(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】造形装置、方法及び造形システム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/30 20170101AFI20230626BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230626BHJP
B29C 64/295 20170101ALI20230626BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230626BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230626BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20230626BHJP
【FI】
B29C64/30
B29C64/118
B29C64/295
B33Y30/00
B33Y10/00
B29C64/393
(21)【出願番号】P 2019051911
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】516262549
【氏名又は名称】エス.ラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 篤
(72)【発明者】
【氏名】荒生 剛志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 惇
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535170(JP,A)
【文献】特開2019-155691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/393
B29C 64/118
B29C 64/295
B33Y 30/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形材料を積層して三次元造形物を造形する造形装置であって、
前記積層を行って前記三次元造形物の造形を行う造形エリアと、
前記造形材料の積層時に前記造形材料を局所的に加熱する局所加熱部と、
前記積層時に前記造形材料を局所的に冷却する局所冷却部と、
得られた前記三次元造形物を所定温度以上でアニーリングするアニーリング
エリアと、
前記造形エリアと前記アニーリングエリアとの間で熱を遮断する断熱部材と、
を備えた造形装置。
【請求項2】
前記所定温度は、前記造形材料のガラス転移点の温度以上の温度とされる、
請求項1記載の造形装置。
【請求項3】
前記造形エリアと前記アニーリングエリアとは、開閉可能に構成された前記断熱部材を介して隣接して配置され、
前記三次元造形物を載置した載置台を前記造形エリアから前記アニーリングエリアへと搬送する搬送部を備えた、
請求項1記載の造形装置。
【請求項4】
前記アニーリングエリアは、前記三次元造形物を載置した載置台を複数収納可能とされている、
請求項3記載の造形装置。
【請求項5】
造形材料を積層して三次元造形物を造形する造形装置で実行される方法であって、
造形エリアにおいて前記造形材料の積層時に前記造形材料を局所的に加熱する過程と、
前記造形エリアにおいて前記積層時に前記造形材料を局所的に冷却する過程と、
得られた前記三次元造形物を
アニーリングエリアに搬送する過程と、
断熱部材によって前記造形エリアと前記アニーリングエリアとの間の熱を遮断する過程と、
前記アニーリングエリアにおいて、搬送された前記三次元造形物を所定温度以上でアニーリングする過程と、
を備えた方法。
【請求項6】
造形材料を積層して三次元造形物を造形する造形システムであって、
前記造形材料の積層時に前記造形材料を局所的に加熱する局所加熱部と、前記積層時に前記造形材料を局所的に冷却する局所冷却部と、を有し、前記三次元造形物を造形する造形装置と、
前記造形装置
で造形された前記三次元造形物を所定温度以上でアニーリングするアニーリング装置と、
前記造形装置から前記アニーリング装置に前記三次元造形物を断熱状態で搬送する、断熱機構を有する搬送装置と、
を備えた造形システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置、方法及び造形システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金型などを用いずに造形物を造形可能な装置として、造形装置が普及しつつある。
例えば、結晶性樹脂においては、造形中において冷却ムラが原因となり、収縮ムラが生じ、造形物に内部応力が発生することから、反りが生じやすい。特許文献1では1つ又は複数の半晶質ポリマーと、前記1つ又は複数の半晶質ポリマーの結晶化を遅延させるように構成されている1つ又は複数の第2の材料とを用いて造形すする技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、反りを抑えるためにブリムと呼ばれる造形物の最下部に形成される薄い板を造形する場合もあるが、造形物の大きさによってはブリムだけで反りを抑えることが困難であった。
【0004】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で立体造形物の反りや変形を抑制し、品質の高い立体造形物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態の造形装置は、造形材料を積層して三次元造形物を造形する造形装置であって、積層を行って三次元造形物の造形を行う造形エリアと、造形材料の積層時に造形材料を局所的に加熱する局所加熱部と、積層時に造形材料を局所的に冷却する局所冷却部と、得られた三次元造形物を所定温度以上でアニーリングするアニーリングエリアと、造形エリアとアニーリングエリアとの間で熱を遮断する断熱部材と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡易な構成で立体造形物の反りや変形を抑制し、品質の高い立体造形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、造形装置の概要構成ブロック図である。
【
図2】
図2は、造形エリアの内部構造を示す概略正面図である。
【
図3】
図3は、アニーリングエリアの内部構造を示す概略正面図である。
【
図4】
図4は、造形ヘッドの概略構成説明図である。
【
図5】
図5は、造形装置の造形ヘッドの駆動制御系の概要構成ブロック図である。
【
図6】
図6は、造形装置の制御系の概要構成ブロック図である。
【
図7】
図7は、実施例及び比較例の製造条件及び定性評価結果を説明する図である。
【
図8】
図8は、積層方向強度の評価に用いた三次元造形物の説明図である。
