることができることがわかるはずである。したがって、記載されるまたは添付の図面に示される全ての内容は、例示として解釈されるべきであり、限定する意味で解釈されるべきではない。
【実施例
【0093】
以下の実施例は、本発明の様々な反復を例示している。
【0094】
実施例1 正常な非ADヒト脳におけるタウタンパク質のリン酸化部位
正常な可溶性の脳のタウのリン酸化部位を特定するために、健康な対照由来の抽出物を、リン酸化タウ及び非リン酸化タウの両方を濃縮する、タウ-1及びHJ8.5タウ抗体を用いた免疫捕獲により精製した。脳のタウのイソ型のトリプシン消化により、長く、十分に疎水性でLC-MSで検出することができる27種の未修飾ペプチドが生成した(Barthelemy et al., 2016)。25種のペプチドが、潜在的なリン酸化部位としてセリン及び/またはスレオニンを含有していた。数種のペプチドが複数の潜在的なリン酸化部位(4~9ヶ所)を含有しており、このことから、本発明者らは、LC分離中に異なるモノリン酸化ペプチドが一緒に共溶出する可能性があると考えるに至った。この後、上述のPRMスクリーニング法をこれらのペプチドに適用した。
【0095】
タウ配列中のプロジェクションドメイン(103~126)の分析の結果により、重なり合った複雑なLC-MS/MSパターンで溶出する複数のp-タウペプチドの存在が明らかになった(図3~7)。本発明者らは、タウタンパク質の最短のイソ型である0Nイソ型から3個所のリン酸化部位を特定した。LCシステムには、当該の3種のリン酸化ペプチドを識別するだけの分離能はなかったが、断片の同定及び対応する強度を用いて、残基S113の1つの主要なリン酸化部位と、残基T111及びT123の2つの副次的なリン酸化部位とから構成されるシグナルであることを解き明かした(図3)。対照的に、より長い1N及び2Nイソ型からタウ配列をPRMスクリーニングする際には、特に同一ペプチド配列内に複数の潜在的なモノリン酸化部位が予測される場合、リン酸化ペプチドの溶出パターンを単純化するために、さらにクロマトグラフィー分離を行うことが必要であった(図4~6)。本発明者らは、LC分離により、差示的にリン酸化された残基を含有する、共溶出した、半特異的なMS/MS断片を同定することができた。ただし、本発明者らは、LCアーチファクトに起因する可能性のある少数のシグナルも特定しており、これらのシグナルは、恐らく溶液中における同一のペプチドの2種の立体配座に起因するものと思われる(図5)。この影響は、未修飾ペプチド及びリン酸化ペプチドの両方の、アミノ酸残基45~67を含有するペプチド配列(0Nイソ型において)にとって重要であり(図5)、配列68~126(1N)及び88~126(2N)に関してはあまり一般的ではなかった(図4及び6)。
【0096】
ペプチド配列68~126(1N)及び88~126(2N)において、残基S113、T111、及びT123におけるリン酸化が確認された。すべての場合において、S113のシグナルは上記3種のうち最大であり、リン酸化率は0.2~0.5%であった(図4及び図6、表1)。ペプチド配列45~67(1N及び2Nイソ型で共有)上で、残基T50、T52、及びS56におけるリン酸化が明確に特定された。同一のペプチド上で、LC-MSシグナルにより、3つの残基(S61、T63、及びS64)のうちの少なくとも2つがリン酸化されていることが示された(図5)。残基S46における潜在的なリン酸化を特定する特異的なシグナルは見られなかった。配列68~126(1N)及び68~87(2N)中の残基S68及びT69におけるリン酸化が裏付けられたが、それらのLC-MSパターンを識別する特異的断片は検出されなかった。同じ1N及び2Nペプチド配列上で、T71におけるリン酸化レベルがより低いことが認められた。2Nに特異的な、T76、T101、及びT102残基上でのリン酸化も特定された(図8にまとめている)。
【0097】
既報の、トリプシン切断部位の後に位置するリン酸化残基(部位T175、T181、S212、T231、及びS396)(Hanger et al. 1998)のスクリーニングのために、トリプシン未切断(trypsin missed cleavage)の導入も考慮した。本発明者らによるPRMスクリーニングによって、Hanger et al.により正常な脳組織について既報のリン酸化タウペプチドに対応するLC-MSパターンを検出することに成功した(T181、S199、S202、及びS404、図8)。対応するLC-MSシグナルは高く、正常なヒト脳について既報のp-タウペプチドの量が最も多い可能性が高いことを示唆している。本発明者らによるS199とS202のリン酸化の比較では、S202におけるリン酸化が大幅に多いことが一般的であることが示された(図8)。抗Tau1抗体を使用してタウの抽出を行い、192~199アミノ酸配列上の非リン酸化エピトープと連結させることで、抽出物中のS199リン酸化の回収率が低いことを説明することができる。本発明者らは、この抽出物中においてS202及びS404のリン酸化が多く起こることを前提として、配列195~209及び386~406由来のジリン酸化ペプチドの存在を探索した。本発明者らは、S202/S199及びS202/S198における2ヶ所でのリン酸化に対応する特異的断片を含む2つのLC-MSパターン、及び396/404における2ヶ所でのリン酸化に対応する1つのLC-MSパターンを検出した(図8)。
【0098】
さらに脳抽出物中の可溶性タウのスクリーニングを行うことにより、T175、S214、T217、T231、及びS396のリン酸化残基に対応する、量がより少ない他のモノリン酸化ペプチドの存在が証明された。モノリン酸化ペプチド配列181~190をスクリーニングした際に、S184またはS185においてリン酸化されたペプチドに対応する断片由来のシグナルも低レベルで検出された(図8)。長い配列407~438上でのモノリン酸化の探索により、残基S409及びS416におけるリン酸化、及び残基S412/S413/T414の群における少なくとも1つのリン酸化と一致するパターンが見出された。
【0099】
全体として、本発明者らは、PRMスクリーニング法を使用して、正常な非ADの脳から抽出した可溶性タウ画分中で検出可能な最低29ヶ所の一意的なリン酸化部位を特定した(表1)。上記リン酸化部位の25ヶ所は、一意的なLC-MSシグナルに明確に帰属することができ、4ヶ所のさらなるリン酸化部位は、正確なLC-MSパターンには帰属されないが、それらの存在が証明された。これらの部位は3つのクラスター上に位置していた。すなわち、N末端のプロジェクションドメイン中に最低14ヶ所、当該配列の中央のプロリン・リッチドメイン上に10ヶ所、そしてC末端上に6個のリン酸化部位が位置していた(図14)。
【表1-1】
【表1-2】
【0100】
実施例2 CSF中のタウタンパク質上のリン酸化部位
脳のタウの消化物と比較して、タウ特異的抗体及び消化を用いたCSFのタウの精製では、主としてタンパク質配列のミッドドメイン(残基150~221)由来の検出可能なペプチドが生成した。タウのN末端に由来するペプチドは、程度は比較的低いが検出可能であり、微小管結合リピート(MTBR)ドメインまたはC末端に由来する配列はほとんど検出することができなかった(Barthelemy et al., 2016;Sato et al., 2018)。このシグナル回収率の違いは、ニューロンからの放出の際のタウのトランケーションに起因する可能性がある(Sato et al., 2018)。このミッドドメインのペプチド回収率は、現在のPRM法を用いて対応する少量のリン酸化イソ型を監視するのに十分であった。逆に、MTBRドメイン及びC末端ドメイン中のリン酸化ペプチドを検出するには、MS法の大幅な技術的な進歩が必要となろう。
【0101】
正常な対照のCSF由来のタウのリン酸化ペプチドのPRMスクリーニングによって、脳の可溶性タウと同様に、T181(図示せず)、S199、S202、及びT217(図9)の数ヶ所のリン酸化部位が特定された。pS214に対応する低いシグナルも検出された(図9)。CSF抽出物においてpT205に対応する特異的断片化パターンが特定され、クロマトグラフィーによりpS199/pS202シグナルから分離された。(図9)。
【0102】
本発明者らは、CSFのタウにおいてさらなるリン酸化部位を検出する可能性を高めるために、軽度~中程度の認知症のAD患者由来のCSFプールを分析した。本発明者らは、ADのCSFプールは、高い濃度のタウだけでなく、高いレベルのリン酸化タウも含有すると予想した。ADのCSFにおいて、正常なCSF中に見られるものと同様のリン酸化残基(T181、S199、S202、T217、及びT231)が検出された。さらに、これまでに脳由来のタウにおいて検出され、正常なCSFにおいては検出されなかったpS113及びpT175に対応するシグナルがADのCSF中で検出された(図9図10)。S202/S199リン酸化ペプチドに由来する特異的断片及び他のものとは異なる保持時間を含むLC-MS/MSパターンにより、S208においてリン酸化された新たなペプチドの同定が可能になった。本発明者らは、正常なCSF中のpS208を再検討した際に、これに対応する少量のシグナルを検出した。残基T153においてリン酸化された新たなペプチドと一致するLC-MS/MSパターンが、対応する非リン酸化ペプチドのレベルと近いレベルで検出された(図10)。脳抽出物のデータを慎重に再検討したところ、この部位に対応するシグナルは存在量が少ないことが示唆された。最後に、本発明者らは、ADのCSF中の0Nイソ型由来の103~126アミノ酸配列上のリン酸化に対応する特異的なシグナルを見出したが、該シグナルは、T111がこのペプチド上の主要なリン酸化部位である一方、S113はほとんどリン酸化されないことを示している(図11)。全体として、CSFのタウ中に12ヶ所のリン酸化部位が検出され、それらのうちの2ヶ所は脳ライセート中では検出できなかった(図12)。
【0103】
実施例3 CSFのp-タウの存在量の測定値は脳中のp-タウの存在量と比較して違いが際立つ
脳において、調べたリン酸化部位の中でS404が最も高度にリン酸化されていた(pS404/S404=110%、すなち、S404の52%がリン酸化される)。したがって、他の高度にリン酸化された部位、S202及びT181(それぞれ9.7%及び9.5%)と比較して、半分を超える脳のタウがS404においてリン酸化されていた。S199の1.3%がリン酸化されたが、この値は、抽出に用いたTau1抗体がその対応するリン酸化されたエピトープに結合することができない(Liu et al., 1993)ことに起因して、過小評価されている可能性がある。S404以外のC末端部位上でのリン酸化は約1%であることが判明した。N末端では、T52、S68/T69、T50、及びS113も、約0.5%~2%の範囲の量でリン酸化されていた。他の検出された部位のリン酸化レベルは大幅に低い(<0.5%)ように思われた。
【0104】
CSFのタウにおいてpT205及びpS208が一意的に検出され、脳のタウにおいては検出されないことに加えて、脳のタウにおいて検出された特定の他のリン酸化部位の相対的なリン酸化の存在量は、対照のCSFのタウと比較して変化した(図13)。脳と比較して、CSFのタウのリン酸化は、部位pS199、pS202、及びpS214において有意に低かった(それぞれ、1/6に減少、p=0.008;1/5に減少、p=0.016;及び1/2に減少、p=0.016)。逆に、CSFのタウのリン酸化は、0N由来の部位pT217、pT231、及びpT111において有意に高かった(それぞれ、4倍増加、p=0.016;7倍増加、p=0.016;及び16倍増加)。pT181の存在量はCSF中と脳中で同様であった(約10%)。ADのCSF中で測定した場合、pT175は低いままであった(脳における0.1%と比較して0.1~0.2%)。
【0105】
脳のタウとCSFのタウではトランケーションのパターンが異なる。すなわち、脳のタウのイソ型は主として完全長である一方、CSFのタウのイソ型はトランケートされている。IP後に回収された脳のタウのイソ型及びCSFのタウのイソ型ならびに対応するペプチドは、免疫沈降に使用される抗体に依存する(Sato et al., 2018)。同様に、タウを免疫沈降させるために使用する抗体は、タウのリン酸化の回収率に影響を与える可能性がある。このp-タウの回収率に対する影響を評価するために、本発明者らは、タウ1+HJ8.5の組み合わせに加えて、種々の抗体(タウ13、HJ8.5、HJ8.7、タウ1、及びタウ5)を用いて、リン酸化率に対するIP-MSの結果を比較した(図14)。タウ1またはタウ1+HJ8.5を脳及び脳脊髄液中で用いた場合には、pS199/S199比の有意な減少が観測された。このことは、N末端とミッドドメインとの間のCSFトランケーションが、脳に比較して、pS199のリン酸化の測定に影響を与える可能性があることを示唆している。脳及びCSF中で他の抗体を用いて測定したpS199/S199比は比較的類似しているように思われた。興味深いことに、pS199に関してはある程度の反応性がなおも観測され、CSF中では反応性が低く、このことは、タウ1の結合が非選択的である、但しS199のリン酸化は報告されているタウ1エピトープ(192~199)の端部には存在することを示唆している。
【0106】
剖検までの死後の期間(PMI)中にホスファターゼ活性が脳抽出物中で測定したタウのリン酸化を減少させる可能性があることから、本発明者らは、CSF及び脳抽出物中で一般的に見られるリン酸化率に対するPMIの影響を調べた。PMIの範囲が5~16時間の被験者から採取したタウ病態のない10名の脳の試料(中前頭回)を分析した。最初に分析した脳抽出物のいずれについても、PMIは16時間を超えてはいなかった。PMIと、T181、S199、S202、S214、T217、T231、及びS404部位で測定したリン酸化率との間に有意な関連性は見られなかった(スピアマン検定、95%信頼区間、表示せず)。
【0107】
実施例4 CSF中におけるAD特異的p-タウの変化
ADにおいて一般的に報告されているCSFのp-タウの増加は、2つの潜在的な作用、すなわち、1)タウのリン酸化の状態に関係なくタウの全体的な増加、または2)特定の部位における高リン酸化の増加の結果である可能性がある。非リン酸化タウを用いてp-タウのシグナルまたはレベルを正規化すると、タウ総量の全体的な変化とは独立に生じる、特定の部位におけるリン酸化の化学量論の変化(すなわち、正常なCSFのタウまたは脳のタウと比較しての高リン酸化または低リン酸化)を定量化することができる。本発明者らが最近実証したように、ADにおいては可溶性タウの産生が増加し、該産生はアミロイドプラークと相関している。したがって、量だけでなく、リン酸化の比率を制御することが理解の鍵となる。ADのCSF中において、pT181、pT217、pT231、pT205、pS208、及びpS214が、0N特異的pT111と同様に高リン酸化された(図13)。pT153及びpT175は非ADにおいては検出されず、ADにおいてはわずかに増加している可能性がある。非ADと比較して有意な高リン酸化を示す部位は、pT181(p=0.010)、pS214(p=0.005)、及びpT217(p=0.003)であった。pT181、pS214、及びpT217は、それぞれ約1.2倍、1.6倍、及び4倍のリン酸化の増加を示した。興味深いことに、すべての監視対象部位が高リン酸化さたわけではない。すなわち、pS199/S199は有意に変化しておらず、pS202/S202は有意に低く(p=0.030)、約1/1.2に減少した。
