(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】ミシンの下糸供給装置
(51)【国際特許分類】
D05B 45/00 20060101AFI20230626BHJP
D05B 57/26 20060101ALI20230626BHJP
D05B 57/28 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
D05B45/00 Z
D05B57/26 C
D05B57/28
(21)【出願番号】P 2019049157
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝見 健
(72)【発明者】
【氏名】若田部 淳
(72)【発明者】
【氏名】矢田 和幸
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-003680(JP,A)
【文献】特開2008-023047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの針板の下方に設けられるミシンの下糸供給装置であって、
前記針板の下方に配置される釜の支軸が挿入される円筒部と、前記円筒部において前記釜と対向する側である釜側の端部に形成された釜側フランジ部と、前記円筒部において前記釜と対向する側とは反対側である正面側の端部に形成された磁性を有する正面側フランジ部とを有し、前記釜側フランジ部と前記正面側フランジ部との間で前記円筒部の外周に下糸が巻回されるボビンと、
前記ボビンの前記正面側を覆う正面側部分と、前記ボビンの外周側を覆う側壁部分とを有し、前記ボビンを収容するとともに、磁力を透過する非磁性のカバー部を有するボビンケースと、
前記ボビンケースの前記正面側に設けられ、前記ボビンケースを介して前記ボビンの前記正面側フランジ部を磁力で吸引する磁力部材と、
前記正面側フランジ部に対して作用する前記磁力部材の磁力を変更する磁力変更部と、を備え
、
前記ボビンケースは、前記ボビンに巻回された前記下糸の供給動作に対して抵抗作用を与える下糸供給抵抗機構を有し、
前記下糸供給抵抗機構は、前記ボビンケースの内面において前記ボビンに接触して設けられた接触部材であり、
前記ボビンは、前記正面側フランジ部の外周部に、前記釜側に向けて傾斜したテーパ部をさらに有し、
前記ボビンケースに設けられた前記接触部材は、前記正面側部分の内面における前記テーパ部と対向する領域に、前記テーパ部に接触して設けられている、
ミシンの下糸供給装置。
【請求項2】
前記磁力部材は、磁石であり、
前記磁力変更部は、前記正面側フランジ部に対して前記磁石を相対的に移動させる駆動部である、
請求項1に記載のミシンの下糸供給装置。
【請求項3】
前記磁力部材は、電磁石であり、
前記磁力変更部は、前記電磁石に対して印加する電流を変更する電源部である、
請求項1に記載のミシンの下糸供給装置。
【請求項4】
前記接触部材は、さらに、前記ミシンの縫い針の挿入を受け付ける縫い針受付領域を避けて円弧状に設けられている、
請求項
1に記載のミシンの下糸供給装置。
【請求項5】
ミシンの針板の下方に設けられるミシンの下糸供給装置であって、
前記針板の下方に配置される釜の支軸が挿入される円筒部と、前記円筒部において前記釜と対向する側である釜側の端部に形成された釜側フランジ部と、前記円筒部において前記釜と対向する側とは反対側である正面側の端部に形成された磁性を有する正面側フランジ部とを有し、前記釜側フランジ部と前記正面側フランジ部との間で前記円筒部の外周に下糸が巻回されるボビンと、
前記ボビンの前記正面側を覆う正面側部分と、前記ボビンの外周側を覆う側壁部分とを有し、前記ボビンを収容するとともに、磁力を透過する非磁性のカバー部を有するボビンケースと、
前記ボビンケースの前記正面側に設けられ、前記ボビンケースを介して前記ボビンの前記正面側フランジ部を磁力で吸引する磁力部材と、
前記正面側フランジ部に対して作用する前記磁力部材の磁力を変更する磁力変更部と、を備え
、
前記ボビンケースは、前記ボビンに巻回された前記下糸の供給動作に対して抵抗作用を与える下糸供給抵抗機構を有し、
前記下糸供給抵抗機構は、前記ボビンケースに設けられ、内側から外側に向けて繰り出された前記下糸を、前記正面側部分と前記正面側フランジ部との間の間隙部に導く下糸導入機構であり、
前記ボビンケースは、前記側壁部分において前記釜側から前記正面側に向かって切り込まれて設けられ、前記下糸の挿入を受け付けて、挿入された前記下糸を前記正面側の先端の糸繰り出し穴に導く第1スリットをさらに有し、
前記ボビンケースに設けられた前記下糸導入機構は、前記側壁部分において周方向に沿って切り込まれて設けられ、前記下糸の挿入を受け付けて前記間隙部に導く第2スリットである、
ミシンの下糸供給装置。
【請求項6】
前記ボビンケースは、前記第2スリットを部分的に覆う糸外れ防止板をさらに有する、
請求項
5に記載のミシンの下糸供給装置。
【請求項7】
前記糸繰り出し穴は、前記側壁部分における前記円筒部の軸方向中心部と対向する位置に設けられている、
請求項
5または請求項
6に記載のミシンの下糸供給装置。
【請求項8】
前記ボビンケースは、前記側壁部分における前記円筒部の軸方向中心部と対向する位置に設けられ、前記下糸を内側から外側に向けて繰り出す糸繰り出し穴をさらに有する、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のミシンの下糸供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミシンの下糸供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボビンケースの外周に配された板バネに設けられた張力調整ねじのねじ込み量を変更することで、ミシンの下糸の張力を変更する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
張力調整ねじのねじ込み量の変更は、定量的な調整が困難である。その結果、ミシンの下糸の張力の調整の再現が困難である可能性がある。
【0005】
本発明の態様は、ミシンの下糸の張力の調整を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、ミシンの針板の下方に設けられるミシンの下糸供給装置であって、前記針板の下方に配置される釜の支軸が挿入される円筒部と、前記円筒部において前記釜と対向する側である釜側の端部に形成された釜側フランジ部と、前記円筒部において前記釜と対向する側とは反対側である正面側の端部に形成された磁性を有する正面側フランジ部とを有し、前記釜側フランジ部と前記正面側フランジ部との間で前記円筒部の外周に下糸が巻回されるボビンと、前記ボビンの前記正面側を覆う正面側部分と、前記ボビンの外周側を覆う側壁部分とを有し、前記ボビンを収容するとともに、磁力を透過する非磁性のカバー部を有するボビンケースと、前記ボビンケースの前記正面側に設けられ、前記ボビンケースを介して前記ボビンの前記正面側フランジ部を磁力で吸引する磁力部材と、前記正面側フランジ部に対して作用する前記磁力部材の磁力を変更する磁力変更部と、を備える、ミシンの下糸供給装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、ミシンの下糸の張力の調整を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置の一例を模式的に示す斜視分解図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るボビン及びボビンケースの一例を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るボビン、ボビンケース及び磁力部材の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るボビン、ボビンケース及び磁力部材の第1例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るボビン、ボビンケース及び磁力部材の第2例