【
図9】
図9は、レーザ出力を固定した場合における三次元造形物の反り量の定量的な評価の説明図である。
【
図10】
図10は、レギュレータ設定圧を固定した場合の引張試験したときの破断応力の評価結果を説明する図である。
【
図11】
図11は、アニーリング処理条件と得られた三次元造形物の引張弾性率の評価結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる3次元造形装置を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0009】
造形装置の一例として、熱溶解積層法について説明する。熱溶解積層法は、熱可塑性樹脂を含有する造形材料を熱で溶融させ半液状化させた後、造形したい立体造形物の3Dデータに基づいて所定の位置に造形材料を吐出して造形層を形成する。そして、この造形層の積層を繰り返すことにより、他の方法に比べて簡便に立体造形物を造形することができる。
【0010】
このような熱溶解積層法による造形装置で用いられる造形材料について、例えば、造形材料の作製時、保管時、又は立体造形物の製造時に、取り扱いにくい樹脂を芯層部とし、ポリエーテルエーテルケトン等のスーパーエンジニアリングプラスチックなどを鞘層部として多層化した造形材料を用いることができる。
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
<全体構成>
造形材料で造形層を造形ステージに造形する造形装置の一実施形態と、造形材料として熱可塑性樹脂のフィラメントを用いた熱溶解積層法により立体造形物を造形する造形装置について説明を行う。
【0012】
なお、造形装置は、熱可塑性樹脂のフィラメントを用いた熱溶解積層法に限定されるものではなく、種々の造形材料や造形方法に適用可能であり、造形ステージの載置面上に三次元造形物(立体造形物)を造形する任意の造形装置を用いることができる。
【0013】
図1は、造形装置の概要構成ブロック図である。造形装置100は、筐体101と、載置台102と、シャッタ104と、スライダ105と、エレベータユニット106、載置台支持台110が含まれる。
【0014】
筐体101は、造形部として造形エリア101Aと、アニーリング部としてアニーリングエリア101Bを備える。具体的には、筐体101は二つのエリアに分かれており、一方は、積層造形を行う造形エリア(造形室)101Aとされ、他方は、造形後の三次元造形物MOに対して所定温度以上で熱処理(アニーリング)を行うアニーリングエリア(アニーリング室)101Bと、されている。
【0015】
ここで、アニーリングとは、三次元造形物MOに所定温度以上で熱処理を行って残留応力による歪みを解消(除去)する処理であり、造形材料がガラス転移点を有している場合には、ガラス転移点の温度以上の温度で、熱処理を行う処理となる。
【0016】
載置台102は、三次元造形物MOを載置する。二つのエリア101A、101B間で、三次元造形物MOを載置する載置台102は、搬送ユニット103により移動可能である。載置台支持台110と載置台102は一体となっており、載置台支持台110は、載置台102を支持する。なお、搬送ユニット103は、モータ、スライダ105及び載置台支持台110の総称を意味する。載置台支持台110を介して載置台102が搬送される。
【0017】
スライダ105は、搬送ユニット103に対して水平方向に配置され、を備え、載置台102は、二つのエリア101A、101B間を搬送される。
アニーリングエリア101Bは、複数の載置台102をスタック(収納)可能な空間を有し、載置台102を垂直方向に駆動可能なエレベータユニット106を備えている。
【0018】
シャッタ104は、開閉によって熱を調整する断熱部材である。二つのエリア101A、101B間にシャッタ104が設けられており、載置台102が移動するときは、シャッタ104を開くことで、通路を確保し、シャッタ104を閉じる。これによって、二つのエリア101A、101Bの熱が遮断される。したがって、アニーリングエリア101Bにおいては、アニーリング雰囲気を維持することが可能となっている。
【0019】
図1の造形装置では、造形エリア101Aとアニーリングエリア101Bとが一体となった造形装置としているが、造形エリア101Aとアニーリングエリア101Bがそれぞれ別体になってもよい。具体的には、立体造形装置として造形エリア101Aと、アニーリング装置としてアニーリングエリア101Bとを備える造形システムとしてもよい。
【0020】
シャッタ104は、開閉によって熱を調整する断熱部材である。二つのエリア101A、101B間にシャッタ104が設けられており、載置台102が移動するときは、シャッタ104を開くことで、通路を確保し、シャッタ104を閉じる。これによって、二つのエリア101A、101Bの熱が遮断される。したがって、アニーリングエリア101Bにおいては、アニーリング雰囲気を維持することが可能となっている。
【0021】
続いて
図1の造形エリア101Aとアニーリングエリア101Bを
図2と
図3を用いて説明する。
図2は、造形エリアの内部構造を示す概略正面図である。
図1と同様の符号を付している構成については適宜説明を省略する。
図2においては、上下方向をZ軸方向、装置の左右方向をX軸方向、装置の奥行き方向をY軸方向として説明する。
【0022】
造形エリア101Aは、筐体101の内部の処理空間内に載置台支持台110が設けられ、この載置台支持台110に支持された載置台102の上で三次元造形物MOが造形される。造形エリア101Aは、筐体101、載置台102、載置台支持台110、造形モジュール10、造形ヘッド20、ノズル21、加熱ブロック22、冷却ブロック24、エクストルーダ25、局所加熱装置27、29、リール31、支持部材28、Z軸駆動モータ41、Z軸送りネジ42、Z軸座標検知機構43、載置台ガイド軸44、加熱部400、X軸駆動モータ51、X軸送りネジ52、X軸座標検知機構53、X軸ガイド軸54、Y軸駆動モータ61、送りネジ保持部61a、Y軸送りネジ62、Y軸座標検知機構63、Y軸ガイド軸64、ノズル清掃部70、ブラシ71、ブラシモータ72,回収ボックス73、回転テーブル82、テーブル回転モータ83,モータギヤ83Aが含まれる。
【0023】
載置台支持台110のX軸方向両端付近には、載置台ガイド軸44が貫通しており、載置台102のY軸方向一端付近には、Z軸送りネジ42が貫通している。載置台支持台110のZ軸送りネジ42が貫通する貫通穴の内周面には、雌ネジが形成されている。載置台支持台110は、Z軸送りネジ42に螺合している。
【0024】
Z軸送りネジ42の下端は、筐体101の底面に設けられたZ軸駆動モータ41に接続されている。また、筐体101の底面には、載置台支持台110に載置された載置台102のZ軸方向位置を検知するZ軸座標検知機構43が設けられている。
【0025】