【0108】
CSFを16時間インキュベートすることによりリン酸化比のロバスト性を評価した。インキュベーションは、非ADのCSFとADのCSFとの間で観測されたタウのリン酸化比の差に対して有意な影響を与えなかった(図15)。さらに、インキュベーション後にCSF中でスパイクした組換え15N-タウのリン酸化が検出されないことにより、CSFのタウ上にキナーゼ活性はないことを確認した(図示せず)。
【0109】
実施例1~4に関する考察
p-タウ測定におけるPRMの技術的進歩-現在までの最も包括的な、正常な脳組織及びCSFにおけるp-タウの定性及び定量分析を記載する。本発明者らの手法は、少量がリン酸化される潜在的な部位を捕捉していなかった可能性がある、タウのリン酸化に関するこれまでのDDA法による研究とは対照的である。しかしながら、本発明者らの手法は、高感度のPRMモードでのターゲットMSを用いて、少量のリン酸化を検出及び定量化する。リン酸化部位の特定は、LC-MS/MSパターンを注意深く手動で判読し、試験対象の各リン酸化ペプチドの特異的なイオン断片の共溶出を識別することに依拠している。以前の研究において、脳のタウのリン酸化については、主としてPHF由来の高リン酸化タウに富む不溶性抽出物において試験が行われており、これまでの最も詳細な研究では、正常なヒトタウタンパク質中に9ヶ所のリン酸化部位が報告されている(Hanger et al. 2007)。本発明者らの詳細なPRMデータ解析により、29個を超えるリン酸化残基が検出され、それらの大部分は存在量が非常に少ないものであった。実際、既報の9ヶ所の部位は、当該タンパク質中の最も存在量の多い修飾の中にあった。PRM分析を脳と比較して大幅に少ない量で存在する正常なCSFのタウに適用した結果、最初に9ヶ所のリン酸化部位が検出され、ADのCSF中でさらに3ヶ所の部位が検出された。
【0110】
本発明者らは、検出されたリン酸化部位の数が有意に増加したことに加えて、高感度PRMスクリーニングにより、全体のタウ濃度とは独立に、タウのリン酸化率または化学量論を定量的に評価することを可能にする方法を示した。この概念は見過ごされがちであるが、CSFのp-タウの絶対濃度が、全体的なタウのイソ型濃度の増加のみに起因し、相対的なリン酸化タウの存在量の変化には起因しないで増加する可能性がある場合、ADにおける変化を評価する上で重要である。本研究のリン酸化率測定によって初めて、タンパク質全体にわたって、種々のコンパートメント中(細胞内である脳対細胞外であるCSF)で、及び種々の病的状態(AD対非AD)において、リン酸化率の変化の程度及び分布の比較(高リン酸化対低リン酸化)が可能になった。
【0111】
PRMスクリーニングプロセスのいくつかの注意点としては、検出の処理速度が低いこと、及びp-タウ種または本研究において仮定していない他の翻訳後修飾(PTM)が失われる危険性がある。MSデータからの同定をより広い検証または臨床コホートにさらに使用して、スケジュール化したLC-MS法を設計し、多重化及び処理速度を向上させることができる(Gillette and Carr, 2013)。AspNなどの他のプロテアーゼによって、トリプシン消化物とは異なる一組のタウペプチド及びp-タウペプチドが与えられる場合があり、これによりタウのより広い範囲、すなわちC末端ドメインの網羅が可能になる(Hanger et al. 1998;Sato et al. 2018)。本研究では考慮していない2ヶ所または3ヶ所でリン酸化されたタウペプチドをさらにスクリーニングすることによって、上記探索をさらに精細化することができるが、部位のリン酸化の生物学的調整がない限り、上記リン酸化タウペプチドの存在量はごくわずかである。
【0112】
タウのプロジェクションドメイン上のリン酸化部位のクラスターの特定-本発明者らは、別のスプライシング依存性ペプチドを含むタウのN末端プロジェクションドメイン上に、これまで報告されていないリン酸化残基のクラスターを見出した。興味深いことに、このドメインは、ヒト脳の不溶性画分中のPHFにおいて広範囲にリン酸化されることがこれまで知られていなかった(Funk et al., 2014;Hanger et al., 2007;Russell et al., 2016;Thomas et al., 2012)。このクラスターは、マウス脳中のマウスタウタンパク質について実施された最近の包括的な研究(Morris et al., 2015)においても広範にはキャラクタライズされていなかった。これらの食い違いは、わずかな特異的なMS/MS断片及び/またはLC上での微妙な保持時間のシフトによってのみ識別可能なリン酸化ペプチドの複雑な混合物をキャラクタライズすることの困難さに帰される可能性がある。例えば、S46は、正常なヒトタウ中のこのドメインにおいて既報の唯一のリン酸化部位である(Hanger et al. 1998)。しかしながら、本発明者らはこの種に関する特異的なシグナルを検出しておらず、この種は、探索アルゴリズムによって、類似する断片化パターンを共有する、隣接するT50またはT52のリン酸化部位と混同された可能性がある。この点に関して、各リン酸化部位に対応するLC-MS/MSパターンを明確に解釈かつ解読するには手動での精査が不可欠である。この食い違いの別の可能性のある説明としては、MTBRドメイン、ミッドドメイン、及びC末端と比較して、PHF中のN末端ドメインの存在量が比較的に少ない(Mair et al., 2016)ことである可能性がある。
【0113】
このN末端プロジェクションドメインは最近、隣接する微小管(MTBRドメインを介してタウに連結している)が互いに接近するのを妨げる反発バリアの主要な成分の一部として帰属された(Chung et al., 2016)。この配列は多数の酸性残基を含有しており、リン酸化の増加は全体的な酸性度の増加に寄与し、上記反発バリアを強める可能性がある。エクソン2-3の選択的スプライシングによって誘導される可変量のN末端伸長ととともに、タウのリン酸化は、タウ/タウN末端相互作用及び微小管の分子間距離を調節する可能性がある。
【0114】
脳対CSFにおける異なるp-タウプロファイルの生物学的意義-タウは主として微小管の安定性に機能する細胞内タンパク質であり、従来から神経損傷または細胞死の際に専ら細胞外に放出されると考えられていた。しかし、最近の研究では、タウは生理学的及び病理学的条件下で規制された形態で分泌されることが示唆されている(Karch et al. 2012;Yamada et al. 2014)。本発明者らは最近、可溶性の脳のタウ及びCSFのタウのプロファイルを、並行してニューロンモデルにおける細胞内及び細胞外のタウプロファイルならびに代謝と比較することによって、タウ分泌がトランケートされたタウ及びp-タウを含むタウのイソ型の異なる代謝回転時間を伴う能動的なプロセスであることを示した(Sato et al., 2018)。脳とCSFの間でのp-タウプロファイルの比較により、この能動的な分泌とタウのリン酸化との関連性を理解することにより、ADの病因についての可能性のある識見を得られる。
【0115】
本発明者らは、CSF中で濃縮されたp-タウのイソ型は、微小管に対する親和性が低く、分泌される可能性が高いと推測している。逆に、CSF中で希薄化されたp-タウのイソ型は、ニューロン内に留まる及び/または切断を回避する傾向が高くなる可能性がある。本発明者らの結果は、CSF中では脳抽出物と比較して、T217、T231、T153、及びT111などのいくつかのリン酸化残基が有意に濃縮されていることを示している。すべてが、プロリン指向性の部位であり、GSK-3βプロテインキナーゼの潜在的な基質であり、キナーゼ依存性の調節を受ける可能性がある。pS214は、pT217とは異なり、CSF中においては脳に比較して上昇してはいなかった。このpT217のpS214に対する細胞外濃縮は、本発明者らが以前これらのイソ型について細胞内で特定した動態学的な違い(Sato et al., 2018)と一致し、pT217の代謝回転時間は非リン酸化タウ及びタウ-pS214よりも短い。あるいは、脳抽出物中のタウ部位の一部に対して観測された、CSFとの比較におけるリン酸化の減少は、PMI中に生じる部分的な脱リン酸化にも起因する可能性がある(Matsuo et al., 1994)。かかる減少は5~16時間のPMIの範囲内では観測されなかったが、死亡とこの調査した期間との間のリン酸化比の変化を排除することはできない。質量分析によって脳生検由来のこれらのタウ部位の脱リン酸化の動態学を評価することは、将来のCSF/脳の比較結果に対するこの現象の影響に対処するのに役立つこととなろう。脳のタウのリン酸化の測定に影響を及ぼす潜在的な脳ホスファターゼによるバイアスを考慮することによって、死後に採取される脳抽出物よりもCSFのタウのリン酸化状態の方が、インビボでのニューロン中のタウのリン酸化状態を反映している可能性がより高いということが裏付けられることとなろう。しかしながら、CSFのタウのトランケーションのために、インビボでのCSF中のタウのリン酸化の監視は、主としてタウのミッドドメイン中で検出される部位に限定されることとなる。
【0116】
逆に、CSF中ではpS202が有意に低く、ADにおいてはpS199及びpS202が上昇しておらず、このことは、これらのリン酸化によってタウのニューロン内への隔離が促進されている可能性があることを示している。T181はCSF及び脳中で等しくリン酸化される。pT205及びpS208は専らCSFのタウ中で検出され、脳中の可溶性タウタンパク質では検出されなかった。このことは、S202、T205、及びS208における3ヶ所でのリン酸化が、脳中のタウ凝集のブラーク・ステージをキャラクタライズするために一般的に使用される抗AT8抗体(Malia et al., 2016)によって認識される(Braak and Braak., 1995)ことを考慮すると興味深い。実際、MSによってPHF中でpS208が検出された(Hanger et al., 1998)。本発明者らの研究において、正常な可溶性の脳のタウ中にはpT205及びpS208は存在せず、これにより正常な脳のタウ中でAT8の免疫反応性が検出される可能性はないことが確認された。さらに、最近の研究では、pT205及びpS208が、pS202とともにタウの自己凝集につながる複数の組み合わせでのリン酸化パターンとして関係しているとされている(Despres et al., 2017)。ADにおいて、CSF中にpT205及びpS208が排他的に存在すること、ならびに両方の部位でリン酸化率がさらに高まっていることは、ニューロンが病因となる傾向のあるこれらのp-タウ種を細胞から除去する潜在的な保護的クリアランスの機序を示している可能性がある。ADの脳中で濃縮されたAT8陽性神経原線維変化において、pS202がpT205及びpS208とともに凝集すると、ADのCSFにおいてpS202が同時に減少することは、関連するイソ型の隔離の増加にも対応している可能性がある。あるいは、脳抽出物において、pT205及びpS208上でのリン酸化が存在しないことは、PMIの間に生じるホスファターゼによるそれらの特異的な分解に起因する可能性がある。脳生検から採取したタウについて報告された、AT8の反応性の急速な消失(<3時間)はこの考えを裏付けている(Matsuo et al., 1994)。したがって、pT205及びpS208を効率的に標的とするかかるホスファターゼ活性は、ニューロンにおけるAT8陽性物質の長い半減期を妨げる更なる機序と見なすこともできる。したがって、ADのCSF中で見られるpT205及びpS208の増加は、この保護的機序の潜在的に病理学的な低下の可能性を示しているのであろう。最後に、ADの脳中で濃縮されたAT8陽性神経原線維変化において、pS202がpT205及びpS208ととともに凝集すると、ADのCSFにおいてpS202が同時に減少することは、関連するイソ型の隔離の増加にも対応している可能性がある。
【0117】
本発明者らは、正常な脳由来の可溶性画分中でMTBRドメイン由来のリン酸化残基を確証的に検出することはできなかった。MTBRドメイン上のリン酸化部位は、タウの微小管に対する親和性を低下させるとされている(Biernat et al., 1993)。正常なタウ中にかかるリン酸化が存在しないことは、PHF中に見られるこれらの修飾が異常であることを裏付ける可能性がある(Hanger et al., 2007)。MTBRドメインはタウのトランケーション後に細胞内で分解した可能性が高く、したがって、この研究で用いた免疫捕獲法では回収されなかったことから、CSFのタウのトランケーションによってインビボでのリン酸化の変化の試験は制限される(Kanmert et al., 2015)。
【0118】
ADバイオマーカーとしてのCSFのp-タウ率-本発明者らは、検出されたリン酸化部位の数が有意に増加したことに加えて、全体のタウ濃度とは独立に、タウのリン酸化率または化学量論を定量化することが可能な方法を示した。この概念は見過ごされがちであるが、CSFのp-タウの絶対濃度が全タウの濃度(すなわちpT181)の増加のみに起因し、相対的なリン酸化率自体の増加には起因しないで増加する可能性がある場合、ADにおけるCSFのタウのリン酸化の変化を評価する上で重要である。この研究のリン酸化率測定によって初めて、タンパク質全体にわたって、種々のコンパートメント中(細胞内である脳対細胞外であるCSF)で、及び種々の病的状態(AD対非AD)において、リン酸化率の変化の程度及び分布の比較(高リン酸化対低リン酸化)が可能になった。将来的にこの方法を用いて、免疫化学を使用して最近実施されたように(Neddens et al. 2018)、脳領域及びブラーク・ステージの全体にわたる多数の部位におけるADの脳のリン酸化の変化を調べることができる可能性がある。
【0119】