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る糸繰り出し穴の位置を説明する説明図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係るミシンの下糸供給装置におけるボビンケースの一例を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係るボビン、ボビンケース及び磁力部材の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係るミシンの下糸供給装置におけるボビン及びボビンケースの一例を示す分解斜視図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係るボビンケースの一例を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係るボビンケースの一例を示す平面図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係るボビン、ボビンケース及び磁力部材の一例を示す模式図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態に係るボビンケースの変形例を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、第4実施形態に係るミシンの下糸供給装置の一例を模式的に示す斜視分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。所定面のX軸と平行な方向をX軸方向とし、所定面においてX軸と直交するY軸と平行な方向をY軸方向とし、所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。
【0011】
[第1実施形態]
<ミシン>
図1は、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1の一例を模式的に示す斜視分解図である。以下において、まず、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1を含むミシン1ついて、
図1を用いて、その詳細を説明する。本実施形態においては、ミシン1に規定されたローカル座標系に基づいて各部の位置関係について説明する。ローカル座標系は、
図1に示すように、XYZ直交座標系により規定される。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向とする。X軸と直交する所定面内のY軸と平行な方向をY軸方向とする。所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。また、本実施形態においては、X軸及びY軸を含む平面を適宜、XY平面、と称する。X軸及びZ軸を含む平面を適宜、XZ平面、と称する。Y軸及びZ軸を含む平面を適宜、YZ平面、と称する。XY平面は、所定面と平行である。XY平面とXZ平面とYZ平面とは直交する。また、本実施形態においては、XY平面と水平面とが平行である。+X方向はボビン36-1及びボビンケース41-1の釜31への収納方向、すなわち釜軸側(釜側)の方向である。-X方向は釜31の開口方向、すなわち釜正面側(正面側)の方向である。+Y方向はミシン1の縫製対象物2の送り方向である。Z軸方向は上下方向である。+Z方向は上方向であり-Z方向は下方向である。なお、XY平面が水平面に対して傾斜していてもよい。
【0012】
図1に示すように、ミシン1は、ミシン本体10と、ミシンの上糸供給装置20と、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1と、モータ50と、制御装置60と、を備え、ミシンの上糸供給装置20から供給する上糸3と、ミシンの下糸供給装置30-1から供給する下糸4とにより縫製対象物2を縫製して、縫製対象物2に縫い目5を形成する。
【0013】
ミシン本体10は、ミシンの上糸供給装置20の各要素及び第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1の各要素を支持する各要素を含んで構成されており、すなわち、ミシンヘッド11と、針板12と、押え部材13と、を備える。ミシンの上糸供給装置20は、上糸3が通過する経路上に配置される各要素を含んで構成されており、すなわち、縫い針21と、針棒22と、天秤23と、上糸調子器24と、を備える。
【0014】
針棒22は、縫い針21とZ軸とが平行になるように縫い針21を保持して、Z軸方向に往復移動する。針棒22は、ミシンヘッド11に支持される。針棒22は、針板12の上方に配置され、縫製対象物2の表面と対向可能である。
【0015】
縫い針21は、上糸3が掛けられ、上糸3が通過する糸通し孔を有する。縫い針21は、この糸通し孔の内面で、上糸3を保持する。縫い針21は、針棒22がZ軸方向に往復移動することにより、上糸3を保持した状態でZ軸方向に往復移動する。
【0016】
天秤23は、縫い針21に上糸3を供給する。天秤23は、ミシンヘッド11に支持される。天秤23は、上糸3が通過する天秤孔を有する。天秤23は、この天秤孔の内面で、上糸3を保持する。天秤23は、針棒22に連動して、上糸3を保持した状態でZ軸方向に往復移動する。天秤23は、Z軸方向に往復移動することで、上糸3を繰り出したり引き上げたりする。
【0017】
上糸調子器24は、上糸3に張力を付与する。上糸調子器24は、ミシンヘッド11に支持される。上糸調子器24は、上糸供給源から上糸3が供給される。ミシンヘッド11の外側に形成された上糸3が通過する経路において、縫い針21よりも上糸供給源に近い上流側に天秤23が配置され、天秤23よりも上流側に上糸調子器24が配置される。上糸調子器24は、天秤23を介して、縫い針21に供給される上糸3の張力を調整する。
【0018】
針板12は、縫製対象物2を縫製する縫製位置において、縫製対象物2の裏面を下方から支持する。針板12は、針棒22及び針棒22に保持されている縫い針21とZ軸方向に対向する。針板12は、縫い針21が通過可能な針孔を有する。針板12の針孔は、針板12によって支持された縫製対象物2を貫通した縫い針21によって通過される。
【0019】
押え部材13は、縫製対象物2を上方から押さえる。押え部材13は、ミシンヘッド11に支持される。押え部材13は、針板12の上方に配置され、縫製対象物2の表面と接触する。押え部材13は、針板12との間で縫製対象物2を保持する。
【0020】
モータ50は、動力を発生する。モータ50は、ミシンヘッド11に支持されるステータと、ステータに回転可能に支持されるロータとを有する。ロータが回転することにより、モータ50は動力を発生する。モータ50で発生した動力は、動力伝達機構(不図示)を介して、針棒22、天秤23、及び、針板12の下方に配置された後述する釜31のそれぞれに伝達される。針棒22と天秤23と釜31とは連動する。モータ50で発生した動力が針棒22に伝達されることにより、針棒22及び針棒22に保持されている縫い針21は、Z軸方向に往復移動する。モータ50で発生した動力が天秤23に伝達されることにより、天秤23は、針棒22に連動してZ軸方向に往復移動する。モータ50で発生した動力が釜31に伝達されることにより、釜31は、針棒22及び天秤23に連動してX軸周りに往復回動する。ミシン1は、針棒22に保持されている縫い針21と釜31との協働により縫製対象物2を縫製する。
【0021】
以下の説明においては、ロータが回転することを、モータ50が回転する、という。縫い針21は、モータ50の回転により往復移動する。天秤23は、モータ50の回転により縫い針21に連動して往復移動する。釜31は、モータ50の回転により縫い針21及び天秤23に連動して往復回動する。
【0022】