Z軸駆動モータ41の駆動力によってZ軸送りネジ42が回転駆動することで、Z軸送りネジ42に螺合された載置台支持台110が、一対の載置台ガイド軸44に案内されながら、Z軸方向に移動し、ひいては、載置台支持台110に支持されている載置台102がZ軸方向に移動する。Z軸駆動モータ41は、Z軸座標検知機構43の検知結果に基づいて制御される。
【0026】
台加熱部400は、載置台102を加熱する。台加熱部400は、載置台102の三次元造形物MOが載置される面の温度を規定の温度に加熱している。
このように載置台102を規定の温度に加熱することで、造形中に載置台102上に載置されている三次元造形物MOの造形材層が冷えてしまうのを抑制する。これにより、造形材層の冷えによる伸縮を抑制して、三次元造形物MOの反りなどの発生を抑制することができる。
【0027】
筐体101の外側面には、造形材料の一例として細長いワイヤー形状のフィラメントFを巻き付けたリール31が回転自在に取り付けられている。リール31は、フィラメントFを送り出すエクストルーダ25によって引っ張られて回転することで、巻き取られたフィラメントFを繰り出す。
【0028】
造形エリア101A内における載置台102の上方には、吐出手段として造形モジュール10が設けられている。造形モジュール10は、造形ヘッド20、保持手段としての回転テーブル82、支持部材28などを有している。
【0029】
造形ヘッド20は、フィラメントFを送り出す導入部としてのエクストルーダ25と、フィラメントFを冷却する冷却部としての冷却ブロック24と、フィラメントFを加熱して溶融させる加熱ブロック22と、溶融したフィラメントFが押し出される押し出し部としてのノズル21と、を備えている。
【0030】
造形ヘッド20は、溶融状態のフィラメントFをノズル21から押し出すようにして吐出することにより、載置台102上に造形材料からなる層を順次積層し、硬化させて、三次元造形物MOを造形する。また、ノズル21の近傍には、局所加熱装置27と局所冷却装置29が設置されている。局所加熱装置27は、三次元造形物MOの造形中に三次元造形物MOを局所的に加熱する。局所冷却装置29は、三次元造形物MOの造形中に三次元造形物MOを局所的に冷却する。
【0031】
造形モジュール10においては、二個の造形ヘッド20がY軸方向に並んで設けられており、造形ヘッド20のノズル21以外は、一体化されている。
造形ヘッド20は、回転テーブル82に保持されており、回転テーブル82は、回転自在に支持部材28に取り付けられている。
【0032】
二個の造形ヘッド20のうち、一方の造形ヘッド20のノズル21からは、三次元造形物を構成するモデル材となる溶融したフィラメントFが吐出され、他方の造形ヘッド20のノズル21からは、サポート材となる溶融したフィラメントFが吐出される。
サポート材は、通常、三次元造形物を構成するモデル材のフィラメントFとは異なる材料で形成され、最終的には三次元造形物から除去される造形補助材料である。そして、他方のノズル21から吐出されたサポート材からなる溶融したフィラメントFも、モデル材の溶融したフィラメントFと同様に、層状に順次積層される。
【0033】
回転テーブル82は、支持部材28に回転自在に設けられている。この支持部材28には、回転テーブル82を回転させるテーブル回転モータ83が取り付けられている。回転テーブル82の外周面には、例えば、外歯が形成されており、テーブル回転モータ83のモータギヤ83Aが、回転テーブル82の外歯と噛み合っている。これにより、テーブル回転モータ83から駆動力が伝達され、回転テーブル82が回転する。
【0034】
支持部材28には、X軸方向に延びるX軸ガイド軸54と、X軸送りネジ52とが貫通している。支持部材28のX軸送りネジ52が貫通する貫通穴の内周面には、雌ネジが形成されており、支持部材28は、X軸送りネジ52に螺合している。
【0035】
筐体101上部のX軸方向一端(図中左側)には、Y軸ガイド軸64が設けられており、筐体上部のX軸方向他端(図中右側)には、Y軸送りネジ62が設けられている。Y軸ガイド軸64には、被ガイド部材66がY軸方向に移動可能に取り付けられており、Y軸送りネジ62には、移動部材65が螺合している。
【0036】
被ガイド部材66は、X軸ガイド軸54とX軸送りネジ52の一端を保持している。X軸送りネジ52は、被ガイド部材66に回転可能に保持されている。移動部材65は、X軸ガイド軸54の他端と、X軸駆動モータ51と、造形モジュール10のX軸方向の位置を検知するX軸座標検知機構53とを保持している。X軸送りネジ52の他端は、X軸駆動モータ51に接続されている。これにより、造形ヘッド20等を支持する支持部材28が、X軸ガイド軸54とX軸送りネジ52によって架け渡された状態で、Y軸送りネジ62とY軸ガイド軸64とに保持される。
【0037】
Y軸送りネジ62の一端は、送りネジ保持部61aに回転自在に支持されており、他端は、筐体101の側面に取り付けられたY軸駆動モータ61に接続されている。送りネジ保持部61aには、造形モジュール10のY軸方向の位置を検知するY軸座標検知機構63が取り付けられている。
【0038】
Y軸駆動モータ61によってY軸送りネジ62が回転駆動することで、Y軸送りネジ62に螺合された移動部材65がY軸方向に移動する。これにより、X軸ガイド軸54とX軸送りネジ52を介して移動部材65に保持された造形モジュール10がY軸ガイド軸64にガイドされながら、Y軸方向に移動する。Y軸駆動モータ61は、Y軸座標検知機構63の検知結果に基づいて制御される。
【0039】
X軸送りネジ52がX軸駆動モータ51の駆動力を受けて回転駆動すると、造形モジュール10がX軸送りネジ52に螺合された支持部材28とともにX軸ガイド軸54にガイドされながらX軸方向に移動する。X軸駆動モータ51は、X軸座標検知機構53の検知結果に基づいて制御される。
【0040】
筐体101内には、造形ヘッド20のノズル21を清掃するためのノズル清掃部70が設けられている。溶融したフィラメントFの吐出を連続で続けると、ノズル21からの溶融フィラメントの垂れやノズル21に付着する残留フィラメントによってノズル周辺が汚れ、適切な吐出動作を妨げるおそれがある。そのため、定期的にノズルの清掃を行う必要がある。
【0041】
ノズル清掃部70は、載置台102のX軸方向一端に設けられており、主にノズル21の残留フィラメントなどの異物を除去するためのブラシ71と、ブラシ71を回転させるブラシモータ72と、ブラシ71によって除去された異物を回収する回収ボックス73とを有している。
【0042】
ノズル21の清掃は、次のようにして行われる。まず、載置台支持台110に載置された載置台102および造形モジュール10を移動させて、ノズル21をブラシ71に接触させる。そして、ブラシモータ72によってブラシ71を回転させて、ノズル21に付着している残留フィラメントなどの異物を除去する。
【0043】