本発明者らは本研究において、ADのCSF中のタウは一般に、非ADのCSFと比較して高リン酸化されることを示した。しかしながら、高リン酸化の程度は部位依存的である。T111、T205、S208、及びT217はT181よりも高リン酸化されており、T181はADのp-タウバイオマーカーとして使用される最も一般的に測定される標的である(Fagan et al. 2009)。本発明者らは、専らADのCSF中で見られるT153のリン酸化も特定した。興味深いことに、ADのCSF中で高リン酸化されていることが判明している部位は、脳と比較して正常なCSF中で既に有意に増加している部位に対応している(すなわち、T111、T205、S208、及びT217、ならびに程度はより低いがT231)。このことは、AD病態が、タウのCSF中への放出中に特定のp-タウのイソ型が濃縮されることに寄与する細胞機序を悪化させることを示していよう。全体として、これらの部位上で見られるこの大きな変化により、本発明者らは、これらの部位をAD検出のための敏感なバイオマーカーとして使用することを想定する。本発明者らの研究は限られた数のCSFプールに依存しており、将来より大きなCSFコホートに対して研究を行えば、p-タウの変化と疾患の経過にわたる脳アミロイドーシス及びタウの凝集との潜在的な関係をいっそう確立することになろう。また、PSP、CBD、及びFTDなどのAD以外のタウオパチーにおいて、何らかの特定のp-タウプロファイルの変化があるかどうかを問うことも可能である。あるいは、この方法は、インビボ及びインビトロにおいて異なるキナーゼの活性を追跡するために使用することもでき、また、異常なタウ代謝を標的とする新薬を評価するための有望なツールを提供する可能性もある。
【0120】
実施例1~4の方法
脳の可溶性タウの抽出-被験者が関与する脳及びCSFの研究は、the Washington University Human Studies Committee及びthe General Clinical Research Centerによる認可を受けた。全ての被験者から、研究に加わる前に書面によるインフォームドコンセントを得た。脳の可溶性タウを既報(Sato et al., 2018)のように抽出した。簡単に説明すると、既報(Sato et al., 2018)に記載のアミロイド及びタウの病態がない対照由来の冷凍したヒト脳組織をWashington University School of Medicine (St. Louis, MO)のKnight Alzheimer’s Disease Research Center (ADRC)から入手した。サルコシル可溶性タウを、文献(Hanger et al. 1998)に報告されているように、推定上のタウ凝集体から超遠心分離によって分離し、プールした。冷凍したヒト脳(200~400mg、前頭部)を、氷上のTris-HClバッファー(25mM Tris-HCl、150mM NaCl、10mM EDTA、10mM EGTA、1mM DTT、ホスファターゼ阻害剤カクテル3、Rocheプロテアーゼ阻害剤、pH7.4、最終的に3.25mL/mg-組織)中で均質化した。ホモジネートを4℃、11,000×gで60分間遠心分離した。上清を1% サルコシル中で60分間可溶化し、100,000×gで2時間遠心分離した。サルコシル可溶性画分をプールし、50uLの画分を0.5% ヒト血漿で10倍希釈し、その後免疫沈降を行った。脳/CSFの比較のために、免疫精製前に脳ライセートプールを500~8000倍希釈してCSFのタウレベルに合わせた。
【0121】
CSFのタウの抽出-ヒトCSFを、アミロイド陰性かつ認知が正常な(CDR=0)対照(n=47、年齢60歳超)及びアミロイド陽性かつCDR>0のAD患者(n=33、年齢60歳超)を含む80名の被験者のコホートからプールした。上記対照群及びAD群から500uLのCSFアリコートのそれぞれ5つ及び7つのプールを形成した。最初の採取時に、CSFを1,000×gで10分間遠沈して細胞片を除去し、直ちに-80℃で冷凍した。実験中にプロテアーゼ阻害剤カクテルを添加した。タウを、一部変更を加えた上で既報(Sato et al., 2018)のように、免疫沈降及び脱塩した。簡単に説明すれば、CNBr活性化セファロースビーズ(GE Healthcare 17-0430-01)を、ビーズg当り3mgの抗体の濃度で、抗体タウ1及びHJ8.5と別個に架橋した。試料を、試料mL当り、それぞれの目的の配列について、10fmolのリン酸化タウ及び100fmolの非リン酸化タウに相当するAQUAペプチド(ThermoFisher Scientific)でスパイクする。タウ及びp-タウの濃度は、これらの内部標準を用いて計算する。可溶性タウは、界面活性剤(1% NP-40)、カオトロピック試薬(5mM グアニジン)、及びプロテアーゼ阻害剤(Roche Complete Protease Inhibitor Cocktail)中で免疫沈降させた。セファロースビーズに結合させた抗タウ1及びHJ8.5抗体を、不活化セファロースビーズ中でそれぞれ10倍及び5倍希釈し、30uLの抗体ビーズの50%スラリーを上記溶液ととともに室温で90分間回転させた。上記ビーズを25mM 重炭酸トリエチルアンモニウムバッファー(TEABC, Fluka 17902)中で3回洗浄した。結合したタウをビーズ上で400ngのMSグレードのトリプシン(Promega, V5111)を用い、37℃で16時間消化した。消化物をTopTip C18(Glygen, TT2C18.96)上に担持し、脱塩し、製造元の指示に従って溶出させた。溶出したペプチドを真空遠心分離(CentriVap Concentrator Labconco)で乾燥し、25uLの2% アセトニトリル及び0.1% ギ酸のMSグレード水の溶液中に再懸濁させた。
【0122】
質量分析-上記ペプチド再懸濁液の5uLアリコートをnano-Acquity LCに注入してMS分析を行った。nano-Acquity LC(Waters Corporation, Milford, MA)にはHSS T3 75um×100um、1.8umカラムを取り付けてあり、流速0.5uL/分の溶液A及びBの勾配を用いてペプチドを分離した。溶液Aは0.1% ギ酸のMSグレードの水の溶液で構成し、溶液Bは0.1% ギ酸のアセトニトリル溶液で構成した。2%~20%の溶液Bの勾配で28分間、次いで20%~40%の溶液Bの勾配でさらに13分間、ペプチドをカラムから溶出させた後、さらに3分間で85%の溶液Bまで上昇させてカラムを洗浄した。Orbitrap Fusion LumosにNanospray Flexエレクトロスプレーイオン源(ThermoFisherS cientific, San Jose, CA)を装着した。10um SilicaTipエミッター(New Objective, Woburn, Ma)からイオン源中にスプレーされたペプチドイオンが四重極を標的とし、この四重極において分離された。次に、これらをHCDによって断片化し、Orbitrapでイオン断片を検出した(分解能60,000、質量範囲150~1200m/z)。ペプチドプロファイリングのための親水性ペプチド(SSRcalc<9、すべてロイシンなし)の監視を、HSS T3 300um×100um、1.8mmカラム上、4ul/分の流速、2%~12%の溶液Bの勾配を行う溶出、及び30mmSilicaTipエミッター上で動作するスプレーで実施した。
【0123】
p-タウペプチド検出のためのPRMの原理-ヒト脳の可溶性画分などのタウが濃縮された生物学的抽出物由来のタンパク質の消化によって、仮定するリン酸化部位を含有するタウペプチドを生成させた。これらのペプチドを、ThermoFisher Orbitrap Lumosなどの四重極-Orbitrap装置を使用したターゲットMS分析によってスクリーニングする。それぞれのリン酸化ペプチドについて、前駆体質量、衝突エネルギー、または予想保持時間などのターゲットMSパラメータの選択をインシリコで行い、当該試料中における存在量が大幅に多い対応する未修飾ペプチドについて測定した生物物理学的特性を用いて精密化した。リン酸化ペプチドを検出するために、仮定する前駆体質量を含む質量ウィンドウを選択するように四重極を設定する。前駆体の衝突後、Orbitrap中で、クロマトグラフィーの溶出時間全体にわたって生成したすべての断片を同時に測定する。潜在的にリン酸化されるペプチドは、得られたデータの後解析で探索することができる。Skylineソフトウェア(MacCoss Lab, University of Washington, WA)を使用してLC-MS/MSデータを抽出した。スクリーニングされている仮定するペプチドは、予測されるMS/MS断片から抽出される質量の厳密な共溶出によって構成されるLC-MS/MSフィンガープリントとして検出される(図2)。従来のDDAまたはターゲットMS法に対する本PRM法の利点は、MS機器装置を可能な範囲で最高の感度の構成で使用し、検出能力を維持することができる点である。
【0124】
スクリーニング時の四重極-Orbitrap装置の最大感度は少量のイオン断片を検出するために不可欠であり、リン酸化部位の位置の特定ととともにリン酸化ペプチドの同定を容易にする。PRM測定の感度は、主としてOrbitrapアナライザー中に移送された対象である標的由来のイオンの数に依存する。この数は、1つのMS/HRMSスキャンを取得するために用いられる充填時間を長くすることによって増加した。この充填時間は、イオンビームからイオントラップ装置に標的である前駆体質量を蓄積させるために費やす時間に対応する。次いで蓄積した前駆体を断片化し、生成した断片をOrbitrap中に移送して分析する。したがって、充填時間は、クロマトグラフィーのシグナルを記述するのに十分なデータポイントを取得するのに十分なMSスキャン速度(すなわち、クロマトグラフピーク当り8~15スキャン)の必要性によって制限される最大値に設定される。調査した各リン酸化ペプチドに対するPRMスクリーニングの充填時間は通常1秒に設定した。
【0125】
充填時間はトラップが飽和する危険性によっても制限される。このトラップ飽和は、同一のスキャン内でサンプリングされるイオンが多過ぎて、これがOrbitrapに移送される場合に発生し、空間電荷の影響によって質量測定が不正確になる。かかる飽和を回避するために、マトリクス上の標的を濃縮する適切な試料精製(免疫精製)とともに、狭い前駆体分離(0.7Da)を選択して、潜在的な近同重体干渉(near-isobaric interference)の寄与の可能性を低減した。
【0126】
PRMによる検出実験の特異性は、LC-Q Orbitrapシステムの分解能に依存する。分解能は種々の分析パラメータによって向上させることができ、最終的な目標は、標的ペプチドの干渉のないLC-MS/MSフィンガープリントを得ることである。これにより、誤検出シグナルによるあいまいな断片の帰属の危険性が制限される。p-タウを優先的に濃縮する試料の精製によっても、少量のリン酸化タウペプチドの検出における特異性を向上させることができる。クロマトグラフピーク容量及び分離能が高いと共溶出の可能性が制限される。前駆体に対する四重極分離ウィンドウが狭いと、MS/MSスペクトル上での干渉の確率が低下し、同時に上記のトラップ飽和の危険性が制限される。Orbitrapの高い解像度及びアナライザーの較正によりデータ処理中に質量断片を正確に抽出することが可能になり、これによりトランジション干渉の危険性が制限される(Gallien et al., 2012;Peterson et al., 2012)。Orbitrap解像度の選択(60k)は、より多くの取得時間を要する高解像度と、クロマトグラフィーの取得と両立する妥当なスキャン速度との間のバランスである。
【0127】
タウの部位特異的リン酸化率の定量評価-本発明者らは、脳及びCSF由来のタウにおける特定部位のリン酸化の相対的な量を定量的に評価するために、検出されたそれぞれの部位のリン酸化の程度を測定した。本発明者らはこの目的のために、以下の3種の方法を用いた。1)リン酸化ペプチド異性体間の相対比較:トランジションイオン由来のシグナルの比較を用いて、各リン酸化部位を特定する。これにより、同一の配列を共有する各リン酸化ペプチドの相対存在量を推定することができる。2)リン酸化ペプチドの非リン酸化ペプチドを基準とした正規化:各リン酸化ペプチドに特異的なLC-MS/MSトランジションを、非リン酸化ペプチドからの対応するトランジションと比較する。得られた各リン酸化部位の比をタンパク質配列全体にわたって比較することができる。この方法は、非リン酸化ペプチドとリン酸化ペプチドの間の断片化効率の違いによってバイアスされる可能性がある。この方法は、リン酸化部位がトリプシン未切断の一部である場合には適用することできない。3)各リン酸化ペプチド及び非リン酸化ペプチドの標識した合成内部標準(例えばAQUA)を使用した絶対的定量:リン酸化及び非リン酸化標準由来のシグナルを用いて内部での比率を明らかにする。この方法は、比較する各ペプチドの断片化特異性を考慮に入れるが、それぞれの監視対象の種のペプチド合成を要する。
【0128】
この研究においては、トリプシン未切断を含むリン酸化部位を除いて、上記第二の方法を利用してリン酸化率を計算した。本発明者らはまた、合成リン酸化ペプチドが入手可能であった場合の、脳及びCSF抽出物の両方に存在した1組の限定されたリン酸化部位(すなわち、T175、T181、S199、S202、T205、T217、及びT231)、ならびに脳のみに存在した1つの部位(S404)に、上記第3の方法(AQUA正規化)も適用した(表1)。AQUA測定に関しては、脳抽出物を、CSFのタウのレベルと同等となるように500~8000倍希釈した。この希釈により、脳中とCSF中におけるタウペプチドレベルに対するAQUA内部標準の大幅に異なる比率から生じる可能性のあるマトリクス効果が最小限に抑えられた。上記第一の方法は、多数のリン酸化残基を含有するp-タウ配列に由来する複雑なLC-MS/MSパターンの初期の段階での解釈に使用した。
【0129】
統計学-特に指定がない限り、データは平均値±SDとして表す。データの正規分布を確認した後、タウのリン酸化率を比較するために、一元配置分散分析に続いて事後解析(チューキー検定)を実施した。更なる統計学的解析は、GraphPad Software Inc.のGraphPadバージョン8.0.1(244)を使用して完了した。関連性のある群間の統計学的有意性は、両側、対応のないマン・ホイットニーt検定によって判定した。有意性は0.01及び0.05レベルで評価した。
【0130】
実施例1~4の引用文献
Alonso, A. del C., Zaidi, T., Novak, M., Grundke-Iqbal, I., and Iqbal, K. (2001). Hyperphosphorylation induces self-assembly of τ into tangles of paired helical filaments/straight filaments. PNAS 98, 6923-6928. doi:10.1073/pnas.121119298.
【0131】
Augustinack, J. C., Schneider, A., Mandelkow, E.-M., and Hyman, B. T. (2002). Specific tau phosphorylation sites correlate with severity of neuronal cytopathology in Alzheimer’s disease. Acta Neuropathol 103, 26-35. doi:10.1007/s004010100423.