上糸供給源からの上糸3は、上糸調子器24に掛けられた後、天秤23を経由して、縫い針21に掛けられる。モータ50が回転し、針棒22が下降すると、針棒22に保持されている縫い針21が縫製対象物2を貫通し、針板12に設けられている針孔を通過する。縫い針21が針板12の針孔を通過すると、縫い針21に掛けられている上糸3に釜31から供給された下糸4が掛けられる。上糸3に下糸4が掛けられた状態で、縫い針21が上昇して、縫製対象物2から退去する。縫い針21が縫製対象物2を貫通しているとき、ミシン1は、縫製対象物2を停止させる。縫い針21が縫製対象物2から退去したとき、ミシン1は、縫製対象物2を+Y方向に移動させる。ミシン1は、縫製対象物2の+Y方向の移動と停止とを繰り返しながら縫い針21を往復移動させて縫製対象物2に縫い目5を形成する。縫製対象物2に形成された縫い目5は、Y軸方向に延在する。
【0023】
制御装置60は、ミシン1及び第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1を制御するコンピュータシステムを含む。制御装置60は、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサを含む処理装置(不図示)と、ROM(Read Only Memory)又はストレージのような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む記憶装置(不図示)と、信号及びデータを入出力可能な入出力回路を含む入出力インターフェース(不図示)と、を有する。
【0024】
制御装置60の処理装置は、ミシン1及び第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1を制御するための種々の電算処理を実行する。制御装置60の処理装置は、後述する第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1に含まれる磁力変更部48を制御する磁力制御部61を有する。磁力制御部61は、磁力変更部48を制御することで、ミシンの下糸供給装置30-1が供給する下糸4の張力を制御する。磁力制御部61は、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1が下糸4の張力を制御するための下糸張力制御プログラムを実行することにより、実現される機能部である。第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1は、さらに磁力制御部61を備えることで、ミシンの下糸張力制御装置としての機能を果たす。
【0025】
制御装置60の記憶装置には、制御装置60の処理装置が実行する電算処理に必要な種々の情報が記憶される。制御装置60の記憶装置には、例えば、磁力変更部48の磁力と下糸4の張力との相関関係の情報が記憶される。制御装置60の入出力インターフェースには、入力装置(不図示)等の制御装置60の処理装置が実行する電算処理に必要な種々の情報を取得するために必要な各装置と、縫製対象物2の縫製処理を司るモータ50等の制御装置60が制御する対象となる各装置と、が接続される。
【0026】
<ミシンの下糸供給装置>
第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1は、
図1に示すように、下糸4が通過する経路上に配置される各要素を含んで構成されており、すなわち、釜31と、ボビン36-1と、ボビンケース41-1と、磁力部材46と、磁力部材支持部47と、磁力変更部48と、を備える。第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1は、全回転釜である釜31から下糸4を供給する装置である。
【0027】
図2は、第1実施形態に係るボビン36-1及びボビンケース41-1の一例を示す分解斜視図である。
図3は、第1実施形態に係るボビン36-1、ボビンケース41-1及び磁力部材46の一例を示す斜視図である。以下において、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1ついて、
図1、
図2及び
図3を用いて、その詳細を説明する。
【0028】
釜31は、
図1に示すように、針板12の下方に配置され、ボビンケース41-1及びボビンケース41-1に収容されたボビン36-1を収容する。釜31は、いわゆる全回転釜であり、外釜32と、内釜33と、回り止め部材34と、を有する。
【0029】
外釜32は、針板12の下方に固定して取り付けられており、-X方向に開口する釜口を有する。外釜32は、この釜口から、内釜33が+X方向から挿入されて取り付けられている。外釜32は、針板12の下方の外釜32よりも+X方向に設けられた釜軸に固定され、釜軸から回動が付与されて、X軸周りの回動を可能としている。
【0030】
外釜32は、釜正面側に、内釜33を格納して保持する格納部を有する。外釜32は、内釜33の格納部に、内釜33を釜軸と同軸に遊嵌する遊嵌機構を有する。外釜32は、遊嵌機構により、内釜33を回転させることなく、回動することを可能としている。
【0031】
外釜32は、外周の一部に回転方向に向かって、縫い針21からの上糸3のループをすくい取る剣先を有する。ミシン1は、この外釜32の剣先で縫い針21からの上糸3のループを針板12の下方からすくい取り、この上糸3のループと後述するボビン36-1から供給される下糸4とを絡ませることで、縫い目5を形成する。
【0032】
内釜33は、外釜32の内部において、釜軸と同軸に遊嵌されている。内釜33は、釜正面側に、ボビン36-1及びボビンケース41-1を格納して保持する格納部を有する。内釜33は、この格納部の釜正面側が開口を有する。内釜33は、この開口を通じて、ボビン36-1及びボビンケース41-1を内釜33の格納部に挿入したり、内釜33の格納部に格納されたボビン36-1及びボビンケース41-1を取り出したりすることを可能としている。
【0033】
内釜33は、ボビン36-1及びボビンケース41-1の格納部に釜正面側に向かって-X方向に立設した、ボビン36-1及びボビンケース41-1を支持する支軸332を有する。支軸332は、外釜32の回動の中心に位置しており、内釜33が外釜32に収容された際、釜軸と同心になる。支軸332は、先端部に、外周を1周して設けられた周溝を有する。支軸332の周溝は、後述するラッチレバー432の中央部の開口の内縁部が嵌め合せすることができる。
【0034】
内釜33は、外周の+Z方向側の領域、すなわち針板12とZ軸方向に対向する領域において、釜正面側の端部に形成された凹部331を有する。内釜33は、凹部331に後述する回り止め部材34の凸部341が嵌り込むことにより、外釜32の回動に起因した回動を阻止する。
【0035】
回り止め部材34は、Y軸方向に延びて形成された部材であり、針板12の下方側に固定して配置される。回り止め部材34は、-Y方向の端部が、ミシンヘッド11の底板部分に下方側から取り付けられて支持される。回り止め部材34は、+Y方向の端部に、+Z方向に突起した凸部341を有する。回り止め部材34は、凸部341が内釜33の凹部331に嵌り込むことにより、内釜33が外釜32の回動に起因して回動することを阻止して、内釜33が回動せず、外釜32が回動するという釜31の動作を可能にする。
【0036】
支軸332は、非磁性である、すなわち、非磁性材料で形成されていることが好ましく、この場合、後述する磁力部材46の内釜33に対する吸引力を、支軸332が磁性を有する場合に比して3分の1程度まで低減することができ、これに伴い、磁力部材46のボビン36-1の正面側フランジ部39に対する吸引力を、支軸332が磁性を有する場合に比して2倍程度に向上させることができる。
【0037】
ボビン36-1は、
図1及び
図2に示すように、円筒部37と、釜側フランジ部38と、正面側フランジ部39と、を有する。円筒部37は、
図2に示す軸円筒部431の挿入を介して、
図1に示す支軸332が挿入される。ボビン36-1は、遊嵌状態で支軸332に回転可能に支持される。
【0038】
釜側フランジ部38は、円筒部37において釜31と対向する側である釜側、すなわち釜軸側の端部に形成される。正面側フランジ部39は、円筒部37において釜31と対向する側とは反対側である釜31の正面側、すなわち釜正面側の端部に形成される。ボビン36-1は、釜側フランジ部38と正面側フランジ部39との間で円筒部37の外周に下糸4が巻回されて、釜31への下糸供給源となる。ボビン36-1は、円筒部37を下糸4の巻回方向とは逆方向に軸回り(X軸回り)に回転させることで、下糸4を巻き出す。