好ましくは、ノズル21に付着した残留フィラメントの温度が下がりきらないうちにクリーニングした方が固着の観点からは好ましい。ブラシ71としては、耐熱性樹脂を用いることが好ましい。
【0044】
ノズル21から除去された異物は、回収ボックス73に落下し、回収ボックス73に回収される。回収ボックス73は、載置台支持台110に対して着脱可能に設けられており、載置台支持台110から取り外された回収ボックス73に収容される異物は、作業者によって定期的にボックス内から取り除かれる。この造形エリア101Aでは、筐体101内に回収ボックス73を設けているが、筐体101外に設け、ブラシ71によってノズル21から除去された異物を例えば、吸引機などにより、筐体101外に設けた回収ボックス73に搬送するようにしてもよい。
【0045】
図3は、アニーリングエリアの内部構造を示す概略正面図である。
図1、
図2と同一の符号を付している構成については適宜説明を省略する。アニーリングエリア101Bは、載置台102、スライダ105、エレベータユニット106、ロッド121、ホットエアーユニット122、吸気口123、排気口124が含まれる。
スライダ105を介して、載置台102を載置した載置台支持台110は、造形エリア101Aからアニーリングエリア101B内に搬送される。
アニーリングエリア101B内には、複数の載置台102を格納する為に、載置台102に係合し、載置台102を上部へとスライドするエレベータユニット106を備えている。
【0046】
アニーリングエリア101Bの最上部側から格納していけるように、装置両端部に伸縮可能なロッド121を設けており、格納可能なZ座標まで載置台102がエレベータユニット106により上昇するとロッド121が伸びて載置台102がロッド121に載せられるようになっている。
【0047】
次にアニーリング機構について以下に説明する。
熱源送風源のホットエアーユニット122が配置されている。 アニーリングエリア101Bは、熱源と送風源のホットエアーユニット122が配置されている。ホットエアーユニット122は、カートリッジ化されており、所定数(
図3では、2個のみ図示)を装置下部に配置する。この場合において、接的に造形物にホットエアーが当たらないようにホットエアーユニット122の配置位置を考慮することが好ましい。
【0048】
また、徐冷機構として、吸気口123と排気口124が配置されている。この場合もホットエアーユニット122と同様に、冷却風が直接造形物に当たらないように気流設計した上で、これらを配置することが好ましい。
【0049】
アニーリングエリア101B、吸気口123、および排気口124の気流設計によって十分ゆっくりと温度変化するように、可動できるように制御することで、造形物の結晶化を促す。加えて、庫内温度をセンシングする為に、複数個所において温度センサ(熱電対)が配置されており、これらのセンシング結果に基づいて、ホットエアーユニット122、給気口123における給気量及び排気口124における排気量が制御される。
【0050】
続いて、造形エリア101A内の造形ヘッド20について説明する。
図4は、造形ヘッドの概略構成説明図である。
図2と同一の符号を付している構成については適宜説明を省略する。
造形ヘッド20は、フィラメントFをノズル21に向けて送り出すエクストルーダ25、フィラメントFを冷却する冷却ブロック24、フィラメントFを加熱して溶融させる加熱ブロック22、溶融したフィラメントFを吐出するノズル21等を有している。冷却ブロック24と加熱ブロック22との間には、冷却ブロック24を通過したフィラメントFを、加熱ブロック22に向けて案内するガイドブロック23が配設されている。加熱ブロック22、ガイドブロック23、冷却ブロック24のそれぞれには、エクストルーダ25から送り出されたフィラメントFをノズル21まで移送するための移送路26が形成されている。
【0051】
加熱ブロック22は、フィラメントFを加熱する加熱部として機能する熱源(ヒータ)22aと、熱源22aにより加熱されたフィラメントFの温度を検知する温度検知部としての熱電対22bとを有している。
【0052】
ここで、熱電対22bは、フィラメントFが移送される移送路26を挟んで熱源22aが配置された側とは反対側に配置されている。加熱ブロック22は、移送路26内のフィラメントFを加熱して溶融させる。そして、溶融した溶融フィラメントFaがノズル21に移送される。
加熱ブロック22からの熱は、移送路26内のフィラメントFだけでなく、そのフィラメントFよりも移送方向上流側に存在するフィラメントFにも伝搬し、溶融することは好ましくない。
【0053】
具体的には、加熱ブロック22による加熱処理を停止又は中断すると、移送路26内の溶融したフィラメントFが移送路26内で固化する。その後、加熱ブロック22による加熱処理が再開されると、移送路26内で溶融、固化した履歴のあるフィラメントFは、迅速に再溶融する。
【0054】
一方、移送路26よりも移送方向上流側でフィラメントFが溶融、固化したとすると、この部分のフィラメントFが加熱再開後に再溶融するのにはある程度の時間を要することとなる。
【0055】
この結果、フィラメントFは、ノズル21まで移送されずに途中で詰まってしまう。
このため、加熱ブロック22によるフィラメントFへの熱伝搬範囲を移送路26よりも移送方向上流側にできる限り拡げないようにして、フィラメントFの詰まりを抑制することが望まれる。
【0056】
そこで、加熱ブロック22の移送路26よりも移送方向上流側には、冷却ブロック24が設けられている。
冷却ブロック24は、アルミニウムなどの伝熱性の高い材料から構成されており、冷媒が流れる流路24aが、冷却ブロック24の移送路26の周囲に設けられている。冷却ブロック24は、内部に位置する移送路26内のフィラメントFの熱を流路24aに流れる冷媒へ移動させて冷却する。
【0057】
これらの結果、加熱ブロック22の移送路26よりも移送方向上流側の箇所のフィラメントFを加熱ブロック22からの熱伝搬によって溶融させるのが防止される。
加熱ブロック22と冷却ブロック24との間に配設されたガイドブロック23は、断熱性の材料からなり、加熱ブロック22の熱がフィラメント移送方向上流側に伝搬するのを抑制している。これにより、加熱ブロック22の移送路26よりも移送方向上流側の箇所のフィラメントFが加熱ブロック22からの熱伝搬によって溶融させるのをより一層抑制している。加えて、加熱ブロック22からの熱を移送路26の箇所とは異なる箇所のフィラメントFに伝搬することを抑制することで、移送路26内のフィラメントFを効率良く加熱することができる。
【0058】
エクストルーダ25には、一対の送りローラ25aが設けられており、移送路26に向けてフィラメントFを送り込む。加熱ブロック22で加熱されて溶融した溶融フィラメントFaは、エクストルーダ25の送り力を受けてノズル21から吐出する。
【0059】