【0132】
Barthelemy, N. R., Fenaille, F., Hirtz, C., Sergeant, N., Schraen-Maschke, S., Vialaret, J., et al. (2016). Tau Protein Quantification in Human Cerebrospinal Fluid by Targeted Mass Spectrometry at High Sequence Coverage Provides Insights into Its Primary Structure Heterogeneity. J. Proteome Res. 15, 667-676. doi:10.1021/acs.jproteome.5b01001.
【0133】
Biernat, J., Gustke, N., Drewes, G., Mandelkow, E.-, and Mandelkow, E. (1993). Phosphorylation of Ser262 strongly reduces binding of tau to microtubules: Distinction between PHF-like immunoreactivity and microtubule binding. Neuron 11, 153-163. doi:10.1016/0896-6273(93)90279-Z.
【0134】
Braak, H., and Braak, E. (1995). Staging of alzheimer’s disease-related neurofibrillary changes. Neurobiology of Aging 16, 271-278. doi:10.1016/0197-4580(95)00021-6.
【0135】
Chung, P. J., Song, C., Deek, J., Miller, H. P., Li, Y., Choi, M. C., et al. (2016). Tau mediates microtubule bundle architectures mimicking fascicles of microtubules found in the axon initial segment. Nature Communications 7, 12278. doi:10.1038/ncomms12278.
【0136】
Despres, C., Byrne, C., Qi, H., Cantrelle, F.-X., Huvent, I., Chambraud, B., et al. (2017). Identification of the Tau phosphorylation pattern that drives its aggregation. PNAS 114, 9080-9085. doi:10.1073/pnas.1708448114.
【0137】
Funk, K. E., Thomas, S. N., Schafer, K. N., Cooper, G. L., Liao, Z., Clark, D. J., et al. (2014). Lysine methylation is an endogenous post-translational modification of tau protein in human brain and a modulator of aggregation propensity. Biochem J 462, 77-88. doi:10.1042/BJ20140372.
【0138】
Gallien, S., Bourmaud, A., Kim, S. Y., and Domon, B. (2014). Technical considerations for large-scale parallel reaction monitoring analysis. Journal of Proteomics 100, 147-159. doi:10.1016/j.jprot.2013.10.029.
【0139】
Gallien, S., Duriez, E., Crone, C., Kellmann, M., Moehring, T., and Domon, B. (2012). Targeted Proteomic Quantification on Quadrupole-Orbitrap Mass Spectrometer. Molecular & Cellular Proteomics 11, 1709-1723. doi:10.1074/mcp.O112.019802.
【0140】
Gillette, M. A., and Carr, S. A. (2013). Quantitative analysis of peptides and proteins in biomedicine by targeted mass spectrometry. Nature Methods 10, 28-34. doi:10.1038/nmeth.2309.
【0141】
Hanger, D. P., Betts, J. C., Loviny, T. L., Blackstock, W. P., and Anderton, B. H. (1998a). New phosphorylation sites identified in hyperphosphorylated tau (paired helical filament-tau) from Alzheimer’s disease brain using nanoelectrospray mass spectrometry. J. Neurochem. 71, 2465-2476.
【0142】
Hanger, D. P., Betts, J. C., Loviny, T. L. F., Blackstock, W. P., and Anderton, B. H. (1998b). New Phosphorylation Sites Identified in Hyperphosphorylated Tau (Paired Helical Filament-Tau) from Alzheimer’s Disease Brain Using Nanoelectrospray Mass Spectrometry. Journal of Neurochemistry 71, 2465-2476. doi:10.1046/j.1471-4159.1998.71062465.x.
【0143】
Hanger, D. P., Byers, H. L., Wray, S., Leung, K.-Y., Saxton, M. J., Seereeram, A., et al. (2007). Novel Phosphorylation Sites in Tau from Alzheimer Brain Support a Role for Casein Kinase 1 in Disease Pathogenesis. Journal of Biological Chemistry 282, 23645-23654. doi:10.1074/jbc.M703269200.
【0144】
Hasegawa, M., Morishima-Kawashima, M., Takio, K., Suzuki, M., Titani, K., and Ihara, Y. (1992). Protein sequence and mass spectrometric analyses of tau in the Alzheimer’s disease brain. J. Biol. Chem. 267, 17047-17054.
【0145】
Iqbal, K., Alonso, A. del C., Chen, S., Chohan, M. O., El-Akkad, E., Gong, C.-X., et al. (2005). Tau pathology in Alzheimer disease and other tauopathies. Biochim. Biophys. Acta 1739, 198-210. doi:10.1016/j.bbadis.2004.09.008.
【0146】
Kanmert, D., Cantlon, A., Muratore, C. R., Jin, M., O’Malley, T. T., Lee, G., et al. (2015). C-Terminally Truncated Forms of Tau, But Not Full-Length Tau or Its C-Terminal Fragments, Are Released from Neurons Independently of Cell Death. J. Neurosci. 35, 10851-10865. doi:10.1523/JNEUROSCI.0387-15.2015.
【0147】
Karch, C. M., Jeng, A. T., and Goate, A. M. (2012). Extracellular Tau Levels Are Influenced by Variability in Tau That Is Associated with Tauopathies. J. Biol. Chem. 287, 42751-42762. doi:10.1074/jbc.M112.380642.
【0148】
Kopke, E., Tung, Y. C., Shaikh, S., Alonso, A. C., Iqbal, K., and Grundke-Iqbal, I. (1993). Microtubule-associated protein tau. Abnormal phosphorylation of a non-paired helical filament pool in Alzheimer disease. J. Biol. Chem. 268, 24374-24384.
【0149】
Liu, W.-K., Moore, W. T., Williams, R. T., Hall, F. L., and Yen, S.-H. (1993). Application of synthetic phospho- and unphospho- peptides to identify phosphorylation sites in a subregion of the tau molecule, which is modified in Alzheimer’s disease. Journal of Neuroscience Research 34, 371-376. doi:10.1002/jnr.490340315.
【0150】
Mair, W., Muntel, J., Tepper, K., Tang, S., Biernat, J., Seeley, W. W., et al. (2016). FLEXITau: Quantifying Post-translational Modifications of Tau Protein in Vitro and in Human Disease. Anal. Chem. 88, 3704-3714. doi:10.1021/acs.analchem.5b04509.
【0151】
Malia, T. J., Teplyakov, A., Ernst, R., Wu, S.-J., Lacy, E. R., Liu, X., et al. (2016). Epitope mapping and structural basis for the recognition of phosphorylated tau by the anti-tau antibody AT8. Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics 84, 427-434. doi:10.1002/prot.24988.
【0152】
Matsuo, E.S., Shin, R-W., Billingsley, M.L., Van deVoorde, A., O’Connor, M., Trojanowski, J.Q., et al. (1994) Biopsy-derived adult brain tau is phosphorylated at many of the same sites as Alzheimer’s disease paired helical filament tau. Neuron 13, 989-1002.
【0153】
Morris, M., Knudsen, G. M., Maeda, S., Trinidad, J. C., Ioanoviciu, A., Burlingame, A. L., et al. (2015). Tau post-translational modifications in wild-type and human amyloid precursor protein transgenic mice. Nature Neuroscience 18, 1183-1189. doi:10.1038/nn.4067.
【0154】
Neddens, J., Temmel, M., Flunkert, S., Kerschbaumer, B., Hoeller C., Loeffler, T. et al. (2018). Phosphorylation of different tau sites during progression of Alzheimer’s disease. Acta Neuropathogica Communications 6, 52. doi:10.1186/s40478-018-0557-6
【0155】
Peterson, A. C., Russell, J. D., Bailey, D. J., Westphall, M. S., and Coon, J. J. (2012). Parallel Reaction Monitoring for High Resolution and High Mass Accuracy Quantitative, Targeted Proteomics. Molecular & Cellular Proteomics 11, 1475-1488. doi:10.1074/mcp.O112.020131.
【0156】
Russell, C. L., Mitra, V., Hansson, K., Blennow, K., Gobom, J., Zetterberg, H., et al. (2016). Comprehensive Quantitative Profiling of Tau and Phosphorylated Tau Peptides in Cerebrospinal Fluid by Mass Spectrometry Provides New Biomarker Candidates. Journal of Alzheimer’s Disease 55, 303-313. doi:10.3233/JAD-160633.
【0157】
Sato, C., Barthelemy, N. R., Mawuenyega, K. G., Patterson, B. W., Gordon, B. A., Jockel-Balsarotti, J., et al. (2018). Tau Kinetics in Neurons and the Human Central Nervous System. Neuron 97, 1284-1298.e7. doi:10.1016/j.neuron.2018.02.015.
【0158】
Scholl, M., Lockhart, S. N., Schonhaut, D. R., O’Neil, J. P., Janabi, M., Ossenkoppele, R., et al. (2016). PET Imaging of Tau Deposition in the Aging Human Brain. Neuron 89, 971-982. doi:10.1016/j.neuron.2016.01.028.
【0159】
Thomas, S. N., Funk, K. E., Wan, Y., Liao, Z., Davies, P., Kuret, J., et al. (2012). Dual modification of Alzheimer’s disease PHF-tau protein by lysine methylation and ubiquitylation: a mass spectrometry approach. Acta Neuropathol 123, 105-117. doi:10.1007/s00401-011-0893-0.
【0160】
Villemagne, V. L., Fodero-Tavoletti, M. T., Masters, C. L., and Rowe, C. C. (2015). Tau imaging: early progress and future directions. The Lancet Neurology 14, 114-124. doi:10.1016/S1474-4422(14)70252-2.
【0161】
Wang, Y., and Mandelkow, E. (2016). Tau in physiology and pathology. Nat Rev Neurosci 17, 22-35. doi:10.1038/nrn.2015.1.