【0039】
ボビン36-1において、少なくとも正面側フランジ部39は、磁性を有する、すなわち、磁性材料で形成されている。一方、ボビン36-1において、円筒部37及び釜側フランジ部38は、いずれも、磁性を有していてもよいし、磁性を有していなくてもよい。ボビン36-1において、円筒部37、釜側フランジ部38及び正面側フランジ部39がいずれも磁性を有する場合、磁性材料により一体的に形成されることが好ましい。
【0040】
ボビンケース41-1は、ボビン36-1を収容するとともに、磁力を透過する非磁性のカバー部42を有する。カバー部42は、
図1、
図2及び
図3に示すように、ボビン36-1の正面側を覆う正面側部分43と、ボビン36-1の外周側を覆う側壁部分44と、を有する。
【0041】
正面側部分43は、
図2に示すように、釜31と対向する側、すなわち釜軸側の面に立設する軸円筒部431を有する。軸円筒部431は、ボビン36-1の円筒部37に挿入され、内釜33の支軸332が挿入される。すなわち、軸円筒部431は、外周側にボビン36-1の円筒部37が遊嵌状態で配され、内周側に内釜33の支軸332が配される。
【0042】
正面側部分43は、
図1に示すように、釜31と対向する側とは反対側、すなわち釜正面側に、軸円筒部431に挿入された内釜33の支軸332に係合するラッチレバー432を有する。ラッチレバー432は、中央部に軸円筒部431と連通する開口を有する。ラッチレバー432は、正面側部分43に対して起伏回動操作をすることが可能となっており、臥伏状態で支軸332の先端部がラッチレバー432の中央部の開口に遊挿することができ、ラッチレバー432の中央部の開口の内縁部を支軸332の周溝に嵌め合わせすることで、ボビンケース41-1の支軸332からの抜け落ちを防止することができる。
【0043】
正面側部分43は、
図2及び
図3に示すように、後述する縫い針受付領域441と対応する位置に、円弧状の欠損部を有する。円弧状の欠損部は、円弧の一方の端部が、縫い針受付領域441の一方の端部と一致して設けられ、円弧の他方の端部が、縫い針受付領域441の他方の端部と一致して設けられている。
【0044】
側壁部分44は、
図2及び
図3に示すように、ミシン1の縫い針21の挿入を受け付ける領域である縫い針受付領域441を有する。縫い針受付領域441は、側壁部分44において円周方向に沿って設けられた空隙であり、空隙の両端は、X軸方向に沿って直線状に設けられている。縫い針受付領域441は、針棒22が下降することに伴って、縫製対象物2を貫通し、針板12に設けられている針孔を通過する縫い針21の先端を受け付ける領域であり、側壁部分44と縫い針21の先端との間の干渉を防止することができる。
【0045】
側壁部分44は、
図2及び
図3に示すように、釜側(釜軸側)から正面側(釜正面側)に向かって切り込まれて設けられた第1スリット442を有する。第1スリット442は、正面側(釜正面側)の先端に糸繰り出し穴443を有する。第1スリット442は、下糸4の挿入を受け付けて、挿入された下糸4を糸繰り出し穴443に導く。糸繰り出し穴443は、下糸4をボビンケース41-1の内側から外側に向けて繰り出す穴である。第1スリット442は、糸繰り出し穴443から側壁部分44の外周を通過して上方に向かう方向に傾斜して設けられることが好ましく、この場合、糸繰り出し穴443から下糸4が円滑に上方に導くことができる。
【0046】
また、側壁部分44には、第1スリット442の先端側を覆うように板ばね447が取り付けられている。この板ばね447は、その先端部において、下糸4を外部に導出し且つ下糸4の導出位置を保持する導出部448を形成している。
図2及び
図3に示すように、板ばね447の導出部448が形成されている側の先端には、下糸4の保持用の爪片449が形成されており、導出部448に導出された下糸4が板ばね447から外れないようになっている。糸繰り出し穴443から繰りだされた下糸4はボビンケース41-1の側壁部分44により沿うようにしながら板ばね447の下方に挿入され、さらに導出部448に案内される。
【0047】
磁力部材46は、
図1及び
図3に示すように、ボビンケース41-1の正面側、すなわち釜正面側に設けられている。磁力部材46は、非磁性のボビンケース41-1を介して、磁性を有するボビン36-1の正面側フランジ部39を磁力で吸引する。磁力部材46は、磁力部材支持部47によって支持されている。磁力部材46は、
図1に示す磁力変更部48で磁力を変更することで、正面側フランジ部39の吸引力が変化する。
【0048】
図4は、第1実施形態に係るボビン36-1、ボビンケース41-1及び磁力部材46の第1例を示す模式図である。
図5は、第1実施形態に係るボビン36-1、ボビンケース41-1及び磁力部材46の第2例を示す模式図である。
図4及び
図5は、
図3のA-A断面における断面図であり、すなわち、XY平面における断面図である。
図4及び
図5では、下糸4、ラッチレバー432、板ばね447及び磁力部材支持部47を省略している。以下において、第1実施形態に係るボビン36-1、ボビンケース41-1及び磁力部材46の事例について、
図4及び
図5を用いて、その詳細を説明する。
【0049】
第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1の第1例は、
図4に示すように、磁力部材46が磁石46-1であり、磁力変更部48が正面側フランジ部39に対して磁石46-1を相対的に移動させる駆動部48-1である形態である。
【0050】
この第1例において、
図4(A)に示すように、駆動部48-1が正面側フランジ部39に対して磁石46-1を相対的に接近移動させることで、磁石46-1の正面側フランジ部39に対する吸引力が上昇する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41-1の正面側部分43の釜側(釜軸側)に押し付けられる力が増大するため、正面側フランジ部39と正面側部分43との間に発生する摩擦力が上昇し、ボビン36-1のボビンケース41-1内での回転に対する抵抗、すなわちボビン36-1の回転抵抗が上昇する。そして、ボビン36-1に巻回され、ボビン36-1から供給される下糸4は、ボビン36-1の回転抵抗の上昇に伴い、ボビン36-1によって引っ張られる力が増大することになるので、張力が上昇する。
【0051】
一方、この第1例において、
図4(B)に示すように、駆動部48-1が正面側フランジ部39に対して磁石46-1を相対的に離反移動させることで、磁石46-1の正面側フランジ部39に対する吸引力が下降する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41-1の正面側部分43の釜側(釜軸側)に押し付けられる力が減少するため、正面側フランジ部39と正面側部分43との間に発生する摩擦力が下降し、ボビン36-1のボビンケース41-1内での回転に対する抵抗、すなわちボビン36-1の回転抵抗が下降する。そして、ボビン36-1に巻回され、ボビン36-1から供給される下糸4は、ボビン36-1の回転抵抗の加工に伴い、ボビン36-1によって引っ張られる力が減少することになるので、張力が下降する。
【0052】
第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1の第2例は、
図5に示すように、磁力部材46が電磁石46-2であり、磁力変更部48が電磁石46-2に対して印加する電流を変更する電源部48-2である形態である。
【0053】
この第2例において、
図5(A)に示すように、電源部48-2が電磁石46-2に対して印加する電流を増加させることで、電磁石46-2の正面側フランジ部39に対する吸引力が上昇する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41-1の正面側部分43の釜側(釜軸側)に押し付けられる力が増大するため、あとは第1例と同様のメカニズムにより、ボビン36-1に巻回され、ボビン36-1から供給される下糸4の張力が上昇する。
【0054】
一方、この第2例において、