図5は、造形装置の造形ヘッドの駆動制御系の概要構成ブロック図である。造形ヘッド20の駆動制御として、加熱温度制御部202、押出量制御部203、駆動制御部204、局所加熱/冷却制御部205、座標検知部80、駆動部90、造形物面内温度検知部81、および駆動部90を少なくとも備える。
【0060】
図6は、造形装置の制御系の概要構成ブロック図である。造形装置100の制御装置200として、データ生成部201、加熱温度制御部202、押出量制御部203、駆動制御部204、局所加熱/冷却制御部205、座標検知部80、駆動部90、造形物面内温度検知部81、および駆動部90、MPU402、RAM404、ROM406、不揮発メモリー408を少なくとも備える。
図5と
図6で同一の符号を付している構成については共通の構成のため、以下、
図5と
図6を参照して説明する。
制御手段として機能する制御装置200は、いわゆるマイクロコンピュータとして構成されており、演算手段として機能するMPU(Micro Processing Unit)402、データ記憶手段として機能するRAM(Random Access Memory)404、ROM(Read Only Memory)406、不揮発メモリー408等から構成される。そして、制御装置200は、各種の演算処理や、制御プログラムの実行を行う。
【0061】
駆動部90は、X軸,Y軸,Z軸駆動モータ41,51,61、テーブル回転モータ83、X軸,Y軸,Z軸座標検知機構43,53,63などで構成されている。
【0062】
データ生成部201は、造形装置100に対して有線あるいは無線でデータ通信可能に接続されたパーソナルコンピュータ等の外部装置から入力される造形物データに基づいて、上下方向に分解された多数の層のデータ(造形用のスライスデータ)を生成する。
【0063】
各層に対応するスライスデータは、造形ヘッド20から吐出されるフィラメントFによって形成される各層に対応しており、それぞれの層の厚みは、造形装置100の能力に応じて適宜設定される。なお、外部装置でスライスデータを生成し、造形装置100にスライスデータが入力されるようにしてもよい。
【0064】
スライスデータは、例えばG-codeという「.gcode」の拡張子を持つテキストデータとして表現される。
本体の準備動作、終了動作を除くと、「.gcode」の拡張子を持つテキストデータは、基本的には、以下の三つのデータが記述されている。
(1)造形物の頂点座標のデータ
(2)造形物の各々の頂点まで造形ヘッド20のノズル21を動かす際の速度データ
(3)フィラメントFを送り出す速度データ
【0065】
この場合において、フィラメントを送り出す速度データには、送り出し開始タイミングや、停止タイミングのデータが含まれている。
【0066】
また、データ生成部201は、スライスデータに加えて、加熱温度データなどを生成する。
加熱温度データは、データ生成部201により加熱温度制御部202へ送信される。
この結果、加熱温度制御部202は、データ生成部201から送られた設定加熱温度となるように、熱電対22bによる温度の検知結果に基づいて加熱ブロック22の熱源22aをフィードバック制御する。
【0067】
造形ヘッド20のノズル21の温度の安定性を確保するために、加熱温度制御部202はフィラメント送り出し動作開始よりも先に動作を開始し、フィラメント送り出し動作開始時に、設定加熱温度に加熱しておくのが好ましい。具体的には、フィラメントFの送り出しを開始するデータや、造形物の頂点座標のデータ等に基づいて、フィラメント送り出し動作開始タイミングを予測して、熱源22aを制御するフィードフォワード制御を実行することが好ましい。なお、熱電対22bが設定加熱温度に達したことを検知したら、造形動作を開始するフィードバック制御でもよい。
【0068】
また、データ生成部201が生成したフィラメントを送り出す速度データは、押し出し量制御部203へ送られる。これにより押し出し量制御部203は、データ生成部201から送られてきたフィラメント送り速度となるように、エクストルーダ25を制御する。
また、押し出し量制御部203は、ノズル21からのフィラメントFの吐出を停止する前(エクストルーダ25の駆動停止前)には、エクストルーダ25を逆回転させ、フィラメントFを引き込む吸い込み動作を行う。このような吸い込み動作を行うことで、ノズル21からのフィラメントFの垂れを抑制することができ、三次元造形物MOの形状精度を向上させることが出来る。
【0069】
さらにデータ生成部201が生成した造形物の頂点座標のデータ及び造形物の各々の頂点まで造形ヘッド20のノズル21を動かす際の速度データは、駆動制御部204へ送られる。これにより、駆動制御部204は、これらのデータに基づいて各モータ41,51,61,83を制御する。また、駆動制御部204は、動作不備が生じないように、各座標検知機構43,53,63の検知結果に基づいて、目標座標点へと移動するフィードバック制御を行う。
【0070】
押し出し量制御部203は、駆動制御部204と同期がとられており、造形ヘッド20の動きに応じて、フィラメントFの押し出し量(送り速度)および、フィラメントFの送り開始/停止が制御される。
【0071】
また、表面処理制御部205も、駆動制御部204と同期がとられており、造形ヘッド20の動きに応じて造形ヘッド20に内蔵され、三次元造形物MOの造形中に三次元造形物MOを局所的に加熱する局所加熱装置27を制御し、三次元造形物MOを局所的に冷却する局所冷却装置29を制御する。
【0072】
すなわち、表面処理制御部205は、三次元造形物MOの造形中に三次元造形物MOを局所的に加熱する局所加熱装置27を制御して結晶性材料を融解した場合の結晶化を抑制し、非晶化する(ガラス転移させる)ことで、造形材料の大きな体積変化を抑制する。
局所加熱装置27の具体的構成としては、例えば、レーザダイオード(LD)により加熱位置にレーザ光を照射する装置等が考えられる。
【0073】
さらに表面処理制御部205は、三次元造形物MOの造形中に三次元造形物MOを局所的に冷却する局所冷却装置29を制御し、造形材料の吐出後に急冷させることで、積層時に生じる残留応力を低減させることができる。
局所冷却装置29の具体的構成としては、例えば、エアーノズルにより圧縮空気を冷却位置に吹き付ける装置等が考えられる。
【0074】
しかし、非晶質状態のままの三次元造形物MOは、結晶性材料の本来の特性が得られないので、本実施形態では、造形後に三次元造形物MOをアニーリングエリア101B内に移送することで、アニーリング処理を行い、三次元造形物MOを結晶化させて本来の特性(機械特性、耐薬品性等)を得るようにしている。
【0075】
以下、実施形態の動作について説明する。
ユーザの指示操作等により造形をスタートすると、まず、制御部200は、加熱ブロック22の熱源22aへの通電をオンにし、造形物データに基づいてデータ生成部201が生成した加熱温度に加熱する。
【0076】
また、駆動制御部204によりZ軸駆動モータ41を制御して、載置台102を支持した載置台支持台110を所定の待機位置(例えば最下点)から上昇させて、造形位置に移動させる。