【0162】
Yamada, K., Holth, J. K., Liao, F., Stewart, F. R., Mahan, T. E., Jiang, H., et al. (2014). Neuronal activity regulates extracellular tau in vivo. J. Exp. Med. 211, 387-393. doi:10.1084/jem.20131685.
【0163】
実施例5 脳アミロイドの病態はタウの高リン酸化の部位特異的な違いと関連性がある
皮質PiB-PETの標準取込値比(SUVR)は、信頼性をもって有意な皮質Aβプラークを識別し、対象をPIB陽性(アミロイド+、SUVR≧1.25)または陰性(アミロイド-、SUVR<1.25)として分類するために用いられる。本発明者らは、アミロイドプラークと可溶性タウ種の関係を調査するために、皮質PiB-PETのSUVRを、CSFのタウの総量及び複数の部位におけるCSFのタウのリン酸化(すなわち、タウの非リン酸化部位に対するリン酸化部位の比)と比較した(図16A)。変異保持者(MC)を、皮質Aβプラークを有する(すなわち、アミロイド+)として分類するためのThr217におけるタウのリン酸化(p-T217)の曲線下面積(AUC)は97.2%(0.94、0.99の95%信頼区間(CI));Thr181におけるタウのリン酸化(p-T181)のAUCは89.1%(CI 0.83、0.94);Thr205におけるタウのリン酸化(p-T205)のAUCは74.5%(CI 0.69、0.82)であり;タウ総量のAUCは72%(CI 0.65、0.79)であった。これらのデータは、有意な原線維性Aβ陽性プラークの初期段階において、特定の部位におけるリン酸化の増加が既に開始しており、やがてこれら2つのプロセスを結びつけることを示している。これらのデータはまた、T217の非リン酸化に対するリン酸化の比の増加が、原線維性Aβプラーク病態に関する高感度の診断マーカーとして役立つことも示している。
【0164】
次に、本発明者らは、Aβプラーク総負荷とリン酸化との関係を調査するために、PiB-PET SUVR四分位数による4ヶ所のリン酸化部位の平均標準化リン酸化比及びタウ総量レベルを比較した(図16B)。Ser202(p-S202)を除くすべてのリン酸化部位は、より大きなAβプラーク病態を伴うリン酸化の増加を示した。他の3ヶ所の部位間の違いも見出した。p-T217及びp-T181は、プラークが始まると最大の増加を示した(四分位数2~3)が、これらの増加の大きさはプラークの負荷が大きくなるにつれて減少し;対照的に、p-T205におけるリン酸化及びタウ総量レベルの増加はAβプラークとともに成長し続けた。これらの結果は、ADにおけるタウのリン酸化の増加に最初につながる事象が、おそらくリン酸化部位特異的である別個のキナーゼ及びホスファターゼの調節を介して、Aβプラーク病態との関連性がある可能性が高いことを示唆している。さらに、上記データは、p-T217が原線維性Aβプラーク病態の代理バイオマーカーとして機能し、Aβ関連のタウ処理の潜在的に特有のシグネチャーを特定する可能性を示唆している。重要なことに、変異非保有者(NC)の中で、T217においてリン酸化の増加を示した被験者はPiB+(SUVR>1.25、n=4)であった被験者のみであった。
【0165】
次に、本発明者らは、PiB-PET SUVRにより測定した特定のタウのリン酸化部位とアミロイドプラーク沈着の皮質及び皮質下領域との間の相関を調査することにより、部位特異的なタウのリン酸化が脳のAβプラーク病態の解剖学的分布と関連性があるかどうかを評価した(図16C)。T217、T181、及びT205におけるリン酸化は脳全体のAβプラークと正の相関があったが、S202におけるリン酸化は負の相関であった。初期のアミロイドプラーク沈着の領域である楔前部において、タウのイソ型との相関を、年齢、性別、及び症候発症までの推定年数(EYO)を制御する2変量回帰の強度に基づいて比較し、多重比較に合せて調整した。本発明者らは、p-T217(β=0.68、p<10-30)、p-T181(β=0.46、p<10-6)、p-T205(β=0.41、p<10-5)、及びタウ総量(β=0.35、p<0.001)であり、Aβプラークと正の相関をもつ相関の順位を見出した。対照的に、p-S202は逆相関(β=-0.47、p<10-7)をもち、このことは、この部位におけるリン酸化はAβ病態の増加に伴って低下することを示唆している。これらの関係は、神経変性のエビデンスがほとんどない時点における発症前のMCに存在し、CSFにおけるリン酸化タウの増加は瀕死状態のニューロンからの受動的な放出の結果ではなく、Aβプラーク病態の存在と関連性がある能動的なプロセスである可能性が高い22
【0166】
実施例6 病期及び疾患進行はタウの高リン酸化及び長期的な変化率の部位特異的な違いと関連性がある
DIADの疾患発症の確実性及び症候発症の予測可能性によって、EYO(すなわち、変異を有する他の個人の発症年齢と比較した評価時の個人の年齢)に基づく個人の病期診断が可能になる9、10、30。次に、本発明者らは、CSFのタウのリン酸化のパターンに時間的な違いがあるかどうかを判定した。EYOに基づいて、MCとNCの間のリン酸化の量及び変化率の経時的な違いを推定することによってこれを行った。2つの重要な知見があった。第一に、タウ総量及び特定の部位におけるリン酸化の増加が目立たない程度で生じるというエビデンスがあった。-21EYO付近でT217のリン酸化が発生し、その後-19EYO付近でのT181のリン酸化、次いで-17EYO付近でのタウ総量の増加、次いで-13EYO付近でのT205のリン酸化が続いた(図17A~F)。上記初期のT217におけるリン酸化の増加及び、程度はより小さいがT181における増加は、Aβプラークが増加し始めたのと同様の時間(-19EYO)に発生した。第二に、T217とT181とのリン酸化の比は症候発症時期の近傍で有意に低下し始めた一方、T205におけるリン酸化は上昇を維持し、タウ総量レベルは増加し続けた。注目すべきは、すべての非リン酸化ペプチドの濃度が疾患進行に伴って増加し(データ未表示)、このことは、T217とT181とのリン酸化比の低下が、これらの部位に特異的に跨る非リン酸化ペプチドの不均衡な上昇の結果ではないことを示唆している。S202については、疾患の経過にわたってリン酸化に有意な変化はなかった(図17E)。これらの結果は、タウのリン酸化が部位ごとに差次的に起こり、病期によって特定の部位で増加または減少することを示している。これらの部位特異的な変化は、以前に認識されたものよりもより動的である可溶性タウの変化の連鎖であること、及びタウのリン酸化の状態または比率は単調に増加しないことを示唆している。Aβアミロイドプラークの出現及び臨床的な悪化の開始は、20年ほど間が離れており、可溶性タウのリン酸化が変化する段階の2つの重要な分界を示している。
【0167】
実施例7 疾患進行の神経画像検査マーカーはタウの高リン酸化における部位特異的な違いと関連性がある
家族歴を用いて症候の発症を推定すること(EYO)に加えて、疾患進行のさまざまな要素、例えば脳の萎縮及び代謝の低下を追跡する神経画像検査の測定値を用いて、DIADの疾患進行を推定することもできる。これらの測定値は、発症前の異なる期間に変化し、脳代謝の低下([F18]フルオロデオキシグルコース [FDG]-PETにより測定)は症候発症の最長で18年前に起こり、脳の萎縮(MRIにより判定)は症候発症の最長で13年前に起こることが明らかになっている28,31~33。これにより、これらのバイオマーカーが同様に特定の部位におけるタウのリン酸化と相関するかという疑問が生じる。これを調べるために、本発明者らは、性別、年齢、及びEYOを制御する、リン酸化部位及びタウ総量と34ヶ所の皮質脳領域及び6ヶ所の皮質下脳領域の画像検査の測定値との間の2変量クロスセクション相関付けを行った。本発明者らは、疾患進行の最も早い段階で何らかの関連性を特定するために、無症候性のMCに解析を集中させた。S202におけるタウのリン酸化状態は、疾患進行にわたって変化がないとの前提で、これらの解析には含めなかった。
【0168】
MRI-高リン酸化は無症候性MCの皮質の厚さと逆相関していた。すなわち、p-T205は、脳全体を通じて皮質及び皮質下の厚さの減少と最も強い関連性があった(図18A)一方、p-T217とタウ総量レベルとの局所的関連性はより少なく、相関性は弱かった。p-T181における高リン酸化と皮質萎縮との包括的相関性は最も低く、頭頂葉内側及び頭頂葉外側ならびに前頭葉内側背内側に限定されていた。このことは、-13EYOにおけるp-T205の初期上昇が皮質萎縮の根本的な病因論と関係している可能性があることを示唆しており、本発明者らはこれまでに、皮質萎縮が楔前部においておおよそ-13EYOに開始されることを明らかにしている28
【0169】
FDG PET-皮質萎縮に加えて、ニューロン及びグリアにおけるグルコース代謝の低下はADの疾患進行と関連性がある。したがって、本発明者らは皮質または皮質下の代謝障害とタウのリン酸化の間に明確な関連性があるかどうかを試験した。無症候性MCにおいて、T205におけるリン酸化が、FDG-PETによって測定した皮質及び皮質下領域全体のグルコース代謝低下と相関していた(図18B)。無症候性MCにおいて、他のp-タウ部位またはタウ総量レベルに関して特定された関連性は最小限のものであった。
【0170】
まとめると、これらの結果は、神経画像検査によって測定される、神経障害及び神経変性につながる、無症候性の疾患進行中に潜在するプロセスがp-T205と最も密接に相関していることを示している。最近の研究において、fynキナーゼ経路を介した、Aβ誘導シナプス後細胞毒性に応答する、シナプス後終末におけるp-T205に対する保護的役割が特定されている34。本明細書において見出された関連性は、シナプス機能が低下した場合にはT205におけるリン酸化の増加をもたらす保護プロセスを表す可能性がある。しかしながら、時間の経過とともに、高リン酸化はタウの凝集の素因となる可能性がある。他方で、T181及びT217おけるリン酸化は、皮質のAβプラーク病態の存在とより強い関連性があるように思われ、潜在的には、T205の高リン酸化及び可溶性の非リン酸化タウレベルの上昇の上流で発生する可能性がある。
【0171】
実施例8 認知低下はタウの高リン酸化における部位特異的な違いと特異的かつ差次的な関連性がある
これまでの研究において、AD認知症は新皮質Aβ病態よりも新皮質NFT病態と密接な関連性があることが明らかになってはいるが35、なおも可溶性タウと認知の関係は不明確なままである。したがって、本発明者らは、臨床転帰と比較した、経時的な可溶性タウのリン酸化比及びタウ総量レベルの長期的変化を評価した36。本発明者らは、転帰としての神経心理学的コンポジットにおける長期的な認知パフォーマンス、ならびに予測因子としてのCSFのタウの測定値の変化(個々の線形混合効果モデル由来)、時間、及びそれらの交互作用を含む混合効果モデルを実行し、年齢、性別、教育、及び家族関係に合せて調整した。本発明者らはこの分析のためにすべてのMC(症候性及び無症候性)を試験し、リン酸化部位と臨床的及び認知的低下との間の差次的な影響を見出した。非リン酸化タウは認知の悪化に伴って単調に増加し、T217及びT181におけるリン酸化は認知の悪化に伴って減少した一方、pT205は、認知の低下との比較において変化を示さなかった。
【0172】
T217及びT181のリン酸化比が減少するにつれて、認知低下が加速した(t値2.35、p=0.02及び2.11、p=0.04)(表3及び図19)。このことは、T217及びT181のリン酸化の減少が、可溶性タウの増加よりも大きく、認知機能低下の重要なマーカーであることを示すことを示唆している。
【0173】
これらの知見は、CSFのp-タウの継続的な上昇に認知機能障害との関連性があるという現在のパラダイムに異を唱えている。本研究において、本発明者らは、2つの一般的なパターンを明らかにした。すなわち、一部の部位に関しては、認知低下が始まるにつれてリン酸化が有意に減少したのに対して、他の部位は、疾患進行に伴って継続的な増加を示すか、または変化を示さなかった(図19における増加率と減少率を参照のこと)。さらに、本発明者らが特定した、他の疾患進行マーカー(Aβプラーク、脳の萎縮及び代謝)とタウ総量レベル及び異なる部位におけるリン酸化との関連性によって、ADにおけるタウのリン酸化に至るプロセスが多因子性である可能性が高く、等価ではないことがさらに強調される。
【0174】
実施例9 非リン酸化タウの増加はタウPETによる皮質NFTと相関するが標準的なリン酸化タウ種は相関しない
最近のDIAD被験者に対するタウPET(18F AV-1451、すなわちフロタウシピル(flortaucipir))による研究では、NFTの増加は臨床症状の発症後にのみ生じることが示唆されている37、38。本発明者らは、可溶性p-タウはNFT病態のマーカーである一方で、可溶性の非リン酸化タウは神経変性の尺度として瀕死のニューロンから受動的に放出される14との仮説を検証した。本発明者らは、タウPETを実施した時点につながるCSFのタウとp-タウのイソ型との長期的変化の間の関係を調査した。限られた数の被験者(10名のMC及び4名のNC)において、CSF試料を取得してから72時間以内に1回のタウPETスキャンを実施した。これらの個人に関してはCSF試料を以前の往訪(1~3年以内)の際にも得ており、これにより、可溶性タウの測定値の長期的変化によってタウPETレベルを予測することができるかを、本発明者らが評価することが可能になった。
【0175】
第一に、本発明者らは、MCの皮質NFTレベルが症候発症の時期の近傍でのみ増加することを確認し(図20)、このことは、DIAD MCにおいては、タウ凝集体が増加し始めると臨床的な悪化が始まることを示唆している。第二に、本発明者らは、CSFの非リン酸化タウの長期的増加は、皮質タウPET(p=0.03)値の上昇と関連性があることを見出した(表4)。T205のリン酸化の増加がタウPETのレベルがより高くなることと関連性があるという傾向があり、逆に、T217、T181、及びS202のリン酸化の減少がタウPETのレベルの増加と関連性があるという傾向があった(図21)。まとめると、これらの知見は、p-タウではなくCSF中の非リン酸化タウの増加がNFT病態の拡がりとより密接に結びついていることを示唆している。対照的に、凝集したタウが増加すると可溶性p-タウ種は減少し、このことは、隔離のプロセスが高リン酸化された凝集体によることを表している可能性がある。
【表2-1】
【表2-2】
【表3】
【表4】
【0176】
実施例5~9に関する考察
タウはAD病態の特徴を構成し、凝集した形態または可溶性の形態で測定することができるが、この重要な神経タンパク質の翻訳後修飾がヒトにおけるNFTの発生及び神経変性にどのようにつながるかについての本発明者らの解釈に重大な空白部が残っている。本明細書では、本発明者らは、CSF中のタウのリン酸化のパターンがAD進行の過程でどのように変化するかを示す。本発明者らは、DIADにおいては、タウのリン酸化及び中枢神経系中への放出のプロセスは、1)Aβプラーク負荷(PiB-PETにより測定)が定着する(発症前の数十年間)と開始し、その後ほぼ20年の期間にわたって展開し、その間、タウタンパク質の異なるリン酸化部位が、疾患進行の異なるマーカーを伴う別個の段階でリン酸化される;ならびに2)認知機能低下及び凝集タウの上昇(タウPETにより測定)の時期の近傍で、部位依存的な形態で有意に減少する動的なプロセスであることの実証を、既存の臨床文献に追加する。まとめると、これらの結果は、可溶性のリン酸化/非リン酸化タウペプチドを定量化するこの方法が、前臨床段階から症候性段階にわたるADプロセスを追跡し、この疾患におけるリン酸化タウ病態のシグネチャーを提供することができることを示している。さらに、これらの結果は、DIAD、及びおそらくAD全般におけるタウ/p-タウの役割とされているものに異を唱え、Aβ病態をタウの高リン酸化、及び瀕死のニューロンの放出の結果ではなく能動的な細胞による放出と結び付ける、動物を用いた研究からの知見21、23、25、39をヒトにおいて再現している。
【0177】
因果関係については今後の研究において取り組む必要があるが、p-T217、p-T181、及びPiB-PETが同時に増加することは、ADにおけるタウの広範なリン酸化のレベルがAβ病態と密接に結びついていることを示唆している。この仮説は、p-タウのイソ型が、Aβプラークの存在下で増加する能動的なプロセスにおいて細胞から放出されることを示す22、最近のAD遺伝子導入マウスにおける研究20、21、23、34、40及び安定同位体標識動態論(SILK)における研究と一致している。本発明者らの結果によって、Aβ病態が可溶性タウペプチド濃度及びリン酸化パターンの明確な変化と結び付き、p-タウの有意な上昇がADにおいては生じるが他の神経変性タウオパチーでは起こらない現象16、17が解明される。これらの知見はまた、臨床症状の発症前の早期のAD病態のバイオマーカーのみならず、潜在的な治療標的に対する重要な洞察も生み出す。
【0178】