図5(B)に示すように、電源部48-2が電磁石46-2に対して印加する電流を減少させることで、電磁石46-2の正面側フランジ部39に対する吸引力が下降する。これにより、正面側フランジ部39がボビンケース41-1の正面側部分43の釜側(釜軸側)に押し付けられる力が減少するため、あとは第1例と同様のメカニズムにより、ボビン36-1に巻回され、ボビン36-1から供給される下糸4の張力が下降する。
【0055】
また、磁力部材46は、磁石46-1と電磁石46-2とのうちいずれが用いられている場合でも、ミシン1の停止時や下糸4の切断時に、正面側フランジ部39を磁力で吸引して、ボビン36-1のボビンケース41-1内での回転に対する抵抗をもたらすことができるので、下糸4が巻回されていたボビン36-1が空回りしてしまうことを低減することができる。従来では、ボビンケースの内側に設けたばねでボビンを常に微弱な力で押し付けておくことで、ボビンの空回りを防止していたが、第1実施形態に係る磁力部材46は、このボビンケースの内側に設けたばねの代用としての機能も果たすことができる。
【0056】
図6は、第1実施形態に係る糸繰り出し穴443の位置を説明する説明図である。
図6は、
図4及び
図5と同様に、
図3のA-A断面における断面図であり、すなわち、XY平面における断面図である。
図6は、ラッチレバー432、板ばね447、磁力部材46、磁力部材支持部47及び磁力変更部48を省略している。糸繰り出し穴443は、
図6に示すように、側壁部分44における円筒部37の軸方向中心部と対向する位置に設けられることが好ましい。
【0057】
糸繰り出し穴443から下糸4が繰り出される際の、糸繰り出し穴443における下糸4の方向の変化を表す変化角は、下糸4の巻回量と、下糸4の供給位置と、糸繰り出し穴443の位置とによって決まる。ここで、下糸4の巻回量は、円筒部37に巻回された下糸4の量のことであり、例えば、円筒部37に巻回された下糸4の最大径で表される。下糸4の供給位置は、円筒部37に巻回された下糸4を巻き出している位置のことであり、例えば、円筒部37における釜側フランジ部38または正面側フランジ部39からの距離で表される。
【0058】
糸繰り出し穴443が
図6に示す位置に設けられている場合において、例えば下糸4の巻回量を同じとした場合、
図6の左側に示すように、円筒部37における正面側フランジ部39側の端部から下糸4が巻き出された時の変化角θ1と、
図6の右側に示すように、円筒部37における釜側フランジ部38側の端部から下糸4が巻き出された時の変化角θ3とは、同じ値となり、ともに最大値を取る。また、同様の場合において、円筒部37における軸方向中心部から下糸4が巻き出された時の変化角θ2は、0度となり、最小値を取る。このように、糸繰り出し穴443を
図6に示す位置に設けた場合、糸繰り出し穴443における下糸4の方向の変化を表す変化角の最大値を好適に低減することができるとともに、この変化角の取り得る範囲の幅も好適に低減することができるので、ボビン36-1に巻回され、ボビン36-1から供給される下糸4の張力のばらつきを最も低減することができる。
【0059】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、磁力部材46により、磁性を有する正面側フランジ部39をボビンケース41-1の正面側部分43の釜側(釜軸側)に押し付ける力を付与することで、正面側フランジ部39と正面側部分43との間に発生する摩擦力を上昇させて、ボビン36-1のボビンケース41-1内での回転に対する抵抗、すなわちボビン36-1の回転抵抗を上昇させることにより、ボビン36-1によって下糸4を引っ張る力を付与して、下糸4に張力を付与することができる。また、磁力変更部48で磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力を変更することができるので、従来のようなボビンケース及びボビンを釜から取り外して張力調整ねじのねじ込み量を変更するといった煩わしい作業を必要とせず、下糸4の張力を容易に変更することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、第1例が、磁力部材46が磁石46-1であり、磁力変更部48が正面側フランジ部39に対して磁石46-1を相対的に移動させる駆動部48-1である形態である。このため、駆動部48-1で磁石46-1を正面側フランジ部39に対して相対的に移動することで、下糸4の張力を容易に変更することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、第2例が、磁力部材46が電磁石46-2であり、磁力変更部48が電磁石46-2に対して印加する電流を変更する電源部48-2である形態である。このため、電源部48-2で電磁石46-2に対して印加する電流を変更することで、下糸4の張力を容易に変更することができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、ボビンケース41-1が、側壁部分44における円筒部37の軸方向中心部と対向する位置に設けられ、下糸4を内側から外側に向けて繰り出す糸繰り出し穴443をさらに有する。このため、糸繰り出し穴443における下糸4の方向の変化を表す変化角の最大値を好適に低減することができるとともに、この変化角の取り得る範囲の幅も好適に低減することができるので、ボビン36-1に巻回され、ボビン36-1から供給される下糸4の張力のばらつきを最も低減することができる。
【0063】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0064】
<ミシンの下糸供給装置>
図7は、第2実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-2におけるボビンケース41-2の一例を示す斜視図である。
図8は、第2実施形態に係るボビン36-2、ボビンケース41-2及び磁力部材46の一例を示す模式図である。
図7は、ボビンケース41-2を概ね釜側(釜軸側)から見た図である。
図7では、ラッチレバー432及び板ばね447を省略している。
図8は、
図4、
図5及び
図6と同様に断面図であり、XY平面における断面図である。
図8では、下糸4、ラッチレバー432、板ばね447及び磁力部材支持部47を省略している。
【0065】
第2実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-2は、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1において、ボビンケース41-1をボビンケース41-2に変更し、ボビン36-1をボビン36-2に変更したものであり、その他の構成については同じである。
【0066】
ボビン36-2は、
図8に示すように、ボビン36-1において、両側のフランジ部にテーパ部381,391をそれぞれ追加して設けたものである。
【0067】
ボビン36-2は、
図8に示すように、正面側フランジ部39の外周部に、釜側(釜軸側)に向けて傾斜したテーパ部391を有する。ボビン36-2は、釜側(釜軸側)に向けて傾斜したテーパ部391を有するので、針棒22が下降することに伴って、縫製対象物2を貫通し、針板12に設けられている針孔を通過する縫い針21の先端が正面側フランジ部39の外周部に干渉する可能性を低減することができる。
【0068】
ボビン36-2は、上記したテーパ部391に加えて、釜側フランジ部38の外周部に、正面側(釜正面側)に向けて傾斜したテーパ部381を有する。ボビン36-2は、両側のフランジ部にテーパ部381,391をそれぞれ有するので、円筒部37の軸方向中心部に対して対称となり、円筒部37の軸周り(X軸回り)の回転を安定化させることができる。
【0069】
ボビンケース41-2は、
図7に示すように、ボビンケース41-1において、接触部材421をさらに追加したものである。接触部材421は、ボビンケース41-2のカバー部42の内面において設けられ、ボビンケース41-2に収容されたボビン36-2の正面側フランジ部39に接触するように設けられている。
【0070】
なお、