載置台102について造形位置に到達したことを検知したZ軸座標検知機構43は、Z軸駆動モータ41を停止し造形処理に移行する。
造形処理では、まず、最下層(第一層)のスライスデータに基づいて、載置台102の表面に最下層の造形材層を作成する。具体的には、最下層(第一層)のスライスデータ、X軸座標検知機構53の検知結果、及びY軸座標検知機構63の検知結果に基づいて、駆動制御部204によりX軸駆動モータ51及びY軸駆動モータ61を制御する。これにより、造形ヘッド20のノズル21の先端を目標位置(X-Y平面上の目標位置)に順次移動させる。
【0077】
また、駆動制御部204の駆動制御に同期して、押し出し量制御部203によりスライスデータに基づいてエクストルーダ25を制御してノズル21よるフィラメントFの送り出しを実行する。これにより、造形ヘッド20のノズル21の先端を目標位置に順次移動させながら、ノズル21からフィラメントが吐出され、載置台102上に、最下層(第一層)のスライスデータに従った造形材層が形成される。なお、三次元造形物を構成しないサポート材も一緒に作成する場合もある。
【0078】
また、駆動制御部204の駆動制御に同期して表面処理制御部205も、次元造形物MOを局所的に加熱する局所加熱装置27を制御し、三次元造形物MOを局所的に冷却する局所冷却装置29を制御して、結晶化の抑制及び積層時の残留応力を低減させる。
【0079】
最下層(第一層)のスライスデータに従った最下層の造形処理(単位層造形動作)が終了すると、駆動制御部204は、Z軸座標検知機構43の検知結果に基づいて、Z軸駆動モータ41を制御して、造形材層の一層分に相当する距離だけ載置台102を下降させる。
【0080】
その後、第二層のスライスデータに基づいて、駆動制御部204によりX軸駆動モータ51及びY軸駆動モータ61を制御し、造形ヘッド20のノズル21の先端を目標位置に順次移動させる。これと同時に、押し出し量制御部203によりエクストルーダ25を制御してノズル21よりフィラメントFの送り出しを行う。これにより、載置台102に形成されている最下層の上に、スライスデータに従った第二層が形成される。
【0081】
各層の造形が終了したら、サーモカメラ、サーモグラフィ等の造形物の面内温度検知部81を用いて、面内温度を取得する。これにより、所望の造形物の肉厚偏差を持つようなものでも、その時点での造形物の温度偏差を認識することが可能である。加えて、この情報を、局所加熱/冷却制御部205にフィードバックすることにより、当初出力する予定だった加熱、及び、冷却を制御し、適切な出力を保つことができる。
【0082】
前述のような肉厚偏差が起因の温度偏差であれば、ユーザが入力した造形物データによりフィードフォワード制御することが可能であるが、本実施形態の造形装置100においては、チャンバ等の環境温度制御手段を持たないので、環境温度・湿度も誤差因子として考慮する必要がある。
【0083】
したがって、造形物面内温度検知部81を用いたフィードバック制御も合わせて行うことが安定した品質を担保する上で好ましい。
【0084】
このようにして、Z軸駆動モータ41を制御して、載置台支持台110、ひいては、載置台102を順次下降させながら、下層から順に造形材料からなる層を積層する動作を繰り返して、三次元造形データに従った三次元造形物MOを載置台102上に造形する。
【0085】
そして、三次元造形物MOの造形を終えたら、Z軸駆動モータ41を制御して、載置台支持台110、ひいては、載置台102を待機位置まで下降させる。
【0086】
その後、載置台102を載置した載置台支持台110は、シャッタ103が開かれると、スライダ105を介して、造形エリア101Aからアニーリングエリア101B内に搬送される。
【0087】
載置台102を載置した載置台支持台110がアニーリングエリア101B内に搬送されると、エレベータユニット106は、載置台102に係合し、載置台102を上部へとスライドして搬送する。
この後、載置台支持台110は、スライダ105を介して、造形エリア101Aに戻り、シャッタ103が閉じられる。
【0088】
一方、エレベータユニット106により、載置台102を格納可能なZ座標まで上昇するとロッド121が伸びて載置台102がロッド121に載せられて保持され、所定時間のアニーリングがなされ、三次元造形物MOの結晶化を促すこととなる。
【0089】
以上の結果、本実施形態によれば、三次元造形物MOの造形材料として結晶性材料あるいは半結晶性材料を用いた場合でも、三次元造形物MOを造形材料本来の状態(結晶状態あるいは半結晶状態)とすることができ、高機械強度及び耐薬品性を担保することができる。
【0090】
以上の説明においては、造形装置100が、造形エリア(造形室)及びアニーリングエリア(アニーリング室)を有する構成としていたが、造形エリアを有する造形装置と、アニーリングエリア(アニーリング室)を有するアニーリング装置と、を断熱機構を有する搬送装置で接続し、造形装置で造形した三次元造形物MOを断熱状態で搬送装置によりアニーリング装置に搬送して、アニーリング処理を行う造形システムとして構成することも可能である。なお、搬送装置が断熱機構を有していない場合でも、三次元造形物MOが所定温度変動範囲内のうちに移送可能な構成であれば同様に適用が可能である。
以上の説明においては、熱溶解積層法を例として説明したが、他の三次元造形物の製造方法であっても、同様に内部応力を低減して、より高性能な三次元増毛物を得ることが可能である。
【実施例】
【0091】
次により具体的な実施例について説明する。
造形エリア101Aにおける造形条件と造形した三次元造形物MOの試料の評価について説明する。
【0092】
図7は、実施例及び比較例の造形条件及び定性評価結果を説明する図である。反り評価として、反りと積層強度について評価した。
[造形装置]
実施例及び比較例の製造を行った造形装置の構成は、
図2、4、5および6の構成に以下の構成を加えたものとなっている。
エクストルーダ25として、直径=12[mm]のSUS304製のローラを二本並べて用いた。
【0093】
また、ノズル21として、真鍮製で、先端の開口径が0.5[mm]であるものを用いた。
造形ヘッド20内のフィラメント通路については、直径2.5[mm]のものを採用した。加熱ブロック22内の移送路26の直径も2.5[mm]とした。
【0094】
[造形材料]
実施例及び比較例では、造形材料としてPLA(ポリ乳酸、会社名:polymaker、製品名:PolyLite PLA、型番:PolyLite PLA11-natural)、PEEK(ポリエーテルケトン、会社名:Victrex,型番:381G、ISO11357準拠ガラス転移点:143℃)を用いた。また、造形材料は、直径φ1.75のフィラメントを用いた。
[温度条件]