最近の研究により、体細胞NFTの定着のかなり以前に生じる、Aβ遺伝子導入マウスのADの脳からのNFT分離物によって誘導される神経突起タウ凝集体(ジストロフィー性神経突起中の対らせん状細線維)の増加及び拡がりが明らかになっている20。p-T217及びp-T181のごく初期の増加は、Aβプラークに反応したこの「初期の」タウ凝集を反映している可能性があり、上記増加によって、PiB PETと、本発明者らが特定したこれらのイソ型との全般的な関連性の説明がつく可能性がある。さらに、上記増加が有意な神経変性の何年も前に生じることから、その増加によって、p-タウのこの早期の上昇中に臨床症状が見られないことがよりうまく説明される可能性がある。またこの研究により、p-T217が、アミロイドを標的とする治療薬の治療応答の指標としての有望な用途をもつ、ごく初期のバイオマーカーとして提案される。これは、効果的な治療薬を識別するために疾患進行の代理マーカーが不可欠である予防研究において、特に重要である場合がある。
【0179】
本明細書では、可溶性タウ及びp-タウの診断上の役割に関するいくつかの一般的な仮定に疑問を投げかける。具体的には、現在のADの診断の枠組みにおいては、ADに特異的な及び非特異的な病態を表すバイオマーカー(例えば、Aβ、p-タウ、及びタウ)の存在が強調される14。この診断の枠組み内では、可溶性p-タウ及び非リン酸化タウは多くの場合、変性しつつあるニューロンから受動的に放出されると仮定され、p-タウは凝集したNFTと関連付けられ、非リン酸化タウは軸索変性と関連付けられる。これに替えて、本発明者らのDIADにおける結果は、ADタウオパチーを可溶性タウのリン酸化状態(リン酸化の比)の変化として定義してもよいことを示唆している。さらに、特定のリン酸化部位の状態変化のタイミング(推定される症候発症の21~13年前)を考慮すると、上記結果は、リン酸化の増加は、病態のマーカーではあるが、必ずしもタウ関連毒性または細胞体NFTのマーカーではないことを示唆してもいる。実際、本発明者らの結果は、pT217及びpT181に関しては、NFT病態が急速に増加しているときには、増加し続ける37よりもむしろ、リン酸化の劇的な減少が見られる。これについて可能性のある説明の1つは、可溶性/凝集Aβについて観測されたもの41と同様であり、すなわち、凝集タウの劇的な増加によって、リン酸化タウが脳内に隔離され、CSFレベルが低下するというものである。しかしながら、タンパク質恒常性機序によるタウの減少を除外することはできない。どちらの場合にしても、T217またはT181のリン酸化比と長期的な認知機能低下の間の負の相関に関する本発明者らの知見は、疾患進行におけるこの事象の重要性を強調するものである。この低下の原因を解明することで、可溶性タウとニューロンの機能障害との間の関連性、及びADの予後におけるCSFのp-タウ/タウの使用についての理解が深まる可能性がある。
【0180】
タウのリン酸化におけるキナーゼの役割を考えると、この酵素群は現在、AD治療薬の潜在的な標的と見なされている43。本発明者らが本明細書において、p-タウのすべての形態に疾患進行のマーカーとの関連性があるわけではなく、一部は実際にそのことに対して逆に作用する場合もあることを明らかにしてきたことから、p-タウの変化につながる特定のキナーゼ/ホスファターゼ活性は、少なくともこの疾患のプロセスの早期においては、有害でない場合もある。
【0181】
要約すると、本発明者らは本明細書において、常染色体優性変異に関連するADでは、CSFのタウの高リン酸化がごく早期に起こり、かつこの高リン酸化は異なる病期で部位特異的な変化のパターンを示すことを実証してきた。これらの知見の背後に内在する機序は、この疾患の理解及びタウ指向性のAD治療薬にとって重要な意味をもつこととなろう。
【0182】
実施例5~9の材料及び方法
被験者-PSEN1、PSEN2、またはAPPに遺伝子変異が確認された家族からDIAD変異を受け継ぐ危険性が少なくとも50%ある被験者は、the Dominantly Inherited Alzheimer Network研究(DIAN, NIA U19 AG032438)(dian.wustl.edu;clinicaltrials.gov number NCT00869817)44に登録した。すべての手順はthe Institutional Review Board (IRB) of Washington Universityによる認可を受け、研究が行われている地域のIRB及びEthics Committeesに準拠した。DIAD変異の有無は、適当なエクソンのPCRに基づく増幅及びそれに続いてサンガー配列決定法を用いて判定した。被験者は研究のために往訪する度に、包括的な臨床評価、認知検査、神経画像検査、及びCSFの調査を受けた。ただし、それぞれの被験者がそれぞれの往訪時にすべての研究手順を完了していない場合もある。研究の構成及び評価の詳細は既刊行物10、44に記載されている。フォローアップの間隔は、各被験者の臨床状態(正常または障害)及び症候発症までの推定年数(EYO)によって決定され、年1回~3年毎の範囲であった。データは品質管理されたデータ(2009年1月26日~2017年6月30日の不規則な結果及び欠落データの年毎の品質評価)から取得し、370名の被験者が含まれていた(長期的CSF評価を行った被験者はn=150であり、往訪と往訪の間隔は中央値で2.8年))。
【0183】
症候発症までの推定年数(EYO)-優性遺伝性ADではほぼ100%の浸透率があり、変異保持者の症候発症年齢は、各変異に関して及び各家族内で比較的一貫している。これにより、症候発症までの推定年数(EYO)を示すことができる。EYOは次のように定義した。すなわち、各被験者に対して、親の最も早い症候発症時の年齢を半構造化面接によって確定した。次に、各変異に関する親の発症時の年齢を、DIAN及びDIADコホートの既刊行物の症候発症の値を組み合わせた値からなるデータベースに入力した。これらの値を用いて、各変異に固有の発症の平均年齢を計算した29。上記変異に固有の発症年齢を各被験者の臨床評価時の年齢から減じて、個人のEYOを規定した。特定の変異の発症の平均年齢が不明な場合、親のまたは代理の発症年齢を用いてEYOを規定した29。CDR>0によって評価した、ベースライン時に症候性であった被験者については、実際の症候発症の報告年齢を各臨床評価の年齢から減じてEYOを規定した。
【0184】
臨床評価-各被験者に対して、試験パートナー(study partner)の使用を含む標準化臨床評価を実施した。臨床的認知症評価尺度(CDR)を用いて認知症病期を示した。被験者を、認知が正常(CDR=0)もしくは非常に軽度の認知症(CDR=0.5)、軽度認知症(CDR=1)、または中程度の認知症(CDR=2)45と評価した。評価を行う臨床医に対して遺伝的状態を盲検化していた。それぞれの往訪時に、全般的な認知機能、記憶、注意力、遂行機能、視空間機能、及び言語を評価する包括的な神経心理学的バッテリーを実施した46。本発明者らは、これらの検査から、EYO及びCDRの範囲全体の低下を確実に検出する認知コンポジットを開発した47。上記コンポジットは、エピソード記憶、複雑性注意、及び処理速度、ならびに全般的な認知機能のスクリーニングを含む検査(Mini Mental State Examination)に基づくzスコアの平均値を表す。
【0185】
CSFのタウの分析-CSFを、非外傷性Sprotte脊髄針(22Ga)を用いた標準的な腰椎穿刺手順(L4/L5)により2本の13mlポリプロピレン管中に採取した。CSFをドライアイス上、直立した状態で急速冷凍した。米国で採取した試料は、ドライアイス上で、夜間にWashington University, St. Louis, MO, USAのDIANバイオマーカー中核研究室(DIAN biomarker core laboratory)に輸送した一方、世界の拠点で採取した試料は、-80℃で保存し、四半期毎にドライアイス上で輸送した。到着後、各試料を解凍し、1本のポリプロピレン管中にまとめ、ポリプロピレン製微小遠沈管(カタログ番号05-538-69C、Corning Life Science, Corning, NY, USA)に分割し(各500μl)、その後、これらを再度ドライアイス上で急速冷凍し、-80℃で保存した。
【0186】
解凍した各CSF試料を、15N-441タウ内部標準(試料当り2.5ng)、50mM グアニジン、10% NP-40、及び10Xプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含む25mlの溶液と混合した。タウを、タウ1(タウエピトープ192~199)及びHJ8.5(タウエピトープ27~35)抗体と架橋した20mlのセファロースビーズとともに、室温で2時間、回転下でのインキュベーションを用いた免疫捕獲によって抽出した。ビーズを遠心分離し、次いで1mlの25mM TEABCで3回すすいだ。試料を37℃で終夜、400ngのトリプシンGold(Promega, Madison, WI)で消化した。AQUAペプチド(Life Technologies, Carlsbad, CA)をスパイクして、各試料中の標識リン酸化ペプチド当り5fmol及び標識非修飾ペプチド当り50fmolの量を得た。このペプチド混合物をTopTip C18チップにロードし、0.1% ギ酸(FA)溶液で洗浄し、60% ACN 0.1% FA溶液で溶出させた。Speedvacを使用して溶出液を乾燥し、乾燥試料を-80℃で保存し、その後分析した。試料を25μlの2% ACN 0.1% FA溶液中に再懸濁した。抽出物を、HCD断片化を用いたParallel Reaction Monitoringを使用したNanoLC-MS/HRMSによって分析した。NanoLC-MS/MSの実験は、Fusion Tribrid質量分析計(Thermo Scientific, SanJose, California)と連結したnanoAcquity UPLCシステム(Waters, Mildford, Massachusetts)を使用して実施した。各試料について5μlを注入した。ペプチドの分離をWaters HSS T3カラム(75μm×100mm、18μm)上、60℃、24分で実行した。移動相は、(A)0.1% ギ酸水溶液及び(B)0.1% ギ酸アセトニトリル溶液であった。使用した勾配は、0分~:0.5%のB;7.5分~:5%のB;22分~:18%のBであり;次いで、カラムを95%のBで2分間すすいだ。流速を7.5分間700nl/分に設定し、次いでその後の分析では400nl/分に設定した。データは、2200Vのスプレー電圧(Nanospray Flex Ion Source, Thermo Scientific)及び270℃に設定したイオントランスファーチューブでの陽イオンモードで取得した。SレンズRF電圧は60Vに設定した。MS/HRMSトランジションはSkylineソフトウェア(MacCoss lab, University of Washington)を使用して抽出した。CSFのタウのリン酸化レベルは、測定した、内在の非リン酸化ペプチドとタンパク質内部標準の15N標識ペプチドとのMS/HRMSトランジション間の比を用いて計算した。T181、S202、T205、及びT217のリン酸化の比は、リン酸化ペプチドと対応する非リン酸化ペプチドからのMS/HRMSトランジションの比を用いて測定した。内在する各リン酸化/非リン酸化ペプチドの比は、対応するAQUAリン酸化/非リン酸化ペプチド内部標準のMS/HRMSトランジション上で測定した比を用いて正規化した。
【0187】
脳画像検査-アミロイド沈着、グルコース代謝、タウ(NFT)PET、及び皮質の厚さ/皮質下の容積は、それぞれ11C-PiB-PET、18F-FDG-PET、18F-AV-1451(別名フロタウシピル)、及び容積測定T1強調MRIスキャンを用いて評価した。すべてのDIAN部位のデータ収集における一貫性を確保するための標準的な手順28を使用した。11C-PiB-PETスキャンは、約13mCiのPiBをボーラス注入した後に70分間の動的スキャンを行うことから構成され、40~70分のタイムフレームから領域の標準取込値比(SUVR)を求めた。18F-FDG-PETスキャンは、約5mCiのボーラス注入後30分で開始し、30分間続けた。18F-AV-1451データは、ボーラス注入後の80~100分のウィンドウから取得し、SUVRに変換した。T1 MRシーケンスは、3Tスキャナー(パラメータ:TR=23000、TE=2.95、及び1.0×1.0×12mmの解像度)で取得したaccelerated magnetization-prepared rapid acquisition with gradient echo (MPRAGE)であった。
【0188】
FreeSurferソフトウェア(surfer.nmr.mgh.harvard.edu/)を使用して、34ヶ所の皮質及び6ヶ所の皮質下の対象領域(ROI)からPIB及びFDG SUVRを得た。SUVRは、参照領域として小脳灰白質を用いて処理し、ROIデータは、geometric transfer matrix(GTM)フレームワークにおいて領域の点広がり関数(RSF)48を用いて、部分容積効果に関する補正を行った。
【0189】
統計学的解析-被験者のベースライン特性を、連続変数については平均値±SD、カテゴリー変数についてはn(列パーセント)としてまとめた。ベースラインで規定した無症候性MC、症候性MC、及びNC間の違いを比較するためのP値は、連続変数についての一般的な線形混合効果モデル(LME)及びカテゴリー変数についてのロジスティックリンクを備えた一般化線形混合効果モデルを使用して得られる。すべてのモデルは、同一家族内の被験者間の転帰の測定値の相関性を考慮するために、ランダムな家族効果を取り入れた。ベースラインの皮質PiB PET SUVRのカットポイントは、MCとNCの間の皮質PiB PETの長期的な変化率の差が、最初に0とは有意に異なるように選択される。
【0190】
各ROIに対して2変量LMEを用いて、すべての無症候性MC(CDR=0、n=152)において、タウのさまざまなリン酸化部位の、PiB、FDG、及び皮質の厚さ/皮質下の容積とのクロスセクション相関を評価した。上記モデルには、家族レベルでのEYO、教育、性別、ランダムインターセプトの固定効果が含まれていた。2変量LMEは、単純相関の推定方法(ピアソンまたはスピアマン相関)と比較して、EYOなどの共変量に合せて調整することができるのみならず、家族クラスター内の相関を考慮することもできる49、50。Benjamini-Hochberg法51を用いて相関を検定するためのP値を補正して、多重検定に起因する偽陽性率を制御した。
【0191】
長期的なフォローアップにわたる個人内の年間変化率に関して、LMEを用いて各バイオマーカーの最良の線形不偏予測量を推定し、次いでこれらをベースラインEYOに対してプロットして、バイオマーカーの軌跡を検討した。次いで、適当である場合には、線形または線形スプライン混合効果モデルを用いて、MCの各バイオマーカーのベースラインレベル及び変化率がNCと有意に異なるようになるベースラインEYOポイントを判定した。線形スプライン混合効果モデルの詳細は最近の刊行物に記載されている。線形または線形スプライン混合効果モデルには、変異群(MCまたはNC)、ベースラインEYO、ベースラインからの経過時間、及びそれらの間のすべての可能性のある1次のまたは2次の交互作用の固定効果が含まれる。性別、教育年数、APOE ε4の状態を共変量と見なしたが、有意であった効果のみをモデルに保持した。上記モデルに含まれるランダム効果としては、頻回の測定値に起因する対象内相関を考慮するための、家族クラスターのランダムインターセプト、個人のランダムインターセプト、及び非構造化共分散行列でのランダム勾配がある。次いで、ベースラインでの平均値レベルの調整された差とMCとNCの間の変化率の差を、モデルに由来する近似t検定を用いて検定し、差が有意となった最初のEYOポイントを判定した。
【0192】
EYOの範囲全体にわたるタウ総量、タウのリン酸化部位、皮質PiB、及び全般的な認知機能の間の変化率の違いを視覚化するために、MCの測定値をまず、NCの平均及び標準偏差を用いて標準化した。次いで、LMEを用いて各MCに関する各測定値の変化率を計算し、LOESS曲線を近似して、EYOに対する標準化した変化率の軌跡を視覚的に表した。
【0193】
LMEを用いて、長期的な認知機能低下の予測におけるベースラインのタウ総量及びp-タウの有用性を評価した。上記モデルの固定効果には、変異群、ベースラインの年齢、性別、APOE ε4の状態、時間、及びそれらの間のすべての可能性のある1次のまたは2次の交互作用の固定効果が含まれる。上記モデルのランダム効果には、家族クラスターのランダムインターセプト、個人のランダムインターセプト、及び非構造化共分散行列でのランダム勾配が含まれる。
【0194】
線形回帰を用いて、タウPETを行った時点につながる及びその時点を含むMC及びNCのタウならびにリン酸化タウの位置の年間変化率が、タウPET SUVRを予測し、年齢の効果を制御できるかどうかを調べた。被験者の数が限られていたため、家族クラスターは含まれていなかった。
【0195】
すべての解析はSAS 9.4(SAS Institute Inc., Cary, NC)を使用して実施した。p値<0.05を統計学的に有意であると見なした。
【0196】
実施例5~9の引用文献
Goedert, M., Spillantini, M. G., Jakes, R., Rutherford, D. & Crowther, R. A. Multiple isoforms of human microtubule-associated protein tau: sequences and localization in neurofibrillary tangles of Alzheimer’s disease. Neuron 3, 519-526, doi:10.1016/0896-6273(89)90210-9 (1989).