図7に示すボビンケース41-2は、第1の実施形態に係るボビンケース41-1と比較して、第1スリット442及び糸繰り出し穴443が設けられている位置が異なるが、第1の実施形態に係るボビンケース41-1と同様の位置に設けられていてもよく、
図7に示す位置とも第1の実施形態に係るボビンケース41-1とも異なる位置に設けられていてもよい。
【0071】
接触部材421は、ボビン36-2の正面側フランジ部39に接触するように設けられることで、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の接触面積を増加させることができるので、正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の摩擦力を上昇させることができるため、ボビン36-2に巻回された下糸4の供給動作に対して抵抗作用をさらに与える下糸供給抵抗機構として機能する。接触部材421は、このように下糸供給抵抗機構として機能することで、磁力変更部48による磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力の変更に基づく下糸4の張力の変化量を上昇させることができる。
【0072】
接触部材421は、より具体的には、
図8に示すように、ボビンケース41-2のカバー部42の正面側部分43の内面におけるテーパ部391と対向する領域に、テーパ部391に接触して設けられている。接触部材421は、より詳細には、ボビンケース41-2のカバー部42の内面において、正面側部分43と側壁部分44との接続領域に設けられている。このため、接触部材421は、特にテーパ部391において、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の接触面積を増加させることができるので、テーパ部391を設けたボビンケース41-2に対しては、顕著に下糸供給抵抗機構として機能するものとなる。
【0073】
接触部材421は、
図7に示すように、ミシン1の縫い針21の挿入を受け付ける縫い針受付領域441を避けて円弧状に設けられている。このため、接触部材421は、針棒22が下降することに伴って、縫製対象物2を貫通し、針板12に設けられている針孔を通過する縫い針21の先端と干渉する可能性が低減されたものとなる。また、接触部材421は、このように設けられることで、テーパ部391のより多くの領域において、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の接触面積を増加させることができるので、テーパ部391を設けたボビンケース41-2に対しては、特に顕著に下糸供給抵抗機構として機能するものとなる。
【0074】
接触部材421は、具体的には、ボビンケース41-2のカバー部42の正面側部分43とテーパ部391との間を丁度埋めることが可能な程度の太さの径を有する非磁性の金属柱(例えば、針金部材)を、縫い針受付領域441を避けて、側壁部分44の内周に沿って湾曲加工されたものが好適なものとして使用される。
【0075】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態に加えて、ボビンケース41-2が、ボビン36-2に巻回された下糸4の供給動作に対して抵抗作用を与える下糸供給抵抗機構として機能する接触部材421をさらに有する。このため、第1実施形態においてもたらされる作用効果と同様の作用効果をもたらすものであることに加え、下糸供給抵抗機構として機能する接触部材421により、磁力変更部48による磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力の変更に基づく下糸4の張力の変化量を上昇させることができる。これにより、磁力変更部48による磁力部材46の磁力の変更を介した下糸4の張力の変更幅を広げることができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、下糸供給抵抗機構は、ボビンケース41-2の内面においてボビン36-2に接触して設けられた接触部材421である。このため、接触部材421により、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の接触面積を増加させることができるので、正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の摩擦力を上昇させることができる。これにより、磁力変更部48による磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力の変更に基づく下糸4の張力の変化量を上昇させることができ、磁力変更部48による磁力部材46の磁力の変更を介した下糸4の張力の変更幅を広げることができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、ボビン36-2は、正面側フランジ部39の外周部に、釜側に向けて傾斜したテーパ部391をさらに有し、ボビンケース41-2に設けられた接触部材421は、カバー部42の正面側部分43の内面におけるテーパ部391と対向する領域に、テーパ部391に接触して設けられている。このため、接触部材421により、特にテーパ部391において、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の接触面積を増加させることができるので、テーパ部391を設けたボビンケース41-2に対しては、顕著に、正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の摩擦力を上昇させることができる。また、接触部材421を正面側フランジ部39のより外周側に設けることで安定して接触し、接触面積を増加させることができる。これにより、テーパ部391を設けたボビンケース41-2を使用する場合には、顕著に、磁力変更部48による磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力の変更に基づく下糸4の張力の変化量を上昇させることができ、磁力変更部48による磁力部材46の磁力の変更を介した下糸4の張力の変更幅を広げることができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、接触部材421は、さらに、ミシン1の縫い針21の挿入を受け付ける縫い針受付領域441を避けて円弧状に設けられている。このため、接触部材421により、針棒22が下降することに伴って、縫製対象物2を貫通し、針板12に設けられている針孔を通過する縫い針21の先端と干渉する可能性が低減されたものとなる。また、接触部材421により、テーパ部391のより多くの領域において、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の接触面積を増加させることができるので、テーパ部391を設けたボビンケース41-2に対しては、特に顕著に、正面側フランジ部39とボビンケース41-2との間の摩擦力を上昇させることができる。これにより、テーパ部391を設けたボビンケース41-2を使用する場合には、特に顕著に、磁力変更部48による磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力の変更に基づく下糸4の張力の変化量を上昇させることができ、磁力変更部48による磁力部材46の磁力の変更を介した下糸4の張力の変更幅を広げることができる。
【0079】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0080】
<ミシンの下糸供給装置>
図9は、第3実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-3におけるボビン36-3及びボビンケース41-3の一例を示す分解斜視図である。
図10は、第3実施形態に係るボビンケース41-3の一例を示す斜視図である。
図11は、第3実施形態に係るボビンケース41-3の一例を示す平面図である。
図12は、第3実施形態に係るボビン36-3、ボビンケース41-3及び磁力部材46の一例を示す模式図である。
図9及び
図10は、いずれも同じ方向から見た斜視図である。
図11は、