冷却ブロック24として、SUS304製で、内部に導水管を這わせたものを用い、導水管を冷水循環装置に接続した。冷水循環装置の温度設定を10[℃]とした。また、加熱ブロック22として、冷却ブロック24と同様の構成のものを用い、その導水管を流体循環装置に接続した。加熱ブロック22の導水管の中にカードリッジヒータを配設し、このカートリッジヒータに対する電源供給を熱電対22bの検知結果に基づいてオン/オフ制御をした。
【0095】
カードリッジヒータの設定温度は、造形材料としてPLAを用いた場合においては200[℃]、造形材料としてPEEKを用いた場合においては400[℃] とした。
いずれの試験も造形速度は20mm/secとした。
[冷却条件]
実施例及び比較例において、局所冷却装置29で冷却した場合と、冷却しない場合とを実験、比較した。冷却した場合の冷却条件は、12kPaである。局所冷却装置29として配管経路に設置した精密レギュレータ(冷却ノズル)を用いた。
[加熱条件]
実施例及び比較例において、局所加熱装置27で加熱した場合と、加熱しない場合とを実験、比較した。加熱した場合の条件は、4~12Wであり、実験例及び比較例ごとに条件を変更した。局所加熱装置27として半導体レーザ(LD)を用いた。LDの波長は780nmとした。
【0096】
そして、実施例及び比較例について、直方体反りの状態及び積層方向強度のそれぞれについて定性評価を行った。
【0097】
[直方体反りの状態の定性評価に用いた三次元造形物MOおよび評価方法]
直方体反りの状態の定性評価に用いた三次元造形物MOとしては、W30×D30×H7.5(mm)の立方体状の造形物を用いた。反り量に関しては数mmレベルの大きいものであれば、ハイトゲージ等を用いて測定することも可能であるが、非接触の3Dスキャナ等を用いて、造形物の断面プロファイルを取得しても良い。3Dスキャナを用いる場合はユーザが入力する造形物データからの差分を計測することで、簡便に反り量を計測することが出来る。
【0098】
[積層方向強度の定性評価に用いた三次元造形物MOおよび評価方法]
図8は、積層方向強度の評価に用いた三次元造形物の説明図である。
三次元造形的には、
図8(a)に示すような直方体造形物は簡便に造形しやすいのであるが、引張試験における標準においては、
図8(b)に示すようなダンベル形状であることが好ましい。
【0099】
ところで、ダンベル形状を積層方向に造形する場合、くびれの上部でオーバーハングの形状となる為、一般にはサポート部位が必要な箇所となる。
【0100】
そのため、発明者らは、サポート部位除去時の表面形状の僅かに生じる微細な切欠(ノッチ)をなるべく避けるために、
図8(a)に示した直方体の三次元造形物MOを造形した後、切削加工を行うことで
図8(b)に示すダンベル形状の試料としての三次元造形物MOを得て、積層方向強度の評価に用いた。積層方向強度の評価は、ASTM-D638準拠の方法により試験を行った。
【0101】
(第1比較例・第2比較例)
第1比較例及び第2比較例では、PLAを用いた。
第1比較例においては、局所加熱装置27及び局所冷却装置29のうち、局所冷却装置29のみを用いた。
また、第2比較例においては、局所加熱装置27及び局所冷却装置29のうち、局所加熱装置27のみを用いた。加熱条件は8Wとした。
【0102】
(第3比較例・第4比較例・第5比較例・第6比較例)
第3比較例乃至第6比較例においては、PEEKを用いた。
【0103】
第3比較例においては、局所加熱装置27及び局所冷却装置29のうち、局所冷却装置29のみを用いた。
【0104】
また、第4比較例においては、局所加熱装置27及び局所冷却装置29のうち、局所加熱装置27のみを用いた。加熱条件は8Wとした。
また、第5比較例及び第6比較例においては、局所加熱装置27及び局所冷却装置29の双方用いた。 さらに第5比較例と第6比較例とは、局所加熱装置27の加熱条件を異ならせた。第5比較例の加熱条件は4Wとし、第6比較例の加熱条件は12Wとした。
【0105】
(第1実施例・第2実施例・第3実施例)
また第1実施例乃至第3実施例においては、第3比較例乃至第6比較例と同様に、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を用いた。また、局所加熱装置27及び局所冷却装置29の双方用いた。さらに第1実施例乃至第3実施例は、それぞれ局所加熱装置27の加熱条件を異ならせた。第1実施例の加熱条件は6Wとし、第2実施例の加熱条件は8Wとし、第3実施例の加熱条件は10Wした。
【0106】
[直方体反りの状態の定性評価の結果および積層方向強度の定性評価結果]
次に各比較例及び実施例の評価結果について説明する。
(第1比較例・第2比較例)
第1比較例及び第2比較例においては、いずれも反りの状態は良好であった。
しかしながら、局所冷却装置29のみを用いた第1比較例の場合には、積層方向強度において、界面強度が得られず、手で簡単に破壊できるレベルに留まった。したがって、積層強度は良好ではなかった。
【0107】
(第3比較例)
第3比較例は、反りが大きい結果となった。
また、反りだけではなく、造形物の端部に多数のひび割れが生じた。加えて、そのひび割れから積層界面間で界面剥離する現象が確認された。局所加熱装置27での加熱が必要であったといえる。
【0108】
(第4比較例)
第4の比較例は、積層強度は良好であったが、反りが大きい結果となり、ブリム表面が大きく反り返った。局所冷却装置29での冷却が必要であったといえる。
【0109】
(第5比較例)
比較例5は、反りが大きい結果となった。反りだけではなく、造形物の端部に2か所のひび割れが生じた。加えて、そのひび割れから積層界面間で界面剥離する現象が確認された。局所加熱装置27での加熱の強度が弱かったといえる。
【0110】
(第1実施例、第2実施例、第3実施例)
第1乃至第3実施例では、反りの状態及び積層方向の強度は良好であった。
(第6比較例)
第6比較例では、焦げが生じてしまい、反りの状態及び積層方向の強度は良好ではなかった。局所加熱装置27での加熱の強度が強かったといえる。
【0111】
以上の説明のように、第1実施例~第3実施例においては、局加熱装置27としてのLDの設定出力6~10Wの領域で、反り、積層強度共に両立するような条件を見出すことができた。これらに対し、冷却条件が相対的に強まる場合には、積層強度が担保できなくなり、逆においては、樹脂の焦げのような劣化現象を促進させると考えられる。したがって、
図7の例では、局加熱装置27の加熱条件は6W以上10W以下で、局所冷却装置29の冷却条件は12kPaである場合に、反り、積層強度を担保した形物を得ることができた。
【0112】
なお、これらの実施例は、一例であり造形物の熱容量、及び、造形速度に応じて、適切な加熱、冷却条件は異なることは自明である。加えて、複雑な造形形状においては、本実施例のように出力固定ではなく、サーモカメラによる面内温度プロファイルを用いて、加熱、及び、冷却手段をフィードバック制御することが好ましい。
【0113】