【0197】
Grundke-Iqbal, I. et al. Abnormal phosphorylation of the microtubule-associated protein tau (tau) in Alzheimer cytoskeletal pathology. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 83, 4913-4917, doi:10.1073/pnas.83.13.4913 (1986).
【0198】
Wang, Y. & Mandelkow, E. Tau in physiology and pathology. Nat Rev Neurosci 17, 5-21, doi:10.1038/nrn.2015.1 (2016).
【0199】
Kimura, T., Sharma, G., Ishiguro, K. & Hisanaga, S.-i. Phospho-Tau Bar Code: Analysis of Phosphoisotypes of Tau and Its Application to Tauopathy. Frontiers in Neuroscience 12, doi:10.3389/fnins.2018.00044 (2018).
【0200】
Crowther, R. A. Straight and paired helical filaments in Alzheimer disease have a common structural unit. Proceedings of the National Academy of Sciences 88, 2288-2292, doi:10.1073/pnas.88.6.2288 (1991).
【0201】
Fitzpatrick, A. W. P. et al. Cryo-EM structures of tau filaments from Alzheimer’s disease. Nature 547, 185, doi:10.1038/nature23002 (2017).
【0202】
Price, J. L., Davis, P. B., Morris, J. C. & White, D. L. The distribution of tangles, plaques and related immunohistochemical markers in healthy aging and Alzheimer’s disease. Neurobiology of aging 12, 295-312 (1991).
【0203】
Qian, J., Hyman, B. T. & Betensky, R. A. Neurofibrillary Tangle Stage and the Rate of Progression of Alzheimer Symptoms: Modeling Using an Autopsy Cohort and Application to Clinical Trial Design. JAMA Neurol 74, 540-548, doi:10.1001/jamaneurol.2016.5953 (2017).
【0204】
McDade, E. et al. Longitudinal cognitive and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer disease. Neurology 91, e1295-e1306, doi:10.1212/wnl.0000000000006277 (2018).
【0205】
Bateman, R. J. et al. Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer’s disease. N Engl J Med 367, 795-804, doi:10.1056/NEJMoa1202753 (2012).
【0206】
Fagan, A. M. et al. Cerebrospinal fluid tau/beta-amyloid(42) ratio as a prediction of cognitive decline in nondemented older adults. Arch Neurol 64, 343-349, doi:10.1001/archneur.64.3.noc60123 (2007).
【0207】
Toledo, J. B., Xie, S. X., Trojanowski, J. Q. & Shaw, L. M. Longitudinal change in CSF Tau and Abeta biomarkers for up to 48 months in ADNI. Acta Neuropathol 126, 659-670, doi:10.1007/s00401-013-1151-4 (2013).
【0208】
Vandermeeren, M. et al. Detection of tau proteins in normal and Alzheimer’s disease cerebrospinal fluid with a sensitive sandwich enzyme-linked immunosorbent assay. J Neurochem 61, 1828-1834 (1993).
【0209】
Jack, C. R., Jr. et al. NIA-AA Research Framework: Toward a biological definition of Alzheimer’s disease. Alzheimers Dement 14, 535-562, doi:10.1016/j.jalz.2018.02.018 (2018).
【0210】
Jack, C. R., Jr. et al. A/T/N: An unbiased descriptive classification scheme for Alzheimer disease biomarkers. Neurology 87, 539-547, doi:10.1212/wnl.0000000000002923 (2016).
【0211】
Hu, W. T. et al. Reduced CSF p-Tau181 to Tau ratio is a biomarker for FTLD-TDP. Neurology 81, 1945-1952, doi:10.1212/01.wnl.0000436625.63650.27 (2013).
【0212】
Hampel, H. et al. Measurement of phosphorylated tau epitopes in the differential diagnosis of Alzheimer disease: a comparative cerebrospinal fluid study. Archives of general psychiatry 61, 95-102, doi:10.1001/archpsyc.61.1.95 (2004).
【0213】
Price, J. L. & Morris, J. C. Tangles and plaques in nondemented aging and ‘‘preclinical’’ Alzheimer’s disease. Ann Neurol 45, 358-368 (1999).
【0214】
Ittner, L. M. et al. Dendritic Function of Tau Mediates Amyloid-β Toxicity in Alzheimer’s Disease Mouse Models. Cell 142, 387-397, doi:https://doi.org/10.1016/j.cell.2010.06.036 (2010).
【0215】
Cohen, A. D. et al. Early striatal amyloid deposition distinguishes Down syndrome and autosomal dominant Alzheimer’s disease from late-onset amyloid deposition. Alzheimer’s & dementia : the journal of the Alzheimer’s Association, doi:10.1016/j.jalz.2018.01.002 (2018).
【0216】
Maia, L. F. et al. Changes in Amyloid-β and Tau in the Cerebrospinal Fluid of Transgenic Mice Overexpressing Amyloid Precursor Protein. Science Translational Medicine 5, 194re192-194re192 (2013).
【0217】
Sato, C. et al. Tau Kinetics in Neurons and the Human Central Nervous System. Neuron 98, 861-864, doi:10.1016/j.neuron.2018.04.035 (2018).
【0218】
Schelle, J. et al. Prevention of tau increase in cerebrospinal fluid of APP transgenic mice suggests downstream effect of BACE1 inhibition. Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association 13, 701-709, doi:10.1016/j.jalz.2016.09.005 (2017).
【0219】
Zempel, H., Thies, E., Mandelkow, E. & Mandelkow, E. M. Abeta oligomers cause localized Ca(2+) elevation, missorting of endogenous Tau into dendrites, Tau phosphorylation, and destruction of microtubules and spines. J Neurosci 30, 11938-11950, doi:10.1523/jneurosci.2357-10.2010 (2010).
【0220】
Saman, S. et al. Exosome-associated Tau Is Secreted in Tauopathy Models and Is Selectively Phosphorylated in Cerebrospinal Fluid in Early Alzheimer Disease. Journal of Biological Chemistry 287, 3842-3849, doi:10.1074/jbc.M111.277061 (2012).
【0221】
Barthelemy, N. R. et al. Tau Protein Quantification in Human Cerebrospinal Fluid by Targeted Mass Spectrometry at High Sequence Coverage Provides Insights into Its Primary Structure Heterogeneity. Journal of proteome research 15, 667-676, doi:10.1021/acs.jproteome.5b01001 (2016).
【0222】
Jin, M. et al. Soluble amyloid β-protein dimers isolated from Alzheimer cortex directly induce Tau hyperphosphorylation and neuritic degeneration. Proceedings of the National Academy of Sciences 108, 5819-5824 (2011).
【0223】
Gordon, B. A. et al. Spatial patterns of neuroimaging biomarker change in individuals from families with autosomal dominant Alzheimer’s disease: a longitudinal study. The Lancet. Neurology 17, 241-250, doi:10.1016/S1474-4422(18)30028-0 (2018).
【0224】
Ryman, D. C. et al. Symptom onset in autosomal dominant Alzheimer disease: a systematic review and meta-analysis. Neurology 83, 253-260, doi:10.1212/WNL.0000000000000596 (2014).
【0225】
Fleisher, A. S. et al. Associations between biomarkers and age in the presenilin 1 E280A autosomal dominant Alzheimer disease kindred: a cross-sectional study. JAMA Neurol 72, 316-324, doi:10.1001/jamaneurol.2014.3314 (2015).
【0226】
Benzinger, T. L. et al. Regional variability of imaging biomarkers in autosomal dominant Alzheimer’s disease. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 110, E4502-4509, doi:10.1073/pnas.1317918110 (2013).
【0227】
Quiroz, Y. T. et al. Cortical atrophy in presymptomatic Alzheimer’s disease presenilin 1 mutation carriers. J Neurol Neurosurg Psychiatry 84, 556-561, doi:10.1136/jnnp-2012-303299 (2013).
【0228】
Ridha, B. H. et al. Tracking atrophy progression in familial Alzheimer’s disease: a serial MRI study. Lancet Neurol 5, 828-834, doi:10.1016/s1474-4422(06)70550-6 (2006).
【0229】
Ittner, A. et al. Site-specific phosphorylation of tau inhibits amyloid-β toxicity in Alzheimer’s mice. Science 354, 904-908 (2016).
【0230】
Arriagada, P. V., Growdon, J. H., Hedley-Whyte, E. T. & Hyman, B. T. Neurofibrillary tangles but not senile plaques parallel duration and severity of Alzheimer’s disease. Neurology 42, 631-631, doi:10.1212/wnl.42.3.631 (1992).
【0231】
Bateman, R. J. et al. The DIAN-TU Next Generation Alzheimer’s prevention trial: Adaptive design and disease progression model. Alzheimers Dement 13, 8-19, doi:10.1016/j.jalz.2016.07.005 (2017).
【0232】
Quiroz, Y. T. et al. Association Between Amyloid and Tau Accumulation in Young Adults With Autosomal Dominant Alzheimer Disease. JAMA Neurol 75, 548-556, doi:10.1001/jamaneurol.2017.4907 (2018).
【0233】
Gordon, B. A. et al. Tau PET in autosomal dominant Alzheimer disease: relationship to cognition, dementia and biomarkers. Brain : a journal of neurology Accepted for Publication (2019).
【0234】
He, Z. et al. Amyloid-beta plaques enhance Alzheimer’s brain tau-seeded pathologies by facilitating neuritic plaque tau aggregation. Nat Med 24, 29-38, doi:10.1038/nm.4443 (2018).
【0235】
Buerger, K. et al. CSF phosphorylated tau protein correlates with neocortical neurofibrillary pathology in Alzheimer’s disease. Brain : a journal of neurology 129, 3035-3041, doi:10.1093/brain/awl269 (2006).
【0236】
Potter, R. et al. Increased in Vivo Amyloid-β42 Production, Exchange, and Loss in Presenilin Mutation Carriers. Science Translational Medicine 5, 189ra177-189ra177 (2013).
【0237】
Yamada, K. et al. In Vivo Microdialysis Reveals Age-Dependent Decrease of Brain Interstitial Fluid Tau Levels in P301S Human Tau Transgenic Mice. The Journal of Neuroscience 31, 13110-13117, doi:10.1523/jneurosci.2569-11.2011 (2011).
【0238】
Medina, M. & Avila, J. Further understanding of tau phosphorylation: implications for therapy. Expert review of neurotherapeutics 15, 115-122, doi:10.1586/14737175.2015.1000864 (2015).
【0239】
Morris, J. C. et al. Developing an international network for Alzheimer research: The Dominantly Inherited Alzheimer Network. Clinical investigation 2, 975-984, doi:10.4155/cli.12.93 (2012).
【0240】
Morris, J. C. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology 43, 2412-2414 (1993).
【0241】
Storandt, M., Balota, D. A., Aschenbrenner, A. J. & Morris, J. C. Clinical and psychological characteristics of the initial cohort of the Dominantly Inherited Alzheimer Network (DIAN). Neuropsychology 28, 19-29, doi:10.1037/neu0000030 (2014).
【0242】
Lim, Y. Y. et al. BDNF Val66Met moderates memory impairment, hippocampal function and tau in preclinical autosomal dominant Alzheimer’s disease. Brain : a journal of neurology 139, 2766-2777, doi:10.1093/brain/aww200 (2016).
【0243】
Su, Y. et al. Partial volume correction in quantitative amyloid imaging. Neuroimage 107, 55-64, doi:10.1016/j.neuroimage.2014.11.058 (2015).
【0244】
Luo, J., D’Angelo, G., Gao, F., Ding, J. & Xiong, C. Bivariate correlation coefficients in family-type clustered studies. Biometrical Journal 57, 1084-1109, doi:doi:10.1002/bimj.201400131 (2015).
【0245】
Xiong, C. et al. Longitudinal relationships among biomarkers for Alzheimer disease in the Adult Children Study. Neurology 86, 1499-1506, doi:10.1212/WNL.0000000000002593 (2016).
【0246】
Benjamini, Y., and Hochberg, Y. . Controlling the false discovery rate: a practical and powerful approach to multiple testing. Journal of the Royal Statistical Society Series B, 289-300 (1995).