図7とほぼ同様に、ボビンケース41-3を釜側(釜軸側)から見た図である。
図12は、
図4、
図5、
図6及び
図8と同様に断面図であり、XY平面における断面図である。
図12では、下糸4、ラッチレバー432及び磁力部材支持部47を省略している。
【0081】
第3実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-3は、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1において、ボビンケース41-1をボビンケース41-3に変更したものであり、その他の構成については同じである。なお、第3実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-3に含まれるボビン36-3は、第1実施形態に係るボビン36-1及び第2実施形態に係るボビン36-2を適宜使用することができるので、以下において、第3実施形態の説明の都合上、第1実施形態に係るボビン36-1及び第2実施形態に係るボビン36-2と区別して表記する。
【0082】
ボビンケース41-3は、
図9、
図10及び
図11に示すように、側壁部分44において、ボビンケース41-1と同様の縫い針受付領域441、第1スリット442及び糸繰り出し穴443に加えて、第2スリット444をさらに追加したものである。第2スリット444は、側壁部分44において周方向に沿って切り込まれて設けられている。第2スリット444は、第1スリット442によって糸繰り出し穴443に導かれた下糸4の挿入を受け付けて、下糸4をボビンケース41-3の正面側部分43とボビン36-2の正面側フランジ部39との間の間隙部に導く。
【0083】
第2スリット444は、ボビンケース41-3に設けられ、内側から外側に向けて繰り出された下糸4を正面側部分43と正面側フランジ部39との間の間隙部に導く下糸導入機構として機能する。第3実施形態では、下糸導入機構として第2スリット444が設けられているが、本発明はこれに限定されず、その他の方法で下糸4を正面側部分43と正面側フランジ部39との間の間隙部に導く機構を設けても、第3実施形態と同様の作用効果が期待できる形態となる。
【0084】
第2スリット444によって間隙部に導入された下糸4の部分は、
図12に示すように、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39とボビンケース41-3の正面側部分43との間で挟み込まれるので、正面側フランジ部39との間にも、ボビンケース41-3の正面側部分43との間にも、摩擦力が発生するため、ボビン36-3に巻回された下糸4の供給動作に対して抵抗作用がもたらされる。このため、第2スリット444は、下糸供給抵抗機構として機能する。なお、その他の下糸導入機構を採用した場合であっても、第3実施形態に係る第2スリット444と同様に、下糸供給抵抗機構として機能する。
【0085】
第2スリット444は、
図10及び
図11に示すように、下糸4を、第2スリット444の一方の端部と他方の端部とを結ぶ直線状に、すなわち側壁部分44を円柱とみなした場合の弦状に、間隙部に導く。第2スリット444によって弦状にして間隙部に導入された下糸4の部分の長さに基づいて、正面側フランジ部39との間及び正面側部分43との間に発生する摩擦力が決まる。このため、第2スリット444は、間隙部に導入された下糸4の部分の長さが長くなるように、すなわち、第2スリット444の一方の端部と他方の端部とを結ぶ直線長さが長くなるように設けることが好ましい。つまり、第2スリット444は、第2スリット444の一方の端部と他方の端部とを結ぶ直線を、可能な限り軸円筒部431の外周面に近づけて設けることが好ましい。なお、下糸4を安定供給するために、第2スリット444は、第2スリット444の一方の端部と他方の端部とを結ぶ直線を、軸円筒部431の外周面に交差しないように設けることが好ましい。
【0086】
第2スリット444は、側壁部分44において、円周方向において縫い針受付領域441と第1スリット442及び糸繰り出し穴443との間に設けられる。このため、第2スリット444は、第1スリット442及び糸繰り出し穴443によって導入された下糸4の挿入を受け付けて、下糸4を間隙部に導いた後に、円滑に上方に導くことができる。
【0087】
図13は、第3実施形態に係るボビンケース41-3の変形例を示す斜視図である。第3実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-3におけるボビンケース41-3は、
図13に示すように、第2スリット444を部分的に覆う糸外れ防止板445を更に有することが好ましい。糸外れ防止板445は、ボビンケース41-3のその他の部位と同様に非磁性であり、すなわち、非磁性材料で形成されている。
【0088】
糸外れ防止板445は、第2スリット444に導入した下糸4が、第2スリット444の外側へ外れてしまうことを低減、防止することができる。この糸外れ防止板445は、
図13に示すように、下糸4の導出側の先端部において、下糸4を外部に導出し且つ下糸の導出位置を保持する導出機構が形成されている。この糸外れ防止板445の導出機構は、第1実施形態における板ばね447の先端側に形成された導出部448及び爪片449による導出機構と同様のものであり、第1実施形態における導出部448及び爪片449と同様に、下糸4が糸外れ防止板445から外れることを防止しつつ、下糸4を所定の導出位置に案内する。
【0089】
糸外れ防止板445は、
図13に示すように、第2スリット444よりも釜側(釜軸側)のみで、側壁部分44に固定されている。このため、第2スリット444に下糸4を導入する際には、糸外れ防止板445を固定していない正面側(釜正面側)から下糸4を導入することができる。なお、糸外れ防止板445は、この形態に限定されず、第2スリット444よりも正面側(釜正面側)のみで側壁部分44に固定し、釜側(釜軸側)から下糸を導入する形態でもよい。
【0090】
なお、第3実施形態では、ボビン36-3として第2実施形態に係るボビン36-2と同様の物を採用することができる。第3実施形態においてボビン36-3として第2実施形態に係るボビン36-2と同様の物を採用する場合、第2実施形態と同様に、ボビンケース41-3において、接触部材421をさらに追加して設けることが好ましく、第2実施形態と同様の作用効果が追加で期待できる。
【0091】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態に加えて、ボビンケース41-3が、ボビン36-3に巻回された下糸4の供給動作に対して抵抗作用を与える下糸供給抵抗機構として機能する第2スリット444をさらに有する。このため、第1実施形態においてもたらされる作用効果と同様の作用効果をもたらすものであることに加え、下糸供給抵抗機構として機能する第2スリット444により、磁力変更部48による磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力の変更に基づく下糸4の張力の変化量を上昇させることができる。これにより、磁力変更部48による磁力部材46の磁力の変更を介した下糸4の張力の変更幅を広げることができる。
【0092】
また、本実施形態では、下糸供給抵抗機構として、ボビンケース41-3に設けられ、内側から外側に向けて繰り出された下糸4を、正面側部分43と正面側フランジ部39との間の間隙部に導く下糸導入機構の一例である第2スリット444を有する。このため、下糸導入機構の一例である第2スリット444により、間隙部に導入された下糸4の部分を、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39と正面側部分43との間で挟み込むことができるので、正面側フランジ部39との間にも、ボビンケース41-3の正面側部分43との間にも、摩擦力を発生させることができるため、ボビン36-3に巻回された下糸4の供給動作に対して抵抗作用をもたらすことができる。この抵抗作用により、磁力変更部48による磁力部材46の正面側フランジ部39に対して作用する磁力の変更に基づく下糸4の張力の変化量を上昇させることができ、磁力変更部48による磁力部材46の磁力の変更を介した下糸4の張力の変更幅を広げることができる。