図9はレーザ出力を固定した場合における三次元造形物の反り量の定量的な評価の説明図である。
図9においては、局所加熱装置27の加熱条件としてLDの出力を6Wに固定した場合について評価を行っている。
【0114】
本評価において、造形材料はPEEK 381Gとし、その他、造形装置、温度条件は
図7で説明した条件と同じである。また、冷却条件が20Kpaは割れてしまう可能性が高いので、測定していない。それぞれ、冷却条件を0、6、8、10、12、14及び16Kpaに変化させて測定した。
【0115】
図7の比較例と同様に、局所冷却装置29による冷却がない(冷却条件が0Kpa)場合、反り量は最も大きくなっている。 得られた結果は、局所冷却装置29による空冷の条件で大きく異なり、本評価においは、10kPa以上で反りが低減できる結果となった。具体的には、10kPa以上が好ましく、20Kpaより小さい場合が好ましい。さらに、10kPa以上が好ましく、16Kpa以下が好ましい。
【0116】
実際に造形された三次元造形物MOの試料の色合いも半透明化しており、ガラス転移した状態であることが確認できた。
【0117】
図10はレギュレータ設定圧を固定した場合の引張試験したときの破断応力の評価結果を説明する図である。
図10の例においては、局所冷却装置29の冷却条件としてレギュレータ設定圧を10kPaに固定した場合を示している。
【0118】
本評価において、造形材料は、PEEK 381Gとし、その他、造形装置、温度条件は
図7で説明した条件と同じである。
局所加熱装置27による加熱がない(加熱条件が0W)場合、破断応力は0Wであった。
【0119】
図10に示すように、局所加熱装置27としてのLDの出力(レーザPW)を大きくするにつれて、破断強度が向上していることが確認できた。つまり、局所加熱装置27の加熱条件が2Wから10Wへ変化させた場合、破断強度が向上した。
【0120】
なお、局所加熱装置27の加熱条件がLDの出力=12Wについても実験を行ったが、三次元造形物MOに焦げが発生したため、評価からは除外している。以上より、破断強度の観点から局所加熱装置27の加熱条件は0Wより大きく12Wより小さことが好ましく、2W以上10W以下であることがより好ましい。さらに、冷却条件が10kPaとし、局所加熱装置27の加熱条件は0Wより大きく12Wより小さことが好ましく、2W以上10W以下であることがより好ましい。
【0121】
図9及び
図10に示されるように、冷却、及び、加熱により得られる結果はトレードオフの関係となっているが、反り及び積層強度を共に両立する条件を見いだすことが可能である。
【0122】
次にアニーリングエリア101Bにおけるアニーリング処理条件とその結果得られた三次元造形物MOの試料の評価について説明する。
【0123】
図11は、アニーリング処理条件と得られた三次元造形物の引張弾性率の評価結果を説明する図である。
【0124】
[三次元造形物MOの試料]
図11の第1実施例、第1実施例A、及び第1実施例Cは、
図7の第1実施例の三次元造形物MOを用いて、以下のアニーリング処理条件でアニーリングしている。
【0125】
図11の第2実施例、第2実施例A、及び第2実施例Cは、
図7の第2実施例の三次元造形物MOを用いて、以下のアニーリング処理条件でアニーリングしている。
図11の第3実施例、第3実施例A、及び第3実施例Cは、
図7の第3実施例の三次元造形物MOを用いて、以下のアニーリング処理条件でアニーリングしている。
【0126】
また、
図11の試料は、
図8(b)と同様に、ダンベル形状として積層方向強度の評価に用いた。なお、
図7で局所加熱処理及び局所冷却処理を行って得られた三次元造形物MOの試料は、ガラス転移した状態である為、PEEK 381G本来の結晶化した状態の弾性率を引張試験で示さなかった。
【0127】
[アニーリング処理条件]
第1実施例1~第3実施例3は、アニーリング処理をしなかった。一方、第1実施例A~第3実施例A、第1実施例B~第3実施例B、第1実施例C~第3実施例Cの三つのグループに分け、それぞれ同一条件でアニーリングを行った。
図3のアニーリングエリア101Bにおけるホットエアーユニット122、吸気口123、及び、排気口124を制御することで、アニーリング処理を施し、結晶化を行わせた。全ての試料において、昇温開始温度は30℃、最高到達温度は180℃とし、冷却後温度は30℃として、評価を行った。
【0128】
第1実施例A~第3実施例Aについては、昇温速度=1℃/minとし、温度維持時間=30minとし、冷却速度=1℃/minとした。
また、第1実施例B~第3実施例Bについては、昇温速度=1℃/minとし、温度維持時間=1minとし、冷却速度=1℃/minとした。
【0129】
さらに第1実施例C~第3実施例Cについては、昇温速度=3℃/minとし、温度維持時間=1minとし、冷却速度=3℃/minとした。
また、アニーリングの最高到達温度を180℃に設定した。造形材料のガラス転移点を十分に上回り、かつ、三次元造形物MOの形状を維持することが可能な温度を考慮して設定した。
【0130】
[引張弾性率の評価]
引張弾性率の評価において、引張弾性率の算出は、荷重範囲10-20Nにおいて最小2乗法により算出した。
【0131】
[引張弾性率の評価結果]
第1実施例における三次元造形物MOの試料の引張試験によって得られた引張弾性率は0.49GPa、第2実施例における三次元造形物MOの試料の引張試験によって得られた引張弾性率0.35GPa、第3実施例における三次元造形物MOの試料の引張試験によって得られた引張弾性率は0.4GPaであった。第1実施例乃至第3実施例は、アニーリング処理をしていないので、十分な引張弾性率を得ることができなかった。
【0132】
一方、第1の実施例A乃至第3の実施例3Cはアニーリング処理を施したので、引張弾性率の向上できた。引張弾性率は、1.00以上2.50以下を示し、良好な強度と耐久性を確保できた。
【0133】
また、第1の実施例A乃至第3の実施例3Cはアニーリング処理を施したものの、三次元造形物MOにおいても形状変化は確認できなかった。
【0134】
以上の説明のように、局所加熱処理および局所冷却処理を施した立体造形物に対し、アニーリング処理を施すことで、簡易な構成で立体造形物の反りや変形を抑制し、品質の高い立体造形物を造形できる。
特に造形材料として、結晶性材料(樹脂)あるいは半結晶性材料(樹脂)を用いる場合に、品質の高い立体造形物を造形できる。
【符号の説明】
【0135】
100 造形装置
101 筐体
101A 造形エリア(造形部)
101B アニーリングエリア(アニーリング部)
102 載置台
103 搬送ユニット
104 シャッタ(断熱部材)
105 スライダ
106 エレベータユニット
110 載置台支持台
27 局所加熱装置(局所加熱部)
29 局所冷却装置(局所冷却部)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0136】