【0247】
実施例10
アルツハイマー病(AD)は、世界的に認知症の主要な原因である。ADの診断及び治療は、特定のかつ初期のバイオマーカーが存在しない場合は、今もなお極めて困難である。最近の脳脊髄液(CSF)バイオマーカー及び脳陽電子放射断層撮影(PET)画像検査の開発により、アミロイドAβプラーク及び神経原線維高リン酸化タウ変化の病的ADの脳の病態を検出するための有益なツールが提供された。現在、AD患者のCSFプロファイルは、アミロイドベータ42(Aβ42)の減少及び標準的なイムノアッセイで測定したタウ総量及びリン酸化タウ(p-タウ181)の増加を特徴としている。このプロファイルにより、ADと非ADの病態を区別し、認知症状や病訴の何年も前にADプロセスを検出することができる。しかしながら、CSFのタウ及びp-タウの変化はADに固有ではない。p-タウ181の増加は、濃縮体形成による高リン酸化の結果として解釈されてきたが、CSFのp-タウは、タウ総量と同時に増加する。脳の研究により多くの部位でのタウのリン酸化が示されているが、CSFにおけるこれらのさらなるリン酸化部位の診断妥当性(diagnostic relevance)性は十分な取り組みがなされてはいない。質量分析(MS)に基づく方法は、該方法によりリン酸化ペプチド及びそれらの対応する未修飾の相当物を独立に定量化することが可能になることから、イムノアッセイよりも、特定の部位のリン酸化レベルの変化をタウ総量レベルとは独立に評価するのに適している。したがって、リン酸化ペプチドと非リン酸化ペプチドの勾配の間の相関を比較して、リン酸化の比率を評価することができる。本発明者らは、CSF中のリン酸化タウイソ型を定量化するために、当該タンパク質配列のミッドドメイン中のタウのリン酸化ペプチドを標的とする革新的なターゲット高解像度MS(HRMS)法を用いた。上記ミッドドメインはCSF中で最も存在量が多いドメインであり、脳のタウ及びADタウの凝集体中で、多数の部位においてリン酸化される。
【0248】
本発明者らは、認知機能的に正常な個人と、CSF Aβ42/40比及びPET-PIB画像検査に基づくアミロイドの状態によって層別化した軽度認知障害の患者からなるコホートを用いて、CSF中の、T181、S199、S202、T205、及びT217におけるタウのリン酸化を分析した。この検証により、本発明者らは、AD診断のためのCSF pT217の可能性を強調し、pT217と疾患の初期段階でのタウの修飾の基礎となるアミロイドーシスとの相関を確立することが可能になった。
【0249】
被験者-Patterson et al. 2015により既報であり、CSF及びアミロイドPiB-PETデータが利用可能な、the Washington University in Saint Louis ADRC研究から、認知機能が正常な(CDR=0)または軽度認知機能障害のある86名の被験者を募った。PiB-PET(カットオフとして使用した0.18超で陽性と見なした)及びMSによって測定したCSFのAβ42/Aβ40比(カットオフとして使用した0.12未満で病的と見なした)の結果によれば、このコホートには、29名のアミロイド陽性及び47名のアミロイド陰性の被験者、ならびにPET-PIBとCSFプロファイルとの間で相克的な結果となった10例(5例のPiB-PET(+)/CSF(-)及び5例のPiB-PET(-)/CSF(+)アミロイドーシスプロファイル)が含まれていた。7種のCSF試料をn=2で及び1種をn=3で抽出して、変動性を評価した。
【0250】
免疫沈降を用いたCSFのタウの精製-Aβ免疫沈降及び-80℃での保存後に得た800μlのCSF上清をタウ分析に使用した。解凍した上清に15Nタウ内部標準(試料当り5ng)をスパイクし、タウ1免疫沈降を用いて抽出した。この試料に5mM グアニジン、1% NP-40、及びプロテアーゼ阻害剤カクテルを添加し、試料を室温で3時間、タウ1抗体と架橋したセファロースビーズ20μlと混合した。ビーズを沈殿させ、次いで0.5M グアニジン及び25mM TEABCですすいだ。試料を400ngのトリプシンで消化した。AQUAペプチド(Life Technologies, Carlsbad, CA)をスパイクして、試料当りの標識リン酸化ペプチド当り10fmol及び標識ペプチド当り100fmolの個々の量を得た。探索コホート(discovery cohort)で用いた未切断ペプチドの代わりにAQUA TPSLPpTPPTR(pT217)を用いた。トリプシン切断ペプチドをTopTip C18チップにロードし、0.1% FA溶液で洗浄し、60% ACN 0.1% FA溶液で溶出させた。Speedvacで溶出液を乾燥した。試料を-80℃で保存した。LC-MS分析の前に、試料を25μlの2% ACN 0.1% FA溶液中に再懸濁した。抽出物をnanoLC-MS/HRMSによって分析した。
【0251】
タウペプチド及びリン酸化ペプチドの定量(検証)-15N標識ペプチドを使用した安定同位体希釈MS定量法を用いて、未修飾ペプチドの絶対レベルを計算した。AQUAの非リン酸化及びリン酸化ペプチド相当物に対して得られた面積比を、対応する内因性ペプチドについて測定した面積比と比較する1点較正によって、各部位のリン酸化率を計算した。未修飾ペプチドレベルの対応物と相当する部位のリン酸化率を組み合わせることによって、リン酸化ペプチドレベルを計算した。
【0252】
統計学-回帰直線の傾きの比較を含む統計学的解析は、GraphPad Prismソフトウェア(7.0)を使用して実施した。ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定を用いて、調査した群全体から得られた数値間の統計学的有意性を計算した。ノンパラメトリックなスピアマンの順位相関係数ρを用いて、2つの一連の数値間の相関を評価した。統計学的有意性はp<0.05で定義した。
【0253】
CSFのタウリン酸化ペプチドの定量(結果)-Washington University in Saint LouisのKnight AD Research Center (ADRC)における、認知に関する病訴のないまたは軽度認知障害がある86名の被験者からなるコホートで、ADにおけるT217でのタウのリン酸化の増加を検出した。被験者は、PiB-PET及びMSによって測定したCSFのAβ42/Aβ40比の結果と一致して、29名のアミロイド陽性、47名のアミロイド陰性の被験者、及びPET-PIBとCSFのプロファイルの間で相克的な結果となった10例に層別化された。アッセイの感度を向上させるために、タウ1抗体による免疫精製を実施した。リン酸化及び非リン酸化ペプチドの両方の同位体標識バージョンを用いて、部位のリン酸化率を測定した。タウ1抗体によって回収されなかったpS199含有ペプチドを除いて、すべての試料で標的としたすべてのリン酸化ペプチドが検出された。このコホートにおいて、本発明者らは、疾患の初期段階でのpT217バイオマーカーの陽性診断の妥当性を確認した。pT217/T217比によってアミロイド陽性群とアミロイド陰性群が明確に分離された(図24B及び図24C、AUC 0.999)。さらに、pT181/T181比の測定値によって、アミロイド陽性群とアミロイド陰性群が区別された(図24B、AUC 0.956)。T217とT181のリン酸化比も相関しており(r=0.524、p=0.0002)、このことは、これらの部位のリン酸化が共通の経路に由来する可能性があることを示唆している。ただし、pT181の診断感度はpT217の診断感度よりも低かった。どちらのリン酸化比も、ELISAによって測定したp-タウ(181)及びt-タウレベルよりもより良好な弁別子であった(それぞれAUC 0.874及び0.932)。
【0254】
T217の高リン酸化、アミロイドの病態、及び認知機能の状態の間の相関(結果)-次に、本発明者らは、この新たなバイオマーカーとアミロイドプロセスの間の相関を判定した。ADRCコホートの結果は、T217の高リン酸化とアミロイドの状態の間に強い関連性があることを示唆した。重要なことに、T217のリン酸化率は、FBP Total Cortical Meanによって測定したPiB-PETの程度と有意に相関していた(図24E、r=0.60、p=0.001)。さらに、上述の、PiB-PET(+)/CSF(-)のアミロイドーシスプロファイルの、競合する5例ケースはすべて、T217で高リン酸化されていた(図24D、E)。対照的に、T217のリン酸化とCSFのAβ42/Aβ40比の間には有意な相関が見られなかった。対応するCSFのAβ42/Aβ40のMS比が定量化の閾値に近かったことから(0.12±0.02、図24E)、PiB-PETとCSFのAβ42/Aβ40の不一致は、CSFのアミロイドのアッセイの感度が不十分なためであった可能性がある。上述の、逆のPiB-PET(-)/CSF(+)のアミロイドーシスの5名の被験者のうち、2名が高リン酸化T217を示した(図24D、E)。このことは、タウの高リン酸化によって強調されるこれらの例では、アミロイドプラーク沈着物が検出される前に、CSFのAβの有意な変化が生じている可能性があることを示唆している。CSFのAβ42/Aβ40比をT217のリン酸化率の組み合わせにより、PiB-PETデータがなく、CSFのAβ42/Aβ40比の値が閾値よりわずかに高い(0.12±20%)中程度の範囲の場合であっても、アミロイド陽性の被験者が確実に識別される。認知に関する病訴のない被験者(CDR-SB=0)の中では、T217のリン酸化によって、アミロイド陽性の被験者(n=9)をアミロイド陰性の被験者(n=26、AUC 1.00、図25)から完全に区別することができ、さらに、このマーカーが前臨床のAD被験者を確実に識別することができることを裏付けた。しかしながら、この集団において、CDR-SBで測定した全般的な認知能力とT217のリン酸化率との間に相関は観測されなかった(図25)。
【0255】
考察-本発明者らは、低い存在量のリン酸化タウペプチド及びそれらのCSF中の未修飾の対応物を同時に測定する革新的なターゲットHRMS法を用いて、アミロイドの変化と同時に起こり、かつCSFのタウ濃度の増加とは異なる、CSFのタウのリン酸化率の変化の直接的なエビデンスを初めて提示する。この手法によって、根底にある異常な代謝を示す高リン酸化及び低リン酸化を評価する、AD固有のタウのリン酸化率の研究が可能になる。
【0256】
本研究の最も際立った結果は、2つの独立し、十分にキャラクタライズされたコホートにおいて調査した、前臨床、軽度、及び中程度のAD被験者由来のCSFのタウ中のT217の高度に特異的な高リン酸化である。ADタウオパチーの前に発生する可能性が高いアミロイドの病態とT217におけるタウの高リン酸化とは、病期全体を通して強い関連性があった。このことは、アミロイドーシスがタウのリン酸化の変化と関連性を有する可能性があるという仮説を裏付けている。この研究において、Aβ-アミロイドーシスを有し、かつT217のリン酸化が正常な被験者がいないことは、このタウのリン酸化部位がアミロイドプロセスの後に続く可能性があることを示唆している。T217の高リン酸化は、ADの病態生理学的プロセスにおける重要な役割を果たす可能性があり、その役割は他のタウのバイオマーカーとは異なっていた。本発明者らのコホートでは、ELISAによって評価したCSFのタウまたはp-タウのレベルの増加は、アミロイドーシスの状態の識別においてpT217/T217比よりも有効性が低かった。これらのADタウのバイオマーカーの特異性によって、最終的には臨床的ADへと進行する個人における認知機能低下の危険性の予測が改善される可能性がある。したがって、アミロイドーシスバイオマーカーをpT217/T217比の測定値と組み合わせてADを検出することにより、前臨床ADの診断が劇的に改善されるはずである。T217の高リン酸化は、CSF中のアミロイドマーカーよりもPiB-PET負荷で測定したアミロイドプラークと高い相関があるが、タウの修飾は、原線維プラークの存在によってのみ引き起こされるわけではない。脳アミロイド負荷がなく、T217の高リン酸化があり、かつCSFのAβ42/40が低い上述の2名の被験者(図24E)については、PiB-PETによって検出されないが、CSFのAβ42レベルの低下には寄与するびまん性プラークまたはAβオリゴマー形成のみの症例である可能性がある。
【0257】
pT181がクリニックにおいてADマーカーとして広範に使用されるのは、必ずしもその高い特異性ではなく、高いレベルの検出性に負う可能性が高い。pT181の測定値によって、非AD認知症と比較して、ADにおけるpT181のリン酸化の化学量論のわずかな変化が強調される。T181のリン酸化率の増加は、検証コホートで調査した、十分にキャラクタライズされたアミロイド陽性群においてよりいっそう明らかであった。両方の研究において、ELISAによるt-タウとp-タウ181を組み合わせた比では、T181で起こるリン酸化比の変化を実証することができず、このことによってELISAでこれらの変化を正確に監視することの限界が強調された。したがって、ADのCSFにおいて広く報告されているpT181の増加は、主としてT181のリン酸化の化学量論の有意な変化というよりはむしろ、同時に起こるタウイソ型レベルの増加に起因する。アミロイドAβの病態はT181における高リン酸化を誘発するが、結果として生じる変化は、T217において観測される相対的な増加と比較して、特異性が低いかまたは有意性が低いように思われる。
【0258】
ADのCSF中のS199、S202、及びT205で観測されたリン酸化化学量論の変化は、ADの脳で以前に観測されたタウのリン酸化の特定の変化を反映している可能性がある。実際、pS202及びpT205は、AT8抗体によって認識される二重リン酸化エピトープの一部である。AT8はADの脳の解剖で見られるタウ凝集体に結合し、AT8免疫反応性凝集体の程度はタウオパチーの重症度(ブラーク・ステージ)と相関する。AT8は、正常なタウまたはCSF中で測定されるADに関連するタウに対する反応性をもたない。さらに、S199を含有する非リン酸化エピトープで正常なタウに結合するタウ1抗体は、ADのタウ凝集体に対する親和性がない。まとめると、これらの知見は、ADの脳由来のタウ凝集体中において、同時に起こりかつ存在量の多いS199、S202、及びT205の高リン酸化を裏付ける。ただし、ADにおいてタウの凝集を促進するようなリン酸化タウイソ型の固有の特性については論争が存在する。軽度及び中程度のADのCSF中で観測されるS199及びS202のリン酸化の量の減少は、凝集体中の対応するリン酸化タウイソ型の蓄積と一致している。さらに、主として中程度のADのCSFにおいてT205のリン酸化が検出されることは、アミロイド関連タウオパチーの根底にある病理学的機序におけるこの部位の重要な役割を示唆している。S202/T205リン酸化の変化は、前臨床及び軽度のADの被験者で構成される第二のコホートにおいては検出されなかった(データ表示せず)。
【0259】
本知見は、ADアミロイドーシスとT217及び、程度はより低いが、T181におけるタウの高リン酸化の間の相互作用を示唆している可能性がある。これらの部位は共にプロリン指向性セリン/スレオニンキナーゼGSK-3の基質であり、AβオリゴマーによるGSK-3の活性化は、アミロイドペプチドとタウのリン酸化の間のリンクとして提案されている。アミロイドーシスの患者におけるこれら2つのGSK-3部位での一般的かつ比較的相関の高い高リン酸化はかかる機序と一致する可能性がある。タウPETにより測定したタウ凝集体を含むCSF及び脳中のタウのリン酸化率を比較するために設計されたさらなる研究は、ADの病態生理に新たな洞察をもたらす可能性があり、新規な治療方法を特定する可能性がある。これらの知見は、ADのアミロイドプラークとタウオパチーの間の特定のリンクに向いており、ADに至る分子事象の連鎖における潜在的なリンクを提供する。したがって、ADプロセス内のpT217の特異性を考えると、pT217は、将来の治療薬開発の重要な標的、及びこの異常なタウ代謝を制限する抗アミロイド薬の潜在的な効果を追跡するための興味深いツールを表している可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図8J
図8K
図8L
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図10H
図10I
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図16F
図16G
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F
図18A
図18B
図19A
図19B
図19C
図19D
図20
図21A
図21B
図21C
図21D
図21E
図22
図23A
図23B
図23C
図24A
図24B
図24C
図24D
図25
【配列表】
0007301394000001.app