【0093】
また、本実施形態では、ボビンケース41-3は、側壁部分44において釜側から正面側に向かって切り込まれて設けられ、下糸4の挿入を受け付けて、挿入された下糸4を正面側の先端の糸繰り出し穴443に導く第1スリット442と、下糸導入機構として、側壁部分44において周方向に沿って切り込まれて設けられ、下糸4の挿入を受け付けて間隙部に導く第2スリット444と、を有する。このため、第2スリット444により、下糸4が、第2スリット444の一方の端部と他方の端部とを結ぶ直線状に、すなわち側壁部分44を円柱とみなした場合の弦状に、間隙部に導かれる。このため、間隙部に導入された下糸4の弦状の部分を、磁力部材46の磁力によって正面側フランジ部39を吸引した際の正面側フランジ部39と正面側部分43との間で挟み込むことができるので、ボビン36-3に巻回された下糸4の供給動作に対して安定して高い抵抗作用をもたらすことができる。
【0094】
[第4実施形態]
第4実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0095】
<ミシンの下糸供給装置>
図14は、第4実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-4の一例を模式的に示す斜視分解図である。第4実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-4は、第1実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-1において、全回転釜である釜31を、半回転釜である釜71に変更したものであり、その他の構成については同じである。すなわち、第4実施形態に係るミシンの下糸供給装置30-4は、半回転釜である釜71から下糸4を供給する装置である。
【0096】
半回転釜である釜71は、
図14に示すように、針板12の下方に配置され、ボビンケース41-1及びボビンケース41-1に収容されたボビン36-1を収容する。釜71は、大釜72と、ドライバ73と、中釜74と、中釜押え部材75と、を有する。
【0097】
大釜72は、針板12の下方に固定して取り付けられており、上方に縫い糸を挿通する開口が形成された板バネを有する。大釜72は、-X方向に開口する釜口を有する。大釜72は、この釜口から、ドライバ73及び中釜74が+X方向からこの順に挿入されて取り付けられ、この釜口に中釜押え部材75が装着されることで、ドライバ73及び中釜74を共に内部に収容する構成となっている。
【0098】
大釜72は、ドライバ73及び中釜74を往復回動可能に格納する。大釜72は、内部に、中釜74の外周面に摺接する内周面を有する。大釜72は、中釜74の外周面を内周面に沿って滑らせることにより、中釜74のX軸周りの往復回動動作を許容する。
【0099】
ドライバ73は、X軸周りの円周の一部分に対応する略円弧状である。ドライバ73は、大釜72の内部の釜軸の+X方向側の部分に固定され、釜軸から往復回動が付与される。
【0100】
ドライバ73は、大釜72の内部において、X軸周りの円周の一部分に対応する円弧状の一端部と他端部との2つの接触点で、往復回動方向に応じて交互に中釜74に接触する。ドライバ73は、これらの2つの接触点の切り替わりによって、ドライバ73と中釜74との間を上糸3が通過することで、縫い針21からの上糸3のループに中釜74をくぐらせることを可能としている。
【0101】
中釜74は、X軸周りの円周の別の一部分に対応する略円弧状であり、ドライバ73と組合せられることで、X軸周りの円周の概ね1周分を形成する。中釜74は、大釜72の内部の釜軸のドライバ73に対して釜正面側、すなわち-X方向側の位置に、ドライバ73に係合されて配置される。中釜74は、ドライバ73から往復回動が付与される。
【0102】
中釜74は、外周に、大釜72の内周面と摺接する外周面を有する。中釜74は、外周面が大釜72の内周面に沿って滑ることで、大釜72の内部におけるX軸周りの往復回動を可能としている。
【0103】
中釜74は、外周面の前進方向の一端部に、前進方向に回動している際、すなわち、釜正面側から見て時計回りの方向に回動している際に、縫い針21からの上糸3のループをすくい取る剣先を有する。第4の実施形態に係るミシン1は、この中釜74の剣先で縫い針21からの上糸3のループを針板12の下方からすくい取り、この上糸3のループとボビン36-1から供給される下糸4とを絡ませることで、縫い目5を形成する。
【0104】
中釜74は、釜正面側に、ボビン36-1及びボビンケース41-1を格納して保持する格納部を有する。中釜74は、この格納部に釜正面側に向かって-X方向に立設した、ボビン36-1及びボビンケース41-1を支持する支軸741を有する。支軸741は、中釜74の往復回動の中心に位置しており、中釜74が大釜72に収容された際、大釜72の内部の釜軸と同心になる。支軸741は、先端部に、外周を1周して設けられた周溝を有する。支軸741の周溝は、ラッチレバー432の中央部の開口の内縁部が嵌め合せすることができる。
【0105】
支軸741は、非磁性である、すなわち、非磁性材料で形成されていることが好ましく、この場合、磁力部材46の中釜74に対する吸引力を、支軸741が磁性を有する場合に比して3分の1程度まで低減することができ、これに伴い、磁力部材46のボビン36-1の正面側フランジ部39に対する吸引力を、支軸741が磁性を有する場合に比して2倍程度に向上させることができる。
【0106】
中釜押え部材75は、大釜72の釜正面側に取り付けられ、大釜72の釜口の開口端領域の全周を塞ぐ蓋体として機能する。中釜押え部材75は、大釜72の内部に格納されたドライバ73及び中釜74を、釜71の前後方向であるX軸方向に安定的に支持する。
【0107】
中釜押え部材75は、中央部に、大釜72の釜口より小径の小開口を有する。中釜押え部材75は、小開口を通じて、ボビン36-1及びボビンケース41-1を中釜74の格納部に挿入したり、中釜74の格納部に格納されたボビン36-1及びボビンケース41-1を取り出したりすることを可能としている。
【0108】
なお、第4実施形態では、さらに、ボビンケース41-1を第2実施形態に係るボビンケース41-2に変更し、ボビン36-1を第2実施形態に係るボビン36-2に変更した形態を採用することができ、この場合、第2実施形態と同様の作用効果が追加で期待できる。
【0109】
また、第4実施形態では、さらに、ボビンケース41-1を第3実施形態に係るボビンケース41-3に変更した形態を採用することができ、この場合、第3実施形態と同様の作用効果が追加で期待できる。
【0110】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、全回転釜である釜31を半回転釜である釜71に変更したこと以外、第1実施形態と同様の構成を有するので、第1実施形態と同様の作用効果をもたらすものとなる。
【符号の説明】
【0111】
1…ミシン、2…縫製対象物、3…上糸、4…下糸、5…縫い目、10…ミシン本体、11…ミシンヘッド、12…針板、13…押え部材、20…ミシンの上糸供給装置、21…縫い針、22…針棒、23…天秤、24…上糸調子器、30-1,30-2,30-3,30-4…ミシンの下糸供給装置、31,71…釜、32…外釜、33…内釜、34…回り止め部材、36-1,36-2,36-3…ボビン、37…円筒部、38…釜側フランジ部、39…正面側フランジ部、41-1,41-2,41-3…ボビンケース、42…カバー部、43…正面側部分、44…側壁部分、46…磁力部材、46-1…磁石、46-2…電磁石、47…磁力部材支持部、48…磁力変更部、48-1…駆動部、48-2…電源部、50…モータ、60…制御装置、61…磁力制御部、72…大釜、73…ドライバ、74…中釜、75…中釜押え部材、331…凹部、332,741…支軸、341…凸部、381,391…テーパ部、421…接触部材、431…軸円筒部、432…ラッチレバー、441…縫い針受付領域、442…第1スリット、443…糸繰り出し穴、444…第2スリット、445…糸外れ防止板、447…板ばね、448…導出部、449…爪片。